JP4347107B2 - 磁気的免疫反応測定のための試験容器およびその製造方法 - Google Patents

磁気的免疫反応測定のための試験容器およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、磁気マーカーを用いた磁気的免疫反応診断装置に用いるための試験容器の製造方法に関し、SQUIDセンサーにより測定された残留磁気量が15pT以下であるポリマーからなる磁気的免疫反応測定用試験容器を提供すること、ならびに該材料から磁気的免疫反応測定用試験容器を成形する方法に関する。
病原菌・ガン細胞の検出、DNA遺伝子解析、環境有害物質の検出等のいわゆるバイオ計測の分野において、免疫反応を用いて測定すべきバイオ物質(抗原)とこれと選択的に結合する検査試薬(抗体)との結合を測定し、抗原の種類と量を測定することが行われる。
バイオ物質の検出には、従来から光学的に標識された抗体からの光信号を用いて検出する光学的手法により行われている。この光学的手法において、発光酵素などの光学的マーカーを検査試薬(抗体)に付加し、そのマーカーからの光を測定することによりバイオ物質の検出を行う。現在この光学的手法においては、数pgのバイオ物質の検出が限界であるといわれており、局所や血中では数pg以下程度の極微量で存在するものに対する高感度の要求レベルに応えられなくなってきている。
特許第2532670号公報 特開2000−304749号公報 特開平9−184841号公報 特開平9−243641号公報 特表平11−508031 円福敬二「SQUIDを用いたバイオ免疫診断」,低温工学,38巻9号469〜476頁(2003年) 円福敬二「SQUIDを用いた抗原−抗体反応計測」,応用物理,70巻1号48頁(2001年)
この要求に応えるものの一つとして、高感度磁気センサーを用いた磁気的な免疫診断方法が開発されている。なかでも、SQUID(Superconducting Quantum Interference Device)と呼ばれる、超伝導状態で出現する量子効果(磁束の量子化)を利用した超伝導量子干渉計は、極めて微弱な磁界の計測を可能にするため、高感度の磁気センサーとして注目されている。
SQUIDによる免疫反応測定方法においては、磁性微粒子を内包するポリマーの表面に抗体が付加されて構成される磁性マーカーを用いて、その抗体が被測定物質の抗原との間で抗原−抗体反応を生じた時の磁気マーカーからの微弱な磁界信号をSQUIDにより測定する。SQUIDによる免疫反応測定方法によれば、高感度センサーであるため、従来の蛍光抗体測定方法に比べて100倍以上の感度が期待されている。また、SQUIDによる免疫反応測定方法は磁気的手法であるため、高感度を期待できるばかりでなく、バイオ物質が溶液中に存在する場合においても検出することができる点でも期待されている。また従来の検出方法においては、バイオ物質と標識された抗体を反応させた後に、未結合の抗体を洗い流す工程を必要とするのに対して、SQUIDによる免疫反応測定方法においては、未結合の磁気マーカーからの信号はゼロとなり、バイオ物質に結合したマーカーのみからの磁気信号を検出すればよく、この洗い流す工程を省略することができるという観点からも有望視されている。
SQUID免疫反応測定方法においては、抗原に選択的に結合する抗体を用いて、抗原と抗体を結合させる。このとき、磁気微粒子を内包する高分子物質の表面に抗体が付加重合された構成となっており、このように構成された抗体は、磁気マーカーと呼ばれる。抗原と抗体の反応は、磁気マーカーからの磁気信号を検出することになる。このためSQUID免疫反応測定方法においては、磁気信号の大きさは抗原に結合した磁気マーカーの量に比例する。したがって、微弱な抗原−抗体の結合反応を高感度でかつ高速に検出するためには、微量の反応を検出するため微弱な磁気信号を測定する必要がある。
