JP4267369B2 - 工作機械 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コラムに支持される鉛直方向に往復移動可能な移動体を含んで構成される工作機械における局所的な熱膨張に起因する変形による加工部位の熱変位を構造的に小さく抑える技術に関する。特に、コラムまたはコラムに取り付けられる基体に固定された枠体内を移動体が鉛直方向に往復移動する構成の工作機械に関する。
【0002】
【従来の技術】
工具と被加工物とを相対移動させて主に金属材料を所望の形状に加工する工作機械は、工具の種類、被加工物のサイズ、加工形状、加工方法などによって、種々の相対移動の方式が採用されている。例えば、汎用の立形マシニングセンタの場合、主軸となる移動体がコラムに取り付けられ、移動体が鉛直方向に移動する構成である。より具体的には、移動体がコラムに設けられたガイドに沿って移動するスライダである構成と、移動体が枠体に設けられたガイドに案内支持されるクイルである構成がよく知られている。なお、本発明では、丸形棒状の移動体に限らず、角形棒状の移動体も含んでクイルと称する。
【0003】
近年、リニアモータによって移動体を駆動する、リニアモータ駆動方式の工作機械が実用化されている。リニアモータ駆動方式は、回転型サーボモータとボールねじ機構によって移動体を駆動する方式に比べてバックラッシュ(backlash)がないなどの利点を有している。工作機械の軸送り装置は高速化が進んでいるが、重量のある移動体を鉛直方向に高速かつ高加速度で往復運動させる場合は、振動を抑制し変形に耐え得る十分な強度と剛性を有する構造体が要求される。この要求は、リニアモータ駆動方式に限られるものではないが、特に、リニアモータ駆動方式の場合は、質量が大きい移動体を移動可能に支持するためにリニアモータの自重が大きくなり、ますます移動体を含む軸送り装置の全体の重量が増して装置が大型化するというジレンマを有しており、工作機械としての加工精度を満足する強度を有する構造を得ることが難しかった。
【0004】
そこで、本出願人は、リニアモータ駆動方式の実用的な構成を有する工作機械として、特許文献1に開示される装置を提案している。特許文献1に開示される装置は、概略説明すると、基体に枠体を強固に固定し、枠体内に設けられた固定子と枠体内に設けられたガイドで案内支持されて往復移動する移動子であるクイルを有する構造である。高速かつ高加速度で往復運動するクイルを支持するために、枠体は基体のほぼ全面で強固に固定される。この構造の装置は他の構造の装置に比べて移動体に偶力が作用しにくく曲げモーメントが小さい。材質に依存する構造体の剛性が同一であるとした場合、移動体を高速かつ高加速度で移動するときの振動がより軽減される。特許文献1の発明は、工具として重量が比較的重い工具電極を使用し、移動体が加工中に常時上下方向に振動するように移動制御されることが要求される形彫放電加工装置に適用できるように発明されたものであり、過酷な条件であっても高い位置決め精度を得ることができる。
【0005】
ところで、工作機械では、サーボモータや加工部分などの発熱源があるので、機械が熱膨張によって局部的に変形し、加工部位における変位が発生する、いわゆる熱変位の問題がある。上述したコラム型の工作機械の場合、もともと、適当な環境の温度を想定して所定の位置に加工部位があるように設計されている。したがって、単純に言えば、想定した環境の温度よりも温度が高くなると、加工ヘッドは上に反ったようになり、加工部位が機械の手前側に変位する。逆に、想定した環境温度よりも温度が下がれば、加工ヘッドは下に“おじぎ”をするようになり、加工部位が機械の後側に変位する。それゆえ、発熱源であるサーボモータが設けられている枠体の温度の上昇を見込んで、枠体が膨張し変形したときの位置が所定の加工部位であるように設計されていることが多い。このような設計がされている場合は、加工する前に、いわゆるアイドリングを行って予め構造体を変形させておき、その状態を維持して加工を行なうようにすることで、実質的に加工部位の変位を補償することができる。
【0006】
