JP4266051B2 - 局部延性に優れた高加工性高炭素鋼板 - Google Patents

局部延性に優れた高加工性高炭素鋼板 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭化物の分散形態に特徴を有する、局部延性に優れた高加工性高炭素鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼中のC含有量が概ね0.7質量%以上の、いわゆる高炭素鋼板は、焼入れ強化が可能であるとともに、ある程度の未溶解炭化物を残存させることによる耐摩耗性向上効果もあるため、各種機械部品や軸受け部品,工具,刃物等の素材として広く使用されている。高炭素鋼板は一般に硬く加工性があまり良くないので、従来より部品の加工は、打抜加工や軽度の曲げ成形、さらに必要に応じて切削加工によって行われることが多い。部品形状が複雑な場合は、二ないし三部品を溶接して所定の形状にする場合も多い。そしてこれらの加工部品は熱処理を経て各種用途の部品に仕上げられていく。
【0003】
ところが近年、部品の製造コストを低減すべく、部品の一体成形や、部品加工の工程簡略化が進められている。このことは素材側から見ればより加工率の高い(=塑性変形量の大きい)加工に耐えなくてはならないことを意味する。つまり、加工技術の高度化に伴い、素材である高炭素鋼板自体にもより高い加工性が要求されるようになってきた。特に昨今では、打抜加工や曲げ加工のみならず、伸びフランジ成形加工(例えば穴拡げ加工)にも耐え得る局部延性に優れた高炭素鋼板素材のニーズが高まるつつある。
【0004】
こうした中、特公昭61-15930号公報,特公平5-70685号公報,および特開平4-333527号公報には、加工方法あるいは熱処理方法を工夫することによって棒鋼中の炭化物を球状化し、棒鋼線材の加工性を改善する技術が紹介されている。しかし、これらはいずれも棒鋼線材を対象とするものであり、素材が板材である場合に問題となる伸びフランジ性の改善手法は明らかにされていない。
【0005】
また、特開平8-3687号公報には、Cを0.3mass%以上含有し、炭化物の占める面積率が20%以下で、粒径1.5μm以上の炭化物の割合が30%以上である加工用高炭素鋼板が示されている。これは炭化物の形態を制御して鋼板の加工性を改善したものではあるが、局部延性に関連する伸びフランジ性といった高度な加工性を改善するには至っていない。
【0006】
さらに特開平8-120405号公報には、C:0.20〜0.60%の他、Si,Al,N,B,Ca等の黒鉛化を促進する元素を含有し、C含有量の10〜50%が黒鉛化しており、断面の鋼組織が3μm以上の黒鉛粒子を特定量含んだ球状化セメンタイトの分散したフェライト相になっている加工性に優れた薄鋼板が示されている。この薄鋼板は穴拡げ性と二次加工性に優れているという。しかしその薄鋼板は含有炭素の黒鉛化を利用して加工性を改善するものであるから、黒鉛化を促進する元素の添加した鋼を用いる必要があり、一般的な市販の高炭素鋼種に広く適用できるものではない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、加工性の中でも「伸びフランジ性」といった、特に局部延性を改善した高炭素鋼板のニーズが高まりつつあるが、一般的な高炭素の鋼種において、鋼板の局部延性を改善する手法は確立されていない。その理由として、局部延性を向上させ得るに足る鋼板の金属組織が未だ明らかにされていないことが挙げられる。
【0008】
そこで本発明は、「伸びフランジ性」等の局部延性を安定的に改善することができ金属組織を特定し、本来加工性があまり良くないとされる一般的な高炭素鋼の鋼種において、特殊な元素を添加することなく局部延性に優れた鋼板を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、質量%で、C: 0.7 1.5 %,Si: 0.40 %以下,Mn: 1.0 %以下,Cr: 1.6 %以下を含有し、P: 0.03 %以下,S: 0.01 %以下,T . Al: 0.1 %以下で、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成の高炭素鋼からなり、下記(a)で定義される平均炭化物粒径が0.4〜1.2μmであるように炭化物がフェライト中に分散しており、下記(b)で定義される切欠引張伸びElvが30%以上、かつ下記(c)で定義される穴拡げ率λが30%以上である局部延性に優れた高加工性高炭素鋼板である。
【0010】
