JP4322846B2 - サセプタ - Google Patents

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Description

本発明は、炭化珪素(以下、SiC)被覆黒鉛材からなる半導体製造工程で用いるエピタキシャル成長用および熱処理用のサセプタに関するものである。
従来から、SiC半導体製造用のサセプタは公知となっている。例えば、下記特許文献1に開示されるものがある。この特許文献1のものは、炭素基材と前記炭素基材の表面に形成された炭化タンタル(以下、TaC)被膜とからなる炭素複合材料であって、前記TaC被膜を構成する結晶のX線回折による分析で、(200)面に相当するピークと(111)面に相当するピークとのピーク強度比:I(200)/I(111)が、0.2〜0.5であるか、又は、(111)面に相当するピークと(200)面に相当するピークとのピーク強度比:I(111)/I(200)が、0.2〜0.5であることを特徴とする炭素複合材料である。
特開2004−84057号公報
一般に、SiCのエピタキシャル成長は1500℃以上で行われる。この温度領域では、SiC被覆黒鉛材をサセプタとして使用すると、サセプタを構成するSiC被膜が昇華損耗する。昇華、蒸発したSiC被膜がウェハの裏側に付着し、ウェハとサセプタが貼り付いてしまうという問題が生じる。また、TaC被覆黒鉛材をサセプタとして使用すると、エピタキシャル成長中にTaC被膜上にSiC層が堆積した場合、TaC被膜との熱膨張の差によって、堆積したSiC層が容易に剥離してしまい、パーティクル発生の原因になりうることがある。
エピタキシャル成長や熱処理において、SiCエピタキシャル成長の際には、質の高いSiC半導体結晶を得るために、ウェハ周辺の雰囲気中におけるSiとCの濃度を常に一定に保つ必要がある。しかし、特許文献1のものは、例えば、エピタキシャル成長が進むにつれて、雰囲気中のSiとCの濃度が変化するので、それに伴い、ウェハ周辺のSiやCを含む雰囲気ガス濃度が大きく変化してしまうことがある。
そこで、本発明の目的は、エピタキシャル成長を行った後でもウェハとサセプタとが貼り付かず、ウェハ周辺のSiとCの濃度を一定に保ち、かつ、パーティクルの発生を抑制することにより、高品質のSiC半導体結晶を得ることができるサセプタを提供することである。
課題を解決するための手段及び効果
本発明に係るサセプタSiC被覆黒鉛材からなる本体と、ウェハ載置される部分の少なくとも一部がTaC又はTaC被覆黒鉛材からなるウェハ載置部材と、少なくとも前記本体及び前記ウェハ載置部材により形成された、ウェハを収容する凹部とを備え、前記ウェハ載置部材が、前記凹部を画定する底面及び側面のうち、前記底面だけから露出していることを特徴とする。なお、TaC被膜を黒鉛に被覆する場合には、そのTaC被膜の膜厚は10〜100μmが好ましい。10μm以上の膜厚が好ましいのは、黒鉛基材の表面を完全に覆うのに最低限必要な厚さだからであるが、望ましくは30μm以上である。100μm以下の膜厚が好ましいのは、被覆時間やコスト、製品の寸法精度の観点からである。また、前記ウェハ載部材前記本体に対して分離自在であることが好ましい。また、前記ウェハ載置部材が、前記側面を介して前記底面と接続した前記凹部外の面から露出していないことが好ましい。また、前記ウェハ載置部材が、前記本体に形成された貫通孔内に収容されるようにして、前記本体に支持されてよい。前記本体が、前記貫通孔を画定する壁から当該貫通孔の内側に向かって突出すると共に当該貫通孔に収容された前記ウェハ載置部材を支持する突起を有してよい。前記ウェハ載置部材における前記凹部の底面と直交する方向に沿った断面が実質的にT字型であってよい。また、前記ウェハ載置部材の外周縁に沿って設けられ、前記本体及び前記ウェハ載置部材と共に前記凹部を形成する、炭化珪素からなる環状部材をさらに備えてよい。前記環状部材が前記本体に対して分離自在であってよい。
上記構成の本発明のサセプタによれば、ウェハ周辺のSiとCの濃度を一定に保ち、かつ、パーティクルの発生を抑制することにより、高品質のSiC半導体結晶を得ることができる。また、ウハ載部材又は環状部材が分離自在であるため、例えば、複数回のエピタキシャル成長や熱処理を行った後に劣化した場合でも、これら部材を容易に交換が可能である。その結果として、本体を何度も使用でき、コストも抑えることができる。
