以下、本発明による内燃機関の状態量推定装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る筒内吸入新気量推定装置を含んだ燃料噴射量制御装置を火花点火式多気筒(4気筒)内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。
この内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース、及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50とを含んでいる。
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21とピストン22のヘッドは、シリンダヘッド部30とともに燃焼室25を形成している。
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング装置33、可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38、及び燃料を吸気ポート31内に噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)39を備えている。
本例においては、排気弁35の開閉タイミングは常に一定となっている。また、可変吸気タイミング装置33は、吸気弁32、及び排気弁35が共に開状態となる期間であるバルブオーバーラップVOLの期間が設定されるように、機関の運転状態に基づいて吸気弁32の開閉タイミング(進角量)VVTを制御するようになっている。
吸気系統40は、吸気ポート31に連通し同吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42、吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁43、スロットル弁駆動手段を構成するスロットル弁アクチュエータ43a、スワールコントロールバルブ(以下、「SCV」と称呼する。)44、及びSCVアクチュエータ44aを備えている。
DCモータからなるスロットル弁アクチュエータ43aは、後述する電気制御装置70が達成する電子制御スロットル弁ロジックにより目標スロットル弁開度TAtが与えられると、実際のスロットル弁開度TAが目標スロットル弁開度TAtとなるようにスロットル弁43を駆動するようになっている。
排気系統50は、排気ポート34に連通したエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51に接続されたエキゾーストパイプ52、及び、エキゾーストパイプ52に介装された所謂酸素吸蔵・放出機能を備えた触媒コンバータ(三元触媒装置)53を備えている。ここで、排気ポート34、エキゾーストマニホールド51、及びエキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。
一方、このシステムは、熱線式エアフローメータ61、吸気温センサ62、大気圧センサ63、スロットルポジションセンサ64、SCV開度センサ65、カムポジションセンサ66、クランクポジションセンサ67、水温センサ68、空燃比センサ69、及び、アクセル開度センサ81を備えている。
エアフローメータ61は、吸気管41内を流れる吸入空気の質量流量を計測し、同質量流量に応じた電圧Vgを出力するようになっている。大気温センサ62は、エアフローメータ61内に備えられていて、吸入空気の温度(大気温度)を検出し、大気温度Taを表す信号を出力するようになっている。大気圧センサ63は、スロットル弁43の上流の圧力(即ち、大気圧)を検出し、大気圧Paを表す信号を出力するようになっている。
スロットルポジションセンサ64は、スロットル弁43の開度を検出し、スロットル弁開度TAを表す信号を出力するようになっている。SCV開度センサ65は、SCV44の開度を検出し、SCV開度θivを表す信号を出力するようになっている。カムポジションセンサ66は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号(G2信号)を発生するようになっている。この信号は、吸気弁32の開閉タイミング(進角量)VVTを表す。
クランクポジションセンサ67は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、エンジン回転速度NEを表す。
水温センサ68は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。空燃比センサ69は、触媒コンバータ53に流入する排ガス中の酸素濃度を検出することで空燃比abyfを表す信号を出力するようになっている。アクセル開度センサ81は、運転者によって操作されるアクセルペダルAPの操作量を検出し、同アクセルペダルの操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。
電気制御装置70は、互いにバスで接続されたCPU71、CPU71が実行するプログラム、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM72、CPU71が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM73、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM74、及びADコンバータを含むインターフェース75等からなるマイクロコンピュータである。
インターフェース75は、前記センサ61〜69,81と接続され、CPU71にセンサ61〜69,81からの信号を供給するとともに、同CPU71の指示に応じて可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、インジェクタ39、スロットル弁アクチュエータ43a、及びSCVアクチュエータ44aに駆動信号を送出するようになっている。
次に、上記のように構成された筒内吸入新気量推定装置を含んだ燃料噴射量制御装置(以下、「本装置」と云うこともある。)による物理モデルを用いた筒内吸入新気量、及び燃料噴射量の決定方法について説明する。以下に述べる処理は、CPU71がプログラムを実行することにより行われる。
(燃料噴射量fiの決定方法の概要)
