しかしながら、液相により二次電子放出層を形成する方法は、二次電子放出材を含む溶液をヒータ等の加熱装置で加熱させることにより、溶媒が除去されて二次電子放出材が析出されるため、加熱装置の温度ばらつき、液面と加熱装置との距離ばらつき、及び温度又は湿度等の周囲の環境による溶液の粘性変化などによって、形成される二次電子放出膜の膜厚にばらつきが生じ、均一な二次電子放出層を形成することが困難であるという問題があった。
また、特許文献3に開示されている方法は、CVD法により気相から膜を形成するため、上述したような膜厚のばらつきが生じることはないが、成膜した母材をリドロー成形法等により延伸させて所望とする径を有する細管にする必要があるため、形成した膜が延伸の際に耐えうる材料に限定されるという問題があり、MgO等の公知の二次電子放出材に、このような方法を適用することは困難であった。
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、管状材と相似する形状を有する母材を加熱し、母材の送り速度及び引っ張り速度を制御することにより延伸させて管状材に成形するに際して、その管状材の内部に薄膜となる気体を供給し、供給した気体にエネルギーを与えることにより、気相化学反応を生じさせて、管状材の内面に容易に薄膜を形成することができる薄膜形成方法及び薄膜形成装置の提供を目的とする。
また本発明は、管状材と相似する形状を有する母材を加熱し、母材の送り速度及び引っ張り速度を制御することにより延伸させて管状材に成形するとともに、その管状材の内部に薄膜となる気体を供給し、供給した気体にエネルギーを与えることにより、気相化学反応を生じさせて、内面に薄膜が形成された管状材を容易に製造することができる管状材の製造方法の提供を目的とする。
第1発明に係る薄膜形成方法は、管状材の内面に薄膜を形成する薄膜形成方法において、管状材と相似する形状を有する母材を加熱し、該母材の送り速度及び引っ張り速度を制御することにより延伸させて前記管状材に成形するに際して、該管状材の内部に前記薄膜となる気体を供給し、供給した気体に、密度分布をもたせたエネルギーを与えることにより、前記気体を気相化学反応せしめて、膜厚を制御した状態で薄膜を形成することを特徴とする。
第1発明に係る薄膜形成方法にあっては、管状材と相似する形状を有する母材を加熱し、母材の送り速度及び引っ張り速度を制御することにより延伸させるに際して、延伸により成形された管状材の内部に薄膜となる気体を供給し、供給した気体にエネルギーを与える。与えられたエネルギーにより、気体は活性化し、気相化学反応を起こして管状材の内面に薄膜が形成される。これにより、所望する形状を有する管状材に母材を成形するとともに、その際に、気体は気相化学反応を起こして管状材の内面に薄膜が形成される。
そして、本発明に係る薄膜形成方法にあっては、管状材の内部に供給した気体に密度分布を有するエネルギーを与え、前記密度分布に基づいて気相化学反応が生じるため、密度分布に基づいた膜厚分布を有する薄膜が管状材の内面に形成される。
第2発明に係る薄膜形成方法は、第1発明において、前記密度分布は、前記管状材の周方向に対して分布を有することを特徴とする。
第2発明に係る薄膜形成方法にあっては、管状材の内部に供給した気体に管状材の周方向に対して密度分布を有するエネルギーを与える。これにより、必要な部分にのみ薄膜を形成するようにすれば、薄膜の表面積が減少することによって薄膜の内部における応力が低減され、必要とされる部分の膜厚を増大してもクラックが発生する虞がなくなる。つまり、膜厚に対するマージンが広がり、クラック発生率を低減でき製造効率が向上する。
第3発明に係る薄膜形成方法は、第1発明または第2発明において、前記密度分布は、延伸方向に向かって増大する分布を有することを特徴とする。
第3発明に係る薄膜形成方法にあっては、管状材の内部に供給した気体に管状材の延伸方向に向かって増大する分布を有するエネルギーを与える。延伸方向に向かってエネルギー密度が増大するため、より多くの気体分子が気相化学反応して薄膜の堆積量が増大する。換言すれば、薄膜の膜厚が薄い場合には気相成長速度が遅くなり、直接的に管状材と接触するときは、ゆっくりと薄膜が形成されるので、緻密な薄膜が高強度で形成される。
