JP4062167B2 - 多気筒内燃機関の筒内吸入空気量推定装置 - Google Patents

多気筒内燃機関の筒内吸入空気量推定装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、多気筒内燃機関の各気筒内に吸入される空気の量を推定する筒内吸入空気量推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関により燃焼される混合気の空燃比を所望の値に制御したり、点火時期を適切に制御するためには、同内燃機関の各気筒内に吸入される空気の量(以下、「筒内吸入空気量Mi」と称呼する。)を精度良く求める必要がある。通常、この筒内吸入空気量Miは、内燃機関の吸気通路に設けられた空気流量センサの出力値により推定される。ところが、スロットルバルブ開度が急激に変化する過渡運転状態等においては、空気流量センサの出力値の挙動と実際の吸入空気量の挙動とが一致しなくなるため、空気流量センサの出力値に基いて筒内吸入空気量Miを精度良く求めることは困難である。
【0003】
そこで、近年においては、エネルギー保存則や運動量保存則等の物理法則に基づいて得られた式により気筒に吸入される空気の挙動を表すモデルを構築し、このモデルを用いることにより、筒内吸入空気量Miに応じた値を精度良く推定する種々の試みがなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−41095号公報(第4−12頁、図3、図4)
【0005】
本出願人は、このような吸入空気量推定装置の一つとして、物理法則に基づく吸気弁モデル及びシリンダモデルを構築し、これらのモデルに基づく計算をマイクロコンピュータにより行わせることにより、筒内吸入空気量Miを推定する装置を検討している。吸気弁モデルは、吸気弁の周囲を通過してその吸気弁の気筒に流入する空気の流量(以下、「吸気弁通過ガス流量mi」と称呼する。)を推定するためのモデルである。シリンダモデルは、気筒(シリンダ)内の圧力(以下、「筒内ガス圧力Pc」と称呼する。)及び気筒内の空気温度(以下、「筒内ガス温度Tc」と称呼する。)を推定するためのモデルである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、各気筒の吸気弁が開弁しているときの機関運転状態は同各気筒毎に異なる。即ち、例えば、4気筒内燃機関の過渡運転状態を考えると、第1気筒の吸気弁開弁時とそれに続く第3気筒の吸気弁開弁時とでは、スロットルバルブ開度やエンジン回転速度等の機関運転状態が異なる。このため、上記検討中の装置は、吸気弁モデル及びシリンダモデルに従って計算を行う吸入空気量推定手段を各気筒毎に備え、各気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び筒内吸入空気量Miを各吸入空気量推定手段の計算により推定するようになっている。
【0007】
しかしながら、このような計算は一般に極めて複雑であって、マイクロコンピュータのプログラム量が膨大になるため、ROMの容量を非常に大きくしなければならないという問題がある。
【0008】
【発明の概要】
一般に、各気筒の吸気弁は、クランク角が各気筒の吸気上死点に到る時点よりも前の時点から開弁し始め、クランク角が吸気下死点を過ぎた時点で閉弁するようになっている。このため、4気筒内燃機関の典型的な吸気弁リフト量の変化を例示した図1から理解されるように、例えば、第1気筒の吸気弁が閉弁する時点t2より前の時点t1にて、次に吸気行程を迎える第3気筒の吸気弁が開弁し始める。同様に、第3気筒の吸気弁が閉弁する時点t4より前の時点t3にて、次に吸気行程を迎える第4気筒の吸気弁が開弁し始める。
【0009】
このように、吸気行程の順序が隣り合う気筒の吸気弁の開弁期間は一部重複しているから、それらの気筒に同時に空気が吸入されている状態が生じる。従って、それらの気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び筒内吸入空気量Miは、同種ではあるが別個のモデルに従う計算を同時並列的に行うことにより推定しなければならない。つまり、それらの気筒に対しては、互いに独立して計算を行う吸入空気量推定手段が必要となる。
【0010】
これに対し、図1から理解されるように、第1気筒の吸気弁と第4気筒の吸気弁が共に開弁している期間は存在しない。即ち、第1気筒と第4気筒に同時に空気が吸入される期間は存在しない。同様に、第3気筒の吸気弁と第2気筒の吸気弁が共に開弁している期間は存在しない。即ち、第3気筒と第2気筒に同時に空気が吸入される期間は存在しない。従って、第1気筒と第4気筒、或いは、第3気筒と第2気筒のように、吸気弁の開弁期間が重ならない複数の気筒の各吸気弁通過ガス流量mi及び各筒内吸入空気量Miを上述のように同時並列的に計算して推定する必要はない。
【0011】
本発明による筒内吸入空気量推定装置は、上述した知見に基づいてなされたものであり、吸気弁の周囲を通過して気筒に吸入される空気流量である吸気弁通過ガス流量、同吸気弁の周囲を通過して気筒に吸入される際の空気の挙動を物理法則に基づいて表すモデルに従って微小時間の経過毎に実行される計算により推定し、同推定した吸気弁通過ガス流量に基いて同気筒に吸入される空気量である筒内吸入空気量を推定する吸入空気量推定手段を用い、複数の気筒のそれぞれの気筒の筒内吸入空気量を推定する多気筒内燃機関の筒内吸入空気量推定装置であって、前記複数の気筒のうちの特定の気筒に対して前記吸入空気量推定手段を備え、同特定の気筒に対して備えられた同吸入空気量推定手段は同特定の気筒の筒内吸入空気量を推定するとともに同特定の気筒の吸気弁の開弁期間と重なることのない吸気弁の開弁期間を有する同複数の気筒のうちの他の気筒の筒内吸入空気量をも推定するように構成されている。
【0012】
これによれば、吸気弁の開弁期間が重なることのない複数の気筒のそれぞれの筒内吸入空気量が、互いに同一の吸入空気量推定手段によりそれぞれ推定される。換言すると、一つの吸入空気量推定手段が、同時に空気を吸入することがあり得ない複数の気筒に対して時分割的に使用される。従って、これらの気筒につき、重複した吸入空気流量推定手段を構成するプログラムを記憶しておく必要がないので、ROM等のプログラム記憶媒体の記憶容量を低減することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による多気筒内燃機関の筒内吸入空気量推定装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。この筒内吸入空気量推定装置は燃料噴射量制御装置の一部である。図2は、係る燃料噴射量制御装置を火花点火式多気筒(4気筒)内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。なお、図1は、特定気筒の断面のみを示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。また、内燃機関10は4サイクルエンジンである。
【0014】
内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース、及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50とを含んでいる。
【0015】
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21とピストン22のヘッドは、シリンダヘッド部30とともに燃焼室25を形成している。
【0016】
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角及び同吸気弁32の吸気弁リフト量(最大吸気弁リフト量)を連続的に変更し得る吸気弁制御装置33、吸気弁制御装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38及び燃料を吸気ポート31内に噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)39を備えている。
【0017】
吸気系統40は、吸気ポート31に連通し同吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42、吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットルバルブ43及びスワールコントロールバルブ(以下、「SCV」と称呼する。)44を備えている。スロットルバルブ43は、DCモータからなるスロットルバルブアクチュエータ43aにより吸気管41内で回転駆動されるようになっている。SCV44は、前記スロットルバルブ43よりも下流で前記インジェクタ39よりも上流の位置にて前記吸気管41に対し回動可能に支持されるとともに、DCモータからなるSCVアクチュエータ44aにより回転駆動されるようになっている。
