JP4286524B2 - 4−アルコキシフェニル−4−オキソ−酪酸の製造方法及び、7−アルコキシ−1−テトラロン類の製造方法。 - Google Patents

4−アルコキシフェニル−4−オキソ−酪酸の製造方法及び、7−アルコキシ−1−テトラロン類の製造方法。 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、7-アルコキシ-1-テトラロン誘導体の製造方法に関する。この7-アルコキシ-1-テトラロン類は、近年、医薬品工業における重要な化合物であり、さらに化学工業における合成中間体としても有用である。例えば、7-メトキシ-1-テトラロンは、糖尿病治療薬として極めて有用な化合物である
Acetic acid,[[(8S)-8-[[(2R)-2-(3-chlorophenyl)-2-hydroxyethyl]amino]-6,7,8,9-tetrahydro-5H-benzocyclohepten-2-yl]oxy]-,ethyl ester, hydrochloride (公表特許公報 特表平6-506955)の製造のための中間体の原料化合物として有用である。
【0002】
【従来の技術】
テトラロン類の製造方法は多く知られているが、7位にアルコキシ基を有する1-テトラロン類の工業的な製造方法は報告例が少ない。
7-メトキシテトラロンを製造する方法としては、基本的に分子内アシル化反応を利用する方法として、▲1▼アニソールに無水コハク酸を作用させることにより、4-メトキシフェニル-4-オキソ-酪酸に誘導し、このケト酸を還元して4-メトキシフェニル酪酸に導いた後、その酸塩化物に塩化アルミニウムを作用させることにより調製する方法(F. Krollpfeiffer und W. Schafer, Berichte,56巻 620 (1923)収率記載なし, W. S. Johnson and H. J. Glenn J.A.C.S. 71 1092 (1949) 79%)、▲2▼乾燥した弗化水素を用いる方法(W. C. Cambell and D. Todd J.A.C.S. 64巻 928(1942)61.5%)、▲3▼塩化アルミニウムの代わりに塩化スズを用いる方法(D. G. Thomas and A. H. Hathan, J.A.C.S.70巻 331 (1948)88%)、▲4▼塩化アルミニウムの代わりにポリリン酸を用いる方法(A. Pelter, Tetrahedron 41 (14) 2933 (1985)85% )等が知られている。また、▲5▼6-メトキシテトラリンの過マンガン酸酸化(N. A. Noureldin J. Org. Chem., 62巻 8767 (1997) 5%)によっても合成出来る。
更には、▲6▼7-メトキシ-1-ナフトールのバーチ還元によっても製造することが出来る。
【非特許文献1】
W. S. Johnson and H. J. Glenn, J.A.C.S. 71, 1092-1096 (1949).
【非特許文献2】
D. G. Thomas and A. H. Hathan, J.A.C.S. 70, 331-334(1948).
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の方法▲1▼は、ルイス酸、アルコキシベンゼンと無水コハク酸とのフリーデルクラフツ反応で、4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸を製造する工程において、発癌性のベンゼンや沸点が低く引火性の高い二硫化炭素や石油エーテルを溶媒としている上に、しばしば、水層との分離装作が煩雑であった。また収率も満足のいくものではなかった。続く還元工程で得られた4-アルコキシフェニル酪酸を環化してテトラロン骨格を構築する工程においても第一工程と同様の溶媒を用いており、第一工程と同じ問題があった。さらに▲2▼或は▲5▼は、収率も5〜61.5%と低く実用的ではない。
【0004】
一方、ポリリン酸▲4▼や塩化スズ▲3▼を用いる方法は、収率が85-88%と高いが毒性の点で問題があり、ポリリン酸は粘度が高く取り扱いが不便であつた。また、液体アンモニア・金属ナトリウムを用いるバーチ還元法▲6▼は、装置が大掛かりで危険性も高いことが欠点であった。
