JP4350811B2 - 補助動力式車椅子 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、片手の操作でも車両前後進動作が可能な補助動力式車椅子に関する。
【0002】
【従来の技術】
手動車椅子と電動車椅子との中間的な存在として補助動力付き車椅子が提案されている。この補助動力付き車椅子は、左,右の車輪に間欠的に加えられる人力を検出し、該検出された人力に応じた補助動力を左,右の車輪に加えることによって歩行の不自由な使用者の肉体的な負担を軽減するものであり、使用者は手動車椅子の感覚で操作することができ、精神的苦痛も緩和される。
【0003】
しかし、上記従来の補助動力付き車椅子は左,右の車輪に同等の人力が加えられることを前提にしているため、使用者が両手の操作力がアンバランスであったり、片方の手だけでしか操作が行えない場合には、上記従来の補助動力付き車椅子は操作性が低いという問題がある。
【0004】
例えば、従来の補助動力付き車椅子を片方の手で操作する(以下片手漕ぎ操作と記す)場合、車椅子が蛇行しないように足で路面を蹴って進行方向を規制する必要があり、このように従来の補助動力付き車椅子は、片手漕ぎ操作では直進時の使い勝手が悪いという問題がある。
【0005】
また、片手漕ぎ操作では左, 右何れかに旋回する場合は、片方の足により旋回方向を制御することが必要である。具体的には、右に曲がる時は、足を操舵手段として車椅子の前方路面を蹴って車椅子を右方に回頭させる必要があり、このように、従来の補助動力付き車椅子は、片手漕ぎ操作では旋回時の使い勝手が悪いという問題がある。
【0006】
これらの問題を解決するものとして本願出願人は、一方の車輪に人力が加えられると、該人力に基づいて設定された補助動力が一方の車輪に加えられるとともに、該一方の車輪に作用する人力と補助動力との和と同等の補助動力が他方の車輪に加えられるようにしたもの(特開平7−136218号公報参照)を提案している。
【0007】
上記提案装置では、使用者が片方の手で一方の車輪に人力を加えると、該一方の車輪に作用する人力と補助動力との和と同等の補助動力が他方の車輪に供給されるため、片手漕ぎ操作の場合でも蛇行することなく容易に直進することができ、足による直進制御を不要にすることができる。
【0008】
また、片手漕ぎ操作の場合の旋回時の使い勝手を向上するものとして、本願出願人は、使用者の旋回の意志を検出する旋回意志検出手段として機能するフートスイッチを右側のステップに設け、該スイッチにより補助力の供給先を指定して、旋回を容易にするもの(特開平7−136219号公報参照)を提案している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記従来のフートスイッチにより補助力の供給先を設定して、旋回方向を指定するようにしたものでは、上記フートスイッチの取り付け位置を、使用者の身体的特徴に応じて個別に設定する必要があり、また、このスイッチやスイッチ操作に係る制御装置等が必要となるため、それだけ製造コストがかさむという問題がある。
【0010】
また、一方の車輪に作用する人力と補助動力との和と同等の補助動力を他方の車輪に供給するものでは、ハンドリムに人力を印加中は両輪より推進力を発生するが、次のストロークのためにハンドリムを持ち替える間は両輪の推進力が消滅してしまうので、例えば右輪を漕いで坂道を直進登坂している時に、足により右旋回しようとすると左輪に供給される駆動力が登坂旋回に必要なトルクより小さくなって走行自体が不能になる場合が発生するという問題もある。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、使用者個別の仕様設定を不要にでき、部品点数の増加や演算, 制御が複雑になってコスト増となることを防止できる補助動力式車椅子を提供することを課題としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、左,右の車輪と、該左,右の車輪に設けられ、人力が入力される左,右のハンドリムと、該左,右のハンドリムに加えられた人力の有無とその入力方向が車両の前進方向,後進方向の何れであるかを検出する左,右の人力検出手段と、上記左,右の車輪に補助動力を供給する左,右の補助動力源と、該左,右の補助動力源を制御する補助動力制御手段とを備えた補助動力式車椅子において、
