JP4265415B2 - 磁気抵抗効果型磁気ヘッド及びこれを具備する磁気記録再生装置 - Google Patents

磁気抵抗効果型磁気ヘッド及びこれを具備する磁気記録再生装置 Download PDF

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Description

本発明は、磁気記録媒体と摺接しながら磁気信号の検出を行う感磁素子としてスピンバルブ膜を用いた磁気抵抗効果型磁気ヘッド、及びこれを具備する磁気記録再生装置に関する。
磁気記録媒体から信号磁界を検出する感磁素子として、外部磁界の大きさや向きによって抵抗値が変化する、いわゆる磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗効果素子(以下、MR素子という。)が利用されている。そして、このようなMR素子を備える磁気ヘッドは、一般に磁気抵抗効果型磁気ヘッド(以下、MRヘッドという。)と呼ばれている。
このようなMR素子としては、異方性磁気抵抗効果を利用したものが従来から使用されているが、磁気抵抗変化率(MR比)が小さいために、より大きなMR比を示すものが望まれており、近年においてはスピンバルブ膜を利用した巨大磁気抵抗効果素子(以下、GMR素子という。)が提案されている(例えば、非特許文献1、特許文献1参照。)。
GMR素子は、一対の磁性層で非磁性層を挟持してなるスピンバルブ膜を有し、このスピンバルブ膜に対して面内方向に流れる、いわゆるセンス電流のコンダクタンスが一対の磁性層の磁化の相対角度に依存して変化する、いわゆる巨大磁気抵抗効果を利用したものである。
具体的には、スピンバルブ膜は、反強磁性層と、反強磁性層との間で働く交換結合磁界により所定の方向に磁化が固定された磁化固定層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する磁化自由層と、磁化固定層と磁化自由層との間を磁気的に隔離する非磁性層とが積層された構造を有している。
スピンバルブ膜を利用したGMR素子においては、外部磁界が印加されると外部磁界の大きさや向きに応じて磁化自由層の磁化方向が変化する。そして、磁化自由層の磁化方向が磁化固定層の磁化方向に対して逆方向(反平行)となるとき、このスピンバルブ膜に流れるセンス電流の抵抗値が最大となる。一方、磁化自由層の磁化方向が磁化固定層の磁化方向に対して同一方向(平行)となるとき、このスピンバルブ膜に流れるセンス電流の抵抗値が最小となる。
従って、上述したようなGMR素子を備える磁気ヘッド(GMRヘッド)においては、GMR素子に対して一定のセンス電流を供給すると、磁気記録媒体からの信号磁界に応じて、このGMR素子を流れるセンス電流の電圧値が変化することになり、このセンス電流の電圧値の変化を検出することによって、磁気記録媒体からの磁気信号を読み取ることが可能となる。
ところで下記特許文献1には、GMRヘッドをハードディスクドライブに利用する例が開示されている。
ハードディスクドライブは、例えばサスペンションの先端部に取り付けられたヘッドスライダにGMRヘッドが搭載された構造を有し、磁気ディスクの回転により生じる空気流を受けて、ヘッドスライダが磁気ディスクの信号記録面上を浮上しながら、このヘッドスライダに搭載されたGMRヘッドが磁気ディスクに記録された磁気信号を読み取ることによって、磁気ディスクに対する再生動作が行われる。
上記GMRヘッドは、磁気ディスク装置に限らず、近年においてはテープストリーマ、業務用カムコーダー、民生用カムコーダー等の磁気テープ装置についての利用も検討されている。
例えばヘリカルスキャン方式を採用する磁気テープ装置は、回転ドラムの外周面部にGMRヘッドが磁気テープの走行方向と略直交する方向に対してアジマス角に応じて斜めとなるように配置された構造を有している。
そして、磁気テープ装置では、磁気テープが回転ドラムに対して斜めに走行しながら、回転ドラムが回転駆動し、この回転ドラムに搭載されたGMRヘッドが磁気テープと摺動しながら磁気テープに記録された磁気信号を読み取ることによって磁気テープに対する再生動作が行われる。
磁気テープ装置においては、GMRヘッドと磁気テープとの間の距離、いわゆるスペーシングを小さくすることが好ましいため、この観点からは磁気テープの表面は、平滑化することが望ましい。
しかしながら、磁気テープの表面が鏡面化するに従って、磁気テープと回転ドラムの外周面部との接触面積が増加し、走行時において磁気テープと回転ドラムとの間に働く摩擦力が大きくなり、磁気テープと回転ドラムとの貼り付きが生じて、磁気テープのスムーズな走行が困難となる。
そこで、通常磁気テープの表面には、SiO2フィラーや有機フィラー等により微小突起を設けることにより、回転ドラムの外周面部との接触面積を小さくし、磁気テープと回転ドラムとの間に働く摩擦力を小さくする等の工夫がなされている。
また、磁気テープの表面には、傷や腐食等の発生を防止するためのDLC(Diamond Like Carbon)膜等の保護膜が形成されている。
ところで、従来のハードディスクドライブにおいては、GMRヘッドが磁気ディスクの信号記録面に対して非接触な状態で再生動作が行われる。また、スピンバルブ膜を構成する非磁性層には通常Cuが用いられており、従来において磁気ディスクと対向するGMRヘッドの媒体対向面には、このCuの腐食を防止するためのDLC(Diamond Like Carbon)膜等の保護膜が形成されている。
