以下、本発明の実施形態(本願の出願時点において取り敢えず出願人が最良と考えている実施形態)について図面を参照しつつ説明する。
なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態に対して施され得る各種の変更(modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
<内燃機関システムの構成>
図1は、本発明の一実施形態が適用された内燃機関システム1の全体構成を概略的に示す図である。この内燃機関システム1は、直列多気筒の内燃機関2と、吸排気系統3と、制御装置4と、を備えている(図1においては、気筒配列方向と直交する面による内燃機関2の断面図が示されているものとする。)。以下、内燃機関システム1の各部の構成について、さらに詳細に説明する。
<<内燃機関>>
まず、内燃機関2の構成について説明する。
ロワーケースやオイルパン等を含むシリンダブロック20aは、シリンダヘッド20bとともに、内燃機関2の本体部分(エンジンブロック)を構成する部材である。シリンダブロック20aの上端部には、シリンダヘッド20bが固定されている。
シリンダブロック20aには、上述の通り、複数のシリンダ21が、直列に設けられている。シリンダ21内には、ピストン22が、往復移動可能に収容されている。シリンダ21及びピストン22の下方には、クランクシャフト23が、回転可能に支持されつつ収容されている。クランクシャフト23は、ピストン22の往復移動に基づいて回転駆動されるように、コンロッド24を介して、クランクシャフト23と連結されている。
シリンダヘッド20bの下端面(シリンダブロック20aと対向する面)には、凹部が形成されている。この凹部は、シリンダ21の上端部に対応する位置に設けられている。この凹部の内側の空間と、ピストン22の頂面よりも上側のシリンダ21の内側の空間と、によって、燃焼室CCが形成されている。
シリンダヘッド20bには、燃焼室CCと連通するガス通路である吸気ポート25及び排気ポート26が形成されている。吸気ポート25は、吸排気系統3における一部の構成とともに本発明の吸気通路を構成するものであって、当該吸気通路におけるシリンダ21との接続部をなすものである。
また、シリンダヘッド20bには、吸気ポート25及び排気ポート26を開閉するための動弁機構27が設けられている。この動弁機構27は、吸気ポート25を開閉する吸気弁27a、排気ポート26を開閉する排気弁27b、及び、これら吸気弁27aや排気弁27bを所定のタイミングで開閉動作させるための機構を備えている。かかる機構には、吸気弁27aを駆動する吸気カムシャフトを含むとともに当該吸気カムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング装置27cや、排気弁27bを駆動する排気カムシャフト27d、等が含まれている。
さらに、内燃機関2には、インジェクタ28が装着されている。インジェクタ28は、吸気ポート25内に燃料を噴射するように設けられている。
<<吸排気系統>>
次に、内燃機関2に接続された吸排気系統3の構成について説明する。
吸気ポート25には、吸気マニホールド31が接続されている。吸気マニホールド31は、サージタンク32と接続されている。サージタンク32は、吸気ダクト33と接続されている。すなわち、吸気ポート25、吸気マニホールド31、サージタンク32、及び吸気ダクト33によって、本発明の吸気通路が構成されている。
吸気ダクト33には、インタークーラ34が介装されている。本実施形態におけるインタークーラ34は、空冷式であって、吸気通路を通流する空気を外気との熱交換によって冷却するようになっている。吸気ダクト33における、インタークーラ34よりも上流側には、エアフィルタ35が介装されている。
吸気ダクト33における、サージタンク32とインタークーラ34との間の位置には、スロットル弁36が介装されている。スロットル弁36は、吸気通路における流路断面積(開口断面積)を可変とするように設けられていて、スロットル弁アクチュエータ36aによって駆動されるようになっている。本実施形態のスロットル弁アクチュエータ36aは、DCモータである。このスロットル弁アクチュエータ36aは、制御装置4が達成する後述の電子制御スロットル弁ロジックA1(図2参照)によって実際のスロットル弁開度θtaが目標スロットル弁開度θttとなるように生成及び送出された駆動信号に応じて動作するようになっている。
一方、排気ポート26には、エキゾーストマニホールドを含む排気管37が接続されている。排気ポート26とともに排気通路を構成する排気管37には、排気ガス浄化触媒38が介装されている。
また、吸排気系統3には、過給機39が設けられている。本実施形態の過給機39は、いわゆるターボチャージャであって、タービン39aと、コンプレッサ39bと、を備えている。タービン39aは、排気管37における排気ガス浄化触媒38よりも上流側に介装されていて、排気管37内を通流する排気ガスによって回転駆動されるようになっている。コンプレッサ39bは、吸気ダクト33におけるインタークーラ34とエアフィルタ35との間の位置(すなわちスロットル弁36よりも上流側)に介装されている。このコンプレッサ39bは、タービン39aの回転に伴って回転駆動されることで、吸気ダクト33内の空気を圧縮するようになっている。
<制御装置の装置構成>
本発明の内燃機関システム制御装置の一実施形態である制御装置4は、内燃機関システム1の動作を制御するように、以下の通りに構成されている。
制御装置4は、電子コントロールユニット(以下、「ECU」と略称する。)40を備えている。ECU40は、CPU40aと、ROM40bと、RAM40cと、バックアップRAM40dと、インターフェース40eと、双方向バス40fと、を備えている。CPU40a、ROM40b、RAM40c、バックアップRAM40d、及びインターフェース40eは、双方向バス40fによって互いに接続されている。
ROM40bには、CPU40aにより実行されるルーチン(プログラム)の他に、このルーチンの実行の際に用いられるテーブル(マップ)やパラメータ等が、予め格納されている。RAM40cは、CPU40aによりルーチンが実行される際に、必要に応じてデータを一時的に格納し得るようになっている。バックアップRAM40dは、電源が投入された状態でCPU40aによりルーチンが実行される際にデータを格納するとともに、この格納されたデータを電源遮断後も保持し得るようになっている。
