本発明者等は、低い温度での定着が行え、しかも定着時には少ない熱量で迅速に溶融することが可能であって、それでいて長期間保管してもトナー粒子同士が付着、凝集しないという性能を同時に満足するトナーの開発を検討した。
その結果、トナーを構成する結着樹脂については、無定形(非結晶性)の構造を有する樹脂粒子を会合させて形成した後述する図1に示すような構造を有するトナーにより、本発明の効果が発現することを見出した。
この様なトナーを製造することにより、従来技術では達成することのできなかった低い温度での定着を完全なオイルレスで行うことが可能になり、例えば、水の沸点以下という低い温度でもトナー画像を安定して定着できるトナーが得られることを確認した。
図1は、本発明に係るトナー粒子の模式図である。
図1において、トナー粒子Tは、樹脂相A中に樹脂相Bを包含する構造を有する。そして本発明に係るトナー粒子Tは、樹脂相Bを形成する樹脂のガラス転移温度が樹脂相Aを形成する樹脂のガラス転移温度よりも低いものである。
本発明では、トナー粒子の製造工程で、お互いに溶解度パラメータ(SP値)の差が0.3〜1.2離れている関係にある無定形(非結晶性)の樹脂粒子を会合する工程を経ることによりこのような構造の結着樹脂を有するトナー粒子を形成することを可能にした。
本発明では、少なくとも1種類が極性基を2つ以上有する単量体を用いて形成された樹脂粒子を用いて凝集を行うと、図1の様な構造を有する結着樹脂よりなるトナーが得られることを見出した。
このように、極性基を2つ以上有する単量体を用いて形成した樹脂粒子を混在させて凝集することにより無定形の樹脂が図1に示すような樹脂相Aと樹脂相Bからなる構造を形成するのは、おそらくそれぞれの樹脂粒子がもつ極性基濃度の差が作用し、凝集速度の遅い樹脂Aが樹脂Bの外側に配列される確率が上がったためと推測される。
即ち、極性基の作用で凝集時に極性基を2つ以上有する樹脂粒子の凝集が優先的に行われ、その凝集が終了後、残りの樹脂粒子が凝集して樹脂相A中に樹脂相Bを内包する構造を形成するものと推測される。
また、本発明では、お互いに非相溶の樹脂より構成される樹脂相A中に樹脂相Bを内包する構造のトナー粒子とすることで、これまでの技術では達成することのできなかった低い温度での定着と安定した保管性能の両立を可能にした。即ち、樹脂相Bを構成する樹脂のガラス転移温度を低くすることで定着温度を低めに設定することが可能であるとともに、ガラス転移温度の低い樹脂相Bをトナー粒子中に内包する構造を採ることにより、トナー粒子同士が凝集しにくい構造となる。そして、本発明では、この様なお互いに非相溶の無定形の樹脂で樹脂相A中に樹脂相Bを内包する構造を有するトナー粒子とすることにより、例えば、水の沸点なみの温度での定着が可能なことを見出した。
また、本発明に係るトナーでは、これまでトナーによる画像形成が困難であったコート紙や厚紙にもトナー画像を容易に形成することができるようになり、画像形成が可能な紙の種類を大幅に増やすことができた。この様に、トナー画像を形成することが可能な紙種を増やすことができるようになった理由は、おそらく、極性基を2つ以上有する単量体を用いて形成した樹脂の存在によるものと推測される。即ち、樹脂中の極性基の介在により、トナー粒子と記録紙との間での親和性が増大することにより、従来のトナーでは親和性が得られにくかったコート紙との間でも安定した親和性を発現することができるようになったためと推測される。
その結果、本発明に係るトナーによれば、コート紙や厚紙等にもトナー画像を安定して形成することができるので、これまでは印刷による対応しかできなかった画像形成分野に電子写真方式の画像形成方法を展開することを可能にした。特に、小規模な印刷注文の多い軽印刷の分野で、版を起こさずに、必要な時に必要な部数分のプリント出力を行うプリント・オン・デマンドの文書作成を可能にした。
本発明に係るトナーについてさらに詳細に説明する。
本発明に係るトナー粒子は、お互いに非相溶な複数種類の無定形の樹脂により構成され、図1に示す樹脂相Aと樹脂相Bからなる構造を有するものである。特に、樹脂相Bを形成する樹脂は、極性基を2つ以上有するビニル系の単量体を用いて形成されたもので、非相溶性の無定形樹脂粒子を用いて形成された樹脂相Aと前記樹脂相Bからなる構造を有するトナー粒子を形成する。
ここで、極性基を2つ以上有する単量体とは、ビニル系単量体の側鎖にカルボキシル基、水酸基といった官能基を有する単量体のことをいい、具体的には樹脂相Bを形成したときにガラス転移温度が50℃以下になるものが好ましい。
本発明で使用される結着樹脂は、無定形のビニル系共重合体が好ましく使用される。無定形の構造を有する樹脂を結着樹脂として使用することにより、定着時のトナーの溶融や記録紙への接着、固化が迅速に行えるようになり、画像形成の高速化を促進させる上で好ましいものである。本発明では、後述する単量体を用いて樹脂を作製することで、無定形状態となるビニル系共重合体が得られる。
本発明に使用される結着樹脂が、無定形の構造を有するものであることを確認する方法としては、融解熱の測定や、X線回析法、核磁気共鳴スペクトル(NMR)法等の測定方法が挙げられる。
本発明では、無定形の樹脂を複数種類用いて図1で示すような樹脂相Aと樹脂相Bからなる構造のトナー粒子を形成するものであるが、樹脂相Aを形成する樹脂と樹脂相Bを形成する樹脂とは、お互いに非相溶の性質を有するものであることが必要である。
そして、本発明では樹脂相Aに樹脂相Bを内包した構造を有する樹脂相を形成するため、樹脂相Bを形成する際に前述した極性基を2つ以上有する単量体を用いて樹脂粒子を形成する。
樹脂相Bを構成する樹脂を形成する極性基を2つ以上有する単量体(以下、重合性単量体ともいう)について説明する。
本発明でいう極性基とは、水系媒体中で解離性が有り、塩を形成するものである。具体的にはカルボキシル基、スルホン基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられる。
本発明で使用可能な極性基を2つ以上有する単量体としては、イタコン酸、マレイン酸等のカルボキシル基を含有したものが挙げられる。
これらの単量体の中でも、樹脂相Bの樹脂を形成したときに、その樹脂のガラス転移温度が50℃以下となるものが好ましい。
また、本発明では、樹脂相Bを構成する樹脂粒子を作製するときに、上述の極性基を2つ以上有する単量体として、特にイタコン酸やマレイン酸のような分子内にカルボキシル基を2つ以上含有してなる単量体(本発明では、このようなカルボキシル基含有単量体をジカルボン酸単量体という)を用いて樹脂粒子を形成すると、図1に示すような構造の結着樹脂の形成が促進されることが確認されている。
本発明では、上述した極性基を含有する単量体の中でもイタコン酸あるいはマレイン酸等のカルボキシル基を2つ以上含有する単量体を用いて形成した樹脂粒子を用いたトナー粒子が本発明の効果を発現するものとして特に好ましいものであることを確認している。
また、これらの単量体における極性基は、上記の他に、酸無水物や酸塩化物、或いは金属塩の形態を有するものであってもよい。これらは、アクリル酸−2−エチルヘキシルまたはメタクリル酸−2−エチルヘキシルと併用すると溶解度パラメータ値(SP値)の制御も容易になり好ましい。
また、本発明では、樹脂相Bを構成する樹脂を形成する単量体に、上述の極性基を2つ以上有する単量体とともに後述するスチレン系単量体等の単量体を併用して共重合体樹脂を形成するものであってもよい。
樹脂相Bを構成する樹脂の具体例としては、本発明はこれに限定されるものではないが、例えば、単量体としてスチレンを35〜50質量%、アクリル酸−2−エチルヘキシルを30〜50質量%、イタコン酸又はマレイン酸を15〜20質量%の比率で重合して形成されるビニル系共重合体が挙げられる。
次に、樹脂相Aを構成する樹脂を形成する単量体について説明する。
本発明で、樹脂相Aを構成する樹脂を形成する単量体としては、例えば、ビニル芳香族系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体等が挙げられる。
ビニル芳香族系単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン系単量体及びその誘導体を挙げることができる。
ビニルエステル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等が挙げられ、ビニルエーテル系単量体としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル等を挙げることができる。
モノオレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられ、ジオレフィン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。
