JP4345264B2 - 防曇塗料組成物及びその塗装物品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は防曇塗料組成物及びその塗装物品に関する。特に透明プラスチック材料やガラス材料表面を被覆して、これら材料表面を親水性に改質して防曇性を得る防曇塗料組成物及びその塗装物品に関する。
【0002】
【従来の技術】
ランダム共重合体を用いた従来型の加熱硬化型防曇剤組成物では、プラスチックやガラス基材に対する密着性が不十分であるという問題があった。
【0003】
その点を改善するべく検討した結果、親水性重合体部分と疎水性重合体部分とからなるブロック又はグラフト共重合体と界面活性剤を用いた加熱硬化型防曇剤組成物(特開平6−212146号公報、特開平6−107967号公報)を本発明者らは提案した。
【0004】
これらを使用して得られる塗膜は、ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分により塗膜表面に親水性を付与し、同時に疎水性重合体部分により基材との密着性を付与することができるため、親水性と密着性の両面で優れた物性を有している。更には塗膜中に含有される界面活性剤が塗膜表面に付着する水滴の表面張力を低下させ、付着した水滴を水膜にさせることにより優れた防曇性を発現させることが可能となった。
【0005】
また、一方、近年の塗工設備では省エネルギー化や高生産性のために、乾燥炉温度の低下や乾燥時間短縮が重要なウエイトを占めつつある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前記ブロック又はグラフト共重合体と界面活性剤を用いた加熱硬化型防曇剤組成物においては、良好な性能を有する硬化塗膜を得るためには120℃以上の高温で、30分以上の硬化時間という厳しい処理条件を必要とする。
【0007】
そのため前記加熱硬化型防曇剤組成物では、省エネルギー化や高生産性を目的に硬化温度を低下させたり、硬化時間を短縮すると硬化が不十分となったり、塗膜の耐水性が低下し易いという問題があった。
【0008】
前記加熱硬化型防曇剤組成物中に、アクリルメラミン塗料やアルキッドメラミン塗料のような加熱硬化型塗料で使用されている酸硬化触媒を添加すれば、硬化温度の低下と硬化時間の短縮という側面は改善できる。しかしながら、硬化後の防曇塗膜表面に水膜が形成されてその水が流れ落ちて乾燥した際に、流水跡が汚れとなって発生するといった外観上の問題が新たに発生することがあった。
【0009】
防曇塗膜が例えば計器カバーや車両灯具内面に形成されている場合には、流水跡による汚れが発生しても構造上拭き取り難いため、流水跡が発生しないことは実用上大きな意味がある。
【0010】
本発明は前記の問題に着目したものであって、その目的は低温硬化性と短時間での硬化性に優れ、良好な防曇性と密着性が発現されると共に、流水跡が汚れとして発生しない防曇塗膜を形成し得る防曇塗料組成物及びその塗装物品を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分及び非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されるブロック又はグラフト共重合体、及び酸性リン酸アルキルエステルを含有し、前記架橋官能基を有するビニル系単量体はN−メチロール基若しくはN−アルコキシメチロール基含有ビニル系単量体又はヒドロキシル基含有ビニル系単量体であり、水溶性ビニル系単量体はN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクロイルモルホリン又はアルコキシアルキレングリコール基含有ビニル系単量体であり、非水溶性ビニル系単量体は炭素数1〜4の低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体であると共に、前記酸性リン酸アルキルエステルがアルキル基の炭素数1〜8のリン酸モノアルキルエステル又はリン酸ジアルキルエステルであり、かつ酸性リン酸アルキルエステルの含有量がブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜3重量%である防曇塗料組成物である。
【0014】
第2の発明は、更に界面活性剤を含有する第1の発明の防曇塗料組成物である。
第3の発明は、第1又は第2の発明の防曇塗料組成物を被塗物に塗布し、加熱硬化して得られる塗装物品である。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施形態について順次詳細に説明する。まず本発明において使用されるブロック又はグラフト共重合体について説明する。ブロック又はグラフト共重合体は架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分及び非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分とから構成されている。
【0016】
まず最初にブロック又はグラフト共重合体を構成する親水性重合体部分について説明する。この親水性重合体部分に形成される水溶性ビニル系単量体成分としては、例えば、(メタ)アクリルアミド〔ここで(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミドとメタクリルアミドの両方を意味している。以下同様である。〕、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N'−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N'−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−(メタ)アクロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン、4−ビニルピリジン等の窒素原子含有ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミドー2−メチルスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(ここでエチレンオキサイド数は1〜10が好適である)、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(ここでプロピレンオキサイド数は1〜10が好適である)等のアルコキシアルキレングリコール基含有ビニル系単量体等が挙げられ、これらの1種以上が使用される。
