JP4321927B2 - スパイラル型膜エレメントを備えた処理システムおよびその運転方法 - Google Patents

スパイラル型膜エレメントを備えた処理システムおよびその運転方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スパイラル型膜エレメントを備えた処理システムおよびその運転方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
海水淡水化処理や超純水等の製造に逆浸透膜(RO膜)分離装置が用いられている。この逆浸透膜分離装置の前処理としては、主として凝集・沈殿・砂濾過が行われている。凝集・沈殿・砂濾過では、原水の水質によって処理水の水質が変化するため、逆浸透膜分離装置に安定した水質の処理水を供給することができない。それにより、逆浸透膜分離装置の能力が制限される。一方、近年では逆浸透膜分離装置の前処理に膜分離技術の適用が広がり、従来は処理が困難であった水質への膜分離技術の応用がなされている。
【0003】
このような膜分離に使用される膜エレメントの形態としては、単位体積当たりの膜面積(体積効率)の点から中空糸型膜エレメントが多く使用されている。
【0004】
図10は逆浸透膜分離装置を用いた従来の処理システムの一例を示す図である。
【0005】
図10において、河川水等の原水は貯槽201に貯溜される。貯槽201の原水は配管207を通して供給ポンプ202に与えられ、供給ポンプ202により中空糸型膜エレメント203に供給される。中空糸型膜エレメント203は、原水を透過水および濃縮水に分離する。中空糸型膜エレメント203により得られた透過水は、前処理水として配管208を通して貯槽204に供給される。一方、中空糸型膜エレメント203により得られた濃縮水は、配管209を通して貯槽201に戻される。
【0006】
貯槽204に貯溜された前処理水は、配管210を通して供給ポンプ205に与えられ、供給ポンプ205により逆浸透膜分離装置206に供給される。逆浸透膜分離装置206は、前処理水を透過水および濃縮水に分離する。逆浸透膜分離装置206により得られた透過水は、配管211を通して系外に供給される。逆浸透膜分離装置206により得られた濃縮水は、配管212を通して全量が系外に排出される。
【0007】
ここで、中空糸型膜エレメント203は、膜が折れやすく、膜が折れると、原水が透過水に混ざり、分離性能が低下するという欠点を有している。中空糸型膜エレメント203に膜折れが生じると、逆浸透膜分離装置206に供給する前処理水の水質が低下するという問題が生じる。
【0008】
そこで、中空糸型膜エレメント203に代えて、スパイラル型膜エレメントを適用することが提案されている。このスパイラル型膜エレメントは、中空糸型膜エレメント203と同様に単位体積当たりの膜面積を大きくとれ、しかも分離性能を維持でき、信頼性が高いという利点を有している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、上記の処理システムに供給される原水は、多くの懸濁物質、コロイド性物質または溶存性物質を含む。このため、膜エレメントを用いてこのような原水を膜分離して前処理を行うと、これらの懸濁物質、コロイド性物質または溶存性物質が汚染物質として膜エレメントの膜面に堆積し、膜エレメントにおいて水の透過速度の低下を引き起こす。
【0010】
膜エレメントの膜面への汚染物質の堆積を防止するためには、クロスフロー濾過が行われる。このクロスフロー濾過は、原水を膜面に対して平行に流すことにより、膜面と流体との界面で生じる剪断力を利用して膜面への汚染物質の堆積を防止するものである。また、膜エレメントを逆流洗浄することにより、膜エレメントの膜面に堆積した汚染物質を取り除き、水の透過速度を回復させることができる。このような逆流洗浄は、中空糸型膜エレメント203では一般的に行われている。
【0011】
一方、スパイラル型膜エレメントへの逆流洗浄の適用は、例えば特公平6−98276号公報に提案されている。しかし、従来のスパイラル型膜エレメントの分離膜は、背圧強度が低いため、逆流洗浄において分離膜に背圧が加わると、分離膜が破損するおそれがある。そのため、上記の公報によると、スパイラル型膜エレメントに0.1〜0.5kg/cm2 (0.01〜0.05MPa)という低い背圧で逆流洗浄を行うことが好ましいとされている。
【0012】
しかし、本発明者の実験によると、このような背圧で逆流洗浄を行った場合、スパイラル型膜エレメントにおいて長時間にわたって高い透過流束を維持することができず安定した運転を行うことができなかった。
【0013】
このように、前処理を行うスパイラル型膜エレメントにおいて安定した運転を行うことができないと、処理システムにおいて、逆浸透膜分離装置の運転に必要な供給水量が確保できず、逆浸透膜分離装置の運転が困難となる。したがって、処理システムの運転が困難となる。
【0014】
この点に関して、本発明者は、特開平10−225626号公報に背圧強度が2kgf/cm2 以上の分離膜の構造および製造方法を提案している。しかしながら、このような背圧強度を有する分離膜を用いてスパイラル型膜エレメントを作製した場合に、実際にどのような背圧で逆流洗浄を行うことが可能となるか、また、どのような範囲の背圧で逆流洗浄を行った場合に長期間にわたって高い透過流束を維持できるかについては十分に検証されていなかった。また、このようなスパイラル型膜エレメントを備えた処理システムの構成および運転方法については、検証されていなかった。
【0015】
このような背圧強度の高い分離膜を有するスパイラル型膜エレメントを備えた処理システムであっても、スパイラル型膜エレメントの最適な洗浄条件および洗浄方法を適用しかつ最適な処理システムの構成および運転方法を適用しなければ、スパイラル型膜エレメントにおいて長期間にわたって透過流束の低下を生じることなく安定した濾過運転を続けることができず、処理システムの安定した運転が困難となる。
【0016】
本発明の目的は、長期間にわたって安定した運転を行うことができる処理システムおよびその運転方法を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