第一の発明は、磁界0.1T、試料からSQUIDセンサーとの距離が1.5mmの条件下で磁界を印加した時の残留磁気量が15pT以下であるポリマーからなる磁気的免疫反応測定のための試験容器である。より好ましくは、残留磁気量が10pT以下であるポリマーからなる磁気的免疫反応測定のための試験容器である。さらに好ましくは、残留磁気量が5pT以下であるポリマーからなる磁気的免疫反応測定のための試験容器である。
第二の発明は、金属含有量が30ppb以下であるポリマーからなる磁気的免疫反応測定のための試験容器である。
一般的に磁気的免疫診断方法においては、外部磁界を印加して磁気マーカーを磁化する。試験容器に0.1T(テスラ)の磁界をかけた場合に、試験容器自体が磁化されてしまうことは避けられない。このため試験容器自体から検出される磁気信号が多いと、この試験容器から検出される磁気信号と抗原−抗体結合反応を生じたときに磁気マーカーから検出される磁気信号との識別ができなくなり、免疫反応の検出が不可能となってしまう。
ところで、被測定物質(たとえば、ヒト免疫グロブリンE(IgE))の重さとこれに結合した磁気マーカーから得られる磁気信号の間には図1に示す関係がある。磁気信号は磁気マーカーに0.1Tの磁界を印加し、マーカーに残留磁気を発生させ、その磁気信号を試料から1.5mmの位置にあるSQUIDセンサーにより計測したものである。以下この条件で測定した。
この図の関係によれば、被測定物質が増えれば磁気マーカーからの磁気信号も大きくなる。同時に、試験容器自体の残留磁気量として許容される磁気信号の量も大きくなる。
磁気マーカーを用いた磁気的免疫反応診断方法によれば、被測定物質が1pg以下であっても検出可能である。図1の関係から0.3pgの被測定物質を使用した場合の磁気マーカーから得られる磁気信号は約20pT(20×10-12テスラ)であることがわかる。したがって、ノイズとなる試験容器自体の残留磁気量が20pT以上となると、測定すべき磁気マーカーから検出される磁気信号が、試験容器自体の残留磁気信号で埋もれてかき消されてしまい、双方の判別ができなくなる。この結果、免疫反応の検出が不可能となってしまう。
したがって、磁気マーカーを用いた磁気的免疫反応診断装置に用いられる試験容器においては、その試験容器に0.1Tの磁界をかけた場合の試験容器の残留磁気量が15pT以下であることが必要となる。
ところで、従来の光学的抗体検査方法においては、透明ポリスチレンの射出成形品や透明ガラス製の試験容器が使用されている。たとえばNunc社から市販されているポリスチレン製の容器の残留磁気量は、SQUIDセンサーにより測定すると670pTであり、磁気的免疫反応測定方法には使用することができない。一方、ガラス製の試験容器をSQUIDセンサーにより測定すると、残留磁気量が15pTであり、試験容器としての使用可能な範囲に入る。しかし、試験容器は、被検体を収容し測定した後は、使用済みの医療廃棄物として原則的に焼却処理しなければならない。ガラス製の試験容器は事実上処理不能であり、磁気的免疫反応診断装置に用いる試験容器としては使用することができないことになる。したがって、焼却可能な磁気的免疫反応測定方法に適したプラスチック製の試験容器が切望されている。
一般に通常のプラスチック材料は、ほとんどその重合工程において金属触媒や配合材料として金属化合物を使用したり、またモノマーがたとえばステンレススチール製の反応容器および配管と接触するなどして、モノマー中に不純物として金属成分が混入する可能性が高い。磁気的測定のための試験容器用材料としては種々考えられるが、実際に製品の加工性等を考慮すると、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、アクリル樹脂などが考えられる。
しかしながら、これらのポリマーは、ppmオーダーの金属を含有している。この数値はSQUIDセンサーにより測定される残留磁気量に換算して10数pTから600pTを超えてしまう金属含有量に相当する。
