JP4301714B2 - スクロール圧縮機 - Google Patents
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- F04C18/0269—Details concerning the involute wraps
- F04C18/0276—Different wall heights
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、空気調和装置や冷凍装置等に具備されるスクロール圧縮機に関する。
【0002】
【従来の技術】
スクロール圧縮機は、固定スクロールと旋回スクロールとを渦巻き状の壁体どうしを組み合わせて配置し、固定スクロールに対し旋回スクロールを公転旋回運動させることで壁体間に形成される圧縮室の容積を漸次減少させて該圧縮室内の流体の圧縮を行うものである。
【0003】
スクロール圧縮機の設計上の圧縮比は、圧縮室の最小容積(壁体どうしのかみ合いが外れて圧縮室が消滅する直前の容積)に対する、圧縮室の最大容積(壁体どうしがかみ合って圧縮室が形成された時点の容積)の比であり、次式(I)で表される。
Vi={A(θsuc)・L}/{A(θtop)・L}=A(θsuc)/A(θtop) … (I)
(I)式において、A(θ)は旋回スクロールの旋回角θに応じて容積を変化させる圧縮室の旋回面に平行な断面積を表す関数、θsucは圧縮室が最大容積となるときの旋回スクロールの旋回角、θtopは圧縮室が最小容積となるときの旋回スクロールの旋回角、Lは壁体どうしのラップ(重なり)長である。
【0004】
従来、スクロール圧縮機の圧縮比Viの向上を図るには、両スクロールの壁体の巻き数を増やして最大容積時の圧縮室の断面積A(θ)を大きくする手法が採られてきた。しかしながら、壁体の巻き数を増やす従来の手法ではスクロールの外形が拡大して圧縮機自体が大型化するため、大きさの制限が厳しい自動車用等の空気調和装置には採用し難いという問題点があった。
【0005】
上記の問題点を解決すべく、特公昭60-17956号には、固定スクロール、旋回スクロールともに壁体の渦巻き状の上縁を中心側が低く外周端側が高い段付き形状とし、さらにこの上縁の段付き形状に対応して、両スクロールともに端板の側面を中心側が高く外周端側が低い段付き形状としたスクロール圧縮機が提案されている。
【0006】
上記スクロール圧縮機において、最大容積時の圧縮室のラップ長をLl、最小容積時の圧縮室のラップ長をLsとすると、設計上の圧縮比Vi’は次式(II)で表される。
Vi’={A(θsuc)・Ll}/{A(θtop)・Ls} … (II)
(II)式においては、最大容積時の圧縮室のラップ長Llが最小容積時の圧縮室のラップ長Lsよりも大きく、Ll/Ls>1となるから、壁体の巻き数を増やさなくても、設計上の圧縮比を向上させることが可能である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようにスクロールに段付き形状を採用した圧縮機においては、スクロールの加工に手間が掛かり、しかもコスト高となるという問題がある。そこで、固定スクロール、旋回スクロールいずれか一方のスクロールの壁体にのみ段差を設け、これに対応するべく他方のスクロールの端板にのみ段差を設けたスクロール圧縮機が提案されている(特公昭60-17956号の第8図参照)。この圧縮機では、壁体の段差加工、および端板の段差加工が両スクロールで1カ所ずつで済み、加工性が高いことが認められる。
【0008】
しかしながら、上記のようなスクロール圧縮機では、スクロール圧縮機構の中央を挟んで正対する2つの圧縮室の容積が、圧縮の過程で等しくならない状態が存在する。そのため、実際に駆動すると2つの圧縮室間で圧力バランスが崩れ、最悪の場合は圧縮機の内部構造を破壊する要因となることが予想される。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、スクロールに段付き形状を採用したスクロール圧縮機において、スクロールの加工に要する手間やコストを削減でき、しかも安全に駆動させることができるスクロール圧縮機を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するための手段として、次のような構成のスクロール圧縮機を採用する。