本発明に係る処理システムは、有孔中空管の外周面に袋状の分離膜が巻回されてなりかつ0.05MPaよりも高く0.3MPa以下の背圧で逆流洗浄が可能なスパイラル型膜エレメントと、スパイラル型膜エレメントの下流側に設けられた1または複数の逆浸透膜分離装置と、濾過時に、スパイラル型膜エレメントの一端部から原液を供給する第1の原液供給系と、濾過時に、スパイラル型膜エレメントの有孔中空管の少なくとも一方の開口端から導出された透過液を逆浸透膜分離装置に供給する透過液供給系と、洗浄時に、スパイラル型膜エレメントの有孔中空管の少なくとも一方の開口端から洗浄液を導入する洗浄液導入系と、洗浄時に、スパイラル型膜エレメントの一端部から導出された洗浄液を排出する洗浄液排出系と、洗浄時または洗浄後に、スパイラル型膜エレメントの他端部から原液を供給する第2の原液供給系と、洗浄時または洗浄後に、スパイラル型膜エレメントの一端部から導出された原液を排出する原液排出系とが設けられたものである。
【0018】
本発明に係る処理システムにおいては、濾過時に、第1の原液供給系を介して原液がスパイラル型膜エレメントの一端部からスパイラル型膜エレメントに供給される。それにより、原液中の汚染物質が除去され、汚染物質が除去された透過液と汚染物質が濃縮された濃縮液とに分離される。このスパイラル型膜エレメントの透過液は、スパイラル型膜エレメントの有孔中空管の少なくとも一方の開口端から導出される。導出された透過液は、前処理液として透過液供給系を介して逆浸透膜分離装置に供給されて処理される。
【0019】
上記の処理システムの運転時においては、原液中の汚染物質がスパイラル型膜エレメントの分離膜の膜面に堆積する。そこで、上記の処理システムの洗浄時においては、洗浄液導入系を介してスパイラル型膜エレメントの有孔中空管の少なくとも一方の開口端から洗浄液が導入される。導入された洗浄液は、スパイラル型膜エレメントにおいて、有孔中空管の外周面から袋状の分離膜の内部に導出され、分離膜を濾過時と逆方向に透過する。それにより、スパイラル型膜エレメントの分離膜が逆流洗浄され、分離膜の膜面に堆積した汚染物質が分離膜から剥離される。スパイラル型膜エレメントの逆流洗浄に用いられた洗浄液は、洗浄液排出系を介して外部に排出される。
【0020】
この場合、0.05MPaよりも高く0.3MPa以下の背圧でスパイラル型膜エレメントの分離膜を逆流洗浄することができるので、短時間に必要量の洗浄液を流すことができる。それにより、分離膜の膜面に堆積した汚染物質を効果的に除去することができる。その結果、スパイラル型膜エレメントにおいて、安定した透過液質および高い透過流束を維持しつつ安定した濾過運転を行うことができる。
洗浄時または洗浄後に、第2の原液供給系を介してスパイラル型膜エレメントの他端部からスパイラル型膜エレメントに原液が供給され、スパイラル型膜エレメントの一端部から導出された原液が原液排出系を介して排出される。
【0021】
以上のように、本発明に係る処理システムにおいては、スパイラル型膜エレメントにおいて安定した濾過運転を行うことができるため、逆浸透膜分離装置に安定した液質および液量の前処理液が供給される。したがって、逆浸透膜分離装置において安定した濾過運転を行うことが可能となる。それにより、長期間にわたって安定した濾過運転を行うことが可能な処理システムが実現される。
【0022】
スパイラル型膜エレメントの分離膜は多孔性シート材の一面に透過性膜体が接合されてなってもよい。それにより、スパイラル型膜エレメントにおいて、0.05MPaよりも高く0.3MPa以下の背圧で分離膜の破損を生じることなく十分に逆流洗浄することが可能となる。
【0026】
また、透過液供給系は、透過液を貯溜する貯槽と、有孔中空管の少なくとも一方の開口端から導出された透過液を貯槽に導く第1の管路と、貯槽に貯溜された透過液を逆浸透膜分離装置に導く第2の管路とを含み、洗浄液導入系は、貯槽に貯溜された透過液を有孔中空管の少なくとも一方の開口端に導く第3の管路を含んでもよい。
【0027】
この場合、処理システムの濾過時にスパイラル型膜エレメントの有孔中空管の少なくとも一方の開口端から導出された透過液が、この第1の管路を通して一旦貯槽に貯溜される。この貯溜された透過液は、さらに第2の管路を通して逆浸透膜分離装置に供給される。一方、処理システムの洗浄時には、貯槽に貯溜されたスパイラル型膜エレメントの透過液が第3の管路を通してスパイラル型膜エレメントの有孔中空管の少なくとも一方の開口端から導入され、スパイラル型膜エレメントの逆流洗浄が行われる。
【0028】
濾過時にスパイラル型膜エレメントの他端部から導出される濃縮液の一部または全てをスパイラル型膜エレメントの供給側に戻す第1の濃縮液帰還系がさらに設けられてもよい。また、濾過時に逆浸透膜分離装置から導出される濃縮液の一部または全てをスパイラル型膜エレメントの供給側に戻す第2の濃縮液帰還系がさらに設けられてもよい。
【0029】
このようにスパイラル型膜エレメントの濃縮液または逆浸透膜分離装置の濃縮液の一部または全てを循環させることにより、処理システムにおいて、高い回収率で透過液を得ることが可能となる。
【0030】
なお、濾過時にスパイラル型膜エレメントから導出される濃縮液の一部または全てを系外に排出する第1の濃縮液排出系がさらに設けられてもよい。また、濾過時に逆浸透膜分離装置から導出される濃縮液の一部または全てを系外に排出する第2の濃縮液排出系がさらに設けられてもよい。
【0031】
本発明に係る処理システムの運転方法は、有孔中空管の外周面に袋状の分離膜が巻回されてなるスパイラル型膜エレメントの下流側に1または複数の逆浸透膜分離装置が設けられた処理システムの運転方法であって、濾過時に、スパイラル型膜エレメントの一端部から原液を供給するとともにスパイラル型膜エレメントの有孔中空管の少なくとも一方の開口端から導出された透過液を逆浸透膜分離装置に供給し、洗浄時に、スパイラル型膜エレメントの有孔中空管の少なくとも一方の開口端から洗浄液を導入してスパイラル型膜エレメントの一端部から洗浄液を排出させることにより0.05MPaよりも高く0.3MPa以下の背圧で分離膜を逆流洗浄し、逆流洗浄時または逆流洗浄後にスパイラル型膜エレメントの他端部から原液を導入してスパイラル型膜エレメント内で原液を濾過時と逆方向に流すとともにスパイラル型膜エレメントの一端部から導出するものである。
【0032】
本発明に係る処理システムの運転方法においては、濾過時に、スパイラル型膜エレメントにより原液を前処理し、汚染物質が除去された透過液と汚染物質が濃縮された濃縮液とに分離する。さらに、このスパイラル型膜エレメントの透過液を前処理液として逆浸透膜分離装置に供給し、処理を行う。
【0033】
上記の処理システムの濾過運転により、原液中の汚染物質がスパイラル型膜エレメントの分離膜の膜面に堆積する。そこで、上記の処理システムの運転方法においては、洗浄時に、スパイラル型膜エレメントの有孔中空管の少なくとも一方の開口端から洗浄液を導入する。導入された洗浄液は、スパイラル型膜エレメントにおいて、有孔中空管の外周面から袋状の分離膜の内部に導出され、分離膜を濾過時と逆方向に透過する。それにより、スパイラル型膜エレメントの分離膜が逆流洗浄され、分離膜の膜面に堆積した汚染物質が分離膜から剥離する。