また、従来のサセプタをエピタキシャル成長のためなどに使用すると、サセプタのSiC被膜が昇華し、SiCウェハの裏面に付着してしまい、この付着したSiC被膜を取るために、エピタキシャル成長後や熱処理後にウェハの裏面研磨を実施しなければならなかった。しかし、本発明のサセプタによると、ウェハ載部材がTaC被膜であるため、SiCウェハの裏面へのSiC被膜やTaC被膜の付着が発生しないので、SiCウェハ裏面の研磨工程が省略できるという利点がある。
また、本発明のサセプタは、前記SiC被覆黒鉛材又はTaC被覆黒鉛材を構成する黒鉛基材が、1000℃規準で10-4Pa/g以下のガス放出であり、かつ、SIMS分析法によって測定される窒素の含有量が5×1018atoms/cm3以下であることが好ましい。なお、ここでのガス放出とは、N2、H2、H2O、CO、CO2、及び、C24やC38などの炭化水素ガスの放出のことであり、これらガスのうち炭化水素ガスを除く、N2、H2、H2O、CO、CO2が放出されればされるほど、熱CVDによる被膜形成時に被膜の緻密性を低下させることになる。また、黒鉛基材中に上記ガスを多く含む場合には、TaC被膜やSiC被膜の緻密性を劣化させることにもなる。さらに、黒鉛基材中にN2などのガスを多く含む場合には、TaCやSiC被膜中にもN(窒素)やO(酸素)が取り込まれてしまう。これらの結果として、エピタキシャル成長や熱処理中において、緻密性が低下した被膜を通して黒鉛基材中のガスが放出されること、及び、被膜が消耗して内部の不純物が放出されることによって、生成された半導体結晶に不純物が取り込まれて純度不良を引き起こすことになってしまうことがある。
上記構成によれば、ガス放出を低下させ、窒素の含有量も低下させている黒鉛基材を用いているので、上述した半導体結晶の純度不良を引き起こすことを抑止できるサセプタを提供できる。
また、本発明のサセプタは、前記SiC被覆黒鉛材又はTaC被覆黒鉛材を構成する黒鉛基材が、10ppm以下の灰分であり、かつ、SIMS分析法によって測定されるホウ素の含有量が5×1016atoms/cm3以下である黒鉛基材を有していることが好ましい。なお、黒鉛基材中に含まれる灰分が多ければ多いほど、熱CVDによる被膜形成時に被膜の緻密性を低下させる。また、黒鉛基材中にホウ素を多く含む場合には、TaC被膜やSiC被膜中にもホウ素が取り込まれてしまう。これらにより、エピタキシャル成長や熱処理中において、生成された半導体結晶に不純物が取り込まれて純度不良を引き起こすことになってしまうことがある。
上記構成によれば、黒鉛基材中に含まれる灰分が少なく、ホウ素の含有量を低下させている黒鉛基材を用いているので、上述した半導体結晶の純度不良を引き起こすことを抑止できるサセプタを提供できる。
なお、本発明のサセプタは、エピタキシャル成長用、熱処理用、炭化珪素半導体製造用又は窒化物半導体製造用として使用することができるものである。
本発明に係るサセプタについて図を参照しながら説明する。まず、本発明の第1実施形態に係るサセプタについて説明する。図1は、上図が本発明の第1実施形態に係るサセプタの斜視図、下図が本発明の第1実施形態に係るサセプタの断面図である。
第1実施形態に係るサセプタ1は、SiCが被覆された黒鉛からなるサセプタ本体2と、このサセプタ本体2とともにザグリ部3aを形成し、ウェハを上部に載置する部分となる部材3とを備えてなる。
サセプタ本体2は、その中心に部材3を嵌合するための階段状の孔を有している。なお、サセプタ本体2表面に被覆されたSiC被膜の厚さが10〜300μmであることが好ましい。10μm以上の厚さが好ましいのは、黒鉛基材の表面を完全に覆うのに最低限必要な厚さだからであるが、望ましくは30μm以上である。300μm以下の厚さが好ましいのは、被覆時間やコスト、製品の寸法精度の観点からである。
部材3は、TaCからなる円盤状部材であり、その断面は略T字型となるように形成されていて、サセプタ本体2に嵌合されたとき、サセプタ1においてウェハを載置するのに最適な形状を有するザグリ部3aを形成できる。このザグリ部3aは、載置するウェハと同じ大きさの平面形状である必要はなく、やや大きい平面形状を有するものであってもよい。なお、部材3は、図2に示すように、TaC被膜5が黒鉛6表面に被覆されているTaC被覆黒鉛材からなる部材4であってもよい。このとき、TaC被膜の厚さは10〜100μmが好ましく、さらに好ましくは30〜100μmである。
