JP4346223B2 - 差動増幅回路 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、入力電圧が電源の低電位側、高電位側のいずれの側に大きく振れても歪み無く出力電圧が得られるようにした差動増幅回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電子機器の動作電源は電池が一般的となっており、軽量化のためにその電圧は低下する一方である。これに伴って、回路の電源電圧利用を効率的に行うために、特にアナログ回路の信号振幅を電源電圧の両端にまで広げる必要性が高まってきた。
【0003】
図14は従来の一般的な差動増幅回路50の回路図であり、エンハンスメント型のPMOSトランジスタMP51,MP52,MP53,MP54、エンハンスメント型のNMOSトランジスタMN51,MN52,MN53を使用して構成したものである。トランジスタMP51,MP52は差動対を構成し、トランジスタMP53,MP54は電流源を構成し、トランジスタMN51,MN52は差動対トランジスタMP51,MP52の能動負荷としてのカレントミラー回路を構成する。トランジスタMN53,MP54は出力回路を構成する。51は非反転入力端子、52は反転入力端子、53は出力端子、54はバイアス端子である。
【0004】
図15はこの差動増幅回路50の動作波形を示したもので、出力端子53と反転入力端子52を接続して全体を図2に示すようなボルテージホロワ接続とし、非反転入力端子51に入力信号Vinを印加したときの差動対トランジスタMP51,MP52の共通ソースであるノードTAILの電圧Vtailと出力端子53の電圧Votの波形を示したものである。
【0005】
この図15を見ると、入力電圧Vinが電源電圧VDDに近づくと、電圧Vtailと電圧Votがクリップされ歪んでいる。これは、入力電圧Vinが電源電圧VDDに近づくと、差動対トランジスタMP51,MP52のゲート・ソース間電圧VgsがそのトランジスタMP51,MP52のしきい値電圧Vthp51,Vthp52より小さくなり、その差動対トランジスタMP51,MP52がカットオフするためである。このように、図14の差動増幅回路50では、入力電圧Vinが電源電圧VDD近くになると、出力電圧Votが歪む問題がある。
【0006】
図16は別の差動増幅回路50’を示す回路図であり、図14における差動増幅回路50の差動対のトランジスタMP51,MP52をデプレッション型のPMOSトランジスタMP55,MP56に置換したものである。他は図14の差動増幅回路50と同じである。
【0007】
ところが、差動増幅回路50’では、入力端子52を出力端子53に接続してボルテージホロワ接続とし、入力端子51に電圧Vinを入力するとき、その入力電圧Vinが電源電圧VDDに近づいたときは差動対トランジスタMP55,MP56はカットオフしないが、接地電圧VSSに近づいたときに、その差動対P55,MP56がカットオフし、図17に示すように出力波形がクリップされる。このように、差動対トランジスタをデプレッション型にするのみでは出力をフルスイングさせることは出来ない。図18は入力電圧Vinを0Vから2Vに変化させたときの電圧Vtail,Vout,Votの特性図である。55に示されるように、入力電圧Vinが約0.3Vになって初めて電圧Votが立ち上っている。
【0008】
図19は以上のような問題を解決するために、電源電圧VDD側の歪みを防止する正側差動増幅回路61と接地電圧VSS側の歪みを防止する負側差動増幅回路62を独立して構成し、両差動増幅回路61と62の入力端子、出力端子をそれぞれ共通接続して構成した差動増幅回路60である。63,64は入力端子、65は出力端子である。
【0009】
正側差動増幅回路61はエンハンスメント型のPMOSトランジスタMP61,MP62,MP63、エンハンスメント型のNMOSトランジスタMN61,MN62、および電流源I61からなる。トランジスタMN61,MN62は差動対を構成し、トランジスタMP61,MP62はその差動対トランジスタMN61,MN62の能動負荷としてのカレントミラー回路を構成する。トランジスタMP63は出力回路を構成する。