この中でも、樹脂相Aを構成する樹脂を形成する単量体としては、スチレン系単量体又はスチレン系単量体と他の共重合性単量体とを混合した単量体混合物用いて形成した樹脂が好ましく、スチレン系単量体の量が単量体全量に対して50質量%以上であることが好ましい。
スチレン系単量体としては、スチレン、p−メチルスチレン等が挙げられる。
また、スチレン系単量体とともに使用される他の共重合性単量体としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル系単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル系単量体;メチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル系単量体;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のN−アルキル置換アクリルアミド;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル系単量体;ジビニルベンゼン、エチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能性単量体等を挙げることができる。
また、樹脂相Aを形成する単量体として、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルエーテル、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等の不飽和結合を2個以上有するものを架橋性単量体として使用することも可能である。
架橋性単量体を使用することにより、結着樹脂を構成する高分子鎖の構造に規則性や同期性を付与しにくくなるので無定形構造の樹脂が得られ易くなるとともに、高分子鎖間の結合エネルギーを大幅に上げることなく、樹脂の強度を向上させることが可能になる。その結果、低温での定着が可能であるとともに、例えば、現像器内での撹拌を繰り返してもトナーが破壊されることなく、トナーの耐久性を向上させることが可能になる。
本発明に使用される結着樹脂は、複数種類のビニル系共重合体により構成されるもので、これらのビニル系共重合体は、いずれも無定形であり、しかも、お互いに非相溶な関係を有している。そして、本発明に使用される結着樹脂は、以下のような特性を1つ以上有しているものが好ましい。すなわち、
(1)樹脂相Bの大きさが50〜600nmであること
(2)樹脂相Bを構成する樹脂のガラス転移温度が50℃以下であり、樹脂相Aを構成する樹脂のガラス転移温度が70℃以下であること
(3)樹脂相Bを構成する樹脂の溶解度パラメータ値(SP値)が9.5〜10.0であり、樹脂相Aを構成する樹脂の溶解度パラメータ値(SP値)が10.0〜10.5であること
(4)結着樹脂は、分子量15,000〜25,000及び25,000〜35,000の範囲にピークを有していること
(5)結着樹脂中の低分子量成分(分子量が5,000以下)の比率が20質量%以下であること
以下、上記特徴について具体的に説明する。
本発明のトナーで使用される結着樹脂は、お互いに非相溶の関係を有する無定形のビニル系共重合体粒子を凝集させることにより形成される。
図1に示すような構造を有するトナー粒子は、具体的には、樹脂相Aを構成するビニル系共重合体の樹脂粒子と、極性基を2つ以上有する単量体を用いて形成したビニル系共重合体の樹脂粒子(樹脂相Bを構成する樹脂粒子)をそれぞれ作製し、これらの樹脂粒子を凝集させる工程を経ることにより得られるものである。
本発明では、樹脂粒子を凝集するときに、このように構造の異なる樹脂粒子が混在していても、図1に示す構造のトナー粒子を形成することが可能である。この様に、結着樹脂が図1に示す構造を形成することができる理由は明らかではないが、おそらく前述の極性基を2つ以上有する単量体を用いて形成された樹脂粒子が、その極性基の作用により、凝集工程において、極性基を2つ以上有する樹脂粒子同士を優先的に凝集させるようにした後、残りの樹脂を凝集させるようにしたためと推測される。
本発明では、前述した極性基を2つ以上有する単量体を用いて作製した樹脂の比率を結着樹脂総質量に対して、3〜20質量%、好ましくは5〜15質量%としたときに、図1に示すような構造のトナー粒子が得られ、樹脂相Bの大きさが50〜600nmとなることが確認されている。
本発明に使用される結着樹脂が、この様な構造を有するものであることは、オスミウム化合物等で染色したトナー粒子切片を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより確認できる。
トナー粒子の構造を観察できる透過型電子顕微鏡装置(TEM)は、加速電圧80kV以下で観察できる機種が好ましい。具体的には「S−5000H」(日立製作所社製)、「JEM−200FX」(日本電子社製)等が挙げられる。本発明では、10,000倍の倍率で撮影した10個以上のトナー粒子の投影面からトナー粒子内における樹脂相Bの大きさを算出する。
透過型電子顕微鏡を用いた撮影方法は、トナー粒子を測定する際に行われる通常知られた方法で行われるものである。
すなわち、トナー粒子断面の観察、測定は具体的には以下の方法で行う。まず、常温硬化性のエポキシ樹脂中にトナー粒子を十分分散させた後、包埋し硬化させトナー粒子を含有するブロックを作成する。このブロックをダイヤモンド歯を備えたミクロトームで薄片状のサンプルを切り出し透過型電子顕微鏡(TEM)撮影用試料とする。この試料を用いトナー粒子の断面形態の写真撮影をする。尚、四三酸化ルテニウム、又は四三酸化ルテニウムと四三酸化オスミウムを併用した染色液を用い、ブロック全体、或いは薄片状のサンプルを染色しても良い。
当該写真からトナー粒子中における樹脂相Bの領域を目視で確認する。また、具体的に独立した相の大きさを測定する方法として、画像処理装置「ルーゼックスF」(ニレコ社製)で撮影された画像情報を演算処理して等価円相当径を求め、これをトナー粒子中に内包されている樹脂相Bの大きさとして算出する。
また、本発明に係るトナーは、樹脂相Bを構成する樹脂のガラス転移温度が50℃以下で、樹脂相Aを構成する樹脂のガラス転移温度が70℃以下であり、樹脂相Bを構成する樹脂と樹脂相Aを構成する樹脂のガラス転移温度の差が20℃以上となる無定形のビニル系共重合体を用いることが好ましく、この様な性質の樹脂を組み合わせることにより本発明の課題を確実に解消するものであることを確認した。
本発明では、トナー粒子中に内包される樹脂相Bを構成する樹脂のガラス転移温度が50℃以下、好ましくは15〜48℃になるようにビニル系共重合体を選択することが好ましい。また、樹脂相Aを構成する樹脂のガラス転移温度が70℃以下、好ましくは40〜60℃になるようにビニル系共重合体を選択することが好ましい。
本発明では、ガラス転移温度Tgは、後述する装置を用いて測定されるもので、ガラス転移領域におけるDSCサーモグラムのガラス転移温度以下のベースラインの延長線と、ピークの立上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線との温度をガラス転移温度と定めている。
ガラス転移温度を測定する具体的な手段としては、示差熱量分析装置(DSC)が挙げられ、例えば、パーキンエルマー社製のDSC−7等の装置が挙げられる。
測定は、昇温・冷却条件としては、0℃で1分間放置後、10℃/minの条件で100℃まで昇温する(第1の昇温過程)。次いで200℃で1分間放置後、10℃/minの条件で0℃まで冷却する(第1の冷却過程)。次いで、0℃で1分間放置後、10℃/minの条件で100℃まで昇温する(第2の昇温過程)。そして、セカンドヒート(第2の昇温)の吸熱ピーク温度を求め、ガラス転移温度Tgとした。
また、本発明では、トナー粒子を設計する際に、結着樹脂を構成する各ビニル系重合体樹脂のガラス転移温度を予め把握しておくために理論ガラス転移温度を算出しておくと樹脂設計に便利である。
ここで、理論ガラス転移温度とは、共重合体樹脂を構成するそれぞれの成分が、ホモポリマーを形成した場合のガラス転移温度に、それぞれの組成質量分率をかけて、即ち加重平均して、求めたものである。
即ち、理論ガラス転移温度Tg′(絶対温度)は、共重合体樹脂を構成する成分のホモポリマーのガラス転移温度を用いた時に下記式(1)から算出される。
式(1)
1/Tg′=W1/T1+W2/T2+・・・+Wn/Tn
(式中、W1、W2、・・・Wnは共重合体樹脂の製造に使用された全単量体に対する各単量体の質量分率、T1、T2・・・Tnは各単量体を用いて形成されるホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)を示す。)
尚、本発明に係るトナーでは、計算により算出される理論ガラス転移温度の値と示差熱量分析装置で得られる測定結果との間に多少のずれが発生することも有るが、本発明ではこの件については特に問題とするものではない。