しかしながら、発熱源を有する構造体から他の構造体に熱が伝達して局所的に温度が上昇して曲げ変形するときは、加工部位における変位が複雑で再現性が低いために、測定される温度に基づいて位置を補正するようなソフトウェア的な加工部位の変位の補償を難しくする。特に、枠体にリニアモータの固定子が備え付けられた構造の場合、構造体が直接的にサーボモータの発熱の影響を受ける。温度の変化と構造体の変形との間にはタイムラグがある上に、サーボモータの出力の変化により温度も変化するので、構造体の変形の状態は、時間とともに変動する。そのため、加工部位の変位は予測不能に変動し、位置の補正を実際の変位に追従させることが困難である。
【0007】
図6に、枠体内を移動体が鉛直方向に往復移動する構造の装置の変形を熱解析によりシミュレートした結果が示されている。図7は、環境の温度を27℃とし、枠体の温度が1℃上がって28℃になったとしたときの、図6に示す枠体2の前面上端A点と前面下端B点の位置のデータを採取したものである。図6に記載された数値は、枠体のサイズを示す。
【0008】
発熱部分を有する枠体2は、温度が他の構造体よりも早く上昇する。一方、枠体2を支持する基体4は、比較的温度が上昇しにくい構成部材である。したがって、枠体2と基体4との間に温度差が生じる。枠体2は基体4にその片側が固定されているので、枠体2が温度の上昇によって全体的に膨張すると、枠体2の基体4に固定されていない側の方が基体4に固定されている側の方よりも大きく膨張する。その結果、枠体2は、曲げ変形する。最初のこの変形は、基体4によってある程度抑えられている。その後、時間が経つにつれて枠体2の熱が基体4に伝導して、基体4の温度が枠体2に遅れて局所的に上昇していく。したがって、図6に示される枠体2の前面上端A点、枠体2と基体4との結合部近傍C点、基体4のコラム側下端D点の順に温度が低くなるように温度差が生じ、枠体2と基体4は、D点を基準にして弓形に反るように変形していく。枠体2に及ぼされる変形の状態は、構造体の形状、材質、大きさなどによって異なる。構造体の温度は変化するので、構造体の変形の状態は時間とともに変化し、加工部位の変位は変動し安定していない。
【0009】
ところで、図6に示されるようなコラム型の工作機械では、機械の重量を低減し、また機械の重心を低くして安定させる設計が要求される。このとき、周辺部材との干渉の問題から加工ヘッドをあまり低い位置に設けることができない。また、サドルの位置を高くすると機械全体の大きさが大きくなり、重量も増加するので、好ましくない。そのため、移動体を案内支持する枠体に対してその枠体を取り付ける基体が可能な限り低い位置にあるように構成するのがふつうである。とりわけ、基体を、機械の前面から見て左右方向の水平1軸方向(X軸方向)に移動する移動体とする構造が採用される場合は、ガイド機構と加工部位との距離を可能な限り小さくすることによって位置決め精度の劣化を防止する必要がある。そのため、基体が枠体に対してより低い位置にあるように設計される。このような重要な要件を満足させるために、枠体が基体の上側に取り付けられる。この構造上の特徴によって、温度が上昇して構造体が熱膨張した場合は、枠体2の上側の変形の方が大きく、鉛直方向の送り軸(Z軸)の軸心が傾く。そのため、B点とD点との間の距離を変化させる。送り軸の軸心の傾きは、機械の後側に倒れるように発生するので、加工部位の位置は、おおよそ予め設定されている位置よりも機械の前面側にずれる。
【0010】
発熱による加工ヘッドの変形は、鉛直方向(Z軸方向)と水平方向(X軸方向およびY軸方向)に発生する。この変形のメカニズムと加工ヘッドの傾きは複雑であり、かつ時間とともに変動することが知られている。図7に示される測定結果の例を参照すると、例えば、枠体2の上下(A点とB点)の水平方向(Y軸方向)の変位の大きさに差が生じていることがわかる。この変位の大きさの差は、既に述べたとおり、鉛直方向における送り軸(Z軸)が傾くことから生じる。加工部位に変位があっても時間の経過にともなう変動がない限り、あるいは上下の鉛直方向における変位の大きさに差が生じていても送り軸が傾いていない限り、ソフトウェア的な補正や冷却システムなどのよってある程度加工精度の低下を防ぐことが可能である。しかしながら、上下の水平方向における変位の大きさに差が生じている場合は、加工部位の変位を修正することは大変困難である。したがって、枠体の変形の大きさや上下の鉛直方向における変位の大きさに差があること以上に、上下の水平方向における変位の大きさに差が生じていることが、重大な問題である。