【0017】
これら水溶性ビニル系単量体の中では、塗膜の防曇性を高めるという点から窒素原子含有ビニル系単量体、例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド又はN−(メタ)アクロイルモルホリンが使用される。
【0018】
親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体の割合、つまり親水性重合体部分中に占める水溶性ビニル系単量体から形成される重合体部分の割合は、70〜99重量%が好ましい。70重量%未満の場合には防曇性が低下し、99重量%を越える場合には塗膜の架橋度が低くなるため塗膜の耐水性が低下する傾向にある。
【0019】
また水溶性ビニル系単量体中に占める窒素原子含有ビニル系単量体の割合は10〜100重量%であることが好ましい。窒素原子含有ビニル系単量体が10重量%未満の場合には、得られる塗膜の防曇性が低下する傾向がある。塗膜の防曇性を更に高めるためには、水溶性ビニル系単量体中に占める窒素原子含有ビニル系単量体の割合は20〜100重量%であることが特に好ましい。
【0020】
本発明において、ブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分を形成するために使用される架橋官能基を有するビニル系単量体成分は、以下の加熱縮合反応に寄与する官能基を有するビニル系単量体成分である。第1はN−メチロール基同士の脱水縮合反応に基づく架橋反応、第2はN−メチロール基とN−アルコキシメチロール基による脱アルコール縮合反応に基づく架橋反応である。更に、第3はN−メチロール基とヒドロキシル基による脱水縮合反応に基づく架橋反応、第4はN−アルコキシメチロール基とヒドロキシル基による脱アルコール縮合反応に基づく架橋反応である。
【0021】
架橋官能基を有するビニル系単量体成分としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基又はアルコキシメチロール基含有ビニル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートにε−カプロラクトンを1モル付加させたビニル系単量体〔商品名:プラクセルFA−1、FM−1、ダイセル化学工業(株)製〕などのヒドロキシル基含有ビニル系単量体等が好ましい。そして、これらの1種又は2種以上が使用される。
【0022】
これらの中でもN−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−アルコキシメチロール(メタ)アクリルアミドやそれらと前記ヒドロキシル基含有ビニル系単量体との併用系が低温硬化性と硬化時間を短縮できる点で特に好ましく使用される。
【0023】
親水性重合体部分を形成する架橋官能基を有するビニル系単量体の単量体中における割合、つまり架橋官能基を有するビニル系単量体から形成される重合体部分の割合は、1〜30重量%であることが好ましい。架橋官能基を有するビニル系単量体の割合が1重量%未満である場合には、得られる塗膜の架橋度が低くなるために塗膜の耐水性が低下し、30重量%を超える場合には塗膜の密着性が低下する傾向にある。
【0024】
更に塗膜の防曇性と耐水性、密着性を十分に両立させ得るためには、親水性重合体部分を形成する架橋官能基を有するビニル系単量体の割合は、単量体中に5〜20重量%であることが特に好ましい。
【0025】
また塗膜の硬度を高めることを目的に前記ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分に形成される前記単量体成分中に炭素数1〜4の直鎖又は分岐状の低級アルキル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル〔以下、単に低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体と略記する。〕を含有させてもよい。
【0026】
具体的には、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種以上が好ましく使用される。
【0027】
これら低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体は、前記ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体に対して、50重量%以下の範囲で使用されることが好ましい。この使用量が50重量%を超える場合には塗膜の防曇性が低下する傾向にある。
【0028】
次にブロック又はグラフト共重合体を構成する疎水性重合体部分について説明する。この疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体成分としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐状のアルキル基を有するアルキルビニル系単量体;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上が使用される。
【0029】
これらの中で、低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体が塗膜の硬度を高めると共に、プラスチック材料やガラス材料に対する密着性が得られる点で特に好ましい。そのような単量体として例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
また塗膜に透明性を付与することを目的に前記ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する前記非水溶性ビニル系単量体成分中に、酸基を有するビニル系単量体を含有させてもよい。具体的には(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−アクリルアミドー2−メチルスルホン酸等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用される。
