本発明者らは、有機EL装置の寿命を大幅に向上させるためには、より長寿命のデバイスを目指して研究開発を行うとともに、劣化の真因に踏み込んで技術を検討することが必要である、という強い信念により鋭意検討を重ねた。その結果、以下に説明するように、高分子型有機EL装置の劣化(輝度の低下)は、可動物質の移動によって生じるという新事実をつかむことができた。なお、本明細書では、「可動物質」とは、有機層のうち少なくとも1層(以下、「可動物質含有層」という。)に含有され、他の層や電極に移動可能な物質を意味し、可動化合物、可動イオン、可動原子などを広く含むものとする。可動物質の移動方向は、可動物質の極性などによって異なる。すなわち、可動物質のある種のものは陰極へ、またある種のものは陽極へ移動しやすい性質を有する。「可動物質含有層」(例えばホール輸送層、電子輸送層および/または発光層)は、その層が形成された初期状態において、1種または2種以上の可動物質を含んでいる。可動物質としては、その層が形成された初期状態において、不純物として含有されているもの、エージングにより(デバイスに電流を通電することにより)、有機EL装置を構成している物質が分解して可動物質として働くもの等がある。例えば、PEDOT−PSSを用いて形成された可動物質含有層における可動物質は、PEDOT、PSS、硫黄化合物、硫黄原子、硫黄イオンのいずれか1つまたは2以上を含み得る。
有機EL装置では、ホール輸送層、電子輸送層または発光層に含有された可動物質は、発光層を発光させるために印加した電圧(>3V)で電場(>2×105V/cm)が生じることにより、または有機EL装置が形成された時に可動物質が含有されていた層(以下「可動物質含有層」ということがある)よりも電気化学的により強い結合力を有する層が存在することにより、電極(陰極または陽極)に向かって移動する。また、可動物質の濃度勾配においても可動物質は、電極(陰極または陽極)に向かって移動し、また、電極間に印加された電場によっても可動物質は、電極(陰極または陽極)に向かって移動する。可動物質が電極に達すると、可動物質の層、可動物質は電極と電気化学的に結合した層、電極と反応することにより新たな化合物を生成した層が生成するので、陽極から発光層に注入されるホールの数や陰極から発光層へ注入される電子の数は低減する、または、励起子がトラップされる。そのため、有機EL装置の輝度が大幅に低下する。また、可動物質が電極に向かう移動中であっても、可動物質と、発光層に注入されるべき電子またはホールとが結合したり、反応したりすることによって、発光層に注入される電子やホールの数が低減する場合もある。また、例えば、上記のITO/PEDOT−PSS/発光層/陰極という一般的な構成を有する高分子型有機EL装置において、PEDOT−PSSに含まれる硫黄イオン(可動イオン)は、発光時間とともに陰極側に移動する。これらの可動イオンは、キャリアの新たなトラップサイトとなったり、消光サイトを形成したりし、発光層の輝度を低下させると考えることができる。
上述したような可動物質の問題は、青色の高分子発光材料を含む発光層を有する高分子型有機EL装置(有機LED素子、有機EL表示装置などを広く含む)において特に顕著である。すなわち、青色高分子発光材料を用いた有機EL装置は、一般的に、他の色の高分子発光材料を用いた有機EL装置と比べて寿命が短い。この理由を以下に説明する。青色高分子発光材料は、他の色の高分子発光材料と比べて、かさ高い置換基を有しているため、青色高分子発光材料を含む発光層のパッキング密度は、他の色の高分子発光材料を含む発光層のパッキング密度よりも低くなる。従って、可動物質は、青色高分子発光材料を含む発光層中を移動し易くなる。その結果、例えば、ホール輸送層に含まれる陰極と反応(または結合)しやすい可動物質、また、電気的にプラスに帯電している可動物質は、発光層を超えて、陰極から発光層に注入される電子の経路や陰極まで移動しやすくなり、同様に、電子輸送層に含まれる陽極と反応(結合)しやすい可動物質は、また、電気的にマイナスに帯電している可動物質は、発光層を超えて、陽極から発光層に注入されるホールの経路や陽極まで移動しやすくなるからである。
本発明は、可動物質の移動によって劣化現象(輝度の低下)が引き起こされるという新事実の発見に基づいてなされたものである。具体的には、本発明では、有機EL装置に可動イオンなどの可動物質の移動を抑制する層(以下、「防止層」と呼ぶ)を挿入することによって、上記可動物質の問題の解決を図っている。以下に、本発明による有機EL装置の実施形態を詳述する。
本実施形態の有機EL装置は、陽極と、陰極と、発光層を含む有機層と、少なくとも1つの防止層とを有している。有機層は、陽極および陰極の間に配置されており、1層であってもよいし、積層構造を有していてもよい。有機層は、発光層の他にホール輸送層および/または電子輸送層などの電荷輸送注入層を含んでいてもよい。有機層の少なくとも1層(可動物質含有層)は、その層が形成された初期状態において、可動イオン、可動化合物、可動原子などの可動物質を有している。可動物質含有層は、有機層を構成するいずれの層でもよく、例えばホール輸送層、電子輸送層、発光層などであってもよい。防止層は、可動物質が可動物質含有層から電極方向に移動することを抑制する機能を有する。そのような防止層は、陽極と発光層との間に設けられていてもよいし(第1防止層)、発光層と陰極との間に設けられていてもよい(第2防止層)。また、それらの両方に設けられていてもよい。
本実施形態の有機EL装置は、可動物資が陰極や陽極に向かう移動経路に、その移動を抑制する防止層を設けるので、可動物質に起因する有機EL装置の劣化を抑制でき、その結果、有機EL装置の寿命を格段に向上させることが可能となる。
有機層がホール輸送層を有し、ホール輸送層が陰極方向へ移動しやすい可動物質を含有している場合、第1防止層は、ホール輸送層と発光層との間に設けられた防止層を含むことが好ましい。特に、ホール輸送層が陰極方向へ移動しやすい可動物質を含有しているとき、第1防止層がホール輸送層と発光層との間に配置されていれば、このような可動物質の陰極方向への移動を抑制できるので、可動物質が、陰極から有機層へ注入される電子の数に与える影響を小さくでき、または、励起子をクエンチングする影響を小さくできる。第1防止層の代わりに、発光層と陰極との間に第2防止層を有していても同様の効果が得られる。また、第1防止層および第2防止層を両方有していれば、可動物質の移動をより効果的に抑制できる。
