JP4323006B2 - 新規神経ペプチド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は新規な神経ペプチドに関し、さらに詳細には、テナガダコ(Octopus minor)の脳から得られる、軟体動物の心臓の拍動を増強する活性を有する新規ペプチドに関する。
【0002】
【従来の技術】
無脊椎動物は、神経内分泌系が発達しており、様々な内在性ペプチドが、神経伝達物質、神経修飾物質または神経ホルモンとして働いていることが知られている。
【0003】
また、無脊椎動物の代表である軟体動物の神経系は、高等動物に比べて比較的単純であるために、情報処理の機構の解明に利用することができる。特に、軟体動物より得られた情報処理機構に関する知見が、細胞下レベルにおける機構に関するものであれば、高等動物の神経系における情報処理機構の解明に、その知見が一般化できると考えられることから、軟体動物の神経伝達物質の探索が精力的に行われている。
【0004】
例えば、特開平1−221392号公報にはムラサキイガイより得られる内因性神経ペプチドが開示されている。また、特開平2−286696号公報にはアフリカマイマイの神経節から得られる内在性神経伝達物質として、D−アミノ酸を含む新規ペプチドが開示されており、さらに特開平6−56890号公報にはハンガリー産マイマイの神経節から得られる神経ペプチドが開示されている。
【0005】
この他、軟体動物からは、H−Ala−Pro−Gly−Trp−NH2 、ミオモジュリン−CARP、心筋作動性小ペプチド(SCP)、バッカリンなどの多数の神経ペプチドが単離、同定されている(M.Kobayashi andY.Muneoka,Zool.Sci.,7,801(1990);Y.Muneoka and M.Kobayashi,Experientia 48,448(1992);宗岡洋二郎、日本農薬学会誌 18,S191(1993);Y.Muneoka,T.Takahashi,M.Kobayashi,“Perspective in Comparative Endocrinology”,National Research Council of Canada 1994,p109)。
なお、本明細書中においては、アミノ酸残基はIUPACおよびIUBの定める3文字表記にて表記する。また、アミノ酸残基がD体の場合には3文字表記の前に大文字のD−を用いて表記し、表記なき場合はL体を表す。
【0006】
このように、軟体動物からは幾つかの神経ペプチドが得られているが、これらの神経ペプチドの構造−活性相関や、種特異性を明らかにして、高等動物の神経系にも一般化できる情報を得るためには、種々の軟体動物から、さらに多くの神経ペプチドを見出すことが必要とされている。
【0007】
ところで、軟体動物のうち、頭足類に分類されるタコ類は、高度に発達した脳を持ち、他の軟体動物に比べて運動機能や知覚機能において格段の進化を遂げている。特に循環系は、軟体動物では唯一、閉鎖血管系であり、体循環のための心臓(体心臓)に加えて、鰓に血液を循環させる鰓心臓を持つ。しかしながら、タコ類のペプチド性制御物質としては、H−Phe−Met−Arg−Phe−NH2とその同族ペプチドの幾つかが知られているのみであり(R.Martinand K.H.Voigt,Experientia 43,537(1987))、詳細には検討されていないのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明は、軟体動物としてこれまであまり検討されていなかったテナガダコより新たな神経ペプチドを見い出し、その構造を明らかにするとともに、そのタコ自身の中での作用や、他の軟体動物に対する作用を解明し、高等動物の神経系における情報処理機構の解明用の試薬や、農薬または医薬品開発における基礎化合物として利用可能な、新規ペプチドを得ることを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために、本発明者らはタコ類から新たな神経ペプチドを得るべく、テナガダコの脳から、その心臓に対する活性を指標に、テナガダコの内因性神経ペプチドを単離すべく鋭意研究を行い、次のアミノ酸配列式(1)〜(4):
【0010】
H−Gly−D−Phe−Gly−Asp−OH (1)
(以下、このペプチドを化合物(1)と称する。)
【0011】
H−Gly−Phe−Gly−Asp−OH (2)
(以下、このペプチドを化合物(2)と称する。)
【0012】
H−Gly−Ser−Trp−Asp−OH (3)
(以下、このペプチドを化合物(3)と称する。)
【0013】
H−Gly−D−Ser−Trp−Asp−OH (4)
(以下、このペプチドを化合物(4)と称する。)
【0014】
で表されるペプチドを分離、精製し、その化学構造を決定するとともに、全合成によりその構造を確認し、さらにこれらのペプチドのタコおよびハマグリなどの軟体動物の心臓に対する作用を確認して本発明を完成した。