そこで、磁気的免疫反応測定用容器において磁化される原因物質として金属成分に着目し、プラスチック材料を選定した。磁気的免疫測定用の試験容器の材料にふさわしい入手可能なプラスチック材料について、金属成分を含有する工程の履歴等を判断して各材料を評価した。
この評価結果から、まずアクリル樹脂、具体的にはPMMA(ポリメチルメタクリレート)と高圧法ポリエチレンを試験容器用材料として評価の対象として選定した。高圧法ポリエチレン、ポリメタクリレートともに本発明に使用できる。強度、成形後の剛性等の諸物性を考慮するとPMMAがより好ましい。

モノマー
モノマー、たとえばメタクリル酸メチルの製造方法は、金属含有触媒を用いない方法であれば特に制限はなく、一般に知られている方法により製造することができる。たとえば、アセトンシアンヒドリン法(ACH法)、イソブチレン法などが好適である。

ポリマー
精製したモノマー、たとえばメタクリル酸メチルを重合して、得られるポリマーPMMAのSQUIDにより測定される残留磁気量が15pT以下の条件を満たすように、金属との接触の機会のない重合方法であれば、公知の重合方法を適宜選択できる。
具体的には、連続塊状重合では、特定の転化率まで重合反応を行い、押出機等で未反応モノマーを脱気して回収しながらポリマーを得る。この重合方法によると、重合助剤等の金属系の添加剤を添加することなく合成することができる。この重合方法は、密閉系のプロセスであるため、不純物や他の異物等の混入が少なく高純度のポリマーが得られる。
また、懸濁重合による重合方法を採用すれば、分散剤を含む純水中にモノマーを投入し、液滴状で分散させながら重合しビーズを作製することができる。すなわち、金属分に接触することなく、ポリマーをビーズの形状で作製することができる。そして純水中に含まれる金属の混入を管理すれば、一定以下の金属の混入をすることが可能である。
さらに、溶液重合、キャスト重合、連続キャスト重合が使用できる。溶液重合は、モノマーを溶媒中に投入し、触媒たる過酸化物を加えて加熱重合する重合法であり、キャスト重合は、ポリマーの合成とシートの成形を同時に行う重合方法である。キャスト重合は、バッチ的に処理される製法である。そして、連続キャスト重合においては、ポリマーの合成とシートの成形を同時に行う重合方法であり、ベルトコンベア上でポリマーを成形することで連続的にシートを製造する方法である。
なお、本発明に使用するアクリル樹脂とは、メタクリル酸エステルを主体とするモノマーが付加重合して得られるアクリル樹脂であり、いわゆるメタクリル酸メチル等および他の(メタ)アクリル酸エステル類を共重合したものを含む。
そこで、SQUIDセンサーにより計測される残留磁気量とポリマー中の磁性金属含有量との関係を知るために、残留磁気量が8pT、34pTおよび48pTのアクリル樹脂製シートの含有磁性金属量をICP−MASS法で測定した。結果を表3および図2に示す。
Figure 0004347107
この結果より、アクリル樹脂中に含まれる磁性金属量と残留磁気量には図に示す相関関係が見出され、その結果より、磁気的免疫反応測定用の試験容器として残留磁気量15pT以下の条件を満たすためには、磁性金属の量を30ppb以下に抑えるとよいことがわかる。

試験容器の製造方法・・・シートの成形
本発明においては、まずシート状の板材を製造したのち、これを真空及び/又は圧空成形により試験容器とする。シート状の板材の製造には、公知の各種成形方法を用いることができる。具体的には、ガラス板キャスト成形法、連続キャスト成形法、押出し成形法等がある。キャスト成形法(鋳込み重合法)においては、モノマーに連鎖移動剤および重合開始剤を調合しモノマー配合剤とした後、モノマー配合剤を加熱して粘稠なシラップ状のものとした。その後モノマー配合剤を2枚の強化ガラス板で挟んだ型の中に流し込み重合する。重合後、シートである板状のポリマーを得る。また、連続キャスト成形法では、連続キャスト板は予備重合されたシラップをステンレス製の連続ベルトに注入し重合して得られる。押出成形法では、押出成形工程において、懸濁重合で得られたビーズ又は連続塊重合で得られたペレットが押出機のスクリュー、シリンダー、スクリーン、ダイス等の鋼材と接触するため成型シート中への金属の混入が予想された。しかし、射出成形と比べて成形品にかかる圧力が1桁低いためか、金属の混入は検出されなかった。押出機のスクリーンに付着しているアクリルポリマーを検査したが金属の検出を見なかった。