本発明は、安価で安全に且つ高収率で、7位にアルコキシ基を有する1-テトラロン類を工業的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは工業的に満足のゆく7-アルコキシ-1-テトラロン類の製造法について鋭意研究を行なった結果、アルコキシベンゼンと無水コハク酸をルイス酸を用いて縮合させて、4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸を製造する工程において、溶媒としてジクロルベンゼン類を用いることにより、高収率で高品位の4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸が製造できることを見出した。更に、この4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸を還元して得られる4-アルコキシフェニル酪酸を酸ハライドに変換した後、ルイス酸の存在下に環化させて、7-アルコキシ-1-テトラロン類を製造する工程において、溶媒としてジクロルベンゼン類を用いることにより、高収率で高品位の7-アルコキシ-1-テトラロン類が製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、従来の方法における問題点を解消し、温和な反応条件で高品位の目的化合物を高収率で製造することができる。
【0006】
即ち、本発明の要旨は、
溶媒としてジクロルベンゼン類を用いて、アルコキシベンゼンと無水コハク酸をルイス酸を用いて縮合させて、4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸を製造する工程、この4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸を還元して得られる4-アルコキシフェニル酪酸を酸ハライドに変換した後、溶媒としてジクロルベンゼン類を用いて、ルイス酸の存在下に環化させて、7-アルコキシ-1-テトラロン類を製造する工程よりなる7-アルコキシ-1-テトラロン類を製造する方法である。
【0007】
{発明の実施の形態}
本発明の方法は、溶媒としてジクロルベンゼン類を用いて、アルコキシベンゼンと無水コハク酸をルイス酸を用いて縮合させて、4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸を製造する工程(第一工程)、この4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸を還元し、得られた4-アルコキシフェニル酪酸を酸ハライドに変換する工程(第二工程)、溶媒としてジクロルベンゼン類を用いて、ルイス酸の存在下に環化させて、7-アルコキシ-1-テトラロン類を製造する工程(第三工程)よりなる。
【0008】
第一工程
この工程は溶媒としてジクロルベンゼン類を用いて、アルコキシベンゼンと無水コハク酸をルイス酸を用いて縮合させて、4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸を製造するものである。用いるジクロルベンゼン類は、オルソジクロルベンゼン、メタジクロルベンゼン、パラジクロルベンゼン、またはこれらの2種または3種の混合物である。アルコキシベンゼンのアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n-プロピルオキシ、iso-プロピルオキシ、n-ブチルオキシ、iso-ブチルオキシ、sec-ブチルオキシ、tert-ブチルオキシなどが例示できる。ルイス酸としては、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化第二鉄、四塩化チタン、塩化アンチモンなどが例示できる。
用いる溶媒量はアルコキシベンゼンの0.5倍から30倍重量であり、好ましくは3倍から15倍である。無水コハク酸の添加量はアルコキシベンゼンに対して0.7当量から1.2当量であり、好ましくは0.8当量から1.1当量である。ルイス酸の添加量は無水コハク酸に対して2.0当量から2.5当量であり、好ましくは2.05当量から2.3当量である。反応温度は-30℃から70℃であり、好ましくは-20℃から20℃である。
反応終了後、反応液を氷を含む希塩酸にあけ、溶媒抽出または、生成物が結晶の場合はろ過により生成物を取り出すことができる。
4-メトキシフェニル-4-オキソ酪酸の場合、副生するオルソ及びメタ異性体のジクロルベンゼンの溶解度が高いため、ろ過操作のみでパラ比率99%の4-メトキシフェニル-4-オキソ酪酸を高収率で単離することができる。これもジクロルベンゼンを溶媒として用いることの利点である。