【0034】
この場合、0.05MPaよりも高く0.3MPa以下の背圧でスパイラル型膜エレメントの分離膜を逆流洗浄することにより、短時間に必要量の洗浄液を流すことができる。それにより、スパイラル型膜エレメントの分離膜の膜面に堆積した汚染物質を効果的に除去することができる。その結果、スパイラル型膜エレメントにおいて、長期間にわたって高い透過流束および安定した透過液質を維持しつつ安定した濾過運転を行うことができる。
逆流洗浄時または逆流洗浄後に、スパイラル型膜エレメントの他端部から原液が導入されてスパイラル型膜エレメント内で原液が濾過時と逆方向に流れ、スパイラル型膜エレメントの一端部から導出される。
【0035】
以上のように、本発明に係る処理システムの運転方法においては、スパイラル型膜エレメントにおいて安定した運転を行うことができるため、逆浸透膜分離装置に安定した液質および液量の前処理液を供給することができる。したがって、逆浸透膜分離装置において、安定した濾過運転を行うことができる。それにより、処理システムにおいて、長期間にわたって安定した濾過運転を行うことが可能となる。
【0036】
洗浄液が濾過時にスパイラル型膜エレメントから導出された透過液であってもよい。この場合、スパイラル型膜エレメントの有孔中空管の少なくとも一方の開口端から洗浄液としてスパイラル型膜エレメントの透過液を導入し、スパイラル型膜エレメントの逆流洗浄を行う。
【0037】
また、スパイラル型膜エレメントの逆流洗浄に用いた透過液の一部または全てを濾過時にスパイラル型膜エレメントに供給してもよい。このように逆流洗浄に用いた透過液を循環させることにより、処理システムにおいて、高い回収率で透過液を得ることが可能となる。
【0038】
なお、スパイラル型膜エレメントの逆流洗浄に用いた透過液の一部または全てを系外に排出してもよい。
【0039】
濾過時にスパイラル型膜エレメントの他端部から導出される濃縮液の一部または全てをスパイラル型膜エレメントに供給してもよい。また、濾過時に逆浸透膜分離装置から導出される濃縮液の一部または全てをスパイラル型膜エレメントに供給してもよい。このようにスパイラル型膜エレメントの濃縮液または逆浸透膜分離装置の濃縮液の一部または全てを循環させることにより、処理システムにおいて、高い回収率で透過液を得ることが可能となる。
【0040】
なお、濾過時にスパイラル型膜エレメントから導出される濃縮液の一部または全てを系外に排出してもよい。また、濾過時に逆浸透膜分離装置から導出される濃縮液の一部または全てを系外に排出してもよい。
【0041】
【発明の実施の形態】
図1は本発明に係る処理システムの一例を示す模式的構成図である。
【0042】
図1の処理システムの濾過運転時には、配管107のバルブ117および配管108のバルブ116を開くとともに、配管113のバルブ115を閉じる。また、供給ポンプ114を停止させ、供給ポンプ102,105を駆動させる。
【0043】
貯槽101に貯溜された河川水等の原水7は、配管107を通して供給ポンプ102に与えられ、供給ポンプ102により昇圧されてスパイラル型膜エレメント100に供給される。スパイラル型膜エレメント100は、後述の方法により原水7を透過水8および濃縮水9に分離する。スパイラル型膜エレメント100により得られた透過水8は、前処理水として配管108を通して貯槽104に供給される。一方、スパイラル型膜エレメント100により得られた濃縮水9は、配管109を通して全量が貯槽101に戻される。
【0044】
なお、配管109aを通して濃縮水9の一部または全てが系外に排出されてもよい。
【0045】
貯槽104に貯溜されたスパイラル型膜エレメント100の透過水(前処理水)8は、配管110を通して供給ポンプ105に与えられ、供給ポンプ105により昇圧されて逆浸透膜分離装置106に供給される。逆浸透膜分離装置106は、前処理水8を透過水81および濃縮水82に分離する。逆浸透膜分離装置106により得られた透過水81は、配管111を通して系外に供給される。逆浸透膜分離装置106により得られた濃縮水82は、配管112および配管112aを通して系外に排出される。
【0046】
なお、逆浸透膜分離装置106により得られた濃縮水82のうち一部または全ての濃縮水82aが配管112bを通して貯槽101に戻されてもよい。
【0047】
このように、上記の処理システムにおいては、貯槽101、配管107、供給ポンプおよびバルブ117が第1の原液供給系に相当し、配管108、バルブ116、貯槽104、配管110および供給ポンプ105が透過液供給系に相当し、配管109が第1の濃縮液帰還系に相当し、配管112bが第2の濃縮液帰還系に相当する。また、透過液供給系のうち、配管108が第1の管路に相当し、配管110が第2の管路に相当する。さらに、配管109aが第1の濃縮液排出系に相当し、配管112aが第2の濃縮液排出系に相当する。
【0048】
図2(a)は、図1の処理システムに用いられるスパイラル型膜エレメントの例を示す模式的断面図であり、図2(b)は、図2(a)のスパイラル型膜エレメントの一部切り欠き斜視図である。
【0049】
図2(a)に示すように、圧力容器(耐圧容器)10は、筒形ケース11および1対の端板12a,12bにより構成される。一方の端板12aには原水入口13が形成され、他方の端板12bには濃縮水出口15が形成されている。また、他方の端板12bの中央部には透過水出口14が設けられている。原水入口13には配管107(図1)が接続され、透過水出口14には配管108(図1)が接続され、濃縮水出口15には配管109(図1)が接続されている。なお、圧力容器の構造は、図2(a)の構造に限定されず、筒形ケースに原水入口および濃縮水出口が設けられたサイドエントリ形状の圧力容器を用いてもよい。
【0050】
外周面の一端部近傍にパッキン17が取り付けられたスパイラル型膜エレメント100を筒形ケース11内に装填し、筒形ケース11の両方の開口端をそれぞれ端板12a,12bで封止する。スパイラル型膜エレメント100の集水管5の一方の開口端は端板12bの透過水出口14に嵌合され、他方の開口端にはエンドキャップ16が装着される。圧力容器10の内部空間は、パッキン17により第1の液室18と第2の液室19とに分離される。このようにして、圧力容器10内にスパイラル型膜エレメント100が収納される。
【0051】
