JP4292871B2 - 車両の操舵制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の操舵制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、電動パワーステアリング制御装置は、アシスト力を出力するための電動モータの回転数を減速する減速機や、ラックアンドピニオン等のギヤ機構を備えている。そして、これらの機構には潤滑剤としてグリースが塗布されている。前記グリースの特性として、温度が下がった場合、特に、氷点下の場合、急激に粘度が大きくなり、同じ位置変位に対し、温度が高い場合に比して操舵に要する力(トルク)が増大する。
【0003】
例えば、ラックアシスト式の電動パワーステアリング制御装置では、ラックアンドピニオン部と、ボールナット機構(減速機)の2つのギヤ部を備えており、これらのギヤ部にグリースが塗布されている。そして、これらのギヤ部は、外気と直接接するエンジンルーム内にある。
【0004】
一方、電動パワーステアリング制御装置は、外気温とは無関係に、ハンドルを操舵するとき、トーションバーに加わる力を操舵トルクとしてトルクセンサにて検出し、その操舵トルクに応じて電動モータを駆動制御してアシスト力を付与するようにされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、外気温が氷点下となる冬季や、寒冷地では、朝一番の始動時にイグニッションをオン操作して、ハンドルを操舵した場合、電動モータには、ハンドルを操舵したときの操舵トルクに応じたアシスト力が付与される。しかし、モータからの出力トルクは、粘度が大きくなった状態のグリースの粘性に抗するため、減殺されてしまい、ハンドルが異常に重くなる。
【0006】
すなわち、このような場合、電動モータから十分なアシスト力が付与されているとはいえず、氷点下でない場合の操舵である通常時よりも操舵に要する力(トルク)が増大する。
【0007】
従って、従来は、エンジンからの輻射熱や、操舵したときに発生するモータの自己発熱によりグリースの粘度が小さくなるまで、必要なアシストトルクが得られず、ハンドルが異常に重いという不快感を運転者に与えている。
【0008】
又、車両が走行中の場合、特に高速走行の場合、前記ギヤ部が冷気に当たって、潤滑剤であるグリースが冷却されてしまい、グリースの粘度が大きくなって同様に、十分なアシスト力が付与されていない。
【0009】
又、このように寒冷地や、冬季においてグリースの粘度が大きくなってモータの出力が低下する問題は、前述した電動パワーステアリング制御装置以外にも、例えば、ハンドルの操舵角と車輪転舵角の伝達比を可変する伝達比可変手段を備えた操舵装置も生ずる。すなわち、伝達比可変手段は、モータを制御することにより、前記伝達比が可変自在にされた遊星歯車機構等からなるギヤ部を備えており、同ギヤ部にもグリースが塗布されていることから、冬季や寒冷地では同様にグリースの粘性が高くなっており、モータの出力トルクが結果的に、減殺されてしまう問題がある。
【0010】
又、ステアバイワイヤ式の操舵装置は、操舵系と、転舵系が機械的に分離した非連結状態となって構成されている。そして、転舵系には、電動モータが設けられており、操舵時に作動して、転舵系の機構を介して車輪を転舵するようにされている。このようなステアバイワイヤ式の操舵装置においても、転舵系には、電動モータの回転速度を減速するギヤ部からなる減速機が設けられ、同ギヤ部にはグリースが塗布されている。従って、冬季や寒冷地では同様にグリースの粘性が高くなっており、ステアバイワイヤ式の操舵装置においても、モータの出力トルクが結果的に、減殺されてしまう問題がある。
【0011】
なお、先行技術調査を行ったが、上記の問題を解決するための構成を備えた技術文献は見いだせなかった。
本発明の目的は、寒冷地や冬季において、ギヤ部の温度又はその環境温度が所定値以下のときは、d軸に電流を流すことにより、電動モータを発熱させて、グリースの粘度を小さくし、モータの出力トルクが減殺されることがないようにすることができる車両の操舵制御装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するために、請求項1の発明は、ハンドルの操舵時に作動するギヤが噛み合うギヤ部と、前記ギヤ部に熱伝達が可能に配置されたモータと、界磁電流の方向をd軸方向に、このd軸と直交する方向をq軸方向にもつ2相回転磁束座標系で記述されるベクトル制御により、前記モータを制御する制御手段を備えた車両の操舵制御装置において、前記ギヤ部の温度又はギヤ部の環境温度を検出する温度検出手段を備え、前記制御手段は、前記温度検出手段が検出した温度が所定温度以下であって、ハンドル操作に応じて得られるq軸電流指令値、又は前記モータに流れるq軸電流の絶対値が所定値以下のときは、前記d軸に電流を通電することを特徴とする車両の操舵制御装置を要旨とするものである。
【0013】
なお、本明細書において、熱伝達が可能に配置されるとは、熱伝導、対流伝熱、及び放射伝熱のいずれかの熱の移動現象のうち少なくとも1つの熱の移動現象が実現可能に配置されていることを意味する。
【0015】
請求項の発明は、請求項1において、前記操舵制御装置は、ハンドルの操舵により作動する操舵系と、前記操舵系の作動に応じて、車輪を転舵する転舵系を備え、前記ギヤ部は、前記ハンドルの操舵により作動する操舵系に設けられており、前記モータは、前記ギヤ部を減速機として、同減速機を介して前記操舵系に作動連結されていることを特徴とする。
【0016】
請求項の発明は、請求項1において、前記操舵制御装置は、ハンドルの操舵により作動する操舵系と、前記操舵系の作動に応じて、車輪を転舵する転舵系を備え、前記ギヤ部は、前記転舵系に設けられており、前記モータは、前記ギヤ部を減速機として、同減速機を介して前記転舵系に作動連結されていることを特徴とする。
【0017】
