JP4290789B2 - 基板熱処理装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板、フォトマスク用ガラス基板、光ディスク用基板等の基板(以下「基板」という)に対して熱処理を施す基板熱処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
基板への光照射により基板を加熱処理する枚葉式の基板熱処理装置(ランプアニール装置)が存在する。従来の基板熱処理装置は、PID調節器を有するフィードバック制御系を用いて、熱処理中の基板の温度を制御していることが多かった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、熱処理装置で行われる基板の処理内容は多様であり、処理時の条件も多様なものとなっている。たとえば、基板の熱処理においては、ランプの加熱により所定の温度にまで昇温された後、その温度は一定値に維持されるが、その一定温度に到達するまでの昇温時間は数秒から1分程度と広範囲であり、単位時間あたりの温度上昇、つまり昇温速度の値は広範囲にわたっている。また維持温度は、処理に応じて約400℃から約1200℃と広範囲にわたる。
【0004】
高精度の制御を実現するためには、これらの処理条件に応じた最適なPIDパラメータを決定する必要がある。特に、高速の昇温速度を実現するように調整されたPIDパラメータで、温度を一定に維持するように制御した場合にはオフセットが生じたり、また逆に、温度を一定に維持するように調整されたPIDパラメータで昇温を行った場合にはオーバーシュートが生じたりする。高速の昇温速度を実現するのに適したPIDパラメータと、温度を目標の一定値に維持するために適したPIDパラメータとは異なるのである。
【0005】
このように、様々な処理条件下において高精度の制御を実現するためには、温度や昇温速度などの処理時の条件に応じたPIDパラメータの調整が必要となる。しかしながら、基板の処理内容に応じた様々な条件毎にPIDパラメータを調整する作業は、時間と手間とを要する非常に困難な作業である。
【0006】
そこで、本発明は前記問題点に鑑み、様々な処理条件に対して高精度の温度制御機能を有し、かつ、調整が容易な基板熱処理装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の基板熱処理装置は、基板の熱処理を行う装置であって、(a)前記基板を加熱する加熱手段と、(b)前記基板の熱状態を反映する所定の物理量につき、前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階での各時刻における前記物理量の目標値を表す目標値曲線を生成する目標値生成手段と、(c)前記基板の加熱に対する前記物理量の応答特性を表現した特性モデルを記憶しておく特性モデル記憶手段と、(d)前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階のそれぞれにおいて、固有の加熱制御規則に基づいて前記基板の加熱指令値を生成し、前記加熱指令値を前記加熱手段に出力する加熱指令値生成出力手段と、を備え、前記加熱制御規則は、第1制御規則と第2制御規則とを有しており、第1制御規則は、前記特性モデルに基づいて、前記物理量の目標値に対応する出力指令値を第1加熱指令値として決定するフィードフォワード制御則であり、第2制御規則は、前記特性モデルに基づいて、前記物理量の前記目標値に対応する出力指令値と前記物理量の実測値に対応する出力指令値との偏差に対応する値を第2加熱指令値として決定するフィードバック制御則であり、前記加熱指令値生成出力手段は、前記第1加熱指令値と、前記第2加熱指令値とを加算して得られる値を前記加熱指令値として前記加熱手段に出力することを特徴とする。
【0008】
請求項2の基板熱処理装置は、基板の熱処理を行う装置であって、(a)前記基板を加熱する加熱手段と、(b)前記基板の熱状態を反映する所定の物理量につき、前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階での各時刻における前記物理量の目標値を表す目標値曲線を生成する目標値生成手段と、(c)前記基板の加熱に対する前記物理量の応答特性を表現した特性モデルを記憶しておく特性モデル記憶手段と、(d)前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階のそれぞれにおいて、固有の加熱制御規則に基づいて前記基板の加熱指令値を生成し、前記加熱指令値を前記加熱手段に出力する加熱指令値生成出力手段と、を備え、前記物理量の前記特性モデルは、複数の測定結果をファジィルールの前件部および後件部のメンバーシップ関数として表現したものであり、前記加熱制御規則は、第1制御規則と第2制御規則とを有しており、第1制御規則は、前記特性モデルに基づいて、前記物理量の目標値に対応する出力指令値を第1加熱指令値として決定するフィードフォワード制御則であり、第2制御規則は、前記物理量の前記目標値と前記物理量の実測値とを利用して、前記物理量を前記目標値に追従させる出力指令値を第2加熱指令値として決定するフィードバック制御則であり、前記加熱指令値生成出力手段は、前記第1加熱指令値と、前記第2加熱指令値とを加算して得られる値を前記加熱指令値として前記加熱手段に出力することを特徴とする。
【0009】
請求項3の基板熱処理装置は、基板の熱処理を行う装置であって、(a)前記基板を加熱する加熱手段と、(b)前記基板の熱状態を反映する所定の物理量につき、前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階での各時刻における前記物理量の目標値を表す目標値曲線を生成する目標値生成手段と、(c)前記基板の加熱に対する前記物理量の応答特性を表現した特性モデルを記憶しておく特性モデル記憶手段と、(d)前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階のそれぞれにおいて、固有の加熱制御規則に基づいて前記基板の加熱指令値を生成し、前記加熱指令値を前記加熱手段に出力する加熱指令値生成手段と、を備え、前記加熱制御規則は、少なくとも、基板の温度に関するどの種類の物理量を基礎として加熱制御を行うかにおいて、前記熱処理シーケンスの前記複数の段階で相互に異なるように定められるものであるとともに、第1制御規則と第2制御規則とを有しており、第1制御規則は、前記特性モデルに基づいて、前記物理量の目標値に対応する出力指令値を第1加熱指令値として決定するフィードフォワード制御則であり、第2制御規則は、前記物理量の前記目標値と前記物理量の実測値とを利用して、前記物理量を前記目標値に追従させる出力指令値を第2加熱指令値として決定するフィードバック制御則であり、前記加熱指令値生成出力手段は、前記第1加熱指令値と、前記第2加熱指令値とを加算して得られる値を前記加熱指令値として前記加熱手段に出力することを特徴とする。
【0010】
請求項4の基板熱処理装置は、請求項1ないし請求項3のいずれかの装置において、前記物理量の前記特性モデルは、前記加熱手段への出力指令値に対する温度の特性モデルと、前記加熱手段への出力指令値に対する温度変化率の特性モデルとの少なくとも一方の特性モデルを有することを特徴とする。
【0012】
請求項5の基板熱処理装置は、請求項1ないし請求項4のいずれかの装置において、前記熱処理シーケンスは、前記基板につき、1)所定の目標維持温度への昇温段階と、2)目標維持温度での温度維持段階と、3)目標維持温度からの降温段階とを含み、前記昇温段階において、1-1)前記第1制御規則は、現在の目標昇温速度に対応する出力指令値を第1加熱指令値として生成し、1-2)前記第2制御規則は、現在の前記目標昇温速度に対応する出力指令値と実測昇温速度に対応する出力指令値との偏差を第2加熱指令値として生成し、前記温度維持段階において、2-1)前記第1制御規則は、現在の目標温度に対応する出力指令値を第1加熱指令値として生成し、2-2)前記第2制御規則は、現在の前記目標温度に対応する出力指令値と実測温度に対応する出力指令値との偏差を第2加熱指令値として生成し、前記降温段階において、3-1)前記第1制御規則は、ゼロを第1加熱指令値として生成し、3-2)前記第2制御規則は、現在の前記目標温度に対応する出力指令値と実測温度に対応する出力指令値との偏差が正であるときに当該偏差の値を第2加熱指令値として生成することを特徴とする。
