上述の通り、本発明者等は以前から難燃性と成形体の物性の確保を目的として、シリカのような加水分解・縮合により得られる無機微粒子と樹脂とのハイブリッド化技術の開発を進めており、本発明では、特に、無機微粒子の分散状態に着目することで、成形体の吸湿性の低下を防ぐことを試みた。その結果、慣性半径が10nm未満の無機微粒子と、慣性半径が10〜50nmの無機微粒子とを特定比率で分散させることが重要であることが見出された。以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の無機微粒子の分散体は、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩の加水分解縮合物である無機微粒子が分散媒中に分散している分散体であって、前記無機微粒子の慣性半径が50nm以下であると共に、慣性半径10nm未満の微粒子と、慣性半径10nm以上50nm以下の微粒子との質量比が1:99〜50:50となっているものである。慣性半径10nm未満の微粒子は、特に分散媒が樹脂組成物の場合に、分散媒と微粒子との界面濡れ性増大に効果的ではあるが、無機微粒子同士のファンデルワールス力の作用が大きくなり過ぎるため、このような微粒子のみを配合するとナノコンポジット化による物性向上効果が充分に発現しないことがある。一方で、慣性半径50nmを超える微粒子は、空気中の水分等を吸い易く、吸湿性を増大させる要因となるのではないかと考えられる。よって、本発明では、無機微粒子(一次粒子)の慣性半径は50nm以下でなければならず、さらに、慣性半径10nm未満の微粒子と、慣性半径10nm以上50nm以下の微粒子との質量比が1:99〜50:50となっている必要がある。慣性半径10nm未満の微粒子と、慣性半径10nm以上50nm以下の微粒子との質量比は、20:80〜50:50がより好ましい。
なお、上記慣性半径を求めるには、X線小角散乱法を用いる。X線小角散乱法は、密度不均一領域の電子密度の揺らぎがX線照射時の散乱挙動を変えることによって、100nm以下の粒子のサイズを測定することができるため、特に、分散媒中の一次粒子の分布状態をそのまま把握することができる。従来は、無機微粒子の粒度分布を測定するには、無機微粒子を溶剤中へ低濃度に分散させ、これにレーザー光等を照射して、散乱状態から粒径や分布を求めるという光学的手法があったが、例えば無機微粒子の分散媒が樹脂の場合、溶剤希釈によって分散状態が変化してしまうため、樹脂の中でどのように分散していたかを正確に再現できないという問題があった。また、成形硬化後の試験片をSEMやTEM等における観察試料として用いる分光学的手法もあり、硬化後の分散状態の把握にはそれなりに有用であるが、微小な視野での観察にとどまるために、観察領域の分散状態が硬化体全体の分散状態を再現良く現しているかという点に疑問が残る。
一方、X線小角散乱法では、樹脂が分散媒の場合であっても、硬化前の分散状態を把握できるというメリットがある。その測定原理を簡単に説明する。通常、有機化合物である分散媒と、ナノサイズの無機微粒子とでは、元来、密度・電子状態・結合様式が異なるものであり、両者の界面で電子密度の揺らぎが生じる。密度が不均一な混合物中を単色X線が通過すると、入射方向に対して極めて小さい角度領域(2θ=0〜5゜)で散漫な回折を生じる。この回折強度パターンを解析することで、密度の不均一領域の大きさや形状がわかり、有機/無機ナノコンポジットのモルフォロジーが明らかになるのである。ここで、粒径(密度不均一領域の大きさ)が均一の場合、ギニエの小角散乱強度式より、散乱強度は次式(1)で表される。
式1中のqは、数学的には空間をフーリエ変換したものであり、距離の逆数に比例する値(Å-1)であって、散乱角の関数として次式(2)で表される。
ギニエプロットは、X線散乱強度−q2値のプロットである。散乱角度の増大により散乱強度の急激な減少を示す領域が小角散乱領域であり、中心ピークの幅は密度の不均一領域のサイズ、すなわち一次粒子の慣性半径とほぼ逆比例する。よって、散乱強度の増減挙動をFunkuchenの方法に適用し、ギニエプロットの右端から順に接線を引いて、各接線の勾配から、慣性半径とその散乱強度を算出すれば、それらの強度比から一次粒子の慣性半径の分布の相対比を求めることができる。
本発明の分散体に分散している無機微粒子は、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩の加水分解縮合物である。つまり、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩の加水分解反応により得られるものを、さらに縮合反応することによって得られる無機微粒子である。この無機微粒子としては、ゾル−ゲル法で製造されるものであることが好ましく、アルコキシドのゾル−ゲル法による加水分解・縮合により得られる無機微粒子であることがより好ましい。上記化合物の加水分解反応および縮合反応は、次の通りである。具体的な無機微粒子の製造方法は、後述する。
M(OR1)a+aH2O(加水分解)→M(OH)a+aR1OH
M(OH)a→M(OH)bOc(部分縮合物)→MO2/c(縮合物)
(式中、Mは金属元素、CまたはSiを、R1はアルキル基またはアシル基を表し、a、bおよびcは任意の数値を表す。)。
上記アルコキシドやカルボン酸金属塩としては、下記一般式(3)で表される化合物:
M(OR2)n (3)
(式中、Mは金属元素、CまたはSiを、R2はアルキル基またはアシル基を表し、nは1〜7の整数を表す。)
および/または下記一般式(4)で表される化合物:
(R3)mM(OR2)p (4)
[式中、MおよびR2は、一般式(3)と同じ意味である。R3は有機基を表し、mおよびpは1〜6の整数を表す。]
が挙げられる。R2およびR3は同一または異なっていてもよい。
上記一般式(3)および(4)におけるR2がアルキル基の場合、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等が特に好ましい。また、R2がアシル基の場合、炭素数1〜4のアシル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチニル基等が特に好適である。
上記一般式(4)におけるR3の有機基の好適な一例としては、炭素数1〜8の有機基が挙げられ、メチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等のアルキル基;3−フルオロプロピル基、等のフッ化アルキル基;2−メルカプトプロピル基等のメルカプト基含有アルキル基;2−アミノエチル基、2−ジメチルアミノメチル基、3−アミノプロピル基、3−ジメチルアミノプロピル基等のアミノ基含有アルキル基;フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フルオロフェニル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基;2−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等のエポキシ基含有有機基;ビニル基、3−(メタ)アクリルオキシプロピル基等の不飽和基含有有機基等が好ましい。また上記一般式(4)のR3はアセチルアセトネート基であってもよく、このときのカルボン酸金属塩は、特に金属キレート化合物と呼ぶことができる。金属キレート化合物については後述する。
上記一般式(3)および(4)におけるMは、金属元素、CまたはSiであり、金属元素の場合、上記一般式(3)および(4)で示される化合物の構造を取り得る元素であれば周期表のいずれの金属でも構わない。例えば、B、Al、Ca、In、Ti等のIIIB族;C、Si、Ge、Sn、Pb等のIVB族;Ti、Zr、Zn、Ca、Na、Li、Te、Mg、Ni、Cr、Ba、Ta、Mo、Tb、Cs等から選ばれる1種以上の元素が好適である。中でも、Al、In、ZnまたはSiが好ましい。
上記元素MがSiである場合のアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類が挙げられる。中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが好ましい。
