JP4281260B2 - Fm復調器および受信機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は周波数変調された搬送波を受信してデジタル信号処理を用いて復調する受信機に関し、特にマルチパス歪みを抑制する機能に優れた受信機に関する。
【0002】
【従来の技術】
ここで、周波数変調(frequency modulation:以下、FM変調と称す)とは、送信すべき信号の大きさに比例して搬送波(carrier)の周波数を変化させる変調方式である。以下、送信すべき信号を変調信号(modulating signal)、変調信号によりFM変調された搬送波をFM波(frequency modulated wave)、FM波から変調信号を取り出す復調をFM復調(frequency demodulation)、FM復調により取り出された変調信号を復調信号と称す。
【0003】
まず、FM復調の原理について、簡単に説明する。FM波は、搬送波の周波数変化が変調信号の振幅変化に比例したものである。よって、FM波から変調信号、すなわち復調信号を取り出すためには、以下の▲1▼及び▲2▼に示す条件を満たすFM復調器が必要となる。
▲1▼出力信号の振幅が、入力されたFM信号の周波数変化に応答して変化する。
▲2▼出力信号の振幅が、入力されたFM信号の振幅変化に応答しない。
なお、上記▲1▼および▲2▼に示した条件以外にも、FM復調器に求められる条件は種々存在するが、ここでは簡単化のため、説明を省略する。
【0004】
図9は、上記の条件▲1▼および▲2▼を同時に満たす従来のFM復調器を例示する概略図である。図において、9はFM復調器、20は復調部、21は振幅検出部、22は補正係数演算部、23は振幅補正部である。動作について説明する。復調部20は、入力信号x0を復調して出力信号y0を出力する。この出力信号y0は上記条件▲1▼を満たすが、、上記条件▲2▼を満たさない。すなわち出力信号y0には、入力信号x0の振幅変化に対する応答成分(以下、振幅変化応答成分と称す)が含まれる。
【0005】
振幅補正部23は、このような振幅変化応答成分をy0から取り除く。まず、振幅検出部21は、入力信号x0の振幅z0を検出して補正係数演算部22へ出力する。補正係数演算部22は入力された振幅z0に基づき、出力信号y0に含まれる振幅変化応答成分を打ち消すための補正係数z1を出力する。振幅補正部23は、これら復調部20の出力信号y0と、補正係数演算部22の出力係数z1とを乗算することで、出力信号y0から振幅変化応答成分を取り除き、上記条件▲1▼および▲2▼をほぼ満たした復調信号y1として出力する。
【0006】
以下、このような従来のFM復調器について更に詳細に説明する。図10は、従来のFM復調器を有した受信機を例示する構成図であり、ここではFM音声放送受信機の構成を例示している。図において、1はアンテナ、2はRF増幅器、3は周波数変換器、4は局部発振器、5は中間周波フィルタ、6はリミッタ中間周波増幅器、7は前置フィルタ、8はAD変換器、9は図9に示したFM復調器、10はDA変換器、11は音声増幅器、12はスピーカである。
【0007】
動作について説明する。アンテナ1にて受信されたFM波は、RF増幅器2にて増幅された後、周波数変換器3にて周波数変換され、中間周波フィルタ5にて隣接チャンネル波などの不要成分が除去される。中間周波フィルタ5を通ったFM波は、リミッタ中間周波増幅器6にて増幅振幅制限された後、前置フィルタ7にて中間周波数の高調波成分が除去され、AD変換器8にてデジタル信号へ変換される。デジタル変換されたFM波はFM復調器9にて復調された後、DA変換器10にてアナログ音声信号に変換され、音声増幅器11を介してスピーカ12へ出力される。
【0008】
図11は、図9及び図10に示したFM復調器9の詳細を例示する構成図である。このFM復調器9は、例えばクオドラチャ型の復調回路であり、復調部20と、振幅検出部21と、補正係数演算部22と、振幅補正部23とにより構成される。ここで、復調部20は、遅延器101と、乗算器102と、低域フィルタ103とにより構成される。また、振幅検出部21は、第1の乗算器110と、第2の乗算器111と、加算器112と、低域フィルタ113とにより構成される。
【0009】
復調部20の動作について説明する。AD変換器8から入力されたディジタル形式のFM波は、信号x0として遅延器101,乗算器102および乗算器110へ入力される。遅延器101は入力された信号x0を遅延させ、信号x1として乗算器102へ出力する。乗算器102は、遅延器101の出力信号x1と入力信号x0とを乗算し、乗算した結果を信号x2として低域フィルタ103へ出力する。低域フィルタ103は、乗算器102の出力信号x2から低域成分を除去し、信号y0として振幅補正部23へ出力する。