一方、磁気テープ媒体に関しては、高密度記録への要求の高まりとともに、Co−Ni、Co−Cr、Co等の金属磁性材料をメッキや真空薄膜形成手段(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等)によって非磁性支持体上に直接被着した、いわゆる金属磁性薄膜型の磁気記録媒体が提案され、注目を集めている。
このような金属磁性薄膜型の磁気記録媒体は、保磁力、残留磁化、角形比等に優れ、短波長での電磁変換特性に優れるばかりでなく、磁性層の膜厚をきわめて薄くできるため、記録減磁や再生時の厚み損失が小さく、また磁性層中に非磁性材である結合剤を混入する必要がないため、磁性材料の充填密度を高め、大きな磁化を得ることができる等、数々の利点を有している。
さらに、このような磁気記録媒体の電磁変換特性を向上させ、より大きな出力を得ることができるようにするため、磁気記録媒体の磁性層を形成するに際し、磁性層を斜方に蒸着する、いわゆる斜方蒸着が提案され、高画質VTR用、デジタルVTR用の磁気テープとして実用化されている。
フィジカル・レビュー・ビー(Physical Review B)、第43巻、第1号p1297〜p1300「軟磁性多層膜における巨大磁気抵抗効果」(Giant Magnetoresistance in Soft Ferromagnetic Multilayers) 特開平8−111010号公報
現在GMRヘッドの適用が検討されている磁気テープシステムにおいては、GMRヘッドが磁気テープに対して接触した状態で再生動作を行うことから、磁気テープと摺接するGMRヘッドの媒体摺動面に、上述した腐食等の発生を防止するための保護膜が形成されていると、再生動作時に磁気テープの表面に形成された微小突起や保護膜との接触によって保護膜が摩耗する。
さらに、GMRヘッドの媒体摺動面に形成された保護膜は、磁気テープとのスペーシングとなることから、GMRヘッドの短波長記録再生特性を劣化させる原因になる。
従って、磁気テープ装置おいて適用するGMRヘッドの媒体摺動面に保護膜を形成することは不適当であると考えられた。
このため、磁気テープ装置においては、GMRヘッドの媒体摺動面が直接大気と触れることになり、例えば高温高湿下や海水雰囲気中等の、厳しい使用条件下においては腐食等が発生しやすいという問題があった。
また、GMRヘッドの感度は、スピンバルブ膜に流れるセンス電流により決定され、このスピンバルブ膜を構成する各層の膜厚はnmオーダで形成されており、各層に僅かな腐食が発生しただけでも、各層の電気抵抗が変化してしまう。従って、GMRヘッドの媒体摺動面における腐食の発生は、このGMRヘッドのヘッド特性を大幅に劣化させてしまう。
上記特許文献1においては、ハードディスクに適用する磁気抵抗効果型磁気ヘッドについての耐腐食性を改善させる検討がなされているが、ハードディスク装置においては、磁気ヘッドが媒体上を直接摺動することがないため、磁気ヘッドの摩擦によるダメージ量は、テープシステムの方が大きいことが明らかである。
また、ハードディスク装置においては、媒体が外気にさらされることなく、パッケージングによって密閉状態となっていることから、微細な粉塵等による磁気ヘッドの破損の影響に関してもテープシステムの方が、より深刻であると考えられる。よって、磁気テープ装置に適用するGMRヘッドの耐腐食性に関する向上を図ることは、ハードディスクドライブ以上に重要であると言える。
上述した問題点に鑑みて、特に磁気記録媒体と摺接しながら磁気信号の検出を行う感磁素子としてGMR素子を利用する場合には、耐食性の改善を図り、高い磁気抵抗変化率を維持することが必要である。
また、従来公知のインダクティブ型の磁気ヘッドに対応して設計されていた磁気記録媒体を高感度型の磁気ヘッドにそのまま適用すると、媒体ノイズが大きくなり、残留磁化量が大きいため磁気ヘッドの飽和が生じてしまうという問題があった。
上述した問題点に鑑み、本発明においては、磁気抵抗効果型磁気ヘッドの感磁部の膜の物性の点から検討を行い、かつ適用する磁気テープの特性の限定を行い、高い耐食性を有する高感度の磁気抵抗効果型磁気ヘッド、及びこれを具備した高性能磁気記録再生装置を提供することとした。
本発明においては、磁気信号の検出を行う感磁素子として、反強磁性層と、当該反強磁性層との間で働く交換結合磁界により所定の方向に磁化が固定された磁化固定層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する磁化自由層と、前記磁化固定層と前記磁化自由層との間を磁気的に隔離する非磁性層とが積層された構成のスピンバルブ膜を備え、このスピンバルブ膜を構成する反強磁性層、磁化固定層、磁化自由層、及び非磁性層が、濃度0.1mol/LのNaCl溶液を用いた分極曲線(アノード曲線)において、腐食電位Ecorr+500mVの付加電位Eにおける腐食電流密度が0.1mA/cm2以下となり、テープ状の磁気記録媒体と摺接しながら磁気信号の検出を行う磁気抵抗効果型磁気ヘッドを提供する。