請求項の発明は、請求項1において、前記操舵制御装置は、ハンドルの操舵により作動する操舵系と、前記操舵系の作動に応じて、車輪を転舵する転舵系を備え、前記ギヤ部及び前記モータは、前記ハンドルの操舵により作動する操舵系に設けられるとともに、ハンドルの操舵角と車輪転舵角の伝達比を可変する伝達比可変手段として構成されていることを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
参考例1
以下、本発明を具体化した車両の操舵制御装置を説明する前にラックアシスト式の電動パワーステアリング制御装置の参考例1を図1〜図3に従って説明する。
【0019】
図1は、電動パワーステアリング装置の制御装置(ECU)の概略を示す。
ハンドルとしてのステアリングホイール1に連結したステアリングシャフト2には、トーションバー3が設けられている。このトーションバー3には、トルクセンサ4が装着されている。そして、ステアリングシャフト2が回転してトーションバー3に力が加わると、加わった力に応じてトーションバー3が捩れ、その捩れ、即ちステアリングホイール1にかかる操舵トルクτをトルクセンサ4が検出している。
【0020】
又、ステアリングシャフト2にはピニオンシャフト8が固着されている。ピニオンシャフト8の先端には、ピニオン9が固着されるとともに、このピニオン9はラック10と噛合している。ピニオン9とラック10には、潤滑剤としてのグリースが塗布されている。前記ラック10とピニオン9とによりラック&ピニオン機構が構成されている。前記ラック10の両端には、タイロッド12が固設されており、そのタイロッド12の先端部にはナックル13が回動可能に連結されている。このナックル13には、車輪としての前輪14が固着されている。ナックル13の一端は、クロスメンバ15に回動可能に連結されている。
【0021】
ラック10と同軸的に配置された電動モータ(以下、モータ6という)は、三相同期式永久磁石モータで構成したブラシレスモータにて構成されている。モータ6はアシスト力をボールナット機構6aを介してラック10に伝達する。ボールナット機構6aには潤滑剤としてのグリースが塗布されている。前記ボールナット機構6aはギヤ部及びモータ6の回転速度を減速する減速機に相当する。
【0022】
従って、モータ6が回転すると、その回転数はボールナット機構6aによって減少されてラック10に伝達される。そして、ラック10は、タイロッド12を介してナックル13に設けられた前輪14の向きを変更して車両の進行方向を変えることができる。
【0023】
参考例1では、ステアリングホイール1、ステアリングシャフト2、トーションバー3、ピニオンシャフト8、ピニオン9が、ステアリングホイール1により作動する操舵系を構成する。ラック10、タイロッド12、ナックル13、ボールナット機構6a等により、車輪である前輪14を転舵する転舵系を構成する。
【0024】
前記ギヤ部を構成するボールナット機構6aには、温度検出手段としての温度センサ31が設けられ、ボールナット機構6aの温度Tを検出する。又、モータ6には、同モータ6の回転角(モータ角度)を検出するためのロータリエンコーダにより構成された回転角センサ30が組み付けられている(図2参照)。回転角センサ30は、モータ6の回転子の回転に応じてπ/2ずつ位相の異なる2相パルス列信号と基準回転位置を表す零相パルス列信号を出力する。
【0025】
前輪14には、車速センサ16が設けられている。
次に、この電動パワーステアリング制御装置(以下、ECU20という)の電気的構成を説明する。
【0026】
トルクセンサ4は、ステアリングホイール1の操舵トルクτに応じた検出信号を出力する。車速センサ16は、その時々の車速を前輪14の回転数に相対する周期のパルス信号として出力する。前記トルクセンサ4、車速センサ16、回転角センサ30、及び温度センサ31の検出信号は、入力インターフェイス32を介してCPU21に入力される。
【0027】
ECU20は、中央処理装置(CPU21)、読み出し専用メモリ(ROM22)及びデータを一時記憶する読み出し及び書き込み専用メモリ(RAM23)を備えている。このROM22には、CPU21が演算処理を行うための制御プログラムが格納されている。RAM23は、CPU21が演算処理を行うときの演算処理結果等を一時記憶する
【0028】
ROM22には、図示しない基本アシストマップが格納されている。基本アシストマップは、操舵トルクτ(回動トルク)に対応し、かつ車速に応じた基本アシスト電流を求めるためのものであり、操舵トルクτに対する基本アシスト電流が記憶されている。
【0029】
図2におけるCPU21内部は、プログラムで実行される機能を示す制御ブロックを示している。同制御ブロックは、独立したハードウエアを示すものではなく、CPU21で実行される機能を示している。
【0030】
CPU21の指令トルク算出部52は、トルクセンサ4及び車速センサ16によって検出された操舵トルクτ及び車速Vを入力し、操舵トルクτの増加にしたがって増加するとともに車速Vの増加にしたがって減少するアシストトルク(アシスト力ともいう)の指令値(以下、指令トルクτ*)を演算する。
【0031】
トルク電流変換部54は、指令トルクτ*に基づいて、q軸指令電流Iq*(アシスト電流指令値)を計算する。q軸指令電流Iq*はq軸電流指令値に相当する。なお、後述するd軸指令電流Id*及び前記q軸指令電流Iq*は、モータ6の回転子上の永久磁石が作り出す回転磁束と同期した回転座標系(2相回転磁束座標系)において、永久磁石の磁束の方向と同一方向のd軸及びこれに直交したq軸にそれぞれ対応する。
【0032】
界磁電流指令値演算部53は、温度センサ31が検出したボールナット機構6aの温度Tに基づいて、界磁電流指令値であるd軸指令電流Id*をROM22に格納した界磁電流指令マップに基づいて算出する。界磁電流指令マップは、温度Tに応じた界磁電流指令値(d軸指令電流Id*)を求めるためのものであり、温度Tが所定温度Ts以下の場合には、そのd軸指令電流Id*の絶対値が、温度Tが低下するほど大きくなるように設定されている。又、界磁電流指令マップは、温度Tが所定温度Tsを超える場合には、そのd軸指令電流Id*がId*=0となるように設定されている。参考例1では、所定温度Tsは、冬季や、寒冷地において、前記ギヤ部等に使用されているグリースの粘度が大きくなり、モータ6が出力するアシストトルクが減殺されてしまう温度とされている。
