JP4294363B2 - 2層フレキシブル銅張積層板及びその2層フレキシブル銅張積層板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、導体層とフレキシブル基材層とが接着剤層を介することなく、直接張合わされた所謂2層フレキシブル銅張積層板及びその2層フレキシブル銅張積層板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリイミド樹脂は、フレキシビリティに富み柔軟であり、機械的強度、耐熱性、電気的特性等の諸特性に優れ、従来から、接着剤を用いて銅箔と張り合わせた3層基板としてフレキシブルプリント配線板、フレキシブルプリント配線板の一種と言えるテープオートメートボンディング(TAB)製品等の基材材料として広く用いられてきた。
【0003】
一方で、近年の電気・電子製品のダウンサイジングの要求の高まりから、狭小化したスペースにデバイスするためのフレキシブルプリント配線板の薄層化及び小型化が要求され、配線密度の向上、耐折強度の向上の観点から、接着剤層を省略し、ポリイミド樹脂フィルムの表面に直接導体層を備えた2層基板の供給が行われてきた。
【0004】
ポリイミド樹脂フィルムの表面に接着剤を用いることなく、銅層を形成して2層基板にする方法としては、蒸着法、キャスティング法、メッキ法、ダイレクトメタライゼーション法が広く用いられてきた。この中でも、近年特に、ポリイミド樹脂フィルムと銅層との密着性を比較的良好に維持することのできるものとして、特許文献1及び特許文献2等に開示されているようなダイレクトメタライゼーション法というものが提唱されてきたのである。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−73159公報
【特許文献2】
特開2001−72787公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、通常のリジットタイプのプリント配線板と異なり、上述したフレキシブルプリント配線板、フレキシブルプリント配線板の一種と言えるCOF、TAB製品等には、極めて微細なファインピッチ回路が形成されるのが一般化しており、且つ、製造工程内で高温加熱処理が施されるため、導体層のポリイミドフィルム基材からの加熱後引き剥がし強度が重要な製品品質と考えられるようになってきた。
【0007】
この加熱後引き剥がし強度は、当業者間で150℃の大気雰囲気中で168時間加熱した後の値を代用特性として用いることが一般化している(以下、本件明細書において、単に「加熱後引き剥がし強度」と称する。)。従来の2層フレキシブル銅張積層板の加熱後引き剥がし強度は、0.4kg/cm前後の値を示していた。
【0008】
そこで、当業者間では、ポリイミドフィルム基材と銅導体層との間にCr系の中間層をシード層として設けてやることで加熱後引き剥がし強度を向上させることが可能との認識の下に新たなる2層フレキシブル銅張積層板の開発が進められてきた。ところが、近年の国際的な環境問題から、バーゼル条約等を根拠にCrのような有害物質の使用に対する取り締まりが強化され、Crを使用した製品の国境を越えた取引が制限される傾向が顕著になってきている。
【0009】
従って、市場においては、ポリイミドフィルム基材と導体層との2層状態を得ることのできるダイレクトメタライゼーション法を用いた場合であって、Crを使用することなくポリイミド樹脂フィルムと導体層との良好な加熱後引き剥がし強度を維持できる2層フレキシブル銅張積層板が望まれてきたのである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、以下の発明に係る層構成を備えるフレキシブル銅張積層板を採用することで、Cr系シード層を用いることなく、良好な加熱後引き剥がし強度を得ることに想到したのである。以下、本件発明について説明する。
【0011】
(フレキシブル銅張積層板) 本件発明について説明する前に、本件発明の理解を容易にするため、加熱後引き剥がし強度を向上させるために採用した理論に関して、簡単に説明しておくことにする。加熱後引き剥がし強度が、常態引き剥がし強度から見て劣化する現象は、一言で言えば、高温加熱された後のポリイミド樹脂フィルム基材の構成樹脂の劣化に起因するものである。このポリイミド樹脂フィルム基材の構成樹脂の劣化レベルは、加熱温度が一定であるとすれば、導体層のポリイミド樹脂フィルム基材と界面を構成する金属成分により、左右されるのである。即ち、当該金属成分がポリイミド樹脂フィルム基材の構成樹脂の分解触媒として寄与していると考えられるのである。特に、導体層を構成する主要成分である銅は、有機材であるエポキシ、ポリイミド等の基材樹脂の分解触媒として寄与することに関しては、何ら異論は無いものと考えられる。
【0012】
従って、従来から導体層(以上及び以下において、銅層とシード層とを併せて「導体層」と称しているのである。)を構成する銅成分が、高温加熱時に基材樹脂方向へ拡散しないように、銅以上の高融点金属成分をバリア層として設けて、銅の拡散防止を行うことで加熱後引き剥がし強度を高く維持するという手法が採用されてきた。
【0013】
また、一方で、加熱後引き剥がし強度を高く維持するためには、導体層とポリイミド樹脂フィルム層との界面に良好な物理的接着構造を形成していることが必要となることが知られている。即ち、通常の銅張積層板に用いる電解銅箔等は、微細銅粒を付着形成した粗化面を有しており、この粗化面を基材樹脂との接着面として用いることで、微細銅粒が基材樹脂内にくい込み、アンカー効果を発揮するのである。このときの微細銅粒が均一で大きな形状であるほど、加熱後引き剥がし強度が高いものとなるのである。ところが、ダイレクトメタライゼーション法でポリイミド樹脂フィルム基材の表面へ導体層を直接形成する場合には、通常の銅箔のような粗化面を形成することはできず、このような物理的な接着強度向上効果を得ることは殆ど不可能と考えられてきたのである。
【0014】
以上に述べたように、加熱後引き剥がし強度を高くするためには、次の2点を考慮して製品設計を行わなければならないと考えられる。即ち、銅のポリイミド樹脂フィルムの高温環境下での分解を防止し、ポリイミド樹脂フィルム層に対し、導体層の界面がくい込んでアンカー効果を示すような物理的形状を確保するのである。
【0015】