このような燃料噴射量制御装置は、吸気行程にある気筒、又は吸気行程の直前の状態にある気筒(以下、「燃料噴射気筒」と称呼する。)の吸気弁32が、その吸気行程において開弁した状態から閉弁する状態に移行する時点(吸気弁閉弁時)より前の時点にて、同気筒に対して所定量の燃料を噴射する必要がある。そのため、本燃料噴射量制御装置は、吸気弁閉弁時においてシリンダ内に吸入されているであろう筒内吸入新気量を前もって予測し、同予測した筒内吸入新気量に応じた燃料量の燃料を同吸気弁32の閉弁時より前の時点で同気筒に対して噴射する。本例においては、噴射終了時期を、燃料噴射気筒の吸気上死点前75°クランクアングル(以下、「BTDC75°CA」と表す。他のクランクアングルについても同様に表す。)と定めている。従って、本装置は、噴射に要する時間(インジェクタの開弁時間)、CPU71の計算時間を考慮して、BTDC75°CAの時点よりも前の時点にて、燃料噴射気筒の筒内吸入新気量を予測する。
一方、吸気弁閉弁時におけるスロットル弁下流の吸気管内の空気圧力(吸気管圧力)は、吸気弁閉弁時における筒内吸入空気量(従って、筒内吸入新気量)と密接な関係にある。また、吸気弁閉弁時の吸気管圧力は、吸気弁閉弁時のスロットル弁開度に依存する。そこで、本装置は、燃料噴射気筒の吸気弁閉弁時のスロットル弁開度を予測・推定し、そのスロットル弁開度(従って、吸気弁閉弁時における吸気管圧力)に基づいて燃料噴射気筒の吸気弁閉弁時における筒内吸入新気量Ma(k)を事前に予測する。ここで、添え字kは今回の演算値であることを示している(以下、他の変数等についても同様。)。
そして、本装置は、下記(1)式に示したように、予測した筒内吸入新気量Ma(k)をエンジンの運転状態に応じて別途定められる目標空燃比Abyfrefで除することで燃料噴射量fi(k)を求める。以上が、燃料噴射量fiを求める方法の概要である。
fi(k) = Ma(k) / Abyfref ・・・(1)
(具体的構成・作用)
以下、上記した燃料噴射量fi(k)を求めるための本装置の具体的構成、及び作用について説明する。本装置は、機能ブロック図である図2に示したように、現時点での実際のアクセルペダルの操作量Accpを検出するアクセル開度センサ81、電子制御スロットル弁ロジックA1、電子制御スロットル弁モデルA2、内燃機関の吸気系における空気の挙動をモデル化した空気モデルA3、筒内吸入新気量を予測するための筒内吸入新気量予測モデルA4、目標空燃比設定手段A5、及び噴射量決定手段A6を含んでいる。以下、個別具体的に、各手段、及びモデル等について説明する。
(電子制御スロットル弁ロジックA1と電子制御スロットル弁モデルA2)
先ず、スロットル弁開度を制御するための電子制御スロットル弁ロジックA1と、将来における(現時点よりも先の時点における)スロットル弁開度を予測する電子制御スロットル弁モデルA2について説明する。
電子制御スロットル弁ロジックA2は、演算周期Δt(例えば、8msec)の経過毎にアクセル開度センサ81の出力値に基づいてアクセルペダル操作量Accpを読み込み、読み込んだアクセル操作量Accpと図3のアクセル操作量Accpと目標スロットル弁開度TAaccとの関係を規定したテーブルとに基づいて暫定目標スロットル弁開度TAaccを求め、この暫定目標スロットル弁開度TAaccを図4のタイムチャートに示したように、所定の遅延時間TDだけ遅延し、この遅延した暫定目標スロットル弁開度TAaccを目標スロットル弁開度TAt(=TAt(0))として設定してスロットル弁アクチュエータ43aに出力する。
そして、電子制御スロットル弁モデルA2は、実際のスロットル弁開度TAが将来において目標スロットル弁開度TAt(=TAt(0))と一致していくものとして、現時点から遅延時間TD経過後までにおけるスロットル弁開度を予測・推定する(図4を参照)。
このように、電子制御スロットル弁モデルA2(CPU71)は、今回の演算タイミングにて遅延時間TD後の目標スロットル弁開度TAtを新たに決定し、現時点から遅延時間TD経過後までの目標スロットル弁開度TAt(即ち、予測スロットル弁開度TAest)を、演算周期Δt毎に現時点からの時間経過に対応させた形で、TAt(0),TAt(1),・・・,TAt(ntdly)としてRAM73に記憶・格納する。なお、ntdlyは遅延時間TDを演算周期Δtで除した値である。
(空気モデルA3)
空気モデルA3は、スロットルモデルA31、及び吸気管モデルA32を備えていて、電子制御スロットル弁モデルA2により予測・推定された燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時におけるスロットル弁開度(予測スロットル弁開度TAest)に基づいて同吸気弁閉弁時におけるスロットル弁通過空気流量mt、吸気管圧力Pm、及び吸気管内の空気温度(吸気管温度Tm)をそれぞれ推定する。スロットルモデルA31、及び吸気管モデルA32については、後に詳述する。
(筒内吸入新気量予測モデルA4)
筒内吸入新気量予測モデルA4は、空気モデルA3から得られる燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時における吸気管圧力Pm、吸気管温度Tm等に基づいて、同吸気弁閉弁時における筒内吸入新気量Ma(k)を予測する。この筒内吸入新気量予測モデルA4についても後に詳述する。
(目標空燃比設定手段A5)
目標空燃比設定手段A5は、内燃機関の運転状態であるエンジン回転速度NE、及び目標スロットル弁開度TAt等に基づいて目標空燃比Abyfrefを決定する手段である。この目標空燃比Abyfrefは、例えば、内燃機関の暖機終了後においては、特殊な場合を除き理論空燃比に設定されてよい。
(噴射量決定手段A6)
噴射量決定手段A6は、筒内吸入新気量予測モデルA4により算出された燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時の筒内吸入新気量Ma(k)、及び目標空燃比設定手段A5により決定された目標空燃比Abyfrefに基づいて、上記(1)式に従って、同燃料噴射気筒の今回の吸気行程に対する燃料噴射量fi(k)を決定する手段である。
次に、上述した空気モデルA3について詳細に説明する。図2に示したように、空気モデルA3はスロットルモデルA31、及び吸気管モデルA32を備えている。以下、これらについて個別に説明を加える。
(スロットルモデルA31)
スロットルモデルA31は、燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時においてスロットル弁43を通過する単位時間あたりの空気量(スロットル弁通過空気流量)mtを、絞り部(オリフィス)を通過する流体の単位時間あたりの量(流量)を表す一般的な下記(2)式、及び下記(3)式に基づいて推定するモデルである。
上記(2)式及び上記(3)式において、Ctはスロットル弁開度θtに応じて変化する流量係数、Atはスロットル弁開度θtに応じて変化するスロットル開口面積(吸気管41の開口面積)、Paはスロットル弁上流の空気圧力(即ち、大気圧)、Pmは吸気管内の空気圧力(即ち、吸気管圧力)、Taはスロットル弁上流の空気温度(即ち、大気温度)、Rは気体定数、κは比熱比である。