第4発明に係る薄膜形成方法は、第1発明乃至第3発明のいずれかにおいて、薄膜が形成された管状材が所定の長さになった場合に、管状材を切断することを特徴とする。
第4発明に係る薄膜形成方法にあっては、薄膜が形成された管状材が所定の長さになった場合に、管状材を切断する。これにより、所定の長さを有する管状材がインラインで順次製造される。母材を管状材に成形すれば、当然の如く管状材が長くなるために極めて大きな設備が必要となるが、管状材を順次切断することにより、小さな設備で管状材が製造される。
第5発明に係る薄膜形成方法は、第4発明において、前記管状材が切断される切断部の近傍には、前記薄膜を形成しないことを特徴とする。
第5発明に係る薄膜形成方法にあっては、管状材を切断する切断部の近傍には薄膜を形成せずにしておく。管状材を切断する場合に、その切断部の内面に薄膜が形成されていると、切断によって薄膜に係るダストが発生して管状材の内部が汚染される虞があるが、予め切断部の近傍には薄膜を形成しないようにすれば、ダストが発生する虞は全くない。また、管状材の両端を加熱などの融着により封止する場合には、内面に形成した薄膜が封止の際の阻害物質となる虞があるが、予め切断部の近傍には薄膜を形成しないようにすれば、完全な融着が施せる。
第6発明に係る薄膜形成方法は、第1発明乃至第5発明のいずれかにおいて、前記エネルギーの形態は、熱、プラズマ又は光であることを特徴とする。
第6発明に係る薄膜形成方法にあっては、管状材の内部に供給した気体に熱、プラズマ又は光の形態でエネルギーを与える。例えば、熱の形態で気体にエネルギーを与える場合には、高温での反応という限定があるが、気相化学反応が大気圧中で進行するため、大規模な真空系及びチャンバが不要となり、非常に簡単な装置構成で薄膜を形成することができ、ステップカバレージに優れるとともに、生産性が高い。また、プラズマの形態で気体にエネルギーを与える場合には、プラズマ中に存在する荷電粒子(低速の電子)と衝突することにより、エネルギーが与えられるため、熱の形態と比較して低い温度環境のもとで薄膜が形成される。さらに、光の形態で気体にエネルギーを与える場合には、気相化学反応に必要な内部自由度のみを直接的に励起することができるため、ダメージのない薄膜が低温環境下で形成される。また光の方向及び焦点を制御することにより、所望する箇所に光を集光させ、所望する膜厚分布を有する薄膜が容易に形成される。
第7発明に係る薄膜形成方法は、第6発明において、前記エネルギーの形態が熱であり、前記母材を延伸させる際の加熱により、前記気体にエネルギーを与えることを特徴とする。
第7発明に係る薄膜形成方法にあっては、母材を延伸させる際の加熱により、管状材の内部に供給した気体に熱の形態でエネルギーを与える。これにより、母材を延伸する際の加熱が、管状材の内面に薄膜を形成するために必要なエネルギーとして作用する。
第8発明に係る薄膜形成装置は、管状材と相似する形状を有する母材を加熱し、該母材の送り速度及び引っ張り速度を制御することにより延伸させて前記管状材に成形するに際して、該管状材の内面に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記管状材の内部に前記薄膜となる気体を供給する手段と、気体が気相化学反応して薄膜を形成するためのエネルギーを、密度分布をもたせた状態で前記気体に与える手段とを備えることを特徴とする。
第8発明に係る薄膜形成装置にあっては、管状材と相似する形状を有する母材を加熱し、母材の送り速度及び引っ張り速度を制御することにより延伸させるに際して、延伸により成形された管状材の内部に薄膜となる気体を供給し、供給した気体にエネルギーを与える。与えられたエネルギーにより、気体は活性化し、気相化学反応を起こして管状材の内面に薄膜が形成される。これにより、所望する形状を有する管状材に母材を成形するとともに、その際に、気体は気相化学反応を起こして管状材の内面に薄膜が形成される。
第9発明に係る管状材の製造方法は、内面に薄膜が形成された管状材の製造方法において、管状材と相似する形状を有する母材を加熱し、該母材の送り速度及び引っ張り速度を制御することにより延伸させて前記管状材に成形するとともに、該管状材の内部に前記薄膜となる気体を供給し、供給した気体に、密度分布をもたせたエネルギーを与えることにより、前記気体を気相化学反応せしめ、内面に、膜厚を制御した状態で薄膜が形成された管状材を製造することを特徴とする。
