JP4289935B2 - 複合多層膜、その自己組織的な製造方法および電子部品 - Google Patents

複合多層膜、その自己組織的な製造方法および電子部品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、交互に周期的に積層した複合多層膜の自己組織的な製造方法に関し、またこの方法で製造され、電子部品や光学部品に応用される複合多層膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体表面上に形成された膜は、光学的や電気的など優れた種々の特性を発現し、近年、これらに関わる研究が盛んに行われている。これらの優れた特性を有する膜は、固体表面上においてナノレベルで高度に構造が制御されていることが重要である。固体表面上にナノレベルで高度に構造が制御された膜を作成する方法として、LB法(ラングミュア・ブロジェット法)、SAM法(自己組織化単分子膜法)、交互積層法(Layer by Layer法)などが知られており、古くから盛んに研究されている。
【0003】
LB法は、溶液表面に展開した一分子層を固体表面に移し取る方法で、複数回繰り返すことにより、任意の分子層を任意の構成で複合多層化することができる。またSAM法は、選択的に吸着する特性を利用する方法で、例えば金表面上にチオール基を有する分子をさらすことにより、金表面にチオール基をアンカーとして自己組織的に単分子層を形成する方法である。さらに交互積層法は、交互に異なる層を形成していく手法であり、例えばアニオン性のポリマー溶液とカチオン性のポリマー溶液に交互に浸けることにより、交互積層した複合多層膜を形成する方法である。
【0004】
しかしこれらの手法においてはいずれも、交互に積層した複合多層膜を得るために、積層させる層の数だけの操作が必要であり、多層化するためには多くの操作と多大な時間を要し、容易なことでない。特にLB法においては、高度に条件を制御することが大切で、一層当たりを形成するために時間を要するばかりでなく、高価な装置が必要となる。またSAM法においては、簡易的な操作で一層を形成することが出来るが、表面に均一に吸着させるために時間を要する。
【0005】
従って、固体表面上に異種の層が交互に周期的に積層した複合多層膜を、特殊な装置などを用いずに簡易的かつ短時間で製造する方法の開発が望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、固体表面上に異種の層が交互に周期的に積層した複合多層膜を、特殊な装置などを用いずに簡易的かつ短時間で製造する方法を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の両化合物を含有する溶液を基板上に塗布し、次いで溶媒を揮発除去させることにより、固体表面上に異種の層が交互に周期的に積層した複合多層膜を、特殊な装置などを用いることなく、一度の操作によって簡易的かつ短時間で製造できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]に記載した事項により特定される。
【0008】
[1] メトキシ基(―OCH 3 )、エトキシ基(−OC 2 5 )、プロポキシ基(−OC 3 7 )、ブトキシ基(−OC 4 9 )、ペントキシ基(−OC 5 11 からなる群より選ばれるアルコキシ基またはハロゲン基を含有し炭化水素鎖を有するケイ素系化合物、および前記アルコキシ基またはハロゲン基を含有しフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の両化合物、ならびに該両化合物の前記アルコキシ基またはハロゲン基を加水分解反応させるために必要な化学量論の0.5〜2倍の水とを含有する溶液を基板上に塗布し、次いで溶媒を揮発除去させることにより、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層が交互に周期的に積層した複合多層膜が自己組織的に形成されることを特徴とする複合多層膜の製造方法。
【0009】
[2] [1]記載の方法で製造される、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層が交互に周期的に積層した複合多層膜。
【0010】
[3] [2]記載の複合多層膜を含んで構成される電子部品。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の両化合物を含有する溶液を基板上に塗布し、次いで溶媒を揮発除去させることを特徴とする、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層が交互に周期的に積層した複合多層膜の自己組織的な製造方法である。
【0012】