上記元素MがSi以外である場合のアルコキシドとしては、LiOCH3、NaOCH3、Cu(OCH3)2、Ca(OCH3)2、Sr(OC2H5)2、Ba(OC2H5)2、Zn(OC2H5)2、B(OCH3)3、Al(OCH3)3、Al(OC2H5)3、Ga(OC2H5)3、Y(OC4H9)3、Ge(OC2H5)4、Pb(OC4H9)4、P(OCH3)3、Sb(OC2H5)3、VO(OC2H5) 3 、Ta(OC3H7)5、W(OC2H5)6、La(OC3H7)3、Nd(OC2H5)3、Ti(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(iso−OC3H7)4、Zr(OCH3)4等の単一アルコキシド;La[Al(iso−OC3H7)4]3、Mg[Al(iso−OC3H7)4]2、Mg[Al(sec−OC4H9)4]2、Ni[Al(iso−OC3H7)4]2、(C3H7O)2Zr[Al(OC3H7)4]2、Ba[Zr(OC2H5)9]2等の複合アルコキシド等が好適である。
上記元素MがSiである場合のカルボン酸金属塩としては、;テトラアセチルオキシシラン、テトラプロピオニルオキシシラン等のテトラアシルオキシシラン類;メチルトリアセチルオキシシラン、エチルトリアセチルオキシシラン等のトリアシルオキシシラン類;ジメチルジアセチルオキシシラン、ジエチルジアセチルオキシシラン等のジアシルオキシシラン類等が挙げられる。酢酸亜鉛等の亜鉛化合物等も利用可能である。
さらに、上記一般式(4)のR3がアセチルアセトネート基である化合物、すなわち金属キレート化合物もカルボン酸金属塩として好適に用いることができる。これらは反応を促進する作用も有している。特に好適な金属キレート化合物は、(R6COCHCOR7)4-qZr(OR2)q、(R6COCHCOR7)4-rTi(OR2)r、または(R6COCHCOR7)4-sAl(OR2)sの少なくとも1種の化合物や、これらの部分加水分解物等である。
上記金属キレート化合物におけるR2は、前記式(3)および(4)と同じ意味である。R6は炭素数1〜6の有機基を表し、R7は炭素数1〜6の有機基または炭素数1〜16のアルコキシル基を表し、qおよびrは0〜3の整数、sは0〜2の整数である。R6およびR7は同一または異なっていてもよい。R6における炭素数1〜6の有機基、あるいはR7における炭素数1〜6の有機基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、フェニル基等が好ましい。また、R7が炭素数1〜16のアルコキシル基である場合、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が好適である。
上記金属キレート化合物の具体例としては、トリ−n−ブトキシ・エチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(n−プロピルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム等のジルコニウムキレート化合物;ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウム等のチタニウムキレート化合物;ジ−s−ブトキシドエチルアセトアセテートアルミニウム、ジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、ジ−i−プロポキシ・アセチルアセトナートアルミニウム、i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノアセチルアセトナート・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等が、好適なものとして挙げられる。中でも、トリ−n−ブトキシ・エチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウムが特に好ましい。
上記一般式(3)で表される化合物と、上記一般式(4)で表される化合物の使用量については、分散媒として樹脂組成物を用いる場合に、その難燃性向上の観点や、得られる無機微粒子と上記樹脂組成物の他の構成成分との親和性向上の観点から、一般式(3)で表される化合物と一般式(4)で表される化合物の合計量100質量部に対し、一般式(3)で表される化合物を80質量部以上、より好ましくは90質量部以上とすることが推奨される。製造方法については後述する。
本発明の無機微粒子の分散体は、上記分散状態が維持されていることが必要であるが、その分散媒は、上記無機微粒子を安定に分散させ得る限り、特に限定されない。また、分散媒としては、有機溶媒のような常温(例えば20℃)で液状の物質以外に、固体の物質(例えば、高分子量の樹脂を含む樹脂組成物等)も採用可能である。後述するように、無機微粒子を製造する(加水分解縮合)工程を、例えば常温で固体の分散媒存在下で行う場合には、適宜、溶剤で分散媒を希釈してから、無機微粒子の製造工程を行い、その後、必要により、希釈用溶剤を揮発させればよいからである。
分散媒として有機溶媒を用いる場合、その具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、n−オクタノール、n−デカノール、n−ドデカノール等の脂肪族アルコール類;フェノール、フェニルエチルアルコール等の芳香族アルコール類;n−ヒドロキシエチルピロリドン等の複素環を有するアルコール類;ペンタフルオロエタノール等のハロゲン原子を有するアルキルアルコール類;ペンタフルオロフェノール等のハロゲン原子を有するアリールアルコール類等;(ジ)エチレングリコールモノメチルエーテル、(ジ)エチレングリコールモノエチルエーテル、(ジ)エチレングリコールモノブチルエーテル、(ジ)プロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールのモノエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール等のポリオール類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。有機溶媒を分散媒とした分散体は、さらに樹脂成分を溶解させることで、塗料や接着剤等として用いることができる。
一方、成形可能な樹脂組成物を分散媒とした分散体も本発明の好ましい実施態様である。このような分散体を成形すると、無機微粒子が微分散された樹脂成形体(ナノコンポジット)を得ることができる。分散媒が樹脂組成物の場合、無機微粒子が上記した分布状態を維持したまま樹脂中に分散していて、成形(または硬化)後もその分散状態を保つため、得られる成形体(または硬化体)は、前記した理由で優れた耐吸湿性を有する上に、無機微粒子とのナノコンポジット化の効果、すなわち、優れた難燃性および力学的特性を有するものとなるのである。樹脂組成物としては、成形可能(有形固化物を作り得る)なものであれば特に限定されず、フェノール系、エポキシ系、不飽和ポリエステル系等の熱硬化性樹脂組成物、(メタ)アクリル系、ABS、ポリオレフィン系、ポリアミド系、飽和ポリエステル系等の熱可塑性樹脂組成物等、公知の樹脂組成物を用いることができる。なお、本発明において「樹脂組成物」とは、樹脂成形体(硬化体)を成形するための原料であり、通常、樹脂と、各種添加物を含む混合物(組成物)であるが、本発明では、説明の便宜上、樹脂のみの場合も樹脂組成物と呼ぶ。また、成形体とは硬化体を含む概念であって、常温では不変な形状を有する物体を指し、硬化体とは、成形体のうち、化学的硬化反応を伴って成形された物品を指すものとする。なお、以下の説明では、成形体と硬化体とを総称して、成形・硬化体と呼ぶ。
成形・硬化体において耐吸湿性と難燃性をハイレベルで両立させることができたという本発明のメリットを充分活用するためには、分散媒として、半導体封止材料や配線板用絶縁材料用に調製された樹脂組成物を利用することが望ましい。従って、電気絶縁性に優れた樹脂を主成分として含む樹脂組成物を利用することが好ましく、このような樹脂としては、フェノール系やエポキシ系の熱硬化性樹脂が適している。なお、これらの樹脂組成物の場合はもとより、これら以外の前記樹脂組成物についても、半導体封止材料や配線板用絶縁材料以外の用途に適用しても構わない。
本発明で、分散媒である樹脂組成物の必須成分の樹脂として特に好適に用いることのできるものは、高分子量化された多価フェノール類である。この多価フェノール類には、フェノールの重縮合体であるレゾール型あるいはノボラック型のフェノール樹脂が含まれるが、より広い概念の化合物群を意味する。具体的には、フェノール性水酸基を少なくとも1つ有する芳香族骨格の2つ以上が、炭素数が2以上の有機基を介して結合されてなる構造を有する多価フェノール類を指す。
上記多価フェノール類は、芳香族骨格を必須の構造とすること等によりSP2型電子軌道を多量に含有していることから、高熱時の熱分解が生じ難い構造となり、難燃性に優れている。そして、フェノール性水酸基を少なくとも1つ有する芳香族骨格同士を結合するための「炭素数が2以上の有機基」が、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族骨格や、ノルボルネン等の多環型脂環式骨格等を含むものであると、難燃性・耐熱性は一層高まるため好ましい。
