JP4312353B2 - アンテナ化合物及び電荷分離型化合物を電極上に混合自己組織化単分子膜として集積した光エネルギー・電気エネルギー変換素子 - Google Patents
アンテナ化合物及び電荷分離型化合物を電極上に混合自己組織化単分子膜として集積した光エネルギー・電気エネルギー変換素子 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アンテナ化合物(光集光モデルという場合もある)を構成するボロンジピリン染料(顔料)と電荷分離型化合物(反応中心モデルという場合もある)を構成するフェロセン−ポルフィリン−フラーレン三元系とを、該染料の光吸収によるエネルギーを該三元系のポルフィリン部に移動するように、前記染料および三元系のそれぞれを、基体表面に形成された金属又は半導体膜表面に共有結合又は配位結合により混合自己組織単分子膜として集積してなる光エネルギー・電気エネルギー変換素子により構成される人工的な光合成集合体に関する。なお、基体は自己支持性であっても良い。
【0002】
【従来の技術】
植物やある種の細菌は、太陽エネルギーを化学エネルギーに代える働きを持つ系を持っている。該系では、希薄な密度の光子を効率よく集めるために、アンテナのように多くの光受容体分子が集合体を作っていることが生化学的・分光学的解析データから予想されていた。この系をアンテナ系といい、光合成ではクロロフィルやカロチノイドなどの有機色素がエネルギー伝達のために反応中心タンパク質の周辺に配置されている。そして、アンテナ系複合体で補足された光エネルギーは反応中心複合体に位置するクロロフィル2量体(スペシャルペアー)に集められ電荷分離反応が行われる。電子供与体と電子受容体間の電子的相互作用が大きい場合、電子移動速度は電子移動の自由エネルギー変化(−ΔG)と電子移動に伴う再配列エネルギー(λ)(電子移動による化学結合の変化および溶媒などの近傍の分子との相互作用の変化のエネルギー)で決まるが、相互作用が小さくなると距離に依存して指数関数的に電子移動速度は遅くなる。
【0003】
最近生態系における集光複合体のX線結晶学解析に基づくX線構造決定から、効率的なアンテナ系の構築が盛んに試みられている。該アンテナ系の構築により、ここで効率よく集められたエネルギーを高速に電荷分離を行う反応中心タンパク質に送り込むことでき、より効率よく太陽光を吸収し、そのエネルギーを利用できるようにすることができる。
【0004】
前記自然におけるアンテナ複合体は、自己組織化によって形成されており、その際タンパク質が自己組織化複合体の形成を助けている。このような研究の中で、人工的に組織化された分子集合体、特に単分子膜の形成方法が研究されており、その手法として、ラングミアー−ブロジェト膜(いわゆるLB.膜))や脂質膜などを用いたものがあるが、単分子膜を形成する方法としては均一性に欠け(ピンホールなどの欠陥部の発生がある)、基板上に形成された単分子膜は、該膜を構成する分子が基板表面に物理的に付着したものであるため、膜の安定性にも欠けるものであった。このような中で、アルキルチオールが金表面において自己組織化した単分子膜を形成することが分かって以来、この単分子膜形成の原理、即ち自己組織化の機能を用いて(共吸着)単分子膜を形成させること、また、単分子膜を形成したい機能残基に前記自己組織化機能を導入する基、および基板表面に安定的に固定する基を導入した化合物を設計して、その化合物だけで自己組織化により種々の機能を持った単分子膜を形成する研究へと発展してきている(Hiroshi Imahori,et al:J.Phys.Chem.B 2000,104,1253-1260、文献A)。本発明者は、前記アンテナ系を更に改良したアンテナ系複合体を提案している(特願2000−120511号:特開2001−303033号公報)。
【0005】
前記光集光モデルに対して、アンテナ系で補足された光エネルギーを反応中心に集めて安定な電荷分離状態を形成する電荷分離材料として機能する化合物として、本発明者等は球殻状の炭素分子(C60、C70などのフラーレン誘導体)を非局在化電子受容体として持つ、前記一般式(B)で表される三元系自己組織化膜を提案している(特願平11−065136号:特開2000−261016号公報)。
【0006】