また、本発明に係るトナーでは、樹脂相Bを構成する樹脂の溶解度パラメータ値(SP値)と樹脂相Aを構成する樹脂の溶解度パラメータ値(SP値)とが差を有するように無定形のビニル系共重合体を設計することにより、本発明の課題をより確実に解消することを確認している。
この様に、本発明に係るトナーを構成する結着樹脂では、使用される複数種類のビニル系共重合体の各々の溶解度パラメータ値(SP値)が有る程度の差を有するものであることにより、これらの樹脂間での非相溶性が発現されるものである。
ところで、溶解度パラメータ値(SP値)は、物質の凝集エネルギーの大きさを表す数値で、Feorsによって提案された方法「Polym.Eng.Sci.,vol14,p147(1974)」に従って、原子または原子団の蒸発エネルギー及びモル体積をそれぞれΔei、Δviとすると、結着樹脂の溶解度パラメータ値σは、下記式(2)により算出される。
式(2)
σ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
また、各ビニル系共重合体の溶解度パラメータ値は、各成分の溶解度パラメータ値とモル比の積より算出されるものである。例えば、共重合体樹脂をX、Yの2種類の単量体より構成されるものと仮定した時、各単量体の質量組成比をx、y(質量%)、分子量をMx、My、溶解度パラメータ値をSPx、SPyとすると、各単量体比はx/Mx(モル%)、y/My(モル%)となる。ここで、共重合体樹脂のモル比をCとすると、C=x/Mx+y/Myと表され、この共重合体樹脂の溶解度パラメータ値Spは下記式(3)のようになる。
式(3)
SP={(x×SPx/Mx)+(y×SPy/My)}×1/C
尚、各単量体の溶解度パラメータSPx、SPyは、前述の式(2)により算出されるもので、具体的な値としてはポリマーハンドブック(ワイリー社刊)第4版等の文献に記載されているものを利用すると良い。
尚、溶解度パラメータ値は、ビニル系共重合体を構成する単量体の組成比を変えることにより制御することが可能であり、例えば、スチレンとメタクリル酸メチルを用いて形成された共重合体樹脂では、スチレンの組成比を減少させ、メタクリル酸メチルの組成比を増大させることにより溶解度パラメータの値が低下する傾向を有していることが確認されている。
また、高分子材料の溶解度パラメータの概要につては、独立行政法人「物質・材料研究機構」提供のデータベース PolyInfo(http://polymer.nims.go.jp)に記載の溶解度パラメータの項目(http://polymer.nims.go.jp/guide/guide/p5110.html)を参照するとよい。
本発明に係るトナーを構成する結着樹脂の分子量に着目すると、分子量が15,000〜25,000と25,000〜35,000の範囲に、より好ましくは20,000〜25,000と25,000〜30,000の範囲にそれぞれピーク分子量を有する。この様に本発明に係るトナーを構成する結着樹脂は複数種類のビニル系共重合体より形成されるものであるが、これらの樹脂は、分子量についてそれほど大きな差を有していないものである。本発明では、結着樹脂を構成する複数種類の樹脂は、非相溶の関係を有するものであるが、この様に分子量に大きな差を有さないことも、非相溶性を発現する上で重要な因子となっているものと考えられる。
一方で、この様に複数種類の樹脂の分子量がそれほど大きな差を有するものではないのに本発明では水の沸点なみの温度でトナー画像を安定に定着できることを見出している。
上記ピーク分子量は、テトラハイドロフラン(THF)をカラム溶媒として用いるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができ、得られるGPCクロマトグラムのカウント数から後述する検量線を用いて算出される。
具体的には、測定試料を1mgに対してTHFを1ml加え、室温下にてマグネチックスターラーを用いて撹拌を行い、十分に溶解させる。次いで、ポアサイズ0.45〜0.50μmのメンブランフィルターで濾過した後に、GPCへ注入する。GPCの測定条件は、40℃にてカラムを安定化させ、THFを毎分1mlの流速で添加し、1mg/mlの濃度の試料を約100μl注入して測定する。カラムとしては、市販のポリスチレンジェルカラムを組み合わせて使用することが好ましい。例えば、昭和電工社製のShodex GPC KF−801、802、803、804、805、806、807の組み合わせや、東ソー社製のTSKgelG1000H、G2000H、G3000H、G4000H、G5000H、G6000H、G7000H、TSK guard columnの組み合わせなどをあげることができる。
検出器としては、屈折率検出器(IR検出器)、あるいはUV検出器が好ましく用いられる。試料の分子量測定では、試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて作成した検量線を用いて算出する。検量線作成用のポリスチレンとしては10点程度用いることが好ましい。
更に、本発明に係るトナーを構成する結着樹脂の分子量分布に着目すると、本発明で使用される結着樹脂では、例えば、樹脂相Bを構成する樹脂の比率が10質量%の時、分子量5,000以下の低分子量成分の割合が20質量%以下、好ましくは10〜19質量%であり、樹脂全体に占める低分子量成分の割合が少ないにもかかわらず、前述したような従来技術では達成することのできなかった低い温度でのトナー画像を安定して形成することができることを見出した。尚、分子量分布の測定も前述のGPCにより測定することが可能である。
この様に、本発明では、結着樹脂の分子量分布を測定した時に5,000以下の低分子量成分の比率が低いものであり、前述の樹脂相Bと樹脂相Aを構成する樹脂の分子量がそれほど差を有しないものを用いて低温定着性能を発現するもので、この様な樹脂を用いることで、本発明の課題を解消したことは全く予期せぬことであった。尚、ここでいう低分子量成分の割合には、樹脂成分だけではなくトナー中の離型剤等の含有量が含まれるものであってもよい。
また、本発明に係るトナーは、多価の金属元素を250〜20,000ppm含有するものであってもよい。
本発明に係るトナーは、例えば、水系媒体中で調製した樹脂粒子の分散液から樹脂粒子を凝集する工程において、金属塩を凝集剤として使用する等の理由により、トナー粒子中に以下に記載のような金属元素を含有するもので、主に、2価または3価の金属塩を含有するものである。
その理由は、凝集工程では1価の金属塩より2価、3価の金属塩のほうが臨界凝集濃度(凝析値あるいは凝析点)が小さいことから好ましく使用されるといった理由等によるものである。
本発明では、トナー粒子が金属元素を含有することにより、トナー粒子への過剰帯電を抑え、均一な帯電性を付与するという効果を有するとともに、結着樹脂が凝集するときにその電気的作用により樹脂粒子の凝集に選択性を付与することで図1に示すようなトナー粒子中に内包された樹脂相を有する構造の形成にも寄与するものと推測される。
特に、環境に対して帯電性を安定化し、維持するとともに良好な図1に示すような構造を形成する上で、本発明に係るトナーでは、上記に記載の金属元素(形態として、金属、金属イオン等が挙げられる)をトナー中に250〜20000ppm含有することが好ましく、更に好ましくは800〜5000ppmである。
次に、本発明に係るトナーに含まれる金属元素について説明する。
1価の金属としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属、2価の金属としては、例えばカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、マンガン、銅、また3価の金属としては、鉄、アルミニウム等が挙げられる。これらの金属はトナー製造工程で金属塩として供給されるものであるが以下に具体的な金属塩の例を示す。
1価の金属の金属塩の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等が挙げられる。2価の金属の金属塩としては、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン等が挙げられる。3価の金属塩としては、塩化アルミニウム、塩化鉄等が挙げられる。これらは目的に応じて適宜選択される。
トナー中の金属量の測定は、蛍光X線分析装置「システム3270型」(理学電気工業社製)を用い、金属塩の金属種(例えば、塩化カルシウムに由来するカルシウム等)から発する蛍光X線強度を測定する。具体的な測定法としては、金属塩の含有割合が既知のトナーを複数用意し、各トナー5gをペレット化し、金属塩の含有割合(質量ppm)と、当該金属塩の金属種からの蛍光X線強度(ピーク強度)との関係(検量線)を測定する。次いで、金属塩の含有割合を測定すべきトナー(試料)を同様にペレット化し、金属塩の金属種からの蛍光X線強度を測定し、含有割合即ち「トナー中の金属量」を求めることができる。
次に、本発明に係るトナーの製造方法について説明する。
