JP4271339B2 - サーマルヘッドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種のプリンタ,プロッタ,ファクシミリ装置,レコーダなどの熱記録装置に用いられるサーマルヘッドの製造方法に関し、特に耐摩耗性に優れたカーボン保護膜を形成する前段階において、カーボン保護膜の密着性を向上させるために行われる下層保護膜を、マスクを用いてエッチング処理する際の処理を効率化することが可能なサーマルヘッドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、超音波診断画像の記録に、フィルム等を支持体として感熱記録層を形成してなる感熱記録材料を用いた感熱記録が利用されている。
また、感熱記録は湿式の現像処理が不要であり、取り扱いが簡単である等の利点を有することから、近年では、超音波診断画像のような小型画像の記録のみならず、CT診断,MRI診断,X線診断等の大型かつ高画質な画像が要求される用途において、医療診断のための画像記録への利用も検討されている。
【0003】
周知のように、感熱記録は、感熱記録材料の感熱記録層を加熱して画像を記録するための、発熱抵抗体(以下、発熱体という)と電極とを有する発熱素子が一方向(主走査方向)に配列されたグレーズが形成されたサーマルヘッドを用い、グレーズを感熱記録材料の感熱記録層(以下、単に感熱記録層という)に若干押圧した状態で、両者を前記主走査方向と直交する副走査方向に相対的に移動しつつ、MRI等の画像データ供給源から供給された記録画像の画像データに応じて、グレーズの各画素の発熱体にエネルギーを印加して発熱させることにより、感熱記録層を加熱して画像記録を行う。
【0004】
このサーマルヘッドのグレーズには、感熱記録材料を加熱する発熱体、あるいはさらに電極等を保護するため、その表面に保護膜が形成されている。従って、感熱記録時に感熱記録材料と接触するのはこの保護膜で、発熱体は、この保護膜を介して感熱記録材料を加熱し、これにより感熱記録が行われる。
上述の保護膜の材料には、通常、耐摩耗性を有するセラミクス等が用いられているが、保護膜の表面は、感熱記録時には加熱された状態で感熱記録材料と摺接するため、記録を重ねるに従って摩耗し、劣化する。
【0005】
この摩耗が進行すると、感熱画像に濃度ムラが生じたり、保護膜としての強度が保てなくなるため、発熱体等を保護する機能が損なわれ、最終的には、画像記録ができなくなる状態(ヘッド切れ)に陥る。特に、前述の医療用途のように、高品質で、かつ高画質な多階調画像が要求される用途においては、高品質化および高画質化を図るために、ポリエステルフィルム等の高剛性の支持体を使用する感熱フィルムを用い、さらに、記録温度(印加エネルギー)や、感熱記録材料へのサーマルヘッドの押圧力を高く設定する方向にある。
【0006】
そのため、最近の感熱記録システムでは従来の感熱記録システムに比して、サーマルヘッドの保護膜にかかる力(力学的なストレス)や熱が大きく、摩耗や腐食(腐食による摩耗)が進行し易くなっている。しかも、支持体としてポリエステルフィルム等を用いる感熱フィルムでは、感熱記録層に含有される水分等の保護膜腐食の原因となる物質が、支持体に染み込まず、サーマルヘッドの表面すなわち保護層に付着してしまうため、保護層表面の腐食物質濃度が高くなり易く、より腐食が進行する結果となる。
【0007】
このようなサーマルヘッドの保護膜の摩耗を防止し、耐久性を向上する方法として、保護膜の改良,感熱記録材料の改良,記録条件の改良等の各種の方法が提案、また、実用化されている。
この中で、感熱記録材料の改良は、摩耗や腐食の原因となる成分の減量を図るものが主であるが、この場合には、ヘッドの汚れ,スティッキング等の副作用を伴う場合があり、十分な摩耗防止効果を得られないことがある。
【0008】
他方、記録条件の改良とは、感熱記録の最高温度や記録圧力の低減を図るものであるが、この方法は、記録画像の画質に影響を与える場合があり、特に、高画質を要求される用途では、十分な効果が得られないことがある。
また一方、サーマルヘッドにおける保護膜の摩耗を防止するために、保護膜の性能を向上する技術も数多く検討されてきた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述の、保護膜の耐摩耗性を向上する方法として、特開昭62−227763号公報には保護膜としてダイヤモンド薄膜を用いる方法が開示されている。
さらに、複数層の保護膜を設けることにより、保護膜の耐摩耗性を向上させて、優れた耐久性を有するサーマルヘッドを実現することも提案されている。