【0031】
酸基を有するビニル系単量体は、前記ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体に対して、好ましくは30重量%以下の範囲で使用される。酸基を有するビニル系単量体が30重量%を超える場合には塗膜と基材との密着性が低下する傾向にある。塗膜の防曇性と密着性及び透明性を十分に両立させ得るためには、酸基を有するビニル系単量体はブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体に対して、1〜15重量%の範囲で使用されることが特に好ましい。
【0032】
本発明の防曇塗料組成物において使用されるブロック又はグラフト共重合体においては、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比が50/50〜95/5(親水性重合体部分/疎水性重合体部分)であることが好ましい。親水性重合体部分が50重量%未満の場合には塗膜の防曇性が低下し、親水性重合体部分が95重量%を超える場合には基材に対する密着性が低下する傾向にある。
【0033】
次に本発明において使用されるブロック又はグラフト共重合体の製造方法について説明する。まず有機溶剤中でブロック共重合体を得るための溶液重合法について説明する。ブロック共重合体の重合方法はラジカル重合法、カチオン重合法、アニオンリビング重合法、カチオンリビング重合法等の公知の各種重合方法によって行うことができるが、この中でも公知のポリメリックペルオキシドを使う重合方法が好ましく使用される。
【0034】
特に下記の式(1)、(2)、(3)で示されるポリメリックペルオキシドの1種以上を重合開始剤に用いたラジカル重合法が、工業的に大量かつ効率的に行える点で特に好ましい。
【0035】
〔-CO(CH2)4COO(C2H4O)3CO(CH2)4CO-OO-〕k ・・・(1)
〔-CO(CH2)7CO-OO-〕m ・・・(2)
〔-CO(CH2)6CH(CH2CH3)(CH2)9CO-OO-〕n ・・・(3)
〔上述の式(1)、式(2)及び式(3)中において、k、m、nはいずれも2〜20の整数である。〕
具体的にブロック共重合体を得るための溶液重合法は、撹拌装置、温度計を備えた反応器にまず有機溶剤を仕込み、60〜80℃の温度に加熱する。次に前記ポリメリックペルオキシドと、親水性重合体部分に形成される単量体若しくは疎水性重合体部分に形成される単量体のいずれか一方とを30分から3時間を要して添加し、更に30分から3時間の重合反応を行いブロック共重合体前駆体を合成する。次に温度を5〜20℃上昇させ、もう一方の重合体部分に形成される単量体を30分から3時間を要して添加し、更に30分から5時間の重合反応を行ってブロック共重合体溶液を得ることができる。
【0036】
次にグラフト共重合体を得るための溶液重合法について説明する。グラフト共重合体の重合方法は公知の過酸化結合を有するビニル系単量体が好ましく使用され、特に下記の式(4)又は(5)で示される過酸化結合を有するビニル系単量体を用いたラジカル重合法が工業的に大量かつ効率的に行える点で特に好ましい。
【0037】
CH2=C(R1)-COOCH2CH2OCO-OOC(CH3)3 ・・・・(4)
(式中R1はいずれも水素原子、又はメチル基である。)
CH2=C(R2)-CH2OCO-OOC(CH3)3 ・・・・(5)
(式中R2はいずれも水素原子、又はメチル基である。)
具体的にグラフト共重合体を得るための溶液重合法は、撹拌装置、温度計を備えた反応器にまず有機溶剤を仕込み、70〜90℃の温度に加熱する。次に前記過酸化結合を有するビニル系単量体と、ラジカル重合開始剤と、親水性重合体部分に形成される単量体もしくは疎水性重合体部分に形成される単量体のいずれか一方とを30分から3時間を要して添加し、更に30分から3時間の重合反応を行いグラフト共重合体前駆体を合成する。この際の重合反応はラジカル重合開始剤のみの分解に基づくものであり、過酸化結合を有するビニル系単量体中の過酸化結合の分解が起こらない温度条件設定が必要である。
【0038】
次に温度を10〜30℃上昇させて過酸化結合を有するビニル系単量体の過酸化結合が分解する条件下、もう一方の重合体部分に形成される単量体を30分から3時間を要して添加し、更に30分から5時間の重合反応を行なうことによりグラフト共重合体溶液を得ることができる。
【0039】
ブロック又はグラフト共重合体は親水性重合体部分と疎水性重合体部分という性質の異なる重合体部分から構成されており、これら両重合体部分に対して親和性のある有機溶剤を使用する必要がある。
【0040】
また、著しい高沸点を有する有機溶剤の使用は、低温乾燥における溶剤の残留によって塗膜の密着性を損なう場合もあり、180℃未満の沸点を有する有機溶剤の使用が更に好ましい。
【0041】
本発明において使用されるブロック又はグラフト共重合体の重合溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。そして、これらの1種又は2種以上が組み合わせて使用される。
【0042】
次に本発明の防曇塗料組成物において使用される酸性リン酸アルキルエステルについて説明する。
これは本発明で使用されるブロック又はグラフト共重合体中の架橋官能基の反応性を高めて、低温、短時間での硬化に対して有効に作用し、また硬化塗膜における流水による汚れを発生し難くするものである。
【0043】
酸性リン酸アルキルエステルの具体例としては、リン酸モノアルキルエステルやリン酸ジアルキルエステルが挙げられる。
また、リン酸トリアルキルエステルは、本発明の酸性リン酸アルキルエステルと併用して使用することは可能であるが、硬化触媒としての酸活性度がほとんどないために、これを単独で使用しても塗膜の硬化が不十分となり、塗膜の耐水性が著しく低いものとなる。
【0044】