本発明においては、磁気信号の検出を行う感磁素子として、反強磁性層と、当該反強磁性層との間で働く交換結合磁界により所定の方向に磁化が固定された磁化固定層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する磁化自由層と、前記磁化固定層と前記磁化自由層との間を磁気的に隔離する非磁性層とが積層された構成のスピンバルブ膜を備える磁気抵抗効果型磁気ヘッドと、テープ状の非磁性支持体上に金属磁性薄膜が形成されてなる磁気記録媒体とを具備し、磁気抵抗効果型磁気ヘッドが、磁気記録媒体と摺接しながら磁気信号の検出を行い、磁気抵抗効果型磁気ヘッドを構成するスピンバルブ膜の反強磁性層、磁化固定層、磁化自由層、及び非磁性層は、濃度0.1mol/LのNaCl溶液を用いた分極曲線(アノード曲線)において、腐食電位Ecorr+500mVの付加電位Eにおける腐食電流密度が0.1mA/cm2以下となるものであり、磁気記録媒体の金属磁性薄膜の残留磁化量Mrと膜厚tとの積Mr・tが、4mA〜20mAであり、残留磁化量Mrが、160kA/m〜400kA/mであるものとした磁気記録再生装置を提供する。
本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッドによれば、スピンバルブ膜、及びスピンバルブ膜を構成する各層の高い耐食性が実現される。
本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッドによれば、磁気テープ装置に適用する場合において、磁気記録媒体と摺接される面に保護膜を形成しなくても、高い耐食性が実現され、高温高湿環境下、海水雰囲気下等の厳しい使用条件下においても、高い磁気抵抗変化率を長期に亘って維持することが可能となった。
また、磁気記録媒体の残留磁化量と磁性層の膜厚との積、ならびに残留磁化量を数値的に最適な範囲に特定したことにより、ノイズの低減化が図られ、磁気ヘッド飽和を効果的に回避でき、再生波形の歪みがなく、高SN化が実現できた。
以下、本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッド、及びこれを具備する磁気記録再生装置について図を参照して説明する。
図1に、磁気記録再生装置1の概略構成図を示す。この磁気記録再生装置1は、ヘリカルスキャン方式によって磁気テープ2に対して信号の記録及び/又は再生を行うものである。
磁気記録再生装置1は、磁気テープ2を供給する供給リール3と、供給リール3から供給された磁気テープを巻き取る巻取リール4と、供給リール3と巻取リール4との間で磁気テープ2の引き回しを行う複数のガイドローラ5a〜5fとを具備し、磁気テープ2が図中矢印A方向に走行するようになされている。
ガイドローラ5eとガイドローラ5fとの間には、テープ走行手段として、磁気テープ2が掛け合わされるピンチローラ5gと、このピンチローラ5gと共に磁気テープ2を挟み込むキャップスタン6と、このキャップスタン6を回転駆動するキャップスタンモータ6aとが設けられている。
磁気テープ2は、ピンチローラ5gとキャップスタン6との間に挟みこまれ、キャップスタンモータ6aによりキャップスタン6が、図1中矢印B方向に回転駆動することにより、矢印A方向に一定の速度及び張力で走行するようになされている。
磁気記録再生装置1においては、ガイドローラ5cと5dとの間に、磁気テープ2に対して信号の記録動作、再生動作を行うヘッドドラム7が設けられている。
ヘッドドラム7の概略斜視図を図2に示す。ヘッドドラム7は、駆動モータ8により図2中矢印A方向に回転駆動する回転ドラム9と、回転ドラム9の外周面部9aと連続した外周面部10aと、ベース(図示せず)に固定された固定ドラム10とを有している。
磁気テープ2は、図1のガイドローラによって導かれ、回転ドラム9及び固定ドラム10の外周面部9a、10aに、略180゜の角度範囲でヘリカル状に巻きつけられた状態で走行するようになされている。
また、固定ドラム10の外周面部10aには、磁気テープ2を案内するリードガイド10bが設けられており、このリードガイド10bに沿って磁気テープ2が回転ドラム9の回転方向に対して斜めに走行するようになっている。
回転ドラム9の外周面部9aには、磁気テープ2に対して信号の記録動作を行う一対の記録用磁気ヘッド11a、11bと、磁気テープ2に対して信号の再生動作を行う一対の再生用磁気ヘッド12a、12bとが取り付けられている。
これら記録用磁気ヘッド11a及び再生用磁気ヘッド12aと、記録用磁気ヘッド11b及び再生用磁気ヘッド12bとは、互いに180゜の位相差をもって回転ドラム9の外周面部9aに対向配置されている。
また、記録用磁気ヘッド11a、11b及び再生用磁気ヘッド12a、12bは、その記録ギャップ及び再生ギャップが、磁気テープ2の走行方向と略直交する方向に対してアジマス角に応じて斜めとなるように配置されている。
従って、ヘッドドラム7においては、回転ドラム9及び固定ドラム10の外周面部9a、10aに掛け合わされた磁気テープが図2中矢印A方向に走行しながら、駆動モータ8により回転ドラム9が図2中矢印C方向に回転駆動することによって、回転ドラム9に搭載された一対の記録用磁気ヘッド11a、11b及び一対の再生用磁気ヘッド12a、12bが磁気テープ2と摺動しながら、信号の記録動作又は再生動作を行うことになる。
具体的に、記録時には磁気テープ2に対して一方の記録用磁気ヘッド11aが、記録信号に応じた磁界を印加しながら所定のトラック幅で記録トラックを形成し、他方の記録用磁気ヘッド11bが、この記録トラックに隣接して記録信号に応じた磁界を印加しながら所定のトラック幅で記録トラックを形成する。