【0013】
請求項6の基板熱処理装置は、請求項5の装置において、前記昇温段階における前記第1制御規則に基づく第1加熱指令値が下降して、前記温度維持段階における第1加熱指令値よりも小さくなった場合には、前記昇温段階における前記第1加熱指令値を、前記温度維持段階における第1加熱指令値と同一の値にすることを特徴とする。
【0014】
請求項7の基板熱処理装置は、請求項5または請求項6の装置において、前記加熱指令値生成出力手段は、(d-1)前記複数の段階のそれぞれにつき、前記第2制御規則に含まれている所定の物理量の目標値と実測値との偏差を前件部に取り入れたファジィ推論を行い、前記ファジィ推論の演算出力を利用して前記第2加熱指令値を生成するファジィ演算手段、を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項8の基板熱処理装置は、請求項7の装置において、前記昇温段階においては、前記ファジィ推論の前件部に含ませる前記偏差は、現在の目標昇温速度と実測昇温速度との偏差であることを特徴とする。
【0016】
請求項9の基板熱処理装置は、請求項7の装置において、前記温度維持段階においては、前記ファジィ推論の前件部に含ませる前記偏差は、現在の目標温度と実測温度との偏差であることを特徴とする。
【0017】
請求項10の基板熱処理装置は、請求項7の装置において、前記降温段階においては、前記ファジィ推論の前件部に含ませる前記偏差は、現在の目標温度と実測温度との偏差であることを特徴とする。
【0018】
請求項11の基板熱処理装置は、請求項7ないし請求項10のいずれかの装置において、前記第2制御規則は、前記加熱制御規則に含まれている前記物理量の目標値に対応する出力指令値と前記物理量の実測値に対応する出力指令値との偏差にファジィ推論で得られる修正係数を乗じた値を前記偏差に加算して第2加熱指令値として決定するものであることを特徴とする。
【0019】
請求項12の基板熱処理装置は、請求項7ないし請求項10のいずれかの装置において、前記第2制御規則は、前記加熱制御規則に含まれている前記物理量の目標値と前記物理量の実測値との偏差に係数を乗じた値を第2加熱指令値として決定するにあたって、前記係数をファジィ推論によって変更することを特徴とする。
【0020】
請求項13の基板熱処理装置は、請求項7ないし請求項10のいずれかの装置において、前記加熱制御規則に含まれている前記物理量の目標値に対応する出力指令値と前記物理量の実測値に対応する出力指令値との偏差にファジィ推論で得られる修正係数を乗じた値を前記偏差に加算した値を修正後偏差と呼ぶとき、前記第2制御規則は、所定の時刻までの各時刻における前記修正後偏差を積算した値と、前記所定の時刻における修正後偏差とを加えた値を、前記所定の時刻における第2加熱指令値として決定することを特徴とする。
【0021】
請求項14の基板熱処理装置は、請求項5ないし請求項13のいずれかの装置において、前記目標値生成手段は、(b-1)前記昇温段階における目標温度の経時変化を表現した直線または折れ線を保持する手段と、(b-2)前記直線または前記折れ線をなめらかな曲線に変換する変換手段と、をさらに有し、前記変換手段は、ファジィ推論を用いた補間によって変換を行うことを特徴とする。
【0022】
請求項15の基板熱処理装置は、請求項5ないし請求項14のいずれかの装置において、前記昇温段階における目標温度曲線の初期温度は、昇温段階開始直前の測定温度であることを特徴とする。
【0023】
【発明の実施の形態】
<A.装置>
図1は、本実施形態に係る熱処理装置1の概要構成を示す縦断面図である。熱処理装置1は、ランプアニール装置として構成されており、基板の温度を高速に昇降させるRTP(Rapid Thermal Processing)に用いられ得る。熱処理装置1は、基板Wを収容するチャンバ10と、基板Wを支持する基板支持部20と、基板Wを加熱する基板加熱部30と、基板Wの温度を測定する温度測定部40と、基板加熱部30に対する加熱指令値を生成して出力する加熱指令値生成出力部50とを備えている。
【0024】
チャンバ10には、水路12および水路14が設けられている。水路12、14に冷却水を流すことによって、基板加熱部30の加熱によるチャンバ10の温度上昇を抑制している。
【0025】
基板支持部20は、基板Wを支持する支持リング22と、支持リング22を支える支持柱24とを有する。支持柱24は、その下部にモータ、ギア機構、マグネットなどを有する回転駆動機構26を有しており、軸AX1を中心に回転することができる。また、支持リング22については基板Wの大きさに応じた種類のものを設けることによって、複数の大きさの基板を支持することができる。
【0026】
基板加熱部30は、光を出射する複数のランプ32を備えており、ランプ32によって基板が加熱される。
【0027】
また、温度測定部40は、基板の下方において固定された放射温度計42を備えている。放射温度計42によって、基板Wの所定位置における温度を測定する。なお、基板Wは上記のように軸AX1を中心に回転するので、1つの放射温度計42によって同心円上の複数の測定点における基板の温度が測定され得る。複数のの放射温度計を設けて、また、基板の温度を経時的に測定することによって、温度変化率をも算出することができる。
【0028】
加熱指令値生成出力部50は、温度測定部40による測定結果に基づいて基板加熱部30のランプ32に対する加熱指令値を生成して、加熱指令値をランプ32に出力する。これによって、基板の温度などの被制御量を目標値に追従させるように最適な制御を行う。
【0029】
<B.制御概要>
図2は、制御部100の概要図を表す。制御部100は、温度測定部40と加熱指令値生成出力部50と特性モデル記憶部60と目標値生成部70とを有している。
【0030】
目標値生成部70は、被制御量に関する時系列の目標値曲線、すなわち、基板の熱状態を反映する所定の物理量(ここでは、基板温度および基板温度変化率)に関する時系列の目標値曲線(図3および図4参照)を生成する。そして、加熱指令値生成出力部50は、被制御量を目標値に追従させるように、基板加熱部30に対する加熱指令値を生成して、基板加熱部30に出力する。この際、加熱指令値生成出力部50は、温度測定部40においてリアルタイムに測定される基板温度などの被制御量の実測値、ならびに特性モデル記憶部60において記憶されている基板温度と基板温度変化率とに関する「特性モデル」(一般には、基板の熱状態を反映する物理量について、基板の加熱に対する応答特性を表現した特性モデル)を考慮して、加熱指令値を決定する。
【0031】
以下では、まず目標値の生成について説明した後、その目標値に追従させるための制御について詳述する。
【0032】
<C.目標温度曲線、目標温度変化率曲線>
基板の熱処理シーケンスは、「昇温段階」、「温度維持段階」、「降温段階」の、連続する3つの段階を有する。ここで、昇温段階とは、基板が熱処理装置1内に搬入された後、ランプの加熱により基板の温度を上昇させる段階をいう。また、温度維持段階とは、基板の温度が熱処理に適した所定の温度(「目標維持温度」)に到達した後、基板の温度を一定に維持する段階をいう。さらに、降温段階とは、基板の温度をそれよりも低い他の温度に至るまで下降させる段階をいう。
【0033】
この実施形態の装置の目標値生成部70は、基板の熱処理シーケンスのこのような複数の段階について、この発明における「目標値曲線」として、基板の「目標温度曲線」と「目標温度変化率曲線」とを生成する。
【0034】
図3はこのうちの目標温度曲線の例を表しており、横軸が時間t、縦軸が目標温度Tである。また、目標温度変化率曲線は図3のような目標温度の経時的変化を達成するための温度の変化率の経時変化であり、その例が図4に示されている。なお、この明細書では、狭義の曲線だけででなく、折れ線もまた「曲線」と呼ぶ。また、曲線は「不連続曲線」と「連続曲線」とに分類され、さらに「連続曲線」は「なめらかな曲線」とそれ以外のものとに分類される。「連続曲線」とは、不連続点が存在しない曲線を意味し、「なめらかな曲線」とは、連続曲線であって、かつ、その曲線の各時刻における変化率を表す変化率曲線もまた連続曲線となるような曲線を意味する。