本発明に係るトナーの製造方法は、複数種類のビニル系共重合体の樹脂粒子を形成し、当該樹脂粒子を凝集させる工程を経てトナー粒子を形成するものであれば特に限定されるものではない。
具体的なトナーの製造方法としては、乳化会合法、懸濁重合法、分散重合法、溶解懸濁法等が挙げられる。以下、トナー粒子の形状や大きさの制御を行い易いというメリットを有する乳化会合法によるトナーの製造方法について説明する。
乳化会合法によるトナーの製造方法としては、例えば、特開2002−351142号公報等に開示されている樹脂粒子を水系媒体中で塩析/融着させてトナーを製造する方法が挙げられる。
この方法は、水系媒体中で樹脂粒子を乳化剤を用いて分散させた後、臨界凝集濃度以上の凝集剤を加えて塩析させると同時に、形成された重合体自体のガラス転移温度以上で加熱融着させて融着粒子を形成しつつ徐々に粒径を成長させ、目的の粒径となったところで水を多量加えて粒子成長を停止し、さらに、加熱、撹拌しながら粒子表面を平滑にして形状制御し、トナーを製造するものである。
また、本発明に係るトナーの他の製造方法としては、例えば、特開2001−305797号公報、特開2002−214838号公報等に記載されている乳化重合凝集法と呼ばれる製造方法がある。この方法は、乳化重合により作製した樹脂の微粒子分散液を、微粒子状に分散させてなる着色剤分散液及び離型剤分散液と混合、分散させて加熱を行うことで凝集させてトナー粒子を製造するものである。
これらのトナーの製造方法は、いずれも乳化重合法により作製した樹脂粒子を水系媒体中で凝集させる工程を経てトナー粒子を製造するものである。
ここでいう水系媒体とは、水50〜100質量%と水溶性の有機溶媒0〜50質量%とからなる媒体をいう。水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等を例示することができ、得られる樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒が好ましい。
重合時の重合性単量体と水系媒体との比率(質量比)は、1/10〜1/2の範囲であることが好ましい。
本発明に係るトナーは、図1に示すように樹脂相Aと樹脂相Aに内包されている樹脂相Bよりなる構造を形成してなるものである。本発明では、結着樹脂を構成する非相溶の複数種類のビニル系共重合体を用いるが、これらの樹脂の少なくとも1種類に極性基を2つ以上有する単量体を用いて形成した樹脂を選択することにより大幅な低温定着が可能で、図1に示すような構造を有するトナー粒子が得られる。
即ち、本発明では、樹脂粒子を凝集させる工程で、複数種類の樹脂粒子が共存した状態になっても、各樹脂粒子同士がランダムに凝集するのではなく、少なくとも前述した極性基を2つ以上有する単量体を用いて形成された樹脂の粒子同士が優先的に凝集した後、残った他の樹脂粒子が凝集してトナー粒子を形成する。しかも、極性基を2つ以上有する単量体により形成された樹脂よりなる樹脂相B中には、着色剤や離型剤成分が含有されない傾向を有する。これは、樹脂粒子を着色剤や離型剤が共存する状態で凝集させる前述の特開2001−305797号公報や特開2002−214838号公報に開示した製造方法でも、樹脂相B内に離型剤が含有されなかったことが確認された。
このような水系媒体中での樹脂粒子の凝集工程を経て作製されたトナー粒子分散液は、以下に示す、固液分離・洗浄工程、乾燥工程を経て洗浄、脱水、乾燥される。
即ち、固液分離・洗浄工程は、上記の工程で得られたトナー粒子の分散系から当該トナー粒子を固液分離してトナーケーキを得、得られたトナーケーキから界面活性剤や塩析剤などの付着物を除去する洗浄処理とを施す工程である。固液分離・洗浄方法としては、遠心分離法、ヌッチェ等を使用して行う減圧濾過法、フィルタープレス等を使用して行う濾過法等を挙げることができる特に限定されるものではない。
乾燥工程では、洗浄処理されたトナー粒子を乾燥処理する。乾燥程で使用される乾燥機としては、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機等を挙げることができるが特に限定されるものではない。
尚、乾燥処理されたトナー粒子中の水分量は、5質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは2質量%以下とされる。
次に、トナーの製造に用いられる離型剤や着色剤、界面活性剤等の要素について説明する。尚、重合性単量体については、前述したとおりであり、ここでは説明を省略する。
離型剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。具体的には低分子量ポリプロピレン(数平均分子量=1500〜9000)、低分子量ポリエチレンなどの低分子量ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、エステルワックス等が挙げられる。好適に使用できるのは、下記一般式で示されるエステルワックスである。
一般式
R1−(OCO−R2)n
式中、nは1〜4の整数を表し、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2である。
R1、R2は置換基を有してもよい炭化水素基を示す。
R1:炭素数=1〜40、好ましくは1〜30、更に好ましくは16〜26
R2:炭素数=1〜40、好ましくは14〜30、更に好ましくは16〜26
以下に、上記一般式で表されるエステル化合物の具体例を示すが、中でもベヘン酸ベへニル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル等が好ましい。ほかには、極性基で変性したパラフィンワックス、高級アルコール等が好ましく用いられる。
トナー粒子中の離型剤の含有割合は、トナー粒子全量の1〜30質量%が好ましく、より好ましくは7〜27質量%、更に好ましくは10〜25質量%の範囲である。
着色剤としては、有機顔料及び染料も従来公知のものを用いることができ、具体的な有機顔料及び染料を以下に例示する。
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等が挙げられる。
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー156等が挙げられる。
グリーンまたはシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
また、染料としては、例えば、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95等を用いることができ、またこれらの混合物も用いることができる。
これらの有機顔料及び染料は、所望に応じて、単独または複数を選択併用することが可能である。
トナー粒子中の着色剤の含有割合は、トナー粒子全量の2〜20質量%が好ましく、より好ましくは3〜15質量%である。
本発明に係るトナーの製造工程では、界面活性剤を使用して水系媒体中に油滴分散を行うことが好ましい。この際に使用することのできる界面活性剤としては、特に限定されるものでは無いが、下記のイオン性界面活性剤を好適な化合物の例として挙げることができる。
イオン性界面活性剤としては、例えば、スルホン酸塩(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アリールアルキルポリエーテルスルホン酸ナトリウム、3,3−ジスルホンジフェニル尿素−4,4−ジアゾ−ビス−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸ナトリウム、オルト−カルボキシベンゼン−アゾ−ジメチルアニリン、2,2,5,5−テトラメチル−トリフェニルメタン−4,4−ジアゾ−ビス−β−ナフトール−6−スルホン酸ナトリウム等)、硫酸エステル塩(ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム等)、脂肪酸塩(オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウム等)が挙げられる。
また、下記一般式(1)、(2)の界面活性剤を併用することが好ましい。
一般式(1)
R1(OR2)nOSO3M
一般式(2)
R1(OR2)nSO3M
一般式(1)、(2)において、R1は炭素数6〜22のアルキル基またはアリールアルキル基を表すが、好ましくは炭素数8〜20のアルキル基またはアリールアルキル基であり、更に好ましくは炭素数9〜16のアルキル基またはアリールアルキル基である。
一般式(1)、(2)において、R2は炭素数2〜6のアルキレン基を表すが、好ましくは炭素数2〜3のアルキレン基である。R2で表される炭素数2〜6のアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基、エチルエチレン基等が挙げられる。
一般式(1)、(2)において、nは1〜11の整数であるが、好ましくは2〜10、更に好ましくは2〜5であり、特に好ましくは2〜3である。