図2(b)に示すように、スパイラル型膜エレメント100は、合成樹脂のネットからなる透過水スペーサ3の両面に分離膜2を重ね合わせて3辺を接着することにより封筒状膜(袋状膜)4を形成し、その封筒状膜4の開口部を集水管5に取り付け、合成樹脂のネットからなる原水スペーサ6とともに集水管5の外周面にスパイラル状に巻回することにより構成される。スパイラル型膜エレメント100の外周面は外装材で被覆される。
【0052】
このスパイラル型膜エレメント100においては、後述する構造を有する分離膜2を用いることにより、0.05〜0.3MPaの背圧で逆流洗浄を行うことが可能となる。
【0053】
前述の図1の処理システムの濾過運転時には、図2(a)に示すように、配管107(図1)を通して供給された原水7が原水入口13から圧力容器10の第1の液室18に導入される。さらに、原水7はスパイラル型膜エレメント100の一端部からスパイラル型膜エレメント100の内部に供給される。この原水7は図2(b)の原水スペーサ6に沿って集水管5と平行な方向に直線状に流れ、スパイラル型膜エレメント100の他方の端面側から第2の液室19に濃縮水9として排出される。さらに、濃縮水9は濃縮水出口15から配管109(図1)を通して圧力容器10の外部へ取り出される。また、図2(b)に示すように、原水7が原水スペーサ6に沿って流れる過程で、原水側と透過水側の圧力差によって原水7の一部が分離膜2を透過し、透過水8が透過水スペーサ3に沿って集水管5の内部に流れ込み、集水管5の開口端から透過水8が排出される。さらに、透過水8は、図2(a)の透過水出口14から配管108(図1)を通して圧力容器10の外部へ取り出される。
【0054】
このようなスパイラル型膜エレメント100による前処理により、原水7中に含まれる汚染物質が除去される。それにより、逆浸透膜分離装置106には、汚染物質が除去された前処理水8が供給される。
【0055】
処理システムの濾過運転時においては、上記のスパイラル型膜エレメント100における濾過過程で、原水7中に含まれる懸濁物質、コロイド性物質または溶存性物質が汚染物質としてスパイラル型膜エレメント100の分離膜2の膜面に堆積する。この場合、汚染物質を含む原水7が直接供給されるスパイラル型膜エレメント100の方が汚染物質が除去された前処理水8が供給される逆浸透膜分離装置106に比べて膜面への負荷が大きく、膜面への汚染物質の堆積がより顕著である。そこで、図1の処理システムにおいては、一定時間上記の濾過運転を行った後、スパイラル型膜エレメント100の透過側から透過水による逆流洗浄を行う。
【0056】
図1の処理システムにおいて、スパイラル型膜エレメント100の逆流洗浄時には、配管108のバルブ116および配管107のバルブ117を閉じるとともに配管113のバルブ115を開く。また、供給ポンプ102を停止させるとともに供給ポンプ114を駆動させる。それにより、貯槽104に貯溜された前処理水8すなわちスパイラル型膜エレメント100の透過水8が、洗浄水8aとして配管113を通して供給ポンプ114に与えられて昇圧され、さらに配管108を介してスパイラル型膜エレメント100に供給される。
【0057】
このように、上記の処理システムにおいては、配管113、バルブ115、供給ポンプ114および配管108が洗浄液導入系に相当し、配管109および配管109aが洗浄液排出系に相当する。この場合、洗浄液導入系において、配管113が第3の管路に相当する。
【0058】
図3はスパイラル型膜エレメント100における逆流洗浄動作を示す模式的断面図である。図3に示すように、スパイラル型膜エレメント100の逆流洗浄時には、配管113および配管108を通して供給された洗浄水8aが透過水出口14から集水管5の内部に導入される。洗浄水8aは、集水管5の外周面から分離膜2の内部へ導出され、濾過時と逆方向に分離膜2を透過する。この際に、分離膜2の膜面に堆積した汚染物質が分離膜2から剥離する。スパイラル型膜エレメント100の外周面は外装材で被覆されているので、分離膜2を透過した洗浄水8aは原水スペーサ3に沿ってスパイラル型膜エレメント100の内部を軸方向に流れ、スパイラル型膜エレメント100の他端部から第2の液室19に排出される。この洗浄水8aは、図1に示すように、濃縮水出口15から配管109を通して全てまたは一部が貯槽101に戻される。
【0059】
なお、この場合においては、スパイラル型膜エレメント100の他端部から第2の液室19に洗浄水8aが排出されるように、濃縮水出口15側および透過水出口14側の圧力を設定する。
【0060】
さらに、この場合、分離膜2に0.05〜0.3MPaの背圧が加わるように透過水出口14側の圧力および濃縮水出口15側の圧力を設定する。それにより、短時間に必要量の洗浄水8aを流すことができ、スパイラル型膜エレメント100の分離膜2の膜面に堆積した汚染物質を効果的に除去することが可能となる。したがって、スパイラル型膜エレメント100において長期間にわたって透過流束の低下および透過水質の劣化を生じることなく安定して濾過を行うことができる。
【0061】
なお、図1の処理システムにおいて、スパイラル型膜エレメント100の逆流洗浄時、逆浸透膜分離装置106においては連続して濾過運転が行われる。
【0062】
この場合、逆浸透膜分離装置106の運転は貯槽104の水位により制御される。通常、貯槽104としては、上記のスパイラル型膜エレメント100の1回の逆流洗浄に用いる洗浄水量以上の容量を有するものを設置するため、スパイラル型膜エレメント100の逆流洗浄による貯槽104の渇水により逆浸透膜分離装置106の濾過運転が停止することはない。
【0063】
以上のように、図1の処理システムでは、スパイラル型膜エレメント100の濾過運転により、安定した水量および水質の前処理水(透過水)8が得られる。このため、逆浸透膜分離装置106に十分量の前処理水8を供給することができ、逆浸透膜分離装置106において長期間にわたって安定した運転を行うことが可能となる。したがって、安定した運転が実施可能な処理システムが実現できる。
【0064】
なお、上記においては、スパイラル型膜エレメント100の逆流洗浄に用いた洗浄水8aの全てまたは一部を配管109を通して貯槽101に戻しているが、スパイラル型膜エレメント100から排出された洗浄水8aの一部または全てを配管109aを通して系外に排出してもよい。
【0065】
