次に、図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
始めに、図1を参照して、本発明の磨耗補正量演算手段60と、砥石位置制御手段68とを適用した両頭研削装置10について説明する。図1は、本発明の一実施例である両頭研削装置を示した図である。なお、図1において、Y,Y方向はカップ型砥石20a,20bがワーク50に対して移動する方向(スラスト方向)を示しており、X,X方向は、カップ型砥石20a,20bの移動方向に直交する方向(ラジアル方向)を示している。
両頭研削装置10は、大略すると、両頭研削装置本体15と、磨耗補正量演算手段60と、砥石位置制御手段68とを有した構成とされている。
両頭研削装置本体15は、研削加工装置16a,16bと、ベース17と、主軸位置センサー120a,120bと、ワーク保持器25とを有した構成とされている。研削加工装置16a,16bは、ワーク50(ワーク保持器25)を挟んで同一構成のものが対向するよう2台配設されている。図1において、同図中右側に位置する研削加工装置16aには符号aを添記し、同図中左側に位置する研削加工装置16bには符号bを添記し、主に研削加工装置16aについて説明する。
研削加工装置16aは、大略するとカップ型砥石20aと、研削主軸22aと、サドル23aと、サドル駆動装置18aと、回転駆動装置(図示せず)とを有した構成とされている。カップ型砥石20aは、研削主軸16aの一方の端部に一体的に設けられている。カップ型砥石20aは、カップ状の開放側の端面(砥粒が固着された面)に平坦な研削動作面21aが形成されている。研削動作面21a,21bは、ワーク50の回転中心位置Cを(図2参照)通過するように設定されており、この研削動作面21a,21bによりワーク50の両面が同時に研削加工される。
研削主軸16aには、回転駆動装置(図示せず)が設けられている。回転駆動装置は、研削主軸16aをX,X方向に回転させるためのものであり、研削主軸16aが回転することにより、カップ型砥石20aも一体的に回転する。
研削主軸16aの他方の端部は、サドル23aに固定されている。サドル23aは、ベース17上に設けられており、ベース17上をY,Y方向に移動可能な構成とされている。研削主軸16aが設けられていない側のサドル23aの端部には、サドル駆動装置18aが設けられている。このサドル駆動装置18aは、サドル23aをY,Y方向に移動させるためのものであり、サドル23aが移動することで研削主軸16aも一体的に移動する。
主軸位置センサー120aは、サドル23aの位置を検出するものである。この主軸位置センサー120aの計測位置からカップ型砥石20aの研削動作面21aまでの距離を主軸位置センサー120aの計測値に加算し、この加算値(以下、オフセット量)に基づいて砥石位置制御手段68により、カップ型砥石20aの研削動作面21aの位置及びカップ型砥石20aの送り量が制御される。なお、主軸位置センサー120bは、主軸位置センサー120aと同様な構成とされている。また、主軸位置センサー120a,120bにより検出された位置データSa,Sbは後述する砥石磨耗量演算手段65に送信される。
後述するワーク保持器25により回転支持されたワーク50は、回転移動する一対のカップ型砥石20a,20bの研削動作面21a,21bと接触することで研削加工される。
次に、図2を参照して、ワーク保持器25について説明する。図2は、図1に示したワーク保持器をA視した図である。
ワーク保持器25は、大略するとワーク保持器フレーム26と、ローラ駆動部27と、2つの駆動用ローラ部33と、駆動用ベルト38と、3つの支持用ローラ部41と、位置センサー45a,45bとを有した構成とされている。なお、ワーク保持器25は、図示していない開閉機構により、ワーク50の着脱可能な構成とされている。
ローラ駆動部27は、駆動モータ28と、回転軸29と、プーリ31とを有しており、ワーク保持器フレーム26のワーク50から離間した位置に設けられている。駆動モータ28は、回転軸29を介してプーリ31と接続されており、駆動モータ28が回転することで、プーリ31も回転する。ローラ駆動部27は、駆動用ローラ部33に設けられた溝付きローラ35を回転させるためのものである。