本発明の製造方法における炭化水素鎖を有するケイ素系化合物としては、直鎖状の炭化水素鎖がケイ素原子に結合した化合物を好適に用いることができ、具体的には化学式(1)で表されるものを挙げることができる。但し、化学式(1)においてaは2≦a≦26の範囲の整数、Xはケイ素原子と結合する官能基であり、ヒドロキシ基(−OH)、ハロゲン基、メトキシ基(―OCH3)、エトキシ基(−OC25)、プロポキシ基(−OC37)、ブトキシ基(−OC49)、ペントキシ基(−OC511)から選ばれる基である。温度、溶媒の種類、溶液濃度、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物とフッ素化された炭化水素基を有するケイ素系化合物の比など、複合多層膜を作成する条件によって最適な化合物は異なることがあり、条件に応じて適宜選択することが重要であるが、例えば25℃、エタノールを溶媒に用いた条件における好適な化合物としては、化学式(1)において、10≦a≦16の範囲の整数であり、Xはヒドロキシ基(−OH)、メトキシ基(―OCH3)、エトキシ基(−OC25)である化合物を一例として挙げることができる。化学式(1)で表される炭化水素基を有するケイ素系化合物は、例えば従来技術であるヒドロシリル化反応を用いることにより合成することができる。具体的には、塩化白金酸触媒を用い、オレフィン部分にシラン化合物を付加させる反応(実験化学講座、日本化学会編、丸善などを参照)により、合成することができる。
【0013】
【化式1】
Figure 0004289935
【0014】
本発明の製造方法におけるフッ素化された炭化水素基を有するケイ素系化合物としては、水素原子の全てまたは一部がフッ素で置換された直鎖状の炭化水素鎖がケイ素原子に結合した化合物を好適に用いることができ、具体的には化学式(2)で表されるものを挙げることができる。但し、化学式(2)においてbおよびcは整数であり、2≦b≦14、0≦c≦10である。また化学式(2)において、Xはケイ素原子と結合する官能基であり、ヒドロキシ基(−OH)、ハロゲン基、メトキシ基(―OCH3)、エトキシ基(−OC25)、プロポキシ基(−OC37)、ブトキシ基(−OC49)、ペントキシ基(−OC511)から選ばれる基である。温度、溶媒の種類、溶液濃度、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物とフッ素化された炭化水素基を有するケイ素系化合物の比など、複合多層膜を作成する条件によって最適な化合物は異なることがあり、条件に応じて適宜選択することが重要であるが、例えば25℃、エタノールを溶媒に用いた条件における好適な化合物としては、化学式(2)において、8≦a≦14の範囲の整数であり、Xはヒドロキシ基(−OH)、メトキシ基(―OCH3)、エトキシ基(−OC25)である化合物を一例として挙げることができる。化学式(2)で表されるフッ素化された炭化水素基を有するケイ素系化合物は、例えば従来技術であるヒドロシリル化反応を用いることにより合成することができる。具体的には、塩化白金酸触媒を用い、オレフィン部分にシラン化合物を付加させる反応(実験化学講座、日本化学会編、丸善などを参照)により、合成することができる。
【0015】
【化式2】
Figure 0004289935
【0016】
本発明の製造方法における炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の両化合物を含有する溶液に用いる溶媒は、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物が会合や析出せずに均質に溶液状態とすることができ、また溶液中のケイ素化合物がお互いに縮合しにくいものが好適に用いることができる。沸点は200℃以下であることが好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール化合物、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物などを好適に挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。使用する溶媒の量は特に限定されるものではないが、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の総和に対して、モル基準で0.2〜100倍であることが好ましく、1〜50倍であることがより好ましく、3〜20倍であることが更に好ましい。
【0017】
炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物は、基板上に塗布して次いで溶媒を揮発除去させる段階において、これら両化合物を含有する溶液中においてシラノール基(ヒドロキシ基)の状態となっていることが望ましい。従って、ハロゲン基、メトキシ基(―OCH3)、エトキシ基(−OC25)、プロポキシ基(−OC37)、ブトキシ基(−OC49)、ペントキシ基(−OC511)などを有するケイ素系化合物を出発原料として用いる場合には、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含有する溶液に適度の水および触媒を事前に共存させ、シラノール基の形に加水分解された後に、基板上に塗布して次いで溶媒を揮発除去させ、複合多層膜を形成させることが好ましい。この際に用いる水の量は、加水分解するために必要な量論量を基準に、その0.5〜2倍の範囲が好ましい。また、この際に用いる触媒の種類も特に限定されるものではなく、酸触媒やアルカリ触媒、イオン交換樹脂などの固体酸などいずれも用いることができるが、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、硝酸などの酸触媒が好適に用いることができる。用いる触媒の量は、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の総和に対して、モル基準で0.0001〜1倍であることが好ましく、0.001〜0.1倍であることがより好ましい。