【0035】
図3および図4においては、昇温段階は、時刻t0から時刻t10に至るまでの段階である。同様に、温度維持段階は、時刻t10から時刻t20に至るまでの段階であり、降温段階は、時刻t20から時刻t30に至るまでの段階である。
【0036】
また、後述するように、加熱指令値生成出力部50は、これらの目標値曲線にで規定される各時点の目標値を利用して、基板の熱処理シーケンスの複数の段階のそれぞれにおいて、固有の加熱制御規則に基づいて、基板加熱部30に対して出力する加熱指令値を生成する。
【0037】
<曲線補間>
図5は、図3における昇温段階に相当する部分を拡大した図である。昇温段階では、初期温度T0から温度T1に至るまで基板の温度を上昇させる。ここで、温度T0は、昇温段階開始直前の基板の測定値であり、温度T1は目標維持温度である。昇温速度の値VAは、初期温度T0から温度T1に至るまでの目標温度変化率(目標昇温速度)の最大値であり、あらかじめ設定された値である。なお、温度変化率は、時間−温度曲線においては、その曲線の各時刻における接線の傾きとして表現される。
【0038】
ここで、あらかじめ設定された昇温速度VAを用いれば、温度T0と温度T1との間を傾きVAの直線で接続することによって、目標温度曲線を描くことができる。しかしながら、この場合には、昇温段階の開始時と昇温段階から温度維持段階への移行時とにおいて目標温度変化率が不連続に変化するため、制御時の追従特性が悪化するという問題がある。
【0039】
したがって、昇温段階の開始後の所定の期間と、温度維持段階への移行直前の所定の期間とにおいては、その間の目標温度曲線をなめらかな曲線とすることが望ましい。たとえば、時刻t0から時刻t2に至るまでの間は、目標温度の変化率、つまり昇温温度をゼロから値VAに至るまで徐々に変化させることによって、目標温度曲線を図に示すようになめらかな曲線とすることができる。そして、時刻t2から時刻t4に至るまでは傾きVAの直線とし、さらに時刻t4から時刻t10に至るまでは、昇温温度を値VAからゼロに至るまで徐々に変化させることによって、目標温度曲線を図3および図5に示すようになめらかな曲線とすることができる。
【0040】
なお、図4においては、時刻t0から時刻t2に至るまでの目標温度変化率曲線は簡単のため直線で図示されているが、曲線補間の方法によっては直線にならない場合もある。時刻t4から時刻t10までなどについても同様である。
【0041】
図3に示されるような目標温度曲線を描くためには、放物線や指数関数を用いた補間処理などが考えられるが、以下では、ファジィ推論を用いた補間処理を示す。
【0042】
時刻t0から時刻t2に至るまでの補間について説明する。時刻t0から時刻t2に至るまでを値VAよりも小さな値の傾きの直線(図5において点線で示される直線)で結ぶ。なお、この間の経時変化を表す直線は目標値生成部70内の保持部72(図2参照)によって保持される。そして、この間の各時刻において所定値だけ下にずらすことにより、この直線をなめらかな曲線に変換する。この変換は目標値生成部70内の変換部74(図2)によって行われる。ここにおいて、ファジィ推論を用いて各時刻における所定値を求めることによりなめらかな曲線を補間曲線として求める。
【0043】
図6は、補間処理に用いられるファジィ推論の前件部および後件部のメンバーシップ関数を示す。前件部のメンバーシップ関数は、目標温度の高低を表している。ここで、横軸は「目標温度」の規格値を表している。すなわち、横軸の値は、温度T0の時には−1となり、温度T3の時には+1となる。また、縦軸は「度合」を表している。
【0044】
後件部のメンバーシップ関数は、ずれ量を表している。横軸は、ずれ量の規格値を表しており、横軸の値が−1の時、下向き(負の向き)にずれ量が最大となる。
【0045】
たとえば、図6(a)〜(e)においては、次のようなファジィルールRa〜Reの前件部および後件部のメンバーシップ関数がそれぞれ示されている。
【0046】
(Ra):「温度が基準値よりかなり低いときには、ほとんどずらさない」
(Rb):「温度が基準値より少し低いときには、少しずらす」
(Rc):「温度が基準値程度のときには、大きくずらす」
(Rd):「温度が基準値より少し高いときには、少しずらす」
(Re):「温度が基準値よりかなり高いときには、ほとんどずらさない」
なお、基準値とは、温度T0と温度T3との中間温度T5=(T0+T3)/2を意味する。
【0047】
これらのファジィルールを適用し、重み付けによりその結果を加算することによって、各時刻におけるずれ量を決定することができる。このずれ量を時刻t0から時刻t2に至るまでの各時刻において、図5において点線で示される直線で示される値に加算することによって、各時刻の目標温度を決定して目標値曲線を得ることができる。
【0048】
また、同様にして、時刻t4から時刻t10に至るまでについても、各時刻の目標温度を決定することができる。この場合には、ずれる方向が逆になるが、後件部のメンバーシップ関数を変更するか、あるいは、ずれ量の符号を逆向きにすることによって対応できる。
【0049】
このようにして、時刻t0から時刻t10に至るまでの各時刻における目標温度の目標値を表す目標値曲線をなめらかな曲線として得ることができる。ここにおいて、保持部72(図2)は、時刻t0から時刻t10に至る間において3本の異なる傾きの直線を有する「折れ線」(図5参照)を保持し、変換部74(図2)は、この折れ線をファジィ推論を用いた補間によってなめらかな曲線に変換する。
【0050】
なお、上記においては、3本の「折れ線」を基準にしてなめらかな曲線を求める場合を例示したが、1本の直線を基準にしてなめらかな曲線を求めることも可能である。この場合も、適当なメンバーシップ関数によるファジィ推論を用いた補間によって変換することができる。
【0051】
さらに、降温段階においても同様にして曲線補間により目標温度曲線および目標変化率曲線を求めることができる。
【0052】
なお、上記において、初期温度T0は、昇温段階開始直前の実測温度である。温度T0をあらかじめ決められた固定値であるとして、昇温段階開始直前の温度に依存することなく、目標温度曲線を描くことも可能である。しかしながら、その場合には、実際の温度がその固定値よりも高い場合には、不必要に昇温段階の時間が長くなり、またその逆の場合には、制御時に大きなオーバーシュートが発生して追従性能が悪化するなどという問題がある。初期温度T0を昇温段階開始直前の測定温度に応じて変更することによって、実際の測定温度に対応した最適な目標温度曲線を描くことができるので、これらの問題を回避することができる。
【0053】
上記のようにして、目標値生成部70において目標温度曲線および目標温度変化率曲線が生成され、それらが目標値生成部70内の記憶部または他の記憶部において記憶されて、必要に応じて取り出される。
【0054】
<D.加熱制御規則>
加熱指令値生成出力部50は、第1の制御規則および第2の制御規則の両制御則を用いた加熱制御規則によって加熱指令値を生成し、基板の温度制御を行う。図7は、本制御系の制御ブロック図を表す。なお、下記の加熱指令値の生成にあたっては、上記の「特性モデル」として、基板加熱部30への出力指令値に対する温度の特性モデル(図8)と、基板加熱部30への出力指令値に対する温度変化率の特性モデル(図9)との少なくとも一方を用いて行われる。以下、これらの図を参照しながら、第1制御規則および第2制御規則について順次説明する。
【0055】
<第1制御規則>
第1の制御規則は、フィードフォワード制御則(オープンループ制御則)に相当する。以下、「フィードフォワード」を「FF」とも略記する。フィードフォワード制御を行うためには被制御系の応答特性を表現した特性モデルが必要となるが、ここではランプ32の出力指令値に対する基板の温度および基板温度変化率の特性モデルを使用する。このような特性モデルは、種々の出力指令値をランプ32に出力したときの基板温度および基板温度変化率を試料基板について事前にデータとして収集し、これらのデータを特性モデル記憶部60にデータベースとして保存しておくことによって得ることができる。この特性モデルを使用したフィードフォワード制御は、図7のFF補償器C1によって行われる。