駆動用ローラ部33は、ワーク保持器フレーム26に2つ設けられており、溝付きローラ35と、回転軸34と、プーリ36とを有した構成とされている。駆動用ローラ部33は、ワーク50の外周部近傍に対応した位置に設けられている。溝付きローラ35は、回転軸34を介してプーリ36と接続されている。溝付きローラ35は、ワーク50の外周端部と接触するための溝部(図示せず)を有している。2つのプーリ36は、駆動ベルト38を介してプーリ31と接続されており、駆動モータ28によりプーリ31が回転させられた際の回転が駆動ベルト38を介して2つのプーリ36に伝達され、2つの溝付きローラ35が回転して、ワーク50を回転させる。
支持用ローラ部41は、3つ設けられており、溝付きローラ43と、回転軸42とを有した構成とされている。支持用ローラ部41は、ワーク50の外周部近傍に対応した位置に設けられている。支持用ローラ部41は、ワーク50を回転可能に支持するためのものである。溝付きローラ43は、ワーク50の外周端部と接触するための溝部(図示せず)を有している。回転軸42は、溝付きローラ43と一体的に形成されている。
位置センサー45aは、シリンダー加圧式の接触式センサーであり、大略すると位置センサー本体46aと、接触子47aと、シリンダー加圧部(図示せず)とを有した構成とされている。位置センサー本体46aは、ワーク50の被加工面50a上に延在しており、その端部には、接触子47aが設けられている。接触子47aは、シリンダー加圧部によりワーク50の被加工面50aと接触するよう配置されている。位置センサー45aは、研削加工開始前後及び研削加工中のワーク50の被加工面50aの位置を検出するためのセンサーであり、検出された位置データEaは常時、後述するフィルタ61aと、ワークの厚み演算手段62とに送信される。
位置センサー45bは、シリンダー加圧式の接触式センサーであり、大略すると位置センサー本体46bと、接触子47bと、シリンダー加圧部(図示せず)とを有した構成とされている。位置センサー本体46bは、ワーク50の被加工面50b上に延在しており、その端部には、接触子47bが設けられている。接触子47bは、シリンダー加圧部によりワーク50の被加工面50bと接触するよう配置されている。位置センサー45bは、研削加工開始前後及び研削加工中のワーク50の被加工面50bの位置を検出するためのセンサーであり、検出された位置データEbは常時、後述するフィルタ61bと、ワークの厚み演算手段62とに送信される。
このようなシリンダー加圧式の位置センサー45a,45bをワーク50の被加工面50a,50bに設けることで、接触子47a,47bが押圧された際、ワーク50の被加工面50a,50bが受ける力を相殺して、ワークに余計な外力が加えられることを防いで、ワーク50の加工精度を向上させることができる。なお、本実施例では、シリンダー加圧式の位置センサー45a,45bを適用した場合を例に挙げたが、位置センサー45a,45bには、光学式位置センサーや渦電流式変位センサー等の非接触式センサーを用いても良い。光学式位置センサーや渦電流式変位センサー等の非接触式センサーを用いた場合には、ワーク50に外力を与えることなく、ワーク50の被加工面50a,50bの位置の検出を行うことができるので、ワーク50を高精度に研削加工することができる。
ここで、図3を参照して、ワーク50を1枚研削加工した場合を例に挙げて、位置データEaに含まれるデータ成分について説明する。
図3は、位置センサーにより取得された位置データに含まれる成分を説明するための図である。なお、図3において、縦軸はカップ型砥石20aの厚さ、横軸はカップ型砥石20aによるワーク50の研削加工時間を示している。また、t1は研削加工開始時間(以下、加工開始時間t1とする)、t2は研削加工終了時間(以下、加工終了時間t2とする)、Gは研削加工開始直後から研削加工が終了するまでの間に位置センサー45aにより検出された位置データEa(以下、位置データ曲線Gとする)、Hはカップ型砥石20aの理想加工面位置曲線(以下、理想加工面位置曲線Hとする)、Iは研削加工前のカップ型砥石20aの研削動作面21aの位置、gは研削加工終了時のカップ型砥石20aの研削動作面21aの計測値、M1はワーク1枚加工時のカップ型砥石20aの研削動作面21aの変位量計測値(以下、変位量計測値M1とする)、M2は理想加工面位置曲線Hから求めたワーク1枚加工時のカップ型砥石20aの研削動作面21aの変位量理想値(以下、変位量理想値M2とする)、M3は変位量計測値M1と変位量理想値M2との差(以下、誤差M3とする)をそれぞれ示している。理想加工面位置曲線Hは、カップ型砥石20aの研削動作面21aの磨耗量のみのデータ成分を有した曲線である。