なお、射出成形は、その射出圧が高いことから成形時に成形機とポリマーが接触する際に金属成分の混入が高く、本発明の用途にはふさわしくない。

保護フィルム
一般にアクリル樹脂製シートには、紙もしくはポリマーの保護フィルムが貼り付けられている。その目的は傷つき防止と汚れの防止のためである。本発明において被覆することがある保護フィルムは、金属等の不純物の付着を防止することを目的とするうえで大いに異なる。保護フィルムは、ポリマーシートの表裏のいずれか一方、又は両方に付着させ、真空及び/又は圧空成形し磁気的免疫反応測定用の試験容器とする。成形後も試験容器から保護フィルムを剥がすことなく、そのまま磁気的免疫反応測定時まで保護フィルムを試験容器上に維持し、測定直前に剥離して測定に供することにした。
被覆フィルム(保護フィルム)としては、本発明の目的を達成するために粘着材を用いておらず、また金属成分を含まず、また容易にシート両面に付着し、さらに成形後に容易に剥離するものであることが必要である。この条件を満たすものであれば、特に制限なく用いることができる。保護フィルムの付着は、たとえばポリマーのシートの製造工程においてシート製造の直後に行うことが好ましい。
保護フィルムとして、前述の材料の選定で述べたように原料組成に金属成分を含まない高圧法ポリエチレンフィルムが好ましい。
ポリエチレンフィルムには、汎用の粘着タイプのフィルム及びホットメルトタイプのフィルムが使用できる。本フィルムには、分子量1000〜2000の低分子量のポリエチレンあるいは分子量400〜500のワックスが使用できる。さらに、粘着成分としてエチレン酢酸ビニルを含んでいても良い。
粘着タイプでは加熱して圧力がかかると、シートに粘着剤が移行する上、移行した粘着剤に埃などが付きやすくなる恐れがあるため、剥がしやすく移行の無いホットメルトタイプのフィルムがより好ましい。

試験容器の製造方法・・・試験容器の成形/真空及び/又は圧空成形
ガラス板キャスト成形法および押出成形法で得られたシートから試験容器を作製する。
真空及び/又は圧空成形には各種方式を使用できる。圧力函に加熱軟化したシートの周辺をクランプし、雌型に加熱軟化したシートを真空で押し付け雌型の形状に賦形する雌型方式、雄型に加熱軟化したシートを真空で押し付け雄型の形状に賦形する雄型方式、さらに成形の初期段階でプラグアシストによる賦形を行なった後、雌型で真空引きするプラグアシスト方式等が使用できる。さらに、本発明においては、図4に示す真空圧空成形機を用いて、雌型方式を採用するとともに、下方からの圧力函の真空引きと上方からの風圧による加圧を同時に行う方式を採用した。
さらに、成形後の試験容器の切断には、レーザーカッタあるいはセラミックコーティングした刃物を用いる。上記切断方法を使用することにより、試験容器が金属と接触することを防ぐ。
なお、磁気的免疫反応測定のための試験容器としては、抗体が試験容器に結合するように試験容器の表面処理が可能であることが必要である。そのほかにも磁気的免疫検査装置の使用に適した品質特性と形状を持つことが必要である。
本発明の試験容器の形状に関して、最も重要な項目はその底面の厚みであって、容器底面の厚みによって磁気センサーと試料との距離が変化し、それにともなって磁気信号の大きさが変化する。その関係を図3に示す。図からもわかるように、試料と磁気センサーの距離は近いほど得られる磁気信号は大きくなり、つまりは容器底面の厚みは極力薄いことが好ましい。しかしながら、容器底面の厚みが0.1mmよりも薄くなると、容器としての剛性が確保できず、使用できない。また、磁気センサーと試料の距離が1mmを超えると得られる磁気信号の大きさが急激に低下し、高感度性が損なわれる。したがって、容器底面の厚みは、0.1〜1.0mm、好ましくは0.1〜0.5mmである。