第9発明に係る管状材の製造方法にあっては、管状材と相似する形状を有する母材を加熱し、母材の送り速度及び引っ張り速度を制御することにより延伸させるとともに、延伸により成形された管状材の内部に薄膜となる気体を供給し、供給した気体にエネルギーを与える。与えられたエネルギーにより、気体は活性化し、気相化学反応を起こし、内面に薄膜が形成された管状材手管状材の内面に薄膜が形成される。これにより、所望する形状を有する母材を用いて、内面に薄膜が形成された管状材を容易に製造することができる。
本発明によれば、管状材と相似する形状を有する母材を加熱し、母材の送り速度及び引っ張り速度を制御することにより延伸させるとともに、延伸により成形された管状材の内部に薄膜となる気体を供給し、供給した気体にエネルギーを与えることにより、気体は活性化し、気相化学反応を起こして管状材の内面に薄膜を形成できる。従って、従来困難であるか、又は多大なコストを必要としていた管状材の内面への薄膜の形成を、量産に適し、かつ従来の装置にわずかな改造を施しただけの簡易な機構により低コストで生産することができる等、優れた効果を奏する。
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1に係る薄膜成形方法を説明するための説明図である。図中10は内径8mm及び外径10mmの円筒形状を有するホウケイ酸ガラス管(以下、母材という)であり、母材10は、少なくとも一対のローラから構成された送り込み機構20により、一の方向(図1では右方向)に送り速度V1で送り出される。なお、母材10は、内径及び外径が大きいために加工が容易であり、リドロー成形後での加工が困難な円形状、楕円形状、四角形状等の形状に予め加工されている。
そして、母材10は、ドーナツ状のヒータ40(全長5mm)によって、軟化温度である600℃以上の作業温度まで加熱され、さらにパスライン下流側に設けた引き出し機構30により引き出されることにより、断面が母材10より小さいガラス管(以下、細管という)11に成形される。より具体的には、引き出し機構30は少なくとも一対のローラから構成されており、延伸された細管11の先端をローラに噛ませ、送り込み機構20による母材10の送り速度V1と引き出し機構30による細管11の引っ張り速度V2とが一定の速度比となるように細管11の引っ張り速度V2を制御する。なお、送り込み機構20及び引き出し機構30には制御部60が接続されており、制御部60は母材外径φ1、細管外径φ2、及び送り速度V1を用いて、引っ張り速度V2を、それ自体公知の計算式(V2=V1×(φ1/φ2)2 …(式1))により算出して、引き出し機構30の動作を制御する。
このような方法で成形された細管11は、延伸開始後しばらく(数分程度)して、その内径(例えば0.8mm)及び外径(例えば1.0mm)が安定し、以降その形状が保持される。そして、細管11が所望の長さ(例えば1200mm)となったところで、引き出し機構30のパスライン下流側に設けた切断装置70が細管11を切断して図示しないバスケットに格納する。このように、細管を順次切断するようにすれば、小さな設備で所望する長さを有する細管を製造することができ、また、極めて長くなった細管を、別の装置で切断することが不要となり、製造効率が向上する。なお、母材10と細管11との相似比は、前述した送り速度V1と引っ張り速度V2との関係(式1)により決定されるため、所望する細管11となるように、送り込み機構20及び引き出し機構30を制御部60により制御すればよい。
上述した方法により、ガラス管を所望する形状に成形するわけであるが、母材10の一端側(パスライン上流側)にはフランジ81が付設されており、フランジ81はフレキシブルチューブ82を介して反応ガス供給装置80に接続されている。反応ガス供給装置80は、ソース源83に充満されたMgなどの金属を含むDPM(ジピバロイルメタン)金属錯体等の成膜しようとする材料の揮発性化合物(以下、ソースという)を、気化器84によりソースガスに気化し、キャリアガス源87に充満されているキャリアガス(例えば窒素)を用いて母材10の管内へ圧送する。さらに、ガス源85に充満されている酸素等の気体を母材10の管内へ圧送する。なお、反応ガス供給装置80には流量制御部86a,86bが設けてあり、ソースガスと酸素との混合比及びその流量(供給量)が制御され、圧送される反応ガスの供給量を制御する。なお、反応ガスはこれに限定されるものではなく、また、ソースが固体又は液体である場合にはガス化するための気化器が必要であるが、ソース自体が気体である場合には気化器は不要であることはいうまでもない。
