JP4273218B2 - チャック機構、爪材、及び旋盤 - Google Patents

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本発明は、工作物を把持して工作機械に固定するためのチャック機構、爪材、及び、チャック機構を有する旋盤に関する。
一般に、工作物(ワーク)を切削加工する旋盤などの工作機械は、ステージと、ステージ上に工作物を固定するチャック機構と、ステージを高速回転させるスピンドルとを主に備えている。例えば、円柱形状の工作物の外周面を切削加工する場合には、工作物の外壁面をチャック機構により把持して、ステージに固定する。例えば、特許文献1には、円筒状のチャック本体と、チャック本体に、その円周方向に120度間隔で設けられ、且つ、チャック本体の径方向に沿ってスライド移動可能に取り付けられた3つのマスタージョーと、各マスタージョーに固定されてワークを把持するトップジョーとを有する工作機械用チャックが開示されている。トップジョーは、それぞれ、マスタージョーにボルトで固定されており、エア等の圧力により、マスタージョーと共にチャック本体の径方向に沿ってスライド移動しうる。マスタージョーに固定されたトップジョーを径方向中心側に向かって移動させて、トップジョーの中心側端面をワークの外周面に当接させることにより、ワークを把持している。
このとき、トップジョーの中心側端面は、ワークの外周面を中心側に向かって押圧しているので、その反力としてトップジョーの中心側端面には、径方向外側に向かう非常に大きな力が働くことになる。この反力は、マスタージョーに固定されているトップジョーを、径方向外側に向かって押す力として作用するので、マスタージョーとトップジョーとが堅く固定されていない場合等には、反力に負けてトップジョーが径方向外側にずれてしまう恐れがある。そこで、トップジョーが径方向外側に向かってずれることを防ぐために、マスタージョーとトップジョーとの、互いに当接する面にはそれぞれ、複数の鋸歯状の突起(セレーション)が形成されており、各鋸歯状の突起はチャック本体の周方向に延在している。これらのセレーションが互いに嵌合した状態で、トップジョーとマスタージョーとが固定されるので、トップジョーは、セレーションの延在する方向(周方向)と直交する方向である径方向にずれる恐れがない。
特開2000−288809号公報 実開昭59−93804号公報 実開平05−16017号公報
ワークを精度よく加工する為には、スピンドルの回転中心とワークの中心とを十分な精度で位置あわせすること、即ち、十分高い精度でワークを芯出しすることが必要である。ここで、ワークを加工している途中に、ワークを工作機械用チャックから取り外すことがありうる。その際、トップジョーをマスタージョーから取り外してしまうと、再度同じトップジョー及びマスタージョーを用いて、同じワークを把持する場合であっても、ワークの中心がスピンドルの回転中心からずれてしまうという問題があった。ここで、トップジョーはマスタージョーにボルトで固定されているが、例えば、M16のボルトを用いる場合に、ボルトの外径は−20μmの公差で製作し、ボルト穴の内径は+20μmの公差で形成することが規格で定められている。そのため、トップジョーをマスタージョーにボルトで固定する際に、これらの公差の範囲内でずれる可能性があるからである。もっとも、前述のように、トップジョーとマスタージョーの当接面にはそれぞれ、周方向に延在するセレーションが形成されており、これらが互いに嵌合しているので、トップジョーが半径方向にずれる恐れはないが、周方向について、前述の公差の範囲内でずれてしまうという問題があった。また、特許文献2に記載の旋盤用チャックの生爪は、一方向に延びる表面突条が形成された旋盤用チャックの生爪取付部と、この表面突条に嵌合する溝が形成された生爪を含んでいる。ここで、生爪に形成された溝は複数の方向に延在する溝を含んでおり、これらの複数の方向のうち、いずれかの方向に沿って生爪を固定することができる。つまり、生爪を回転させつつ生爪取付部に固定できるので、生爪がワークを把持する端面を多数形成することができる。このような旋盤用チャックにおいても、同様に、生爪を取り付ける際に、生爪取付部の表面突条の延在する方向に、前述の公差の範囲内でずれてしまうという問題がある。
このような問題を避けるために、一度ワーク等を取り外した後、再度ワークを取り付ける際の、ワークの芯出しの再現性が高いチャックとして、特許文献3には、前述の工作機械用チャックにおけるトップジョーに代えて、親爪及び子爪を備えるチャックが開示されている。ここで、親爪は略扇形の形状であって、マスタージョーにボルトで固定される。親爪の半径方向の両側面には、それぞれ子爪が取り付けられている。ここで、親爪及び子爪の、互いに当接する面にはそれぞれ、半径方向と直交する方向に延在する複数のセレーションが形成されており、これらが互いに嵌合した状態で子爪が親爪に固定される。
ワークを把持する際には、親爪に子爪を取り付けた状態で、親爪がマスタージョーに固定され、マスタージョーとともに径方向中心側に向かってにエア駆動される。子爪の径方向中心側の面がワークの外周面に当接してワークを保持する。ワークを取り外す際、たとえ子爪を取り外したとしても、親爪をマスタージョーから取り外さなければ、再度ワークを芯出しする際に再現性が保たれる。なぜならば、子爪と親爪との当接面には、前述のようにセレーション加工が施されているので、子爪の径方向の位置決めの再現性は非常に高い。さらに、親爪を取り外さない限り、子爪の位置が周方向にずれる恐れはないからである。
しかしながら、上述の親子爪を採用したチャックにおいては、一旦、親爪をマスタージョーから取り外すと、ワークの芯出しの再現性がなくなるため、親爪を常時マスタージョーに取り付けておく必要がある。また、旋盤に常時親爪が取り付けられていると、他の用途で旋盤を利用できなくなるという不都合が生じる。また、親爪及び子爪が必要となるので、チャックの重量が大きくなり、加工時にスピンドルの回転数を高くすることができない。さらに、チャックの部品点数が多くなるので、チャックの取り付け調整などの段取り時間及び部品交換にかかる時間が長くなり、作業時間の短縮が図れないという点も問題となる。