【0009】
第二工程
この工程は第一工程で得られた4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸を還元して、4-アルコキシフェニル酪酸を製造する工程である。この方法としては、ヒドラジンを用いるウォルフキシュナー還元、亜鉛/水銀アマルガムを用いたクレメンゼン還元や、パラジウム触媒を用いる接触水素添加などがあるが、廃棄物の出ない接触水素添加が好ましい。得られた4-アルコキシフェニル酪酸は公知の方法、例えば塩化チオニル、オキシ塩化燐、五塩化燐などと反応させることにより、容易に酸ハライドに変換できる。
【0010】
第三工程
この工程は第二工程で得られた4-アルコキシフェニル酪酸ハライドを、溶媒としてジクロルベンゼン類を用いて、ルイス酸の存在下に環化させて、7-アルコキシ-1-テトラロン類を製造する工程である。
用いる溶媒量はアルコキシベンゼンの0.5倍から30倍重量であり、好ましくは3倍から15倍である。ルイス酸の添加量はアルコキシベンゼンに対して1.05当量から1.5当量であり、好ましくは1.05当量から1.3当量である。反応温度は-30℃から70℃であり、好ましくは-20℃から20℃である。
反応終了後、反応液を氷を含む希塩酸にあけ、溶媒抽出、クロマトグラフィー、再結晶や蒸留などの公知の方法で生成物を取り出すことができる。
【0011】
【実施例】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1:4-(4-メトキシフェニル)-4-オキソブチリック アシッドの合成
1Lの四つ口フラスコに500mlのオルソジクロルベンゼンと147.0gの無水塩化アルミニウムを加え、撹拌下氷冷した。52.5gの無水コハク酸を加え、54.1gのアニソールのオルソジクロルベンゼン(100ml)溶液を30分かけて滴下し、その後、氷冷下21時間撹拌した。反応混合物を700mlの氷水と100mlの濃塩酸の混合物に加え、析出晶を濾過、水洗、トルエン洗浄、乾燥し、100.1gの無色結晶として、4-(4-メトキシフェニル)-4-オキソブチリック アシッドを得た。ガスクロマトグラフィーによる異性体分析では
4-(4-メトキシフェニル)-4-オキソブチリック アシッド:99.0%
4-(2-メトキシフェニル)-4-オキソブチリック アシッド:0.4%
4-(3-メトキシフェニル)-4-オキソブチリック アシッド:0.6% であった。
収率:95% (アニソールベース)
融点:147-148℃
1H-NMR(400MHz,CDCl3,δppm):2.80(t, J=6.6Hz,2H)
3.28(t, J=6.6Hz,2H)
3.88(s, 3H)
6.94(d, J=9.0 Hz, 2H)
7.96(d, J=9.0 Hz, 2H)
【0012】
実施例2:4-(4-メトキシフェニル)ブチリック アシッド の合成
500mlの3つ口フラスコに温度計を取り付け、32.0g の4-(4-メトキシフェニル)-4-オキソブチリック アシッド、1.6gの10%パラジウム/カーボン、200mlの酢酸エチル、20mlの酢酸を加えた。この混合物を撹拌下、50℃に加熱し、終夜常圧で水素を吸収させた。
反応混合物から濾過で触媒を除去し、濾液を減圧濃縮した。得られたオイルに150mlの蒸留水を添加して室温下で撹拌すると結晶が析出した。その後、4℃で1時間結晶を熟成させた。析出した結晶を濾取、水洗、減圧乾燥し、無色の結晶として、28.9gの4-(4-メトキシフェニル)ブチリック アシッドが得られた。
収 率 :97%
融 点 :61.2-61.4℃
1H-NMR(400MHz,CDCl3,δppm):1.93(q, J=7.4Hz,2H)
2.35(t, J=7.4Hz,2H)
2.61(t, J=7.4Hz,2H)
3.78(s, 3H)
6.82(dd, J=2.1Hz,J=6.6Hz, 2H)
7.08(dd, J=2.1Hz,J=6.6Hz, 2H)
【0013】
実施例3:4-(4-メトキシフェニル)ブチリック アシッド の合成
1Lの3つ口フラスコに温度計を取り付け、70.0g の4-(4-メトキシフェニル)-4-オキソブチリック アシッド、3.5gの10%パラジウム/カーボン、320mlのトルエン、70mlの酢酸を加えた。この混合物を撹拌下、70℃に加熱し、終夜常圧で水素を吸収させた。