有機層がホール輸送層を有し、ホール輸送層が陽極方向へ移動しやすい可動物質を含有している場合、第1防止層は、陽極とホール輸送層との間に設けられた防止層を含むことが好ましい。特に、ホール輸送層が陽極方向へ移動しやすい可動物質を含有しているとき、第1防止層が陽極とホール輸送層との間に配置されていれば、このような可動物質の陽極方向への移動を抑制できるので、可動物質が、陽極から有機層へ注入されるホールの数に与える影響を小さくできる。
一方、有機層が電子輸送層を有し、電子輸送層が陽極方向へ移動しやすい可動物質を含有している場合には、第2防止層は、発光層と電子輸送層との間に設けられた防止層を含むことが好ましい。特に、電子輸送層が陽極方向へ移動しやすい可動物質を含有しているとき、第2防止層が電子輸送層と発光層との間に配置されていれば、このような可動物質の陽極方向への移動を抑制できるので、可動物質が、陽極から有機層へ注入されるホールの数に与える影響を小さくでき、または、励起子をクエンチングする影響を小さくできる。第2防止層の代わりに、発光層と陽極との間に第1防止層を有していても同様の効果が得られる。また、第1防止層および第2防止層を両方有していれば、可動物質の移動をより効果的に抑制できる。
有機層が電子輸送層を有し、電子輸送層が陰極方向へ移動しやすい可動物質を含有している場合、第2防止層は、電子輸送層と陰極との間に設けられた防止層を含むことが好ましい。特に、電子輸送層が陰極方向へ移動しやすい可動物質を含有しているとき、第2防止層が電子輸送層と陰極との間に配置されていれば、このような可動物質の陰極方向への移動を抑制できるので、可動物質が、陰極から有機層へ注入される電子の数に与える影響を小さくできる。
すなわち、ホール輸送層を有する有機EL装置では、ホール輸送層と発光層との間および/または発光層と陰極との間に、可動物質が陰極方向へ移動することを抑制する層を設けることが好ましい。また、電子輸送層を有する有機EL装置では、発光層と電子輸送層の間および/または発光層と陽極との間に、可動物質が陽極側へ移動することを抑制する層を設けることが好ましい。
可動物質は、材料を選択して有機層を形成すれば、その有機層に付随的に含まれる移動可能な物質である。可動物質として、poly(ethelene−dioxythiophern)やpoly(styrenesulfonate)などを含む硫黄化合物、硫黄原子、硫黄イオンなどが挙げられる。1種または2種以上の可動物質が、有機層のいずれか1層または2層以上に含まれることもある。
本実施形態における防止層は、可動物質が陰極または陽極方向へ移動することを抑制する機能を持っていればよい。防止層として、発光層よりパッキング密度の高い層、すなわち分子間距離が短い層(以下、「高パッキング密度層」と呼ぶことがある)、および/または可動物質に対する結合力(例えば電気化学的結合力)を有し、可動物質を捕獲する層(以下、「トラップ層」と呼ぶことがある)などを用いることができる。
可動物質の移動経路に高パッキング密度層を設けると、高パッキング密度層中は分子間距離が短いので、高パッキング密度層内では、高パッキング密度層まで移動してきた可動物質の移動速度が減少したり、可動物質が移動できなくなったりする。このように、高パッキング密度層はバリア性に勝れており、可動物質の移動を抑制できる。高パッキング密度層の材料としては特に限定されないが、例えば、材料自体の密度が発光層の発光材料の密度よりも高い材料を用いることができる。代わりに、発光材料の密度と同程度の密度を有する材料や発光材料と同一の材料を用いてもよい。その場合、高パッキング密度層の材料に対して、発光層を形成する際の発光材料の熱処理温度よりも高い温度で熱処理を行ったり、発光材料の乾燥条件とは異なる条件で乾燥させたり、高圧で処理したりすることによって、所望の密度の高パッキング密度層を形成できる。パッキング密度は、X線回折等によって測定することができる。もちろん、同じ材料を用いる場合には密度(比重)で評価できる。
一方、可動物質の移動経路にトラップ層を設けると、トラップ層に移動してくる可動物質は、トラップ層に含まれる物質とより強く結合し、それ以上移動することができなくなる。その結果、可動物質の移動を抑制できる。トラップ層と可動物質との結合力は、可動物質含有層と可動物質との結合力よりも大きいことが好ましい。ホール輸送層が可動物質含有層であれば、トラップ層の可動物質との結合力が、ホール輸送層および/または発光層の可動物質との結合力よりも大きいことが好ましく、また、そのようなトラップ層をホール輸送層と発光層との間および/または発光層と陰極との間に配置することが好ましい。一方、電子輸送層が可動物質含有層であれば、トラップ層の可動物質との結合力が、電子輸送層および/または発光層の可動物質との結合力よりも大きいことが好ましく、また、そのようなトラップ層を電子輸送層と発光層との間および/または発光層と陽極との間に配置することが好ましい。トラップ層の材料としては、特に限定されないが、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン誘導体、ポリスピロ誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(トリフェニルアミン)誘導体、などを好適に用いることができる。
また、電気的には、陽極と発光層の間に設けられる第1防止層としては、ホール輸送能力を持つことが好ましい。特に、高いホール移動度を有することにより、電圧の上昇を伴うことなく、より厚いトラップ層を設けることができる。トラップ層の厚さが大きくなると、より効果的に可動物質の移動を防止することが可能となる。また、陽極と発光層の間に設けられる第1防止層としては、発光層の電子親和力より、より真空準位に近い電子親和力を持つことが好ましい。これにより、より効果的に電子を発光層中に閉じ込めることが可能となり、有機EL装置の発光効率を高めることができる。