本発明の目的は、部品点数が少ないチャック機構であって、高精度でワークの芯出しができ、且つ、芯出しの再現性が高いチャック機構、爪材、及び、そのようなチャック機構を備える旋盤を提供することである。
本発明の第1の態様に従えば、工作物を把持するチャック機構であって、所定の回転軸を中心に回転可能であるステージと、前記ステージに設けられた複数のマスタージョーであって、前記ステージの前記回転軸に向かう方向に沿って移動可能であって、且つ、第1の方向に延在する複数の第1のセレーション及び第1の方向と異なる第2の方向に延在する複数の第2のセレーションが形成されたマスター側セレーション面を有するマスタージョーと、前記複数のマスタージョーの前記マスター側セレーション面にそれぞれ固定されて、前記工作物を把持する複数のソフトジョーであって、前記マスター側セレーション面と対向して配置され、且つ、第1の方向に延在して第1のセレーションに嵌合する複数の第3のセレーション、及び、第2の方向に延在して第2のセレーションに嵌合する複数の第4のセレーションが形成されたソフト側セレーション面を有するソフトジョーとを備えチャック機構が提供される。
本発明のチャック機構によれば、マスタージョーのセレーション面には、異なる2つの方向にそれぞれ延在する複数の第1、第2のセレーションが形成されており、ソフトジョーのセレーション面には、異なる前記2つの方向にそれぞれ延在し、第1、第2のセレーションとそれぞれ嵌合する第3、第4のセレーションが形成されているので、マスタージョーのセレーション面とソフトジョーのセレーション面とを対向させて、マスタージョーにソフトジョーを固定した場合に、ソフトジョーがマスタージョーのセレーション面の面方向にずれる恐れがない。そのため、マスタージョーにソフトジョーを取り付ける際の、取り付けの精度を高くすることができるとともに、取り付けの再現性も非常に高くなる
本発明のチャック機構において、第1の方向と第2の方向が、互いに直交する方向であってもよい。この場合には、マスタージョー及びソフトジョーにそれぞれ形成された2種類のセレーションが互いに直交する方向に延在しているので、これらの直交する2つの方向について、ソフトジョーのずれが抑制される。そのため、ソフトジョーがマスタージョーのセレーション面の面方向(セレーション面内の任意の方向)にずれる恐れがなく、ソフトジョーの取り付けの再現性がよくなる。
本発明のチャック機構において、前記各ソフトジョーの前記ソフト側セレーション面は、第3のセレーションが形成された第1の領域と、第4のセレーションが形成された第2の領域とをそれぞれ独立に有してもよい。この場合には、ソフトジョーのセレーション面に、異なる二つの方向に延在するセレーションが形成された領域が独立に形成されているので、それぞれの領域において、その領域に形成されたセレーションの延在する方向と異なる方向の位置ずれが抑制される。そのため、全体として、ソフトジョーがマスタージョーのセレーション面の面方向(セレーション面内の任意の方向)にずれる恐れがなく、ソフトジョーの取り付けの再現性がよくなる。
本発明のチャック機構では、前記各マスタージョーのマスター側セレーション面において、第1のセレーションと第2のセレーションとが同じ領域に形成されていてもよい。この場合には、マスター側セレーション面には、異なる2つの方向に延在する2種類のセレーションが同じ領域に形成されているので、その領域においては、ソフトジョーに形成された2種類のセレーションのいずれとも嵌合させることができる。そのため、マスタージョーのセレーション面におけるソフトジョーの配置の自由度が向上する。例えば、ソフトジョーを180度反転させて、逆向きにして配置することもできる。
本発明のチャック機構において、前記各マスタージョーの前記マスター側セレーション面には、第1の方向及び第2の方向にそれぞれ格子状に配置され、先端が面取りされた複数の略四角錘状のスパイクが形成されていてもよい。この場合には、マスタージョーのセレーション面には、第1、第2の方向に格子状に配置された複数の四角錘状のスパイクが形成されているので、当該スパイクをソフトジョーの、第1、第2の方向に延在する2種類のセレーションのいずれとも嵌合させることができる。そのため、マスタージョーのセレーション面におけるソフトジョーの配置の自由度が向上する。さらに、各スパイクの先端が面取りされているので、ソフトジョーの各セレーションと嵌合する際に、先端がソフトジョーのセレーションの谷間に当接する恐れがなく、スパイクの斜面とセレーションの斜面とを確実に面接触させることができ、ソフトジョーの取り付けの再現性を向上させることができる。。
本発明のチャック機構において、前記ソフトジョーの前記ソフト側セレーション面に形成された第3、第4のセレーションは、断面が略三角形であって、先端が面取りされた複数の筋状の鋸歯であってもよい。この場合には、第3、第4のセレーションは、断面が略三角形の筋状の鋸歯であるので、セレーションカッター等を用いて用意に製作できるとともに、先端が面取りされているので、マスタージョーのセレーションと嵌合する際に、先端がマスタージョーのセレーションの谷間に当接する恐れがなく、当該鋸歯の斜面とマスタージョーのセレーションの斜面とを確実に面接触させることができ、ソフトジョーの取り付けの再現性を向上させることができる。
本発明のチャック機構において、前記ステージは、略円形の固定ステージと、前記固定ステージの径方向に移動可能に設けられ、且つ、前記マスタージョーが挿入される複数の溝が形成された複数の可動ステージを有してもよく、前記複数のマスタージョーは、それぞれ、前記複数の可動ステージの前記溝の内側に固定されていてもよい。この場合には、マスタージョーは、可動ステージに固定されているので、マスタージョーも可動ステージとともに固定ステージの径方向に移動することができる。
発明のチャック機構は、さらに前記マスタージョーと前記ソフトジョーとをそれぞれ連結する複数の連結部材を有してもよく、前記各マスタージョーには、前記連結部材を挿入する溝が形成されていてもよい。この場合には、チャック機構が、マスタージョーとソフトジョーとを連結する連結部材を有しているので、ソフトジョーをマスタージョーに確実に連結できる。また、マスタージョーに連結部材を挿入する溝が形成されているので、連結部材の位置決めが容易となり、ソフトジョーをマスタージョーに固定する際の手間が軽減される。