上記左,右の人力検出手段からの人力方向信号の和に基づいて上記左,右の車輪の目標速度を設定するとともに、該左, 右の車輪の回転速度の合成値を実質的走行速度として検出し、上記補助動力制御手段は、上記左,右の車輪への補助動力が実質的に同等となり、かつ車両の実質的走行速度が上記目標速度となるよう上記補助動力源を速度フィードバック制御することを特徴としている。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1において、上記目標速度を、上記人力の前進方向, 後進方向への入力時間の長さに応じて増加, 減少する目標速度増減手段を設けたことを特徴としている。
【0014】
なお、上記実質的走行速度とは、車両の実際の移動距離を所要時間で除して求められる走行速度のことであり、また、上記補助動力源を駆動モータとした時のモータ回転速度から求められる走行速度のことである。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、上記左,右の補助動力源として左,右の駆動モータを備え、上記補助動力制御手段は、上記左,右の駆動モータを出力トルクが実質的に相等しくなるように制御することを特徴としている。
【0016】
請求項4の発明は、請求項1ないし3の何れかにおいて、上記人力検出手段による人力の有無及びその入力方向を判定する際の人力のしきい値が、操作者の最大操作力より十分に小さく設定されており、上記補助動力制御手段は、上記しきい値付近の小さな人力が、上記左,右のハンドリムの両方又は片方に入力された時は、車両の実質的走行速度が上記目標速度となるように上記駆動モータを制御し、上記しきい値より十分に大きな人力が、上記左,右の何れかのハンドリムに入力された時は、車両が該大きな人力に応じた方向に旋回するよう上記駆動モータを制御することを特徴としている。
【0017】
請求項5の発明は、請求項2ないし4の何れかにおいて、上記目標速度増減手段は、上記左,右のハンドリムに同方向の人力が入力された時は、上記人力の入力方向及び入力時間に対する目標速度の増減の割合を、片方のハンドリムのみに人力が入力された場合の目標速度の増減の割合と同等以上とし、左,右のハンドリムに逆方向の人力が入力された時は、上記目標速度の増減を停止することを特徴としている。
【0018】
請求項6の発明は、 請求項2ないし4の何れかにおいて、上記目標速度増減手段は、上記目標速度が0でなく、かつ人力の入力がない場合は、目標速度の絶対値を時間経過とともに0に向けて漸減することを特徴としている。
【0020】
【発明の作用効果】
請求項1の発明に係る補助動力式車椅子によれば、左,右のハンドリムへの人力の入力方向信号の和に基づいて左,右の車輪の目標速度を設定するとともに、左,右の車輪への補助動力が実質的に同等となるように補助動力源を制御するようにしたので、補助動力は左, 右の両輪に同等に作用し、片手漕ぎ操作の時に車椅子が蛇行することを防止することができる効果がある。
また左, 右車輪の回転速度の合成値を実質的走行速度として用いるとともに、左, 右の補助動力源を補助動力が実質的に同等となるように制御するようにしたので、両輪の補助動力源を、その出力トルクが等しくなるようにかつ回転速度の合成値,具体的には両輪の回転速度の平均値が目標速度となるように制御することとなるため、片手漕ぎや両手の力の大きさがアンバラスな使用者が操作したときの直進走行を安定させることができる効果がある。
【0021】
請求項2の発明に係る補助動力式車椅子によれば、上記目標速度を、上記人力の前進方向, 後進方向への入力時間の長さに応じて増加, 減少するようにしたので、例えば坂道にかかる等の路面からの負荷が変化した場合でも走行速度が変化することを防止でき、安定して走行することができる効果がある。また、上記目標速度を人力の入力時間の長さに応じて増減するようにしたので、使用者がハンドリムを漕ぐと、該人力の入力状況に応じて目標速度が増加し、好みに応じた走行速度を実現できる効果がある。
【0022】
請求項3の発明によれば、左,右の補助動力源として左,右の駆動モータを備え、上記補助動力制御手段は、上記左,右の駆動モータを出力トルクが実質的に相等しくなるように制御するので、両輪の回転速度の合成値、具体的には両輪の回転速度の平均値が目標速度となるように制御することとなるため、片手漕ぎや両手の力の大きさがアンバランスな使用者が操作したときの直進走行性を安定させることができる。
【0023】
請求項4の発明に係る補助動力式車椅子によれば、人力の有無及びその入力方向を判定する際のしきい値を操作者の最大操作力より十分に小さく設定し、上記しきい値付近の小さな人力が入力された時は車両速度を増減するようにしたので、使用者が最大操作力より十分小さい力で操作している間は直進状態を維持したまま容易に加減速を行うことができ効果がある。