しかしながら、従来のアンテナ系化合物および電荷分離型化合物(電荷分離材料)の各々が自己組織化したユニットから成る混合単分子膜を用いて、金電極などの上に集積した人工的な光合成集合体を構築するまでには至っていない、換言すれば、これまで開発されてきたものは量子収率の確認が難しいぐらいの程度のものである。従って、前記集合体を実用性段階のレベルまで上げるにはアンテナ系化合物と電荷分離材料の好ましい組合せを見出す必要がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、アンテナ系化合物および電荷分離化合物(電荷分離材料)の各々が自己組織化したユニットから成る混合単分子膜を金属又は半導体電極上に集積した実用性の有望な人工的な光合成集合体を構築することである。本発明者は、前記三元系の反応中心を構成する電荷分離型化合物と組み合わせるアンテナ系化合物を検討する中で、アンテナ系化合物として、ボロンージピリン化合物、ポルフィリン誘導体(ポルフィリンの多量体、オリゴマーやポリマー)、フタロシアニン(この多量体)、シアニン色素、ポリエン等、特ボロンージピリン化合物が吸光係数(吸収能力)が大きいこと、かつ、そのエネルギーを高効率で電荷分離化合物にエネルギー移動可能であることを見出して前記本発明の課題を解決した。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基体表面に形成された金属又は半導体膜表面に共有結合又は配位結合により下記の一般式(A)で表されるボロン−ジピリン部分を有するエネルギードナー化合物及び下記の一般式(B)で表される三元系を持つエネルギーアクセプター化合物を両化合物間でエネルギー移動可能に混合自己組織化した単分子膜として形成されていることを特徴とする光エネルギー・電気エネルギー変換素子である。
【0009】
【化5】
【0010】
(Bin.は一般式(A)の化合物を前記金又は半導体膜表面に共有結合又は配位結合により結合させる結合基を提供する基である。R1〜R6は、H、炭素数4までのアルキル基及びフェニル基からなる群から独立に選択される、X1は−CO−NH−であり、Xはハロゲン原子、nは1〜20の整数)
【0011】
【化6】
【0012】
(式中、Binは一般式(B)の化合物を前記金属又は半導体膜表面に共有結合又は配位結合により結合させる結合基を提供する基、X2はOであり、X3およびX4は結合基であり、単結合、−NH−CO−、−CO−NH−、−Ph−、−O−、または−CO−O−からなる群から独立に選択される基、Arは式H(R 8 はt−ブチル基またはアルキルオキシ基)である置換基を有するフェニル基、n1は1以上の整数、Mは金属原子または2Hある。また、フラーレン誘導体残基は式G(式G中R 7 はHまたは炭素数4までのアルキル基である。)である。)
【0013】
【化7】
【0014】
【化8】
【0015】
好ましくは、基体上に形成される金属又は半導体は、Au、Ag、Pt、ITO(インジウムスズ酸化物)又はSnO2から選択され、前記一般式(A)および一般式(B)のBin.の共有結合又は配位結合により結合させる結合基を提供する基は、SH基からのS−、NH2基からのNH−、PO3H基からのPO3 −、−S−S−結合からのS−S、Si(OCH3)3からのSi−からなる群から独立に選択されることを特徴とする前記光エネルギー・電気エネルギー変換素子であり、
【0016】
【本発明の実施の態様】
本発明をより詳細に説明する。
A.本発明においてアンテナ系化合物として用いるボロンジピリンチオールの合成。合成反応を反応式1に示す。
【0017】
【化9】
【0018】
反応式1中の化合物4の合成