【0011】
図に示されていないが、測定値は、構造体の温度が変化することによって時間とともに数値が変動する。鉛直方向の送り軸が傾いているから、鉛直方向に移動する移動体の高さ位置によって加工部位における変位も変動する。そのため、このような測定結果は不安定である。したがって、予め加工部位における水平方向の変位を測定し、その測定結果によってソフトウェア的に位置を補正する方法で誤差を補償することが難しい。このことから、図6に示されるようなコラム型の工作機械では、加工精度のばらつきを抑えることが難しく、近年のより高精度な加工に年々対応しにくくなってきている。なお、この種のコラム型の工作機械は、既に説明されている構造上の特徴以外に、機械がコンパクトであるなど他の構造の工作機械に比べていくつかの利点を有しているが、コラム型の工作機械の利点については、詳細な説明を省略する。
【0012】
コラム型の工作機械における加工部位における熱変位の基本的な対策として、機械的には、構造体間を断熱材や冷却管で遮断して熱が他の構造体に伝わらないようにすることが考えられる。また、制御的には、多数のセンサを設けて局部の温度変化を検出し、温度変化に対応した局所的な冷却をすることが考えられる(特許文献2または特許文献3参照)。
【0013】
【特許文献1】
特開2002−346843号公報
【特許文献2】
特公平8−11348号公報
【特許文献3】
特開平11−77459号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、一般に、単純に断熱材等を介在させて構造体を結合することは強度上の問題が生じやすい。また、ユニット化された構造体間の熱を完全に遮断したとしても、発熱源を有する枠体と枠体を支持する基体との間に温度差が生じているので、枠体が基体に固定される片持構造である以上、枠体が曲げ変形することは避けられない。多数の部位で温度を測定して局所的に冷却するシステムを採用することは好ましいことではある。しかしながら、温度が変化してから熱変形するまでのタイムラグがあるから、冷却システムで加工部位の変位を小さくするという方法だけでは十分ではない。複雑な変化に完全に対応するように、多数の温度センサや冷却部分を設けることは事実上困難である。加工部位の変位は複雑であり、かつ時間とともに変動する。発熱部分がないときでも、温度の変化の影響を受けやすい構造体と温度の変化の影響を受けにくい構造体との間では温度差が発生することが避けられない。特に、加工部位における変位が時間とともに変動すること、および枠体の上下の水平方向における変位の大きさに差が発生することは、既に述べられているように、ソフトウェア的に誤差を補償する方法を困難にしている。このようなことから、何よりもまず、構造上、熱変形が小さく抑えられ、加工部位における変位が小さい機体であることが望まれる。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みて、基体に固定された枠体内を移動体が鉛直方向に往復移動する構成の工作機械において、温度の変化に起因する構造体の変形による加工部位における変位をより小さく抑えることができる構造の工作機械を提供することを目的とする。また、仮に、加工部位の変位があっても、時間の経過にともなう加工部位における変位の変動がより小さい構造の工作機械を提供することを目的とする。あるいは、枠体の上下(送り軸上の上下点間)の水平方向における変位の大きさの差がより小さい構造の工作機械を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために、コラム(8)に支持され鉛直方向(Z軸方向)に往復移動する移動体(3)を備えた工作機械において、移動体(3)を案内支持する枠体(2)を枠体(2)の下側の第1結合部(20)において枠体(2)からの熱を遮断する状態で支持するとともに空間(13)を挟んで枠体(2)の上側の第2結合部(30)において枠体(2)からの熱が伝導する状態で支持し熱によって変形して枠体(12)の変形を受容する支持腕(10)を有する基体を備えた構造にした。
