JP4305031B2 - Bを含有するステンレス鋼材の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、B含有ステンレス鋼材の製造方法に関し、さらに詳しくは、その用途を特定するものではないが、核燃料輸送用容器、使用済み核燃料貯蔵ラックなどの原子力関連機器の中性子遮蔽材、さらに燃料電池用のセパレーター材として用いることができる、B含有ステンレス鋼材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ボロン(B)の優れた熱中性子吸収作用を利用して、Bを添加したステンレス鋼が、核燃料輸送容器、使用済核燃料保管ラックなどの熱中性子の制御材および遮断材として、用いられている。一般に、原子力発電所で使用された使用済核燃料は、再処理工場にて処理されるまで、発電所内のプール内に保管される。限られた敷地内で、できるだけ多くの使用済核燃料を保管したいとのニーズから、B含有ステンレス鋼に添加されるB含有量を増加させ、鋼材の板厚は薄くする傾向にある。
【0003】
オーステナイト系ステンレス鋼は、その表面に不働態体皮膜が形成されているため耐食性に優れており、Bを含有させることにより電気抵抗特性が改善されることにより、耐食性が要求される通電電気部品として使用することが可能になっている。優れた耐食性とともに電気抵抗特性が要求される通電電気部品の用途例として、水素および酸素を利用して直流電力を発電する燃料電池用のセパレータがある。このため、燃料電池用のセパレーター材としてもB含有ステンレス鋼が使われるようになり、鋼材の板厚はさらに薄くなることが予想される。
【0004】
B含有ステンレス鋼の熱間加工は、加熱炉によるスラブの加熱と、鍛造や圧延などの加工とを繰り返して被加工材の温度低下を防止することにより、熱間加工性を確保しながら行われている。B含有量が増加すると熱間加工性が劣るため、被加工材の温度低下を防止しながら加工することが必要となり、その結果、加熱と加工の繰り返し回数を増加せざるを得ない。したがって、B含有量の増加や鋼の薄肉加工は、製造コストの上昇を招くことになる。
【0005】
上述の問題に対処するため、従来より、種々の方法が試みられてきた。例えば、特許文献1には、0.3〜2.0wt%のBを含有するオーステナイト系ステンレス鋼材の側部に、ステンレス鋼材よりも変形抵抗が小さい鋼材を溶接により被覆した素材を、(53B+700)℃(ここで、B:B含有量(wt%))以上の温度で仕上げ圧延することにより、耳割れの発生を防止する鋼材の熱間圧延方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、この方法では、精度の高い開先形状を有するフレーム材を用意し、しかも熱間加工時にそれが剥離しないように溶接する必要がある。したがって、通常、80mm以上の厚さを有するインゴット(鋳造鋼塊)や分塊鍛造スラブの熱間加工にこの方法を適用するためには多大な溶接工数を必要とする。
また、幅1000mmを超える広幅材の圧延では、上記温度以上の仕上げ温度を確保することが困難となる場合が多く、現実には耳割れの発生を防止することが困難である。
特許文献2には、Bを0.3〜2.5質量%含有するオーステナイト系ステンレス鋼片を熱間圧延するに際し、その側面に、Ni:4%以下、B:0.1〜0.4%を含有するステンレス鋼からなる厚さ3mm以上の肉盛り溶接被覆層を設けて、熱間加工する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、この肉盛り溶接方法において、割れを防止するに十分な溶接厚みを確保するために溶接パス数が多くなり、溶接工数が増加する。また、溶接割れが発生すると、それが起点となって耳割れの発生につながる場合があり、耳割れの発生を完全に防止することが難しい。
【特許文献1】