【0010】
負側差動増幅回路62はエンハンスメント型のPMOSトランジスタMP64,MP65,エンハンスメント型のNMOSトランジスタMN63、MN64,MN65、および電流源I62からなる。トランジスタMP64,MP65は差動対を構成し、トランジスタMN63,MN64はその差動対トランジスタMP64,MP65の能動負荷としてのカレントミラー回路を構成する。トランジスタMN65は出力回路を構成する。
【0011】
この差動増幅回路60では、入力端子63に入力する電圧が電源電圧VDD近くにまで上昇すると、負側差動増幅回路62のトランジスタMP64,MP65の差動対はカットオフするが、正側差動増幅回路61のトランジスタMN61,MN62の差動対が正常動作するので、出力端子64の出力電圧Votが歪むことはない。
【0012】
逆に、入力端子63に入力する電圧が接地電圧VSS近くにまで下降すると、正側差動増幅回路61のトランジスタMN61,MN62の差動対はカットオフするが、負側差動増幅回路62のトランジスタMP64,MP65の差動対が正常動作するので、出力端子64の出力電圧Votが歪むことはない。すなわち、入力電圧Vinが過大になっても過小になっても、出力電圧Votは正常に現れる。
【0013】
ところが、この差動増幅回路60では、正側と負側差動増幅回路61,62が独立しているので、両者間にバラツキが発生し易く、製造歩留まりが低下する問題がある。また、正側差動増幅回路61は接地電圧VSS側でカットオフし、負側差動増幅回路62は電源電圧VDD側でカットオフするので、図20の66,67に示すように正側差動増幅回路61の低入力領域と負側差動増幅回路62の高入力領域で出力電圧が非直線特性となる。なお、図20のVotpはトランジスタMP63のドレインにトランジスタMN65に変えて電流源を接続したときの出力電圧、VotnはトランジスタMN65のドレインにトランジスタMP63に変えて電流源を接続したときの出力電圧である。このため、図21に示すように、非連続点68が発生し、出力波形に歪が発生する問題がある。
【0014】
図22は別の差動増幅回路70の回路図である。MP71,MP72,MP73はエンハンスメント型のPMOSトランジスタ、MN71,MN72,MN73,MN74,MN75はエンハンスメント型のNMOSトランジスタ、MN76,MN77はデプレッション型のNMOSトランジスタである。71は非反転入力端子、72は反転入力端子、73は出力端子、74はバイアス端子である。
【0015】
エンハンスメント型の差動対トランジスタMN71,MN72の各ドレインはトランジスタMP71,MP72からなる能動負荷としてのカレントミラー回路に接続され、各ゲートは入力端子71,72に共通に接続され、ソースは電流源としてのトランジスタMN74に共通接続されている。
【0016】
また、デプレッション型の差動対トランジスタMN71,MN72の各ドレインもトランジスタMP71,MP72からなる能動負荷としてのカレントミラー回路に接続され、各ゲートも入力端子71,72に共通に接続され、ソースは電流源としてのトランジスタMN73に共通接続されている。
【0017】
すなわち、この差動増幅回路70は、エンハンスメント型の差動対とデプレッション型の差動対を並列接続したもので、特開平8−256026号に記載されているものである。
【0018】
この差動増幅回路70では、エンハンスメント型の差動対トランジスタMN71,MN72は、入力端子71、72に入力する電圧の低電圧領域ではそのしきい値電圧Vthn71,Vthn72以下となるとカットオフするが、高電圧領域では電源電圧VDDまで動作する。一方、デプレッション型の差動対トランジスタMN76,MN77は、入力電圧がそのしきい値電圧Vthn76、Vthn77まではエンハンスメント型の差動対トランジスタMN71,MN72と同様に動作する。(Vthn76、Vthn77)<<(Vthn71,Vthn72)であるので、デプレッション型差動対トランジスタMN76,MN77はエンハンスメント型差動対トランジスタMN71,MN72より低電圧領域まで動作する。つまり、エンハンスメント型差動対トランジスタMN71,MN72は入力電圧の高電圧領域を受け持ち、デプレッション型差動対トランジスタMN76,MN77は入力電圧の低電圧領域を受け持つよう動作する。