上記の多価フェノール類は、フェノール性水酸基を少なくとも1つ有する芳香族骨格部分を形成するための化合物(以下、「芳香族骨格形成化合物」と称す)と、炭素数が2以上の有機基部分を形成するための化合物(以下、「有機基形成化合物」と称す)とを必須成分とする反応原料を用いて製造できる。
上記の芳香族骨格形成化合物としては、芳香族環に1または2以上のフェノール性水酸基を有する化合物であればよく、さらに水酸基以外の置換基を有していてもよい。具体的には、フェノール;o,m,またはp−クレゾール、混合クレゾール、o,またはp−エチルフェノール、p−n−プロピルフェノール、o,またはp−イソプロピルフェノール、混合イソプロピルフェノール、o−sec−ブチルフェノール、m,またはp−tert−ブチルフェノール、ペンチルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−ヒドロキシエチルフェノール等のモノアルキル置換フェノール;2,3−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、3,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、2,4−ジ−sec−ブチルフェノール、2,6−ジ−sec−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、3−メチル−5−イソプロピルフェノール、3−メチル−6−イソプロピルフェノール、2−tert−ブチル−4−メチルフェノール、3−メチル−6−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4−エチルフェノール等のジアルキル置換フェノール;カテコール、レゾルシン、ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF等のフェノール性水酸基を2以上有する化合物;フェニルフェノール、α−ナフトール、β−ナフトール等の多環式の芳香族骨格にフェノール性水酸基を有する化合物等が挙げられる。中でも、フェノール、o,m,またはp−クレゾール、カテコール、フェニルフェノール、β−ナフトール等が好適に用いられる。これらは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
一方、有機基形成化合物としては、例えば、以下の(i)〜(iv)の活性基または活性部位を有する化合物、すなわち、(i)α−ヒドロキシアルキル基、α−アルコキシアルキル基、およびα−アセトキシアルキル基のいずれかを有する芳香族系化合物;(ii)不飽和結合を有する化合物;(iii)アルデヒド、ケトン等のカルボニル基を有する化合物;(iv)α−ヒドロキシアルキル基、α−アルコキシアルキル基、α−アセトキシアルキル基、不飽和結合およびカルボニル基のうちのいずれか2種以上を有する化合物等が好ましく用いられる。
上記(i)の化合物としては、mまたはp−キシリレングリコール、mまたはp−キシリレングリコールジメチルエーテル、mまたはp−ジアセトキシメチルベンゼン、p−ジヒドロキシイソプロピルベンゼン、p−ジメトキシイソプロピルベンゼン、p−ジアセトキシイソプロピルベンゼン、トリヒドロキシメチルベンゼン、トリヒドロキシイソプロピルベンゼン、トリメトキシメチルベンゼン、トリメトキシイソプロピルベンゼン、4,4’−ヒドロキシメチルビフェニル、4,4’−メトキシメチルビフェニル、4,4’−アセトキシメチルビフェニル、3,3’−ヒドロキシメチルビフェニル、3,3’−メトキシメチルビフェニル、3,3’−アセトキシメチルビフェニル、4,4’−ヒドロキシイソプロピルビフェニル、4,4’−メトキシイソプロピルビフェニル、4,4’−アセトキシイソプロピルビフェニル、3,3’−ヒドロキシイソプロピルビフェニル、3,3’−メトキシイソプロピルビフェニル、3,3’−アセトキシイソプロピルビフェニル、2,5−ヒドロキシメチルナフタレン、2,5−メトキシメチルナフタレン、2,5−アセトキシメチルナフタレン、2,6−ヒドロキシメチルナフタレン、2,6−メトキシメチルナフタレン、2,6−アセトキシメチルナフタレン、2,5−ヒドロキシイソプロピルナフタレン、2,5−メトキシイソプロピルナフタレン、2,5−アセトキシイソプロピルナフタレン、2,6−ヒドロキシイソプロピルナフタレン、2,6−メトキシイソプロピルナフタレン、2,6−アセトキシイソプロピルナフタレン等が好適なものとして例示できる。
上記(ii)の化合物としては、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、トリビニルベンゼン、トリイソプロペニルベンゼン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、テルペン等が好適なものとして挙げられる。
上記(iii)の化合物としては、炭素数15以下の各種アルデヒド類またはケトン類が好適であり、例えば、ホルムアルデヒド(水溶液であるホルマリン)、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、パルミトアルデヒド、ステアリルアルデヒド、グリコールアルデヒド、ラクトアルデヒド、グリセルアルデヒド、ピルブアルデヒド、アセトアセトアルデヒド等の飽和脂肪族(モノ)アルデヒド類;(メタ)アクリルアルデヒド、クロトンアルデヒド、プロピオルアルデヒド、オレアルデヒド等の不飽和脂肪族(モノ)アルデヒド類;ベンズアルデヒド、o−ヒドロキシフェニルアルデヒド、p−ヒドロキシフェニルアルデヒド、1−ナフトアルデヒド、2−ナフトアルデヒド、ニコチンアルデヒド、イソニコチンアルデヒド、2−フルアルデヒド、3−フルアルデヒド、シンナムアルデヒド、ベンジルアルデヒド、アントラニルアルデヒド等の芳香族(モノ)アルデヒド類;グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジプアルデヒド、スベルアルデヒド、シクロヘキサンジアルデヒド、トリシクロデカンジアルデヒド、ノルボルナンジアルデヒド、タルタルアルデヒド、マレアルデヒド、フマルアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のジアルデヒド類;シトルアルデヒド、エチレンジアミンテトラアセトアルデヒド等の多官能アルデヒド類;オクタナール、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、グリオキザール等のケトン類等が挙げられる。
上記(iv)の化合物において、カルボニル基と不飽和結合を有する化合物としては、イソプロペニルベンズアルデヒド、イソプロペニルアセトフェノン、シトロネラール、シトラール、ペリルアルデヒド等が好適である。また、α−ヒドロキシアルキル基またはα−アルコキシアルキル基と、不飽和結合とを有する化合物としては、ジヒドロキシメチルスチレン、ジヒドロキシメチルα−メチルスチレン、ジメトキシメチルスチレン、ジメトキシメチルα−メチルスチレン、ヒドロキシメチルジビニルベンゼン、ヒドロキシメチルジイソプロピルベンゼン、メトキシメチルジビニルベンゼン、メトキシメチルジイソプロピルベンゼン等が好適である。
上記反応原料としては、芳香族骨格形成化合物(以下、「原料a」ともいう)と、上記(i)〜(iv)の化合物のうち、少なくとも1種を有機基形成化合物(以下、「原料b」ともいう)とを必須成分とすればよい。
また、上記多価フェノール類を形成するための反応原料は、原料aと原料bとを必須成分とする他に、例えば、アミノ基、ヒドロキシアルキルアミノ基、またはジ(ヒドロキシアルキル)アミノ基を有する化合物(v)(以下、「原料c」ともいう)を含んでいてもよい(なお、上記多価フェノール類は、上記重縮合体とは異なる構造を有する物であるため、上記重縮合体が形成され得るような反応原料の組合せは除く)。
上記(v)の化合物としては、メラミン、ジヒドロキシメチルメラミン、トリヒドロキシメチルメラミン、アセトグアナミン、ジヒドロキシメチルアセトグアナミン、テトラヒドロキシメチルアセトグアナミン、ベンゾグアナミン、ジヒドロキシメチルベンゾグアナミン、テトラヒドロキシメチルベンゾグアナミン等のトリアジン類;尿素、ジヒドロキシメチル尿素、テトラヒドロキシメチル尿素等の尿素およびその誘導体;エチレンジアミン、ジヒドロキシメチルエチレンジアミン、テトラヒドロキシメチルエチレンジアミン、ヘキサエチレンジアミン、ジヒドロキシメチルヘキサエチレンジアミン、テトラヒドロキシメチルヘキサエチレンジアミン、mまたはp−キシリレンジアミン、mまたはp−ジヒドロキシメチルアミノベンゼン等のアミン類;4,4’−オキシジアニリン、4,4’−オキシジヒドロキシメチルアニリン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンジヒドロキシメチルアニリン等のアニリン類が好ましい。これらの中でも、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン等のトリアジン類が特に好適である。