特開平4−253506号公報(特許請求の範囲、図1および図2)
【特許文献2】
特開平2001−239364号公報(特許請求の範囲、図1および図2)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、B含有量の高いステンレス鋼片を、少ない溶接工数でプロテクト材を溶接してのち、耳割れを発生させることなく熱間および冷間加工を施すことができるステンレス鋼材の製造方法を提供することを目的としている。
【0009】
より具体的には、プロテクト材を高能率の電子ビーム溶接により側面に溶接して、熱間圧延、さらには冷間圧延を施す場合でも、被圧延材の耳割れや内部割れの発生を防止することができるB含有ステンレス鋼材の製造方法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を達成するために、B含有ステンレス鋼材の製造方法について検討を重ねた結果、上述した従来技術では溶接パスが非常に多くなり、多大な溶接工数を必要とすることから、エネルギー密度が高く高能率である電子ビーム溶接に着目した。電子ビーム溶接は1パスで溶接できるので、溶接能率向上には大きな効果を発揮する。
【0011】
ところが、スラブ(母材)板厚が厚くなると、プロテクト材とスラブとを板厚方向に完全に接合することは難しくなる。当然、電子ビームの容量を大きくすれば、スラブの板厚方向にわたって完全に接合することができるが、莫大な設備投資が必要となり実用的でない。
【0012】
そこで、本発明者らは、プロテクト材とスラブとを板厚方向に完全に接合させなくても、圧延中にプロテクト材が剥離せず、同時にスラブ(母材)に耳割れが発生することがないB含有ステンレス鋼材の製造方法について鋭意検討し、下記の(a)および(b)の知見を得ることができた。
(a)溶接接合に際し、プロテクト材とスラブ(母材)との接合部に板厚方向にわたって接合していない部分(以下、「未接合部」という)があっても、この未接合部が一定の条件を満足することによって、その後の圧延においてプロテクト材が剥離することがなく、同時に圧延中にスラブ(母材)に耳割れが発生することがない。
(b)板厚方向での未接合部の長さ比率が高くなる場合、プロテクト材の厚さが薄くなる場合には、圧延中に未接合部のプロテクト材が湾曲して空隙が発生し、被プロテクト材であるスラブ(母材)に内部割れを誘発することがある。この場合には、未接合部の長さ比率を低くし、プロテクト材の厚さを厚くすれば、圧延中の未接合部に空隙が発生するのを防止できる。
【0013】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(4)のB含有ステンレス鋼材の製造方法にある。
(1)Bを0.3〜2.5質量%含有するステンレス鋼片の加工面を除く、少なくとも対向する側面にプロテクト材を溶接接合する際に、前記プロテクト材とステンレス鋼片との接合部に未接合部を存在させて溶接したのち、圧延加工をす製造方法であって前記未接合部の長さL(mm)と前記プロテクト材の厚さb(mm)とが下記(1)式の関係を満足することを特徴とするB含有ステンレス鋼材の製造方法である。
b≧[11.1×(L/H) 2 +1.0]×(R/100) 0.5 ×(H/50)・・(1)
ここで、Rはワークロール半径(mm)、Hは母材板厚(mm)、Lは前記母材板厚方向における未接合部の長さL(mm)を示す
【0014】
(2)さらに、上記(1)の製造方法では、前記プロテクト材の溶接接合が電子ビーム溶接で行うのが望ましい。
(3)上記(1)の製造方法において、圧延加工に際し、前記ステンレス鋼片を1100℃以上に加熱し、圧延終了温度が700℃以上で熱間圧延することができる。また、熱間圧延された鋼材のプロテクト材を切断除去することなく、さらに冷間圧延することもできる。
(4)上記(3)の製造方法によって製造されたB含有ステンレス鋼材を中性子遮蔽容器、または燃料電池用セパレータとして使用するのが望ましい。