先に説明したように、ワーク50には反りやうねりが存在する。両頭研削装置10では、このような反りやうねりを有したワーク50をワーク保持器25により回転支持させ、対向する一対のカップ型砥石20b,20bの研削動作面21b,21bによりワーク50を研削加工する。そのため、位置センサー45aにより検出されたワーク50の被加工面50aの位置データ曲線Gには、カップ型砥石20aの磨耗量に関するデータ以外に、反りやうねりを有したワーク50が回転することで発生するワーク50の回転周期に起因するノイズ等(以下、ワーク50に起因する外乱成分)が含まれている。そのため、図3に示すように、位置データ曲線Gはうねった曲線となり、加工終了時間t2において、位置データ曲線Gによる砥石磨耗量M1と、理想加工面位置曲線Hによる砥石磨耗量M2との間に、砥石磨耗量の差M3が生じてしまう。
この砥石磨耗量の差M3は、位置データEaを後述するフィルタ61aでろ過することで、反りやうねりを有したワーク50が回転することにより発生するワーク50の回転周期に起因するノイズ等が除去され、これにより位置データ曲線Gを理想加工面位置曲線Hに近似させることができる。なお、位置データEbにも、位置データEaのデータ成分と同様な種類のデータ成分が含まれている。また、位置データEbは、後述するフィルタ61bで帯域制限される。
次に、図1を参照して、磨耗補正量演算手段60について説明する。磨耗補正量演算手段60は、大略するとフィルタ61a,61bと、ワーク厚み演算手段62と、記憶手段63と、研削加工終了検出手段64と、砥石磨耗量演算手段65と、第2の記憶手段66と、砥石位置補正量演算手段67と、砥石位置制御手段68とを有した構成とされている。
フィルタ61aは、カットオフ周波数がワーク50の回転数以下であるローパスフィルタであり、位置センサー45aと、記憶手段63と、研削加工終了検出手段64とに接続されている。フィルタ61aは、位置センサー45aから送信された位置データEaから、ワーク50に起因する外乱成分(反りやうねりを有したワーク50が回転することで発生するワーク50の回転周期に起因する成分)である高周波成分を除去して、カップ型砥石20aの位置に関するデータのみを取得するためのものである。また、フィルタ61aは、研削加工終了検出手段64から加工終了検出信号を受けた際、研削加工が終了したワーク50の被加工面50a,50bの位置に関する位置データEaf(フィルタ処理後のデータ)を記憶手段63に送信する。
フィルタ61bは、カットオフ周波数がワーク50の回転数以下であるローパスフィルタであり、位置センサー45bと、記憶手段63と、研削加工終了検出手段64とに接続されている。フィルタ61bは、位置センサー45bから送信された位置データEbから、ワーク50に起因する外乱成分(反りやうねりを有したワーク50が回転することで発生するワーク50の回転周期に起因する成分)である高周波成分を除去して、カップ型砥石20bの位置に関するデータのみを取得するためのものである。また、フィルタ61bは、研削加工終了検出手段64から加工終了検出信号を受けた際、研削加工が終了したワーク50の被加工面50a,50bの位置に関する位置データEbf(フィルタ処理されたデータ)を記憶手段63に送信する。
ワークの厚み演算手段62は、位置センサー45a,45bと、研削加工終了検出手段64と接続されている。ワークの厚み演算手段62は、位置センサー45a,45bから送信される位置データEa,Ebに基づいて、演算によりワーク50の厚さWを求めるためのものである。位置データEa,Ebは、研削加工開始前から研削加工終了時までの間のワークの厚み演算手段62に送信される。ワークの厚み演算手段62は、研削加工開始前から研削加工終了時までの間のワークの厚さWをリアルタイムで研削加工終了検出手段64に送信する。