この場合の反応原料の反応順序としては、原料aと原料bとの反応が完了する前に原料cを反応させることが好ましく、例えば、原料aと原料bと原料cとを同時に反応させるか、一段階目に原料aと原料cを反応させ、その後二段階目に原料bを反応させることが推奨される。これにより、多価フェノール類の難燃性を向上させることができ、また電子材料等の成形材料や接着剤、塗料等に好適なものとすることができる。
上記多価フェノール類の製造時に用いる原料aと原料b(および原料c)との配合モル比は、原料a/原料b(原料cを含む)=1/1〜10/1とすることが好ましい。原料a量が少な過ぎるとゲル化の虞があり、多過ぎると多価フェノール類の難燃性が低下する虞がある。さらに高温下での強度確保を考慮すると、原料a/原料b(原料cを含む)=1.3/1〜8/1とすることがより好ましい。さらに好ましくは、原料a/原料b(原料cを含む)=1.8/1〜5/1である。
上記多価フェノール類の製造においては、上記反応原料を触媒の存在下で反応させることが望ましい。触媒としては、上記反応原料の反応を好適に進め得るものであればよい。原料bの反応に用いる触媒としては、酸触媒が挙げられる。具体的には、塩酸、硫酸,リン酸等の無機酸;p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機スルホン酸;の他、三フッ化ホウ素若しくはその錯体;ヘテロポリ酸等の超強酸;活性白土;剛性ゼオライト;スルホン酸型イオン交換樹脂;パーフルオロアルカンスルホン酸型イオン交換樹脂等の固体酸触媒が好ましい。
原料bの反応の際の触媒量としては、それぞれの酸強度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、原料b:100質量部に対して、0.001〜100質量部とすることが好ましい。これらの範囲で均一系となるような好適な触媒としては、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、三フッ化ホウ素等が挙げられる。これらの触媒の使用量としては、原料b:100質量部に対して、0.001〜5質量部とすることがより好ましい。また、不均一系の触媒(例えば、上記例示のイオン交換樹脂や活性白土等)では、その使用量を、原料b:100質量部に対して、1〜100質量部とすることが望ましい。
原料cの反応に用いる触媒としては、塩基性触媒(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物;アンモニア;ジエタノールアミン等の1〜3級アミン類;ヘキサメチレンテトラミン;炭酸ナトリウム;酢酸亜鉛等の2価金属塩;等)や酸触媒(塩酸、硫酸、スルホン酸等の無機酸;蓚酸、酢酸等の有機酸;ルイス酸;等)が好適に用い得る。本発明の分散体を電子材料用等の分野に適用する場合には、金属等の無機物が残存することは好ましくないため、塩基性触媒としてはアミン類が、酸触媒としては有機酸が特に好適である。
また、原料cの反応後に、必要に応じて、中和、水洗して塩類等の不純物を除去することも好ましい。なお、触媒にアミン類を用いた場合には、中和、水洗等の不純物除去は行わないことが望ましい。
上記多価フェノール類は、原料aにおける芳香環上の基と、原料bや原料cにおける活性基とが縮合したり、原料aにおける芳香環に、原料bや原料cが、その活性基または活性部位の作用によって付加することで形成されるが、このような反応の際に、カルボン酸やアルコール、水等が副生することがある。これらの副生物は、反応中や反応後に、減圧下で留去したり、溶媒(反応溶媒を含む)との共沸等の操作を行うことにより、煩雑な工程を必要とすることなく反応生成物から容易に取り除くことができる。なお、ここでいう反応生成物とは、上記多価フェノール類の合成反応を完了させた際の反応系内に含まれる全ての物質の混合物を意味し、目的化合物である多価フェノール類の他、上記副生物、必要に応じて用いられる触媒や反応溶媒等が含まれる。
上記多価フェノール類の合成は、溶媒存在下で行ってもよい。溶媒としては、原料aと原料b(および原料c)との反応に不活性な有機溶媒を用いることが好ましい。例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル;エチレングリコールモノメチルエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。こうした反応溶媒を用いることにより、原料を溶媒中に溶解させて均質化した状態で反応を進めることができる。また、後述する無機微粒子の製造工程(加水分解縮合反応)を、分散媒である多価フェノール存在下で行う場合にも、希釈しておく方が撹拌し易いため、無機微粒子の製造を円滑に行うことができる。なお、原料bを反応させる場合には、無溶媒下で実施することが推奨される。
上記多価フェノール類合成の際の反応条件としては、反応温度を、上記副生物が揮発して留去され得る温度とすることが好ましい。具体的には、100〜240℃とすることが好ましく、110〜180℃とすることがより好ましく、130〜160℃とすることが更に好ましい。このような反応温度を選択すれば、上記副生物を反応生成物から容易に取り除くことができる。また、反応時間は、使用する原料や触媒の種類・量、反応温度等に影響されるが、原料aと原料b(および原料c)の反応が実質的に完結するまで、すなわち、上記副生物の生成が終了するまでとすることが好ましい。具体的には、30分〜24時間とすることが好ましく、1〜12時間とすることがより好ましい。
また、上記多価フェノール類の製造において、反応終了後の反応生成物から上記副生物や反応溶媒を除去する場合には、0.1〜10kPaの減圧下で、多価フェノール類合成の際の反応温度と同様の温度で蒸留することにより、留去させることが望ましい。なお、こうした条件下では、未反応の原料aが留去されることもあるため、かかる操作は、原料aと原料b(および原料c)との反応が完了してから実施することが好ましい。また、後述する無機微粒子の製造工程(加水分解縮合反応)を分散媒である多価フェノール存在下で行う場合には、希釈しておく方が撹拌し易いため、無機微粒子の製造後に上記蒸留工程を行うことが望ましい。
上記原料bのうちの(iii)の化合物として、各種アルデヒド類を用いると、いわゆるフェノール樹脂が得られる。フェノール類とアルデヒド類を、酸触媒の存在下で公知の方法によって反応させるとノボラック型フェノール樹脂となり、アルカリ触媒の存在下で、公知の方法によって反応させるとレゾール型フェノール樹脂となる。これらのフェノール樹脂ももちろん使用可能である。
また、原料aに対し、原料bのうちのアルデヒド類((iii)の化合物)と、原料cのうちのトリアジン類とを反応させて得られる「トリアジン環含有多価フェノール」は、難燃性に優れており、樹脂組成物の成分として好適に用いられる。
本発明で分散媒として用いられる樹脂組成物にはエポキシ樹脂が含まれていてもよい。この場合、得られる成形・硬化体は、エポキシ樹脂マトリックス中に無機微粒子が分散したものとなる。エポキシ樹脂は単独で用いてもよいが、上記多価フェノール類はエポキシ樹脂の硬化剤としても働くため、多価フェノール類とエポキシ樹脂とを含む樹脂組成物を分散媒として利用することが好ましい。また、公知のエポキシ硬化剤を樹脂組成物に添加しておいてもよい。