(a)平均炭化物粒径:鋼板断面の金属組織観察において、観察視野内の個々の炭化物について測定した円相当径を全測定炭化物について平均した値をいう。ただし、観察視野は炭化物総数が300個以上となる領域とする。
(b)切欠引張伸びElv:JIS Z 2201に規定される5号試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45°,深さ2mmのVノッチを形成した試験片を用いて、JIS Z 2241に規定される引張強さの測定を行う場合の引張試験に準じた方法で引張試験を行い、Vノッチを含む標点間距離5mmに対する伸び率(%)を破断後に求め、その伸び率の値を切欠引張伸びElvとする。
(c)穴拡げ率λ:150mm角の鋼板の中央部にクリアランス20%にて穴径d0が10mmの穴を打抜いた後、50mmφ球頭ポンチにて、ポンチ軸が穴の中心軸に一致するようにしてその穴部を押し上げ、穴周囲に亀裂が発生した時点の穴径d(mm)を測定し、次式に上記d0およびdを代入してλ(%)を求め、その値を穴拡げ率λとする。
λ=(d−d0)/d0×100
【0011】
請求項2の発明は、特にC含有量が 0.8 超え〜 1.5 %である点を規定したものである。請求項3の発明は、さらにMo: 0.3 %以下,Cu: 0.3 %以下,Ni: 2.0 %以下の1種または2種以上を含有する点を規定したものである。請求項4の発明は、上記(a)で定義される平均炭化物粒径が0.4〜1.2μm、かつ下記(d)で定義される炭化物球状化率が90%以上であるように炭化物がフェライト中に分散している点を規定したものである。
【0012】
(d)炭化物球状化率:鋼板断面の金属組織観察において、観察視野内の炭化物総数に占める、炭化物の最大長さpとその直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満である炭化物の数の割合(%)をいう。ただし、観察視野は炭化物総数が300個以上となる領域とする。
【0019】
求項の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において、鋼板が伸びフランジ加工用である点を規定したものである。
【0020】
【発明の実施の形態】
発明者らは、一般的な高炭素鋼種における鋼板の加工性を改善する手段について詳細に検討してきた。その結果、▲1▼一般的な打抜加工性や曲げ加工性が向上する場合でも、伸びフランジ性等の局部延性が改善されるとは限らないこと、▲2▼炭化物を単に球状化させるだけでは局部延性の安定した改善を図ることはできないこと、そして、▲3▼伸びフランジ性等の局部延性は、鋼板中における炭化物の分散形態に大きく依存し、具体的には炭化物のより一層の球状化と、平均炭化物粒径を大きくすることによって改善し得ることを知見した。
【0021】
伸びフランジ成形加工によって生じる割れや亀裂は、加工変形中に生じる非常に局所的な欠陥によって敏感に引き起こされるものと考えられる。高炭素鋼板においては、そのような欠陥の生成原因として、炭化物(セメンタイト)を起点として生じたミクロボイドの成長(連結)が挙げられる。このため、高炭素鋼板の伸びフランジ性を改善するうえで、加工変形時において上記ミクロボイドの生成・成長をできるだけ抑制できるような金属組織に調整することが重要であると考えられる。伸びフランジ性が他の一般的な加工性の改善に伴って必ずしも同様に改善されないのは、他の加工性には影響を及ぼさないようなミクロ的な欠陥が、伸びフランジ性に対しては敏感に影響するためであると推察される。
以下、本発明を特定するための事項について説明する。
【0022】
本発明では、C:0.7〜1.5質量%を含有する高炭素鋼、あるいは特にC:0.8%超え〜1.5質量%含有する高炭素鋼を対象とする。Cは炭素鋼において最も基本となる合金元素であり、その含有量によって加工性や焼入れ硬さおよび炭化物量が大きく変動する。C含有量が0.7質量%以上になると焼入れ時に残存する未溶解炭化物によって耐摩耗性が発揮され、特にC含有量が0.8%を超えると共析鋼あるいは過共析鋼の組織を呈し、耐摩耗性は一層向上する。一方、C含有量が1.5質量%を超えると、熱間圧延後の靱性が低下して鋼帯の製造性・取扱い性が悪くなるとともに、焼鈍後においても十分な延性が得られないため本発明で目的とする局部延性も得られない。したがって、本発明では加工性の良好な高炭素鋼板を提供する観点から、C含有量が0.7〜1.5質量%、あるいは0.8超え〜1.5%の範囲の鋼を対象とする。
【0023】