記憶手段63は、フィルタ61a,61bと、研削加工終了検出手段64と、砥石磨耗量演算手段65とに接続されている。記憶手段63は、フィルタ61a,61bから送信された研削加工終了時のワーク50の被加工面50a,50bの位置データEaf,Ebfを記憶するためのものである。また、記憶手段63は、例えば、n枚のワーク50を研削加工する場合において、研削加工終了検出手段64から加工終了検出信号を受信した際、m(1<m<n)枚目までのワーク50(以下、m枚目のワークをワーク50(m)と示す。)の研削加工が終了した際には、1枚目のワーク50(1)の研削加工終了時の位置データEaf−1,Ebf−1と、m枚目のワーク50(m)の研削加工終了時の位置データEaf−m,Ebf−mとを砥石磨耗量演算手段65に送信する。
研削加工終了検出手段64は、ワーク厚み演算手段62と、記憶手段63と、第2の記憶手段66とに接続されている。研削加工終了検出手段64は、予め研削加工終了時の所望のワーク50の厚さW1が入力されており、ワーク厚み演算手段62から送信されるワーク50の厚さWが厚さW1と等しくなった際、記憶手段63と第2の記憶手段66とに対して、ワーク50の加工終了検出信号を送信する。
砥石磨耗量演算手段65は、記憶手段63と、主軸位置センサー120a,120bと、砥石位置補正量演算手段67とに接続されている。砥石磨耗量演算手段65は、主軸位置センサー120a,120bからサドル23a,22bの位置データSa,Sb(研削主軸22a,22bの位置データ)と、記憶手段63から1枚目のワーク50(1)の研削加工終了時の位置データEaf−1,Ebf−1と、m枚目のワーク50(m)の研削加工終了時の位置データEaf−m,Ebf−mとを受信した際、各カップ型砥石20a,20bの磨耗量を演算するためのものである。
ここで、図4を参照して、各カップ型砥石20a,20bの磨耗量の演算方法について説明する。図4は、カップ型砥石20a,20bの磨耗量の演算方法を説明するための図である。なお、図4において、1枚目のワーク50(1)の研削加工終了時のカップ型砥石20a,20bを上方に示し、m枚目のワーク50(m)の研削加工終了時のカップ型砥石20a,20bを下方に示し、図1と同一構成部分には同一の符号を付す。
また、図4において、Ka1は1枚目のワーク50(1)の研削加工終了時のカップ型砥石20aの厚さ(以下、砥石厚さKa1)、Kb1は1枚目のワーク50(1)の研削加工終了時のカップ型砥石20bの厚さ(以下、砥石厚さKb1)、Eaf−1及びEbf−1は研削加工終了時のワーク50(1)の被加工面の位置(以下、ワーク位置Eaf−1,Ebf−1)、Sa1は1枚目のワーク50(1)の研削加工終了時の研削主軸22aの送り位置(以下、送り位置Sa1)、Sb1は1枚目のワーク50(1)の研削加工終了時の研削主軸22bの送り位置(以下、送り位置Sb1)、Kamはm枚目のワーク50(m)の研削加工終了時のカップ型砥石20aの厚さ(以下、砥石厚さKam)、Kbmはm枚目のワーク50(m)の研削加工終了時のカップ型砥石20bの厚さ(以下、砥石厚さKbm)、Eafm及びEbfmは研削加工終了時のワーク50(m)の被加工面の位置(以下、ワーク位置Eafm,Ebfm)、Samはm枚目のワーク50(m)の研削加工終了時の研削主軸22aの送り位置(以下、送り位置Sam)、Sbmはm枚目のワーク50(m)の研削加工終了時の研削主軸22bの送り位置(以下、送り位置Sbm)をそれぞれ示している。
両頭研削装置15のサドル駆動装置18a,18bは、左右対称な動きをするので、Qa(=Sa1−Sam)とQb(=Sb1−Sbm)とは等しくなる(Qa=Qb)。
ワーク50(1),50−mは厚さW1に加工されることから、カップ型砥石20aの磨耗量Uam、カップ型砥石20bの磨耗量Ubmとすると、カップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmの和と超過切り込み量の和が等しくなり、Uam+Ubm=2Qaとなる。1枚目のワーク50(1)の研削加工終了時の研削動作面21a,21bと、m枚目のワーク50(m)の研削加工終了時の研削動作面21a,21bとの間の偏差量Pa,Pbは、それぞれPa=Eafm−Eaf1,Pb=Ebfm−Ebf1で示され、ワーク50(1),50−mは厚さW1に加工されることから、Pa=Pbとなる。また、偏差量Pa,Pbは、カップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmの差(=Ubm−Uam)によって発生し、ワーク50(1),50−mは厚さW1に加工されることから、Ubm−Uam=2Paとなる。