上記(3)式の上段はスロットル弁43を通過する空気の流速が音速以下となる場合に使用され、下段は同流速が音速になる場合に使用される。また、本例では、気体定数R、及び比熱比κをそれぞれ所定の一定値として扱う。
スロットルモデルA31は、燃料噴射気筒における燃料噴射開始時期直前(BTDC90°CA)から今回の吸気行程における吸気弁閉弁時までの時間をエンジン回転速度NEから求め、この時間と略一致する遅延時間後の予測スロットル弁開度TAestをRAM72に格納されているTAt(i)(i=1,2,・・・,ntdly)の中から選択し、それを予測スロットル弁開度TAest(k-1)とする。スロットルモデルA31は、この予測スロットル弁開度TAest(k-1)をスロットル弁開度θtとして使用する。
スロットルモデルA31は、スロットル弁開度θtと流量係数Ctとの関係を規定した図5に示すテーブルと、スロットル弁開度θtとを用いて流量係数Ctを求めるとともに、スロットル弁開度θtと開口面積Atとの関係を規定した図6に示すテーブルと、スロットル弁開度θtとを用いて開口面積Atを求める。なお、スロットルモデルA31は、スロットル弁開度θtと、流量係数Ctと開口面積Atの積値Ct・Atとの関係を規定した図7に示すテーブル、及びスロットル弁開度θtとを用いて積値Ct・Atを一時に求めるように構成してもよい。
また、スロットルモデルA31は、大気圧Pa、及び大気温度Taを大気圧センサ63、及び吸気温センサ62からそれぞれ取得するとともに、吸気管圧力Pm(=Pm(k-1))を後述する吸気管モデルA32から取得する。
そして、スロットルモデルA31は、演算周期Δtの経過毎に、これらの値を用いて上記(2)式、及び上記(3)式を計算して、燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時のスロットル弁通過空気流量mt(=mt(k-1))を推定していく。以下、説明の便宜上、上記(2)式、及び上記(3)式を、関数funcmtを用いて下記(4)式にて表す。
mt=funcmt(Pm,θt) ・・・(4)
(吸気管モデルA32)
吸気管モデルA32は、質量保存則とエネルギー保存則とにそれぞれ基づいた下記(5)式及び下記(6)式、スロットル弁通過空気流量mt、スロットル弁通過空気温度(即ち、大気温度)Ta、及び吸気管41から流出する単位時間あたりのガス量である吸気弁通過ガス流量miから、燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時の吸気管圧力Pm、及び吸気管温度Tmを求めるモデルである。下記(5)式、及び下記(6)式において、Vmはスロットル弁下流(スロットル弁43から吸気弁32までの)の吸気管41(以下、単に、「吸気管部」と称呼する。)の容積である。
d(Pm/Tm)/dt=(R/Vm)・(mt−mi) ・・・(5)
dPm/dt=κ・(R/Vm)・(mt・Ta−mi・Tm) ・・・(6)
吸気管モデルA32は、上記(5)式、及び上記(6)式の右辺におけるスロットル弁通過空気流量mt(=mt(k-1))をスロットルモデルA31から取得するとともに、吸気弁通過ガス流量mi(=mi(k-1))を下記(7)式により取得する。
mi=funcmi(Ma(k-1),NE) ・・・(7)
上記(7)式において、Ma(k-1)は、後述する筒内吸入新気量予測モデルA4により推定されている燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時における筒内吸入新気量の前回値(最新値。現時点より演算周期Δt前に算出された値)である。関数funcmiは、一吸気行程あたりの新気量である筒内吸入新気量前回値Ma(k-1)をエンジン回転速度NEを利用して単位時間あたりの新気量に換算するための関数である。即ち、本例では、筒内吸入新気量前回値Ma(k-1)から得られる単位時間あたりの新気量が吸気管41から流出する単位時間あたりのガス量(従って、吸気弁通過ガス流量mi)に一致するものと仮定する。
そして、吸気管モデルA32は、上記(5)式及び上記(6)式に基づく計算を行って、燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時の吸気管圧力Pm(=Pm(k))、及び吸気管温度Tm(=Tm(k))を推定する。
ここで、上記吸気管モデルA32を記述した(5)式及び(6)式の導出過程について説明する。いま、吸気管部の総空気量(総空気質量)をMとすると、総空気量Mの時間的変化量は、吸気管部に流入する空気量に相当するスロットル弁通過空気流量mtと同吸気管部から流出する空気量に相当する吸気弁通過ガス流量miの差であるから、吸気管部の空気について適用される質量保存則に基づく下記(8)式が得られる。
dM/dt=mt−mi ・・・(8)
また、吸気管部の空気についての状態方程式は下記(9)式となるから、上記(8)式と下記(9)式とから総空気量Mを消去することにより、吸気管部の空気について適用される質量保存則に基づく上記(5)式が得られる。
Pm・Vm=M・R・Tm ・・・(9)
次に、吸気管部の空気に関するエネルギー保存則について検討する。この場合、吸気管部の容積Vmは変化せず、また、エネルギーの殆どが温度上昇に寄与する(運動エネルギーは無視し得る)ものと考えられる。そうすると、吸気管部の空気のエネルギーM・Cv・Tmの時間的変化量は、同吸気管部に流入する空気のエネルギーCp・mt・Taと同吸気管部から流出する空気のエネルギーCp・mi・Tmの差に等しいので、下記(10)が得られる。ここにおいて、Cvは定容比熱、Cpは定圧比熱である。
d(M・Cv・Tm)/dt=Cp・mt・Ta−Cp・mi・Tm ・・・(10)
この上記(10)式を、比熱比κ=Cp/Cvなる関係と、上記(9)式(Pm・Vm=M・R・Tm)とを用いて変形することにより、上記(6)式が得られる。
実際には、吸気管モデルA32は、上記(5)式及び上記(6)式の各々を時間について演算周期Δtをもって離散化した下記(11)式及び下記(12)式に基づいて、同演算周期Δt毎に、吸気管圧力Pm(k)、及び吸気管温度Tm(k)を求めていく。以上が、空気モデルA3が備えるスロットルモデルA31、及び吸気管モデルA32についての概要である。
(筒内吸入新気量予測モデルA4)
筒内吸入新気量予測モデルA4は、シリンダ21に係わる後述する「5つの仮定」のもと、シリンダ21(燃焼室25)内のガス(筒内ガス)についてのエネルギー保存則等に基づいて得られる代数式である下記(13)式、及び下記(14)式に従って燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時における筒内吸入新気量Ma(k)を代数的に算出・予測するモデルである。