また、電気的には、発光層と陰極との間に設けられる第2防止層としては、電子輸送能力を持つことが好ましい。特に、高い電子移動度を有することにより、電圧の上昇を伴うことなく、より厚いトラップ層を設けることができる。トラップ層の厚さが大きくなると、より効果的に可動物質の移動を防止することが可能となる。また、発光層と陰極との間に設けられる第2防止層としては、発光層のイオン化ポテンシャルより、より真空準位から遠いイオン化ポテンシャルを持つことが好ましい。これにより、ホールをより効果的に発光層中に閉じ込めることが可能となり、有機EL装置の発光効率を高めることができる。
本実施形態では、上記のような、防止層をホール輸送層と発光層との間、発光層と陰極との間、発光層と電子輸送層との間、陽極と発光層との間のうち、少なくとも1箇所に挿入する。本実施形態による有機EL装置の構成を以下に例示するが、本発明の有機EL装置の構成はこれらに限定されない。例えば、各構成に含まれる層はいずれも1層である必要はなく、積層構造を有していてもよい。また、各構成は他の層をさらに有していてもよい。
(1)陽極/ホール輸送層/防止層/発光層/陰極
(2)陽極/ホール輸送層/発光層/防止層/陰極
(3)陽極/ホール輸送層/防止層/発光層/防止層/陰極
(4)陽極/防止層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/発光層/防止層/電子輸送層/陰極
(6)陽極/防止層/発光層/防止層/電子輸送層/陰極
(7)陽極/防止層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(8)陽極/ホール輸送層/防止層/発光層/電子輸送層/陰極
(9)陽極/ホール輸送層/発光層/防止層/電子輸送層/陰極
(10)陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/防止層/陰極
(11)陽極/防止層/ホール輸送層/防止層/発光層/電子輸送層/陰極
(12)陽極/防止層/ホール輸送層/発光層/防止層/電子輸送層/陰極
(13)陽極/防止層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/防止層/陰極
(14)陽極/ホール輸送層/防止層/発光層/防止層/電子輸送層/陰極
(15)陽極/ホール輸送層/防止層/発光層/電子輸送層/防止層/陰極
(16)陽極/ホール輸送層/発光層/防止層/電子輸送層/防止層/陰極
上記各層の形成方法は、有機EL装置において、従来から使用されている形成方法であってもよいが、特にこれらに限定されるわけではない。
有機層(発光層、ホール輸送層、電子輸送層、防止層などを含む)の形成方法としては、有機層のパターン化を行う必要がある場合は、真空蒸着法等のドライプロセス、スピンコート法、ドクターブレード法、ディップコート法、印刷法等のウエットプロセスを用いることができる。また、マルチカラー、フルカラー表示パネルに用いる有機EL装置を作製する場合など、有機層のパターン化を行う必要がある場合は、例えば、マスク蒸着法(特開平8−227276号公報)または転写法(特開平10−208881号公報)等のドライプロセス、インクジェット法(特開平10−12377号公報)、印刷法、吐出コート法、スプレーコート法のウエットプロセスを用いることができる。ウエットプロセスを用いて有機層を形成する場合には、有機層における吸湿や有機材料の変質を考えると、有機層を不活性ガス中で形成することが好ましい。また、有機層を形成した後に、残留溶媒を除去するために加熱乾燥を行うことが好ましい。加熱乾燥は、有機材料の変質を防止する観点で、不活性ガス中で行うことが好ましい。さらに、より効果的に残留溶剤を除去するためには、加熱乾燥を減圧下で行うことが好ましい。
電極の形成方法としては、蒸着法、EB法、MBE法、スパッタ法等のドライプロセス、またはスピンコート法、印刷法、インクジェット法等のウエットプロセスを用いることができる。
以下、図を参照しながら、本発明による有機EL表示装置の実施形態を説明する。
(実施形態1)
図1(a)は、本実施形態の有機EL装置を模式的に示す断面図である。
本実施形態の有機EL装置は、基板1の上に、ITO(Indium tin oxide)などの陽極2、ホール輸送層3、防止層7、発光層4および陰極6が順次形成された構成を有している。
図1(a)に示す有機EL装置は、例えば以下のような方法で作製される。
まず、絶縁性の表面を有する基板1の上に電極2を形成する。本実施形態では、30×30mm角のガラス基板1の表面に予めITO(酸化インジウム−酸化錫)電極2が形成された電極付基板を用意し、洗浄する。電極付基板の洗浄としては、例えば、アセトン、IPAを用いて、超音波洗浄を10分間行い、次に、UV−オゾン洗浄を30分間行う。
次に、電極2の表面にホール輸送層3(厚さ:例えば60nm)を、例えば以下に示す方法で形成する。PEDOT/PSSを純水に分散させることにより、ホール輸送層形成用塗液を作製する。このホール輸送層形成用塗液を電極2の表面にスピンコーターを用いて塗布する。この後、高純度窒素雰囲気中で、基板を加熱乾燥(200℃、5分間)することにより、ホール輸送層形成用塗液中の溶媒を除去する。
ホール輸送層3の上に可動物質の移動を抑制するための防止層7(厚さ:例えば10nm)を形成する。まず、後述する発光層の発光材料と同一の材料をキシレンに溶かすことにより、防止層形成用塗液を作製する。この防止層形成用塗液を、スピンコーターを用いてホール輸送層3の表面に塗布する。この後、基板を加熱乾燥することにより、防止層7を形成する。加熱乾燥の温度は、後述する発光層を形成する際の加熱乾燥の温度よりも高いことが好ましく、例えば200℃である。加熱乾燥の温度を高くすると、より高密度の層を形成できるので、防止層7における可動物質の移動抑制効果が向上する。本実施形態における防止層7の密度は、0.32mg/cm3である。