このように、カップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmの和(=Ubm+Uam)と、カップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmの差(=Ubm−Uam)とを求めることで、カップ型砥石20aの磨耗量Uam(=Qa−Pa)と、カップ型砥石20bの磨耗量Ubm(=Qa+Pa)とをそれぞれ求めることができ、カップ型砥石20a,20bの位置の補正量を求める際、精度の良い補正量を求めて、ワーク50を高精度に加工することができる。
砥石位置補正量演算手段67は、砥石磨耗量演算手段65と、砥石位置制御手段68とに接続されている。砥石位置補正量演算手段67は、砥石磨耗量演算手段65で求められたカップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmから、ワーク50に起因する外乱成分を除去し、カップ型砥石20a,20bの加工終了位置を目標位置R(1枚目のワーク加工終了時のカップ型砥石20a,20bの位置)に補正するための補正量を演算するためのものである。
上記砥石磨耗量演算手段65により求められたカップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmには、カップ型砥石20a,20bの磨耗量以外に定常成分や低周波成分が多く存在する。そのため、カップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmに基づいて、精度の良い補正値を得るためには、磨耗量Uam,Ubmからノイズ成分である定常成分や低周波成分を除去する補正が行われる。以下、この定常成分や低周波成分の低減を行う補正を、第1の補正という。
ここで、図5乃至図6を参照して、第1の補正手段が行うカップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmに含まれる定常成分及び低周波成分の低減方法について説明する。図5は、砥石磨耗量のパワースペクトラムを示した図であり、図6は、図5に示した周波数特性を有した砥石の磨耗量から加工終了時の研削動作面までの伝達関数(ゲイン)を示した図である。ここで、パワースペクトラムとは、信号の周波数成分の強度分布のことである。また、伝達関数は、システムの入力から出力への信号の伝達を示すものである。したがって、砥石磨耗量のパワースペクトラムに砥石磨耗量から加工終了時の研削動作面までの伝達特性をかけあわせた結果が、砥石磨耗量により生じる研削動作面21a,21bの変動の周波数特性となる。
図5に示した砥石磨耗量のパワースペクトラムは、加工枚数毎のカップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmの周波数特性を示しており、数十枚以上の周期の変動成分から定常成分までが主な成分である。
図6において、ゲインが0.5となるような周波数1/Tを砥石位置補正量演算手段67に設計することで、研削動作面21a,21bに対する砥石磨耗量の定常成分及び変動成分の影響を低減することができる。砥石磨耗量の定常成分及び変動成分の影響を低減させる際には、比例成分、1階積分成分、2階積分成分のそれぞれに対して適当な係数を乗じた和から補正量を求めることができる。比例成分とは、1回の加工における砥石摩耗量Wm(m枚目のワーク50(m)を加工した際の砥石磨耗量をWmとする。)に対して適当な係数を乗じたものである。1階積分成分とは、1回の加工における砥石摩耗量Wmを、1回目の摩耗量から足し合わせた下記(1)式で示される1階積分値に適当な係数を乗じたものである。
2階積分成分とは、毎回算出される1階積分値(下記(1)式で示される)をさらに1回目から足し合わせた下記(2)式で示される2階積分値に適当な係数を乗じたものである。2階積分成分を用いることで、図5に示した曲線周波数特性に含まれる定常成分(周波数が0のところの成分)と、変動成分(数10枚以上の長周期の変動成分)とを効果的に減衰させることができる。