上記(13)式、及び上記(14)式において、Vivcは吸気弁閉弁時におけるシリンダ容積であり、Vevcは排気弁閉弁時におけるシリンダ容積である。Peは排気ガス(既燃ガス)の圧力であり、Teは排気ガス(既燃ガス)の温度である。Pmは吸気管内の空気の圧力(即ち、吸気管圧力)であり、Tmは吸気管内の空気の温度(即ち、吸気管温度)である。Rは気体定数であり、κは比熱比である。Aolは、吸気弁32の周囲に形成されるガス通路の流量係数Ciと開口面積Aiの積値を吸気弁開弁時から排気弁閉弁時までの期間(従って、バルブオーバーラップVOLの期間)に亘って時間積分した値(以下、「開口面積積算値」と称呼する。)である。
以下、上記(13)式、及び上記(14)式の導出過程について図8〜図10を参照しながら説明する。図8(a)は、機関10における吸気弁開弁時(時刻tivo)から吸気弁閉弁時(時刻tivc)までに亘る吸気弁32のリフト量、及び排気弁35のリフト量の変化の一例をそれぞれ実線LIN、及び破線LEXにて示したタイムチャートである。図8(a)に示したように、機関10においては、吸気弁32、及び排気弁35が共に開状態となる期間である、吸気上死点TDCを含むバルブオーバーラップVOLの期間(時刻tivo〜時刻tevc)が設定される。上記(13)式、及び上記(14)式は、係るバルブオーバーラップVOLの期間を有する内燃機関に適用される式である。
上記(13)式、及び上記(14)式は、以下に示す「5つの仮定(仮定1〜仮定5)」のもとで導出される。
<仮定1>
「オーバーラップVOLの期間中(図8(b)における期間A)においては、筒内ガスの圧力(筒内ガス圧力Pc)は、吸気弁上流ガス圧力Pi(一定値。吸気ガスの圧力)よりも高い排気ガス圧力Pe(一定値)に維持される。」
従って、期間Aにおいては、図9(a)に示したように、シリンダ内の既燃ガスが吸気弁32を介して吸気通路へ吹き返されるとともに、筒内ガス圧力Pcが排気ガス圧力Pe(一定値)に維持されるように排気通路へ排出された既燃ガスが排気弁35を介してシリンダ内に吸入(補填)される。
この<仮定1>は、バルブオーバーラップVOLの期間の初期は、既燃ガスの吸気通路への吹き返しが開始される直後であって、この段階では筒内ガス圧力Pcは排気ガス圧力Peと略等しいと考えることができることに基づく。
<仮定2>
「オーバーラップVOLの期間の終了時点(即ち、排気弁閉弁時)以降、既燃ガスの吸気通路への吹き返しが終了する時点(即ち、吸気通路に吹き返された既燃ガスのシリンダ内への再吸入が開始される時点)までの間(図8(b)における期間B)においては、筒内ガス圧力Pcは、シリンダ容積Vcの増大に伴って上記排気ガス圧力Pe(一定値)から上記吸気弁上流ガス圧力Pi(一定値)まで断熱膨張過程に従って減少していく。」
即ち、期間Bにおいては、図9(b)に示したように、排気弁35を介した既燃ガスのシリンダ内への吸入が禁止される一方で、シリンダ内の既燃ガスの吸気弁32を介した吸気通路への吹き返しがなお継続される。
<仮定3>
「吸気通路に吹き返された既燃ガスのシリンダ内への再吸入が開始される時点から吸気弁閉弁時までの間(図8(b)における期間C)においては、筒内ガス圧力Pcは、吸気弁上流ガス圧力Pi(一定値)に維持される。」
従って、期間Cにおいては、図9(c)に示したように、排気弁35を介した既燃ガスのシリンダ内への吸入の禁止が継続される一方で、筒内ガス圧力Pcが吸気弁上流ガス圧力Pi(一定値)に維持されるように、先ず、吸気通路に吹き返された既燃ガスが吸気弁32を介してシリンダ内へ再吸入される。そして、吸気通路に吹き返された既燃ガスが総てシリンダ内に吸入された後は吸気弁閉弁時までに亘って新気がシリンダ内に吸入されていく。この<仮定3>は、一般に、吸気弁閉弁時においては、筒内ガス圧力Pcは吸気弁上流ガス圧力Piと略等しいと考えることができることに基づく。
<仮定4>
「筒内ガスとシリンダ内壁面との間で熱の授受(熱伝達)は行われない。」
<仮定5>
「筒内ガスの比熱比、吸気弁通過ガスの比熱比、及び排気ガス(排気弁通過ガス)の比熱比は総て一定値κとし、筒内ガスの気体定数、吸気弁通過ガスの気体定数、及び排気ガスの気体定数は総て一定値Rとする。」
ガスの比熱比、及び気体定数は、同ガスの組成に依存する。従って、この<仮定5>には、吸気弁通過ガス中に含まれる燃料(気化燃料)の成分が吸気弁通過ガスの比熱比、及び気体定数に与える影響を無視することが含まれている。
次に、上記「5つの仮定」のもとで、図10を参照しながら、筒内ガスについてのエネルギー保存則に基づく式について検討する。筒内ガスについてのエネルギー保存則に基づく基礎式は、下記(15)式にて表すことができる。
上記(15)式において、Eは筒内ガスのエネルギー、Ei’は吸気弁通過ガスにより単位時間あたりに筒内ガスに与えられるエネルギー、Ee'は排気弁通過ガスにより単位時間あたりに筒内ガスに与えられるエネルギー、W'は筒内ガスが単位時間あたりにピストン22に対して行う仕事、及びQw'はシリンダ壁面から筒内ガスに単位時間あたりに与えられる熱量(伝達熱流量)である。
上記(15)式は、「筒内ガスのエネルギーEの時間的変化量(dE/dt)」が、「吸気弁通過ガスにより単位時間あたりに筒内ガスに与えられるエネルギーEi'」と、「排気弁通過ガスにより単位時間あたりに筒内ガスに与えられるエネルギーEe'」と、「伝達熱流量Qw'」との和から、「筒内ガスが単位時間あたりにピストン22に対して行う仕事W'」を減じた値に等しいというエネルギー保存則を表している。
ここで、上記(15)式の各変数について検討すると、筒内ガスのエネルギーEの時間的変化量(dE/dt)について、Mcをシリンダ21内のガス量(筒内ガス量)、uを筒内ガスの内部エネルギー、Cvcを筒内ガスの定容比熱、Tcをシリンダ21内のガス温度(筒内ガス温度)とするとき、下記(16)式が成立する。
また、吸気弁通過ガスにより単位時間あたりに筒内ガスに与えられるエネルギーEi'について下記(17)式が成立する。下記(17)式において、miは吸気弁通過ガス流量であり、hiは吸気弁通過ガスのエンタルピーであり、Cpiは吸気弁通過ガスの定圧比熱であり、Tiは吸気弁通過ガス温度(吸気ガス温度)である。このように、吸気弁通過ガス流量miは、シリンダ21内にガスが吸入されている場合に正、シリンダ21からガスが吸気通路に吹き返されている場合に負の値をとる符号付きの値として規定されている。なお、エンタルピーhは、h=Cp・T(Cpは対象とするガスの定圧比熱、Tはそのガスの温度)と定義される。
