JP2004250601A - 防曇塗料組成物及びその塗装物品 - Google Patents
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Abstract
【課題】良好な防曇性と密着性が維持され、表面に水が流れ落ちて乾燥した場合に流水汚れの発生が抑制された塗膜を形成することができる防曇塗料組成物及びその塗装物品を提供する。
【解決手段】防曇塗料組成物は、ブロック又はグラフト共重合体、フッ素系界面活性剤及び酸性リン酸アルキルエステルを含有するものである。ブロック又はグラフト共重合体は、架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体とから形成される親水性重合体部分及び非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されている。フッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基を疎水基として含有し、極性基を親水基として含有する分子構造を有し、陰イオン性、陽イオン性又は両性のものが好ましい。この防曇塗料組成物を被塗装物に塗装し、加熱硬化することにより塗装物品が得られる。
【選択図】 なし
【解決手段】防曇塗料組成物は、ブロック又はグラフト共重合体、フッ素系界面活性剤及び酸性リン酸アルキルエステルを含有するものである。ブロック又はグラフト共重合体は、架橋官能基を有するビニル系単量体と水溶性ビニル系単量体とから形成される親水性重合体部分及び非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されている。フッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基を疎水基として含有し、極性基を親水基として含有する分子構造を有し、陰イオン性、陽イオン性又は両性のものが好ましい。この防曇塗料組成物を被塗装物に塗装し、加熱硬化することにより塗装物品が得られる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に透明樹脂材料を被覆し、それらの材料表面を親水性に改質して防曇性を得るための防曇塗料組成物及びその塗装物品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ランダム共重合体を用いた従来型の加熱硬化型防曇剤組成物では、合成樹脂基材に対する密着性が不十分であるという問題があった。その点を改善すべく本発明者らが検討した結果、親水性重合体部分及び疎水性重合体部分からなるブロック又はグラフト共重合体と界面活性剤とよりなる加熱硬化型防曇剤組成物を見出した(特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0003】
この防曇剤組成物から得られる塗膜は、ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分により塗膜表面に親水性を付与し、同時に疎水性重合体部分により基材との密着性を付与することができるため、親水性と密着性の両面で優れた物性を有している。さらには塗膜中に含有される界面活性剤が塗膜表面に付着する水滴中に溶解して水滴の表面張力を低下させ、付着した水滴を水膜にさせることにより優れた防曇性を発現することが可能となった。
【0004】
【特許文献1】
特開平6−212146号公報(第2頁、第14〜15頁)
【特許文献2】
特開平6−107967号公報(第2頁、第12〜13頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記加熱硬化型防曇剤組成物においては、適度な量の水蒸気が塗膜表面に接触して、極薄膜の水膜が形成される程度では水が流れ落ちたり、水膜が乾燥した後に汚れを発生することはなかった。ところが、多量の水蒸気が塗膜表面に接触し、水膜が形成されてその水が局部的に流れ落ちて乾燥した際に、流水跡が汚れとなって発生するといった外観上の問題が新たに発生することがあった。塗膜が例えば計器カバーや車両灯具内面に形成されている場合には、流水汚れが発生しても構造上拭き取り難いため、流水汚れが抑制されることは実用上大きな意味がある。
【0006】
本発明は前記の従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、良好な防曇性と密着性が維持され、表面に水が流れ落ちて乾燥した場合に流水汚れの発生が抑制された塗膜を形成することができる防曇塗料組成物及びその塗装物品を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
第1の発明の防曇塗料組成物は、架橋官能基を有するビニル系単量体及び水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分並びに非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されるブロック又はグラフト共重合体と、フッ素系界面活性剤と、酸性リン酸アルキルエステルとを含有することを特徴とするものである。
【0008】
第2の発明の防曇塗料組成物は、第1の発明において、フッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基を疎水基として含有し、極性基を親水基として含有する分子構造を有し、陰イオン性、陽イオン性又は両性を示すものである。
【0009】
第3の発明の塗装物品は、第1又は第2の発明の防曇塗料組成物を被塗装物に塗装し、加熱硬化して得られることを特徴とするものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施形態について順次詳細に説明する。
本実施形態の防曇塗料組成物は、特定のブロック又はグラフト共重合体と、フッ素系界面活性剤と、酸性リン酸アルキルエステルとを含有するものである。ブロック又はグラフト共重合体は、架橋官能基を有するビニル系単量体及び水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分並びに非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されている。
【0011】
まず、ブロック又はグラフト共重合体について説明する。ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分は塗膜中において被塗装物側に配向して塗膜の密着性に寄与し、親水性重合体部分は表面側に配向して塗膜表面の水分と親和して防曇性に寄与する。ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体成分としては、例えば、(メタ)アクリルアミド〔ここで(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミドとメタクリルアミドの両方を意味している。以下同様である。〕、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−(メタ)アクロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン、4−ビニルピリジン等の窒素原子含有ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミドー2−メチルスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(ここでエチレンオキサイド数は1〜10が好適である)、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(ここでプロピレンオキサイド数は1〜10が好適である)等のアルコキシアルキレングリコール基含有ビニル系単量体等が挙げられる。これらの水溶性ビニル系単量体成分は1種又は2種以上が適宜選択して使用される。
【0012】
これら水溶性ビニル系単量体の中では、塗膜の防曇性を高めるという点から窒素原子含有ビニル系単量体、例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン等が好ましい。
【0013】
親水性重合体部分に占める水溶性ビニル系単量体から形成される重合体部分の割合は、70〜99重量%が好ましい。70重量%未満の場合には塗膜の防曇性が低下し、99重量%を越える場合には架橋官能基を有するビニル系単量体が少なくなって塗膜の架橋度が低くなるため塗膜の耐水性が低下する傾向にある。
【0014】
また、水溶性ビニル系単量体中に占める窒素原子含有ビニル系単量体の割合は10〜100重量%であることが好ましい。窒素原子含有ビニル系単量体の割合が10重量%未満の場合には、得られる塗膜の防曇性が低下する傾向がある。塗膜の防曇性をさらに高めるためには、水溶性ビニル系単量体中に占める窒素原子含有ビニル系単量体の割合は20〜100重量%であることが特に好ましい。
【0015】
続いて、親水性重合体部分を形成するために使用される架橋官能基を有するビニル系単量体成分は、防曇塗料組成物を加熱硬化させる場合の加熱縮合反応に寄与する架橋官能基であるN−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基を有するビニル系単量体成分である。また、N−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基を有するビニル系単量体成分と共に、これらと加熱縮合反応が可能なヒドロキシル基を有するビニル系単量体成分を使用してもよい。
【0016】
加熱縮合反応の第1は、N−メチロール基同士の脱水縮合反応に基づく架橋反応、第2はN−メチロール基とN−アルコキシメチロール基による脱アルコール縮合反応に基づく架橋反応である。さらに、第3はN−メチロール基とヒドロキシル基による脱水縮合反応に基づく架橋反応、第4はN−アルコキシメチロール基とヒドロキシル基による脱アルコール縮合反応に基づく架橋反応である。
【0017】
架橋官能基を有するビニル系単量体成分としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基又はアルコキシメチロール基含有ビニル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートにε−カプロラクトンを1モル付加させたプラクセルFA−1、FM−1〔ダイセル化学工業(株)製〕などのヒドロキシル基含有ビニル系単量体等が挙げられる。これらの架橋官能基を有するビニル系単量体成分は、1種又は2種以上が選択して使用される。
【0018】
これらの中でもN−メチロール(メタ)アクリルアミドやそれと前記ヒドロキシル基含有ビニル系単量体との併用系が硬化性に優れる点で特に好ましい。
親水性重合体部分中に占める架橋官能基を有するビニル系単量体から形成される重合体部分の割合は、1〜30重量%であることが好ましい。架橋官能基を有するビニル系単量体から形成される重合体部分の割合が1重量%未満の場合には防曇塗料組成物の硬化性が劣り、得られる塗膜の架橋度が低くなるために塗膜の耐水性が低下し、30重量%を越える場合には被塗装物に対する塗膜の密着性が低下する傾向にある。
【0019】
さらに塗膜の防曇性、密着性及び耐水性を十分に発揮させるためには、親水性重合体部分中に占める架橋官能基を有するビニル系単量体から形成される重合体部分の割合は、5〜20重量%であることが特に好ましい。
【0020】
また、塗膜の硬度を高めることを目的に前記ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分に形成される前記単量体成分中に炭素数1〜4の直鎖又は分岐状の低級アルキル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを含有させてもよい。このエステルを、以下単に低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体と略記する。具体的には、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体は、1種又は2種以上が適宜選択して用いられる。
【0021】