そして、これら記録用磁気ヘッド11a、11bが磁気テープ2に対して繰り返し記録トラックを形成することによって、磁気テープ2に対して連続的に信号が記録される。
一方、再生時には、磁気テープ2に対して、一方の再生用磁気ヘッド12aが、記録用磁気ヘッド11aにより記録された記録トラックから信号磁界を検出し、他方の再生用磁気ヘッド12bが、記録用磁気ヘッド11bにより記録された記録トラックから信号磁界を検出する。
再生用磁気ヘッド12a、12bが記録トラックから繰り返し信号磁界を検出することによって磁気テープ2に記録された信号が連続的に再生される。
次に、上述した再生用磁気ヘッド12a、12bに相当する本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッドについて、図3にその一部を切り欠いた状態の概略斜視図を示し、図4に磁気抵抗効果型磁気ヘッドの磁気テープと摺接する面の概略構成図を示し、これらを参照して詳細に説明する。
磁気抵抗効果型磁気ヘッド20は、磁気記録媒体からの磁気信号の検出を行う感磁素子として、スピンバルブ膜を利用した巨大磁気抵抗効果素子(以下、GMR素子という。)を備える、いわゆる巨大磁気抵抗効果型磁気ヘッド(以下、GMRヘッドという。)である。
GMRヘッド20は、電磁誘導を利用して記録再生を行うインダクティブ型磁気ヘッドや異方性磁気抵抗効果型磁気ヘッドよりも感度が高く、再生出力が大きく高密度記録に適している。従って上述した磁気記録再生装置1において、GMRヘッド20を一対の再生用磁気ヘッド12a、12bに用いることにより高密度記録化が図られる。
磁気抵抗効果型磁気ヘッド20は、図4に示すように、第1のコア部材21上に、各種薄膜形成技術により磁気シールド層24、GMR素子27、ギャップ層26、及びシールド層25が順次形成されてなり、保護膜22を介して第2のコア部材23が貼り付けられた構成を有している。
また、磁気抵抗効果型磁気ヘッド20は、磁気テープ2が摺接する媒体摺動面20aが、図3中矢印Aに示す磁気テープ2の走行方向に沿って略円弧状に湾曲した曲面となっている。
そして、この媒体摺動面20aから外部に臨む再生ギャップが磁気テープ2の走行方向と略直交する方向に対してアジマス角θに応じて斜めとなるように配置される。
なお、一対の再生用磁気ヘッド12a、12bは、互いのアジマス角θが逆位相となる以外は同一の構成を有している。従って、以下の説明においては、これら一対の再生用磁気ヘッド12a、12bをまとめてGMRヘッド20として説明する。
GMRヘッド20は、上下一対の磁気シールド層24、25の間にギャップ層26を介してGMR素子27が挟み込まれた構造を有している。
一対の磁気シールド層24、25は、GMR素子27を磁気的にシールドするのに充分な幅を有する軟磁性膜からなり、ギャップ層26を介してGMR素子27を挟み込むことにより、磁気テープ2からの信号磁界のうち、再生対象外の磁界がGMR素子27に引き込まれないように機能する。すなわち、GMRヘッド20においては、GMR素子27に対して再生対象外の信号磁界が一対の磁気シールド層24、25に導かれ、再生対象の信号磁界だけがGMR素子27へと導かれる。これにより、GMR素子27の周波数特性及び読み取り分解能の向上が図られている。
ギャップ層26は、GMR素子27と一対の磁気シールド層24、25との間を磁気的に隔離する非磁性非導電性膜からなり、一対の磁気シールド層24、25とGMR素子27との間隔がギャップ長となる。
GMR素子27は、スピンバルブ膜40に対して面内方向に流れるセンス電流のコンダクタンスが、一対の磁性層の磁化の相対角度に依存して変化する、いわゆる巨大磁気抵抗効果を利用したものである。
スピンバルブ膜40としては、例えば、図5に示すように、下地層41、反強磁性層42、磁化固定層43、非磁性層44、磁化自由層45、及び保護層46が、順次積層された構造を有するボトム型のスピンバルブ膜40aや、図6に示すように、下地層41、磁化自由層45、非磁性層44、磁化固定層43、反強磁性層42、及び保護層46が、順次積層された構造を有するトップ型のスピンバルブ膜40bや、図7に示すように、下地層41、反強磁性層42、磁化固定層43、非磁性層44、磁化自由層45、非磁性層44、磁化固定層43、反強磁性層42、及び保護層46が、順次積層された構造を有するデュアル型のスピンバルブ膜40c等が挙げられる。
スピンバルブ膜を構成する磁化固定層43は、反強磁性層42に隣接して配置されることによって、反強磁性層42との間で働く交換結合磁界により、所定の方向に磁化が固定された状態となっている。
一方、磁化自由層45は、非磁性層44を介して磁化固定層43と磁気的に隔離されることによって、微弱な外部磁界に対して磁化方向が容易に変化することが可能となっている。
従って、スピンバルブ膜40では、外部磁界が印加されると、外部磁界の大きさや向きに応じて磁化自由層45の磁化方向が変化する。そして、磁化自由層45の磁化方向が磁化固定層43の磁化方向に対して逆方向(反平行)となるとき、このスピンバルブ膜40に流れる電流の抵抗値が最大となる。
一方、磁化自由層45の磁化方向が磁化固定層43の磁化方向に対して同一方向(平行)となるときに、このスピンバルブ膜40に流れる電流の抵抗値が最小となる。
このように、スピンバルブ膜40は、印加される外部磁界に応じて電気抵抗が変化することから、この抵抗変化を読み取ることによって磁気テープ2からの磁気信号を検出する感磁素子として機能している。