【0019】
しかしながら、デプレッション型差動対トランジスタMN76,MN77は、そのソース電位を電流源トランジスタMN73のドレイン電圧よりも低くすることはできないので、入力電圧が接地電圧VSSになると、カットオフし、動作が不連続となる。
【0020】
図23は別の差動増幅回路80の回路図である。MP81,MP82,MP83はエンハンスメント型のPMOSトランジスタ、MN81,MN82はエンハンスメント型のNMOSトランジスタである。SWはスイッチ、81は非反転入力端子、82は反転入力端子である。なお、出力回路は省略している。
【0021】
この差動増幅回路80は特開平5−102756号に記載されているもので、スイッチSWによって差動対トランジスタMP81,MP82の基板電圧を切り替え、動作範囲を変化させるようにしたものである。ここでは、スイッチSWを端子a1の側に切り替えれば基板電位はソース電位となり、このときのしきい値電圧をVthp8-1とすると、端子a1の側に切り替えたときの基板電位は電源電圧VDDとなり、しきい値電圧はVthp8-2(>Vthp8-1)と大きくなる。よって、入力電圧が電源電圧VDDに近い領域で変化するようなときはスイッチSWを端子a1側に切り替えてしきい値電圧をVthp8-1とし、接地電圧VSSに近い領域で変化するようなときは端子a2側に切り替えてしきい値電圧をVthp8-2とすることにより、ダイナミックレンジを広くすることができる。
【0022】
しかし、入力電圧が電源電圧VDDの付近ではその差動対トランジスタMP81,MP82がカットオフして動作しなくなる。
【0023】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、図14の差動増幅回路50や図23の差動増幅回路80では入力電圧が電源電圧VDDに近づくと出力電圧がクリップされて歪み、図16の差動増幅回路50’や図22の差動増幅回路70では入力電圧が接地電圧VSSに近づくと出力電圧がクリップされて歪むという問題がある。また、図19の差動増幅回路60では差動増幅回路50,50’のような問題はないものの、回路構成が複雑となりクロスオーバ歪みが発生し易いという問題がある。
【0024】
本発明は以上のような点に鑑みてなされたもので、その目的は、入力電圧がVDDやVSSに近づいても出力電圧が歪むことなく、またクロスオーバ歪みも発生せず、しかも簡単な回路で実現できるようにした差動増幅回路を提供することである。
【0025】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための第1の発明は、差動接続される第1の導電型でデプレッション型の第1,第2のMOSトランジスタと、該第1,第2のMOSトランジスタのドレインにドレインが接続され且つ前記第1の導電型と反対の第2の導電型で互いにカレントミラー接続されるエンハンスメント型の第3,第4のMOSトランジスタと、前記第1,第2のMOSトランジスタの共通ソースにドレインが接続されエンハンスメント型で且つ電流源としての第1の導電型の第5のMOSトランジスタとを含み、前記第1,第2のMOSトランジスタの基板効果係数をBとし、前記第3,第4のMOSトランジスタのしきい値電圧をAとするとき、前記第1,第2のMOSトランジスタのしきい値電圧Yを、
0<Aのときは、
−0.125<Y<{(−0.875×A+0.675)×B−0.125)}
A<0のときは、
{(0.875×A−0.675)×B+0.125)}<Y<0.125
となるよう構成した。
【0026】
第2の発明は、第1の発明において、前記第1,第2のMOSトランジスタを1組としてこれを複数組設け、各組のMOSトランジスタのソースを前記第5のMOSトランジスタのドレインに共通接続し、各組のMOSトランジスタの一方のMOSトランジスタのドレインを個々にヒューズ又はスイッチを介して前記第3のトランジスタに共通接続すると共に他方のMOSトランジスタのドレインを個々にヒューズ又はスイッチを介して前記第4のトランジスタに共通接続して構成した。