Sは、MnS系介在物を形成する元素である。この介在物の量が多くなると局部延性が劣化するので、鋼中のS含有量はできるだけ低減することが望ましい。本発明で規定する炭化物分散形態を実現させれば、S含有量を特別に低減していない一般的な市販鋼に対しても伸びフランジ性の向上効果は得られる。しかし、C含有量が1.5質量%近くまで高くなった場合でもElv値およびλ値がそれぞれ例えば30%以上というような高い局部延性を安定して確保するためには、S含有量を0.01質量%以下に低減した鋼を用いるのが望ましい。本願発明ではそのような観点からS含有量を0.01質量%以下に規定した。
【0024】
Pは、延性や靱性を劣化させるので、0.03質量%以下の含有量とする。
Alは溶鋼の脱酸剤として添加されるが、鋼中のT.Al量が0.1質量%を超えると鋼の清浄度が損なわれて鋼板に表面疵が発生しやすくなるので、T.Al含有量は0.1質量%以下とする。
【0025】
Siは、局部延性に対して影響の大きい元素の1つである。Siを過剰に添加すると固溶強化作用によりフェライトが硬化し、成形加工時に割れ発生の原因となる。またSi含有量が増加すると製造過程で鋼板表面にスケール疵が発生する傾向を示し、表面品質の低下を招く。そこでSiを添加するに際しては0.40質量%以下の含有量となるようにする。加工性を特に重視する用途ではSi含有量は0.1質量%以下とすることが望ましい。
Mnは、鋼の耐摩耗性向上に有効な添加元素である。1.0質量%を超えて多量に含有させるとフェライトが硬化し、加工性の劣化を招く。そこで、Mnは1.0質量%の範囲で含有させる。好ましいMn含有量範囲は0.3〜1.0質量%である。
【0026】
rは、焼入れ性を改善するとともに焼戻し軟化抵抗を大きくする元素である。しかし、1.6質量%を超える多量のCrが含まれるとA1点以下での長時間焼鈍やA1点以上の加熱を利用した焼鈍を施しても軟質化しにくく焼入れ前のプレス成形性や加工性が劣化するようになる。したがってCrは1.6質量%以下の範囲で含有させる
Moは、少量の添加でCrと同様に焼入れ性・焼戻し軟化抵抗の改善に寄与する。しかし、0.3質量%を超える多量のMoが含まれるとA1点以下での長時間焼鈍やA1点以上の加熱を利用した焼鈍を施しても軟質化しにくく焼入れ前のプレス成形性や加工性が劣化するようになる。したがってMoを添加する場合は0.3質量%以下の範囲とする。
Cuは、熱延中に生成する酸化スケールの剥離性を向上させるので、鋼板の表面性状の改善に有効である。しかし、0.3質量%以上含有させると溶融金属脆化により鋼板表面に微細なクラックが生じやすくなるので、Cuは0.3質量%以下の範囲で添加できる。Cu含有量の好ましい範囲は0.10〜0.15質量%である。
Niは、焼入れ性を改善するとともに低温脆性を防止する合金成分である。またNiは、Cu添加によって問題となる溶融金属脆化の悪影響を打ち消す作用を示すので、特にCuを約0.2%以上添加する場合にはCu添加量と同程度のNiを添加することが極めて効果的である。しかし、2.0質量%を超える多量のNiが含まれるとA1点以下での長時間焼鈍やA1点以上の加熱を利用した焼鈍を施しても軟質化しにくく焼入れ前のプレス成形性や加工性が劣化するようになる。したがってNiを添加する場合は2.0質量%以下の範囲とする。
【0027】
次に、本発明鋼板の金属組織を特定するための事項について説明する。
【0028】
〔平均炭化物粒径〕
炭化物の平均粒径を大きくすることによっても局部延性は顕著に改善されることが確認された。鋼中の炭素量は一定であるから、平均炭化物粒径の増大は炭化物総数の減少を意味する。炭化物総数が減少すれば、個々の炭化物を起点として生成したミクロボイドの連結が抑制され、これが局部延性の顕著な向上に寄与するものと考えられる。
【0029】
平均炭化物粒径は、鋼板断面の金属組織観察において、観察視野内の個々の炭化物について測定した円相当径を全測定炭化物について平均した値をいう。具体的には個々の炭化物について面積を測定し、その面積から円相当径を算出する。面積の測定は画像処理装置を用いて行うことができる。そして測定した全ての炭化物の円相当径の総和を求め、その総和を測定炭化物の総数で除した値を平均炭化物粒径とする。数値の信頼性を高めるために、観察視野は測定炭化物総数が300個以上となる領域とする。
【0030】
本発明者らの詳細な伸びフランジ成形実験の結果、局部延性の観点からは、平均炭化物粒径を0.4μm以上とする必要があることがわかった。一方、平均炭化物粒径を1.2μmを超えて粗大化させても局部延性向上効果は小さくなるうえ、そのような粗大化には長時間の焼鈍を要し経済的デメリットを負う。したがって、本発明では鋼板中の平均炭化物粒径を0.4〜1.2μmの範囲に規定した。
【0031】