次いで、防止層7の上に発光層(厚さ:例えば80nm)を形成する。まず、青色発光高分子材料をキシレンに溶かすことにより、発光層形成用塗液を作製する。この発光層形成用塗液を、スピンコーターを用いて防止層7の表面に塗布する。この基板を高純度窒素雰囲気中で加熱乾燥(90℃、1時間)することにより、塗液中の溶媒を除去する。これにより、発光層4が得られる。なお、発光層4の密度は、防止層7の密度よりも低く、0.18mg/cm3である。
この後、例えば以下の方法で電極6を形成する。まず、上記基板を金属蒸着用チャンバーに固定する。次に、防止層7の表面に真空蒸着法によりカルシウムを堆積(厚さ:例えば30nm)し、続いて、真空蒸着法によりアルミニウムを堆積(厚さ:例えば300nm)する。これにより、対向電極6が形成される。
最後に、基板1と封止用ガラス(図示せず)とをUV硬化樹脂を用いて張り合わせて、有機層10(ホール輸送層3および発光層4)と電極2および6とを封止することにより、有機EL装置が完成する。
本実施形態では、防止層7がホール輸送層3と発光層4との間に配置されているため、可動物質である硫黄化合物、もしくは硫黄イオン、は、ホール輸送層3から陰極6方向へ移動しにくくなる。その結果、可動物質の電極への移動に起因する有機EL装置の劣化が抑制される。
本実施形態における防止層7は、可動物質が陰極または陽極方向に移動することを抑制する機能を持った層であればよい。本実施形態では、防止層7として、発光層4よりも高い密度を有する(分子間距離が近い)高パッキング密度層を形成しているが、本発明はこれに限定されない。前述したように、高パッキング密度層の代わりに、可動物質に対する結合力を有するトラップ層を形成してもよい。
防止層7の厚さは、発光層4の厚さ以下であり、かつ1nm以上であることが好ましい。防止層7の厚さが、発光層4の厚さより大きいと、駆動電圧を上昇させる必要が生じる。一方、防止層7の厚さを1nmより小さくすると、防止層7は不連続な膜となり、可動物質の移動を抑制する効果が低減する。
防止層7の材料や、有機層における防止層7の配置などは上記に限定されない。また、2以上の防止層7が有機層に挿入されていてもよい。本実施形態のようにホール輸送層3に可動物質が含まれている場合、ホール輸送層3よりも陰極側に複数の防止層7を設けることができる。例えば、ホール輸送層3と発光層4との間および発光層4と陰極6との間の両方に設けると、可動物質の移動をより効果的に抑制できる。また、図1(c)に示すように、電極2とホール輸送層3との間に防止層7を設けてもよい。さらには、図1(d)に示すように、電極2、ホール輸送層3、発光層4および電極6の全ての層間に防止層7を挿入することもできる。
本実施形態における基板1は、絶縁性の表面を有していればよく、例えば、ガラス、石英等の無機材料から形成される基板、ポリエチレンテレフタレート等のプラスティック基板、アルミナ等のセラミックス基板、アルミニウムや鉄等の金属基板にSiO2や有機絶縁材料等の絶縁物をコートした基板、金属基板の表面に陽極酸化等の方法により絶縁化処理を施した基板などを広く用いることができる。
基板1上には、薄膜トランジスタ(TFT)等のスイッチング素子が形成されていても良い。低温プロセスでポリシリコンTFTを形成する場合には、500℃以下の温度で融解したり、歪みが生じたりしない基板を用いることが好ましい。また、高温プロセスでポリシリコンTFTを形成する場合には、1000℃以下の温度で融解したり、歪みが生じたりしない基板を用いることが好ましい。
電極2および6は、従来の電極材料を用いて形成できる。有機層にホールを注入する陽極2として、仕事関数が高い金属(Au、Pt、Ni等)から形成される金属電極や、透明導電材料(ITO、IDIXO、SnO2等)を用いて形成された透明電極を用いることができる。有機層に電子を注入する陰極6として、仕事関数の低い金属と安定な金属とを積層した電極(Ca/Al、Ce/Al、Cs/Al、Ba/Al等)、仕事関数の低い金属を含有する電極(Ca:Al合金、Mg:Ag合金、Li:Al合金等)、絶縁層(薄膜)と金属電極とを組み合わせた電極(LiF/Al、LiF/Ca/Al、BaF2/Ba/Al等)などを用いることができる。電極2および6の作製方法として、蒸着法、EB法、MBE法、スパッタ法等のドライプロセス、またはスピンコート法、印刷法、インクジェット法等のウエットプロセスを用いることができる。
発光層4は、1層であっても良いし、多層構造を有していてもよい。
発光層4は、従来の有機発光材料を用いて形成できる。発光層4は、本実施形態のように、発光材料を溶媒に溶かすことにより有機発光層形成用塗液を作製し、それを用いてウエットプロセスにより形成できる。有機発光層形成用塗液は、少なくとも1種の発光材料を含有した溶液であり、2種以上の発光材料を含有していてもよい。上記溶剤としては、上記発光材料を溶解、または、分散できる溶剤であれば良く、本発明で特に限定される物ではなく、例えば、純水、メタノール、エタノール、THF、クロロホルム、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等を用いることができる。また、有機発光層形成用塗液は、発光材料の他に、結着用の樹脂を含有していてもよいし、レベリング剤、発光アシスト剤、電荷注入輸送材料、添加剤(ドナー、アクセプター等)、発光性のドーパント等を含有していてもよい。結着用樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられる。
発光層4はドライプロセスによって形成されてもよい。ドライプロセスにより形成される発光層4は、発光アシスト剤、電荷輸送材料、添加剤(ドナー、アクセプター等)、発光性のドーパント等を含有していてもよい。