【0033】
d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*は加算器55,56に供給される。加算器55,56は、d軸指令電流Id*,q軸指令電流Iq*と、負極性で与えられるd軸電流Id及びq軸電流Iqとのそれぞれの差分値ΔId,ΔIqを演算し、その結果をPI制御部(比例積分制御部)57,58に供給する。
【0034】
PI制御部57,58は、差分値ΔId,ΔIqに基づきd軸電流Id及びq軸電流Iqがd軸指令電流Id*,q軸指令電流Iq*に追従するようにd軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*をそれぞれ計算する(PI制御を行う)。
【0035】
d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*は、2相/3相座標変換部61に供給される。2相/3相座標変換部61は、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*を、電気角θに基づいて3相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*に変換し、同変換した3相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*をPWM制御部62に出力する。
【0036】
PWM制御部62は、この3相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*に対応したPWM制御信号UU,VU,WU(PWM波信号及びモータ6の回転方向を表す信号を含む)に変換し、インバータ回路である駆動回路35に出力する。駆動回路35は、PWM制御信号UU,VU,WUに対応した3相の励磁電流を発生して、3相の励磁電流路を介してモータ6にそれぞれ供給する。3相の励磁電流路のうちの2つには電流センサ71,72が設けられ、各電流センサ71,72は、モータ6に対する3相の励磁電流Iu,Iv,Iwのうちの2つの励磁電流Iu,Ivを検出して図2に示す3相/2相座標変換部73に出力する。
【0037】
なお、3相/2相座標変換部73には、演算器74にて励磁電流Iu,Ivに基づいて計算された励磁電流Iw、及び電気角変換部64から電気角θが入力される。3相/2相座標変換部73は、これらの励磁電流Iu,Iv,Iwを電気角θに基づいて2相のd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換し、負極性のd軸電流Id及びq軸電流Iqを加算器55,56に入力する。
【0038】
又、回転角センサ30からの2相パルス列信号及び零相パルス列信号は、所定のサンプリング周期で電気角変換部64に連続的に供給されている。電気角変換部64は、前記各パルス列信号に基づいてモータ6における回転子の固定子に対する電気角θ(モータの回転角、すなわち、モータ角度)を演算し、演算された電気角θを2相/3相座標変換部61及び3相/2相座標変換部73に入力する。
【0039】
参考例1の作用)
次に、参考例1の作用を説明する。
図3は、参考例1のECU20のベクトル制御処理の制御プログラムのフローチャートを示している。
【0040】
この制御処理が開始されると、S10では、各種初期処理を行い、S20では各種データを読み込む。各種データとしては、物理量として前記各種センサが検出した検出信号である、操舵トルクτ,車速V、温度T、励磁電流Iu,Iv等である。S30では、操舵トルクτ及び車速Vに基づいて指令トルクτ*を演算する(指令トルク算出部52に相当)。S40では、指令トルクτ*に基づいて、q軸指令電流Iq*(アシスト電流指令値)を計算する(トルク電流変換部54に相当)。
【0041】
S50では、ボールナット機構6aの温度Tに基づいて、界磁電流指令値であるd軸指令電流Id*を界磁電流指令マップに基づいて算出する(界磁電流指令値演算部53に相当)。S60では、励磁電流Iu,Iv,Iwを電気角θに基づいて2相のd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する(3相/2相座標変換部73に相当)。次のS70では、d軸指令電流Id*,q軸指令電流Iq*と、負極性で与えられるd軸電流Id及びq軸電流Iqとのそれぞれの差分値ΔId,ΔIqを演算する(加算器55,56に相当)。S80では、差分値ΔId,ΔIqに基づきd軸電流Id及びq軸電流Iqがd軸指令電流Id*,q軸指令電流Iq*に追従するようにd軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*をそれぞれ計算する(PI制御部57,58に相当)。
【0042】
続くS90では、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*を、電気角θに基づいて3相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*に変換する(2相/3相座標変換部61に相当)。S100では、この3相指令電圧Vu*,Vv*,Vw*に対応したPWM制御信号UU,VU,WU(PWM波信号及びモータ6の回転方向を表す信号を含む)に変換し、駆動回路35に出力する(PWM制御部62に相当)。続く、S110では、モータ6の駆動(ベクトル制御処理)を終了する条件が成立するか否かの判定を行う。この条件とは、車両のイグニッションがオフ状態になった場合等の終了条件が相当する。この終了条件が成立しない場合には、S20に戻り、以下、同様の処理を行う。又、終了条件が成立する場合には、本制御プログラムを終了する。
【0043】
参考例1によれば、以下のような特徴がある。
(1) 参考例1では、ギヤ部を構成するボールナット機構6aには、温度検出手段としての温度センサ31を設け、ボールナット機構6aの温度Tを検出するようにした。そして、CPU21(制御手段)は、温度センサ31が検出した温度が所定温度Ts以下のときは、d軸に電流を通電するようにした。