例えば、特開平7−132628号公報には、下層のシリコン系化合物膜と、その上層のダイアモンドライクカーボン膜(DLC膜、以下、単にカーボン膜という)との2層構造の保護膜を有することにより、保護膜の摩耗および破壊を大幅に低減し、長期間にわたって高画質記録が可能なサーマルヘッドが開示されている。
【0010】
ところで、このような重層構成のサーマルヘッドを製造する際には、下層のシリコン系化合物膜(例えば、窒化珪素膜、以下、窒化珪素膜という)と上層のカーボン膜との密着性を向上させるために、下層の窒化珪素膜の表面をプラズマなどによりエッチング処理した後に上層のカーボン膜を形成するようにしている。すなわち、下層の窒化珪素膜の表面の汚れをエッチング処理により除去し、清浄化するものである。
【0011】
ここで、カーボン膜は発熱体の上方部など、限られた範囲にのみ形成されるので、上述のエッチング処理による窒化珪素膜表面の清浄化を行う際には、上述のカーボン膜を形成する部分以外を所定のマスクにより遮蔽した上で、エッチング処理が行われる。マスクとしては、通常、ステンレス材(SUS)で構成されたものなどが繰り返し用いられる。
【0012】
エッチング処理が行われた後、スパッタリングなどの方法によりカーボン膜の形成が行われる。ところが、ここで、上述のステンレス材で構成されたマスクを用いる場合、工程が必ずしも安定化できないという問題が発生した。すなわち、ある場合には、密着性の良好なカーボン膜を形成することができるが、ある場合には、密着性が不充分で、使用中にカーボン膜が剥離するという事態が発生したりしたのである。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、従来の技術における問題を解消し、下層のシリコン系化合物膜と上層のカーボン膜との密着性を向上させるための、カーボン膜の形成工程を安定化させることが可能なサーマルヘッドの製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上述目的を達成するため、本発明に係るサーマルヘッドの製造方法は、複数の発熱抵抗体,電極を保護するセラミクスからなる保護膜上に、プラズマによるエッチング処理を施した後にカーボン保護膜を形成するサーマルヘッドを製造する際に、前記エッチング処理を、前記カーボン膜を形成する範囲を規定するマスクとして、その表面に、予め、前記保護膜を構成するセラミクスに比較してエッチング速度が低く、エッチングされにくい材料からなる保護層を形成したマスクを用いて行うことを特徴とするものである。
【0015】
ここで、前記保護層は、前記エッチング後に前記セラミクスからなる保護膜上に形成されるカーボン保護膜に悪影響を与えることのない材料によって形成されていることが好ましい。
また、前記保護層が、カーボンによって形成されていることが好ましい。
さらに、前記保護層が、硬質のカーボンによって形成されていることがより好ましい。
また、前記保護層が、2〜20μmの厚さに形成されていることが好ましい。
さらに、前記保護層が、4〜10μmの厚さに形成されていることがより好ましい。
【0016】
本発明に係るサーマルヘッドの製造方法においては、前述の従来技術による工程不安定化の原因を解析した結果に基づいて、マスクとして用いられるステンレス材の表面を、このステンレス材に比較してエッチング速度が低く、エッチングされにくい材料により被覆することにより、ステンレス材がエッチングされないようにしている。また、次に形成するカーボン保護膜に悪影響を与えることのない材料により被覆することにより、マスクを構成するステンレス材がエッチングされて、その一部分が不純物として下層のセラミクスからなる保護膜上に堆積し、次に形成するカーボン保護膜の、下層のセラミクスからなる保護膜との密着性を向上させ、剥離することを防止したものである。
【0017】
つまり、前述の工程不安定化の原因は、マスクとして用いられるステンレス材のプラズマによるエッチングの速度と、エッチングの主たる対象である下層のセラミクスからなる保護膜のエッチング速度とが、それ程大きくは異なってはいなかったために、ステンレス材がエッチングされて、その一部分が不純物として下層のセラミクスからなる保護膜上に堆積したことによるものであった。
【0018】
そこで、マスクを構成するステンレス材の表面を、このステンレス材に比較してエッチングされにくい(つまり、前述のエッチングの主たる対象である下層のセラミクスからなる保護膜のエッチング速度に比較して、エッチング速度が小さい)材料により被覆するようにしたものである。さらに、その被覆材料として、次に形成するカーボン保護膜に悪影響を与えることのない材料により被覆するようにしたものである。この被覆材料としては、カーボンを用いることが有効であるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