ヒータ40のパスライン下流側には、ライン状の加熱装置(近赤外線加熱装置など)50(全長100mm)が細管11と並行になるように配設されている。加熱装置50は制御部60と接続されており、反応ガス供給装置80によって圧送された反応ガスを350℃まで加熱する。これにより、反応ガスは加熱装置50から放出される熱エネルギー(活性化エネルギー)を得て気相化学反応(分解,還元,酸化,置換等の化学反応)し、金属酸化物が析出されて細管11の内面に堆積する。
図2は実施の形態1に係る薄膜形成制御の一例を示す説明図である。
ヒータ40の入側位置を位置Xの座標原点(X=0)、ガラス管(母材10,細管11)の進行方向(パスライン下流方向)を正方向と定義し、その位置Xにおける温度を同図(a)に、ガラス管の内面に形成される薄膜の膜厚を同図(b)に、それぞれ示す。
同図(a)に示すように、ヒータ40が設置されている位置(0≦X≦X1[ヒータ40の出側位置])における温度は、ヒータ40の設定温度T2(例えば600℃)であり、加熱装置50が設置されている位置(X2[加熱装置50の入側位置]≦X≦X3[加熱装置50の出側位置])における温度は、加熱装置50の設定温度T1(例えば350℃)であり、それ以外の位置(X<0,X1<X<X2,X>X3)における温度は、室温T0(例えば25℃)である。
そして、同図(b)に示すように、前述した温度環境内を進行するガラス管は、位置(0≦X≦X1)にて、その内部に供給された反応ガスがヒータ40から活性化エネルギーを与えられて気相化学反応し、金属酸化物が析出されて内面に順次堆積する(膜厚A1)。さらに、ガラス管は、位置(X2≦X≦X3)にて、その内部に供給された反応ガスが加熱装置50から活性化エネルギーを与えられて気相化学反応し、金属酸化物が析出されて内面に順次堆積する(膜厚A2)。なお、位置(0≦X≦X1)ではガラス管が延伸されるため、堆積した金属酸化膜がその延伸による応力に起因して破壊される虞があるが、ヒータ40の全長は加熱装置50の全長より極めて短く、位置(0≦X≦X1)にて堆積する金属酸化膜は微量であり、大部分は加熱装置50によって活性化されるため(膜厚A1<<膜厚A2)、膜の低延性などの弊害が生じることはない。従って、以下の本明細書においては、膜厚A1が”0”であるとして説明する。
上述した如く、母材10を延伸することにより、所望する形状を有する細管11に成形できるとともに、反応ガスの供給量及び反応ガスに与えられる活性化エネルギーにより決定される膜厚を有する薄膜を細管11の内面に形成することができる。また、引き出し機構30により細管11が一定速度で搬送されるため、形成される薄膜は一様な膜厚分布を有し、細管11の全長に渡って均一で緻密な膜を形成することができ、液相により形成した膜と比較すると、分子レベルでの反応により薄膜が形成されるため、耐久性及び二次電子放出率に優れたものとなる。また、このような方法により薄膜を形成すれば、ガラス管内にたとえ凹凸が存在した場合であっても、その表面で反応が生じるため、圧送する反応ガスの圧力を制御して凹部の内部に反応ガスを供給すれば、緻密で高純度の膜を極めて高強度で形成することができる。さらに、気相化学反応が大気圧中で進行するため、大規模な真空系及びチャンバが不要となり、非常に簡単な装置構成で薄膜を形成することができる。つまり、従来のガラス管成形装置(リドロー成形装置)に、加熱装置50及び反応ガス供給装置80を追加するだけでよいため、装置改造コストを大幅に抑えることができる。
なお、加熱装置50が近赤外線加熱装置である場合には、放射する近赤外線の焦点を調整することができ、例えば、近赤外線の焦点が細管11の中心からずれるように調整すれば、細管11の内面に形成される薄膜の膜厚が、その周方向に対して所望の分布を有するように制御することができる。このように膜厚分布を制御すれば、必要な部分にのみ薄膜を形成できるため、薄膜の表面積を減少させ、薄膜の内部における応力を低減できる。従って、膜厚に対するマージン(クラック限界膜厚)が広がり、不具合発生率を低減でき製造効率が向上する。