なお、下地層41及び保護層46は、このスピンバルブ膜40の比抵抗の増加を抑制するためのものであり、例えばTa等からなる。
また、GMR素子27の動作の安定化を図るため、スピンバルブ膜40の長手方向の両端部には、図3及び図4に示すように、GMR素子27にバイアス磁界を印加するための一対の永久磁石膜28a、28bが設けられている。
そして、これら一対の永久磁石膜28a、28bに挟み込まれた部分の幅が、GMR素子27の再生トラック幅Twとなっている。
さらに、一対の永久磁石膜28a、28b上には、このGMR素子27の抵抗値を減少させるための一対の低抵抗化膜29a、29bが設けられている。
また、GMR素子27には、スピンバルブ膜にセンス電流を供給するための一対の導体部30a、30bが、その一端部側をそれぞれ一対の永久磁石膜28a、28b、及び低抵抗化膜29a、29bに接続するように設けられている。
また、導体部30a、30bの他端部側には、外部回路と接続される一対の外部接続用端子31a、31bが設けられている。
保護膜22は、GMRヘッド20が形成された第1のコア部材21の主面を外部接続用端子31a、31bが外部に臨む部分を除いて被覆すると共に、このGMRヘッド20が形成された第1のコア部材21と第2のコア部材23とを接合する。
なお、図3及び図4に示すGMRヘッド20は、特徴をわかりやすくするために、GMR素子27の周辺を拡大して図示されているが、実際には、第1のコア部材21及び第2のコア部材23に比較してGMR素子27の部分は非常に微細であり、媒体摺動面20aにおいて、GMRヘッド20が外部に臨むのは、ほとんど第1のコア部材21と第2のコア部材23とが突き合わされた上部端面だけである。
上述したように構成されるGMRヘッド20は、チップベース(図示せず)に貼り付けると共に、一対の外部接続用端子31a、31bがチップベースに設けられた接続端子と電気的に接続される。
そして、チップベースに設けられたGMRヘッド20は、一対の再生用磁気ヘッド12a、12bとして、図2に示す回転ドラム9に取り付けられる。
ところで、磁気記録再生装置1においては、GMRヘッド20が磁気テープ2に対して接触した状態で再生動作を行うことから、磁気テープ2と摺接するGMRヘッドの媒体摺動面20aに、DLC(Diamond Like Carbon)膜等の保護膜を形成することができない。このため、従来の磁気テープ装置では、GMRヘッドの媒体摺動面が直接大気に触れることになり、例えば高温高湿下や海水雰囲気中等の厳しい使用条件下においては、腐食等が発生しやすくなるといった問題があった。
かかる点に鑑みて本発明においては、媒体摺動面20aに保護膜を形成しない場合においても、優れた耐食性を示し、かつ高い磁気抵抗変化率を維持可能なスピンバルブ膜を適用することによって、磁気テープ2に対する適切な再生動作を行うことを可能としている。
先ず、スピンバルブ膜40を構成する層の材料について説明する。
反強磁性層42は、優れた耐食性を示す材料により形成するものとし、例えば、PtMn、NiO、IrMn、CrMnPt、α−Fe23、RhMn、NiMn、PdPtMn等を適用できる。
非磁性層44は、優れた耐食性を示し、かつ高導電性を示す、Au、又はCu合金により形成する。Cu合金としては、CuAu、CuPd、CuPt、CuNi、CuRu、CuRhが挙げられる。
磁化固定層43及び磁化自由層45は、優れた耐食性を示し、かつ良好な軟磁気特性を示すNiFe又はCoNiFeにより形成するものとし、これらのどちらか一方でもよく、組合せて構成してもよい。
本発明に係るGMRヘッド20のスピンバルブ膜40の構成膜に対し、耐食性の試験を行った。
具体的には、電気化学的手法を用いた腐食試験を行い、腐食試験前後における電気抵抗の変化について測定し、かつ腐食試験後に表面観察を行い、腐食の発生の有無について調べた。
なお、本腐食試験においては、Ag・AgCl電極を参照電極とし、濃度0.1mol/LのNaCl溶液中にサンプルを所要の時間液浸させたときに測定される分極曲線を参照することとした。このときの分極曲線の一例を図8に示す。
腐食試験サンプルとしては、スピンバルブ膜の非磁性層44に対応するCuAu、Au、Cu、磁化自由層43及び磁化固定層45に対応するCoNiFe、反強磁性層42に対応するPtMnの各金属膜、合金膜の原子組成を調整したものを適用した。
測定電極にはPtを用い、室温(約20℃)で行った。なお、測定時の電位上昇速度は、約10mV/secとした。上記サンプルの金属、合金膜の膜厚は約100nmとし、NaCl溶液のpHは7とした。
金属や合金膜の腐食は、溶液の種類や濃度によって変化するものであり、特にClとの反応の有無によって大きく変化する。本腐食試験においては、高温高湿下、海水雰囲気中等の厳しい環境下における腐食の発生に関して着目し、これを回避するべく、濃度0.1mol/LのNaCl溶液を用いた場合の分極曲線を参照することとした。
金属、合金の腐食のし易さは、図8の分極曲線の横軸に示す電流密度が指標となる。
すなわち分極曲線のアノード曲線の方での電流密度が高ければ、金属、合金の腐食反応が進行しており、その金属、合金は腐食し易い。
本発明においては、所定の電位を付加したときのサンプルの電流密度を腐食電流密度とし、これを規定することとした。
本発明における腐食電流密度は、下記のように定義する。