【0017】
また、本発明は、コラム(8)に支持され鉛直方向(Z軸方向)に往復移動する移動体(3)を備えた工作機械において、移動体(3)を囲繞して移動体(3)を往復移動可能に案内支持する枠体(2)と;枠体(2)の側面下側で枠体(2)と結合する第1結合面(11)を有しコラム(8)に水平1軸方向に往復移動可能に取り付けられるベース(9)と、第1結合面(11)の上方に空間(13)を挟んで枠体(2)の側面上側で枠体(2)と結合する第2結合面(12)を有し水平方向に張り出すようにベース(9)に一体的に形成される支持腕(10)と、で構成され枠体(2)を支持する基体(4)と;第1結合面(11)に設けられ枠体(2)と基体(4)を結合する熱遮断部材(15)と;を備えた工作機械によって上記課題を解決する。なお、符号は発明をより容易に理解できるように、説明の便宜上付されたものであり、本発明を実施の形態に限定するものではない。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図1および図2を用いて本発明の好ましい実施の形態を説明する。加工ヘッド1は、枠体2と、移動体3を含む。以下、枠体2はクイルサポート、移動体3はクイルと称する。クイル3は、サーボモータとして設けられるリニアモータ5によって鉛直方向(Z軸方向)に往復移動する。リニアモータ5の固定子は、クイルサポート2内に取り付けられた図示しないコイルヨークに巻き回された励磁コイルである。クイル3には、励磁コイルに所定の間隙をもって対向するように配列された複数の磁石を含む磁石板が取り付けられ、クイル3が実質的にリニアモータ5の移動子を構成している。クイル3は、クイルサポート2内に挿嵌され、クイルサポート2に設けられた一対のリニアモーションガイド6によって案内支持される。なお、一般に、加工ヘッドは、工具を回転する回転軸を含むものとされるが、本発明では、回転軸を有さない工具または被加工物を鉛直方向に移動する軸を備えているものを含めて加工ヘッドという。
【0019】
クイルサポート2は、基体4に強固に取付け固定される。以下、基体4をクイルベースと称する。クイルベース4は、図示しないサーボモータによって水平1軸方向(X軸方向)に往復移動する移動体である。クイルベース4が移動することによって、加工ヘッド1がX軸方向に移動する。クイルベース4は、リニアモーションガイド7で案内される。クイルベース4は、リニアモーションガイド7を介して実質的にコラム8に取り付けられる。クイルベース4が移動しない構成の場合は、クイルベース4は、コラム8に直接強固に取付け固定される。
【0020】
クイルベース4は、図2に示されるように、少なくとも、ベース9と板状の支持腕10とで構成される。2つの支持腕10は、それぞれ枠体2に向けて水平方向に張り出すようにベース9に一体的に形成される。図1に示されるように、クイルサポート2は、クイルベース4の第1結合面11と第2結合面12とにおいて固定される。第1結合面11は、ベース9の中央腹面に設けられ、クイルサポート2のコラム8側の側面17の下側に相当する高さに位置する。第2結合面12は、第1結合面11の上方に空間13を挟んで支持腕10の先端面に設けられ、クイルサポート2の側面17の上側に相当する高さに位置する。したがって、クイルサポート2は、上下のバランスが保持されている状態でクイルベース4に取付け固定される。第1結合面11と第2結合面12を設けることによって形成される空間13は、クイルサポート2とクイルベース4との接触面積を小さくしてクイルサポート2からの熱を遮断してクイルベース4に熱を伝導しにくくする作用と、枠体2およびクイルベース4の放熱を促進してクイルベース4の温度を上昇しにくくする作用を有する。
【0021】