このような2つの要求点を満足させる2層フレキシブル銅張積層板として、請求項に、「ポリイミド樹脂フィルム基材の片面にシード層を形成し、そのシード層上に銅層を形成するダイレクトメタライゼーション法で得られる2層フレキシブル銅張積層板において、前記シード層は、以下のa.〜c.の各膜及び層が積層状態にあることを特徴とした片面2層フレキシブル銅張積層板。」及び「ポリイミド樹脂フィルム基材の両面にシード層を形成し、各々のシード層上に銅層を形成するダイレクトメタライゼーション法で得られる両面2層フレキシブル銅張積層板において、前記両面の各シード層は、以下のa.〜c.の各膜及び層が積層状態にあることを特徴とした片面2層フレキシブル銅張積層板。」を記載しているのである。そして、ここでシード層の構成に特徴を有しており、「a.平均厚さが50nm〜700nmのニッケル系薄膜」、「b.アモルファス化した平均厚さが10nm〜80nmのアモルファスコバルト膜」、「c.コバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在し平均厚さが50nm〜180nmの混合層」の3つにより構成されるのである。
【0016】
この2つの2層フレキシブル銅張積層板は、図1に示すように導体層2及びシード層3をポリイミド樹脂フィルムFの片面のみに形成したフレキシブル銅張積層板1aか、図2に示すような導体層2及びシード層3をポリイミド樹脂フィルムFの両面に形成したフレキシブル銅張積層板1bかの点で異なるのみであり、本質的な構成は同じである。従って、片面2層フレキシブル銅張積層板に関して説明することで、両面2層フレキシブル銅張積層板に関しても理解できると考えるため、以下片面2層フレキシブル銅張積層板を中心に説明する。
【0017】
片面2層フレキシブル銅張積層板1aの層構成は、図1から分かるように、ポリイミド樹脂フィルム基材の片面表面と、コバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂との混合層4とが接触する構成を採っている。この混合層4を確認するため透過型電子顕微鏡で観察すると図3に示すようになる。この図3(a)には10万倍で層構成の全体が分かるから写真を示しており、図3(b)には50万倍で混合層2の部分を拡大した写真を示している。これらから分かるように、混合層のコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子5と混合層のポリイミド樹脂Rとは、樹枝状に成長したコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子がポリイミド樹脂内に成長して行き、くい込んだ状態になっているように見えるのである。従って、この樹枝状のコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子5が導体層2とポリイミド樹脂フィルムFとの物理的密着性を向上させるためのアンカーとなっていると考えられるのである。
【0018】
そして、この混合層は、平均厚さが50nm〜180nmの範囲にあることが好ましいのである。平均厚さとしているのは、nmオーダーの厚さであり、下地の影響を受け完全に均一な厚さの膜として得ることは困難であるためである。本件明細書における平均厚さは、透過型電子顕微鏡の10万倍以上の倍率で観察像を見て判断しているのである。混合層の平均厚さが50nm未満の場合には、混合層のポリイミド樹脂フィルムへのくい込みが足りず、アンカーとしての効果を十分に発揮しないのである。一方、混合層の平均厚さが180nmを超えた場合には、回路エッチングを行った後にも、回路間ギャップのポリイミド樹脂フィルム表面にコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子が多く残留してする傾向が顕著になり、無電解メッキのメッキ落ち現象の基点となり、表層マイグレーションの起因ともなりやすくなるのである。
【0019】
そして、本件発明の場合には、その混合層4の上アモルファスコバルト膜6が位置することになるのである。このアモルファスコバルト膜6と混合層4とは、以下に述べるダイレクトメタライゼーション法を基本とした製造方法によって、一体にして形成されるものであり、アモルファスコバルト膜6と混合層4とは不離一体の関係にあり、非常に優れた層間密着性を示すのである。また、このアモルファスコバルト膜6は、次のニッケル系薄膜7とも非常に優れた層間密着性を示し、良好なバインダ層としての役割を果たすのである。
【0020】
このアモルファスコバルト膜は、後述するようにダイレクトメタライゼーション法のポリイミド樹脂フィルムをアルカリ処理してイミド環を開環処理し表面にカルボキシル基を形成し、開環して形成したカルボキシル基を酸溶液を用いて中和し、中和したカルボキシル基とコバルトイオン含有溶液とを接触させコバルト成分を吸着させることでカルボキシルコバルト塩を形成し、カルボキシルコバルト塩を還元する以上の工程を繰り返して行いながら、ポリイミド樹脂フィルムの表面と接触する混合層及びアモルファスコバルト膜が同時に得られるものである。
【0021】
このアモルファスコバルト膜の平均厚さは、10nm〜80nmであることが好ましいのである。アモルファスコバルト膜が10nm未満の場合には、同時に形成される前記混合層の平均厚さが50nm未満となり、十分な厚さの混合層が得られないのである。これに対して、アモルファスコバルト膜の平均厚さが80nmを超えた場合には、前記混合層の平均厚さが180nmを超えることになり好ましくないばかりか、銅エッチングと同時にアモルファスコバルト膜のエッチング除去が困難となるため好ましくないのである。アモルファスコバルト膜の結晶状態がアモルファス状態であるか否か確認するためには、微小X線分析装置を用いることが可能である。また、このようなアモルファス状態の薄膜は、加熱により結晶化したり、加熱を行わなくとも長期間保存した状態で構造緩和を起こし結晶化することも考えられることであるため、未加熱の状態で確認すべきものである。
【0022】
