JP4323607B2 - 球状黒鉛鋳鉄用接種剤及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は球状黒鉛鋳鉄用接種剤及びその製造方法に関し、詳しくは球状黒鉛鋳鉄のアズキャストフェライト化を促進させるのに有利な球状黒鉛鋳鉄用接種剤及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
球状黒鉛鋳鉄を鋳造する際、鋳鉄の基地組織や機械的性質を改善したり、あるいはチル化を防止したりすること等を目的として、鋳型に鋳込む直前の溶湯中に接種剤を添加する溶湯処理が行われている。そして、球状黒鉛鋳鉄において低コスト化及び高品質化を図る上で、黒鉛を微細化、多晶出化させることにより基地中のフェライト組織を増やすこと、すなわちアズキャストフェライト化を促進することが望まれる。なお、アズキャストフェライト化とは、鋳造後に熱処理を施すことなく、鋳放しの状態で基地組織をフェライト化させることをいう。
【0003】
球状黒鉛鋳鉄のフェライト化促進用の接種剤としては、Fe−Si系のものが従来より用いられている。Fe−Si系の接種剤では、珪素の効果を利用してパーライトが発生する領域を抑制するとともに、黒鉛核を増加させることにより、フェライト化を促進させることができる。
一方、特開平1−136919号公報や特開昭63−413号公報には、球状化処理剤としてのFe−Si−Mgと、黒鉛化促進剤としてのSiCやCaC2 とを取り鍋内に装填しておき、この取り鍋内に溶湯を装入して球状化処理を行い、さらに鋳型に鋳込む直前の溶湯中に接種剤としてのFe−Siを添加する鋳造方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Fe−Si系の接種剤の単独使用によりフェライト化を促進させる場合、接種剤の単位使用量当たりの黒鉛核増加には限界があることから、フェライト化をより促進させるためには、Fe−Si系の接種剤の使用量を増やす必要がある。ところが、Fe−Si系接種剤の使用量増加により球状黒鉛鋳鉄中の珪素含有量が増大すると、鋳鉄製品の耐衝撃性が低下し、脆い鋳鉄となってしまうという問題がある。
【0005】
一方、SiCは球状黒鉛鋳鉄の黒鉛化を促進させる黒鉛化促進能を有しているが、SiCはかさ比重が1.14と溶湯(比重6.5〜6.9程度)の比重よりも小さい。このため、SiC粉末を単独で溶湯中に添加した場合、SiC粉末が溶湯中で浮上して溶湯表面に偏在してしまうことから、溶湯中でSiC粉末を均一に分散した状態で存在させることが困難となり、SiCの黒鉛化促進能を十分に発揮させることができない。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、SiCの黒鉛化促進能を効果的に発揮させることにより、Fe−Si系接種剤の使用量増大による球状黒鉛鋳鉄中の珪素含有量増大を抑えて鋳鉄製品が脆くなることを抑えることができ、しかも鋳鉄中の珪素含有量を従来と同等に維持しつつ、従来よりもアズキャストフェライト化を促進させることのできる球状黒鉛鋳鉄用接種剤を提供することを解決すべき技術課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の球状黒鉛鋳鉄用接種剤は、球状黒鉛鋳鉄の溶湯処理の際に溶湯に接触させられる球状黒鉛鋳鉄用接種剤であって、SiC粉末と少なくともFe‐Si系合金との複合化物よりなり、前記SiC粉末以外の材料を溶融させた溶融物に該SiC粉末を投入して、該SiC粉末を軟化させつつ該溶融物中に均一分散させ、軟化した該SiC粉末を均一分散させた状態で該溶融物を冷却、固化させて金属塊を得た後、該金属塊を粉砕して得られた粉砕品であることを特徴とするものである。