一般式(1)、(2)において、Mで表される1価の金属元素としてはナトリウム、リチウムが挙げられる。中でも、ナトリウムが好ましく用いられる。
以下に、一般式(1)、(2)で表される界面活性剤の具体例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。
化合物(101):C10H21(OCH2CH2)2OSO3Na
化合物(102):C10H21(OCH2CH2)3OSO3Na
化合物(103):C10H21(OCH2CH2)2SO3Na
化合物(104):C10H21(OCH2CH2)3SO3Na
化合物(105):C8H17(OCH2CH(CH3))2OSO3Na
化合物(106):C18H37(OCH2CH2)2OSO3Na
本発明に係るトナーの製造工程では、水系媒体中で調製した樹脂粒子の分散液から樹脂粒子を凝集剤を用いて凝集させる工程があり、凝集剤としては金属塩が好ましく用られる。具体的な凝集剤としては、2価または3価の金属塩を凝集剤として用いることが好ましく、1価の金属塩よりも2価、3価の金属塩の方が臨界凝集濃度(凝析値あるいは凝析点)が小さいので好ましい。
本発明でいう臨界凝集濃度とは、水性分散液中の分散物の安定性に関する指標であり、凝集剤を添加し、凝集が起こるときの凝集剤の添加濃度を示すものである。この臨界凝集濃度は、ラテックス自身及び分散剤により大きく変化する。例えば、岡村誠三他著 高分子化学17,601(1960)等に記述されており、これらの記載に従えば、その値を知ることができる。
また、別の方法として、目的とする粒子分散液に所望の塩を濃度を変えて添加し、その分散液のζ電位を測定し、ζ電位が変化し出す点の塩濃度を臨界凝集濃度とすることも可能である。
重合開始剤としては、上記重合性単量体に可溶な一般に用いられる油溶性重合触媒であれば特に限定されることなく使用でき、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルペルオキシオクトエート等の過酸化物系触媒、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系触媒が使用できる。
上記重合性単量体にこれら重合開始剤を溶解し、無機粒子と両性界面活性剤又は必要に応じて添加される分散安定補助剤等を含む水性媒体に添加した後、1次懸濁液が作製される。
分散安定剤として機能する無機粒子としては、体積平均一次粒子径が6〜32nm、好ましくは体積平均一次粒子径が7〜17nmのコロイダルシリカ、酸化アルミニウム、酸価ジルコニウム、アンチモン酸亜鉛、酸化チタン、及びそれらの混合物が好ましく用いられる。
本発明のトナーの円形度の平均値は、0.951〜0.988であることが好ましい。
トナーの形状を上記範囲に制御するためには会合あるいは融着などの工程で形状を制御されつつあるトナー粒子の特性をモニタリングしながら適正な工程終了時期を決めてもよい。
モニタリングするとは、インラインに測定装置を組み込みその測定結果に基づいて、工程条件の制御をするという意味である。即ち、形状などの測定をインラインに組み込んで、例えば樹脂粒子を水系媒体中で会合あるいは融着させることで形成する重合法トナーでは、融着などの工程で逐次サンプリングを実施しながら形状や粒径を測定し、所望の形状になった時点で反応を停止する。
モニタリング方法としては、特に限定されるものではないが、フロー式粒子像分析装置「FPIA−2000」(東亜医用電子社製)を使用することができる。本装置は試料液を通過させつつリアルタイムで画像処理を行うことで形状をモニタリングできるため好適である。即ち、反応場よりポンプなどを使用し、常時モニターし、形状などを測定することを行い、所望の形状などになった時点で反応を停止するものである。
トナーの粒径は、体積基準メディアン径(体積D50%径)で2〜7μmのものであることが好ましく、より好ましくは2.5〜6.5μmである。重合法によりトナー粒子を形成させる場合には、凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、または融着時間、さらには重合体自体の組成によって制御することができる。
体積基準メディアン径(体積D50%径)が2〜7μmであることにより、定着工程において、飛翔して加熱部材に付着しオフセットを発生させる付着力の大きいトナー微粒子が少なくなり、また、転写効率が高くなってハーフトーンの画質が向上し、細線やドット等の画質が向上する。
トナーの体積基準メディアン径(体積D50%径)は、コールターマルチサイザーIII(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用のコンピュータシステム(ベックマン・コールター社製)を接続した装置を用いて測定、算出することができる。
測定手順としては、トナー0.02gを、界面活性剤溶液20ml(トナーの分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)で馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を作製する。このトナー分散液を、サンプルスタンド内のISOTONII(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定濃度5〜10%になるまでピペットにて注入し、測定機カウントを2500個に設定して測定する。尚、コールターマルチサイザーのアパチャ−径は50μmのものを使用した。
本発明のトナーは、上記で作製されたトナー粒子をそのままで使用してもよいが、流動性の改良やクリーニング性の向上等の目的で、いわゆる外添剤を添加して使用することが好ましい。これら外添剤としては特に限定されるものでは無く、種々の無機微粒子、有機微粒子及び滑剤を使用することができる。
外添剤として使用できる無機微粒子としては、従来公知のものを挙げることができる。具体的には、シリカ微粒子、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子等を好ましく用いることができる。これら無機微粒子は疎水性であることが好ましい。
シリカ微粒子の具体例としては、日本アエロジル株式会社製の市販品R−805、R−976、R−974、R−972、R−812、R−809、ヘキスト株式会社製のHVK−2150、H−200、キャボット株式会社製の市販品TS−720、TS−530、TS−610、H−5、MS−5、球形単分散シリカ等が挙げられる。
酸化チタン微粒子の具体例としては、例えば、日本アエロジル株式会社製の市販品T−805、T−604、テイカ株式会社製の市販品MT−100S、MT−100B、MT−500BS、MT−600、MT−600SS、JA−1等が挙げられる。
酸化チタン微粒子の具体例としては、富士チタン株式会社製の市販品TA−300SI、TA−500、TAF−130、TAF−510、TAF−510T、出光興産株式会社製の市販品IT−S、IT−OA、IT−OB、IT−OC、ルチル型酸化チタン等が挙げられる。
アルミナ微粒子の具体例としては、例えば、日本アエロジル株式会社製の市販品RFY−C、C−604、石原産業株式会社製の市販品TTO−55等が挙げられる。
外添剤として使用できる有機微粒子としては、数平均一次粒子径が10〜2000nm程度の球形の微粒子を挙げることができる。かかる有機微粒子の構成材料としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、スチレン−メチルメタクリレート共重合体等のを挙げられる。
外添剤として使用できる滑剤としては、高級脂肪酸の金属塩を挙げることができる。かかる高級脂肪酸の金属塩の具体例としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸銅、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等のステアリン酸金属塩;オレイン酸亜鉛、オレイン酸マンガン、オレイン酸鉄、オレイン酸銅、オレイン酸マグネシウム等のオレイン酸金属塩;パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銅、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム等のパルミチン酸金属塩;リノール酸亜鉛、リノール酸カルシウム等のリノール酸金属塩;リシノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム等のリシノール酸金属塩等が挙げられる。
外添剤の添加量としては、トナー粒子に対して0.1〜5質量%程度であることが好ましい。
外添剤をトナー粒子に添加混合する装置としては、タービュラーミキサー、ヘンシエルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機等の種々の公知の混合装置を挙げることができる。