このような構成のサセプタ1は、SiCが被覆された黒鉛からなるサセプタ本体2を備えるので、ウェハ周辺のSiとCの濃度を一定に保つことができる。また、エピタキシャル成長の際、サセプタ本体2にSiC層が堆積した場合でも熱膨張の差が生じないので、SiC層が剥離することがないため、パーティクルの発生を抑制することができる。また、ウェハを載置する部分である部材3が分離自在であるため、例えば、複数回エピタキシャル成長や熱処理を行った後に劣化した場合でも、容易に交換が可能である。その結果として、サセプタ本体2を何度も使用でき、コストを抑えることができる。逆に、サセプタ本体2のみが劣化した場合でも、これを容易に交換でき、部材3を何度も使用することも可能である。
次に、本発明の第2実施形態に係るサセプタについて説明する。図3は、本発明の第2実施形態に係るサセプタの断面図である。なお、上記第1実施形態のサセプタ1と同様の部分については、その説明を省略することがある。
第2実施形態に係るサセプタは、SiCが被覆された黒鉛からなるサセプタ本体2と、ウェハを上部に載置する部分となる部材8と、部材8の上部の外周に沿って接合するように設けられるSiCからなる環状部材9とを備えてなり、これらサセプタ本体2と、部材8と、環状部材9とによりザグリ部8aが形成されるものである。
部材8は、TaCからなる円盤状部材であり、その断面は略T字型となるように形成されていて、環状部材9とともにサセプタ本体2に嵌合されたとき、サセプタにおいてウェハを載置するのに最適な形状を有するザグリ部8aを形成できる。このザグリ部8aは、載置するウェハと同じ大きさの平面形状である必要はなく、やや大きい平面形状を有するものであってもよい。なお、この部材8も上述した部材3と同様に、図2に示すように、TaC被膜5が黒鉛6表面に被覆されているTaC被覆黒鉛材からなる部材4であってもよい。このとき、TaC被膜の厚さは10〜100μmが好ましく、さらに好ましくは30〜100μmである。
このような構成のサセプタ7は、SiCが被覆された黒鉛からなるサセプタ本体2及びSiCからなる環状部材9を備えるので、ウェハ周辺のSiとCの濃度を一定に保つことができる。また、エピタキシャル成長の際、サセプタ本体2及び環状部材9にSiC層が堆積した場合でも熱膨張の差が生じないので、SiC層が剥離することがないため、パーティクルの発生を抑制することができる。また、ウェハを載置する部分である部材8及び環状部材9が分離自在であるため、例えば、複数回エピタキシャル成長や熱処理を行った後に劣化した場合でも、容易にこれらを交換が可能である。その結果として、サセプタ本体2を何度も使用でき、コストを抑えることができる。逆に、サセプタ本体2のみが劣化した場合でも、これを容易に交換でき、部材8及び環状部材9を何度も使用することも可能である。
(実施例1)
実施例1のサセプタは、図1に示す第1実施形態のサセプタ1と構成が同様のものである。サセプタ本体のSiC被膜の厚さは100μm、TaC部材の中央の厚さは2mmとした。
このような実施例1のサセプタは、以下の方法により作製した。サセプタ本体2の黒鉛基材には、ホウ素濃度を2×1016atoms/cm3以下に、窒素濃度を1×1017atoms/cm3以下に低減した等方性黒鉛を用いた。なお、この等方性黒鉛は以下のように作製した。まず、常圧黒鉛化及び高純度化炉を用いて、本発明に係る高純度炭素系材料の基材となる炭素材料を作製する。そして、黒鉛化された東洋炭素(株)製の等方性炭素材料をサセプタ本体2の形状に加工する。サセプタ本体2の形状に成形された前記黒鉛基材を黒鉛化及び高純度化炉内に装着し、発熱体を徐々に加熱し、1atmで、2450℃に加熱しながら、ハロゲン又はその化合物のガス、例えばジクロロジフルオルメタンを(流量は容器内に充填する被加熱炭素材の量により増減されるが、例えば1〜7NLM程度)8時間程度供給する(高純度化工程)。そして、高純度化工程で得られた高純度化炭素材料を引き続き、減圧下で、炉内を2250℃で保持するとともに、再びハロゲン又はその化合物のガス、例えばジクロロジフルオルメタンを供給する。容器内圧力を1000Paに減圧したまま5時間処理を行う(超高純度化工程)。その後、容器内圧力を10Paに保持したまま1450℃まで冷却し、1450℃で48時間保持する(脱(窒素)ガス工程)。脱窒素ガス工程を行った後、炉内に水素を導入しながら100Paに1時間保持する(水素化処理)。そして、容器内に希ガスとしてアルゴンガスを導入し、室温まで冷却する。室温まで冷却した後、大気に晒されないように、ポリエチレン樹脂フィルムからなる袋内にアルゴンガスと共に封入して保管した。これをサセプタ本体の黒鉛基材としたものである。
