JP4281501B2 - 被削性並びに疲労特性に優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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他方、近年の環境問題から、自動車用部材に対する軽量化への要求に代表されるように、上記部品のコンパクト化、軽量化および長寿命化への要求が強く、この観点からこの種部品の疲労強度の一層の向上が要求されている。
すなわち、強度の上昇にもかかわらず、必ずしも疲労強度が向上しないことがある点である。この疲労強度の低下は、直接部品の寿命を左右する問題点である。発明者らは、これを黒鉛の析出部が疲労亀裂の発生そして伝播のサイトとなりやすいことが原因と推定し、鋭意検討した結果、一定の析出寸法を下回って微細に析出した黒鉛は、析出量によらず実質的に疲労強度低下の原因とはならないことを明らかにした。また、黒鉛の微細析出は熱間加工時の総加工度を70%以上とし、金属組織全体を微細組織とすることで著しい効果をもって達成可能であることも、併せて明らかにした。
以上の知見に基いて、本発明を導くに到った。
(1)C:0.2 〜 1.5mass%、Si:0.3 〜 2.0mass%、Mn:1.5 mass%以下、B:0.0005〜0.015 mass%およびN:0.0013〜0.015 mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成を有し、鋼組織が、フェライト、セメンタイトおよび黒鉛からなり、該黒鉛は平均粒径が5μm以下で、しかも粒径が10μm以下の黒鉛粒として析出したC量が全C量の1mass%以上である、炭素鋼からなることを特徴とする被削性並びに疲労特性に優れた鋼材。
Cu:0.3 mass%以下、
Ni:0.3 mass%以下、
Mo:0.6 mass%以下、
Ti:0.05mass%以下および
Nb:0.07mass%以下
から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする被削性並びに疲労特性に優れた鋼材。
Si:0.3 〜 2.0mass%、
Mn:1.5 mass%以下、
B:0.0005〜0.015 mass%および
N:0.0013〜0.015 mass%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する炭素鋼を素材とし、該素材に、950 ℃以上で加熱を施し、その後加工率が70%以上の熱間加工を施すことを特徴とする被削性並びに疲労特性に優れた鋼材の製造方法。
Cu:0.3 mass%以下、
Ni:0.3 mass%以下、
Mo:0.6 mass%以下、
Ti:0.05mass%以下および
Nb:0.07mass%以下
から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする被削性並びに疲労特性に優れた鋼材の製造方法。
本発明の鋼材は、主として軸まわりに回転する要素部品を典型例とする構造部品の素材として供するものであり、まずフェライト、セメンタイト(鉄の炭化物)および黒鉛から成る鋼組織を有する炭素鋼からなることが必要である。なお、パーライトはフェライトとセメンタイトの層状組織であるため、上記に含まれるものとする。
ここで、上述したように、被削性と疲労強度とのバランスの観点から、添加するCの黒鉛としての析出量を制御すること、さらに被削性と疲労強度との両立の観点から、黒鉛の析出形態を微細にすることが肝要になる。従って、黒鉛は平均粒径を5μm以下に、しかも粒径が10μm以下の黒鉛粒として析出したC量を全C量の1mass%以上とし、被削性と疲労強度との高次での両立を実現する。
先ず、組繊中に黒鉛が必要である理由は、鋼材に切削加工を加える際に黒鉛が析出していないと、被削性が劣るからである。黒鉛以外の残部をフェライトおよびセメンタイトとした理由は、鋼材において後述する量およびサイズの黒鉛粒を析出させると、鋼組織はフェライトおよびセメンタイトと、両者の混合組織であるパーライトとになるからである。
一方、本発明においては、疲労強度を上昇するために、固溶Cあるいは炭化物(セメンタイト)による高強度化を図ることが好ましく、従って黒鉛として析出するC量は、鋼中全C量に対して50mass%以下であることが好ましい。
C:0.2 〜1.5 mass%