本発明のトナーは、1成分現像剤用或いは2成分現像剤用として用いることができる。1成分現像剤として用いる場合は、非磁性1成分現像剤、あるいはトナー中に0.1〜0.5μm程度の磁性粒子を含有させた磁性1成分現像剤が挙げられいずれも使用できる。
しかし、本発明のトナーは磁性粒子と混合して2成分現像剤用として用いることがより好ましい。磁性粒子として用いるキャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイト等の金属、それらの金属とアルミニウム、鉛等の金属との合金等の従来から公知の材料を用いることができる。これらの中ではフェライト粒子が好ましい。上記磁性粒子は、その体積平均粒径としては15〜100μm、より好ましくは25〜80μmのものがよい。
キャリアの体積平均粒径の測定は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
キャリアは、磁性粒子が更に樹脂により被覆されているもの、あるいは樹脂中に磁性粒子を分散させたいわゆる樹脂分散型キャリアが好ましい。コーティング用の樹脂組成としては、特に限定は無いが、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、エステル系樹脂或いはフッ素含有重合体系樹脂等が用いられる。また、樹脂分散型キャリアを構成するための樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、スチレン−アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、フェノール樹脂等を使用することができる。
次に本発明のトナーを用いる画像形成方法に用いる画像形成装置について説明する。
図2は、本発明に係るトナーが好ましく用いられる画像形成装置の一例を示す断面構成図である。
図2において、4は被帯電体である感光体ドラムであり、アルミニウム製のドラム基体の外周面に感光体層である有機光導電体(OPC)を形成してなるもので矢印方向に所定の速度で回転する。
図2において、図示しない原稿読み取り装置にて読み取った情報に基づき、半導体レーザ光源1から露光光が発せられる。これをポリゴンミラー2により、図1の紙面と垂直方向に振り分け、画像の歪みを補正するfθレンズ3を介して、感光体面上に照射され静電潜像を作る。感光体ドラム4は、予め帯電器5により一様帯電され、像露光のタイミングにあわせて時計方向に回転を開始している。
感光体ドラム面上の静電潜像は、現像器6により現像され、形成された現像像はタイミングを合わせて搬送されてきた転写紙(記録紙)8に転写器7の作用により転写される。更に感光体ドラム4と転写紙8は分離器(分離極)9により分離されるが、現像像は転写紙8に転写担持されて、定着器10へと導かれ定着される。
感光体面に残留した未転写のトナー等は、クリーニングブレード方式のクリーニング器11にて清掃され、帯電前露光(PCL)12にて残留電荷を除き、次の画像形成のため再び帯電器5により、一様帯電される。
次に、記録紙は代表的には普通紙であるが、現像後の未定着像を転写可能なものなら、特に限定されず、OHP用のPETベース等も無論含まれる。
また、クリーニングブレード13は、厚さ1〜30mm程度のゴム状弾性体を用い、材質としてはウレタンゴムが最も良く用いられる。これは感光体に圧接して用いられるため熱を伝え易く、本発明においては解除機構を設け、画像形成動作を行っていない時には感光体から離しておくのが望ましい。
本発明は、電子写真法による画像形成装置、特にコンピュータ等からのデジタル画像データで変調した変調ビームにより感光体上に静電潜像を形成する装置に好ましく使用することができる。
近年、感光体上に静電潜像を形成し、この潜像を現像して可視画像を得る電子写真等の分野において、画質の改善、変換、編集等が容易で高品質の画像形成が可能なデジタル方式を採用した画像形成方法の研究開発が盛んになされている。
この画像形成方法及び装置に採用されるコンピュータまたは複写原稿からのデジタル画像信号により光変調する走査光学系として、レーザ光学系に音響光学変調器を介在させ、当該音響光学変調器により光変調する装置、半導体レーザを用い、レーザ強度を直接変調する装置があり、これらの走査光学系から一様に帯電した感光体上にスポット露光してドット状の画像を形成する。
前述の走査光学系から照射されるビームは、裾が左右に広がった正規分布状に近似した丸状や楕円状の輝度分布となり、例えばレーザビームの場合、通常、感光体上で主走査方向あるいは副走査方向の一方あるいは両者が20〜100μmという極めて狭い丸状あるいは楕円状である。
本発明のトナーは、トナー像が形成された画像支持体を、定着装置を構成する加熱ローラと加圧ローラとの間に通過させて定着する工程を含む画像形成方法に好適に使用される。
図3は、本発明に係るトナーを用いた画像形成に使用される定着装置の一例を示す断面図である。
図3示す定着装置10は、加熱ローラ71と、これに当接する加圧ローラ72とを備えている。尚、図3において、Tは転写紙(記録紙)上に形成されたトナー像である。
加熱ローラ71は、フッ素樹脂または弾性体からなる被覆層82が芯金81の表面に形成されてなり、線状ヒーターよりなる加熱部材75を内包している。
芯金81は、金属から構成され、その内径は10〜70mmとされる。芯金81を構成する金属としては特に限定されるものではないが、例えば鉄、アルミニウム、銅等の金属あるいはこれらの合金を挙げることができる。
芯金81の肉厚は0.1〜15mmとされ、省エネの要請(薄肉化)と、強度(構成材料に依存)とのバランスを考慮して決定される。例えば、0.57mmの鉄よりなる芯金と同等の強度を、アルミニウムよりなる芯金で保持するためには、その肉厚を0.8mmとする必要がある。
被覆層82の表面を構成するフッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)及びPFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などを例示することができる。
フッ素樹脂からなる被覆層82の厚みは10〜500μmとされ、好ましくは20〜400μmとされる。
フッ素樹脂からなる被覆層82の厚みが10μm未満であると、被覆層としての機能を十分に発揮することができず、定着装置としての耐久性を確保することができない。一方、500μmを超える被覆層の表面には紙粉によるキズがつきやすく、当該キズ部にトナーなどが付着し、これに起因する画像汚れを発生する問題がある。
また、被覆層82を構成する弾性体としては、LTV、RTV、HTVなどの耐熱性の良好なシリコーンゴム及びシリコーンスポンジゴムなどを用いることが好ましい。
被覆層82を構成する弾性体のアスカーC硬度は、80°未満とされ、好ましくは60°未満とされる。
また、弾性体からなる被覆層82の厚みは0.1〜30mmとされ、好ましくは0.1〜20mmとされる。
被覆層82を構成する弾性体のアスカーC硬度が80°を超える場合、及び当該被覆層82の厚みが0.1mm未満である場合には、定着のニップを大きくすることができず、ソフト定着の効果(例えば、平滑化された界面のトナー層による色再現性の向上効果)を発揮することができない。
加熱部材75としては、ハロゲンヒーターを好適に使用することができる。
加圧ローラ72は、弾性体からなる被覆層84が芯金83の表面に形成されてなる。被覆層84を構成する弾性体としては特に限定されるものではなく、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどの各種軟質ゴム及びスポンジゴムを挙げることができ、被覆層84を構成するものとして例示したシリコーンゴム及びシリコーンスポンジゴムを用いることが好ましい。
被覆層84を構成する弾性体のアスカーC硬度は、80°未満とされ、好ましくは70°未満、更に好ましくは60°未満とされる。
また、被覆層84の厚みは0.1〜30mmとされ、好ましくは0.1〜20mmとされる。
被覆層84を構成する弾性体のアスカーC硬度が80°を超える場合、及び被覆層84の厚みが0.1mm未満である場合には、定着のニップを大きくすることができず、ソフト定着の効果を発揮することができない。
芯金83を構成する材料としては特に限定されるものではないが、アルミニウム、鉄、銅などの金属またはそれらの合金を挙げることができる。
加熱ローラ10と加圧ローラ72との当接荷重(総荷重)としては、通常40〜350Nとされ、好ましくは50〜300N、さらに好ましくは50〜250Nとされる。この当接荷重は、加熱ローラ10の強度(芯金81の肉厚)を考慮して規定され、例えば0.3mmの鉄よりなる芯金を有する加熱ローラにあっては、250N以下とすることが好ましい。
また、耐オフセット性及び定着性の観点から、ニップ幅としては4〜10mmであることが好ましく、当該ニップの面圧は0.6×105Pa〜1.5×105Paであることが好ましい。