【0056】
図8は、基板温度に関する特性モデルすなわちランプの出力指令値と基板の温度との関係を表す図であり、横軸はランプ32への出力指令値を正規化して表しており、縦軸は基板の到達温度を表している。また、図9は、基板昇温速度に関する特性モデルすなわちランプの出力指令値と基板の温度変化率(昇温速度)との関係を表す図であって、横軸はランプの出力指令値を正規化して表しており、縦軸は昇温速度を表している。
【0057】
これらの図で示される特性モデルを利用して、所望の目標値になるようなランプの出力指令値を決定するが、これは、図8および図9に表される曲線の特性モデルの逆関数を求め、それによって各時点における温度や温度変化率などの物理量の目標値に対して、どのような出力指令値を生成すればよいかを決定することに相当する。そして、この出力指令値を第1加熱指令値YAとする。モデル化誤差および外乱が存在しない場合には、この第1加熱指令値YAのみによって所望の目標温度および目標温度変化率が達成され得る。
【0058】
なお、図7においては、FF補償器C1およびFB補償器C2が点線で特性モデル記憶部60と接続されているが、これは、これらの補償器C1、C2における出力指令値の決定は、特性モデル記憶部60内の特性モデルを利用して行われることを示している。
【0059】
<第2制御規則>
第2の制御規則は、フィードバック制御則(クローズドループ制御則)に相当するものであり、図7のFB補償器C2がこの規則による制御を行う。以下、「フィードバック」を「FB」とも略記する。具体的には、基板温度および基板温度変化率につき、上記の特性モデルを利用して、その時点での目標値に対応する出力指令値と、その時点における実測値に対応する出力指令値とを特定し、それらの偏差を求めてそれを第2加熱指令値YBとして生成する。フィードバック補償を行うことによって、外乱などがあっても基板の温度や温度変化率についての物理量を目標値に追従させることができる。
【0060】
ここで、出力指令値の決定は、通常のPID調節器を有するフィードバック制御系のように目標値と実測値との誤差にPID動作の各係数パラメータを掛けて出力を決定するのではないことに注意すべきである。PIDパラメータを決定する必要がないため、それらのパラメータ決定のための複雑な調整は不要になる。
【0061】
また、第2加熱指令値YBの決定にあたっては、後に説明するように、ファジィ推論を用いた修正などによって、さらに修正された値を第2加熱指令値YBとすることが好ましい。
【0062】
そして、このようなFB制御則による第2加熱指令値YBと、FF制御則による第1加熱指令値YAとを数1のように加算したものを加熱指令値YCとし、この加熱指令値YCに基づいてランプ32への出力指令値を決定する。
【0063】
【数1】
【0064】
<各段階における加熱制御規則>
加熱指令値生成出力部50はこのような第1および第2制御規則を利用して加熱制御を行うが、これら2つの制御規則の利用態様は基板の熱処理シーケンスの各段階で異なったものとなっている。特に、少なくとも基板の温度に関するどの種類の物理量を基礎として加熱制御を行うかにおいて、熱処理シーケンスの各段階で、以下のように固有の加熱制御規則が使用される。すなわち、
▲1▼昇温段階では、第1および第2制御規則の両方において基板温度の昇温速度(温度変化率)を基礎として加熱制御を行い、
▲2▼温度維持段階では、第1および第2制御規則の両方において基板温度を基礎として加熱制御を行い、
▲3▼降温段階では、第2制御規則においてのみ基板温度を基礎として加熱制御を行うものである。
【0065】
以下、分説する。
【0066】
<昇温段階>
この段階においては、第1制御規則は、各時刻において、現在の目標昇温速度に対応する出力指令値を算出する。たとえば、所定の時刻において昇温速度の目標値が100(℃/秒)である場合には、図9のグラフより0.38という値が導かれる。この値は、規格化された値であり、規格値1が50(kw)に相当すると仮定すると、規格値0.38には19(kw)が対応する。この出力指令値の19(kw)がFF制御則による第1加熱出力値YAとして算出される。
【0067】
図11は、昇温段階における第1加熱出力値YAを表すグラフである。昇温速度の目標値は、時刻t0から時刻t2に至るまで徐々に増大して、時刻t2で最大昇温速度VAになり、時刻t4まで値VAが維持される(図4参照)。したがって、第1加熱出力値YAも、目標昇温速度の変化に伴って、図11に示すように、値Y0から値Y1へと徐々に増大し、時刻t2から時刻t4までは、一定値Y1となる。値Y1は、昇温速度VAに対応する出力指令値であり、値Y0は、時刻t0における目標昇温速度(図4においてはゼロ)に対応する出力指令値であり、図11においてはゼロである。このように昇温段階における第1加熱指令値YAがとり得る値の範囲は、ゼロからY1までである。
【0068】
このように、昇温段階においては、原則として、各時刻における目標昇温速度に対応する出力指令値を第1加熱指令値として算出する。しかしながら、この原則にしたがって出力値を決定すると、時刻t4以降の目標昇温速度の下降に伴って対応する出力指令値も下降し、時刻t10においてY0=0となるので、温度維持段階に移行した際に第1加熱指令値の不連続性が顕著となる。この場合の出力指令値は、図中において二点破線L0で示されている。
【0069】
そこで、次のような例外的な方法で第1加熱指令値を決定して、不連続性を回避することが好ましい。すなわち、昇温段階における時刻t6以降については、次の温度維持段階における目標温度に対応する出力指令値Y2を第1制御規則による出力指令値として決定するのである。ここで、時刻t6は、上記原則に基づいて算出される出力指令値が下降して、次の温度維持段階(時刻t10以降)における目標温度に対応する出力指令値Y2と同一となる時刻であり、時刻t6以降においては、上記原則に基づいて算出された第1加熱指令値は出力指令値Y2よりも小さくなる。ここにおいて、この時刻t6から時刻t10に至る期間における第1加熱指令値を、温度維持段階における第1加熱指令値である出力指令値Y2と同一の値とするという例外的な方法で決定する。図11には、この場合の第1加熱指令値が実線L1で示されている。
【0070】
一方、第2制御規則は、各時刻において、現在の目標昇温速度に対応する出力指令値と現在の実測昇温速度に対応する出力指令値との偏差YB0を第2加熱指令値として算出する。たとえば、基板の温度変化率の実測値が80(℃/秒)である場合には、図9から規格値0.36が導かれ、出力指令値は18(kw)となる。この場合、目標昇温速度に対応する出力指令値の19(kw)と実測昇温速度に対応する出力指令値の18(kw)との偏差YB0である1(kw)が算出される。
【0071】
この偏差YB0をそのまま第2加熱指令値YBとすることもできる。これにより、モデル化誤差などが存在する場合にあっても、被制御量を所望の目標値に対してさらに高精度に追従させることが可能になる。
【0072】
しかしながら、ここでは、さらに高精度の制御を行うためこの値YB0に修正を加えていく。
【0073】
図10は、図7のFB補償器C2に相当する部分をさらに詳細に示した機能ブロック図である。上記の値YB0は、補償器C21によって算出される。そして、算出されたこの値YB0に対してファジィ推論に基づく修正を加える。すなわち、偏差YB0にファジィ推論に基づく修正係数αを乗じた値を偏差YB0に加算した値をYB1とする。このとき値YB1は、次の数2または数3で表される。
【0074】
【数2】
【0075】
【数3】
【0076】
ここで、ファジィ推論に基づくこの修正係数αの求め方について説明する。
【0077】
例として、偏差e1と偏差e2とを前件部に取り入れたファジィルールを用いて行う場合を説明する。ここで、偏差e1は、目標温度に対応する出力指令値と実測温度に対応する出力指令値との偏差であり、偏差e2は、目標昇温速度に対応する出力指令値と実測昇温速度に対応する出力指令値との偏差である。
