JP4341315B2 - 薄膜形成装置及び薄膜形成方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜形成装置に係り、特に、大気圧プラズマ放電処理を用いて薄膜を基材上に形成する薄膜形成装置及び薄膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、LSI、半導体、表示デバイス、磁気記録デバイス、光電変換デバイス、太陽電池、ジョセフソンデバイス、光熱変換デバイス等の各種製品には、基材上に高性能性の薄膜を設けた材料が用いられている。薄膜を基材上に形成する手法には、塗布に代表される湿式製膜方法や、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等に代表される乾式製膜方法、あるいは大気圧プラズマ放電処理を利用した大気圧プラズマ製膜方法等が挙げられるが、近年では、高い生産性を維持しつつ高品質な薄膜を形成できる大気圧プラズマ製膜方法(例えば特許文献1参照)の使用が特に望まれている。
【0003】
この大気圧プラズマ製膜方法を実現する薄膜形成装置には、薄膜形成のしかたによって種々の方式が適用されている。この方式としては、例えば、一対の電極間内で発生した放電プラズマに晒されるように基材を電極間内に配置して薄膜を形成するダイレクトプラズマ方式や、薄膜形成ガスと放電ガスとからなる混合ガスを一対の電極間に供給して放電プラズマを発生させてから基材上に噴射して薄膜を形成するリモートプラズマ方式(プラズマジェット方式)、或いは放電ガスを一対の電極間に供給して放電プラズマを基材上に噴射するとともに、基材上の放電プラズマに薄膜形成ガスを供給することで薄膜を形成する新プラズマジェット方式等が挙げられる。ここで、いずれの方式であっても一対の電極間がガスの流路として利用されているために、例えば図13に示す薄膜形成装置100のような構成が適用されている。薄膜形成装置100には、互いに対向するように配置された一対の電極101及びこれら一対の電極間に原料ガス、放電ガス、混合ガスなどの薄膜形成用のガスを供給するガス供給部102が設けられている。そして、ガス供給部102からガスを供給して両電極101に電界を印加させれば、放電プラズマが発生するようになっている。ここで、基材は、電極間内部や、或いは電極間を臨む位置に配置されているために、放電プラズマの発生によって放電プラズマに晒されることになり、表面上に薄膜が形成されることになる。
【0004】
ところで、ガス供給部102から供給されるガスが、基材や電極間以外の部分に流出してしまうと薄膜形成装置内部が汚染されてしまうために、このガス流出を防止しなければならない。このため、例えば電極101の上部周辺に、ガス供給部102を囲むようにガス遮断壁103を設置して、ガスの流出を防止する手法が開発されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−82595号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のようにガス遮断壁103を設けたとしてもガスが電極間を通過する際にその脇から流出してしまい、薄膜形成装置内部が少なからずも汚染されてしまうのが現状であった。また、電極の汚れを防止するために、クリーニングフィルムによって電極表面を覆うことも考えられているが、そうした場合には、電極端部のガスシールを完全とすることは困難であり、ガス漏れを抑制することができなかった。
【0007】
本発明の課題は、ガスの流出を防止して装置内部の汚染を抑制することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明における薄膜形成装置は、
互いに隙間を空けて対向し、前記隙間をガスの流路とする一対の電極と、
前記電極の軸方向に沿って配列されて前記流路を臨む複数の噴出口を有し、前記噴出口から前記流路にガスを供給するガス供給部と、
汚れの付着を防止するクリーニングフィルムを、前記電極の表面の少なくとも1部に密着させて搬送するフィルム用搬送機構とを備え、
前記複数の噴出口のそれぞれに対して、ガスを噴出する際の噴出条件を設定でき、
前記複数の噴出口のうち、両端部に位置する少なくとも1つ以上の噴出口に対する前記噴出条件は、薄膜形成用の原料を含まない未原料ガスを噴出するように設定されるとともに、前記両端部に位置する少なくとも1つ以上の噴出口以外の噴出口に対する噴出条件は、薄膜形成用のガスを含む原料ガスを噴出するように設定されていることを特徴としている。
【0009】
請求項1記載の発明によれば、複数の噴出口のそれぞれに対して、噴出条件を設定できるので、薄膜形成用の原料を含んだガスが流路から流出しにくくなるように各噴出条件を設定することが可能となる。これにより、ガスの流出を防止して装置内部の汚染を抑制することができる。
また、請求項記載の発明によれば、両端部に位置する少なくとも1つ以上の噴出口に対する噴出条件が、薄膜形成用の原料を含まない未原料ガスを噴出するように設定されているので、これら以外の噴出口から噴出される原料ガスは、未原料ガスによって遮られることになり、汚染の原因でもある薄膜形成用の原料の流出を防止することができる。
【0012】
請求項記載の発明は、請求項1記載の薄膜形成装置において、
前記電極の少なくとも1側方に配置されて、前記流路から流出するガスを吸引する少なくとも1つのガス吸引部を備えることを特徴としている。
【0013】
請求項記載の発明によれば、電極の少なくとも1側方にはガス吸引部が少なくとも1つ設けられているので、このガス吸引部によって電極の脇から流出するガスを吸引することができ、薄膜形成装置内部の汚染を抑制することができる。
【0014】
請求項記載の発明は、請求項記載の薄膜形成装置において、
前記少なくとも1つのガス吸引部のそれぞれに対して、ガスを吸引する際の吸引条件を設定できることを特徴としている。
【0015】
請求項記載の発明によれば、少なくとも1つのガス吸引部のそれぞれに対して、吸引条件を設定できるので、流出したガスをより効率的に吸引するように各吸引条件を設定することが可能となる。これにより装置内部の汚染を抑制することができる。
【0016】
請求項記載の発明は、請求項1〜のいずれか一項に記載の薄膜形成装置において、
前記電極の隙間の両端部には、前記隙間を埋めるように前記電極に密着する充填材が設けられていることを特徴としている。
【0017】