【0015】
【発明の実施の形態】
これらの新規ペプチドは、テナガダコの心臓の心拍頻度と収縮高を増強させる内因性神経ペプチドであり、テナガダコから、以下の方法により単離、精製することができる。
【0016】
すなわち、テナガダコの脳を熱水抽出し、その抽出液に酢酸を3%濃度となるように加えた後、冷却し、遠心分離して粗抽出物を得る。この粗抽出物をC18カートリッジ(例えばSep−Pak(登録商標)Cartridges:ウォーターズ社製)に吸着させた後、60%メタノールで溶出してペプチド画分を分取し、この画分をイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等に付して、目的とするペプチドを分離、精製することができる。
【0017】
また、本発明のペプチドはアミノ酸残基数4のオリゴペプチドであるため、通常のペプチド合成機(例えばPEバイオシステムズジャパン社製ペプチド合成機433A型)を用いた固相合成法や、通常の有機合成化学的手法による合成により容易に合成することができる。これらの方法で得られた粗ペプチドは、必要であれば逆相高速液体クロマトグラフィーや結晶化等の通常の精製手法によって、精製することができる。
【0018】
【作用】
本発明のペプチドは、テナガダコの心臓の心拍頻度および収縮高を増強させる内因性の神経ペプチドであるが、別の軟体動物であるハマグリの心臓に対しても同様の効果を及ぼすことから、神経伝達系研究用の試薬としてだけでなく、医薬および農薬等への新たなアプローチを与える有用な化合物として利用することができる。
【0019】
例えば、本発明のペプチドを有効成分とする医薬としては、製剤学的に慣用されている賦形剤と共にカプセル剤、錠剤、注射剤等の適当な剤形で、経口的または非経口的に投与することができる。具体的には、本発明のペプチドを、乳糖、デンプンまたはその誘導体、セルロース誘導体等の賦形剤と混合したのち、ゼラチンカプセルに充填することによりカプセル剤を調整することができる。
【0020】
また錠剤は、上記の賦形剤の他に、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸、アラビアゴム等の結合剤と水を加えて練合し、必要により顆粒として造粒したのち、さらにタルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤を添加して、通常の圧縮打錠機を用いて錠剤に調整することができる。
【0021】
さらに、非経口投与に際しては、本発明のペプチドを溶解補助剤と共に滅菌蒸留水あるいは滅菌生理食塩水に溶解し、アンプルに封入して注射用製剤とすることができる。この場合、必要により安定化剤、緩衝物質等を含有させてもよい。また、粉末のままバイアル充填し、滅菌蒸留水により用時溶解型の製剤とすることもできる。これらの非経口投与製剤は、静脈内投与、あるいは点滴静注により投与することができる。
【0022】
なお本発明の有効成分であるペプチドの投与量は、種々の要因、例えば治療すべき病態、患者の症状、重篤度、患者の年齢、さらには投与経路等を考慮して、適宜設定すればよい。一般的に経口投与の場合には、有効成分として通常0.1〜1000mg/日/ヒト、好ましくは1〜500mg/日/ヒトの範囲内で、また非経口投与の場合には、経口投与の場合における投与量の約1/100〜1/2程度の範囲内で適宜選択し投与することができる。
【0023】
【実施例】
次に実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれのみに限定されるものではない。
【0024】
実施例1:テナガダコから心拍動増強活性を有するペプチド類の分離
(a):粗抽出
テナガダコ(Octopus minor)200匹から脳(視葉を含む)を摘出し、液体窒素にて凍結保存した。凍結保存した摘出組織を、沸騰した蒸留水1L中に入れ、10分間煮沸した。放冷後、酢酸を3%濃度になるように加え、ホモジナイズした後、4℃で35分間、12,000×gで遠心分離して、上清を得た。この操作をもう一度繰り返し、沈殿物に200mlの3%酢酸を加えて再びホモジナイズした後、同じ操作条件で遠心分離して上清を得た。集めた上清を、減圧下に約200mlになるまで濃縮し、粗抽出物とした。
【0025】
(b):C18カートリッジへの吸着
(a)で得られた粗抽出物に、0.1M−HCl濃度となるように1.0M−HClを加え、4℃で30分間、30,000×gで遠心分離した。得られた上清を、Sep−Pak(登録商標)Vac35cc(10g)C18カートリッジ(ウォーターズ社製)に通した。カートリッジを0.1%トリフロロ酢酸(以下、TFAと略す)200mlで洗浄した後、保持物質を60%メタノール/0.1%TFA 100mlで溶出し、溶出液を減圧下に約4mlになるまで濃縮した。