【0044】
このため、冬季や、寒冷地において、温度Tが所定温度Ts以下のためにボールナット機構6a(ギヤ部)に使用されているグリースの粘度が大きいときに、d軸電流が流れることによって、モータ6が発熱する。
【0045】
モータ6が発熱すると、ボールナット機構6aにその熱が伝達されて、ボールナット機構6aに塗布したグリースの温度も上昇するため、同グリースの粘度が小さくなる(低下する)。この結果、所定温度Ts以下のとき、グリースの粘度に起因して、モータ6のアシストトルクが減殺されてしまうことがなくなる。
【0046】
その結果、従来においては、所定温度Ts以下の場合、ハンドルが重くなる問題があったが、参考例1では、グリースの粘度が下がってくるため、ステアリングホイール1(ハンドル)が重くなることを解消できる。
【0047】
なお、参考例1では、後述する実施形態と異なり、q軸電流Iqの大きさに関わりなく、所定温度Ts以下の場合、d軸に通電する。すなわち、参考例1は、d,q軸の両方に電流を流す場合もあるため、この場合は、特に発熱効果は高く大きく、グリースの粘度の低下が早くなる。
【0048】
(2) 参考例1では、ラックアシスト式の電動パワーステアリング制御装置に具体化し、モータ6を、ギヤ部であるボールナット機構6aを減速機として、ボールナット機構6aを介して転舵系に作動連結した。
【0049】
この結果、ラックアシスト式の電動パワーステアリング制御装置において、ギヤ部であるボールナット機構6aが所定温度Ts以下のときは、モータ6を発熱させてボールナット機構6aの潤滑剤であるグリースの粘度を小さくすることにより、操舵フィーリングを向上することができる。
【0050】
例えば、所定温度Ts以下のときも、ハンドルであるステアリングホイール1の切り始めの快適性を確保することができる。
(実施形態)
次に、本発明を具体化した一実施形態を図4及び図5を参照して説明する。図4におけるCPU21内部は、プログラムで実行される機能を示す制御ブロックを示している。
【0051】
なお、参考例1のハード構成、及びCPU21内部の制御ブロックと同一構成については、同一符号を付して、その説明を省略し、異なるところを中心に説明する。
【0052】
参考例1では、q軸電流Iqの大きさに関わりなく、温度Tが所定温度Ts以下の場合、d軸に通電するようにした。それに対して、実施形態では、温度Tが所定温度Ts以下の場合であって、かつ、q軸電流Iqが所定値Iqs以下となったとき、d軸に通電するようにしたところが、参考例1と異なっている。所定値Iqsは、実施形態では0(なお、所定値は0近傍の値でもよい)である。
【0053】
すなわち、ハンドル操作が行われていない(又は、ほとんどハンドル操作が行われていない)場合、q軸電流Iqが流れず、0(又は0に近い値)となる。この場合にのみ、温度Tが所定温度Ts以下か否かを判定し、q軸電流Iqが所定値Iqs以下となったとき、d軸に通電するようにしている。
【0054】
図4の制御ブロックでは、界磁電流指令値演算部53の出力と、Id*=0とが、q軸電流Iqが所定値Iqs以下となったとき、加算器55への出力として切り換えられるように、切換スイッチ部59にて図示している。
【0055】
図5は、実施形態のECU20のベクトル制御処理の制御プログラムのフローチャートを示している。なお、参考例1のフローチャートと同じステップについては、同一符号を付し、詳細な説明を省略する。実施形態では、S10、S20の処理後、S25において、励磁電流Iu,Iv,Iwを電気角θに基づいて2相のd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する(3相/2相座標変換部73に相当)。このS25の後、S30及びS40の処理を実行する。
【0056】
S40の後、S50Aでは、q軸電流Iqの絶対値が所定値Iqs以下のときに、ボールナット機構6aの温度Tに基づいて、界磁電流指令値であるd軸指令電流Id*を界磁電流指令マップに基づいて算出する。
【0057】
従って、このS50Aの処理により、q軸電流Iqの絶対値が所定値Iqs以下であって、かつ、温度Tが所定温度Ts以下の場合にd軸指令電流Id*≠0の値が算出され、後のステップ(S100)において、d軸に通電がされることになる。又、このS50Aの処理により、q軸電流Iqの絶対値が所定値Iqs以下であって、かつ、温度Tが所定温度Tsを超えるときはd軸指令電流Id*=0の値が算出され、後のステップ(S100)において、d軸に通電がされないことになる。さらに、又、このS50Aの処理により、q軸電流Iqの絶対値が所定値Iqsを超える場合は、d軸指令電流Id*=0の値が算出され、後のステップ(S100)において、d軸に通電がされないことになる。このS50Aの処理の後、S70〜S110の処理が行われる。
【0058】
実施形態によれば、以下のような特徴がある。
(1) 実施形態では、CPU21(制御手段)は、温度センサ31(温度検出手段)が検出した温度Tが所定温度Ts以下であって、ハンドル操作に応じてモータ6に流れるq軸電流Iqの絶対値が所定値Iqs以下のときは、d軸に電流を通電するようにした。すなわち、実施形態では、参考例1と異なり、温度Tが所定温度Ts以下の場合は、常にd軸に電流を流すのではなく、q軸電流Iqの絶対値が、所定値Iqs以下のときだけしか流さないようにした。
【0059】
このようにすると、仮に、q軸に電流が流れているときに、さらにd軸に電流を流すと、発熱効果が高い利点がある。しかし、一方では、モータ6の発熱量が多くなって、トルク定数が下がり、アシスト力(アシストトルク)が減少する。なお、出力トルク=トルク定数×モータ電流(q軸電流)であり、トルク定数は、温度の関数である。
【0060】
この場合、若干、ハンドルが重くなる傾向がある。これを回避するため、実施形態ではq軸に所定値Iqsを超えるq軸電流Iqを流している場合、q軸電流Iqによりモータ6は発熱するため、q軸電流Iqが所定値Iqs以下のときだけ、d軸に電流を流してやり、全体として、常に発熱状態を継続し、かつ、アシスト力の低下を抑制する。