次に、アモルファスコバルト膜6の表面には、ニッケル系薄膜7を備えるのである。このニッケル系薄膜7は、フレキシブル銅張積層板をフレキシブルプリント配線板に加工し、その回路の加熱後引き剥がし強度を劣化させる銅のポリイミド樹脂フィルムへの拡散バリアとしての役割を果たすのである。このニッケル系薄膜は、平均厚さが50nm〜700nmの範囲とする事が好ましいのである。ニッケル系薄膜の平均厚さが50nm未満の場合には、150℃×168時間の加熱条件における銅の拡散防止バリアとしての役割を果たし得ないのである。そして、ニッケル系薄膜の平均厚さが700nmを超える場合には、銅回路エッチングを行う際に銅エッチング液でのニッケル系薄膜の同時除去が良好に行えず、残留し易くなるのである。ここでニッケル系薄膜としているのは、純ニッケル薄膜、ニッケル合金薄膜を含む概念として記載しており、ニッケル合金にはニッケル−コバルト合金、ニッケル−亜鉛合金、ニッケル−リン合金等を含むのである。以上のことから分かるように、シード層3は、ニッケル系薄膜7、アモルファスコバルト膜6及び混合層4とで構成されているのである。
【0023】
そして、銅層8がシード層3を構成するニッケル系薄膜7の表面に位置することになるのである。この銅層8の厚さは、フレキシブルプリント配線板として使用する際の用途に応じて、任意の厚さを採用することが可能であり、特段の厚さの限定を要するものではない。この銅層8が、導体層2としての主体をなすものであり、回路形成したときのシグナル回路、電源回路等の導電体を構成することとなるのである。
【0024】
以上のような層構成を持つ片面若しくは両面の2層フレキシブル銅張積層板を採用することで、Cr等の忌避成分を含むことなく、150℃×168時間加熱後の加熱後引き剥がし強度を0.6kg/cm以上とすることが可能となるのである。
【0025】
更に、片面2層フレキシブル銅張積層板の場合、図4に示すように銅層8の存在する面の他面側をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの如き耐水性フィルム9で被覆することにより、フレキシブルプリント配線板への加工プロセスで溶液に晒された場合の他面側からの吸水、吸湿を防止して、より高い加熱後引き剥がし強度を得ることが可能となる。
【0026】
(2層フレキシブル銅張積層板の製造方法) 以上に述べてきた2層フレキシブル銅張積層板の製造方法に関して説明する。この製造方法に関しては、「本件発明に係る片面2層フレキシブル銅張積層板を製造する方法」と「本件発明に係る両面2層フレキシブル銅張積層板を製造する方法」とに分けて考えることが出来る。しかし、ポリイミド樹脂フィルムの片面に導体層を形成するか、両面に導体層を形成するかが異なるのみであり、両製造方法が根本的に異なる部分はない。即ち、以下に述べる▲1▼〜▲9▼の工程での処理を片面に行うか、両面に行うかのみである。従って、各工程毎に説明する。
【0027】
このフレキシブルプリント配線板の製造方法は、いわゆるダイレクトメタライゼーション法を用いて導体層とポリイミド樹脂フィルム層とからなる片面2層フレキシブル銅張積層板又は両面2層フレキシブル銅張積層板(以上及び以下において、単に「2層基板」と称する場合がある。)の製造方法である。以下、請求項に登場する各工程を順を追って説明する。ダイレクトメタライゼーション法は、導体層の形成のために、ポリイミド樹脂フィルムの表面を、必然的に開環処理しなければならない。
【0028】
工程▲1▼ 従って、最初の工程▲1▼は、ポリイミド樹脂フィルムをアルカリ処理してイミド環を開環処理し表面にカルボキシル基を形成する開環工程である。ここで言うポリイミド樹脂フィルムとは、市販されている商品名カプトンフィルム(東レ・デュポン株式会社製)のHタイプ、ENタイプの如きものを想定しているのである。これらはアルカリ溶液との濡れ性に優れ、開環処理が容易だからである。但し、耐吸湿性能を備える商品名カプトンVタイプ(東レ・デュポン株式会社製)及びユーピレックスS(宇部興産株式会社製)等を用いる場合にも、開環に用いるアルカリ溶液濃度を調整することで、同様の効果を得ることが可能である。また、これらのポリイミド樹脂フィルムの一面側を、予め上述した耐水性フィルムで被覆しておくことで、以下に述べるダイレクトメタライゼーションプロセスで溶液に晒される場合でも、被覆した面からの吸水、吸湿を防止して、より安定して高い加熱後引き剥がし強度を備える図2に示す片面2層フレキシブル銅張積層板を得ることが可能となる。この耐水性フィルムは、最終的に引き剥がして除去するのである。
【0029】
アルカリ処理とは、アルカリ溶液中にポリイミド樹脂フィルムを浸漬するか、ポリイミド樹脂フィルムの表面にアルカリ溶液をスプレーすることによる等の手法で行われる。このアルカリ処理に用いる溶液は、水酸化カリウム溶液又は水酸化ナトリウム溶液を用いることが好ましい。後に行う中和が容易で、表面への残留が少ないものだからである。
【0030】
ここで用いるアルカリ溶液は濃度が高いほど、ポリイミド樹脂フィルムの開環処理を短時間で容易に行うことが可能である。しかしながら、本件発明に係る製造方法は、後に説明する再閉環工程が必須のものであり、この閉環処理が困難になるレベルの開環処理を行うことは出来ない。従って、アルカリ溶液の濃度は、3.0mol/l〜10.0mol/l、溶液温度は20℃〜70℃、処理時間1分〜12分の条件を採用することが好ましい。この条件以上に過酷なアルカリ処理条件を採用すると、ポリイミド樹脂フィルムの表面が、単に開環する以上に樹脂全体の劣化を引き起こし、後の再閉環が良好に行えない結果となるのである。一方、ここに掲げる範囲を下回るアルカリ処理条件では、開環処理自体が良好に行えないのである。
【0031】
開環しているか否かの判断は、フーリエ変換吸収スペクトル分析装置(FT−IR)を用いて、閉環しているポリイミド樹脂には見られない、1647cm−1の開環アミド(C=O)吸収スペクトル、1554cm−1付近に現れる開環アミド(N−H)吸収スペクトルが観察され、更にイミド環に特徴的な1774cm−1(C=O)、1720cm−1(C=O)及び1381cm−1(C−N−C)の吸収スペクトルの消失を確認することで可能である。また、カルボキシル基(COO)に由来すると考えられる吸収スペクトルが1579cm−1、1371cm−1、1344cm−1付近に観察される。アルカリ処理を行ったポリイミド樹脂フィルムには、これら全てのスペクトルが観察できる。
【0032】