請求項記載の発明によれば、電極の隙間の両端部に充填材が設けられているので、この充填材によってガスが遮蔽されて、電極の隙間からのガス流出を防止することができる。
【0018】
請求項記載の発明は、請求項1〜のいずれか一項に記載の薄膜形成装置において、
前記フィルム用搬送機構は、前記クリーニングフィルムを前記ガス供給部の少なくとも一部に接触させ、前記電極の表面まで搬送することを特徴としている。
【0019】
請求項記載の発明によれば、クリーニングフィルムがガス供給部の少なくとも一部に接触されて電極の表面まで搬送されるので、ガス供給部から電極間までの空間は、クリーニングフィルムによって仕切られることになって、ガス供給部から供給されたガスが、電極間に到達するまでに流出することを防止できる。
【0020】
請求項記載の発明は、
互いに隙間を空けて対向し、前記隙間をガスの流路とする一対の電極と、
前記電極の軸方向に沿って配列されて前記流路を臨む複数の噴出口を有し、前記噴出口から前記流路にガスを供給するガス供給部と
汚れの付着を防止するクリーニングフィルムを、前記電極の表面の少なくとも1部に密着させて搬送するフィルム用搬送機構とを備える薄膜形成装置で用いられる薄膜形成方法であって、
前記複数の噴出口のそれぞれに対して、ガスを噴出する際の噴出条件を設定し、
前記複数の噴出口のうち、両端部に位置する少なくとも1つ以上の噴出口に対する前記噴出条件を、薄膜形成用の原料を含まない未原料ガスを噴出するように設定するとともに、前記両端部に位置する少なくとも1つ以上の噴出口以外の噴出口に対する噴出条件を、薄膜形成用のガスを含む原料ガスを噴出するように設定することを特徴としている。
【0021】
請求項記載の発明によれば、請求項1記載の発明と同等の作用、効果を奏することができる。
【0024】
請求項記載の発明は、請求項6記載の薄膜形成方法において、
前記薄膜形成装置は、前記電極の少なくとも1側方に配置されてガスを吸引する少なくとも1つのガス吸引部とを備え
前記少なくとも1つのガス吸引部によって、前記流路から流出するガスを吸引することを特徴としている。
【0025】
請求項記載の発明によれば、請求項記載の発明と同等の作用、効果を奏することができる。
【0026】
請求項記載の発明は、請求項記載の薄膜形成方法において、
前記少なくとも1つのガス吸引部のそれぞれに対して、ガスを吸引する際の吸引条件を設定することを特徴としている。
【0027】
請求項記載の発明によれば、請求項記載の発明と同等の作用、効果を奏することができる。
【0028】
請求項記載の発明は、請求項6〜8のいずれか一項に記載の薄膜形成方法において、
前記電極の隙間の両端部に、前記隙間を埋めるように前記電極に密着する充填材を設けることを特徴としている。
【0029】
請求項記載の発明によれば、請求項記載の発明と同等の効果を奏することができる。
【0030】
請求項10記載の発明は、請求項6〜9のいずれか一項に記載の薄膜形成方法において、
前記フィルム用搬送機構によって、前記クリーニングフィルムは前記ガス供給部の少なくとも一部に接触されて、前記電極の表面まで搬送されることを特徴としている。
【0031】
請求項10記載の発明によれば、請求項記載の発明と同等の作用、効果を奏することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の第1の実施の形態について説明する。図1は、薄膜形成装置1の概略構成を表すの側面図である。
【0033】
この薄膜形成装置1は、大気圧又は大気圧近傍の圧力下で、放電プラズマを発生させることによってガスを活性化し、その活性化したガスに基材を晒して、基材上に薄膜を形成するプラズマジェット方式の薄膜形成装置である。薄膜形成装置1には、図1に示すように、シート状の基材2をその周面に密着させて搬送する支持部材10が回転自在に設けられている。
【0034】
図2は、支持部材10を表す斜視図であり、この支持部材10は、導電性の金属質母材11の表面に誘電体12が被覆されたロール状誘電部材である。支持部材10の内部には、表面温度を調節するため、例えば、水やシリコンオイル等の温度調節用の媒体が循環できるようになっており、この循環部分には、図1に示すように、配管3を介して温度調節装置4が接続されている。また、支持部材10の周縁には、基材2を支持部材10の周面に密着させて搬送するために基材用搬送機構13と、基材2上に薄膜を形成するための複数の薄膜形成ユニット20が設けられている。
【0035】
基材用搬送機構13には、基材2を支持部材10の周面に案内する第1ガイドローラ14及びニップローラ15と、前記周面に密着した基材2を剥がして、次行程まで案内する第2ガイドローラ16と、第1ガイドローラ14、第2ガイドローラ16及び支持部材10を連動するように回転させる駆動源51(図10参照)とが設けられている。
【0036】
図3は薄膜形成ユニット20の正面図であり、図4は図3のX−X断面を表す断面図である。薄膜形成ユニット20には、支持部材10の周面に間隔aを空けて対向し、支持部材10よりも幅の大きい一対の電極21A,21Bが配置されている。また、これら一対の電極21A,21Bは、互いに隙間bを空けて配置されている。この隙間bが放電空間Bであり、放電空間Bを成す電極21A,21Bの対向する面をそれぞれ放電面21a,21bとする。
【0037】
図5は、電極21A,21Bを表す斜視図であり、電極21A,21Bは導電性の金属質母材211の表面に誘電体212が被覆された四角柱状電極である。この電極21A,21Bの角部215は円弧状に形成されている。つまり、電極21A,21Bの四面は角部215を介して連続していることから、放電面21a,21b及び放電面21a,21b以外の表面も連続することになる。電極21A,21Bは内部が中空となっており、この中空部分213には、図1に示すように、配管5を介して温度調節装置6が接続されている。中空部分213に温度調節用の媒体を流すことにより、電極表面の温度調節ができるようになっている。そして、各薄膜形成ユニット20の電極21A,21Bには、フィルタ22を介して電源23が接続されている。
【0038】
また、薄膜形成ユニット20には、図4に示すように、一対の電極21A,21Bの隙間bに向けてガスを噴出するガス供給部24が、前記隙間bに対向するように配置されている。つまり、隙間bがガス供給部24から供給されたガスを、支持部材10上の基材2まで案内する流路として機能するようになっている。
【0039】