【0010】
これら、信号x0,x1,x2,y0を数式を用いて例示すると以下のようになる。
まず、入力信号x0を、
x0 = A cos{ wckT + p(kT) } ・・・(1)
とすると、遅延器101の出力信号x1は、
x1 = A sin{ wckT + p((k - 1)T) } ・・・(2)
となる。ここで、Aは入力されたFM波の振幅、wcはFM波の搬送波の角周波数、kは任意の整数、Tは図10に示したAD変換器8のサンプリング周期、p(kT)は時刻kTにおける位相の偏移量である。また、wcT =Nπ / 2(N=1)と仮定する。
【0011】
また、乗算器102の出力信号x2は、信号x0と信号x1の積であり、
x2 = x0・x1 = A2 sin{ p(kT) - p((k - 1)T) } /2
+ A2 sin{ 4 wc kT + p(kT) + p((k - 1)T) } ・・・(3)
である。また、低域フィルタ103の出力信号y0は信号x2の低域成分を取り出してなる信号であり、
y0 = A2 sin{ p(kT) - p((k - 1)T) } /2
≒A2 T dp/dt /2 ・・・(4)
である。tは時間(連続時間系)である。
【0012】
ここで式(4)に含まれる dp/dtは位相偏移量の時間微分であり、このdp/dtが求めたい変調信号(即ち、復調信号)である。この dp/dt をy0から取り出すためには、振幅変化応答成分であるA2を式(4)の右辺から取り除かなければならない。図11に記載の振幅検出部21、補正係数演算部22および振幅補正部23は、このような振幅変化応答成分をy0から取り除く。
【0013】
振幅検出部21は、式(4)に示した dp/dt の係数 A2 を計算する。具体的には、第1の乗算器110は入力信号x0の2乗を演算し、信号x3として出力する。また第2の乗算器111は、遅延器101の出力信号 x1の2乗を演算し、信号x4として出力する。加算器112はこれら第1,第2の乗算器の出力信号x3とx4を加算し、加算結果を信号x5として低域フィルタ113へ出力する。低域フィルタ113は、この加算器112の出力信号x5から低域成分を取り出し、取り出した信号を信号z0として補正係数演算部22へ出力する。この信号z0は、計算によりほぼA2の大きさとなる。
【0014】
補正係数演算部22は振幅検出部21の出力信号z0を受け、式(4)に示した dp/dt の係数に逆比例する補正係数C0 / A2 を求める。ここで、C0は任意の数であり、例えば2/Tである。補正係数演算部22は、この求まった補正係数C0 / A2を補正係数z1として振幅補正部23へ出力する。
【0015】
振幅補正部23は、この補正係数演算部22が出力した補正係数z1を、式(4)に示した復調部20の出力信号y0に乗ずることで、復調信号y1を求める。このようにして、復調され、振幅補正が施された復調信号y1は、
y1 = C1・dp/dt ・・・(5)
となり、その振幅が入力信号x0の振幅 Aによって変動しない。すなわち、復調部20の出力y0は、式(4)の右辺に示すとおり入力信号x0の振幅Aに応じて変動するが、振幅補正部23により補正係数が乗算され当該変動が相殺された復調信号y1は、式(5)の右辺に示す通り入力信号x0の振幅Aによって変動しない。なお、式(5)において係数C1は任意の数である。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
従来のFM復調器は以上のような構成により、条件▲1▼および▲2▼を満たすFM復調を行っていた。しかしながら、このFM復調器は、受信されるFM波が直接波(direct wave)である場合には何ら問題なくFM復調を行えるが、受信波が直接波と反射波(reflected wave)の合成波であるマルチパス状況下においては、復調信号に歪み(以下、マルチパス歪みと称す)が発生するといった問題があった。そして特に、VHF帯で放送されるFM音声放送においては、その問題が大きかった。
【0017】
なお、ここで直接波とは、電離層等で反射されることなく、送信機から受信機へ直接到達する電波のことをいい、また、反射波とは、電離層や構造物などで反射された後、受信機へ到達する電波のことをいう。
【0018】
以下、このようなマルチパス歪みについて説明する。ここでは簡単化のため、1つの直接波と、1つの反射波とが、受信機において合成波として受信される場合について説明する。
【0019】