【0018】
本発明の製造方法において、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の両化合物を含有する溶液を用いる。溶液における炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の割合は、作成する複合多層膜の構成によって適宜選択することができ、また用いる両化合物の種類などの条件によって影響される。
【0019】
例えば、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物として化学式(3)で示される化合物を用い、フッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物として化学式(4)で示される化合物を用いる場合、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物のモル比が、1.5:1の時に作成された複合多層膜のほぼ全てが、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層が交互に周期的に積層したものとなり、これより比がずれると、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層が交互に周期的に積層したものと、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層もしくはフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層のいずれかが共存した複合多層膜となる。
【0020】
なお、直鎖状の炭化水素鎖の一つあたりの断面積と、直鎖状のフッ素化された炭化水素鎖の一つあたりの断面積の比が、およそ1:1.5であり、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物のモル比が1.5:1の時に、作成された複合多層膜のほぼ全てが交互に周期的に積層したものとなる事実と合致する。
【0021】
なお、本発明の効果を損なわない範囲であれば、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の両化合物を含有する溶液に、他の化合物を含有していても良い。
【0022】
【化式3】
Figure 0004289935
【0023】
【化式4】
Figure 0004289935
【0024】
本発明の製造方法において、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の両化合物を含有する溶液を基板上に塗布し、次いで溶媒を揮発除去させる。溶液を基板上に塗布する方法は、特に限定されるものではないが、スピンコート法、ディップコート法が好適な方法として挙げることができる。溶媒を基板上に塗布する際、また次いで溶媒を揮発除去させる際の条件は、本発明の方法において重要である。特に温度、湿度、溶媒雰囲気濃度、塗布時の溶液の膜の厚さが重要な因子である。これらの因子は、用いる炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の種類、溶媒の種類、溶媒と両ケイ素化合物との比などの条件に影響されるため、これらに応じて適宜選択することが重要である。
【0025】
例えば、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物として化学式(3)で示される化合物、フッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物として化学式(4)で示される化合物をモル比で1.5:1の割合で用い、溶媒としてエタノールを両化合物の総和に対してモル換算で10倍量用いる場合、温度20〜30℃、相対湿度0〜80%、溶媒雰囲気濃度0〜1000ppm、スピンコート回転数200〜10000rpmの範囲が好適に用いることができる。なお塗布時の溶液の膜の厚さは、一例としてスピンコート回転数で制御することができる。なお本発明の製造方法は、溶液を基板上に塗布し、次いで溶媒を揮発除去させるが、溶媒を揮発除去させる工程は短時間であることが好適であり、例えばスピンコート法で塗布して複合多層膜を作成する場合のように、実質的に数十秒間から数秒間で溶媒の大方が除去されることが好ましい。必要に応じて熱などをかけることにより、溶媒の除去を促進させても良い。
【0026】
本発明の製造方法において用いる基板の種類は特に限定されるものではないが、塗布表面にシラノール基や水酸基などの極性基が適度に存在していることが好ましく、ガラスやシリカ、アルミナなどの無機酸化物を母体とする基板、水酸基を有する樹脂を母体とする基板、あらかじめゾルゲル法やスパッタ法、CVD法などを活用してシリカやアルミナ、チタニアなどの酸化物薄膜やシリコンなどの金属薄膜を表面に形成した基板などを好適に用いることができる。基板の表面性は特に限定されるものではないが、塗布表面はより平滑であることが好ましく、必要に応じて研磨平滑化や熱硬化樹脂などを用いた平滑化などの従来技術を好適に用いることができる。