エポキシ樹脂としては、1分子内に平均2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されず使用可能である。具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類とエピハロヒドリン(エピクロロヒドリン等)との縮合反応によって得られるエピビスタイプのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、ジシクロペンタジエン、テルペン、クマリン、パラキシリレンジメチルエーテル、ジクロロパラキシレン等を縮合反応させて得られる多価フェノールを、さらにエピハロヒドリンと縮合反応させてなるノボラック・アラルキルタイプのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸と、エピハロヒドリンとの縮合反応によって得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;水添ビスフェノールやグリコール類とエピハロヒドリンとの縮合反応によって得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヒンダトインやシアヌール酸とエピハロヒドリンとの縮合反応によって得られる含アミングリシジルエーテルエポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等の芳香族多環式エポキシ樹脂等が好適である。また、これらのエポキシ樹脂と多塩基酸類および/またはビスフェノール類との付加反応によって分子中にエポキシ基を有する化合物であってもよい(以下、この化合物も含めて「エポキシ樹脂」と称する場合がある)。これらは1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
多価フェノール類とエポキシ樹脂とを混合して分散媒とする場合、多価フェノール類/エポキシ樹脂(質量比)=30/70〜70/30であることが好ましく、35/65〜65/35であることがより好ましい。多価フェノール類の混合割合が30を下回ると、難燃性が不十分となるおそれがあり、他方、70を超えると形成される成形・硬化体の機械的物性等が低下するおそれがある。
いずれの分散媒を用いる場合にも、分散媒と無機微粒子の比率は、分散体(分散媒+無機微粒子)を100質量%としたときに、無機微粒子が0.1〜50質量%となるように分散させることが望ましい。より好ましくい下限は0.5質量%、さらに好ましい下限は1.0質量%である。また、より好ましい上限は40質量%、さらに好ましい上限は30質量%である。無機微粒子が多すぎると前記した良好な分散状態を保てないおそれがあり、少ないとナノコンポジット化による難燃性や物性向上効果が不充分となることがあるからである。なお、分散媒が樹脂組成物であり、この樹脂組成物が最終製品である成形・硬化体を得る際に溶剤を含む場合は、上記分散媒にこの溶剤を含めるものとする。
次に、本発明の無機微粒子の分散体の製造方法について説明する。前記したとおり、本発明の無機微粒子は、慣性半径が10nm未満の無機微粒子と、慣性半径が10〜50nmの無機微粒子とが特定比率で分散している必要がある。このような分散状態とするために、以下の製造方法を採用する。
まず、反応容器に分散媒を入れる。分散媒が、常温で固体の樹脂組成物の場合は、前記した分散媒として用いることのできる有機溶媒等で希釈しておく。希釈の目安は、常温(20℃)で1000ポイズ以下になるようにする。より好ましくは500ポイズ以下、さらに好ましくは100ポイズ以下である。なお、この粘度は、B型回転粘度計で測定した値である。反応容器としては撹拌装置を備えたものを用いる。プロペラ、パドル、リボン等の形状の撹拌翼が回転可能に取り付けられた反応容器が代表例として挙げられるが、特に限定されず、他の撹拌装置を備えた反応容器や、あるいは、ミキシングロール・押出機等を用いることもできる。
本発明では、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩は、分散媒またはその希釈物(以下、内液という)の液面近傍から供給し、水は反応容器底面近傍から内液中へ供給する。具体的には、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩導入管は、その出口が内液の液面近傍となるように配設し、水導入管は、その出口が反応容器の底部近傍となるように配設する。ここで、「液面近傍」とは、内液中に没している撹拌翼(複数ある場合は最も液面に近い撹拌翼)から液面までと、液面よりも上側とを指す。反応容器底部近傍にその出口が配設される水導入部と、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩の導入部とを離間させる目的のためには、上記範囲(内液中に没している撹拌翼から液面までと液面よりも上側)に、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩の導入管の出口があればよいからである。このように、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩導入部と水導入部とを離間させることにより、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩と水とが出会うまでの間に水が内液中に微分散もしくは溶解するので、加水分解縮合反応が均一系で行われることとなる。また、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩と水とが出会うまでにある程度の時間がかかるため、反応の進行を適度に遅らせることができ、粒子の巨大化が防げる。これらのことから、前記したような粒径(慣性半径)分布を有する微細な無機微粒子が生成するものと考えられる。よって、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩や水は滴下レベルの速度で供給することが望ましい。
上記アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩の供給量と、水の供給量の最終的な合計は、反応容器内の分散体100質量%(分散媒と無機微粒子との合計を100質量%とする)中、0.2〜50質量%とすることが好ましい。この範囲であれば、粒径分布を本発明の規定範囲内にコントロールしやすいからである。
なお、加水分解縮合反応に際しては、メタノール等の親水性有機溶媒を添加しておくことが望ましい。水が分散媒、特に樹脂組成物となじみにくい場合に、これらの親水性有機溶剤が溶解助剤として働き、水の内液中への微分散または溶解を助ける役割を果たすからである。また、分散媒が常温で高粘度物質や固体物質の場合に、希釈用溶剤にもなり得る。親水性有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;テトラヒドロフラン;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール等のポリオール類;N,N−ジメチルホルムアミド;ピリジン等を用いることができる。また、必要に応じて他の溶媒を混合しても構わない。
分散媒が樹脂組成物の場合も、上記加水分解縮合反応を分散媒である樹脂組成物中で行う。樹脂組成物を合成する場合、例えば、前記した多価フェノール類を合成で得る場合等は、この合成反応を行った後、同じ反応容器で(多価フェノール類の存在下で)、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩の加水分解縮合反応を行ってもよい。簡単に本発明の分散体が得られるからである。樹脂組成物がエポキシ樹脂を含むものである場合には、無機微粒子の合成前に多価フェノール類と混合するか、または無機微粒子を合成した後の分散体にエポキシ樹脂を添加して混合することで、分散体化が可能である。
上記の加水分解および縮合反応の温度は0〜60℃とすることが好ましく、5〜40℃とすることがより好ましい。また、反応時間は30分〜24時間とすることが一般的であり、1〜12時間とすることがより好ましい。分散媒を希釈したときは、0.1〜10kPaの減圧下で、多価フェノール類合成の際の反応温度と同様の温度で蒸留することにより、希釈用溶剤を留去させてもよい。また、流動性を高めるために添加する「溶剤(後述)」を用いて分散媒を希釈したときは、これらを留去する必要はないが、一部留去しても構わない。
本発明の無機微粒子の分散体は、以上の通り、有機溶媒または樹脂組成物といった分散媒中に、アルコキシドおよび/またはカルボン酸金属塩の加水分解縮合によって形成された無機微粒子が分散してなるものである。
分散媒が樹脂組成物の場合には、公知の添加剤、例えば、硬化促進剤、充填材、カップリング剤、難燃剤、可塑剤、反応性希釈剤、顔料等がさらに添加されていてもよい。例えば硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;2、4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルメチルアミン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン)、DCMU[3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素]等のアミン類;トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン等の有機リン化合物;等が好適である。