次に、図1に示すサセプタ本体2の断面形状に成形された上記黒鉛基材をCVD炉内に装着し、減圧して1450℃で十分に加熱、脱気した。その後、炉内(容積300リットル)を水素ガスで常圧にし、1300℃に保持し、原料ガスにCH3SiCl3、キャリアガスにH2を用いて、その混合ガス(CH3SiCl3の濃度:CH3SiCl3/H2=10.0vol%)を15SLMの流量で導入し、1300℃でSiC被膜を被覆した。このように作製されたものを実施例1のサセプタ本体とした。このサセプタ本体に嵌合するように形成されたTaC材からなる円盤状部材を嵌合して実施例1のサセプタとした。
(実施例2)
実施例2のサセプタは、図2に示すTaCが被覆された円盤状部材を用いた以外、図1に示す第1実施形態のサセプタ1と構成が同様のものである。サセプタ本体のSiC被膜の厚さは100μm、円盤状部材のTaC被膜の厚さは50μmとした。
このような実施例2のサセプタは、以下の方法により作製した。サセプタ本体のSiC被膜は実施例1と同様の方法で実施例1と同様の黒鉛基材表面に被覆して形成した。円盤状部材の黒鉛基材には、実施例1のサセプタ本体に用いたものと同様の高純度処理を施した等方性黒鉛基材を用いた。図2に示す黒鉛6の形状に形成された黒鉛基材をCVD炉内に装着し、減圧して1450℃で十分に加熱、脱気した。その後、炉内(容積300リットル)を1200℃に保持し、原料ガスにTaCl5とCH4、キャリアガスに水素を用いて、その混合ガス(TaCl5:CH4:H2=10.0vol%:20.0vol%:70.0vol%)を15SLMの流量で導入してTaC被膜を被覆した。このように作製されたものを実施例2の円盤状部材とした。この円盤状部材をサセプタ本体に嵌合して実施例2のサセプタとした。
(比較例1)
図4に示すように、比較例1のサセプタ10は、ザグリ部11を有し、SiC被膜12が表面全体に形成された黒鉛13からなるものである。比較例1のサセプタ10のSiC被膜12の厚さは100μmである。
このような比較例1のサセプタは、SiC被膜を実施例1のサセプタ本体と同様の方法で実施例1と同様の黒鉛基材表面に被覆して形成し、作製した。
(比較例2)
比較例2のサセプタは、比較例1のサセプタと形状が同様のものであり、ザグリ部を有し、TaC被膜が表面全体に形成された黒鉛からなるものである。比較例2のサセプタのTaC被膜の厚さは50μmである。
このような比較例2のサセプタは、TaC被膜を実施例2の円盤状部材と同様の方法で実施例1と同様の黒鉛基材表面に被覆して形成し、作製した。
次に、これら実施例1、2及び比較例1、2のサセプタを用いて、原料ガスをSiH4(240sccm)及びC38(180sccm)、キャリアガスをH2(1000sccm)として、1600℃の雰囲気中でSiCエピタキシャル成長を試み、サセプタ及びウェハの状態を観察、測定した。なお、SiCウェハは、4H−SiC(0001)off角8度のものを使用した。
まず、SiCエピタキシャル成長後、サセプタとの貼り付きの有無を確認した。TaC被膜又はTaC部材がウェハの裏面に存在している実施例1、2および比較例2のサセプタの場合は、ウェハとの貼り付きがなかったが、比較例1においてはウェハとの貼り付きが見られた。
次に、実施例1、2及び比較例1、2のサセプタのそれぞれについて、上述したエピタキシャル成長を5回行った。なお、サセプタのザグリ部に載置するウェハは各回ごとに交換した。このエピタキシャル成長したSiC層のホウ素濃度を測定した結果を下記表1に示す。測定にはSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析法を用いた。なお、SIMS分析法は、数百〜20kVに加速されたイオン(通常はO2 +、Cs+、Ga+)で材料表面をスパッタリングし、飛び出した正または負に帯電した粒子の質量を測定することによって材料の組成を分析する分析法である。SIMS分析法の最大の特長は、材料中に含まれている1H〜238Uまでのすべての元素を検出できることである。