2,4−ジメチルピロール(2.16mL,21.1mmol)および4−ニトロベズアルデヒド(1.87g,12.4mmol)を1Lの丸底フラスコ中にCH2Cl2(800ml)に加える。混合物をN2でバブリングし、トリフルオロ酢酸(0.19mL,2.47mmol)を加え、得られた混合物を1.5時間撹拌する。溶液を0.1MNaOH(200mL)、次いで水(200mL)で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥、濾過、およびロータリエバポレーターを用いて溶媒を取り除く。得られた生成物をトルエン(50mL)に再溶解させ、次いで混合物にクロラニル(2.73g,11.1mmol)を加える。10分間混合後、トリエタノールアミン(8mL)および三フッ化ホウ素エテラート(7mmol)を加えた。混合物を1.5時間撹拌後水に注入し、トルエンにて抽出する。トルエン溶液は、1回100mLの水を用いて3回抽出し、溶剤はロータリーエバポレーターにて蒸発させる。残渣をクロロホルムに溶解させ、シリカゲルのフラッシュかラムクロマトグラフィーにかける。ヘキサン中に67%のCCl3を溶解させた(v/v比)抽出液で抽出し反応式1における化合物4を461g(収率10%)で得た。化合物4の1HNMR:(270MHz,CDCl3)δ8.38(d,J=9 Hz,2H),7.53(d,J=9 Hz,2H),6.02(s,2H),2.56(s,6H),1.36(s,6H);FAB−MSm/z370(M+H+)
【0019】
反応式1の化合物5の合成THF(40mL)中に前記化合物4(250g,0.678mmol)を溶解した溶液を、室温、大気圧下でTLC分析により化合物4が完全に還元されるまで、カーボン上に5%のPdを担持させた触媒で水素化した。触媒を濾別し、ろ液を減圧下で濃縮した。トルエンを溶出液とするシリカゲルを用いたフラッシュクロマトグラフィーを用いて、化合物591.2mg(収率40%)を得た。化合物5の1HNMR:(270MHz,CDCl3)δ7.00(d,J=9 Hz,2H),6.77(d,J=9,2H),5.96(s,2H),3.48(br.s,2H),2.54(s,6H),1.49(s,6H);FAB−MSm/z340(M+H+)
【0020】
反応式1の化合物6の合成 2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT:840mg,4.8mmol),12-ブロモドデカン酸(1.12g,4mmol)のTHF(30mL)溶液に、N-モルホリン(0.53mL,4,8mmol)を、0℃において滴下し、0℃で5時間撹拌を継続する。粗溶液に、化合物5(120mg,0.354mmol)を0℃で加える。室温で16時間撹拌し、反応混合物を減圧下で乾固するまで蒸発させる。トルエンを溶出液とするシリカゲルを用いたフラッシュクロマトグラフィーを用いて、化合物6を176mg(収率83%)を得た。化合物5の1HNMR:(270MHz,CDCl3)δ7.68(d,J=9 Hz,2H),7.24(br.s,1H),7.22(d,J=9, Hz,2H),5.97(s,2H),3.41(t,J=7 Hz,2H),2.55(s,6H),2.39(t,J=7 Hz,2H),1.88(quint,J=7 Hz,2H),1.76(quint,J=7 Hz,2H),1.42(s,6H),1.2-1.5(m,14H),FAB−MSm/z601(M+H+)
【0021】
反応式1の化合物7の合成
化合物6(85.0mg,0.142mmol)およびチオ酢酸カリウム(51mg,0.45mmol)のエタノール−THF(1:1=v/v,10mL)溶液を2時間加熱還流する。溶媒を減圧下で除去する。トルエン/酢酸エチル(19:1=v/v)を溶出液とするシリカゲルを用いたフラッシュクロマトグラフィーを用いて化合物7を74.6mg(収率88%)を得た。化合物7の1HNMR:(270MHz,CDCl3)δ7.69(d,J=9 Hz,2H),7.18(d,J=9 Hz,2H),7.15(br.s,1H),5.97(s,2H),2.86(t,J=7 Hz,2H),2.54(s,6H),2.37(t,J=7 Hz,2H),2.32(s,3H),1.73(quinr,J=7 Hz 2H),1.56(quint,J=7 Hz,2H),1.42(s,6H),1.2-1.5(m,14H);FAB−MSm/z596(M+H+)
【0022】
