JP4282279B2 - 窒化物半導体レーザ素子及びそれを搭載した装置とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化物半導体基板と該窒化物半導体基板の表面に積層される複数の窒化物半導体層からなる窒化物半導体積層部とを備えた窒化物半導体レーザ素子、及びそれを搭載した装置とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
半導体レーザ素子は、単色性が良く強い光が放射されるので、レーザ出射光を集光したときのスポットサイズを小さくすることができる。その性質を利用して光ディスクや光磁気ディスク等の光が照射されて記録及び再生が行われる記録メディアの駆動装置における光ピックアップの光源に用いられる。特に波長が短く且つ高出力が得られる窒化物半導体レーザ素子は、DVD等の高密度記録メディアの駆動装置としての応用が期待され、赤色半導体レーザ素子に代わる光ピックアップ素子として注目されている。
【0003】
現在、GaN、InN、AlN及びそれら混晶半導体に代表される窒化物系半導体材料からなる活性層を内包した半導体レーザ素子が開発されている。また、この半導体レーザ素子を搭載した半導体レーザ装置が試作されている。
【0004】
このような窒化物半導体レーザ素子の構造の一例を図7に示す。図7の窒化物半導体レーザ素子100は、窒化物半導体基板101の表面に複数の窒化物半導体層からなる窒化物半導体積層部102が形成されている。なお、窒化物半導体積層部102の詳細な構成については省略する。また、窒化物半導体基板101の裏面にはn電極103が形成され、窒化物半導体積層部102の上面には絶縁膜104、更にp電極105が形成されている。そして、絶縁膜104には、絶縁膜104の中心を通り、共振器方向に延伸したストライプ状のリッジ部106が形成され、p電極105と窒化物半導体積層部102とを通電している。
【0005】
また、この窒化物半導体レーザ素子100は、半田を用いてステムに接着され、窒化物半導体レーザ装置が作成される。図8は、窒化物半導体レーザ素子をマウントする方法を示す図である。図8では窒化物半導体レーザ素子100の層構成を省略している。素子搭載部107に半田を載せ、半田を溶かして窒化物半導体レーザ素子100をマウントする。次に、コレット109を用いて窒化物半導体レーザ素子100の上面を適当な荷重で押下する。その際、図8の実線と破線のコレット109で示すようにリッジ部106を避けて2回押下(矢印B、C)する。108はコレット109で押下されて半田とn電極103とが溶けて混ざったものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、コレット109で2回押下する方法では、均一に押下しないと窒化物半導体レーザ素子100が傾いた状態でマウントされてしまったり、n電極103全体の一部しか半田と溶け合わなかったりする。その結果、接着強度が低下し、後工程のワイヤボンドの際に窒化物半導体レーザ素子100が素子搭載部107から取れてしまうことがあった。
【0007】
ところで、従来より半導体レーザ素子において、活性層の圧縮歪みが素子の特性に影響を与えていることは知られていたが、活性層の圧縮歪みの内面分布に関して詳細にはわかっていなかった。また、素子のリッジ部の位置と圧縮歪みの内面分布との関係も不明であった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、活性層の圧縮歪みの内面分布に関して詳細な知見を得て、その内面分布を利用してリッジ部の位置を規定し、長寿命化及び生産性(歩留まり)の向上を実現する窒化物半導体レーザ素子を提供することを目的とする。また、その窒化物半導体レーザ素子を搭載した窒化物半導体レーザ装置を提供することも目的とする。更に、その窒化物半導体レーザ装置の製造方法を提供することも目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明の窒化物半導体レーザ素子は、窒化物半導体基板と該窒化物半導体基板の表面に積層される複数の窒化物半導体層からなる窒化物半導体積層部とを備えた窒化物半導体レーザ素子において、前記窒化物半導体積層部の中の活性層が前記窒化物半導体基板より大きな格子定数の材料で形成され、前記窒化物半導体積層部に形成された電流注入部が前記窒化物半導体積層部の端から20μm以上80μm以下の範囲に形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