すなわち、図8に示す分極曲線の腐食電位(ここでの腐食電位は分極曲線における電流値がゼロの時の電位)をEcorrとすると、付加電位E=Ecorr+500mVのときサンプルに流れる電流密度を腐食電流密度と定義する。
なお、腐食電流密度の定義については下記文献に詳細に記載されている。
『 Applied Physics Letters Vol.81, No27, 5198-5200, 2002 Improved corrosion resistance of IrMn by Cr and Ru additions M.J.Carey et al』
さらに腐食試験後にサンプルの表面状態の観察を行った。
これは、上述した単層膜での試験、並びに局部電池効果を考慮して、腐食電位の高い金属、例えばAuからなる下地膜上に各層を積層した積層膜での試験を行った。局部電池効果によってAuと接する積層膜の方が単層膜よりも腐食が発生しやすい傾向にあるためである。
上記のようにして測定した腐食電流密度と、耐食性の評価結果を下記表1に示す。
なお、腐食試験前後の耐食性の評価は、サンプルの電気抵抗の変化、及び光学顕微鏡を用いた表面状態観察結果の双方を考慮して判断した。
下記表1において、○は電気抵抗に変化が見られず表面に変化が生じなかった場合を示し、△は電気抵抗に殆ど変化が見られず表面に僅かに変色が発生した場合を示し、×は電気抵抗が変化し表面に腐食が発生した場合を示す。
Figure 0004265415
上記表1に示すサンプル1〜12の各膜の耐食性評価結果は、分極曲線(アノード曲線)において腐食電流密度が0.1mA/cm2となるサンプル8、9を境にして、大きく変化した。
すなわち、腐食電流密度が0.1mA/cm2以下となるときには、スピンバルブ膜40を構成する非磁性層44、磁化固定層43、磁化自由層45、及び反強磁性層42のサンプル表面に腐食の発生が確認されず、腐食試験前後の抵抗変化も殆ど無く、優れた耐食性が実現されることが分かった。
一方、上記腐食電流密度が0.1mA/cm2よりも大きくなると、非磁性層44、磁化固定層43、磁化自由層45、反強磁性層42の各サンプル表面に腐食が発生し、腐食試験前後の抵抗変化が急激に増加し、実用上充分な耐食性が得られなくなることが分かった。
上述したことから明らかなように、スピンバルブ膜40を構成する非磁性層44、磁化固定層43、磁化自由層45、及び反強磁性層42における濃度0.1mol/LのNaCl溶液を用いたアノード曲線において、腐食電流密度が0.1mA/cm2以下となるように各膜組成を特定することにより、各膜において優れた耐食性が実現され、最終的に得られるGMRヘッドにおいて高い磁気抵抗変化率を長期に亘り維持することが可能となることが分かった。
なお、上記腐食電流密度に関する条件は、スピンバルブ膜40を構成する膜の少なくともいずれかが満たしていればスピンバルブ膜40の耐食性の向上効果が得られるが、構成膜の全てが上記条件を満たしているようにすることにより、極めて高い耐食性を有するスピンバルブ膜が得られることが確かめられた。
次に、スピンバルブ膜40を構成する各膜の元素組成について考察する。
非磁性層44の材料は、優れた耐食性を示し且つ高導電性を示す、Au、CuAuが好適であるが、Cu、Auの組成比を、それぞれ(100−a)、a(aは、原子%を表す。)としたとき、15≦a<100とすることが好適である。
これは、上記表1に示すように、Cuに対するAuの割合を増加すると、電流密度は低下し、腐食試験環境下において腐食反応の進行が遅くなることが確認され、Auの添加量を15原子%以上とすることによって、上述した腐食電流密度が、0.1mA/cm2以下となることによるものである。
また、非磁性層44には、Au、Al、Ta、In、B、Nb、Hf、Mo、W、Re、Pt、Pd、Rh、Ga、Zr、Ir、Ag、Ni、Ruから選ばれる少なくとも一種または二種以上の元素が任意に添加されていてもよい。
また、非磁性層としてCuAuの他、CuPd、CuPt、CuNi、CuRu、CuRhのいずれかを適用しても、上述した場合と同様に、優れた耐食性を示し、高温高湿下や海水雰囲気中等の厳しい使用条件下においても腐食の発生が回避され、適切な再生動作を行うことができることが確かめられた。
次に、磁化固定層43及び磁化自由層45について説明する。
磁化固定層43及び磁化自由層45は、上述したようにNiFe又はCoNiFeにより形成するものとし、これらのどちらか一方でもよく、組合せて構成してもよい。
また、磁化固定層43及び磁化自由層45は、これらの合金を積層した積層構造、もしくはこれらの合金と、例えばRu等からなる非磁性膜とを交互に積層した積層フェリ構造としてもよい。
磁化固定層43及び磁化自由層45に関しては、上記表1中のサンプル7、8、10を比較すると、濃度0.1mol/LのNaCl溶液を用いたアノード曲線において腐食電流密度が0.1mA/cm2以下となると優れた耐食性評価が得られることが分かった。
このことから、スピンバルブ膜を構成する磁化固定層43及び磁化自由層45に関しては、濃度0.1mol/LのNaCl溶液を用いたアノード曲線において腐食電流密度が0.1mA/cm2以下となるように構成元素の組成比を調整することが好ましい。
また、磁化自由層45は保磁力Hcが小さい方が好ましく、保磁力Hcは10Oe(796A/m)よりも小さい方が好ましい。Hc>10Oeとなる場合は保磁力の増加によって磁気抵抗効果が劣化するためである。