同様に、排気弁通過ガスにより単位時間あたりに筒内ガスに与えられるエネルギーEe'について下記(18)式が成立する。下記(18)式において、meは排気弁通過ガス流量であり、heは排気弁通過ガスのエンタルピーであり、Cpeは排気弁通過ガスの定圧比熱であり、Teは排気ガス温度(排気弁通過ガス温度)である。このように、排気弁通過ガス流量meは、排気系からシリンダ21内にガスが吸入されている場合に正、シリンダ21からガスが排気系に排出されている場合に負の値をとる符号付きの値として規定されている。
更に、筒内ガスが単位時間あたりにピストン22に対して行う仕事W'については、下記(19)式が成立する。下記(19)式において、Pcはシリンダ21内のガス圧力(筒内ガス圧力)、Vcはシリンダ21(燃焼室25)の容積である。
これら(16)式乃至(19)式を(15)式に適用すると、下記(20)式が得られる。
この(20)式に下記(21)式の気体の状態方程式を適用して筒内ガス量Mcを消去すると、下記(22)式が得られる。
一方、「比熱比κ=定圧比熱Cp/定容比熱Cv」なる関係、及び「定圧比熱Cp=定容比熱Cv+気体定数R」なる関係から、ガスj(j=i,c,e)について下記(23)式及び下記(24)式が成立する。この(23)式及び(24)式を(22)式に適用することにより、下記(25)式が得られる。下記(25)式において、κc,κi及びκeは、それぞれシリンダ21内のガスの比熱比(筒内ガス比熱比)、吸気弁通過ガスの比熱比、及び排気ガス(排気弁通過ガス)の比熱比である。Rc,Ri及びReは、それぞれシリンダ21内のガスの気体定数、吸気弁通過ガスの気体定数、及び排気ガスの気体定数である。
上記(25)式において、<仮定4>に従って伝達熱流量Qw'を無視するとともに、<仮定5>に従って比熱比κi,κe,κcを一定の比熱比κとし、気体定数Ri,Re,Rcを一定の気体定数Rとすると、上記(25)式は下記(26)式に書き換えられる。
以下、筒内ガスについてのエネルギー保存則に基づく式である上記(26)式を利用して、筒内吸入新気量Ma(k)を代数的に算出するための代数式(上記(13)式、及び(14)式)を導出することについて検討する。筒内吸入新気量Ma(k)は、上述した符号付きの吸気弁通過ガス流量miの値を吸気弁開弁時(図8(a)の時刻tivo)から吸気弁閉弁時(図8(a)の時刻tivc)まで時間積分(定積分)した値と一致する。
従って、吸気弁通過ガス流量miを変数として含む上記(26)式(の両辺)を吸気弁開弁時(時刻tivo)から吸気弁閉弁時(時刻tivc)まで定積分することにより理論的には筒内吸入新気量Ma(k)を求めるための代数式を取得できる可能性がある。
しかしながら、バルブオーバーラップ期間(図8の期間A)中は「排気弁通過ガス流量me≠0」となるから、同バルブオーバーラップ期間を積分区間に含めると、上記(26)式における排気弁通過ガス流量meの項を考慮する必要が発生する。この結果、上記積分後に得られる式が複雑化することが考えられる。
従って、本例では、上記(26)式(の両辺)を排気弁閉弁時(図8の時刻tevc)から吸気弁閉弁時(時刻tivc)まで定積分することを考える。これにより、積分区間に亘って「排気弁通過ガス流量me=0」となって排気弁通過ガス流量meの項を考慮する必要がなくなる。
ここで、上記(26)式の左辺について上記<仮定2>、及び<仮定3>を考慮して、上記(26)式の両辺を排気弁閉弁時(時刻tevc)から吸気弁閉弁時(時刻tivc)まで定積分すると、下記(27)式が得られる。(27)式の右辺第2項において、Vivcは吸気弁閉弁時におけるシリンダ容積であり、Vevcは排気弁閉弁時におけるシリンダ容積である。
上記(27)式の右辺第2項の積分区間を図8(b)の期間Bと期間Cとに分けて考えると、上記(27)式の右辺第2項は、下記(28)式にて表すことができる。(28)式において、V1は吸気通路に吹き返された既燃ガスのシリンダ内への再吸入が開始される時点におけるシリンダ容積である(図8(b)を参照)。
ここで、上記<仮定2>を考慮すると、期間Bにおいては、「Pc・Vcκ=C(一定)」が成立し、上記<仮定3>を考慮すると、期間Cにおいては、「Pc=Pi(一定)」が成立する。従って、上記(28)式は、下記(29)式のように変形・整理することができる。
上記(29)式の右辺第1項において、上記<仮定2>に基づく「Pi・V1κ=Pe・Vevcκ」なる関係を適用して値Cを消去すると、上記(29)式(従って、上記(27)式の右辺第2項)は下記(30)式のように表すことができる。
そして、上記(30)式を上記(27)式に適用するとともに、下記(31)式の関係を利用してV1を消去すると、下記(32)式が得られる。
ここで、上記(32)式の右辺について考察する。このため、排気弁閉弁時(時刻tevc)から吸気弁閉弁時(時刻tivc)までの間において吸気弁32を通過するガス量について考える。先ず、期間Bにおいては、或る量αの既燃ガスがシリンダ内から吸気通路へ向けて吸気弁32を通過する。
その後の期間Cにおいては、先ず、上記量αの既燃ガスが吸気通路からシリンダ内に向けて吸気弁32を通過する。上記量αの既燃ガスが総てシリンダ内に吸入されると、次いで、期間A(バルブオーバーラップVOLの期間中)において吸気通路に吹き返されていた或る量(以下、「既燃ガス吹き返し量Mirev」と称呼する。)の既燃ガスが吸気通路からシリンダ内に向けて吸気弁32を通過する。
そして、既燃ガス吹き返し量Mirevの既燃ガスが総てシリンダ内に吸入されると、それ以降、吸気弁閉弁時までに亘って、或る量(即ち、筒内吸入新気量Ma)の新気が吸気通路からシリンダ内に向けて吸気弁32を通過する。
従って、排気弁閉弁時(時刻tevc)から吸気弁閉弁時(時刻tivc)までの間において吸気弁32を実質的に通過するガス量(即ち、符号付きの吸気弁通過ガス流量miの積算値(時間積分値))は、既燃ガス吹き返し量Mirev(正の値)と筒内吸入新気量Ma(正の値)の和となる。
ここで、吸気弁32を通過する既燃ガス吹き返し量Mirevの既燃ガスの温度は排気ガス温度Te(一定)であり、吸気弁32を通過する筒内吸入新気量Maの新気の温度は吸気弁通過ガス温度Ti(一定)であると考えることができる。
以上のことを考慮して上記(32)式の右辺の積分を行うと、下記(33)が成立する。
従って、上記(33)式を上記(32)式に適用すると、下記(34)式が得られる。
一方、期間A(バルブオーバーラップVOLの期間中)において吸気通路に吹き返されていた既燃ガスの量である上記既燃ガス吹き返し量Mirevは、上記<仮定1>、即ち、期間Aにおいて「Pc=Pe(一定)」が成立することを利用すると、下記(35)式、及び下記(36)式に従って表すことができる。