これら低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体は、前記ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分に形成される水溶性ビニル系単量体に対して50重量%以下の範囲で使用されることが好ましい。この割合が50重量%を越える場合には塗膜の防曇性が低下する傾向にある。
【0022】
次に、ブロック又はグラフト共重合体を構成する疎水性重合体部分について説明する。この疎水性重合体部分に形成される非水溶性ビニル系単量体成分としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐状のアルキル基を有するアルキルビニル系単量体;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル等が挙げられる。これらの非水溶性ビニル系単量体成分は、1種又は2種以上が適宜選択して使用される。
【0023】
これらの中で、低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等が特に好ましい。これらの単量体は、塗膜の硬度を高めると共に、合成樹脂材料に対して優れた密着性が得られるからである。
【0024】
また、塗膜に透明性を付与することを目的として、前記ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する前記非水溶性ビニル単量体成分中に、酸基を有するビニル系単量体を含有させてもよい。ブロック又はグラフト共重合体中には疎水性重合体部分のみの重合体と親水性重合体部分のみの重合体が副生物として存在し、それらの相溶性が乏しいと塗膜が不透明になる。そのため、両重合体の極性差を小さくして相溶性を高め、塗膜の透明性を得るために極性のある酸基を有するビニル系単量体が配合される。そのような酸基を有するビニル系単量体として具体的には(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸等が挙げられる。これらの酸基を有するビニル系単量体は、1種又は2種以上が使用される。
【0025】
酸基を有するビニル系単量体は、前記ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体に対して30重量%以下であることが好ましい。酸基を有するビニル系単量体が30重量%を越える場合には塗膜と被塗装物との密着性が低下する傾向にある。塗膜の防曇性、密着性及び透明性を十分に発揮させるためには、酸基を有するビニル系単量体は前記ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体に対して1〜15重量%の範囲であることが特に好ましい。
【0026】
本実施形態の防曇塗料組成物において使用されるブロック又はグラフト共重合体においては、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比が50/50〜95/5(親水性重合体部分/疎水性重合体部分)であることが好ましい。親水性重合体部分が50重量%未満の場合には塗膜の防曇性が低下し、親水性重合体部分が95重量%を越える場合には被塗装物に対する密着性が低下する傾向にある。
【0027】
次に、本実施形態におけるブロック又はグラフト共重合体の製造方法について説明する。まず、有機溶剤中でブロック共重合体を得るための溶液重合について説明する。ブロック共重合体の重合方法としては、ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオンリビング重合法、カチオンリビング重合法等の公知の各種重合方法が挙げられるが、これらの中でも公知のポリメリックペルオキシドを使う重合方法が好ましい。
【0028】
特に下記の式(1)、(2)又は(3)で示されるポリメリックペルオキシドの1種以上を重合開始剤に用いたラジカル重合法が、工業的に大量かつ効率的に重合を行なうことができる点で好ましい。
〔CO(CH2)4COO(C2H4O)3CO(CH2) 4COOO〕K ・・・(1)
〔CO(CH2)7COOO〕m ・・・(2)
〔CO(CH2)6CH(CH2CH3)(CH2)9COOO〕n ・・・(3)
(上述の式(a)、式(b)及び式(c)中において、k、m、nはいずれも2〜20の整数である。)
具体的にブロック共重合体を得るための溶液重合を行なうには、まず撹拌装置、温度計を備えた反応器に有機溶剤を仕込み、60〜80℃の温度に加熱する。次いで、前記ポリメリックペルオキシドと、親水性重合体部分に形成される単量体及び疎水性重合体部分に形成される単量体のいずれか一方とを30分から3時間をかけて添加し、さらに30分から3時間の重合反応を行いブロック共重合体の前駆体を合成する。続いて、温度を5〜20℃上昇させ、もう一方の重合体部分に形成される単量体を30分から3時間をかけて添加し、さらに30分から5時間の重合反応を行うことによって目的とするブロック共重合体溶液を得ることができる。
【0029】
次に、グラフト共重合体を得るための溶液重合について説明する。グラフト共重合体を得るためには公知の過酸化結合を有するビニル系単量体が好ましく使用され、特に下記の一般式(4)又は(5)で示される過酸化結合を有するビニル系単量体を用いたラジカル重合法が工業的に大量かつ効率的に行なうことができる点で特に好ましい。
CH2=C(R1)COOCH2CH2OCOOOC(CH3)3 ・・・(4)
(式中R1は水素原子、又はメチル基である。)
CH2=C(R2)CH2OCOOOC(CH3)3 ・・・(5)
(式中R2は水素原子、又はメチル基である。)
具体的にグラフト共重合体を得るための溶液重合を行なうには、まず撹拌装置、温度計を備えた反応器に有機溶剤を仕込み、70〜90℃の温度に加熱する。次いで、前記過酸化結合を有するビニル系単量体と、ラジカル重合開始剤と、親水性重合体部分に形成される水溶性ビニル系単量体及び疎水性重合体部分に形成される単量体のいずれか一方とを30分から3時間をかけて添加し、さらに30分から3時間の重合反応を行いグラフト共重合体の前駆体を合成する。この際の重合反応はラジカル重合開始剤のみの分解に基づくものであり、過酸化結合を有するビニル系単量体中の過酸化結合の分解が起こらない温度条件の設定が必要である。
【0030】
続いて、温度を10〜30℃上昇させて過酸化結合を有するビニル系単量体の過酸化結合が分解する条件下、もう一方の重合体部分に形成される単量体を30分から3時間をかけて添加し、さらに30分から5時間の重合反応を行なうことによって目的とするグラフト共重合体溶液を得ることができる。
【0031】
ブロック又はグラフト共重合体は親水性重合体部分と疎水性重合体部分という性質の異なる重合体部分から構成されており、これら両重合体部分に対して親和性のある有機溶剤を使用する必要がある。また、著しい高沸点を有する有機溶剤の使用は、塗膜の乾燥、硬化時における溶剤の残留によって被塗装物に対する塗膜の密着性を損なう場合もあり、180℃未満の沸点を有する有機溶剤の使用がさらに好ましい。
【0032】
ブロック又はグラフト共重合体の重合溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤等が使用される。これらの重合溶媒は1種又は2種以上が組み合わせて使用される。
【0033】
次に、本実施形態の防曇塗料組成物において使用されるフッ素系界面活性剤について説明する。このフッ素系界面活性剤とは、CF3(CF2)n−で構成されるパーフルオロアルキル基を疎水基として含有し、極性基を親水基として含有する分子構造を有する界面活性剤のことをいう。フッ素系界面活性剤はパーフルオロアルキル基に基づいて分子間力が極めて小さいために、疎水基がアルキル基で構成される炭化水素系界面活性剤に比べて、極少量水に溶解又は分散することで水の表面張力を著しく低下させることができる。このため、塗膜表面上に接触する水滴を容易に水膜にさせることができる。また、フッ素系界面活性剤は、有機溶剤系の塗料に極少量溶解又は分散することで塗料の表面張力を低下させることができる。このように、フッ素系界面活性剤は界面活性作用が高く、極少量のフッ素系界面活性剤を防曇塗料組成物へ配合して得られる塗膜に優れた防曇性とレベリング性を発現させることができる。
【0034】
塗膜表面における流水汚れの主な原因は、水に溶解した界面活性剤が流れ出て、水が乾燥した際に界面活性剤が析出し、これが汚れとして見えることにあり、塗料中の界面活性剤の配合量が少ない程流水汚れが目立ち難くなる。炭化水素系界面活性剤では、優れた防曇性を発現するのに多量の配合を必要とし、その一方でフッ素系界面活性剤は炭化水素系界面活性剤に比べて界面活性作用が高く、極めて少ない配合量で優れた防曇性を発現できることから、界面活性剤析出による流水汚れが目視では全く確認されないという利点がある。
【0035】
加えて、フッ素系界面活性剤は親水性を有し、ブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分との間で相互作用を発現でき、フッ素系界面活性剤を塗膜内部で保持することができる。そして、フッ素系界面活性剤は塗膜内部から表面に経時的に移行することから、塗膜の防曇性を長期間にわたって持続させることができる。
【0036】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルポリエチレンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド等の非イオン性フッ素系界面活性剤、パーフルオロアルキルカルボン酸アンモニウム塩、パーフルオロアルキルカルボン酸ナトリウム塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等の陰イオン性フッ素系界面活性剤、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等の陽イオン性フッ素系界面活性剤、パーフルオロアルキルベタイン等の両性フッ素系界面活性剤が使用される。
【0037】
これらフッ素系界面活性剤の中で、陰イオン性、陽イオン性、両性のものが特に防曇性に優れる点で好ましく使用され、またこれらの中では塩基性の弱いものが好ましい。具体的には0.5重量%水溶液のpHで9以下を示すものが酸性リン酸アルキルエステルの酸硬化触媒としての性質を失活させ難く、硬化性を損なわないので好ましい。さらにこれらフッ素系界面活性剤の中で、パーフルオロアルキル基の炭素数が4〜12のものが、極少量の含有量で塗膜に優れた防曇性とレベリング性を発現することができるという点で特に好ましい。フッ素系界面活性剤は1種のみの使用、又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0038】
フッ素系界面活性剤の含有量は、前記ブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜2重量%であることが好ましい。フッ素系界面活性剤の含有量が0.01重量%未満である場合には塗膜の防曇性が低下し、2重量%を越える場合には塗膜表面の流水汚れが目立ち易くなったり、防曇塗料組成物の表面張力が極度に低下するため塗膜のレベリング性が低下して塗膜外観が劣る傾向にある。特に優れた防曇性と塗膜外観を両立し、流水汚れを回避するためには、フッ素系界面活性剤の含有量は前記ブロック又はグラフト共重合体に対して0.05〜1重量%であることが特に好ましい。
【0039】
前記フッ素系界面活性剤に加えて、公知の炭化水素系界面活性剤を併用することもできるが、塗膜上に流水汚れを発生させないためには炭化水素系界面活性剤の配合量は可能な限り少ないことが好ましい。このため、炭化水素系界面活性剤の含有量は前記ブロック又はグラフト共重合体に対して2重量%未満が好ましい。
【0040】
次に、防曇塗料組成物に使用される酸性リン酸アルキルエステルについて説明する。酸性リン酸アルキルエステルとは、リン酸モノアルキルエステル、リン酸ジアルキルエステル又はこれら混合物のことを指す。アルキル基の炭素数は通常1〜20程度である。この酸性リン酸アルキルエステルは、ブロック又はグラフト共重合体中の架橋官能基の反応性を高めて硬化を促進する熱硬化触媒として有効に作用し、また硬化された塗膜が水に溶解したり、水で白化したりすることを防止し、延いては塗膜表面の流水汚れを発生し難くするものである。酸性リン酸アルキルエステルを用いることにより、比較的低温でも架橋密度の高い塗膜が得られるため、塗膜は耐水性に優れたものとなる。