この構成によると、活性層の圧縮歪みの素子分割後の内面分布を測定し、圧縮歪み量の小さい20μm以上80μm以下の範囲に電流注入部を形成しているので、圧縮歪みの影響を緩和して窒化物半導体レーザ素子の長寿命化を実現できる。
【0011】
なお、閾値電流と相関から、前記電流注入部の幅は1μm以上5μm以下とするのが好ましい。また、実験結果より、前記活性層の平均In組成が0.02以上であれば良い。
【0012】
また本発明の窒化物半導体レーザ装置は、上記の窒化物半導体レーザ素子を搭載したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の窒化物半導体レーザ装置の製造方法は、窒化物半導体基板の表面に複数の窒化物半導体層からなる窒化物半導体積層部を形成する際に、電流注入部を該窒化物半導体積層部の端から20μm以上80μm以下の範囲に形成する工程と、該工程により作成された窒化物半導体レーザ素子の上面の中心部を押下して支持基体にマウントする工程とを備えたものである。
【0014】
この工程により、窒化物半導体レーザ素子は強い接着強度が得られ、窒化物半導体レーザ素子がとれることが軽減される。従って、素子の長寿命化とともに、生産性(歩留まり)が向上する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本明細書において、「窒化物半導体レーザ素子」とは、AlxInyGa1-x-yN(0≦x,y≦1、x+y=1)を少なくとも含む窒化物半導体が、活性層材料として用いられた半導体レーザ素子を指すものとする。
【0016】
また、「窒化物半導体」とは、通常、AlxInyGa1-x-yNからなる六方晶構造結晶を指すが、そのIII族元素(20%程度以下)の一部をB,Cr,V,Ti,Nb,Ta,Zr,Sc,Tl,Gd,La等の他の元素で置換した六方晶構造結晶や、そのN元素の一部(20%程度以下)をP,As,Sb等の他の元素で置換した六方晶構造結晶も含むものとする。また、六方晶構造結晶の多層構造中に異なる結晶材料層が混入したものも含む。更に、各半導体層中にB,Al,In,Tl,P,As,Sb,Be,Mg,Cd,Zn,C,Si,Ge,Sn,O,S,Se,Te,H,Sc,Cu,Fe,Ti,V,Cr,Y,Zr,Nb,ランタノイド等が添加されたものも含む。
【0017】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、半導体レーザ素子の構造の一例を示す斜視図である。窒化物半導体レーザ素子10は、n型GaN基板11(厚さ100μm)の表面に、窒化物半導体の積層体12が形成されている。また、n型GaN基板11の裏面にはn電極13が形成され、積層体12上にはSiO2等の絶縁膜14を介してp電極15が形成されている。
【0018】
上記の積層体12は、n型GaN基板11の表面に、n型GaN層16(厚さ4μm)、n型Al0.1Ga0.9Nからなるn型クラッド層17(厚さ1μm)、n型GaNからなるn型ガイド層18(厚さ0.1μm)、InGaN多重量子井戸構造からなる活性層19(厚さ440Å)、p型Al0.3Ga0.7Nからなる蒸発防止層20(厚さ200Å)、p型GaNからなるp型ガイド層21(厚さ0.1μm)、p型Al0.1Ga0.9Nからなるp型クラッド層22(厚さ0.5μm)、p型GaNからなるp型コンタクト層23(厚さ0.1μm)が順に積層されて構成されている。
【0019】
また、p型クラッド層22及びp型コンタクト層23には、共振器方向に延伸したストライプ状のリッジ部(電流注入部)24が設けられ、リッジ部24を除いて絶縁膜14が形成されている。
【0020】
なお、p電極15は、Pd/Mo/Auの順で蒸着されて形成される。このときPd/Mo/Auの層厚はそれぞれ150Å/150Å/200Åとした。また、窒化物半導体レーザ素子10の端面には、共振器端面の反射率を制御する目的で、HRコート又はARコートが施されている。
【0021】
次に、活性層19について詳細に説明する。活性層19は障壁層及び井戸層が交互に複数層設けられて形成される。本実施形態においては、3QW(quantum well)を用い、障壁層のIn組成は0.05、層厚は80Å、井戸層のIn組成は0.15、層厚は40Åである。活性層19内の両端は障壁層となっているため活性層19の層厚は440Åとなる。また、この場合の平均In組成XaveはX線回折測定等から求められ、以下の式によって算出される。