上記(35)式において、Ciは吸気弁32の周囲に形成されるガス通路の流量係数であり、Aiは逐次変化する同ガス通路の開口面積である。ここで、開口面積積算値Aolを下記(37)式にて定義すると、上記(35)式は、下記(38)式に書き換えられる。
上記(38)式(及び、上記(36)式)を上記(34)に適用して同(34)式を整理すると、下記(39)式、及び下記(40)式が得られる。
ここで、吸気弁上流ガス圧力Piは吸気管圧力Pmと等しく、吸気弁通過ガス温度Tiは吸気管温度Tmと等しいとみなすことができる。従って、上記(39)式、及び上記(40)式において、PiをPmに置き換え、且つ、TiをTmに置き換えると、筒内吸入新気量Ma(=Ma(k))を代数的に算出するための代数式である上記(13)式、及び上記(14)式が得られる。以上、上記(13)式、及び上記(14)式の導出過程について説明した
なお、上記(13)式の右辺第1項は、吸気弁閉弁時においてシリンダ21内に吸入されている総てのガス量に相当する項であり、右辺第2項は、バルブオーバーラップ期間の終了時点(即ち、排気弁閉弁時)においてシリンダ21内に残留している既燃ガス量に相当する項であり、右辺第3項は、バルブオーバーラップ期間において吸気通路に吹き返された既燃ガス量に相当する項である。
上記(14)式の上段は吸気弁32を通過するガス(具体的には、図8の期間Aにおいて吸気弁32を介して吸気通路へ吹き返される既燃ガス)の流速が音速以下となる場合に使用され、下段は同流速が音速になる場合に使用される。
筒内吸入新気量予測モデルA4は、吸気弁閉弁時におけるシリンダ容積Vivcを、カムポジションセンサ66の出力に基づく吸気弁32の進角量VVTから得られる吸気弁閉弁時のクランク角度、機関の設計諸元等を利用した関数(マップ値)として取得する。なお、上述したように、本例では排気弁35の開閉タイミングは常に一定であるから、排気弁閉弁時におけるシリンダ容積Vevcは一定値である。
筒内吸入新気量予測モデルA4は、開口面積積算値Aolを、カムポジションセンサ66の出力に基づく吸気弁32の進角量VVTから得られる吸気弁開弁時のクランク角度、排気弁閉弁時のクランク角度(一定値)、機関の設計諸元等を利用した関数(マップ値)として取得する。
筒内吸入新気量予測モデルA4は、排気ガスの圧力Peを、現時点で燃料噴射気筒となっている気筒についての前回の燃料噴射量fiを計算するために実際に使用された同筒内吸入新気量予測モデルA4により算出された筒内吸入新気量(以下、「前回筒内吸入新気量Mab」と称呼する。)の関数として取得する。
筒内吸入新気量予測モデルA4は、排気ガスの温度Teを、上記前回筒内吸入新気量Mab、エンジン回転速度NE、及び空燃比センサ69により得られる排気ガスの空燃比abyfの関数として取得する。また、筒内吸入新気量予測モデルA4は、吸気管圧力Pm(=Pm(k))、及び吸気管温度Tm(=Tm(k))を吸気管モデルA32からそれぞれ取得する。
そして、筒内吸入新気量予測モデルA4は、これら取得された値を用いて上記(13)式及び上記(14)式を計算することで燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時における筒内吸入新気量Ma(k)を推定する。筒内吸入新気量予測モデルA4は、このような演算を気筒毎に所定時間の経過毎に行う。
このように、筒内吸入新気量予測モデルA4は、筒内吸入新気量Ma(k)を所定時間の経過毎に更新するが、燃料噴射開始時期直前(BTDC90°CA)から吸気弁閉弁時までの時間と略一致する遅延時間後の前記予測スロットル弁開度TAest(k-1)に基づいて筒内吸入新気量Ma(k)を計算すること、及び同燃料噴射開始時期直前の時点での筒内吸入新気量Ma(k)に基づいて燃料噴射量fi(k)が計算されること(上記(1)式を参照。)から、筒内吸入新気量予測モデルA4は、ある気筒の吸気行程に対する吸気弁閉弁時の予測スロットル弁開度TAest(k-1)に基づいて、筒内吸入新気量Ma(k)を実質的に予測する。
また、筒内吸入新気量予測モデルA4は、筒内ガス圧力Pcが吸気弁開弁時から吸気弁閉弁時までに亘って上記<仮定1>〜<仮定3>に従う所定のパターン(図8(b)を参照)をもって推移するとの仮定のもとで少なくとも吸気弁通過ガス流量miと筒内ガス圧力Pcとを変数として含む筒内ガスについてのエネルギー保存則に基づく式(上記(25)式、上記(26)式等)を時間積分することにより得られる代数式(上記(13)式、上記(14)式)に基づいて、筒内吸入新気量Ma(k)を推定する。
より具体的には、筒内吸入新気量予測モデルA4は、筒内ガス圧力PcがバルブオーバーラップVOLの期間中において上記<仮定1>に従う所定のパターンをもって推移するとの仮定のもとで少なくとも吸気弁上流ガス圧力Piと筒内ガス圧力Pcとを変数として含む式であって吸気弁32の周囲に形成される絞り部を通過するガス流量を求める式を同バルブオーバーラップ期間に亘って時間積分することにより得られる代数式(上記(38)式)に基づいて、バルブオーバーラップVOLの期間中において吸気通路へ吹き返される既燃ガスの総量である既燃ガス吹き返し量Mirevを推定し、バルブオーバーラップVOLの期間の終了時点から吸気弁閉弁時までの間においてエネルギー保存則に基づく式(上記(26)式)を時間積分することにより得られる既燃ガス吹き返し量Mirevと筒内吸入新気量Maとを変数として含む代数式(上記(34)式)と、前記推定された既燃ガス吹き返し量Mirevとに基づいて筒内吸入新気量Ma(k)を推定する。
以上、図2に示した各モデル、及び各手段により、機関10の吸気に係わる状態量である吸気圧力Pm、吸気温度Tm、筒内吸入新気量Ma(k)が推定され、この筒内吸入空気量Ma(k)に基づいて燃料噴射量fi(k)が計算されていく。以上が、燃料噴射量fiの決定方法の概要である。
次に、電気制御装置70の実際の作動について、図11〜図13に示したフローチャートを参照しながら説明する。
(目標(推定)スロットル弁開度の計算)
CPU71は、図11にフローチャートにより示したルーチンを演算周期Δt(ここでは、8msec)の経過毎に実行することにより、上記電子制御スロットル弁ロジックA1、及び電子制御スロットル弁モデルA2の機能を達成する。具体的に述べると、CPU71は所定のタイミングにてステップ1100から処理を開始し、ステップ1105に進んで変数iに「0」を設定し、ステップ1110に進んで変数iが遅延回数ntdlyと等しいか否かを判定する。この遅延回数ntdlyは、遅延時間TDを演算周期Δtで除した値である。
この時点で変数iは「0」であるから、CPU71はステップ1110にて「No」と判定し、ステップ1115に進んで暫定目標スロットル弁開度TAt(i)に暫定目標スロットル弁開度TAt(i+1)の値を格納する。以上の処理により、暫定目標スロットル弁開度TAt(0)に暫定目標スロットル弁開度TAt(1)の値が格納される。