以下に、樹脂の選択から試験容器を成形するまでの経緯を述べ、ついで試験容器をSQUID装置に応用した場合の結果をのべる。
磁気的免疫反応測定測定用の試験容器としての適用性を詳しく調べた。アクリル樹脂及び高圧法ポリエチレンが使用できるが、高圧法ポリエチレンは強度や抗体との結合性については十分でないことがわかる(表1)。したがって、アクリル樹脂のほうが好ましい。
Figure 0004347107
そこで、残留磁気量とアクリルポリマー中の金属含有量との関係を知るために、ガラス板キャスト法で成形したアクリル樹脂製シートの含有金属量(強磁性体)を、ICP−MASS法で測定した。試料の残留磁気量は、48pT、34pT、8pTである。結果を表2に示す。
Figure 0004347107
つぎに成形法について検討する。まず射出成形法を検討した。射出成形法では、ポリマーからシート等の中間製品を成形することなく、ひとつの工程で試験容器が成形できる。しかし、射出成型機内は、高温(180〜280℃)、高圧(1600〜2200kg/cm2)の雰囲気下にあり、ポリマーは、鋼製のスクリュー、シリンダー、金型等に接触して摩擦するため、ポリマー中への金属の混入が避けられない。実際、射出成型でシートを作製してSQUIDセンサーにより残留磁気量を測定すると、50〜100pTの値となり、本発明の目標範囲から大きく逸脱してしまった。
また、モノマーを直接シリコーン製の型中に注型し、容器の作製を行うキャスト成形を検討したが、加熱による重合では相当の時間を要するため、工業的に大量生産することにむかず、同時にUV光線により硬化する成形法を検討したが、残留磁気量が大きかった(65−110pT)。
そこで、ポリマーから直ちに試験容器を得ることを避け、ポリマーから中間製品であるシートを成形した後、真空圧空成形により試験容器を得ることを検討した。
試験容器の作製
ガラス板を用いてキャスト成形したアクリル樹脂シート(株式会社クラレ製パラグラス、寸法400×400、厚み0.8mm)、押出成形法によるアクリル樹脂シート(株式会社クラレ製コモグラス、寸法400mm×400mm、厚み1.0mm)を用意し、それぞれ両面にポリエチレンフィルムを貼着した。
ポリエチレンフィルムには、汎用粘着タイプのフィルムのほかホットメルトタイプのフィルムも使用した。かかるフィルムは、市販品として、東レ株式会社製、5370L(ホットメルトタイプ、厚み 70μm)や、積水化学株式会社製、#624KN、#622T(粘着フィルム、厚み 70μm)等が使用できる。
試験容器を製造するに際しては、金属とポリマーのシートが直接接触しないよう細心の注意を払った。具体的には、ポリマーのシート用クランプをセラミック等の非金属物質でコーティングしたものを使用し、加熱盤をセラミックヒーターとし、成形用金型をアルミニウム製とし表面をアルマイト、セラミックまたはテフロン(登録商標)でコーティング加工を施したものとし、真空圧空成形の際に使用する空気はいくつも重ねたフィルターにより水分、金属分、油分を取り除いたものを使用した。
上記キャスト成形したアクリル樹脂シート及び、押出成形法によるアクリル樹脂シートを、あらかじめ60℃にて12時間予備乾燥した後、真空圧空成形機(株式会社浅野研究所製、品番:FKS−0631−20)に装着した。つぎに装着したアクリル樹脂を180℃になるまで加熱した後、真空圧空成型を行った(真空度−0.09MPa、圧空圧力0.6MPa、成形時間5秒)。なお、真空圧空成形機の型内の温度を70℃に維持するよう温度調節した。成型完了後冷却して、成型品を成型機から取り出した。
試験容器の試料収容凹部の底面の肉厚は、0.4mmであり、SQUIDを用いた免疫反応測定装置に装着後、回転操作した場合に容器底面のブレが、0.1mm以下であった。