すなわち請求項1記載のスクロール圧縮機は、端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、定位置に固定された固定スクロールと、端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、前記各壁体どうしをかみ合わせて自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持された旋回スクロールとを備え、前記固定スクロールまたは前記旋回スクロールのいずれか一方に具備される前記壁体の上縁は、複数の部位に分割されかつ該部位の高さが渦方向の中心側で低く外周端側で高くなる段付き形状とされ、前記固定スクロールまたは前記旋回スクロールのいずれか他方に具備される前記端板の一側面は、前記上縁の各部位に対応し、その高さが渦方向の中心側で高く外周端側で低くなる複数の部位を有する段付き形状とされたスクロール圧縮機であって、複数に分割された前記上縁の各部位どうしを繋ぐ連結縁と複数に分割された前記一側面の各部位どうしを繋ぐ連結壁面との接触によって画成され、かつ、前記各壁体の接触によって画成されるスクロール圧縮機構の中央を挟んで正対する2つの圧縮室のいずれか一方が前記段付き形状を有する位置の時に、これら2つの圧縮室を連通する連通路が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載のスクロール圧縮機は、請求項1記載のスクロール圧縮機において、前記一方に吐出ポートが設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載のスクロール圧縮機は、請求項1または2記載のスクロール圧縮機において、前記連通路の両端が、前記圧縮室を画成する前記壁体の外側面と内側面とが同時に噛み合う2つの箇所にそれぞれ開口していることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るスクロール圧縮機においては、正対する2つの圧縮室が圧縮のある過程で容積を異ならせてしまうが、当該の圧縮過程において連通路を通じて両圧縮室間で流体が流通するため、内部圧力の不均衡が是正される。これにより、圧縮機を安全に駆動させることができる。
【0014】
また、固定スクロール、旋回スクロールいずれか一方のスクロールの壁体にのみ段差を設け、これに対応するべく他方のスクロールの端板にのみ段差を設けることにより、スクロールの加工が従来に比べて簡単になり、加工性が向上するとともに加工に要するコストを削減することができる。
【0015】
さらに、段差をもたないスクロールに吐出ポートを設けることにより、吐出ポート内容積が減少し、吐出ポートから圧縮室への流体の逆流による動力損失が抑えられるので、圧縮効率の向上が図れる。
【0016】
請求項4記載のスクロール圧縮機は、端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、定位置に固定された固定スクロールと、端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、前記各壁体どうしをかみ合わせて自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持された旋回スクロールとを備え、前記各壁体の上縁は、複数の部位に分割されかつ該部位の高さが渦方向の中心側で低く外周端側で高くなる段付き形状とされ、同じく前記各端板の一側面は、前記上縁の各部位に対応し、その高さが渦方向の中心側で高く外周端側で低くなる複数の部位を有する段付き形状とされたスクロール圧縮機において、前記固定スクロールまたは前記旋回スクロールのいずれか一方の前記上縁の段差が他方の前記上縁の段差より大きく、前記他方の前記一側面の段差が前記一方の前記一側面の段差より小さく設定され、さらに複数に分割された前記上縁の各部位どうしを繋ぐ連結縁と複数に分割された前記一側面の各部位どうしを繋ぐ連結壁面との接触によって画成され、かつ、前記各壁体の接触によって画成されるスクロール圧縮機構の中央を挟んで正対する2つの圧縮室の少なくとも一方が前記段付き形状を有する位置の時に、これら2つの圧縮室を連通する連通路が設けられていることを特徴とする。