また、NiFe、CoNiFeは、共にfcc相(面心立方構造)である方が磁気抵抗効果は高くなる。一方、他の結晶構造(例えばbcc構造(体心立方構造)となる場合には、界面での格子の不整合が生じ、磁気抵抗効果が劣化する。また、fcc相とbcc相とが混在する場合も、界面での格子の不整合が生じ、磁気抵抗効果が劣化する。
なお、上述したスピンバルブ膜40においては、磁化固定層43及び磁化自由層45は、NiFe、CoNiFeに、Au、Ir、Pt、Al、Ru、Rh、Cr、Pdから選ばれる少なくとも一種または二種以上の元素が添加されていてもよい。
また、NiFe、又はCoNiFeである磁化固定層43及び磁化自由層45が複数形成されている場合には、それらはそれぞれ異なる組成を有していてもよく、複数の組合せによって構成されていてもよい。
上述したような条件を満足するスピンバルブ膜40として、具体的には、例えば下地層41となるTa、磁化自由層45となるNi80Fe20及びCo50Ni30Fe20、非磁性層となるCu70Au30、磁化固定層43となるCo50Ni30Fe20、反強磁性層42となるPtMn、保護層46となるTaが、順次積層された構成としたところ、優れた耐食性を実現できることが確かめられ、最終的に得られるGMRヘッドにおいて、磁気テープとの摺動面20aに保護膜を形成しない場合であっても、高温高湿下や海水雰囲気中等の厳しい使用条件下において、腐食の発生が効果的に回避でき、適切な再生動作を長期に亘って維持可能であることが確認できた。
なお本発明は、上述したような構成のGMRヘッドに限定されず、例えばGMRヘッド上に、電磁誘導を利用したインダクティブ型磁気ヘッドが積層されてなる複合型磁気ヘッドにも適用可能である。
また、本発明は、絶縁層を介して一対の磁性層を積層し、一方の磁性層から他方の磁性層に流れるトンネル電流のコンダクタンスが一対の磁性層の磁化の相対角度に依存して変化する磁気トンネル接合素子を備える磁気トンネル効果型磁気ヘッドにも適用可能である。
次に、本発明の磁気記録再生装置1を構成する磁気抵抗効果型磁気ヘッドを適用する磁気記録媒体(磁気テープ)について説明する。
磁気記録媒体(磁気テープ)は、図9に示すように、長尺状の非磁性支持体61上に金属磁性薄膜62及び保護層63が順次積層形成されて成り、金属磁性薄膜形成面側とは反対側の主面にバックコート層64が形成された構成を有している。
非磁性支持体61は、磁気テープ用のベースフィルムに従来使用されている材料をいずれも適用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル類、ポリプロピレン等のポリオレフイン類、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート等のセルロース誘導体、ポリアミド、アラミド樹脂、ポリカーボネート等のプラスチック等が挙げられる。
非磁性支持体61は、単層構造であっても多層構造であってもよい。また、非磁性支持体の表面には、コロナ放電処理等の表面処理が施されていてもよいし、易接着層等の有機物層が形成されていてもよい。
金属磁性薄膜62は、例えばCo系合金等の金属磁性材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、イオンプレーティング法等、従来公知の手法により形成することができ、特に、真空蒸着法により成膜することが好適である。
金属磁性薄膜62の膜厚は、ラインスピードを変化させることにより制御することが可能であり、残留磁化量は、蒸着中の酸素導入量を変化させることにより制御することが可能である。
また、非磁性支持体61と金属磁性薄膜62との間には、例えば、所定の材料により下地層や下塗層を介在させてもよい。下地層としては、例えばCr膜の他、CrTi、CrMo、CrV等が挙げられ、下塗層としては、例えばアクリルエステルを主成分とする水溶性ラテックスの塗布膜が挙げられる。
次に、磁気記録媒体2の金属磁性薄膜の特性について説明する。
金属磁性薄膜62は、残留磁化量Mrと膜厚tとの積Mr・tが、4mA〜20mAであるものとする。
磁気記録媒体2のMr・tが20mAよりも大きいと、GMRヘッドが飽和して、MR抵抗変化が線形な領域を外れ、再生波形が歪んでしまい、一方、Mr・tが4mAよりも小さいと、再生出力が小さくなり良好なC/N(信号/ノイズ比)を得ることが出来なくなってしまうためである。
従って、Mr・tを、4mA〜20mAの範囲に規定することで、再生波形の歪みがなく、再生出力が大きく良好なC/Nを有するものとなる。さらには、積Mr・tが、6mA〜20mAであることが望ましく、さらにはMr・tは、6mA〜17mAであることが望ましい。
Mr、tは、蒸着時の酸素導入量、及び非磁性支持体62の送りスピード等によって制御することができる。すなわち、蒸着時の酸素導入量を少なくすれば、Mrは大きくなり、酸素導入量を多くすれば、Mrは小さくなる。また、蒸着時の非磁性支持体62の送りスピードを遅くすればtは厚くなり、送りスピードを遅くすればtは薄くなる。また、磁性層62形成後の表面酸化処理によってもMrを調整することができる。
残留磁化量Mrは、160kA/m〜400kA/mとすることが好ましい。Mrが400kA/mよりも大きいと、磁性粒子の分離ができず、磁気的相互作用によりノイズが増大してしまい、一方、Mrが160kA/mよりも小さいと、Co粒子の酸化が進行し、充分な再生出力を得ることができないためである。