【0027】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の原理説明のための差動増幅回路10を示す図である。同図において、MP11,MP12,MP13,MP14はPMOSトランジスタ、MN11,MN12,MN13はNMOSトランジスタである。トランジスタMP11,MP12は差動対を構成するデプレッション型であり、その基板は電源電圧VDDのラインに接続されている。他のトランジスタはエンハンスメント型である。トランジスタMP13は電流源を構成し、トランジスタMN11,MN12は能動負荷としてのカレントミラー回路を構成する。トランジスタMP14とMN13は出力回路を構成する。
【0028】
このように、本発明では、差動対トランジスタMP11,MP12の基板をソースではなく、電源電圧VDDのラインに接続し、さらにこの差動対トランジスタMP11,MP12をデプレッション型として機能させる。なお、ここでの「デプレッション型」とは、エンハンスメント型のようにしきい値電圧が−0.6V程度ではなく、0V付近の負電圧又は正電圧を呈するトランジスタを呼ぶ。つまり、通常のノーマリオンの特性を示すのではなく、しきい値電圧がエンハンスメント型と同一極性で小さな値の場合も含まれるものとする。
【0029】
図2は差動増幅回路の特性試験用の接続関係を示すもので、反転入力端子と出力端子を接続してボルテージホロワとし、非反転入力端子に電圧を入力させて出力端子に現れる電圧の特性を測定する。
【0030】
図1の差動増幅回路10をこのようなボルテージ接続として、非反転入力端子11に入力させる入力電圧Vinを接地電圧VSS〜電源電圧VDDまで変化させたとき、出力端子13の電圧Votがその入力電圧Vinと全く同じ電位で変化すれば理想的な動作と言える。しかし、従来では前述したように、種々な要因で電源電圧VDDに近い領域で入力電圧に追従できなかったり、接地電圧VSSに近い領域で同様に追従できなかったりして、歪みが発生する。
【0031】
図3、図4はその入出力特性を示す図であり、横軸は非反転入力端子11に入力する電圧Vin、縦軸はノードOUTの電圧Vout、ノードTAILの電圧Vtail、出力端子13の電圧Votである。
【0032】
まず、図3はデプレッション型の差動対トランジスタMP11,MP12のしきい値電圧Vthp11,Vthp12がエンハンスメント型に近い値(負側に大きい値:−0.3V)となったときの特性で、入力電圧VinがVSS付近とVDD付近をくらべてみると、VSS付近では電圧Vout、Vtail、Votの変化は滑らかであるのに対し、VDD付近では符号15に示すように大きく変化し、電圧VoutがVSSになるので、電圧VotはVDDに張り付いてしまう。これは、入力電圧VinがVDD側になるとMP12がカットオフするためである。
【0033】
図4はデプレッション型の差動対トランジスタMP11,MP12のしきい値電圧Vthp11,Vthp12がより深いデプレッション型(0.2V)となったときの特性で、入力電圧VinがVSS付近とVDD付近をくらべてみると、VDD付近では電圧Vout、Vtail、Votの変化は滑らかであるのに対し、VSS付近では符号16に示すように大きく変化し、電圧VotはVDDに張り付き、電圧Voutも不十分な特性である。これは、ノードOXの電圧を電圧Voxとすると、入力電圧VinがVSS付近では、
Vthn11<Vox<Vtail ・・・(1)
の関係が保持できなくなるためである。なお、Vthn11はMN11のしきい値電圧である。
【0034】
そこで、式(1)が満足される範囲でトランジスタMN11のしきい値電圧Vthn11を小さくするか、又は電圧Vtailを大きくすればよいが、ある程度の余裕をもってそれらの最適値を見つけることは不可能であった。
【0035】
このように、差動対トランジスタMP11、MP12のしきい値電圧Vthp11,Vthp12を小さくしてデプレッション型にしただけでは、入出力の動作範囲をVSSからVDDの範囲まで広げることは、不可能であった。そのしきい値電圧Vthp11,Vthp12を非常に狭い範囲に閉じこめれば可能性はあるが、これでは現実の生産現場では非常に低い歩留まりになり、実用的ではない。しきい値電圧の制御性は、技術の進歩で将来的には著しく向上することが予想されるが、現状ではねらった値の±150mV程度のバラツキは避けられない。
