JP4282799B2 - β−リン酸三カルシウム被覆材の製造方法 - Google Patents

β−リン酸三カルシウム被覆材の製造方法 Download PDF

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【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、リン酸カルシウム材の製造方法に関し、更に本発明は今後訪れる高齢化社会において需要の増加が見込まれる人工関節、人工歯根等に利用される金属へのセラミックスコーティング分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
生体材料とはリンとカルシウムを主成分とする化合物で、これは生体の骨と同じ結晶構造となっている場合が多い。これら化合物はセラミックスとして製造されるのが一般的で、その機械的特性も一般的なセラミックスと大差はない。
この様な生体材料が、代替材となるためには他の要件も具備しなければならないのが条件となる。
この様な条件を履行する際、熱、圧力、酸化等、様々な外的要因を受けることから、変性してしまう場合が多く、生体材料としての条件を満たさない場合が多々ある。
特にリン酸カルシウム系の化合物においては、物質として安定性に欠ける場合が多く、
より外的な要因を受けやすいのである。
【0003】
生体骨、歯等の代替材を形成する場合、芯材に溶射被覆処理を施して表面にリン酸カルシウム系化合物の被覆層を得る手法が好適に使用されるが、その手法によって得られる代替材の場合について以下に説明する。
【0004】
骨粗鬆症に代表される重篤な骨折を修復する手段として人工関節を用いる症例が増えている。これは今後訪れる高齢化社会においてますます需要の増加が予想される産業分野の一つであると考えられる。現在の人工関節や人工歯根に使用されている材料はチタン又はチタン合金が主流である。この金属は生体適合性に優れているが、さらに生体親和性のある材料(生体材料)を表面にコーティングすることにより骨との初期結合力の増加、生体による異物反応の軽減などが期待できる。
【0005】
生体骨、歯等の代替材を形成する場合、芯材に被覆処理を施して表面にリン酸カルシウム系化合物の被覆層をえる手法が好適に使用される。その手法によって得られる代替材の場合について以下に説明する。
金属表面に生体材料をコーティングする技術はこれまでに多く発明されてきている。その技術の一つとしてプラズマ溶射法がある。基材となる金属表面をサンドブラストなどで粗雑にし、プラズマ炎により溶融させたセラミックス粉末を金属表面に吹き付ける方法である。セラミックスと金属との接着力は十分であり、コーティング材としてリン酸カルシウムを使用することも可能である。リン酸カルシウムをコーティングした製品としては人工関節の他に人工歯根などへの応用も盛んに行われている。しかし、この方法では高温でセラミックスを溶融させるため、セラミックスが組成変化を生じ易く、コーティングされたセラミックスは原料セラミックスと比べると若干の分解生成物を含んでいる場合が多い。
【0006】
リン酸カルシウムの分解生成物としては酸化カルシウム、リン酸四カルシウム、α−リン酸三カルシウム等があり、これら分解生成物は生体内での溶解性が高く、コーティング層の脆弱化を招く可能性がある。
また、現在製品に応用されているこれら生体材料はその大部分が化学量論比に準じた組成を有している。しかしながら骨は生体内の微量元素を含んでいるために化学量論比とは異なる組成となっている。
【0007】
最近の研究ではこの生体内微量元素を固溶した材料が化学量論比に準じた材料よりも生体反応が良いという報告もなされており、注目を集めている。しかし、生体内微量元素を含む生体材料を金属にプラズマ溶射すると前述のような分解生成物が生成されてしまい目的のコーティング層を得るのは困難である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記事項を鑑みなされたものであって、生体親和性の向上を目的としたリン酸カルシウム材を得る際、リンイオンを含む水溶液を付着せしめた後、真空又は不活性ガス雰囲気下で焼成処理する工程を付加することにより、製造過程で、生体親和性を充分に発揮するリン酸カルシウム材を実現するものであり、更には生体内微量元素を添加して骨増生能力に優れたリン酸カルシウム材を製造する簡便な方法を提供する。
