〔定義〕
本明細書及び特許請求の範囲において、「光偏向素子」とは、外部からの電気信号により光の光路を偏向、即ち、入射光に対して出射光の光軸を平行にシフトさせるか、或る角度を持って回転させるか、或いは、その両者を組合せて光路を切換えることが可能な光学素子を意味する。また、「光偏向量」とは光路あるいは光軸を平行シフトさせた場合あるいは回転させた場合の移動量の大きさである。特に、平行シフトの光偏向動作に対してそのシフトの大きさを「光路シフト量」あるいは単に「シフト量」と呼び、回転による光偏向動作に対してその回転量を「光路回転角」あるいは単に「回転角」と呼ぶものとする。「光偏向装置」とは、このような光偏向素子を含み、入射した光路を平行シフトあるいは回転させる装置一式を意味する。
また、「ピクセルシフト素子」とは、少なくとも画像情報に従って光を制御可能な複数の画素を二次元的に配列した画像表示素子と、画像表示素子を照明する光源と、画像表示素子に表示した画像パターンを観察するための光学部材と、画像フィールドを時間的に分割した複数のサブフィールド毎に画像表示素子と光学部材の間の光路を偏向する光偏向手段とを有し、光偏向手段によりサブフィールド毎の光路の偏向に応じて表示位置がずれている状態の画像パターンを表示させることで、画像表示素子の見掛け上の画素数を増倍して表示する画像表示装置における光偏向手段を意味する。従って、基本的には、上記定義による光偏向素子や光偏向装置を光偏向手段として応用することが可能といえる。
〔背景技術〕
電気信号によって光の方向を変える光偏向素子を用いた光偏向装置については従来より種々のものが開示されており、またかかる光偏向装置を利用した画像表示装置、かかる光偏向素子を備えた光書込み装置についても従来より種々のものが開示されている。その例として、以下、〔特許文献1〕ないし〔特許文献6〕を説明する。
〔特許文献1〕においては、大きな偏向を得ることが可能で、偏向効率が高く、しかも、偏向角と偏向距離とを任意に設定することができる光偏向スイッチが提案されている。構成としては、2枚の透明基板を所定の間隔で対向配置させ、対向させた面に垂直配向処理を施し、透明基板間にスメクチックA相の強誘電性液晶を封入し、前記透明基板に対して垂直配向させ、スメクチック層と平行に交流電界を印加できるように電極対を配置し、電極対に交流電界を印加する駆動装置を備えた液晶素子である。
即ち、スメクチックA相の強誘電性液晶による電傾効果を用い、液晶分子の傾斜による複屈折によって、液晶層に入射する偏光の屈折角と変位する方向を変化できるようにしたものである。
しかしこのような構成においては、大きな偏向角を得るにはセルギャップを大きくする必要があり、大きなセルギャップで液晶の配向を安定させることは難しいといった課題がある。
〔特許文献2〕においては、光路方向と電場方向を非平行とすることによって、偏向角の大きさと動作電圧との相関性を排除している構成の、低電圧駆動、高速応答な光偏向器を提案している。具体的には、予め一定方向に配向させたスメクチックA相の強誘電性液晶を用い、適当な透明基板間に封入する。駆動時の電場は光路方向と垂直方向に印加するようにし、その電場によって液晶の配向方向を変化させて入射光が感じる液晶の屈折率を変化させる。すなわち、入射光の偏光の状態を保存しつつ液晶の屈折率を変化させることで、光偏向作用を引き起こすことができる。
このとき、電場発生に寄与する電極の形状は三角形、台形、またはレンズ形状としており、この電極形状から偏向作用、集光作用をもたらす構成としている。
このような構成において、微小領域では低電界駆動での偏向作用をもたらすことが可能であるが、大面積になると低電圧で駆動することはできない。また大面積にすると、場所によって電界強度に高低差が発生し、均一な偏向作用をもたらすことができないといった課題がある。
〔特許文献3〕においては、複数の入射光ビームに対し光ビームの伝搬方向を個々に偏向することが可能な光偏向器が提案されている。これは透明基板に鋸歯形状の溝を形成した基板を用い、予め一定方向に配向させたネマチック液晶を鋸歯形成基板と平坦基板簡に封入し、各鋸歯形状に対応する分割した電極により、電場を印加して液晶の屈折率を変化させる構成としており、各鋸歯形状に入射した光を個々偏向させることが可能である。
しかしこのような構成においては、各鋸歯形状に対応した駆動手段が必要となり、実現するためには構成が複雑となりコストが高くなる。また用いている液晶はネマチック液晶であるため応答性が非常に遅いといった課題がある。
〔特許文献4〕においては、離散的な画素により形成されている表示画像を、ウォブリングにより高解像度表示するための手段として、キラルスメクチックC相または電傾効果を有するスメクチックA相を示す強誘電性液晶セルと複屈折媒体を組み合わせた構成とした光変調素子及びこれを有する画像表示装置が提案されている。これは高速応答性を示す強誘電性液晶により偏光方向を90°回転させて、複屈折媒体により出射光の光軸を所定の方向にずらす構成としている。
しかしながら、このような画像表示装置には、以下のような課題がある。
(1)複屈折板として機能する光学結晶は一般に高価であり、コストが高くなる。
(2)光複屈折板中を直進する光路と斜めに進む光路を切換えるため、両光路には光路長差が生じて焦点位置がずれる。
(3)光路の移動量は光学結晶の複屈折性と厚みで決まってしまうため、光路の移動量は固定化されている。
〔特許文献5〕においては、低い解像度の発光素子アレイを使用しながらも、偏光面を90度回転させる強誘電性液晶セルと複屈折板とを組み合わせることによって、電気光学的に露光位置を変化させる結像位置制御手段を用いることで、高い解像度で印刷することができるようにした光書込み装置が提案されている。
具体的には、一対の透明な基板上に一対の透明電極と水平配向膜とが形成され、二枚の基板の間にはキラルスメクチックC相からなる強誘電性液晶からなる液晶層が挟まれている。この液晶セルの後に複屈折板を設けておくと、複屈折板に対して常光成分となる偏光面の時に光は直進し、異常光成分となる偏光面の時に光は平行にシフトする光路シフト手段が構成できる。
この際、光路のシフト量は、複屈折板の光学軸の方向や厚みによって決まり、このようにして構成されている光路シフト手段を発光体アレイと記録体との間に介在させることで光書込み装置が実現できる。したがって、この光書込み装置を画像形成装置に用いることで、低い解像度の発光体アレイを使用しても、高い解像度で印刷することができる。この構成で用いている強誘電性液晶は、比較的高速スイッチングが可能である。
しかしながら、このような光書込み装置には、以下のような課題がある。
(1)表面安定型強誘電性液晶セルは、セルギャップの制御が高精度に要求されるため、発光体アレイの大きさに対応した面積での作製が困難である。
(2)複屈折板として機能する光学結晶は一般に高価であり、発光体アレイの大きさに対応した面積の光学結晶を用いることはコストが高くなる。
(3)光複屈折板中を直進する光路と斜めに進む光路を切換えるため、両光路には光路長差が生じて焦点位置がずれる。
(4)光路の移動量は光学結晶の複屈折性と厚みで決まってしまうため、光路の移動量は固定化されている。
〔特許文献6〕においては、透明な一対の基板と、基板間に充填されたホメオトロピック配向をなすキラルスメクチックC相よりなる液晶と、この液晶に電界を作用させる少なくとも1組以上の電界印加手段とを備える構成としている。また別の構成として、透明な一対の基板と、基板間に充填されたホモジニアス配向をなすキラルスメクチックC相よりなる液晶と、この液晶に電界を作用させる少なくとも1組以上の電界印加手段とを備え、液晶を挟む基板の少なくとも一方が鋸歯形状をなしている構成としている。
このような構成では、キラルスメクチックC相よりなる液晶を利用しているので、従来の光偏向素子に比べて、構成が複雑であることに伴う高コスト、装置大型化、光量損失、光学ノイズを改善でき、かつ、従来のネマチック液晶などにおける応答性の鈍さも改善でき、高速応答が可能となっている。