このように構成することにより、本発明によれば、セラミクスからなる保護膜上にカーボン保護膜を有するサーマルヘッドを安定して製造することが可能なサーマルヘッドの製造方法を実現できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、添付の図面に示す好適実施例に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造されるサーマルヘッド10の概略断面図である。
サーマルヘッド10は、基板12の上(図示例のサーマルヘッド10は、使用時には上方から感熱記録材料Aに押圧されるので、図中では下となる)にグレーズ層13が形成され、その上に発熱体14が形成され、その上に電極15が形成され、その上には、発熱体14あるいはさらに電極15等を保護するための保護層が形成されて、構成される。ここでは、保護膜が、窒化珪素を主成分とする下層保護膜16と、この下層保護膜16の上の炭素を主成分とする上層保護膜(カーボン膜)17の、少なくとも2層を有して構成される。
【0022】
本発明に用いられるサーマルヘッド10は、保護層の形成方法以外は、公知のサーマルヘッドと同様の構成を有するものである。従って、層構成やグレーズ層13等の材料には特に限定はなく、公知のものが各種利用可能である。具体的には、基板12としては耐熱ガラスやアルミナ,シリカ,マグネシアなどのセラミクスの電気絶縁性材料が、グレーズ層13としては耐熱ガラス等が、発熱体14としてはニクロム(Ni-Cr),タンタル,窒化タンタル等の発熱体が、電極15としてはアルミニウム,銅等の導電性材料が利用可能である。
【0023】
また、発熱体は、真空蒸着,CVD (Chemical Vapor Deposition),スパッタリング等のいわゆる薄膜形成技術およびフォトエッチング法を用いて形成される薄膜型発熱素子と、スクリーン印刷などの印刷ならびに焼成によるいわゆる厚膜形成技術およびエッチングを用いて形成される厚膜型発熱素子とが知られているが、本発明に係る製造方法が適用されるサーマルヘッド10は、いずれの方法で形成されたものであってもよい。
【0024】
上記サーマルヘッド10に形成される下層保護膜16の材料としては、サーマルヘッドの保護膜として十分な耐熱性,耐蝕性を有するものであれば、公知のセラミクス材料が特に限定されずに使用可能である。具体的には、上記実施例に示した窒化珪素の他、炭化珪素,窒化珪素酸化タンタル,酸化アルミニウム,サイアロン,ラシオン,酸化珪素,窒化アルミニウム,窒化ホウ素,酸化セレン,窒化チタン,炭化チタン,炭窒化チタン,窒化クロムおよびこれらの混合物等が例示される。中でも特に、成膜の容易性や製造コスト等の製造適性、機械的摩耗と化学的摩耗による摩耗のバランス等の点で、上記窒化珪素,炭化珪素,サイアロン等が、好適に利用される。なお、物性調整のため、上記材料中に、金属等の微量の添加物が含まれてもよい。
【0025】
下層保護膜16の形成方法には特に限定はなく、前述の厚膜形成技術や薄膜形成技術等を用いて、公知のセラミクス膜(層)の形成方法で形成される。また、必要に応じて、異なるあるいは同じ材料から形成される複数の下層保護膜16を有してもよい。
なお、下層保護膜16の厚さには特に限定はないが、好ましくは2μm〜20μm程度、より好ましくは4μm〜10μm程度である。下層保護膜16の厚さを上記範囲とすることにより、耐摩耗性と熱伝導性(記録感度)とのバランスを好適に取ることができる等の点で、好ましい結果が得られる。
【0026】
上層のカーボン保護膜17の形成方法にも特に限定はなく、公知の厚膜形成技術や薄膜形成技術で形成されるが、好ましくは、焼結カーボン材やグラッシーカーボン材等のカーボン材をターゲット材とするスパッタリングによって硬質カーボン膜(スパッタカーボン膜)を形成する方法、および炭化水素ガスを反応ガスとして用いるプラズマCVDによって硬質カーボン膜(ダイヤモンドライクカーボン膜=DLC膜)を形成する方法が例示される。
【0027】
本実施の形態に係る製造方法が適用されるサーマルヘッド10を作製する際には、スパッタカーボン膜17と下層保護膜16との密着性を向上するために、前述のように、スパッタカーボン膜17の形成に先立ち、下層保護膜16の表面をプラズマでエッチングする。また、エッチングの強さは、基板に印加されるバイアス電圧を目安にすればよく、通常、−100V〜−500Vの範囲で、適宜最適化を図ればよい。
【0028】
なお、上述のDLC膜を生成するためのプラズマ発生用のガスとしては、例えば、ヘリウム,ネオン,アルゴン,クリプトン,キセノン等の不活性ガスが用いられるが、中でも特に、価格および入手の容易性の点で、アルゴンガスが好適に用いられる。他方、DLC膜を生成するための反応ガスとしては、メタン,エタン,プロパン,エチレン,アセチレン,ベンゼン等の炭化水素化合物のガスが例示される。