本発明のチャック機構において、前記連結部材の断面形状は略T字型であって、板状の頭部と、前記頭部よりも幅が狭く、前記頭部の面方向に垂直に延在する脚部とを有してもよく、前記マスタージョーに形成された前記溝の断面形状は略T字型であって、前記頭部の幅より広い幅を有する底部と、前記頭部の幅より狭く、前記脚部の幅よりも広い幅を有する上部とが形成されていてもよい。この場合には、マスタージョーに形成された溝の上部の幅が、連結部材の頭部の幅より狭いので、マスタージョーに形成された溝に、連結部材を挿入した際に、溝の深さ方向に連結部材が抜け出る恐れがない。
本発明のチャック機構において、各ソフトジョーのソフト側セレーション面には、前記連結部材の脚部と嵌合する溝が形成されていてもよい。この場合には、連結部材の脚部がソフトジョーに当接することが防止され、確実にソフトジョーとマスタージョーとを連結できる。また、固定部材の、溝の深さ方向の長さは、溝の深さよりも短くてもよい。この場合には、固定部材をマスタージョーの溝に挿入したとき、固定部材の頂面が、マスタージョーのセレーション面よりも低くすることができる。そのため、ソフトジョーの、固定部材と対向する部分に、固定部材との当接を防ぐための溝等を形成する必要がなく、ソフトジョーの構造を簡略化できる。固定部材の溝の深さ方向の長さが溝の深さよりも短い場合であっても、上述のように、ソフトジョーがマスタージョーのセレーション面の面方向にずれる恐れがない。
本発明の第2の態様に従えば、本発明のチャック機構を備える旋盤が提供される。本発明の旋盤によれば、本発明のチャック工作物に応じて、ソフトジョーを交換した場合に、容易且つ迅速にワークの芯出しを行うことができる。
本発明の第3の態様に従えば、工作物を把持するチャック機構に用いる爪材であって、第1の方向に延在する複数の第1のセレーション及び第1の方向と異なる第2の方向に延在する複数の第2のセレーションが形成されたマスター側セレーション面を有するマスタージョーと、前記複数のマスタージョーの前記マスター側セレーション面にそれぞれ固定されて、前記工作物を把持する複数のソフトジョーであって、前記マスター側セレーション面と対向して配置され、且つ、第1の方向に延在して第1のセレーションに嵌合する第3のセレーション、及び、第2の方向に延在して第2のセレーションに嵌合する第4のセレーションが形成されたソフト側セレーション面を有するソフトジョーとを備え爪材が提供される。
本発明の爪材によれば、マスタージョーのセレーション面には、異なる2つの方向にそれぞれ延在する複数の第1、第2のセレーションが形成されており、ソフトジョーのセレーション面には、異なる前記2つの方向にそれぞれ延在し、第1、第2のセレーションとそれぞれ嵌合する第3、第4のセレーションが形成されているので、マスタージョーのセレーション面とソフトジョーのセレーション面とを対向させて、マスタージョーにソフトジョーを固定した場合に、ソフトジョーがマスタージョーのセレーション面の面方向にずれる恐れがない。そのため、マスタージョーにソフトジョーを取り付ける際の、取り付けの精度を高くすることができるとともに、取り付けの再現性も非常に高くなる。
本発明の爪材において、第1の方向と第2の方向が、互いに直交する方向であってもよい。この場合には、マスタージョー及びソフトジョーにそれぞれ形成された2種類のセレーションが互いに直交する方向に延在しているので、これらの直交する2つの方向について、ソフトジョーのずれが抑制される。そのため、ソフトジョーがマスタージョーのセレーション面の面方向にずれる恐れがなく、ソフトジョーの取り付けの再現性がよくなる。
本発明の爪材において、前記各マスタージョーのマスター側セレーション面に形成された第1、第2のセレーションは、第1の方向及び第2の方向にそれぞれ格子状に配置され、先端が面取りされた複数の略四角錘状のスパイクであってもよく、前記ソフトジョーの前記ソフト側セレーション面に形成された第3、第4のセレーションは、断面が略三角形であって、先端が面取りされた複数の筋状の鋸歯であってもよい。
この場合には、マスタージョーに形成されたスパイクは、ソフトジョーの第3、第4のセレーションである筋状の鋸歯のいずれとも嵌合できる。そのため、ソフトジョーの配置の自由度が向上する。また、各スパイク及び鋸歯の先端がそれぞれ面取りされているので、これらを嵌合させた際に先端が干渉する恐れがなく、各スパイク及び各鋸歯の斜面をそれぞれ確実に面接触させることができ、ソフトジョーの取り付けの再現性を向上させることができる。また、固定部材の、溝の深さ方向の長さは、溝の深さよりも短くてもよい。この場合には、固定部材をマスタージョーの溝に挿入したとき、固定部材の頂面が、マスタージョーのセレーション面よりも低くすることができる。そのため、ソフトジョーの、固定部材と対向する部分に、固定部材との当接を防ぐための溝等を形成する必要がなく、ソフトジョーの構造を簡略化できる。固定部材の溝の深さ方向の長さが溝の深さよりも短い場合であっても、上述のように、ソフトジョーがマスタージョーのセレーション面の面方向にずれる恐れがない。
本発明のチャック機構に係るマスタージョーとソフトジョーとを利用することにより、部品点数の少ないチャック機構が実現できるので、チャック機構を軽量化することができ、ワークを加工する際のスピンドルの回転数を高くすることができる。
以下、本発明のチャック機構について、図を参照しながら説明する。図1に示した旋盤100は、加工される工作物(ワーク)を把持するためのチャック機構1と、チャック機構1を回転駆動するためのモータ(駆動源)101と、モータ101の回転軸と連動して、モータ101により生じた回転の動力をチャック機構1に伝達するシャフト(スピンドル)102と、モータ101の動作を制御するための制御部103とを備える。制御部103からの指令に基づいて、モータ103の回転方向及び回転速度等が調整される。