インターフェース40eは、後述する各種センサと電気的に接続されていて、これらからの信号をCPU40aに伝達し得るようになっている。また、インターフェース40eは、インジェクタ28、スロットル弁アクチュエータ36a、等の動作部と電気的に接続されていて、これらの動作部を動作させるための制御信号をCPU40aからこれらの動作部に伝達し得るようになっている。すなわち、ECU40は、上述の各種センサ等からの信号を受け取るとともに、当該信号に応じたCPU40aの演算結果に基づいて、上述の制御信号を各動作部に送出するように構成されている。
<<各種センサ>>
本実施形態の内燃機関システム1には、圧力センサ41と、温度センサ42と、カムポジションセンサ43と、クランクポジションセンサ44と、スロットルポジションセンサ45と、アクセル開度センサ46と、が設けられている。
圧力センサ41及び温度センサ42は、吸気ダクト33における、エアフィルタ35とコンプレッサ39bの間の位置に介装されている。圧力センサ41は、コンプレッサ39bの上流側の吸気通路内の空気の圧力である吸気圧力Paを表す信号を出力するようになっている。温度センサ42は、コンプレッサ39bの上流側の吸気通路内の空気の温度である吸気温度Taを表す信号を出力するようになっている。
カムポジションセンサ43は、可変吸気タイミング装置27cに含まれる上述の吸気カムシャフトが90°回転する毎に(すなわち、クランクシャフト23が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号(G2信号)を発生するようになっている。
クランクポジションセンサ44は、クランクシャフト23と対向するように配置されている。このクランクポジションセンサ44は、クランクシャフト23の回転角度に応じたパルスを有する波形の信号(機関回転数Neに対応する信号)を出力するようになっている。具体的には、クランクポジションセンサ44は、クランクシャフト23が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに、クランクシャフト23が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。
スロットルポジションセンサ45は、スロットル弁36に対応する位置に設けられている。このスロットルポジションセンサ45は、スロットル弁36の回転位相であるスロットル弁開度TAに対応する信号を出力するようになっている。
アクセル開度センサ46は、運転者によって操作されるアクセルペダル47の操作量を表す信号(アクセルペダル操作量Accp)を出力するようになっている。
<制御装置の機能ブロック構成>
図2は、図1に示されている制御装置4の機能ブロック図である。図2に示されているように、本実施形態の制御装置4は、上述の電子制御スロットル弁ロジックA1の他に、電子制御スロットル弁モデルM1と、スロットルモデルM2と、吸気弁モデルM3と、コンプレッサモデルM4と、インタークーラモデルM5と、吸気管モデルM6と、吸気弁モデルM7と、を備えている。
後述する詳細な説明によってより明確になるが、本実施形態においては、吸気弁モデルM3によって、本発明の筒内吸入空気流量算出手段の主要な部分が実現されている。また、本実施形態においては、コンプレッサモデルM4によって、本発明のコンプレッサ流出量算出手段の主要な部分が構成されている。また、本実施形態においては、スロットルモデルM2によって、本発明のスロットル通過空気量算出手段の主要な部分が構成されている。また、本実施形態においては、インタークーラモデルM5によって、本発明の過給圧算出手段の主要な部分が構成されている。また、本実施形態においては、吸気管モデルM6によって、本発明の吸気管内状態算出手段の主要な部分が構成されている。
<各ブロックの機能>
以下、図2に示されている各要素の機能及び作用を説明する。なお、各モデルを表す式の導出は周知であるため(例えば、特開2001−41095号公報や特開2003−184613号公報等を参照。)、本明細書においてはその詳細な説明は省略されている。
まず、筒内空気量の推定の概要について説明する。
本実施形態の内燃機関2においては、インジェクタ28は吸気弁27aよりも上流側に配置されている。このため、吸気弁27aの閉弁時(吸気行程が終了する時点)までに、燃料が噴射されなければならない。よって、燃焼室CC内に形成される燃料混合気の空燃比を目標とする空燃比と一致させるように燃料噴射量を決定するためには、燃料噴射前に、吸気弁27aの閉弁時における筒内空気量を予め推定する必要がある。
そこで、本実施形態の制御装置4は、物理法則に基づいて構築された計算モデルを用いて、現時点より先の所定時点での、インタークーラ34内の空気(スロットル弁上流空気)の圧力及び温度を推定し、この推定値に基づいて、当該所定時点の筒内空気量を推定する。
各モデルは、ある時点における空気の挙動を表すように物理法則に基づいて導き出された数式(以下、「一般式」とも言う。)により表される。通常、この一般式において使用される値(変数)は、求めたい値が「ある時点」の値であるならば、すべて当該「ある時点」の値でなくてはならない。すなわち、例えば、あるモデルがy=f(x)という一般式により表されているとき、現時点より先の所定時点のyの値を求めるには、変数xを当該時点の値としなければならない。
ここで、前述したように、求めたい筒内空気量は、現時点(演算時点)より先の所定時点の値である。よって、後述するように各モデルにて使用するスロットル弁開度θt、吸気圧力Pa、吸気温度Ta、エンジン回転速度NE、及び吸気弁27aの開閉タイミング(以下、「吸気バルブタイミングVT」と称する。)等の値は、すべて現時点より先の所定時点の値とする必要がある。
そこで、本実施形態の制御装置4は、目標とするスロットル弁開度を決定した時点から遅延させてスロットル弁36(スロットル弁アクチュエータ36a)を制御することにより、現時点より先の所定時点のスロットル弁開度θtを推定する。
もっとも、吸気圧力Pa、吸気温度Ta、エンジン回転速度NE、及び吸気バルブタイミングVTは、現時点から前記所定時点までの短い時間内ではそれほど大きく変化しない。よって、この制御装置4は、前記一般式において、前記所定時点の吸気圧力Pa、吸気温度Ta、エンジン回転速度NE、及び吸気バルブタイミングVTとして、現時点の検出値をそれぞれ採用する。
以上のように、本実施形態の制御装置4は、現時点より先の所定時点のスロットル弁開度θtの推定値と、現時点の吸気圧力Pa、吸気温度Ta、エンジン回転速度NE、及び吸気バルブタイミングVTの検出値と、各モデルと、に基づいて、当該所定時点の筒内空気量を推定する。
以下、具体的に、各モデルM1〜M7及びロジックA1について説明する。
<<電子制御スロットル弁モデルM1及び電子制御スロットル弁ロジックA1>>
電子制御スロットル弁モデルM1は、電子制御スロットル弁ロジックA1と協働して、現時点までのアクセルペダル操作量Accpに基づいて、現時点より先の第1時点(現時点から遅延時間TD(本例では64ms)だけ経過した後の時点)までのスロットル弁開度θtを推定するモデルである。