【0017】
請求項5記載のスクロール圧縮機は、請求項4記載のスクロール圧縮機において、前記他方に吐出ポートが設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項6記載のスクロール圧縮機は、請求項3または4記載のスクロール圧縮機において、前記連通路の両端が、前記圧縮室を画成する前記壁体の外側面と内側面とが同時に噛み合う2つの箇所にそれぞれ開口していることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るスクロール圧縮機においては、正対する2つの圧縮室が圧縮のある過程で容積を異ならせてしまうが、当該の圧縮過程において連通路を通じて両圧縮室間で流体が流通するため、内部圧力の不均衡が是正される。これにより、圧縮機を安全に駆動させることができる。
【0020】
また、段差の小さいスクロールに吐出ポートを設けることにより、吐出ポート内容積が減少し、吐出ポートから圧縮室への流体の逆流による動力損失が抑えられるので、圧縮効率の向上が図れる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明に係るスクロール圧縮機の第1の実施形態を図1ないし図9に示して説明する。
図1は本実施形態におけるスクロール圧縮機の全体構成を示す断面図である。図において符号11はハウジングを示しており、このハウジング11は、カップ状に形成されたハウジング本体11aと、ハウジング本体11aの開口端側に固定された蓋板11bとで構成されている。
【0022】
ハウジング11の内部には、固定スクロール12および旋回スクロール13からなるスクロール圧縮機構が配設されている。固定スクロール12は、端板12aの一側面に渦巻き状の壁体12bを立設された構成となっている。旋回スクロール13は、固定スクロール12と同様に端板13aの一側面に渦巻き状の壁体13bを立設された構成となっており、特に壁体13bは、固定スクロール12側の壁体12bと同一形状をなしている。また、壁体12b,13bの上縁には、後述する圧縮室Cの気密性を高めるためのチップシール27,28が配設されている(これらチップシール27,28については後述する)。
【0023】
固定スクロール12は、ボルト14によってハウジング本体11aに締結されている。旋回スクロール13は、固定スクロール12に対して相互に公転旋回半径だけ偏心しかつ180゜だけ位相をずらした状態で、壁体12b,13bどうしをかみ合わせて組み付けられており、蓋板11bと端板13aとの間に設けられた自転阻止機構15によって自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持されている。
【0024】
固定スクロール12には、スクロール圧縮機構の中心を挟んで正対する2つの圧縮室(後に詳述するが、端板12a,13a、壁体12b,13bに区画され、かつ連結縁12eと連結壁面13hとの接触によって画成されるCa,Cb)どうしを連通する連通路Pが設けられている。また、旋回スクロール13には、スクロール圧縮機構の中心を挟んで正対する2つの圧縮室(後に詳述するCa0,Cb0)を連通する連通路P0が設けられている。
【0025】
連通路Pは固定スクロール12に複数の孔を穿通し不要な箇所を塞ぐ等して形成されており、その一端が連結縁12eに近接する壁体12bの外側面(背)に沿うように設けられ、他端がスクロール圧縮機構の中央を挟んで正対する壁体12bの内側面(腹)に沿うように設けられている。連通路Pの両端は、壁体12bの外側面と内側面とが同時に噛み合う2つの箇所にそれぞれ開口することになる。
【0026】
連通路P0も上記と同様に旋回スクロール13に複数の孔を穿通し不要な箇所を塞ぐ等して形成されており、その一端が連結壁面13hと壁体13bとの境界に近接する壁体13bの外側面(背)に沿うように設けられ、他端がスクロール圧縮機構の中央を挟んで正対する壁体13bの内側面(腹)に沿うように設けられている。連通路P0の両端は、壁体13bの外側面と内側面とが同時に噛み合う2つの箇所にそれぞれ開口することになる。