図6は、ガス供給部24を表す斜視図である。図6に示すようにガス供給部24の先端部には、各ガスを噴出する複数の噴出口241、242、243が直線状に配列されている。つまり、これらの噴出口241、242、243は、ガス供給部24が隙間bに対向するように配置された際に電極21A,21Bの軸方向に沿って配列されて隙間bを臨むことになる。
【0040】
ガス供給部24の後端部には、複数のガス管244、245、246が連結されていて、これらのガス管244、245、246には、ガス管244、245、246内部を流れるガスの流量や流速、ガス組成、濃度などを調整するガス調整部247(図10参照)を介して、それぞれ異なるガスを貯留する複数のガスタンク(図示省略)が連結されている。つまり、ガス調整部247では、複数のガスタンクから流入してきたガスを、個別に或いは混合してガス組成や濃度を調整した後に、さらに流量や流速などを調整して各ガス管244、245、246に送るようになっている。
そして、これら複数のガスタンクのうち、少なくとも1つのガスタンクには薄膜形成用の原料を含んだ原料ガスが貯留されているとともに、さらに少なくとも1つのガスには、前記原料を含まない未原料ガスが貯留されている。そして、原料ガスが放電ガスを含有している場合には、電極21A,21Bに電界が印加された状態で原料ガスが放電空間Bに供給されれば、放電プラズマが発生し原料が活性化することになるが、原料ガスが放電ガスを含有していない場合には、放電ガスを貯留するガスタンクを設けなければならない。この場合、原料ガスと放電ガスとが、それぞれ別個に放電空間Bに供給されるが、放電空間B内で混合されるために、電極21A,21Bに電界を印加すれば、放電プラズマが発生し原料を活性化することができる。
【0041】
また、ガス供給部24の内部には、各ガス管244,245,246から供給されたガスが、噴出口241,242,243に到達するまでに混ざらないように、仕切板248,249が設置されている。
【0042】
薄膜形成ユニット20には、電極21A,21Bの汚れを防止するクリーニングフィルム27を電極21A,21Bに密着させながら連続的若しくは間欠的に搬送するフィルム用搬送機構30が、各電極21A,21Bに応じて設けられている。このフィルム用搬送機構30には、ガス供給部24の近傍で、クリーニングフィルム27を案内する第1フィルム用ガイドローラ31が設けられている。この第1フィルム用ガイドローラ31の上流側には、図示しないクリーニングフィルム27の巻き出しローラ若しくはクリーニングフィルム27の元巻が設けられている。
【0043】
また、ガス供給部24に対して、第1フィルム用ガイドローラ31よりも遠方には、第2フィルム用ガイドローラ32を介してクリーニングフィルム27を巻き取る巻取部29(図10参照)が設けられている。第1フィルム用ガイドローラ31、第2フィルム用ガイドローラ32及びクリーニングフィルム27の全幅は、図3に示すように、支持部材10の全幅よりも長く設定されている。具体的には、クリーニングフィルム27の全幅長は、両端が支持部材10の両端から1〜100mmではみ出すように設定されていることが好ましい。これにより、クリーニングフィルム27が放電空間Bよりも大きくなる。つまり電極21A,21Bは、クリーニングフィルム27に覆われることにより、放電プラズマに晒されなくなり、電極21A,21Bに対する汚れを防止できる。また、クリーニングフィルム27のエッジが放電空間B内に侵入しないために、放電集中によるアーク放電を防止できる。
【0044】
また、薄膜形成ユニット20には、クリーニングフィルム27が放電面21a,21bに接触する際に生じるツレや皺を防止するために、電極21A,21Bの放電面21a,21bに対してクリーニングフィルム27の搬送方向の上流側に、クリーニングフィルム27を加熱する加熱部材28が設けられている。
【0045】
つまり、クリーニングフィルム27は、フィルム用搬送機構30によって、巻出ローラから引き出された後、第1フィルム用ガイドローラ31に案内されて、ガス供給部24のノズル本体部25の周縁に接触した後に、加熱部材28の表面に接触して加熱されてから、電極21A,21Bの角部215を介して放電面21a,21bに接触し、電極21A,21Bの周方向に沿って搬送された後、第2フィルム用ガイドローラ32に案内されて、巻取部29で巻き取られるようになっている。この際、角部215が円弧状に形成されているので、クリーニングフィルム27が前記放電面21a以外の表面(角部215表面)から放電面21a,21bまで移動する際に引っかかることを防止でき、スムーズに搬送させることができる。
【0046】
そして、上記のように、クリーニングフィルム27とノズル本体部25とが接触しているので、ガス供給部24から放電空間Bまでの空間は、クリーニングフィルム27によって仕切られることになって、ガスが流路外に流れることを防止できる。
【0047】
図7は、電極21A,21B及びガス供給部24を表す側面図である。この図7に示すように電極21A,21Bの隙間bの両端部には、隙間bを埋めるように電極21A,21Bに密着する充填材40が設けられている。この充填材40は、放電プラズマが発生した際の温度に耐えうるだけの耐熱性を有するとともに、絶縁性を有する材料により形成されており、電極21A,21Bの放電面21a,21bを覆わない範囲に設置されている。
また、図7及び図3に示すように、電極21A,21Bの両端部には、ガスの流出を防ぐガス遮断壁41が、クリーニングフィルム27を挟むように立設している。そして、電極21A,21Bの両側方には、流路から流出したガスを吸引するガス吸引部42が設けられている。なお、ガス吸引部42を、電極21A,21Bの少なくとも1側方に、少なくとも1つ設けていれば、ガスの流出防止効果を得ることができる。
【0048】
図8は、ガス吸引部42を表す斜視図である。なお図8においては電極21Aに対するガス遮断壁41及び電極21A,21Bの他側方に配置されるガス吸引部42の図示を省略している。
【0049】
ガス吸引部42には、ガスを吸い込む吸込口部43と、吸込ガス管44を介して吸込口部43に連結される吸引ポンプ45(図10参照)とが設けられている。吸込口部43は、ガスを吸い込む吸込口431を有しているのであれば如何なる形状でもよい。図9は、吸込口部43の形状の種類を示す説明図である。図9(a)は、円形状の吸込口431aを有するチューブ形状の吸込口部43aを表している。図9(b)は、方形状の吸込口431bを有する箱形状の吸込口部43bを表している。図9(c)は、スリット形状の吸込口431cを有する略四角錐形状の吸込口部43cを表している。図9(d)は、円形状の吸込口431dを有する略円錐形状の吸込口部43dを表している。