また、本発明では、駆動輪とともに回転するハンドリムを人力人力部材とするとともに、しきい値を操作者の最大操作力より十分に小さく設定したので、ハンドリムを不感帯域を超える程度の人力で軽く触れることにより、前後進走行ができ、通常の手動車椅子を片手または両手で小さな力で漕ぐといった感覚の走行が可能となり、使用者の操作性を向上することができる効果がある。
【0024】
また、使用者が上記しきい値より十分に大きな人力を比較的短時間入力した時は上記目標速度に大きな変化を与えることなく、容易に進路変更を行うことができる。即ち、両輪の回転速度の合成値が目標速度となるように、かつ両輪のトルクが等しくなるように制御したので、一方の車輪にのみ大きい人力が入力された場合でも、合成速度が維持される限り各輪の速度変化が妨げられることはなく、従って容易に旋回することができる。
【0025】
請求項5の発明に係る補助動力式車椅子によれば、左, 右両側のハンドリムに同方向の人力が入力された時は目標速度の増減の割合を片方のハンドリムのみに人力が入力された場合と同等以上としたので、両手で同方向に軽く漕ぐといった操作によって容易に走行速度を加減でき、通常の手動車椅子に近い感覚での使用が可能となる効果がある。
【0026】
また、上記ハンドリムに逆方向の人力が入力された時は目標速度の増減を停止するようにしたので、使用者の違和感を回避できる。即ち、使用者は両方のハンドリムに逆向きの人力を入力する場合は通常加減速を望んでいないと考えられるので、このような場合には目標速度の増減を停止することが望ましい。
【0027】
請求項6の発明に係る補助動力式車椅子によれば、目標速度が0でない時は目標速度の絶対値を時間経過とともに0に向けて漸減するようにしたので、人力の入力がない時は時間とともに減速して停止するため、使用者の使用感を向上することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1ないし図17は本発明の一実施形態による補助動力式車椅子を説明するための図であり、図1,図2,図3は上記車椅子の側面図,平面図,背面図、図4は上記車椅子の車輪のハブ部分のカバーを取り外した状態を示す正面図、図5は図4のV−V線断面図、図6〜図9は回転トランスを示す図、図10は車輪に取り付けられたハンドリムを示す図5と同方向の断面図、図11は上記車椅子の制御システムの全体構成図、図12,13はモータの回転数とトルクとの関係を示す制御方式特性図、図14は上記車椅子の補助動力の制御動作を示すシステムの構成図、図15は人力検出手段の変形例を示す構成図、図16は操作方向と方向信号との関係を示す特性図、図17は左輪への人力の方向信号と目標車速との関係を示す特性図である。
【0030】
本実施形態に係る補助動力付車椅子1は、既存の折り畳み式手動車椅子に補助動力装置(Power Assist System) を組み付けたものである。この車椅子1は車体の左右に駆動輪としての車輪2を着脱自在に取り付けて構成され、これのパイプ枠状のフレーム3の前後部は左右一対のキャスタ4と車輪2によって移動自在に支持されている。
【0031】
上記フレーム3の中央部には、乗員が着座すべき布製のシート5(図2及び図3参照)が張設されている。尚、フレーム3は図3に示すように前後一対のクロス部材3aを有しており、X字状を成す2本のクロス部材3aはその交点を軸6によって枢着されている。
【0032】
上記フレーム3の後部には左右一対のハンドルアーム3bが立設されており、各ハンドルアーム3bの上端部は後方に折曲され、その折曲部には介助者用のグリップ7が取り付けられている。また、上記ハンドルアーム3bの下端には、この車椅子1が後方に倒れることを防止する補助輪8が取り付けられている。
【0033】
上記フレーム3の上記ハンドルアーム3bの中間高さ位置から車体前方に水平に延びる左右一対のアーム3cは、その前端部が略直角に折り曲げられて垂直下方に延び、その下端部に上記キャスタ4が回転自在に支持されている。また、上記アーム3cの下方に配された左右一対のアーム3dの前側部分は、車体前方に向かって斜め下方に延出されており、その延出端(前端部)には左右一対のステップ9が取り付けられている。
【0034】
上記車輪2は、使用者の手によって回転力(人力)が加えられるハンドリム組立体70と、該ハンドリム組立体70から入力された人力の方向に応じてモータからの補助動力を制御する駆動部20とを備えている。
【0035】