また、本発明では、研削加工終了時のワーク50の被加工面50a,50bの位置を研削加工終了時の研削動作面21a,21bとして代用しているため、研削加工終了時のワーク50の被加工面50a,50bの位置と研削加工終了時の実際の研削動作面21a,21bの位置との間に計測誤差が生じる。したがって、精度の良い補正値を求める際には、この計測誤差を低減する必要がある。この計測誤差の低減は、第2の補正手段により行われる。
ここで、図7乃至図8を参照して、計測誤差の低減を行う第2の補正について説明する。図7は、計測誤差のパワースペクトラムを示した図であり、図8は、図7に示した周波数特性を有した計測誤差から加工終了時の研削動作面までの伝達関数(ゲイン)を示した図である。したがって、計測誤差のパワースペクトラムに計測誤差から加工終了時の研削動作面までの伝達特性をかけあわせた結果が、計測誤差によって生じる研削動作面21a,21bの変動周波数特性となる。
図7に示す計測誤差の周波数特性(パワースペクトラム)は、ワーク50の反り量の誤差などに起因する周期の短い(高周波)成分の強度が強く、周波数1/1の左側付近にピーク波長を有している。
図8は、図7に示した計測誤差から加工終了時の研削動作面21a,21bまでの伝達関数を示した図であり、横軸に周波数、縦軸にゲインを示している。この図8において、ゲインが0.5以下の伝達関数を減衰させるような周波数1/Tを砥石位置補正量演算手段67に設計することで、計測誤差の研削動作面21a,21bの位置に対する影響を低減する事ができる。計測誤差の研削動作面21a,21bに対する影響を低減する際には、比例成分、一階積分成分、2階積分成分のそれぞれに対して適当な係数を乗じた和から補正量を求めることができる。
比例成分とは、1回の加工における砥石摩耗量Wm(m枚目のワーク50(m)を加工した際の砥石磨耗量をWmとする。)に対して適当な係数を乗じたものである。1階積分成分とは、1回の加工における砥石摩耗量Wmを、1回目の摩耗量から足し合わせた上記(1)式で示される1階積分値に適当な係数を乗じたものである。
2階積分成分とは、毎回算出される1階積分値(上記(1)式で示される)をさらに1回目から足し合わせた上記(2)式で示される2階積分値に適当な係数を乗じたものである。2階積分成分を用いることで、図8に示した曲線周波数特性に含まれる計測誤差を効果的に減衰させることができる。
砥石位置補正量演算手段65は、より具体的には、例えば、n枚のワーク50(1)〜50−nを研削加工する場合、m(1<m<n)枚目までのワーク50(m)の研削加工が終了した際、1枚目のワーク50(1)を加工終了後の研削動作面21aの位置(図4に示した目標とする砥石の位置R(R=0),以下、目標砥石位置R)からm枚目のワーク50(m)の加工終了後の研削動作面21aの位置までのずれ量(=補正量Ja)と、1枚目のワーク50(1)を加工終了後の研削動作面21bの目標砥石位置Rからm枚目のワーク50(m)の加工終了後の研削動作面21bの位置までのずれ量(=補正量Jb)とをそれぞれ演算により求めるためのものである。
砥石位置制御手段68は、砥石位置補正量演算手段67とサドル駆動装置18a,18bとに接続されている。砥石位置制御手段68は、砥石位置補正量演算手段67により求められた補正量Ja,Jbに基づいて、オフセット量(主軸位置センサー120a,120bの計測位置からカップ型砥石20a,20bの研削動作面21a,21bまでの距離に主軸位置センサー120a,120bの計測値を加算した値)を調整して、ワーク50に対するカップ型砥石20a,20bの研削動作面21a,21bの位置が各ワーク50で略同じとなるよう(1枚目に加工したワーク50(1)の加工終了時の研削動作面21a,21bの位置と、他のワークを加工した際の加工終了時の研削動作面21a,21bの位置とが略同じとなるよう)に、カップ型砥石20a,20bの位置を決定するためのものである。このようなカップ型砥石20a,20bの位置を決定後に(m+1)枚目のワーク50(m+1)の研削加工が開始される。
次に、図9を参照して、本発明の本実施例によるフィードバック手段が行うフィードバック処理について説明する。図9は、本発明の本実施例によるフィードバック処理を示した制御ブロック図である。なお、図9において、図1に示した構成と同一構成部分には同一の符号を付す。