工程▲2▼ 工程▲1▼が終了すると、通常、開環処理したポリイミド樹脂フィルムを水洗して工程▲2▼の中和工程に入ることになる。開環してカルボキシル基を形成し、強アルカリ化したポリイミド樹脂表面を、酸溶液を用いて中和する工程のことである。ここで中和に用いる溶液には、塩酸を用いることが好ましい。中和処理した後に、十分な水洗を施せば、ポリイミド樹脂表面への残留を完全になくすることが出来るからである。ここで用いる中和条件は、塩酸溶液の濃度は2.0mol/l〜6.0mol/l、溶液温度は20℃〜35℃、処理時間30秒〜1分の条件を採用することができる。中和が終了すると水洗処理が行われる。
【0033】
この中和が終了した段階での、ポリイミド樹脂フィルムをFT−IRで分析すると、1647cm−1の開環アミド(C=O)吸収スペクトル、1554cm−1付近に表れる開環アミド(N−H)吸収スペクトルは確認できる。また1579cm−1、1371cm−1及び1344cm−1に見られるカルボキシル基(COO)吸収スペクトルが1711cm−1、1319cm−1、1296cm−1付近にシフトし、中和によりカルボキシル基がCOOH型の構造を備えるものとなったと考えられる。
【0034】
工程▲3▼ 次に工程▲3▼は、中和したカルボキシル基とコバルトイオン含有溶液とを接触させコバルト成分を吸着させることでカルボキシルコバルト塩をポリイミド樹脂フィルムの表面に形成するコバルトイオン吸着工程である。ここで用いるコバルトイオン含有溶液には、例えば、硫酸コバルト溶液を用いることができる。このときの硫酸コバルト溶液にはコバルト濃度が0.01mol/l〜1.0mol/l、溶液温度は15℃〜30℃のものを用い、処理時間1分〜20分の条件を採用することができる。
【0035】
工程▲3▼が終了した段階での、ポリイミド樹脂フィルム上に吸着したコバルトイオン量を直接測定する場合には、5wt%の硝酸溶液を用いて、吸着したコバルトイオンを溶かしだし、その溶液をイオンプラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて分析することが可能であり、1回の吸着処理により30〜120mg/m2程度(換算厚さ3nm〜15nm)のコバルトイオンの吸着が可能であることが確認できた。
【0036】
工程▲4▼ 工程▲3▼で、コバルトイオンの吸着を行いカルボキシルコバルト塩をポリイミド樹脂フィルムの表面に形成し、水洗した後に、工程▲4▼でポリイミド樹脂フィルム表面に形成したカルボキシルコバルト塩を還元して、ポリイミド樹脂フィルムの表面にアモルファスコバルト膜を形成するのである。これがアモルファスコバルト膜形成工程である。このときの還元は、カルボキシルコバルト塩を形成したポリイミド樹脂フィルムの表面と還元剤とを接触させることにより行う。例えば、カルボキシルコバルト塩の場合の還元剤は、特許文献1に開示されているように、濃度を0.003mol/l〜0.05mol/lとした水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸、ジメチルアミン等を用いることができる。このカルボキシルコバルト塩の還元剤としても、それらを任意に選択することが可能であり、特に限定を要するものではない。
【0037】
工程▲5▼ そして、工程▲5▼は、工程▲3▼と工程▲4▼とを複数回繰り返して、アモルファスコバルト膜を10nm〜80nmに成長させ、同時にコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在し平均厚さが50nm〜180nmの混合層を片面に成長させる混合層形成工程である。このように工程▲3▼及び工程▲4▼を、繰り返し行うことでアモルファスコバルト膜の厚さの調整と、同時にコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在する混合層を成長させ、ポリイミド樹脂フィルム基材にくい込ませることで、最終的に得られる導体層との密着性を向上させることが可能となるのである。即ち、この工程▲3▼及び工程▲4▼を繰り返し行わなければ、混合層の成長はないのである。混合層は、工程▲3▼及び工程▲4▼を繰り返し行う過程で、アモルファスコバルト膜のポリイミド樹脂フィルムと接触した部位で、アモルファスコバルトを構成するコバルト成分が、ポリイミド樹脂フィルムの酸素と結合してコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子として樹枝状(デンドライト状)に成長するものと考えられる。このような顕著な酸化物の成長現象は、ニッケル層を直接用いた場合には見られないものであり、コバルトを用いることにより初めて実現可能となるのである。
【0038】
工程▲3▼及び工程▲4▼の繰り返し回数は、工程で用いる溶液濃度、溶液温度等の条件に応じて、4回〜8回の繰り返し回数を採用する事が好ましいのである。4回未満の繰り返し回数では、アモルファス化した平均厚さが10nm〜80nmのアモルファスコバルト膜、及び、コバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在し平均厚さが50nm〜180nmの混合層とを同時に得ることができず、特に混合層の成長が不十分で平均厚さが50nm未満となるのである。そして、8回を超える繰り返し回数を採用すると、混合層の成長が顕著になり、適正と言える180nmを超える平均厚さとなるのである。
【0039】
工程▲6▼ 工程▲6▼は、以上のようにして、ポリイミド樹脂フィルム基材の表面に混合層及びアモルファスコバルト膜の形成が終了すると、そのアモルファスコバルト膜の表面上に、平均厚さが50nm〜700nmのニッケル系薄膜を形成するニッケル系薄膜形成工程のことである。この工程が終了すると、ニッケル系薄膜、アモルファスコバルト膜、混合層とからなるシード層が完成することになるのである。
【0040】
純ニッケル系薄膜を形成する場合は、ニッケルメッキ液として用いられる溶液を広く使用することが可能である。例えば、▲1▼硫酸ニッケル240g/l、塩化ニッケル45g/l、ホウ酸30g/l、液温55℃、pH5、電流密度0.2A/dm2のワット浴条件、▲2▼スルファミン酸ニッケル400g/l、ホウ酸30g/l、液温55℃、pH4.5、電流密度0.2A/dm2のスルファミン酸浴条件、▲3▼硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が5〜30g/l、ピロリン酸カリウム50〜500g/l、液温20〜50℃、pH8〜11、電流密度0.2〜10A/dm2の条件とする等である。中でも、アモルファスコバルト膜との相性で言えば、スルファミン酸浴を採用する事が好ましい。最も、析出結晶が緻密であるため、膜厚が均一で密着性に優れた皮膜が得られるからである。なお、本件明細書で言う「純ニッケル薄膜」とは、意図的な合金元素を添加していないという意味で用いたものであり、不可避的な不純物を除外した完全な100%純度と言う意味で用いたものでないことを明らかにしておく。