具体的に述べると、電子制御スロットル弁ロジックA1は、図3に示されているアクセルペダル操作量Accpと目標スロットル弁開度θttとの関係を規定するテーブル及びアクセル開度センサ46により検出された実際のアクセルペダル操作量Accpに基づいて、暫定的な目標スロットル弁開度である暫定目標スロットル弁開度θtt1を、所定時間ΔTt1(本例では2ms)の経過毎に決定する。
また、電子制御スロットル弁ロジックA1は、図4のタイムチャートに示されているように、決定された暫定目標スロットル弁開度θtt1を、所定の遅延時間TD後の時点(第1時点)の目標スロットル弁開度θttとして設定する。すなわち、電子制御スロットル弁ロジックA1は、所定の遅延時間TD前の時点にて決定された暫定目標スロットル弁開度θtt1を、現時点の目標スロットル弁開度θttとして設定する。そして、電子制御スロットル弁ロジックA1は、現時点のスロットル弁開度θtaが現時点の目標スロットル弁開度θttとなるように、スロットル弁アクチュエータ36aに対して駆動信号を送出する。
ところで、電子制御スロットル弁ロジックA1から前記駆動信号がスロットル弁アクチュエータ36aに対して送出されると、当該スロットル弁アクチュエータ36aの作動の遅れやスロットル弁36の慣性等により、実際のスロットル弁開度θtaは、ある遅れを伴って目標スロットル弁開度θttに追従する。そこで、電子制御スロットル弁モデルM1は、下記(1)式に基づいて、遅延時間TD後の時点におけるスロットル弁開度を推定(予測)する(図4参照)。
θte(k)=θte(k-1)+ΔTt1・f(θtt(k),θte(k-1)) …(1)
この(1)式において、θte(k)は今回の演算時点にて新たに推定される予測スロットル弁開度θteであり、θtt(k)は今回の演算時点にて新たに設定された目標スロットル弁開度θttであり、θte(k-1)は今回の演算時点にて既に推定されていた予測スロットル弁開度θte(すなわち、前回の演算時点にて新たに推定された予測スロットル弁開度θte)である。また、関数f(θtt,θte)は、図5に示されているように、θttとθteとの差Δθ(=θtt−θte)が大きい程大きい値をとる関数(Δθに関して単調増加する関数f)である。
このように、電子制御スロットル弁モデルM1は、今回の演算時点にて前記第1時点(現時点から遅延時間TD後の時点)の目標スロットル弁開度θttを新たに決定するとともに、前記第1時点のスロットル弁開度θteを新たに推定する。また、電子制御スロットル弁モデルM1は、前記第1時点までの目標スロットル弁開度θttと予測スロットル弁開度θteとを、現時点からの時間経過に対応させた形で、RAM40cに記憶させる(格納する)。
<<スロットルモデルM2>>
スロットルモデルM2は、本モデルを表す一般式である(2)式及び(3)式に基づいて、スロットル弁36の周囲を通過する空気の流量であるスロットル通過空気流量mtを推定するモデルである。
(2)式において、Ct(θt)はスロットル弁開度θtに応じて変化する流量係数、At(θt)はスロットル弁開度θtに応じて変化するスロットル開口断面積(吸気通路内のスロットル弁36の周囲の開口断面積)、Picはインタークーラ34内の空気の圧力であるインタークーラ内圧力(すなわちスロットル弁36の上流の吸気通路内の空気の圧力であるスロットル弁上流圧力)、Pmは吸気管部(吸気通路におけるスロットル弁36から吸気弁27aまでの部分:以下同様)内の空気の圧力である吸気管内圧力、Ticはインタークーラ34内の空気の温度であるインタークーラ内温度(すなわちスロットル弁36の上流の吸気通路内の空気の温度であるスロットル弁上流温度)、Rは気体定数、κは空気の比熱比(以下、κを一定値として扱う。)である。
ここで、(2)式の右辺のCt(θt)及びAt(θt)の積であるCt(θt)・At(θt)は、スロットル弁開度θtに基づいて経験的に決定することができる。そこで、本実施形態においては、スロットル弁開度θtとCt(θt)・At(θt)との関係を規定するテーブルMAPCTATが、ROM40bに予め記憶されている。そして、スロットルモデルM2は、電子制御スロットル弁モデルM1により推定された予測スロットル弁開度θt(k-1)(=θte)と、上述のテーブルMAPCTATと、に基づいて、Ct(θt)・At(θt)(=MAPCTAT(θt(k-1)))を求める。
さらに、スロットルモデルM2は、値(Pm(k-1)/Pic(k-1))とテーブルMAPΦとから、値Φ(Pm(k-1)/Pic(k-1))(=MAPΦ(Pm(k-1)/Pic(k-1)))を求める。ここで、値(Pm(k-1)/Pic(k-1))は、後述する吸気管モデルM6により既に推定されている直前(最新)の吸気管内圧力Pm(k-1)を、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内圧力(スロットル弁上流圧力)Pic(k-1)で除した値である。また、テーブルMAPΦは、値Pm/Picと値Φ(Pm/Pic)との関係を規定するテーブルであって、ROM40bに予め記憶されている。
スロットルモデルM2は、以上のようにして求めた値Φ(Pm(k-1)/Pic(k-1))と、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内圧力(スロットル弁上流圧力)Pic(k-1)及びインタークーラ内温度(スロットル弁上流温度)Tic(k-1)と、を前記(2)式に適用することで、スロットル通過空気流量mt(k-1)を求める。
<<吸気弁モデルM3>>
吸気弁モデルM3は、前記吸気管部内の空気の圧力である吸気管内圧力Pm、前記吸気管部内の空気の温度である吸気管内温度Tm、及びインタークーラ内温度Tic等から、吸気弁27aの周囲を通過してシリンダ21内に流入する空気の流量である筒内流入空気流量mcを推定するモデルである。
吸気行程(吸気弁27aの閉弁時も含む)におけるシリンダ21内(燃焼室CC内)の圧力は、吸気弁27aの上流の圧力、すなわち、吸気管内圧力Pmとみなすことができる。よって、筒内流入空気流量mcは、吸気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmに比例すると考えることができる。そこで、吸気弁モデルM3は、筒内流入空気流量mcを、本モデルを表す一般式であり経験則に基づく下記(4)式に従って求める。
mc=(Tic/Tm)・(c・Pm−d) …(4)