そして上記フレーム3の車輪中心部にはボス11が螺挿され、ナット22aにより締め付け固定されている。該ボス11の軸芯部には車軸22が着脱可能に嵌合挿入されている。該車軸22は中空状のもので、その軸芯部には車輪着脱用のシャフト23が軸方向へ移動可能に挿入されている。該シャフト23の両端部には他の部分よりも大径な頭部23a,23bがそれぞれ固着されている。右側の頭部23aの内側端にはコイルバネ24が配置され、該シャフト23を車軸22に対して右側へ付勢している。また、車軸22には、複数のボール25,・・・がボス11の外端部により外周側に抜け出ないようかつ半径方向に移動可能に収容されている。各ボール25は、シャフト23の頭部23aの大径部23cによって押し拡げられることにより車軸22の外周から僅かに突出し、これにより、車軸22は、ボス11から抜けないようになっている。また、シャフト23を車軸22に対して図5の左側へ相対的に移動させることにより、頭部23aの小径部23dがボール25の位置に移動し、ボール25が内側へ移動できる状態となる。これにより、車軸22をボス11から図5の左側へ抜き出すことができ、車輪2全体をフレーム3から取り外すことができる。
【0036】
上記車軸22は、略有底円筒状をなす固定プレート30の中心部を貫通してこれを支持しており、該固定プレート30には、図示しない回り止め部材が取り付けられている。回り止め部材は、フレーム3と係合することにより、固定プレート30がフレーム3に対して回転するのを阻止している。
【0037】
また、上記車軸22により、略有底円筒状をなす回転側部材としてのハブ50が軸受51を介して回転自在に支持されている。このハブ50の内面には内歯ギヤ52が固定されており、該内歯ギヤ52には中間軸36に一体形成された中間ギヤ36aが噛合しており、該中間軸36は固定側部材としての固定プレート30の底面に回転自在に支持されている。該中間軸36は、これに固着された中間プーリ33,及びベルトを介して上記固定プレート30に取り付けられた駆動用モータ(補助動力源)31により回転駆動され、その結果上記ハブ50が回転する。
【0038】
上記ハブ50には、上記ハンドリム組立体70が所定角度だけ相対回転可能に支持されている。このハンドリム組立体70は、使用者がハンドリム(人力入力部材)13に加える接線方向力(人力:単位kg)をハブ50に伝達するとともに、加えられる人力の方向を検出する機能を有している。以下、使用者が加える人力を検出する構成について説明する。
【0039】
図4及び図5において符号71は、ハンドリム組立体70の中心部を構成するディスクであり、該ディスク71は、内輪部71aと外輪部71bとを3本のスポーク部71cで一体的に連結した構造を有し、3本のスポークパイプ15により上記ハンドリム13に結合されている。また上記ディスク71はブッシュ55を介して上記ハブ50のボス部50aにより相対回転可能に支持されている。なお、120は上記ディスク71にスポークパイプ15を取り付けるためのボルトを示している。
【0040】
上記ディスク71のスポーク部71c,71c間には、ポテンショメータ72が配置され、上記ハブ50の底部50bの外面に半径方向の位置を調整可能に取り付けられている。該ポテンショメータ72の入力軸72aは上記底部50bの内面に突出し、該突出部に長孔73aを有するレバー73が取り付けられている。該レバー73の長孔73aには、ディスク71に固定されたピン53が挿入されている。この構成のもとに、ハブ50とハンドリム組立体70との相対角度が基準位置から変化すると、ポテンショメータ72の入力軸72aが回転し、そのインピーダンスが回転角度に応じて変化する。
【0041】
上記スポーク部71cに形成された矩形孔71d内にはバネガイド54が配置され、上記ハブ50の底部50bにボルト締め固定されており、該バネガイド54内にはコイルバネ56が収容配置されている。該コイルバネ56の両端部はスライダ57を介してスポーク部71cの矩形孔71dの内縁に当接している。この構成のもとに、ハンドリム組立体70を車輪2に対して相対回転させると、この相対回転角度が後述する人力検出装置によって検出される。
【0042】
また符号58はハブ50とディスク71との間のガタ止めとして機能する樹脂製のダンパ部材である。このダンパ部材58は上記バネガイド54に形成された凸部54aの内側に装着されて上記ディスク71の外輪部71bに対向しており、ボルト58aを締め込むことにより上記外輪部71bに摺接し、ハブ50とディスク71間のガタを防止する。なお、符号71eは上記ポテンショメータ72等を覆うカバーであり、図4はこのカバー71eを取り外した状態を示している。
【0043】
また符号100は、上記相対回転角度から検出された人力の有無とその入力方向に応じてモータ31による補助動力を制御する後述のコントローラであり、これは上記固定プレート30の底部30bの内面に配設されており、このコントローラ100のCPU126が本発明の補助動力制御手段として機能する。