【0036】
そこで本発明では、従来考慮されなかった別のパラメータとしきい値電圧との関係に着目し、VSS〜VDDの全範囲で連続的に動作できるようにした差動増幅回路を実現するものである。
【0037】
図5は図1の差動増幅回路10において、基板効果係数BをB=0.7、1.3、1.9とした各場合の電圧Vtailの変化を示した図である。基板効果係数Bの値を大きくしたときほど、電圧Vtailが電圧Voutから離れていくことが分かる。つまり、式(1)内のVoxとVtailの差が大きくなり、しきい値電圧Vthn11のバラツキの許容範囲が広くなることが分かる。
【0038】
図6は単体のPMOSトランジスタMPの基板効果を説明するための図である。これは、ゲート電圧Vgを2V(=VDD)から0V(=VSS)まで変化させたときのドレイン電流Idsの変化を示すもので、MOSトランジスタの基板に印加する基板電圧VsbをVDD+0VからVDD+2.5Vまで0.5Vピッチで変化させた各場合についてのものである。この図6から明らかなように、基板電圧Vsbが大きくなるほど見かけ上のしきい値電圧が大きくなっている。
【0039】
基板効果については、参考文献として「サブミクロンデバイスI、小柳光正、丸善」や「CMOS、R.Jacob Baker,et al IEEE Press」等を挙げることができる。これらによれば、基板効果係数Bは
B=√(2×Es×Eo×q×Na)/Cox ・・・(2)
で表される。Esはシリコンの比誘電率、Eoは真空の誘電率、Naは基板の不純物濃度、Coxはゲート電極下の絶縁酸化膜の容量である。
【0040】
現在では多くのFET計算用モデルが提案されており、基板効果についても、特性の正確な再現のために複雑な式で表現されるが、基板電位を変化させてしきい値電圧の変化を観測する点は常に同じであり、いずれも図6と同様な特性を得ることができる。前記式(2)によれば、不純物濃度Naや酸化膜厚を変えれば基板効果係数Bを変化させることができること分かる。そして、不純物濃度Naを2倍にすれば基板効果係数Bは√2倍にできる。このように不純物濃度Na等の調整によって基板効果係数Bを、ひいてはしきい値電圧を変化させることができる。
【0041】
図7は図1の差動増幅回路10における差動対トランジスタMP11,MP12の基板効果係数Bに対するしきい値電圧Vthp11、Vthp12(以下、Yと呼ぶ)の変化を示した特性図であり、その負荷側のトランジスタMN11,MN12のしきい値電圧Vthn11,Vthn12(以下、Aと呼ぶ)を種々変化させたときのものである。なお、VDD=2V,VSS=0Vである。
【0042】
まず、A=0.5Vのときに回路がフルスイングする範囲は、限界ライン15と限界16の間の斜線部分aの領域である。限界ライン15は、
Y=−0.125 ・・・(3)
限界ライン16は、
Y=0.2375×B−0.125 ・・・(4)
である。これらは、多くの測定データやシミュレーション結果を回帰分析して得られたものであり、グラフ化しさらに数式で表現し一般化したものである。
【0043】
次に、A=0.4Vのときに回路がフルスイングする範囲は、限界ライン15と限界17の間の斜線部分a,bの領域である。限界ライン17は、
Y=0.325×B−0.125 ・・・(5)
である。
【0044】
また、A=0.2Vのときに回路がフルスイングする範囲は、限界ライン15と限界18の間の斜線部分a,b、cの領域である。限界ライン18は、
Y=0.5×B−0.125 ・・・(6)
である。
【0045】
なお、以上のフルスイングする範囲を示す斜線部分a,b,cは基板効果係数Bが
1.0≦B≦2.2 ・・・(7)
の範囲としているが、製造上から決めたものであり、これに限られない。
【0046】
以上をまとめれば、デプレッション型のPMOS差動対トランジスタMP11,MP12のしきい値電圧Yを、
−0.125<Y<{(−0.875×A+0.675)×B−0.125} ・・・(8)