前記(4)式において、値cは比例係数であり、値dは燃焼室CC内に残存していた既燃ガス量を反映した値である。値cは、エンジン回転速度NE及び吸気バルブタイミングVTと定数cとの関係を規定するテーブルMAPCと、現時点のエンジン回転速度NE及び吸気バルブタイミングVTとから求めることができる(c=MAPC(NE,VT))。このテーブルMAPCは、ROM40bに予め記憶されている。同様に、値dは、エンジン回転速度NE及び吸気バルブタイミングVTと定数dとの関係を規定するテーブルMAPDと、現時点のエンジン回転速度NE及び吸気バルブタイミングVTと、から求めることができる(d=MAPD(NE,VT))。このテーブルMAPDも、ROM40bに予め記憶されている。
吸気弁モデルM3は、後述する吸気管モデルM6により既に推定されている直前(最新)の吸気管内圧力Pm(k-1)及び吸気管内温度Tm(k-1)と、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内温度Tic(k-1)と、を前記(4)式に適用することで、筒内流入空気流量mc(k-1)を推定する。
<<コンプレッサモデルM4>>
コンプレッサモデルM4は、インタークーラ内圧力Pic及び筒内流入空気流量mcに基づいて、コンプレッサ39bから流出する空気(インタークーラ34に供給される空気)の流量であるコンプレッサ流出空気流量mcmを推定するモデルである。
本発明の発明者は、種々の検討を行った結果、以下の知見を得た。
過給機39の単体としては、コンプレッサ流出空気流量mcmとインタークーラ内圧力Pic(過給圧)との関係は、図6に示されているように、コンプレッサ回転速度Ncmに応じて様々に変化する。すなわち、コンプレッサ回転速度Ncmを一定とした場合の、コンプレッサ流出空気流量mcmとインタークーラ内圧力Picとの関係を示すグラフは、1本の曲線状(原点方向すなわち図中左下方向に開口した略楕円弧状)となる。但し、コンプレッサ回転速度Ncmが上昇すると、上述の曲線の形状が変化するとともに、その位置も原点から離れる方向にシフトする。
他方、過給機39の単体としてではなく、これを備えた内燃機関システム1としては、その定常運転状態では、インタークーラ内圧力Picは、図7に示されているように、当該定常運転状態にてコンプレッサ流出空気流量mcmと一致する筒内流入空気流量mcの関数として表され得る(図中細い実線による曲線参照)。すなわち、当該定常運転状態における両者の関係を示すグラフは、コンプレッサ回転速度Ncmによらず、上述のシフト方向に沿った所定の1本の曲線状となる。なお、かかる関係は、実験によって予め求められ得る。
そこで、コンプレッサモデルM4は、まず、図7に示されている関係に基づいて、筒内流入空気流量mcから暫定過給圧Pic0を取得する。この暫定過給圧Pic0は、過給圧の暫定値、すなわち、現在の運転状態を定常運転状態と仮定した場合の筒内流入空気流量mcに対応するインタークーラ内圧力Picである。
なお、図7にて一点鎖線で示された曲線は、ある筒内流入空気流量mc及びこれに基づいて取得した暫定過給圧Pic0に対応する、コンプレッサ流出空気流量mcmとインタークーラ内圧力Picとのコンプレッサ回転速度Ncmが一定の条件下での関係(図6参照)である(すなわち、かかる一点鎖線で示された曲線を特定することで、コンプレッサ回転速度Ncmを推定することができる。)。また、図7にて太い実線で示されている直線は、図中細い実線の曲線と一点鎖線の曲線との交点における、当該一点鎖線の曲線の接線である。
過渡運転時においては、インタークーラ内圧力Picは暫定過給圧Pic0とは異なり、コンプレッサ流出空気流量mcmも筒内流入空気流量mcとは異なる。よって、コンプレッサモデルM4は、暫定過給圧Pic0とインタークーラ内圧力Picとの差ΔPicに基づいて、コンプレッサ流出量補正値Δmcmを取得し、この補正値Δmcmを筒内流入空気流量mcに加算することで、コンプレッサ流出空気流量mcmを推定する。
図8は、図2に示されているコンプレッサモデルM4の構成の詳細を示す機能ブロック図である。以下、図2、図7、及び図8を参照すると、コンプレッサモデルM4は、マップM41と、演算部M42ないしM44を有している。
マップM41は、吸気弁モデルM3によって既に推定されている筒内流入空気流量mc(k-1)から暫定過給圧Pic0を取得するためのマップMAPPIC0(mc)であって(図7参照)、ROM40bに予め記憶されている。演算部M42は、マップM41を用いて取得された暫定過給圧Pic0(=MAPPIC0(mc(k-1)))と、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内圧力Pic(k-1)と、の差ΔPicを算出する。
演算部M43は、演算部M42にて算出された値ΔPicに所定のゲインKを乗算することで、コンプレッサ流出量補正値Δmcmを算出する(ゲインKは図7における太い実線の傾きに相当する。)。なお、このゲインKは、ROM40bに予め記憶されたマップと、上述の筒内流入空気流量mc(k-1)及びインタークーラ内圧力Pic(k-1)と、に基づいて取得されたものである(K=MAPK(mc,Pic))。
演算部M44は、演算部M43にて算出されたコンプレッサ流出量補正値Δmcmを、上述の筒内流入空気流量mc(k-1)に加算することで、コンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)を算出、推定する。
再び図2を参照すると、コンプレッサモデルM4は、また、コンプレッサ付与エネルギーEcmを推定するモデルでもある。コンプレッサ付与エネルギーEcmは、本モデルの一部を表す一般式である下記(5)式、コンプレッサ効率η、コンプレッサ流出空気流量mcm、値Pic/Pa(インタークーラ内圧力Picを吸気圧力Paで除した値)、及び吸気温度Taにより求められる(下記(5)式の導出過程については特開2006−70881号公報を参照)。
前記(5)式において、Cpは空気の定圧比熱である。また、コンプレッサ効率ηは、コンプレッサ流出空気流量mcmと、コンプレッサ回転速度Ncmと、に基づいて経験的に推定することができる。したがって、コンプレッサ効率ηは、コンプレッサ流出空気流量mcm及びコンプレッサ回転速度Ncmとコンプレッサ効率ηとの関係を規定するテーブルMAPETA、コンプレッサ流出空気流量mcm及びコンプレッサ回転速度Ncmに基づいて求められる。
ここで、本実施形態のコンプレッサモデルM4は、コンプレッサ回転速度Ncmを、図6及び図7に示されている関係に基づいて、コンプレッサ回転速度検出センサを用いることなく、精度良く推定する。すなわち、コンプレッサモデルM4は、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内圧力Pic(k-1)と、上述のようにして推定されたコンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)と、図6に示されているようなマップ(MAPNcm(Pic,mcm))と、から、コンプレッサ回転速度Ncmを推定する(Ncm=MAPNcm(Pic(k-1),mcm(k-1)))。