次いで、CPU71は、ステップ1120にて変数iの値を「1」だけ増大してステップ1110にもどる。そして変数iの値が今回の遅延回数ntdlyより小さければ、再びステップ1115〜1120を実行する。即ち、ステップ1115〜1120は、変数iの値が遅延回数ntdlyと等しくなるまで繰り返し実行される。これにより、暫定目標スロットル弁開度TAt(i+1)の値が暫定目標スロットル弁開度TAt(i)に順次シフトされて行く。
前述のステップ1120が繰り返されることにより変数iの値が遅延回数ntdlyと等しくなると、CPU71はステップ1110にて「Yes」と判定してステッ1125に進み、同ステップ1125にて現時点の実際のアクセル操作量Accpと、図3に示したテーブルとに基づいて今回の暫定目標スロットル弁開度TAaccを求め、これを暫定目標スロットル弁開度TAt(ntdly)に格納する。
次に、CPU71はステップ1130に進み、同ステップ1130にて目標スロットル弁開度TAtに暫定目標スロットル弁開度TAt(0)の値を設定し、ステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上のように、目標スロットル弁開度TAt(即ち、推定スロットル弁開度TAest)に関するメモリにおいては、本ルーチンが実行される毎にメモリの内容が一つずつシフトされて行き、暫定目標スロットル弁開度TAt(0)に格納された値が、電子制御スロットル弁ロジックA1によってスロットル弁アクチュエータ43aに出力される目標スロットル弁開度TAtとして設定される。即ち、今回の本ルーチンの実行により暫定目標スロットル弁開度TAt(ntdly)に格納された値は、今後において本ルーチンが遅延回数ntdlyだけ繰り返されたときにTAt(0)に格納され、目標スロットル弁開度TAtとなる。
(筒内吸入新気量Maの計算)
CPU71は、所定の演算周期Δt(8msec)の経過毎に図12に示した筒内吸入新気量計算ルーチンを、各気筒毎に実行することで、空気モデルA3(スロットルモデルA31、吸気管モデルA32、及び筒内吸入新気量予測モデルA4の機能を達成するようになっている。具体的に説明すると、所定のタイミングになったとき、CPU71はステップ1200から処理を開始し、ステップ1205に進んで、燃料噴射開始時期直前(BTDC90°CA)から吸気弁閉弁時までの時間をエンジン回転速度NEから求め、この時間と略一致する遅延時間後の予測スロットル弁開度TAestをRAM73から読み出し、それを予測スロットル弁開度TAest(k-1)とする。そして、その予測スロットル弁開度TAest(k-1)と、前回の本ルーチン実行時における後述するステップ1215にて求められた吸気管圧力Pm(k-1)と、スロットルモデルA31を表す上記(4)式とに基づいてスロットル弁通過空気流量mt(k-1)を求める。
なお、スロットル弁通過空気流量mtの括弧内の変数がkではなくk-1となっているのは、このスロットル弁通過空気流量mt(k-1)が演算周期Δt前の各種値を用いて求められた値であることを意味していて、この変数k,k-1の意味は以下に述べる他の値についても同様である。
次に、CPU71はステップ1210に進み、前回の本ルーチン実行時における後述するステップ1240にて求められた筒内吸入新気量Ma(k-1)と、現時点でのエンジン回転速度NEと、上記(7)式とに基づいて吸気弁通過ガス流量mi(k-1)を求める。
次いで、CPU71はステップ1215に進み、吸気管モデルA32を表す上記(11)式、及び(12)式と、上記ステップ1205、及びステップ1210にてそれぞれ求めたスロットル弁通過空気流量mt(k-1)、及び吸気弁通過ガス流量mi(k-1)とに基づいて、今回の吸気圧力Pm(k)と、同吸気圧力Pm(k)を今回の吸気温度Tm(k)にて除した値(Pm/Tm)(k)とを求める。
続いて、CPU71はステップ1220に進み、後述する図13のルーチンのステップ1315の実行により格納されている前回筒内吸入新気量Mabと、所定の関数funcPeとに基づいて現時点での排気ガス圧力Peを求める。
次に、CPU71はステップ1225に進み、上記前回筒内吸入新気量Mabと、現時点でのエンジン回転速度NEと、空燃比センサ69により得られた現時点での排気ガスの空燃比abyfと、所定の関数funcTeとに基づいて現時点での排気ガス温度Teを求める。
次いで、CPU71はステップ1230に進み、カムポジションセンサ66の出力に基づく吸気弁32の現時点での進角量VVTと、所定のテーブルMapVivcとに基づいて吸気弁閉弁時におけるシリンダ容積Vivcを求めるとともに、続くステップ1235にて、同進角量VVTと、所定のテーブルMapAolとに基づいて開口面積積算値Aolを求める。
そして、CPU71はステップ1240に進んで、ステップ1215〜ステップ1235にて求めた吸気管圧力Pm(k)と、吸気管温度Tm(k)と、排気ガス圧力Peと、排気ガス温度Teと、吸気弁閉弁時におけるシリンダ容積Vivcと、開口面積積算値Aolと、排気弁閉弁時におけるシリンダ容積Vevc(一定値)と、上記(13)式、及び上記(14)式に相当する関数funcMaとに基づいて筒内吸入新気量Ma(k)を求める。係るステップ1240が筒内吸入新気量推定手段に相当する。
そして、CPU71はステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。以降も、CPU71は本ルーチンを繰り返し実行することで、筒内吸入新気量Ma(k)を演算周期Δt(8msec)の経過毎に更新していく。
(噴射実行ルーチン)
次に、電気制御装置70が、実際に噴射を行うために実行するルーチンについて、同ルーチンをフローチャートにより示した図13を参照して説明すると、CPU71は各気筒のクランク角度がBTDC90°CAになる毎に、各気筒毎に同図13に示したルーチンを実行するようになっている。
従って、特定の(任意の)気筒(燃料噴射気筒)のクランク角度がBTDC90°CAになると、CPU71はステップ1300から処理を開始し、続くステップ1305にて、図12のステップ1240にて求められている最新の筒内吸入新気量Ma(k)(即ち、特定の気筒の今回の吸気行程での吸気弁閉弁時(近傍の時点)の予測筒内吸入新気量)を目標空燃比Abyfrefで除することにより特定の気筒の燃料噴射量fi(k)を求める。
