JP4268741B2 - 軟性眼内レンズ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、折り曲げて眼内に挿入する軟性眼内レンズに関する。
【0002】
【従来技術】
白内障の手術方法の一つとして水晶体を摘出した後、水晶体の代わりとして眼内レンズを挿入する手法が一般的に用いられている。眼内レンズを挿入するには、はじめに眼球に眼内レンズを挿入するための切開創を設け、この切開創より内部の白濁した水晶体を超音波白内障手術装置等にて破砕して吸引しておき、次に水晶体があった場所に眼内レンズを切開創より挿入する。
【0003】
このように眼内レンズを挿入する際に設けられる切開創は、その切口が大きいと眼球に負担が掛かると同時に術後の乱視等の原因となる可能性がある。このため、小さな切開創にて軟性の眼内レンズを鑷子等の挿入器具によって折り曲げて挿入することにより眼球への負担を減らすようにしている。なかでも非含水性のアクリル系素材を使用した軟性眼内レンズが数多く使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、非含水性のアクリル系素材の眼内レンズはレンズ自体に粘着性を有するものが多く、挿入器具にくっついてしまったり、折り曲げた際に光学部同士がくっついてしまうため、その取り扱いが難しいという問題があった。
【0005】
このような問題点に対して、特許番号第2967093号に粘着性を抑制した眼内レンズが開示されている。しかしながら、ここで開示される眼内レンズは粘着性の除去という問題は解決されているが、解放時間が20〜60秒と長く、迅速な手術に対応することができない。
【0006】
上記従来技術に鑑み、挿入器具等の解放動作に追従した解放挙動を有し、取り扱い易い軟性眼内レンズを提供することを技術課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1) アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの共重合体からなる光学部を持つ軟性眼内レンズにおいて、前記光学部は、フェノキシエチルアクリレートを42重量%〜62重量%、n−ブチルメタクリレートを35重量%〜55重量%、を共重合体成分として含む共重合体(但し親水性モノマーを含有しない)であり、該共重合体は、15℃で容易に折り曲げ可能なガラス転移温度を持ち、且つ室温18℃において、前記光学部を鑷子にて完全に折り曲げた後,光学部を解放してから元の形状に戻るまでの解放時間は30秒未満(ただし、瞬時の解放時間は除く)であることを特徴とする。
(2) (1)の軟性眼内レンズは、さらに前記共重合体の共重合成分として、n−ブチルアクリレートを1重量%〜10重量%と、架橋剤を1重量%〜6重量%とを含むことを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を以下に述べる。
【0016】
本実施の形態の軟性眼内レンズは、フェノキシエチルアクリレートとn−ブチルメタクリレートとを主成分とした共重合物である。この軟性眼内レンズはアクリル系の眼内レンズが有する特有の粘着性が非常に少ない。また、この軟性眼内レンズは挿入器具にて折り曲げた眼内レンズを眼内で開かせる解放動作に追従した解放速度が得られるものである。
【0017】
本実施形態で使用されるフェノキシエチルアクリレートのモノマーの組成比は、好ましくは40重量%〜62重量%であり、より好ましくは52重量%〜56重量%である。フェノキシエチルアクリレートのモノマーが40重量%未満の場合、共重合によって得られる眼内レンズのガラス転移温度(Tg)が低くならず、室温での折り曲げ易さに影響を及ぼす。
【0018】
また、フェノキシエチルアクリレートの62重量%を超えると、得られる眼内レンズのガラス転移温度は下がるが、眼内レンズ自体に生じる粘着性が増すとともに反発力も強くなってしまう。
【0019】
n−ブチルメタクリレートのモノマーの組成比は、好ましくは35重量%〜55重量%であり、より好ましくは38重量%〜40重量%である。n−ブチルメタクリレートのモノマーが35重量%未満の場合、眼内レンズ自体に生じる粘着性が増してしまう。また、n−ブチルメタクリレートのモノマーが50重量%を超える場合、共重合によって得られた眼内レンズのガラス転移温度(Tg)が低くならず、室温での折り曲げ易さに影響を及ぼす。また、軟性眼内レンズの劣化が生じ易い。
【0020】
上記のように、フェノキシエチルアクリレートとn−ブチルメタクリレートの配分比を調節することにより、ガラス転移温度を低くさせつつ、得られる軟性眼内レンズ自体の粘着性を抑制することができる。