表1より、実施例1、2のサセプタを使用した場合、エピタキシャル成長したSiC層の特性が安定していることがわかる。それに比べて、比較例1のサセプタを使用した場合、4回目のエピタキシャル成長で不純物濃度が高くなっている。ウェハを載置していた直下のSiC被膜が蒸発し、黒鉛基材が剥き出しになり始めているのが観察された。TaC被膜を被覆している比較例2のサセプタでは、そのような問題はなかった。
次に、実施例1、2及び比較例1、2のサセプタのそれぞれについて、エピタキシャル成長を5回行い、サセプタの被膜上からのSiC層の剥離の有無を観察した。その結果を下記表2に示す。なお、サセプタのザグリ部に載置するウェハは各回ごとに交換した。下記表2に示すように、TaC被膜が被覆された黒鉛からなるサセプタである比較例2では、TaC被膜上にエピタキシャル成長において堆積したSiC層の剥離が2回目から観察された。この剥離はパーティクルの発生源となり、エピタキシャル成長したSiC層の特性を劣化させるものである。実施例1、2及び比較例1には、SiC層の剥離が観察されなかった。
したがって、実施例1、2によれば、エピタキシャル成長を行った際、高品質のSiC半導体結晶を得ることができるサセプタを提供できることが分かる。
(実施例3、4及び比較例3、4)
実施例3、4及び比較例3、4では、SiCウェハ裏面の付着物をさらに観察し易くするため、以下のSiCウェハを各サセプタに対し用いた。すなわち、実施例1、2及び比較例1、2で用いたものと同様のSiCウェハのそれぞれについて、さらに裏面を平滑に加工した両面研磨ウェハ(4H−SiC(0001)off角8度)をそれぞれ実施例3、4及び比較例3、4のサセプタに対し使用した。エピタキシャル成長前のウェハ裏面の表面平均二乗粗さRMSは0.5〜0.7nmであった。
次に、これらの実施例3、4及び比較例3、4のサセプタを用いて、原料ガスをSiH4(240sccm)及びC38(180sccm)、キャリアガスをH2(1000sccm)として、1600℃の雰囲気中で10時間のエピタキシャル成長を試み、サセプタ及びウェハの状態を観察、測定した。
まず、SiCエピタキシャル成長後、サセプタとの貼り付きの有無を確認した。図5は、ノマルスキー光学顕微鏡によって観察したウェハ裏面の表面形態を示す写真であって、(a)がエピタキシャル成長前のウェハ裏面の表面形態、(b)が比較例3のサセプタを使用した際のウェハ裏面の表面形態、(c)が実施例3のサセプタを使用した際のウェハ裏面の表面形態を示す写真である。図5(a)はエピタキシャル成長前のウェハ裏面の状態であるが、これに比べ、SiC被膜が接触する比較例3のサセプタの場合は、図5(b)に示すように、ウェハとの貼り付きとウェハ裏面の表面荒れが見られ、SiC被膜が昇華および付着していた。しかし、TaC被膜がウェハの裏面と接触する実施例3のサセプタの場合は、図5(c)に示すように、ウェハとの貼り付きやTaC被膜の昇華および付着がなくウェハの裏面は平坦であった。なお、実施例4及び比較例4においても、図5(c)と同様の表面形態であった。
次に、実施例3、4及び比較例3、4のサセプタのそれぞれについて、上述したエピタキシャル成長を5回行った。なお、サセプタのザグリ部に載置するウェハは各回ごとに交換した。このエピタキシャル成長におけるウェハ裏面の付着物の厚み、ウェハ裏面の表面粗さおよびウェハ載置直下のSiC被膜およびTaC被膜の厚みを表3に示す。なお、ウェハ裏面の付着物の厚みには、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製、S−3200N)を用いてエピタキシャル成長後のウェハのヘキ壊断面を観察した。エピタキシャル成長後の比較例3にて処理した場合のウェハの断面SEM写真を図6に示す。ウェハと付着物は共にSiCであるが、不純物の濃度が違うためにSEMの二次電子像のコントラストが異なって観察される。ウェハ裏面に付着したSiCの厚みは2〜3μmであった。一方で、実施例3、4および比較例4のウェハ裏面に付着物は観察されなかった。
次に、原子間力顕微鏡(AFM、Digital Instruments製、NanoscopeIIIa)を用いて表面平均二乗粗さRMSを測定した。表3より、エピタキシャル成長後の比較例3にて処理したウェハ裏面の表面粗さは、103〜121nmと表面が荒れており、ウェハ裏面の再研磨加工が必要な状態であった。一方で、実施例3、4および比較例4のウェハ裏面の表面粗さは、0.7〜0.9nmと極めて平坦であり、エピ成長前のウェハ裏面の表面粗さとほぼ同じであった。