しかし、大面積でも均一な偏向量が得られ、高速応答性がさらに向上することが望まれている。
特開平9−133904号公報
特許第2579426号公報
特開平7−92507号公報
特開平7−20417号公報
特開平8−118726号公報
特開2002−328402号公報
図1又は図2に示すように、本発明の第1の実施の形態にかかる光偏向装置30は、透過する光20を偏向させる液晶セルである光偏向素子21と、光偏向素子21に電界を印加させるための電界形成手段としての電界印加手段22とを有している。光偏向素子21は、互いに対向する一対の基板である2枚の透明な基板11と、キラルスメクチックA相によって構成され各基板11の間に位置する液晶層12と、液晶層12を形成する液晶分子13を各基板11に水平配向させる水平配向膜としての配向膜14と、互いに平行に配設され、矢印Aで示すその延設方向が、基板11の配設面すなわち図に示した座標系(以下、単に「座標系」と記載する。)におけるYZ平面にほぼ平行であり、矢印Bで示す液晶分子13の初期配向の配向方向とほぼ平行に長い、複数のライン状の電極15と、各基板11の間隔を規制する一対のスペーサー16とを有している。
各基板11は平板状をなしている。液晶層12は、キラルスメクチックA相を示す強誘電性液晶が充填されることにより形成されている。配向膜14は、各基板11の内側、すなわち一方の基板11が他方の基板11に対向する側に配設されている。各スペーサー16は、 各配向膜14の内側に位置している。各電極15は、一方の基板11の内側に、座標系におけるZ軸方向に延設され、配向膜14によって覆われている。各電極15には、電界印加手段22が接続されている。電界印加手段22は、各電極15により各基板11の配設面にほぼ平行な電界を形成するためのものであり、交流又はこれに類する電圧を印加する電源17と、各電極15間に等しい大きさの抵抗を与える抵抗素子18とを有している。これにより、各電極15相互間には、電界印加手段22により、座標系におけるY軸方向に、互いに等しい大きさの電界が形成されている。
配向方向Bは、電界印加手段22による電界形成が行われてない状態での液晶分子13の長軸方向すなわち液晶ダイレクタ方向(適宜「液晶ダイレクタ」ともいう)を示している。配向膜14は、液晶分子13を配向方向Bに配向させるため、配向方向Bに平行な方向であるC方向へのラビング処理を施されている。図2に示すように、光偏向素子21には、直線偏光した光20が透過するようになっている。直線偏光の向きは、座標系におけるZ軸方向であり、図2(a)においては紙面に垂直な方向であり、図2(b)、(c)においては矢印Dで示す方向である。方向A、B、C、Dは、すべて互いにほぼ平行であり、座標系におけるZ軸方向にほぼ一致しているとともに、各基板11の配設面に平行であり、また、各電極15のうち、基板11の一方の端部側に位置するものから他方の端部側に位置するものに向かう方向すなわち座標系におけるY軸方向に直交している。
本形態において、電極15は片方の基板11のみに形成しているが、上述した水平電界が印加可能であれば両基板11に形成してもよい。電極15の本数、ピッチ、幅は偏向させたい光束の幅、所望の偏向角などによって適宜設定される。本形態では便宜上ライン本数を4本としている。電極15の材料としては透明性が高いもの、ライン状のパターン形成のしやすいものが好ましく、一般的に使われているITOを用いることができる。しかしこれに限定はせず、例えばCr等の金属電極であっても、ライン幅が非常に細く透過光量が多ければ問題なく使用できる。
配向膜14は両基板11の内面に形成しているが、液晶ダイレクタを基板11の配設面と水平に配向できれば、片方の基板11のみに形成するだけでもよい。配向膜14の材料としては、TN液晶、STN液晶等に用いられるポリイミド等の一般的な配向膜が利用できる。液晶ダイレクタの配向を一定方向に配向させるためには、ラビング処理とともに、又はラビング処理に換えて光配向処理を加えて施すことが好ましい。スペーサー16には所望の間隔の大きさをしたビーズ、リブを利用することができる。
液晶材料に関して説明する。「スメクチック液晶」とは液晶分子の長軸方向をほぼ揃えており、長軸方向を揃えたまま層状に配列してなる液晶相である。このような液晶に関し、液晶分子の長軸方向が液晶分子によって構成されるスメクチック層の法線方向すなわち層法線方向と一致している液晶相を「スメクチックA相」と呼ぶ。また、液晶分子の長軸方向が層法線方向に一致せずに傾斜している液晶相を「スメクチックC相」と呼んでいる。
ここで電傾効果について説明する。電傾効果とは、電場によって液晶分子の配向ベクトルの傾きが誘起される現象であり、液晶分子の長軸方向が層法線方向と一致しているスメクチックA相において、層法線方向に対して分子が傾いているスメクチックC*相への相転移を起こす温度領域での前駆現象である。電傾効果のモデルを図3に示す。まず液晶分子がキラルでその垂直方向に双極子モーメントを持つ非ラセミ体液晶のスメクチックA相を考える。
図3(a)に示すように、電場E=0のとき、液晶分子31はスメクチック層32に垂直に向いており、スメクチック層32の法線方向Fと平行な長軸33の回りに自由回転している。この状態から、図3(b)に示すように、スメクチック層32と平行な方向に電場(+E)を印加すると、液晶分子31は、自由回転が抑制され、自発分極Pが誘起され、方向Fから+θ傾斜する。また、図3(c)に示すように、電場の極性を変え、スメクチック層32と平行な方向に電場(−E)を印加すると、傾き方向は逆転し、電場に対する1次の効果を示す。
傾斜方向は電場の方向と垂直であり、液晶分子31の傾斜角θは
θ=(ε⊥ *-ε⊥ 0)ε0E
で表され電場の大きさに比例するが、転移点近傍では上式からずれ飽和する傾向にある。この付近ではE1/3に比例することがエネルギー最小の条件から理論的に説明されている。ε⊥ *、ε⊥ 0はそれぞれ光学活性物質およびそのラセミ体の比誘電率でありε0は真空の誘電率である。また分極Pと傾斜角θは電傾効果係数κを用いて
P=κθ
で表される比例関係にある。κはエレクトロクリニック係数と呼ばれており、ここでは詳細については省略する。応答性について特徴的なのは、応答速度は電場強度に依存せず、およそ10V/μmの電界強度で数μsec〜数十μsecの高速応答が得られている。
本発明ではこのような電傾効果を利用して、液晶ダイレクタの傾斜角を電界により制御することで光偏向動作をなすものである。
ここで、光偏向動作について説明する。光偏向装置30への入射光20の偏光方向が一定であるため、入射光20が感じる屈折率は、液晶ダイレクタ、言い換えると液晶配向に依存する。
例えば、(+E)の電界が印加されたときは、液晶分子13の液晶ダイレクタは、図4(a)において実線で示すように、座標系における+Y軸方向に液晶分子13を貫く図示しない軸を中心に、入射光20の進行方向に向かって+Z軸方向に傾いた状態となり、出射光は座標系における+Z軸方向に偏向される。(−E)の電界が印加されたときは、液晶分子13の液晶ダイレクタは、図4(b)において実線で示すように、座標系における−Y軸方向に液晶分子13を貫く図示しない軸を中心に、入射光20の進行方向に向かって−Z軸方向に傾いた状態となり、出射光は座標系における−Z軸方向に偏向される。
よって、電界を制御することにより、電傾効果により、初期の水平配向すなわちホモジニアス配向からホメオトロピック配向に近づき、液晶ダイレクタが傾斜し、液晶層の平均的な光学軸が傾斜するので、液晶層12の屈折が変化し、一軸性結晶と同様の作用により、直線偏光した光の光偏向動作をなすことができる。光偏向方向は液晶ダイレクタの傾きにより設定できるため、電界印加手段22により形成される電界の強度及び/又は電界の向きを変化させることで液晶ダイレクタの傾きを設定し、偏向を行うことができ、電界の強度をアナログ変調すれば、アナログ光偏向を行うことができる。