【0018】
排気系統50は、排気ポート34に連通したエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51に接続された排気管52及び排気管52に介装された触媒コンバータ(三元触媒装置)53を備えている。
【0019】
なお、上述したように、内燃機関10はSCV44〜排気ポート34までの各構成部材を各気筒毎に備えている。
【0020】
一方、このシステムは、熱線式エアフローメータ61、吸気温センサ62、大気圧センサ(スロットルバルブ上流圧力センサ)63、スロットルポジションセンサ64、SCV開度センサ65、カムポジションセンサ66、吸気弁リフト量センサ67、クランクポジションセンサ68、水温センサ69、空燃比センサ(O2センサ)70及びアクセル開度センサ71を備えている。
【0021】
エアフローメータ61は、内燃機関10の吸気通路内を流れる空気の流量(吸入空気流量)を実際に測定し、測定した吸入空気流量Gaを表す信号を出力するようになっている。吸気温センサ62は、エアフローメータ61内に備えられていて、吸入空気の温度を検出し、吸気温度Taを表す信号を出力するようになっている。大気圧センサ63は、スロットルバルブ43の上流の圧力(即ち、大気圧)を検出し、スロットルバルブ上流圧力Paを表す信号を出力するようになっている。スロットルポジションセンサ64は、スロットルバルブ43の開度(スロットルバルブ開度)を検出し、スロットルバルブ開度TAを表す信号を出力するようになっている。SCV開度センサ65は、SCV44の開度を検出し、SCV開度θivを表す信号を出力するようになっている。
【0022】
カムポジションセンサ66は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号(G2信号)を発生するようになっている。吸気弁リフト量センサ67は、吸気弁32のリフト量を検出し、吸気弁32が全閉のとき「0」の値をとる吸気弁リフト量Liを表す信号を出力するようになっている。クランクポジションセンサ(エンジン回転速度センサ)68は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、エンジン回転速度NEを表す。
【0023】
水温センサ69は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。O2センサ70は、触媒コンバータ53に流入する排ガス中の酸素濃度に応じた信号(排ガスの空燃比に応じた値)を出力するようになっている。アクセル開度センサ71は、運転者によって操作されるアクセルペダルの操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。
【0024】
電気制御装置80は、互いにバスで接続された、CPU81、ROM82、RAM83、バックアップRAM84及びインターフェース85等からなるマイクロコンピュータである。ROM82は、CPU81が実行するプログラム、テーブル(マップ)及び定数等を予め記憶するようになっている。RAM83は、CPU81の必要に応じてデータを一時的に格納するようになっている。バックアップRAM84は、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するようになっている。インターフェース85は、ADコンバータを含み、前記センサ61〜71と接続され、CPU81にセンサ61〜71からの信号を供給するとともに、CPU81の指示に応じて吸気弁制御装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、インジェクタ39、スロットルバルブアクチュエータ43a及びSCVアクチュエータ44a等に駆動信号を送出するようになっている。
【0025】
次に、上記のように構成された燃料噴射量制御装置による燃料噴射量の決定方法及び筒内吸入空気量Miの推定方法について説明する。
【0026】
(燃料噴射量finjの決定方法の概要)
燃料噴射量制御装置は、吸気行程にある気筒の吸気弁32が閉じる前に同気筒に対して燃料を噴射しなければならない。このため、燃料噴射量制御装置は、吸気弁32が閉じた時点で(即ち、吸気弁閉時に)その吸気弁32を備える気筒内に吸入されているであろう筒内吸入空気量Miをその吸気弁32が閉弁する前に予測し、fc=kλ・Miなる式に基いて同気筒の基本噴射量fcを決定する。ここで、kλは運転状態に応じて変化する設定空燃比に基づく係数である。
【0027】
また、燃料噴射量制御装置は、触媒53の過熱を防止するための過熱防止増量fotpを、筒内吸入空気量Mi及びエンジン回転速度NEと過熱防止増量fotpとの関係を規定したテーブルMapotpと、推定した筒内吸入空気量Mi及び実際のエンジン回転速度NEとに基づいて求める(fotp=Mapotp(Mi,NE))。そして、燃料噴射量制御装置は、基本噴射量fcと過熱防止増量fotpの和を最終的な燃料噴射量finjとして求め(finj=fc+fotp)、吸気行程にある(又は、吸気行程を迎える)気筒のインジェクタ39から、その気筒の吸気弁32が閉弁するよりも前の時点において、燃料噴射量finjの量の燃料を噴射する。
【0028】
(筒内吸入空気量Miの推定方法)
以下、燃料噴射量制御装置の構成及び筒内吸入空気量Miの決定方法について具体的に説明する。図3は、この燃料噴射量制御装置の機能ブロック図である。燃料噴射量制御装置は、電子制御スロットルモデルM1と、スロットルモデルM2、吸気管モデルM3、吸気弁モデルM4a,M4b、シリンダモデルM5a,M5b及び排気弁モデルM6a,M6bからなる空気挙動のシミュレーションモデルとを用いて各気筒の筒内吸入空気量Miを推定するようになっている。吸気弁モデルM4b、シリンダモデルM5b及び排気弁モデルM6bは、吸気弁モデルM4a、シリンダモデルM5a及び排気弁モデルM6aとそれぞれ同じモデルである。
【0029】
電子制御スロットルモデルM1は、現時点から所定時間T0先の時刻tにおけるスロットルバルブ開度θtを推定するモデルである。スロットルモデルM2は、スロットルバルブ43を通過する空気流量((以下、「スロットル通過空気流量」と称呼する。)mtを推定するモデルである。吸気管モデルM3は、吸気管内空気圧力Pm及び吸気管内空気温度Tmを求めるモデルである。スロットルバルブ開度θt、スロットル通過空気流量mt、吸気管内空気圧力Pm及び吸気管内空気温度Tmは、総べての気筒に対して共通に使用されるパラメータである。
【0030】
一方、図1に示したように、第1気筒の吸気弁及び第4気筒の吸気弁の開弁期間は重なることはない。従って、第1気筒及び第4気筒の各吸気弁通過ガス流量mi及び各筒内吸入空気量Miを同時に計算しなければならない状況は生じない。そこで、本燃料噴射量制御装置は、吸気弁モデルM4a、シリンダモデルM5a及び排気弁モデルM6aを時分割的に使用して、第1気筒及び第4気筒の各吸気弁通過ガス流量mi及び各筒内吸入空気量Miを推定する。
【0031】
換言すると、吸気弁モデルM4a、シリンダモデルM5a及び排気弁モデルM6aは、第1気筒の吸気弁32が開弁しているときに第1気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び各筒内吸入空気量Miを計算により推定し、第4気筒の吸気弁32が開弁しているときに第4気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び各筒内吸入空気量Miを計算により推定する。
【0032】
同様に、第3気筒の吸気弁及び第2気筒の吸気弁の開弁期間は重なることはない。従って、第3気筒及び第2気筒の各吸気弁通過ガス流量mi及び各筒内吸入空気量Miを同時に計算しなければならない状況は生じない。そこで、本燃料噴射量制御装置は、吸気弁モデルM4b、シリンダモデルM5b及び排気弁モデルM6bを時分割的に使用して、第3気筒及び第2気筒の各吸気弁通過ガス流量mi及び各筒内吸入空気量Miを推定する。
【0033】
換言すると、吸気弁モデルM4b、シリンダモデルM5b及び排気弁モデルM6bは、第3気筒の吸気弁32が開弁しているときに第3気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び各筒内吸入空気量Miを計算により推定し、第2気筒の吸気弁32が開弁しているときに第2気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び各筒内吸入空気量Miを計算により推定する。