【0009】
本発明は、少なくともリン酸カルシウムが変成し得る或いは変成する恐れのある処理工程の次の工程として存在する他、変成しない場合でも生体親和性を高める為に付加される工程であっても良い。
リンイオンを含む水溶液とは、例えばリン酸希釈水溶液、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウムが示され、その濃度は1重量%〜50重量%、好ましくは濃度10重量%〜30重量%、温度は、5℃〜50℃が示され、好ましくは常温と呼ばれ得る範囲が示され、その範囲でより具体的には15℃〜40℃が例示される。
【0010】
当該リンイオンを含む水溶液を付着させる為のものとは、ハイドロキシアパタイト、TCP、4CP、ブルッシャイト、モネタイト、メタリン酸カルシウム等のリン酸カルシウム化合物であって、顆粒状、粉状或いは、成形体等形状等、少なくとも固体状のものであればよい。又、付着前においては、生体親和性が無くても良く、その範囲でリン酸カルシウム化合物が適宜選択される。
又、リンイオンを含む水溶液の付着とは、塗布、浸すこと等を示すものであって、その表面に痕跡が残る程度の付着であれば、特に限定されない。
本発明における真空又は不活性ガス雰囲気下での焼成とは、真空状態或いはそれに近い状態(例えば40Pa以下)であればよく、「又は」には真空及び不活性ガスの混合状態をも含むことを意識的に付加させる。
【0011】
不活性ガスとは、例えばアルゴンガス、窒素ガスが示され、焼成の温度とは、300℃〜1500℃、好的には800℃〜1200℃の範囲が示される。焼成時間は1分以上で、好適には10分〜1時間が例示されるが、大きさ、材質等によっては1分以下でも良い場合もあり、限定されるものではない。
本発明における添加元素は、生体内に既存する微量元素であって、例えばMg、Zn、B、Fe、Cl等が例示され、好ましくは、Mg、Zn,Feが示される。リンイオンを含む水溶液に添加する量は、リンイオンを含む水溶液中の濃度が0.1重量%〜30重量%で、好ましくは0.1重量%〜10重量%になるように調整される。
尚、微量元素は生体部位、埋入期間、作用効果等によって、その添加する種類が適宜変更される場合もある。例えば、骨増成を促進させるためには、Znが有効で、リンイオンを含む水溶液への添加量は0.1重量%〜10重量%となる。
【0012】
本発明の製造方法によって得られたリン酸カルシウム材は、主にβ−TCPと呼ばれるものであり、β−TCPとは、Ca3(PO42の化学組成をもち、低温(常温)において安定であり、生体親和性において早期骨置能という点で他のリン酸カルシウム系化合物よりも優れているが、当該処理工程によって生成されるものであれば、必ずしも一部又は全部がβ−TCPとは限らない場合もあ得るので、少なくとも、当該処理を施すことによりリン酸カルシウム材が得られればその結果の材質を問わず本発明は達成されたものと見なせる。
【0013】
次にコーテイング材に対する本発明の処理について詳細に説明する。
従来の方法により基材となる金属に生体材料をコーティングする。基材となる金属としてはチタン、チタン合金、ステンレス、フェライト系ステンレス、好ましくはチタン、チタン合金等が挙げられ、比較的生体親和性の良いものを選ぶ。場合によっては各種セラミックス、好ましくはアルミナ、ハイドロキシアパタイト、結晶化ガラスでも好適に作用する。コーティングする生体材料としてはハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、ブルッシャイト、モネタイト、リン酸四カルシウム、メタリン酸カルシウム、好ましくはハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウムが挙げられる。
コーテイング方法としては、プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法等が例示されるが、この中でも、プラズマ溶射法が、芯材との結合性等に優れている点で、好適に利用される。
【0014】
基材にコーティングされている材料に上記記載のリン酸を含んだ水溶液を塗布、噴霧又は基材を水溶液中に浸漬する。リン酸水溶液の濃度及び浸漬時間、塗布量などは互いに相関しており、目的とするコーティング層に応じて適宜決定される。この水溶液に上記記載の生体微量元素イオンを混入することにより後述の加熱工程において、これら金属をコーティング層に固溶させることが可能である。