【0041】
リン酸アルキルエステルには前記酸性リン酸アルキルエステルであるリン酸モノアルキルエステル、リン酸ジアルキルエステル以外にリン酸トリアルキルエステルがあるが、リン酸トリアルキルエステルは硬化触媒としての酸活性度がほとんどないためにこれを単独で使用すると塗膜の硬化が不十分となり、塗膜の耐水性が著しく低下するため好ましくないが、リン酸モノアルキルエステル、リン酸ジアルキルエステルと併用して使用することは可能である。
【0042】
酸性リン酸アルキルエステルとしては、例えば、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、リン酸モノエチルエステル、リン酸ジエチルエステル、リン酸モノn−ブチルエステル、リン酸ジn−ブチルエステル、リン酸モノiso−ブチルエステル、リン酸ジiso−ブチルエステル、リン酸モノ2−エチルヘキシルエステル、リン酸ジ2−エチルヘキシルエステル、リン酸モノラウリルエステル、リン酸ジラウリルエステル、リン酸モノステアリルエステル、リン酸ジステアリルエステル、リン酸モノオレイルエステル、リン酸ジオレイルエステル等が挙げられる。これらの酸性リン酸アルキルエステルは、1種又は2種以上が使用される。
【0043】
酸性リン酸アルキルエステルの含有量は、前記ブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜3重量%であることが好ましい。酸性リン酸アルキルエステルの含有量が0.01重量%未満である場合には防曇塗料組成物の硬化性が不十分となって耐水性が低下し、一方3重量%を越える場合には塗膜が黄変する場合がある。塗膜性能のバランスの点から、前記ブロック又はグラフト共重合体と酸性リン酸アルキルエステルの重量比は100/0.1〜1.5(ブロック又はグラフト共重合体/酸性リン酸アルキルエステル)であることが特に好ましい。
【0044】
通常のアクリル・メラミン塗料のようなメラミン樹脂のメチロール基やアルコキシメチロール基に基づく硬化系では、酸性リン酸アルキルエステル以外にp−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸系硬化触媒が使用される場合が多い。本防曇塗料組成物においても硬化性の点ではスルホン酸系硬化触媒の使用も可能ではあるが、スルホン酸系硬化触媒では著しい流水汚れを発生するという問題があることから、酸性リン酸アルキルエステルの使用が必要である。酸性リン酸アルキルエステルに前記スルホン酸系硬化触媒を併用して使用することも可能であるが、塗膜上の流水汚れを発生させないためにはスルホン酸系硬化触媒の含有量は可能な限り少ないことが好ましく、スルホン酸系硬化触媒の含有量はブロック又はグラフト共重合体に対して0.1重量%未満が好ましい。
【0045】
酸硬化触媒による流水汚れ発生のメカニズムは以下のように考えられる。酸硬化触媒がスルホン酸系硬化触媒の場合にはこれ自体が水に溶解し易い結晶性状であり、流水によって溶け出し、乾燥後には結晶となって塗膜表面に析出し、これが汚れとして残存してしまうものと考えられる。これに対してアルキル基の炭素数が4未満の酸性リン酸アルキルエステルは、流水によって溶け出してもこれ自体が液状で非結晶性であるために、乾燥後に結晶として析出することはなく汚れとして目立ち難いものと考えられる。また、アルキル炭素数が4以上の酸性リン酸アルキルエステルは非水溶性になることから、流水によってこれが溶出することが抑えられるために流水汚れを発生し難いものと考えられる。
【0046】
酸性リン酸アルキルエステルは防曇塗料組成物を被塗装物の表面に塗装する直前に防曇塗料組成物に添加することが防曇塗料組成物のポットライフの点で好ましい。予め酸性リン酸アルキルエステルを防曇塗料組成物に添加しておいた場合には、経時的に防曇塗料組成物を増粘させたり、着色させたりする場合がある。
【0047】
防曇塗料組成物は、前記ブロック又はグラフト共重合体と、フッ素系界面活性剤と、酸性リン酸アルキルエステルとから構成され、各成分の重量比は、ブロック又はグラフト共重合体/フッ素系界面活性剤/酸性リン酸アルキルエステル=100/0.01〜2/0.01〜3であることが好ましい。さらに、塗膜外観と塗膜性能上のバランスから、重量比でブロック又はグラフト共重合体/フッ素系界面活性剤/酸性リン酸アルキルエステル=100/0.05〜1/0.1〜1.5であることがより好ましい。
【0048】
防曇塗料組成物にはさらに塗膜強度を高めるために、従来公知の硬化剤を併用することもできる。例えばヘキサメトキシメチロールメラミン、ヘキサブトキシメチロールメラミン、一部メトキシ、又はブトキシ化されたメチロールメラミン縮合物であるメラミン硬化剤;ヘキサメチレンジイソシアネート、又はトルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の縮合物であるイソシアネート硬化剤等が好ましい。
【0049】
これらの硬化剤の含有量は、防曇塗料組成物に使用されるブロック又はグラフト共重合体に対して20重量%以下であることが好ましい。この含有量が20重量%を越える場合、得られる塗膜の防曇性が低下するので好ましくない。
【0050】
本実施形態の防曇塗料組成物においては、ブロック又はグラフト共重合体が主成分として含有され、さらにフッ素系界面活性剤及び酸性リン酸アルキルエステルが含まれるが、必要によりその他の成分が含まれていてもよい。係るその他の成分としては、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、防カビ剤、抗菌剤等の慣用の添加剤や、塗膜の透明性を損なわない顔料、染料などの着色剤が挙げられる。
【0051】
防曇塗料組成物はそのまま被塗装物の塗装に供することもできるが、塗装に適した粘度調整を目的として有機溶剤にて希釈して使用することもできる。但し、著しい高沸点を有する有機溶剤の使用は、塗膜の乾燥、硬化時における溶剤の残留によって塗膜の密着性を損なう場合もあり、180℃未満の沸点を有する有機溶剤の使用がさらに好ましい。
【0052】
好ましく使用される有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。これらの有機溶剤は1種又は2種以上が組み合わせて使用される。
【0053】
塗膜の形成方法は次のようにして行なわれる。すなわち、通常の塗料において行われる塗装方法により被塗装物に防曇塗料組成物を塗装した後、30〜60℃の温度で1〜5分間塗膜中に含まれる有機溶剤を揮発乾燥させ、その後75〜150℃の温度で5〜60分間、望ましくは100〜150℃の温度で5〜30分間加熱硬化することによって行われる。但しこの場合、被塗装物が合成樹脂材料である場合には合成樹脂材料の熱変形温度以下での硬化温度の設定が必要である。
【0054】
防曇塗料組成物を塗装される被塗装物は、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の透明樹脂素材、及びこれら素材のフィルム、板、成型品及びその加工品が好ましく使用される。また、防曇塗料組成物の被塗装物に対する濡れ性やはじきを防止する目的で、塗装前の被塗装物表面の付着異物除去や脱脂、洗浄を行うことが好ましい。具体的には高圧エアやイオン化エアによる除塵、洗剤水溶液又はアルコール溶剤による超音波洗浄方法、アルコール溶剤等を使用したワイピング法、紫外線とオゾンによる洗浄方法等が好ましい。
【0055】
塗装方法としては浸漬法、フローコート法、ロールコーター法、バーコーター法、スプレーコート法等が適しており、形成される塗膜の膜厚は0.5〜20μmの範囲が好ましく、さらに良好な塗膜外観を得るためには1〜5μmの範囲が特に好ましい。
【0056】
さて、合成樹脂材料等の被塗装物の表面に塗膜を形成する場合には、被塗装物表面に前述した防曇塗料組成物を塗装し、所定温度まで加熱する。このとき、ブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分を形成するための架橋官能基を有するビニル系単量体成分に基づく架橋反応(加熱縮合反応)が起こる。この架橋反応は熱硬化触媒としての酸性リン酸アルキルエステルにより促進され、架橋官能基の反応性が高められて硬化が促進される。このため、硬化された塗膜が水に溶解したり、水で白化したりすることが抑制される。これにより、塗膜表面の流水汚れが発生し難くなる。
【0057】
さらに、防曇塗料組成物に含まれるフッ素系界面活性剤はパーフルオロアルキル基を疎水基として含有するとともに、極性基を親水基として含有し、その親水基がブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分と相互作用を発現する。このため、フッ素系界面活性剤が塗膜内部に保持される。従って、塗膜表面における流水汚れの発生が抑制される。これら酸性リン酸アルキルエステルとフッ素系界面活性剤の作用が相俟って塗膜表面の流水汚れが有効に抑制される。
【0058】
以上の実施形態により発揮される効果を以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の防曇塗料組成物には、親水性重合体部分及び疎水性重合体部分から構成される架橋構造を有するブロック又はグラフト共重合体、フッ素系界面活性剤及び酸性リン酸アルキルエステルが含有されている。ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分は被塗装物側に配向し、被塗装物に対する塗膜の密着性を向上させる。一方、親水性重合体部分は表面側に配向して塗膜表面の水分と親和して塗膜の防曇性を向上させる。従って、塗膜は良好な防曇性と密着性を発揮することができる。
【0059】
・ また、フッ素系界面活性剤はパーフルオロアルキル基を疎水基として含有し、極性基を親水基として含有している。このため、フッ素系界面活性剤の親水基がブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分と相互作用を発現し、フッ素系界面活性剤が塗膜内部で保持される。その結果、フッ素系界面活性剤は塗膜内部から表面に経時的に移行し、塗膜の防曇性を長期間にわたって持続させることができる。
【0060】
・ さらに、フッ素系界面活性剤は界面活性作用が高く、また前述のように塗膜内部に保持されることから、塗膜表面への界面活性剤の析出による流水汚れが発生しにくい。従って、塗膜表面に水が流れ落ちて乾燥した場合でも、塗膜表面における流水汚れの発生を抑制することができる。
【0061】
・ フッ素系界面活性剤がパーフルオロアルキル基を疎水基とし、極性基を親水基とし、陰イオン性、陽イオン性又は両性のものである場合、極少量の含有量で塗膜の防曇性を向上させることができる。しかも、フッ素系界面活性剤は極少量水に溶解又は分散して水の表面張力を低下させることで塗膜表面上の水膜形成を容易にすることから、優れた防曇性を発現させることができる。さらに、防曇塗料組成物の溶液の表面張力を低下させ、塗膜に良好なレベリング性を発現させることができて、塗膜外観を良好にすることができる。
【0062】
・ 防曇塗料組成物からの塗装物品は、防曇塗料組成物を被塗装物に塗装し、加熱するという簡単な操作で、被塗装物表面に塗膜が形成された状態で容易に得られる。従って、防曇性塗膜組成物は、透明樹脂材料からなる構造物内面における防曇性塗膜の形成に好適に使用することができる。
【0063】
【実施例】
以下、参考例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、以下に記載する%は重量%を意味している。
(参考例1、ブロック共重合体の製造)
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル550gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら70℃に加熱した。ここに下記の式(6)で表される重合開始剤としてのポリメリックペルオキシド5g、親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体としてのN,N−ジメチルアクリルアミド135g、架橋官能基を有するビニル系単量体としてのN−メチロールアクリルアミド15gを溶解した混合液を2時間かけて滴下した。さらに、2時間重合反応を行ってブロック共重合体の前駆体を合成した。