さらに、図3のスパイラル型膜エレメント100において、逆流洗浄と同時に原水を配管107(図1)を通して原水入口13から圧力容器10の第1の液室18に導入し、スパイラル型膜エレメント100の一端部から原水を内部に供給してもよい。あるいは、逆流洗浄後に配管107(図1)を通して原水を原水入口13から圧力容器10の第1の液室18に導入し、スパイラル型膜エレメント100の一端部から原水を内部に供給してもよい。この場合、スパイラル型膜エレメント100の逆流洗浄時または逆流洗浄後に、図1の処理システムの配管107のバルブ117を開くとともに供給ポンプ102を駆動させる。それにより、原水はスパイラル型膜エレメント100の内部を他端部へ向かって軸方向に流れる。この場合、分離膜2から剥離した汚染物質が原水によりスパイラル型膜エレメント100の一端部から他端部へ押し流され、洗浄水8aとともにスパイラル型膜エレメント100の他端部から第2の液室19に排出され、濃縮水出口15を通して圧力容器10の外部へ取り出される。濃縮水出口15から外部へ取り出された原水の全てまたは一部は、配管109を通して貯槽101に戻されてもよい。
【0066】
このように、スパイラル型膜エレメント100において、逆流洗浄時または逆流洗浄後に濾過時の原水7の供給方向と同方向に原水を流すことにより、スパイラル型膜エレメント100内で分離膜2から剥離した汚染物質を系外に速やかに排出することができる。それにより、分離膜2から剥離した汚染物質が再び分離膜2に付着することが防止される。したがって、スパイラル型膜エレメント100において、長期間にわたって透過流束の低下および透過水質の劣化を生じることなくさらに安定した濾過運転を行うことができる。
【0067】
なお、上記においては、スパイラル型膜エレメント100の濃縮水出口15から洗浄水8aを取り出す場合について説明したが、原水入口13側に洗浄水排出系を設けることにより、原水入口13から洗浄水8aを取り出してもよい。また、この場合、原水入口13から取り出した洗浄水8aの全量を排水として系外へ排出してもよく、あるいは原水入口13から取り出した洗浄水8aの一部または全てを貯槽101に戻してもよい。
【0068】
さらに、濃縮水出口15側に原水供給系を設けるとともに原水入口13側に原水排出系を設けることにより、スパイラル型膜エレメント100の逆流洗浄時または逆流洗浄後において、濃縮水出口15から原水を供給するとともに原水入口13から原水を取り出し、濾過時の原水7の供給方向と逆方向に原水を流してもよい。また、この場合、原水入口13から取り出した原水の一部または全てを貯槽101に戻してもよい。
【0069】
図4は本発明に係る処理システムの他の例を示す模式的構成図である。
図4に示す処理システムは、以下の点を除いて、図1の処理システムと同様の構成を有する。
【0070】
本例における処理システムは、配管111により直列に連結された2台の逆浸透膜分離装置106a,106bを備える。前段の逆浸透膜分離装置106aの透過水出口(図示せず)には配管111が接続されている。この配管111を介して、前段の逆浸透膜分離装置106aの透過水出口が後段の逆浸透膜分離装置106bの原水入口(図示せず)に接続される。また、前段の逆浸透膜分離装置106aの濃縮水出口(図示せず)には配管112が接続され、配管112にさらに配管112aおよび配管112bが接続される。後段の逆浸透膜分離装置106bの透過水出口(図示せず)には配管121が接続され、一方、濃縮水出口(図示せず)は配管122bを介して供給ポンプ105上流側の配管110に接続される。
【0071】
上記の処理システムの濾過運転時には、図1の処理システムの運転方法と同様の方法により、スパイラル型膜エレメント100および逆浸透膜分離装置106a,106bにおいて濾過が行われる。なお、この場合においては、前段の逆浸透膜分離装置106aの透過水81が配管111を通して後段の逆浸透膜分離装置106bに供給される。この透過水81は、さらに濃縮水84と透過水83とに分離される。後段の逆浸透膜分離装置106bの濃縮水84は配管122bを通して配管110に戻される。一方、透過水83は配管121を通して系外に取り出される。
【0072】
また、本例の処理システムにおいても、図1の処理システムの運転方法と同様の方法により、スパイラル型膜エレメント100の逆流洗浄が行われる。この場合、図1の処理システムの場合と同様、スパイラル型膜エレメント100の分離膜2に0.05〜0.3MPaの背圧が加わるようにスパイラル型膜エレメント100の透過水出口14側の圧力および濃縮水出口15側の圧力を設定する。それにより、短時間に必要量の洗浄水8aを流すことができ、スパイラル型膜エレメント100の分離膜2の膜面に堆積した汚染物質を効果的に除去することが可能となる。したがって、スパイラル型膜エレメント100において長期間にわたって透過流束の低下および透過水質の劣化を生じることなく安定して濾過を行うことができる。
【0073】
なお、図4の処理システムにおいて、スパイラル型膜エレメント100の逆流洗浄時、逆浸透膜分離装置106a,106bにおいては連続して濾過運転が行われる。この場合においても、図1の逆浸透膜分離装置106と同様、逆浸透膜分離装置106a,106bの運転は貯槽104の水位により制御される。
【0074】
以上のように、本例における処理システムでは、スパイラル型膜エレメント100の濾過運転により、安定した水量および水質の前処理水(透過水)8が得られる。このため、逆浸透膜分離装置106aに十分量の前処理水8を供給することができるとともに、逆浸透膜分離装置106bに十分量の透過水81を供給することができる。それにより、逆浸透膜分離装置106a,106bにおいて長期間にわたって安定した運転を行うことが可能となる。したがって、安定した運転が実施可能な処理システムが実現できる。
【0075】
図5は、図1および図3の処理システムに用いられるスパイラル型膜エレメントの分離膜の断面図である。
【0076】
図5に示すように、スパイラル型膜エレメント100の分離膜2は、多孔性補強シート(多孔性シート材)2aの表面に実質的な分離機能を有する透過性膜体2bが密着一体化されて形成されている。
【0077】
透過性膜体2bは、1種類のポリスルホン系樹脂、あるいは2種類以上のポリスルホン系樹脂の混合物、さらにはポリスルホン系樹脂とポリイミド、フッ素含有ポリイミド樹脂等のポリマーとの共重合体、もしくは混合物から形成される。
【0078】
多孔性補強シート2aは、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド等を素材とする織布、不織布、メッシュ状ネット、発泡焼結シート等から形成されており、製膜性およびコストの面から不織布が好ましい。
【0079】
多孔性補強シート2aおよび透過性膜体2bは、透過性膜体2bを構成する樹脂成分の一部が多孔性補強シート2aの孔の内部に充填された投錨状態で接合されている。
【0080】