いま、直接波の角周波数をwc,直接波と反射波の角周波数差をwdとすると、直接波はsin (wc t)、反射波はr・ sin { (wc + wd) t} と表すことができる。これより、受信機において受信される直接波と反射波の合成波 M(t)は、
M(t) = sin (wc t) + r・sin { (wc +wd) t}
= sin (wc t) + r{ sin (wc t) cos (wd t) + cos (wc t) sin (wd t) }
= {1 + r・cos (wd t) } sin (wc t) + sin (wd t) cos (wc t)
= [ {1 + r・cos (wd t) } 2 + cos (wc t) 2 ]1/2 sin (wc t + φ)
= {1 + 2 r・cos (wd t) + r 2 }1/2 sin (wc t + φ) ・・・(6)
となる。ここで、
φ= arctan [ sin (wd t) / {1 + r・cos (wd t) } ] ・・・(7)
である。
また、r は反射波の振幅であり、便宜上直接波の振幅は1としている。また、実際には、wc、wd ともにFM変調によって時間的に変化するが、ここではマルチパス歪みが発生する短時間においてはほぼ一定の値をとるものとする。また、角周波数差wdは、主に伝播時間差とFM変調によるものである。
【0020】
図11に示した従来のFM復調器において振幅補正部23が出力する復調信号y1は、式(5)に示したように、入力信号x0の位相成分の時間微分であるから、入力信号x0が上記合成波M(t)である場合に復調して得られる復調信号y1は、式(7)より、
y1 = dφ/dt = - r・wd { r + cos (wd t) } / {1 + 2 r cos (wd t) + r 2 }
・・・(8)
となる。なお、ここでは式(5)に示した係数C1を便宜上1としている。
【0021】
ここで、wcおよびwdの値が時間的に一定であると仮定しているので、式(8)に示したdφ/dtの時間的変動がマルチパス歪みである。図12は、このマルチパス歪みを例示する図である。図において71は図10に示した入力信号x0であるところの合成波M(t)である。72は図10に示した復調信号y1であり、式(8)の右辺である。横軸tは時間、縦軸は各信号x0,y1の大きさである。この図から分かるように、マルチパス歪みは復調信号y1に鋭いパルス状の波形として現れる。
【0022】
なお、図12は、wd= -20000π(周波数差:10kHz)、r = 0.9 とした場合の、t = 0〜1/10000(wd t = 0〜2π)の期間における dφ/dt を計算した結果である。また、このとき特に大きな歪みが発生する条件はwd t がほぼπ(ラジアン)となる場合であり、これは直接波と反射波が打ち消し合い、合成波の振幅が最小となる場合である。
【0023】
以上のように、受信されるFM波が直接波(direct wave)である場合に何ら問題なくFM復調が行えるFM復調器であっても、直接波と反射波(reflected wave)の合成波が受信されるマルチパス状況下においては、復調される信号に大きな歪みが発生するといった問題があった。本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、マルチパス状況下における復調信号の歪みを抑制することができるFM復調器を得ることを目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
この発明に係るFM復調器においては、受信信号の周波数および振幅に応じて振幅が変化する信号を出力する復調手段と、
前記受信信号の振幅を検出する振幅検出手段と、
前記振幅検出手段が検出した振幅に基づき前記復調手段の出力信号に含まれる振幅変化応答成分を打ち消すための補正係数を出力する補正係数演算手段と、
前記補正係数演算手段が出力した補正係数と、所定の補正係数とを切替えて出力する切替手段と、
前記受信信号の振幅に基づいて、前記切替手段における切替えを制御する切替制御手段と、
前記切替手段が出力した補正係数に基づき前記復調手段の出力信号の振幅を補正して、補正後の信号を復調信号として出力する振幅補正手段とを備える。
【0025】
また、この発明に係るFM復調器においては、受信信号の周波数および振幅に応じて振幅が変化する信号を出力する復調手段と、
前記受信信号の振幅を検出する振幅検出手段と、
前記振幅検出手段が検出した振幅と、所定の値とを切替えて出力する切替手段と、
前記受信信号の振幅に基づいて、前記切替手段における切替えを制御する切替制御手段と、