ROM40bには、上述のテーブルMAPETAが、予め記憶されている(図9参照)。コンプレッサモデルM4は、このテーブルMAPETAと、上述のように推定されたコンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)及びコンプレッサ回転速度Ncmと、から、コンプレッサ効率η(k-1)(=MAPETA(mcm(k-1),Ncm))を推定する。
そして、コンプレッサモデルM4は、上述のように推定されたコンプレッサ効率η(k-1)及びコンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)と、値Pic(k-1)/Paと、現時点の吸気温度Taと、を上記(5)式に適用することで、コンプレッサ付与エネルギーEcm(k-1)を推定する。ここで、値Pic(k-1)/Paは、後述するインタークーラモデルM5により既に推定されている直前(最新)のインタークーラ内圧力Pic(k-1)を、現時点の吸気圧力Paで除したものである。
<<インタークーラモデルM5>>
インタークーラモデルM5は、本モデルを表す一般式である下記(6)式及び下記(7)式、吸気温度Ta、インタークーラ部に流入する空気の流量(すなわちコンプレッサ流出空気流量mcm)、コンプレッサ付与エネルギーEcm、並びに前記インタークーラ部から流出する空気の流量(すなわち、スロットル通過空気流量mt)から、インタークーラ内圧力Pic及びインタークーラ内温度Ticを求めるモデルである(下記(6)式及び(7)式の導出過程については特開2006−70881号公報を参照)。
なお、前記インタークーラ部は、インタークーラ34の他に、コンプレッサ39bの出口からスロットル弁36までの吸気通路を含む。また、下記(6)式及び下記(7)式において、Vicは前記インタークーラ部の容積である。
d(Pic/Tic)/dt=(R/Vic)・(mcm−mt) …(6)
dPic/dt=κ・(R/Vic)・(mcm・Ta−mt・Tic)+(κ−1)/(Vic)・(Ecm−K・(Tic−Ta)) …(7)
インタークーラモデルM5は、コンプレッサモデルM4により取得されたコンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)及びコンプレッサ付与エネルギーEcm(k-1)と、スロットルモデルM2により取得されたスロットル通過空気流量mt(k-1)と、現時点の吸気温度Taと、を前記(6)式及び前記(7)式の右辺に適用して、(6)式及び(7)式に基づく計算を行うことで、最新のインタークーラ内圧力Pic(k)及びインタークーラ内温度Tic(k)を推定する。
<<吸気管モデルM6>>
吸気管モデルM6は、本モデルを表す一般式である下記(8)式及び下記(9)式、前記吸気管部に流入する空気の流量(すなわちスロットル通過空気流量mt)、インタークーラ内温度(スロットル弁上流温度)Tic、並びに前記吸気管部から流出する空気の流量(すなわち筒内流入空気流量mc)から、吸気管内圧力Pm及び吸気管内温度Tmを求めるモデルである。なお、下記(8)式及び下記(9)式において、Vmは前記吸気管部の容積である。
d(Pm/Tm)/dt=(R/Vm)・(mt−mc) …(8)
dPm/dt=κ・(R/Vm)・(mt・Tic−mc・Tm) …(9)
吸気管モデルM6は、スロットルモデルM2により取得されたスロットル通過空気流量mt(k-1)と、吸気弁モデルM3により取得された筒内流入空気流量mc(k-1)と、インタークーラモデルM5が推定した最新のインタークーラ内温度(スロットル弁上流温度)Tic(k)と、を前記(8)式及び前記(9)式の右辺に適用し、(8)式及び(9)式に基づく計算を行うことで、最新の吸気管内圧力Pm(k)及び吸気管内温度Tm(k)を推定する。
<<吸気弁モデルM7>>
吸気弁モデルM7は、上述の吸気弁モデルM3と同様のモデルを含んでいる。吸気弁モデルM7においては、前記吸気管モデルM6が推定した最新の吸気管内圧力Pm(k)及び吸気管内温度Tm(k)と、前記インタークーラモデルM5が推定した最新のインタークーラ内温度Tic(k)と、を、本モデルを表す一般式でありる前記(4)式に適用することで、最新の筒内流入空気流量mc(k)を求める。
そして、吸気弁モデルM7は、上述のようにして求めた筒内流入空気流量mc(k)に、現時点のエンジン回転速度NE及び現時点の吸気バルブタイミングVTから算出される時間Tint(吸気弁27aが開弁してから閉弁するまでの時間)を乗じることで、筒内空気量の推定値である予測筒内空気量KLfwdを求める。
<実施形態の動作の具体例>
次に、上述の構成を備えた本実施形態の制御装置4の動作の具体例について、フローチャートを用いて説明する。なお、フローチャートを示す図面においては、「ステップ」は“S”と略称されているものとする。
<<スロットル弁開度推定>>
CPU40aは、図10に示されているスロットル弁開度推定ルーチン1000を、所定の演算周期ΔTt1(本例では2ms)の経過毎に実行する。
CPU40aは、所定のタイミングにてルーチン1000の処理を開始する。ルーチン1000の処理が開始されると、まず、ステップ1005にて、変数iに「0」が設定される。次に、ステップ1010にて、変数iが遅延回数ntdlyと等しいか否かが判定される。この遅延回数ntdlyは、遅延時間TD(本例では64ms)を前記演算周期ΔTt1で除した値(本例では32)である。
ルーチン1000の処理の開始直後のこの時点では、変数iは「0」である。よって、ステップ1010の判定が「No」となり、処理がステップ1015に進行する。ステップ1015にて、CPU40aは、目標スロットル弁開度θtt(i)に目標スロットル弁開度θtt(i+1)の値を格納するとともに、続くステップ1020にて、予測スロットル弁開度θte(i)に予測スロットル弁開度θte(i+1)の値を格納する。以上の処理により、目標スロットル弁開度θtt(0)に目標スロットル弁開度θtt(1)の値が格納され、予測スロットル弁開度θte(0)に予測スロットル弁開度θte(1)の値が格納される。続いて、CPU40aは、ステップ1025にて変数iの値を「1」だけ増大させて、ステップ1010の処理に戻る。
変数iの値が遅延回数ntdlyより小さい間は、再びステップ1015〜1025が実行される。すなわち、ステップ1015〜1025は、変数iの値が遅延回数ntdlyと等しくなるまで繰り返し実行される。これにより、目標スロットル弁開度θtt(i+1)の値が目標スロットル弁開度θtt(i)に順次シフトされ、予測スロットル弁開度θte(i+1)の値が予測スロットル弁開度θte(i)に順次シフトされて行く。