上記課題を解決する本発明の球状黒鉛鋳鉄用接種剤の製造方法は、球状黒鉛鋳鉄の溶湯処理の際に溶湯に接触させられる、SiC粉末と少なくともFe‐Si系合金とを複合化してなる球状黒鉛鋳鉄用接種剤の製造方法であって、
上記SiC粉末以外の材料が全て溶融し、かつ、該SiC粉末が溶融も軟化もしない第1設定温度で該SiC粉末以外の材料を溶融させて溶融物を得る第1工程と、
上記第1設定温度から少なくとも上記SiC粉末が軟化する第2設定温度まで昇温する間に上記溶融物に該SiC粉末を投入して、該SiC粉末を軟化させつつ該溶融物中で均一分散させる第2工程と、
上記軟化したSiC粉末を均一分散させた状態で上記溶融物を冷却、固化させる第3工程とを順に実施することを特徴とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
SiCは、鋳鉄の凝固の際の黒鉛化を促進する黒鉛化促進能を備えている。本発明は、このSiCの黒鉛化促進能を利用して、アズキャストフェライト化の促進を図るものである。
すなわち、SiCは、溶湯中の酸素と反応して下記(1)式に示すようにSi及びSiO2 を生成する。
【0009】
2SiC+2O2 →Si+SiO2 +2CO …(1)
そして、上記(1)式の反応により生成したSi及びSiO2 とFe−Siとが溶湯に同時に接触することにより、以下に示すような化学反応を起こす。すなわち、上記(1)式の反応により生成したSi、SiO2 及びCOとFe−Siとが下記(2)式に示す反応をして、その結果Fe中にC及びSiが固溶する。なお、SiO2 はクリストバライトの状態で存在する。
【0010】
(Si+SiO2 +2CO)+(Fe−Si)
→Si[Fe(C)+SiO2 ]+SiO2
→Fe(Si・C)+2SiO2 …(2)
こうしてFe中に固溶したC及びSi並びにクリストバライトの状態にあるSiO2 が黒鉛核として作用し、その結果溶湯の凝固の際に発生する黒鉛粒数が増加する。黒鉛粒数が増加すれば、各黒鉛核同士の距離が短くなる。これにより、パーライト基地中のC原子(セメンタイト(Fe3 C)として存在するC原子)と黒鉛核との距離が短くなるので、当該C原子が黒鉛核まで到達する可能性が高まる。その結果、パーライト基地が減少し、その分フェライト基地が増加する。よって、アズキャストフェライト化が促進される。
【0011】
本発明の球状黒鉛鋳鉄用接種剤は、かかる黒鉛化促進能を備えたSiC粉末と少なくともFe−Si系合金とを複合化してなる。このため、この接種剤の比重は、SiC粉末の比重とFe−Si系合金の比重(1.70〜2.40程度)との配合割合に応じた中間値となってSiC粉末単独での比重よりも大きくなる。したがって、この接種剤を球状黒鉛鋳鉄の溶湯中に添加すれば、SiC粉末のように浮上して溶湯表面に偏在することなく、溶湯内で均一分散させることができる。よって、SiCによる接種効果(黒鉛化促進能)を効果的に発揮させることができる。
【0012】
そして、この接種剤を溶湯処理、例えば注湯直前に行う湯流れ接種により、球状黒鉛鋳鉄の溶湯に接触させると、接種剤中のSiC粉末以外の材料が溶湯内に溶け出す。これにより、SiC粉末とFe−Si合金とが溶湯に同時に接触する。このとき、Fe−Si系合金と溶湯中の酸素との酸化発熱反応による反応熱により、上記(1)式に示す反応が促進され、Si及びSiO2 の量が増大する。そして、このSi及びSiO2 とFe−Siとが溶湯に同時に接触することにより、上記(2)式に示す反応が起こり、SiCによる黒鉛化促進能が発揮され、アズキャストフェライト化が促進される。
【0013】