前記切替手段の出力に基づき前記復調手段の出力信号に含まれる振幅変化応答成分を打ち消すための補正係数を出力する補正係数演算手段と、
前記補正係数演算手段が出力した補正係数に基づき前記復調手段の出力信号の振幅を補正して、補正後の信号を復調信号として出力する振幅補正手段とを備える。
【0034】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図11に示した従来のFM復調器は、入力信号x0・出力信号y1間の応答特性(いわゆる伝達関数)が常に一定であった。例えば、式(5)および式(6)に示したように、その応答特性が常に入力信号x0の位相成分p又はφの純粋な時間微分 y1 = C1・dp/dt = C1・dφ/dtであった。
【0035】
本実施の形態1におけるFM復調器は、入力信号x0の振幅変化に対する応答特性が異なる複数のFM復調動作を切り替えて行う。たとえば、受信信号が直接波である場合には、 y1 = C1・dp/dt の応答特性を有したFM復調動作を行い、受信信号が合成波である場合には、 y1 = A2 C2 (dφ/dt) の応答特性を有したFM復調動作を行う。特に、本実施の形態1においては、受信信号の振幅に対する応答が異なる複数のFM復調動作を切り替えて行う。
【0036】
また、本実施の形態1においては、受信信号が直接波,合成波のいずれであるかを、受信信号の振幅の大きさに基づき判断し、その判断結果に基づき、上述の複数のFM復調動作の切り替えを行う。ここでは、受信信号の振幅が所定値よりも小さい場合には、当該受信信号は合成波であると判断し、受信信号の振幅が所定値よりも大きい場合には、当該受信信号は直接波であると判断する。
【0037】
なお、ここでは便宜上、受信信号が直接波であるときの入力信号x0の位相成分をp、受信信号が合成波であるときの入力信号x0の位相成分をφと表記する。また、C1およびC2はそれぞれ任意の定数、Aは入力信号x0の振幅である。
【0038】
以下、従来と同様の振幅補正(振幅変化応答成分を取り除く補正)を行う第1の復調動作と、当該振幅補正を行わない第2の復調動作とを切り替えて行う場合を例にとり、本実施の形態1のFM復調器について説明する。
【0039】
図1は本実施の形態1のFM復調器を例示する構成図である。図において従来と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略する。図において、24は第1の復調動作切替部であり、係数出力部241と、係数切替部242と、係数切替制御部243とにより構成される。第1の復調動作切替部24は、振幅検出部21の出力が所定値Aminよりも小さい場合には補正係数演算部22へ係数”1”を出力し、それ以外の場合においては、振幅検出部21からの入力を補正係数演算部22へ出力する。振幅検出部21の出力がそのまま補正係数演算部22へ入力される場合におけるFM復調器の動作は従来と同様である。
【0040】
詳しく説明する。振幅検出部21は、入力信号x0の振幅を検出し、検出結果を係数z0として係数切替部242へ出力する。係数出力部241は係数”1”を係数z2として係数切替部242へ出力する。係数切替部242は、入力された係数z0,z2のうち係数z0を出力する第1の動作と、入力された係数z0,z2のうち係数z2を出力する第2の動作とを切替えて行う。補正係数演算部22は、係数切替部242の出力係数に逆比例する補正係数を演算し、演算結果を補正係数z1として振幅補正部23へ出力する。振幅補正部23は、この補正係数z1を復調部20の出力信号y0に乗じ、乗じた結果を復調信号y1として出力する。
【0041】
また、振幅検出部21の出力z0は係数切替制御部243へも入力される。係数切替制御部243は、この係数z0が所定値Aminよりも小さい場合には、係数切替部242から係数z2を出力せしめ、それ以外の場合には係数切替部242から係数z0を出力せしめる制御を行う。詳しくは、係数切替制御部243は、係数z0が所定値Aminよりも小さい場合には、入力信号x0が合成波であると判定し、振幅補正部23における振幅補正を停止せしめるために、振幅係数z1を”1”とし、振幅補正部23において実施的に振幅補正がなされないようにする。一方、係数z0が所定値Aminよりも大きい場合、係数切替制御部243は入力信号x0が直接波であると判定し、従来と同様の振幅補正が振幅補正部23において行われるように、係数切替部242から係数z0を出力せしめる。
【0042】
入力信号x0が合成波である場合における、信号x0,y0,y1を数式を用いて例示すると以下のようになる。まず、入力信号x0は式(6)に示した合成波M(t)であり、
x0 = M(t) = sin (wc t) + r・sin { (wc +wd) t}