【0078】
ファジィルールとして、次の3つのルールを用いる。
【0079】
(ルール1):e1が正、かつ、e2が正で大きいとき、出力を増やす。
【0080】
(ルール2):e1が約0、かつ、e2も約0のとき、出力を維持する。
【0081】
(ルール3):e1が正、かつ、e2が負で大きいとき、出力を減らす。
【0082】
ここで、e1、およびe2の値は正規化されているが、実際には適宜の値を表すようにスケーリングすることができる。
【0083】
図12(a)は、ルール1の前件部および後件部のメンバーシップ関数を表す。図12(a)において、左側の2つのグラフは前件部のメンバーシップ関数を表し、右側のグラフは後件部のメンバーシップ関数を表す。同様に、図12(b)および図12(c)は、それぞれ、ルール2およびルール3の前件部および後件部のメンバーシップ関数を表す。
【0084】
これらの図を用いて、「max−min重心法」でファジィ演算を行う。ここでは、ある時刻における偏差e1および偏差e2がそれぞれ、e1=0.4、e2=−0.2である場合を想定する。
【0085】
まず、ルール1に基づく前件部の度合を決定する。e1=0.4のときメンバーシップ関数a11より度合は+0.8となる。また、e2=−0.2のときメンバーシップ関数a12より度合は0となる。したがって、小さい方の値をとって、「度合」の合成結果は、ゼロとなる。
【0086】
つぎに、ルール2に基づく前件部の度合を決定する。e1=0.4のときメンバーシップ関数a21より度合は+0.2となる。また、e2=−0.2のときメンバーシップ関数a22より度合は0.6となる。したがって、小さい方の値をとって、「度合」の合成結果は、0.2となる。
【0087】
そして、ルール3に基づく前件部の度合を決定する。e1=0.4のときメンバーシップ関数a31より度合は+0.8となる。また、e2=−0.2のときメンバーシップ関数a32より度合は0.4となる。したがって、小さい方の値をとって、「度合」の合成結果は、0.4となる。
【0088】
つぎに、各ルールの後件部のメンバーシップ関数を、各ルールにおける「度合」の合成結果の値を表す直線で切断して形成される台形部分の面積を重ね合わせる。重ね合わせられた図形の重心を各ルールに対する重み付けを考慮して求める。なお、たとえば、この重み付けにおける重みwは各ルールに対して次のように設定することができる。
【0089】
▲1▼ルール1については:w=0.5
▲2▼ルール2については:w=1.0
▲3▼ルール3については:w=0.5
図13は、各ルールに基づく台形部分の図形を重ね合わせて合成図形の重心を求めることによって、後件部の結果を得ることについて説明した図である。ルール2に対応する台形D2とルール3に対応する台形D3との図形の重心を重み付けを考慮して求める。この場合には、−0.25が結果として得られる。この値が修正係数αとなる。したがって、この修正係数αを用いれば、上述の数2に基づいて値YB1が算出される。以上のような修正動作は補償器C22(図10参照)により行われる。なお、この補償器C22は、本発明における「ファジィ演算手段」に相当する。
【0090】
この値YB1を第2加熱指令値YBとすることができる。この場合、ファジィ推論に基づく修正を加えることによって、オーバーシュートを抑制するなどの効果が得られる。
【0091】
しかしながら、さらに高精度の制御を行うため、この値YB1にさらに修正を加えた値を第2加熱指令値YBとすることが好ましい。ここでは、各時刻におけるYB1の値を時間に関して積算した蓄積値YB2を算出して、さらに値YB1に加算した値を第2加熱指令値YBとすることが望ましい。値YB2は次式で表される。
【0092】
【数4】
【0093】
なお、tは、時刻t0から現在時刻までの各時刻を表し、これらの各時刻におけるYB1(t)を合算することによりYB2を求めることができる。また、ここでは、値YB1が時間tの関数であることを強調して示すためYB1(t)と明記するが、時間の関数であることを明記していない他の値、たとえば、YA、YB、YC、YB0、YB2も同様に時間の関数である。
【0094】
この値YB2は、フィードバック制御のPID動作におけるI(積分)動作に相当するものである。値YB2を加えることによって、オフセットの発生を防止して追従性能を向上させることができる。この値YB2は、補償器C23(図10参照)において生成される。
【0095】
ここで、第2加熱指令値YBについてまとめると、値YBは次式で表される。
【0096】
【数5】
【0097】
また、各時刻における加熱指令値YCは、数1に示されるように、第1加熱指令値YAと第2加熱指令値YBとを加算した値である。この加熱指令値YCに基づいて加熱することによって、昇温段階における目標温度および目標昇温速度に高精度に追従する制御を実現することができる。
【0098】
<温度維持段階>
この段階においては、第1制御規則は、目標温度に対応する出力指令値を算出する。なお、温度維持段階においては目標温度は一定の値であるので、第1加熱出力値YAも温度維持段階において一定の値Y2(図11参照)となる。
【0099】
たとえば、目標温度T1(図3参照)を1000℃とする場合について考える。図8より、温度維持段階における基板の目標温度を1000(℃)に到達させるためには、0.36という値が導かれる。この値は、規格化された値であり、たとえば、規格値1が50(kw)に相当する場合には、規格値0.36には出力指令値18(kw)が対応する。したがって、この場合、FF制御則による第1加熱出力値YAとして18(kw)が出力される。
【0100】
また、第2制御規則は、基板の温度を被制御量とし、各時刻における目標温度に対応する出力指令値と実測温度に対応する出力指令値との偏差YB0を第2加熱指令値YBとして算出する。
【0101】
たとえば、実測値が900(℃)である場合には、図8から規格値0.3が導かれ、出力指令値は15(kw)となる。この場合、目標温度に対応する出力指令値の18(kw)と実測温度に対応する出力指令値の15(kw)との偏差YB0である3(kw)が第2加熱指令値YBとなる。
【0102】
この第2加熱指令値YBを第1加熱指令値YAと合算して加熱指令値とすることもできる。しかしながら、昇温段階と同様、偏差YB0をそのまま第2加熱指令値YBとはせずに、偏差YB0に対してファジィ推論に基づく修正を加えることが好ましい。すなわち、偏差YB0にファジィ推論に基づく修正係数αを積算した値と偏差YB0とを加算した値をYB1とすることが好ましい。この温度維持段階で用いるファジィ推論は、たとえば、前件部に偏差e1のみ、つまり、目標温度に対応する出力指令値と実測温度に対応する出力指令値との偏差のみを用いたルールに基づいて行うことができる。これによって、ハンチングを防止して速応性を改善することなどが期待できる。
【0103】
また、第2加熱指令YBに対して、さらに、各時刻におけるYB1を時間に関して合算した蓄積値YB2を加算することが望ましい。値YB2は数4と同様にして求められる。なお、tに関しては、時刻t0から現在時刻までのYB1(t)を合算することによりYB2を求めてもよいが、温度維持段階の開始時刻である時刻t10から現在時刻までのYB1(t)を合算することによって、YB2を求めることもできる。
【0104】
この値YB2は、フィードバック制御のPID動作におけるI(積分)動作に相当するものである。たとえば、目標値に対応する出力指令値が、実測値に対応する出力指令値を上回っていることが多い場合には、この積算値YB2は正の値になる。目標値に近づけるような値YB2をさらに加算した値を第2加熱指令値YBとすることによって、オフセットの発生を抑制することができる。
【0105】
<降温段階>
この段階においては、第1制御規則に基づく第1加熱指令値は、常にゼロとする。降温段階においては、基板の熱放射による自然冷却によって基板の温度を下降させる。強制冷却を行うことも可能ではあるが、ここでは行わない。したがって、基板の温度を下降させるための最も効果的な出力はゼロである。よって、第1加熱指令値は、ゼロとすることが好ましい。なお、第1加熱指令値をゼロとしても、次の第2制御規則による第2加熱指令値によって、目標降温速度に追従させることができる。