【0026】
(c):逆相高速液体カラムクロマトグラフィー(1)
(b)で得られた濃縮液を濾過して微粒子を除き、Capcell pak C18 UG80(5μm、Φ10×250mm、資生堂製)を用いた逆相高速液体カラムクロマトグラフィー(逆相HPLC)に付し、流速1.5ml/minで、0.1%TFA(pH2.2)中、60分間で0%から60%のアセトニトリルの直線濃度勾配で溶出した。215nmの紫外線吸収のモニターにより、3mlずつ分画した。各画分を後記する実施例7に示した生物検定に付したところ、アセトニトリル15〜21%に溶出される画分に、心拍動増強活性が見られた。
【0027】
(d):陽イオン交換カラムクロマトグラフィー
(c)で得られた活性画分を、TSKgel SP−5PW(10μm、Φ7.5×75mm、東ソー製)を用いた陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(陽イオン交換HPLC)に付し、流速1.0ml/minで、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)中、60分間で0Mから0.6MのNaClの直線濃度勾配で溶出した。2mlずつの画分を生物検定したところ、0MのNaCl濃度で溶出された画分に活性が見られた。
【0028】
(e):逆相HPLC(2)
(d)で得られた画分を、L−column ODS(5μm、Φ4.6×150mm、財団法人化学品検査協会製)を用いた逆相HPLCに付し、流速1.0ml/minで、0.1%TFA(pH2.2)中、40分間で、5〜25%のアセトニトリルの直線濃度勾配で溶出した。1mlずつ分画し、アセトニトリル濃度約7〜8%に溶出する画分(以下、画分Aという)およびアセトニトリル濃度約9%に溶出する画分(以下、画分Bという)に活性を認めた。
【0029】
実施例2:活性画分からペプチド類の精製(その1:活性画分Aからの精製)
実施例1の分離操作により得られた活性画分Aについて、更に以下の操作を行い、ペプチド類を精製した。
【0030】
(a):陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
実施例1の(e)で得られた活性画分Aを、TSKgel DEAE−5PW(10μm、Φ7.5×75mm、東ソー製)を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(陰イオン交換HPLC)に付し、流速1.0ml/minで、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.7)中、70分間で0Mから0.7MのNaClの直線濃度勾配で溶出した。2mlずつ分画し、活性を示した0.08〜0.10MのNaCl濃度で溶出された画分を集めた。
【0031】
(b):逆相HPLC(1)
(a)で得られた画分を、L−column ODS(5μm、Φ4.6×150mm、財団法人化学品検査協会製)を用いた逆相HPLCに付し、流速1.0ml/minで、0.1%TFA(pH2.2)中、30分間で、0〜15%のアセトニトリルの直線濃度勾配で溶出した。アセトニトリル濃度8.5〜9%で溶出した隣接したピークA−1およびピークA−2を分取した。
【0032】
(c):逆相HPLC(2)
(b)で得られた画分をそれぞれ、L−column ODS(5μm、Φ4.6×150mm、財団法人化学品検査協会製)を用いた逆相HPLCに付し、流速0.5ml/minで、0.1%TFA(pH2.2)中、アセトニトリル6.6%で展開した。ピークA−1からは保持時間24.9分に、ピークA−2からは保持時間25.8分に単一の紫外線吸収を示す化合物(ペプチド)がそれぞれ得られた。前者を化合物(1)、後者を化合物(2)とした。
【0033】
実施例3.神経ペプチド類の同定(その1)
実施例2で純化した化合物(1)および(2)の構造を、Shimadzu PSQ−1型気相シークエンサー(島津製作所製)によって解析した。得られたアミノ酸配列を、下記表1に示した。
【0034】
【表1】
ペプチドのアミノ酸配列(単位:pmol)
【0035】
分子量は、MALDI TOF−MS(Voyager Elite,PEバイオシステムズジャパン社製)によって確認した。その測定値を下記表2に示した。
【0036】
【表2】
ペプチドのMSデータ
【0037】
さらに、アミノ酸の光学活性はFLEC法により東ソーCCP−8020型アミノ酸分析システムにより測定した。その結果、化合物(1)についてはD−PheおよびL−Aspが確認され、化合物(2)からはL−PheおよびL−Aspが確認された。
【0038】
以上の機器分析データにより、活性画分Aより単離、精製されたテナガダコの神経ペプチド類である化合物(1)および化合物(2)は、次のアミノ酸配列式(1)および(2)