目的化合物である反応式1の化合物2の合成化合物7およびKOHのメタノール−THF(1:1=v/v)溶液を、暗室、窒素雰囲気下において、5分間還流する。冷却後、混合物をブライン20mL上に注下し、トルエンで抽出する。抽出液を無水Na2SO4上で乾燥し、次いでトルエンを減圧下で除去する。トルエン/酢酸エチル(19:1=v/v)を溶出液とするシリカゲルを用いたフラッシュクロマトグラフィーを用いて化合物2を55.4mg(収率88%)を得た。化合物2の1HNMR:(270MHz,CDCl3)δ7.68(d,J=9 Hz,2H),7.51(br.s,1H),7.20(d,J=9 Hz,2H),5.97(s,2H),2.52(s,6H),2.50(q,J=7 Hz,2H),2.37(t,J=7 Hz2H),1.72(quint,J=7 Hz,2H),1.61(quint,J=7 Hz,2H),1.42(s,6H),1.2-1.5(m,14H);FAB−MSm/z596(M+H+);UV-vis(CH2Cl2),λmax(logε)249(4.43),307(3.60),358(2.55),502(4.92)
【0023】
変性金電極の調製Au(111)を、剥離させた直後の雲母表面に1000Å厚さの金(粗さ係数(R)=1.1)をまたは透過による吸収スペクトルを測定するための透明なガラススライド上に200Åの厚さの金(粗さ係数(R)=1.5)を真空蒸着することにより、調製した。雲母上の金電極は、溶液に入れる直前に水素炎で焼き入れ(anneal)される。1,2/Au(1,3/Au)の混合単分子膜が共吸着によりAu(111)雲母基板上に形成される。金表面への共吸着は、全濃度が10μMの化合物1および2(又は化合物2および3)を含有するCH2Cl2を用いて、混合自己組織化単分子膜が完結するまで20時間かけて行われる。吸着(soak)後、金基板はCH2Cl2で充分洗浄され、アルゴン気流下で乾燥される。表面被覆率の見積もり全ての電気化学的実験は、修飾Au作用電極(0.48cm2 ),Ptワイヤー対電極およびAg/AgCl(飽和KCl)参照電極からなる標準三極電池でボルタンメトリー分析計(Bioanalytical Systems Inc.製)、を用いて行った。1,2/Au中の化合物1吸着量はフェロセンのアノードピークの電荷量から決定される。1,2/Au中の化合物2の吸着量は、金表面の吸着から、化合物2の混合自己組織化単分子膜中のモル吸着係数は2/Auのモル吸着係数と同じであると仮定して、見積もった。
【0024】
D.アンテナ化合物及び電荷分離型化合物を電極上に混合自己組織化単分子膜として集積させて本発明の光エネルギー・電気エネルギー変換系の形成。金属又は半導体膜などからなる電極、具体的には金電極上に反応中心モデル(電荷分離材料)である一般式(B)のフェロセン−ポルフィリン−フラーレン三元系、具体的には化合物1と
【0025】
【化10】
【0026】
光取り込み化合物(アンテナ化合物)、例えば前記一般式(A)の化合物、具体的には前記A.で合成した化合物2のボロン−ジピリンチオール化合物
【0027】
【化11】
【0028】
との組合せを混合自己組織化を利用して集積して、光エネルギー・電気エネルギー変換系である人工光合成集合体を作成する(前記B.の項参照)。
【0029】
図1を参照して説明する。金電極上の、人工光合成自己組織化集合体は、前記化合物2〔ボロン−ジピリンチオール)〕および前記化合物1〔フェロセン(Fc)−ポルフィリン(P)−C60三元系〕で構成されている。化合物2は、ボロン−ジピリン部分(B*)から前記化合物1からなる反応中心モデル(電荷分離材料)のポルフィリン部分(P)に効率的にエネルギー移動(EN)を起こすのでするので、前記電荷分離材料と組み合わせる効率的なアンテナ化合物として選択した。化合物1におけるC60部分は、電子移動に関して小さな再配列エネルギーを持つため前向きの電子移動を加速し逆電子移動によるエネルギー損失を抑制することができる。従って、一連の電子移動反応の始め電子受容体に用いた〔C60では球面上に電子を非局在化できるために電子移動前後の周囲の環境変化(溶媒の配向、分極)および自体の構造変化を最小に押さえることが可能である。〕。
【0030】