発光層4の発光材料としては、有機EL装置用の公知の発光材料を用いることができるが、本発明は特にこれらに限定される物ではない。例えば、低分子発光材料(例えば、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリデェン化合物、5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾール等のオキサジアゾール化合物、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾ−ル誘導体、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の蛍光性有機材料、アゾメチン亜鉛錯体、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq3)等の蛍光性有機金属化合物等)、高分子発光材料(例えば、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)DO−PPP、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)、(ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン))(PDAF)等)、高分子発光材料の前駆体(例えば、PPV前駆体、PNV前駆体。PPP前駆体等)等が挙げられる。
ホール輸送層3は、本実施形態のように、少なくとも1種のホール輸送材料を溶媒に溶かしたホール輸送層形成用塗液を用いて、ウエットプロセスにより形成できる。ホール輸送層形成用塗液は、2種以上の電荷注入輸送材料を含有していてもよい。また、ホール輸送層形成用塗液は、結着用の樹脂を含有していてもよく、その他に、レベリング剤、添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含有していてもよい。結着用樹脂は、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル等を用いることができる。また、溶剤として、上記ホール輸送材料を溶解、または分散できる溶剤であればよく、例えば、純水、メタノール、エタノール、THF、クロロホルム、キシレン、トリメチルベンゼン等を用いることができる。また、ホール輸送層3は、ドライプロセスによって形成されてもよい。そのようなホール輸送層3は、添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含有していてもよい。
ホール輸送材料として、有機EL装置用、有機光導電体用の公知のホール輸送材料を用いることができ、例えば、無機p型半導体材料、ポルフィリン化合物、N,N’−ビス−(3‐メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン‐1‐イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(NPD)等の芳香族第三級アミン化合物、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチリルアミン化合物等の低分子材料、ポリアニリン(PANI)、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネイト(PEDT/PSS)、ポリ[トリフェニルアミン誘導体](Poly−TPD)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等の高分子材料、ポリ(p−フェニレンビニレン)前駆体(Pre−PPV)、ポリ(p−ナフタレンビニレン)前駆体(Pre−PNV)等の高分子材料前駆体等)などを用いることができる。
本実施形態では、電荷輸送注入層としてホール輸送層3を有しているが、本発明はこれに限定されない。本発明の有機EL装置は、電荷輸送注入層として、ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層および電子注入層のうち少なくともいずれか1層を有していればよい。各電荷輸送注入層は、1層であっても良いし、多層構造であっても良い。電荷輸送注入層は、従来の電荷輸送注入材料を用いて形成することができる。なお、電荷輸送注入層が1種または2種以上の可動物質を含んでいる場合、それらの可動物質の種類や量に応じて、防止層7を有機層の好ましい位置に挿入することが好ましい。
本実施形態の有機EL装置は、1層または2層以上の電荷ブロッキング層を有していてもよい。有機EL装置において、陽極から注入されるホールと陰極から注入される電子が発光層で再結合することが理想的であり、発光効率も最も高くなるが、実際の有機EL装置では、陽極から注入されるホールが発光層を通り過ぎ、陰極まで到達してしまうもの、陰極から注入される電子が発光層を通り過ぎ、陽極まで到達してしまうものがある。このようなホールや電子は、発光に関与しないため、発光効率の低下を引き起こす。電荷ブロッキング層を設けると、このように発光層を通り過ぎる電子やホールが電極に達することを防止できるので、有機EL装置の発光効率の低下を抑制できる。例えば、陽極/ホール輸送層/発光層/陰極からなる素子に電荷ブロッキング層を設けて、陽極/ホール輸送層/発光層/電荷ブロッキング層(ホールブロッキング層)/陰極という構成にすることにより、陽極から注入されるホールが発光層を通り過ぎ、陰極に達することを防止できるので、発光効率を向上できる。また、陽極/ホール輸送層/電荷ブロッキング層(電子ブロッキング層)/発光層/陰極という構成とすることにより、陰極から注入される電子が発光層を通り過ぎ、陽極に達することを防止できるので、発光効率を向上できる。
電荷ブロッキング層は、少なくとも1種の電荷ブロッキング材料を用いてドライプロセスにより形成されてもよい。電荷ブロッキング層は、添加剤(ドナー、アクセプター等)等が含有されていてもよい。また、少なくとも1種の電荷ブロッキング材料を溶媒に溶かして得られた電荷ブロッキング層形成用塗液を用いて、ウエットプロセスにより形成されてもよい。電荷ブロッキング層形成用塗液は、1種または2種以上の電荷ブロッキング材料の他に、結着用の樹脂(ポリカーボネート、ポリエステル等)を含有していてもよく、その他、レベリング剤等を含有していていてもよい。溶剤としては、上記電荷ブロッキング材料を溶解または分散できる溶剤であればよく、例えば、純水、メタノール、エタノール、THF、クロロホルム、キシレン、トリメチルベンゼン等を用いることができる。