このように本発明の球状黒鉛鋳鉄用接種剤は、SiC及びFe−Siの双方による接種効果(黒鉛化促進能)を相乗的に発揮させることができるので、Fe−Si系接種剤を単独で用いる場合と比較して、Fe−Si系接種剤の使用量増大による球状黒鉛鋳鉄中の珪素含有量増大を抑えて鋳鉄製品が脆くなることを抑えることができる。また、上述のとおりSiCから生成したCが黒鉛核として作用し、このCによってもアズキャストフェライト化が促進されるので、鋳鉄中の珪素(Si)含有量を従来と同等に維持しつつ、従来よりもアズキャストフェライト化を促進させることが可能となる。
【0014】
ここに、上記SiC粉末の粒径としては、平均粒径で1〜5mm程度とすることが好ましい。1mmよりも小さいと、Fe−Si系合金等と複合化して接種剤を製造する際に、溶融物中でSiC粉末を均一分散させることが困難となる。一方、5mmよりも大きいと、質量に対する表面積が大きくなり反応に時間がかかるため、SiCによる溶湯の脱酸効果を十分に期待できなくなるとともに、SiCによるアズキャストフェライト化の促進効果も十分に期待できなくなる。
【0015】
また、接種剤中に含まれるSiC粉末の量については、接種剤全体を100wt%としたときはSiC粉末を1〜30wt%とすることが好ましく、またFe−Si系合金を100wt%としたときはSiC粉末を5〜50wt%とすることが好ましい。SiC粉末の量が上記範囲よりも少ないと、SiC粉末によるアズキャストフェライト化の促進効果を十分に発揮させることが困難となる。一方、SiC粉末の量が上記範囲よりも多いと、接種剤を製造する際に、SiC粉末を溶融物中に均一分散させることが困難となる。なお、SiC粉末の量については、最終的な球状黒鉛鋳鉄におけるSi成分を調整するための加珪目的の観点からも上記範囲内で適宜調整可能である。
【0016】
本発明の球状黒鉛鋳鉄用接種剤には、上記SiC粉末及びFe−Si系合金の他に、Ca−Si合金、Ca−Si−Ba合金、Al、メタ−Si合金(Al、CaやFe等の不純物金属とSiとの合金)、Fe、Ni等を適宜複合化させることができる。
本発明の球状黒鉛鋳鉄用接種剤は、SiC粉末以外の材料が全て溶融し、かつ、該SiC粉末が溶融も軟化もしない第1設定温度で該SiC粉末以外の材料を溶融させて溶融物を得る第1工程と、上記第1設定温度から少なくとも上記SiC粉末が軟化する第2設定温度まで昇温する間に上記溶融物に該SiC粉末を投入して、該SiC粉末を軟化させつつ該溶融物中で均一分散させる第2工程と、上記軟化したSiC粉末を均一分散させた状態で上記溶融物を冷却、固化させる第3工程とを順に実施することにより製造することができる。
【0017】
SiCの融点は2700℃以上とFe−Si系合金の融点(1200〜1350℃程度)と比べてかなり高く、またSiCは1480〜1520℃程度の温度で軟化する。そこで、本発明の球状黒鉛鋳鉄用接種剤の製造方法では、第1工程において、SiC粉末以外の材料が全て溶融し、かつ、該SiC粉末が溶融も軟化もしない第1設定温度で該SiC粉末以外の材料を溶融させて溶融物を得る。この第1設定温度はSiC粉末以外の材料の融点に応じて適宜設定可能である。
【0018】
そして、第2工程では、上記第1設定温度から少なくともSiC粉末が軟化する第2設定温度まで昇温し、この昇温する間に上記溶融物にSiC粉末を投入して、該SiC粉末を軟化させつつ該溶融物中で均一分散させる。このようにSiC粉末を軟化させることにより、SiC粉末の表面にFe−Siがコーティングされ、均一な複合状態となるため、第1設定温度では不可能であったSiC粉末の均一分散を図ることができる。この第2設定温度は1480〜1520℃程度とすることができる。第2設定温度が1480℃よりも低いとSiC粉末が軟化せず、一方1520℃よりも高いとSiC粉末以外の材料への影響が発生する。なお、SiC粉末が軟化しうる最低温度(1480℃)を以下、「軟化最低温度」という。