【0034】
モデルM1〜M3、M4a〜M6a及びM4b〜M6bにおける計算は、CPU81が所定の微小時間(プログラム実行間隔時間Δt)の経過毎に各モデルに対応するプログラムを実行することにより達成される。また、以下に述べるモデルが使用する微分方程式は、実際には離散化されることによりその解が求められる。更に、燃料噴射量制御装置は、スロットルバルブ電子制御ロジックA1を備え、スロットルバルブアクチュエータ43aを介してスロットルバルブ43の開度を制御するようになっている。
【0035】
以下、各モデルの詳細について順に説明する。なお、モデルについての説明を簡単にするため、互いに同一である吸気弁モデルM4a及び吸気弁モデルM4bを吸気弁モデルM4として説明する。同様に、シリンダモデルM5a,M5bをシリンダモデルM5として、排気弁モデルM6a,M6bを排気弁モデルM6として説明する。
【0036】
(電子制御スロットルモデルM1及びスロットルバルブ電子制御ロジックA1)
電子制御スロットルモデルM1は、前述したように、現時点までのアクセルペダル操作量Accpに基づいて現時点から所定時間T0先の時刻tにおけるスロットルバルブ開度θtを推定するモデルである。
【0037】
具体的に述べると、スロットルバルブ電子制御ロジックA1は、アクセルペダル操作量Accpと目標スロットルバルブ開度θrとの関係を規定する図4に示したテーブル及びアクセル開度センサ71により検出された実際の(現時点の)アクセルペダル操作量Accpに基づいて暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を所定時間(例えば、2msec)の経過毎に決定する。アクセルペダル操作量Accpと目標スロットルバルブ開度θrとの関係を規定するテーブルは、アクセルペダル操作量Accpが増大するに従って目標スロットルバルブ開度θrが増大するように、これらの関係を規定している。
【0038】
また、スロットルバルブ電子制御ロジックA1は、暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を所定時間T(例えば、64msec)だけ遅延させた値、即ち、現時点より所定時間Tだけ前の時点にて決定された暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を、現時点での最終的な目標スロットルバルブ開度θrとして決定する。そして、スロットルバルブ電子制御ロジックA1は、実際のスロットルバルブ開度TAが現時点の目標スロットルバルブ開度θrとなるようにスロットルバルブアクチュエータ43aに対して駆動信号を送出する。
【0039】
このように、目標スロットルバルブ開度θrは、現時点から所定時間Tだけ前の時点におけるアクセルペダル操作量Accpに応じて決定された暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1と等しいから、現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおける目標スロットルバルブ開度θrは現時点から時間(T−T0)前における暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1と等しい。また、現時点から時間(T−T0)前における暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1は、スロットルバルブアクチュエータ43aの作動遅れ時間を無視すれば、時刻tにおけるスロットルバルブ開度θtと等しい。
【0040】
このような考えに基づき、電子制御スロットルモデルM1は、現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおけるスロットルバルブ開度θtを推定する。即ち、現時点から時間(T−T0)前における暫定的な目標スロットルバルブ開度θr1を現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおけるスロットルバルブ開度θtとして推定する。なお、スロットルバルブアクチュエータ43aの作動遅れ時間を考慮に加えて、スロットルバルブ開度θtを推定してもよい。
【0041】
(スロットルモデルM2)
スロットルモデルM2は、スロットル通過空気流量mtを、エネルギー保存則、運動量保存則、質量保存則及び状態方程式等の物理法則に基づいて得られた下記(1)式及び下記(2)式に基づいて推定するモデルである。
【0042】
下記(1)式及び下記(2)式において、Ct(θt)はスロットルバルブ開度θtに応じて変化する流量係数、At(θt)はスロットルバルブ開度θtに応じて変化するスロットル開口面積(吸気管41の開口面積)、Paはスロットルバルブ上流圧力(即ち、大気圧)、Pmは吸気管内空気圧力(吸気管圧力)、Taは吸気温度(大気温度)、Tmはスロットルバルブ43の下流の吸気管内空気温度、Rは気体定数、及びκは比熱比(ここではκを一定値として扱う。)である。スロットルモデルM2は、スロットルバルブ上流圧力Paが吸気管内空気圧力Pmより大きい順流の場合(Pa≧Pm)に(1)式を使用し、スロットルバルブ上流圧力Paが吸気管内空気圧力Pmより小さい逆流の場合(Pa<Pm)に(2)式を使用する。
【0043】
【数1】
Figure 0004062167
【0044】
【数2】
Figure 0004062167
【0045】
上記(1)式及び(2)式において、θtは電子制御スロットルモデルM1により推定された現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおける推定スロットルバルブ開度である。スロットルモデルM2は、スロットルバルブ開度θtと流量係数Ct(θt)との関係を規定した図5に示すテーブル及び前記推定したスロットルバルブ開度θtを用いて流量係数Ct(θt)を求めるとともに、スロットルバルブ開度θtと開口面積At(θt)との関係を規定した図6に示すテーブル及び前記推定したスロットルバルブ開度θtとを用いて開口面積At(θt)を求める。
【0046】
なお、スロットルモデルM2は、スロットルバルブ開度θtと積値Ct(θt)・At(θt)との関係を規定した図7に示すテーブル及び前記推定したスロットルバルブ開度θtを用いて積値Ct(θt)・At(θt)を一時に求めるように構成してもよい。また、スロットルモデルM2は、スロットルバルブ開度θt及び吸気管内空気圧力Pmと流量係数Ct(θt,Pm)との関係を規定したテーブルMapCt(θt,Pm)と、前記推定したスロットルバルブ開度θt及び後述する吸気管モデルM3から取得される吸気管内空気圧力Pmと、を用いて、流量係数Ct(θt)に代わる流量係数Ct(θt,Pm)を求めるように構成されていてもよい。
【0047】
スロットルモデルM2は、スロットルバルブ上流圧力Pa及び吸気温度Taを大気圧センサ63及び吸気温センサ62からそれぞれ取得するとともに、吸気管内空気圧力Pmと吸気管内空気温度Tmとを後述する吸気管モデルM3から取得し、これらの値を用いて上記(1)式又は(2)式を計算し、時刻tにおけるスロットル通過空気流量mtを推定する。なお、吸気管モデルM3は、後述するように、スロットルモデルM2の出力であるスロットル通過空気流量mtを用いて計算を行う。従って、スロットルモデルM2が吸気管モデルM3から取得する吸気管内空気圧力Pmと吸気管内空気温度Tmは、前回の(現時点からプログラム実行間隔時間Δtだけ前の)計算タイミングにて同吸気管モデルM3が計算していた値である。かかる計算手法は、他のモデルにおいても同様に使用される。
【0048】
ここで、上記スロットルモデルM2を記述した(1)式及び(2)式の導出過程について説明する。いま、スロットルバルブ43の上流の開口断面積をAu、空気密度をρu、空気の流速をvuとし、スロットルバルブ43による吸気管41の開口断面積をAd、そこでの空気密度をρd、スロットルバルブ43を通過する空気の流速をvdとすると、スロットル通過空気流量mtは、下記(3)式で表される。(3)式は質量保存則を記述した式と言える。
【0049】
【数3】
mt=Ad・ρd・vd=Au・ρu・vu …(3)
【0050】
一方、運動エネルギーは、空気の質量をmとすると、スロットルバルブ43の上流でm・vu2/2であり、スロットルバルブ43を通過する場所でm・vd2/2である。他方、熱エネルギーは、スロットルバルブ43の上流でm・Cp・Tuであり、スロットルバルブ43を通過する場所でm・Cp・Tdである。従って、エネルギー保存則により、下記(4)式が得られる。なお、Tuはスロットルバルブ上流の空気温度、Tdはスロットルバルブ下流の空気温度、Cpは定圧比熱である。