【0061】
なお、q軸電流Iqが所定値Iqs(=0)の場合とは電動パワーステアリング制御装置としてはハンドルが切られていない状態であり、この場合、通常q軸電流Iqが流れておらず発熱しないため、ギヤ部(本実施形態ではボールナット機構6a)が冷却されていって、操舵フィーリングとしては悪化する(重くなる)。このような場合においても、実施形態では、q軸電流Iqの絶対値が所定値Iqs(本実施形態では、0)のときに、d軸に電流が流れるため、d軸電流Idは、全部熱エネルギとして使われ、グリースの温度を上げていくことができる。なお、このように場合でも、モータ6が出力トルクを発生することはなく、勝手に回ることはない。
【0062】
参考例2
次に、車両の操舵制御装置を、伝達比可変手段を備えた操舵制御装置(ECU200)の参考例2を図6〜図8を参照して説明する。
【0063】
図6は伝達比としてのステアリングギヤ比を車両の速度に応じて可変し得る操舵装置の概略図である。
図6に示すように、操舵装置100は主にステアリングホイール111、第1ステアリングシャフト112、第2ステアリングシャフト113、ステアリングギヤボックス114、操舵角センサ116、車速センサ117、出力角センサ118、ECU200(制御装置)、ギヤ比可変ユニット202から構成される。
【0064】
すなわち、ステアリングホイール111に第1ステアリングシャフト112の一端が接続され、第1ステアリングシャフト112の他端側にはギヤ比可変ユニット202の入力側が接続されている。ギヤ比可変ユニット202は三相同期式永久磁石モータで構成したブラシレスモータ(以下、単にモータ106という)と、遊星歯車機構を構成するギヤの組み合わせからなる減速機106a等から構成されており、前記減速機106aはギヤ部に相当し、潤滑剤としてのグリースが塗布されている。ギヤ比可変ユニット202の出力側には第2ステアリングシャフト113の一端側が接続され、第2ステアリングシャフト113の他端側にはステアリングギヤボックス114の入力側が接続されている。
【0065】
ギヤ比可変ユニット202は伝達比可変手段に相当する。
そして、ステアリングギヤボックス114は図示しないラック・ピニオンギヤ等により、第2ステアリングシャフト113によって入力された回転運動をラック115の軸方向運動に変換して出力し得るように構成されている。前記ラック・ピニオンギヤには、潤滑剤としてのグリースが塗布されている。
【0066】
参考例2では、ステアリングホイール111、第1ステアリングシャフト112、第2ステアリングシャフト113が、ステアリングホイール111により作動する操舵系を構成する。ステアリングギヤボックス114、ラック115、等により、車輪である図示しない前輪を転舵する転舵系を構成する。
【0067】
又、第1ステアリングシャフト112の操舵角θsは操舵角センサ116により、第2ステアリングシャフト113の回転角(出力角)は出力角センサ118により、車速Vは車速センサ117により、それぞれ検出される。そして、それぞれ、操舵角信号、出力角信号、車速信号としてECU200にそれぞれ入力され得るように構成されている。又、ギヤ比可変ユニット202には、ギヤ部である減速機106aの温度を検出する温度センサ120が設けられており、温度センサ120により、減速機106aの温度Tが検出され、ECU200に入力されるように構成されている。
【0068】
上記構成により、ギヤ比可変ユニット202は、モータ106と減速機106aにより、入力ギヤに対する出力ギヤの比を車速Vに応じてリアルタイムに変更し、第1ステアリングシャフト112の操舵角θsに対する第2ステアリングシャフト113の出力角の比(伝達比)を可変する。
【0069】
ECU200は、CPU121、駆動回路135を備えている(図8参照)。図8におけるCPU121内部は、参考例1と同様にプログラムで実行される機能を示す制御ブロックを示している。なお、ECU200の構成において、参考例1の制御装置と同一又は相当する構成については、説明の便宜上、参考例1において付した符号に対して100を加算した符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0070】
図9は、参考例2のECU200のベクトル制御処理の制御プログラムのフローチャートを示している。なお、参考例1のフローチャートと同じステップについては、参考例1のステップ番号に200を加算した符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0071】
参考例2では、S210、S220の処理後、S230Aに移行する。S230Aでは、操舵角センサ116による操舵角θsと車速センサ117による車速Vにより、車速Vに対応して一義的に定められるギヤ比可変ユニット202のモータ106の目標回転角をモータ回転角マップ230から決定し、決定した回転角指令値に応じた指令トルクτ*を算出する(図7参照)。S230Aは、図7に示す指令トルク算出部152Aに相当する。
【0072】
この後、S240を経てS250において、ギヤ比可変ユニット202の減速機106aの温度Tに基づいて、界磁電流指令値であるd軸指令電流Id*を界磁電流指令マップに基づいて算出する(界磁電流指令値演算部153に相当)。
【0073】
従って、このS250の処理により、温度Tが所定温度Ts以下の場合にd軸指令電流Id*≠0の値が算出され、後のステップ(S300)において、d軸に通電がされることになる。又、温度Tが所定温度Tsを超える場合にd軸指令電流Id*=0の値が算出され、後のステップ(S300)において、d軸に通電がされないことになる。
【0074】
このS250の処理の後、S260〜S310の処理が行われる。
このようにして、車速Vに対応したステアリングギヤ比、例えば停車時や低速走行時にはステアリングホイール111の操舵角θsに対してギヤ比可変ユニット202の出力角が大きくなるように設定することができる。又、高速走行時にはステアリングホイールの操舵角に対してギヤ比可変ユニット202の出力角が小さくなるように設定することができる。すなわち、ギヤ比可変ユニット202は、ステアリングホイール111の取り回しを改善する。