【0027】
蓋板11bには、クランク16aを備える回転軸16が貫通され、ベアリング17a,17bを介して蓋板11bに回転自在に支持されている。
【0028】
旋回スクロール13側の端板13aの他端面の中央には、ボス18が突設されている。ボス18には、クランク16aの偏心部16bが軸受19およびドライブブッシュ20を介して回動自在に収容されており、旋回スクロール13は回転軸16を回転させることによって公転旋回運動するようになっている。回転軸16には、旋回スクロール13に与えられたアンバランス量を打ち消すバランスウェイト21が取り付けられている。
【0029】
また、ハウジング11の内部には、固定スクロール12の周囲に吸入室22が形成され、さらにハウジング本体11aの内底面と端板12aの他側面とに区画されて吐出キャビティ23が形成されている。
【0030】
ハウジング本体11aには、吸入室22に向けて低圧の流体を導く吸入ポート24が設けられ、固定スクロール12側の端板12aの中央には、容積を漸次減少させながら中心に移動してきた圧縮室Cから吐出キャビティ23に向けて高圧の流体を導く吐出ポート25が設けられている。端板12aの他側面中央には、所定の大きさ以上の圧力が作用した場合にのみ吐出ポート25を開く吐出弁26が設けられている。
【0031】
図2は固定スクロール12、旋回スクロール13それぞれの斜視図である。
固定スクロール12側の壁体12bは、その渦巻き状の上縁が2つの部位に分割され、かつ渦の中心側で低く外周端側で高い段付き形状となっている。旋回スクロール13側の壁体13bは、壁体12bと同じく渦巻き状をなすものの段付き形状とはなっておらず、上縁は面一に形成されている。
【0032】
また、固定スクロール12側の端板12aは、壁体13bの上縁に対応し、一側面が面一に形成されている。旋回スクロール13側の端板13aは、壁体12bの段付き形状に対応し、一側面の高さが渦方向の中心で高く外周端で低くなる2つの部位を有する段付き形状となっている。
【0033】
壁体12bの上縁は、中心寄りに設けられた低位の上縁12cと外周端寄りに設けられた高位の上縁12dの2つの部位に分けられ、隣り合う上縁12c,12d間には、両者を繋いで旋回面に垂直な連結縁12eが存在している。
【0034】
また、端板13aの底面は、中心寄りに設けられた底の浅い底面13fと外周端寄りに設けられた底の深い底面13gの2つの部位に分けられ、隣り合う底面13f,13g間には、両者を繋いで垂直に切り立つ連結壁面13hとが存在している。
【0035】
連結縁12eは、壁体12bを旋回スクロール13の方向から見ると壁体12bの内外両側面に滑らかに連続し壁体12bの肉厚に等しい直径を有する半円形をなしている。また、連結壁面13hは、端板13aを旋回軸方向から見ると旋回スクロール13の旋回に伴って連結縁12eが描く包絡線に一致する円弧をなしている。
【0036】
図3に示すように、壁体12bにおいて上縁12cと連結縁12eとが突き合う部分には、リブ12iが設けられている。リブ12iは、応力集中を避けるため上縁12cと連結縁12eとに滑らかに連続する凹曲面をなして壁体12bと一体に形成されている。
【0037】
端板13aにおいて底面13gと連結壁面13hとが突き合う部分にも、肉盛りしたようにリブ13jが設けられている。リブ13jは、応力集中を避けるため底面13gと連結壁面13hとに滑らかに連続する凹曲面をなして壁体13bと一体に形成されている。
【0038】
壁体12bにおいて上縁12c,12eが突き合う部分は、組み付け時にリブ13jとの干渉を避けるためにそれぞれ面取りされている。
【0039】
さらに、壁体12bの上縁12c,12dにはチップシール27c,27dが、連結縁12eにはチップシール27eがそれぞれ配設されている。また、壁部13の上縁13cにはチップシール28が配設されている。
【0040】
チップシール27c,27dは渦巻き状をなし、上縁12cに渦方向に沿って形成された溝12k,12lに嵌合されており、圧縮機の運転時には溝12k,12lに導入される高圧の流体により背圧を受け、底面13f,13gに押し当てられてシールとしての機能を発揮する。