多孔性補強シート2aに裏打ちされた分離膜2の背圧強度は、0.2MPaを超え、0.4〜0.5MPa程度に向上した。なお、背圧強度の規定方法については後述する。
【0081】
多孔性補強シート2aとして不織布を用いて背圧強度を0.2MPa以上得るためには、不織布の厚みが0.08〜0.15mmであり、かつ密度が0.5〜0.8g/cm3 であることが好ましい。厚みが0.08mmより薄い場合または密度が0.5g/cm3 より小さい場合には、補強シートとしての強度が得られず、分離膜2の背圧強度を0.2MPa以上確保することが困難である。一方、厚みが0.15mmより厚くあるいは密度が0.8g/cm3 より大きい場合には、多孔性補強シート2aの濾過抵抗が大きくなったり、不織布(多孔性補強シート2a)への投錨効果が小さくなって透過性膜体2bと不織布との界面で剥離が起こりやすくなる。
【0082】
次に、上記の分離膜2の製造方法について説明する。まず、ポリスルホンに溶媒、非溶媒および膨潤剤を加えて加熱溶解し、均一な製膜溶液を調製する。ここで、ポリスルホン系樹脂は、下記の構造式(化1)に示すように、分子構造内に少なくとも1つの(−SO2 −)部位を有するものであれば特に限定されない。
【0083】
【化1】
Figure 0004321927
【0084】
ただし、Rは2価の芳香族、脂環族もしくは脂肪族炭化水素基、またはこれらの炭化水素基が2価の有機結合基で結合された2価の有機基を示す。
【0085】
好ましくは、下記の構造式(化2)〜(化4)で示されるポリスルホンが用いられる。
【0086】
【化2】
Figure 0004321927
【0087】
【化3】
Figure 0004321927
【0088】
【化4】
Figure 0004321927
【0089】
また、ポリスルホンの溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等を用いることが好ましい。さらに、非溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の脂肪族多価アルコール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級脂肪族アルコール、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトンなどを用いることが好ましい。
【0090】
溶媒と非溶媒の混合溶媒中の非溶媒の含有量は、得られる混合溶媒が均一である限り特に制限されないが、通常5〜50重量%、好ましくは20〜45重量%である。
【0091】
多孔質構造の形成を促進し、または制御するために用いられる膨潤剤としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、硝酸リチウム等の金属塩、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等の水溶性高分子またはその金属塩、ホルムアミド等が用いられる。混合溶媒中の膨潤剤の含有量は、製膜溶液が均一である限り特に制限されないが、通常1〜50重量%である。
【0092】
製膜溶液中のポリスルホンの濃度は、通常10〜30重量%が好ましい。30重量%を超えるときは、得られる多孔質分離膜の透水性が実用性に乏しくなり、10重量%より少ないときは、得られる多孔質分離膜の機械的強度が乏しくなり、充分な背圧強度を得ることができない。
【0093】
次に、上記の製膜溶液を不織布支持体上に製膜する。すなわち、連続製膜装置を使用し、不織布等の支持体シートを順次送り出し、その表面に製膜溶液を塗布する。塗布方法としてはナイフコータやロールコータ等のギャップコータを用いて製膜溶液を不織布支持体上に塗布する。例えば、ロールコータを使用する場合は、2本のロールの間に製膜溶液を溜め、不織布支持体上に製膜溶液を塗布すると同時に不織布の内部に充分含浸させ、その後低湿度雰囲気を通過させ、雰囲気中の微量水分を不織布上に塗布した液膜表面に吸収させ、液膜の表面層にミクロ相分離を起こさせる。その後、凝固水槽に浸漬し、液膜全体を相分離および凝固させ、さらに水洗槽で溶媒を洗浄除去する。これにより、分離膜2が形成される。
【0094】
このように、上記の分離膜2は背圧強度が高いため、図1および図3の処理システムのスパイラル型膜エレメント100にこの分離膜2を用いた場合、0.05〜0.3MPaの背圧でスパイラル型膜エレメント100の逆流洗浄を行っても分離膜2の破損が生じることが防止される。
【0095】
【実施例】
実施例においては、分離膜2として背圧強度が0.3MPaの限外濾過膜を用いてスパイラル型限外濾過膜エレメント100を作製し、このスパイラル型膜エレメント100を備えた図1の処理システムに、原水として工業用水を供給して連続通水濾過試験を行った。なお、実施例の処理システムにおいては、逆浸透膜分離装置106の膜エレメントとして、日東電工株式会社製ES20−D4スパイラル型逆浸透膜エレメントを用いた。
【0096】
実施例の処理システムの連続通水濾過試験では、濾過速度を1m3 /m2 /日に設定してスパイラル型限外濾過膜エレメント100の定量運転を行い、20分に1回の割合で30秒間ずつ背圧0.2MPaでスパイラル型限外濾過膜エレメント100の逆流洗浄を行った。また、スパイラル型限外濾過膜エレメント100の透過水(前処理水)8を逆浸透膜分離装置106に供給し、濾過速度を0.6m3 /m2 /日に設定して逆浸透膜分離装置106の定量運転を行った。なお、上記のスパイラル型限外濾過膜エレメント100の逆流洗浄時、逆浸透膜分離装置106においては、連続して濾過運転を行った。
【0097】
比較のために、分離膜2として背圧強度が0.05MPaの限外濾過膜を用いてスパイラル型限外濾過膜エレメント100を作製し、このスパイラル型膜エレメント100を備えた図1の処理システムに、原水として工業用水を供給して連続通水濾過試験を行った。なお、比較例の処理システムにおいては、逆浸透膜分離装置106の膜エレメントとして、日東電工株式会社製ES20−D4をスパイラル型逆浸透膜エレメントを用いた。
【0098】
比較例の処理システムの連続通水濾過試験では、濾過速度を1m3 /m2 /日に設定してスパイラル型限外濾過膜エレメント100の定量運転を行い、20分に1回の割合で30秒間ずつ背圧0.05MPaでスパイラル型限外濾過膜エレメント100の逆流洗浄を行った。また、スパイラル型限外濾過膜エレメント100の透過水(前処理水)8を逆浸透膜分離装置106に供給し、濾過速度を0.6m3 /m2 /日に設定して逆浸透膜分離装置106の定量運転を行った。なお、上記のスパイラル型限外濾過膜エレメント100の逆流洗浄時、逆浸透膜分離装置106においては、連続して濾過運転を行った。