変数iの値が遅延回数ntdlyと等しくなると、ステップ1010の判定が「Yes」となり、処理がステップ1030に進行する。このステップ1030にて、CPU40aは、現時点のアクセルペダル操作量Accpと図3のテーブルとに基づいて、今回の暫定目標スロットル弁開度θtt1を求めるとともに、これを遅延時間TD後の目標スロットル弁開度θttとするために目標スロットル弁開度θtt(ntdly)に格納する。
続いて、処理がステップ1035に進行する。このステップ1035にて、CPU40aは、前回の演算時点にて格納した予測スロットル弁開度θte(ntdly-1)と、ステップ1030にて格納した目標スロットル弁開度θtt(ntdly)と、前記(1)式(図10におけるステップ1035内に示された式参照)と、に基づいて、現時点から遅延時間TD後の予測スロットル弁開度θte(ntdly)を算出する。そして、CPU40aは、ステップ1040にて、実際のスロットル弁開度θtaが目標スロットル弁開度θtt(0)となるように、スロットル弁アクチュエータ36aに対して駆動信号を送出し、本ルーチンを一旦終了する。
以上のように、目標スロットル弁開度θttに関するメモリ(RAM40c)においては、本ルーチンが実行される毎に、メモリの内容が一つずつシフトされていく。そして、目標スロットル弁開度θtt(0)に格納された値が、電子制御スロットル弁ロジックA1によりスロットル弁アクチュエータ36aに出力される、目標スロットル弁開度θttとして設定される。
すなわち、今回の本ルーチンの実行により目標スロットル弁開度θtt(ntdly)に格納された値は、その後本ルーチンが遅延回数ntdlyだけ繰り返されたとき(遅延時間TD後)、θtt(0)に格納される。また、予測スロットル弁開度θteに関するメモリ(RAM40c)においては、同メモリ内のθte(m)に現時点から所定時間(m・ΔTt)経過後の予測スロットル弁開度θteが格納される。この場合の値mは、0〜ntdlyの整数である。
<<筒内空気量推定>>
一方、CPU40aは、図11に示されている筒内空気量推定ルーチン1100を所定の演算周期ΔTt2(本例では8ms)の経過毎に実行することにより、現時点より先の時点の筒内空気量(予測筒内空気量KLfwd)を推定する。
具体的に説明すると、CPU40aは、所定のタイミングにて、ルーチン1100の処理を開始する。ルーチン1100の処理が開始されると、まず、ステップ1105にて、前記スロットルモデルM2によりスロットル通過空気流量mt(k-1)を求めるため、図12のフローチャートに示されているルーチン1200に処理が進行する。
ルーチン1200においては、CPU40aは、まず、ステップ1205にて、上述のルーチン1000の実行によりメモリに格納されているθte(m)から、現時点より所定の時間間隔Δt0だけ後の時点と最も近い時点のスロットル弁開度として推定された予測スロットル弁開度θte(m)を、予測スロットル弁開度θt(k-1)として読み込む。ここで、所定の時間間隔Δt0は、本例では、特定の気筒の燃料噴射開始時期前の所定の時点(燃料噴射量を決定する必要がある最終の時点)から、同気筒の吸気行程における吸気弁27aの閉弁時(第2時点)までの時間である。
以下、説明の便宜上、前回の演算時点における前記予測スロットル弁開度θt(k-1)に対応する時点を前回推定時点t1とし、今回の演算時点における前記予測スロットル弁開度θt(k-1)に対応する時点を今回推定時点t2とする(第1時点、所定の時間間隔Δt0、前回推定時点t1及び今回推定時点t2の関係を示した模式図である図13を参照。)。
次に、処理がステップ1210に進行し、CPU40aは、前記(2)式のCt(θt)・At(θt)を、前記テーブルMAPCTATと予測スロットル弁開度θt(k-1)とから求める。次いで、処理がステップ1215に進行し、CPU40aは、値(Pm(k-1)/Pic(k-1))と前記テーブルMAPΦとから、値Φ(Pm(k-1)/Pic(k-1))を求める。ここで、値(Pm(k-1)/Pic(k-1))は、前回の図11のルーチンの実行時における後述するステップ1125にて求められた前回推定時点t1における吸気管内圧力Pm(k-1)を、前回の図11のルーチンの実行時における後述するステップ1120にて求められた前回推定時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)で除した値である。
続いて、処理がステップ1220に進行し、CPU40aは、ステップ1210及びステップ1215にてそれぞれ求めた値と、スロットルモデルM2を表す前記(2)式(図12におけるステップ1220内に示された式参照)と、前回の図11のルーチンの実行時における後述するステップ1120にて求められた前回推定時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)及びインタークーラ内温度Tic(k-1)と、に基づいて、前回推定時点t1におけるスロットル通過空気流量mt(k-1)を求める。そして、このルーチン1200が一旦終了して、処理が図11のステップ1110に進行する。
ステップ1110において、CPU40aは、吸気弁モデルM3を表す前記(4)式(図11におけるステップ1110内に示された式参照)の係数cを、前記テーブルMAPCと、現時点のエンジン回転速度NE及び現時点の吸気バルブタイミングVTと、から求める。同様に、CPU40aは、前記(4)式の値dを、前記テーブルMAPDと、現時点のエンジン回転速度NE及び現時点の吸気バルブタイミングVTと、から求める。さらに、CPU40aは、前記(4)式と、前回の本ルーチンの実行時における後述するステップ1120にて求められた前回推定時点t1におけるインタークーラ内温度Tic(k-1)と、前回の本ルーチンの実行時における後述するステップ1125にて求められた前回推定時点t1における吸気管内圧力Pm(k-1)及び吸気管内温度Tm(k-1)と、に基づいて、前回推定時点t1における筒内流入空気流量mc(k-1)を求める。
次に、処理がステップ1115に進行し、コンプレッサモデルM4によりコンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)及びコンプレッサ付与エネルギーEcm(k-1)を求めるため、図14のフローチャートに示されているルーチン1400に処理が進行する。