【0041】
チップシール28も渦巻き状をなし、上縁13cに渦方向に沿って形成された溝13kに嵌合されており、圧縮機の運転時には溝13kに導入される高圧の流体により背圧を受け、底面12fに押し当てられてシールとしての機能を発揮する。
【0042】
チップシール27eは棒状をなし、連結縁12eに沿って形成された溝12mに嵌合されるとともに溝12mからの離脱を防止する構造を採用されており、圧縮機の運転時には後述するように図示しない付勢手段によって連結壁面13hに押し当てられてシールとしての機能を発揮する。
【0043】
固定スクロール12に旋回スクロール13を組み付けると、低位の上縁12cが底の浅い底面13fに当接し、高位の上縁12dが底の深い底面13gに当接する。同時に、上縁13cが底面12fに当接する。これにより、両スクロール間には向かい合う端板12a,13aと壁体12b,13bとに区画されて圧縮室Cが形成される。
【0044】
上記のように構成されたスクロール圧縮機について、駆動時における流体圧縮の過程を図4ないし図7に示して順に説明する。
図4に示す状態では、壁体12bの外周端が壁体13bの外側面に当接するとともに、壁体13bの外周端が壁体12bの外側面に当接し、端板12a,13a、壁体12b,13b間に流体が封入され、スクロール圧縮機構の中心を挟んで正対した位置に、最大容積の圧縮室Ca,Cbが2つ画成される。連結縁12eと連結壁面13hとはこの時点で摺接を開始し、圧縮室Cbと先行する圧縮室Cb0はそれぞれ個別に密閉された状態となる。
【0045】
図4の状態から旋回スクロール13がπ/2だけ旋回し図5に示す状態に至る過程では、圧縮室Ca,Cbがそれぞれ密閉状態を保ちながら中心に向けて進行し、漸次容積を減少させて流体を圧縮する。先行する圧縮室Ca0,Cb0もそれぞれ密閉状態を保ちながら中心に向けて進行し、漸次容積を減少させて引き続き流体を圧縮する。この過程では、連結縁12eと連結壁面13hとの摺接が継続されており、圧縮室Cbと先行する圧縮室Cb0はそれぞれ個別に密閉された状態が保たれる。
【0046】
図5の状態から旋回スクロール13がπ/2だけ旋回し図6に示す状態に至る過程では、圧縮室Ca,Cbがそれぞれ密閉状態を保ちながら中心に向けて進行し、漸次容積を減少させてさらに流体を圧縮する。先行する圧縮室Ca0,Cb0もそれぞれ密閉状態を保ちながら中心に向けて進行し、漸次容積を減少させて引き続き流体を圧縮する。この過程でも、連結縁12eと連結壁面13hとの摺接が継続されており、圧縮室Cbと先行する圧縮室Cb0がそれぞれ個別に密閉された状態が保たれる。
【0047】
図6に示す状態では、外周端に近い壁体13bの内側面とその内方に位置する壁体12bの外側面との間には、後に圧縮室となる空間Ca1が画成され、外周端に近い壁体12bの内側面とその内方に位置する壁体13bの外側面との間には、後に圧縮室となる空間Cb1が画成され、空間Ca1,Cb1には吸入室22から低圧の流体が流入する。圧縮室Ca,Cbがそれぞれ密閉状態を保ちながら中心に向けて進行し、漸次容積を減少させてさらに流体を圧縮する。先行する圧縮室Ca0,Cb0はこの時点で最小容積となり、流体を所定圧まで昇圧させ吐出ポート25を通じて吐出する。この時点までは、連結縁12eと連結壁面13hとの摺接が継続されており、圧縮室Cbと先行する圧縮室Cb0はそれぞれ個別に密閉された状態が保たれるが、直後に解消される。
【0048】
図6の状態から旋回スクロール13がπ/2だけ旋回し図7に示す状態に至る過程では、空間Ca1,Cb1が大きさを拡大しながら中心に向けて進行し、空間Ca1,Cb1に先行する圧縮室Ca,Cbもそれぞれ密閉状態を保ちながら中心に向けて進行し、漸次容積を減少させて流体を圧縮する。この過程では、連結縁12eと連結壁面13hとの摺接は解消されており、中心を挟んで正対する2つの圧縮室Ca,Cbは連通状態となって均圧される。
【0049】
図7の状態から旋回スクロール13がさらにπ/2だけ旋回し再び図4に示す状態に至る過程では、空間Ca1,Cb1がさらに大きさを拡大しながらスクロール圧縮機構の中心に向けて進行し、先行する圧縮室Ca,Cbはそれぞれ密閉状態を保ちながら中心に向けて進行し、漸次容積を減少させて流体を圧縮する。この過程でも、連結縁12eと連結壁面13hとの摺接は解消されており、中心部を挟んで相対する2つの圧縮室Ca,Cbは連通状態となって均圧される。