次に、ウェハを載置している真下のSiC被膜およびTaC被膜の厚みを測定した。5回のエピタキシャル成長後、サセプタを破壊分析して被膜の厚みを測定した。測定には、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製、S−3200N)を用いた。ウェハを載置した真下のTaCおよびSiC被膜をヘキ壊し、断面を観察して膜厚を測定した。表3より、比較例3では5回のエピタキシャル成長後に14μmのSiC被膜が損耗していた。一方で、実施例3、4および比較例4では、TaC被膜の損耗は確認されなかった。
次に、実施例3、4及び比較例3、4のサセプタのそれぞれについて、エピタキシャル成長を5回行い、サセプタの被膜上からのSiC層の剥離の有無を観察した。その結果を下記表4に示す。なお、サセプタのザグリ部に載置するウェハは各回ごとに交換した。下記表4に示すように、TaCが被覆された黒鉛からなるサセプタである比較例4では、TaC被膜上にエピタキシャル成長プロセスにおいて堆積したSiC層の剥離が2回目から観察された。この剥離はパーティクルの発生源となり、エピタキシャル成長したSiC層の特性を劣化させるものである。実施例3、4及び比較例3には、SiC層の剥離が観察されなかった。
また、ノマルスキー光学顕微鏡の反射モードと透過モードを用いてエピタキシャル成長したSiC層の表面とウェハとの界面の状態を観察した。図7(a)に、透過モードで観察した比較例4のエピタキシャル成長したSiC層とウェハとの界面の写真、図7(b)に、反射モードで観察したSiC層の表面の写真を示す。矢印で示す黒い点が混入したパーティクルである。図7(b)より、パーティクルが観察された表面にはシャローピットやウェイビーピットと呼ばれる凸状の表面欠陥が存在していた。パーティクルの混入が原因となって発生したピット密度を評価したところ、実施例3、実施例4及び比較例3では12〜133個/cm2のピット密度であった。一方、比較例4では、一桁多い241〜1360個/cm2のピット密度であった。比較例4では、剥離したSiC片が雰囲気中に散布され、SiC層に取り込まれて欠陥が増大していた。
したがって、実施例3、4によっても、エピタキシャル成長を行った際、高品質のSiC半導体結晶を得ることができるサセプタを提供できることが分かる。
(実施例5)
実施例5のサセプタ形状は図1に示す構成のものである。まず、実施例1と同様の方法により、高純度化および超高純度化工程、脱(窒素)ガス工程、水素化工程を経て1000℃基準で10-4Pa/g以下のガス放出で、2ppm以下の灰分で、窒素濃度を1×1017atoms/cm3以下およびホウ素濃度を2×1016atoms/cm3以下に低減した黒鉛材料を基材とした。そして、熱CVD法を用いて前記サセプタ本体2黒鉛基材の表面に100μmのSiC被膜を被覆した。また、熱CVD法を用いて前記部材3黒鉛基材の表面に50μmのTaC被膜を被覆した。
(比較例5)
比較例5のサセプタ形状は図4に示す構成のものである。まず、実施例1と同様の方法によって高純度化工程を完了した後、黒鉛材料の超高純度化工程、脱(窒素)ガス工程、水素化工程を行うことなく、窒素ガスで冷却し、大気中で保管しておいた黒鉛材料を基材とした。1000℃基準で10-5Pa/g以上のガス放出で、300ppmの灰分で、窒素濃度を5×1019atoms/cm3以上およびホウ素濃度を1×1019atoms/cm3以上の黒鉛材料を基材とした。そして、熱CVD法を用いて前記サセプタ黒鉛基材13の表面に100μmのSiC被膜を被覆した。
(比較例6)
比較例6のサセプタ形状は図4に示す構成のものである。まず、実施例1と同様の方法によって高純度化工程を完了した後、黒鉛材料の超高純度化工程、脱(窒素)ガス工程、水素化工程を行うことなく、窒素ガスで冷却し、大気中で保管しておいた黒鉛材料を基材とした。1000℃基準で10-5Pa/g以上のガス放出で、300ppmの灰分で、窒素濃度を5×1019atoms/cm3以上およびホウ素濃度を1×1019atoms/cm3以上の黒鉛材料を基材とした。そして、熱CVD法を用いて前記サセプタ黒鉛基材13の表面に50μmのTaC被膜を被覆した。
次に、実施例5、比較例5および比較例6のサセプタのそれぞれについて、上述のエピタキシャル成長を実施しそれぞれのサセプタのSiC被膜およびTaC被膜のガス透過率を評価した。その結果を下記表5に示す。被膜の窒素ガス透過率は、文献(上山峰宏、曽我部敏明、炭素、151(1992年)、p8.)の記載に準じて測定される。図8に測定装置の概要を示す。