尚、リンイオンを含む水溶液の処理は、いわゆるコーテイング処理を施した後であればよく、例えば、リンイオンを含む水溶液の処理が複数回行われる場合、2重のコーテイングの中間処理に使用される場合もあるが、通常、最外層であって、少なくとも生体との接触面に当該処理が施されることが好ましいものである。
【0015】
この状態で自然乾燥し、水分を除去する。その後、真空または不活性ガス雰囲気下において焼成を行う。焼成温度は目的とする結晶相によって異なるが、300〜1500℃、好ましくは800〜1200℃が好適に作用される。この焼成工程により、コーティング層にリン酸が付加され、はじめに形成されていた結晶相よりもリンが多いリン酸カルシウム化合物へと変換することが可能である。
この焼成はコーティング時に生成した分解生成物も新しいリン酸カルシウム化合物へと変化させる効果がある。また、結晶性も向上し、より純度の高いコーティング層へと変化する。
【0016】
リンイオン水溶液中に生体内微量元素が含まれていた場合、条件によってはこの焼成によりコーティング層であるリン酸カルシウム化合物に固溶する。例えばコーティング層に亜鉛を固溶させた場合、骨増生能力の高いリン酸カルシウムコーティング層に変換することが可能である。
【0017】
この焼成温度域において基材となる金属の酸化が懸念されるが、真空又は不活性ガス下で焼成を行うことにより、この問題を回避することが可能である。
最初にコーティングする生体材料の膜厚と塗布又は浸漬するリン酸水溶液の濃度をコントロールすることによりコーティング表面と内部で結晶構造が異なる傾斜材料を作製することが可能である。例えば、表面に骨吸収性材料、内部に非骨吸収性材料を配置することにより骨増生能力の強化とコーティング相の溶解防止を兼ね備えた製品を製造することができる。この方法は従来の「重ね塗り」のようなコーティング層とは異なり、表面から内部にかけてきれいな傾斜様相を示す。
【0018】
【実施例】
実施例1
表面をブラスト加工してあるJIS2種チタン板上にリン酸三カルシウムをプラズマ溶射した。この時、チタン板上のリン酸三カルシウムは粉末X線回折により結晶性の悪いα-リン酸三カルシウム相でることが確認できた。また、膜厚は30μmである。このコーティング層に10%H3PO4水溶液を塗布し、真空焼成炉で1000℃で30分間焼成した。
この様にして変換したコーティング層の主成分はβ-リン酸三カルシウムであることが粉末X線回折より確認でき、コーティング層の剥離はなかった。また、コーティング層に塗布ではなく30秒浸漬したサンプルを真空焼成しても同様の結果が得られた。
図1に結果を示す。
【0019】
実施例2
実施例1で作製したプラズマ溶射プレートに10%H3PO4+10%硝酸亜鉛水溶液を塗布し、真空焼成炉で1000℃で30分間焼成した。この様にして変換したコーティング層の主成分はβ-リン酸三カルシウムであることが粉末X線回折より確認でき、コーティング層の剥離はなかった。さらに、亜鉛の固溶を示す特定回折ピークのシフトが確認することができた。
【0020】
【発明の効果】
上述のごとく本発明は、リンイオンを含む溶液を塗布又は浸漬後真空中又は不活性ガス雰囲気中で焼成するという方法により、従来の生体材料よりも生体反応が良いリン酸カルシウム材が簡便に製造できる。
又、人工関節、人工歯根等は従来のコーティング層を有する製品よりも骨増生能力において優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を説明するための図。

Claims (3)

  1. 芯材にリン酸カルシウム系の化合物のプラズマ溶射法を用いてリン酸カルシウム被覆層を形成する工程、前記リン酸カルシウム被覆層にリンイオンを含む水溶液を塗布する工程、真空又は不活性ガス雰囲気下で焼成処理温度が800〜1200℃、1時間以内の範囲で焼成処理する工程によりβ−リン酸三カルシウム被覆材を製造するβ−リン酸三カルシウム被覆材の製造方法。
  2. 前記リンイオンを含む水溶液にMg、Zn,Fe、B、Cl、から選ばれた元素を添加する請求項1に記載のβ−リン酸三カルシウム被覆材の製造方法。
  3. 前記元素を0.1重量%〜10重量%の範囲で含ませてなる請求項2に記載のβ−リン酸三カルシウム被覆材の製造方法。
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