= {1 + 2 r・cos (wd t) + r 2 }1/2 sin (wc t + φ)
・・・(9)
である。ここで、
φ= arctan [ sin (wd t) / {1 + r・cos (wd t) } ] ・・・(10)
である。
【0043】
復調部20の出力信号y0は、式(4)より A2 T (dφ/dt)/2 であるので、
y0≒ [{1 + 2 r・cos (wd t) + r 2 }1/2]2・T・[- r・wd { r + cos (wd t) } / {1 + 2 r cos (wd t) + r 2 }]/2
= - r wd { r + cos (wd t) }・T/2 ・・・・(11)
となる。ただし、dφ/dtが式(4)の dp/dtに相当し、合成波M(t)の振幅Aは {1 + 2 r・cos (wd t) + r 2 }1/2である。ここで式(11)の右辺には、分母・分子の相殺により式(4)に示した振幅A2が含まれないことに注意を要す。
【0044】
振幅検出部21は従来と同様に入力信号x0の振幅Aの2乗、すなわち合成波M(t)の振幅の2乗を出力する。第1の復調動作切替部24は所定値Aminとの比較でこの振幅検出部21の出力が小さいことを検出し、補正係数演算部22へ係数”1”を出力する。補正係数演算部22は係数”1”の逆数、すなわち”1”を振幅補正部23へ出力する。振幅補正部23は、この補正係数演算部22からの係数”1”を復調部20の出力y0に乗じ、復調信号y1として出力する。すなわち、振幅補正部23は振幅補正を行わない。
【0045】
よって、式(11)に示した復調部20の出力信号y0が振幅補正部23の出力信号(復調信号)y1となり、
y1≒ - r wd { r + cos (wd t) }・T/2 ・・・・(12)
となる。
【0046】
図2は、式(12)に示した復調信号y1を例示する図である。図において91は当該復調信号y1、すなわち、復調部20への入力信号x0が合成波であり、振幅補正部23による振幅補正が行われない場合における復調信号y1である。また、71は従来の復調信号y1、すなわち、復調部20への入力信号x0が合成波であり、振幅補正部23による振幅補正が行われる場合における復調信号y1である。また、92は従来の振幅補正部23へ入力される補正係数z1である。このように振幅補正が施されていない復調信号91は、振幅補正が施された従来の復調信号92と比べて鋭いパルス状の歪みが抑制され、マルチパス歪みが抑制される。
【0047】
以上のように、本実施の形態1におけるFM復調器は、応答特性の異なる、特に入力信号の振幅変化に対する応答特性の異なる複数のFM復調動作を切り替えて行うので、マルチパス歪みを抑制することができる。
【0048】
例えば、合成波をFM復調する際には従来行っていた振幅補正を行わないようにすることで、マルチパス歪みを抑制することができる。
【0049】
また、受信信号の振幅の大きさに応じて、受信信号が直接波,合成波のいずれであるかを判定し、その判定結果に基づいて上記複数のFM復調動作を切り替えるので、的確にマルチパス歪みを抑制することができる。
【0050】
実施の形態2.
実施の形態1では、復調部20への入力信号x0が合成波である場合には、図1に示した振幅補正部23による振幅補正を停止することにより、マルチパス歪みを抑制することができる旨、説明した。しかしながら、マルチパス歪みが小さい場合には、入力信号x0が合成波であっても、振幅補正を行った方がよい場合がある。たとえば、復調信号の振幅が入力信号x0の振幅変化に応答してしまうことに起因する歪み(即ち、振幅変化応答成分による歪み)の方が、マルチパス歪みよりも大きい場合には、マルチパス状況下であっても振幅補正を行った方が結果として歪みの少ない復調信号を得ることができる。
【0051】
マルチパス歪みが特に大きい状態でのみ振幅補正動作を停止させるには、図1に示した係数切替制御部243において比較される所定値Aminを大きめに設定しておけばよい。あるいは、係数切替制御部243に入力される補正係数z1に対して閾値を設け、この補正係数z1が当該閾値を超えた場合に振幅補正部23における振幅補正動作を停止させるようにしてもよい。これにより振幅補正動作の停止期間をマルチパス歪みが特に大きい期間に限定できることは、図2に示す如く「振幅補正係数」がマルチパス歪みの増大に伴い増大することから明らかである。
【0052】
以上のように、係数切替制御部243において比較される所定値Aminの値を適切な値に設定すれば、マルチパス歪みが大きい状態でのみ振幅補正動作を停止させることができる。
【0053】
実施の形態3.