反応混合物から濾過で触媒を除去し、濾液を減圧濃縮し、無色の結晶として、63.1gの4-(4-メトキシフェニル)ブチリック アシッドが得られた。
収 率 :97%
【0014】
実施例4:7-メトキシ-1-テトラロンの合成
25.25gの4-(4-メトキシフェニル)ブチリック アシッドと、23.2gの塩化チオニルを500mlのナス型フラスコに仕込み,80℃で2時間撹拌した。過剰の塩化チオニルを減圧留去し、28.0g の4-(4-メトキシフェニル)ブチリルクロライドを得た。これを100mlのオルソジクロルベンゼンに溶解、200mlの滴下ロートに移した。
500mlの反応器に20.8gの無水塩化アルミニウムと150mlのオルソジクロルベンゼンを仕込み、攪拌下、-10℃に冷却した。これに4-(4-メトキシフェニル)ブチリルクロライド溶液を30分かけて滴下し、更に-10℃で2時間攪拌した。
氷水400ml中に反応液を注ぎ、分液、水洗後、溶媒を減圧留去後、減圧蒸留(100℃/1mmHg)を行い、無色結晶として21.53gの7-メトキシ-1-テトラロンを得た。
収率: 94%
融点:62.1-62.4℃
1H-NMR(400MHz,CDCl3,ppm):2.11(m,2H)
2.63(t,2H,J=6.6Hz)
2.90(t,2H,J=6.1Hz)
3.88(s,3H)
7.05(dd,1H,J=2.8Hz,J=8.4Hz)
7.16(d,1H,J=8.4Hz)
7.52(d,1H,J=2.8Hz)
【0015】
【発明の効果】
本発明により、ルイス酸を触媒として、アルコキシベンゼンに無水コハク酸を親電子置換反応させる際に、反応溶媒にジクロロベンゼン類を使用することにより、選択性よく4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸に誘導し、簡単な操作で、反応混合物から純度よく単離することが可能になった。さらに、4-アルコキシフェニル-4-オキソ-酪酸を原料化合物に用いて、4-アルコキシフェニル酪酸ハライドに誘導し、ルイス酸を触媒として、反応溶媒にジクロロベンゼン類を使用することにより、7-アルコキシ-1-テトラロン類を温和な反応条件で高品位、高収率で製造することが可能になった。

Claims (4)

  1. アルコキシベンゼンと無水コハク酸とをルイス酸を用いて反応させて、4−アルコキシフェニル−4−オキソ−酪酸に変換する反応において、溶媒としてジクロルベンゼン類を用いることを特徴とする4−アルコキシフェニル−4−オキソ−酪酸の製造方法。ただし、ジクロルベンゼン類は、オルソジクロルベンゼン、メタジクロルベンゼン、パラジクロルベンゼン、またはこれらの2種または3種の混合物である。
  2. 4−アルコキシフェニル酪酸ハライドを、ルイス酸の存在下に環化させて、7−アルコキシ−1−テトラロンに変換する反応において、溶媒としてジクロルベンゼン類を用いることを特徴とする7−アルコキシ−1−テトラロン類を製造する方法。ただし、ジクロルベンゼン類は、オルソジクロルベンゼン、メタジクロルベンゼン、パラジクロルベンゼン、またはこれらの2種または3種の混合物である。
  3. 溶媒としてジクロルベンゼン類を用いて、アルコキシベンゼンと無水コハク酸とをルイス酸を用いて反応させて、4−アルコキシフェニル−4−オキソ−酪酸を製造し、次いで、4−アルコキシフェニル−4−オキソ−酪酸を還元し、酸ハライドに変換して、得られる4−アルコキシフェニル酪酸ハライドを、溶媒としてジクロルベンゼン類を用いて、ルイス酸の存在下に環化させる、7−アルコキシ−1−テトラロン類の製造方法。
    ただし、ジクロルベンゼン類は、オルソジクロルベンゼン、メタジクロルベンゼン、パラジクロルベンゼン、またはこれらの2種または3種の混合物である。
  4. 溶媒としてジクロルベンゼン類を用いて、アニソールと無水コハク酸とをルイス酸を用いて反応させて、4−メトキシフェニル−4−オキソ−酪酸を製造し、次いで、4−メトキシフェニル−4−オキソ−酪酸を還元し、酸ハライドに変換し、得られる4−メトキシフェニル酪酸ハライドを、溶媒としてジクロルベンゼン類を用いて、ルイス酸の存在下に環化させる、7−メトキシ−1−テトラロン類の製造方法。
    ただし、ジクロルベンゼン類は、オルソジクロルベンゼン、メタジクロルベンゼン、パラジクロルベンゼン、またはこれらの2種または3種の混合物である。
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