【0050】
ここで、吸込口部43は、電極21A,21Bの側方で、充填材40及びガス供給部24によって形成される空間Yと、吸込口431とが対向するように配置されていて、空間Yから流出するガスを吸引するようになっている。なお、流出したガスを確実に吸引するために、吸込口431は空間Yを覆う大きさとなるように形成されていることが好ましい。
さらに、支持部材10及び電極21A,21Bによって形成される空間Zと、吸込口431とが対向するように吸込口部43を配置すれば、薄膜形成前に流出するガスも吸い込むことができる。
【0051】
薄膜形成装置1には、図10に示すように、各駆動部を制御する制御装置50が設けられている。制御装置50には、駆動源51、記憶部52、電源23、ガス調整部247、加熱部材28、温度調節装置4,6、巻取部29、吸引ポンプ45が電気的に接続されている。なお、制御装置50には、これら以外にも薄膜形成装置1の各駆動部などが接続されている。そして、制御装置50は、記憶部52中に書き込まれている制御プログラムや制御データに従い各種機器を制御するようになっている。
【0052】
次に、原料ガス及び未原料ガスについて説明する。なお、本実施形態で用いる原料ガスには放電ガスが含有されている場合を例示して説明するが、原料ガスに放電ガスが含有されておらす、放電ガスを単体で使用する場合においても以下に示す放電ガスと同様のものを使用することができる。
【0053】
原料ガスは、少なくとも放電ガス及び薄膜形成ガスを含有する混合ガスである。なお、これら以外にも添加ガスを加えてもよい。いずれの場合においても、放電ガスの量は、放電空間Bに供給する全ガス量に対して、90〜99.99体積%であることが好ましい。
【0054】
放電ガスとは、薄膜形成可能なグロー放電を起こすことのできるガスである。放電ガスとしては、窒素、希ガス、空気、水素ガス、酸素などがあり、これらを単独で放電ガスとして用いても、混合して用いてもかまわない。本実施形態では、比較的安価な窒素を用いている。この場合、放電ガスの50〜100体積%が窒素であることが好ましく、さらに窒素に混合させるガスとして希ガスを使用し、放電ガスの50%未満を含有させることが好ましい。
【0055】
薄膜形成ガスとしては、例えば、有機金属化合物、ハロゲン金属化合物、金属水素化合物等が挙げられる。
有機金属化合物としては、以下の一般式(I)で示すものが好ましい。
一般式(I) R1xMR2yR3z式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、いずれも0または正の整数である。R1のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。R2のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基等が挙げられる。またアルキル基の水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。R3のβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基としては、β−ジケトン錯体基として、例えば、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトンあるいはアセトアセトンともいう)、1,1,1,5,5,5−ヘキサメチル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン等が挙げられ、β−ケトカルボン酸エステル錯体基として、例えば、アセト酢酸メチルエステル、アセト酢酸エチルエステル、アセト酢酸プロピルエステル、トリメチルアセト酢酸エチル、トリフルオロアセト酢酸メチル等が挙げられ、β−ケトカルボン酸として、例えば、アセト酢酸、トリメチルアセト酢酸等が挙げられ、またケトオキシとして、例えば、アセトオキシ基(またはアセトキシ基)、プロピオニルオキシ基、ブチリロキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。これらの基の炭素原子数は、上記例有機金属化合物を含んで、18以下が好ましい。また例示にもあるように直鎖または分岐のもの、また水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。
【0056】
本発明において取り扱いの問題から、爆発の危険性の少ない有機金属化合物が好ましく、分子内に少なくとも1つ以上の酸素を有する有機金属化合物が好ましい。このようなものとしてR2のアルコキシ基を少なくとも1つを含有する有機金属化合物、またR3のβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基を少なくとも一つ有する有機金属化合物が好ましい。
【0057】
また、薄膜形成ガスに使用する有機金属化合物、ハロゲン金属化合物、金属水素化合物の金属として、例えば、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Ir、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が挙げられる。
【0058】
また、添加ガスを混合する場合においては、添加ガスとして、例えば、酸素、オゾン、過酸化水素、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アンモニア等が挙げられるが、酸素、一酸素化炭素及び水素が好ましく、これらから選択される成分を混合させるのが好ましい。その含有量はガス全量に対して0.01〜5体積%含有させることが好ましく、それによって反応促進され、かつ、緻密で良質な薄膜を形成することができる。
【0059】
未原料ガスとしては、薄膜の原料となる薄膜形成性ガスに含有される化合物を含まないガスが使用される。具体的には、上記した放電ガスや酸素、一酸化炭素、空気などが挙げられる。未原料ガスとして放電ガスを使用した場合には、放電空間B内で発生する放電プラズマを均一にすることができる。
【0060】