また、分散媒である樹脂組成物には、流動性を高めるために、溶剤、可塑剤、滑剤が配合されていてもよい。このような溶剤、可塑剤、滑剤としては、例えば、後述のエーテル結合、エステル結合および窒素原子よりなる群から選択される少なくとも1つ以上の構造を有する化合物が好ましい。
上記のエーテル結合を有する化合物としては、例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ペラトロール、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、ジオキサン、トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、シオネール、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、グリセリンエーテル、クラウンエーテル、メチラール、アセタール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、2−フェノキシエタノール、2−(ベンジルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等が好適である。
上記のエステル結合を有する化合物としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、モノブチリン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、酪酸エステル類、イソ酪酸エステル類、イソ吉草酸エステル類、ステアリン酸エステル類、安息香酸エステル類、ケイ皮酸エステル類、アビチエン酸エステル類、アジピン酸エステル類、γ−ブチロラクトン類、シュウ酸エステル類、マロン酸エステル類、マレイン酸エステル類、酒石酸エステル類、クエン酸エステル類、セバシン酸エステル類、フタル酸エステル類、二酢酸エチレン類等が好適である。
上記の窒素原子を含有する化合物としては、例えば、ニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、α−トルニトリル、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン等が好適である。
上記エーテル結合、エステル結合および窒素原子よりなる群から選択される構造を複数有する化合物としては、例えば、N−エチルモルホリン、N−フェニルモルホリン、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、フェノキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等が好適である。
上記のエーテル結合、エステル結合および窒素原子よりなる群から選択される1つ以上の構造を有する化合物を使用する場合は、その使用量としては、上記樹脂組成物のうちこれらの化合物以外の成分100質量部に対して、5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であって、1000質量部以下、より好ましくは300質量部以下とすることが望ましい。
本発明の分散体で、分散媒が樹脂組成物の場合、その代表的な用途としては、半導体封止材料(半導体封止用の封止剤)や、配線板用絶縁材料が挙げられる。上記分散体を半導体封止材料として使用する場合には、吸湿性や線膨張係数の低減、および熱伝導性や強度の向上を目的として、本発明の目的を阻害しない範囲で無機充填剤を配合してもよい。無機充填剤としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ジルコン、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコニア、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、またはこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維等が挙げられる。さらに難燃効果のある無機充填剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の無機充填剤の中でも、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカが、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましく、充填剤形状は、上記分散体により半導体を封止して得られる半導体部品装置成形の際の流動性および金型摩耗性の点から球形が望ましい。
無機充填剤の配合量は、成形性、吸湿性や線膨張係数の低減、および強度向上の観点から、上記分散体の分散媒である樹脂組成物のうち、上記無機充填剤を除く成分100質量部に対し、無機充填剤を70質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上であって、1000質量部以下、より好ましくは950質量部以下であることが推奨される。無機充填剤の配合量が上記範囲を下回ると、耐リフロー性が低下する傾向にあり、上記範囲を超えると、流動性が不足する傾向にある。
また、上記分散体を半導体封止材料として用いるに当たり、さらに難燃剤として、リン化合物を除く従来公知のノンハロゲン、ノンアンチモンを併用することができる。例えば、シアヌル酸誘導体、イソシアヌル酸誘導体等の窒素含有化合物、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化モリブデン、フェロセン等の金属化合物等が挙げられる。
また、IC等の半導体素子の耐湿性、高温放置特性を向上させる観点から、陰イオン交換体を添加することもできる。陰イオン交換体としては特に制限はなく、従来公知のものが使用可能である。例えば、ハイドロタルサイト酸や、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ビスマスといった元素の含水酸化物等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、下記一般式で示されるハイドロタルサイトが好ましい。
Mg1-XAlX(OH)2(CO3)X/2・dH2O
(式中、0<X≦0.5であり、dは正の整数である)。
また、上記分散体を半導体封止材料として用いるに当たり、さらにその他の添加剤として、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン等の離型剤、カーボンブラック等の着色剤、シリコーンオイルやシリコーンゴム粉末等の応力緩和剤を必要に応じて配合することができる。
上記各種添加剤を分散体に配合するときの調製方法としては、各種原材料を均一に分散混合できるのであれば、如何なる方法を採用してもよいが、例えば、所定の配合量の原材料をミキサー等によって十分に混合した後、ミキシングロール、押出機等を用いて溶融混練し、その後、冷却、粉砕する方法等が一般的である。例えば、半導体部品装置の成形条件に合致するような寸法や質量でタブレット化すると取り扱い性が良好となる。
上記分散体により素子を封止して得られる半導体部品装置としては、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウェハ等の支持部材に、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子等の素子を搭載し、必要な部分を前記分散体で封止した半導体部品装置等が挙げられる。このような半導体部品装置としては、例えば、リードフレーム上に半導体素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部をワイヤボンディングやバンプで接続した後、上記分散体を用いて封止してなるDIP(DualInline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(QuadFlat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outline J−lead Package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(ThinQuad Flat Package)等の一般的な樹脂封止型IC;テープキャリアにバンプで接続した半導体チップを、上記分散体で封止したTCP(Tape Carrier Package);配線板やガラス上に形成した配線に、ワイヤボンディング、フリップチップボンディング、半田等で接続した半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子および/またはコンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子をで封止したCOB(Chip On Boad)モジュール、ハイブリッドIC、マルチチップモジュール;裏面に配線板接続用の端子を形成した有機基板の表面に素子を搭載し、バンプまたはワイヤボンディングにより素子と有機基板に形成された配線を接続した後、上記分散体で素子を封止したBGA(Ball GridArray)、CSP(Chip Size Package);等が挙げられる。