【0044】
次に、人力検出装置の構成を説明する。
符号80は差動回転トランスであり、これは固定プレート30の中心のボス部30aに取り付けられたアウタートランス81と、可動プレート50の中心のボス部50aに取り付けられたインナートランス82とから構成されている。
【0045】
上記アウタートランス81は、非磁性体かつ絶縁体の樹脂からなる円筒状のボビン83の外周面に2条の巻溝83a,83bを凹設し、各巻溝83a,83bに1次コイル84a,84bを巻回して構成されている。
【0046】
また、上記インナートランス82は、磁性体(例えば軟鉄等の金属)からなる円筒状のコア85の外周面に2条の保持溝85a,85bを凹設し、該保持溝85a,85b内に、樹脂製で外周面に凹設された巻溝86a,87aに2次コイル89a,89bが巻回されたボビン86,87を装着して構成されている。
【0047】
なお、86b,87bはボビン86,87に形成されたスリット、90はターミナルであり、各2次コイル89a,89bの端部89a′,89b′は上記スリット86b,87bを通って外部に引き出され、上記ターミナル90に巻き付けられる。
【0048】
ここで上記アウタートランス81は、外部磁界を遮断する機能を有する磁性体製のコアを備えていないので、外部金属の影響による磁気的アンバランスを抑制できるように配置することが望ましい。本実施形態では、1次コイル84aからハブ50の底部50bまでの磁気的距離(磁気的影響を考慮した場合の距離)と、1次コイル84bから固定プレート30の底部30bまでの磁気的距離をできる限り均等にするために、該アウタートランス81の幅方向中心線Dを車輪の幅方向中心線Bに対し固定プレート30側に寸法Cだけ偏位させている。
【0049】
即ち、一般的にはアウタートランス81の幅方向中心Dを車輪幅方向中心Bと一致させるのであるが、このようにすると1次コイル84aからハブ50の底部50bまでの距離と、1次コイル84bから固定プレート30の底部30bまでの距離との差が拡大してしまう。
【0050】
上記左,右のポテンショメータ72,72により検出された左,右輪2,2への人力は左,右の回転トランス80,80を介して上記コントローラ100に入力され、該コントローラ100は所定の処理手順に従って上記人力に応じた補助動力が得られるよう上記モータ31への供給電流を制御する。
【0051】
そして本実施形態では、図5,図10に示すように、人力を上記左,右のポテンショメータ72,72で検出されることなく車輪2に直接伝達するための直接駆動用のハンドリム121が、ボルト122,ブラケット123を介して車輪2に取り付けられている。即ち、ハンドリム13から入力された人力の有無とその入力方向とは上記ポテンショメータ72により検出され、補助動力の演算に用いられるが、ハンドリム121から入力された人力は補助動力を求める場合の演算に関与しない。
【0052】
また、上記補助動力式車椅子1の右側の車輪2側には、バッテリ38が脱着可能に取り付けられており、車体(フレーム)3側には、上記バッテリ38から電源が供給されるワイヤーハーネス43が設置されている。
【0053】
前述のように左右の車輪2は同一構造を有しているため、これらを車体に取り付けると、これらは車体前後方向中心廻りに点対称となる位置関係を保って配置されることとなる。同一構造の左右の車輪2をこのように配置することによって、図3に示すように、左右の車輪2の各内側方に突出する駆動モータ31が上下方向に互いに段差をもって配されることとなり、当該車椅子1を折り畳んだ際に両駆動モータ31が互いに干渉することがなく、この結果、車椅子1をコンパクトに、且つ、容易に折り畳むことができる。
【0054】
上記左右の車輪2を上記要領で車体に取り付けた後は、図3に示すように、各車輪2の固定プレート30に取り付けられたカプラー37に、車体側に設置された上記ワイヤーハーネス43のカプラー43aを接続すれば、右側の車輪2に配置された上記バッテリ38から左側の車輪2に設けられた駆動モータ31やコントローラ100等への給電がワイヤーハーネス43を介してなされる。
【0055】
上記左,右車輪2,2のハンドリム13,13に加えられた人力の有無とその入力方向とは左,右のポテンショメータ72,72によって検出され、その検出信号は上記コントローラ100, 100に入力される。
【0056】
次に、上記コントローラ100の構成を図11に基づいて説明する。