【0075】
なお、モータ106の回転角(実回転角)は、第2ステアリングシャフト113の回転角として出力角センサ118により検出された後、CPU121に入力される。CPU121では、電気角変換部164により、その検出信号に基づいてモータ106における回転子の固定子に対する電気角θ(モータの回転角、すなわち、モータ角度)を演算し、演算された電気角θを2相/3相座標変換部161及び3相/2相座標変換部173に入力する。
【0076】
参考例2によれば、以下のような特徴がある。
(1) 参考例2では、減速機106a(ギヤ部)及びモータ106は、ステアリングホイール111(ハンドル)の操舵により作動する操舵系に設け、ハンドルの操舵角θsと第2ステアリングシャフト113の出力角(車輪転舵角)の伝達比を可変する伝達比可変手段としている。そして、この伝達比可変手段を備えた操舵制御装置において、ギヤ部を構成する減速機106aには、温度検出手段としての温度センサ120を設け、減速機106aの温度Tを検出するようにした。そして、CPU21(制御手段)は、温度センサ120が検出した温度が所定温度Ts以下のときは、d軸に電流を通電するようにした。
【0077】
このため、冬季や、寒冷地において、温度Tが所定温度Ts以下のために減速機106a(ギヤ部)に使用されているグリースの粘度が大きいときに、d軸電流が流れることによって、モータ106が発熱する。
【0078】
モータ106が発熱すると、減速機106aにその熱が伝達されて、減速機106aに塗布したグリースの温度も上昇するため、同グリースの粘度が小さくなる(低下する)。この結果、温度Tが所定温度Ts以下のとき、グリースの粘度に起因して、モータ106の出力トルクが減殺されてしまうことがなくなる。
【0079】
その結果、従来においては、所定温度Ts以下の場合、ハンドルが重くなる問題があったが、参考例2では、グリースの粘度が下がってくるため、ステアリングホイール111(ハンドル)が重くなることを解消できる。
【0080】
なお、参考例2では、後述する他の実施形態(5)と異なり、q軸電流Iqの大きさに関わりなく、所定温度Ts以下の場合、d軸に通電する。すなわち、参考例2は、d,q軸の両方に電流を流す場合もあるため、この場合は、特に発熱効果は高く大きく、グリースの粘度の低下が早くなる。
【0081】
参考例3
次に、車両の操舵制御装置として、ステアリングホイール500(ハンドル)と、操舵輪520(例えば前輪)に連結する舵取機構501とを機械的に分離したステアバイワイヤ式の操舵装置の制御装置(ECU510)の参考例3を説明する。
【0082】
図10は、操舵装置の概略図である。この操舵装置は、ステアリングホイール500と舵取機構501とを直結しないで、ステアリングホイール500の操舵角を検出し、検出した操舵角に応じて電動モータ(以下、モータ502という)を介して舵取機構501を駆動するようにされている。モータ502は、三相同期式永久磁石モータで構成したブラシレスモータにて構成されている。モータ502はモータ出力をボールナット機構502aを介してシャフト501aに伝達する。ボールナット機構502aには潤滑剤としてのグリースが塗布されている。ボールナット機構502aはギヤ部及びモータ502の回転速度を減速する減速機に相当する。
【0083】
すなわち、モータ502の回転駆動により舵取機構のシャフト501a(転舵軸)をその軸長方向に移動させて、シャフト501aに対して図示しないタイロッド及びナックルアームを介して連結された操舵輪520を転舵する。
【0084】
舵取機構501は、転舵系に相当する。
ステアリングホイール500には、ステアリングシャフト503を介してステアリングシャフト503と同軸的にトーションバー等の弾性部材(図示しない)が連結されている。ステアリングホイール500、ステアリングシャフト503等により、操舵系が構成されている。
【0085】
又、弾性部材の反ステアリングホイール側である下部には、例えば、ウォームギヤ及びピニオンギヤを組み合わせた減速機504が設けられており、同減速機504を介して電動モータからなる反力モータ505が連結されている。前記反力モータ505は、車両速度や路面状況に応じて、操舵方向と逆方向の力(反力)をステアリングシャフト503に付与し、この反力を運転者に体感させるためのものである。 又、ステアリングホイール500を回転操舵するには、反力モータ505が発生した反力トルクに抗するように操舵トルクを付与する必要があることから、前記弾性部材のステアリングシャフト503側に、前記操舵トルクを検出するトルクセンサ506が設けられている。トルクセンサ506の検出信号はECU510に出力される。又、ステアリングホイール500の操作量を検出するために、弾性部材のステアリングシャフト503側に操舵角センサ507が設けられている。操舵角センサ507により、操作方向を含めて操舵角θs(操舵量)が検出され、ステアリングホイール500の操作状態を表す信号として、ECU510に出力される。
【0086】
又、舵取機構501に設けられたモータ502の出力軸は、ロータリエンコーダ等からなる回転角センサ509が設けられている。回転角センサ509は、モータ502の出力軸(図示しない)の回転角(回転位置)を示す検出信号をECU510に出力する。ECU510は、操舵角センサ507が検出した操舵角θsに基づく転舵位置指令と、回転角センサ509が検出した回転角に基づいて算出した実位置との偏差をなくすように位置制御等のフィードバック制御を行うようにされている。
【0087】
又、ギヤ部を構成するボールナット機構502aには、温度検出手段としての温度センサ540が設けられ、ボールナット機構502aの温度Tの検出信号をECU510に出力する。
【0088】
ECU510は、CPU521、駆動回路535を備えている(図11参照)。