【0064】
その後、疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体としてのメチルメタクリレート140gとアクリル酸10gの混合液を1時間かけて滴下し、80℃で3時間重合反応を行い、ブロック共重合体を得た。
【0065】
ブロック共重合体は仕込み単量体の重合転化率100%、固形分35.5%、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比が50/50、親水性重合体部分中の窒素原子含有ビニル系単量体の重量割合が100%、親水性重合体部分中の架橋官能基を有するビニル系単量体の重量割合が10.0%であった。
〔CO(CH2)4COO(C2H4O)3CO(CH2) 4COOO〕10 ・・・(6)
(参考例2、グラフト共重合体の製造)
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレンレングリコールモノメチルエーテル500gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら85℃に加熱した。ここに重合開始剤としてのt−ブチルペルオキシオクタノエート1gと下記の式(7)で示される過酸化結合を有するビニル系単量体4g、親水性重合体部分に形成される水溶性ビニル系単量体としてのN−アクロイルモルホリン63gとメトキシジエチレングリコールメタクリレート25g、架橋官能基を有するビニル系単量体としての2−ヒドロキシエチルメタクリレート28g、N−メチロールアクリルアミド15g、及びメチルメタクリレート16gを溶解した混合液を2時間を要して滴下した。さらに、2時間重合反応を行ってグラフト共重合体の前駆体を合成した。
【0066】
その後、疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体としてのメチルメタクリレート57gとアクリル酸6gの混合液を1時間を要して滴下し、110℃で5時間重合反応を行い、グラフト共重合体を得た。
【0067】
グラフト共重合体は仕込み単量体の重合転化率100%、固形分30.0%、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比が70/30、親水性重合体部分中の窒素原子含有ビニル系単量体の重量割合が53.1%、親水性重合体部分中の架橋官能基を有するビニル系単量体の重量割合は29.3%であった。
CH2=CHCH2OCOOOC(CH3)3 ・・・(7)
(参考例3、ランダム共重合体の製造)
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレンレングリコールモノメチルエーテル500gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら100℃に加熱した。ここに水溶性ビニル系単量体としてのN,N−ジメチルアクリルアミド145g、架橋官能基を有するビニル系単量体としてのN−メチロールアクリルアミド15gとメチルメタクリレート140g、重合開始剤としてのt−ブチルペルオキシオクタノエート6gを溶解した混合液を2時間を要して滴下した。さらに、2時間重合反応を行ってランダム共重合体を合成した。得られたランダム共重合体は仕込みモノマーの重合転化率100%、固形分38.0%であった。
(実施例1、防曇塗料組成物の製造)
参考例1で得られたブロック共重合体溶液140g、フッ素系界面活性剤としてのパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩(旭硝子(株)製、商品名:サーフロンS−121、フッ素系界面活性剤としての有効成分30%)0.02g、リン酸ジiso−ブチル0.05gを混合し防曇塗料組成物を得た。
【0068】
得られた防曇塗料組成物中の固形分の重量比は、ブロック共重合体/フッ素系界面活性剤/酸性リン酸アルキルエステル=100/0.012/0.1であった。
(実施例2〜6及び比較例1〜5、防曇塗料組成物の製造)
実施例2〜6及び比較例1〜5の防曇塗料を原料の種類や仕込量を変えること以外は、実施例1に準じた方法で製造した。それぞれの防曇塗料組成物の原料の種類や仕込量、製造結果を表1及び表2に示した。
【0069】
尚、表1及び表2における記号は次のことを意味している。
(界面活性剤)
a:パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩(旭硝子(株)製フッ素系界面活性剤、商品名:サーフロンS−121、有効成分30%)、
b:パーフルオロアルキルベタイン(旭硝子(株)製フッ素系界面活性剤、商品名:サーフロンS−131、有効成分30%)、
c:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(日本油脂(株)製炭化水素系界面活性剤、商品名:ラピゾールA−80、有効成分80%)、
d:ジメチルアルキルヤシベタイン(日本油脂(株)製炭化水素系界面活性剤、商品名:アノンBF、有効成分100%)
(酸硬化触媒)
I:リン酸ジiso−ブチルエステル、
II:リン酸モノ2−エチルヘキシルエステル、
III:p−トルエンスルホン酸一水和物、
IV:ドデシルベンゼンスルホン酸。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
(実施例7〜12及び比較例6〜10)
前記実施例1〜6又は比較例1〜5で得られた防曇塗料組成物に溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを加えて、20℃の温度で粘度計フォードカップ#4で15秒となるように粘度調整を行った。さらに乾燥膜厚で3〜4μmとなるようにスプレー塗装により透明ポリカーボネート樹脂板に塗装を行い、40℃の温度で1分間乾燥を行った後、それぞれの条件で加熱硬化を行った。このようにして得られたそれぞれの塗膜について、以下に示す評価方法により塗膜性能を評価した結果を表3及び表4に示した。また、表3及び表4における塗膜性能試験条件と評価方法は以下の通りである。
【0072】
塗膜外観:塗膜の外観を目視で評価した。平滑で異常が認められないものを○、わずかに平滑性が劣るものを△、塗膜が平滑でなくオレンジピール状(柚子肌状)のものを×とした。
【0073】
呼気防曇性:常温で呼気を吹きかけ、曇りの有無を目視で評価した。全く曇らないものを○、一瞬わずかに曇るがすぐに曇りが晴れるものを△、曇りが認められるものを×とした。
【0074】
スチーム防曇性:40℃スチームを塗膜に連続照射し、照射から3分間と照射1時間後の曇りの有無を目視で評価した。曇りが認められず平滑な水膜が形成されているものを○、曇りは認められないが水膜が平滑ではなく荒れた状態のものを△、曇りが認められるものを×とした。
【0075】
密着性:JIS K 5400 8.5.1に準拠して塗膜の剥離の有無を目視で評価した。全く剥離が認められないものを○、剥離が認められるものを×とした。
【0076】
耐水性:表面に前記塗膜が形成された塗装板を40℃温水に1時間浸漬し、室温にて1時間乾燥した後の外観を目視で評価した。初期塗膜の状態と全く同じで変化が認められないものを○、白化やシミ、塗膜の溶解が認められるものを×とした。
【0077】
流水汚れ:塗装板を約45°の角度に置き、塗装板上部から塗膜上に蒸留水を数滴たらし、直ちに塗装板を60℃の乾燥機内に入れて10分間乾燥させた後の外観を目視で評価した。水が流れた跡が全く認められないものを○、わずかに汚れが認められるものを△、はっきりと汚れとして認められるものを×とした。
【0078】
前述した実施例、比較例をまとめると以下の通りとなる。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
表3に示したように、実施例7〜12は実施形態の防曇塗料組成物(実施例1〜6)を使用した例であり、これらは塗膜外観、防曇性、密着性、耐水性に優れ、また流水汚れが発生しないことが確認された。
【0081】
これに対して比較例6のように、ランダム共重合体を使用した場合には被塗装物に対する密着性が著しく劣っていた。比較例7、8のように、フッ素系界面活性剤以外の炭化水素系界面活性剤を使用した場合には、流水汚れが発生する点で問題があった。比較例7ではさらに炭化水素系界面活性剤の配合量が少ないことから防曇性が若干劣り、さらにレベリング剤も配合されていないことから塗膜の平滑性も若干劣る傾向があった。比較例9、10のように、酸性リン酸アルキルエステル以外の酸硬化触媒を使用した場合には、流水汚れが顕著に発生する点で問題があった。
【0082】
流水による汚れ発生は界面活性剤と酸硬化触媒によるところが大きいものと推測される。流水汚れは極薄膜の水膜が形成されてこれが乾燥した程度では発生しないが、水膜が形成されてその水が局部的に流れ落ちた際に流水部分に界面活性剤が濃縮され、これが乾燥することで多量の界面活性剤の析出が見られて汚れとして目立ち易くなるものと推測される。防曇性を発現しながら流水汚れを発生させないためには、界面活性剤の含有量はできるだけ少ない程良いが、炭化水素系界面活性剤では優れた防曇性を発現するためには多量の配合を必要とし、そのために流水汚れの問題が発生してしまう。これに対してフッ素系界面活性剤の場合は界面活性作用が高く、極少量の含有量で優れた防曇性を発現でき、流水によりフッ素系界面活性剤が溶解、析出しても配合量が極微量なために結果として汚れが目立ち難い。
【0083】
さらにフッ素系界面活性剤は優れた防曇性を発現する以外にレベリング剤としての機能をも有し、特にフッ素系界面活性剤以外に塗料の表面張力を低下させるようなレベリング剤を添加しなくとも、被塗装物への良好な濡れ性と平滑な塗膜を与えることができる。
【0084】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することもできる。
・ 防曇塗料組成物に前記ブロック共重合体とグラフト共重合体との双方を含有させるように構成することもできる。
【0085】
・ フッ素系界面活性剤として、非イオン性のものを陰イオン性、陽イオン性又は両性のものと併用することもできる。
・ 被塗装物として、金属、セラミック、ガラス、木材等を用いることもできる。
【0086】
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
(1) フッ素系界面活性剤は、0.5重量%の水溶液中でpH9以下を示すものである請求項1に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合には、酸性リン酸アルキルエステルの酸硬化触媒としての性質を失活させ難く、防曇塗料組成物の硬化性を良好に維持することができる。
(2) パーフルオロアルキル基の炭素数は4〜12である請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、フッ素系界面活性剤を極少量配合するだけで、得られる塗膜に優れた防曇性とレベリング性を発現させることができる。
(3) フッ素系界面活性剤の配合量は、ブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜2重量%である請求項1、請求項2及び上記技術的思想(1)〜(3)のいずれか一項に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合には、フッ素系界面活性剤を極少量使用するだけで、流水汚れを確実に抑制することができるとともに、塗膜の防曇性を維持し、塗膜のレベリング性を発現させて外観を良好にすることができる。
(4) ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分を形成する単量体として、炭素数1〜4の直鎖又は分岐状の低級アルキル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを含有する請求項1又は請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、塗膜の硬度を高めることができる。