前記リン酸モノアルキルエステルとしては、例えば、リン酸モノメチルエステル、リン酸モノエチルエステル、リン酸モノn−ブチルエステル、リン酸モノイソブチルエステル、リン酸モノ2−エチルヘキシルエステル、リン酸モノラウリルエステル、リン酸モノステアリルエステル等が挙げられる。
【0045】
また前記リン酸ジアルキルエステルとしては、例えば、リン酸ジメチルエステル、リン酸ジエチルエステル、リン酸ジn−ブチルエステル、リン酸ジイソブチルエステル、リン酸ジ2−エチルヘキシルエステル、リン酸ジラウリルエステル、リン酸ジステアリルエステル等が挙げられる。
【0046】
これらのリン酸モノアルキルエステル及びリン酸ジアルキルエステルの中から、目的に応じて適宜1種又は2種以上が選択して使用される。リン酸モノアルキルエステル及びリン酸ジアルキルエステルのアルキル基は、炭素数1〜8のものが好ましい。この炭素数が8を超えると、それ自体蝋状固体であり塗料配合時の取り扱いが悪化したり、ブロック又はグラフト共重合体との相溶性が低下したりする場合がある。
【0047】
このアルキル基に関し、アルキルの炭素数が4未満の場合には、流水によって溶けだしてもこれ自体が液状で非結晶性であるために、乾燥後に結晶として析出することはなく汚れとして目立ち難いものと考えられる。
【0048】
またアルキル基の炭素数が4以上の酸性リン酸アルキルエステルはこれ自体が非水溶性であるために、流水によってこれが溶出することはなく流水汚れを発生し難いものと考えられる。
【0049】
リン酸モノアルキルエステルとリン酸ジアルキルエステルは、一般には混合物として使用され、両者の作用効果を兼ね備えることができる。
尚、リン酸モノオレイルエステル、リン酸ジオレイルエステル等のリン酸モノアルケニルエステル又はリン酸ジアルケニルエステルは、二重結合を有していることから、塗膜の耐光性が低下し紫外線等によって劣化が起き易くなり好ましくない。
【0050】
酸性リン酸アルキルエステルの配合量は、塗膜性能のバランスという観点から、前記ブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜3重量%、好ましくは0.1〜1.5重量%である。
【0051】
酸性リン酸アルキルエステルの配合量が0.01重量%未満である場合には低温硬化性が不十分となって耐水性が低下し、また3重量%を超える場合には流水汚れが発生したり、硬化塗膜が黄変する場合がある。
【0052】
また、あらかじめ酸性リン酸アルキルエステルを添加しておいた場合には、経時的に塗料を増粘させる場合があるため、酸性リン酸アルキルエステルは塗装する直前に添加することが塗料のポットライフの点で好ましい。
【0053】
次に本発明の防曇塗料組成物において使用される界面活性剤について説明する。この界面活性剤としては公知のもの全てが使用可能であり、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤が使用される。
【0054】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルアルコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類;ポリオキシエチレングリコールモノステアレート等のポリオキシエチレンアシルエステル類;ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステル類;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル;セルロースエーテル類等が使用される。
【0055】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等の高級アルコール硫酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸塩;ジアルキルホスフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンサルフェート塩等が使用される。
【0056】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、エタノールアミン類、ラウリルアミンアセテート、トリエタノールアミンモノ蟻酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩等のアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が使用される。
【0057】
両イオン性界面活性剤としては、例えば、ジメチルアルキルラウリルベタイン、ジメチルアルキルステアリルベタイン等の脂肪酸型両性界面活性剤;ジメチルアルキルスルホベタイン等のスルホン酸型両性界面活性剤;アルキルグリシン等が使用される。
【0058】
前記界面活性剤は1種のみの使用、又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
特にこれら界面活性剤の中で非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤又は陽イオン性界面活性剤が防曇性に優れる点で好ましく、それらの中で陰イオン界面活性剤が最も防曇性に優れる点で好ましい。また陽イオン性界面活性剤の中では塩基性の弱いもの、具体的には水溶液中のpHで9以下を示すものが酸性リン酸アルキルエステルの酸としての性質を失活させ難く、低温硬化性を損なわないので好ましい。
【0059】
前記陰イオン界面活性剤は結晶性であるものが多く、硬化塗膜中に陰イオン界面活性剤が偏析すると硬化塗膜が白濁することから、陰イオン界面活性剤の結晶性を阻害する目的で陰イオン界面活性剤に非イオン界面活性剤を併用して硬化塗膜の白濁を防止することが望ましい。
【0060】
界面活性剤の配合量は、前記ブロック又はグラフト共重合体に対して0.1〜20重量%であることが好ましい。界面活性剤の配合量が0.1重量%未満である場合には防曇性が不十分となり、その配合量が20重量%を超える場合には塗膜の耐水性と塗膜硬度が低下する場合がある。塗膜性能のバランスから、前記ブロック又はグラフト共重合体と界面活性剤の重量比(ブロック又はグラフト共重合体/界面活性剤)は、100/0.5〜100/15であることが特に好ましい。
【0061】