【0015】
図1および図2は、本発明の構成を説明する図であり、図1は、本発明が対象とするB含有ステンレス鋼片と、その側面に溶接接合されるプロテクト材との構成を説明する図である。また、図2は、前記図1のA部の詳細を示し、プロテクト材とステンレス鋼片との接合部に未接合部が存在する状態を説明する図である。
【0016】
本発明において、「ステンレス鋼片」とは、連続鋳造スラブ、分塊鍛造スラブ、分塊圧延スラブおよび鋳造されたインゴット(鋼塊)をいい、図1に示される母材がこれに相当する。これらの鋼片は、一般に直方体であり、その長手方向に延伸させるべく熱間圧延や鍛造などの熱間加工が施される。さらに、必要に応じて、冷間加工も施される。
「加工面を除く、少なくとも対向する側面」とは、圧延や鍛造などの加工を受ける加工面以外の面のうち、少なくとも対向する側部2面をいう。例えば、圧延の場合は、圧延ロールと接触しない長手方向の2側面、またはこれらを含めて頭部や尾部の端面が含まれていてもよい。鍛造の場合は、ラムと接触しない対向する側部2面、またはこれらを含めて3〜4面が含まれてもよい。
「プロテクト材の厚さ」とは、図1および図2に示すように、プロテクト材を母材に接合する前の、加工面と平行な面内における、鋼片の側面からのプロテクト材の厚さbをいう。接合後の鋼片においては、プロテクト材単身の厚さおよびプロテクト材中の溶接金属厚さの合計厚さをいう。ただし、未接合部の長さLに相当するプロテクト材厚さbは、プロテクト材単身の厚さで示される。
【0017】
「溶接金属」とは、図2に示すように、接合部の一部であって、接合前の母材およびプロテクト材が接合により溶融凝固した金属部分をいう。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法は、Bを0.3〜2.5質量%含有するステンレス鋼片の加工面を除く、少なくとも対向する側面にプロテクト材を溶接接合する際に、前記プロテクト材とステンレス鋼片との接合部に未接合部を存在させて溶接したのち、圧延加工または/および鍛造加工を施すことを特徴とするものである。以下に、本発明の内容を、未接合部の構成条件、母材の成分組成、並びに熱間加工および冷間加工に区分して説明する。
1.未接合部の構成条件
母材の側面にプロテクト材を接合する際、従来の溶接法、例えば、電子ビーム溶接を用いる場合に、溶接接合部に未接合部が存在しても、圧延中にプロテクト材が剥離することなく、同時に圧延中に母材に耳割れを発生させることがない条件について検討した。
【0019】
母材として厚肉スラブのB含有ステンレス鋼を用い、その側面にプロテクト材を電子ビーム溶接で接合した。電子ビーム溶接の条件は下記(a)(d)の条件に設定して、溶接接合部の表面および裏面から溶接を行った。
【0020】
(a)溶接電流:450mA、
(b)溶接速度:100mm/分、
(c)電子ビーム振幅:±2mm、
(d)焦点距離:400mm
次に、母材のB含有ステンレス鋼の化学組成は、質量%で、C:0.027%、Si:0.03%、Mn:0.94%、P:0.031%、S:0.002%、Cr:19.64%、Mo:0.62%、Al:0.09%、Ni:9.47%、N:0.04%およびB:1.17%とした。また、母材寸法は、板厚Hで140mm、125mmおよび90mmの3種類とし、それぞれ板幅150mm、板長400mmの小型試片を準備した。
【0021】
さらに、プロテクト材の化学組成は、質量%で、C:0.024%、Si:0.35%、Mn:1.23%、P:0.031%、S:0.002%、Cr:18.25%、Mo:0.01%、Al:0.03%、Ni:8.53%およびN:0.03%とした。そして、電子ビーム溶接試験に供したプロテクト材の厚みbは30mmとした。
【0022】