図1及び図2に示すように、チャック機構1は、シャフト102に対して回転可能に設けられた略円筒型のステージ12と、ステージ12の周方向に沿って、約120度間隔で取り付けられた3つのマスタージョー50と、それぞれのマスタージョー50に固定された3つのソフトジョー(生爪)60と、ソフトジョー60をマスタージョー50に固定する固定部材(連結部材)70とを有している。
ステージ12は、略円筒形状の固定ステージ13と、固定ステージに設けられた3つの可動ステージ14を備える。固定ステージ13の中心軸Xは、シャフト102の延在する方向と一致しており、固定ステージ13は、シャフト102に同軸に且つ回転可能に固定されている。すなわち、ステージ12の中心軸Xと、シャフト102及び固定ステージ13の回転軸とは同軸上に存在している。固定ステージ13のシャフト102と反対側の端面13aには、3つの可動ステージ14が、固定ステージ13の半径方向に移動(摺動)可能に設けられている。各可動ステージ14は、中心角が約120°の略アーチ型の形状、即ち、中心部がくり貫かれたドーナツ型の円盤を、ほぼ3等分して得られる扇形状であり、固定ステージ13の中心軸Xを中心とする円周状に、ほぼ等間隔に設けられている。これらの可動ステージ14は、不図示の駆動機構によって、固定ステージ13の半径方向に沿って駆動される。各可動ステージ14の固定ステージ13と反対側の端面14aは、平坦な面に形成されている。なお、可動ステージ14は、固定ステージ13に対して高精度に位置決めすることが可能である。例えば、所定の半径位置にあった可動ステージ14を、半径方向外側に向かって移動させた後、再び、半径方向中心側に向かって移動させて、前記所定位置に戻した際の位置のずれを、1ミクロン以下に抑えることができる。
各可動ステージ14の端面14aには、マスタージョー50を取り付けるための溝15が設けられている。溝15は、可動ステージ14の半径方向に延在しており、その深さ方向において、幅が異なる2つの空間(底部15a及び上部15b)よりなる。底部15aの幅は上部15bの幅よりも大きく、それによって、溝15の断面形状は略T字形状になっている。なお、図示されていないが、溝15の底面15cには、マスタージョー50をボルトで固定するためのネジ穴(不図示)が形成されている。
マスタージョー50は、一方向(長さ方向)に延在する金属部材であって、その断面形状は略T字型である。つまり、マスタージョー50は、板状の基部51と、基部51の表面に垂直に厚さ方向に突出し、且つ、基部51よりも幅の狭い本体部52とを有している。マスタージョー50は、基部51及び本体部52がそれぞれ可動ステージ14に形成された溝15の底部15a及び上部15bに嵌合した状態で、溝15に挿入される。ここで、溝15の底部15aの幅は、マスタージョー50の基部51の幅よりもわずかに大きい。それに対して、溝15の上部15bの幅は、本体部52の幅よりもわずかに大きいが、マスタージョー50の基部51の幅よりも小さい。従って、溝15の延在方向に沿って溝15に挿入されたマスタージョー50を、溝15の深さ方向に、つまり、可動ステージ14の端面14aに垂直に抜き出すことはできない。基部51には不図示のボルト穴が形成されており、前述の溝15の底面15cに形成されたネジ穴と対応させた状態で、マスタージョー50が、可動ステージ14の溝15にボルトで固定される。
マスタージョー50の本体部52の、基部51と反対側の表面(頂面、セレーション面、マスター側セレーション面)52aには、後述するセレーション55が形成されている。また、本体部52には、本体部52の長さ方向に延在する溝57が形成されている。溝57は、その深さ方向において、幅が異なる2つの空間(底部57a及び上部57b)よりなる。底部57aの幅は上部57bの幅よりも大きく、それによって、溝57の断面形状は略T字形状になっている。
図3に示すように、本体部52の溝57には、固定部材70が挿入されている。固定部材70は、一方向(長さ方向)に延在する金属部材であって、その断面形状は略T字型である。つまり、固定部材70は、板状の頭部71と、頭部71から、その面方向に直交する方向(厚さ方向)に延び、且つ、頭部71よりも幅の狭い脚部72とを有している。固定部材70は、頭部71及び脚部72がそれぞれマスタージョー50の本体部52に形成された溝57の底部57a及び上部57bに嵌合した状態で、溝57の長さ方向に沿って、溝57に挿入される。マスタージョー50を可動テーブル14の溝15に挿入した場合と同様に、固定部材70の頭部71の幅は溝57の上部57bの幅よりも大きいので、溝57に挿入された固定部材70が溝57の深さ方向に抜け出る恐れはない。固定部材70を溝57に挿入したとき、脚部72の頂面72aは、マスタージョー50のセレーション面52aよりも突出している。また、固定部材70の脚部72には、ソフトジョー60をボルトで固定するためのネジ穴72bが形成されている。
ソフトジョー60は、一方向(長さ方向)に長い略直方体の金属部材(例えば、S45C鋼のような炭素鋼鋼材等)であって、固定部材70にボルトで固定するためのボルト穴60aが形成されている。図4及び図5に示すように、ソフトジョー60の、マスタージョー50のセレーション面52aと当接する面(頂面、セレーション面、ソフト側セレーション面)62aには、後述する複数のセレーション65、66が形成されている。さらに、ソフトジョー60のセレーション面62aには、長さ方向に延在する溝67が形成されている。溝67の幅はマスタージョー50の溝57の上部57aの幅とほぼ同じである。溝67は、後述するように固定部材70を用いてソフトジョー60をマスタージョー50に固定する際に、固定部材70の脚部72がソフトジョー60に当接することを防いでいる。
次に、マスタージョー50のセレーション面52aに形成されたセレーション55及びソフトジョー60のセレーション面62aに形成されたセレーション65、66について説明する。ソフトジョー60のセレーション面62aは、長さ方向(図4、5のX方向)の両端側に配置された2つの第1領域62bと、これらの第1領域62bに挟まれた第2領域62cとを有する。第1領域62bには、ソフトジョー60の幅方向(図4、5のY方向)に延在するセレーション65(第4のセレーション)が形成されており、第2領域62cには、ソフトジョー60の長さ方向に延在するセレーション66(第3のセレーション)が形成されている。