【0099】
実施例のスパイラル型限外濾過膜エレメント100に用いた限外濾過膜は以下のようにして作製した。なお、比較例のスパイラル型限外濾過膜エレメント100には、従来の限外濾過膜(日東電工株式会社製NTU−3150)を用いた。
【0100】
まず、ポリスルホン(アモコ社製、P−3500)を16.5重量部、N−メチル−2ピロリドンを58重量部、ジエチレングリコールを24.5重量部、およびホルムアミドを1重量部で加熱溶解し、均一な製膜溶液を得た。そして、コータギャップを0.13mmに調整したロールコータを用いて厚み0.1mm、密度0.8g/cm3 のポリエステル製不織布の表面に製膜溶液を含浸塗布した。
【0101】
その後、相対湿度が25%、温度が30℃の雰囲気(低湿度雰囲気)中を所定の速度で通過させ、ミクロ相分離を生じさせた後、35℃の凝固水槽中に浸漬して脱溶媒および凝固させ、しかる後、水洗槽で残存溶媒を洗浄除去することにより分離膜2を得た。ここで、実施例の分離膜2はミクロ相分離時間(低湿度雰囲気を通過する時間)が4.5秒である。
【0102】
実施例のスパイラル型限外濾過膜エレメント100に用いた限外濾過膜および比較例のスパイラル型限外濾過膜エレメント100に用いた限外濾過膜について走査型電子顕微鏡により観察される膜表面の平均孔径、透水量、平均分子量100万のポリエチレンオキサイドの阻止率および背圧強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
Figure 0004321927
【0104】
ここで、ポリエチレンオキサイドの阻止率は、濃度500ppmのポリエチレンオキサイド溶液を圧力1kgf/cm2 にて透過させ、原液および透過液の濃度から下式により求めた。
【0105】
阻止率(%)=[1−(透過液濃度/原液濃度)]×100
また、背圧強度は、直径47mmの膜を背圧強度ホルダ(有効直径23mm)にセットし、多孔性補強シート2a側より水圧を徐々に加え、透過性膜体2bが多孔性補強シート2aから剥離するか、または透過性膜体2bと多孔性補強シート2aとが同時に破裂するときの圧力で規定される。
【0106】
表1に示すように、実施例のスパイラル型限外濾過膜エレメント100に用いた限外濾過膜は、表面の平均孔径が0.02μmであり、ポリエチレンオキサイドの阻止率が90%以上と優れた分離性能を示した。さらに、背圧強度も0.2MPa以上であり優れた機械的強度を有していた。
【0107】
また、電子顕微鏡(SEM)により膜の断面を観察したところ、実施例の分離膜は表面から膜厚方向に向かって連続的に孔径が拡大する非対称構造を有していた。しかも、不織布の空隙に製膜溶液が含浸し、その一部は不織布の裏面まで到達し、膜(透過性膜体)が不織布と一体となった投錨状態で接合されていた。
【0108】
一方、比較例のスパイラル型限外濾過膜エレメント100に用いた限外濾過膜は、表面に不連続な緻密層が形成され、膜内部には指状空洞が存在する典型的な限外濾過膜の構造を有しており、実施例のスパイラル型限外濾過膜エレメント100に用いた分離膜2とは異なる構造のものであった。
【0109】
さらに、比較例のスパイラル型限外濾過膜エレメント100における分離膜2は、最小孔径層が透過性膜体と不織布の界面付近に存在し、しかも界面には空洞が形成されていた。この空洞は、ミクロ相分離が不織布の界面付近まで起こったために凝固時に収縮により生じたものと考えられ、このために背圧強度が低くなったものと推定される。
【0110】
さらに、実施例のスパイラル型限外濾過膜エレメント100における分離膜2を背圧強度測定用のホルダにセットし、0.2MPaの背圧を付加した状態と無付加の状態を6秒サイクルで繰り返す背圧疲労テストを行った。その結果、10万回のテスト後においても実施例のスパイラル型限外濾過膜エレメント100における分離膜2には剥離が全く生じなかった。
【0111】
図6は実施例の処理システムの連続通水濾過試験におけるスパイラル型限外濾過膜エレメント100の濾過速度の経時変化を示す図である。図7は実施例の処理システムの連続通水濾過試験におけるスパイラル型限外濾過膜エレメント100の透過水8の濁度の経時変化を示す図である。また、図8は実施例の処理システムの連続通水濾過試験における逆浸透膜分離装置106の濾過速度の経時変化を示す図である。図6および図8の横軸は運転日数であり、縦軸は濾過速度(透過流束)である。図7の横軸は運転日数であり、縦軸は濁度である。
【0112】
実施例の処理システムにおいては、図6に示すように、運転開始から100日経過後もスパイラル型限外濾過膜エレメント100において運転開始時と同等の濾過速度が得られた。このため、長期間にわたって安定した量の透過水8を逆浸透膜分離装置106に供給することができた。また、図7に示すように、運転開始から100日経過後もスパイラル型限外濾過膜エレメント100の透過水8の水質は0.0001〜0.0002NTUを維持しており、逆浸透膜分離装置106に供給される透過水8のFI(Fouling Index )値は常に4以下を維持していた。なお、FI値は供給水質の指標であり、値が小さいほど水質が良好であることを示す。
【0113】
このように実施例の処理システムのスパイラル型限外濾過膜エレメント100において安定した濾過速度および濾過水量を得ることができたのは、0.2MPaの背圧での逆流洗浄により十分な洗浄水8aの流量を確保することができ、濾過時間内にスパイラル型限外濾過膜エレメント100の膜面に堆積した汚染物質を系外へ十分に排出できたためであると考えられる。
【0114】
以上のことから、実施例の処理システムにおいては、スパイラル型限外濾過膜エレメント100の安定した濾過運転によりFI値が4以下でかつ十分量の透過水8が常に逆浸透膜分離装置106に供給されたため、図8に示すように、運転開始から100日経過後も逆浸透膜分離装置106において運転開始と同様の濾過速度が得られ、安定した運転ができた。
【0115】
図9は比較例の処理システムの連続通水濾過試験におけるスパイラル型限外濾過膜エレメント100の濾過速度の経時変化を示す図である。図9の横軸は濾過時間であり、縦軸は濾過速度である。
【0116】
図9に示すように、比較例の処理システムのスパイラル型限外濾過膜エレメント100においては、経時的に濾過速度の低下が生じた。運転開始から20時間経過後には、スパイラル型限外濾過膜エレメント100において、運転開始時の50%まで濾過速度の低下が生じ、安定な濾過運転が困難であった。このことは、比較例の処理システムのスパイラル型限外濾過膜エレメント100では0.05MPaの背圧で逆流洗浄を行っているため、スパイラル型限外濾過膜エレメント100の膜面に堆積した汚染物質を系外へ排出するだけの洗浄水8aの流量が確保できないためであると考えられる。