実施の形態1および2においては、従来行っていた振幅補正を所定の条件下で停止させることにより、マルチパス歪みを抑制した。本実施の形態3においては、この振幅補正動作の停止処理に代えて、振幅補正部23における振幅補正量を従来よりも減じることで、マルチパス歪みを抑制する。
【0054】
図3は、図2とは異なる復調信号y1を例示する図である。図において、93は図1に示した復調信号y1、94は図1に示した補正係数z1である。図2においては、入力信号x0が合成波である場合に殆どの期間において振幅補正を停止した。一方、この図3においては、振幅補正を停止するのではなく、その補正量を減じるのみとする。また、ここではマルチパス歪みが大きい状態においてのみ当該補正量を減じている。
【0055】
具体的には、図1に示した補正係数z1が10を超えた場合に、当該補正係数を10に制限することで図3に示す如き復調信号y1を得ている。このとき、図1に示した係数出力部241はAmin = 0.1を出力している。このように、振幅補正部23における振幅補正量が極めて大きい場合にその振幅補正量を減ずるようにすれば、復調信号y1の歪みを効果的に抑制することができる。
【0056】
以上のように、合成波をFM復調する際に従来行っていた振幅補正よりもその補正量を減じるようにすることで、マルチパス歪みを効果的に抑制することができる。
【0057】
実施の形態4.
図4は本実施の形態4のFM復調器を例示する構成図である。図において従来と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略する。ここでは、図1に示した第1の復調動作切替部に代えて第2の復調動作切替部25を備える。この第2の復調動作切替部25は、補正係数演算部22からの入力が所定値Kmaxよりも大きい場合には振幅補正部23へ係数”1”を出力し、それ以外の場合においては、補正係数演算部22からの入力を振幅補正部23へ出力する。補正係数演算部22の出力がそのまま振幅補正部23へ出力される場合におけるFM復調器の動作は従来と同様である。
【0058】
動作について説明する。復調部20は、従来と同様に、上述の式(4)に示した y0 ≒A2 C2 (dφ/dt)を出力する。また、振幅検出部21は、入力信号x0の振幅Aの2乗(A2)を出力する。補正係数演算部22は、従来と同様にFM変調信号の振幅の2乗に逆比例の補正係数すなわちC3 / A2 を演算し、第2の復調動作切替部25へ出力する。第2の復調動作切替部25は、補正係数演算部22からの入力が予め定めた値 Kmax より小なる場合は、これをそのまま振幅補正部23へ出力する。振幅補正部23は、この振幅補正部23の出力を復調部20の出力に乗じて、復調信号y1として出力する。
【0059】
つぎに補正係数演算部22からの入力が予め定めた値 Kmax より大なる場合、第2の復調動作切替部25は、当該入力された値ではなく、所定の値 Kmax を振幅補正部23へ出力する。以上の動作により補正係数の大きさを制限することができ、マルチパス歪みを抑制することができる。
【0060】
実施の形態5.
図5は、図1に示したFM復調器30とは異なる構成を有したFM復調器を例示する構成図である。図において、30はFM復調器、20は復調部、21は振幅検出部、22は補正係数演算部、23は振幅補正部、24は第1の復調動作切替部である。また201および202は乗算器、203は局部発振器、204は移相器、205は低域フィルタ、206は低域フィルタ、207および208は遅延器、209および210は乗算器、211は減算器、212は低域フィルタである。
【0061】
以下復調部20の動作につき説明する。先ず入力されるFM信号x0を、
x0 = A cos{ wc kT + p(kT) }
とし、局部発振器203からの出力を cos( wc・kT )、これを90°移相した移相器204の出力を sin( wc kT ) とするとき、乗算器202の出力x6および乗算器203の出力x7は、それぞれ、
x6 = A cos{ p(kT) } / 2
x7 = A sin{ p(kT) } / 2
となる。これより、遅延器207の出力x8および208の出力x9は、
x8 = A cos{ p((k - 1)T) }
x9 = A sin{ p((k - 1)T) }
となる。
【0062】
以上より乗算器209の出力x10および210の出力x11はそれぞれ、
x10 = x6 ・ x9
= A2 [ sin{ p(kT) + p((k - 1)T) } + sin{ p(kT) - p((k - 1)T) } ] / 4
x11 = x7 ・ x8
= A2 [ sin{ p(kT) + p((k - 1)T) } - sin{ p(kT) - p((k - 1)T) } ] / 4
となる。また、減算器211の結果の出力x12は
x12 = x10 - x11 = A2 sin{ p(kT) - p((k - 1)T) } /2
となる。これは式(4)で示したクオドラチャ検波の出力と同様である。
【0063】
また、振幅検出部21として図1に示した振幅検出部21を採用すれば、当該振幅検出部21の出力x13は、
x13 = x62 + x72 = A2 / 2
となり、直ちに入力信号x0の振幅を求めることができる。
【0064】
以上のように、図5に示した構成を有するFM復調器においても、図11に示した従来の復調部20および振幅検出部21と同様の動作を行う構成部分を有するので、図5に示した第1の復調動作切替部24において図1に示した第1の復調動作切替部24と同様の動作を行わせることにより、マルチパス歪みを抑制することができる。
【0065】
実施の形態6.