本発明の防曇塗料組成物として、前記ブロック又はグラフト共重合体、界面活性剤、及び酸性リン酸アルキルエステルから構成される場合には、各成分の重量比(ブロック又はグラフト共重合体/界面活性剤/酸性リン酸アルキルエステル)は、100/0〜20/0.01〜3が好ましい。更に、塗膜性能上のバランスという観点からこの重量比は100/0.5〜15/0.1〜1.5が特に好ましい。
【0062】
本発明の防曇塗料組成物は更に塗膜強度を高めるために、従来公知の硬化剤を併用することもできる。例えばヘキサメトキシメチロールメラミン、ヘキサブトキシメチロールメラミン、一部メトキシ又はブトキシ化されたメチロールメラミン縮合物であるメラミン硬化剤;ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の縮合物であるイソシアネート硬化剤等が好ましい。
【0063】
これらの硬化剤は本発明の防曇塗料組成物に使用されるブロック又はグラフト共重合体に対して、20重量%以下で使用されることが好ましく、20重量%を超えると得られる塗膜の防曇性が低下するので好ましくない。
【0064】
本発明の防曇塗料組成物においては必要により、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、防カビ剤、抗菌剤等の慣用の添加剤や、塗膜の透明性を損なわない顔料、染料などの着色剤を配合することができる。
【0065】
本発明の防曇塗料組成物はそのまま塗装に供することもできるが、塗装に適した粘度調整を目的に有機溶剤にて希釈して使用することもできる。但し、著しい高沸点を有する有機溶剤の使用は、低温乾燥における溶剤の残留によって塗膜の密着性を損なう場合もあり、180℃未満の沸点を有する有機溶剤が更に好ましい。
【0066】
好ましい有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。これらは1種又は2種以上が組み合わせて使用される。
【0067】
塗膜の形成方法としては、通常の塗料において採用される塗装方法により被塗物に本発明の防曇塗料組成物を塗布した後、30〜50℃の温度で1〜5分間塗膜中に含まれる有機溶剤を揮発乾燥させ、その後75〜130℃の温度で5〜20分間加熱硬化することによって行われる。
【0068】
但しこの場合、被塗物がプラスチック材料である場合にはプラスチック材料の熱変形温度以下での硬化温度の設定が必要である。
防曇塗料組成物を塗布される被塗物としては、ガラス素材、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のプラスチック素材、及びこれら素材のフィルム、板、成型品及びその加工品が好ましい。
【0069】
また防曇塗料組成物の被塗物に対する塗れ性やハジキを防止する目的で、塗装前の被塗物表面の付着異物除去や脱脂、洗浄を行うことが好ましい。具体的には高圧エアーやイオン化エアーによる除塵、洗剤水溶液又はアルコール溶剤による超音波洗浄方法、アルコール溶剤等を使用したワイピング法、紫外線とオゾンによる被塗物表面の洗浄方法等が好ましい。
【0070】
塗装方法としては浸漬法、フローコート法、ロールコーター法、バーコーター法、スプレーコート法等が適しており、形成される塗膜の膜厚は0.5〜20μmの範囲が好ましく、更に良好な塗膜外観を得るためには1〜5μmの範囲が特に好ましい。
【0071】
さて、防曇塗料組成物を目的とする被塗物表面に塗布した後、防曇塗料組成物を加熱硬化させることにより被塗物表面に防曇塗膜が形成される。その際、防曇塗料組成物のN−メチロール基、N−アルコキシメチロール基等の架橋官能基が架橋反応を行う。このとき、酸性リン酸アルキルエステルは次のような反応に基づいて架橋反応を活性化(触媒的に促進)する。
【0072】
−NCH2OH + H+ → −NCH2 + + H2O
−NCH2 + + −NCH2OH → −NCH2OCH2N− + H+
又は
−NCH2OCH3 + H+ → −NCH2 + + CH3OH
−NCH2 + + −NCH2OH → −NCH2OCH2N− + H+
以上の実施形態により発揮される効果を以下にまとめて記載する。
【0073】
・ 本実施形態の防曇塗料組成物は、前述した特定の親水性重合体部分及び疎水性重合体部分から構成されるブロック又はグラフト共重合体に、酸性リン酸アルキルエステルが配合されている。このため、低温、短時間で硬化させることができ、優れた防曇性、密着性、耐水性及び流水による汚れを発生しない塗膜を形成することができる。従って、乾燥温度の低下や乾燥時間の短縮による省エネルギー化や高生産性に寄与することができる。
【0074】
そして、この防曇塗料組成物を被塗物に塗布し、加熱硬化することによって優れた防曇性能を有する塗装物品が得られる。この防曇塗料組成物は、被塗物として特にプラスチック材料やガラス材料からなる構造物内面に好適に適用することができる。
【0075】
・ ブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体が窒素原子含有ビニル系単量体であることにより、塗膜の防曇性を向上させることができる。
【0076】
・ 架橋官能基を有するビニル系単量体の架橋官能基がN−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基であることにより低温硬化性と硬化時間の短縮を図ることができる。
【0077】
・ 酸性リン酸アルキルエステルの含有量がブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜3重量%であることにより、塗膜性能のバランスを良好に保持することができる。
【0078】
・ 更に界面活性剤を含有することにより、塗膜の防曇性を一層向上させることができる。
【0079】
【実施例】
以下、参考例、製造例、実施例、比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。尚、以下に記載する%は重量%を意味している。
【0080】
参考例1(ブロック共重合体Aの製造)