【0021】
また、得られる軟性眼内レンズの反発力を上げずにガラス転移温度を下げるためには、上記のモノマーの他に直鎖又は側鎖アルキル基を持つアクリレートを若干量配合することが好ましい。本実施形態ではn−ブチルアクリレートを使用する。n−ブチルアクリレートの配合量は前記2つのモノマーの配合比にもよるが、好ましくは全体の1重量%〜10重量%であり、さらに好ましくは3重量%〜6重量%である。1重量%未満の場合、得られる軟性眼内レンズの特性に影響を及ぼし難い。また、10重量%を超える場合は、軟性眼内レンズに生じる反発力が弱くなってしまい、取り扱いが難しくなってしまう。
【0022】
このように、反発力を抑えながら、ガラス転移温度を下げることができるモノマーであればn−ブチルアクリレート以外にも使用することができ、例えばフェニルエチルアクリレートも使用することができ、配合量は前述同様に好ましくは全体の1重量%〜10重量%、さらに好ましくは3重量%〜6重量%程度である。
【0023】
上記のようなモノマーを適宜配合することにより、ガラス転移温度が低く、15℃程度から容易に折り曲げ可能で粘着性が抑制された軟性眼内レンズを得ることができる。この軟性眼内レンズにさらに若干量の紫外線吸収材を添加しておくことで、さらに紫外線吸収能を有する軟性眼内レンズを提供することができる。
【0024】
紫外線吸収材はベンゾトリアゾール系の紫外線吸収材が好適に用いられ、その割合は全体の0.1重量%〜3重量%程度でよい。これより少ないと紫外線吸収効果が得られず、これより多くても紫外線吸収効果は変わらない。
【0025】
次に、以上のようなモノマーを使用して軟性眼内レンズを製作する方法を以下に説明する。初めに上記に挙げたモノマーを所望する眼内レンズの硬さ、反発力、解放速度が得られるように、前述した(メタ)アクリレート類を主材料に種々のビニル系共重合性モノマーを組み合わせて各々反応容器内に入れた後、架橋剤、重合開始剤を添加して重合反応を行う。
【0026】
重合反応に用いられる架橋剤としては1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサジオールジ(メタ)アクリレート等を使用することが好ましい。また、重合開始剤としては2,2−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート等を使用することが好ましい。架橋剤の添加量は好ましくは1重量%〜6重量%であり、さらに好ましくは2重量%〜5重量%である。
【0027】
初めに50℃〜70℃程度の温度に保たれた恒温水槽に反応容器を置き、24時間程度重合反応させる。次に、80℃〜100℃程度にしたオーブン内に反応器を入れて24時間程度、重合反応させる。その後、オーブンから反応容器を取出した後、さらに真空オーブンにて温度を100℃前後、24時間程度にて反応させることにより、重合反応を完結させて軟性アクリル基材を得る。
【0028】
次に、上記のように複数のビニル系共重合性モノマーを共重合させることにより得られた軟性アクリル基材を用いて眼内レンズを製作する。眼内レンズにはレンズパワーを持つ光学部とこの光学部を眼内において保持するための支持部とを別々に形成し、その後の工程で1つに結合させることにより得られる3ピースタイプと、基材を切削加工して光学部と支持部とが一体である1ピースタイプとに大別される。
【0029】
軟性アクリル基材を使用して、このような眼内レンズを製作するには、予め凍結により基材を固めておき、その後切削機にてレンズ形状に切削する等の眼内レンズ切削加工技術を使用して製作することが可能である。本発明は1ピースレンズ、3ピースレンズのどちらでも適用することが可能である。
【0030】
この方法の他にもモノマーの混合液を所望する眼内レンズの型枠に流し込み成型物を得る方法が使用できる。
【0031】
できあがった軟性眼内レンズの物性の測定は、粘着性、折り曲げ硬さ、反発力、解放時間について行った。粘着性の評価は、鑷子によって折り曲げた眼内レンズを解放させたときのレンズ同士の接着性(Tackinessチェック)と、2つの鑷子を使用して1つの眼内レンズを交互に挟み直したときに生じる鑷子への接着性(Stickinessチェック)とを評価した。
【0032】
折り曲げ硬さの測定は圧縮加重測定器を使用した。眼内レンズに対して徐々に力を加えていくことで眼内レンズの折り曲げを行い、φ6mmの眼内レンズの折り曲げ間隔(折り曲げている間の間隔)が5mmになった時点での測定値を読みとった。この読み取った測定値を折り曲げに要する荷重として折り曲げ硬さの評価を行った。