〔炭化物球状化率〕
炭化物球状化率は先に定義したとおりであるが、これは、全炭化物のうち「球状化した炭化物」とみなされるものがどの程度を占めているかを表している。ここで、ある炭化物が「球状化した炭化物」とみなされるための条件として、鋼板断面の金属組織観察平面内において、その炭化物の最大長さpとそれに直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満であることを要件とした。例えば、再生パーライトにおける炭化物では、そのほとんどは上記の比(p/q)が3以上である。一方、Ac1点以上の加熱で残留した未溶解炭化物を起点として成長した炭化物では、上記の比(p/q)が3未満を満たすようになる。
【0032】
炭化物の形状を立体的に正確に捉えて規定することは難しく、また製品鋼板の適否を判定するうえでも煩雑である。これに対し、鋼板断面の平面的な金属組織を観察することは容易である。本発明者らは、鋼板断面の金属組織の中で観察される炭化物形状について上記のようなpとqの比(p/q)を用いて球状化の程度を捉えたとき、鋼板の局部延性に対する炭化物形状の影響を適切に評価できることを確認した。そして、種々の実験の結果、前述の平均炭化物粒径が本発明規定範囲にある高炭素鋼板のなかでも、上記の比(p/q)が3未満の「球状化した炭化物」の数が全体の炭化物数の90%以上を占めている鋼板は一層高い局部延性を示すことを見出した。なお、数値の信頼性を高めるために、観察視野は測定炭化物総数が300個以上となる領域とする。
【0033】
炭化物球状化率を高めると局部延性が向上するのは、球状化率の高い炭化物は加工時におけるミクロボイドの生成起点になりにくいためであると考えられる。炭化物球状化率の低い鋼板では、分散している炭化物のうち、例えば再生パーライトの炭化物のように球状化が不十分な炭化物を起点としてミクロボイドの生成・連結が助長され、これが割れの原因となる。前述の平均炭化物粒径の規定に加え、炭化物球状化率を90%以上とすることにより伸びフランジ性等の局部延性をさらに改善できる。
【0034】
以上のような金属組織を有する鋼板は、A1点以下の温度での長時間焼鈍でも得られるが、焼鈍方法を工夫することによって比較的短時間で効率的に得ることができる。例えば、鋼板のA1変態点直下および直上の特定温度範囲における加熱を適切に組み合わせた焼鈍によって実現できる。具体的には例えば、熱延鋼板または冷延鋼板に対して、Ac1−50℃〜Ac1未満の温度範囲で0.5時間以上保持する1段目の加熱を行った後、Ac1〜Ac1+100℃の温度範囲で0.5〜20時間保持する2段目の加熱およびAr1−80℃〜Ar1の温度範囲で2〜60時間保持する3段目の加熱を連続して行い、かつ、2段目の保持温度から3段目の保持温度への冷却速度を5〜30℃/hとする3段階焼鈍を施すことによって、本発明で規定する適正な金属組織を有する鋼板を好適に製造することができる。
【0035】
【実施例】
表1に示す化学組成の鋼を溶製し、熱間圧延により板厚2.3mmの熱延板とした。その際、熱延コイル巻取温度を変えて熱延組織を変化させた。得られた熱延板は、酸洗後、種々の条件で焼鈍し、鋼板の平均炭化物粒径,炭化物球状化率を変化させた。その後、引張試験,切欠引張試験,穴拡げ試験に供した。
【0036】
【表1】
Figure 0004266051
【0037】
炭化物球状化率は、走査電子顕微鏡により鋼板断面の一定領域内を観察し、炭化物の最大長さpとその直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満となるものを「球状化した炭化物」としてカウントし、測定炭化物総数に占める当該「球状化した炭化物」の数の割合を算出して求めた。その際、測定炭化物総数は300〜1000個の範囲であった。
平均炭化物粒径は、上記の炭化物球状化率を測定した領域内について画像処理装置(ニレコ社製、LUZEX III U)を利用して、個々の炭化物の円相当径を算出し、それを全測定炭化物について平均して求めた。
【0038】
引張試験は、JIS 5号引張試験片を用い、平行部の標点間距離を50mmとして行った。
切欠引張試験は、JIS Z 2201に規定される5号試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45°,深さ2mmのVノッチを形成した試験片を用いて、JIS Z 2241に規定される引張強さの測定を行う場合の引張試験に準じた方法での引張試験で行った。Vノッチを含む標点間距離5mmに対する伸び率(%)を破断後に求め、その伸び率の値を切欠引張伸びElvとした。