の範囲に設定することにより、入力電圧VinをVSS〜VDDまでフルスイングさせたとき、それに応じた歪みのない出力電圧Votを得ることができる。
【0047】
このように、しきい値電圧Yの範囲は、負荷側トランジスタMN11,MN12のしきい値電圧Aと基板効果係数Bとによって、かなり広い範囲内で設定することができるので容易に実現できる。
【0048】
以上は差動対トランジスタをデプレッション型のPMOSトランジスタMP11,MP12としたときの差動増幅回路についての場合であったが、図8に示すように、その差動対トランジスタにデプレッション型のNMOSトランジスタを使用する差動増幅回路20についても同様な考え方が当てはまる。図8において、MP21,MP22,MP23はエンハンスメント型のPMOSトランジスタ、MN21,MN22はデプレッション型のNMOSトランジスタ、MN23,MN24はエンハンスメント型のNMOSトランジスタである。
【0049】
図9はそのときのフルスイングする範囲を示す特性図であり、差動対トランジスタMN21,MN22のしきい値電圧Vthn21,Vthn22をY’、負荷用のトランジスタMP21,MP22のしきい値電圧Vthp21,Vthp22を同値のA’としたとき、この差動増幅回路では、限界ライン25は、
Y’=0.125 ・・・(9)
A’=−0.5Vのときの限界ライン26は、
Y’=−0.2375×B+0.125 ・・・(10)
A’=0.4Vのときの限界ライン27は、
Y’=−0.325×B+0.125 ・・・(11)
A’=−0.2Vのときの限界ライン28は
Y’=−0.5×B+0.125 ・・・(12)
で表される。
【0050】
以上をまとめれば、デプレッション型のNMOS差動対トランジスタMN21,MN22のしきい値電圧Y’を、
{(0.875×A’−0.675)×B+0.125}<Y’<0.125 ・・・(13)
の範囲に設定することにより、入力電圧VinをVSS〜VDDまでフルスイングさせたとき、それに応じた歪みのない出力電圧Votを得ることができる。基板効果係数Bの範囲は式(7)で表される範囲である。
【0051】
図10は実際に製造するのに好適な実施例の差動増幅回路の構成を示すブロック図であり、(a)の差動増幅回路100は差動トランジスタとしてデプレッション型のPMOSトランジスタを使用する場合について、(b)の差動増幅回路200はデプレッション型のNMOSトランジスタを使用する場合についてのものである。
【0052】
図10(a)において、101は電流源、102はデプレッション型の複数の差動対PMOSトランジスタからなる差動対トランジスタ群、103はこの差動対トランジスタ群102内から使用するトランジスタを選択する選択手段、104はカレントミラーからなる負荷、105,106は差動入力端子であり、出力回路は省略している。
【0053】
ここでは、差動対トランジスタ群102内の各差動対トランジスタ単位で、基板効果係数Bを前記式(7)の範囲内において互いに異ならせて形成する。この基板効果係数Bの設定は、トランジスタのゲート酸化膜直下部における基板濃度を各差動対トランジスタ毎に少しずつ異ならせることにより行う。
【0054】
図10(b)において、201は電流源、202はデプレッション型の複数の差動対NMOSトランジスタからなる差動対トランジスタ群、203はこの差動対トランジスタ群202内から使用するトランジスタを選択する選択手段、204はカレントミラー回路からなる負荷、205,206は差動入力端子であり、出力回路は省略している。
【0055】
ここでも、差動対トランジスタ群202内の各差動対トランジスタ単位で、基板効果係数Bを前記式(7)の範囲内において互いに異ならせて形成する。この基板効果係数Bの設定も、トランジスタのゲート酸化膜直下部における基板濃度を差動対トランジスタ毎に少しずつ異ならせることにより行う。
【0056】