図6に示すように、セレーション65は、幅方向に長く、且つ、セレーション面62aに垂直な方向に向かって突出する複数の筋状の鋸歯65aを有し、これらの鋸歯65aは、所定のピッチP(3mm)で長さ方向に並んでいる。各鋸歯65aの断面形状は略正三角形であって、各鋸歯65aは、面取り加工が施された先端部65b(セレーション面62aに垂直な方向の先端)と、先端部65bから傾斜する2つの斜面65cとを有する。セレーション66も、鋸歯65aと同様の形状であって、長さ方向に延在する複数の鋸歯66aを有し、これらの鋸歯66aが、所定のピッチP(3mm)で幅方向に並んでいる。このような、所定の方向に延在し、且つ、所定のピッチで並ぶ複数の鋸歯65a,66aは、例えばセレーションカッターを用いて、セレーション面62aの第1、第2領域62b、62cにそれぞれ、セレーション加工を施すことにより形成することができる。
図7に示すように、マスタージョー50のセレーション面52aに形成されたセレーション55は、四角錘状の複数のスパイク55aを有している。これらのスパイク55aは、マスタージョー50の長さ方向及び幅方向に、それぞれ所定のピッチP(3mm)で並んで配置されている。各スパイク55aの断面形状は略三角形であって、各スパイク55aは、面取り加工が施された先端部55bと、先端部55bから傾斜する4つの斜面55cとを有する。これらのスパイク55aは、例えば、セレーションカッターを用いて、セレーション面52aに、所定の方向に延在し、且つ、所定のピッチで並ぶ複数の鋸歯を形成し、さらに同じ領域に、所定の方向と直交する方向に延在し、且つ、所定のピッチで並ぶ複数の鋸歯を形成することにより作製することができる。すなわち、マスタージョー50のセレーション面52aには、マスタージョー50の長さ方向に延在するセレーション55b(第1のセレーション)と幅方向に延在するセレーション55c(第2のセレーション)とが、同じ領域に形成されることによって、それらが交差して格子状のスパイク55aを形成している。
次に、マスタージョー50のセレーション面52aと、ソフトジョー60のセレーション面62aとを当接させる場合について説明する。図8に示すように、マスタージョー50とソフトジョー60との長さ方向を一致させた状態で、マスタージョー50のセレーション面52aと、ソフトジョー60のセレーション面62aとを当接させると、セレーション55とセレーション65、66とが互いに嵌合する。具体的には、スパイク55aの斜面55cと、セレーション65の鋸歯65aの斜面65cとが当接し、同様に、スパイク55aの斜面55cと、鋸歯66aの斜面66cとが当接する。ここで、スパイク55aの先端部55bと、鋸歯65a、56aの先端部65b、66bには、それぞれ面取り加工が施されている。そのため、これらの先端部55b、65b、66bが対向するセレーション面62a、52aに当接することはなく、スパイク55aの斜面55cと、鋸歯65a,66aの斜面65c,66cとが面接触することができる。
ここで、マスタージョー50のセレーション面52aに形成されているスパイク55aの並ぶピッチは、鋸歯65a、66aの並ぶピッチと同一である。さらに、スパイク55aは、鋸歯65a,66aの延在する方向に対応して、マスタージョー50の幅方向及び長さ方向にそれぞれ並んでいる。そのため、マスタージョー50のセレーション面52aに形成されたスパイク55aは、ソフトジョー60のセレーション面62aの第1領域62bに形成された鋸歯65aと嵌合するとともに、第2領域62cに形成された鋸歯66aとも嵌合する。そのため、ソフトジョー60を、長さ方向について180度反転させて使用することも可能である。
次に、上述のチャック機構1を備える旋盤100を用いて、円筒型のワーク80の内筒面80aを加工する手順について、以下に説明する。図9に示すように、ワーク80は内筒面80a及び外筒面80bを有する略円筒形状の金属部材であって、外径及び内径はそれぞれ300mm、200mmであって、円筒の高さは200mmである。
まず、可動ステージ14にチャック機構1を取り付ける。具体的には、まず、3つの可動ステージ14を駆動して、例えば、最も中心寄りの位置などの所定の半径位置に位置付ける。次に、図2に示されるように、可動ステージ14に形成された溝15に、マスタージョー50を挿入して、ボルトで固定する。次に、マスタージョー50の本体部52に形成された溝57に、固定部材70を挿入する。さらに、マスタージョー50のセレーション面52aと、ソフトジョー60のセレーション面62aとを対向させて、ソフトジョー60のボルト穴60aにボルトを挿入して、固定部材70に固定する。すなわち、ソフトジョー60と固定部材70とをボルト締めして、固定部材70の頭部71とソフトジョー60のセレーション面62aとの間に、マスタージョー50の本体部52を挟んだ状態で締め付ける。これにより、ソフトジョー60がマスタージョー50に対して固定される。
図4から図6に示されるように、ソフトジョー60のセレーション面62aの、第1領域62bには、ソフトジョー60の幅方向(可動ステージの周方向に対応する)に延在するセレーション65が形成され、第2領域62cには、ソフトジョー60の長さ方向(可動ステージの半径方向に対応する)に延在するセレーション66が形成されている。ここで、セレーション65は、半径方向に所定のピッチPで並び、それぞれが周方向に延在する複数の鋸歯65aを有し、セレーション66は、周方向に所定のピッチPで並び、それぞれが半径方向に延在する複数の鋸歯66aを有している。さらに、マスタージョー50のセレーション面52aには、マスタージョーの長さ方向、幅方向(それぞれ、可動ステージの半径方向、周方向に対応する)に、それぞれピッチPで並ぶスパイク55aが形成されている。ピッチPで並ぶ鋸歯65a、66aと、同じくピッチPで並ぶスパイク55aとが、互いに嵌合するので、マスタージョー50のセレーション面52aの上にソフトジョー60を配置する際に、ソフトジョー60を半径方向及び/又は周方向にピッチP刻みでずらすことができる。これにより、ソフトジョー60の位置決めを容易に行うことができる。