図3に示した定着装置による定着条件の一例を示せば、定着温度(加熱ローラ10の表面温度)が70〜210℃とされ、定着線速が80〜640mm/secとされる。
以下に、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。
《トナーの作製》
〈トナー1の作製〉
(樹脂粒子(A1)分散液の調製)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を付けたセパラブルフラスコに予めアニオン系活性剤(ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム:SDS)7.08gをイオン交換水2760gに溶解させた活性剤溶液を投入し、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しつつ、内温を80℃に昇温させた。
一方で
例示化合物(20) 72.0g
スチレン 115.1g
n−ブチルアクリレート 42.0g
メタクリル酸 10.9g
を混合し、80℃に加温し溶解させて単量体溶液を作製した。ここで循環経路を有する機械式分散機により上記2つの加熱溶液を混合分散させ、均一な分散粒子径を有する乳化粒子を作製した。
次いで、重合開始剤(過硫酸カリウム:KPS)0.84gをイオン交換水200gに溶解させた溶液を添加し80℃にて3時間加熱、撹拌することで樹脂粒子を作製した。引き続いて、更に重合開始剤(KPS)8.00g及び水溶性連鎖移動剤として2−クロロエタノール10.0gをイオン交換水240gに溶解させた溶液を添加し、15分後、80℃でスチレン383.6g、n−ブチルアクリレート140.0g、メタクリル酸36.4gの混合液(第2の単量体溶液)を120分かけて滴下した。滴下終了後60分加熱撹拌させた後40℃まで冷却し樹脂粒子の分散液を得た。
この樹脂粒子分散液を「樹脂粒子(A1)分散液」とする。
(樹脂粒子(A2)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(A1)分散液」におけるスチレンの添加量を10質量%低減(最初の添加量を103.5g、後の添加量を345.2g)し、n−ブチルアクリレートの添加量を10質量%増量(最初の添加量を46.2g、後の添加量を154.0g)し、メタクリル酸の添加量を10質量%低減(最初の添加量を9.8g、後の添加量を32.8g)とした以外は同様にして「樹脂粒子(A2)分散液」を得た。
(樹脂粒子(A3)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(A1)分散液」におけるスチレンの添加量を10質量%増量(最初の添加量を126.6g、後の添加量を422.0g)し、n−ブチルアクリレートの添加量を10質量%低減(最初の添加量を37.8g、後の添加量を126.0g)し、メタクリル酸の添加量を10質量%増量(最初の添加量を12.0g、後の添加量を40.0g)とした以外は同様にして「樹脂粒子(A3)分散液」を得た。
(樹脂粒子(A4)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(A1)分散液」の調製で用いた、例示化合物(20)を添加しなかった以外は同様にして「樹脂粒子(A4)分散液」を得た。
表1に、「樹脂粒子(A1)〜(A4)分散液」を形成するのに用いた重合性単量体の種類と比率、用いた離型剤、分子量を示す。
(樹脂粒子(B1)分散液の調製)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を付けたセパラブルフラスコに予めアニオン系活性剤(ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム:SDS)7.08gをイオン交換水2760gに溶解させた活性剤溶液を添加する。窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しつつ、内温を80℃に昇温させた。
一方で
スチレン 125.0g
アクリル酸−2−エチルヘキシル 75.0g
マレイン酸 50.0g
を混合し、80℃に加温して溶解させ、単量体溶液を作製した。ここで循環経路を有する機械式分散機により上記2つの加熱溶液を混合分散させ、均一な分散粒子径を有する乳化粒子を作製した。ついで、重合開始剤(過硫酸カリウム:KPS)0.84gをイオン交換水200gに溶解させた溶液を添加し80℃にて3時間加熱、撹拌することで樹脂粒子の分散液を得た。この樹脂粒子分散液を「樹脂粒子(B1)分散液」とする。
(樹脂粒子(B2)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(B1)分散液」の調製で用いた、スチレンの量を125.0gから87.5gに、アクリル酸−2−エチルヘキシルの量を75.0gから125.0gに、マレイン酸の量を50.0gから37.5gに変更した以外は同様にして「樹脂粒子(B2)分散液」を得た。
(樹脂粒子(B3)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(B1)分散液」の調製で用いた、マレイン酸をイタコン酸に変更した以外は同様にして「樹脂粒子(B3)分散液」を得た。
(樹脂粒子(B4)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(B1)分散液」の調製で用いたスチレンを87.5g、アクリル酸−2−エチルヘキシル75.0gに代えてメタクリル酸−2−エチルヘキシル125.0g、マレイン酸50.0gに代えてイタコン酸37.5gに変更した以外は同様にして「樹脂粒子(B4)分散液」を得た。
(樹脂粒子(B5)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(B1)分散液」の調製で用いたスチレンの量を162.5g、マレイン酸50.0gをイタコン酸12.5gに変更した以外は同様にして「樹脂粒子(B5)分散液」を得た。
(樹脂粒子(B6)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(B1)分散液」の調製で用いた、アクリル酸−2−エチルヘキシル75.0gに代えてメタクリル酸−2−エチルヘキシル75.0gを用いた以外は同様にして「樹脂粒子(B6)分散液」を得た。
(樹脂粒子(B7)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(B1)分散液」の調製で用いたスチレンの量を162.5g、アクリル酸−2−エチルヘキシル75.0gをメタクリル酸−2−エチルヘキシル62.5g、マレイン酸50.0gをイタコン酸25.0gに変更した他は同様にして「樹脂粒子(B7)分散液」を得た。
(樹脂粒子(B8)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(B1)分散液」の調製で用いたスチレンの量を50.0g、アクリル酸−2−エチルヘキシル75.0gをメタクリル酸−2−エチルヘキシル112.5g、マレイン酸50.0gをイタコン酸87.5gに変更した以外は同様にして「樹脂粒子(B8)分散液」を得た。
(樹脂粒子(B9)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(B1)分散液」の調製で用いたスチレン及びマレイン酸を使用せず、アクリル酸−2−エチルヘキシル250.0gを用いて「樹脂粒子(B9)分散液」を得た。
(樹脂粒子(B10)分散液の調製)
前述の「樹脂粒子(B1)分散液」の調製で用いたアクリル酸−2−エチルヘキシル及びマレイン酸を使用せず、スチレン250.0gを用いて「樹脂粒子(B10)分散液」を得た。
表2に、「樹脂粒子(B1)〜(B10)分散液」を形成するのに用いた重合性単量体の種類と比率、分子量を示す。
(着色剤分散液1の調製)
n−ドデシル硫酸ナトリウム9.2gをイオン交換水160gに撹拌溶解する。この液に、撹拌下、カーボンブラック「リーガル330R」(キャボット社製)20gを徐々に加え、ついで、クレアミックスを用いて分散して分散液を得た。上記分散液中の着色剤の粒径を電気泳動光散乱光度計「ELS−800」(大塚電子社製)を用いて測定した結果、質量平均径で112nmであった。この分散液を「着色剤分散液1」とする。
(離型剤分散液1の調製)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を付けたセパラブルフラスコに予めアニオン系活性剤(ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム:SDS)7.08gをイオン交換水276gに溶解させた活性剤溶液を投入し、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しつつ、例示化合物(20)7.2gを加えて混合分散させて分散液を得た。上記分散液中の離型剤の粒子径を電気泳動光散乱光度計「ELS−800」(大塚電子社製)を用いて測定した結果、質量平均径で100nmであった。この分散液を「離型剤分散液1」とする。