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレングリコールモノエチルエーテル550gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら70℃に加熱した。ここに下記の式(6)で表される重合開始剤としてのポリメリックペルオキシド5g、親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体としてのN,N−ジメチルアクリルアミド135g、架橋官能基を有するビニル系単量体としてのN−メチロールアクリルアミド15gを溶解した混合液を2時間を要して滴下した。そして、更に2時間重合反応を行ってブロック共重合体前駆体を合成した。
【0081】
その後、疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体としてのメチルメタクリレート140gとアクリル酸10gの混合液を1時間を要して滴下し、80℃で3時間重合反応を行い、ブロック共重合体Aを得た。
【0082】
ブロック共重合体Aは仕込み単量体の重合転化率100%、固形分35.5%、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比50/50、親水性重合体部分に含まれる窒素原子含有ビニル系単量体の重量割合100%、親水性重合体部分に含まれる架橋官能基を有するビニル系単量体の重量割合10%であった。
【0083】
〔-CO(CH2)4COO(C2H4O)3CO(CH2)4CO-OO-〕10 ・・・(6)
参考例2(ブロック共重合体Bの製造)
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレングリコールモノエチルエーテル550gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら70℃に加熱した。ここに式(6)で表される重合開始剤としてのポリメリックペルオキシド5g、親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体としてのメトキシジエチレングリコールメタクリレート90g、架橋官能基を有するビニル系単量体としてのN−メチロールアクリルアミド10g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した混合液を2時間を要して滴下した。そして、更に2時間重合反応を行ってブロック共重合体前駆体を合成した。
【0084】
その後、疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体としてのメチルメタクリレート140gとアクリル酸10gの混合液を1時間を要して滴下し、80℃で3時間重合反応を行い、ブロック共重合体Bを得た。
【0085】
ブロック共重合体Bは仕込み単量体の重合転化率100%、固形分35.7%、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比50/50、親水性重合体部分に含まれる窒素原子含有ビニル系単量体の重量割合6.7%、親水性重合体部分に含まれる架橋官能基を有するビニル系単量体の重量割合20%であった。
【0086】
参考例3(グラフト共重合体の製造)
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレンレングリコールモノメチルエーテル500gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら85℃に加熱した。ここに重合開始剤としてのt−ブチルペルオキシオクタノエート1gと下記の式(7)で示される過酸化結合を有するビニル系単量体4g、親水性重合体部分に形成される水溶性ビニル系単量体としてのN−アクロイルモルホリン63gとメトキシジエチレングリコールメタクリレート25g、架橋官能基を有するビニル系単量体としての2−ヒドロキシエチルメタクリレート28g、N−メチロールアクリルアミド15g、及びメチルメタクリレート16gを溶解した混合液を2時間を要して滴下した。そして、更に2時間重合反応を行ってグラフト共重合体前駆体を合成した。
【0087】
その後、疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体としてのメチルメタクリレート57gとアクリル酸6gの混合液を1時間を要して滴下し、110℃で5時間重合反応を行い、グラフト共重合体を得た。
【0088】
グラフト共重合体は仕込み単量体の重合転化率100%、固形分30%、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比70/30、親水性重合体部分に含まれる窒素原子含有ビニル系単量体の重量割合53.1%、親水性重合体部分に含まれる架橋官能基を有するビニル系単量体の重量割合29.3%であった。
【0089】
CH2=CH-CH2OCO-OOC(CH3)3 ・・・(7)
参考例4(ランダム共重合体の製造)
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレンレングリコールモノメチルエーテル500gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら100℃に加熱した。ここに水溶性ビニル系単量体としてのN,N−ジメチルアクリルアミド145g、架橋官能基を有するビニル系単量体としてのN−メチロールアクリルアミド15gとメチルメタクリレート140g、重合開始剤としてのt−ブチルペルオキシオクタノエート6gを溶解した混合液を2時間を要して滴下した。そして、更に2時間重合反応を行ってランダム共重合体を合成した。
【0090】
得られたランダム共重合体は仕込み単量体の重合転化率100%、固形分38%であった。
実施例1(防曇塗料組成物の製造)
参考例1で得られたブロック共重合体A(溶液)140g、界面活性剤としてのジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(日本油脂(株)製、商品名:ラピゾールA−80)2g及びポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(日本油脂(株)製、商品名:ノニオンHS−210)0.5g、リン酸ジiso−ブチル0.05g、レベリング剤としてのシリコーン添加剤(東レシリコーン(株)製、商品名:SH28PA)0.1gを混合し防曇塗料組成物を得た。