H−Gly−D−Phe−Gly−Asp−OH (1)
H−Gly−Phe−Gly−Asp−OH (2)
で表されることが明らかになった。
【0039】
実施例4:活性画分からペプチド類の精製(その2:活性画分Bからの精製)
実施例1の分離操作により得られた活性画分Bについて、更に以下の操作を行い、ペプチド類を精製した。
【0040】
(a):陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
実施例1の(e)で得られた活性画分Bを、TSKgel DEAE−5PW(10μm、Φ7.5×75mm、東ソー製)を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(陰イオン交換HPLC)に付し、流速1.0ml/minで、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.7)中、70分間で0Mから0.7MのNaClの直線濃度勾配で溶出した。2mlずつ分画し、活性を示した0.12MのNaCl濃度で溶出された画分を集めた。
【0041】
(b):逆相HPLC(1)
(a)で得られた画分を、L−column ODS(5μm、Φ4.6×150mm、財団法人化学品検査協会製)を用いた逆相HPLCに付し、流速1.0ml/minで、0.1%TFA(pH2.2)中、30分間で、0〜15%のアセトニトリルの直線濃度勾配で溶出した。アセトニトリル濃度約10.5%で溶出したピークB−1およびアセトニトリル濃度約11%で溶出したピークB−2を分取した。
【0042】
(c):逆相HPLC(2)
(b)で得られた画分をそれぞれ、Capcell pak C18 UG80(5μm、Φ4.6×150mm、資生堂製)を用いた逆相HPLCに付し、流速0.5ml/minで、0.1%TFA(pH2.2)中、アセトニトリル10.2%で展開した。ピークB−1からは保持時間20.8分に、ピークB−2からは保持時間24分に単一の紫外線吸収を示す化合物(ペプチド)がそれぞれ得られた。前者を化合物(3)、後者を化合物(4)とした。
【0043】
実施例5.神経ペプチド類の同定(その2)
実施例4で純化した化合物(3)および(4)の構造を、Shimadzu PSQ−1型気相シークエンサー(島津製作所製)によって解析した。得られたアミノ酸配列を、下記表3に示した。
【0044】
【表3】
ペプチドのアミノ酸配列(単位:pmol)
【0045】
分子量は、MALDI TOF−MS(Voyager Elite,PEバイオシステムズジャパン社製)によって確認した。その測定値を下記表4に示した。
【0046】
【表4】
ペプチドのMSデータ
【0047】
さらに、アミノ酸の光学活性はFLEC法により東ソーCCP−8020型アミノ酸分析システムにより測定した。その結果、化合物(3)についてはL−SerおよびL−Aspが確認され、化合物(4)からはD−SerおよびL−Aspが確認された。トリプトファンの光学活性については、塩酸加水分解中にトリプトファンが分解されるため、D−TrpおよびL−Trpを用いて合成したペプチドと化合物(3)、化合物(4)を逆相HPLCにて溶出位置の比較をすることにより確認した。その逆相HPLCの展開図を、図1として示す。
【0048】
以上の機器分析データにより、活性画分Bより単離、精製されたテナガダコの神経ペプチド類である化合物(3)および化合物(4)は、次のアミノ酸配列式(3)および(4)
H−Gly−Ser−Trp−Asp−OH (3)
H−Gly−D−Ser−Trp−Asp−OH (4)
で表されることが明らかになった。
【0049】
実施例6.固相法によるテナガダコ神経ペプチド類の合成
テナガダコ神経ペプチド類の合成は、PEバイオシステムズジャパン社の全自動ペプチド合成機433A型を用い、FastMoc(登録商標)法により合成した。
【0050】
なお、化合物(1)および(2)の合成には、Fmoc−Asp(OtBu)−Alkoレジン(渡辺化学工業社製)を担体とし、Fmoc−Gly、Fmoc−PheおよびFmoc−D−Pheを用いた。
【0051】
また、化合物(3)および(4)の合成には、Fmoc−Asp(OtBu)−Alkoレジン(渡辺化学工業社製)を担体とし、Fmoc−Gly、Fmoc−Ser(tBu)、Fmoc−Trp(Boc)およびFmoc−D−Ser(tBu)を用いた。
【0052】
(ただし、Fmocは9−Fluorenylmethoxycarbonylを、tBuはt−Butylを、Bocはt−Butoxycarbonylを示す。)
【0053】
反応終了後のペプチド樹脂からの粗ペプチドの切離しと脱保護には、1,2−エタンジチオール2.5%/水2.5%/TFA95%を用いた。反応混合物を濾過し、濾液にエーテルを加えてペプチドを沈殿させ、沈殿をエーテルで3回洗浄し、粗ペプチド約100mgを得た。このうちの約10mgの粗ペプチドを逆相HPLCにより精製し、約6mgの精製ペプチドを得た。