【0051】
【数4】
m・vu2/2+m・Cp・Tu=m・vd2/2+m・Cp・Td …(4)
【0052】
ところで、状態方程式は下記(5)式、比熱比κは下記(6)式、マイヤーの関係は下記(7)式で示されるから、(5)式乃至(7)式よりCp・Tは下記(8)式のように表される。なお、Pは気体の圧力、ρは気体の密度、Tは気体の温度、Rは気体定数、Cvは定容比熱である。
【0053】
【数5】
P=ρ・R・T …(5)
【0054】
【数6】
κ=Cp/Cv …(6)
【0055】
【数7】
Cp=Cv+R …(7)
【0056】
【数8】
Cp・T={κ/(κ-1)}・(P/ρ) …(8)
【0057】
上記(8)式の関係を用いて上記エネルギー保存則に基づく(4)式を書き換えると、下記(9)式が得られる。
【0058】
【数9】
vu2/2+{κ/(κ-1)}・(Pu/ρu)=vd2/2+{κ/(κ-1)}・(Pd/ρd) …(9)
【0059】
そして、スロットルバルブ43の無限上流を考えると、Au=∞、vu=0であるから、エネルギー保存則に基づく上記(9)式は下記(10)式に書き換えられる。
【0060】
【数10】
{κ/(κ-1)}・(Pu/ρu)=vd2/2+{κ/(κ-1)}・(Pd/ρd) …(10)
【0061】
次に、運動量について記述する。断面積Auの部分に加わる圧力をPu、断面積Adの部分に加わる圧力をPd、断面積Auの部分と断面積Adの部分との間をつなぐ固定された空間の平均圧力をPmeanとすると、下記(11)式が得られる。
【0062】
【数11】
ρd・vd2・Ad−ρu・vu2・Au=Pu・Au−Pd・Ad+Pmean・(Ad−Au) …(11)
【0063】
上記(11)式で、Au=∞、vu=0を考慮すると、下記(12)式が得られるので、同(12)式と上記(11)式とから下記(13)式の運動量に関する関係(運動量保存則に基づく関係)が得られる。
【0064】
【数12】
Pmean=Pu …(12)
【0065】
【数13】
ρd・vd2=Pu−Pd …(13)
【0066】
従って、上記(3)式、上記(10)式及び上記(13)式から、下記(14)式が得られる。
【0067】
【数14】
Figure 0004062167
【0068】
上記(14)式において、Puはスロットルバルブ上流圧力Paであり、Pdは吸気管内空気圧力Pmである。また、ρu=Pu/(R・Tu)である。これらの関係を使用するとともに、上記(14)式に流量係数Ct(θt)を適合のための係数として導入し、開口断面積Adを開口面積At(θt)とおきなおして整理すると、上記(1)式が得られる。上記(2)式の導出過程は、上記(1)式の導出過程と同様であるので省略する。
【0069】
なお、(1)式及び(2)式は絞り部(オリフィス)を通過する流体の流量msを表す一般的な下記(15)式乃至(17)式から求めることができる。(15)式及び(16)式において、Cは流量係数、Aは絞り部の開口面積、Puは絞り部の上流の圧力、Tuは絞り部の上流のガス温度、Pdは絞り部の下流の圧力、Tdは絞り部の下流のガス温度である。(17)式は、関数Φを定義する式であり、(17)式の上段は流速が音速以下の場合、下段は流速が音速になる場合に使用される。
【0070】
【数15】
Figure 0004062167
【0071】
【数16】
Figure 0004062167
【0072】
【数17】
Figure 0004062167
【0073】
(吸気管モデルM3)
吸気管モデルM3は、前述したように、吸気管内空気圧力Pm及び吸気管内空気温度Tmを求めるモデルである。吸気管モデルM3は、質量保存則とエネルギー保存則とにそれぞれ基づいた下記(18)式及び下記(19)式、スロットル通過空気流量mt、スロットル通過空気温度(即ち、吸気温センサ62が検出する吸気温度)Ta及び吸気管から流出する空気流量である吸気管流出空気流量mcから、吸気管内空気圧力Pm及び吸気管内空気温度Tmを求める。なお、下記(18)式及び下記(19)式において、Vmはスロットルバルブ43から吸気弁32までの吸気管41(以下、単に「吸気管部」と称呼する。)の容積であり、既知である。
【0074】
【数18】
d(Pm/Tm)/dt=(R/Vm)・(mt−mc) …(18)
【0075】
【数19】
dPm/dt=κ・(R/Vm)・(mt・Ta−mc・Tm) …(19)
【0076】
上記(18)式及び上記(19)式における吸気管流出空気流量mcは、各気筒の吸気弁通過ガス流量miの総和である。前述したように、第1気筒の吸気弁32及び第4気筒の吸気弁は32の開弁期間は重なることがないから、第1気筒及び第4気筒の各吸気弁通過ガス流量miの何れか一方が「0」でないとき、他方は「0」である。同様に、第3気筒の吸気弁32及び第2気筒の吸気弁32の開弁期間は重なることはないから、第3気筒及び第2気筒の各吸気弁通過ガス流量miの何れか一方が「0」でないとき、他方は「0」である。
【0077】
また、第1気筒及び第4気筒の各吸気弁通過ガス流量miは吸気弁モデルM4aにより推定され、第3気筒及び第2気筒の各吸気弁通過ガス流量miは吸気弁モデルM4bにより推定される。従って、吸気弁モデルM4aにより推定される吸気弁通過ガス流量mi及び吸気弁モデルM4bにより推定される吸気弁通過ガス流量miの和は、吸気管流出空気流量mcと等しくなる。従って、吸気管モデルM3は、吸気弁モデルM4a及び吸気弁モデルM4bによりそれぞれ推定される吸気弁通過ガス流量miの和を吸気管流出空気流量mcとして使用する。
【0078】
一方、吸気管モデルM3は、上記(18)式及び上記(19)式におけるスロットル通過空気流量mtをスロットルモデルM2から取得する。そして、吸気管モデルM3は、これらの変数を用いて(18)式及び(19)式に基づく計算を行うことにより、現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおける吸気管内空気圧力Pm及び吸気管内空気温度Tmを求める。
【0079】
ここで、上記吸気管モデルM3を記述した(18)式及び(19)式の導出過程について説明する。いま、吸気管部の総空気量をMとすると、総空気量Mの時間的変化は、吸気管部に流入する空気量に相当するスロットル通過空気流量mtと同吸気管部から流出する空気量に相当する吸気管流出空気流量mcの差であるから、質量保存則に基づく下記(20)式が得られる。
【0080】
【数20】
dM/dt=mt−mc …(20)
【0081】
また、状態方程式は下記(21)式となるから、上記(20)式と下記(21)式とから総空気量Mを消去することにより、質量保存則に基づく上記(18)式が得られる。
【0082】
【数21】
Pm・Vm=M・R・Tm …(21)
【0083】
次に、吸気管部に関するエネルギー保存則について検討する。この場合、吸気管部の容積Vmは変化せず、また、エネルギーの殆どが温度上昇に寄与する(運動エネルギーは無視し得る)と考えられる。従って、吸気管部の空気のエネルギーM・Cv・Tmの時間的変化量は、同吸気管部に流入する空気のエネルギーCp・mt・Taと同吸気管部から流出する空気のエネルギーCp・mc・Tmとの差に等しいので、下記(22)式が得られる。
【0084】
【数22】
d(M・Cv・Tm)/dt=Cp・mt・Ta−Cp・mc・Tm …(22)
【0085】
この(22)式を、上記(6)式(κ=Cp/Cv)と、上記(21)式(Pm・Vm=M・R・Tm)とを用いて変形することにより、上記(19)式が得られる。
【0086】
(吸気弁モデル)
吸気弁モデルM4は、図8に示したように、開弁している吸気弁32の周囲を通過する空気流量である吸気弁通過ガス流量miを推定するモデルである。吸気弁モデルM4は、エネルギー保存則、運動量保存則、質量保存則及び状態方程式等の物理法則に基づいて得られた下記(23)式及び下記(24)式により表される。
【0087】
【数23】
Figure 0004062167
【0088】
【数24】
Figure 0004062167
【0089】
(23),(24)式の導出過程は、上記スロットルモデルM2の場合と同様である。(23)式及び(24)式において、Cdi(Li)は開弁している吸気弁32のリフト量Liに応じて変化する流量係数、Ai(Li)は同リフト量Liに応じて変化する吸気弁32の周囲に形成される開口の面積、Tiは開弁している吸気弁32の上流部のガス温度(吸気弁を通過するガスの温度であり、以下、「吸気弁通過ガス温度Ti」と称呼する。)、Piは開弁している吸気弁32の上流部のガスの圧力(以下、「吸気弁上流ガス圧力Pi」と称呼する。)、Pcは開弁している吸気弁32に対応する(開弁している吸気弁32を備える)シリンダ21内のガスの圧力(即ち、筒内ガス圧力Pc)である。なお、以下、開弁している吸気弁32に対応するシリンダ21を「吸入気筒」と称呼する。