【0106】
第2制御規則は、各時刻における目標温度に対応する出力指令値と実測温度に対応する出力指令値との偏差YB0を算出する。降温速度の絶対値が目標値よりも大きいことにより基板の実測温度が目標温度を下回っている場合に、ランプによる加熱を所定量YB0だけ行うことによって、目標温度に近づけようとするものである。この第2制御規則により、目標の降温速度を達成することができる。なお、降温速度は自然冷却による降温速度を超えることはない。
【0107】
そして、他の段階(例えば、温度維持段階)におけるのと同様に、ファジィ推論を利用した補償器C22と、第2加熱指令値YBを時間に関して合算して出力指令値を補償する補償器C23とによって、値YB0に修正を加えた値を第2加熱指令値YBとして算出する。
【0108】
上記のように、各段階において固有の制御則を切り換えて用いることによって、目標値の変化特性に応じた制御を行うことができる。
【0109】
<E.その他の変形例>
<特性モデルについて>
上記実施形態における「特性モデル」のモデル化誤差については、上記加熱制御規則に基づいて制御を行う場合、多少の誤差は許容され得る。ただし、実際の特性に近ければ近いほど好ましい。
【0110】
基板の温度特性は、基板の大きさおよび基板上に形成される薄膜構造の種類などの条件によって異なる。したがって、特性モデルを生成する際は、実際の熱処理が行われるのと同一の条件で、同一の試料基板を用いて事前の測定を行うことが好ましい。また、同一の熱処理装置においては、異なる条件下で基板の熱処理が行われる。この場合には、それぞれの条件下での基板温度などの物理量の特性をあらかじめ測定することによって、それぞれの条件に適した「特性モデル」を準備しておくことが好ましい。そして、実際に処理を行う際に、その処理に適した「特性モデル」を選択して上記加熱制御規則を適用することによって、さらに高精度の制御を行うことが可能になる。なお、処理に適した「特性モデル」は、オペレータが手動で選択することもできるし、制御部100が自動的に判断して選択するようにすることも可能である。
【0111】
<ファジィ推論の利用による特性モデルのデータベース化>
上記実施形態においては、図8および図9に示される「特性モデル」は、複数の測定点の相互間を直線で補間していたが、これに限定されない。より高次の近似曲線で補間することも可能である。また、ファジィ推論を用いて補間することも可能である。
【0112】
温度と出力指令値との関係をファジィ推論を用いて補間する場合の例について説明する。図14は、ファジィ推論に用いられる複数のファジィルールにおける前件部および後件部のメンバーシップ関数の一例を示す図である。図14(a)〜(e)のそれぞれは各ファジィルールに対応し、各ルールにおいて左側のグラフは前件部のメンバーシップ関数を表し、右側のグラフは後件部のメンバーシップ関数を表す。前件部のファジィラベル(横軸)の−1〜+1は0℃〜1300℃に対応し、後件部のファジィラベル(横軸)の−1〜+1は0〜50(KW)に対応する。
【0113】
また、温度変化率(昇温速度)と出力指令値との関係をファジィ推論を用いて補間することも可能である。図15は、そのような場合の各ファジィルールにおける前件部および後件部のメンバーシップ関数の一例を示す図である。図15(a)〜(e)のそれぞれは各ファジィルールに対応し、各ルールにおいて左側のグラフは前件部のメンバーシップ関数を表し、右側のグラフは後件部のメンバーシップ関数を表す。前件部のファジィラベル(横軸)の−1〜+1は0℃〜310(℃/秒)に対応し、後件部のファジィラベル(横軸)の−1〜+1は0〜50(KW)に対応する。
【0114】
上記の各ファジィルールは、事前の測定によって得られた複数の測定データによって構築することができる。つまり、複数の測定点における測定結果をファジィルールの前件部および後件部のメンバーシップ関数として表現することにより、出力指令値と基板の温度との関係、および出力指令値と基板の温度変化率との関係を、ファジィルールとして表現してデータベース化することができる。データベース化されたファジィルールを用いてファジィ推論を行うことにより、測定データと測定データとの間の非測定点においても補間値をより容易に求めることができる。
【0115】
<ファジィ推論を利用したPID調節器のパラメータ調整>
また、上記実施形態においては、第2加熱指令値YBの決定において、各時刻における目標値に対応する出力指令値と実測値に対応する出力指令値との偏差YB0を基準値として算出したが、これに限定されない。たとえば、PID補償器を用いたFB制御系を構成することもできる。各時刻における目標値と実測値との偏差などにPIDパラメータを乗じることにより、第2加熱指令値を求めるのである。ただし、この場合には、前述したように、PIDパラメータの決定の困難性が問題となる。そこで、ファジィ推論を用いてPIDパラメータを決定すれば、PIDパラメータの決定のために要する手間と時間とを削減することができ、この問題を回避することができる。
【0116】
図16には、基板温度に関する目標値の変化率(目標昇温速度)と実測値の変化率(実測昇温速度)との偏差の大きさに基づいてファジィ推論を用いることにより、PID調節器のPIDパラメータを決定する例を示す。まず、基本となるPIDパラメータを求めておく。この基本PIDパラメータは、温度維持段階において一定の条件で求める。そして、実際の熱処理の各段階において、基本PIDパラメータをファジィルールを用いて修正し、修正したPIDパラメータを用いて第2加熱指令値を生成することにより制御を行う。図16には、その場合のファジィルールR1〜R7が示されている。なお、d(SV)は、目標温度SVの変化率、つまり目標昇温速度を表し、d(PV)は、実測温度PVの変化率、つまり実測昇温速度を表す。また、「操作量」とは、第2加熱指令値を意味する。「Pの修正」、「Iの修正」、「Dの修正」とは、それぞれ、P(比例)動作、I(積分)動作、D(微分)動作における各PIDパラメータの修正を意味する。
【0117】
昇温段階では、ファジィルールR1〜R5によって、積分成分の働きを弱めることによりオーバーシュートが抑制される。また、ルールR1により、目標昇温速度よりも実測昇温速度がかなり大きい場合には、「Pの修正」は、「操作量を小さく」するように行われる。また、逆に、ルールR5により、目標昇温速度よりも実測昇温速度がかなり小さい場合には、「Pの修正」は、「操作量を大きく」するように行われる。
【0118】
温度維持段階では、ルールR6により、基本パラメータを維持するようにPIDパラメータの修正が行われる。
【0119】
また、降温段階では、積分成分の働きを小さくしてオーバーシュートの抑制が図られている。なお、降温段階では、一般に、昇温区間よりも温度変化率の絶対値が小さく、非常に緩やかな降温曲線を描くことが多い。このような場合には、PIDパラメータは温度維持区間と同一とすることも可能である。
【0120】
上記のようなファジィルールR1〜R7に基づくファジィ推論によって、第2加熱指令値を求めることができる。
【0121】
なお、この変形例においては、3つの全ての段階でPIDパラメータをファジィ推論を利用して修正する場合を例示したが、必ずしも、全ての段階に用いる必要はない。たとえば、降温段階および温度維持段階には、上記実施形態の制御則を用いて加熱指令値を決定し、降温段階においてのみ、上記変形例に示した制御則を用いて加熱指令値を決定することも可能である。
【0122】
<ファジィルールの多様性>
上記の加熱制御規則などにおけるファジィ推論の適用にあたっては、そのファジィルールには、様々なルールを採用することが可能である。また、経験則によるルールなどをもファジィルールとして表現することができるので、様々な要因を取り入れた柔軟な制御系を構成することが可能になる。
【0123】
<その他>
上記実施形態においては、ランプアニール装置を例示したが、基板の熱処理を伴う装置であればこれに限定されない。たとえば、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)装置などにも本発明を適用することができる。
【0124】
【発明の効果】