スメスチックA層は自発分極を有し非常に高速な応答性を示すため、高速かつアナログ光偏向動作が可能な光偏向装置30が実現されている。また、本形態は複数のライン状の電極15を平行配置して基板11の配設面に対して水平電界を発生させる構成としているので、大面積においても電界強度を均一に印加することができ、大面積で均一な光偏向動作が可能となる。
また各電極15の延設方向Aを、これによって印加される電界の方向が液晶分子13の配向方向Bと直交する方向となるようにしたため、たとえば電界の方向が方向Bに対して45°傾くように方向Aを定めた場合等に比して、電傾効果による液晶分子13の光学軸の傾斜を効率よく行うことができる。また入射光20の、直線偏光の方向Dが液晶分子13の配向方向Bと平行であり、方向Dが液晶分子13を基板11の配設面上に投影してなる方向と平行であるため、方向Dは液晶ダイレクタ方向と一致し、液晶ダイレクタの傾斜による屈折率の変化を効率よく利用することが可能となっている。
図5に、本発明の第2の実施の形態にかかる光偏向装置40を示す。本形態の説明は、第1の実施の形態と異なる部分について行い、その余は同形態と同じ符号を付するに留め、同形態の説明を本形態の説明に代える。本形態の光偏向素子41は、図5(c)に示されているように、電極15が配設された基板11に対向する基板42が平板状をなしておらず、基板42は、その内側に、座標系におけるXZ断面が鋸歯形状となる面43を有している。基板42の配設面は基板11の配設面と平行である。面43上に形成された配向膜44は、面43の形状に合わせた鋸歯形状をなしている。
基板42の鋸歯形状の形成法としては、基板42をフォトリソによりエッチングする方法、切削・研削などにより直接形状加工する方法などがある。また、このような方法により鋸歯形状を形成した金型品を用いて、透明プラスチック材料を射出成形等し、転写して基板42とするといった方法もある。電極15は平滑な基板11のみに形成しているが、基板11、42の配設面に対して水平電界が印加可能であれば、基板42のみ、または両基板11、42に形成してもよい。電極15の本数、ピッチ、幅等は偏向させたい光束の幅、所望の偏向角などによって適宜設定される。また、鋸歯形状をスペーサー16の代わりに利用することもできる。その際にはショートしないように、接触する電極面のエッチング、絶縁膜を設けるなどの処理を施すことが好ましい。
本形態では、鋸歯形状の基板42を用いているので、液晶層12と基板42との屈折率の差を用いた屈折により偏向を行うため、平板状の場合に比べて大きな偏向角を得ることができる。光偏向角は鋸歯形状のピッチや深さにより容易に設定される。また、両基板11、42のギャップが小さくとも、大きな偏向角が得られるため、光偏向素子41は小型化に適している。鋸歯形状は、水平電界が得られるのであれば、基板11、42の少なくとも一方に設けられれば良く、電極15を備えた基板に形成しても良いし、両基板に形成しても良い。
なお、鋸歯形状を有する場合、液晶分子13は、鋸歯形状を構成している、基板42の配設面に傾斜した面に沿っても配向する。しかし、この場合にも、入射光20の直線偏光の方向は、液晶分子13を基板42の配設面上に投影してなる方向と平行である。本明細書及び特許請求の範囲においては、この場合を含めて、液晶分子の配向方向が直線偏光の方向とほぼ平行である旨記載している。
図6に、本発明の第3の実施の形態にかかる光偏向装置50を示す。本形態の説明は、第1の実施の形態と異なる部分について行い、その余は同形態と同じ符号を付するに留め、同形態の説明を本形態の説明に代える。本形態の電界印加手段51は、各電極15のそれぞれの間に配設され、各電極15間に互いに異なる大きさの抵抗を与え、各電極15のそれぞれの間の電界の強度を異ならせる抵抗素子52、53、54を、この順で、座標系における+Y軸方向に有している。
抵抗素子52、53、54の抵抗値は、この順で、各電極15のうち、一方の端部側、すなわち座標系において最も−Y側に位置するものから、他方の端部側、すなわち座標系において最も+Y側に位置するものに向かう方向すなわち+Y軸方向において、段階的に漸増するようになっている。具体的には、抵抗素子53の抵抗値は抵抗素子52の抵抗値の2倍、抵抗素子54の抵抗値は抵抗素子52の抵抗値の3倍になっており、抵抗値が等差で漸増するようになっている。
したがって、図7において符号Eで示すように、各電極15間の電界は、+Y軸方向において等差で漸増しており、図6に示すように、液晶分子13の傾きも、+Y軸方向において漸増している。これにより、液晶層12の屈折率分布を、Y軸方向における所望の光偏向方向を得るように近似的に変化させることができる。図7において符号nで示すような屈折率分布を得ることが可能となり、可変プリズムと同様の効果をもたらすことができる。抵抗素子の抵抗値は、各電極のうち、一方の端部側に位置するものから他方の端部側に位置するものへ向けて漸減するようにしてもよい。
図8に、本発明の第4の実施の形態にかかる光偏向装置60を示す。本形態の説明は、第1の実施の形態と異なる部分について行い、その余は同形態と同じ符号を付するに留め、同形態の説明を本形態の説明に代える。本形態の光偏向素子61は、電極15を座標系におけるY方向に10本備えている。また電界印加手段62は、各電極15間に抵抗を与える抵抗素子63a、63b、63c、64a、64b、64c、65a、65b、65cを、この順で、座標系における+Y軸方向に有している。
抵抗素子63a、64a、65aの抵抗値は互いに等しく、抵抗素子63b、64b、65bの抵抗値は互いに等しく、抵抗素子63c、64c、65cの抵抗値は互いに等しい。抵抗素子63b、64b、65bの抵抗値は、抵抗素子63a、64a、65aの抵抗値の2倍であり、抵抗素子63c、64c、65cの抵抗値は抵抗素子63a、64a、65aの抵抗値の3倍である。
したがって、抵抗素子63a、63b、63cの抵抗値と、抵抗素子64a、64b、64cの抵抗値と、抵抗素子65a、65b、65cの抵抗値とはそれぞれ、この順で、各電極15のうち、一方の端部側、すなわち座標系において最も−Y側に位置するものから、他方の端部側、すなわち座標系において最も+Y側に位置するものに向かう方向すなわち+Y軸方向において、段階的に漸増するようになっているとともに、抵抗素子63a、63b、63c、64a、64b、64c、65a、65b、65cの抵抗値は、この順で+Y軸方向において周期的に変化している。
すなわち、+Y軸方向において抵抗値が漸増する抵抗素子を1つの単位としてみたとき、これを+Y軸方向において3つ備えたごときものとなっている。この1つの単位は、第3の実施の形態と同様の構成であり、したがって、各単位における各電極15間の電界の強度とその変化、向き、液晶分子13の傾きも第3の実施の形態と同様となっている。
したがって、図9に示すように、液晶層12の屈折率分布が、+Y軸方向において等差で漸増する部分が、+Y軸方向において周期的に3回繰り返されており、周期的な屈折率分布を得ている。ここで、抵抗素子63a、63b、63c、64a、64b、64c、65a、65b、65cとしては、電子ボリューム等の電気信号による可変抵抗を使用することができ、全体の電圧を調整する電位差調整器を設けていることが好ましい。全体の電圧を増倍させる方法としてはオペアンプのような増幅器を用いることができる。
このような構成によれば、光偏向を回折現象により機能させることができる。そのため屈折率分布から発生する回折光は全て偏向光として利用できるため光利用効率がよくなる。例えばプリズムのような屈折率分布により光を偏向させる場合、完全にブロードな分布をつくることが理想であるが、これは実際には難しく、屈折率分布は階段状になってしまい、この階段状の分布から回折がおこるため光利用効率は悪くなる。しかし、本構成では、回折を利用して光偏向機能を達成することで光利用効率が向上している。なお、抵抗素子の抵抗値は、各電極のうち、一方の端部側に位置するものから他方の端部側に位置するものへ向けて漸減するようにし、これを周期的に配設したごとき構成としてもよい。