【0087】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば次のような効果を奏することができる。
第1の発明の防曇塗料組成物によれば、良好な防曇性と密着性が維持され、表面に水が流れ落ちて乾燥した場合に流水汚れの発生が抑制された塗膜を形成することができる。
【0088】
第2の発明の防曇塗料組成物によれば、第1の発明の効果に加え、極少量の含有量で塗膜の防曇性を向上させることができるとともに、塗膜に良好なレベリング性を発現させることができる。
【0089】
第3の発明の塗装物品によれば、第1又は第2の発明の防曇塗料組成物を被塗装物に塗装し、加熱するという簡単な操作で、第1又は第2の発明の効果を得ることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に透明樹脂材料を被覆し、それらの材料表面を親水性に改質して防曇性を得るための防曇塗料組成物及びその塗装物品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ランダム共重合体を用いた従来型の加熱硬化型防曇剤組成物では、合成樹脂基材に対する密着性が不十分であるという問題があった。その点を改善すべく本発明者らが検討した結果、親水性重合体部分及び疎水性重合体部分からなるブロック又はグラフト共重合体と界面活性剤とよりなる加熱硬化型防曇剤組成物を見出した(特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0003】
この防曇剤組成物から得られる塗膜は、ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分により塗膜表面に親水性を付与し、同時に疎水性重合体部分により基材との密着性を付与することができるため、親水性と密着性の両面で優れた物性を有している。さらには塗膜中に含有される界面活性剤が塗膜表面に付着する水滴中に溶解して水滴の表面張力を低下させ、付着した水滴を水膜にさせることにより優れた防曇性を発現することが可能となった。
【0004】
【特許文献1】
特開平6−212146号公報(第2頁、第14〜15頁)
【特許文献2】
特開平6−107967号公報(第2頁、第12〜13頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記加熱硬化型防曇剤組成物においては、適度な量の水蒸気が塗膜表面に接触して、極薄膜の水膜が形成される程度では水が流れ落ちたり、水膜が乾燥した後に汚れを発生することはなかった。ところが、多量の水蒸気が塗膜表面に接触し、水膜が形成されてその水が局部的に流れ落ちて乾燥した際に、流水跡が汚れとなって発生するといった外観上の問題が新たに発生することがあった。塗膜が例えば計器カバーや車両灯具内面に形成されている場合には、流水汚れが発生しても構造上拭き取り難いため、流水汚れが抑制されることは実用上大きな意味がある。
【0006】
本発明は前記の従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、良好な防曇性と密着性が維持され、表面に水が流れ落ちて乾燥した場合に流水汚れの発生が抑制された塗膜を形成することができる防曇塗料組成物及びその塗装物品を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
第1の発明の防曇塗料組成物は、架橋官能基を有するビニル系単量体及び水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分並びに非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されるブロック又はグラフト共重合体と、フッ素系界面活性剤と、酸性リン酸アルキルエステルとを含有することを特徴とするものである。
【0008】
第2の発明の防曇塗料組成物は、第1の発明において、フッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基を疎水基として含有し、極性基を親水基として含有する分子構造を有し、陰イオン性、陽イオン性又は両性を示すものである。
【0009】
第3の発明の塗装物品は、第1又は第2の発明の防曇塗料組成物を被塗装物に塗装し、加熱硬化して得られることを特徴とするものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施形態について順次詳細に説明する。
本実施形態の防曇塗料組成物は、特定のブロック又はグラフト共重合体と、フッ素系界面活性剤と、酸性リン酸アルキルエステルとを含有するものである。ブロック又はグラフト共重合体は、架橋官能基を有するビニル系単量体及び水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分並びに非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されている。
【0011】
まず、ブロック又はグラフト共重合体について説明する。ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分は塗膜中において被塗装物側に配向して塗膜の密着性に寄与し、親水性重合体部分は表面側に配向して塗膜表面の水分と親和して防曇性に寄与する。ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体成分としては、例えば、(メタ)アクリルアミド〔ここで(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミドとメタクリルアミドの両方を意味している。以下同様である。〕、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−(メタ)アクロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン、4−ビニルピリジン等の窒素原子含有ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミドー2−メチルスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基含有ビニル系単量体、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(ここでエチレンオキサイド数は1〜10が好適である)、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(ここでプロピレンオキサイド数は1〜10が好適である)等のアルコキシアルキレングリコール基含有ビニル系単量体等が挙げられる。これらの水溶性ビニル系単量体成分は1種又は2種以上が適宜選択して使用される。
【0012】
これら水溶性ビニル系単量体の中では、塗膜の防曇性を高めるという点から窒素原子含有ビニル系単量体、例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン等が好ましい。
【0013】
親水性重合体部分に占める水溶性ビニル系単量体から形成される重合体部分の割合は、70〜99重量%が好ましい。70重量%未満の場合には塗膜の防曇性が低下し、99重量%を越える場合には架橋官能基を有するビニル系単量体が少なくなって塗膜の架橋度が低くなるため塗膜の耐水性が低下する傾向にある。
【0014】
また、水溶性ビニル系単量体中に占める窒素原子含有ビニル系単量体の割合は10〜100重量%であることが好ましい。窒素原子含有ビニル系単量体の割合が10重量%未満の場合には、得られる塗膜の防曇性が低下する傾向がある。塗膜の防曇性をさらに高めるためには、水溶性ビニル系単量体中に占める窒素原子含有ビニル系単量体の割合は20〜100重量%であることが特に好ましい。
【0015】
続いて、親水性重合体部分を形成するために使用される架橋官能基を有するビニル系単量体成分は、防曇塗料組成物を加熱硬化させる場合の加熱縮合反応に寄与する架橋官能基であるN−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基を有するビニル系単量体成分である。また、N−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基を有するビニル系単量体成分と共に、これらと加熱縮合反応が可能なヒドロキシル基を有するビニル系単量体成分を使用してもよい。
【0016】
加熱縮合反応の第1は、N−メチロール基同士の脱水縮合反応に基づく架橋反応、第2はN−メチロール基とN−アルコキシメチロール基による脱アルコール縮合反応に基づく架橋反応である。さらに、第3はN−メチロール基とヒドロキシル基による脱水縮合反応に基づく架橋反応、第4はN−アルコキシメチロール基とヒドロキシル基による脱アルコール縮合反応に基づく架橋反応である。
【0017】
架橋官能基を有するビニル系単量体成分としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基又はアルコキシメチロール基含有ビニル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートにε−カプロラクトンを1モル付加させたプラクセルFA−1、FM−1〔ダイセル化学工業(株)製〕などのヒドロキシル基含有ビニル系単量体等が挙げられる。これらの架橋官能基を有するビニル系単量体成分は、1種又は2種以上が選択して使用される。
【0018】
これらの中でもN−メチロール(メタ)アクリルアミドやそれと前記ヒドロキシル基含有ビニル系単量体との併用系が硬化性に優れる点で特に好ましい。
親水性重合体部分中に占める架橋官能基を有するビニル系単量体から形成される重合体部分の割合は、1〜30重量%であることが好ましい。架橋官能基を有するビニル系単量体から形成される重合体部分の割合が1重量%未満の場合には防曇塗料組成物の硬化性が劣り、得られる塗膜の架橋度が低くなるために塗膜の耐水性が低下し、30重量%を越える場合には被塗装物に対する塗膜の密着性が低下する傾向にある。
【0019】
さらに塗膜の防曇性、密着性及び耐水性を十分に発揮させるためには、親水性重合体部分中に占める架橋官能基を有するビニル系単量体から形成される重合体部分の割合は、5〜20重量%であることが特に好ましい。
【0020】
また、塗膜の硬度を高めることを目的に前記ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分に形成される前記単量体成分中に炭素数1〜4の直鎖又は分岐状の低級アルキル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを含有させてもよい。このエステルを、以下単に低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体と略記する。具体的には、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体は、1種又は2種以上が適宜選択して用いられる。
【0021】
これら低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体は、前記ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分に形成される水溶性ビニル系単量体に対して50重量%以下の範囲で使用されることが好ましい。この割合が50重量%を越える場合には塗膜の防曇性が低下する傾向にある。
【0022】
次に、ブロック又はグラフト共重合体を構成する疎水性重合体部分について説明する。この疎水性重合体部分に形成される非水溶性ビニル系単量体成分としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐状のアルキル基を有するアルキルビニル系単量体;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル等が挙げられる。これらの非水溶性ビニル系単量体成分は、1種又は2種以上が適宜選択して使用される。
【0023】
これらの中で、低級アルコールの(メタ)アクリル系単量体、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等が特に好ましい。これらの単量体は、塗膜の硬度を高めると共に、合成樹脂材料に対して優れた密着性が得られるからである。