上記の溶接条件の電子ビーム溶接を行うと、B含有オーステナイトステンレス鋼の母材とプロテクト材は、それぞれ厚さ5mm程度にわたって溶融し、合わせて10mm程度の厚さからなる溶接金属が発生した。
【0023】
母材とプロテクト材との溶接完了後、長さ方向に長さ100mmの小型圧延サンプルを切り出し、得られた小型圧延サンプルからプロテクト材を研削して、厚さbを0〜10mmの範囲で変動させた数種類のプロテクト材を準備した。
【0024】
上記(a)(d)の溶接条件によれば、前記図2に示すように、未接合部が板厚方向であってその板厚の中心部に発生し、その未接合部の長さLは母材板厚Hが140mmの場合に30mm、母材板厚Hが125mmの場合に15mm、母材板厚Hが90mmの場合に0mm(発生なし)であった。
【0025】
溶接後の母材の溶接面の上面および下面を研削して、板厚中心部50mmを切削し、試験素材とした。試験素材の寸法、条件を表1に示す。
【0026】
【表1】
Figure 0004305031
【0027】
表3に示す試験素材を用いて耳割れを評価するため、実験室規模の試験圧延機を用いて圧延を実施した。図3は、試験圧延に用いた圧延機の配置と圧延方法を模式的に説明する図である。
【0028】
試験素材を加熱温度1180℃で1時間以上加熱し、仕上げ温度700℃で圧延した。仕上げ板厚は2mm狙いとして、総圧下比(初期板厚/仕上板厚)が25となるように、ワ一クロール直径200mmの4段圧延機F1により多パスの熱間圧延を行った後、ワークロール直径220mmの4段圧延機F2およびF3の2機と組み合わせて3スタンドの連続圧延を用い、最終パスでは張力を加えながら仕上げ圧延を実施した。このときの各圧延パスの圧延スケジュールは、表2に示す。さらに、試験圧延の結果を表3に示す。
【0029】
【表2】
Figure 0004305031
【0030】
【表3】
Figure 0004305031
【0031】
表3に示す総圧下比の値は、実操業で想定される総圧下比の値と同程度、またはそれ以上の値とした。総圧下比が小さいと耳割れが発生しにくくなるため、実操業を想定した正確な耳割れ評価を、上述した実験室規模の試験圧延機で実施するためである。
【0032】
表2および表3の結果から、未接合部の長さLと板厚Hの比率、すなわち、未接合率(L/H)が60%の場合(符号A、B、C)でも、プロテクト材の厚さが5mm以上(符号BのWS、符号CのDSおよびWS)であれば、耳割れの発生がないことがわかる。
【0033】
図4は、試験圧延での耳割れの発生状況をプロテクト材厚さbと未接合率(L/H)との関係で示す図である。図4に示す、プロテクト材厚さb(mm)、未接合部長さL(mm)および母材肉厚H(mm)の関係から、耳割れの発生しない条件を求めると次の(10)式を得る。
【0034】
b≧11.1×(L/H)2+1.0 ・・・ (10)
試験素材のうち未接合部長さLが長く、プロテクト材厚さbが薄い条件での未接合部付近の断面観察を行うと、未接合部のプロテクト材が幅方向に湾曲して発生した空隙が観られ、内側の母材には圧延方向に発生した割れが観察された。これは、未接合部のプロテクト材が圧延されずに座屈して、母材とプロテクト材の間に大きな空隙が発生し、座屈に伴う板厚方向の引張力により内部割れが発生したものである。この空隙、内部割れ発生状況は、表3に示す通りである。
【0035】
図5は、試験圧延での未接合部の空隙の発生状況をプロテクト材厚さbと未接合率(L/H)との関係を示す図である。図5に示す結果から、空隙の発生しない条件は、下記の(11)式となる。
【0036】
b≧17.0×(L/H)2+1.0 ・・・ (11)
上記(11)式に示す空隙は、耳割れの発生しない条件でも発生することを示しているが、耳割れのような圧延トラブルを引き起こす性質は有していない。このため、耳割れを発生させない、上記(10)式の関係を満足する限りにおいて、操業上大きな問題とならない。
【0037】