金電極上での化合物2の一重項励起エネルギーは、金属上での吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルから、2.45eVと見積もることができる。化合物2の金電極表面(以下、2/Au)上の一電子酸化電位(E0OX)は、サイクリック・ボルタンメトリーから、1.23V(Ag/AgCl参照電極に対して)と測定された。これらの値から、1B*/B・+の一電子レドックス電位は−1.20Vとなる。本発明者が構築した前記人工光合成自己組織化単分子膜の他の構成分子のエネルギーレベルは、同様に決定される。これらの電気化学的ポテンシャルを図1のエネルギーダイヤグラムにまとめて示した。図1中のエネルギーダイヤグラムに基づくエネルギー移動(EN)は、化合物2の1B*から化合物1のポルフィリン部分(P)へと起こり、化合物1中での1P*からC60への電子移動(ET)およびこれに続くFcからP・+への電子移動(ET)により、電荷分離状態、すなわち自己組織化分子内でのFc+−P−C60 ・−-が生成する。生成するC60 ・−は、電子をO2(O2/O2 ・−=-0.48V)および/またはメチルビオローゲン(MV2+)(MV2+/MV・+=−0.62V)のような拡散電子キャリヤーに渡し、電子キャリヤーは対電極へ電子を与える。他方、金電極はFc+に電子を与え、金電極から対電極への方向性を持つ(vectorial)電子の流れを自己組織化単分子膜および電解質溶液を通して発生させる。
【0031】
ここに、金基板表面に混合自己組織化単分子膜の形成に用いられる化合物1及び2のCH2Cl2溶液中でのモル比と混合自己組織化単分子膜の化合物1および2のモル比、表面被覆率および量子効率をまとめて表1に示す。
【0032】
【表1】
a=混合自己組織化単分子膜の形成に用いられた1:2のモル比(CH2Cl2溶液)
b=電気化学的及び吸収測定からの金電極上の1:2のモル比
c=金表面上のλmax(1:430nm;2:510nm)
d φ=(i/e)/〔I(1-10-A)〕,I=(Wλ)/(hc)(ここで、iは光電流密度、eは電子の電荷 Iは単位面積、時間当たりのフォトン数 λは入射光の波長
Aは吸着色素のλnmでの吸光度 Wはλnmでの入射高強度 cは光速 hはプランク定数
【0033】
このように、本発明の自己組織化単分子膜は人工光合成膜として働くことは、図1におけるそれぞれの過程が実験的に証明できることからも、理解できる。前記本発明の人工光合成膜は、出力として光電流を発生させるものとしてこれまで連結分子を用いて金電極上および人工膜での単分子膜で記録された中で最も高い量子収率(吸収された光子数に対する発生した光電子数)(50±8%)を、前記システム(系)を用いた最適実験条件下において、光誘起ENおよび多段階ETが共役した三次元的な一連の過程により達成できる。
【0034】
ボロン−ジピリン部分(化合物2におけるB)は、502nm(ε=8.5x104M-1cm-1)に適度な強度の吸収帯を持ち長寿命の励起一重項状態(〜5ns)を示す。化合物1においてポルフィリン部分が、主に光を吸収し、青色領域(〜420nm)に強い吸収および緑色領域に弱い吸収帯を有するが、化合物2を化合物1/Auに組み込むことにより、図2(Fig.3a)に示されるように、緑色領域および青色領域における吸収特性をかなり向上させることができる。更に、溶液において化合物2の蛍光発光帯は化合物1中のポルフィリン部分の吸収帯と良く重なっている。化合物2/Auの蛍光スペクトルは、本質的にはCH2Cl2中の化合物2のそれと同じ(λmax=508nm)であり、該蛍光は化合物1/Auの吸収と良く重なる。
【0035】
化合物2から化合物1のポルフィリン部分への効率的なエネルギー移動(EN)確認するために、化合物2と類似の長さの中間部(spacer)を持つポルフィリン参照化合物3(以下、2,3/Auという)
【0036】
【化12】
【0037】
との混合自己組織化単分子膜を、化合物2および3(50:50モル比)を含むCH2Cl2溶液から、Au(111)マイカ基体上に共吸着させることにより調製した。2,3/Auの蛍光スペクトルは、化合物1(λex=510nm)または化合物3(λex=420nm)のどちらの励起波長で励起しても、ポルフィリン部分(λmax=654,716nm)からの発光のみが観測され、ボロン−ジピリン部分からの発光は観測されない。モニター光をポルフィリン側からの発光のみを観測できるように固定した場合(λem=650nm)、2,3/Auの励起スペクトルは2,3/Auの吸収スペクトルとよく一致する(図2b)。上記の結果から、アンテナ染料としてのボロン−ジピリン染料の励起により、混合自己組織化単分子膜中のボロン−ジピリン部分から化合物3のポルフィリンへ効率的な一重項−一重項エネルギー移動(EN)が生じていることがわかる。化合物1の吸収スペクトルは化合物3の吸収スペクトルと本質的に同じであるから、ボロン−ジピリン部分からポルフィリンへの効率的な一重項−一重項エネルギー移動(EN)が、1,2/Au中でも起こることが期待できる。一方、1,2/Auの蛍光は、1P*からC60への速い電子移動(ET)により生ずる消光のため検出できない。換言すれば、ET1により1P*の効率的消光していることを裏付けており、本発明の目的の系が成立していることを強く支持している。