さらに、SQUIDを用いた免疫反応測定においては、磁気マーカーと結合した試料を磁化した後、SQUIDセンサーを接近させ残留磁気の測定を行った。この際、SQUIDセンサーを容器下方、試験容器の試料収容凹部の底面ごしに接近させる。この位置関係は、センサーを上方から試験容器の試料収容凹部に挿入して接近させることは装置の設計上困難であるため、供される試料との距離をより短くするために最も好適な位置関係である。
SQUIDセンサーと供せられる試料との距離によって磁気信号の強度が変化する。このため、SQUIDセンサーと供せられる試料との距離は近いほうが好ましく、試験容器試料収容凹部の底面の厚さを0.1〜1.0mmとすると、良好な測定結果をもたらすものであるとわかった。SQUIDセンサーと供せられる試料との間の距離が大きくなるにしたがい、磁気信号が急激に減少する。急激に減少する閾値は、1mmである。したがって、底面の厚みが高くなると、測定が不可能になる。また、試験容器の試料収容用凹部の底面の厚さが0.1mmよりも薄くなると、容器としての剛性が確保できない。
最後に、シート保護フィルムを付着させて真空圧空成型を行って得た成形品(試験容器)のSQUIDセンサーによる残留磁気量を測定した結果を表4に示す。成形品として得た試験容器の具体的形状を一例として図5に示す。
Figure 0004347107
なお、表4における符号のKP,CPは、フィルムのない試験容器を示す。KFP,CFPは、フィルムを貼った状態で一体同時に成形した試験容器であって、フィルムに粘着剤があるものを示す。KFP-N,CFP-Nは、フィルムを貼った状態で一体同時に成形した試験容器であって、フィルムがホットメルトタイプであるものを示す。
押出成形シートから得られた成形品、キャスト成形シートから得られた成形品ともに不良発生率を大幅に低下させることができた。具体的には押出成形シートから得られた成形品の不良発生率は10%、キャスト成形シートから得られた成形品の不良発生率は7%であった。
これらの結果から、押出成形シートから得られた成形品、キャスト成形シートから得られた成形品のいずれも試験容器製造のためのシートとして適したものであることがわかった。
本発明の試験容器において、試料収容凹部の底部の厚さは、0.1〜1.0mmとすることで磁気的免疫反応測定のデータを正確に採取できることがわかった。また、本発明の試験容器をSQUID装置で測定したところ、1〜5pTであった。
したがって、本発明においては、試験容器材料の残留磁気量を15pT以下としたことばかりでなく、成形後の試験容器においても、残留磁気量が15pT以下であった。したがって、磁気的免疫測定装置において、被測定物質が微量であって測定すべき磁気マーカーから検出される磁気信号が、微弱であっても、試験容器自体の雑音として発生される残留磁気信号で、測定値が埋もれてかき消されることがない。

SQUIDによる免疫反応測定
図6に装置構成を示す。磁界を検出するSQUIDセンサーは高温超伝導体を用いて作製され、その大きさは3 mm x 6 mmである。SQUIDセンサーは液体窒素に冷却する必要がある。そのため、サファイア棒を介した伝導冷却により冷却する。装置の周辺環境の温度(室温)との熱的遮断は、真空断熱による。また、センサーと供される試料との間を近接させるため、窒素容器の上面を薄いサファイア窓としている。この構成により室温の試料を測定できる。
供される試料とSQUIDセンサーの距離d は、試験容器の試料収容凹部の底面の厚さ、容器とサファイア窓の距離、サファイア窓の厚さ、サファイア窓とセンサーの距離の合計で与えられる。試験容器の試料収容凹部の底面の厚さが0.4 mmの場合には距離dはd=1.5 mmとなる。以下の実験はこの条件で行った。

試料の作製