(実施の形態2)
実施の形態1では、1ユニットからなる加熱装置50を用いて活性化エネルギーである熱エネルギーを反応ガスに一様に与えるような形態を示したが、加熱装置が複数の加熱ユニットから構成され、各加熱ユニットによる熱エネルギー供給量を個別に制御できるようにしてもよく、このようにしたものが実施の形態2である。
図3は本発明の実施の形態2に係る薄膜成形方法を説明するための説明図である。
ヒータ40のパスライン下流側には、ライン状の加熱装置51が細管11と並行になるように配設されており、加熱装置51はパスライン上流側から加熱ユニット51−1,51−2,…,51−nを備えている。また、加熱装置51は制御部61に接続されており、各加熱ユニット51−i(i=1,2,…,n)の出力が制御(稼働/非稼働(以下、オン/オフという)の制御を含む)される。より具体的には、制御部61は、図示しない入力部により各加熱ユニット51−i(i=1,2,…,n)の設定温度に関する情報を受け付け、受け付けた情報に基づいて制御信号を生成し、生成した制御信号を加熱装置51へ出力する。もちろん、図示しない記憶部に予め設定温度に関する情報が記憶されており、記憶されている情報に基づいて制御信号を生成するようにしてもよい。そして、加熱装置51は、制御部61から入力された制御信号に基づいて各加熱ユニット51−i(i=1,2,…,n)の出力を制御する。その他の構成は図1と同様であるので、対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
図4は実施の形態2に係る薄膜形成制御の一例を示す説明図である。
加熱装置51の入側位置を位置Xの座標原点(X=0)、ガラス管の進行方向(パスライン下流方向)を正方向と定義し、その位置Xにおける温度を同図(a)に、ガラス管の内面に形成される薄膜の膜厚を同図(b)に、それぞれ示す。
同図(a)に示すように、加熱装置51は、パスライン上流側から下流側にかけて加熱ユニットの出力量が高くなるように設定され、加熱ユニット51−jが設置されている位置(Xj−1≦X≦Xj)における温度は、それよりパスライン上流側の加熱ユニット51−k(k<j)が設置されている位置(Xk−1≦X≦Xk)における温度よりも高くなる。従って、パスライン上流側から下流側にかけて、すなわち延伸方向に向かってエネルギー密度が増大するため、同図(b)に示すように、パスライン下流側になればなるほど気相成長速度が速くなる。つまり、気相化学反応に要する活性化エネルギーは、各ガス分子に対して同一であるが、エネルギー密度が増大するため、より多くのガス分子と反応して薄膜の堆積量が増大する。換言すれば、薄膜の膜厚が薄い場合には気相成長速度を遅く制御することができるため、直接的にガラス管と接触するときは、ゆっくりと薄膜を形成することができるので、ガラス管との付着強度を向上することができる。
ところで、ガス放電管は、成形された細管11に放電ガスを充填した後に、その両端を加熱により封止する必要があるが、細管11の内面に形成した金属酸化膜(例えばMgO膜)は、封止の際の阻害物質となり、ガスリークの原因となる。液相によりMgO膜を形成する方法では、細管11の一部分を、MgO膜が形成されていない状態にすることが困難であるために、全面にMgO膜を形成した後にMgO膜を除去する工程を追加しなければならなかったが、本実施形態のように、加熱装置が複数の加熱ユニットから構成されている場合には、加熱ユニットの出力量又は各加熱ユニットのオン/オフを制御してエネルギー密度を調整できるため、細管11の搬送と同時に、加熱ユニットの稼働部と非稼働部とを制御して、細管11の一部分には、薄膜が形成されていない状態にすることができる。
より詳細には、薄膜を形成したくない部分の先端が加熱ユニット50−i(i=1,2,…,n)の入側位置に搬送された際に、当該加熱ユニット50−iをオフにし、薄膜を形成したくない部分の後端が加熱ユニット50−i(i=1,2,…,n)の出側位置に搬送された際に、当該加熱ユニット50−iをオンにするように制御する。このようにすれば、薄膜を形成したくない部分には、加熱ユニットから活性化エネルギーを得ることはないため、その部分には薄膜が形成されることはない。