【0038】
図1に基づく光電流の発生を確認するために、Au/1,2/MV2+/Pt電池と以下で称する三極系中における金電極上の化合物1および2の混合自己組織化単分子膜を用いて光電気化学的測定を、最適化条件下〔電解質溶液:電子キャリヤーとして30mMのメチルビオローゲン(methyl viologen(MV2+)を含むO2−飽和0.1MNa2SO4溶液;入力電力:380μWcm-2;印加電圧:-200mV、Ag/AgCl電極に対して〕で行った。図3(Fig.4)は、Au/化合物1/MV2+/Pt電池の作用スペクトルおよび金電極上の1,2/Au(50:50)の吸収スペクトルと対比したAu/1,2(50:50)/MV2+/Pt電池の作用スペクトルを示す。Au/化合物1/MV2+/Pt電池の作用スペクトルは大きなところで金表面上の吸収スペクトルと一致し、ボロン−ジピリン部位が光電流に関与していることを示している。すなわち、化合物2中の1B*から電子キャリヤー(O2およびMV2+)への直接の光誘起電子移動(ET)が起こり、引き続き金電極からB・+への電荷シフトが生じてカソード光電流が発生する(図1)。しかしながら、Au/化合物2/MV2+/Pt電池の量子収率〔1.6±0.3%(510nm)〕は、Au/2,1(50:50)/MV2+/Pt電池の量子収率〔45±8%、(510nm)〕効率に比べて圧倒的に低い、換言すれば本発明の系の量子効率はボロン−ジピリン部位のみの系に比べて約30倍効率が高い。
【0039】
以上においては、アンテナ化合物としてボロン−ジピリンチオール化合物を用いた場合について説明したが、ボロン−ジピリン部分を、ポルフィリン誘導体(ポルフィリンの多量体、オリゴマーやポリマー)、シアニン色素、ポリエン等とすることも可能である。また、電極材料として、Ag、Pt、ITO(インジウムスズ酸化物)又はSnO2などを用いても前記光エネルギー・電気エネルギー変換系である人工光合成集合体を作成することが可能である。
【0040】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の人工光合成膜は、出力として光電流を発生させるものとしてこれまで記録された中で最も高い量子収率(50±8%)を達成できるという優れた作用・効果がもたすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 酸化還元電位を基準とする光電流発生メカニズム
【図2】 化合物1〜3の吸収・発光スペクトル
【図3】 Au/化合物2/MV2+/Pt電池の作用スペクトルおよび金電極上の1,2/Au(50:50)の吸収スペクトルとAu/1,2(50:50)/MV2+/Pt電池の作用スペクトル
Claims (2)
- 基体表面に形成された金属又は半導体膜表面に共有結合又は配位結合により一般式(A)で表されるボロン−ジピリン部分を有するエネルギードナー化合物及び一般式(B)で表される三元系を持つエネルギーアクセプター化合物を両化合物間でエネルギー移動可能に混合自己組織化した単分子膜として形成されていることを特徴とする光エネルギー・電気エネルギー変換素子。
- 基体上に形成される金属又は半導体は、Au、Ag、Pt、ITO(インジュウムスズ酸化物)又はSnO2から選択され、請求項1に記載の一般式(A)および請求項1に記載の一般式(B)のBin.の共有結合又は配位結合により結合させる結合基を提供する基は、SH基からのS−、NH2基からのNH−、PO3H基からのPO3 −、−S−S−結合からのS−S、Si(OCH3)3からのSi−からなる群から独立に選択されることを特徴とする請求項1に記載の光エネルギー・電気エネルギー変換素子。
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