しかしながら、空隙発生により生じる内部割れは、最終製品に残ると製品欠陥となるため、製品採寸時にはトリム等により排除する必要があり、歩留り低下の要因となり得る。このため、上記(11)式を満足するように、プロテクト材厚bおよび未接合部長さLおよび板厚Hを選択するのが望ましい。
【0038】
上述した試験圧延の結果は、実操業に用いられる実圧延機に比較して縮尺比が1/2〜1/5の試験圧延機を用いて圧延した結果である。したがって、本試験圧延の結果に基づいて、実操業における耳割れ防止に必要なプロテクト材厚さを推定する必要がある。以下に、実操業における好ましいプロテクト材厚さを説明する。
【0039】
本発明者らが、種々の条件でエッジ部張力の解析を実施した結果、この引張応力が作用する幅方向端部からの距離∂Wcは、下記(12)式で示される比例関係を有することが判明した。
【0040】
∂Wc=K×R0.5×h ・・・ (12)
ここで、Rはワークロールの半径、hは板厚、Kは比例定数を示す。
【0041】
したがって、実操業での耳割れ防止に必要なプロテクト材厚さbは、実圧延機のワークロール半径をR、仕上げ板厚をhとし、試験圧延機のワークロール半径をRo、仕上げ板厚をho、プロテクト材の厚さをboとすると、下記(13)式により求めることができる。
【0042】
b≧bo×(R0.5×h)/(Ro0.5×ho) ・・・ (13)
前述の通り、試験圧延機による試験圧延では、実操業で想定される総圧下比と同程度以上の値を確保する必要があるため、総圧下比をCとすると、前記(13)式は、下記(14)式のように書き換えらることができる。
【0043】
b≧bo×(R/Ro)0.5×[(H/C)/(Ho/C)]
=bo×(R/Ro)0.5×(H/Ho) ・・・ (14)
ここで、Hは実操業圧延における初期板厚、Hoは試験圧延における初期板厚を示す。
【0044】
上記(14)式に、試験圧延によって得られた前記表2の試験結果に基づき、Ro=100mm、Ho=50.0mmを代入すると、下記(15)式を得ることができる。
b(mm)≧bo×(R/100)0.5×(H/50.0) ・・・ (15)
boは、前記(10)式で示される関係式を援用できるので、最終的には下記の(1)式を満足することで、実操業における耳割れを防止することが可能になる。
【0045】
b≧[11.1×(L/H)2+1.0]×(R/100)0.5×(H/50)・・・ (1)
また、空隙による内部割れも防止するには、上記(11)式の関係式を援用して、下記の(2)式を得ることができる。したがって、内部割れを防止するには、下記の(2)式を満足するのが望ましい。
【0046】
b≧[17.0×(L/H)2+1.0]×(R/100)0.5×(H/50)・・・ (2)
2.母材の化学組成
母材は、Bを0.3〜2.5質量%含有するのを必須とする。これは、被熱間加工材であるB含有ステンレス鋼片中のB含有量が0.3%未満では、熱中性子吸収能が十分ではなく、また燃料電池用セパレータ材の電気抵抗特性の改善も十分でないので、B含有量は0.3%以上とする。
【0047】
B含有量の増加とともに熱中性子吸収能や電気抵抗特性が改善するが、B含有量が2.5%を超えると、常温における延性および靭性の劣化が顕著となるので、含有量は2.5%以下とする。
また、母材は、オーステナイト系ステンレス鋼であってもフェライト系ステンレス鋼であってもよいが、燃料電池用セパレータ材として機能を発揮させる場合には、オーステナイト系ステンレス鋼に限定される。
【0048】
本発明では、母材のB含有ステンレス鋼のB以外の成分は限定しないが、望ましい他の成分組成の範囲は次のようになる。
C:0.08%以下:
Cは強度を確保する作用を有する元素である。しかし、0.08%を超えて含有されると耐食性劣化や熱間加工性劣化の原因となる。したがって、含有量を0.08%以下とすることが望ましい。0.01%以上であれば、さらに望ましい。