【0033】
また、折り曲げ硬さ測定の後、さらに続けて眼内レンズを折り曲げて行き、折り曲げ間隔が3mmになったところでそれ以上の折り曲げを止め、折り曲げ間隔3mmを維持した。この維持に必要な荷重を反発力とし、その時の測定値を読み取った。解放時間は、眼内レンズを鑷子にて二つに完全に折り曲げた後、眼内レンズを解放してから元の形状(開いた状態)に戻るまでの時間を計測した。
【0034】
<実施例1>
フェノキシエチルアクリレート(EGPEA)を62重量%、n−ブチルメタクリレート(n−BMA)を35重量%、架橋剤として1,4−ブタンジオールジアクリレート(BDDA)を3重量%からなる混合物を反応器内に入れた後、重合開始剤として2,2−アゾビスイソブチロニトリルを若干量添加し、重合反応を開始させた。
【0035】
重合反応は、各材料を入れた反応器を60℃の恒温水槽にて24時間、その後95℃のオーブン内に24時間おいて反応を進めた後、反応を完結させるために真空オーブンにて95℃、24時間置き、軟性アクリル基材を得た。その後、得られた軟性アクリル基材を低温にて切削加工を行うことにより、眼内レンズの光学部を形成してこれを試料1の眼内レンズとした。得られた試料1の眼内レンズの粘着性、折り曲げ硬さを測定、評価した。
【0036】
粘着性の評価は光学部が全く粘着しない場合は○、わずかに粘着がある場合には△、粘着性が強く鑷子から離れにくい場合には×とした。また、折り曲げ硬さは前述した方法と異なり、光学部を鑷子にて2つに折り曲げた際に、僅かな力にて折り曲がれば○、力を加えないと折り曲がらない場合には△、全然折り曲がらない場合には×とした。評価は室温18℃〜27℃の間にて行った。
【0037】
また、各組成比の異なる眼内レンズを試料2(EGPEAを48.5重量%、n−BMAを48.5重量%、BDDAを3重量%、重合開始剤若干量)、試料3(EGPEAを42重量%、n−BMAを55重量%、BDDAを3重量%、重合開始剤若干量)として製作し、試料1と同じように粘着性、折り曲げ硬さの評価を行った。
【0038】
各種物性の測定により得られた結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1が示すように室温18℃〜27℃において試料2の眼内レンズが最も好ましい評価となった。また、試料1の組成比のようにEGPEAの割合が多くなれば(n−BMAの割合が少なくなれば)、粘着性が高くなってしまい使用が難しくなる。また、試料3の組成比のようにEGPEAの割合が少なくなれば(n−BMAの割合が多くなれば)、眼内レンズ自体が硬くなってしまい、眼内レンズの折り曲げが難しくなってしまう。
【0041】
<実施例2>
フェノキシエチルアクリレートを55.0重量%、n−ブチルメタクリレートを39.5%重量%、架橋剤として1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレートを5.0重量%、紫外線吸収材として2−(2′−ヒドロキシ−5′−メタクリリロキシプロピル−3′−tert−ブチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾールを0.5重量%からなる混合物を反応器内に入れた後、重合開始剤として2,2−アゾビスイソブチロニトリルを若干量添加し、重合反応を開始させた。
【0042】
重合反応は、各材料を入れた反応器を60℃の恒温水槽にて24時間、その後95℃のオーブン内に24時間おいて反応を進めた後、反応を完結させるために真空オーブンにて95℃、24時間置き、軟性アクリル基材を得た。その後、得られた軟性アクリル基材を低温にて切削加工を行うことにより、眼内レンズの光学部を形成して眼内レンズを得た。得られた眼内レンズについて前述した測定方法により各種物性(粘着性、折り曲げ硬さ、反発力、解放時間)を測定、評価した。
【0043】
室温18℃〜32℃の間においては眼内レンズの表面に粘着性はなく、良好な結果となった。折り曲げ硬さ、反発力、解放時間の測定は室温18℃〜32℃の間にて行った。
【0044】
各種物性の測定により得られた結果について、折り曲げ硬さは図1、反発力は図2、解放時間は図3にそれぞれ示す。
【0045】
<実施例3>