以上のように、請求項1ないし請求項15に記載の基板熱処理装置によれば、目標値生成手段によって、基板の熱状態を反映する所定の物理量につき、基板の熱処理シーケンスの複数の段階での各時刻における物理量の目標値を表す目標値曲線が生成され、特性モデル記憶手段によって、基板の加熱に対する物理量の応答特性を表現した特性モデルが記憶される。さらに、加熱指令値生成出力手段によって、基板の熱処理シーケンスの複数の段階のそれぞれにおいて、固有の加熱制御規則に基づいて、前記基板の加熱指令値が生成される。この加熱指令値生成出力手段は、物理量の目標値に対応する出力指令値として特性モデルに基づいてフィードフォワード制御則により決定される第1加熱指令値と、物理量の目標値と実測値とを利用して物理量を目標値に追従させる出力指令値としてフィードバック制御則により決定される第2加熱指令値と、を加算して得られる値を、加熱指令値として生成し、加熱手段に出力する。したがって、モデル化誤差および外乱などが存在しない場合には、物理量が目標値に特に高精度に追従し、かつ、モデル化誤差および外乱などが存在する場合にあっても、物理量を目標値に精度良く追従させることが可能になる。
【0125】
また、このように種々の条件下での制御性能が高いため、処理条件が変わるごとに複雑な調整をする必要がない。
【0126】
請求項1に記載の基板熱処理装置によれば、第2制御規則は、特性モデルに基づいて、物理量の目標値に対応する出力指令値と物理量の実測値に対応する出力指令値との偏差に対応する値を第2加熱指令値として決定する。したがって、PID調節器のパラメータ調整などが不要であり、調整作業の時間および手間を低減することができる。
【0127】
請求項4に記載の基板熱処理装置によれば、物理量の前記特性モデルは、出力指令値に対する温度の特性モデルと、出力指令値に対する温度変化率の特性モデルとの少なくとも一方の特性モデルを有する。したがって、これらの物理量について目標値に精度良く追従させることができる。
【0128】
請求項2に記載の基板熱処理装置によれば、物理量の前記特性モデルは、複数の測定結果をファジィルールの前件部および後件部のメンバーシップ関数として表現したものである。したがって、測定されていない値についてもファジィ推論を用いて容易に補間値を得ることができる。
【0129】
請求項3、請求項5、および請求項6に記載の基板熱処理装置によれば、加熱制御規則は、少なくとも、基板の温度に関するどの種類の物理量を基礎として加熱制御を行うかにおいて、熱処理シーケンスの複数の段階で相互に異なる。したがって、それぞれの段階の特性に応じた制御を行うことができる。
【0130】
請求項7ないし請求項12に記載の基板熱処理装置によれば、加熱指令値生成出力手段は、複数の段階のそれぞれにつき、第2制御規則に含まれている所定の物理量の目標値と実測値との偏差を前件部に取り入れたファジィ推論を行い、ファジィ推論の演算出力を利用して第2加熱指令値を生成するファジィ演算手段を備える。したがって、より精緻な制御を容易に行うことができる。
【0131】
請求項13に記載の基板熱処理装置によれば、加熱制御規則に含まれている物理量の目標値に対応する出力指令値と実測値に対応する出力指令値との偏差にファジィ推論で得られる修正係数を乗じた値を前記偏差に加算した値を修正後偏差とし、第2制御規則は、所定の時刻までの各時刻における修正後偏差を積算した値と、前記所定の時刻における修正後偏差とを加えた値を、所定の時刻における第2加熱指令値として決定するする。さらに加えられた積算値は、PID動作の積分動作に相当する値であり、特に定常状態においては、目標値と実測値とのオフセットを解消する働きをすることができる。
【0132】
請求項14に記載の基板熱処理装置によれば、ファジィ推論を用いて補間することによって、容易に目標値曲線を生成することができる。
【0133】
請求項15に記載の基板熱処理装置によれば、昇温段階における目標温度曲線は、その初期温度を昇温段階開始直前の測定温度として生成される。したがって、初期温度を所定の固定値として目標値曲線を描く場合に生じる不要な昇温段階の時間がなくなり昇温段階時間の適正化を図ることができ、また目標値と実測値とのずれに基づく大きなオーバーシュートが発生して追従性能が悪化することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る熱処理装置1の概要構成を示す縦断面図である。
【図2】制御部100の概要図を表す図である。
【図3】目標温度曲線を表す図である。
【図4】目標温度変化率曲線を表す図である。
【図5】図3の昇温段階に相当する部分を拡大した図である。
【図6】補間処理に用いられるファジィ推論の前件部および後件部のメンバーシップ関数を示す図である。
【図7】制御系の制御ブロック図を表す図である。
【図8】基板温度に関する特性モデルを表す図である。
【図9】基板温度変化率(昇温速度)に関する特性モデルを表す図である。
【図10】図7のFB補償器C2に相当する部分をさらに詳細に示した機能ブロック図である。
【図11】昇温段階における第1加熱出力値YAを表す図である。
【図12】各ファジィルールの前件部および後件部のメンバーシップ関数を表す図である。
【図13】各ファジィルールの組合せによる、後件部の合成結果について説明する図である。
【図14】目標温度曲線をファジィ推論を用いて補間する場合に用いられる、各ファジィルールにおける前件部および後件部のメンバーシップ関数を示す図である。
【図15】目標昇温曲線をファジィ推論を用いて補間する場合に用いられる、各ファジィルールにおける前件部および後件部のメンバーシップ関数を示す図である。
【図16】温度変化率の目標値と実測値との偏差の大きさに基づいてPIDパラメータを修正する場合について説明する図である。
【符号の説明】
1 熱処理装置
10 チャンバ
20 基板支持部
30 基板加熱部
40 温度測定部
50 加熱指令値生成出力部
60 特性モデル記憶部
70 目標値生成部
100 制御部
W 基板
C1 フィードフォワード補償器
C2 フィードバック補償器
C21,C22,C23 補償器
t 時間
T 温度
V 昇温速度
α (ファジィ)修正係数
YA 第1加熱指令値
YB 第2加熱指令値
YC 加熱指令値
Claims (15)
- 基板の熱処理を行う装置であって、
(a) 前記基板を加熱する加熱手段と、
(b) 前記基板の熱状態を反映する所定の物理量につき、前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階での各時刻における前記物理量の目標値を表す目標値曲線を生成する目標値生成手段と、
(c) 前記基板の加熱に対する前記物理量の応答特性を表現した特性モデルを記憶しておく特性モデル記憶手段と、
(d) 前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階のそれぞれにおいて、固有の加熱制御規則に基づいて前記基板の加熱指令値を生成し、前記加熱指令値を前記加熱手段に出力する加熱指令値生成出力手段と、
を備え、
前記加熱制御規則は、第1制御規則と第2制御規則とを有しており、
第1制御規則は、前記特性モデルに基づいて、前記物理量の目標値に対応する出力指令値を第1加熱指令値として決定するフィードフォワード制御則であり、
第2制御規則は、前記特性モデルに基づいて、前記物理量の前記目標値に対応する出力指令値と前記物理量の実測値に対応する出力指令値との偏差に対応する値を第2加熱指令値として決定するフィードバック制御則であり、
前記加熱指令値生成出力手段は、前記第1加熱指令値と、前記第2加熱指令値とを加算して得られる値を前記加熱指令値として前記加熱手段に出力することを特徴とする基板熱処理装置。 - 基板の熱処理を行う装置であって、
(a) 前記基板を加熱する加熱手段と、
(b) 前記基板の熱状態を反映する所定の物理量につき、前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階での各時刻における前記物理量の目標値を表す目標値曲線を生成する目標値生成手段と、
(c) 前記基板の加熱に対する前記物理量の応答特性を表現した特性モデルを記憶しておく特性モデル記憶手段と、