【0041】
亜鉛−ニッケル合金薄膜を形成する場合は、例えば、硫酸ニッケルを用いニッケル濃度が1〜2.5g/l、ピロリン酸亜鉛を用いて亜鉛濃度が0.1〜1g/l、ピロリン酸カリウム50〜500g/l、液温20〜50℃、pH8〜11、電流密度0.2〜10A/dm2の条件等を採用するのである。
【0042】
ニッケル−コバルト合金薄膜を形成する場合は、例えば、硫酸コバルト80〜180g/l、硫酸ニッケル80〜120g/l、ホウ酸20〜40g/l、塩化カリウム10〜15g/l、リン酸2水素ナトリウム0.1〜15g/l、液温30〜50℃、pH3.5〜4.5、電流密度0.2〜10A/dm2の条件等を採用するのである。
【0043】
また、リン酸系溶液を用いることで、ニッケル−リン合金メッキとすることも可能である。この場合、硫酸ニッケル120〜180g/l、塩化ニッケル35〜55g/l、H3PO430〜50g/l、H3PO320〜40g/l、液温70〜95℃、pH0.5〜1.5、電流密度0.2〜10A/dm2の条件等を採用するのである。
【0044】
工程▲7▼ 工程▲7▼は、以上のようにして形成したシード層のニッケル系薄膜の表面上に電気化学的手法を用いて回路を形成するための銅層を形成する銅層形成工程のことである。ここで「電気化学的手法を用いて」としているのは、イオン化傾向の差を利用した無電解銅メッキでも、電解銅メッキでも、無電解銅メッキと電解銅メッキとを組み合わせて行う場合でも良いことを意味しており、結果として銅を析出させ、銅層を成長させ厚さを増し回路形成可能なレベルの銅層を得ることを意味している。ここで用いる無電解銅メッキ浴、電解銅メッキ浴の組成、その他のメッキ条件に関しては、特に限定は要さない。任意の条件を選択使用すればよいのである。この段階で導体層の形成が完了することになる。
【0045】
工程▲8▼ 工程▲8▼は、以上のようにして得られた片面2層フレキシブル銅張積層板若しくは両面2層フレキシブル銅張積層板を、最終的に十分に洗浄し、80℃〜160℃の減圧雰囲気で10分〜80分間乾燥させる真空乾燥工程のことである。ここで言う減圧雰囲気とは、2hPaレベルの低真空雰囲気のことであり、このような乾燥雰囲気を採用する事で、得られた2層フレキシブル銅張積層板に付着した水分及び吸収水分を十分に排出させるのである。従って、乾燥温度は、減圧雰囲気下での乾燥であることも考慮し、ポリイミド樹脂フィルムに余分な熱的付加をかけず、十分に水分除去の可能な温度範囲として80℃〜160℃の範囲を採用したのである。
【0046】
ここで、加熱後引き剥がし強度を測定するときの加熱方法に関して説明しておくことにする。以上のようにして得られた2層フレキシブル銅張積層板を用いて、その銅層に引き剥がし強度測定が可能な0.2mm幅の直線回路を形成した2層フレキシブルプリント配線板を得て、これに加熱処理を施すのである。この加熱処理は、大気雰囲気中で150℃の温度による加熱を168時間行うのである。そして、この加熱手段は、150℃の加熱雰囲気を持つ炉内で加熱を行ったり、150℃の温度の熱風をぶつける衝風加熱を採用するが可能である。しかしながら、衝風加熱方式の方が2層フレキシブルプリント配線板の温度上昇が急激であり、過酷な条件となる。そこで、より厳しい条件下での良好な品質維持のため、本件明細書では衝風加熱方式を採用したのである。
【0047】
【発明の実施の形態】
以下、本件発明に係る製造方法を用いて2層フレキシブル銅張積層板を製造し、引き剥がし強度を測定する試験回路をエッチング形成し、加熱後引き剥がし強度を測定した各実施形態を説明する。
【0048】
第1実施形態: 本実施形態では、38μm厚のポリイミド樹脂フィルムを基材として、本件発明に係る製造方法を用いて片面2層フレキシブル銅張積層板を製造した。そして、この片面2層フレキシブル銅張積層板を用いて加熱後引き剥がし強度の測定用のフレキシブルプリント配線板の製造を行い、加熱後引き剥がし強度の測定を行った。以下、各工程を順を追って説明する。
【0049】
工程▲1▼ 最初に、当該ポリイミド樹脂フィルムをアルカリ処理してイミド環を開環し表面にカルボキシル基を形成する開環工程を行った。ここで用いたポリイミド樹脂フィルムの種別は、商品名カプトン150EN(東レ・デュポン株式会社)を用いた。
【0050】
工程▲1▼におけるアルカリ処理は、水酸化カリウム濃度が5.0mol/l、溶液温度が60℃の溶液を、当該ポリイミド樹脂フィルムに片面に、10分間噴霧することにより行った。アルカリ処理が終了すると、十分に水洗し、ポリイミド樹脂フィルムの表面から付着したアルカリ溶液を除いた。
【0051】
開環しているか否かを判断するために行ったFT−IR分析では、閉環しているポリイミド樹脂には見られない、1647cm−1の開環アミド(C=O)吸収スペクトル、1554cm−1付近に現れる開環アミド(N−H)吸収スペクトルが観察され、更にイミド環に特徴的な1774cm−1(C=O)、1720cm−1(C=O)及び1381cm−1(C−N−C)の吸収スペクトルの消失を確認できた。また、カルボキシル基(COO)に由来すると考えられる吸収スペクトルが1579cm−1、1371cm−1、1344cm−1付近に観察された。
【0052】
工程▲2▼ 次に、工程▲2▼で開環工程が終了し水洗したポリイミド樹脂フィルムを、中和工程で処理した。開環してカルボキシル基を形成し、強アルカリ化したポリイミド樹脂フィルムを、酸溶液中に浸漬して中和操作を行ったのである。ここで中和に用いた溶液は、塩酸溶液であって、当該塩酸溶液の濃度は6.0mol/l、溶液温度は25℃、処理時間30秒の条件を採用した。そして、中和が終了すると水洗処理を行った。
【0053】
この中和が終了した段階での、ポリイミド樹脂フィルムをFT−IRで分析すると、1647cm−1の開環アミド(C=O)吸収スペクトル、1554cm−1付近に表れる開環アミド(N−H)吸収スペクトルが確認できた。また1579cm−1、1371cm−1及び1344cm−1に見られるカルボキシル基(COO)吸収スペクトルが1711cm−1、1319cm−1、1296cm−1付近にシフトしていた。