フィードバック処理は、1枚目のワーク50(1)の研削加工終了時のカップ型砥石20a,20bの研削動作面21a,21bの位置を目標砥石位置R(R=0)として、3枚目以降のワーク50(3)〜50(n)の研削加工終了時の研削動作面21a,21bの位置が目標砥石位置Rとなるように、補正量Ja,Jbに基づいて、カップ型砥石20a,20bの位置を制御するように行われる。また、2枚目のワーク50(2)の研削加工終了時の研削動作面21a,21bの位置データは、3枚目のワーク50(3)を研削加工する際の研削動作面21a,21bの位置の補正量Ja,Jbを演算する際に用いられる。
次に、n枚のワーク50(n)を研削加工処理する場合を例に挙げて、本実施例のフィードバック方法について説明する。
m枚目のワーク50(m)の加工が終了すると、研削加工終了時のm枚目のワーク50(m)の被加工面50a,50bが位置センサー45a,45bにより測定され、位置データEa−m,Eb−mが取得され、反りやうねりを有したワーク50が回転することで発生するワーク50の回転周期に起因する成分がフィルタ61a,61bに除去され、位置データEaf−m,Ebf−mが出力される。
この位置データEaf−m,Ebf−mには、フィルタ61a,61bで減衰されにくいワーク50の回転周期等に起因しない、定常的な誤差成分が残存しており、この定常的な残存した誤差成分は、ワーク50の形状の個体差等に起因している。このような定常的な残存した誤差成分を含んだ位置データEaf−m,Ebf−mが砥石位置推定フィルタ83に入力されると残存していた定常的な誤差成分が低減される。砥石位置推定フィルタ83は、補正量Ja,Jb(カップ型砥石20aの補正量が補正量Jaであり、カップ型砥石20bの補正量が補正量Jbである。)への計測誤差d2の影響を低減するためのものである。
砥石位置推定フィルタ83には、例えば、カルマンフィルタ等のオブザーバフィルタを用いることができる。砥石磨耗量演算手段65は、ノイズ成分の低減された位置データEaf−m,Ebf−mと、1枚目のワーク50(1)の位置データEaf−1,Ebf−1とサドル23a,22bの位置データSa,Sb(研削主軸22a,22bの位置データ)とに基づいて、演算によりカップ型砥石20aの磨耗量Uam(=Qa−Pa)と、カップ型砥石20bの磨耗量Ubm(=Qa+Pa)とをそれぞれ求める。
砥石位置補正量演算手段67は、カップ型砥石20aの磨耗量Uamと、カップ型砥石20bの磨耗量Ubmとに基づいて、各カップ型砥石20a,20bに対する補正量Ja,Jbを演算する。この際、定常成分と低周波成分とが主成分である砥石磨耗量d1と、高周波成分が主成分である計測誤差d2とのそれぞれが低減された補正量Ja,Jbを得ることができ、この補正量Ja,Jbに基づいて、砥石位置制御手段68によりカップ型砥石20a,20bの位置が目標砥石位置Rとなるように制御される。
このようなフィードバック処理を行うことで、カップ型砥石20a,20bの位置を常に目標砥石位置Rとすることができ、各カップ型砥石20a,20bの磨耗量に影響を受けることなく、ワーク50を高精度に加工することができる。
次に、図10乃至図11に示したフローチャートを参照し、n枚のワーク50(1)〜50(n)を加工する場合を例に挙げて、本実施例の両頭研削装置10が実施する一対のカップ型砥石20a,20bの研削動作面21a,20bの位置補正処理について説明する。図10乃至図11は、本実施例のフローチャートである。
図10に示す処理が起動すると、先ずSTEP101の処理により、研削加工終了検出手段64に研削加工後のワーク50の所望の厚さW1が入力される。続く、STEP102では、一対のカップ型砥石20a,20bが待機位置から回転移動し、研削動作面21a,21bが1枚目のワーク50(1)と接触して、ワーク50(1)の研削加工が開始される。
次のSTEP103では、位置センサー45a,45bにより、研削加工中のワーク50(1)の被加工面50a−1,50b−1の位置が検出されると共に、検出された位置データEa−1,Eb−1がフィルタ61a,61bに送信される。フィルタ61a,61bでは、位置データからワーク50の回転周期に起因するノイズ成分が低減された一対のカップ型砥石20a,20bの研削動作面21a,21bの位置に関するデータが取得される。