【0029】
また、DLC膜(上層保護膜17)を形成するプラズマCVDにおいて、プラズマ発生手段としては、直流放電,高周波放電,直流アーク放電,マイクロECR波放電等が利用可能であり、特に、直流アーク放電およびマイクロECR波放電はプラズマ密度が高く、高速成膜に有利である。
【0030】
直流放電は、基板−電極間に負の直流電圧を印加することによりプラズマを発生させる。直流放電に用いる直流電源は、1〜10kW程度のもので、DLC膜の生成に必要にして十分な出力を有するものを適宜選択すればよい。また、アーク防止等の点で、2kHz 〜20kHz にパルス変調した直流電源も好適に利用可能である。
【0031】
高周波放電は、マッチングボックスを介して電極に高周波電圧を印加することにより、プラズマを発生させる。その際には、マッチングボックスによってインピーダンス整合を行い、高周波電圧の反射波が入射波に対して25%以下となるように調整する。高周波放電を行う高周波電源としては、工業用の13.56MHzで、1kW〜10kW程度の範囲で、DLC膜の生成に必要にして十分な出力を有するものを適宜選択すればよい。また、パルス変調した高周波電源も使用可能である。
【0032】
直流アーク放電は、熱陰極を使用してプラズマを発生させる。
熱陰極としては、タングステン,硼化ランタン(La B6 )等が利用可能である。また、ホローカソードを用いた直流アーク放電も利用可能である。
直流アーク放電に用いる直流電源としては、1kW〜10kW程度,10〜150A程度の範囲で、DLC膜の生成に必要にして十分な出力を有するものを適宜選択すればよい。
【0033】
上層保護膜17としてDLC膜を用いる際においても、DLC膜17と下層保護膜16との密着性を向上するために、DLC膜17の成膜に先立ち、下層保護膜16の表面をプラズマでエッチングするのが好ましい。
エッチングの方法は、スパッタリングの方法と同様であり、マッチングボックスを介して基板に高周波電圧を印加する。高周波電源としては、工業用の13.56MHzで、1kW〜5kW程度のものから適宜選択すればよい。また、エッチングの強さは、基板に印加されるバイアス電圧を目安にすればよく、通常、負の100V〜500Vの範囲で、適宜最適化を計ればよい。
【0034】
なお、このように形成される上層保護膜17の厚さには特に限定はないが、好ましくは0.1μm〜5μm程度、より好ましくは1μm〜3μm程度である。上層保護膜17の厚さを上記範囲とすることにより、耐摩耗性と熱伝導性とのバランスを好適に取ることができる等の点で好ましい結果が得られる。
また、必要に応じて、異なるあるいは同じ材料からなる複数の上層保護膜17を形成してもよい。
【0035】
上層保護膜17の硬度には特に限定はなく、サーマルヘッドの保護膜として十分な硬度を有すればよい。例えば、ビッカース硬度で3000〜5000kg/mm2が好適に示される。また、この硬度は、カーボン保護膜(上層保護膜)17の厚さ方向に対して、一定としても、あるいは変化させてもよく、硬度をカーボン保護膜17の厚さ方向に対して変化させる場合に、この硬度の変化は連続的であっても段階的であってもよい。
【0036】
以上、本実施の形態に係るサーマルヘッドの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定されず、各種の改良や変更を行ってもよいのはもちろんである。
【0037】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0038】
〔実施例〕
前述のようなスパッタリング方法を用いて、以下に示すようにしてサーマルヘッドのグレーズの表面に、上層保護膜としてスパッタカーボン膜を形成し、サーマルヘッドを作製した。なお、基となるサーマルヘッドには、グレーズの表面に保護膜として厚さ11μmの窒化珪素膜(Si3N4)が形成されている。従って、本実施例では、この窒化珪素膜が下層保護膜であり、上層保護膜となるスパッタカーボン膜は、この窒化珪素膜の上層に成膜される。
【0039】
図2に、窒化珪素膜16のエッチング時の状況を模式的に示す。
基となるサーマルヘッドの窒化珪素膜16上に、ステンレス材で構成されたマスク20を載置して、Ar−RFプラズマでVdcを−500Vに設定して60分間、エッチングを行った。ただし、ここで用いているマスク20の上面には、予め硬質のカーボン保護層21が形成されていることが特徴である。カーボン保護層21の厚さは、好ましくは2μm〜20μm程度、より好ましくは4μm〜10μm程度である。