図11は左,右のコントローラ100の構成を示すブロック図であり、該各コントローラ100は、ハンドリム13に加えられポテンショメータ72によって検出された人力の有無とその入力方向とを示す人力情報信号を回転トランス80を介して入力するセンサドライブI/F125と、該入力された信号と後述のモータ回転数とに基づいて、上記モータ31の目標回転速度,目標トルクを演算するCPU126と、モータ31の出力及び回転数が上記演算された目標値となるように該モータ31に供給される電流値をフィードバック制御するモータドライバ128と、上記左, 右のCPU126,126同士を接続する通信I/F129とを備えている。
【0057】
なお、Txは送信データを格納する送信レジスタ、Rxは受信データを格納する受信レジスタをそれぞれ示している。また、上記ポテンショメータ72による人力の検出しきい値は、使用者の最大操作力より十分に小さく、具体的には人力検出センサにおける不感帯域を示す値程度に設定されており、上記モータ回転数の目標値は、上記CPU126,126の目標速度増減手段としての機能により人力の入力状況に応じて増減される。具体的には人力が前進方向, 後進方向に入力されている時間に比例して増加し、減少する。
【0058】
上記左, 右の通信I/F129,129同士はシリアルケーブル130で接続されており、上述のように入力された左右の人力の大きさやモータ回転数はこの通信I/F129,129を介して左右のコントローラ100,100に互いに伝達されるようになっている。
【0059】
上記左, 右のCPU126, 126は、ポテンショメータ72から出力された入力信号と上記左,右のモータ31の回転数とに基づく所定の制御信号をモータドライバ128に出力する。
【0060】
ここで上記駆動モータ31の出力制御の方式として、一般に、供給する電圧値を制御する方式と電流値を制御する方式とがある。電圧値制御方式の場合、該駆動モータのトルクτは、図12に示すように回転数nの増加減少に伴って減少増加し、また電流値制御方式の場合には、該モータのトルクτは、図13に示すように回転数nの変化に関わらず一定値を示す特性がある。
【0061】
上記左,右の駆動モータ31,31を、これに供給する電圧値により目標トルクが発生するように制御した場合には、例えば平地の走行中に左, 右何れかに旋回すると、外輪の回転数が内輪の回転数よりΔnだけ増加するため外輪の駆動力が内輪の駆動力よりΔτだけ小さくなって旋回動作を妨げるように作用し、結果として外力による旋回が行えなくなることが懸念される。
【0062】
そこで本実施形態の補助動力式車椅子1では、駆動モータ31を供給する電流値を制御するいわゆる電流値制御方式により目標トルクが発生するよう制御している。そのため、旋回により一方の車輪の回転速度がΔnだけ高くなった場合でもモータトルクτを保持でき、上述の走行不能の問題を回避できる。
【0063】
次に、上記実施形態装置の補助動力制御について説明する。
まず、上記ポテンショメータ72により上記ハンドリム13を介して入力された人力の入力方向が検出され、方向信号FL,FRが出力される。具体的には、図16に示すように、上記入力された人力が前進,後進方向のしきい値を越えたときそれぞれ方向信号+1,−1として出力される。なお、図15に示すように、前進,後進でそれぞれオンする前進スイッチ,後進スイッチを設けることも可能である。
【0064】
そして、上記ポテンショメータ72からの入力信号、即ち、人力方向信号FLとFRとの和に基づいて、左,右両モータ31,31の目標回転数(目標重心車速ω※)が速度リミッタにより上限以下に設定される。
【0065】
上記目標回転数は、上記左,右のCPU126の目標速度増減手段としての機能により、上記検出された人力の操作方向(入力方向)に応じて増減して設定される。ここで左, 右のハンドリム13, 13に人力が同方向に入力されている時の上記目標回転数の増減の割合は、片方のハンドリムのみに入力されている時より大きく設定される。一方、両方のハンドリムに人力が異なる方向に入力されている時は目標速度の増減が停止されるようになっている。
【0066】
また、上記CPU126は時間的減衰手段としても機能する。即ち、目標回転数が0でない時は目標回転数の絶対値が時間経過とともに0に向けて漸減するよう設定されて、人力供給の停止後に補助力が出力され続けるのを回避している。
【0067】
また、上記コントローラ100の車両速度検出手段としての機能により、上記左,右の駆動モータ31の回転数が車両の実質的走行速度として該モータの起電力情報に基づいて検出される。
【0068】
具体的には、図14に示すように、巻線抵抗R,LPF(ローパスフィルタ),1/K×τ演算回路等からなる回転数検出回路100aにより、モータ電流値i, 電圧Emに基づいて左,右のモータ回転数ωL,ωRが算出され、この各回転数が上記レジスタTx,Rxにより左,右のCPU126に互いに伝達され、左,右のコントローラ100において(ωL+ωR)/2が、検出重心速度FBとされる。