電荷ブロッキング材料としては、有機EL装置用の公知の電荷ブロッキング材料を用いることができるが、本発明は特にこれらに限定されない。例えば、電荷ブロッキング材料として、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリン等を用いることができる。
本実施形態では、封止基板を用いて有機EL装置を封止しているが、封止基板の代わりに封止膜を用いてもよい。封止膜または封止基板の材料として、従来から封止に用いられる材料を用いることができる。また、封止方法として、公知の封止方法を用いることができる。例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスをガラス、金属等で封止する方法、更に、不活性ガス中に酸化バリウム等の吸湿剤等を混入する方法を用いることができる。また、対向電極6上に樹脂を直接スピンコートしたり、貼り合わせたりして、封止膜を形成してもよい。このように、有機層および電極を封止することにより、外部からの酸素、水分が有機EL装置内に混入するのを防止できるので、有機EL装置の寿命を向上できる。
次に、本実施形態の有機EL装置の寿命を評価した結果を説明する。
実施例1の有機EL装置は、30×30mm角のガラス基板1上に、ITO電極2と、PEDOT−PSS層(ホール輸送層)3(厚さ:60nm)と、青色高分子発光材料(ポリフルオレン誘導体)を用いて形成された防止層7(厚さ:10nm、密度:0.32mg/cm3、乾燥温度:200℃)と青色高分子発光材料を用いて形成された発光層4(厚さ:80nm、密度:0.18mg/cm3、乾燥温度:150℃)と、カルシウム(厚さ:30nm)/アルミニウム(厚さ300nm)電極6とが順次積層された構造を有している。実施例1の有機EL装置に含まれる各層は、上述した方法で形成されている。
実施例1の有機EL装置と比較するために、比較例1の有機EL装置を作製する。比較例1の有機EL装置は、図3(a)に示すように、ホール輸送層3と発光層4の間に防止層7が設けられていないこと以外は、本実施形態の有機EL装置と同様の構成を有しており、上述した実施例1の有機EL装置の作製方法と同様の方法で作製される。
次に、比較例1の有機EL装置および図1(a)に示す本実施形態の有機EL装置のそれぞれについて、25℃の環境下で発光効率と輝度半減寿命とを測定することにより、寿命の評価を行った。「発光効率」は、投入電力に対する発光強度(lm/W)である。「輝度半減寿命」は、有機EL装置に一定の電流(100mA/cm2)を印加して連続的に発光させ、輝度が初期輝度に対して50%に低下するまでの時間であり、ここでは、比較例1の有機EL装置の輝度半減寿命を1とした場合の相対値で示す。
評価結果を表1に示す。
表1からわかるように、本実施形態の有機EL装置の発光効率は、比較例1の有機EL装置の発光効率と等しいが、本実施形態の有機EL装置の輝度半減寿命は、比較例1の有機EL装置の輝度半減寿命よりも1.5倍長くなっている。すなわち、防止層7を挿入することで、輝度半減寿命が1.5倍向上する。これは、防止層7によって、輝度低下の原因となる可動物質の移動が抑制されたためと考えられる。
(実施形態2)
本実施形態の有機EL装置は、実施形態1の有機EL装置と同様に、図2(a)に示すような構成を有している。すなわち、ホール輸送層3と発光層4との間に、防止層7(厚さ:例えば10nm)を有している。異なる点は、本実施形態では、防止層7の材料として、実施形態1の防止層7の材料(青色発光高分子材料)より密度が高い高分子材料を用いることである。従って、防止層7の材料は、発光層4の発光材料よりも高い密度を有している。防止層7の形成は、実施形態1と同様に、防止層形成用塗液をスピンコートで塗布した後、200℃で乾燥させることにより行う。
実施例2の有機EL装置は、30×30mm角のガラス基板1上に、ITO電極2と、PEDOT−PSS層(ホール輸送層)3(厚さ:60nm)と、N,N’−ジ(ナフタレン‐1‐イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジンを用いて形成された防止層7(厚さ:10nm、密度:0.48mg/cm3)と、青色高分子発光材料を用いて形成された発光層4(厚さ:80nm、密度:18mg/cm3)と、カルシウム(厚さ:30nm)/アルミニウム(厚さ300nm)電極6とが順次積層された構造を有している。実施例2の有機EL装置に含まれる各層は、上述した方法で形成されている。
実施例2の有機EL装置についても、実施例1における評価方法と同様の方法で、25℃の環境下で寿命の評価を行った(表1)。
表1からわかるように、防止層7として、発光材料よりも密度の高い材料(N,N’−ジ(ナフタレン‐1‐イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン)を用いて形成した防止層7を挿入することにより、有機EL装置の輝度半減寿命を比較例1の有機EL装置の輝度半減寿命よりも2.5倍向上できる。また、密度の高い材料を用いて形成した本実施形態における防止層は、発光材料と同一の材料を用いて形成した実施形態1の防止層よりも、可動物質の移動抑制効果に優れていることがわかる。
(実施形態3)
本実施形態の有機EL装置を図2(b)に示す。本実施形態では、防止層7(厚さ:10nm)は発光層4と陰極6との間に設けられている。本実施形態における防止層7は、発光層の発光材料(青色発光高分子材料)より密度の高い高分子材料を含む防止層形成用塗液を、発光層4の表面にスピンコートで塗布した後、90℃で乾燥させることにより形成される。これらの点以外の構成や作製方法は、実施形態1と同様である。