Cは疲労強度の向上に直接作用する。C含有量が0.2 mass%未満であると、疲労強度向上の効果が十分でなく、一方1.5 mass%を超えると、組織制御を行っても黒鉛の析出の絶対量が多くなりすぎて疲労強度が低下するため、C含有量は0.2 〜1.5 mass%とする。
Siは、黒鉛の析出形態を制御する上で重要な元素である。Si含有量が0.3 mass%未満であると、黒鉛の析出速度が遅くなり、後述する条件の熱間加工を行っても黒鉛を十分に析出させることができなくなる結果、被削性が悪くなる。一方、2.0 mass%を超えて含有すると、疲労強度が低下し、また黒鉛の寸法が大きくなって変形能が低下する傾向があるため、0.3 〜2.0 mass%の範囲に限定した。
Mnは、鋼の強度および疲労強度の向上に効果がある元素であり、好ましくは0.1 mass%以上、より好ましくは0.35mass%以上で含有させる。一方、1.5 mass%を超えて含有すると、強度の向上効果が飽和する上、疲労強度はかえって低下する傾向に転じるため、1.5mass%以下の範囲に限定した。
Bは、鋼中のNと結合してBNとして鋼中に存在することで黒鉛の析出サイトを増加させ、黒鉛の微細析出を促がす作用がある。Bの含有量が0.0005mass%未満では、その効果が十分でなく、微細な黒鉛粒を得ることができなくなる。一方、0.015 mass%を超えると、粒界強度が低下して疲労強度を低下させるため、Bの添加量は0.0005〜0.015 mass%の範囲に限定した。
前述のBNを形成するために、Nは0.0013mass%以上を含有させる必要がある。一方、0.015 mass%を超えて含有すると、やはり疲労強度が低下するため、0.0013〜0.015 mass%の範囲に限定した。
Cu:0.3 mass%以下
Cuは、さらに焼入れ処理を施す場合に、焼入れ性の向上に有効であり、Cuを添加することにより焼入れ性を調整することができる。しかしながら、Cu含有量が0.3 mass%を超えると、熱間加工時に割れが発生し易くなるため、その含有量は0.3 mass%を上限とする。
Niは、Cuと同様に焼入れ性の向上に有効であるため含有させてもよいが、その含有量が0.3 mass%を超えても、それ以上の焼入れ性向上効果は期待できないから、0.3 mass%を上限とする。
Moは、焼入れ性の向上に有用な元素であるため、Cuと同様に焼入れ性を調整するために添加してもよい。しかし、0.6 mass%を超えて含有させると、鋼材の硬さが著しく上昇し、加工性の低下を招く。よって、Moを添加する場合は0.6 mass%を上限とする。
Tiは、鋼中でCおよびNと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる作用も有するので、添加してもよい。しかしながら、0.05mass%を超えて添加してもその効果は飽和するため、0.05mass%を上限とする。
Nbは、鋼中でCおよびNと結合し析出強化元素として作用する。また、焼戻し軟化抵抗性を向上させる作用も有するため添加してもよい。しかしながら、0.07mass%を超えて添加してもその効果は飽和するため、0.07mass%を上限とする。
すなわち、Pは、粒界強度を低下させることにより疲労強度を低下させ、また焼割れを助長する弊害もあるが、0.05mass%までは許容できる。
Sは、鋼中でMnS を形成し、切削性を向上させる作用を有するが、0.02mass%を超えて含有されると粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、0.02mass%までが許容できる。
Oは、酸化物系介在物として鋼中に存在するが、O含有量が多いと疲労寿命が低下する。この点を考慮すると、許容できる上限は0.02mass%である。
Crは、黒鉛の析出を抑制するため、含有されることは好ましくない。しかし、0.1mass%以下であれば許容できる。
Alは、脱酸に有効な元素であるので、O量を低下させるために混入されてもよいが、0.05mass%を超えて含有されてもその効果は飽和するので、0.05mass%まで許容できる。
以上、好適成分組成範囲について説明したが、本発明では、成分組成を上記の範囲に限定するだけでは不十分であり、鋼組織を上記のように調整することが重要である。