Xave=(Ta×Xa+Tb×Xb)/(Ta+Tb)
Ta:障壁層の膜厚
Xa:障壁層のIn組成
Tb:井戸層の膜厚
Xb:井戸層のIn組成
つまり、上記の条件で成膜された活性層の平均In組成は0.083となる。なお、井戸層数を2QW〜9QWまで一層ずつ増加させて実験を行った結果、以下に記載する結果と同様の結果が得られたため問題なく適用することができる。
【0022】
このように、本実施形態の窒化物半導体レーザ素子10は、所謂リッジストライプ型の構造をとっている。リッジ部24の幅は窒化物半導体レーザ素子10の閾値電流と相関があり、1μm≦リッジ部の幅≦5μmが適切であった。
【0023】
なお、図1に示した距離dは、リッジ部24の中心から窒化物半導体レーザ素子10の端部までの距離である。本実施形態においては、リッジストライプ型の窒化物半導体レーザ素子10を例に説明しているが、他に、電極ストライプ型の窒化物半導体レーザ素子やリッジ埋め込み型の窒化物半導体レーザ素子等も問題なく適用することができる。
【0024】
本明細書において、電流注入部とは、リッジストライプ型の窒化物半導体レーザ素子であればリッジ部であり、電極ストライプ型の窒化物半導体レーザ素子であれば電極ストライプ部であり、通常p層側に形成された電流注入部分を指す。その際、距離dは、例えば電極ストライプ型の場合はストライプの中心となるように、電流注入部分の中心から素子の端部までの距離と規定する。
【0025】
以下に、窒化物半導体レーザ装置の製造方法を説明する。まず、周知技術を利用して上記の窒化物半導体レーザ素子10の単位構造が多数形成された半導体レーザウェハーを得る。なお、本実施形態で用いたn型GaN基板11の厚みは350μmである。
【0026】
次に、n型GaN基板11の裏面側から研磨又はエッチングにより基板の一部を除去し、n型GaN基板11と積層部12とp電極15で構成される半導体レーザウェハーの厚みを40〜200μm程度に調整する。これにより、半導体レーザウェハーを分割しやすい厚さにしている。本実施形態においては、研削機を用いて半導体レーザウェハーの厚みを120μmに調整した後、研磨機を用いて100μmに調整した。
【0027】
次に、真空蒸着法やイオンプレーティング法やスパッタ法等を用いてn型GaN基板11の裏面側からTi/Al/Mo/Auの順でn電極13を形成する。このとき、Ti/Al/Mo/Auの層厚はそれぞれ300Å/1500Å/80Å/1500Åとした。Ti/Al層はn型GaN基板11とのオーミック接触をとるための層であり、Mo層はAuとAlが相互拡散することを防止するためのブロック層、Au層はマウントの際にステム上に形成された半田と混合し、強固に窒化物半導体レーザ素子10をマウントするための層である。
【0028】
次に、半導体レーザウェハーを分割する。図2は、半導体レーザウェハーの分割方法を説明する図である。図2(a)は半導体レーザウェハー25の側面図、図2(b)は半導体レーザウェハー25の平面図である。半導体レーザウェハー25には、表面にダイヤモンドポイントでけがかれたスクライブライン26が形成されている。半導体レーザウェハー25を分割するには、まず、p電極15側(表面)を上にしてステージ上に置き、光学顕微鏡を用いて傷入れ位置をアライメントし、半導体レーザウェハー25の表面にダイヤモンドポイントでスクライブライン26を入れる。なお、スクライブライン26は図1で示した距離dが80μm以下になるように形成する。このスクライブライン26の位置で半導体レーザウェハー25は分割されるため、スクライブライン26の位置を変えることにより距離dを制御することができる。なお、本実施形態においては、距離dを70μmとした。また、スクライブライン26は、破線状に形成すると精度良く分割することができる。
【0029】
スクライブライン26の形成後に、半導体レーザウェハー25に力を加えてスクライブライン26に沿って分割する。その後、同様に共振器方向と平行な方向に分割することで図1に示した窒化物半導体レーザ素子10が得られる。
【0030】