【0024】
また、塗膜に透明性を付与することを目的として、前記ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する前記非水溶性ビニル単量体成分中に、酸基を有するビニル系単量体を含有させてもよい。ブロック又はグラフト共重合体中には疎水性重合体部分のみの重合体と親水性重合体部分のみの重合体が副生物として存在し、それらの相溶性が乏しいと塗膜が不透明になる。そのため、両重合体の極性差を小さくして相溶性を高め、塗膜の透明性を得るために極性のある酸基を有するビニル系単量体が配合される。そのような酸基を有するビニル系単量体として具体的には(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸等が挙げられる。これらの酸基を有するビニル系単量体は、1種又は2種以上が使用される。
【0025】
酸基を有するビニル系単量体は、前記ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体に対して30重量%以下であることが好ましい。酸基を有するビニル系単量体が30重量%を越える場合には塗膜と被塗装物との密着性が低下する傾向にある。塗膜の防曇性、密着性及び透明性を十分に発揮させるためには、酸基を有するビニル系単量体は前記ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体に対して1〜15重量%の範囲であることが特に好ましい。
【0026】
本実施形態の防曇塗料組成物において使用されるブロック又はグラフト共重合体においては、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比が50/50〜95/5(親水性重合体部分/疎水性重合体部分)であることが好ましい。親水性重合体部分が50重量%未満の場合には塗膜の防曇性が低下し、親水性重合体部分が95重量%を越える場合には被塗装物に対する密着性が低下する傾向にある。
【0027】
次に、本実施形態におけるブロック又はグラフト共重合体の製造方法について説明する。まず、有機溶剤中でブロック共重合体を得るための溶液重合について説明する。ブロック共重合体の重合方法としては、ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオンリビング重合法、カチオンリビング重合法等の公知の各種重合方法が挙げられるが、これらの中でも公知のポリメリックペルオキシドを使う重合方法が好ましい。
【0028】
特に下記の式(1)、(2)又は(3)で示されるポリメリックペルオキシドの1種以上を重合開始剤に用いたラジカル重合法が、工業的に大量かつ効率的に重合を行なうことができる点で好ましい。
〔CO(CH2)4COO(C2H4O)3CO(CH2) 4COOO〕K ・・・(1)
〔CO(CH2)7COOO〕m ・・・(2)
〔CO(CH2)6CH(CH2CH3)(CH2)9COOO〕n ・・・(3)
(上述の式(a)、式(b)及び式(c)中において、k、m、nはいずれも2〜20の整数である。)
具体的にブロック共重合体を得るための溶液重合を行なうには、まず撹拌装置、温度計を備えた反応器に有機溶剤を仕込み、60〜80℃の温度に加熱する。次いで、前記ポリメリックペルオキシドと、親水性重合体部分に形成される単量体及び疎水性重合体部分に形成される単量体のいずれか一方とを30分から3時間をかけて添加し、さらに30分から3時間の重合反応を行いブロック共重合体の前駆体を合成する。続いて、温度を5〜20℃上昇させ、もう一方の重合体部分に形成される単量体を30分から3時間をかけて添加し、さらに30分から5時間の重合反応を行うことによって目的とするブロック共重合体溶液を得ることができる。
【0029】
次に、グラフト共重合体を得るための溶液重合について説明する。グラフト共重合体を得るためには公知の過酸化結合を有するビニル系単量体が好ましく使用され、特に下記の一般式(4)又は(5)で示される過酸化結合を有するビニル系単量体を用いたラジカル重合法が工業的に大量かつ効率的に行なうことができる点で特に好ましい。
CH2=C(R1)COOCH2CH2OCOOOC(CH3)3 ・・・(4)
(式中R1は水素原子、又はメチル基である。)
CH2=C(R2)CH2OCOOOC(CH3)3 ・・・(5)
(式中R2は水素原子、又はメチル基である。)
具体的にグラフト共重合体を得るための溶液重合を行なうには、まず撹拌装置、温度計を備えた反応器に有機溶剤を仕込み、70〜90℃の温度に加熱する。次いで、前記過酸化結合を有するビニル系単量体と、ラジカル重合開始剤と、親水性重合体部分に形成される水溶性ビニル系単量体及び疎水性重合体部分に形成される単量体のいずれか一方とを30分から3時間をかけて添加し、さらに30分から3時間の重合反応を行いグラフト共重合体の前駆体を合成する。この際の重合反応はラジカル重合開始剤のみの分解に基づくものであり、過酸化結合を有するビニル系単量体中の過酸化結合の分解が起こらない温度条件の設定が必要である。
【0030】
続いて、温度を10〜30℃上昇させて過酸化結合を有するビニル系単量体の過酸化結合が分解する条件下、もう一方の重合体部分に形成される単量体を30分から3時間をかけて添加し、さらに30分から5時間の重合反応を行なうことによって目的とするグラフト共重合体溶液を得ることができる。
【0031】
ブロック又はグラフト共重合体は親水性重合体部分と疎水性重合体部分という性質の異なる重合体部分から構成されており、これら両重合体部分に対して親和性のある有機溶剤を使用する必要がある。また、著しい高沸点を有する有機溶剤の使用は、塗膜の乾燥、硬化時における溶剤の残留によって被塗装物に対する塗膜の密着性を損なう場合もあり、180℃未満の沸点を有する有機溶剤の使用がさらに好ましい。
【0032】
ブロック又はグラフト共重合体の重合溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤等が使用される。これらの重合溶媒は1種又は2種以上が組み合わせて使用される。
【0033】
次に、本実施形態の防曇塗料組成物において使用されるフッ素系界面活性剤について説明する。このフッ素系界面活性剤とは、CF3(CF2)n−で構成されるパーフルオロアルキル基を疎水基として含有し、極性基を親水基として含有する分子構造を有する界面活性剤のことをいう。フッ素系界面活性剤はパーフルオロアルキル基に基づいて分子間力が極めて小さいために、疎水基がアルキル基で構成される炭化水素系界面活性剤に比べて、極少量水に溶解又は分散することで水の表面張力を著しく低下させることができる。このため、塗膜表面上に接触する水滴を容易に水膜にさせることができる。また、フッ素系界面活性剤は、有機溶剤系の塗料に極少量溶解又は分散することで塗料の表面張力を低下させることができる。このように、フッ素系界面活性剤は界面活性作用が高く、極少量のフッ素系界面活性剤を防曇塗料組成物へ配合して得られる塗膜に優れた防曇性とレベリング性を発現させることができる。
【0034】
塗膜表面における流水汚れの主な原因は、水に溶解した界面活性剤が流れ出て、水が乾燥した際に界面活性剤が析出し、これが汚れとして見えることにあり、塗料中の界面活性剤の配合量が少ない程流水汚れが目立ち難くなる。炭化水素系界面活性剤では、優れた防曇性を発現するのに多量の配合を必要とし、その一方でフッ素系界面活性剤は炭化水素系界面活性剤に比べて界面活性作用が高く、極めて少ない配合量で優れた防曇性を発現できることから、界面活性剤析出による流水汚れが目視では全く確認されないという利点がある。
【0035】
加えて、フッ素系界面活性剤は親水性を有し、ブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分との間で相互作用を発現でき、フッ素系界面活性剤を塗膜内部で保持することができる。そして、フッ素系界面活性剤は塗膜内部から表面に経時的に移行することから、塗膜の防曇性を長期間にわたって持続させることができる。
【0036】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルポリエチレンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド等の非イオン性フッ素系界面活性剤、パーフルオロアルキルカルボン酸アンモニウム塩、パーフルオロアルキルカルボン酸ナトリウム塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等の陰イオン性フッ素系界面活性剤、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等の陽イオン性フッ素系界面活性剤、パーフルオロアルキルベタイン等の両性フッ素系界面活性剤が使用される。
【0037】
これらフッ素系界面活性剤の中で、陰イオン性、陽イオン性、両性のものが特に防曇性に優れる点で好ましく使用され、またこれらの中では塩基性の弱いものが好ましい。具体的には0.5重量%水溶液のpHで9以下を示すものが酸性リン酸アルキルエステルの酸硬化触媒としての性質を失活させ難く、硬化性を損なわないので好ましい。さらにこれらフッ素系界面活性剤の中で、パーフルオロアルキル基の炭素数が4〜12のものが、極少量の含有量で塗膜に優れた防曇性とレベリング性を発現することができるという点で特に好ましい。フッ素系界面活性剤は1種のみの使用、又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0038】
フッ素系界面活性剤の含有量は、前記ブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜2重量%であることが好ましい。フッ素系界面活性剤の含有量が0.01重量%未満である場合には塗膜の防曇性が低下し、2重量%を越える場合には塗膜表面の流水汚れが目立ち易くなったり、防曇塗料組成物の表面張力が極度に低下するため塗膜のレベリング性が低下して塗膜外観が劣る傾向にある。特に優れた防曇性と塗膜外観を両立し、流水汚れを回避するためには、フッ素系界面活性剤の含有量は前記ブロック又はグラフト共重合体に対して0.05〜1重量%であることが特に好ましい。
【0039】
前記フッ素系界面活性剤に加えて、公知の炭化水素系界面活性剤を併用することもできるが、塗膜上に流水汚れを発生させないためには炭化水素系界面活性剤の配合量は可能な限り少ないことが好ましい。このため、炭化水素系界面活性剤の含有量は前記ブロック又はグラフト共重合体に対して2重量%未満が好ましい。
【0040】
次に、防曇塗料組成物に使用される酸性リン酸アルキルエステルについて説明する。酸性リン酸アルキルエステルとは、リン酸モノアルキルエステル、リン酸ジアルキルエステル又はこれら混合物のことを指す。アルキル基の炭素数は通常1〜20程度である。この酸性リン酸アルキルエステルは、ブロック又はグラフト共重合体中の架橋官能基の反応性を高めて硬化を促進する熱硬化触媒として有効に作用し、また硬化された塗膜が水に溶解したり、水で白化したりすることを防止し、延いては塗膜表面の流水汚れを発生し難くするものである。酸性リン酸アルキルエステルを用いることにより、比較的低温でも架橋密度の高い塗膜が得られるため、塗膜は耐水性に優れたものとなる。
【0041】
リン酸アルキルエステルには前記酸性リン酸アルキルエステルであるリン酸モノアルキルエステル、リン酸ジアルキルエステル以外にリン酸トリアルキルエステルがあるが、リン酸トリアルキルエステルは硬化触媒としての酸活性度がほとんどないためにこれを単独で使用すると塗膜の硬化が不十分となり、塗膜の耐水性が著しく低下するため好ましくないが、リン酸モノアルキルエステル、リン酸ジアルキルエステルと併用して使用することは可能である。
【0042】
酸性リン酸アルキルエステルとしては、例えば、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、リン酸モノエチルエステル、リン酸ジエチルエステル、リン酸モノn−ブチルエステル、リン酸ジn−ブチルエステル、リン酸モノiso−ブチルエステル、リン酸ジiso−ブチルエステル、リン酸モノ2−エチルヘキシルエステル、リン酸ジ2−エチルヘキシルエステル、リン酸モノラウリルエステル、リン酸ジラウリルエステル、リン酸モノステアリルエステル、リン酸ジステアリルエステル、リン酸モノオレイルエステル、リン酸ジオレイルエステル等が挙げられる。これらの酸性リン酸アルキルエステルは、1種又は2種以上が使用される。