実施例3の有機EL装置は、30×30mm角のガラス基板1上に、ITO電極2と、PEDOT−PSS層(ホール輸送層)3(厚さ:60nm)と、青色高分子発光材料を用いて形成された発光層4(厚さ:80nm、密度:0.18mg/cm3)と、シロール誘導体を用いて形成された防止層7(厚さ:10nm、密度:0.56mg/cm3)と、カルシウム(厚さ:30nm)/アルミニウム(厚さ300nm)電極6とが順次積層された構造を有している。実施例3の有機EL装置に含まれる各層は、上述した方法で形成されている。
実施例3の有機LED素子についても、実施例1における評価方法と同様の方法で、25℃の環境下で寿命の評価を行った(表1)。
表1からわかるように、防止層7を発光層4と陰極6との間に挿入することにより、有機EL装置の輝度半減寿命が比較例の有機EL装置の輝度半減寿命と比べて5倍向上する。これは、防止層7によって、有機層中の可動物質が陰極へ移動され難くなり、その結果、有機EL装置の輝度の低下が抑制されるためと考えられる。また、発光材料よりも密度の高い材料を用いれば、低い乾燥温度(例えば90℃)でも優れた効果をもつ高パッキング密度層を形成できることがわかる。
(実施形態4)
本実施形態の有機EL装置の構成は、防止層7の厚さを小さく(例えば1nm)としたこと以外は、実施形態3の有機EL装置の構成と同様である。また、本実施形態の有機EL装置の作製方法も、実施形態3の有機EL装置の作製方法と同様である。
実施例4の有機EL装置は、30×30mm角のガラス基板1上に、ITO電極2と、PEDOT−PSS層(ホール輸送層)3(厚さ:60nm)と、青色高分子発光材料を用いて形成された発光層4(厚さ:80nm、密度:0.18mg/cm3)と、シロール誘導体を用いて形成された防止層7(厚さ:1nm、密度:0.56mg/cm3)とカルシウム(厚さ:30nm)/アルミニウム(厚さ300nm)電極6とが順次積層された構造を有している。実施例4の有機EL装置に含まれる各層は、上述した方法で形成されている。
実施例4の有機LED素子についても、実施例1における評価方法と同様の方法で、25℃の環境下で寿命の評価を行った(表1)。
表1からわかるように、防止層7を発光層4と陰極6との間に挿入することにより、有機EL装置の輝度半減寿命が比較例の有機EL装置の輝度半減寿命と比べて6倍向上する。このことから、防止層7の厚さが1nmであっても、可動物質の移動を抑制する効果を示すことが確認できる。
(実施形態5)
本実施形態の有機EL装置の構成は、防止層7の厚さを大きく(例えば100nm)したこと以外は、実施形態3の有機EL装置の構成と同様である。また、本実施形態の有機EL装置の作製方法も、実施形態3の有機EL装置の作製方法と同様である。
実施例5の有機EL装置は、30×30mm角のガラス基板1上に、ITO電極2と、PEDOT−PSS層(ホール輸送層)3(厚さ:60nm)と、青色高分子発光材料を用いて形成された発光層4(厚さ:80nm、密度:0.18mg/cm3)と、シロール誘導体を用いて形成された防止層7(厚さ:100nm、密度:0.56mg/cm3)とカルシウム(厚さ:30nm)/銀(厚さ300nm)電極6とが順次積層された構造を有している。実施例5の有機EL装置に含まれる各層は、上述した方法で形成されている。
実施例5の有機LED素子についても、実施例1における評価方法と同様の方法で、25℃の環境下で寿命の評価を行った(表1)。
表1からわかるように、防止層7を発光層4と陰極6との間に挿入することにより、有機EL装置の輝度半減寿命が比較例の有機EL装置の輝度半減寿命と比べて4倍向上する。このことから、防止層7の厚さが100nmであっても、可動物質の移動を抑制する効果を示すことが確認できる。しかし、防止層7の厚さの増加に伴い、駆動電圧が上昇するので、発光効率は低下する。
(実施形態6)
本実施形態の有機EL装置の構成は、防止層7の厚さを0.5nmと小さくしたこと以外は、実施形態3の有機EL装置の構成と同様である。また、本実施形態の有機EL装置の作製方法も、実施形態3の有機EL装置の作製方法と同様である。
実施例6の有機EL装置は、30×30mm角のガラス基板1上に、ITO電極2と、PEDOT−PSS層(ホール輸送層)3(厚さ:60nm)と、青色高分子発光材料を用いて形成された発光層4(厚さ:80nm、密度:0.18mg/cm3)と、シロール誘導体を用いて形成された防止層7(厚さ:0.5nm、密度:0.56mg/cm3)とカルシウム(厚さ:30nm)/銀(厚さ300nm)電極6とが順次積層された構造を有している。実施例5の有機EL装置に含まれる各層は、上述した方法で形成されている。
実施例6の有機EL装置についても、実施例1における評価方法と同様の方法で、25℃の環境下で寿命の評価を行った(表1)。
表1からわかるように、防止層7を発光層4と陰極6との間に挿入しても、有機EL装置の輝度半減寿命は比較例の有機EL装置の輝度半減寿命と同程度(0.8倍)である。このことから、防止層7の厚さを0.5nmと小さくすると、防止層7は不連続な膜となり、可動物質の移動を抑制する効果を示さないことがわかる。
(実施形態7)
図2(a)は、本実施形態の有機EL装置を模式的に示す断面図である。
本実施形態の有機EL装置は、基板1の上に、ITOなどの陽極2、ホール輸送層3、発光層4、防止層7、電子輸送層5および陰極6が順次形成された構成を有している。
図2(a)に示す有機EL装置は、例えば以下のような方法で作製される。
まず、基板1の上に電極2を形成する。基板1および電極2は、実施形態1で用いた基板1および電極2と同様のものを用いることができる。本実施形態では、30×30mm角のガラス基板1に予めITO電極が形成された基板を用いる。この基板を、アセトンやIPAを用いて音波洗浄(10分間)し、次に、UV−オゾン洗浄(30分間)する。
次に、電極2の上にホール輸送層3(厚さ:例えば60nm)を以下のようにして形成する。ホール輸送層形成用塗液を電極2の表面にスピンコーターを用いて塗布し、この後、200℃で5分間、高純度窒素雰囲気中で加熱乾燥することによって、ホール輸送層形成用塗液中の溶媒を除去する。本実施形態では、ホール輸送層形成用塗液として、PEDOT/PSSを純水に分散させたものを用いる。