ルーチン1400においては、CPU40aは、まず、ステップ1410にて、上述のステップ1110にて取得された前回推定時点t1における筒内流入空気流量mc(k-1)と、前記マップMAPPIC0(mc)と、に基づいて、暫定過給圧Pic0を取得する。次に、処理がステップ1420に進行し、CPU40aは、この暫定過給圧Pic0と、前回の図11のルーチンの実行時における後述するステップ1120にて求められた前回推定時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)と、の差ΔPicを算出する。
続いて、処理がステップ1430に進行し、CPU40aは、上述のインタークーラ内圧力Pic(k-1)及び前回推定時点t1における筒内流入空気流量mc(k-1)と、前記マップMAPK(mc,Pic)と、に基づいて、ゲインKを取得する。次いで、処理がステップ1440に進行し、CPU40aは、このゲインKと上述の値ΔPicとを乗算することで、コンプレッサ流出量補正値Δmcmを算出する。次いで、処理がステップ1450に進行し、CPU40aは、ステップ1440にて算出された補正値Δmcmを、前回推定時点t1における筒内流入空気流量mc(k-1)に加算することで、前回推定時点t1におけるコンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)を求める。
その後、処理がステップ1460に進行し、CPU40aは、上述のインタークーラ内圧力Pic(k-1)及びコンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)と、前記マップMAPNcm(Pic,mcm)と、に基づいて、コンプレッサ回転速度Ncmを推定する。続いて、CPU40aは、ステップ1470にて、前記テーブルMAPETAと、ステップ1460にて推定されたコンプレッサ回転速度Ncmと、に基づいて、コンプレッサ効率η(k-1)を求める。
さらに、処理がステップ1480に進行し、CPU40aは、前回の図11のルーチンの実行時における後述するステップ1120にて求められた前回推定時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)を現時点の吸気圧力Paで除した値Pic(k-1)/Paと、ステップ1450にて求めたコンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)と、ステップ1470にて求めたコンプレッサ効率η(k-1)と、現時点の吸気温度Taと、コンプレッサモデルM4の一部を表す前記(5)式(図14におけるステップ1420内に示された式参照)と、に基づいて、前回推定時点t1におけるコンプレッサ付与エネルギーEcm(k-1)を求める。そして、このルーチン1400が一旦終了して、処理が図11のステップ1120に進行する。
ステップ1120にて、CPU40aは、インタークーラモデルM5を表す前記(6)式及び(7)式を離散化した式(差分方程式:図11におけるステップ1120内に示された式参照)と、上述のステップ1105及びステップ1115にてそれぞれ求めたスロットル通過空気流量mt(k-1)、コンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)、及びコンプレッサ付与エネルギーEcm(k-1)と、に基づいて、今回推定時点t2におけるインタークーラ内圧力Pic(k)と、このインタークーラ内圧力Pic(k)を今回推定時点t2におけるインタークーラ内温度Tic(k)にて除した値{Pic/Tic}(k)と、を求める。
なお、Δtは、このインタークーラモデルM5による計算(ステップ1120)及び後述する吸気管モデルM6による計算(ステップ1125)で使用される離散間隔であり、下記の式により表される。
Δt=t2−t1
すなわち、ステップ1120においては、前回推定時点t1におけるインタークーラ内圧力Pic(k-1)及びインタークーラ内温度Tic(k-1)等から、今回推定時点t2におけるインタークーラ内圧力Pic(k)及びインタークーラ内温度Tic(k)が求められる。
次に、処理がステップ1125に進行し、CPU40aは、吸気管モデルM6を表す前記(8)式及び(9)式を離散化した式(差分方程式:図11におけるステップ1125内に示された式参照)と、上述のステップ1105及びステップ1110にてそれぞれ求めたスロットル通過空気流量mt(k-1)及び筒内流入空気流量mc(k-1)と、前回の本ルーチンの実行時におけるステップ1120にて求められた前回推定時点t1におけるインタークーラ内温度Tic(k-1)と、に基づいて、今回推定時点t2における吸気管内圧力Pm(k)と、この吸気管内圧力Pm(k)を今回推定時点t2における吸気管内温度Tm(k)にて除した値{Pm/Tm}(k)と、を求める。すなわち、ステップ1125においては、前回推定時点t1における吸気管内圧力Pm(k-1)及び吸気管内温度Tm(k-1)等から、今回推定時点t2における吸気管内圧力Pm(k)及び吸気管内温度Tm(k)が求められる。
続いて、処理がステップ1130に進行し、CPU40aは、吸気弁モデルM7を表す前記(4)式を用いて、今回推定時点t2における筒内流入空気流量mc(k)を求める。このとき、係数c及び値dとして、上述のステップ1110にて求めた値が用いられる。また、インタークーラ内温度Tic(k)、吸気管内圧力Pm(k)、及び吸気管内温度Tm(k)は、上述のステップ1120及びステップ1125にてそれぞれ求められた今回推定時点t2における値(最新の値)が用いられる。
そして、CPU40aは、続くステップ1135にて、現時点のエンジン回転速度NEと現時点の吸気バルブタイミングVTとにより求められる吸気弁開弁時間(吸気弁27aが開弁してから閉弁するまでの時間)Tintを計算し、さらに、続くステップ1140にて、前記今回推定時点t2における筒内流入空気流量mc(k)に吸気弁開弁時間Tintを乗じることで予測筒内空気量KLfwdを算出し、本ルーチンを一旦終了する。
以上のように算出される予測筒内空気量KLfwdについて、さらに説明する。ここで、説明の便宜上、クランクシャフト23が360°回転する時間よりも図11の筒内空気量推定ルーチンの演算周期ΔTt2が十分に短い場合であって、且つ、所定の時間間隔Δt0が大きく変化しない場合を考える。
このとき、今回推定時点t2は、上述した筒内空気量推定ルーチン1100の実行が繰り返される毎に、略演算周期ΔTt2だけ先の時点へと移行していく。そして、特定の気筒の燃料噴射開始時期前の所定の時点(燃料噴射量を決定する必要がある最終の時点)にて本ルーチンが実行されると、今回推定時点t2は、前記第2時点(同気筒の吸気行程における吸気弁27aの閉弁時)と略一致する。したがって、この時点にて算出される予測筒内空気量KLfwdは、前記第2時点の筒内空気量の推定値となっている。
<実施形態による作用・効果>