上記分散体を用いて素子を封止する方法としては、低圧トランスファー成形が最も一般的であるが、インジェクション成形法、圧縮成形法等を用いてもよい。
また、上記分散体を配線板用絶縁材料に使用する際に、例えば、前記したエーテル結合、エステル結合および窒素原子よりなる群から選択される1つ以上の構造を有する化合物を配合して、良好な流動性を確保してからインキや塗料、ワニス等として用い、その後該化合物を減圧下および/または加熱時の乾燥によって除去して、電気配線用基板を形成してもよい。インクや塗料等の乾燥条件としては、採用したエーテル結合、エステル結合および窒素原子よりなる群から選択される1つ以上の構造を有する化合物の蒸気圧や沸点等により適宜調整すればよい。
さらにワニスとして被含浸体に含浸させて用いる場合には、被含浸体として繊維状の補強材を用いることができる。上記補強材としては、公知の強化材を使用することができ、例えば、N、NE、S、T、Dの各タイプガラスのガラス繊維から構成される織布または不織布、および石英等の無機材料、並びに有機材料を使用することができる。例えば無機材料の場合、これらはガラスロービング布、ガラス布、チョップドガラス、中空ガラス繊維、ガラスマット、ガラス表面マット、およびガラス不織布;セラミック繊維生地(織物等);金属繊維生地;炭素繊維生地等の形態とすることができる。
加えて、例えば、繊維を形成することが可能な有機高分子を始めとする合成有機強化用充填材(強化用有機繊維)を使用することもできる。このような強化用有機繊維の代表例としては、例えば、ポリエーテルケトン、ポリイミドベンゾオキサゾール、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドまたはポリエーテルイミド、アクリル樹脂、およびポリビニルアルコール等が挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレンの如きフルオロポリマーを用いてもよい。
さらに、上記強化材としては、公知の天然有機繊維、例えば、綿布、麻布、フェルト、クラフト紙やコットン紙のような天然セルロース生地等が挙げられる。また、ガラス繊維含有紙のように無機材料と有機材料を複合したものを用いてもよい。
繊維状の強化材は、モノフィラメントまたはマルチフィラメントの形態で使用でき、単独または他の種類の強化材と組み合わせて、例えば共製織(co−weaving)、コア/シェル、並列配置(side−by−side)、オレンジタイプ(orange−type)、またはマトリックスおよびフィブリル組織形成(construction)等、公知の各種形態で使用することができる。
また、ビルドアップタイプやコンポジット積層板、ガラスエポキシ積層板、アラミドエポキシ積層板、金属ベース配線基板等の片面、両面、多層からなる各種積層板タイプの配線板(電気配線用基板)にも、上記分散体を有効に用いることができる。
なお、上記分散体を半導体封止材料や配線板用絶縁材料として用いる場合に好適なものとして例示した各種添加剤は、該分散体を他の用途に用いる場合にも、適宜用いることができる。
なお、上記分散体から成形・硬化体を製造する場合、得られる本発明の成形・硬化体は、UL−94規格難燃性試験による難燃性がV−2以上であることが好ましく、V−1以上であることがより好ましい。UL−94規格難燃性試験による難燃性がV−2以上であれば、例えば電子材料分野で要求される難燃性を十分に満足することができる。本発明の成形・硬化体であれば、上記難燃性を達成できる。
以上のように、本発明の分散体は、建材、各種ハウジング材、積層板、ビルドアップタイプの配線基板、封止剤(例えば、半導体用封止剤)、注型材等、あるいは機械部品、電子・電気部品、車両、船舶、航空機等に用いられる成形・硬化体材料、または接着剤や電気絶縁塗料の製造原料等に好適である。よって、本発明の成形・硬化体は、それ自身からなる成形・硬化体としての態様の他、例えば半導体を含む半導体部品装置の封止部分や、電気配線用基板の絶縁塗膜等のように、他の部材と結合した態様等、様々な態様を取り得る。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、本実施例において、「部」および「%」は、特に断らない限り、質量基準である。また、物性の評価方法は下記の通りである。
[熱軟化温度]
熱軟化温度は、JIS K 6910の規定に準じて測定した。
[フェノール性水酸基当量]
フェノール性水酸基当量は、JIS K 0070の規定に準じて測定した。
[無機微粒子含量]
計量した分散体をるつぼに入れ、焼成炉で、800℃×1時間、空気流通下の条件で燃焼して得られた残渣を無機微粒子として、その質量を測定することにより求めた。
[分散体中の無機微粒子の慣性半径および分布状態]
各合成例で得られた分散体を乳鉢で粉砕し、300メッシュの篩を透過したものを1mmφの石英硝子製キャピラリーに振動を与えながら充填し、測定試料とした。X線小角散乱スペクトル測定には、理学電気社製のX線回折装置「RINT−2400」を用い、多層膜ミラーモノクロメーターを通して入射X線を単色化し、さらに3個のスリットを通した後、サンプル(上記キャピラリー)に照射し、真空パスを通してカメラ長250mmに設置したシンチレーションカウンターで散乱X線を検出した。詳細条件は以下の通りである。
・使用X線:CuKα
・管電圧、管電流:40kV、200mA
・操作方法:Fixed time法
・測定方法:透過法(2θ単独走査)
・走査範囲2θ、ステップ間隔:0.1〜5.0deg、0.01deg
・計数時間:5.0秒
また、測定により得られた散乱プロファイルから、Fankuchenの方法によりギニエプロットを作成して慣性半径を算出した後、粒子の幾何学形状を球と仮定して粒径分布(慣性半径)を求めた。
合成例1
ガスインレット、ディーンスタークトラップ、撹拌棒付きの4つ口フラスコに、p−キシリレングリコール302.6部、フェノール687.0部、p−トルエンスルホン酸12.6部を仕込み、窒素気流中で昇温を開始した。115℃付近から水が生成し始めたので、トラップで水を捕集しながら150℃まで昇温し、6時間保持した。水を79部回収したところで水の生成が終了したので、20℃まで冷却し、メタノールを176部投入した。p−キシリレングリコールとフェノールとからなる多価フェノールが得られた。
次に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)チューブを2本用意し、1本はフラスコ底部まで差し込み、もう1本は出口が液面より上へ来るようにセットした。フラスコの内温を20℃に保ちながら、テトラメトキシシラン333.4部をフラスコ上部のチューブから、また水98.6部をフラスコ底部のチューブから、それぞれフラスコ内へと投入した。投入にはローラーポンプを用い、4時間かけて投入した。その後、さらに60℃で4時間保持した。次いで、窒素気流下で昇温を開始し、80℃付近から留去し始めた未反応の水とメタノールをトラップに捕集しながら180℃まで撹拌を続けた。反応終了後、減圧下で未反応のフェノールを留去し、その後冷却した。乳白色固形の分散体Aが得られた。収量は662部であった。得られた分散体Aについて、物性を評価し、結果を表1に示した。
合成例2
ガスインレット、ディーンスタークトラップ、撹拌棒付きの4つ口フラスコに、フェノール432.9部、ベンゾグアナミン172.2部、37%ホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)164.3部を仕込み、窒素気流中で70℃で撹拌した。白濁溶液となったが、ジエタノールアミン14.5部を添加し、4時間撹拌し続けたところ、反応液が透明になったので、反応液の昇温を再開した。100℃付近から留去し始めた水をトラップに捕集しながら180℃まで昇温し、4時間保持した。水を160部回収したところで水の生成が終了したので、10℃まで冷却した後、メタノール103部を投入した。トリアジン環含有多価フェノールが得られた。