【0050】
最大容積から最小容積(吐出弁26開放時の容積)に至る圧縮室の大きさの変遷は、
過程A;(図4における圧縮室Ca→図5における圧縮室Ca→図6における圧縮室Ca→図7における圧縮室Ca→図4における圧縮室Cb0→図5における圧縮室Cb0→図6における圧縮室Cb0)、または
過程B;(図4における圧縮室Cb→図5における圧縮室Cb→図6における圧縮室Cb→図7における圧縮室Cb→図4における圧縮室Ca0→図5における圧縮室Ca0→図6における圧縮室Ca0)
と見なせる。ここで、それぞれの状態における圧縮室を展開した形状を図8に示す。なお、上記2つの過程では、同じタイミングでも圧縮室Ca,Cbの容積が異なるときがあるので、両者の形状を比較できるように並記することにする。
【0051】
最大容積となる(a)のタイミングでは、圧縮室Ca,Cbはいずれも短冊状をなし(図4参照)、旋回軸方向の幅はスクロール圧縮機構の外周端側では底面12fから上縁12dまでの壁体12bの高さ(もしくは底面13gから上縁13cまでの壁体13bの高さ)にほぼ等しいラップ長Llとなり、圧縮室Ca,Cbの容積は等しい。
【0052】
(b)のタイミングでは、圧縮室Caは(a)の状態と同じく短冊状をなすが、旋回方向の長さが短くなる(図5参照)。圧縮室Cbは、旋回軸方向の幅が途中で狭くなる異形の短冊状に変化し、その幅は中心側では底面12fから上縁12cまでの高さ(もしくは底面13fから上縁13cまでの壁体13bの高さ)にほぼ等しいラップ長Ls(<Ll)となるため、容積は圧縮室Caより小さくなる。
【0053】
(c)のタイミングでは、圧縮室Caも旋回軸方向の幅が途中で狭くなる異形の短冊状に変化する(図6参照)。圧縮室Cbは、ラップ長Llの部分が短く、ラップ長Lsの部分が長くなる。なお、圧縮室Caのラップ長Llの部分の長さは圧縮室Cbのそれより長く、圧縮室Caのラップ長Lsの部分の長さは圧縮室Cbのそれより短くなるため、容積は圧縮室Caの方が大きくなる。
【0054】
(d)のタイミングでは、圧縮室Ca,Cbはともに中心側に移動することで旋回方向の長さがさらに短くなる(図7参照)。ここでも、圧縮室Caのラップ長Llの部分の長さは圧縮室Cbのそれより長く、圧縮室Caのラップ長Lsの部分の長さは圧縮室Cbのそれより短いため、容積は圧縮室Caの方が大きい。
【0055】
(e)のタイミングでは、圧縮室Cb0,Ca0はともに中心側に移動することで旋回方向の長さがさらに短くなる(図4参照)。しかも、圧縮室Ca0はラップ長Llの部分が消滅してしまい、幅が均一(ラップ長Ls)な短冊状となる。
【0056】
(f)のタイミングでは、圧縮室Cb0,Ca0はともに中心側に移動することで旋回方向の長さがさらに短くなる(図5参照)。
【0057】
最小容積となる(g)のタイミングでは、圧縮室Ca0,Cb0はともにラップ長Llの部分が消滅してしまい、幅が均一(ラップ長Ls)な短冊状となる(図6参照)。この後は吐出弁26が開放して吐出ポート25から流体が吐出される。
【0058】
上記スクロール圧縮機を駆動させた場合、図8からわかるように、正対する2つの圧縮室の容積が(b)〜(f)の過程で異なり、両圧縮室間で内部圧力が釣り合わない状態に陥ってしまう。ただし、(c)〜(e)間では連結縁12eと連結壁面13hとのとの摺接が解消されるので、実際に内部圧力の不均衡状態が生じるのは、(a)〜(c)の過程と(e)〜(g)の過程とである。
【0059】
そこで、上記スクロール圧縮機においては、(a)〜(c)の過程において正対する圧縮室Ca,Cb間で連通路Pを通じて流体が流通し、両圧縮室間の内部圧力の不均衡が是正される。また、(e)〜(g)の過程において正対する圧縮室Ca0,Cb0間で連通路P0を通じて流体が流通し、両圧縮室間の内部圧力の不均衡が是正される。
【0060】
したがって、上記スクロール圧縮機によれば、圧縮の過程で正対する2つの圧縮室の容積が等しくない状態となっても、連通路P,P0を通じて流体が流通し、内部圧力の不均衡が是正され、正対する圧縮室(CaとCb、Ca0とCb0)間で圧力バランスが保たれるので、圧縮機を安全に駆動することができる。