【0019】
また、SiC粉末を投入する際には、溶融物中にSiC粉末を均一分散させる観点より、上記軟化最低温度から徐々に(2〜5℃/分程度の昇温割合)昇温させながらSiC粉末を投入することが好ましい。SiC粉末を均一分散させる上では上記軟化最低温度からの昇温割合が2℃/分以上であれば十分であり、昇温割合がこれよりも低ければ、処理時間が長時間化するだけで好ましくない。一方、昇温割合が5℃/分よりも高ければ、SiC粉末を均一分散させるのが困難となる。
【0020】
さらに、SiC粉末の投入は、溶融物中にSiC粉末を均一分散させる観点より、なるべく少量ずつ複数回に分けて行うことが好ましい。また、同様の観点より、溶融物を攪拌しながらSiC粉末を投入することが好ましく、またSiC粉末を投入し終えた後に、さらに溶融物を攪拌することが好ましい。
第3工程では、軟化したSiC粉末を均一分散させた状態で溶融物を冷却、固化させる。ここに、上記第2工程で軟化したSiC粉末を均一分散させた溶融物は、一旦1500〜1520℃程度の温度で保持し、その後溶解炉から所定の型内に該溶融物を注入して、冷却、固化させることが好ましい。こうすることで、溶解炉から型へ搬送する間の温度低下や溶融物が型に接触することによる温度低下に伴う溶融物の異常凝固を防ぐことができ、ひいてはSiC粉末の均一分散性を高めることが可能となる。
【0021】
上記第1〜第3工程を経て得られた金属塊を所定の粒径に粉砕することにより、本発明の球状黒鉛鋳鉄用接種剤を製造することができる。
こうして得られた接種剤は、SiC粉末がFe−Si合金等中に均一分散したものとなる。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
(実施例)
本実施例の球状黒鉛鋳鉄用接種剤を製造するに当たり、以下の粉末材料を準備した。
【0023】
Fe−Si合金(Fe−75%Si合金) :28.8kg
Ca−Si合金(Ca−60%Si合金) :0.9kg
Ca−Si−Ba合金(Ca−55%Si−15%Ba):5.4kg
Al :2.1kg
メタ−Si合金(Si含有量:98%) :35.2kg
Fe :8.0kg
SiC :12.0kg
配合量の総計 :92.4kg
ここに、上記SiC粉末の平均粒径は2mmである。また、SiC粉末の量は、配合する粉末材料全体を100wt%としたときはSiC粉末が約13wt%であり、Fe−Si系合金を100wt%としたときはSiC粉末が約42wt%である。
【0024】
〔第1工程〕
誘導溶解炉を用いて、SiC粉末以外の粉末材料が全て溶融し、かつ、該SiC粉末が溶融も軟化もしない第1設定温度(本実施例では1410℃)で該SiC粉末以外の粉末材料を溶融させて溶融物を得た。
〔第2工程〕
そして、上記第1設定温度から少なくともSiC粉末が軟化する第2設定温度(本実施例では1500℃)まで昇温した。この際、第1設定温度の1410℃から前記軟化最低温度たる1480℃まで昇温した後、1480℃から第2設定温度の1500℃まで7分かけて昇温した(このときの昇温割合は2.86℃/分程度である)。この1480℃から1500℃まで徐々に昇温する間にSiC粉末を2〜3kgずつ投入し、1500℃に到達した時点でSiC粉末を全部投入し終えた。
【0025】
なお、このとき溶解炉内に鉄筋を入れて炉内の状況を調べたところ、溶解炉の側壁部及び底部に軟化状態のSiC粉末が偏在していることが確認された。
そこで、上記鉄筋で溶融物を攪拌することにより、該溶融物中でSiC粉末を均一分散させた。