次に、合成例1のように2本のPTFEチューブを、それぞれの出口がフラスコ底部と、液面の上へ来るようにセットした。フラスコの内温を10℃に保ちながら、テトラメトキシシラン210.1部をフラスコ上部のチューブから、また水64.4部をフラスコ底部のチューブから、それぞれフラスコ内へと投入した。投入にはローラーポンプを用い、4時間かけて投入した。その後、さらに60℃で4時間保持した。次いで、窒素気流下で昇温を開始し、80℃付近から留去し始めた未反応の水とメタノールをトラップに捕集しながら180℃まで撹拌を続けた。反応終了後、減圧下で未反応のフェノールを留去し、その後冷却した。乳白色固形の分散体Bが得られた。収量は493部であった。得られた分散体Bについて、合成例1と同様に物性を評価した。結果を表1に示す。
合成例3
合成例2と全く同様にして、トリアジン環含有多価フェノールを得た。その後、合成例1および2と同様に2本のPTFEチューブを、それぞれの出口がフラスコ底部と液面の上へ来るようにセットした。フラスコの内温を10℃に保ちながら、テトラメトキシシラン208.0部と、ジ−s−ブトキシドエチルアセトアセテートアルミニウム4.17部との混合物をフラスコ上部のチューブから、また水64.4部をフラスコ底部のチューブから、それぞれフラスコ内へと投入した。以後は、合成例2と同様にして乳白色固形の分散体Cを得た。収量は498部であった。得られた分散体Cについて、合成例1と同様に物性を評価した。結果を表1に示す。
合成例4
合成例2と全く同様にして、トリアジン環含有多価フェノールを得た。その後、合成例1および2と同様に2本のPTFEチューブを、それぞれの出口がフラスコ底部と液面の上へ来るようにセットした。フラスコの内温を10℃に保ちながら、テトラメトキシシラン208.0部と、酢酸亜鉛2水和物3.03部との混合物をフラスコ上部のチューブから、また水64.4部をフラスコ底部のチューブから、それぞれフラスコ内へと投入した。以後は、合成例2と同様にして乳白色固形の分散体Dを得た。収量は490部であった。得られた分散体Dについて、合成例1と同様に物性を評価した。結果を表1に示す。
比較合成例1
ガスインレット、ディーンスタークトラップ、撹拌棒付きの4つ口フラスコに、p−キシリレングリコール302.6部、フェノール687.0部、p−トルエンスルホン酸12.6部を仕込み、窒素気流中で昇温を開始した。115℃付近から水が生成し始めたので、トラップで水を捕集しながら150℃まで昇温し、6時間保持した。水を79部回収したところで水の生成が終了したので、60℃まで冷却し、メタノールを176部投入した。p−キシリレングリコールとフェノールとからなる多価フェノールが得られた。
次に、PTFEチューブを2本とも出口が液面の上へ来るようにセットした。フラスコの内温を60℃に保ちながら、テトラメトキシシラン333.4部と水157.8部をフラスコ上部の別々のチューブからフラスコ内の液面上部へ投入した。投入にはローラーポンプを用い、4時間かけて投入した。その後、さらに60℃で4時間保持した。次いで、窒素気流下で昇温を開始し、80℃付近から留去し始めた未反応の水とメタノールをトラップに捕集しながら180℃まで撹拌を続けた。反応終了後、減圧下で未反応のフェノールを留去し、その後冷却した。乳白色固形の比較用分散体Eが得られた。収量は619部であった。得られた分散体Eについて、合成例1と同様に物性を評価した。結果を表1に示す。
比較合成例2
ガスインレット、ディーンスタークトラップ、撹拌棒付きの4つ口フラスコに、フェノール216.5部、ベンゾグアナミン86.1部、37%ホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)82.2部を仕込み、窒素気流中で70℃で撹拌した。白濁溶液となったが、ジエタノールアミン7.3部を添加し、4時間撹拌し続けたところ反応液が透明になったので、反応液の昇温を再開した。100℃付近から留去し始めた水をトラップに捕集しながら180℃まで昇温し、4時間保持した。水を80部回収したところで水の生成が終了したので、減圧下で未反応フェノールを留去し、312部の不揮発性成分を得た。
次に、別途4つ口フラスコを用意し、PTFEチューブ1本をその出口が4つ口フラスコの上部へ来るようにセットした。このフラスコ内へ、上記不揮発性成分188.9部とメタノール66部を仕込み、フラスコの内温を10℃に保ちながら、テトラメトキシシラン129.5部、メタノール60部、水55.7部の混合液を上記チューブからフラスコ内へと投入した。投入にはローラーポンプを用い、4時間かけて投入した。投入後、直ぐに、得られた分散体を正常なガラス板の上に塗布し、25℃で7時間乾燥し、さらに170℃まで2℃/分で昇温した後170℃で30分保持した。これを冷却することで、乳白色固形の分散体Fが得られた。収量は230部であった。得られた分散体Fについて、合成例1と同様に物性を評価した。結果を表1に示す。
比較合成例3
粒度1mm以下に粗粉砕した金属シリコン粗粒とバインダとしてポリエチレングリコールを7:3の質量比で混合して、50mmφの丸棒状に圧縮成形した。この丸棒を、高周波誘導炉の消費アノード電極として取付け、油回転真空ポンプ・ターボ分子ポンプを用いて1Pa以下に減圧した後、炉(チャンバー)内にアルゴンガスを供給しながら内圧を10Paに調製した。電極間に直流電源から通電し、プラズマアークを発生させることにより、消費アノード電極のシリコンをプラズマ化して、炉内残存の酸素で酸化させ、その後冷却する、というサイクルを適宜繰り返すことで、60部のシリカ微粒子を得た。
次に撹拌棒付きの4つ口フラスコに、合成例2で得られたトリアジン環含有多価フェノール150部を仕込み、180℃まで昇温して溶融させた。ここへ上記シリカ微粒子60部を添加して、0.15Pa以下(20mmHg以下)の減圧下、2時間撹拌し、冷却して乳白色固形の分散体Gを得た。収量は230部であった。得られた分散体Gについて、合成例1と同様に物性を評価した。結果を表1に示す。
表1に示す通り、分散体A〜Dは、慣性半径50nm以下の無機微粒子が本発明の要件を満足するように分散しており、他方、分散体EやGでは、50nmを超える粒子が存在し、分散体Fでは慣性半径10nm以下の超微細な粒子が多量に存在していた。
実験例(硬化体製造用分散体の製造および評価)
表2に示した配合比で、分散体A〜F、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂(商品名「YD−127」:エポキシ当量185g/mol:東都化成社製)、硬化促進剤トリフェニルホスフィンとを、110℃でバッチ混練して均一な混合物(硬化体製造用分散体)とした。この混合物を、厚み20μmになるように銅箔上に塗布して硬化させ、電子顕微鏡(SEM)にて無機微粒子の分散状態の評価用サンプルとした。また、上記硬化体製造用分散体を平板用金型に充填し、180℃、1×10-4Pa(10kgf/cm2)の加圧下で2時間硬化させ、平板状の硬化体サンプルを得た。各評価方法は以下の通りである。各評価結果を表2に併記した。
[無機微粒子の分散性]
上記分散状態評価用サンプルを電子顕微鏡で観察し、凝集物の存在や無機微粒子の局在化による海島状のモルフォロジーが観察された場合は×、これらが観察されず観察面全面に無機微粒子が均一に分散されている場合は○とした。
[耐湿性]
平板状硬化体サンプルを、プレッシャークッカーにより、121℃、飽和水蒸気下、0.2MPaで加圧するという環境に100時間曝し、サンプルの質量増加率(%)を求めた。
[ガラス転移温度(Tg)]
上記耐湿性の評価と同様にして、平板状硬化体サンプルを、121℃、飽和水蒸気下、0.2MPaで加圧するという環境に100時間曝した。このサンプルについて、TMA(熱機械分析)法により、Tgと、ガラス領域における線膨張率(α1)と、ゴム領域での線膨張率(α2)を測定した。TMA法による測定は、装置に島津製作所社製「TMA50」を用い、圧縮モードで行った。測定条件は、荷重:0.1g、昇温速度:5℃/min、測定温度:20〜200℃とした。
[難燃性]
平板状硬化体サンプルについて、UL法によって、UL−94難燃性を調べた。
表2から、本発明の分散体を用いた実施例1〜4では、吸湿性が低いことがわかる。また、Tgの向上と低線膨張率化、さらには難燃性に優れていることも確認できた。無機微粒子の一次粒子径を50nm以下に制御し、10nm未満の超微細粒子の比率を限定したことによって、熱的性質や耐湿性が改善されたと考えられる。しかし、粒径の大きな無機微粒子を含む分散体を用いた比較例1および3では、耐吸湿性に劣っており、Tgや膨張率も実施例に比べると低レベルである。また、超微細粒子が多く含まれていた分散体を用いた比較例2では、粒子が微細すぎて、複合化効果が発現しなかったと考えられる。