図7に実験に用いた試料の概略図を示す。IgEの検出試料は以下の手順により作製した。最初に反応容器底面にブロック材(Block A)をコートした。次に、固定用抗体を付着させた。この後にIgEの入った希釈溶液を200μl入れ、IgEと固定抗体を結合させた。この結合の後に溶液を捨て、その後、磁気マーカー付きの検出用抗体の入った溶液を200μl入れた。検出用抗体とIgEを結合させた後に溶液を捨て、試料を充分に洗浄して、未結合の磁気マーカーを除去した。この手順により、IgEに結合した磁気マーカーのみが残ることになる。したがって磁気マーカーからの磁気信号を測定すれば、IgEの量を検出することができる。

測定
IgEと結合させた時点では磁気マーカーは磁気信号を発生しない。このため外部から1 kG程度の磁界を印加し、磁気マーカーに残留磁気を発生させた。残留磁気による磁化Mから信号磁界Bsが発生し、この磁界をSQUIDセンサーで測定した。信号磁界Bsを測定するため、試料の入った反応容器を電動スライダーにのせて、容器を50 mm/sで移動させた。この間SQUIDセンサーは固定されている。
この場合にSQUIDセンサーで測定された信号波形を図8に示す。試料には3pgの重さのIgEを用いた。図に示すように試験容器の試料収容用凹部の底面がセンサーの真下を通過する時に、大きな磁界信号が得られる。磁界のピーク値は試料内の磁気マーカーの量、すなわちIgEポリ抗体の量に比例するので、このピーク値からIgEの量を検出することが出来る。
図9にはIgEが無い場合のSQUIDセンサーの出力波形を示す。この場合のセンサーの出力はセンサーと反応容器の磁気雑音の合計を示すことになる。図9に示すように磁気雑音の大きさとしては10pT以下が得られている。なお、SQUIDセンサー自体の磁気雑音は5pT程度である。
図10にはIgEの重さwとSQUIDセンサーで検出した信号磁界Bsの関係を示す。IgEの量を300 pgから0.3pgまで変化させているが、重さwと信号磁界Bsの間には良い相関が得られている。IgEの重さが0.3pgの時の信号磁界の大きさはBs=20 pTである。
本発明にしたがい、磁気的免疫反応測定のための試験容器の残留磁気量が15pT以下であるプラスチック材料がはじめて提供でき、この材料を使用する試験容器の成形方法により、測定すべき磁気マーカーから検出される磁気信号が、試験容器自体の残留磁気信号で埋もれてかき消されるこのもなく、データの判別を明確に行うことが可能となった。これにより磁気的免疫反応の検出を容易に行うことができる。
図1はIgEの重さと磁気信号の関係を示す図である。 図2は磁性金属量と残留磁気量との関係を示す図である。 図3は磁気センサーと試料との距離と磁気信号強度の関係を示す図である。 図4は本発明に用いる真空/圧空成形の概略を示す図である。 図5は成形品としての試験容器の具体的形状を示す図である。 図6はSQUIDによる免疫反応測定装置構成の概略を示す図である。 図7はサンプルの概略図である。 図8はIgE3pgの試料がある容器を移動させた時のSQUIDセンサーの出力波形を示す図である。 図9は容器のみを移動させた時のSQUIDセンサーの出力波形を示す図である。 図10はIgEの重さwとSQUIDセンサーで検出した信号磁界Bsの関係を示す図である。

Claims (2)

  1. 磁性金属含有量が30ppb以下であり、かつ磁界0.1T、試料からSQUIDセンサーとの距離が1.5mmの条件下で磁界を印加した時の残留磁気量が15pT以下であるポリマーをシート状に成形し、
    該シートの表裏いずれか一方、もしくは両方をプラスチックフィルムで被覆し、
    その後該シートを真空および/または圧空成形により成形し、底面の厚さを0.1〜1.0mmとすることを特徴とする磁気的免疫反応測定用試験容器を製造する方法。
  2. 該プラスチックフィルムが粘着剤を含まない、ホットメルトタイプの接着層を有しているものである、請求項に記載の磁気的免疫反応測定用試験容器を製造する方法。
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