次に、基材2について説明する。基材2としては、板状、シート状またはフィルム状の平面形状のもの、あるいはレンズその他成形物等の立体形状のもの等の薄膜をその表面に形成できるものであれば特に限定はない。基材2が静置状態でも移送状態でもプラズマ状態の混合ガスに晒され、均一の薄膜が形成されるものであれば基材2の形態または材質には制限ない。材質的には、例えばガラス、樹脂、陶器、金属、非金属等様々のものを使用できる。具体的には、ガラスとしては、例えばガラス板やレンズ等、樹脂としては、例えば樹脂レンズ、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板等が挙げられる。
【0061】
樹脂フィルムは本発明に係る薄膜形成装置1の電極間または電極の近傍を連続的に移送させて透明導電膜を形成することができるので、スパッタリングのような真空系のバッチ式でない、大量生産に向き、連続的な生産性の高い生産方式として好適である。
【0062】
樹脂からなる基材2の材質としては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのようなセルロースエステル、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートのようなポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールコポリマー、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリメチルアクリレート、アクリレートコポリマー等が挙げられる。
【0063】
また、本発明に用いられる基材2は、厚さが10〜1000μm、より好ましくは40〜200μmのフィルム状のものが使用されている。
【0064】
次に、クリーニングフィルム27について説明する。
クリーニングフィルム27は、例えば樹脂フィルム、紙、布、不織布等から形成されている。樹脂としては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのようなセルロースエステル、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートのようなポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールコポリマー、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリメチルアクリレート、アクリレートコポリマー等が挙げられる。そして、さらに好ましくは、安価で生産性に優れるポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)及びPETを主体とする樹脂フィルムである。また本発明に用いられるクリーニングフィルム27は、厚みが10〜1000μm、より好ましくは20〜100μmのフイルム状のものが使用されている。また、また材質に求められる性質としては、大気圧プラズマ処理を行っている最中は非常に高温となるために、耐熱性すなわち熱的寸法安定性に優れたものがよい。さらに熱的寸法安定性を向上させるためにアニール処理等を施したものがより好ましい。
【0065】
次に、支持部材10及び電極21A,21Bを形成する金属質母材11,211及び誘電体12,212について説明する。
金属質母材11,211と誘電体12,212と組み合わせとしては、両者の間に特性が合うものが好ましく、その一つの特性として、金属質母材11,211と誘電体12,212との線熱膨張係数の差が10×10-6/℃以下となる組み合わせのものである。好ましくは8×10-6/℃以下、更に好ましくは5×10-6/℃以下、更に好ましくは2×10-6/℃以下である。なお、線熱膨張係数とは、周知の材料特有の物性値である。
【0066】
線熱膨張係数の差が、この範囲にある導電性の金属質母材と誘電体との組み合わせとしては、例えば、▲1▼金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がセラミックス溶射被膜、▲2▼金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がガラスライニング、▲3▼金属質母材がステンレススティールで、誘電体がセラミックス溶射被膜、▲4▼金属質母材がステンレススティールで、誘電体がガラスライニング、▲5▼金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がセラミックス溶射被膜、▲6▼金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がガラスライニング、▲7▼金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がセラミックス溶射皮膜、▲8▼金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がガラスライニング、等が挙げられる。線熱膨張係数の差という観点では、上記▲1▼または▲2▼および▲5▼〜▲8▼が好ましく、特に▲1▼が好ましい。
【0067】
そして、金属質母材11,211は、チタンまたはチタン合金が特に有用である。金属質母材11,211をチタンまたはチタン合金とし、誘電体12,212を上記組み合わせに応じる素材とすることにより、使用中の電極の劣化、特にひび割れ、剥がれ、脱落等がなく、過酷な条件での長時間の使用に耐えることが可能となる。
【0068】
本発明に有用な電極の金属質母材11,211は、チタンを70質量%以上含有するチタン合金またはチタン金属である。本発明において、チタン合金またはチタン金属中のチタンの含有量は、70質量%以上であれば、問題なく使用できるが、好ましくは80質量%以上のチタンを含有しているものが好ましい。本発明に有用なチタン合金またはチタン金属は、工業用純チタン、耐食性チタン、高力チタン等として一般に使用されているものを用いることができる。工業用純チタンとしては、例えばTIA、TIB、TIC、TID等が挙げられ、何れも鉄原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、水素原子等を極僅か含有しているものであり、チタンの含有量は99質量%以上を有している。耐食性チタン合金としては、T15PBを好ましく用いることができ、上記含有原子の他に鉛を含有しており、チタン含有量は98質量%以上である。また、チタン合金としては、鉛を除く上記の原子の他に、例えば、アルミニウムを含有し、その他バナジウムや錫を含有しているT64、T325、T525、TA3等を好ましく用いることができ、これらのチタン含有量としては、85質量%以上を含有しているものである。これらのチタン合金またはチタン金属はステンレススティール、例えばAISI316に比べて、熱膨張係数が1/2程度小さく、金属質母材11,211としてチタン合金またはチタン金属の上に施された誘電体12,212との組み合わせがよく、高温、長時間での使用に耐えることができる。