【0027】
本発明の製造方法においては、一回の操作によって通常数十〜数百層から成る複合多層膜を自己組織的に形成することができる。用いる炭化水素鎖を有するケイ素系化合物およびフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の両化合物の種類や溶液中における濃度などによって、一回の塗布操作によって自己組織的に形成される層の数は変化するが、従来技術であるLB法(ラングミュア・ブロジェット法)、SAM法(自己組織化単分子膜法)、交互積層法(Layerby Layer法)のように、一回の操作で一層が形成され、それらの操作を複数回続けることで多層化するのではなく、多層を一度の操作で自己組織的に形成することができる画期的な方法である。さらには、従来技術の方法とは異なり、高価な装置などを必要としない。必要に応じて複数回の塗布操作を行うことにより、より多層化した膜を形成することもできる。
【0028】
本発明の製造方法により、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層が交互に周期的に積層した複合多層膜を自己組織的に製造することができる。炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層が交互に周期的に積層していることは、X線回折法により容易に確認することができる。
【0029】
本発明の方法により製造される複合多層膜は、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層が交互に周期的に積層した複合多層膜である。
【0030】
そしてこの複合多層膜は電子部品や光学部品への応用が可能である。
【0031】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0032】
【合成例1】
化学式(5)で示されるパーフルオロデシルトリエトキシシラン、エタノール、水、HClを、モル基準で1:10:3:0.01の比で混合し、次いで40℃で60分かくはん混合した。反応液をすぐに25℃に冷却した後、室温25℃の条件でスピンコート法(回転数3000rpm)により、ガラス基板上に製膜し、その後40℃で12時間乾燥させた。作成した膜について、膜の平面に対してX線を照射させてX線回折法にて評価したところ、3.02ナノメートルに相当するピークを頭に、その整数分の1に相当する複数種類のピークが得られた。図1にXRDプロファイル示す。この結果から、間隔が3.02ナノメートルの層が、多層に周期的に積層した複合多層膜であることが分かった。化学式(5)のエトキシ基がシラノール基に置き換わった分子の長さが約1.5ナノメートルであることから、作成された複合多層膜は、図3の模式図に示す構造であることが分かった。なお、図3において、Si−OHで表されるシラノール基として描画しているが、シラノール基の一部または全てが縮合してSi−O−Si結合を形成している構造も模式図として含む。
【0033】
【化式5】
Figure 0004289935
【0034】
【合成例2】
化学式(6)で示されるドデシルトリエトキシシラン、エタノール、水、HClを、モル基準で1:10:3:0.01の比で混合し、次いで40℃で60分かくはん混合した。反応液をすぐに25℃に冷却した後、室温25℃の条件でスピンコート法(回転数3000rpm)により、ガラス基板上に製膜し、その後40℃で12時間乾燥させた。作成した膜について、膜の平面に対してX線を照射させてX線回折法にて評価したところ、3.39ナノメートルに相当するピークを頭に、その整数分の1に相当する複数種類のピークが得られた。図2にXRDプロファイル示す。この結果から、間隔が3.39ナノメートルの層が、多層に周期的に積層した複合多層膜であることが分かった。化学式(6)のエトキシ基がシラノール基に置き換わった分子の長さが約1.75ナノメートルであることから、作成された複合多層膜は、図4の模式図に示す構造であることが分かった。なお、図4において、Si−OHで表されるシラノール基として描画しているが、シラノール基の一部または全てが縮合してSi−O−Si結合を形成している構造も模式図として含む。
【0035】
【化式6】
Figure 0004289935
【0036】
【実施例1】
化学式(5)で示されるパーフルオロデシルトリエトキシシラン、化学式(6)で示されるドデシルトリエトキシシラン、エタノール、水、HClを、モル基準で0.4:0.6:10:3:0.01の比で混合し、次いで40℃で60分かくはん混合した。反応液をすぐに25℃に冷却した後、室温25℃の条件でスピンコート法(回転数3000rpm)により、ガラス基板上に製膜し、その後40℃で12時間乾燥させた。作成した膜について、膜の平面に対してX線を照射させてX線回折法にて評価したところ、6.63ナノメートルに相当するピークを頭に、その整数分の1に相当する複数種類のピークが得られた。一方、合成例1および合成例2で示したように、パーフルオロデシルトリエトキシシラン、またはドデシルトリエトキシシランのみを用いて作成した複合多層膜に起因する3.02ナノメートルに相当するピーク、または3.39ナノメートルに相当するピークは見られなかった。図5にXRDプロファイル示す。