【0091】
得られた防曇塗料組成物中の固形分による組成比(重量部、ブロック共重合体/界面活性剤/酸性リン酸アルキルエステル)は、100/5/0.1であった。
【0092】
実施例2〜5及び比較例1〜4(防曇塗料組成物の製造)
実施例2〜4及び比較例1〜4の防曇塗料組成物を原料の種類や仕込量を変えること以外は、実施例1に準じた方法で製造した。それぞれの防曇塗料組成物の原料の種類や仕込量、製造結果を表1及び表2に示した。
【0093】
尚、表1及び表2における記号は次のことを意味している。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
(界面活性剤)
a:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:ラピゾールA−80、日本油脂(株)製)、
b:ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商品名:ノニオンHS−210、日本油脂(株)製)。
(酸硬化触媒)
I:リン酸ジiso−ブチルエステル、
II:リン酸モノ2−エチルヘキシルエステル、
III:リン酸ジメチルエステル、
IV:リン酸トリn−ブチルエステル、
V:p−トルエンスルホン酸一水和物、
VI:ドデシルベンゼンスルホン酸。
(レベリング剤)
シリコーン(商品名:SH28PA、東レシリコーン(株)製)。
【0096】
実施例6〜10及び比較例5〜8
前記実施例1〜5又は比較例1〜4で得られた防曇塗料組成物に溶剤としてのプロピレングリコールモノメチルエーテルを加えて、20℃の温度で粘度計フォードカップ#4で15秒となるように粘度調整を行った。更に乾燥膜厚で3〜4μmとなるようにスプレー塗装により各種基材に塗装を行い、40℃の温度で1分間乾燥を行った後、それぞれの条件で加熱硬化を行った。このようにして得られたそれぞ
れの塗膜について、以下に示す評価方法により塗膜性能を評価した結果を表3及び表4に示した。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
尚、表3及び表4における略号は次のことを意味している。
(基材)
AC:透明アクリル樹脂板、
PC:透明ポリカーボネート樹脂板、
GL:透明ガラス板。
【0099】
また表3及び表4における塗膜性能試験条件と評価方法は以下の通りである。
呼気防曇性:常温で呼気を吹きかけ、曇りの有無を目視で評価した。曇りが認められないものを○、そして曇りが認められるものを×とした。
【0100】
スチーム防曇性:40℃スチームを塗膜に連続照射し、1時間後と8時間後の曇りの有無を目視で評価した。曇りが認められず平滑な水膜が形成されているものを◎、曇りは認められないが水膜が平滑ではなく荒れた状態のものを○、曇りが認められるものを×とした。
【0101】
密着性:JIS K 5400 8.5.1に準拠して塗膜の剥離の有無を目視で評価した。全く剥離が認められないものを○、そして剥離が認められるものを×とした。
【0102】
耐水性:40℃温水に塗装板を1時間浸漬し、室温にて1時間乾燥した後の外観を目視で評価した。初期塗膜の状態と全く同じで変化が認められないものを○、そして白化や塗膜の溶解が認められるものを×とした。
【0103】
流水汚れ:試験板を約45°の角度に置き、試験板上部から塗膜上に蒸留水を数滴たらし、直ちに試験板を60℃の乾燥機内に入れて10分間乾燥させた後の外観を目視で評価した。水が流れた跡が全く認められないものを○、はっきりと汚れとして見られるものを×とした。
【0104】
前述した実施例、比較例をまとめると以下の通りとなる。
表3及び表4に示したように、実施例6〜10は本発明の防曇塗料組成物(実施例1〜5)を使用した例であり、これらは75℃程度の低温でも、また比較的短時間での硬化が可能であり、防曇性と密着性、耐水性に優れ、また流水による汚れが発生しないことが明らかとなった。
【0105】
尚、実施例9ではブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分に占める窒素原子含有ビニル系単量体の割合が少ないために、スチーム防曇性が若干低下傾向にあった。また実施例10では界面活性剤が配合されていないために、スチーム防曇性が若干低下傾向にあった。
【0106】
一方、比較例5のように、ブロック又はグラフト共重合体以外の共重合体を使用した場合は基材に対する密着性が著しく劣っていた。
また比較例6、7のようにリン酸アルキルエステル以外の酸硬化触媒を使用した場合には、低温、短時間での硬化性と防曇性、耐水性に優れてはいるが、流水による汚れが発生する点で問題があった。また比較例8においてはリン酸アルキルエステルがリン酸モノアルキルエステル又はリン酸ジアルキルエステル以外のリン酸トリアルキルエステルが使用されているために、塗膜の耐水性が著しく劣り、スチーム照射による塗膜の溶解が認められ、低温、短時間の硬化性について問題があった。
【0107】
流水による汚れ発生のメカニズムは明確ではないが、酸硬化触媒が有機スルホン酸の場合はこれ自体が水に溶解しやすく、流水によって溶け出し、乾燥後には結晶となって析出し、これが汚れとして残存してしまうものと考えられる。
【0108】
更に、有機スルホン酸は酸としての活性が高く、界面活性剤を化学変化させて、変質した界面活性剤が汚れの原因物質となっている場合もある。これに対して酸としての活性が有機スルホン酸よりも弱い酸性リン酸アルキルエステルは界面活性剤を変質させることが少ないために、流水汚れを生じ難いものとも推測される。
【0109】
尚、本発明は実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 組成の異なるブロック共重合体同士、グラフト共重合体同士又はブロック共重合体とグラフト共重合体を組合せて使用することも可能である。
【0110】
更に、実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(1) 酸性リン酸アルキルエステルは、リン酸モノアルキルエステルとリン酸ジアルキルエステルの混合物である請求項1に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、リン酸モノアルキルエステルとリン酸ジアルキルエステルの両者の作用効果を兼ね備えることができる。