図5は実施の形態2に係る薄膜形成制御の他の一例を示す説明図であり、細管11の一部分に薄膜を形成しないようにするための方法を説明する。
加熱装置51の入側位置を位置Xの座標原点(X=0)、ガラス管の進行方向(パスライン下流方向)を正方向と定義し、薄膜を形成しない部分が、加熱ユニット51−1を配置した位置に達した際(時刻t1)の、その位置Xにおける温度を同図(a1)に、ガラス管の内面に形成される薄膜の膜厚を同図(b1)に、それぞれ示す。
同様に、薄膜を形成しない部分が、加熱ユニット51−2を配置した位置に達した際(時刻t2)の、その位置Xにおける温度を同図(a2)に、ガラス管の内面に形成される薄膜の膜厚を同図(b2)に、それぞれ示し、薄膜を形成しない部分が、加熱ユニット51−nを配置した位置に達した際(時刻tn)の、その位置Xにおける温度を同図(a3)に、ガラス管の内面に形成される薄膜の膜厚を同図(b3)に、それぞれ示す。
時刻t1(同図(a1))では、加熱ユニット51−1をオフに、加熱ユニット51−m(m=2,3,…,n)をオンにする。従って、加熱ユニット51−1を配置した位置(0≦X≦X1)では、反応ガスは活性化エネルギーを得ることができないため、気相化学反応が生じることはないので薄膜が形成されることはない。一方、加熱ユニット51−mを配置した位置(Xm−1≦X≦Xm)では、反応ガスは活性化エネルギーを得て、気相化学反応が生じて薄膜が形成される。
従って、ガラス管の内面に形成される薄膜は、同図(b1)に示すように、細管11の一部分(0≦X≦X1)では、その膜厚が”0”となる。
また、時刻t2(同図(a2))では、加熱ユニット51−2をオフに、加熱ユニット51−m(m=1,3,4,…,n)をオンにする。従って、加熱ユニット51−2を配置した位置(X1≦X≦X2)では、反応ガスは活性化エネルギーを得ることができないため、気相化学反応が生じることはないので薄膜が形成されることはない。一方、加熱ユニット51−mを配置した位置(Xm−1≦X≦Xm)では、反応ガスは活性化エネルギーを得て、気相化学反応が生じて薄膜が形成される。
従って、ガラス管の内面に形成される薄膜は、同図(b2)に示すように、細管11の一部分(X1≦X≦X2)では、その膜厚が”0”となる。なお、細管11は引き出し機構30により搬送されており、細管11の一部分(X1≦X≦X2)は、同図(b1)の一部分(0≦X≦X1)に相当する。
そして、時刻Tn(同図(a3))では、同様に加熱ユニット51−nをオフに、加熱ユニット51−m(m=1,2,3,…,n−1)をオンにする。このように、加熱装置51は、細管11の引っ張り速度V2に同期して、各加熱ユニットのオン/オフを制御し、オフにする加熱ユニットを順次変更するように設定すれば、同図(b3)に示すように、細管11の一部分(Xn−1≦X≦Xn)では、その膜厚が”0”となる。細管11は引き出し機構30により搬送されており、細管11の一部分(Xn−1≦X≦Xn)は、同図(b1)の一部分(0≦X≦X1)、同図(b2)の一部分(X1≦X≦X2)に相当する。つまり、各加熱ユニットのオン/オフを制御して、細管11の一部分は、薄膜が形成されていない状態にすることができる。従って、細管11の切断部の近傍には薄膜を形成しないようにすれば、薄膜(金属酸化膜)を除去する工程を別途設ける必要がないため、製造コスト及びタクトが向上する。
(実施の形態3)
実施の形態1及び2では、加熱装置50,51を用いて活性化エネルギーである熱エネルギーを反応ガスに与えるような形態を示したが、延伸用のヒータが薄膜形成用の加熱装置と同様の働きをするようにしてもよく、このようにしたものが実施の形態3である。
図6は実施の形態3に係る薄膜成形方法を説明するための説明図である。
図中41は、ドーナツ状のヒータ(全長100mm)であり、ヒータ41は母材10を軟化温度である600℃以上の作業温度まで加熱するとともに、ガラス管の内部に供給された反応ガスに活性化エネルギーを熱という形態で与え、気相化学反応を生じせしめて、金属酸化物の析出を促進させて細管11の内面に堆積させる。実施の形態1と相違するのはヒータの全長であり、ヒータ41は、延伸に必要な長さ(5mm)を遥かに長い全長を有する。その他の構成は図1と同様であるので、対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