【0037】
この結果から、間隔が6.63ナノメートルの層が、膜の厚さ方向に周期的に積層した複合多層膜であり、化学式(5)のエトキシ基がシラノール基に置き換わった分子の長さが約1.50ナノメートル、化学式(6)のエトキシ基がシラノール基に置き換わった分子の長さが約1.75ナノメートルであることから、作成された複合多層膜は、図6の模式図に示すように、交互に周期的に積層した構造であることが分かった。なお、図6において、Si−OHで表されるシラノール基として描画しているが、シラノール基の一部または全てが縮合してSi−O−Si結合を形成している構造も含む。
【0038】
【実施例2】
化学式(5)で示されるパーフルオロデシルトリエトキシシラン、化学式(7)で示されるテトラデシルトリエトキシシラン、エタノール、水、HClを、モル基準で0.4:0.6:10:3:0.01の比で混合し、次いで40℃で60分かくはん混合した。反応液をすぐに25℃に冷却した後、室温25℃の条件でスピンコート法(回転数3000rpm)により、ガラス基板上に製膜し、その後40℃で12時間乾燥させた。作成した膜について、膜の平面に対してX線を照射させてX線回折法にて評価したところ、7.06ナノメートルに相当するピークを頭に、その整数分の1に相当する複数種類のピークが得られた。この結果から、間隔が7.06ナノメートルの層が、多層に周期的に積層した複合多層膜であり、化学式(5)のエトキシ基がシラノール基に置き換わった分子の長さが約1.50ナノメートル、化学式(7)のエトキシ基がシラノール基に置き換わった分子の長さが約2.00ナノメートルであることから、作成された複合多層膜は、交互に周期的に積層した構造であることが分かった。
【0039】
【化式7】
Figure 0004289935
【0040】
【実施例3】
化学式(8)で示されるパーフルオロデシルトリエトキシシラン、化学式(6)で示されるテトラデシルトリエトキシシラン、エタノール、水、HClを、モル基準で0.4:0.6:10:3:0.01の比で混合し、次いで40℃で60分かくはん混合した。反応液をすぐに25℃に冷却した後、室温25℃の条件でスピンコート法(回転数3000rpm)により、ガラス基板上に製膜し、その後40℃で12時間乾燥させた。作成した膜について、膜の平面に対してX線を照射させてX線回折法にて評価したところ、6.32ナノメートルに相当するピークを頭に、その整数分の1に相当する複数種類のピークが得られた。この結果から、間隔が6.32ナノメートルの層が、多層に周期的に積層した複合多層膜であり、化学式(8)のエトキシ基がシラノール基に置き換わった分子の長さが約1.25ナノメートル、化学式(6)のエトキシ基がシラノール基に置き換わった分子の長さが約1.75ナノメートルであることから、作成された複合多層膜は、交互に周期的に積層した構造であることが分かった。
【0041】
【化式8】
Figure 0004289935
【0042】
【発明の効果】
本発明の製造方法により、固体表面上に異種の層が交互に周期的に積層した複合多層膜を、特殊な装置などを用いずに簡易的かつ短時間で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】合成例1で得られた多層膜のX線回折プロフィールである。
【図2】合成例2で得られた多層膜のX線回折プロフィールである。
【図3】合成例1で得られた多層膜の模式図である。
【図4】合成例2で得られた多層膜の模式図である。
【図5】実施例による複合多層膜のX線回折プロフィールである。
【図6】実施例による複合多層膜の模式図である。

Claims (3)

  1. メトキシ基(―OCH 3 )、エトキシ基(−OC 2 5 )、プロポキシ基(−OC 3 7 )、ブトキシ基(−OC 4 9 )、ペントキシ基(−OC 5 11 からなる群より選ばれるアルコキシ基またはハロゲン基を含有し炭化水素鎖を有するケイ素系化合物、および前記アルコキシ基またはハロゲン基を含有しフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物の両化合物、ならびに該両化合物の前記アルコキシ基またはハロゲン基を加水分解反応させるために必要な化学量論の0.5〜2倍の水とを含有する溶液を基板上に塗布し、次いで溶媒を揮発除去させることにより、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層が交互に周期的に積層した複合多層膜が自己組織的に形成されることを特徴とする複合多層膜の製造方法。
  2. 請求項1記載の方法で製造される、炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層とフッ素化された炭化水素鎖を有するケイ素系化合物を含んで構成される層が交互に周期的に積層した複合多層膜。
  3. 請求項2記載の複合多層膜を含んで構成される電子部品。
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