【0117】
このように、比較例の処理システムにおいては、スパイラル型限外濾過膜エレメント100において安定した濾過運転ができないため、逆浸透膜分離装置106の濾過運転に必要な透過水8の供給量が確保できず、逆浸透膜分離装置106において長期間にわたる運転ができなかった。
【0118】
以上のように、実施例のような本発明に係る処理システムおよびその運転方法によれば、長期間にわたって安定した運転を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る処理システムの一例を示す模式的構成図である。
【図2】図1の処理システムに用いられるスパイラル型膜エレメントを示す図である。
【図3】図2のスパイラル型膜エレメントの逆流洗浄時の動作を示す模式的断面図である。
【図4】本発明に係る処理システムの他の例を示す模式的構成図である。
【図5】図2のスパイラル型膜エレメントに用いられる分離膜の断面図である。
【図6】実施例の処理システムの連続通水濾過試験におけるスパイラル型限外濾過膜エレメントの濾過速度の経時変化を示す図である。
【図7】実施例の処理システムの連続通水濾過試験におけるスパイラル型限外濾過膜エレメントの透過水の濁度の経時変化を示す図である。
【図8】実施例の処理システムの連続通水濾過試験における逆浸透膜分離装置の濾過速度の経時変化を示す図である。
【図9】比較例の処理システムの連続通水濾過試験におけるスパイラル型限外濾過膜エレメントの濾過速度の経時変化を示す図である。
【図10】従来の処理システムの例を示す模式的構成図である。
【符号の説明】
2 分離膜
3 透過水スペーサ
4 封筒状膜
5 集水管
6 原水スペーサ
7 原水
8 透過水
8a 洗浄水
9 濃縮水
10 圧力容器
13 原水入口
14 透過水出口
15 濃縮水出口
100 スパイラル型膜エレメント
101,104,201,204 貯槽
102,114,202,205 供給ポンプ
106,106a,106b 逆浸透膜分離装置

Claims (10)

  1. 有孔中空管の外周面に袋状の分離膜が巻回されてなりかつ0.05MPaよりも高く0.3MPa以下の背圧で逆流洗浄が可能なスパイラル型膜エレメントと、
    前記スパイラル型膜エレメントの下流側に設けられた1または複数の逆浸透膜分離装置と、
    濾過時に、前記スパイラル型膜エレメントの一端部から原液を供給する第1の原液供給系と、
    前記濾過時に、前記スパイラル型膜エレメントの前記有孔中空管の少なくとも一方の開口端から導出された透過液を前記逆浸透膜分離装置に供給する透過液供給系と、
    洗浄時に、前記スパイラル型膜エレメントの前記有孔中空管の少なくとも一方の開口端から洗浄液を導入する洗浄液導入系と、
    前記洗浄時に、前記スパイラル型膜エレメントの前記一端部から導出された洗浄液を排出する洗浄液排出系と、
    前記洗浄時または洗浄後に、前記スパイラル型膜エレメントの他端部から原液を供給する第2の原液供給系と、
    前記洗浄時または洗浄後に、前記スパイラル型膜エレメントの前記一端部から導出された原液を排出する原液排出系とが設けられたことを特徴とする処理システム。
  2. 前記スパイラル型膜エレメントの前記分離膜は多孔性シート材の一面に透過性膜体が接合されてなることを特徴とする請求項1記載の処理システム。
  3. 前記透過液供給系は、透過液を貯溜する貯槽と、前記有孔中空管の少なくとも一方の開口端から導出された透過液を前記貯槽に導く第1の管路と、前記貯槽に貯溜された透過液を前記逆浸透膜分離装置に導く第2の管路とを含み、前記洗浄液導入系は、前記貯槽に貯溜された透過液を前記有孔中空管の少なくとも一方の開口端に導く第3の管路を含むことを特徴とする請求項1または2記載の処理システム。
  4. 前記濾過時に前記スパイラル型膜エレメントの他端部から導出される濃縮液の一部または全てを前記スパイラル型膜エレメントの供給側に戻す第1の濃縮液帰還系がさらに設けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の処理システム。
  5. 前記濾過時に前記逆浸透膜分離装置から導出される濃縮液の一部または全てを前記スパイラル型膜エレメントの供給側に戻す第2の濃縮液帰還系がさらに設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の処理システム。
  6. 有孔中空管の外周面に袋状の分離膜が巻回されてなるスパイラル型膜エレメントの下流側に1または複数の逆浸透膜分離装置が設けられた処理システムの運転方法であって、濾過時に、前記スパイラル型膜エレメントの一端部から原液を供給するとともに前記スパイラル型膜エレメントの前記有孔中空管の少なくとも一方の開口端から導出された透過液を前記逆浸透膜分離装置に供給し、洗浄時に、前記スパイラル型膜エレメントの前記有孔中空管の少なくとも一方の開口端から洗浄液を導入して前記スパイラル型膜エレメントの前記一端部から洗浄液を排出させることにより0.05MPaよりも高く0.3MPa以下の背圧で前記分離膜を逆流洗浄し、前記逆流洗浄時または前記逆流洗浄後に前記スパイラル型膜エレメントの前記他端部から原液を導入して前記スパイラル型膜エレメント内で原液を前記濾過時と逆方向に流すとともに前記スパイラル型膜エレメントの前記一端部から導出することを特徴とする処理システムの運転方法。
  7. 前記洗浄液が濾過時に前記スパイラル型膜エレメントから導出された透過液であることを特徴とする請求項6記載の処理システムの運転方法。
  8. 前記スパイラル型膜エレメントの逆流洗浄に用いた前記透過液の一部または全てを前記濾過時に前記スパイラル型膜エレメントに供給することを特徴とする請求項7記載の処理システムの運転方法。
  9. 前記濾過時に前記スパイラル型膜エレメントの他端部から導出される濃縮液の一部または全てを前記スパイラル型膜エレメントに供給することを特徴とする請求項7または8記載の処理システムの運転方法。
  10. 前記濾過時に前記逆浸透膜分離装置から導出される濃縮液の一部または全てを前記スパイラル型膜エレメントに供給することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の処理システムの運転方法。
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