母材10の断面形状が円又は楕円の場合、ヒータ41による加熱によって母材の粘度が低くなり、その粘度が軟化点を超過したときにはガラス管の周方向に働く張力が均等であるため、加熱部分が延長されたとしても、細管11は変形しないという特性を有している。従って、ヒータ41のパスライン上流側から0〜5mmの領域で、母材10から所望の径(外径及び内径)を有する細管11に成形されることになるが、パスライン上流側から5〜100mmの領域では、細管11の径が保持される。細管11の径の制御は、上述した如く、あくまで送り速度V1と引っ張り速度V2とから決定される。そして、パスライン上流側から5〜100mmの領域では、ヒータ41は、図1に示した加熱装置50と同様の働きを担う。つまり、ヒータ41の全長を延長させたのは、ガラス管の内部に供給された反応ガスを完全に分解させるために必要な加熱を確保するためである。
図7は実施の形態3に係る薄膜形成制御の一例を示す説明図である。
ヒータ41の入側位置を位置Xの座標原点(X=0)、ガラス管の進行方向(パスライン下流方向)を正方向と定義し、その位置Xにおける温度を同図(a)に、ガラス管の内面に形成される薄膜の膜厚を同図(b)に、それぞれ示す。
同図(a)に示すように、ヒータ41が設置されている位置(0≦X≦X2(100mm)[ヒータ40の出側位置])における温度は、ヒータ41の設定温度T1(例えば600℃)であり、それ以外の位置(X<0,X>X2)における温度は、室温T0(例えば25℃)である。
そして、同図(b)に示すように、前述した温度環境内を進行するガラス管は、位置(0≦X≦X1(5mm))にて、母材10から所望の径を有する細管11に成形される。また、この領域では、その延伸による応力に起因して破壊されため、ほとんど薄膜が形成されない。そして、ガラス管は、位置(X1≦X≦X2)にて、その内部に供給された反応ガスがヒータ41から活性化エネルギーを与えられて気相化学反応し、金属酸化物が析出されて内面に堆積する。
このように、母材10を延伸する際のヒータ41が、薄膜形成用の加熱装置と同様の働きをするようにすれば、従来のリドロー成形装置にて薄膜を形成することができる。より具体的には、母材10の送り速度V1と細管11の引っ張り速度V2とを制御して所定の相似比を有する細管11に成形することができるため、従来のリドロー成形装置にて、送り速度V1を低下させ、ヒータの前半部分で延伸を完了させ、ヒータの後半部分で薄膜を形成させることができる。
なお、ガラス管の延伸と薄膜の形成とを兼ねるヒータ41を用いる場合は、気相化学反応を生じさせる反応ガスの反応温度(分解温度)が、ガラス管の軟化温度(ホウケイ酸ガラスの場合:600℃)と同等であるか、又は軟化温度より低い必要がある。そのようなソースとしては、例えば、アセチルアセトナート錯体(分解温度:600℃)等があり、アセチルアセトナート錯体を気化させ、キャリアである窒素を混合して反応ガスとする。このように、ガラス管の軟化温度と反応ガスの反応温度という両方の特性を活用することにより、反応ガスの分解に必要な熱(活性化エネルギー)の供給をガラス管の延伸に用いるヒータと共用して、機構の簡略化と製造コストの低減とを実現できる。また、ガラス加工における作業温度は、一般的に200℃以上の幅に渡って適宜選択できるため、低融点ガラスを用いて、作業温度と反応ガスの反応温度とを整合させることにより、同等の効果を実現することが可能である。
(実施の形態4)
実施の形態1、2及び3では、反応ガスを母材10側から供給するような形態を示したが、反応ガスを細管11側から供給するようにしてもよく、このようにしたものが実施の形態4である。
図8は実施の形態4に係る薄膜成形方法を説明するための説明図である。
本実施の形態では、切断装置70のパスライン下流側の適長離隔した位置にマガジン収納部90が配設されており、マガジン収納部90は、回転軸91を中心に回転するとともに、細管11の外径より僅かに大きい径を有する複数の孔92a,92b,92c,…が回転軸91の周方向に等間隔に設けられている。より詳細には、このマガジン収納部90は、回転軸91が回転した場合に、孔92a,92b,92c,…が細管11のパスラインを通過するように配設されている。