【0054】
工程▲3▼ 中和工程が終了すると、工程▲3▼のコバルトイオン吸着工程で、ポリイミド樹脂フィルムの中和したカルボキシル基と含コバルトイオン溶液とを接触させ、カルボキシル基にコバルトイオンを吸着させポリイミド樹脂フィルムの両面にカルボキシルコバルト塩を形成した。ここで用いた含コバルトイオン溶液は、0.05mol/l濃度の硫酸コバルト溶液を採用し、溶液温度は25℃であり、この溶液中に15分間浸漬した。そして、水洗して、ポリイミド樹脂フィルムの表面に残留した硫酸コバルト溶液を除いた。
【0055】
工程▲4▼ 続いて、工程▲4▼のアモルファスコバルト膜形成工程で、コバルトイオン吸着工程でポリイミド樹脂フィルム表面に形成したカルボキシルコバルト塩を還元して、ポリイミド樹脂フィルムの表面にアモルファスコバルト膜を形成した。本実施形態における還元は、濃度が0.01mol/l、溶液温度25℃の水素化ホウ素ナトリウム溶液中にカルボキシルコバルト塩を形成したポリイミド樹脂フィルムを5分間浸漬して、還元剤と接触させることにより行った。そして、水洗して表面から付着した還元剤を除去した。
【0056】
工程▲5▼ 工程▲5▼の混合層形成工程では、工程▲3▼と工程▲4▼とを、更に5回繰り返し、アモルファスコバルト膜を52nmに成長させ、同時にコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在し平均厚さが90nmの混合層を成長させたのである。
【0057】
工程▲6▼ 以上のようにして、ポリイミド樹脂フィルム基材の表面に混合層及びアモルファスコバルト膜の形成が終了すると、工程▲6▼のニッケル系薄膜形成工程では、そのアモルファスコバルト膜の表面上に、平均厚さが420nmのニッケル系薄膜を形成したのである。このときのニッケル系薄膜には、純ニッケル薄膜を採用したのである。この純ニッケル系薄膜の形成にあたっては、スルファミン酸ニッケル400g/l、ホウ酸30g/l、液温55℃、pH4.5、電流密度0.2A/dm2のスルファミン酸浴条件を採用した。ここまでの工程で、ポリイミド樹脂フィルムの片面にシード層が完成したことになる。
【0058】
工程▲7▼ そして、工程▲7▼の銅層形成工程で、シード層のニッケル系薄膜の表面に、電解法を用いて銅成分を電着させ、銅薄膜を18μm厚の銅層となるまでメッキアップした。ここで電解に用いた溶液は、濃度150g/l硫酸、65g/l銅、液温45℃の硫酸銅溶液を用いた。電解時の対極には、不溶性陽極であるDSE板を配し、電流密度3A/dm2の平滑メッキ条件で電解することにより行った。メッキアップが終了すると、十分に水洗して付着した硫酸銅溶液の除去を行った。
【0059】
工程▲8▼ 工程▲8▼の真空乾燥工程では、以上のようにして得られた片面2層フレキシブル銅張積層板を、最終的に十分に洗浄し、150℃の2hPaレベルの減圧雰囲気で60分間乾燥させ、得られた片面2層フレキシブル銅張積層板に付着した水分及び吸収水分を十分に除去し、最終的な片面2層フレキシブル銅張積層板としたのである。
【0060】
以上のダイレクトメタライゼーション法により得られた、片面2層フレキシブル銅張積層板の銅層の表面にエッチングレジスト層を形成し、露光、現像し、エッチングすることで、引き剥がし強度測定用の0.2mm幅回路を備える片面2層フレキシブルプリント配線板を製造した。
【0061】
回路エッチングの終了した片面2層フレキシブルプリント配線板は、十分に乾燥し、直ちに常態引き剥がし強度の測定を行い、その後、大気雰囲気の炉内で150℃の熱風を、片面2層フレキシブルプリント配線板に衝風し、168時間加熱した後の加熱後引き剥がし強度を測定した。この結果、常態引き剥がし強度は0.93kgf/cm、加熱後引き剥がし強度は0.62kgf/cmであり、非常に良好な加熱後引き剥がし強度を示すことが分かるのである。
【0062】
第2実施形態: 本実施形態では、第1実施形態の片面2層フレキシブル銅張積層板の製造に用いたと同じポリイミド樹脂フィルムの片面に粘着性接着剤を用いて耐水性フィルムであるPETフィルム張り合わせたものを用いた点が異なるのみであり、その他の工程は第1実施形態と同様であるため、製造方法に関しての詳細な説明は省略する。
【0063】
以上のダイレクトメタライゼーション法により得られた、片面2層フレキシブル銅張積層板を用いて第1実施形態と同様にして、引き剥がし強度測定用の0.2mm幅回路を備える片面2層フレキシブルプリント配線板を製造した。
【0064】
回路エッチングの終了した片面2層フレキシブルプリント配線板は、十分に乾燥し、直ちに常態引き剥がし強度の測定を行い、その後、大気雰囲気の炉内で150℃の熱風を、片面2層フレキシブルプリント配線板に衝風し、168時間加熱した後の加熱後引き剥がし強度を測定した。この結果、常態引き剥がし強度は1.05kgf/cm、加熱後引き剥がし強度は0.71kgf/cmであり、この明細書中で最も優れた常態及び加熱後引き剥がし強度を示すことが分かるのである。従って、耐水性フィルムを用いた効果が如実に反映されていることが分かるのである。
【0065】
第3実施形態: 第1実施形態が片面2層フレキシブル銅張積層板を製造したのに対し、本実施形態では両面2層フレキシブル銅張積層板を製造したのである。このときの製造方法は、基本的には第1実施形態と同様である。従って、製造方法に関しては、異なる部分のみを説明することとする。
【0066】
工程▲1▼ ポリイミド樹脂フィルムをアルカリ処理してイミド環を開環し表面にカルボキシル基を形成する開環工程を行った。ここで用いたポリイミド樹脂フィルムは、第1実施形態と同様であり、且つ、アルカリ処理に使用した溶液も同様であり、第1実施形態と同様の開環状態が得られた。しかしながら、本実施形態では、ポリイミド樹脂フィルムの両面を開環処理する必要があるため、当該アルカリ処理溶液に当該ポリイミド樹脂フィルムを10分間浸漬することにより処理を行った。アルカリ処理が終了すると、十分に水洗し、ポリイミド樹脂フィルムの表面から付着したアルカリ溶液を除いた。
【0067】