【0061】
また、固定スクロール12の壁体12bにのみ段差を設け、これに対応するべく旋回スクロール13の端板13aにのみ段差を設けることにより、両スクロールの加工が従来に比べて簡単になり、加工性が向上するとともに加工に要するコストを削減することができる。
【0062】
さらに、段差をもたない固定スクロール12に吐出ポート25を設けることにより、吐出ポート25内の容積が減少し、吐出ポート25から圧縮室Cへの流体の逆流による動力損失が抑えられるので、圧縮効率の向上が図れる。
【0063】
なお、本実施形態においては固定スクロール12の壁体12bにのみ段差を設け、これに対応するべく旋回スクロール13の端板13aにのみ段差を設けた構成としたが、これとは逆に、旋回スクロール13の壁体13bにのみ段差を設け、これに対応するべく固定スクロール12の端板12aにのみ段差を設けた構成としても構わない。
【0064】
本実施形態においては固定スクロール12に連通路Pを、旋回スクロール13に連通路P0をそれぞれ設けたが、中央に移動した2つの圧縮室が連続する場合には、連通路P0を介さずとも流体の流通が行われるので、連通路P0を設ける必要はない。
【0065】
また、本実施形態においては連結縁12eが旋回スクロール13の旋回面に垂直に形成され、これに対応して連結壁面13hも旋回面に垂直に形成されているが、連結縁12e、連結壁面13hは互いの対応関係を守っていれば旋回面に垂直である必要はなく、例えば旋回面に対して傾斜するように形成しても構わない。
【0066】
さらに、本実施形態においては固定スクロール12に1つの段差を有する段付き形状を採用したが、本発明に係るスクロール圧縮機は段差を複数有するものについても実施可能である。
【0067】
本発明に係るスクロール圧縮機の第2の実施形態を図9に示して説明する。なお、上記第1の実施形態において既に説明した構成要素には同一符号を付して説明は省略する。
図9は本実施形態におけるスクロール圧縮機の全体構成を示す断面図である。このスクロール圧縮機の特徴は、固定スクロール12、旋回スクロール13がいずれも段付き形状を有している。ただし、壁体12bの上縁の段差は壁体13bの上縁の段差より大きく、端板13aの一側面の段差は端板12aの一側面の段差より小さく設定されている点である。
【0068】
上記スクロール圧縮機を駆動させた場合も、上記第1の実施形態と同様に、正対する2つの圧縮室の容積がある過程で異なり、両圧縮室間で内部圧力が釣り合わない状態に陥ってしまうのだが、連通路P,P0を通じて流体が流通し、両圧縮室間の内部圧力の不均衡が是正され、正対する圧縮室間で圧力バランスが保たれるので、圧縮機を安全に駆動することができる。
【0069】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るスクロール圧縮機によれば、正対する2つの圧縮室が圧縮のある過程で容積を異ならせてしまうが、当該の圧縮過程において連通路を通じて両圧縮室間で流体が流通するため、内部圧力の不均衡が是正される。これにより、圧縮機を安全に駆動させることができる。
【0070】
また、固定スクロール、旋回スクロールいずれか一方のスクロールの壁体にのみ段差を設け、これに対応するべく他方のスクロールの端板にのみ段差を設けることにより、スクロールの加工が従来に比べて簡単になり、加工性が向上するとともに加工に要するコストを削減することができる。
【0071】
さらに、段差をもたないスクロールに吐出ポートを設けることにより、吐出ポート内容積が減少し、吐出ポートから圧縮室への流体の逆流による動力損失が抑えられるので、圧縮効率の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るスクロール圧縮機の第1の実施形態を示す側断面図である。
【図2】 固定スクロール、旋回スクロールそれぞれの斜視図である。
【図3】 上縁と連結縁との間に設けられるリブ、および底面と連結壁面との間に設けられるリブを示す側断面図である。
【図4】 スクロール圧縮機の駆動時における流体圧縮の過程を示す状態説明図である。