続いて、ホール輸送層3の上に発光層4(厚さ:例えば80nm)を以下のようにして形成する。発光層形成用塗液をホール輸送層3の表面にスピンコーターを用いて塗布し、この後、90℃で1時間、高純度窒素雰囲気中で加熱乾燥することにより、発光層形成用塗液中の溶媒を除去する。本実施形態では、発光層形成用塗液として、青色発光高分子材料をキシレンに溶かしたものを用いる。
発光層4の上に可動物質の移動を抑制するための防止層7(厚さ:例えば10nm)を形成する。まず、発光層の発光材料(青色発光高分子材料)よりも密度が高い材料(例えば、シロール誘導体、トリアゾール誘導体等)を基板上に成膜することで防止層7を形成する。
次に、防止層7の上に電子輸送層5(厚さ:例えば30nm)を形成する。本実施形態では、電子輸送層5の材料としてセシウムをドープしているポリ(オキサジアゾール)を用いる。また、電子輸送層5の形成は、スピンコート法により行う。ここでセシウムは、陰極から電子輸送層への電子の注入を向上する目的と、電子輸送層の電子の移動度を高める目的で電子輸送層にドープしている。
電子輸送層5を形成した後、基板を金属蒸着用チャンバーに固定する。
電子輸送層5の上に、電極(陰極)6を形成する。電極6の形成は、カルシウムを真空蒸着法により堆積させ(厚さ:例えば30nm)、次いでアルミニウムを真空蒸着法により堆積させる(厚さ:例えば300nm)ことにより行う。
最後に、封止用ガラスを、UV硬化樹脂を用いて基板1と張り合わせて、有機EL装置を完成する。
電子輸送層5は、上述したように、電子注入輸送材料を溶剤に溶かした電子輸送層形成用塗液を用いて、ウエットプロセスにより形成できる。電子輸送層形成用塗液は、2種以上の電子注入輸送材料を含有していてもよい。また、電子輸送層形成用塗液は、結着用の樹脂を含有していてもよく、その他に、レベリング剤、添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含有していてもよい。結着用樹脂は、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル等を用いることができる。また、溶剤として、上記ホール輸送材料を溶解、または分散できる溶剤であればよく、例えば、純水、メタノール、エタノール、THF、クロロホルム、キシレン、トリメチルベンゼン等を用いることができる。また、電子輸送層5は、ドライプロセスによって形成されてもよい。そのような電子輸送層3は、添加剤(ドナー、アクセプター等)等を含有していてもよい。
電荷注入輸送材料としては、有機LED用、有機光導電体用の公知の電荷注入輸送材料が使用可能であるが、本発明は特にこれらに限定される物ではない。例えば、無機n型半導体材料、オキサジアゾ−ル誘導体、トリアゾ−ル誘導体、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体などの低分子材料、ポリ[オキサジアゾール](Poly−OXZ)などの高分子材料等を用いても良い。
電子輸送層5以外の有機層や電極2、6の材料および形成方法は、実施形態1で例示した材料および形成方法であってもよい。また、本実施形態における有機層は、実施形態1と同様に、電荷ブロッキング層を有していてもよい。
本実施形態では、防止層7は発光層4と電子輸送層5との間に設けられているが、本発明の有機EL装置の構成はこれに限らない。防止層7は、図2(b)および(c)に示すように、発光層4と陽極2との間に設けられてもよい。このように、電子輸送層5の陽極側に防止層7を設けると、電子輸送層5に含まれる可動物質が陽極2まで移動することを防止できる。また、図2(d)に示すように、電子輸送層5と陰極6との間に設けられてもよい。さらに、複数の防止層7が有機層10に含まれていてもよく、例えば、図2(e)に示すように、電極2、ホール輸送層4、発光層4、電子輸送層5および電極6の全ての層間に防止層7を挿入することもできる。
次に、本実施形態の有機EL装置の寿命を評価したので、その結果を説明する。
実施例7の有機EL装置は、30×30mm角のガラス基板1上に、ITO電極2と、PEDOT−PSS層(ホール輸送層)3(厚さ:60nm)と、青色高分子発光材料を用いて形成された発光層4(厚さ:80nm、密度:0.18mg/cm3)と、シロール誘導体を用いて形成された防止層7(厚さ:10nm、密度:0.56mg/cm3)と、セシウムをドープしたポリ(オキサジアゾール)を用いて形成した電子輸送層5(厚さ:30nm、密度:0.24mg/cm3)と、カルシウム(厚さ:30nm)/アルミニウム(厚さ300nm)電極6とが順次積層された構造を有している。実施例7の有機EL装置に含まれる各層は、上述した方法で形成されている。
実施例7の有機EL装置と比較するために、比較例2の有機EL装置を作製する。比較例2の有機EL装置は、図3(b)に示すように、発光層4と電子輸送層5との間に防止層7が設けられていないこと以外は、実施例7の有機EL装置と同様の構成を有しており、上述した本実施形態の有機EL装置の作製方法と同様の方法で作製される。
比較例2の有機EL装置および図2(a)に示す実施例7の有機EL装置のそれぞれについて、実施例1における評価方法と同様の方法で、25℃の環境下で寿命の評価を行った(表1)。
表1からわかるように、防止層7を発光層4と電子輸送層5との間に挿入することにより、有機EL装置の輝度半減寿命が比較例の有機EL装置の輝度半減寿命と比べて5倍向上している。このことから、防止層7によって、電子輸送層5に含まれる可動物質(セシウム、またはセシウムイオン)が陽極2まで移動し難くなるので、可動物質の移動に起因する有機EL装置の劣化が抑制できることがわかる。
本発明は、有機LED素子や有機LED表示パネル(有機EL表示装置)などの各種有機EL装置に好適に適用される。有機LED表示パネルの駆動方法は特に限定されず、パッシブマトリックス駆動でもアクティブマトリックス駆動でもよい。また、前述したように、従来の青色高分子発光材料を用いた有機EL装置では、可動物質の移動による輝度の低下が特に問題であることから、本発明を、青色高分子発光材料を用いた有機EL装置に適用すると特に有利である。