【0069】
一方、誘電体12,212の求められる特性としては、具体的には、比誘電率が6〜45の無機化合物であることが好ましく、また、このような誘電体としては、例えば、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、あるいは、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス等のガラスライニング材等が挙げられる。この中では、セラミックスを溶射したものやガラスライニングにより設けたものが好ましい。特にアルミナを溶射して設けた誘電体12,212が好ましい。
【0070】
または、大電力に耐えうる仕様の一つとして、誘電体12,212の空隙率が10体積%以下、好ましくは8体積%以下であることで、好ましくは0体積%を越えて5体積%以下である。また、大電力に耐えうる別の好ましい仕様としては、誘電体12,212の厚みが0.5〜2mmであることである。この膜厚変動は、5%以下であることが望ましく、好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。
【0071】
次に、本実施形態の薄膜形成装置1の作用について説明する。
【0072】
先ず、薄膜形成の開始に伴って、制御装置50は、吸引ポンプ45を駆動させる。この際、制御装置50は、吸引時に効率的にガスを吸引できるように吸引条件を設定し、それを基に吸引ポンプ45を制御している。ここで、吸引条件とは、吸引流量、吸引流速、雰囲気圧力などのことであり、吸引時においても安定した製膜を可能とする値に設定されていることが好ましい。これらの値は、実験やシミュレーションなどにより求められている。
【0073】
そして、制御装置50は、ガス供給部24からガスを噴出させて、放電空間Bにガスを供給させる。ここで、制御装置50は、隙間bから漏れる原料ガスを極力少なくするように、各噴出口241,242,243の噴出条件を設定し、その噴出条件に応じてガス調整部247を制御する。具体的には、両端部に位置する噴出口241,243の噴出条件は未原料ガスを噴出するように設定される。また、これら両端部に位置する噴出口241,243以外の噴出口242の噴出条件は原料ガスを噴出するように設定される。これにより、ガス供給部24からガスを放電空間Bに供給する際に、原料ガスと外気とが未原料ガスによって遮断されて、原料ガスが隙間bから流出することを防止できる。
なお、ここで挙げた噴出条件は、隙間bから流出する原料ガスを少なくするために最低限必要な条件であるが、さらに流出量を低減するにはガスの流量や流速、ガス組成、濃度の各条件を調整することが好ましい。これらの条件は実験やシミュレーションなどにより求められている。
【0074】
そして、ガス供給部24から噴出されたガスは、クリーニングフィルム27により仕切られた空間を介して、一対の電極21A,21Bにより形成された放電空間Bにまで至る。この際、ガスが流路から流出したとしても、そのガスのほとんどは未原料ガスであるために装置内部に与える影響は僅かである。さらに、流出したガス内に原料ガスが含まれていたとしてもガス吸引部42が吸引するので装置内部を汚染することを防止できる。
【0075】
放電空間Bにガスが供給されると、制御装置50は、駆動源51を制御して、第1ガイドローラ14、第2ガイドローラ16及び支持部材10を回転させて、基材2を支持部材10の周面に密着させて搬送させるとともに、巻取部29を制御して、クリーニングフィルム27を電極21A,21Bに表面に密着させて搬送させる。
【0076】
基材2の搬送が開始されると、制御装置50は、電源23をONにして、電極21A,21Bに電界を印加し、放電空間Bに放電プラズマを発生させる。放電プラズマは、図4に示すように、ガス供給部24からの噴出力によって放電空間Bから基材2に向けて噴出される。放電プラズマが発生する空間をプラズマ空間Hといい、上述の噴出力により電極21A,21Bの放電面21a,21bから下方に向けてはみ出すことになる。
【0077】
そして、基材2が、電極21A,21Bから下方にはみ出したプラズマ空間H内を通過することで、基材2上には薄膜が形成される。プラズマ放電処理中の基材2の温度によっては、得られる薄膜の物性や組成が変化する場合もあるので、薄膜形成中においても、温度調節装置4によって温度制御された媒体を支持部材10内に循環させて、支持部材10の表面温度を制御し、基材2の温度を適宜調節することが好ましい。ここで、温度調節装置4は、基材2が所定の性能を発揮できる温度となるように、温度調節用の媒体を20℃〜300℃、好ましくは80℃〜100℃に温度調節している。一方、温度調節装置6においても、温度調節用の媒体を20℃〜300℃、好ましくは80℃〜100℃に温度調節する。ただし、下限温度としては、使用するガスの気化条件温度を下回らないように前記媒体を温度調節しなければならない。
そして、薄膜が形成された基材2は、ガイドローラ16を介して次行程まで搬送される。
【0078】
以上のように、本実施形態の薄膜形成装置1によれば、複数の噴出口241,242,243のそれぞれに対して、噴出条件を設定できるので、薄膜形成用の原料を含んだガスが流路から流出しにくくなるように各噴出条件を設定することが可能となる。これにより、ガスの流出を防止して装置内部の汚染を抑制することができる。
また、電極21A,21Bの両側方にはガス吸引部42が設けられているので、このガス吸引部42によって電極21A,21Bの脇から流出するガスを吸引することができ、薄膜形成装置1内部の汚染を抑制することができる。
【0079】
なお、本発明は上記実施形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
例えば、本実施形態では、支持部材10に支持された基材2に対して、活性化したガスを噴出することにより薄膜を形成するプラズマジェット方式の薄膜形成装置を例示したが、例えば、ダイレクトプラズマ方式の薄膜形成装置や新プラズマジェット方式の薄膜形成装置であっても適用可能である。