【0069】
そして、上記設定された目標重心車速ω※と、上記モータ回転数ωL,ωRにより求められた検出重心速度FBとの差に基づいて駆動モータ31への供給電流値が設定される。
【0070】
即ち、上記設定された目標重心車速ω※と検出重心速度FBとの差と速度ゲインGとにより電流リミッタを介して電流指令i※が求められ、モータ31へ供給電流iが上記電流指令i※となるようフィードバック制御される。
【0071】
次に、本実施形態において、使用者が左輪のハンドリム13に人力を供給した場合の制御を図17に基づいて具体的に説明する。図17は左輪のハンドリムへの人力入力方向と目標車速との関係を示す特性図である。
【0072】
例えば左輪のハンドリムに破線Cに示す操作力(人力)が加えられると、実線Dに示す方向信号が出力され、実線Bに示す目標重心車速ω※が設定されて、走行速度がこの目標重心車速ω※となるようにモータへの供給電流が制御される。
【0073】
より詳細には、上記操作力が、上記ポテンショメータ72による人力の検出しきい値を前進方向にわずかに超える小さなものである時は、方向信号は+1となり、目標車速はその入力時間に比例して増加し、上記しきい値を後進方向にわずかに越える小さなものである時は、方向信号は−1となり、目標速度は入力時間に比例して減少する。また、上記操作力が入力されない場合は、上記目標車速は徐々に減少する。
【0074】
また、上記ポテンショメータ72による人力の検出しきい値より十分に大きな操作力C1が前進方向に入力された時は、該操作力が左車輪に伝達され、破線A1に示すように、該操作力に応じて左輪の回転速度が増大されて、その結果車両は右方向に旋回する。なお、大きな操作力C2が後進方向に入力された時は破線A2に示すように車両は左方向に旋回する。
【0075】
また、上記左, 右のハンドリム13,13の両方から同方向の人力が入力された時の上記目標速度の増減の割合は、片方のみから人力が入力された場合と同等以上に設定される。
【0076】
このように本実施形態では、補助動力が実質的に車両の幅方向中央に作用するように、即ち、補助動力が左,右輪に同等に作用するようにしたので、車椅子を片手で漕ぐ場合の直進性能を向上することができる。
【0077】
また、両輪の回転速度の合成値を実質的走行速度とし、検出速度が目標速度となるよう速度によりフィードバック制御するようにしたので、例えば、坂道にかかる等、路面からの負荷が増加した場合でも走行速度が変化するのを防止でき、登坂時に車体が後退することや降坂時に増速することを防止でき、路面負荷が変化した時の走行を安定させることができる。
【0078】
また、上記目標車速を人力の操作方向に応じて増減するようにしたので、使用者の運転操作に応じて目標車速を変化させることができ、乗員の好みに応じた使用が可能である。
【0079】
また、走行中の両モータの出力トルクが実質的に相等しくなるようにモータの動力を制御するようにしたので、左, 右輪に個別の仕様を付加する必要がなく、それだけ制御, 演算を簡単にできる。
【0080】
また、人力の検出しきい値を操作者の最大操作力より十分に小さく設定し、該しきい値付近の人力で操作された時は車両速度を増減し、上記しきい値より十分に大きい人力で操作された時は車両の旋回方向を変更するようにしたので、直進中に使用者が大きな操作力で操作を行うことにより容易に旋回を行うことができ、旋回時用の特別な回転数制御を行う必要がなく、それだけ制御, 演算を簡単にできる。即ち、両輪の回転速度の合成値が目標速度となるように、かつ両輪のトルクが等しくなるように制御したので、一方の車輪にのみ大きい人力が入力された場合でも、合成速度が維持される限り各輪の速度変化が妨げられることはなく、従って容易に旋回することができる。
【0081】
また、図10に示すように人力を左,右の車輪に直接入力するハンドリム121を設けたので、このハンドリム121を操作すれば補助動力の発生状態に影響を与えることなく走行中の微妙な進路調整が可能である。
【0082】
また、車速目標値が0でない時は車速目標値の絶対値を時間経過とともに0に向けて漸減するようにしたので、使用者の操作がないときは車速は徐々に減少することとなり車椅子が自走することを防止できる。
【0083】
なお、上記実施形態では、着座者がハンドリム13を操作して人力を入力する場合を説明したが、介助者が上記グリップ7を持って車椅子1を移動させたときの介助者の人力に対する補助力として上記モータ31を駆動するようにしても良く、この場合も使用者である介助者の負担を軽減でき、使用感を向上することができる。