また、マガジン収納部90は制御部62に接続されており、切断装置70の切断動作に同期して、所定角度分、回転軸91を回転するように制御される。より具体的には、孔92a,92b,92c,…の個数がQ個である場合には、360/Q度、回転するように制御される。つまり、細管11が切断される度に、細管11のパスライン上に位置する孔が、孔92a→孔92b,孔92b→孔92c,…のように変更される。
さらに、マガジン収納部90のパスライン上に位置する孔(図8では孔92a)には、着脱可能なフランジ93がパスライン下流側から付設されており、フランジ93はフレキシブルチューブ82を介して反応ガス供給装置80に接続されている。フランジ93は制御部62に接続されており、マガジン収納部90の回転動作に同期して、パスライン上を可動するように制御される。
図9は実施の形態4に係るマガジン収納部及びフランジの動作を説明するための説明図である。
同図(a)は、動作前の状態を示す。フランジ93はマガジン収納部90が回転する直前に、パスライン下流側に移動してマガジン収納部90から離れる(同図(b))。また、このときに細管11が切断装置70によって切断される。次に、マガジン収納部90は回転軸91を中心に所定角度(360/Q度)回転する(同図(c))。そして、フランジ93はパスライン上流側に移動してマガジン収納部90に付設される(同図(d))。このような動作を細管11の切断毎に行われる。
このように、マガジン収納部90及びフランジ93が、それぞれの動作を制御されることにより、反応ガス供給装置80から供給される反応ガスを、パスライン上に位置するマガジン収納部90の孔へ供給し、ひいては、パスライン上を進行する細管11の内部へ常に供給することができる。
なお、各実施の形態では、活性化エネルギーとして熱エネルギーを反応ガスに与えるような形態を示したが、プラズマエネルギーを反応ガスに与えるようにしてもよい。例えば、延伸用のヒータのパスライン下流に、加熱装置の代わりにプラズマ発生装置を細管と並行になるように配設する。プラズマ発生装置は、例えば細管のパスラインに磁界を生成できるよう、そのパスラインに対して周状にコイル(RFコイル)を巻いた構成をしており、RFコイルに電流を流すことにより、その内部で無電極放電を行わせる。
ガラス管内に圧送された反応ガスは、プラズマ発生装置により生じたプラズマ中に存在する荷電粒子(低速の電子)と衝突することにより、活性化エネルギーが与えられ、細管の内面に薄膜が形成される。このプラズマCVD法によれば、反応空間であるガラス管の内部にプラズマを発生させることにより、その空間に存在する反応ガスを活性化して気相化学反応を生じさせるため、前述した熱CVD法と比較して低い温度環境のもとで薄膜を形成することができる。
また、活性化エネルギーとして光エネルギーを反応ガスに与えるようにしてもよい。例えば、延伸用のヒータのパスライン下流に、加熱装置の代わりに波長が近紫外から真空紫外のレーザ等から構成された光発生装置を細管と並行になるように配設する。熱エネルギーは、反応ガス分子の並進運動と内部自由度とを一様に励起するが、光CVD法では、気相化学反応に必要な内部自由度のみを直接的に励起することができるため、ダメージのない薄膜を低温で形成することができる。また光の方向及び焦点を制御することにより、所望する箇所に光を集光させ、所望する膜厚分布を有する薄膜を形成することができる。反応ガスの供給量及び反応ガスに与えるエネルギーの条件によっては、ウィスカー状の膜を形成することも可能であり、表面積が増大することにより、より大きな二次電子放出率を得ることができる。
さらに、ガラス管としてはホウケイ酸ガラスに限られるものではなく、薄膜材料も限定されるものではない。もちろん、ガラスよりも高温が必要とされる金属の加工においても適用可能である。なお、周知のように金属は熱伝導率が高いため、加熱部よりパスライン下流側に向かって高温部が維持されるため、加熱部のみならず、その下流側に反応ガスを供給することにより、気相化学反応に好適な温度を有する部分に薄膜を形成することができる。