フェノキシエチルアクリレートを54.0重量%、n−ブチルメタクリレートを39.7%重量%、n−ブチルアクリレートを4.0重量%、架橋剤として1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレートを2.0重量%、紫外線吸収材として2−(2′−ヒドロキシ−5′−メタクリリロキシプロピル−3′−tert−ブチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾールを0.3重量%からなる混合物を反応器内に入れた後、重合開始剤として2,2−アゾビスイソブチロニトリルを若干量添加し、実施例2と同様の手順を経て軟性眼内レンズを得た。得られた眼内レンズについて各種物性を測定、評価した。
【0046】
室温18℃〜32℃の間においては眼内レンズの表面に粘着性はなく、良好な結果となった。折り曲げ硬さ、反発力、解放時間の測定は室温18℃〜32℃の間にて行った。
【0047】
各種物性の測定により得られた結果を図1、図2、図3にそれぞれ示す。
【0048】
<比較例1>
次に、一般的に販売されている軟性眼内レンズを用いて実施例1と同様な評価を行った。眼内レンズはMA60BM(アルコンラボラトリーズインク製)を使用した。眼内レンズの表面に粘着性はなく、良好な結果となった。折り曲げ硬さ、反発力、解放時間の測定は室温18℃〜32℃の間にて行った。
【0049】
物性の測定により得られた結果を図1、図2、図3にそれぞれ示す。
【0050】
<比較例2>
一般的に販売されているシリコーン樹脂製の眼内レンズAQ−110N(キャノンスター(株)製)を用いて実施例2と同様な物性の測定を行った。物性の測定により得られた結果を図1、図2、図3にそれぞれ示す。
【0051】
<結果>
各眼内レンズとも粘着性に関しては良好な結果となった。図1に示す折り曲げ硬さに関しては、実施例2の眼内レンズが22℃にて荷重20.3g、実施例3の眼内レンズが荷重11.4gであったのに対して、比較例1の眼内レンズは22℃にて荷重25.0g、比較例2の眼内レンズは荷重20gであった。
【0052】
図2に示す反発力に関しては、実施例2の眼内レンズが22℃にて荷重49.7g、実施例3の眼内レンズが荷重16.3gであったのに対して、比較例1の眼内レンズは22℃にて荷重24.0g、比較例2の眼内レンズは荷重61.0gであった。
【0053】
図3に示す解放時間に関しては、実施例2の眼内レンズが22℃にて6秒、実施例3の眼内レンズが13.8秒であったのに対し、比較例1の眼内レンズは22℃にて48秒、比較例2の眼内レンズは何れの温度においても瞬時に解放してしまった。
【0054】
上記のように、本発明の実施の形態で得られた軟性眼内レンズであれば、適度な室温(22〜26℃程度)において、簡単に折りたたむことができるとともに、その後の眼内レンズの解放時間が10秒前後であるため、眼内レンズを折りたたんで眼内に入れた後、解放動作を行う場合であっても、その解放動作に追従して眼内レンズが開く状態となる。比較例1の眼内レンズでは開くのに時間がかかりすぎてしまい、治療時間をむやみに長引かせてしまう原因となる。また、比較例2の眼内レンズでは、瞬時に開いてしまうため、その解放動作の調節が非常に難しい。
【0055】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、適度な室温において簡単に折り曲げることができるとともに、眼内での解放動作に追従して眼内レンズが開くことができるため、従来の眼内レンズに比べ、一層取り扱い易い眼内レンズが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】温度変化に対する折り曲げ荷重の変化を示す図である。
【図2】温度変化に対する眼内レンズの反発力変化を示す図である。
【図3】温度変化に対する眼内レンズの解放時間の変化を示す図である。
Claims (2)
- アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの共重合体からなる光学部を持つ軟性眼内レンズにおいて、前記光学部は、フェノキシエチルアクリレートを42重量%〜62重量%、n−ブチルメタクリレートを35重量%〜55重量%、を共重合体成分として含む共重合体(但し親水性モノマーを含有しない)であり、該共重合体は、15℃で容易に折り曲げ可能なガラス転移温度を持ち、且つ室温18℃において、前記光学部を鑷子にて完全に折り曲げた後,光学部を解放してから元の形状に戻るまでの解放時間は30秒未満(ただし、瞬時の解放時間は除く)であることを特徴とする軟性眼内レンズ。
- 請求項1の軟性眼内レンズは、さらに前記共重合体の共重合成分として、n−ブチルアクリレートを1重量%〜10重量%と、架橋剤を1重量%〜6重量%とを含むことを特徴とする軟性眼内レンズ。
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