上述した第1結合面11および第2結合面12のクイルベース2の側面17に対する高さ方向の相対位置関係は、重要な意味を有する。具体的には、コラム8の前面に加工ヘッド1が設けられる構造の場合は、機械全体の重量を低減し機械の重心を低くして安定させるために、クイルベース4をクイルサポート2に対して可能な限り低い位置に設置されるように設計される必要がある。特に、図1に示される実施の形態のようにクイルベース4が移動体である構造の場合は、リニアモーションガイド7と図示しない加工部位との距離を可能な限り短くして位置決め精度の劣化を防止するために、ベース9をクイルサポート2に対してより低い位置に設置する必要がある。上記第1結合面11と第2結合面12の配置は、上述した要求を満足する。
【0022】
クイルベース4の第1結合面11とクイルサポート2の側面17の下側の結合面14とが結合する第1結合部20におけるクイルベース4とクイルサポート2との接触面積は、クイルサポート2を確実に支持できる範囲で可能な限り小さくされる。その結果、第1結合面11におけるクイルサポート2からの熱をより確実に遮断することができる。また、熱伝導をより確実に遮断するために、必要に応じて強度を維持し得る範囲内で断熱材を介設することができる。要するに、第1結合面11は、クイルサポート2の熱を可能な限りベース9に伝達しないように構成される。したがって、クイルベース4は、第1結合部20において実質的に熱を遮断する状態でクイルサポート2を固定する。
【0023】
一方、第2結合面12は、むしろクイルサポート2からの熱が伝導するのを積極的に許容する。したがって、クイルベース4は、クイルベース4の第2結合面12とクイルサポート2の側面17の上側の結合面18とが結合する第2結合部30においてクイルサポート2からの熱が伝導する状態でクイルサポート2を支持する。このとき、図2に示されるように、必要に応じて、第2結合面12に、熱伝導を阻害しない材質、例えば鉄系の材質のスペーサ16を設けることができる。スペーサ16は、一対の支持腕10が時間によってどのように歪変形しても、第2結合面12におけるクイルサポート2の取付状態を維持することを助ける。このように、第2結合面12が熱を積極的に伝導させる構成であるために、第1結合部20においてベース9が温度変化が小さく変形しにくいのに対して、第2結合部30における支持腕10は温度変化を起こしやすく変形しやすい。
【0024】
実施の形態では、第1結合部20における接触面積を小さくするために、図2に示されるように、第1結合面11に複数の取付材15を設けてクイルサポート2を取り付けている。複数の取付材15は、第1結合面11におけるクイルサポート2との接触面積をより小さくして実質的に熱伝導率を低くするので、全体として熱遮断部材に相当する。取付材15は、例えば、鋼鉄製などの強度を有する金属材料でなる。取付材15は、取付強度を失わない範囲内で可能な限り広い空間を形成するように設けられる。取付材15は、少なくとも強度を維持しつつ接触面積を小さくして実質的に熱伝導を低く抑えるものであるならば、他の構成を有するもの、例えば、図示しない複数の孔が設けられた帯板状のものなどに置き換えることができる。
【0025】
一対の支持腕10は、ベース9の図示しない鉛直方向の中心軸線を挟んで左右対称に設けられる。支持腕10は、クイルサポート2から伝わる熱を受けて空間13に放熱することでベース9に熱が伝達することを防止する。したがって、ベース9の熱変形は抑えられる。また、空間13が形成されていることから、クイルサポート2の側面17からの放熱が促進され、クイルサポート2の全体の変形も比較的小さく抑えられる。2つの支持腕10は、時間の経過とともに、第2結合面12から熱伝導するクイルサポート2からの熱によってそれぞれ別々に熱膨張して変形する。同時に、クイルサポート2が熱膨張する。支持腕10は、ベース9から水平方向に張り出されて設けられているので、上下方向に変形することによって、第2結合部12から伝わるクイルサポート2の変形を受容しクイルサポート2の変形による力を実質的に吸収する。同時に支持腕10自体が水平方向に膨張することによって、ベース9側の方向に変形してくるクイルサポート2の上側を反対側、つまり機体の前面側に押し戻す。このような支持腕10は、純粋な板形状である必要はなく、切断面がコ形状あるいはエ形状であるものも含む。