次に、CPU71はステップ1310に進んで、前記特定の気筒のインジェクタ39に対して前記燃料噴射量fi(k)の燃料の噴射を指示する。これにより、燃料噴射量fi(k)に応じた量の燃料が前記特定気筒のインジェクタ39から噴射される。そして、CPU71は、ステップ1315に進んで、ステップ1305にて使用した上記最新の筒内吸入新気量Ma(k)の値を前回筒内吸入新気量Mabとして格納した後、ステップ1395にて本ルーチンを一旦終了する。この前回筒内吸入新気量Mabは、図12のステップ1220、1225にて使用される。
以上、説明したように、本発明による内燃機関の筒内吸入新気量推定装置を含んだ燃料噴射量制御装置の上記実施形態によれば、シリンダ21に係わる上記「5つの仮定」のもと、特に、筒内ガス圧力Pcが吸気弁開弁時から吸気弁閉弁時までに亘って上記<仮定1>〜<仮定3>に従う所定のパターン(図8(b)を参照)をもって推移するとの仮定のもと、筒内ガスについてのエネルギー保存則に基づいて得られる代数式である上記(13)式、及び上記(14)式に従って燃料噴射気筒の今回の吸気行程における吸気弁閉弁時における筒内吸入新気量Ma(k)を代数的に算出・予測する。
従って、バルブオーバーラップ期間が設定されている場合において、多数のパラメータを引数とするテーブルを検索することなく、且つ逐次の積算を行うことなく、代数的に筒内吸入新気量を精度良く推定することができる。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、スロットル弁通過空気流量mtを物理モデル(スロットルモデルA31)を用いて求めているが(図12のステップ1205を参照)、スロットル弁通過空気流量mtをエアフローメータ等の流量計を用いて計測するように構成してもよい。
また、上記実施形態においては、吸気管圧力Pm、及び吸気管温度Tmを共に物理モデル(吸気管モデルA32)を用いて求めているが(図12のステップ1215を参照)、吸気管温度Tmをスロットル弁下流吸気管(吸気ポート31)内の空気温度を検出する温度センサを用いて検出し、吸気管圧力Pmをスロットル弁下流吸気管内の空気圧力を検出する圧力センサを用いて検出するように構成してもよい。この場合、図12のステップ1240におけるPm(k)、Tm(k)として、現時点でのセンサ検出値が使用される。
また、上記実施形態においては、排気ガスの圧力Peを、所定の関数funcPeを用いて推定しているが(図12のステップ1220を参照)、排気ポート34に排気圧力センサを設置し、この排気圧力センサの出力から排気ガス圧力Peを求めてもよい。同様に、排気ガスの温度Teを、所定の関数funcTeを用いて推定しているが(図12のステップ1225を参照)、排気ポート34に排気温度センサを設置し、この排気温度センサの出力から排気ガス温度Teを求めてもよい。
また、上記実施形態においては、排気弁35の開閉タイミングは常に一定となっていて、吸気弁32の開閉タイミング(進角量VVT)のみが可変吸気タイミング装置33により制御されるようになっているが、排気弁35の開閉タイミング(進角量VVTex)を可変とする可変排気タイミング装置を備えるように構成してもよい。
この場合、図12のステップ1230にて吸気弁閉弁時におけるシリンダ容積Vivcを求めることに加え、排気弁35の現時点での進角量VVTexと、所定のテーブルMapVevcとに基づいて排気弁閉弁時におけるシリンダ容積Vevcを求め、続くステップ1235にて、吸気弁の進角量VVTと、排気弁の進角量VVTexと、所定のテーブルMapAolとに基づいて開口面積積算値Aolを求める。
また、上記実施形態の内燃機関のようにバルブオーバーラップ期間が設定されている場合、同バルブオーバーラップ期間の開始時点(即ち、吸気弁開弁時)の直後における既燃ガスのシリンダ内から吸気通路への吹き返し(逆流)により、吸気ポート31付近におけるガス圧力が局部的に上昇することが考えられる。即ち、吸気ポート31付近におけるガス圧力が吸気管圧力Pmよりも高くなる。このようにガス圧力が局部的に上昇すると、吸気弁32により形成される絞り部の差圧が実質的に減少して上記既燃ガスの逆流が抑制されることになる。
他方、係る既燃ガス逆流の抑制の程度は、筒内ガス圧力Pc(即ち、排気ガス圧力Pe)と吸気管圧力Pmとの差圧が大きいほど大きくなるとともに、バルブオーバーラップ期間OLが長いほど大きくなると考えられる。以上のことから、「C=funcC(OL,
Pe−Pm(k))」にて決定される逆流補正係数C (0<C≦1)を導入し、上記(13)式に代えて下記(41)式に従って筒内吸入新気量Ma(k)を算出するように構成してもよい。ここで、関数funcCは、バルブオーバーラップ期間OLが長いほど、また、差圧(Pe−Pm(k))が大きいほど、逆流補正係数Cの値をより小さい値とする関数である。
また、上記実施形態においては、上記<仮定3>として、「吸気弁を介して吸気通路からシリンダ内へガスが吸入される期間(図8(b)における期間C。以下、「吸入期間」と称呼する。)において筒内ガス圧力Pcは吸気弁上流ガス圧力Pi(吸気管圧力Pm)と一致する」と仮定している。しかしながら、実際には、吸気弁に形成される絞り部には差圧が生じ、同差圧は同絞り部の開口面積が小さくなるほど大きくなる。換言すれば、上記吸入期間における筒内ガス圧力Pcは、吸気弁に形成される絞り部の開口面積が小さいほど吸気管圧力Pmに比してより低くなる。
他方、近年、吸気弁の最大リフト量を機関の運転状態に応じて可変とする吸気弁リフト量可変機構を備えた内燃機関が提案されてきている。このような内燃機関においては、吸気弁の最大リフト量が小さくなるほど、吸気弁に形成される絞り部の開口面積が小さくなるから、上記吸入期間における筒内ガス圧力Pcは吸気管圧力Pmに比してより低くなる。
加えて、吸気弁に形成される絞り部に発生する差圧は、同絞り部を通過するガス流量が大きくなるほど大きくなる。上記絞り部を通過するガス流量はエンジン回転速度NEが大きいほど大きくなる。換言すれば、エンジン回転速度NEが大きくなるほど、上記吸入期間における筒内ガス圧力Pcは吸気管圧力Pmに比してより低くなる。
即ち、上記吸入期間において筒内ガス圧力Pcが吸気管圧力Pmに比して低くなる程度は、吸気弁の最大リフト量Lと、エンジン回転速度NEに大きく依存する。以上のことから、「r=funcr(L,
NE)」にて決定される圧力補正係数r (0<r≦1)を導入し、上記(13)式に代えて下記(42)式に従って筒内吸入新気量Ma(k)を算出するように構成してもよい。ここで、関数funcrは、吸気弁の最大リフト量Lが小さいほど、また、エンジン回転速度NEが大きいほど、圧力補正係数rの値をより小さい値とする関数である。
10…火花点火式多気筒内燃機関、20…シリンダブロック部(エンジン本体部)、25…燃焼室、31…吸気ポート、32…吸気弁、33…可変吸気タイミング装置、34…排気ポート、35…排気弁、39…インジェクタ、41…吸気管、43…スロットル弁、43a…スロットル弁アクチュエータ、70…電気制御装置、71…CPU