なお、以下において、一次側とは一次側配管25(図示しないタンクを途中に有している)、セル26、ストップバルブ30、排気バルブ31、ゲートバルブ32で閉塞された空間のことを指し、その空間の真空度を一次側真空という。また、二次側とはセル26、ゲートバルブ32、排気バルブ33で閉塞された空間のことを指し、その空間の真空度を二次側真空という。
次に、図8に示す測定装置の動作、及び、サセプタのガス透過率の測定方法について説明する。測定試料には、サセプタを直径30mm以上の円板状に加工し、測定前に十分乾燥したものを用いた。測定試料をセル26内に設置し、ゲートバルブ32と排気バルブ31を開けてロータリー式真空ポンプ24で粗引きする。100Pa以下まで真空引きした後、排気バルブ31を閉めて排気バルブ33、34を開けてセル一次側配管25および二次側のタンク27をロータリー式の真空ポンプ29およびターボ分子ポンプ28で一定の高真空値になるまで減圧する。次いで、電離真空計23で高真空まで到達したことを確認したら、排気バルブ33、34とゲートバルブ32を閉めた後に真空ポンプ2とターボ分子ポンプ2を停止する。ストップバルブ30を開けて一次側配管25に一次側真空計21で確認しながらN2ガスを一定の試験圧で加える。N2ガスは一次側から、セル26内の測定試料を透過して、二次側のタンク27へと移動し、二次側のタンク27の圧力が上昇し始める。その圧力上昇率を二次側圧力計22で測定する。このように測定装置を動作させた後、測定試料のガス透過率(K)を次の式(1)、(2)にしたがって算出する。
K=(QL)/(ΔPA)…(1)
Q={(p2−p1)V0}/t…(2)
ここで、Kは窒素ガス透過率、Qは通気量、ΔPは一次側タンクと二次側タンクの圧力差、Aは透過面積、Lは測定試料の厚さ、p1は二次側タンクの初期圧力、p2は二次側タンクの最終圧力、V0は二次側タンクの容積、tは測定時間である。
被膜の窒素ガス透過率(K2)を求めるには、まず、黒鉛基材上に被膜を設けたSiCおよびTaC被覆黒鉛材の窒素ガス透過率(K0)を測定し、次いで研磨により上記被膜を除去し、黒鉛基材のみの窒素ガス透過率(K1)を測定する。そして、次の関係式(3)からK2を算出する。
(L1+L2)/K0=L1/K1+L2/K2…(3)
ここで、L1は黒鉛基材の厚さ、L2はSiCおよびTaCの被膜の厚さである。
上記各式より求められた実施例5のSiC被膜とTaC被膜のガス透過率は、それぞれ1.5×10-9と8.7×10-10cm2/sと緻密であり、黒鉛基材からのガス放出を抑制するために十分な特性であった。しかし、上記各式より求められた比較例5と比較例6の被膜のガス透過率は、4.5×10-4と5.1×10-4cm2/sと大きく、黒鉛基材中の含有ガスが被膜を透過して雰囲気中に放出されるものであった。また、比較例5と比較例6では、熱CVDによる被膜形成の際に黒鉛基材から多量のガスが放出され、被膜の形成が阻害され、被膜の緻密性が劣化していた。
また、それぞれのエピタキシャル成長したSiC層の窒素とホウ素濃度を測定した。その結果を記表5に示す。測定にはSIMS分析法を用いた。実施例5のサセプタを使用した場合のSiC層の窒素濃度とホウ素濃度は、それぞれ5.2×1015と3.4×1014atoms/cm3であり、高純度なものであった。しかし、比較例5のサセプタを使用した場合のSiC層の窒素濃度とホウ素濃度は、高くなっており、SiC被膜の昇華や黒鉛基材からのガス放出が原因で不純物濃度が高くなっていた。また、比較例5と比較例6のサセプタを使用した場合のエピタキシャル成長したSiC層の窒素濃度とホウ素濃度は、5.8×1017〜5.6×1018atoms/cm3と高くなっており、TaC被膜を透過した黒鉛基材からのガス放出が原因で不純物濃度が高くなっていた。
したがって、実施例5によれば、エピタキシャル成長を行った際、高品質のSiC半導体結晶を得ることができるサセプタを提供できることが分かる。
なお、本発明は、特許請求の範囲に記載されている技術的思想を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や実施例に限定されるものではない。