【0084】
また、上記モータ31により車輪2を駆動する構造の他に、該車輪2,2及びキャスタ4,4以外の第5の補助車輪(不図示)を車両幅方向に設け、該補助車輪に補助力を印加するようにしても良く、この場合も上記同様の効果を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による補助動力式車椅子の側面図である。
【図2】上記車椅子の平面図である。
【図3】上記車椅子の背面図である。
【図4】上記車椅子の車輪のハブ部分のカバーを取り外した状態を示す正面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】上記車椅子の回転トランス部分の正面図である。
【図7】上記車椅子の回転トランス部分の断面側面図である。
【図8】上記車椅子の回転トランス部分の側面図である。
【図9】上記車椅子の回転トランス部分の斜視図である。
【図10】上記車輪に直接取り付けられたハンドリムを示す断面図である。
【図11】上記車椅子の制御システムの全体構成図である。
【図12】モータの回転数とトルクとの関係を示す電圧制御特性図である。
【図13】モータの回転数とトルクとの関係を示す電流制御特性図である。
【図14】上記車椅子の補助動力の制御動作を示すシステムの構成図である。
【図15】人力入力方向検出装置の変形例を示す構成図である。
【図16】人力入力方向(操作方向)と人力入力方向信号との関係を示す特性図である。
【図17】左輪への方向信号と車速との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
1 補助動力式車椅子
2 車輪
13 ハンドリム(人力入力部材)
31 モータ(補助動力源)
72 ポテンショメータ(人力検出手段)
100 コントローラ(補助動力制御手段,車両速度検出手段,目標速度増減手段)
Claims (6)
- 左,右の車輪と、
該左,右の車輪に設けられ、人力が入力される左,右のハンドリムと、
該左,右のハンドリムに加えられた人力の有無とその入力方向が車両の前進方向,後進方向の何れであるかを検出する左,右の人力検出手段と、
上記左,右の車輪に補助動力を供給する左,右の補助動力源と、
該左,右の補助動力源を制御する補助動力制御手段とを備えた補助動力式車椅子において、
上記左,右の人力検出手段からの人力方向信号の和に基づいて上記左,右の車輪の目標速度を設定するとともに、該左, 右の車輪の回転速度の合成値を実質的走行速度として検出し、
上記補助動力制御手段は、上記左,右の車輪への補助動力が実質的に同等となり、かつ車両の実質的走行速度が上記目標速度となるよう上記補助動力源を速度フィードバック制御する
ことを特徴とする補助動力式車椅子。 - 請求項1において、
上記目標速度を、上記人力の前進方向, 後進方向への入力時間の長さに応じて増加, 減少する目標速度増減手段を設けた
ことを特徴とする補助動力式車椅子。 - 請求項1又は2において、
上記左,右の補助動力源として左,右の駆動モータを備え、
上記補助動力制御手段は、上記左,右の駆動モータを出力トルクが実質的に相等しくなるように制御する
ことを特徴とする補助動力式車椅子。 - 請求項1ないし3の何れかにおいて、
上記人力検出手段による人力の有無及びその入力方向を判定する際の人力のしきい値が、操作者の最大操作力より十分に小さく設定されており、
上記補助動力制御手段は、上記しきい値付近の小さな人力が、上記左,右のハンドリムの両方又は片方に入力された時は、車両の実質的走行速度が上記目標速度となるように上記駆動モータを制御し、
上記しきい値より十分に大きな人力が、上記左,右の何れかのハンドリムに入力された時は、車両が該大きな人力に応じた方向に旋回するよう上記駆動モータを制御する
ことを特徴とする補助動力式車椅子。 - 請求項2ないし4の何れかにおいて、
上記目標速度増減手段は、上記左,右のハンドリムに同方向の人力が入力された時は、上記人力の入力方向及び入力時間に対する目標速度の増減の割合を、片方のハンドリムのみに人力が入力された場合の目標速度の増減の割合と同等以上とし、左,右のハンドリムに逆方向の人力が入力された時は、上記目標速度の増減を停止する
ことを特徴とする補助動力式車椅子。 - 請求項2ないし4の何れかにおいて、
上記目標速度増減手段は、上記目標速度が0でなく、かつ人力の入力がない場合は、目標速度の絶対値を時間経過とともに0に向けて漸減する
ことを特徴とする補助動力式車椅子。
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