【0049】
Si:1%以下:
Siは脱酸剤として添加されるが、耐酸化性を向上させる作用も有する元素である。しかし、1%を超えて含有されると溶接割れ感受性が高くなる。よって、含有量を1%以下とすることが望ましい。
【0050】
P:0.04%以下:
Pは鋼中の不純物元素であり、その含有量が0.04%を超えて含有されると溶接割れ感受性が高くなるので、0.04%以下とすることが望ましい。
【0051】
S:0.01%以下:
Sは鋼中の不純物元素であり、その含有量が0.01%を超えて含有されると溶接割れ感受性が高くなるので、0.01%以下とすることが望ましい。
【0052】
Cr:5%以上:
Crは耐食性を向上させる作用を有する元素であり、その含有量が5%以上で、望ましい効果が得られる。したがって、含有量を5%以上とすることが望ましい。一方、含有量が30%を超えると熱間加工が困難となることがあるので、その含有量は30%以下とすることがより望ましい。
【0053】
N:0.05%以下:
NはBと結合して、靱性を悪化させる。十分な靱性を確保するためには0.05%以下とすることが望ましい。
Mo:5%以下、Cu:0.5%以下およびAl:0.3%以下:
これらの元素は、上記の含有量の範囲内で必要に応じて含有させれば、より一層、耐食性を向上させる効果を発揮する。したがって、これらの効果を要求される場合には、上記の含有量の範囲内で、単独または組み合わせて含有させることが望ましい。
3.熱間加工および冷間加工
熱間加工は、分塊鍛造、厚板圧延、および熱延鋼帯圧延などをいう。鋼片の加熱温度は、溶融脆性を生じない範囲において高温とするのが望ましい。B含有ステンレス鋼の場合は、1100〜1200℃の範囲とするのが望ましい。
【0054】
熱間鍛造あるいは熱間圧延における仕上げ温度は、高い方が耳割れ防止の観点からは望ましい。しかし、プロテクト材の熱間変形能が許す限り、700〜800℃の低温仕上げとすることも可能である。
【0055】
さらに、燃料電池用セパレータ材としてB含有ステンレス鋼を用いる場合には、熱間加工の後、冷間加工として冷延鋼帯圧延を施して冷延鋼板に仕上げ加工を行い、得られた薄板をプレス成形して所定の断面形状にする。
【0056】
上述のようにして得られた高い信頼性と生産性に裏付けされたB含有ステンレス鋼材は、中性子遮蔽容器用、さらには燃料電池用セパレータ材等の機能を発揮する用途の鋼材として好適である。
【0057】
【実施例】
本発明の製造方法の効果を確認するため、母材として、化学組成が質量%で、C:0.027%、Si:0.03%、Mn:0.94%、P:0.031%、S:0.002%、Cr:19.64%、Mo:0.62%、Al:0.09%、Ni:9.47%、N:0.04%およびB:1.17%であるB含有ステンレス鋼スラブを準備した。また、スラブ寸法は、板厚H150mm、板幅1080mm、板長5500mmとした。
【0058】
さらに、プロテクト材の化学組成は、質量%で、C:0.024%、Si:0.35%、Mn:1.23%、P:0.031%、S:0.002%、Cr:18.25%、Mo:0.01%、Al:0.03%、Ni:8.53%およびN:0.03%として、プロテクト材厚みbは30mmとした。
【0059】
電子ビーム溶接の条件は下記▲1▼〜▲4▼の条件に設定して、溶接接合部の表裏から溶接をおこなった。電子ビーム溶接後の未接続部長さLは40mmであった。
【0060】
▲1▼ 溶接電流:450mA、
▲2▼ 溶接速度:100mm/分、
▲3▼ 電子ビーム振幅:±2mm、
▲4▼ 焦点距離:400mm
溶接後のスラブを熱間鍛造、手入れをして、スラブ寸法を板厚120mm、板幅1080mm、板長6000mmとしたのち、表4に示すワークロール半径Rを有する熱間圧延ミルF0〜F6を用いて、熱間圧延を行った。
【0061】
【表4】
Figure 0004305031
【0062】