このとき、各可動ステージ14に取り付けられるソフトジョー60の、可動ステージ14の半径方向(以下、単に半径方向と呼ぶ)中心側の端面60bと、可動ステージ14の中心Oとの距離Lがそれぞれ、ワーク80の外径よりも小さくなるように配置する。つまり、ソフトジョー60の端面60bと可動ステージ14の中心Oとの距離が、300mm未満になるようにソフトジョー60の半径方向の位置を決定して、前述の通りに、ソフトジョー60をマスタージョー50に固定する。
次に、旋盤100を駆動して固定ステージ13(可動ステージ14)を回転させ、ソフトジョー60の先端を切削加工して、ソフトジョー60の端面60bに、直径300mmの円筒面に対応する把持面69aを形成する。これにより、把持面69aの曲率中心は、固定ステージ13及び可動ステージ14の中心、即ち、固定ステージの回転軸と完全に一致することになる。つまり、把持面69aは、固定ステージ13及び可動ステージ14に対して、芯出しされる。
次に、不図示の駆動機構により、可動ステージ14を固定ステージ13の半径方向外側に向かって駆動する。ソフトジョー60の端面60b(把持面69a)が半径方向外側に向かって広がるので、ソフトジョー60の端面60bの内側に、ワーク80を配置することができる。可動ステージ14の中心にワーク80を配置した後、可動ステージ14を再び半径方向内側に向かって駆動して、図10に示すように、ワーク80の外筒面80bをソフトジョー60の把持面69aで把持する。ここで、前述の通り、可動ステージ14を半径方向外側に駆動したあと、再び半径方向内側に駆動してもとの位置に戻した場合であっても、可動ステージ14の半径方向の位置がずれることはない。つまり、可動ステージ14の駆動前後を通じて、把持面69aの曲率中心は可動ステージ14の中心Oに対して、1ミクロン以下の精度で完全に一致している。従って、把持面69aに把持されるワーク80の中心を、1ミクロン以下の精度で、可動ステージ14の中心Oに一致させることができる。
上述のようにして、ワーク80の芯出しを行った後、旋盤100を駆動して、ワーク80が固定された可動ステージ14及び固定ステージ13を回転させつつ、ワーク80の内筒面80aを切削加工する。
ここで、前述のように、従来の旋盤のチャック機構においては、マスタージョーからソフトジョーを取り外した後、再び、ソフトジョーをマスタージョーに取り付けた場合には、ソフトジョーの把持面の曲率中心が固定ステージ等の中心からずれる恐れがあった。そのため、ソフトジョーをマスタージョーに取り付けるたびに、芯出しを行わなければならなかった。つまり、ソフトジョーをマスタージョーに取り付けるたびに、ソフトジョーの端面の加工をやり直して、新たに、芯出しされた把持面を形成する必要があった。そのため、ソフトジョーを交換するごとに、上述の芯出しの工程に時間と労力が費やされるという問題があった。
これに対して、本実施形態のチャック機構1は、マスタージョー50からソフトジョー60を取り外した後、再び、ソフトジョー60をマスタージョー50に取り付ける場合において、取り付けの再現性が高く、ソフトジョー60の把持面69aの曲率中心と固定ステージ等の中心Oとがずれることはない。そのため、再度ソフトジョー60をマスタージョー50に取り付けた際に、ソフトジョーの端面の加工をやり直す必要がなく、上述の芯出しの工程を大幅に軽減することができる。発明者の測定によれば、一旦ソフトジョー60をマスタージョー50から取り外した後、再度ソフトジョー60をマスタージョー50に取り付けた際の、ソフトジョー60の把持面69aの曲率中心と固定ステージ等の中心Oとの位置ずれは、1ミクロン以下に抑えられていることが分かった。ちなみに、従来のチャック機構においては、最大で約20ミクロンの位置ずれが発生していた。
本発明に係るチャック機構1において、ソフトジョー60の取り付けの再現性を非常に高くすることができる理由について、発明者は以下のように考察している。ソフトジョー60のセレーション面62aの、第1の領域62bには、周方向に延在するセレーション65(複数の鋸歯65a)が形成され、マスタージョー50のセレーション面52aに形成されたスパイク55aと嵌合している。ここで、図8に示すように、セレーション65の各鋸歯65bの斜面65cと、スパイク55aの斜面55cとは、互いに面接触している。そのため、ソフトジョー60がマスタージョー50に配置される際に、鋸歯65aが延びる周方向に直交する方向(半径方向)にずれる恐れがないため、この方向についての取り付け位置の再現性が非常に高くなる。
さらに、ソフトジョー60のセレーション面62aの、第2の領域62cには、半径方向に延在するセレーション66(複数の鋸歯66a)が形成され、マスタージョー50のセレーション面52aに形成されたスパイク55aと嵌合している。また、セレーション66の各鋸歯66bの斜面66cと、スパイク55aの斜面55cとは、互いに面接触しているので、ソフトジョー60がマスタージョー50に配置される際に、鋸歯66aが延びる半径方向に直交する方向(周方向)にずれる恐れがないため、この方向についての取り付け位置の再現性も非常に高くなる。
つまり、ソフトジョー60のセレーション面62aには、半径方向及び周方向に延在する複数の鋸歯65a、66aが形成されており、これらの鋸歯の斜面65c、66cと、マスタージョー50のセレーション面52aに形成されたスパイク55aの斜面55cとが、互いに面接触した状態で嵌合している。そのため、マスタージョー50にソフトジョー60を配置する場合に、ソフトジョー60が、セレーション面52aの面方向のいずれの方向にもずれる恐れがない。また、複数の鋸歯65a,66a及び複数のスパイク55aが互いに嵌合しており、各鋸歯又はスパイクの製造誤差を打ち消しあうことができるので、鋸歯又はスパイクが1つしか形成されていない場合と比べて、鋸歯及びスパイクの製造誤差による影響を抑えることができると考えられる。
上述のように、チャック機構1のマスタージョー50及びソフトジョー60には、それぞれセレーション55及びセレーション65、66が形成されており、それによって、ソフトジョー60の取り付け精度の再現性が確保されている。しかしながら、本発明に係るチャック機構はこれに限られず、例えば、以下に示すような形態であっても構わない。なお、上述のチャック機構1と同様の構成については同じ参照符番を付し、適宜説明を省略する。