【0090】
吸気弁モデルM4は、吸気弁上流ガス圧力Piが筒内ガス圧力Pcより大きい順流の場合に(23)式を使用し、吸気弁上流ガス圧力Piが筒内ガス圧力Pcより小さい逆流の場合に(24)式を使用する。このように、吸気弁通過ガス流量miは、シリンダ21内にガスが吸入されている場合に正、シリンダ21内からガスが吸気通路に吹き返されている場合に負の値をとるように規定されている。
【0091】
吸気弁モデルM4は、現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおける吸気弁リフト量Li(t)を推定する。この推定は、現時点のクランク角と、エンジン回転速度NEを含む運転状態に応じて予め設定されるリフト量マップと、に基いてなされる。そして、吸気弁モデルM4は、吸気弁リフト量Liと積値Cdi(Li)・Ai(Li)との関係を規定した図9に示したテーブルと、前記推定した吸気弁リフト量Li(t)とに基づいて、上記(23)式及び上記(24)式にて使用する積値Cdi(Li)・Ai(Li)を求める。
【0092】
吸気弁モデルM4は、吸気弁上流ガス圧力Piを吸気管モデルM3から取得される吸気管内空気圧力Pmと等しい値に設定する。また、吸気弁モデルM4は、上記(23)式における吸気弁通過ガス温度Tiを、吸気管モデルM3から取得される吸気管内空気温度Tmと等しい値に設定する。更に、吸気弁モデルM4は、吸入気筒の筒内ガス圧力Pc及び筒内ガス温度Tcを後述するシリンダモデルM5から取得する。吸気弁モデルM4は、これらの変数を用いて上記(23)式又は上記(24)式に基づく計算を行うことで、時刻tにおける吸入気筒の吸気弁通過ガス流量miを推定する。
【0093】
なお、上記(23)式及び上記(24)式に代え、これらと等価な(25)式乃至下記(27)式により吸入気筒の吸気弁通過ガス流量miを求めても良い。これらの式において、Cdi=Cdi(Li)、Ai=Ai(Li)である。(27)式は、(17)式で説明した関数Φを定義する式であり、(27)式の上段は流速が音速以下の場合、下段は流速が音速になる場合に使用される。なお、(23)式乃至(27)式は、吸気弁32の周囲に形成されるガス通路を絞り部とみなしたときに成立する同絞り部を通過するガス流量を算出する一般的な式である。
【0094】
【数25】
Figure 0004062167
【0095】
【数26】
Figure 0004062167
【0096】
【数27】
Figure 0004062167
【0097】
(シリンダモデルM5)
シリンダモデルM5は、吸入気筒の筒内ガス圧力Pc及び筒内ガス温度Tcを求めるモデルである。シリンダモデルM5は、吸入気筒(シリンダ21、燃焼室25)内の空気についての質量保存則及びエネルギー保存則等の物理法則に基づいた下記(28)式及び下記(29)式により表される。図8に示したように、Vcは吸入気筒の燃焼室25の容積(シリンダ容積)、Tiは吸入気筒の吸気弁通過ガス温度(吸気ガス温度)、miは吸入気筒の吸気弁通過ガス流量、meは吸入気筒の排気弁通過ガス流量、Teは吸入気筒の排気ガス温度(排気弁通過ガス温度)である。
【0098】
κc,κi及びκeは、それぞれ吸入気筒(シリンダ21)内のガスの比熱比(筒内ガス比熱比)、吸気弁通過ガスの比熱比及び排気ガス(排気弁通過ガス)の比熱比であり、ここでは一定値κとして扱う。Rc,Ri及びReは、それぞれ吸入気筒内のガスの気体定数、吸気弁通過ガスの気体定数及び排気ガスの気体定数であり、ここでは一定値Rとして扱う。Qw'は吸入気筒内のガスに同吸入気筒のシリンダ壁面から伝達される単位時間あたりの熱量(伝達熱流量、熱流)である。
【0099】
【数28】
Figure 0004062167
【0100】
【数29】
Figure 0004062167
【0101】
(28)式及び(29)式における時刻tの吸入気筒の吸気弁通過ガス流量miは吸気弁モデルM4により与えられ、吸入気筒の排気弁通過ガス流量meは後述する排気弁モデルM6により与えられる。時刻tの吸入気筒の燃焼室容積Vcはクランクポジションセンサ68が検出している実際のクランク角とエンジン回転速度NEとから求める。
【0102】
時刻tの吸気弁通過ガス温度Tiは前述した吸気弁モデルM4と同様にして吸気管モデルM3から取得する(Ti=Tm)。排気ガス温度Teは、エアフローメータ61により測定された吸入空気流量Ga及び総べて気筒の燃料噴射量finjを積分(時間積分)して得られる量を単位時間あたりの量に変換した燃料量Gfと排気ガス温度Teとの関係を規定するマップ(関数)fTeと、実際の吸入空気流量Ga及び実際の燃料量Gfとから求められる(Te=fTe(Ga,Gf))。
【0103】
伝達熱流量Qw’は比較的小さいので、この例においては無視する。以上のことから、(28)式及び(29)式に基づいて筒内ガス圧力Pc及び筒内ガス温度Tcが求められる。なお、実際には、筒内ガス圧力Pc及び筒内ガス温度Tcは、(28)式及び(29)式が離散化された下記の(30)式及び(31)式により求められる。
【0104】
【数30】
Figure 0004062167
【0105】
【数31】
Figure 0004062167
【0106】
ここで、上記(28)式の導出過程について説明する。先ず、質量保存則に基づけば、下記(32)式を得ることができる。Mcは吸入気筒内のガス量(筒内ガス量)である。
【0107】
【数32】
Figure 0004062167
【0108】
一方、気体の状態方程式は下記の(33)式のとおりである。
【0109】
【数33】
Figure 0004062167
【0110】
(32)式に(33)式を適用して筒内ガス量Mcを消去することにより下記(34)式が得られる。(34)式を変形すると下記(35)式が得られ、(35)式を整理することにより上記(28)式が得られる。
【0111】
【数34】
Figure 0004062167
【0112】
【数35】
Figure 0004062167
【0113】
次に、上記(29)式の導出過程について説明する。先ず、エネルギー保存則に基づけば、下記(36)式を得ることができる。
【0114】
【数36】
Figure 0004062167
【0115】
(36)式において、Eは吸入気筒内のガスのエネルギー、Ei’は吸気弁通過ガスにより単位時間あたりに吸入気筒内のガスに与えられるエネルギー、Ee'は排気弁通過ガスにより単位時間あたりに吸入気筒内のガスに与えられるエネルギー、W'は吸入気筒内のガスが単位時間あたりにピストンに対して行う仕事、及びQw'はシリンダ壁面から吸入気筒内のガスに単位時間あたりに与えられる熱量(伝達熱流量)である。
【0116】
(36)式は、「吸入気筒内のガスのエネルギーEの時間的変化量(dE/dt)」が、「吸気弁通過ガスにより単位時間あたりに吸入気筒内のガスに与えられるエネルギーEi'」と、「排気弁通過ガスにより単位時間あたりに吸入気筒内のガスに与えられるエネルギーEe'」と、「伝達熱流量Qw'」との和から、「吸入気筒内のガスが単位時間あたりにピストンに対して行う仕事W'」を減じた値に等しいというエネルギー保存則を表している。
【0117】
ここで(36)式の各変数について検討すると、吸入気筒内のガスのエネルギーEの時間的変化量(dE/dt)について、uを内部エネルギー、Cvcを吸入気筒内のガスの定容比熱とするとき、下記(37)式が成立する。
【0118】
【数37】
Figure 0004062167
【0119】
また、吸気弁通過ガスにより単位時間あたりに吸入気筒内のガスに与えられるエネルギーEi'について下記(38)式が成立する。(38)式において、hiは吸気弁通過ガスのエンタルピーであり、Cpiは吸気弁通過ガスの定圧比熱である。なお、エンタルピーhは、h=Cp・T(Cpは対象とするガスの定圧比熱、Tはそのガスの温度)と定義される。
【0120】
【数38】
Figure 0004062167
【0121】
同様に、排気弁通過ガスにより単位時間あたりに吸入気筒内のガスに与えられるエネルギーEe'について下記(39)式が成立する。(39)式において、heは排気弁通過ガスのエンタルピーであり、Cpeは排気弁通過ガスの定圧比熱である。
【0122】
【数39】
Figure 0004062167
【0123】
更に、吸入気筒内のガスが単位時間あたりにピストンに対して行う仕事W'については、下記(40)式が成立する。
【0124】
【数40】