【0043】
酸性リン酸アルキルエステルの含有量は、前記ブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜3重量%であることが好ましい。酸性リン酸アルキルエステルの含有量が0.01重量%未満である場合には防曇塗料組成物の硬化性が不十分となって耐水性が低下し、一方3重量%を越える場合には塗膜が黄変する場合がある。塗膜性能のバランスの点から、前記ブロック又はグラフト共重合体と酸性リン酸アルキルエステルの重量比は100/0.1〜1.5(ブロック又はグラフト共重合体/酸性リン酸アルキルエステル)であることが特に好ましい。
【0044】
通常のアクリル・メラミン塗料のようなメラミン樹脂のメチロール基やアルコキシメチロール基に基づく硬化系では、酸性リン酸アルキルエステル以外にp−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸系硬化触媒が使用される場合が多い。本防曇塗料組成物においても硬化性の点ではスルホン酸系硬化触媒の使用も可能ではあるが、スルホン酸系硬化触媒では著しい流水汚れを発生するという問題があることから、酸性リン酸アルキルエステルの使用が必要である。酸性リン酸アルキルエステルに前記スルホン酸系硬化触媒を併用して使用することも可能であるが、塗膜上の流水汚れを発生させないためにはスルホン酸系硬化触媒の含有量は可能な限り少ないことが好ましく、スルホン酸系硬化触媒の含有量はブロック又はグラフト共重合体に対して0.1重量%未満が好ましい。
【0045】
酸硬化触媒による流水汚れ発生のメカニズムは以下のように考えられる。酸硬化触媒がスルホン酸系硬化触媒の場合にはこれ自体が水に溶解し易い結晶性状であり、流水によって溶け出し、乾燥後には結晶となって塗膜表面に析出し、これが汚れとして残存してしまうものと考えられる。これに対してアルキル基の炭素数が4未満の酸性リン酸アルキルエステルは、流水によって溶け出してもこれ自体が液状で非結晶性であるために、乾燥後に結晶として析出することはなく汚れとして目立ち難いものと考えられる。また、アルキル炭素数が4以上の酸性リン酸アルキルエステルは非水溶性になることから、流水によってこれが溶出することが抑えられるために流水汚れを発生し難いものと考えられる。
【0046】
酸性リン酸アルキルエステルは防曇塗料組成物を被塗装物の表面に塗装する直前に防曇塗料組成物に添加することが防曇塗料組成物のポットライフの点で好ましい。予め酸性リン酸アルキルエステルを防曇塗料組成物に添加しておいた場合には、経時的に防曇塗料組成物を増粘させたり、着色させたりする場合がある。
【0047】
防曇塗料組成物は、前記ブロック又はグラフト共重合体と、フッ素系界面活性剤と、酸性リン酸アルキルエステルとから構成され、各成分の重量比は、ブロック又はグラフト共重合体/フッ素系界面活性剤/酸性リン酸アルキルエステル=100/0.01〜2/0.01〜3であることが好ましい。さらに、塗膜外観と塗膜性能上のバランスから、重量比でブロック又はグラフト共重合体/フッ素系界面活性剤/酸性リン酸アルキルエステル=100/0.05〜1/0.1〜1.5であることがより好ましい。
【0048】
防曇塗料組成物にはさらに塗膜強度を高めるために、従来公知の硬化剤を併用することもできる。例えばヘキサメトキシメチロールメラミン、ヘキサブトキシメチロールメラミン、一部メトキシ、又はブトキシ化されたメチロールメラミン縮合物であるメラミン硬化剤;ヘキサメチレンジイソシアネート、又はトルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の縮合物であるイソシアネート硬化剤等が好ましい。
【0049】
これらの硬化剤の含有量は、防曇塗料組成物に使用されるブロック又はグラフト共重合体に対して20重量%以下であることが好ましい。この含有量が20重量%を越える場合、得られる塗膜の防曇性が低下するので好ましくない。
【0050】
本実施形態の防曇塗料組成物においては、ブロック又はグラフト共重合体が主成分として含有され、さらにフッ素系界面活性剤及び酸性リン酸アルキルエステルが含まれるが、必要によりその他の成分が含まれていてもよい。係るその他の成分としては、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、防カビ剤、抗菌剤等の慣用の添加剤や、塗膜の透明性を損なわない顔料、染料などの着色剤が挙げられる。
【0051】
防曇塗料組成物はそのまま被塗装物の塗装に供することもできるが、塗装に適した粘度調整を目的として有機溶剤にて希釈して使用することもできる。但し、著しい高沸点を有する有機溶剤の使用は、塗膜の乾燥、硬化時における溶剤の残留によって塗膜の密着性を損なう場合もあり、180℃未満の沸点を有する有機溶剤の使用がさらに好ましい。
【0052】
好ましく使用される有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のアルコールエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。これらの有機溶剤は1種又は2種以上が組み合わせて使用される。
【0053】
塗膜の形成方法は次のようにして行なわれる。すなわち、通常の塗料において行われる塗装方法により被塗装物に防曇塗料組成物を塗装した後、30〜60℃の温度で1〜5分間塗膜中に含まれる有機溶剤を揮発乾燥させ、その後75〜150℃の温度で5〜60分間、望ましくは100〜150℃の温度で5〜30分間加熱硬化することによって行われる。但しこの場合、被塗装物が合成樹脂材料である場合には合成樹脂材料の熱変形温度以下での硬化温度の設定が必要である。
【0054】
防曇塗料組成物を塗装される被塗装物は、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の透明樹脂素材、及びこれら素材のフィルム、板、成型品及びその加工品が好ましく使用される。また、防曇塗料組成物の被塗装物に対する濡れ性やはじきを防止する目的で、塗装前の被塗装物表面の付着異物除去や脱脂、洗浄を行うことが好ましい。具体的には高圧エアやイオン化エアによる除塵、洗剤水溶液又はアルコール溶剤による超音波洗浄方法、アルコール溶剤等を使用したワイピング法、紫外線とオゾンによる洗浄方法等が好ましい。
【0055】
塗装方法としては浸漬法、フローコート法、ロールコーター法、バーコーター法、スプレーコート法等が適しており、形成される塗膜の膜厚は0.5〜20μmの範囲が好ましく、さらに良好な塗膜外観を得るためには1〜5μmの範囲が特に好ましい。
【0056】
さて、合成樹脂材料等の被塗装物の表面に塗膜を形成する場合には、被塗装物表面に前述した防曇塗料組成物を塗装し、所定温度まで加熱する。このとき、ブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分を形成するための架橋官能基を有するビニル系単量体成分に基づく架橋反応(加熱縮合反応)が起こる。この架橋反応は熱硬化触媒としての酸性リン酸アルキルエステルにより促進され、架橋官能基の反応性が高められて硬化が促進される。このため、硬化された塗膜が水に溶解したり、水で白化したりすることが抑制される。これにより、塗膜表面の流水汚れが発生し難くなる。
【0057】
さらに、防曇塗料組成物に含まれるフッ素系界面活性剤はパーフルオロアルキル基を疎水基として含有するとともに、極性基を親水基として含有し、その親水基がブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分と相互作用を発現する。このため、フッ素系界面活性剤が塗膜内部に保持される。従って、塗膜表面における流水汚れの発生が抑制される。これら酸性リン酸アルキルエステルとフッ素系界面活性剤の作用が相俟って塗膜表面の流水汚れが有効に抑制される。
【0058】
以上の実施形態により発揮される効果を以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の防曇塗料組成物には、親水性重合体部分及び疎水性重合体部分から構成される架橋構造を有するブロック又はグラフト共重合体、フッ素系界面活性剤及び酸性リン酸アルキルエステルが含有されている。ブロック又はグラフト共重合体中の疎水性重合体部分は被塗装物側に配向し、被塗装物に対する塗膜の密着性を向上させる。一方、親水性重合体部分は表面側に配向して塗膜表面の水分と親和して塗膜の防曇性を向上させる。従って、塗膜は良好な防曇性と密着性を発揮することができる。
【0059】
・ また、フッ素系界面活性剤はパーフルオロアルキル基を疎水基として含有し、極性基を親水基として含有している。このため、フッ素系界面活性剤の親水基がブロック又はグラフト共重合体の親水性重合体部分と相互作用を発現し、フッ素系界面活性剤が塗膜内部で保持される。その結果、フッ素系界面活性剤は塗膜内部から表面に経時的に移行し、塗膜の防曇性を長期間にわたって持続させることができる。
【0060】
・ さらに、フッ素系界面活性剤は界面活性作用が高く、また前述のように塗膜内部に保持されることから、塗膜表面への界面活性剤の析出による流水汚れが発生しにくい。従って、塗膜表面に水が流れ落ちて乾燥した場合でも、塗膜表面における流水汚れの発生を抑制することができる。
【0061】
・ フッ素系界面活性剤がパーフルオロアルキル基を疎水基とし、極性基を親水基とし、陰イオン性、陽イオン性又は両性のものである場合、極少量の含有量で塗膜の防曇性を向上させることができる。しかも、フッ素系界面活性剤は極少量水に溶解又は分散して水の表面張力を低下させることで塗膜表面上の水膜形成を容易にすることから、優れた防曇性を発現させることができる。さらに、防曇塗料組成物の溶液の表面張力を低下させ、塗膜に良好なレベリング性を発現させることができて、塗膜外観を良好にすることができる。
【0062】
・ 防曇塗料組成物からの塗装物品は、防曇塗料組成物を被塗装物に塗装し、加熱するという簡単な操作で、被塗装物表面に塗膜が形成された状態で容易に得られる。従って、防曇性塗膜組成物は、透明樹脂材料からなる構造物内面における防曇性塗膜の形成に好適に使用することができる。
【0063】
【実施例】
以下、参考例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、以下に記載する%は重量%を意味している。
(参考例1、ブロック共重合体の製造)
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル550gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら70℃に加熱した。ここに下記の式(6)で表される重合開始剤としてのポリメリックペルオキシド5g、親水性重合体部分を形成する水溶性ビニル系単量体としてのN,N−ジメチルアクリルアミド135g、架橋官能基を有するビニル系単量体としてのN−メチロールアクリルアミド15gを溶解した混合液を2時間かけて滴下した。さらに、2時間重合反応を行ってブロック共重合体の前駆体を合成した。
【0064】
その後、疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体としてのメチルメタクリレート140gとアクリル酸10gの混合液を1時間かけて滴下し、80℃で3時間重合反応を行い、ブロック共重合体を得た。
【0065】
ブロック共重合体は仕込み単量体の重合転化率100%、固形分35.5%、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比が50/50、親水性重合体部分中の窒素原子含有ビニル系単量体の重量割合が100%、親水性重合体部分中の架橋官能基を有するビニル系単量体の重量割合が10.0%であった。
〔CO(CH2)4COO(C2H4O)3CO(CH2) 4COOO〕10 ・・・(6)
(参考例2、グラフト共重合体の製造)