【0080】
先ず、ダイレクトプラズマ方式の薄膜形成装置について図11を参照にして説明するが、この薄膜形成装置においては、上記実施形態の薄膜形成装置1における支持部材を電極として機能させたものである。このため、以下の説明では上記実施形態の薄膜形成装置1と同一部分においては同一符号を付して説明を省略する。
【0081】
図12は、ダイレクトプラズマ方式の薄膜形成装置に備わる薄膜形成ユニット20Aを表す側面図である。この薄膜形成ユニット20Aに備わる支持部材10Aは、フィルタ8を介して電源9が接続されており、基材2を搬送するとともに電極として機能し、電極21A,21Bの支持部材10Aに対向する面21c,21dが放電面として機能するようになっている。つまり、ガス供給部24からガスを噴出して、支持部材10Aと電極21A,21Bとの間隔aにガスを充満させ、支持部材10A及び電極21A,21Bに電界を印加すれば、この間隔a内で放電プラズマが発生する。そして、プラズマ空間h内には基材2が配置されているので、基材2は活性化したガスに晒されてその表面に薄膜が形成されるのである。
【0082】
次に新プラズマジェット方式の薄膜形成装置について図12を参照にして説明する。ここでは、薄膜形成ガスを含む混合ガスと薄膜形成ガスを含まない放電ガスとをそれぞれ個別に基材に向けて供給して、基材上に薄膜を形成する新プラズマジェット方式の薄膜形成装置を例示して説明する。なお、以下の説明において、上記実施形態の薄膜形成装置1と共通の構成については、同一の符号を付して説明する。
【0083】
図12は、新プラズマジェット方式の薄膜形成装置に備わる薄膜形成ユニット60を表す側面図である。薄膜形成ユニット60には、原料ガス及び未原料ガスを基材2に向けて供給する薄膜形成ガス供給部61が設けられている。また、薄膜形成ユニット60には、薄膜形成ガス供給部61の側方に配置されて、放電ガス及び未原料ガスを基材2に向けて供給する2つの放電ガス供給部62が設けられている。なお、薄膜ガス供給部61及び放電ガス供給部62の基本構成は、供給するガスが異なるだけで上記実施形態のガス供給部24と同じである。
【0084】
これら薄膜形成ガス供給部61及び放電ガス供給部62と支持部材10との間には、薄膜形成ガス供給部61から供給された薄膜形成ガスを基材2まで案内する一対の第1電極63A,63Bが設けられている。この第1電極63A,63Bには、第1フィルタ(図示省略)を介して第1電源(図示省略)が接続されている。第1電極63A,63Bは、上記した電極21A,21Bと同様に導電性の金属質母材の表面に誘電体が被覆されて、三角柱形状に形成されている。そして、第1電極63A,63Bは、互いに斜辺面63C,63Dを外側に向けて隙間Cを空けるように対向している。この隙間Cを形成する面を対向面63E,63Fとし、隙間Cが薄膜形成ガス供給部61から噴出されるガスを支持部材10上の基材2まで案内する薄膜形成ガス用流路となっている。
【0085】
第1電極63A,63Bにおける薄膜形成ガス用流路の反対側には、放電ガス供給部62から供給された放電ガスを基材2まで案内するための第2電極64A,64Bが設けられている。この第2電極64A,64Bには、第2フィルタ(図示省略)を介して第2電源(図示省略)が接続されている。第2電極64A,64Bは、上記した第1電極63A,63Bと同様に導電性の金属質母材の表面に誘電体が被覆されて、角部が円弧状の略三角柱形状に形成されている。そして、第2電極64A,64Bは、その斜辺面64C,64Dと、第1電極63A,63Bの斜辺面63C,63Dとが隙間Dを空けて対向し、かつ底面64E,64Dと、支持部材10の表面とが間隔Eを空けて対向するように配置されている。ここで隙間Dが放電ガス供給部62から噴出されるガスを支持部材10上の基材2まで案内する放電ガス用流路となっている。
そして、この放電ガス用流路を形成する第1電極63A,63B及び第2電極64A,64Bの斜辺面63C,63D,64C,64Dは、放電面として機能するために、この放電ガス用流路が放電空間Fを兼ね、放電プラズマを発生するようになっている。そして、放電ガス用流路と薄膜形成ガス用流路とは、出口付近で合流するようになっているために、放電空間Fで発生した放電プラズマが薄膜形成ガスを活性化して、基材2上に薄膜を形成するようになっている。
【0086】
また、本実施形態では、制御装置50が噴出条件を設定する構成を例示して説明しているが、薄膜形成装置自体の初期設定として、隙間bから流出する原料ガスが少なくなるように噴出条件を設定しておいてもよい。
【0087】
【実施例】
[電極]
電極21A,21Bは、40mm×40mmの略角柱形状であるチタン合金T64製の電極である。各電極21A,21Bが対向する面には大気プラズマ法により高密度、高密着性のアルミナ溶射膜が被覆された後に、テトラメトキシシランを酢酸エチルで希釈した溶液が塗布乾燥されている。さらに、紫外線照射により硬化され封孔処理が施されている。その後被覆された誘電体表面を研磨し、平滑にしてRmax5μmとなるように加工されている。
ここで、電極21A,21Bは、放電面21a,21bの曲率がR20mm〜R2000mmの範囲に、角部215の曲率がR1mm〜R20mmの範囲に収まるように誘電体が被覆されている。なお、角部215の曲率において好ましい範囲は、R3mm〜R8mmである。具体的に本実施例における電極21A,21Bは、放電面21a,21bの曲率がR500mm、角部215の曲率がR5mmとなるように、誘電体が被覆されている。
【0088】
[薄膜形成装置]
上記実施形態における薄膜形成装置1を使用し、支持部材10及び電極21A,21Bの間隔aを1mmとなるように両者を配置した。ここで、原料ガスの組成は、放電ガス(窒素)が97.9体積%、薄膜形成ガス(テトライソプロポキシチタン)が0.1体積%、添加ガス(水素)が2.0体積%である。未原料ガスとしては、酸素を用いた。
また、基材2としては、コニカタックKC8UXが使用され、クリーニングフィルム27としては、三菱化学ポリエステルフィルム社製若しくは帝人デュポンフィルム社製のPETフィルムが使用されている。
【0089】
比較例として、従来技術で例示した薄膜形成装置を使用して、実施例と同様の基材、ガスを用いて薄膜形成を行った。