工程▲2▼〜工程▲5▼ 工程▲2▼〜工程▲5▼に関しては、第1実施形態と同様である。但し、工程▲2▼の中和操作、工程▲3▼のコバルトイオン吸着、工程▲4▼のアモルファスコバルト膜形成、及び、工程▲5▼の混合層の形成はポリイミド樹脂フィルムの両面に施されるものとなった。そして、工程▲5▼の混合層形成工程では、工程▲3▼と工程▲4▼とを、更に6回繰り返し、アモルファスコバルト膜を50nmに成長させ、同時にコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在し平均厚さが120nmの混合層を成長させたのである。
【0068】
工程▲6▼ 以上のようにして、ポリイミド樹脂フィルム基材の表面に混合層及びアモルファスコバルト膜の形成が終了すると、工程▲6▼のニッケル系薄膜形成工程では、その両面のアモルファスコバルト膜の各表面上に、平均厚さが210nmのニッケル系薄膜を形成したのである。このときのニッケル系薄膜には、ニッケル−コバルト合金薄膜を採用したのである。このニッケル−コバルト合金薄膜の形成にあたっては、硫酸コバルト130g/l、硫酸ニッケル100g/l、ホウ酸30g/l、塩化カリウム12.5g/l、リン酸2水素ナトリウム8g/l、液温40℃、pH4.0、電流密度0.2A/dm2の条件で電解しニッケル−コバルト合金薄膜を得たのである。
【0069】
工程▲7▼及び工程▲8▼ 工程▲7▼及び工程▲8▼も実質的には、第1実施形態と同様である。但し、工程▲7▼の銅層形成工程では、両面にある各シード層のニッケル−コバルト合金薄膜の表面に、電解法を用いて銅成分を電着させ、両面に銅薄膜を18μm厚の銅層となるまでメッキアップしたことになる。ここで電解に用いた溶液は、第1実施形態と同様であり、両面の各シード層の面に対して、不溶性陽極であるDSE板を各々配して電解することにより行った。以上のようにして得られた両面2層フレキシブル銅張積層板を、十分に洗浄し、最終的に工程▲8▼の真空乾燥工程で乾燥させ付着した水分及び吸収水分を十分に除去し、最終的な両面2層フレキシブル銅張積層板としたのである。
【0070】
以上のダイレクトメタライゼーション法により得られた、片面2層フレキシブル銅張積層板を用いて第1実施形態と同様にして、引き剥がし強度測定用の0.2mm幅回路を備える片面2層フレキシブルプリント配線板を製造した。
【0071】
回路エッチングの終了した両面2層フレキシブルプリント配線板は、十分に乾燥し、直ちに第1面側と第2面側の常態引き剥がし強度の測定を行い、その後、大気雰囲気の炉内で150℃の熱風を、両面2層フレキシブルプリント配線板に衝風し、168時間加熱した後の加熱後引き剥がし強度を測定した。この結果、第1面側の常態引き剥がし強度は0.97kgf/cm、加熱後引き剥がし強度は0.64kgf/cmであり、第2面側の常態引き剥がし強度は0.95kgf/cm、加熱後引き剥がし強度は0.63kgf/cmであり、両面共に非常に良好な加熱後引き剥がし強度を示すことが分かるのである。
【0072】
比較例1: この比較例1では、第1実施形態の工程▲6▼を省略し、工程▲3▼と工程▲4▼を繰り返し行わなかった。即ち、コバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂との混合層の成長を行わせることなく、片面2層フレキシブル銅張積層板を製造したのである。従って、その他の工程は、第1実施形態と同様であるため、ここでの重複する説明は省略する。
【0073】
以上のダイレクトメタライゼーション法により得られた、片面2層フレキシブル銅張積層板を用いて第1実施形態と同様にして、引き剥がし強度測定用の0.2mm幅回路を備える片面2層フレキシブルプリント配線板を製造した。
【0074】
回路エッチングの終了した片面2層フレキシブルプリント配線板は、十分に乾燥し、直ちに常態引き剥がし強度の測定を行い、その後、大気雰囲気の炉内で150℃の熱風を、片面2層フレキシブルプリント配線板に衝風し、168時間加熱した後の加熱後引き剥がし強度を測定した。この結果、常態引き剥がし強度は0.79kgf/cm、加熱後引き剥がし強度は0.21kgf/cmであり、加熱後引き剥がし強度が著しく低下することが分かるのである。従って、第1実施形態及び第2実施形態と対比することで、混合層を一定レベルに成長させない限り、加熱後引き剥がし強度を高くすることはできないと言えるのである。
【0075】
比較例2: この比較例2では、第1実施形態の工程▲5▼のニッケル系薄膜形成工程で、アモルファスコバルト膜の表面上に形成するニッケル系薄膜の平均厚さを30nmと薄く形成したのである。従って、銅の拡散バリア層が薄くなったものである。その他の工程は、第1実施形態と同様であるため、ここでの重複する説明は省略する。
【0076】
以上のダイレクトメタライゼーション法により得られた、片面2層フレキシブル銅張積層板の銅層の表面にエッチングレジスト層を形成し、露光、現像し、エッチングすることで、引き剥がし強度測定用の0.2mm幅回路を備える片面2層フレキシブルプリント配線板を製造した。
【0077】
回路エッチングの終了した片面2層フレキシブルプリント配線板は、十分に乾燥し、直ちに常態引き剥がし強度の測定を行い、その後、大気雰囲気の炉内で150℃の熱風を、片面2層フレキシブルプリント配線板に衝風し、168時間加熱した後の加熱後引き剥がし強度を測定した。この結果、常態引き剥がし強度は0.95kgf/cm、加熱後引き剥がし強度は0.11kgf/cmであり、加熱後引き剥がし強度が著しく低下することが分かるのである。従って、第1実施形態と対比することで、ニッケル系薄膜を一定レベル以上に成長させない限り、十分な混合層成長がなされていても、加熱後引き剥がし強度を高くすることはできないと言えるのである。
【0078】
【発明の効果】
本件発明に係るダイレクトメタライゼーション法により得られる2層フレキシブル銅張積層板は、シード層がニッケル系薄膜、アモルファスコバルト膜、コバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在する混合層のそれぞれが適正な厚さバランスの下で構成されているため、優れた加熱後引き剥がし強度を備えることが可能となる。従って、本件発明に係る2層フレキシブル銅張積層板から得られるTAB、COF等の2層フレキシブルプリント配線板は、部品実装時のヒートショックによる銅回路の剥離を効果的に防止し、回路剥離事故の未然防止を図ることができ、フレキシブルプリント配線板の品質信頼性を飛躍的に高めるものとなるのである。また、本件発明に係る2層フレキシブル銅張積層板の製造方法を採用することで、製品品質のバラツキを最小限に抑制し、効率よく、本件発明に係る2層フレキシブル銅張積層板を得ることが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】片面2層フレキシブル銅張積層板の模式断面図。