図11は図10(a)の構成を具体化した差動増幅回路100の回路図である。電流源101はエンハンスメント型のPMOSトランジスタMP101で、差動対トランジスタ群102はデプレッション型のPMOSトランジスタMP102,MP103,MP104,MP105,MP106,MP107で構成している。また、選択手段103は差動対トランジスタ群102のトランジスタMP102〜MP107のドレインに個々に接続したヒューズH102,H103,H104,H105,H106,H107で構成している。負荷104はエンハンスメント型のNMOSトランジスタMN101,MN102から構成している。図10(a)と同様に出力回路は省略している。
【0057】
差動対トランジスタ群102の各トランジスタMP102〜MP107の基板濃度の調整は、2段階の不純物注入により行う。最初の不純物注入は各トランジスタMP102〜MP107に共通に行い、2度目の不純物注入時に各対のトランジスタ毎に異ならせる。これにより、例えば、MP102とMP107の差動対の濃度をN1、MP103とMP106の差動対の濃度をN2、MP104とMP105の差動対の濃度をN3のように設定する。例えば、N1<N2<N3である。
【0058】
そして、この差動増幅回路100を図2に示したようにボルテージホロワ接続し、入力端子106に電圧Vinを入力してVSS〜VDDの範囲で変化させたときの図示しなかった出力回路の出力電圧の変化を観測して、その出力電圧の波形歪みの最も少ない差動対を残して、他の差動対はヒューズを切断することにより回路から切り離す。
【0059】
具体的には、VSS側で歪みがある場合には、しきい値電圧が正側によったデプレッション傾向が強いトランジスタ、つまり濃度がN1、N2のトランジスタMP102,MP103,MP106,MP107を切り離すべくヒューズH102,H103,H106,H107を遮断して、濃度がN3のトランジスタ対MP104,MP105のみを残す。逆にVDD側で歪みがある場合には、その反対にしきい値電圧が負側に大きなエンハンスメント傾向が強いトランジスタ、つまり濃度がN2,N3のトランジスタMP103,MP104,MP105,MP106を切り離すべくヒューズH103,H104,H105,H106を遮断して、濃度がN1のトランジスタ対MP102,MP107のみを残す。
【0060】
図12は図11に示した差動増幅回路100の変形例の回路100’を示すものであり、選択手段103をアナログスイッチS102、S103,S104,S105,S106,S107で構成し、これらのオン/オフをセレクタ107で制御するようにして、アナログスイッチS102とS107の組,S103とS106の組,又はS104とS105の組のいずれかの1つの組のみがオンするようにしたものである。
【0061】
このように、図12の差動増幅回路100’は、製造段階ではなく、使用段階でアナログスイッチS102〜S107のオン/オフを外部から制御できるようにしたものであり、製造工程での選択が省略できる。
【0062】
図13は図10(b)の構成を具体化した差動増幅回路200の回路図である。電流源201はエンハンスメント型のNMOSトランジスタMN201で、差動対トランジスタ群202はデプレッション型のNMOSトランジスタMN202,MN203,MN204,MN205,MN206,MN207で構成している。また、選択手段203は差動対トランジスタ群202のトランジスタMN202〜MN207のドレインに個々に接続したアナログスイッチS202、S203,S204,S205,S206,S207で構成している。負荷204はエンハンスメント型のPMOSトランジスタMP201,MP202で構成している。図10(b)と同様に出力回路は省略している。207はセレクタである。
【0063】
ここでも、差動対の各トランジスタMN202〜MN207の基板濃度の調整は、2段階の不純物注入により行う。
【0064】
なお、以上説明した図12,図13では差動対トランジスタを3対としているが、しきい値電圧の調整は前述したようにその精度が±150mV程度であるので、少なくとも2対設ければよい。
【0065】
【発明の効果】
以上から本発明の差動増幅回路によれば、入力電圧がVDDやVSSに近づいても出力電圧が歪むことなく、またクロスオーバ歪みも発生せず、しかも簡単な回路で実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の原理説明用の差動増幅回路の回路図である。
【図2】 測定用のボルテージホロワの接続説明図である。