複数回薄膜形成を繰り返した後、実施例と比較例とのそれぞれの装置内部の汚染度を比較した結果、実施例の方が遙かに低い汚染度になった。
【0090】
【発明の効果】
請求項1及び請求項記載の発明によれば、薄膜形成用の原料を含んだガスが流路から流出しにくくなるように各噴出条件を設定することが可能となる。これにより、ガスの流出を防止して装置内部の汚染を抑制することができる。
また、両端部に位置する少なくとも1つ以上の噴出口に対する噴出条件が、薄膜形成用の原料を含まない未原料ガスを噴出するように設定されているので、これら以外の噴出口から噴出される原料ガスは、未原料ガスによって遮られることになり、汚染の原因でもある薄膜形成用の原料の流出を防止することができる。
【0091】
請求項及び請求項記載の発明によれば、ガス吸引部によって電極の脇から流出するガスを吸引することができ、薄膜形成装置内部の汚染を抑制することができる。
請求項及び請求項記載の発明によれば、流出したガスをより効率的に吸引するように各吸引条件を設定することが可能となる。これにより装置内部の汚染を抑制することができる。
請求項及び請求項記載の発明によれば、充填材によってガスが遮蔽されて、電極の隙間からのガス流出を防止することができる。
請求項及び請求項10記載の発明によれば、ガス供給部から電極間までの空間は、クリーニングフィルムによって仕切られることになって、ガス供給部から供給されたガスが、電極間に到達するまでに流出することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態に係る薄膜形成装置の概略構成を表す側面図である。
【図2】図1の薄膜形成装置に備わる支持部材を表す斜視図である。
【図3】図1の薄膜形成装置に備わる薄膜形成ユニットを表す正面図である。
【図4】図3のX−X断面を表す断面図である。
【図5】図4の薄膜形成ユニットに備わる電極を表す斜視図である。
【図6】図3の薄膜形成ユニットに備わるガス供給部を表す斜視図である。
【図7】図5の電極及び図6のガス供給部を表す側面図である。
【図8】図1の薄膜形成装置に備わるガス吸引部を表す斜視図である。
【図9】図8のガス吸引部に備わるガス吸込口部の変形例を表す斜視図である。
【図10】図1の薄膜形成装置の主制御部分を表すブロック図である。
【図11】図4の薄膜形成ユニットの変形例を表す断面図である。
【図12】図4の薄膜形成ユニットの変形例を表す断面図である。
【図13】従来の混合ガス用薄膜形成装置の概略構成を表す側面図である。
【符号の説明】
1 薄膜形成装置
21A,21B 電極
24 ガス供給部
30 フィルム用搬送機構
40 充填材
42 ガス吸引部
241,242,243 噴出口

Claims (10)

  1. 互いに隙間を空けて対向し、前記隙間をガスの流路とする一対の電極と、
    前記電極の軸方向に沿って配列されて前記流路を臨む複数の噴出口を有し、前記噴出口から前記流路にガスを供給するガス供給部と、
    汚れの付着を防止するクリーニングフィルムを、前記電極の表面の少なくとも1部に密着させて搬送するフィルム用搬送機構とを備え、
    前記複数の噴出口のそれぞれに対して、ガスを噴出する際の噴出条件を設定でき
    前記複数の噴出口のうち、両端部に位置する少なくとも1つ以上の噴出口に対する前記噴出条件は、薄膜形成用の原料を含まない未原料ガスを噴出するように設定されるとともに、前記両端部に位置する少なくとも1つ以上の噴出口以外の噴出口に対する噴出条件は、薄膜形成用のガスを含む原料ガスを噴出するように設定されていることを特徴とする薄膜形成装置。
  2. 請求項1記載の薄膜形成装置において、
    前記電極の少なくとも1側方に配置されて、前記流路から流出するガスを吸引する少なくとも1つのガス吸引部を備えることを特徴とする薄膜形成装置。
  3. 請求項記載の薄膜形成装置において、
    前記少なくとも1つのガス吸引部のそれぞれに対して、ガスを吸引する際の吸引条件を設定できることを特徴とする薄膜形成装置。
  4. 請求項1〜のいずれか一項に記載の薄膜形成装置において、
    前記電極の隙間の両端部には、前記隙間を埋めるように前記電極に密着する充填材が設けられていることを特徴とする薄膜形成装置。
  5. 請求項1〜のいずれか一項に記載の薄膜形成装置において、
    前記フィルム用搬送機構は、前記クリーニングフィルムを前記ガス供給部の少なくとも一部に接触させ、前記電極の表面まで搬送することを特徴とする薄膜形成装置。
  6. 互いに隙間を空けて対向し、前記隙間をガスの流路とする一対の電極と、
    前記電極の軸方向に沿って配列されて前記流路を臨む複数の噴出口を有し、前記噴出口から前記流路にガスを供給するガス供給部と、
    汚れの付着を防止するクリーニングフィルムを、前記電極の表面の少なくとも1部に密着させて搬送するフィルム用搬送機構とを備える薄膜形成装置で用いられる薄膜形成方法であって、
    前記複数の噴出口のそれぞれに対して、ガスを噴出する際の噴出条件を設定し、
    前記複数の噴出口のうち、両端部に位置する少なくとも1つ以上の噴出口に対する前記噴出条件を、薄膜形成用の原料を含まない未原料ガスを噴出するように設定するとともに、前記両端部に位置する少なくとも1つ以上の噴出口以外の噴出口に対する噴出条件を、薄膜形成用のガスを含む原料ガスを噴出するように設定することを特徴とする薄膜形成方法。
  7. 請求項6記載の薄膜形成方法において、
    前記薄膜形成装置は、前記電極の少なくとも1側方に配置されてガスを吸引する少なくとも1つのガス吸引部とを備え
    前記少なくとも1つのガス吸引部によって、前記流路から流出するガスを吸引することを特徴とする薄膜形成方法。
  8. 請求項記載の薄膜形成方法において、
    前記少なくとも1つのガス吸引部のそれぞれに対して、ガスを吸引する際の吸引条件を設定することを特徴とする薄膜形成方法。
  9. 請求項6〜8のいずれか一項に記載の薄膜形成方法において、
    前記電極の隙間の両端部に、前記隙間を埋めるように前記電極に密着する充填材を設けることを特徴とする薄膜形成方法。
  10. 請求項6〜9のいずれか一項に記載の薄膜形成方法において、
    前記フィルム用搬送機構によって、前記クリーニングフィルムは前記ガス供給部の少なくとも一部に接触されて、前記電極の表面まで搬送されることを特徴とする薄膜形成方法。
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