続く、STEP104では、研削加工中の1枚目のワーク50(1)の厚さWが所定の厚さW1に到達したかどうかの判定が行われる。このSTEP104において、否定判定(No)された際、処理はSTEP103に戻る。肯定判定(Yes)された際、1枚目のワーク50(1)の研削加工が終了したと判定され、処理はSTEP105に進む。
STEP105では、1枚目のワーク50(1)の被加工面50a,50bの位置とサドル23a,22bの位置とが検出され、STEP106において、1枚目のワーク50(1)の被加工面50a,50bの位置データEaf−1,Ebf−1と、サドル23a,22bの位置データSa1,Sb1とが記憶手段63に記憶される。
続く、STEP107では、両頭研削装置本体15にセットしたn枚のワーク50(1)〜50(n)の研削加工が終了したかどうかの判定が行われる。このSTEP107において、肯定判定(Yes)された際、n枚のワーク50(1)〜50(n)の研削加工が終了したと判定され、処理は終了する。否定判定(No)された際、処理はSTEP107に進む。
次のSTEP108では、m枚目のワーク50(m)の研削加工が開始される。なお、mは、2よりも大きい自然数(m=2,3,4,・・・)であり、m≦nである。
次のSTEP109では、位置センサー45a,45bにより、研削加工中のm枚目のワーク50(m)の被加工面50a−m,50b−mの位置が検出されると共に、検出された位置データがフィルタ61a,61bに送信される。フィルタ61a,61bでは、位置データから一対のカップ型砥石20a,20bの磨耗量に関する砥石磨耗量データが取得される。
続く、STEP110では、研削加工中のm枚目のワーク50(m)の厚さが所定の厚さW1に到達したかどうかの判定が行われる。このSTEP110において、否定判定(No)された際、処理はSTEP109に戻る。肯定判定(Yes)された際、m枚目のワーク50(m)の研削加工が終了したと判定され、処理はSTEP91に進む。
STEP111では、m枚目のワーク50(m)の被加工面50a−m,50b−mの位置とサドル23a,22bの位置とが検出され、STEP112において、m枚目のワーク50(m)の被加工面50a−m,50b−mの位置データEaf−m,Ebf−mと、サドル23a,22bの位置データSam,Sbmとが記憶手段63に記憶される。
続く、STEP113では、砥石磨耗量演算手段65により、1枚目のワーク50(1)の被加工面50a−1,50b−1の位置データEaf−1,Ebf−1と、m枚目のワーク50(m)の被加工面50a−m,50b−mの位置データEaf−m,Ebf−mと、サドル23a,23bの位置データSa1,Sb1,Sam,Sbmとに基づいて、各カップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmを演算する。
次のSTEP114では、カップ型砥石20a,20bの磨耗量Uam,Ubmに基づいて、加工するワーク50(3)〜50(n)に対して、カップ型砥石20a,20bの研削動作面21a,20bの位置が砥石目標位置Rと同じとなるような一対のカップ型砥石20a,20bの位置の補正量Ja,Jbを求める。
次のSTEP115では、補正量Ja,Jbに基づいて、サドル駆動装置18a,18bをそれぞれ駆動させて、カップ型砥石20a,20bに設けられた研削動作面21a,21bの位置を調整する。
続く、STEP116では、両頭研削装置本体15にセットしたn枚のワーク50(1)〜50(n)の研削加工が終了したかどうかの判定が行われる。このSTEP115において、否定判定(No)された際、処理はSTEP109に進む。STEP115において、肯定判定(Yes)された際、n枚のワーク50(1)〜50(n)の研削加工が終了したと判定され、処理は終了する。
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。なお、ワークを保持するワーク保持器25は、本実施例の構成に限定されない。また、本発明は、研磨布を用いてワークの両面加工を行う両面研磨装置にも適用することができる。