【図3】 図1の回路の差動対トランジスタMP11,MP12のしきい値電圧が−0.3Vのときの入力電圧Vin変化に対する電圧Vtail、Vout、Votの特性図である。
【図4】 図1の回路の差動対トランジスタMP11,MP12のしきい値電圧が0.2Vのときの入力電圧Vin変化に対する電圧Vtail、Vout、Votの特性図である。
【図5】 図1の回路の差動対トランジスタMP11,MP12の各基板効果係数Bにおける入力電圧Vin変化に対する電圧Vtail、Vout、Votの特性図である。
【図6】 PMOSトランジスタの各基板電圧Vsbにおいてゲート電圧Vgを変化させたときのソース・ドレイン電流Idsの特性図である。
【図7】 図1の回路の能動負荷トランジスタMN11,MN12の各しきい値電圧Aにおける差動対トランジスタMP11,MP12の基板効果Bに対するそのトランジスタMP11,MP12のしきい値電圧Yの特性図である。
【図8】 図1の回路の各トランジスタの極性を反転した差動増幅回路の回路図である。
【図9】 図8の回路の能動負荷トランジスタMN21,MP22の各しきい値電圧A’における差動対トランジスタMN21,MN22の基板効果Bに対するそのトランジスタMN21,MN22のしきい値電圧Y’の特性図である。
【図10】 (a)、(b)は本発明の実施例の差動増幅回路のブロック図である。
【図11】 図10(a)の差動増幅回路の具体的回路図である。
【図12】 図10(a)の差動増幅回路の別の具体的回路図である。
【図13】 図10(b)の差動増幅回路の具体的回路図である。
【図14】 従来の差動増幅回路の回路図である。
【図15】 図14の差動増幅回路に入力電圧Vinを入力させたときの電圧Vtail,Votの波形図である。
【図16】 従来の別の差動増幅回路の回路図である。
【図17】 図16の差動増幅回路に入力電圧Vinを入力させたときの電圧Votの波形図である。
【図18】 図16の差動増幅回路に入力電圧Vinを入力させたときの電圧Vtail,Vout,Votの特性図である。
【図19】 従来の更に別の差動増幅回路の回路図である。
【図20】 図19の差動増幅回路に入力電圧Vinを入力させたときの電圧Vtail-p,Vtail-n,Voutp,Voutn,Votp,Votnの特性図である。
【図21】 図19の差動増幅回路の出力電圧Votの波形図である。
【図22】 従来の更に別の差動増幅回路の回路図である。
【図23】 従来の更に別の差動増幅回路の回路図である。

Claims (2)

  1. 差動接続される第1の導電型でデプレッション型の第1,第2のMOSトランジスタと、該第1,第2のMOSトランジスタのドレインにドレインが接続され且つ前記第1の導電型と反対の第2の導電型で互いにカレントミラー接続されるエンハンスメント型の第3,第4のMOSトランジスタと、前記第1,第2のMOSトランジスタの共通ソースにドレインが接続されエンハンスメント型で且つ電流源としての第1の導電型の第5のMOSトランジスタとを含み、前記第1,第2のMOSトランジスタの基板効果係数をBとし、前記第3,第4のMOSトランジスタのしきい値電圧をAとするとき、前記第1,第2のMOSトランジスタのしきい値電圧Yを、
    0<Aのときは、
    −0.125<Y<{(−0.875×A+0.675)×B−0.125)}
    A<0のときは、
    {(0.875×A−0.675)×B+0.125)}<Y<0.125
    としたことを特徴とする差動増幅回路。
  2. 請求項1において、
    前記第1,第2のMOSトランジスタを1組としてこれを複数組設け、各組のMOSトランジスタのソースを前記第5のMOSトランジスタのドレインに共通接続し、各組のMOSトランジスタの一方のMOSトランジスタのドレインを個々にヒューズ又はスイッチを介して前記第3のトランジスタに共通接続すると共に他方のMOSトランジスタのドレインを個々にヒューズ又はスイッチを介して前記第4のトランジスタに共通接続してなることを特徴とする差動増幅回路。
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