【図2】両面2層フレキシブル銅張積層板の模式断面図。
【図3】ポリイミド樹脂フィルム基材/混合層/アモルファスコバルト薄膜/ニッケル系薄膜/銅層の各々の界面での接合状態の分かる透過電子顕微鏡像。
【図4】一面側に耐水性フィルム層を備えた片面2層フレキシブル銅張積層板の模式断面図。
【符号の説明】
F ポリイミド樹脂フィルム
R ポリイミド樹脂
1a 片面2層フレキシブル銅張積層板
1b 両面2層フレキシブル銅張積層板
2 導体層
3 シード層
4 混合層
5 コバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子
6 アモルファスコバルト膜
7 ニッケル系薄膜
8 銅層
9 耐水性フィルム
Claims (5)
- ポリイミド樹脂フィルム基材の片面にシード層を形成し、そのシード層上に銅層を形成するダイレクトメタライゼーション法で得られる2層フレキシブル銅張積層板において、
前記シード層は、以下のa.〜c.の各膜及び層が積層状態にあることを特徴とした片面2層フレキシブル銅張積層板。
a.平均厚さが50nm〜700nmのニッケル系薄膜
b.アモルファス化した平均厚さが10nm〜80nmのアモルファスコバルト膜
c.コバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在し平均厚さが50nm〜180nmの混合層 - 片面2層フレキシブル銅張積層板は、銅層の存在する面の他面側を耐水性フィルムで被覆したものである請求項1に記載の片面2層フレキシブル銅張積層板。
- ポリイミド樹脂フィルム基材の両面にシード層を形成し、各々のシード層上に銅層を形成するダイレクトメタライゼーション法で得られる両面2層フレキシブル銅張積層板において、
前記両面の各シード層は、以下のa.〜c.の各膜及び層が積層状態にあることを特徴とした片面2層フレキシブル銅張積層板。
a.平均厚さが50nm〜700nmのニッケル系薄膜
b.アモルファス化した平均厚さが10nm〜80nmのアモルファスコバルト膜
c.コバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在し平均厚さが50nm〜180nmの混合層 - 請求項1又は請求項2に記載の片面2層フレキシブル銅張積層板を製造する方法であって、
以下に述べる▲1▼〜▲8▼の工程を備えることを特徴とする片面2層フレキシブル銅張積層板の製造方法。
▲1▼ ポリイミド樹脂フィルムの片面又は片面を耐水性フィルムで被覆したポリイミド樹脂フィルムの露出面を、アルカリ処理してイミド環を開環処理し表面にカルボキシル基を形成する開環工程。
▲2▼ 開環して片面に形成したカルボキシル基を酸溶液を用いて中和する中和工程。
▲3▼ 片面の中和したカルボキシル基とコバルトイオン含有溶液とを接触させコバルト成分を吸着させることでカルボキシルコバルト塩をポリイミド樹脂フィルムの片面に形成するコバルトイオン吸着工程。
▲4▼ ポリイミド樹脂フィルムの片面に形成したカルボキシルコバルト塩を還元して、ポリイミド樹脂フィルムの片面にアモルファスコバルト膜を形成するアモルファスコバルト薄膜形成工程。
▲5▼ ▲3▼工程と▲4▼工程とを複数回繰り返して、アモルファスコバルト膜を10nm〜80nmに成長させ、同時にコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在し平均厚さが50nm〜180nmの混合層を片面に成長させる混合層形成工程。
▲6▼ 片面のアモルファスコバルト膜の表面上に、平均厚さが50nm〜700nmのニッケル系薄膜を形成するニッケル系薄膜形成工程。
▲7▼ 片面のニッケル系薄膜の表面上に電気化学的手法を用いて回路を形成するための銅層を形成する銅層形成工程。
▲8▼ 以上のようにして得られた片面2層フレキシブル銅張積層板を80℃〜160℃の減圧雰囲気で10分〜80分間乾燥させる真空乾燥工程。 - 請求項3に記載の両面2層フレキシブル銅張積層板を製造する方法であって、
以下に述べる▲1▼〜▲8▼の工程を備えることを特徴とする両面2層フレキシブル銅張積層板の製造方法。
▲1▼ ポリイミド樹脂フィルムの両面をアルカリ処理してイミド環を開環処理し表面にカルボキシル基を形成する開環工程。
▲2▼ 開環して両面に形成したカルボキシル基を酸溶液を用いて中和する中和工程。
▲3▼ 両面の中和したカルボキシル基とコバルトイオン含有溶液とを接触させコバルト成分を吸着させることでカルボキシルコバルト塩をポリイミド樹脂フィルムの両面に形成するコバルトイオン吸着工程。
▲4▼ ポリイミド樹脂フィルムの両面に形成したカルボキシルコバルト塩を還元して、ポリイミド樹脂フィルムの両面にアモルファスコバルト膜を形成するアモルファスコバルト薄膜形成工程。
▲5▼ ▲3▼工程と▲4▼工程とを複数回繰り返して、アモルファスコバルト膜を10nm〜80nmに成長させ、同時にコバルト粒子及び/又は酸化コバルト粒子とポリイミド樹脂とが混在し平均厚さが50nm〜180nmの混合層を両面に成長させる混合層形成工程。
▲6▼ 両面のアモルファスコバルト膜の表面上に、平均厚さが50nm〜700nmのニッケル系薄膜を形成するニッケル系薄膜形成工程。
▲7▼ 両面のニッケル系薄膜の表面上に電気化学的手法を用いて回路を形成するための銅層を形成する銅層形成工程。
▲8▼ 以上のようにして得られた両面2層フレキシブル銅張積層板を80℃〜160℃の減圧雰囲気で10分〜80分間乾燥させる真空乾燥工程。
Priority Applications (2)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2003114953A JP4294363B2 (ja) | 2003-04-18 | 2003-04-18 | 2層フレキシブル銅張積層板及びその2層フレキシブル銅張積層板の製造方法 |
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