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレンレングリコールモノメチルエーテル500gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら85℃に加熱した。ここに重合開始剤としてのt−ブチルペルオキシオクタノエート1gと下記の式(7)で示される過酸化結合を有するビニル系単量体4g、親水性重合体部分に形成される水溶性ビニル系単量体としてのN−アクロイルモルホリン63gとメトキシジエチレングリコールメタクリレート25g、架橋官能基を有するビニル系単量体としての2−ヒドロキシエチルメタクリレート28g、N−メチロールアクリルアミド15g、及びメチルメタクリレート16gを溶解した混合液を2時間を要して滴下した。さらに、2時間重合反応を行ってグラフト共重合体の前駆体を合成した。
【0066】
その後、疎水性重合体部分を形成する非水溶性ビニル系単量体としてのメチルメタクリレート57gとアクリル酸6gの混合液を1時間を要して滴下し、110℃で5時間重合反応を行い、グラフト共重合体を得た。
【0067】
グラフト共重合体は仕込み単量体の重合転化率100%、固形分30.0%、親水性重合体部分と疎水性重合体部分との重量比が70/30、親水性重合体部分中の窒素原子含有ビニル系単量体の重量割合が53.1%、親水性重合体部分中の架橋官能基を有するビニル系単量体の重量割合は29.3%であった。
CH2=CHCH2OCOOOC(CH3)3 ・・・(7)
(参考例3、ランダム共重合体の製造)
温度計、撹拌装置を備えた反応器に有機溶剤としてのプロピレンレングリコールモノメチルエーテル500gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら100℃に加熱した。ここに水溶性ビニル系単量体としてのN,N−ジメチルアクリルアミド145g、架橋官能基を有するビニル系単量体としてのN−メチロールアクリルアミド15gとメチルメタクリレート140g、重合開始剤としてのt−ブチルペルオキシオクタノエート6gを溶解した混合液を2時間を要して滴下した。さらに、2時間重合反応を行ってランダム共重合体を合成した。得られたランダム共重合体は仕込みモノマーの重合転化率100%、固形分38.0%であった。
(実施例1、防曇塗料組成物の製造)
参考例1で得られたブロック共重合体溶液140g、フッ素系界面活性剤としてのパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩(旭硝子(株)製、商品名:サーフロンS−121、フッ素系界面活性剤としての有効成分30%)0.02g、リン酸ジiso−ブチル0.05gを混合し防曇塗料組成物を得た。
【0068】
得られた防曇塗料組成物中の固形分の重量比は、ブロック共重合体/フッ素系界面活性剤/酸性リン酸アルキルエステル=100/0.012/0.1であった。
(実施例2〜6及び比較例1〜5、防曇塗料組成物の製造)
実施例2〜6及び比較例1〜5の防曇塗料を原料の種類や仕込量を変えること以外は、実施例1に準じた方法で製造した。それぞれの防曇塗料組成物の原料の種類や仕込量、製造結果を表1及び表2に示した。
【0069】
尚、表1及び表2における記号は次のことを意味している。
(界面活性剤)
a:パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩(旭硝子(株)製フッ素系界面活性剤、商品名:サーフロンS−121、有効成分30%)、
b:パーフルオロアルキルベタイン(旭硝子(株)製フッ素系界面活性剤、商品名:サーフロンS−131、有効成分30%)、
c:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(日本油脂(株)製炭化水素系界面活性剤、商品名:ラピゾールA−80、有効成分80%)、
d:ジメチルアルキルヤシベタイン(日本油脂(株)製炭化水素系界面活性剤、商品名:アノンBF、有効成分100%)
(酸硬化触媒)
I:リン酸ジiso−ブチルエステル、
II:リン酸モノ2−エチルヘキシルエステル、
III:p−トルエンスルホン酸一水和物、
IV:ドデシルベンゼンスルホン酸。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
(実施例7〜12及び比較例6〜10)
前記実施例1〜6又は比較例1〜5で得られた防曇塗料組成物に溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを加えて、20℃の温度で粘度計フォードカップ#4で15秒となるように粘度調整を行った。さらに乾燥膜厚で3〜4μmとなるようにスプレー塗装により透明ポリカーボネート樹脂板に塗装を行い、40℃の温度で1分間乾燥を行った後、それぞれの条件で加熱硬化を行った。このようにして得られたそれぞれの塗膜について、以下に示す評価方法により塗膜性能を評価した結果を表3及び表4に示した。また、表3及び表4における塗膜性能試験条件と評価方法は以下の通りである。
【0072】
塗膜外観:塗膜の外観を目視で評価した。平滑で異常が認められないものを○、わずかに平滑性が劣るものを△、塗膜が平滑でなくオレンジピール状(柚子肌状)のものを×とした。
【0073】
呼気防曇性:常温で呼気を吹きかけ、曇りの有無を目視で評価した。全く曇らないものを○、一瞬わずかに曇るがすぐに曇りが晴れるものを△、曇りが認められるものを×とした。
【0074】
スチーム防曇性:40℃スチームを塗膜に連続照射し、照射から3分間と照射1時間後の曇りの有無を目視で評価した。曇りが認められず平滑な水膜が形成されているものを○、曇りは認められないが水膜が平滑ではなく荒れた状態のものを△、曇りが認められるものを×とした。
【0075】
密着性:JIS K 5400 8.5.1に準拠して塗膜の剥離の有無を目視で評価した。全く剥離が認められないものを○、剥離が認められるものを×とした。
【0076】
耐水性:表面に前記塗膜が形成された塗装板を40℃温水に1時間浸漬し、室温にて1時間乾燥した後の外観を目視で評価した。初期塗膜の状態と全く同じで変化が認められないものを○、白化やシミ、塗膜の溶解が認められるものを×とした。
【0077】
流水汚れ:塗装板を約45°の角度に置き、塗装板上部から塗膜上に蒸留水を数滴たらし、直ちに塗装板を60℃の乾燥機内に入れて10分間乾燥させた後の外観を目視で評価した。水が流れた跡が全く認められないものを○、わずかに汚れが認められるものを△、はっきりと汚れとして認められるものを×とした。
【0078】
前述した実施例、比較例をまとめると以下の通りとなる。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
表3に示したように、実施例7〜12は実施形態の防曇塗料組成物(実施例1〜6)を使用した例であり、これらは塗膜外観、防曇性、密着性、耐水性に優れ、また流水汚れが発生しないことが確認された。
【0081】
これに対して比較例6のように、ランダム共重合体を使用した場合には被塗装物に対する密着性が著しく劣っていた。比較例7、8のように、フッ素系界面活性剤以外の炭化水素系界面活性剤を使用した場合には、流水汚れが発生する点で問題があった。比較例7ではさらに炭化水素系界面活性剤の配合量が少ないことから防曇性が若干劣り、さらにレベリング剤も配合されていないことから塗膜の平滑性も若干劣る傾向があった。比較例9、10のように、酸性リン酸アルキルエステル以外の酸硬化触媒を使用した場合には、流水汚れが顕著に発生する点で問題があった。
【0082】
流水による汚れ発生は界面活性剤と酸硬化触媒によるところが大きいものと推測される。流水汚れは極薄膜の水膜が形成されてこれが乾燥した程度では発生しないが、水膜が形成されてその水が局部的に流れ落ちた際に流水部分に界面活性剤が濃縮され、これが乾燥することで多量の界面活性剤の析出が見られて汚れとして目立ち易くなるものと推測される。防曇性を発現しながら流水汚れを発生させないためには、界面活性剤の含有量はできるだけ少ない程良いが、炭化水素系界面活性剤では優れた防曇性を発現するためには多量の配合を必要とし、そのために流水汚れの問題が発生してしまう。これに対してフッ素系界面活性剤の場合は界面活性作用が高く、極少量の含有量で優れた防曇性を発現でき、流水によりフッ素系界面活性剤が溶解、析出しても配合量が極微量なために結果として汚れが目立ち難い。
【0083】
さらにフッ素系界面活性剤は優れた防曇性を発現する以外にレベリング剤としての機能をも有し、特にフッ素系界面活性剤以外に塗料の表面張力を低下させるようなレベリング剤を添加しなくとも、被塗装物への良好な濡れ性と平滑な塗膜を与えることができる。
【0084】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することもできる。
・ 防曇塗料組成物に前記ブロック共重合体とグラフト共重合体との双方を含有させるように構成することもできる。
【0085】
・ フッ素系界面活性剤として、非イオン性のものを陰イオン性、陽イオン性又は両性のものと併用することもできる。
・ 被塗装物として、金属、セラミック、ガラス、木材等を用いることもできる。
【0086】
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
(1) フッ素系界面活性剤は、0.5重量%の水溶液中でpH9以下を示すものである請求項1に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合には、酸性リン酸アルキルエステルの酸硬化触媒としての性質を失活させ難く、防曇塗料組成物の硬化性を良好に維持することができる。
(2) パーフルオロアルキル基の炭素数は4〜12である請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、フッ素系界面活性剤を極少量配合するだけで、得られる塗膜に優れた防曇性とレベリング性を発現させることができる。
(3) フッ素系界面活性剤の配合量は、ブロック又はグラフト共重合体に対して0.01〜2重量%である請求項1、請求項2及び上記技術的思想(1)〜(3)のいずれか一項に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合には、フッ素系界面活性剤を極少量使用するだけで、流水汚れを確実に抑制することができるとともに、塗膜の防曇性を維持し、塗膜のレベリング性を発現させて外観を良好にすることができる。
(4) ブロック又はグラフト共重合体中の親水性重合体部分を形成する単量体として、炭素数1〜4の直鎖又は分岐状の低級アルキル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを含有する請求項1又は請求項2に記載の防曇塗料組成物。このように構成した場合、塗膜の硬度を高めることができる。
【0087】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば次のような効果を奏することができる。
第1の発明の防曇塗料組成物によれば、良好な防曇性と密着性が維持され、表面に水が流れ落ちて乾燥した場合に流水汚れの発生が抑制された塗膜を形成することができる。
【0088】
第2の発明の防曇塗料組成物によれば、第1の発明の効果に加え、極少量の含有量で塗膜の防曇性を向上させることができるとともに、塗膜に良好なレベリング性を発現させることができる。
【0089】
第3の発明の塗装物品によれば、第1又は第2の発明の防曇塗料組成物を被塗装物に塗装し、加熱するという簡単な操作で、第1又は第2の発明の効果を得ることができる。
Claims (3)
- 架橋官能基を有するビニル系単量体及び水溶性ビニル系単量体から形成される親水性重合体部分並びに非水溶性ビニル系単量体から形成される疎水性重合体部分から構成されるブロック又はグラフト共重合体と、フッ素系界面活性剤と、酸性リン酸アルキルエステルとを含有することを特徴とする防曇塗料組成物。
- フッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基を疎水基として含有し、極性基を親水基として含有する分子構造を有し、陰イオン性、陽イオン性又は両性を示すものである請求項1に記載の防曇塗料組成物。
- 請求項1又は請求項2に記載の防曇塗料組成物を被塗装物に塗装し、加熱硬化して得られることを特徴とする塗装物品。
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