【図5】 同じく、スクロール圧縮機の駆動時における流体圧縮の過程を示す状態説明図である。
【図6】 同じく、スクロール圧縮機の駆動時における流体圧縮の過程を示す状態説明図である。
【図7】 同じく、スクロール圧縮機の駆動時における流体圧縮の過程を示す状態説明図である。
【図8】 最大容積から最小容積に至る圧縮室の大きさの変遷を示す状態説明図である。
【図9】 本発明に係るスクロール圧縮機の第2の実施形態を示す側断面図である。
【符号の説明】
12 固定スクロール
12a 端板
12b 壁体
12c,12d 上縁
12e 連結縁
12f 底面
13 旋回スクロール
13a 端板
13b 壁体
13c,13d 上縁
13f 底面
13h 連結壁面
P,P0 連通路
Claims (6)
- 端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、定位置に固定された固定スクロールと、
端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、前記各壁体どうしをかみ合わせて自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持された旋回スクロールとを備え、
前記固定スクロールまたは前記旋回スクロールのいずれか一方に具備される前記壁体の上縁は、複数の部位に分割されかつ該部位の高さが渦方向の中心側で低く外周端側で高くなる段付き形状とされ、
前記固定スクロールまたは前記旋回スクロールのいずれか他方に具備される前記端板の一側面は、前記上縁の各部位に対応し、その高さが渦方向の中心側で高く外周端側で低くなる複数の部位を有する段付き形状とされたスクロール圧縮機であって、
複数に分割された前記上縁の各部位どうしを繋ぐ連結縁と複数に分割された前記一側面の各部位どうしを繋ぐ連結壁面との接触によって画成され、かつ、前記各壁体の接触によって画成されるスクロール圧縮機構の中央を挟んで正対する2つの圧縮室のいずれか一方が前記段付き形状を有する位置の時に、これら2つの圧縮室を連通する連通路が設けられていることを特徴とするスクロール圧縮機。 - 前記一方に吐出ポートが設けられていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
- 前記連通路の両端が、前記圧縮室を画成する前記壁体の外側面と内側面とが同時に噛み合う2つの箇所にそれぞれ開口していることを特徴とする請求項1または2記載のスクロール圧縮機。
- 端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、定位置に固定された固定スクロールと、端板の一側面に立設された渦巻き状の壁体を有し、前記各壁体どうしをかみ合わせて自転を阻止されつつ公転旋回運動可能に支持された旋回スクロールとを備え、
前記各壁体の上縁は、複数の部位に分割されかつ該部位の高さが渦方向の中心側で低く外周端側で高くなる段付き形状とされ、同じく前記各端板の一側面は、前記上縁の各部位に対応し、その高さが渦方向の中心側で高く外周端側で低くなる複数の部位を有する段付き形状とされたスクロール圧縮機において、
前記固定スクロールまたは前記旋回スクロールのいずれか一方の前記上縁の段差が他方の前記上縁の段差より大きく、前記他方の前記一側面の段差が前記一方の前記一側面の段差より小さく設定され、
さらに複数に分割された前記上縁の各部位どうしを繋ぐ連結縁と複数に分割された前記一側面の各部位どうしを繋ぐ連結壁面との接触によって画成され、かつ、前記各壁体の接触によって画成されるスクロール圧縮機構の中央を挟んで正対する2つの圧縮室の少なくとも一方が前記段付き形状を有する位置の時に、これら2つの圧縮室を連通する連通路が設けられていることを特徴とするスクロール圧縮機。 - 前記他方に吐出ポートが設けられていることを特徴とする請求項4記載のスクロール圧縮機。
- 前記連通路の両端が、前記圧縮室を画成する前記壁体の外側面と内側面とが同時に噛み合う2つの箇所にそれぞれ開口していることを特徴とする請求項3または4記載のスクロール圧縮機。
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