〔第3工程〕
そして、1500℃から1520℃まで一旦昇温、保持した後、溶解炉から所定の型内に該溶融物を注入して、冷却、固化させた。
【0026】
〔第4工程〕
得られた金属塊を粉砕し、平均粒径が2mmの球状黒鉛鋳鉄用接種剤を製造した。
こうして得られた接種剤を用いて、以下のように球状黒鉛鋳鉄を鋳造した。
まず、高周波溶解炉を用いて溶解した所定の組成の球状黒鉛鋳鉄の溶湯を準備した。そして、Mgを取鍋底に置いて溶湯と反応させる置き注ぎ法の一種たるサンドイッチ法を用いて球状化処理を行った。すなわち、取鍋底が隔壁により上部開放の二室に区分けされた取鍋(図示せず)を準備し、一方の室に球状化処理剤を充填するとともに、この球状化処理剤の上に上記カバー材を積層して球状化処理剤を該カバー材で完全に被覆する。そして、取鍋底の他方の室から溶湯を供給し、取鍋内に溶湯を充填する。このとき、取鍋底の他方の室に溶湯が充填された後、この室からあふれた溶湯がカバー材の上に注がれる。隔壁により取鍋底を上方が開放された二室に分け、一方の室に球状化処理剤(Fe−45%Si−4.8%Mg合金)を充填するとともにこの球状化処理剤の上に多数の鉄系小片(ポンチ屑)よりなるカバー材を積層して、球状化処理剤をカバー材で完全に被覆した。そして、取鍋底の他方の室から溶湯を供給し、取鍋内に溶湯を充填した。なお、このときの溶湯温度は1520℃である。また溶湯重量に対する球状化処理剤の割合は1.0%である。
【0027】
そして、溶湯を取鍋内に充填し終わった後、直ぐに上記球状黒鉛鋳鉄用接種剤を湯流れ接種しながら図示しない鋳型内に注湯した。なお、溶湯を100wt%としたとき、球状黒鉛鋳鉄用接種剤の割合は0.2wt%である。また、このときの注湯温度は1400℃である。そして、ばらし時間:60分として鋳造後、鋳放しすることにより所定形状(自動車部品としてのステアリングナックル)の球状黒鉛鋳鉄を製造した。なお、球状黒鉛鋳鉄の最終的な組成は、表1に示す通りである。
【0028】
【表1】
(比較例1)
SiC粉末を複合化した上記球状黒鉛鋳鉄用接種剤を用いる代わりに、Fe−Si合金(Fe−75%Si合金)粉末よりなる接種剤を用いること以外は、上記実施例と同様にして球状黒鉛鋳鉄を製造した。なお、得られた球状黒鉛鋳鉄の最終的な組成が上記実施例のものと同じになるように溶湯組成を調整した。
【0029】
(比較例2)
SiC粉末を複合化した上記球状黒鉛鋳鉄用接種剤を用いる代わりに、Fe−Si合金(Fe−75%Si合金)粉末とSiC粉末とを均一に混合して得られた混合粉末よりなる接種剤を用いること以外は、上記実施例と同様にして球状黒鉛鋳鉄を製造した。なお、混合粉末におけるFe−Si合金粉末とSiC粉末との配合割合は、Fe−Si合金粉末を100wt%としたときSiC粉末が約40wt%である。また、Fe−Si合金粉末の平均粒径は2mmであり、SiC粉末の平均粒径は2mmである。さらに、得られた球状黒鉛鋳鉄の最終的な組成が上記実施例のものと同じになるように溶湯組成を調整した。
【0030】
(アズキャストフェライト化の評価)
上記実施例及び比較例1で得られた球状黒鉛鋳鉄について、金属組織を顕微鏡写真(50倍)で調べた。
比較例1の球状黒鉛鋳鉄の金属組織を図1(a)に、本実施例の球状黒鉛鋳鉄の金属組織を図1(b)に示すように、本実施例のものは比較例1のものと比べて微細、かつ、多数の黒鉛が晶出しており、アズキャストフェライト化が大幅に促進されていた。
【0031】
また、上記実施例並びに比較例1及び2の球状黒鉛鋳鉄について、パーライト面積率及び黒鉛粒数を調べた。なお、パーライト面積率は、画像解析装置により、黒鉛、フェライトを除いたパーライトの面積率を調べたものである。また、黒鉛粒数は、画像解析装置により、肉厚が25mmの部位の中央付近において視野1mm2 中の黒鉛粒数を調べたものである。