図6は本実施の形態6のFM復調器を例示する構成図である。図において図1と同一又は相当部分には同一符号を付して説明を省略する。ここでは、補正係数演算手段36の動作が他の実施例と異なる。
【0066】
図1に示した補正係数演算部22に求められる機能は、入力された値xの逆数1/xを求めることであった。これに対し、本実施の形態6における補正係数演算手段36は、多項式近似計算に基づき逆数1/xに相当する値を演算する。例えば 1/x の計算を、3.07311 - 3.11606 x + 1.04275 x2 と近似して計算することにより、図7に示す如く、入力値 x が 0.8 から 1.2 程度の範囲において精度の良く 1/x の値を演算する。図において、93は当該補正係数演算手段36が多項式近似計算に基づき演算した値、94は、1/xの真の値である。このように、入力データ x の値が 0.8 から 1.2の範囲を外れると誤差が発生するが、その誤差は、入力データ x の値が小さくなる場合は真値よりも小さい値が演算される。
【0067】
よって、従来補正係数が大きくなっていた場面において、補正係数演算手段36から出力される補正係数が多項式近似式の定数項に近づき、補正係数に制限をかけることができる。即ち、図1に示した係数切替制御部243などの特別な判定手段を用いなくとも、振幅補正量を制御することができ、簡易な構成でマルチパス歪を抑制することができる。なお、ここでの多項式近似計算は、例えば定数項、入力値の1乗に比例する項、入力値の2乗に比例する項を備える多項式である。
【0068】
実施の形態7.
図10に示す如く、従来の受信機には、FM復調器の前段にリミッタ中間周波増幅器6が設けられていた。このリミッタ中間周波増幅器6の役割は、当該受信機と送信機との間の距離が変化することに起因する受信信号レベルの変動を平準化することにある。本実施の形態7においては、このリミッタ中間周波増幅器6に代えて、自動利得制御(Automatic Gain Control:以下AGCと称す)中間周波増幅器を備える。
【0069】
従来用いられていたリミッタ中間周波増幅器6は、入力信号のレベルがある所定値を超えた場合に、一定の飽和電圧を出力する。一方、AGC中間周波増幅器は、出力信号のレベルが略一定に保たれるように利得が自動的に制御される増幅器である。特に、本実施の形態7において採用するAGC中間周波増幅器は、当該利得制御を比較的に緩やかに行うことにより、入力信号に含まれるマルチパスによる振幅変動が残るように増幅を行う。これにより、実施の形態1に示した振幅補正の切替えが迅速に行われ、マルチパス歪みの抑制効果が大きくなる。
【0070】
図8は本実施の形態7の受信機を例示する構成図である。図において従来および図1と同一または相当部分には同一符号を付して説明を省略する。図において15はAGC中間周波増幅器である。
【0071】
このように、FM復調器の前段にAGC中間周波増幅器を用いると、リミッタ中間周波数増幅器を用いた場合のように、FM復調器へ入力される信号が飽和電圧になることが少なく、第1の復調動作切替部24における適切な切替えが期待できる。また、このAGC中間周波増幅器が、利得制御を比較的に緩やかに行うようにすることで、図1に示した第1の復調動作切替部24へマルチパス振幅変動を含んだ信号を入力させることができる。
【0072】
【発明の効果】
この発明は以上説明したように構成されているので、以下に示すような効果を奏する。この発明に係るFM復調器においては、受信信号の周波数および振幅に応じて振幅が変化する信号を出力する復調手段と、
前記受信信号の振幅を検出する振幅検出手段と、
前記振幅検出手段が検出した振幅に基づき前記復調手段の出力信号に含まれる振幅変化応答成分を打ち消すための補正係数を出力する補正係数演算手段と、
前記補正係数演算手段が出力した補正係数と、所定の補正係数とを切替えて出力する切替手段と、
前記受信信号の振幅に基づいて、前記切替手段における切替えを制御する切替制御手段と、
前記切替手段が出力した補正係数に基づき前記復調手段の出力信号の振幅を補正して、補正後の信号を復調信号として出力する振幅補正手段とを備えるので、
マルチパス歪みの少ないFM復調を行うことができる。
【0073】
また、この発明に係るFM復調器においては、受信信号の周波数および振幅に応じて振幅が変化する信号を出力する復調手段と、