Figure 0004062167
【0125】
これら(37)式乃至(40)式を(36)式に適用すると、下記(41)式が得られる。
【0126】
【数41】
Figure 0004062167
【0127】
この(41)式に下記(42)式の気体の状態方程式を適用して筒内ガス量Mcを消去すると、下記(43)式が得られる。
【0128】
【数42】
Figure 0004062167
【0129】
【数43】
Figure 0004062167
【0130】
一方、上記(6)式(κ=Cp/Cv)及び上記(7)式(Cp=Cv+R)から、ガスj(j=i,c,e)について下記(44)式及び下記(45)式が成立する。この(44)式及び(45)式を(43)式に適用することにより、上記(29)式が得られる。
【0131】
【数44】
Figure 0004062167
【0132】
【数45】
Figure 0004062167
【0133】
なお、本例のシリンダモデルM6a,M6bは、上述したように、比熱比κi,κe,κcを一定の比熱比κ、気体定数Ri,Re,Rcを一定の気体定数Rとして扱い、伝達熱流量Qw’を無視して計算を行うようになっている。
【0134】
(排気弁モデル)
排気弁モデルM6は、図8に示した吸入気筒の排気弁35の周囲を通過する空気流量(即ち、排気弁通過ガス流量)meをエネルギー保存則、運動量保存則、質量保存則、及び状態方程式等の物理法則に基づいて得られた下記(46)式及び下記(47)式にしたがって推定するモデルである。
【0135】
(46),(47)式の導出過程は、上記スロットルモデルM2の場合と同様である。(46)式及び(47)式において、Cde(Le)は排気弁35のリフト量Leに応じて変化する流量係数、Ae(Le)は同リフト量Leに応じて変化する排気弁35の周囲に形成される開口の面積、Teは排気ガス温度、Pcは筒内ガス圧力及びPeは排気ガス圧力(排気弁35の下流側のガスの圧力)である。
【0136】
排気弁モデルM6は、吸入気筒の排気ガス圧力Peが吸入気筒の筒内ガス圧力Pcより大きい場合に(46)式を使用し、吸入気筒の排気ガス圧力Peが吸入気筒の筒内ガス圧力Pcより小さい場合に(47)式を使用する。このように、排気弁通過ガス流量meは、排気系からシリンダ21内にガスが吸入されている場合に正、シリンダ21内からガスが排気系に排出されている場合に負の値をとるように規定されている。
【0137】
【数46】
Figure 0004062167
【0138】
【数47】
Figure 0004062167
【0139】
排気弁モデルM6は、現時点から所定時間T0だけ先の時刻tにおける吸入気筒の排気弁リフト量Le(t)を推定する。この推定は、現時点のクランク角とエンジン回転速度NEとに基づいて行われ得る。そして、排気弁モデルM6は、排気弁リフト量Leと積値Cde(Le)・Ae(Le)との関係を規定した図10に示したテーブルと、前記推定した排気弁リフト量Le(t)とに基づいて、上記(46)式及び上記(47)式にて使用する積値Cde(Le)・Ae(Le)を求める。
【0140】
排気弁モデルM6は、吸入気筒の排気ガス圧力Peを、エアフローメータ61により測定された吸入空気流量Ga及びエンジン回転速度NEと排気ガス圧力Peとの関係を規定する関数(マップ)fPeと、実際の吸入空気流量Ga及び実際のエンジン回転速度NEとから求める(Pe=fPe(Ga,NE))。 また、排気弁モデルM6aは、排気ガス温度Teを、上述したようにマップ(関数)fTeから求める(Te=fTe(Ga,Gf))。
【0141】
なお、上記(46)式及び上記(47)式に代え、これらと等価な下記(48)式、下記(49)式及び関数Φの定義式である上記(17)式により排気弁通過ガス流量meを求めても良い。これらの式において、Cde=Cde(Le)、Ae=Ae(Le)である。
【0142】
【数48】
Figure 0004062167
【0143】
【数49】
Figure 0004062167
【0144】
本燃料噴射量制御装置は、このような一連の計算により求められる吸入気筒の吸気弁通過ガス流量miを、吸入気筒の吸気弁32が開弁する時刻topenから同吸気弁32が閉弁する時刻tclseまで時間積分することにより、吸入気筒内に吸入される筒内吸入空気量Miを推定する。以上が、物理モデルによる筒内吸入空気量Miの推定方法である。
【0145】
(実際の作動)
次に、本燃料噴射量制御装置の実際の作動について、CPU81が実行するROM82内に記憶されているルーチン(プログラム)を示した図11及び図12のフローチャートを参照しながら説明する。CPU81は、図11及び図12に示したルーチンを所定の微小時間(プログラム実行間隔時間Δt、例えば、1msec)の経過毎に実行するようになっている。これらのルーチン上での時刻は現在より所定時間T0だけ先の時刻tである。即ち、例えば、これらのルーチンの実行により第1気筒の吸気弁リフト量Li1が0から0でない値に変化したと判定された時点から所定時間T0が経過した後に、実際に第1気筒の吸気弁32のリフト量が0から0でない値に変化する。
【0146】
先ず、現時点が第1気筒の吸気弁32が開弁する直前の時点であるとして説明を開始する。所定のタイミングになると、CPU81は図11のルーチンのステップ1100から処理を開始し、ステップ1102に進んで第1気筒の吸気弁32のリフト量Li1が「0」より大きいか否かを判定する。この時点では、第1気筒の吸気弁32のリフト量Li1は「0」であるから、CPU81はステップ1102にて「No」と判定してステップ1104に進み、第4気筒の吸気弁32のリフト量Li4が「0」より大きいか否かを判定する。
【0147】
この時点では、リフト量Li4は「0」であるから、CPU81はステップ1104にて「No」と判定してステップ1106に進み、前回の(プログラム実行間隔時間Δt前に実行された)本ルーチン実行時の第1気筒の吸気弁32のリフト量Li1old(前回のリフト量Li1old)が「0」より大きいか、又は、前回の本ルーチン実行時の第4気筒の吸気弁32のリフト量Li4old(前回のリフト量Li4old)が「0」より大きいかを判定する。
【0148】
現時点は、第1気筒の吸気弁32が開弁する直前であるから、前回のリフト量Li1old及び前回のリフト量Li4oldは共に「0」である。従って、CPU81はステップ1106にて「No」と判定しステップ1108に進み、現時点のリフト量Li1及びLi4を、前回のリフト量Li1old及びLi4oldとして格納し、ステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。このような処理は、リフト量Li1が「0」より大きくなるまで繰り返し実行される。
【0149】
その後、リフト量Li1が「0」より大きくなると、CPU81はステップ1102に進んだとき、同ステップ1102にて「Yes」と判定してステップ1110に進み、リフト量Liにリフト量Li1を格納するとともに、排気弁のリフト量Leに第1気筒の排気弁35のリフト量Le1を格納する。次いで、CPU81はステップ1112に進み、吸入気筒の今回の燃焼室容積(シリンダ容積)Vc(k)及び次回の燃焼室容積Vc(k+1)に、吸入気筒である第1気筒の現時点の燃焼室容積Vc1(k)及び本ルーチンの実行間隔時間Δt後における第1気筒の燃焼室容積Vc1(k+1)をそれぞれ設定する。
【0150】
次いで、CPU81はステップ1114に進み、前回リフト量Li1oldが「0」であり且つ前回リフト量Li4oldが「0」であるか否かを判定する。即ち、ステップ1114は、ステップ1102と協働して、第1気筒又は第4気筒の吸気弁32が開弁した直後であるか否かを判定するステップである。現時点は、第1気筒の吸気弁32が開弁した直後であるので、前回リフト量Li1old及び前回リフト量Li4oldは、共に「0」である。
【0151】
従って、CPU81はステップ1114にて「Yes」と判定してステップ1116に進み、前述したマップfPeと、実際の吸入空気流量Ga及び実際のエンジン回転速度NEとから吸入気筒(この場合第1気筒)の今回の排気ガス圧力Pe(k)を求める。また、CPU81は、前述したマップfTeと、エアフローメータ61により測定された吸入空気流量Ga及び実際の単位時間あたりの燃料量Gfとから吸入気筒の今回の排気ガス温度Te(k)を求める。
【0152】
次いで、CPU81は、ステップ1118に進んで上記求めた今回の排気ガス圧力Pe(k)及び今回の排気ガス温度Te(k)を、それぞれ吸入気筒の今回の筒内ガス圧力Pc(k)及び今回の筒内ガス温度Tc(k)に格納する。この時点においては、排気弁も開弁しているから、ステップ1118のように今回の筒内ガス圧力Pc(k)及び今回の筒内ガス温度Tc(k)を設定することができる。そして、CPU81は、ステップ1120に進み、吸入気筒の筒内吸入空気量Miを「0」にリセットする。