図11に示すように、ソフトジョー160のセレーション面162aの、溝67を挟んだ両側に、それぞれ、ソフトジョー160の長さ方向に延在するセレーション165と、幅方向に延在するセレーション166とが形成されていてもよい。このような場合であっても、上述のマスタージョーのセレーション面にソフトジョーを取り付ける際に、ソフトジョーがマスタージョーのセレーション面の面方向においてずれることがなく、ソフトジョーをマスタージョーに取り付ける際の取り付け精度の再現性を高くすることができる。
ソフトジョーのセレーション面に形成されるセレーションは、ソフトジョーの幅方向及び長さ方向に延在するものに限られず、ソフトジョーの幅方向及び長さ方向とはそれぞれ異なる2つの方向に延在するセレーションが形成されていてもよい。図12に示されたソフトジョー260のセレーション面262aは、長さ方向に交互に2つづつ配置された、第1の領域262b及び第2の領域262cを有する。各第1の領域262b、及び各第2の領域262cは、溝67を挟んでその両側に跨っている。第1の領域262bには、ソフトジョー260の長さ方向に対して、溝67側(中央側)に向かって45°傾いた方向に延在するセレーション265が形成されており、第2の領域262cには、ソフトジョー260の長さ方向に対して、溝67と反対側(外側)に向かって45°傾いた方向に延在するセレーション266が形成されている。
ここで、図13に示すように、ソフトジョー260と嵌合するマスタージョー250のセレーション面252aには、マスタージョー250の長さ方向に対して+45°傾いた方向、及び、−45°傾いた方向に、それぞれ所定のピッチPで並ぶスパイク255aが形成されている。これにより、マスタージョー250のセレーション面252aに形成されたスパイク255aと、ソフトジョー260のセレーション面262aに形成されたセレーション265、266とが嵌合する。そのため、マスタージョーのセレーション面にソフトジョーを取り付ける際に、ソフトジョーがマスタージョーのセレーション面の面方向においてずれることがなく、ソフトジョーをマスタージョーに取り付ける際の取り付け精度の再現性を高くすることができる。
上記実施形態及びその変形例においては、マスタージョーのセレーション面に複数のスパイクが形成され、ソフトジョーのセレーション面に複数の筋状の鋸歯を有するセレーションが形成されていた。これに対して、ソフトジョーのセレーション面に複数のスパイクが形成され、マスタージョーのセレーション面に複数の筋状の鋸歯を有するセレーションが形成されていてもよい。あるいは、マスタージョー及びソフトジョーのセレーション面に、それぞれ、互いに嵌合する複数の鋸歯を有するセレーションが形成されていてもよい。ここで、マスタージョー及び/又はソフトジョーに形成されるセレーションは、互いに直交する2種類の鋸歯に限られない。異なる方向に延在する2種類の鋸歯を含んでいればよく、鋸歯の交差角は任意でよい。例えば、互いに60°で交差する方向に延在する2種類の鋸歯であってもよい。また、マスタージョー及び/又はソフトジョーに形成される鋸歯又はスパイクの断面形状は、三角形に限られず、マスタージョーに形成される鋸歯又はスパイクと、ソフトジョーに形成される鋸歯又はスパイクとが、互いに面接触する限りにおいて、任意の形状にしうる。さらに、マスタージョー及び/又はソフトジョーに形成される鋸歯又はスパイクのピッチは3mmに限られず、例えば1.5mm等任意のピッチに形成してもよい。
なお、上記実施形態などにおいて、固定部材の脚部の長さは、マスタージョーの溝の上部の深さよりも大きく、固定部材をマスタージョーの溝に挿入したとき、脚部の頂面は、マスタージョーのセレーション面よりも突出していた。そのため、ソフトジョーのセレーション面には、固定部材の脚部と当接することを避けるための溝が形成されていた。しかしながら、固定部材の脚部の長さは、マスタージョーの溝の深さよりも短くてもよい。つまり、固定部材をマスタージョーの溝に挿入したとき、固定部材の頂面が、マスタージョーのセレーション面よりも低くても構わない。固定部材の脚部とソフトジョーに形成された溝とが嵌合しているか否かに関わらず、上述のようにソフトジョーの位置がセレーション面の面方向にずれる恐れはない。
なお、上記実施形態等において、マスタージョー及びソフトジョーの大きさ、材料、形状及び配置などは、ワークの形状及び材質に合わせて任意に設定しうる。例えば、ワークが略円筒形あるいは円環状の形状でなく、多角柱の形状である場合であっても、ソフトジョーの形状をワークの形状に適合させることにより本発明のチャック機構として利用しうる。さらに、上記実施形態では、ワークを外側から把持する場合を例に挙げて説明してきたが、ワーク80を内側から把持する際にも、本発明のチャック機構を用いることができる。
上記実施形態において、チャック機構のマスタージョーは、固定ステージの径方向に移動可能である可動ステージ上に固定されていた。しかしながら、マスタージョーが、例えばエア、油圧などを利用した駆動機構により、固定ステージの径方向に移動可能に設けられていてもよい。また、必ずしも固定部材が必要ではなく、例えば、マスタージョーにネジ孔が形成されるなどして、ソフトジョーがマスタージョーに直接ボルト等で固定されていてもよい。
上記実施形態においては、チャック機構は工作機械としての旋盤に取り付けられていたが、本発明のチャック機構を備える工作機械は、旋盤に限られない。上記実施形態の旋盤においては、チャック機構に固定されたワークを、高速回転させながら、ワークを加工していた。それに限らず、例えば、フライス盤及びマシニングセンターのように、ワークをチャック機構に固定した状態で、高速に移動する刃部を用いてワークを加工する工作機械に本発明のチャック機構を用いることもできる。
本発明のチャック機構を用いる場合において、加工するワークの種類に応じて種々のソフトジョーに交換しつつ使用する場合であっても、ソフトジョーを交換するたびに、ワークの芯出しのためにソフトジョーの先端を加工する必要がなく、ソフトジョーの交換の手間を大幅に省くことができる。