まず、所定の成分組成に調整した鋼材を、棒鋼圧延または熱間鍛造などの熱間加工後に、必要に応じて冷間圧延、冷間鍛造または切削加工を施して製品とする。この際、熱間加工するに当っての加熱温度を、950 ℃以上とし、次いで70%以上の加工率とする必要がある。熱間加工時の加熱温度を950 ℃以上とすることによって、鋼中のCを固溶させておき、さらに熱間加工時の加工率を70%以上とすることによって、組織を微細化する。そして、加工率70%以上という強加工による組織の微細化および、適量のBおよびN含有によるBN析出により、多量に黒鉛析出サイトを生成し、熱間加工後の冷却過程において、鋼中Cの1mass%以上を微細な黒鉛粒として析出させ、かつ黒鉛の平均粒径を5μm 以下の微細なものとする。
また、加工率が70%未満であると、黒鉛粒が粗大化するため、黒鉛粒の平均粒径を5μm 以下とすることができなくなる。なお、本発明において、熱間加工時の加工率とは、加工前後での、加工方向と直交する断面の面積の変化率のことを言い、加工前断面積S1 、、加工後断面積S2 とから(S2 −S1 )/S2 ×100 で求められる値(%)である。
この空冷後に、直棒の断面の金属組織を観察すると共に、走査型電子顕微鏡組織において観察される、析出黒鉛の平均面積率を画像解析装置により測定し、比重と析出量率とから析出C量率を算出した。但し、一部の試料では、未固溶の大型黒鉛が組織中に残存していたが、これらと区別して、析出径10μm以下の黒鉛を析出した黒鉛とみなして処理した。また、得られた直棒の被削性、ねじり強度、ねじり疲労強度および回転曲げ疲労強度を評価した。これらの測定および評価結果を表2にまとめて示す。
ねじり強度は、直棒の軸方向に平行部がφ20mmの平滑丸棒ねじり試験片を作製し、4900N・m(500kgf・m)のねじり試験機を用いて最大ねじりせん断強さを求め、ねじり強度とした。
ねじり疲労強度は、上記と同寸の試験片を用い、ねじり疲労試験機で繰り返し捻回荷重を付与し、破断までの回数からねじり疲労曲線を作成し、2×105 回ねじり負荷応力を求めた。
回転曲げ疲労強度は、直棒の軸方向を試験片の長さ方向にとって、JIS Z 2274に準拠した1号試験片(平行部8mmφ)を採取し、小野式回転曲げ疲労試験機を用いて試験し、1.2 ×107 回で破断しない限界応力を疲労限として求め、評価した。
Claims (4)
- C:0.2 〜 1.5mass%、
Si:0.3 〜 2.0mass%、
Mn:1.5 mass%以下、
B:0.0005〜0.015 mass%および
N:0.0013〜0.015 mass%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成を有し、
鋼組織が、フェライト、セメンタイトおよび黒鉛からなり、該黒鉛は平均粒径が5μm以下で、しかも粒径が10μm以下の黒鉛粒として析出したC量が全C量の1mass%以上である、炭素鋼からなることを特徴とする被削性並びに疲労特性に優れた鋼材。 - 請求項1において、炭素鋼は、さらに、
Cu:0.3 mass%以下、
Ni:0.3 mass%以下、
Mo:0.6 mass%以下、
Ti:0.05mass%以下および
Nb:0.07mass%以下
から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする被削性並びに疲労特性に優れた鋼材。 - C:0.2 〜 1.5mass%、
Si:0.3 〜 2.0mass%、
Mn:1.5 mass%以下、
B:0.0005〜0.015 mass%および
N:0.0013〜0.015 mass%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する炭素鋼を素材とし、該素材に、950 ℃以上で加熱を施し、その後加工率が70%以上の熱間加工を施すことを特徴とする被削性並びに疲労特性に優れた鋼材の製造方法。 - 請求項3において、炭素鋼は、さらに、
Cu:0.3 mass%以下、
Ni:0.3 mass%以下、
Mo:0.6 mass%以下、
Ti:0.05mass%以下および
Nb:0.07mass%以下
から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする被削性並びに疲労特性に優れた鋼材の製造方法。
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