図11におけるCPU521内部は、参考例1と同様にプログラムで実行される機能を示す制御ブロックを示している。なお、ECU510の構成において、参考例1の制御装置と同一又は相当する構成については、説明の便宜上、参考例1において付した符号に対して500を加算した符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0089】
図12は、参考例3のECU510のベクトル制御処理の制御プログラムのフローチャートを示している。なお、参考例1のフローチャートと同じステップについては、参考例1のステップ番号に500を加算した符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0090】
参考例3では、S510、S520の処理後、S530Aに移行する。S530Aでは、操舵角センサ507による操舵角θsにより、一義的に定められるモータ502の目標回転位置をマップ(図示しない)から決定し、決定した回転位置に応じた指令トルクτ*を算出する。S530Aは、図11に示す指令トルク算出部552Aに相当する。
【0091】
この後、S540を経てS550において、ボールナット機構502aの温度Tに基づいて、界磁電流指令値であるd軸指令電流Id*を界磁電流指令マップに基づいて算出する(界磁電流指令値演算部553に相当)。
【0092】
従って、このS550の処理により、温度Tが所定温度Ts以下の場合にd軸指令電流Id*≠0の値が算出され、後のステップ(S600)において、d軸に通電がされることになる。又、温度Tが所定温度Tsを超える場合にd軸指令電流Id*=0の値が算出され、後のステップ(S600)において、d軸に通電がされないことになる。このS550の処理の後、S560〜S610の処理が行われる。
【0093】
なお、モータ502の回転角(実回転位置)は、回転角センサ509により検出された後、CPU521に入力される。CPU521では、電気角変換部564により、その検出信号に基づいてモータ502における回転子の固定子に対する電気角θ(モータの回転角、すなわち、モータ角度)を演算し、演算された電気角θを2相/3相座標変換部561及び3相/2相座標変換部573に入力する。
参考例3によれば、以下のような特徴がある。
【0094】
(1) 参考例3では、ボールナット機構502a(ギヤ部)及びモータ502は、転舵系である舵取機構501に設けた。そして、ギヤ部を構成するボールナット機構502aには、温度検出手段としての温度センサ540を設け、ボールナット機構502aの温度Tを検出するようにした。そして、CPU521(制御手段)は、温度センサ540が検出した温度Tが所定温度Ts以下のときは、d軸に電流を通電するようにした。
【0095】
このため、冬季や、寒冷地において、温度Tが所定温度Ts以下のためにボールナット機構502a(ギヤ部)に使用されているグリースの粘度が大きいときに、d軸電流が流れることによって、モータ502が発熱する。モータ502が発熱すると、ボールナット機構502aにその熱が伝達されて、ボールナット機構502aに塗布したグリースの温度も上昇するため、同グリースの粘度が小さくなる(低下する)。この結果、温度Tが所定温度Ts以下のとき、グリースの粘度に起因して、モータ502の出力トルクが減殺されてしまうことがなくなる。
【0096】
その結果、従来においては、温度Tが所定温度Ts以下の場合、モータ502の出力トルクが粘度の大きいグリースのために、減殺されてしまうが、参考例3では、グリースの粘度が下がってくるため、モータ502の出力トルクが減殺されることがなくなる。
【0097】
なお、参考例3では、後述する他の実施形態(6)と異なり、q軸電流Iqの大きさに関わりなく、所定温度Ts以下の場合、d軸に通電する。すなわち、参考例3は、d,q軸の両方に電流を流す場合もあるため、この場合は、特に発熱効果は高く大きく、グリースの粘度の低下が早くなる。
【0098】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
(1) 前記実施形態では、ラックアシスト式の電動パワーステアリング制御装置に具体化したが、コラムアシスト式の電動パワーステアリング制御装置に具体化してもよい。この場合、操舵系であるステアリングシャフト(コラム)に設けられるモータの回転を減速する減速機が潤滑剤としてのグリースが塗布されたギヤ部に相当する。
【0099】
(2) 前記実施形態では、ラックアシスト式の電動パワーステアリング制御装置に具体化したが、ピニオンアシスト式の電動パワーステアリング制御装置に具体化してもよい。この場合、操舵系であるピニオンに対して減速機を介してモータが作動的に連結され、同減速機が潤滑剤としてのグリースが塗布されたギヤ部を構成する。
【0100】
(3) 前記実施形態では、S50Aにおいて、温度Tが所定温度Ts以下の場合であって、かつ、q軸電流Iqが所定値Iqs以下となったとき、d軸に通電するようにしたが、温度Tが所定温度Ts以下の場合であって、かつ、q軸指令電流Iq*が所定値Iqs以下となったとき、d軸に通電するようにしてもよい。この場合においても、前記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0101】
(4) 前記実施形態では、操舵トルクτと、車速Vとを使用したが、操舵トルクτのみで、指令トルクτ*を決定するようにしてもよい。
(5) 参考例2で説明した伝達比可変手段を備えた操舵制御装置を、前記実施形態と同様に、減速機106aの温度Tが所定温度Ts以下の場合であって、かつ、q軸電流Iqが所定値Iqs以下となったとき、d軸に通電するようにしてもよい。
【0102】
このように構成した場合、q軸に所定値Iqsを超えるq軸電流Iqを流していると、q軸電流によりモータ106は発熱するため、q軸電流Iqが所定値Iqs以下のときだけ、d軸に電流を流してやり、全体として、常に発熱状態を継続し、かつ、モータ106の出力トルクの低下を抑制することができる。
【0103】