上記の熱間鍛造、熱間圧延前のプロテクタ材厚さbと未接合部長さLの関係は、前記(1)式を用いて評価すると、下記の通りであり、前記(1)式の関係を満足している。
【0063】
30mm≧[11.1×(40/150)2+1.0]
×(370/100)0.5×(150/50)=10.33mm
加熱温度は1180℃の設定で、粗圧延ミルで38mmまで熱間圧延した後、仕上圧延ミルで6mmまで仕上圧延を行った。熱間圧延の圧下比は20(熱間鍛造を含め、圧下比25)、仕上温度は990℃、巻取り温度は780℃であった。その結果、耳割れの発生もなく、健全な熱間圧延コイルの製造に成功し、本発明の効果を確認できた。
【0064】
さらに、得られた熱間圧延コイルのプロテクト材を残したまま焼鈍、酸洗を行った後、ワークロール直径が54mmの20段ゼンジミアミルにて、肉厚を6.0mmから3.0mmまで冷間圧延を行った。その結果、耳割れや内部割れが発生することなく冷間圧延を完了し、本発明の製造方法によれば、冷間圧延における耳割れ、内部割れの防止にも効果があることが確認できた。
【0065】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、B含有量の高いステンレス鋼片の側面に、高能率の電子ビーム溶接によりプロテクト材を接合する場合に、接合部に未接合部を存在させて溶接したのち、圧延しても耳割れの発生を防止し、高い生産性と優れた品質のもとにB含有ステンレス鋼材を提供できる。
【0066】
これにより、得られたB含有ステンレス鋼材は、例えば、中性子遮蔽容器用、さらには燃料電池用セパレータ材等の用途に最適となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が対象とするB含有ステンレス鋼片と、その側面に溶接接合されるプロテクト材との構成を説明する図である。
【図2】プロテクト材とステンレス鋼片との接合部に未接合部が存在する状態を説明する図である。
【図3】試験圧延に用いた圧延機の配置と圧延方法を模式的に説明する図である。
【図4】試験圧延での耳割れの発生状況をプロテクト材厚さbと未接合率(L/H)との関係で示す図である。
【図5】試験圧延での未接合部の空隙の発生状況をプロテクト材厚さbと未接合率(L/H)との関係を示す図である。

Claims (6)

  1. Bを0.3〜2.5質量%含有するステンレス鋼片の加工面を除く、少なくとも対向する側面にプロテクト材を溶接接合する際に、前記プロテクト材とステンレス鋼片との接合部に未接合部を存在させて溶接したのち、圧延加工をす製造方法であって
    前記未接合部の長さL(mm)と前記プロテクト材の厚さb(mm)とが下記(1)式の関係を満足することを特徴とするB含有ステンレス鋼材の製造方法
    b≧[11.1×(L/H) 2 +1.0]×(R/100) 0.5 ×(H/50)・・(1)
    ここで、Rはワークロール半径(mm)、Hは母材板厚(mm)、Lは前記母材板厚方向における未接合部の長さL(mm)を示す
  2. 前記プロテクト材の溶接接合が電子ビーム溶接で行われることを特徴とする請求項1に記載のB含有ステンレス鋼材の製造方法。
  3. 圧延加工に際し、前記ステンレス鋼片を1100℃以上に加熱し、圧延終了温度が700℃以上で熱間圧延することを特徴とする請求項1または2に記載のB含有ステンレス鋼材の製造方法。
  4. プロテクト材を切断除去することなく、さらに冷間圧延することを特徴とする請求項3に記載のB含有ステンレス鋼材の製造方法。
  5. 請求項3または4に記載の方法により製造されたB含有ステンレス鋼材を使用した中性子遮蔽容器。
  6. 請求項3または4に記載の方法により製造されたB含有ステンレス鋼材を使用した燃料電池用セパレータ。
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