(d) 前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階のそれぞれにおいて、固有の加熱制御規則に基づいて前記基板の加熱指令値を生成し、前記加熱指令値を前記加熱手段に出力する加熱指令値生成出力手段と、
を備え、
前記物理量の前記特性モデルは、複数の測定結果をファジィルールの前件部および後件部のメンバーシップ関数として表現したものであり、
前記加熱制御規則は、第1制御規則と第2制御規則とを有しており、
第1制御規則は、前記特性モデルに基づいて、前記物理量の目標値に対応する出力指令値を第1加熱指令値として決定するフィードフォワード制御則であり、
第2制御規則は、前記物理量の前記目標値と前記物理量の実測値とを利用して、前記物理量を前記目標値に追従させる出力指令値を第2加熱指令値として決定するフィードバック制御則であり、
前記加熱指令値生成出力手段は、前記第1加熱指令値と、前記第2加熱指令値とを加算して得られる値を前記加熱指令値として前記加熱手段に出力することを特徴とする基板熱処理装置。 - 基板の熱処理を行う装置であって、
(a) 前記基板を加熱する加熱手段と、
(b) 前記基板の熱状態を反映する所定の物理量につき、前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階での各時刻における前記物理量の目標値を表す目標値曲線を生成する目標値生成手段と、
(c) 前記基板の加熱に対する前記物理量の応答特性を表現した特性モデルを記憶しておく特性モデル記憶手段と、
(d) 前記基板の熱処理シーケンスの複数の段階のそれぞれにおいて、固有の加熱制御規則に基づいて前記基板の加熱指令値を生成し、前記加熱指令値を前記加熱手段に出力する加熱指令値生成手段と、
を備え、
前記加熱制御規則は、少なくとも、基板の温度に関するどの種類の物理量を基礎として加熱制御を行うかにおいて、前記熱処理シーケンスの前記複数の段階で相互に異なるように定められるものであるとともに、第1制御規則と第2制御規則とを有しており、
第1制御規則は、前記特性モデルに基づいて、前記物理量の目標値に対応する出力指令値を第1加熱指令値として決定するフィードフォワード制御則であり、
第2制御規則は、前記物理量の前記目標値と前記物理量の実測値とを利用して、前記物理量を前記目標値に追従させる出力指令値を第2加熱指令値として決定するフィードバック制御則であり、
前記加熱指令値生成出力手段は、前記第1加熱指令値と、前記第2加熱指令値とを加算して得られる値を前記加熱指令値として前記加熱手段に出力することを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項1ないし請求項3のいずれかの装置において、
前記物理量の前記特性モデルは、
前記加熱手段への出力指令値に対する温度の特性モデルと、
前記加熱手段への出力指令値に対する温度変化率の特性モデルとの
少なくとも一方の特性モデルを有することを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項1ないし請求項4のいずれかの装置において、
前記熱処理シーケンスは、前記基板につき、
1)所定の目標維持温度への昇温段階と、
2)目標維持温度での温度維持段階と、
3)目標維持温度からの降温段階と
を含み、
前記昇温段階において、
1-1)前記第1制御規則は、現在の目標昇温速度に対応する出力指令値を第1加熱指令値として生成し、
1-2)前記第2制御規則は、現在の前記目標昇温速度に対応する出力指令値と実測昇温速度に対応する出力指令値との偏差を第2加熱指令値として生成し、
前記温度維持段階において、
2-1)前記第1制御規則は、現在の目標温度に対応する出力指令値を第1加熱指令値として生成し、
2-2)前記第2制御規則は、現在の前記目標温度に対応する出力指令値と実測温度に対応する出力指令値との偏差を第2加熱指令値として生成し、
前記降温段階において、
3-1)前記第1制御規則は、ゼロを第1加熱指令値として生成し、
3-2)前記第2制御規則は、現在の前記目標温度に対応する出力指令値と実測温度に対応する出力指令値との偏差が正であるときに当該偏差の値を第2加熱指令値として生成することを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項5の装置において、
前記昇温段階における前記第1制御規則に基づく第1加熱指令値が下降して、前記温度維持段階における第1加熱指令値よりも小さくなった場合には、前記昇温段階における前記第1加熱指令値を、前記温度維持段階における第1加熱指令値と同一の値にすることを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項5または請求項6の装置において、
前記加熱指令値生成出力手段は、
(d-1)前記複数の段階のそれぞれにつき、前記第2制御規則に含まれている所定の物理量の目標値と実測値との偏差を前件部に取り入れたファジィ推論を行い、前記ファジィ推論の演算出力を利用して前記第2加熱指令値を生成するファジィ演算手段、
を備えることを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項7の装置において、
前記昇温段階においては、前記ファジィ推論の前件部に含ませる前記偏差は、現在の目標昇温速度と実測昇温速度との偏差であることを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項7の装置において、
前記温度維持段階においては、前記ファジィ推論の前件部に含ませる前記偏差は、現在の目標温度と実測温度との偏差であることを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項7の装置において、
前記降温段階においては、前記ファジィ推論の前件部に含ませる前記偏差は、現在の目標温度と実測温度との偏差であることを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項7ないし請求項10のいずれかの装置において、
前記第2制御規則は、前記加熱制御規則に含まれている前記物理量の目標値に対応する出力指令値と前記物理量の実測値に対応する出力指令値との偏差にファジィ推論で得られる修正係数を乗じた値を前記偏差に加算して第2加熱指令値として決定するものであることを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項7ないし請求項10のいずれかの装置において、
前記第2制御規則は、前記加熱制御規則に含まれている前記物理量の目標値と前記物理量の実測値との偏差に係数を乗じた値を第2加熱指令値として決定するにあたって、前記係数をファジィ推論によって変更することを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項7ないし請求項10のいずれかの装置において、
前記加熱制御規則に含まれている前記物理量の目標値に対応する出力指令値と前記物理量の実測値に対応する出力指令値との偏差にファジィ推論で得られる修正係数を乗じた値を前記偏差に加算した値を修正後偏差と呼ぶとき、前記第2制御規則は、所定の時刻までの各時刻における前記修正後偏差を積算した値と、前記所定の時刻における修正後偏差とを加えた値を、前記所定の時刻における第2加熱指令値として決定することを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項5ないし請求項13のいずれかの装置において、
前記目標値生成手段は、
(b-1) 前記昇温段階における目標温度の経時変化を表現した直線または折れ線を保持する手段と、
(b-2) 前記直線または前記折れ線をなめらかな曲線に変換する変換手段と、
をさらに有し、
前記変換手段は、ファジィ推論を用いた補間によって変換を行うことを特徴とする基板熱処理装置。 - 請求項5ないし請求項14のいずれかの装置において、
前記昇温段階における目標温度曲線の初期温度は、昇温段階開始直前の測定温度であることを特徴とする基板熱処理装置。
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