図10に、本発明の第5の実施の形態にかかる光偏向装置70を示す。本形態の説明は、第1の実施の形態と異なる部分について行い、その余は同形態と同じ符号を付するに留め、同形態の説明を本形態の説明に代える。本形態の光偏向素子71は、平板状の基板11に対向する透明な基板72が平板状をなしておらず、その内側に、座標系におけるXY断面が鋸歯形状となる面73を有している。基板72の配設面は基板11の配設面と平行である。
基板11の、基板72に対向する側の面には、ライン状でなく、基板11の形状に合わせた平面状の電極74が配設されている。基板72上にも、面73の形状に合わせた鋸歯形状の電極75が配設されている。電極74、75上にはそれぞれ、電極74、75の形状に合わせた配向膜76、77が配設されている。電界印加手段78は、各電極74、75に電圧を印加している。入射光20の偏光方向Gは座標系におけるY軸方向とほぼ平行である。
基板72の鋸歯形状の形成法としては、基板72をフォトリソによりエッチングする方法、切削・研削などにより直接形状加工する方法などがある。また、このような方法により鋸歯形状を形成した金型品を用いて、透明プラスチック材料を射出成形等し、転写して基板42とするといった方法もある。電極74、75はそれぞれ、基板11、72全面に形成されたベタ電極構造であり、電極の材料としては透明性が高いものが好ましく、一般的に使われているITOを用いることができる。また、鋸歯形状をスペーサー16の代わりに利用することもできる。その際にはショートしないように、接触する電極面のエッチング、絶縁膜を設けるなどの処理を施すことが好ましい。
このような構成の光偏向装置70においても、電傾効果を利用して、液晶ダイレクタの傾斜角を電界により制御することで光偏向動作をなすことができる。
ここで、図11に沿って光偏向動作について説明する。光偏向装置70への入射光20の偏光方向が一定であるため、入射光20が感じる屈折率は、液晶ダイレクタに依存する。
例えば、図11(a)、図11(b)に示すように、(−E)の電界が印加されたときは、液晶分子13の液晶ダイレクタは、図10(a)に示すようになり、入射光20の感じる屈折率は常光成分noとなり、基板72の屈折率と常光成分の屈折率noが一致する場合、出射光25は直進する。また図11(c)、図11(d)に示すように、(+E)の電界が印加されたときは、液晶分子13の液晶ダイレクタは、図11(c)に示すようになり、入射光20の感じる屈折率は異常光成分neとなり、基板72の屈折率と異常光成分の屈折率neが一致しない場合、出射光25は座標系における+Y軸方向に偏向する。なおここでは、基板72の屈折率と常光成分の屈折率とを一致させているが、異常光成分の屈折率を基板72の屈折率と一致させて、常光成分の屈折率noを感じるときに偏向作用をもたらす構成としてもよい。
よって、電界を制御することにより、電傾効果により、初期の水平配向すなわちホモジニアス配向の液晶ダイレクタが基板72の配向面において傾斜することで、入射光20の感じる液晶層12の屈折率を変化させて、直線偏光した光の光偏向動作をなすことができる。これは、液晶分子13の傾斜する方向は常に基板11、72の配設面と平行であるため、入射光20の直線偏光の方向が液晶分子13の配向方向に平行であっても垂直であっても、入射光20の感じる平均的な屈折率は電界制御により変化するためである。
光偏向方向は鋸歯形状のピッチ、深さ等により設定でき、このような構成では2値方向の光偏向動作となる。液晶層12の駆動電圧はセルギャップに依存するが、光偏向素子71では液晶層12のギャップが比較的狭いため、低電圧駆動で光偏向動作を実現できる。スメスチックA層は自発分極を有し非常に高速な応答性を示すため、高速かつアナログ光偏向動作が可能な光偏向装置71が実現されている。鋸歯形状は、基板11、72の少なくとも一方に設けられれば良く、基板11に形成しても良いし、両基板11、72に形成しても良い。
以上、本発明の第1ないし第5の実施の形態にかかる光偏向装置を説明した。
ここで、電傾効果の説明において記載したように、電傾効果はスメクチックA相からスメクチックC相へ転移する温度領域でおこる現象であり、この温度範囲外では光偏向量が変化したり、光偏向機能を示さなかったりするといった不具合が発生する可能性がある。
そこで、図12に示すように、本発明の実施の形態にかかる光偏向装置30は、光偏向素子の温度を検知する温度検知手段26を設け、電傾効果が得られるような適正な温度領域にあるかどうか、動作温度を検知することとしている。また、適正温度範囲外にあるときには動作を停止させる図示しない停止手段などを併せて設けることで、温度上昇に伴う破損などを未然に防ぐことができる。
温度検知手段26は、図示を省略するが、温度検知素子としての温度センサーと、温度測定手段としての温度測定回路とを有しており、温度検知素子としては例えば、サーミスタ、熱電対などを用いることができる。特に熱電対は、熱起電力が大きく、特性のバラツキが小さく互換性がある。また、熱に対し安定で寿命が長いなどの特徴があり信頼性が高い。材質としては例えば、JIS規格に規定されているK(クロメルーアルメル)、J(鉄−コンスタタン)、T(銅−コンスタンタン)、E(クロメル−コンスタンタン)、N(ナイクロシル−ナイシル)または、JIS規格外の(ニッケル−ニッケル18%モリブデン)、(タングステン5%レニウム−タングステン26%レニウム)などを用いることができる。
温度検知の精度をさらに向上させるためには光路中にも温度検知手段を設置することが好ましい。ただし、光路中に設置した温度検知手段が入射光を遮り、全体の光利用効率を低下させることを防止するため、透明抵抗体よりなる材料を用いることが好ましい。この抵抗体としては、SnO2やIN2O3などを用いることができる。その形成法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などにより光偏向素子を構成する基板に直接形成することができる。このような抵抗体の抵抗値の温度特性から温度を検知することができる。
光偏向装置30は、温度検知手段26のみならず、温度検知手段26により検知した温度に基づいて、光偏向素子21の温度を制御する温度制御手段27を有している。温度制御手段27は、温度検知手段26に接続されたCPU等の温度制御回路としての駆動制御手段19と、光偏向素子21の外部において光偏向素子21の両端に光偏向素子21と一体に設けられ駆動制御手段19によって通電を制御される加熱手段としての一対の加熱ヒーター28と、各加熱ヒーター28の間に配設され、入射光20を透過させる光透過用窓29とを有している。ただし、温度制御手段27に備えられる加熱手段は、小型化のために、光偏向素子21の内部または表面に接して抵抗線を形成し、これに電流を流すことで得られるジュール熱を利用するのが好ましい。なお、図示を省略するが、冷却手段すなわち冷却源としてペルチェ素子等を備え駆動制御手段19により駆動することができる。
温度検知手段26を有することで、光偏向装置30においては、光偏向素子21の温度を、常に安定した光偏向量が得られる適正な温度範囲内にあるかどうか検知することができ、例えば検知した温度がかかる適正な温度範囲に基づいて定められた設定温度範囲の外のある場合には運転不可とする上述したような停止手段を設けることで、光偏向素子21の温度が適正な温度範囲外にある場合に発生する不具合を防止することが可能となる。