穴拡げ試験は、150mm角の鋼板の中央部にクリアランス20%にて穴径d0が10mmの穴を打抜いた後、50mmφ球頭ポンチにて、ポンチ軸が穴の中心軸に一致するようにしてその穴部を押し上げる方法で行い、穴周囲に亀裂が発生した時点の穴径d(mm)を測定し、次式に上記d0およびdを代入してλ(%)を求め、その値を穴拡げ率λとした。
λ=(d−d0)/d0×100
これらElv値およびλ値は局部延性を表す指標であり、伸びフランジ性を定量的に評価し得るものである。
これらの試験結果を金属組織と併せて表2に示す。
【0039】
【表2】
Figure 0004266051
【0040】
表2において、No.13のH鋼は、C含有量が1.5質量%を超えるため加工性が著しく低い。また、No.14のI鋼は、S含有量が0.01質量%を超えて高いためElv値,λ値とも他のものより低下した。
【0041】
これらH鋼,I鋼以外の鋼においては、平均炭化物粒径が本発明で規定する範囲内にある本発明例(No.1,3,4,5,6,7,9,10,11,12)では、C含有量が同レベルの比較例と比べていずれもElv値およびλ値が顕著に向上しており、優れた局部延性を示した。その中でも特に炭化物球状化率が90%以上のNo.4,5,7,10はElv値,λ値とも一層高い値を示した。
【0042】
これに対し、炭化物球状化率が小さいNo.2,8はC含有量が同レベルの本発明例に比べてElv値,λ値とも低下した。
【0043】
図1は、表2のサンプルについて、C含有量とλ値の関係をプロットしたものである。C含有量が同じレベルであっても、本発明で規定した範囲に金属組織が厳密にコントロールされたものは、λ値(局部延性)が著しく向上していることがわかる。
【0044】
次に、表2における発明例の鋼板の製造条件を示しておく。
No.1,4,5,6,9,10,11,12は、熱延巻取温度450〜600℃で熱延板を得た後、酸洗し、「Ac1点より低い690℃で4h保持→Ac1点以上の740℃で4h保持→冷却速度10℃/hで冷却→Ar1点以下の690℃で4h保持→650℃まで冷却速度10℃/hで冷却→空冷」の焼鈍を施して製造したものである。
No.7は、熱延巻取温度500〜600℃で熱延板を得た後、酸洗し、「Ac1点より低い700℃で4h保持→Ac1点以上の770℃で4h保持→冷却速度10℃/hで冷却→Ar1点以下の710℃で8h保持→650℃まで冷却速度10℃/hで冷却→空冷」の焼鈍を施して製造したものである。
No.3は、熱延巻取温度450〜600℃で熱延板を得た後、酸洗し、「Ac1点より低い700℃で10〜100h保持→空冷」の焼鈍を施して製造したものである。
【0045】
【発明の効果】
以上のように、本発明では、「平均炭化物粒径」、あるいはさらに「炭化物球状化率」を適正な範囲にコントロールし、優れた局部延性を有する高炭素鋼板を実現した。したがって、本発明に係る鋼板は、従来の高炭素鋼板より局部変形能が著しく向上したことにより部品形状が複雑な各種機械部品の素材として好適に用いられ、特に伸びフランジ成形加工用鋼板として非常に適している。また同時に、軟質化によりプレス金型寿命の向上にも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明例と比較例の鋼板におけるC含有量とλ値の関係を表すグラフ。

Claims (5)

  1. 質量%で、C: 0.7 1.5 %,Si: 0.40 %以下,Mn: 1.0 %以下,Cr: 1.6 %以下を含有し、P: 0.03 %以下,S: 0.01 %以下,T . Al: 0.1 %以下で、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成の高炭素鋼からなり、平均炭化物粒径が0.4〜1.2μmであるように炭化物がフェライト中に分散しており、切欠引張伸びElvが30%以上、かつ穴拡げ率λが30%以上である局部延性に優れた高加工性高炭素鋼板。
  2. 質量%で、C: 0.8 超え〜 1.5 %である、請求項1に記載の鋼板。
  3. 質量%で、さらにMo: 0.3 %以下,Cu: 0.3 %以下,Ni: 2.0 %以下の1種または2種以上を含有する、請求項1または2に記載の鋼板。
  4. 平均炭化物粒径が0.4〜1.2μm、かつ炭化物球状化率が90%以上であるように炭化物がフェライト中に分散している請求項1〜3のいずれかに記載の鋼板。
  5. 鋼板が伸びフランジ加工用である、請求項1〜4のいずれかに記載の鋼板。
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