【0026】
このように、支持腕10は、クイルサポート2が避けられない温度の上昇によって膨張するときに、クイルサポート2の熱を受けて放熱させる。そして、主に上下方向に歪変形することによって、枠体2の上下方向(Z軸方向)および水平方向(X軸方向およびY軸方向)の変形を吸収して、クイルサポート2が変形したときに働く力とクイルサポート2からの熱がベース9に伝達することを防止する。同時に、水平方向に膨張することによって、クイルサポート2を機体の前面方向に押し戻す。その結果、クイルサポート2が変形しても、鉛直方向の送り軸(Z軸)の軸心は実質的に傾かない。逆に、クイルサポート2の温度が下がったときは、空間13に放熱することによって速やかに支持腕10の温度も下がるから、クイルサポート2の変形にほぼ追従して復元するように変形する。そのため、支持腕10は、クイルサポート2の温度が設計上設定されている温度より高くなっても低くなっても、ベース9にその変位の影響をほとんど与えない。
【0027】
次に、図2ないし図4を用いて、具体的な実施例と本発明のより詳細な作用を説明する。図2にクイルベース4の具体的なサイズを含む適する実施例が示されている。また、図3に、クイルサポート2の具体的なサイズを含む好適な実施例が示されている。実施例は、クイルサポート2とクイルベース4の材質を同じ鋳鉄としている。なお、以下に説明される実施の形態は、設計上の基準となる構造体の温度を機械を稼動させていないときの温度とし、室温が設計された温度に一定に保持されているものとしている。本発明は、室温が一定に保持されているときに、より大きい効果を得られる。このことは、室温が一定に保持されていなければ加工部位における変位を抑制する効果が得られないということを意味するものではない。しかしながら、より大きい効果を得るために、好ましくは、恒温室内あるいは温度制御装置で室温を保持した状態で基準となる構造体の温度を設定する。
【0028】
リニアモータ5に電力が供給され、リニアモータ5が発熱すると、クイルサポート2の温度は、全体的に上昇していく。そして、クイルサポート2が熱膨張する。図4に示されるように、クイルサポート2の熱は、表面から外気に伝わるとともに、第1結合面11と第2結合面12からクイルベース4に伝わろうとする。このとき、第1結合面11には熱遮断部材(取付材15、断熱材を設けたときは断熱材も含む)が設けられているので、第1結合部20では熱が殆ど遮断されている。また、空間13があるので、この空間13に面したクイルサポート2の側面17からの熱は外気に伝わってベース9には伝導しにくい。同時に、ベース9に僅かに伝導する熱は、空間13に放熱される。したがって、第1結合部20の近傍の僅かな部分を除き、ベース9は殆どクイルサポート2の温度上昇の影響を受けず、全体的に同じ温度を維持している。
【0029】
一方、第2結合面12からは、クイルサポート2の熱が支持腕10に伝わる。そのため、支持腕10は膨張して変形する。このとき、支持腕10は空間13で開放されている板状体であるから、外気に放熱してベース9に熱を伝えにくくしている。その結果、支持腕10が張り出すベース9の根元付近における温度の変化は、熱遮断部材がある第1結合面11における温度の変化に比べて殆ど差がない程度に小さく抑えられる。したがって、この時点で、ベース9は、全体的に局所的な温度の上昇がなく、依然として殆ど変形していないままである。支持腕10が膨張して変形するとき、支持腕10がもともと他の構造体に比べて変形しやす板状であるため、他の構造体より容易に上下方向に歪変形する。したがって、クイルサポート2からの力がどのように加わっても、クイルサポート2を支持した状態でクイルサポート2の変形を受容して実質的に変形による力を吸収し、ベース9に伝えない。結局、クイル3の下端E点とクイルベース4のガイド部分D点との距離は維持され、E点の位置は殆ど変化していない。したがって、加工部位の変位がより小さく抑えられている。
【0030】