また光偏向装置30は温度検知手段26と併せて、温度制御手段27を有することで、光偏向装置30においては、光偏向素子21の温度を、上述した停止手段を用いることなく、常に安定した光偏向量が得られる適正な温度範囲内にあるように制御することができる。すなわち常に安定した光偏向量、言い換えると一定の光偏向量を得ることができるようになっている。ここで、液晶材料の温度特性すなわち相転移点は材料により異なるため、適正温度範囲は使用する材料によって適宜設定される。なお、光偏向装置30は、本発明の第1の実施の形態にかかるものであるが、他の実施の形態にかかる光偏向装置においても同様に、ここに述べた温度検知手段、温度制御手段等を設けることができる。
これらの光偏向装置は、プロジェクションディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイなどの電子ディスプレイ装置等の画像表示装置に搭載され、かかる画像表示装置に備えられた透過型液晶ライトバルブ、反射型液晶ライトバルブ、DMD素子等の画像表示素子の画素数を、見かけ上増加させることに用いられる。このような画像表示装置を以下説明する。
図13に示すように、かかる画像表示装置80は、白色ランプにシャッターを組合わせた、高速にON/OFFできる光源81と、光源81をON/OFFさせる光源駆動手段82と、光源81から出た光を均一化する照明装置83と、照明装置83から入射した均一な照明光を空間光変調して出射する、複数の画素が2次元的に配設された画像表示素子84と、画像表示素子84を駆動して所定の画像を表示させる表示駆動手段85と、画像表示素子84による表示画像を縮小する縮小光学素子86とを有している。
画像表示装置80はまた、縮小光学素子86からの光が入射しこの光を偏向させる、上述したもののうちの何れかの光偏向装置1と、光偏向装置1において印加する電圧を制御するための光偏向電圧制御手段87と、光偏向装置1によって偏向された光を拡大し画像光とする投射レンズ88と、投射レンズ88を透過した光が投射される光学部材としてのスクリーン89と、光源駆動手段82と表示駆動手段85と光偏向電圧制御手段87とを制御し、スクリーン89によって観察される画像の見かけ上の画素数を増加させるための制御手段としての画像表示制御回路90とを有している。
光源81は、LEDランプやレーザー光源、白色のランプ光源にシャッターを組合わせたもの等、白色あるいは任意の色の光を高速にON/OFFできるものであればどのようなものでも良い。光源駆動手段82による光源81のON/OFFは画像表示駆動制御回路90によって制御され、光源81は画像表示素子84を照明する。照明装置83は、拡散板91と、コンデンサレンズ92等を有しているが、フライアイレンズ等を用いることができる。画像表示素子84は、画像表示駆動制御回路90からの画像情報に従って表示駆動手段85によって駆動されることで光を制御可能なものであり、カラーフィルターを組み合わせた透過型液晶ライトバルブを用いているが、カラーフィルターの組み合わせは任意であり、また透過型液晶ライトバルブの代わりに反射型液晶ライトバルブ、DMD素子などを用いることができる。
縮小光学素子86は、マイクロレンズ、コリメートレンズなどから構成される。その縮小量は画素ピッチの整数分の1であることが好ましい。光偏向装置1の配設位置は画像表示素子84とスクリーン89との間の、画像表示装置から表示される画素のデフォーカス位置であり、表示画像の解像度を劣化させない構成とする。光偏向装置1は画像表示素子84及び縮小光学素子86の後方に配置され、画像表示制御回路90によって制御される光偏向電圧制御手段87により、上述したもののうち何れかの電界印加手段による印加電圧を制御することで、画像光を画素の配列方向に任意の距離だけシフトする。
光偏向装置1による光のシフト量は、縮小量と同様に画素ピッチの整数分の1であることが好ましく、シフト量と縮小量が等しい場合シフトした画素が重なることはない。そのため、画素シフト効果により解像度をおとすこともない。また、シフト量と縮小量が異なる場合にはシフトした画素は重なる、あるいは画素間が広がるなどして解像度をおとす原因となるが、表示画像に問題がない程度であれば、シフト量と縮小量は等しくなくてもよい。画素の配列方向に対して2倍の画像増倍を行う場合は画素ピッチの1/2にし、3倍の画素増倍を行う場合は画素ピッチの1/3にする。また、光路偏向電圧制御手段の構成によってシフト量が大きくなる場合には、シフト量、画素縮小量を画素ピッチの(整数倍+整数分の1)の距離に設定しても良い。
いずれの場合も、画像表示制御回路90による制御によって、画素のシフト位置に対応した、画像フィールドを時間的に分割した複数のサブフィールドの画像信号で画像表示素子84を駆動し、かかるサブフィールド毎に画像表示素子84とスクリーン89との間の光路が光偏向装置1により偏向される。したがって、画像表示制御回路90による制御により、光源81から放出された光は、拡散板91により均一化された照明光となり、コンデンサレンズ92により画像表示素子84をクリティカル照明され、画像表示素子84で空間光変調された照明光は、画像光として投射レンズ88で拡大されスクリーン89に投射され、スクリーン89に投射された画像は、見かけ上の画素数が増加した状態で観察される。
よって使用した画像表示素子84の解像度以上の高精細でコントラストの良い画像を表示することが出来る。例えば、図14に示すように、画像表示素子84の画素ピッチHに対し、シフト量をIとすることで、スクリーン89上における見かけ上の画素ピッチがJとなっており、見かけ上の画素増倍効果が得られているから、使用した画像表示素子84の解像度以上の高精細でコントラストの良い画像を表示することが出来る。また、スメクチックA相の液晶を用いた光偏向装置1を用いているので、光偏向動作の応答速度が非常に速いため、応答速度の遅い光偏向を行う際に問題となるちらつき、フリッカー等が発生せず、高精細でコントラスト低下の少ない、高解像度、高画質の画像表示装置となっている。
画像表示装置80は、光源81に白色のランプを用い、画像表示素子84にカラーフィルターを組み合わせた透過型液晶ライトバルブを用いることで、カラーの画像表示を行うことが可能となっている。フルカラーの画像表示は、単板の画像表示素子を時間順次に三原色光で照明するフィールドシーケンシャル方式によって行うこともできる。この時、白色ランプ光源と回転カラーフィルターを組み合わせて時間順次の三原色光を生成しても良い。
図15に、画像表示装置80に適用可能な光偏向素子の配置の一例を示す。この光偏向素子93は、光偏向装置1に備えられるものである。光偏向素子93、光偏向装置1はそれぞれ、図5に示した本発明の第2の実施の形態にかかる光偏向素子41、光偏向装置40に対応するものである。光偏向素子93の鋸歯形状は、矢印Kで示す方向に平行なその稜線が、図15における紙面の左右方向に向けて並ぶように、アレイ状に形成され、鋸歯アレイとなっている。画像表示素子84を出射する光94は、矢印Lで示す、図15における紙面の左右方向に偏光した直線偏光である。K方向は、図5における座標系のY軸方向に対応しており、L方向は、図5における座標系のZ軸方向に対応している。
よって光偏向素子93を備えた画像表示装置では、光94の全体を、矢印Mで示すように、図15における紙面の左右方向に画素シフトさせることができ、スクリーン89上に画素が倍増した観察画像を得ることができる。この例では矢印Mで示す1方向において画素数が増加した状態で観察される。なお、M方向は、図5における座標系のZ軸方向に対応している。このような遮光部を設けた光偏向素子93を用いることで、画面の横方向シフトすなわちK方向に直交するM方向へのシフトにおいて、上述のように高精細でコントラスト低下の少ない等の効果を奏する画像表示装置が実現される。
このような画像表示装置に搭載可能な、上述した種々の光偏向装置はまた、画像形成エンジンとして発光体アレイ等を用いた光書込み装置に搭載され、かかる発光体アレイに備えられ所定の間隔で配列された発光部材から放射された光の照射位置の間隔を、かかる所定の間隔よりも小さくさせることに用いられる。さらには、かかる光偏光装置は、かかる光書き込み装置に搭載された状態で、この光書込み装置を用いた複写機、ファクシミリ、プリンタ等あるいはこれらの複合機すなわちMFP等の画像形成装置に搭載されることが可能なものである。そこで、かかる光書き込み装置を以下説明する。