ここでは、スクライビング法による素子分割工程について説明したが、半導体レーザウェハー25の裏面側から傷や溝を形成して分割する方法であれば、同様にアライメントが可能であり、同様の窒化物半導体レーザ素子10が得られる。他の手法としては、例えば、ワイヤソー又は薄板ブレードを用いて傷入れ又は切断を行うダイシング法、エキシマレーザ等のレーザ光の照射加熱とその後の急冷により照射部にクラックを生じさせてスクライブラインを生成するレーザスクライビング法、高エネルギー密度のレーザ光を照射して照射部分を蒸発させて溝入れ加工を行うレーザアブレーション法等が挙げられる。
【0031】
なお、窒化物半導体レーザ素子10のサイズは、キャビティ長方向(図1のL方向)に350μm〜1.5mm、キャビティ長と垂直方向(図1のW方向)に200μm〜800μmの範囲で作成すればよい。本実施形態においては、L=500μm、W=400μmとした。
【0032】
次に、作成した窒化物半導体レーザ素子10をダイボンディング法によりサブマウントにマウント等して窒化物半導体レーザ装置を得る。図3は、窒化物半導体レーザ装置30の一例を示す斜視図である。ステム31に突起するように形成された素子搭載部32の表面上に半田(不図示)で支持基体であるサブマウント33が固着される。そして、サブマウント33の表面上に半田34で窒化物半導体レーザ素子10が固着される。また、窒化物半導体素子10の裏面のn電極は半田34と導通し、半田34と素子搭載部32とが金線35によりボンディングされる。一方、窒化物半導体素子10の表面のp電極はステム31から絶縁されたピン36と金線37によりボンディングされる。なお、サブマウント33は必ずしも必要ではなく、窒化物半導体レーザ素子10を直接素子搭載部32に固着してもよい。そのとき、支持基体は素子搭載部32である。
【0033】
更に、窒化物半導体レーザ素子10の後方に光出力モニター用PD(以下、PDと記す)38の受光面が窒化物半導体レーザ素子10の端面と対向するかたちで配置される。このPD38は窒化物半導体レーザ素子10の後方端面から出るレーザ光(誘導放出光)をモニターするためのものである。PD38は電極を有しステム31から絶縁されたピン39と金線40によりボンディングされる。これにより、窒化物半導体レーザ素子10から出たレーザ光をPD38が受光した際に生じるモニター電流を外部で測定することができる。
【0034】
上記のサブマウント33はCuの表面にNi/Auをメッキしたものである。半田34にはAuSnを用い、その塗布後の厚みは1〜20μm程度とする。なお、半田34は塗布する他に、蒸着法、スパッタ法、印刷法、メッキ法等を用いてもよい。また、半田34はAuSnの他に、PbSn、Inや、SnAgCu又はSnを主成分としてCu、Bi、Ag、In、Ge等を含んだ材料を用いてもよい。
【0035】
上記の半田34の材料のほとんどは、融点が150〜320℃程度であり、マウントする際には融点より高い温度に加熱する必要がある。半田34にAuSnを用いた本実施形態においては、サブマウント33を半田の融点より若干高い300℃程度に加熱し、半田34が融解したところで窒化物半導体レーザ素子10を載せ、更に、荷重を適宜加えながら温度を1分程度保持し、n電極と半田34とをよく馴染ませる。これにより、n電極の表面のAu層が半田34中に溶解し、半田34との合金が形成される。その後、半田34が固化するまでサブマウント33を冷却する。なお、サブマウント33に半田を塗布する代わりに、窒化物半導体レーザ素子10に半田34を塗布してもよい。
【0036】
通常、この窒化物半導体レーザ素子10をサブマウント33に固着する際に重要となるのが接着強度である。この接着強度を決定する重要な要素の一つに合金の形成がある。つまり、n電極と半田34とをよく馴染ませることが重要である。そのためには、温度管理が必要である。温度が低いとn電極の面積の一部しか溶け合わず、接着強度が低下し、ワイヤーボンディングのときに窒化物半導体レーザ素子10がとれるおそれがある。更に、従来例のようにコレット109で2回押下する方法も窒化物半導体レーザ素子10がとれるおそれがあった。
【0037】
そこで、本発明においては、以下の方法を用いる。図4は、窒化物半導体レーザ素子10をマウントする方法を示す図である。図4では窒化物半導体レーザ素子10の層構成を省略している。サブマウント33に半田34を載せ、半田34を溶かして窒化物半導体レーザ素子10を載せる。次に、コレット40を用いて窒化物半導体レーザ素子10の上面を適当な荷重で押下する(図4の矢印A)。その際、リッジ部24を避けて窒化物半導体レーザ素子10の中心を押下する。
【0038】