同時に、支持腕10は、水平方向に張り出して設けられているので、水平方向の熱膨張の力によって、クイルベース4の方向に膨張してくるクイルサポート2を反対側に押し戻す。一方、クイルサポート2の下側は、ベース9の温度の上昇が抑えられ変形しない状態で固定されている。したがって、クイルサポート2における第1結合部20と第2結合部30の温度差から生じる変形の大きさの違いから、本来は、クイルサポート2は、クイルベース4の方向、言い換えれば機体の後側に反るように変形するはずであるが、逆にクイルサポート2の上側の温度が高くなることによって、支持腕10によりクイルサポート2が水平方向に押し戻される。クイルサポート2は、従来に比べて相当加工部位の変位が小さく抑えられるが、その下側でも全く変形しないわけではないから、強制的に冷却されることなしで完全に変位がなくなるわけではない。しかしながら、上述した支持腕10の作用によって、クイルサポート2が変形しても、第1結合面11と第2結合面12の水平方向の位置は変わらなくなる。言い換えれば、クイルサポート2の前面上側A点と前面下側B点の水平方向の変位の大きさが変わらないことであり、結局、鉛直方向の送り軸(Z軸)の軸心が傾いていないということである。
【0031】
時間の経過とともに、クイルサポート2の温度が変化しクイルサポート2が変形する状態が変化する。しかしながら、支持腕10が歪変形することによって、クイルサポート2からの何れの方向からの力も柔軟に吸収し、ベース9に伝わらない。同時に、第1結合面11は熱が遮断されて殆ど変形しないでクイルサポート2を支持したままである。したがって、クイルサポート2と支持腕10の変形が時間とともに変化するとき、依然としてベース9とクイルサポート2の下側の変形は小さく、加工部位の変位は小さく抑えられたままである。
【0032】
機械が稼働している時間が長いときは、ベース9の温度も徐々に上がり、やがて変形を生じる程度に高くなることがある。また、環境の温度の上昇によってベース9の温度が全体的に上昇することがある。ベース9がコラム8に固定されているとすると、このときのベース9は、機体の前面側に向かって変形する。そのため、第1結合面11と第2結合面12がほぼ同じ量だけ水平方向にずれる。したがって、このずれ量だけ加工部位に変位が発生する。しかしながら、クイルサポート2の上側と下側においてほぼ同じ量だけ変位するため、鉛直方向の送り軸(Z軸)の傾きが発生しない。このことから、上記変形を起因とする加工部位の変位は、ベース9の温度に合致して測定ないし推定可能な範囲のものであり、複雑ではない。結局、実施の形態は、もともとベース9が変形しにくい構造であるが、その構造にもよらず、仮にベース9が変形したとしても、加工位置における変位は安定して小さい。このことは、ソフトウェア的に変位を補正することなどの対策を可能にし、結果的に、加工精度の低下を防止することができる。図5に、図7に示す従来の技術と同一の条件下で同じ点で測定した変位のデータが示されている。ただし、図5の熱応力解析のデータは、図2に示されるクイルベースにおける第2結合面に20mm角のスペーサがなく、第2結合面全面で接触したときの結果である。
【0033】
以上のように、実施の形態は、クイルサポート2の熱変形による加工部位の変位をより小さく抑える。また、時間が経つにつれて熱変形の状態が変化しても加工部位の変位の変動の幅をより小さく抑える。そして、仮にベース9が避けられない熱変形をしたときであっても、クイルサポート2の上下の変位の大きさをほぼ同じにすることができ、加工部位の変位の状態を安定させ、ソフトウェア的な加工部位の変位の補正を有効にする。したがって、結果的に、コラム型の工作機械の加工精度の低下を防止することができる効果を得る。本発明の技術思想において最も重要なことは、クイルサポート2の変形を無理に抑制することではない。本発明は、むしろクイルサポート2の上側の変形を許容することでクイルサポート2の下側の変位を小さくするとともに、上下間における変位の大きさの差を可能な限り小さくする。
【0034】