図16は、かかる光書き込み装置95がかかる画像形成装置に搭載された場合を示しており、記録体αはかかる画像形成装置に備えられた、感光体等の像担持体に相当するものである。光書き込み装置95は、かかる画像形成装置に一般的に搭載されている、ポリゴンミラー等を用いた光書き込み装置であるが、ポリゴンミラー等、図16に示した構成以外の構成は本発明の本質に大きな影響を与えるものではないので、その説明は省略する。同様の理由で、かかる画像形成装置の構成についてもその説明は省略する。
図16に示すように、光書き込み装置95は、複数個の発光部材としての発光体96を、予め決められた所定の間隔すなわち画素ピッチQでR方向に配列した状態で備えている発光体アレイ97と、発光体アレイ97に近接して配設され各発光体96が出射し放射したそれぞれの光45を集光して発光スポットの輝度分布を変化させ、記録体α上での書き込みスポット形状を制御するための図示しないマイクロレンズアレイと、このマイクロレンズアレイを透過した光45を記録体α上に集束させる図示しないレンズと、このレンズを透過した光45を発光体96の配列方向Rとほぼ平行なS方向に電気的にシフト可能な光路シフト手段2とを有している。
光路シフト手段2は、発光体アレイ97から記録体αに向かう光45の光路上に配置されており、図示を省略するが、上述したもののうちの何れかの光偏向装置を、発光体96のそれぞれに対応して、間隔QでR方向に配設した状態で有している。発光体96としては、LEDすなわち発光ダイオード、レーザダイオードすなわち半導体レーザ等の光源を用いることができ、またこのような光源と液晶シャッターを組み合わせたもの、かかる光源とマイクロミラーを組み合わせたものなどを用いることができる。
発光体96は、記録体α上での高精細な画素露光を行なうためには、その面積が小さく、放射する光45の指向性が高いことが好ましい。また、発光体96から放射される光45の波長は、発光材料やフィルタの特性より設計可能であり、書き込み装置95により書き込みが行われる記録体αの分光感度に応じて適宜設定される。発光体アレイ97はこれらの発光体96を一次元あるいは二次元状に複数個配列した状態で有している。
マイクロレンズアレイとしては液晶マイクロレンズアレイを用いることができ、電界による可変焦点機能により記録体α上での露光スポットサイズを可変としても良い。発光体96が放射した光を記録体α上に集束させるレンズとしては、球面レンズ、非球面レンズ、屈折率分布型レンズアレイなどを用いることが出来るが、光学系の小型化のためには物体像面間距離が短くできる屈折率分布型レンズアレイすなわちセルフォックレンズアレイが好ましい。このレンズの一部に液晶層を設けて液晶レンズとし、電界による可変焦点機能により記録体α上での露光スポットサイズを可変としても良い。
ここで、発光体96の画素ピッチQすなわち配列ピッチQがPμmであるとすると、光路を、光路シフト手段2によって、記録体α上において、発光体96の配列方向RにP/2μmの距離だけ高速にシフトすることで、画素間を補間した2倍の画素密度の露光が可能となる。
このような構成の光書込み装置95では、発光体アレイ97に所定のピッチQで配列された発光体96が画像形成装置において形成すべき画像に対応した画像信号に応じて駆動され、発光体96から光が放射される。発光体96から放射された光45は、図示しないレンズを透過することにより記録体α上において収束される状態とされ、次にマイクロレンズアレイを透過することにより記録体α上における露光スポットが制御された状態とされ、さらに光路シフト手段2を透過することにより光45の光路がR方向にシフトされて、記録体α上の、破線で示す矢印の位置又は鎖線で示す矢印の位置の何れかに集束され、これによって、記録体αが露光される。
ただし、光路シフト手段2によるかかるシフトは電界の極性をスイッチング動作によって高速で切り替えられながら行われるため、記録体α上の、破線で示す矢印の位置又は鎖線で示す矢印の位置は、ほぼ一直線上に位置する。このような高速の切り替えは、光路シフト手段2に備えられた光偏向装置がスメクチックA相の液晶を用いており、光偏向動作の応答速度が非常に速いという利点によって実現されている。このような光路シフト機能を発揮する光路シフト手段2により、発光体アレイ97からの光45が記録体αに対して相対的に移動することで、二次元の画像情報が記録体α上に露光される。
露光のピッチTに関しては、光書込み装置95は、光路シフト手段2に備えられた光偏向装置を電界駆動制御することにより発光体96から記録体α上の書き込み位置に向けて放射された光45をシフトさせ、これによって記録体α上の書き込み位置における光の間隔Tを画素ピッチQよりも小さくすることで、画素ピッチQ間が補完された光照射を記録体αに対して行なう。したがって、解像度の低い発光体アレイを用いても、高解像度の画像露光が可能である。
光路シフト手段2は、発光体アレイ97に備えられた各発光体96のそれぞれに対応して光偏向装置を有しているため、各発光体96から放射される光の位置がずれた場合においても、光偏向装置の駆動制御により等間隔で画素ピッチ間を補完することができる。すなわち、経時劣化などによる影響も抑えることができ、常に安定した高解像度の画像露光が可能である。
以下、上述した形態の光偏向装置、画像表示装置、光書き込み装置の何れかに対応する、光偏向装置、画像表示装置、光書き込み装置の実施例を説明する。ただし、かかる光偏向装置、画像表示装置、光書き込み装置の利点を明らかにすべく、その説明に入る前に、従来の光偏向装置の例を、比較例として説明し、その後、各実施例について説明する。
(比較例)
この例は、本発明にかかる光偏向装置と異なり、本発明にかかる光偏向装置においてスペーサーが配設されている部分に、電極が配設されているものである。この光偏向装置は、大きさ3cm×4cm、厚さ1.1mmのガラス基板の表面にポリイミド系の液晶水平配向剤をスピンコートにより塗布し、120℃の高温槽に入れてベーク処理をし、配向膜を形成したものである。その後、ラビング処理を施し液晶の配向方向を一定方向に規制するようにした。
厚さ10μm、幅1mm、長さ3cmの2本のアルミ電極シートをラビング方向と平行にし、スペーサーとして、配向膜を内面にして二枚のガラス基板を張り合わせた。2本のアルミ電極シートは平行で、その間隔は2mmとした。基板を加熱した状態で、二枚の基板間にスメクチックA−C相の相転移を有する強誘電性液晶を毛管法にて注入し、冷却後、UV接着剤により封止した。
このようにして作製した光偏向素子の入射面側に5μm幅のライン/スペースのマスクパターンを設け、このマスクパターン側からコリメートした直線偏光で照明した。直線偏光の向きは、アルミ電極シートの長手方向と同一に設定した。マスクパターンを透過した光を光偏向素子の2本のアルミ電極シートの間を通して顕微鏡で観察した。パルスジェネレータと高速パワーアンプを用い矩形電圧を印加したところ、マスクパターンが平行にシフトして観測された。
しかし電極付近と電極間中心付近ではシフト量は異なっていた。これは場所によって、電界強度にムラがあるためと思われる。電極をスペーサーとしたため電極間の距離が大きく、電極付近の電界は強く、電極間の中心付近では電界が弱いため、電界の強度に傾斜が依存する液晶分子の傾きが、電界を印加したときに、電極付近では大きく、電極間中心付近では小さくなるため、電極付近においては光のシフト量が十分であるのに対し、電極間中心では光のシフトが不十分となっていると考えられるからである。
(実施例1)