前記受信信号の振幅を検出する振幅検出手段と、
前記振幅検出手段が検出した振幅と、所定の値とを切替えて出力する切替手段と、
前記受信信号の振幅に基づいて、前記切替手段における切替えを制御する切替制御手段と、
前記切替手段の出力に基づき前記復調手段の出力信号に含まれる振幅変化応答成分を打ち消すための補正係数を出力する補正係数演算手段と、
前記補正係数演算手段が出力した補正係数に基づき前記復調手段の出力信号の振幅を補正して、補正後の信号を復調信号として出力する振幅補正手段とを備えるので、マルチパス歪みの少ないFM復調を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施の形態1のFM復調器を例示する構成図である。
【図2】 実施の形態1の復調信号を例示する図である。
【図3】 実施の形態3の復調信号を例示する図である。
【図4】 実施の形態4のFM復調器を例示する構成図である。
【図5】 実施の形態5のFM復調器を例示する構成図である。
【図6】 実施の形態6のFM復調器を例示する構成図である。
【図7】 補正係数演算手段による逆数演算を例示する図である。
【図8】 実施の形態7の受信機を例示する構成図である。
【図9】 従来のFM復調器を例示する概略図である。
【図10】 従来のFM復調器を有した受信機を例示する構成図である。
【図11】 図9及び図10に示した従来のFM復調器の詳細を例示する構成図である。
【図12】 従来のマルチパス歪みを例示する図である。
【符号の説明】
1 アンテナ 2 増幅器 3 周波数変換器 4 局部発振器 5 中間周波フィルタ 6 リミッタ中間周波増幅器 7 前置フィルタ 8 AD変換器 9 FM復調器 10 DA変換器 11 音声増幅器 12 スピーカ 20 復調部 21 振幅検出部 22 補正係数演算部 23 振幅補正部 24 第1の復調動作切替部 25 第2の復調動作切替部 30 FM復調器 36 補正係数演算手段 241係数出力部 242 係数切替部 243 係数切替制御部
Claims (5)
- 受信信号の周波数および振幅に応じて振幅が変化する信号を出力する復調手段と、
前記受信信号の振幅を検出する振幅検出手段と、
前記振幅検出手段が検出した振幅に基づき前記復調手段の出力信号に含まれる振幅変化応答成分を打ち消すための補正係数を出力する補正係数演算手段と、
前記補正係数演算手段が出力した補正係数と、所定の補正係数とを切替えて出力する切替手段と、
前記受信信号の振幅に基づいて、前記切替手段における切替えを制御する切替制御手段と、
前記切替手段が出力した補正係数に基づき前記復調手段の出力信号の振幅を補正して、補正後の信号を復調信号として出力する振幅補正手段とを備えたことを特徴とするFM復調器。 - 受信信号の周波数および振幅に応じて振幅が変化する信号を出力する復調手段と、
前記受信信号の振幅を検出する振幅検出手段と、
前記振幅検出手段が検出した振幅と、所定の値とを切替えて出力する切替手段と、
前記受信信号の振幅に基づいて、前記切替手段における切替えを制御する切替制御手段と、
前記切替手段の出力に基づき前記復調手段の出力信号に含まれる振幅変化応答成分を打ち消すための補正係数を出力する補正係数演算手段と、
前記補正係数演算手段が出力した補正係数に基づき前記復調手段の出力信号の振幅を補正して、補正後の信号を復調信号として出力する振幅補正手段とを備えたことを特徴とするFM復調器。 - 前記切替制御手段は、前記受信信号の振幅が所定値よりも減少した場合に、前記振幅補正手段における振幅の補正量が減ぜられるように切替えを制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のFM復調器。
- 送信機からの直接波および間接波の合成波を受信する受信手段と、
この受信された合成波が受信信号として入力される請求項1〜3のいずれかに記載のFM復調器とを備えたことを特徴とする受信機。 - 前記受信手段は前記合成波を増幅するAGC増幅器を備え、このAGC増幅器にて増幅された信号が前記受信信号として前記FM復調器へ入力されることを特徴とする請求項4に記載の受信機。
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