(2) 界面活性剤は非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤又は陽イオン性界面活性剤である請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、防曇塗料組成物より得られる塗膜の防曇性に優れている。
(3) 界面活性剤は陰イオン性界面活性剤である請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、防曇塗料組成物より得られる塗膜の防曇性に最も優れている。
(4) 界面活性剤は陰イオン界面活性剤と非イオン界面活性剤の双方を含有するものである請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、陰イオン界面活性剤の結晶性を阻害して得られる塗膜の白濁を防止することができる。
(5) 前記共重合体はブロック共重合体である請求項1又は請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、防曇塗料組成物の塗装性を向上させることができると共に、塗膜の外観を良好にすることができる。
(6) 親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体の割合が70〜99重量%で、架橋官能基を有するビニル系単量体の割合が1〜30重量%である請求項1又は請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、架橋度を上げて塗膜の耐水性を高めることができると共に、塗膜の防曇性と密着性を向上させることができる。
(7) 親水性重合体部分を形成する単量体中に炭素数1〜4の直鎖又は分岐状の低級アルキル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを含有する請求項1又は請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、塗膜の硬度を高めることができる。
(8) 疎水性重合体部分を形成する単量体中に酸基を有するビニル系単量体を含有する請求項1又は請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、塗膜に透明性を付与することができる。
(9) ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分の割合は50〜95重量%である請求項1又は請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、塗膜の防曇性が優れ、基材に対する塗膜の密着性も良好である。
【0111】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば次のような効果を発揮することができる。
【0112】
第1の発明の防曇塗料組成物によれば、低温硬化性と短時間での硬化性に優れ、良好な防曇性と密着性が発現されると共に、流水跡が汚れとして発生しない防曇塗膜を形成することができる。
【0113】
従って、プラスチック材料やガラス材料からなる構造物内面の防曇塗膜の形成に好適に使用され、更には乾燥温度の低下や乾燥時間の短縮による省エネルギー化や高生産性に寄与することができる。
【0114】
また、水溶性ビニル系単量体がN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド又はN−(メタ)アクロイルモルホリンであることにより、塗膜の防曇性を向上させることができる。
さらに、架橋官能基がN−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基であることにより、低温硬化性に優れ、硬化時間の短縮を図ることができる。
【0115】
加えて、酸性リン酸アルキルエステルの含有量が、ブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜3重量%であることにより、塗膜性能のバランスを良好に保持することができる。
第2の発明の防曇塗料組成物によれば、第1の発明の効果に加え、塗膜の防曇性を一層向上させることができる。
【0116】
第3の発明の塗装物品によれば、第1又は第2の発明の防曇塗料組成物により得られる優れた塗膜性能を有する塗膜を具備することができる。
Claims (3)
- 架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分及び非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されるブロック又はグラフト共重合体、及び酸性リン酸アルキルエステルを含有し、前記架橋官能基を有するビニル系単量体はN−メチロール基若しくはN−アルコキシメチロール基含有ビニル系単量体又はヒドロキシル基含有ビニル系単量体であり、水溶性ビニル系単量体はN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクロイルモルホリン又はアルコキシアルキレングリコール基含有ビニル系単量体であり、非水溶性ビニル系単量体は炭素数1〜4の低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体であると共に、前記酸性リン酸アルキルエステルがアルキル基の炭素数1〜8のリン酸モノアルキルエステル又はリン酸ジアルキルエステルであり、かつ酸性リン酸アルキルエステルの含有量がブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜3重量%である防曇塗料組成物。
- 更に界面活性剤を含有する請求項1に記載の防曇塗料組成物。
- 請求項1又は請求項2に記載の防曇塗料組成物を被塗物に塗布し、加熱硬化して得られる塗装物品。
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