このように、リッジ部24が端部付近に形成された窒化物半導体レーザ素子10を用いることによりコレット40で素子上面の中心を押下することができるので、窒化物半導体レーザ素子10が均一に押下され、n電極と半田34とが均一に溶け合い、窒化物半導体レーザ素子10が傾いて固着されることもない。従って、強い接着強度が得られ、窒化物半導体レーザ素子10がとれるおそれが軽減される。
【0039】
このマウントされた窒化物半導体レーザ素子10が後の工程(ワイヤーボンディング等)でとれてしまう歩留まりを調査したところ、95%であった。一方、従来の方法でマウントした素子についての歩留まりは65%であり、大幅な歩留まり向上が確認された。
【0040】
次に、サブマウント33が半田で素子搭載部32に固着され、各ワイヤーボンディングが施され、図3のように作成された後、窒素雰囲気下で400nm付近の光吸収が少ないガラスを有した金属製のキャップを圧着して窒素封入することにより窒化物半導体レーザ装置が得られる。
【0041】
次に、上記で得られた窒化物半導体レーザ装置30の寿命試験の結果について説明する。図5は、リッジ部24の位置に対するレーザ発振寿命を示す図である。このレーザ発振寿命は、光出力を30mWとした状態で、APC(Auto Power Control)駆動させたときの窒化物半導体レーザ素子10が駆動可能な連続時間を表す。ここで示す寿命とは、寿命試験を行う前のIop(光出力が30mW時の電流値)が寿命試験により1.5倍になった時点の時間を指す。なお、試験に用いた窒化物半導体レーザ素子10の発光波長は405±5nmである。
【0042】
本実施形態の窒化物半導体レーザ装置30の寿命は3000時間であった。図5より、図1に示した距離dが80μm以下である場合に寿命が延びることがわかる。また、距離dが20μm未満の場合は、電極形成等のプロセスマージンや素子を分割する際のマージンがとれなくなり、窒化物半導体レーザ素子10の良品率が低下し、歩留まりが低下してしまい好ましくない。また、距離dが80μmより大きい場合は、レーザ光出射端面付近と共振方向の中心付近で活性層19の圧縮歪みが異なるため、多モード発振となり、FFP(Far-Field-Pattern)の特性が悪化することがあった。従って、20≦d≦80の範囲で作成することが望ましい。この範囲では圧縮歪みの内面分布が約75%〜95%であり歪み量の範囲が狭いためFFPの特性が悪化することはなかった。そして、更に望ましくは寿命の長い30≦d≦50の範囲である。
【0043】
この結果を踏まえてリッジ部24の位置が寿命に影響を与える原因に関して鋭意研究を行ったところ、窒化物半導体レーザ素子10の活性層19が受ける圧縮歪みが面内の位置で異なることがわかった。窒化物半導体レーザ素子10は活性層19にGaN基板11より格子定数の大きいInGaNを用いている。従って、活性層19はGaN基板11から圧縮歪みを受けることになる。それとともに、素子を分割した後は端面付近では圧縮歪みの緩和が起こる。つまり、窒化物半導体レーザ素子10の外周部分は圧縮歪みの緩和が大きく、中心部分は圧縮歪みが緩和されにくいため大きな歪みを内包していることがわかる。これは以下に示すラマン測定法等から確認できた。
【0044】
図6は、リッジ部24の位置に対する活性層19の圧縮歪み量を示す図である。図6において、窒化物半導体レーザ素子10の中心部分の活性層19の圧縮歪み量を100%としている。図6より、距離dが小さくなる程、圧縮歪み量は減少していることがわかる。即ち、窒化物半導体レーザ素子10の端部に近づく程、圧縮歪みが緩和されていることがわかる。その結果、この圧縮歪みが緩和されている部分(20≦d≦80)にリッジ部24(電流注入部)を形成することにより、窒化物半導体レーザ素子10の寿命を延ばすことができることがわかった。このように、本発明においては、活性層19の圧縮歪みの素子分割後の内面分布を利用して、リッジ部24の位置を決定することにより窒化物半導体レーザ素子10の長寿命化を実現できる。
【0045】
また、活性層19にGaN基板11とほぼ同じ格子定数の材料を用いた場合、上記のような圧縮歪みは生じないと考えられる。そこで、活性層19の格子定数に影響を与えるIn組成を変化させて実験を行った。ここでは、X線回折測定により求められる活性層19の井戸層と障壁層の周期構造によるサテライトピークの位置から井戸層と障壁層の平均In組成を求めた。井戸層と障壁層ではIn組成が異なるため、その層厚に対する荷重平均をとった値が平均In組成となる。なお、図6は平均In組成が0.035の窒化物半導体レーザ素子10を用いた。また、平均In組成が0.020以上のときは図6と同じプロファイルを示したのでその詳細な説明を省略する。従って、活性層19の平均In組成が0.020以上であれば、本発明を問題なく適用することができる。