【0040】
上述のような、カーボン膜21が形成されているマスク20を用いてエッチングを行った場合には、カーボン保護層21のエッチング速度が窒化珪素膜16のエッチング速度に比較してきわめて低いため、実質的に窒化珪素膜16のみを効率的にエッチングすることが可能になる。なお、マスク20を構成するステンレス材は、ほとんどエッチングされることがない。
【0041】
このようにして行ったエッチングの終了後、前述の条件でエッチングされた窒化珪素膜16上にスパッタリングによりカーボン保護膜17を形成した。2次イオン質量分析法(SIMS)により、窒化珪素膜16とその上に形成されたカーボン保護膜17との界面を解析したところ、マスク20を構成するステンレス材成分は検出されなかった。
【0042】
<性能評価>
こうして製造したサーマルヘッドを用いて前述の感熱記録材料Aへの記録テストを行った結果、50000枚の連続記録で、サーマルヘッドの保護膜を形成しているカーボン膜17の剥離などの問題は発生しなかった。
すなわち、所期の目的が達成されたことになる。
【0043】
〔比較例〕
実施例1と同様の、基となるサーマルヘッドの窒化珪素膜16上に、ステンレス材で構成されたマスク20を載置して、Ar−RFプラズマでVdcを−500Vに設定して60分間、エッチングを行った。ただし、ここでは、マスク20として、その上面に、実施例に示したようなカーボン保護層21が形成されていないものを用いた。
【0044】
<性能評価>
上述のようなサーマルヘッドと前述の感熱記録材料Aとを用いて、実施例と同様の性能評価を行った。
まず、SIMS解析では、窒化珪素膜16とカーボン保護膜17との界面に、多量のマスク成分が検出され、また、記録テストにおいても、1000枚の連続記録でカーボン保護膜17の剥離が発生した。
【0045】
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【0046】
なお、上記実施例は本発明の一例を示したものであり、本発明はこれに限定されるべきものではないことは言うまでもない。
例えば、上記実施例においては、窒化珪素膜16の上にカーボン保護膜17を直接形成するように説明したが、必要に応じて、これらの保護膜の間に適宜、中間層を設けてもよいことはいうまでもない。
また、サーマルヘッドを構成する各層の構成材料としては、例示した各種の材料を適宜組み合わせて用いることが可能である。
【0047】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、下層のシリコン系化合物膜と上層のカーボン保護膜との密着性を向上させるための、カーボン保護膜の形成工程を安定化させることが可能となり、サーマルヘッドの製造方法の改善に大きな効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造されるサーマルヘッド10の概略断面図である。
【図2】 一実施例に係る窒化珪素膜16のエッチング時の状況を模式的に示す図である。
【符号の説明】
10 サーマルヘッド
12 基板
13 グレーズ層
14 発熱体
15 電極
16 下層保護膜(Si3N4 膜)
17 上層保護膜(カーボン膜)
20 マスク
21 カーボン保護層
A 感熱記録材料
Claims (6)
- 複数の発熱抵抗体,電極を保護するセラミクスからなる保護膜上に、プラズマによるエッチング処理を施した後にカーボン保護膜を形成するサーマルヘッドの製造方法であって、
前記エッチング処理は、前記カーボン膜を形成する範囲を規定するマスクとして、その表面に、予め、前記保護膜を構成するセラミクスに比較してエッチング速度が低く、エッチングされにくい材料からなる保護層を形成したマスクを用いて行うことを特徴とするサーマルヘッドの製造方法。 - 前記保護層は、前記エッチング後に前記セラミクスからなる保護膜上に形成されるカーボン保護膜に悪影響を与えることのない材料によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のサーマルヘッドの製造方法。
- 前記保護層が、カーボンによって形成されていることを特徴とする請求項2に記載のサーマルヘッドの製造方法。
- 前記保護層が、硬質のカーボンによって形成されていることを特徴とする請求項3に記載のサーマルヘッドの製造方法。
- 前記保護層が、2〜20μmの厚さに形成されていることを特徴とする請求項4に記載のサーマルヘッドの製造方法。
- 前記保護層が、4〜10μmの厚さに形成されていることを特徴とする請求項4に記載のサーマルヘッドの製造方法。
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