【0054】
精製ペプチドは、Capcell pak C18を用いる逆相HPLCにおいて、保持時間が化合物(1)ないし(4)と全く一致した。また、テナガダコの心臓の心拍動活性においても、合成物はそれぞれの天然物と同様であった。
【0055】
実施例7.テナガダコの心臓の拍動活性の測定
テナガダコの心臓の拍動活性は、森下ら(Fumihiro Morishita、Biochem.Biophys.Res.Commun.,240,354−358 (1997))の方法に準拠して実施した。すなわち、テナガダコの心臓を摘出し、2つの心房を切断して、一方の房室から心室にカニューレを差込み、チャンバー(容量10ml)に固定し、他方を木綿の糸で縛り、張力トランスジューサーにつないで検定の標本とした。カニューレからは人工海水(1%グルコースを含む)が1〜2ml/min流れるようセットした。検定すべき検体は、同様の人工海水1mlに溶解して、カニューレから心臓内部に到達するよう添加し、心臓の拍動の変化を記録した。
【0056】
本発明のテナガダコ神経ペプチドである化合物(1)および化合物(2)についての結果を、図2に示した。
図中の結果からも明らかなように、本発明のペプチドはテナガダコ心臓の拍動を増強させている。化合物(1)と化合物(2)は2番目のアミノ酸がL体かD体かの違いであり、D体である化合物(1)は低濃度で強い増強活性を示したにもかかわらず、L体である化合物(2)は極く弱い活性しか示さないことが判明した。
【0057】
一方、本発明のテナガダコの神経ペプチド類である化合物(3)および化合物(4)の結果を図3に示した。
図中の結果からも明らかなように、化合物(3)および(4)はテナガダコの心臓の拍動を増強させる。化合物(3)と(4)は2番目のアミノ酸がL体かD体かの違いであり、L体である(3)は低濃度で強い増強活性を示したにもかかわらず、D体である(4)は10-5Mの高濃度でしか活性を示さなかった。
【0058】
実施例8.ハマグリの心臓の拍動活性の測定
ハマグリの心臓の拍動活性の測定は次のように行った。ハマグリの心臓を貫通している消化管の両端を切断して心臓を摘出し、その両端を木綿糸で縛った。一方はチャンバー(容量2ml)に固定し、他方を張力トランスジューサーにつないで検定の標本とした。チャンバーは人工海水でみたし、検定すべき検体は、同様の人工海水20μlに溶解して、チャンバーの中に投与し、心臓の拍動の変化を記録した。
【0059】
本発明のテナガダコ神経ペプチドである化合物(3)における結果を図4に示した。化合物(3)は、低濃度でハマグリの心臓の拍動を増強させる作用をも有するものであった。
【0060】
上記成分を常法により練合、造粒、乾燥後打錠し、1錠中有効成分として化合物(3)を10mg含有する重量190mgの錠剤を得た。
【0061】
【発明の効果】
本発明のテナガダコ神経ペプチド類は、低濃度でテナガダコの心臓の拍動を増強させる作用を有する神経ペプチドであり、神経伝達系を解明するための生化学試薬として有用である。また、分子レベルでの構造活性相関の研究を通じて、医薬および農薬等への新たなアプローチを与えるものである。
【0062】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の化合物(3)および(4)におけるTrpがL体であることを確認するために、単離・精製した化合物と、合成化合物とのそれぞれを、逆相HPLCに付した展開図である。なお、図中の凡例における化合物の表記においては、1文字表記を用いている。
【図2】テナガダコより単離したペプチドに基づいて合成した化合物(1)および(2)の、テナガダコの心臓の拍動を増強させる活性結果を示し、拍動による心収縮高と収縮頻度の変化を記録した図である。
【図3】テナガダコより単離したペプチドに基づいて合成した化合物(3)および(4)の、テナガダコの心臓の拍動を増強させる活性結果を示し、拍動による心収縮高と収縮頻度の変化を記録した図である。
【図4】テナガダコより単離したペプチドに基づいて合成した化合物(3)について、ハマグリの心臓の拍動を増強させる活性結果を示し、拍動による心収縮高と収縮頻度の変化を記録した図である。
Claims (2)
- 次の式(II)
H−Gly−Ser−Tyr−Asp−OH (II)
[式中、アミノ酸残基は特に明記しない限りL体を表わす(以下同じ)]
で表わされ、軟体動物の心臓の拍動を増強する活性を有するペプチド。 - タコの脳から得られる、次の式(II)
H−Gly−Ser−Tyr−Asp−OH (II)
で表わされ、軟体動物の心臓の拍動を増強する活性を有するペプチド。
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