【0046】
なお、平均In組成が0.020より小さくなると、距離dに対する圧縮歪みの変化が小さくなり、寿命の変化もなくなる。これは、活性層19に対してGaN基板11からの圧縮歪みが減少したものと考えられる。
【0047】
【発明の効果】
本発明によると、活性層の圧縮歪みの素子分割後の内面分布を測定し、圧縮歪み量の小さい20μm以上80μm以下の範囲に電流注入部を形成しているので、圧縮歪みの影響を緩和して窒化物半導体レーザ素子の長寿命化を実現できる。
【0048】
また本発明によると、窒化物半導体レーザ装置の製造方法は、窒化物半導体基板の表面に複数の窒化物半導体層からなる窒化物半導体積層部を形成する際に、電流注入部を該窒化物半導体積層部の端から20μm以上80μm以下の範囲に形成する工程と、該工程により作成された窒化物半導体レーザ素子の上面の中心部を押下して支持基体にマウントし、窒化物半導体レーザ装置を作成する工程とを備えることにより、窒化物半導体レーザ素子は強い接着強度が得られ、窒化物半導体レーザ素子がとれることが軽減される。従って、素子の長寿命化とともに、生産性(歩留まり)が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の半導体レーザ素子の構造の一例を示す斜視図である。
【図2】(a)本発明の半導体レーザウェハーの側面図である。
(b)本発明の半導体レーザウェハーの平面図である。
【図3】 本発明の窒化物半導体レーザ装置の一例を示す斜視図である。
【図4】 本発明の窒化物半導体レーザ素子をマウントする方法を示す図である。
【図5】 本発明のリッジ部の位置に対するレーザ発振寿命を示す図である。
【図6】 本発明のリッジ部の位置に対する活性層の圧縮歪み量を示す図である。
【図7】 従来の窒化物半導体レーザ素子の構造の一例を示す図である。
【図8】 従来の窒化物半導体レーザ素子をマウントする方法を示す図である。
【符号の説明】
10 窒化物半導体レーザ素子
11 n型GaN基板(窒化物半導体基板)
12 積層体(窒化物半導体積層部)
19 活性層
24 リッジ部(電流注入部)
30 窒化物半導体レーザ装置
Claims (6)
- 窒化物半導体基板と該窒化物半導体基板の表面に積層される複数の窒化物半導体層からなる窒化物半導体積層部とを備え、キャビティ長と垂直方向の長さが200μm〜800μmである窒化物半導体レーザ素子において、
前記窒化物半導体積層部の中の活性層が前記窒化物半導体基板より大きな格子定数の材料で形成され、前記窒化物半導体積層部に形成された電流注入部が前記窒化物半導体積層部の端から20μm以上80μm以下の範囲に形成されていることを特徴とする窒化物半導体レーザ素子。 - 前記電流注入部の幅が1μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体レーザ素子。
- 前記活性層の平均In組成が0.02以上であることを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体レーザ素子。
- 請求項1〜3の何れかに記載の窒化物半導体レーザ素子を搭載した窒化物半導体レーザ装置。
- 前記窒化物半導体基板に形成されたn電極と、サブマウントとを備え、
該サブマウントの表面上に半田を溶融させて前記窒化物半導体レーザ素子を固着することを特徴とする請求項4記載の窒化物半導体レーザ装置。 - キャビティ長と垂直方向の長さが200μm〜800μmである窒化物半導体レーザ素子を搭載した窒化物半導体レーザ装置の製造方法において、
窒化物半導体基板の表面に複数の窒化物半導体層からなる窒化物半導体積層部を形成する際に、電流注入部を該窒化物半導体積層部の端から20μm以上80μm以下の範囲に形成する工程と、
該工程により作成された窒化物半導体レーザ素子の上面の中心部を押下して支持基体にマウントする工程とを備えたことを特徴とする窒化物半導体レーザ装置の製造方法。
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