本実施例は、第3の実施の形態にかかる光偏向装置50に対応するものである。この光偏向装置は、大きさ3cm×4cm、厚さ1.1mmのガラス基板の表面に、ITO蒸着によって、ライン幅10μm、ラインピッチ100μm、ライン長さ2cmの電極であって、幅2mmの中に20本のITO電極ラインを形成したものである。ラインの一端は電源からの接点を得るために幅とピッチを大きく作成した。ITO電極ライン上および電極の無い基板にポリイミド系の液晶水平配向剤をスピンコートにより塗布し、120℃の高温槽に入れてベーク処理をした。その後、ライン電極線方向にラビング処理を施し、液晶分子を一定方向に水平配向させるようにした。
基板間のスペーサーは厚さ10μmのマイラーシートを2本用いて、配向膜を内面にしてライン電極有りと無しの二枚のガラス基板を張り合わせた。2本のマイラーシートは平行で、その間隔はライン電極間の2mmとした。基板を加熱した状態で、二枚の基板間にスメクチックA−C相の相転移を有する強誘電性液晶を毛管法にて注入し、冷却後、UV接着剤により封止した。このようにして第3の実施の形態にかかる光偏向装置50に備えられた光偏向素子21に類似の光路偏向素子を作製した。
作製した光偏向素子をクロス二コル下に設置して温度を調節し、電傾効果による傾き角、応答速度を測定したところ、測定温度29℃において、電場:5V/μmのとき傾き角:8°であり、電場:15V/μmのとき傾き角:12°であり、電場:25V/μmのとき傾き角:13°であった。また、測定温度38℃においては、電場:5V/μmのとき傾き角:3°、電場:15V/μmのとき傾き角:6.5°、電場:25V/μmのとき傾き角:10°であり、傾き角は温度、電場に依存した。応答速度は50μsec以下と高速応答であった。
光偏向動作を確認するために、作製した光偏向素子の光入射面側に5μm幅のライン/スペースのマスクパターンを設け、このマスクパターンを通して直線偏光で照明した。マスクパターンを透過した光を光偏向素子のITO電極ラインの間を通して顕微鏡で観察した。無電界時にはマスクパターンがそのまま観察された。ここで、20本のITO電極ラインの一端に導線を接続し、光偏向素子面の電界強度が段階的になるように、それぞれ抵抗値が異なる抵抗素子を図6に示した第3の実施の形態にかかる光偏向装置50に備えられた電界印加手段51と類似の態様で各電極間に接続した。直列抵抗素子の両端にパルスジェネレータと高速パワーアンプを用いて、±200Vの矩形波電圧を印加したところ、素子中心部付近でマスクパターンがシフトしている動作が確認できた。観察位置を変化させたところ、比較例で観察されたようなシフト量のムラは確認されず、均一なシフトが得られていた。これは、ライン電極を用いたことにより電界が安定して印加されたことによると考えられる。また電圧値によってシフト量は変化した。
(実施例2)
本実施例は、シフト量について、入射する直線偏光の偏向方向と液晶分子の初期配向の配向方向との関係を確認するためのものである。すなわち、本実施例では、実施例1と同様にして、光偏向素子の作製および光偏向動作の確認をし、その際に、入射する直線偏光の方向を回転させて光偏向動作を観察した。そうすると、直線偏光方向がラビング方向と一致しているときに光路シフト量が一番大きくなり、ラビング方向と直交するときには光偏向動作は確認されなかった。このことは、入射光の偏光方向が液晶分子の初期配向と一致しているときに、効率よく光偏向動作が行われていることを示している。
(実施例3)
本実施例は、第5の実施の形態にかかる光偏向装置70に対応するものである。この光偏向装置は、大きさ3cm×4cm、厚さ1mmのガラス基板をドライエッチング法により、傾き角が約1°、ピッチ100μmの鋸歯形状を1cm×1cmの面積に形成した後、鋸歯状面にITO電極を1500Åの厚さでスパッタした。次にポリイミド配向剤を約800Åの厚さに塗布し、その基板表面を、ホモジニアス方向の安定方向が傾斜領域の傾斜方向に垂直な方向になるような条件でラビング法により配向処理を行った。すなわち鋸歯形状の刻線方向に配向処理を行った。
平滑な面のITO電極付きガラス基板を対向基板として、液晶層厚の小さい部分が3μmになるようにビーズを混入した接着剤を用いて貼り合わせた。その後、基板を加熱した状態で、2枚の基板間にスメクチックA−C相の相転移を有する強誘電性液晶を毛管法にて注入し、冷却後、UV接着剤により封止した。このようにして第5の実施の形態にかかる光偏向装置70に備えられた光偏向素子71に類似の光路偏向素子を作製した。作製した光偏向素子の傾き角、応答速度の特性は実施例1とほぼ同様であった。
ここで、作製した光偏向素子に電圧を印加して駆動させた。印加電圧はファンクションジェネレイターを用いて±20Vの矩形波電圧を印加した。素子への入射光は約1mm径の白色レーザー光を用い、波長選択フィルター(588nm)を通過させて入射光の波長を設定した。さらに素子とレーザー装置の間に偏光板を設置し、直線偏光の方向を鋸歯刻線方向から15°傾けて設定し、鋸歯形状アレイ位置へ入射させた。このようにして素子を動作させ、素子を通過する透過光をCCDカメラにより観察した。CCDカメラは素子からおよそ1m離した距離に設置した。その結果、電圧の切り換えによって透過光が偏向することが確認できた。本実施例では、基板間隔が小さいため、実施例1に比べて低電圧化することができた。
(実施例4)
本実施例は、光偏向素子については、第2の実施の形態にかかる光偏向装置40に備えられた光偏向素子41に対応するものであり、電界印加手段については、第3の実施の形態にかかる光偏向装置50に備えられた電界印加手段51に対応するものである。この光偏向装置は、光偏向素子に備えられる鋸歯状基板に関しては、実施例3と同様にしてドライエッチング法により作製した。またこの鋸歯状基板に対向するもう1つの基板である平滑基板には、実施例1と同様のITOライン電極を形成した。
この2枚の基板面にポリイミド配向剤を塗布し、ラビング処理を施した。ラビング方向はライン電極の線方向とし、配向処理の施している面が対向するように3μmの大きさのビーズを混入した接着剤を用いて基板を貼り合わせた。その際、鋸歯形状の刻線方向とライン電極の線方向が平行となるように張り合わせた。貼り合せ後、基板を加熱した状態で、二枚の基板間にスメクチックA−C相の相転移を有する強誘電性液晶を毛管法にて注入し、冷却後、UV接着剤により封止した。このようにして第2の実施の形態にかかる光偏向装置40に備えられた光偏向素子41に類似の光路偏向素子を作製した。
実施例1と同様にして、光路偏向素子の入射面側に5μm幅のライン/スペースのマスクパターンを設け、このマスクパターンを通して直線偏光で照明した。マスクパターンを透過した光を光路偏向素子のITO電極ラインの間の中央部近傍を通して顕微鏡で観察した。無電界時にはマスクパターンがそのまま観察された。ここで、20本のITO電極ラインの一端に導線を接続し、光偏向素子面の電界強度が段階的になるように、それぞれ抵抗値が異なる抵抗素子を図6に示した第3の実施の形態にかかる光偏向装置50に備えられた電界印加手段51と類似の態様で各電極間に接続した。直列抵抗素子の両端にパルスジェネレータと高速パワーアンプを用いて、±200Vの矩形波電圧を印加したところ、素子中心部付近でマスクパターンがシフトしている動作が確認できた。このシフト量は、本実施例では鋸歯状基板を用いているため、実施例1に比べて大きかった。
(実施例5)
本実施例は、第4の実施の形態にかかる光偏向装置60に対応するものである。この光偏向装置は、光偏向素子に関しては、実施例1と同様にして作製した。ここで、20本のITO電極ラインの一端に導線を接続し、光偏向素子面の電界強度が段階的かつ周期的になるように、図8に示した第4の実施の形態にかかる光偏向装置60に備えられた電界印加手段62と類似の態様で、直列抵抗を各電極間に、各抵抗素子の抵抗値が周期的になるように接続した。