【0032】
パーライト面積率の結果を図2及び表2に示し、黒鉛粒数の結果を図3及び表2に示すように、本実施例の球状黒鉛鋳鉄は、比較例1及び2の球状黒鉛鋳鉄と比べてパーライト面積率が大幅に減少しており、また黒鉛粒数が比較例1の2倍程度以上となっており、アズキャストフェライト化が大幅に促進されていることがわかる。
【0033】
なお、Fe−Si合金粉末とSiC粉末との混合粉末よりなる接種剤を用いた比較例2におけるアズキャストフェライト化の促進効果は、Fe−Si合金粉末単独の接種剤を用いた比較例1のものよりも優れていたが、本実施例のものよりは劣っていた。これは、SiC粉末が溶湯中で浮上してしまい、SiCによる黒鉛化促進能が十分に発揮されなかったためである。
【0034】
【表2】
【0035】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明の球状黒鉛鋳鉄用接種剤によれば、SiC及びFe−Siの双方による接種効果(黒鉛化促進能)を相乗的に発揮させることができるので、Fe−Si系接種剤を単独で用いる場合と比較して、Fe−Si系接種剤の使用量増大による球状黒鉛鋳鉄中の珪素含有量増大を抑えて鋳鉄製品が脆くなることを抑えることができる。また、SiCから生成したCが黒鉛核として作用し、このCによってもアズキャストフェライト化が促進されるので、鋳鉄中の珪素(Si)含有量を従来と同等に維持しつつ、従来よりもアズキャストフェライト化を促進させることが可能となる。
【0036】
したがって、フェライト化を促進するための鋳造後の加熱処理が不要となり、その分低コスト化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は比較例1の球状黒鉛鋳鉄の金属組織を示す顕微鏡写真(50倍)であり、(b)は本実施例の球状黒鉛鋳鉄の金属組織を示す顕微鏡写真(50倍)である。
【図2】本実施例及び比較例1、2の球状黒鉛鋳鉄について、パーライト面積率を調べた結果を示す図である。
【図3】本実施例及び比較例1、2の球状黒鉛鋳鉄について、黒鉛粒数を調べた結果を示す図である。
Claims (2)
- 球状黒鉛鋳鉄の溶湯処理の際に溶湯に接触させられる球状黒鉛鋳鉄用接種剤であって、SiC粉末と少なくともFe‐Si系合金との複合化物よりなり、前記SiC粉末以外の材料を溶融させた溶融物に該SiC粉末を投入して、該SiC粉末を軟化させつつ該溶融物中に均一分散させ、軟化した該SiC粉末を均一分散させた状態で該溶融物を冷却、固化させて金属塊を得た後、該金属塊を粉砕して得られた粉砕品であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄用接種剤。
- 球状黒鉛鋳鉄の溶湯処理の際に溶湯に接触させられる、SiC粉末と少なくともFe−Si系合金とを複合化してなる球状黒鉛鋳鉄用接種剤の製造方法であって、
上記SiC粉末以外の材料が全て溶融し、かつ、該SiC粉末が溶融も軟化もしない第1設定温度で該SiC粉末以外の材料を溶融させて溶融物を得る第1工程と、
上記第1設定温度から少なくとも上記SiC粉末が軟化する第2設定温度まで昇温する間に上記溶融物に該SiC粉末を投入して、該SiC粉末を軟化させつつ該溶融物中で均一分散させる第2工程と、
上記軟化したSiC粉末を均一分散させた状態で上記溶融物を冷却、固化させる第3工程とを順に実施することを特徴とする球状黒鉛鋳鉄用接種剤の製造方法。
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