【0153】
次に、CPU81はステップ1122に進み、吸気弁モデルM4aを表す(23)式又は(24)式により吸入気筒である第1気筒の吸気弁通過ガス流量miを算出する。ここでは、(23)式又は(24)式の右辺を関数Fmiで表す。このとき、吸気弁モデルM4aは、その時点で吸気管モデルM3により計算されている最新の吸気管内空気圧力Pm(k)を今回の吸気弁上流ガス圧力Pi(k)として使用し、その時点で吸気管モデルM3により計算されている最新の吸気管内空気温度Tm(k)を吸気弁通過ガス温度Ti(k)として使用する。なお、この時点の筒内ガス圧力Pc(k)及び筒内ガス温度Tc(k)は上記ステップ1118にて設定されている。
【0154】
次いで、CPU81はステップ1124に進み、ステップ1116と同様に吸入気筒の今回の排気ガス圧力Pe(k)及び今回の排気ガス温度Te(k)を求め、ステップ1126にて排気弁モデルM6aを表す上記(46)式及び(47)式に従って吸入気筒の排気弁通過ガス流量me(k)を求める。ここでは、(46)式又は(47)式の右辺を関数Fmeで表す。そして、CPU81は、ステップ1128にてシリンダモデルM5aを表す上記(30)式及び(31)式に従って吸入気筒の筒内ガス圧力Pc(k+1)及び筒内ガス温度Tc(K+1)を新たに求める。ここでは、(30)式及び(31)式の右辺を、それぞれ関数FPcTc及びFPcにより表す。
【0155】
このとき、吸入気筒の燃焼室容積Vc(k)及びVc(K+1)には、先のステップ1112の処理により、現時点の吸入気筒である第1気筒の現時点の燃焼室容積Vc1(k)及び本ルーチンの実行間隔時間Δt後における第1気筒の燃焼室容積Vc1(k+1)がそれぞれ使用される。なお、吸入気筒の筒内ガス圧力Pc(k+1)及び筒内ガス温度Tc(K+1)は、次回の本ルーチン(図11に示したルーチン)の計算時においてPc(k)及びTc(K)として使用される。
【0156】
次いで、CPU81はステップ1130に進み、現時点の吸入気筒の筒内吸入空気量Miに上記ステップ1122にて求められた吸気弁通過ガス流量miと時間Δtの積(Δt・mi)を加えて新たな筒内吸入空気量Miを求める。つまり、ステップ1130では、吸気弁通過ガス流量miが積算され、その結果、筒内吸入空気量Miが求められる。その後、CPU81はステップ1108を経由してステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0157】
次に、CPU81が図11に示されたルーチンを実行するとき、今回のリフト量Li1及び前回のリフト量Li1oldは共に「0」より大きい値になっている。従って、CPU81はステップ1102にて「Yes」と判定して、ステップ1110及びステップ1112の処理を実行し、ステップ1114にて「No」と判定してステップ1122〜ステップ1130及びステップ1108の処置を実行する。この結果、吸入気筒である第1気筒の吸気弁通過ガス流量mi、排気弁通過ガス流量me、筒内ガス圧力Pc(K+1)及び筒内ガス温度Tc(K+1)が更新されるとともに、筒内吸入空気量Miに吸気弁通過ガス流量miと時間Δtとの積値が積算されて行く。
【0158】
その後、時間が経過すると、第1気筒の吸気弁32は閉弁する。このとき、今回のリフト量Li1は「0」、前回のリフト量Li1oldは「0」より大きい値となる。また、今回のリフト量Li4及び前回のリフト量Li4oldは共に「0」となっている。従って、かかる時点で図11に示されたルーチンが実行されると、CPU81はステップ1102及びステップ1104にて共に「No」と判定し、ステップ1106にて「Yes」と判定してステップ1130に進む。
【0159】
そして、CPU81はステップ1130にてfc=kλ・Miなる式に基いて基本噴射量fcを決定する。この場合、筒内吸入空気量Miは、吸入気筒である第1気筒の吸気弁32が開弁した時点から閉弁した時点までの吸気弁通過ガス流量miの時間積分値、即ち、第1気筒の筒内吸入空気量を表す値となっている。
【0160】
次いで、CPU81はステップ1132に進み、筒内吸入空気量Mi及びエンジン回転速度NEと触媒53の過熱を防止するための過熱防止増量fotpとの関係を規定したテーブルMapotpと、推定された筒内吸入空気量Mi及び検出されたエンジン回転速度NEとから過熱防止増量fotpを求める(fotp=Mapotp(Mi,NE))。
【0161】
次に、CPU81はステップ1134にて前回の第1気筒のリフト量Li1oldが「0」より大きいか否かを判定する。この場合、第1気筒のリフト量Li1oldは「0」より大きいから、CPU81はステップ1134にて「Yes」と判定してステップ1136に進み、ステップ1130にて求めた基本噴射量fcとステップ1132にて求めた過熱防止増量fotpとの和を第1気筒の燃料噴射量f1injとして設定する。
【0162】
次いで、CPU81はステップ1138に進み、ステップ1136にて決定された燃料噴射量f1injの燃料を第1気筒に対応するインジェクタ39から噴射させる指示を出力し、ステップ1140に進んで基本噴射量fcと過熱防止増量fotpとの和を全体の燃料噴射量finjとして格納する。この全体の燃料噴射量finjは、図示しないルーチンにより積算され、内燃機関10全体に対して単位時間あたりに供給される燃料量Gfを求めるために使用される。その後、CPU81はステップ1108を経由してステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0163】
その後、第4気筒の吸気弁32が開弁するまでは、リフト量Li1,Li1old,Li4,Li4oldの総べては「0」となる。従って、CPU81は図11のルーチンのステップ1100〜ステップ1108の処理を繰り返し実行することになる。
【0164】
そして、第4気筒の吸気弁32が開弁し、リフト量Li4が「0」より大きく、且つ、リフト量Li4oldが「0」となったとき、CPU81が図11に示されたルーチンを実行すると、CPU81はステップ1102にて「No」と判定し、ステップ1104にて「Yes」と判定してステップ1142へと進み、吸気弁32のリフト量Liにリフト量Li4を格納するとともに、排気弁のリフト量Leに第4気筒の排気弁35のリフト量Le4を格納する。
【0165】
次いで、CPU81はステップ1144にて吸入気筒の今回の燃焼室容積Vc(k)及び次回の燃焼室容積Vc(k+1)に、吸入気筒である第4気筒の現時点の燃焼室容積Vc4(k)及び本ルーチンの実行間隔時間Δt後における第4気筒の燃焼室容積Vc4(k+1)をそれぞれ設定する。
【0166】
次に、CPU81はステップ1114に進む。この場合、Δt前には第1気筒の吸気弁32及び第4気筒の吸気弁32は共に閉弁していたので、前回のリフト量Li1old、Li4oldは共に「0」である。従って、CPU81はステップ1114にて「Yes」と判定しステップ1116乃至ステップ1120の処理を実行し、その後、ステップ1122乃至1130及びステップ1108の処理を実行して本ルーチンを一旦終了する。
【0167】
以降、第4気筒の吸気弁32が閉弁されるまで、CPU81はステップ1100乃至ステップ1104、ステップ1142、ステップ1144、ステップ1114、ステップ1122乃至ステップ1130、及びステップ1108の処理を実行する。これにより、吸入気筒である第4気筒の吸気弁通過ガス流量mi、排気弁通過ガス流量me、筒内ガス圧力Pc(K+1)及び筒内ガス温度Tc(K+1)が更新されるとともに、筒内吸入空気量Miに吸気弁通過ガス流量miが積算されて行く。
【0168】
その後、時間が経過して第4気筒の吸気弁32が閉弁すると、リフト量Li4,Li1,Li1oldは「0」となり、リフト量Li4oldは「0」より大きい値となるから、CPU81はステップ1102及びステップ1104にて共に「No」と判定し、ステップ1106にて「Yes」と判定してステップ1130及びステップ1132に進んで基本噴射量fc及び過熱防止増量fotpを求める。
【0169】
また、この時点では第1気筒の前回のリフト量Li1oldは「0」である。従って、CPU81はステップ1134にて「No」と判定してステップ1146に進み、ステップ1130にて求めた基本噴射量fcとステップ1132にて求めた過熱防止増量fotpとの和を第4気筒の燃料噴射量f4injとして設定する。なお、この時点の筒内吸入空気量Miの値は、第4気筒の吸気弁通過ガス流量miの時間積分値(積分区間は第4気筒の吸気弁開弁時から閉弁時)となっている。