なお、q軸電流Iqが所定値Iqs(=0)の場合とは、操舵制御装置としては、伝達比が可変していない状態であり、この場合、通常、q軸電流Iqが流れておらず発熱しないため、ギヤ部(減速機106a)が冷却されていって、操舵フィーリングとしては悪化する(重くなる)。このような場合においても、q軸電流Iqの絶対値が所定値Iqs(本実施形態では、0)以下のときに、d軸に電流が流れるため、d軸電流Idは、全部熱エネルギとして使われ、グリースの温度を上げていくことができる。なお、このように場合でも、モータ106が出力トルクを発生することはなく、勝手に回ることはない。
【0104】
又、参考例2で説明した伝達比可変手段を備えた操舵制御装置を、減速機106aの温度Tが所定温度Ts以下の場合であって、かつ、q軸指令電流Iq*が所定値Iqs以下となったとき、d軸に通電するようにしてもよい。
【0105】
(6) 参考例3で説明したステアバイワイヤ式の操舵装置の制御装置を、前記実施形態と同様に、ボールナット機構502aの温度Tが所定温度Ts以下の場合であって、かつ、q軸電流Iqが所定値Iqs以下となったとき、d軸に通電するようにしてもよい。
【0106】
このように構成した場合、q軸に所定値Iqsを超えるq軸電流Iqを流していると、q軸電流Iqによりモータ502は発熱するため、q軸電流Iqが所定値Iqs以下のときだけ、d軸に電流を流してやり、全体として、常に発熱状態を継続し、かつ、モータ502の出力トルクの低下を抑制することができる。
【0107】
又、参考例3で説明したステアバイワイヤ式の操舵装置の制御装置を、ボールナット機構502aの温度Tが所定温度Ts以下の場合であって、かつ、q軸指令電流Iq*が所定値Iqs以下となったとき、d軸に通電するようにしてもよい。
【0108】
(7) 上記各実施形態ではモータ6,106,502はブラシレスモータとしたが、誘導モータに具体化してもよい。
(8) 前記各実施形態では、ギヤ部の温度を直接検出する温度センサにて検出するようにしたが、これに限定するものではなく、ギヤ部の環境温度を検出するセンサや、推定するものであればよい。例えば、内燃機関を備えた車両であれば、内燃機関の吸気温を検出する温度センサや、車外の外気温を検出する温度センサであっても、ギヤ部の環境温度を推定又は検出できる。
【0109】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1乃至請求項の発明は、ギヤ部の温度又はその環境温度が所定値以下のときは、d軸に電流を流すことにより、電動モータを発熱させて、グリースの粘度を小さくすることができる。この結果、電動モータの出力トルクが減殺されることがないようにすることができる。又、温度検出手段が検出した温度が所定温度以下であって、ハンドル操作に応じて得られるq軸電流指令値、又は前記モータに流れるq軸電流の絶対値が所定値以下のときに、d軸に電流を通電するため、全体として、常に発熱状態を継続し、かつ、アシスト力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例1の電動パワーステアリング制御装置の概略図。
【図2】同じく電動パワーステアリング制御装置の制御ブロックダイヤグラム。
【図3】同じくベクトル制御処理の制御プログラムのフローチャート。
【図4】実施形態の電動パワーステアリング制御装置の制御ブロックダイヤグラム。
【図5】同じくベクトル制御処理の制御プログラムのフローチャート。
【図6】参考例2の伝達比可変手段を備えた操舵制御装置の概略図。
【図7】同じく制御ブロックダイヤグラム。
【図8】同じく制御ブロックダイヤグラム。
【図9】同じくベクトル制御処理の制御プログラムのフローチャート。
【図10】参考例3のステアバイワイヤ式の操舵装置の概略図。
【図11】同じく制御ブロックダイヤグラム。
【図12】同じくベクトル制御処理の制御プログラムのフローチャート。
【符号の説明】
1,111…ステアリングホイール
6,106,502…モータ
20,200,510…ECU
21,121,521…CPU(制御手段)
31、120、540…温度センサ(温度検出手段)
6a…ボールナット機構(ギヤ部)
106a…減速機(ギヤ部)
502a…ボールナット機構(ギヤ部)

Claims (4)

  1. ハンドルの操舵時に作動するギヤが噛み合うギヤ部と、前記ギヤ部に熱伝達が可能に配置されたモータと、界磁電流の方向をd軸方向に、このd軸と直交する方向をq軸方向にもつ2相回転磁束座標系で記述されるベクトル制御により、前記モータを制御する制御手段を備えた車両の操舵制御装置において、
    前記ギヤ部の温度又はギヤ部の環境温度を検出する温度検出手段を備え、
    前記制御手段は、前記温度検出手段が検出した温度が所定温度以下であって、ハンドル操作に応じて得られるq軸電流指令値、又は前記モータに流れるq軸電流の絶対値が所定値以下のときは、前記d軸に電流を通電することを特徴とする車両の操舵制御装置。
  2. 請求項1に記載の車両の操舵制御装置において、
    前記操舵制御装置は、ハンドルの操舵により作動する操舵系と、前記操舵系の作動に応じて、車輪を転舵する転舵系を備え、
    前記ギヤ部は、前記ハンドルの操舵により作動する操舵系に設けられており、前記モータは、前記ギヤ部を減速機として、同減速機を介して前記操舵系に作動連結されていることを特徴とする車両の操舵制御装置。
  3. 請求項1に記載の車両の操舵制御装置において、
    前記操舵制御装置は、ハンドルの操舵により作動する操舵系と、前記操舵系の作動に応じて、車輪を転舵する転舵系を備え、
    前記ギヤ部は、前記転舵系に設けられており、前記モータは、前記ギヤ部を減速機として、同減速機を介して前記転舵系に作動連結されていることを特徴とする車両の操舵制御装置。
  4. 請求項1に記載の車両の操舵制御装置において、
    前記操舵制御装置は、ハンドルの操舵により作動する操舵系と、前記操舵系の作動に応じて、車輪を転舵する転舵系を備え、
    前記ギヤ部及び前記モータは、前記ハンドルの操舵により作動する操舵系に設けられるとともに、ハンドルの操舵角と車輪転舵角の伝達比を可変する伝達比可変手段として構成されていることを特徴とする車両の操舵制御装置。
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