本発明の実施形態に係る旋盤の概略図である。 図2は、本発明のチャック機構の概略図である。 図3は、本発明のチャック機構のソフトジョー、マスタージョー及び固定部材の概略図である。 図4は、本実施形態のソフトジョーの概略図である。 図5は、本実施形態のソフトジョーのセレーション面の平面図である。 図6は、本実施形態のソフトジョーの側面図である。 図7は、本実施形態のマスタージョーの概略図である。 図8は、ソフトジョーとマスタージョーとの嵌合を示す概略図である。 図9(a)は、本実施形態の円筒形状のワークの平面図であり、図9(b)はワークの断面図である。 図10は、本実施形態のチャック機構でワークを把持した状態を表す概略図である。 図11は、本実施形態のソフトジョーの変形例である。 図12は、本実施形態のソフトジョーの別の変形例である。 図13は、本実施形態のマスタージョーの変形例である。
符号の説明
1 チャック機構
12 ステージ
13 固定ステージ
14 可動ステージ
50 マスタージョー
60 ソフトジョー
80 ワーク

Claims (16)

  1. 工作物を把持するチャック機構であって、
    所定の回転軸を中心に回転可能であるステージと、
    前記ステージに設けられた複数のマスタージョーであって、前記ステージの前記回転軸に向かう方向に沿って移動可能であって、且つ、第1の方向に延在する複数の第1のセレーション及び第1の方向と異なる第2の方向に延在する複数の第2のセレーションが形成されたマスター側セレーション面を有するマスタージョーと、
    前記複数のマスタージョーの前記マスター側セレーション面にそれぞれ固定されて、前記工作物を把持する複数のソフトジョーであって、前記マスター側セレーション面と対向して配置され、且つ、第1の方向に延在して第1のセレーションに嵌合する第3のセレーション、及び、第2の方向に延在して第2のセレーションに嵌合する第4のセレーションが形成されたソフト側セレーション面を有するソフトジョーとを備えチャック機構。
  2. 第1の方向と第2の方向が、互いに直交する方向である請求項1に記載のチャック機構。
  3. 前記各ソフトジョーの前記ソフト側セレーション面は、第3のセレーションが形成された第1の領域と、第4のセレーションが形成された第2の領域とをそれぞれ独立に有する請求項1又は2に記載のチャック機構。
  4. 前記各マスタージョーの前記マスター側セレーション面において、第1のセレーションと第2のセレーションとが同じ領域に形成されている請求項3に記載のチャック機構。
  5. 前記各マスタージョーの前記マスター側セレーション面には、第1の方向及び第2の方向にそれぞれ格子状に配置され、先端が面取りされた複数の略四角錘状のスパイクが形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載のチャック機構。
  6. 前記ソフトジョーの前記ソフト側セレーション面に形成された第3、第4のセレーションは、断面が略三角形であって、先端が面取りされた複数の筋状の鋸歯である請求項1〜5のいずれか一項に記載のチャック機構。
  7. 前記ステージは、略円形の固定ステージと、前記固定ステージの径方向に移動可能に設けられ、且つ、前記マスタージョーが挿入される複数の溝が形成された複数の可動ステージを有し、
    前記複数のマスタージョーは、それぞれ、前記複数の可動ステージの前記溝の内側に固定されている請求項1〜6のいずれか一項に記載のチャック機構。
  8. さらに、前記マスタージョーと前記ソフトジョーとをそれぞれ連結する複数の連結部材を有し、前記各マスタージョーには、前記連結部材を挿入する溝が形成されている請求項1〜7のいずれか一項に記載のチャック機構。
  9. 前記連結部材の断面形状は略T字型であって、板状の頭部と、前記頭部よりも幅が狭く、前記頭部の面方向に垂直に延在する脚部とを有し、前記マスタージョーに形成された前記溝の断面形状は略T字型であって、前記頭部の幅より広い幅を有する底部と、前記頭部の幅より狭く、前記脚部の幅よりも広い幅を有する上部とが形成されている請求項8に記載のチャック機構。
  10. 前記各ソフトジョーの前記ソフト側セレーション面には、前記連結部材の前記脚部と嵌合する溝が形成されている請求項9に記載のチャック機構。
  11. 前記連結部材の前記溝の深さ方向の長さは、前記溝の深さよりも短い請求項8に記載のチャック機構。
  12. 請求項1〜11のいずれか一項に記載のチャック機構を備える旋盤。
  13. 工作物を把持するチャック機構に用いる爪材であって、
    第1の方向に延在する複数の第1のセレーション及び第1の方向と異なる第2の方向に延在する複数の第2のセレーションが形成されたマスター側セレーション面を有するマスタージョーと、
    前記マスタージョーの前記マスター側セレーション面に固定されて、前記工作物を把持するソフトジョーであって、前記マスター側セレーション面と対向して配置され、且つ、第1の方向に延在して第1のセレーションに嵌合する第3のセレーション、及び、第2の方向に延在して第2のセレーションに嵌合する第4のセレーションが形成されたソフト側セレーション面を有するソフトジョーとを備える爪材。
  14. 第1の方向と第2の方向が、互いに直交する方向である請求項13に記載の爪材。
  15. 前記マスタージョーの前記マスター側セレーション面に形成された第1、第2のセレーションは、第1の方向及び第2の方向にそれぞれ格子状に配置され、先端が面取りされた複数の略四角錘状のスパイクであって、
    前記ソフトジョーの前記ソフト側セレーション面に形成された第3、第4のセレーションは、断面が略三角形であって、先端が面取りされた複数の筋状の鋸歯である請求項13又は14に記載の爪材。
  16. さらに、前記マスタージョーと前記ソフトジョーとをそれぞれ連結する連結部材を有し、前記マスタージョーには、前記連結部材を挿入する溝が形成されており、前記連結部材の前記溝の深さ方向の長さは、前記溝の深さよりも短い請求項13に記載の爪材。
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