上述の通り、本実施形態の制御装置4は、排気系のパラメータと比べて取得(計測あるいは算出)が精度良く行われ得る吸気系のパラメータと空気モデル(吸気弁モデル等)とを用いて筒内吸入空気流量mcを算出するとともに、この算出値と図7に示されている所定の関係とに基づいて、コンプレッサ流出空気流量mcmを算出する。したがって、本実施形態の構成によれば、コンプレッサ流出空気流量mcm及び予測筒内空気量KLfwdが、より高い精度にて推定され得る。
また、本実施形態の制御装置4は、コンプレッサ流出空気流量mcm及び予測筒内空気量KLfwdの算出に際し、空気流量センサの出力値ではなく、スロットルモデルM2により推定されたスロットル通過空気流量mtが用いられている。したがって、本実施形態の構成によれば、コンプレッサ流出空気流量mcm及び予測筒内空気量KLfwdが、よりいっそう高い精度にて推定され得る。
さらに、本実施形態の制御装置4は、コンプレッサ回転速度検出センサを用いずに、コンプレッサモデルM4及びインタークーラモデルM5を構築している。したがって、本実施形態によれば、コンプレッサ流出空気流量mcm及び予測筒内空気量KLfwdの高精度での推定が、簡略かつ信頼性の高い装置構成で行われ得る。
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の代表的な実施形態を単に例示したものにすぎない。よって、本発明はもとより上述の実施形態に何ら限定されるものではない。したがって、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、上述の実施形態に対して種々の変形が施され得ることは、当然である。
以下、代表的な変形例について、幾つか例示する。もっとも、言うまでもなく、変形例とて、以下に列挙されたもの限定されるものではない。また、複数の変形例の全部又は一部が、技術的に矛盾しない範囲内において、適宜、互いに複合的に適用され得る。本発明(特に、本発明の課題を解決するための手段を構成する各構成要素における、作用的・機能的に表現されているもの)は、上述の実施形態や、下記変形例の記載に基づいて限定解釈されてはならない。このような限定解釈は、(先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
(A)本発明は、上述の実施形態で示された具体的な装置構成に限定されない。
例えば、本発明は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、メタノールエンジン、バイオエタノールエンジン、その他任意のタイプの内燃機関に適用可能である。気筒数や気筒配列方式(直列、V型、水平対向)も、特に限定はない。
インタークーラ34は、水冷式のものであってもよい。あるいは、インタークーラ34は、なくてもよい。過給機39は、ターボチャージャ以外の方式のものであってもよい。
(B)また、本発明は、上述の実施形態で示された具体的な機能・動作に限定されない。
・例えば、遅延時間TDは、一定の時間ではなく、エンジン回転速度NEに応じた可変の時間(例えばクランクシャフト23が所定角度だけ回転するのに要する時間)であってもよい。
・内燃機関システム1にスロットル弁36が設けられていない場合、スロットルモデルM2に代えて、吸気弁モデルM3及び/又は吸気管モデルM6を適宜変容した計算モデルを構築することで、コンプレッサモデルM4等の他のモデルにおける計算に必要なパラメータが生成され得る。インタークーラ34が設けられていない場合も同様である。
・スロットル弁アクチュエータ36aに対して駆動信号が送出された時点から、ほとんど遅れることなく、実際のスロットル弁開度θtaが目標スロットル弁開度θttとなる場合には、(1)式に換えて、下記の式が適用されてもよい。
θte(k)=θtt(k)
・図6や図7におけるインタークーラ内圧力Picに代えて、これと吸気圧力Paとの比Pic/Paが、本発明の「過給圧」として用いられ得る。
・上述の実施形態のコンプレッサモデルM4においては、コンプレッサ付与エネルギーEcmを推定するために、コンプレッサ回転速度Ncmが推定される。すなわち、上述の実施形態におけるコンプレッサモデルM4は、コンプレッサ回転速度推定手段を含んでいることになる。
上述のようにしてコンプレッサモデルによりコンプレッサ回転速度Ncmが推定される場合、これを特開2006−70881号公報に開示された構成に適用することで、当該構成におけるコンプレッサ回転速度検出手段が省略される。具体的には、本明細書に即して説明すると、コンプレッサモデルM4は、図7の関係と筒内流入空気流量mc(k-1)の算出値とに基づいて暫定過給圧Pic0を取得し、この暫定過給圧Pic0と筒内流入空気流量mc(k-1)の算出値と図6のマップとからコンプレッサ回転速度Ncmを取得し、このコンプレッサ回転速度Ncmとインタークーラ内圧力Picと図6のマップとに基づいてコンプレッサ流出空気流量mcm(k-1)を算出、推定することができる。
すなわち、本発明の「コンプレッサ流出量算出手段」における「暫定過給圧」は、「コンプレッサ回転速度」と等価であるということができる。
・過給機39の応答遅れが無視できない場合は、当該応答遅れをコンプレッサ流出空気流量mcmの算出値に反映させることで、当該応答遅れが良好に補償され得る。
図10は、かかる変形例に対応したものであって、図8に示されているコンプレッサモデルM4の変形例を示す機能ブロック図である。本例においては、コンプレッサモデルM4は、コンプレッサ流出空気流量mcmの算出の基礎となる筒内吸入空気流量mcの算出値に、過給機39の応答遅れを反映させるようになっている。
具体的には、コンプレッサモデルM4は、遅れメモリM45、及び演算部M46〜M48を備えていて、筒内流入空気流量mcをなまし処理して暫定コンプレッサ流出空気流量mcm0を取得するようになっている。
遅れメモリM45は、暫定コンプレッサ流出空気流量mcm0(k-1)の前回値mcm0(k-2)を出力する。演算部M46は、筒内流入空気流量mc(k-1)と、遅れメモリM45から出力された値mcm0(k-2)との偏差Δmcを出力する。演算部M47は、この偏差Δmcに、なまし係数ξを乗算したものを出力する。演算部M48は、この演算部M47の出力値と、値mcm0(k-2)とを加算することで、今回の暫定コンプレッサ流出空気流量mcm0(k-1)を出力する。この暫定コンプレッサ流出空気流量mcm0(k-1)は、RAM40cに構築された遅れメモリM45に順次格納される。
(C)その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の範囲内に含まれることは当然である。また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。