上図が本発明の第1実施形態に係るサセプタの斜視図、下図が本発明の第1実施形態に係るサセプタの断面図である。 図1のサセプタにおける円盤状部材の変形例を示す概念断面図である。 本発明の第2実施形態に係るサセプタの断面図である。 比較例に係るサセプタの概念断面図である。 ノマルスキー光学顕微鏡によって観察したウェハ裏面の表面形態を示す写真であって、(a)がエピタキシャル成長前のウェハ裏面の表面形態、(b)が比較例3のサセプタを使用した際のウェハ裏面の表面形態、(c)が実施例3のサセプタを使用した際のウェハ裏面の表面形態を示す写真である。 比較例3のサセプタを使用した際のウェハ裏面近傍の断面SEM写真である。 ノマルスキー光学顕微鏡によって観察した比較例4のサセプタを使用した際のエピタキシャル成長したSiC層の表面とウェハとの界面の状態を示す表面写真であって、(a)が透過モードで撮像した写真、(b)が反射モードで撮像した写真である。 ガス透過率測定装置の概略構成図である。
符号の説明
1、7、10 サセプタ
2 サセプタ本体
3、4、8 部材(ウェハ載置部材)
3a、8a、11 ザグリ部(凹部)
5 TaC被膜
12 TaC被膜又はSiC被膜
6、13 黒鉛
9 環状部材
21 一次側真空計
22 二次側真空計
23 電離真空計
24、29 ロータリーポンプ
25 一次側配管
26 透過セル
27 二次側タンク
28 ターボ分子ポンプ
30 ストップバルブ
31、33、34 排気バルブ
32 ゲートバルブ

Claims (12)

  1. 炭化珪素被覆黒鉛材からなる本体と、
    ウェハ載置される部分の少なくとも一部が炭化タンタル又は炭化タンタル被覆黒鉛材からなるウェハ載置部材と、
    少なくとも前記本体及び前記ウェハ載置部材により形成された、ウェハを収容する凹部とを備え、
    前記ウェハ載置部材が、前記凹部を画定する底面及び側面のうち、前記底面だけから露出していることを特徴とするサセプタ。
  2. 前記ウェハ載置部材前記本体に対して分離自在であることを特徴とする請求項1記載のサセプタ。
  3. 前記ウェハ載置部材が、前記側面を介して前記底面と接続した前記凹部外の面から露出していないことを特徴とする請求項1又は2に記載のサセプタ。
  4. 前記ウェハ載置部材が、前記本体に形成された貫通孔内に収容されるようにして、前記本体に支持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のサセプタ。
  5. 前記本体が、前記貫通孔を画定する壁から当該貫通孔の内側に向かって突出すると共に当該貫通孔に収容された前記ウェハ載置部材を支持する突起を有することを特徴とする請求項に記載のサセプタ。
  6. 前記ウェハ載置部材における前記底面と直交する方向に沿った断面が実質的にT字型であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のサセプタ。
  7. 前記ウェハ載置部材の外周縁に沿って設けられ、前記本体及び前記ウェハ載置部材と共に前記凹部を形成する、炭化珪素からなる環状部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のサセプタ。
  8. 前記環状部材が前記本体に対して分離自在であることを特徴とする請求項7に記載のサセプタ。
  9. 前記炭化珪素被覆黒鉛材又は炭化タンタル被覆黒鉛材を構成する黒鉛基材が、1000℃規準で10 −4 Pa/g以下のガス放出であり、かつ、SIMS分析法によって測定される窒素の含有量が5×10 18 atoms/cm 以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のサセプタ。
  10. 前記炭化珪素被覆黒鉛材又は炭化タンタル被覆黒鉛材を構成する黒鉛基材が、10ppm以下の灰分であり、かつ、SIMS分析法によって測定されるホウ素の含有量が5×10 16 atoms/cm 以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のサセプタ。
  11. エピタキシャル成長用又は熱処理用であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のサセプタ。
  12. 炭化珪素半導体製造用又は窒化物半導体製造用であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のサセプタ。
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