この状態で直列抵抗素子の両端にパルスジェネレータと高速パワーアンプを用いて、矩形波電圧を印加したところ、素子中心部付近でマスクパターンがシフトしている動作が確認できた。このときのシフト量は周期的に設定した抵抗値のピッチから計算される値とほぼ一致しており、光偏向動作は回折によるもであった。本実施のようにして光偏向動作をしたとき、観察されたマスクパターンは実施例1と比べてゴーストが少なく、はっきりとしたものであった。これは光偏向作用が全て回折により偏向されているためと推測できる。
(実施例6)
本実施例は、第3の実施の形態にかかる光偏向装置50に備えられた光偏向素子21に対応する、実施例1と同様にして作製した光偏向素子に、図12に示して説明した温度検知手段26及び温度制御手段27に対応する温度制御装置を取り付けたものである。ここで用いている強誘電性液晶は、25℃から40℃程度の範囲で電傾効果を示し、測定温度29℃において、電場:5V/μmのとき傾き角:8°であり、電場:15V/μmのとき傾き角:12°であり、電場:25V/μmのとき傾き角:13°であった。また、測定温度38℃においては、電場:5V/μmのとき傾き角:3°であり、電場:15V/μmのとき傾き角:6.5°であり、電場:25V/μmのとき傾き角:10°であった。
光偏向素子の温度制御装置は、温度制御手段27に相当する、加熱手段としての加熱ヒーターおよび駆動制御手段19に相当する温度制御回路を有するとともに、温度検知手段26に相当する、温度検知素子としての温度センサーおよび温度測定手段としての温度測定回路を有するものとした。温度制御装置としてLINKAM社製液晶セル加熱装置TH600と安立計器製デジタル温度計を改造して使用した。図12に沿って説明した構成と同様、加熱ヒーターの間には透過窓があるため光路を遮ることは無い。図12に沿って説明した例では加熱ヒーターが光偏向素子の一方の面に接しているため光偏向素子の表面と裏面で温度差が生じるので、本実施例では温度センサーを素子の両面に配置し、両者の平均値を光偏向素子の温度として検出するように設定した。
ここで、温度制御装置の設定温度を電傾効果を示さない温度領域50℃から60℃に設定したところ、実施例1と同様にして電圧印加により駆動しても光偏向動作は確認できなかった。そこで温度制御装置の設定温度を25℃から40℃の範囲に制御し、電圧印加により駆動したところ、安定した光路シフト量を制御することが出来た。
(実施例7)
本実施例は、第3の実施の形態にかかる光偏向装置50に備えられた光偏向素子21に対応する、実施例1と同様にして作製した光偏向素子に、実施例6と同様に温度制御装置を取り付け、これを2組用いて光偏向装置を構成し、図13に示して説明した画像表示装置80に対応する画像表示装置に適用したものである。この画像表示装置は、画像表示素子として対角0.9インチXGA(1024×768ドット)のポリシリコンTFT液晶ライトバルブを用いたものである。かかる画像表示素子の画素ピッチは縦横ともに約18μmである。画素の開口率は約50%である。また、画像表示素子の光源側にマイクロレンズアレイを設けて照明光の集光率を高める構成とした。
本実施例では、光源としてRGB三色のLED光源を用い、上記の一枚の液晶パネルに照射する光の色を高速に切換えてカラー表示を行う、いわゆるフィールドシーケンシャル方式を採用している。本実施例では、画像表示のフレーム周波数が60Hz、ピクセルシフトによる4倍の画素増倍のためのサブフィールド周波数が4倍の240Hzとする。一つのサブフレーム内をさらに3色分に分割するため、各色に対応した画像を720Hzで切換える。液晶パネルの各色の画像の表示タイミングに合わせて、対応した色のLED光源をON/OFFすることで、観察者にはフルカラー画像が見える。
各光偏向素子の基本構成は実施例1と同様であるがライン電極の有効領域を18mmとした。また、加熱ヒーターとして透明フィルムヒーター(帝人製T−COATタイプF)を用いた。透明ヒーター面を光偏向素子基板に密着させて配置した。光偏向素子のガラス基板の大きさと透明ヒーターの大きさは3cm×4cmとした。透明ヒーターの表面抵抗値は500Ω/□であり、15Vの電圧を印加したところ、ヒーターの表面は一分間に12℃昇温した。
このヒーター付きの素子を2組用い、入射側を第1の光偏向素子、出射側を第2の光偏向素子とし、互いの透明電極ラインの方向が直交し、画像表示素子の画素の配列方向に一致するように配置した。本実施例では液晶ライトバルブからの出射光が既に直線偏光であり、その偏光方向が第1の光路偏向素子の光路偏向方向と一致するように配置されているが、光路偏向素子への入射光の偏光度を確実にするために、光路偏向素子の入射面側に偏光方向制御手段として直線偏光板を設けた。このことにより、第1の光偏向素子で偏向されずに直進してしまうノイズ光の発生が防止できた。
さらに、第1の光路偏向素子および第2の光路偏向素子の間に偏光面回転素子を設けた。偏光面回転素子は、薄いガラス基板(3cm×4cm、厚さ0.15mm)上にポリイミド系の配向材料をスピンコートし、約0.1μmの配向膜を形成したもので、ガラス基板のアニール処理後、ラビング処理を行った。2枚のガラス基板の間の周辺部に8μm厚のスペーサーを挟み、ラビング方向が直交するように上下基板を張り合わせて空セルを作製した。このセルの中に、誘電率異方性が正のネマチック液晶にカイラル材を適量混合した材料を常圧下で注入し、液晶分子の配向が90度捻じれたTN液晶セルを作成した。このセルには電極を設けていないため、単なる偏光回転素子として機能する。
第1の光路偏向素子から出射した光の偏光面と偏光回転素子の入射面のラビング方向が一致するように、2つの光路偏向手段の間に挟んで配置した。偏光面回転素子により第1の光路偏向素子からの出射光の偏光面が90度回転し、第2の光路偏向素子の偏向方向に一致する。第1の光偏向素子、偏光面回転素子、第2の光偏向素子を備えた光偏向装置を構成し、液晶ライトバルブの直後に設置した。
光偏向素子の温度を30度に設定し、光偏向素子を駆動する矩形波電圧の電圧を±5kV(平均電界は±280V/mm)、周波数を120Hzとし、2枚の縦と横の位相を90度ずらして、4方向に画素シフトするように駆動タイミングを設定した。最終的な画像表示素子に表示するサブフィールド画像を240Hzで書き換えることで、縦横2方向に見かけ上の画素数が4倍に増倍した高精細画像が表示できた。
(実施例8)
本実施例は、第3の実施の形態にかかる光偏向装置50に備えられた光偏向素子21に対応する、実施例1と同様にして作製した光偏向素子を、図16に示して説明した光書き込み装置95に対応する光書き込み装置に適用したものである。発光体アレイは発光体としてのLEDをアレイ状にしたものであり、画素ピッチは30μmとした。光書き込み装置は記録体上に光を集束させるためにマイクロレンズアレイを有している。このような構成の光書き込み装置を用いて、記録体に画像を露光した。光偏向素子を駆動せずに露光した画像は発光体アレイの画素ピッチと同様のピッチであった。光偏向素子を駆動して露光したところ、記録された画像は発光体アレイの画素ピッチより細かくなっており、高精細なものであった。
以上、本発明を適用した種々の構成例を説明したが、電界形成手段は、所望の偏向を得るための所望の電界を形成できるよう、電界の強度と向きとのうち少なくとも一方を変化させるようにすることができるものである。また、実施例4に説明したように、基板の少なくとも一方が鋸歯形状をなす光偏向素子に、抵抗値が漸増又は漸減する態様で抵抗素子を配設した電界形成手段によって電界を形成させる構成としても良いし、基板の少なくとも一方が鋸歯形状をなす光偏向素子に、抵抗値が周期的に変化する態様で抵抗素子を配設した電界形成手段によって電界を形成させる構成としても良い。また、実施例7に説明したように、光偏向装置が複数の光偏向素子を備えていても良い。実施例7、図16を用いて説明した例等のように、複数の光偏向素子を備えている場合には、これに電界を形成するための電源を共通化するなど、電界形成手段の一部を共通化することができる。