(トナー粒子1の作製)
前述の「樹脂粒子分散液(A1)」1250g、「樹脂粒子分散液(B1)」125g、イオン交換水2000g及び「着色剤分散液1」を、温度センサー、冷却管、窒素導入装置、撹拌装置を付けた5リットルの四つ口フラスコに入れ撹拌する。30℃に調整した後、この溶液に5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを10.0に調整した。ついで、塩化マグネシウム6水和物52.6gをイオン交換水72gに溶解した水溶液を撹拌下、30℃にて10分間で添加した。その後、3分間放置した後に、昇温を開始し、液温度90℃まで6分で昇温した(昇温速度=10℃/分)。その状態で粒径を「コールターカウンターTA−III」(コールターベックマン社製)にて測定し、体積基準メディアン径が6.5μmになった時点で塩化ナトリウム115gをイオン交換水700gに溶解した水溶液を添加し粒子成長を停止させ、さらに継続して液温度90℃±2℃にて、6時間加熱撹拌し、融着させた。その後、6℃/minの条件で30℃まで冷却し、塩酸を添加し、pHを2.0に調整し、撹拌を停止した。
生成したトナー粒子を固液分離し、イオン交換水による洗浄を4回繰り返し(イオン交換水の量を15リットルとした)、その後、40℃の温風で乾燥し、トナー粒子を得た。これを「トナー粒子1」とする。
(トナー粒子2〜11、13〜17の作製)
「トナー粒子1」の調製で用いた「樹脂粒子(A1)分散液」と「樹脂粒子(B1)分散液」を、表3に記載のように変更して「トナー粒子2〜11、13〜17」を得た。
(トナー粒子12の作製)
前述の「樹脂粒子(A4)分散液」1000g、「樹脂粒子(B4)分散液」120g、イオン交換水2000g及び「着色剤分散液1」100g、「離型剤分散液1」100gを、「トナー粒子1」の作製に使用しものと同様の四つ口フラスコに入れ、「トナー粒子1」と同様の手順により「トナー粒子12」を作製した。
この様に、「トナー粒子12」は樹脂粒子の存在下に着色剤と離型剤とを共存させ、凝集を行ってトナー粒子を作製するものである。
表3に、「トナー粒子1〜17」の作製に用いた樹脂相Aを形成する樹脂粒子(A)と樹脂相Bを形成する樹脂粒子(B)の比率、ピーク分子量、分子量5,000以下の割合、樹脂相Bの大きさ、ガラス転移温度、SP値を示す。
ここで、ピーク分子量と分子量5,000以下の樹脂の比率は、前述したゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ガラス転移温度は示差熱分析装置(DSC)により得られたものであり、溶解度パラメータ値は前述の式(3)から算出したものである。
さらに、樹脂相Bの確認は前述した透過型電子顕微鏡装置(TEM)「S−5000H型」(日立製作所社製)による観察結果に基づくものである。
表3に示すように本発明に係る「トナー粒子1〜12、15」は、トナー粒子中に樹脂相Bを内包している構造を有することが確認されたが、比較例となる「トナー粒子14、16、17」ではトナー粒子中に樹脂相Bを確認できなかった。
尚、乾燥した「トナー粒子1〜17」について、前述の蛍光X線分析装置「システム3270型」(理学電気工業社製)で、トナー粒子表面に残存する金属元素の量を測定したところ、800〜5,000ppmであることが確認された。
〈トナー粒子の外添剤処理〉
次いで、上記で作製した「トナー粒子1〜17」の各々に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)を1質量%及び疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)を1質量%添加し、「ヘンシェルミキサー」(三井三池化工機社製)により混合した。その後、45μmの目開きのフルイを用いて粗大粒子を除去し「トナー1〜17」を調製した。
《現像剤の調製》
上記で作製した「トナー1〜17」の各々に、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径60μmのフェライトキャリアを、前記トナーの濃度が6質量%になるよう混合し「現像剤1〜17」を調製した。
《評価》
上記で作製した「現像剤1〜17」について、下記の項目を評価した。尚、「現像剤1〜12、15(トナー1〜12、15)」を用いたものを「実施例1〜13」、「現像剤13、14、16、17(トナー13、14、16、17)」を用いたものを「比較例1〜4」とした。
評価機としては、電子写真方式を採用した市販の複合機「Sitios7165」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)を用いた。
〈トナー保管安定性(耐熱保管性)〉
各トナー100gを55℃、90%RHの条件下で24時間放置した後、目開き45μmのフルイで篩い、フルイ上に残った凝集物の量(割合)でトナー保管安定性を評価した。
評価基準
◎:フルイ上の量が、5%未満で凝集非常に少なく優良(断熱梱包材全く無しで夏場に輸送を行っても凝集物の発生なし)
○:フルイ上の量が、5〜30%未満で凝集量少なく良好(ダンボール梱包のみで夏場に輸送を行っても凝集物の発生なし)
×:フルイ上の量が、30%以上で凝集量が多く実用上問題(保冷輸送の必要有り)。
〈定着性の評価〉
上記評価機の定着器の加熱ローラ表面温度を、紙温度が80〜150℃の範囲で10℃刻みで変化するように変更し、各変更温度でトナー画像を定着して定着画像を作製した。尚、プリント画像の作製に当たっては、A4版サイズの普通紙(坪量64g/m2)を使用した。
定着して得られたプリント画像の定着強度を、「電子写真技術の基礎と応用:電子写真学会編」第9章1.4項に記載のメンディングテープ剥離法に準じた方法を用いて定着率により評価した。
具体的には、トナー付着量が0.6mg/cm2である2.54cm角のベタ黒プリント画像を作製した後、「スコッチメンディングテープ」(住友3M社製)で剥離する前後の画像濃度を測定し、画像濃度の残存率を定着率として求めた。
定着率が95%以上得られた定着温度を定着可能温度とする。尚、画像濃度の測定には反射濃度計「RD−918」(マクベス社製)を使用した。
評価基準
◎:紙温度90℃以下での定着が可能
○:紙温度120℃以下での定着が可能
×:紙温度120℃以下での定着ができない。
〈極厚紙の定着性〉
ハート株式会社製の極厚はがき(厚さ0.4mm)500枚を用い、図2に記載の画像形成装置を評価機として使用して連続プリントを行った。得られたプリントを下記の様にランク評価した。
評価基準
◎:500枚目のプリント画像上につけペンで文字を強く書いても全くトナーが剥落しない
○:500枚目のプリント画像上につけペンで文字を強く書いた時にトナーが剥落するが、ボールペンで文字を強く書いた時にはトナーの剥離がおきない
×:500枚目のプリント画像に手が触れただけで、トナーが剥落して手が汚れる。
〈コート紙の定着性〉
大王製紙社製のコート紙(60g/m2)250枚に印字を行い、片手親指で10回めくり、文字周辺のにじみ状の汚れを目視及びルーペ(倍率10倍)で観察し、下記の様にランク評価を行った。
評価基準
◎:にじみ状の汚れが全く発生していない
○:目視ではにじみ状の汚れが観察されないが、ルーペ観察で僅かに汚れを検知する程度で実用上問題がない
×:親指の跡が黒くにじんだ様に汚れている。
〈耐オフセット性〉
記録紙としては上質紙(200g/m2)の厚紙を使用し、紙進行方向(加熱ローラ周方向)に平行な、幅0.3mm、長さ150mmの線画像を形成し、目視にてオフセットによる白紙の汚れと加熱ローラ表面のトナー汚れを評価した。
評価基準
◎:オフセットによる白紙汚れ、加熱ローラ表面のトナー汚れ、共に全く見られず優良
○:オフセットによる白紙汚れは確認できないが、加熱ローラ表面にトナー汚れがあるが良好
×:オフセットによる白紙汚れが確認され、実用上問題あり。
〈光沢度〉
記録紙としてアート紙(三菱製紙社製、特菱アート)を用い、プリントアウトしたソリッド画像を市販の光沢度測定装置(入射角75±0.1°)を用いて測定を行った。
評価基準
◎:40%以上の光沢度を有し優良
○:20〜40%の光沢度を有し良好
×:20%未満の光沢度を有し実用性に劣る。
〈光沢むら〉
記録紙としてアート紙(三菱製紙社製、特菱アート)を用い、プリントアウトしたソリッド画像を、目視或いはルーペで見て評価を行った。
評価基準
◎:光沢のむらが全く検知できない
○:ルーペで拡大しない限り、光沢のむらが全く検知できない
×:すじ状の光沢のむらが目視で検知できる。
評価結果を表4に示す。
表4から明らかなように、本発明に該当する「実施例1〜13」は何れの評価項目も優れているが、本発明外の「比較例1〜4」は少なくとも何れかの評価項目に問題が有ることがわかる。