支持腕10の好ましい大きさは、構造体の材質とサイズによって異なるが、図2に示される実施例に材質とサイズが示されているので、実施例を参照し試験もしくはシミュレーションによって得ることができる。また、温度を遮断する第1接触面と枠体のコラム側の側面の接触面との接触面積は可能な限り小さくされるが、構造体のサイズに応じた取付強度を維持するために必要な大きさと構造は、同様に、試験もしくはシミュレーションによって得ることができる。
【0035】
本発明は、上述した実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で設計的に変更を加えたり、部材を置き換えたり、あるいは他の技術と組み合わせてその効果を高めるなどの応用が可能である。例えば、鋳鉄の構造体をより変形しにくい材質の構造体に置き換えることができる。また、本発明は、既に述べたとおりの目的でなされたものであるから、公知の熱変位を補償する方法の採用を妨げるものではない。例えば、公知の構造体の局所的な冷却システムを適宜組み合わせて採用し、より効果的に本発明を実施することが可能である。
【0036】
【発明の効果】
本発明の工作機械は、枠体の下側で接触する実質的に枠体の熱と力を遮断する第1結合面を有するベースと、その第1結合面の上方に空間を挟んで枠体の上側で接触する第2結合面を有し水平に張り出すように一体的にベースに形成される支持腕とを設けた基体を備えるものである。本発明の工作機械は、枠体の上側の変形を支持腕で許容し下側の変形を抑止する。時間の経過とともに枠体の温度が変化してもベースの変形を抑制する。仮に基体が変形したときも、鉛直方向の送り軸上の上下における水平方向の変位の大きさを殆ど同じにすることができる。したがって、加工部位の変位はより小さく抑制され、かつ安定し、しかも鉛直方向の送り軸の倒れがより小さくされる。その結果、本発明の工作機械は、加工精度を低下を防止することができる効果を奏する。特に、熱変形に不利であるとされるリニアモータ駆動方式の工作機械であっても加工精度の低下を現在の精密加工の要求を満足する程度に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の加工ヘッド周りの構成を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態のクイルベースの構成と実施例のサイズを示す斜視図である。
【図3】本発明のクイルサポートの実施例のサイズを示す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態における構造体の温度の変化に対する熱変形の状態を示す側面図である。
【図5】本発明の加工ヘッドにおける位置の変位を示す表である。
【図6】従来の加工ヘッドにおける熱変形の状態を示す側面図である。
【図7】従来の加工ヘッドにおける位置の変位を示す表である。
【符号の説明】
1,加工ヘッド
2,クイルサポート(枠体)
3,クイル(移動体)
4,クイルベース(基体)
9,ベース
10,支持腕
11,第1結合面
12,第2結合面
13,空間
15,取付材(熱遮断部材)
20,第1結合部
30,第2結合部
Claims (2)
- コラムに支持され鉛直方向に往復移動する移動体を備えた工作機械において、前記移動体を案内支持する枠体を前記枠体の下側の第1結合部において前記枠体からの熱を遮断する状態で支持するとともに空間を挟んで前記枠体の上側の第2結合部において前記枠体からの熱が伝導する状態で支持し熱によって変形して前記枠体の変形を受容する支持腕を有する基体を備えた工作機械。
- コラムに支持され鉛直方向に往復移動する移動体を備えた工作機械において、
前記移動体を囲繞して前記移動体を往復移動可能に案内支持する枠体と;
前記枠体の側面下側で前記枠体と結合する第1結合面を有し前記コラムに水平1軸方向に往復移動可能に取り付けられるベースと、前記第1結合面の上方に空間を挟んで前記枠体の前記側面上側で前記枠体と結合する第2結合面を有し水平方向に張り出すように前記ベースに一体的に形成される支持腕と、で構成され前記枠体を支持する基体と;
前記第1結合面に設けられ前記枠体と前記基体を結合する熱遮断部材と;
を備えた工作機械。
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