【0170】
次いで、CPU81はステップ1148に進み、ステップ1146にて決定された燃料噴射量f4injの燃料を第4気筒に対応するインジェクタ39から噴射させる指示を出力し、その後、ステップ1140及びステップ1108の処理を実行して本ルーチンを一旦終了する。
【0171】
以上、説明したように、図11に示したルーチンによれば、吸気弁モデルM4a、シリンダモデルM5a及び排気弁モデルM6aが時分割的に使用され、第1気筒と第4気筒の吸気弁通過ガス流量miが遂次求められて筒内吸入空気量Miが推定されるとともに、それらの気筒に対する燃料噴射量f1inj,f4injが決定される。
【0172】
次に、この燃料噴射量制御装置が、第3気筒及び第2気筒の筒内吸入空気量Miを推定するとともに、それらの気筒に対する燃料噴射量f3inj,f2injを決定する際の作動について説明する。CPU81は、図12にフローチャートにより示されたルーチンを所定時間Δtの経過毎に実行するようになっている。図12のルーチンは図11のルーチンと同様であり、CPU81は、吸気弁モデルM4b、シリンダモデルM5b及び排気弁モデルM6bを使用して、第3気筒と第2気筒の各吸気弁通過ガス流量miを遂次求めるとともに、各吸気弁通過ガス流量miに基づいて各気筒の筒内吸入空気量Miを推定する。
【0173】
図12のルーチンは、図11のルーチンの対応するステップにおいて、第1気筒に対応する各種の値(例えば、リフト量Li1)を第3気筒に対応する各種の値(例えば、リフト量Li3)に置き換えるとともに、第4気筒に対応する各種の値(例えば、リフト量Li4)を第2気筒に対応する各種の値(例えば、リフト量Li2)に置き換えた点のみにおいて、同図11のルーチンと相違している。
【0174】
従って、CPU81は、図12のルーチンを実行することにより、第3気筒の吸気弁が開弁しているときには第3気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び筒内吸入空気量Miを推定し、第3気筒の吸気弁が閉弁した時点で第3気筒に対して噴射すべき噴射量を決定する。同様に、CPU81は、図12のルーチンを実行することにより、第2気筒の吸気弁が開弁しているときには第2気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び筒内吸入空気量Miを推定し、第2気筒の吸気弁が閉弁した時点で第2気筒に対して噴射すべき噴射量を決定する。
【0175】
従って、図1に示したように、例えば、第1気筒の吸気弁32と第3気筒の吸気弁32が共に開弁し、これら両気筒に空気が流入している時点t1〜t2においては、CPU81は、図11に示されたルーチンにより第1気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び筒内吸入空気量Mi等の推定を行うと同時に、図12に示されたルーチンにより第3気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び筒内吸入空気量Mi等の推定を行う。
【0176】
また、例えば、第3気筒の吸気弁32と第4気筒の吸気弁32が共に開弁し、これら両気筒に空気が流入している時点t3〜t4においては、CPU81は、図11に示されたルーチンにより第4気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び筒内吸入空気量Mi等の推定を行うと同時に、図12に示されたルーチンにより第3気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び筒内吸入空気量Mi等の推定を行う。
【0177】
以上、説明したように、本実施形態の筒内吸入空気量推定装置は、吸気弁の開弁期間が重なる複数の気筒(例えば、第1気筒と第3気筒)のそれぞれの筒内吸入空気量を同複数の気筒のそれぞれに対して備えられた吸入空気量推定手段(第1気筒に対しての吸気弁モデルM4aとシリンダモデルM5aと排気弁モデルM6aとからなる吸入空気量推定手段、及び、第3気筒に対しての吸気弁モデルM4bとシリンダモデルM5bと排気弁モデルM6bとからなる吸入空気量推定手段)によりそれぞれ推定する。
【0178】
また、本燃料噴射量制御装置は、吸気弁の開弁期間が重なることのない複数の気筒(例えば、第1気筒と第4気筒)のそれぞれの筒内吸入空気量を互いに同一の吸入空気量推定手段(吸気弁モデルM4aとシリンダモデルM5aと排気弁モデルM6aとからなる吸入空気量推定手段)によりそれぞれ推定する。
【0179】
従って、本燃料噴射量制御装置は、第1気筒〜第4気筒の4つの気筒全てに独立に吸入空気量推定手段を有する装置より、同時に計算に使用できる一時記憶領域の容量やプログラムのデータ量を低減(従って、ROMの容量を低減する。)することができる。その結果、本燃料噴射量制御装置のコストを低減することができる。
【0180】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記の燃料噴射量制御装置は、排気弁モデルM6a,M6bを備えていたが、排気弁モデルM6a,M6bを省略してもよい。また、上記実施形態の内燃機関10は4気筒エンジンであったが、吸気弁の開弁期間が一部重複する複数の気筒と、吸気弁の開弁期間が重複しない複数気筒とを有する、6気筒及び8気筒等の多気筒内燃機関にも本発明は当然に適用され得る。更に、各気筒の吸気弁通過ガス流量mi及び筒内吸入空気流量Miを求めるモデルは、遂次的に吸気弁通過ガス流量miを求めるモデルであれば、他のモデルであってもい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による内燃機関の筒内吸入空気量推定装置が適用される多気筒内燃機関の各気筒の吸気弁リフト量の時間経過に対する変化を示した図である。
【図2】 本発明による内燃機関の筒内吸入空気量推定装置を含む燃料噴射量制御装置を内燃機関に適用したシステムの概略構成図である。
【図3】 図2に示した電気制御装置が筒内吸入空気量等を推定するために採用した各種モデルの接続関係を示した機能ブロック図である。
【図4】 図2に示したCPUが参照するアクセルペダル操作量と目標スロットルバルブ開度との関係を規定したテーブルを示す図である。
【図5】 図2に示したCPUが参照するスロットルバルブ開度と流量係数との関係を規定したテーブルを示す図である。
【図6】 図2に示したCPUが参照するスロットルバルブ開度と開口面積との関係を規定したテーブルを示す図である。
【図7】 図2に示したCPUが参照する、スロットルバルブ開度と、流量係数と開口面積の積値との関係を規定したテーブルを示す図である。
【図8】 図2に示したCPUが各値を計算する際に使用する変数を説明するためシリンダ及びその近傍を概念的に示した図である。
【図9】 図2に示したCPUが参照する吸気弁リフト量と、流量係数と開口面積の積値との関係を規定したテーブルを示す図である。
【図10】 図2に示したCPUが参照する排気弁リフト量と、流量係数と開口面積の積値との関係を規定したテーブルを示す図である。
【図11】 図2に示したCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図12】 図2に示したCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【符号の説明】
10…内燃機関、21…シリンダ、25…燃焼室、31…吸気ポート、32…吸気弁、34…排気ポート、35…排気弁、39…インジェクタ、41…吸気管、52…排気管、80…電気制御装置、81…CPU、82…ROM。

Claims (1)

  1. 吸気弁の周囲を通過して気筒に吸入される空気流量である吸気弁通過ガス流量、同吸気弁の周囲を通過して気筒に吸入される際の空気の挙動を物理法則に基づいて表すモデルに従って微小時間の経過毎に実行される計算により推定し、同推定した吸気弁通過ガス流量に基いて同気筒に吸入される空気量である筒内吸入空気量を推定する吸入空気量推定手段を用い、複数の気筒のそれぞれの気筒の筒内吸入空気量を推定する多気筒内燃機関の筒内吸入空気量推定装置であって、
    前記複数の気筒のうちの特定の気筒に対して前記吸入空気量推定手段を備え、同特定の気筒に対して備えられた同吸入空気量推定手段は同特定の気筒の筒内吸入空気量を推定するとともに同特定の気筒の吸気弁の開弁期間と重なることのない吸気弁の開弁期間を有する同複数の気筒のうちの他の気筒の筒内吸入空気量をも推定するように構成された筒内吸入空気量推定装置。
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