従って、Mrを160kA/m〜400kA/mの範囲に規定することで、ノイズを減少させ、充分な再生出力を付与することができる。そして、Mrは200kA/m〜360kA/mの範囲であることがより好ましい。
金属磁性薄膜62の膜厚tは、残留磁化量Mrと膜厚tの積Mr・tが、上記数値範囲になるように制御する。
金属磁性薄膜62の膜厚tは15nm〜100nmが好適であり、さらには20nm〜75nmであることが望ましく、更には20nm〜50nmとすることが好ましい。
本発明における磁気記録媒体2は、金属磁性薄膜形成面側の算術平均粗さRaが1nm〜5nmであり、十点平均粗さRzが20nm〜200nmであることが好ましい。
なお、上記各表面粗さについては、JISの粗さ形状パラメータ(JIS B0601-1994)で規格されているように、Raは、平均線から絶対値偏差の平均値であり、Rzは、基準長さ毎の山頂の高い方から5点、谷底の低い方から5点を選び、その平均高さであるものとする。
ここでの表面粗さRa及びRzは、AFMを用いて50μm×50μmの面積で測定した。
Raが1nm未満、あるいはRzが20nm未満であると、磁気記録媒体2はテープ走行時において回転ドラム9やガイドローラ5に貼り付いてしまい、磁気テープの走行性が悪化する。また、Raが5nmよりも大、あるいはRzが200nmよりも大であると、磁気抵抗効果型磁気ヘッド12が摺動により摩耗してしまい、また、磁気記録媒体2と磁気抵抗効果型磁気ヘッド12とのスペーシングが大きくなるため出力の劣化を招来する。
また、磁気記録媒体(磁気テープ)は、面内方向での保磁力Hcが、100kA/m〜160kA/mであることが好ましい。
保磁力Hcが100kA/mよりも小さいと、低ノイズ化、高SN比を実現することができないためである。一方、保磁力Hcが160kA/mを超えると、充分な記録が出来なくなり、再生出力が低下してしまうためである。
従って、面内方向での保磁力を100kA/m〜160kA/mの範囲に規定することにより、低ノイズ化及び高SN比が実現でき、高い再生出力が得られる。
なお、保護層63は、従来の磁気テープ用の保護膜として使用されるものであれば、如何なるものであってもよい。例えば、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、CrO2、Al23、BN、Co酸化物、MgO、SiO2、Si34、SiNx、SiC、SiNx−SiO2、ZrO2、TiO2、TiC等が挙げられる。保護層63は、これらの単層膜であってもよいし、多層膜あるいは複合膜であってもよい。
なお、磁気記録媒体は、図9に示す構成に限定されるものではなく、必要に応じて各種材料層や機能層を介在させたり、金属磁性薄膜62又は保護層63上に潤滑剤や防錆剤等よりなるトップコート層を形成したりしてもよい。
また、金属磁性薄膜を複数積層したものであってもよい。さらに、垂直異方性或いは面内ランダム配向性を有してもよい。
上述したように本発明によれば、磁気抵抗効果型磁気ヘッドを構成するスピンバルブ膜について、所定の電位を付加したときの電流密度を限定したことにより、優れた耐食性が実現された。
また、本発明装置に適用する磁気記録媒体について、金属磁性薄膜の残留磁化量と膜厚との積、ならびに残留磁化量を数値的に最適な範囲に特定したことにより、ノイズの低減化が図られ、ヘッド飽和を効果的に回避でき、再生波形の歪みがなく、高SN化が実現できた。
次に、本発明について、具体的な例を挙げて説明する。
なお、以下に示す例においては、具体的な材料名、数値等を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実験A)
〔実施例A1〕
サンプルとなる磁気テープを下記のようにして作製した。
非磁性支持体として、厚さ10μm幅150mmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、この表面に、アクリルエステルを主成分とする水溶性ラテックス塗布し、微細凹凸の密度が1000万個/mm2となるようにして下塗層を形成した。
下塗層上にCo−O系の金属磁性薄膜を、真空蒸着法により膜厚40nmとなるように形成した。
成膜条件を以下に示す。
(成膜条件)
蒸着時真空度:7×10-2Pa
インゴット:Co
入射角度:45°〜90°
導入ガス:酸素ガス
金属磁性薄膜形成後、スパッタ法あるいはCVD法によりカーボン膜よりなる保護層を膜厚約10nmに形成した。その後、金属磁性薄膜形成面とは反対側の面に、カーボンとウレタン樹脂からなるバックコート層を膜厚0.6μmに形成した。また、上記保護層上にパーフルオロポリエーテルよりなる潤滑剤を塗布した。
その後、8mm幅に裁断して、大気中、常温にて所定期間保持する工程を経て金属磁性薄膜表面の酸化を行い、磁気テープを作製した。
上述のようにして作製された磁気テープの残留磁化量Mrは、325kA/mであり、金属磁性薄膜の膜厚tは40nmであり、それらの積Mr・tは、13mAであった。
〔実施例A2〜A6〕、〔比較例A1、A2〕
金属磁性薄膜の蒸着時における酸素導入量、及び金属磁性薄膜形成後の、大気中での保持工程時間を調整することにより、残留磁化量Mrを制御し、膜厚tとの積Mr・tを、下記表2に示す値になるように制御した。
その他の製造条件は上記実施例A1と同様にしてサンプル磁気テープを作製した。
〔実施例A1〜A6〕及び〔比較例A1、A2〕の磁気テープに対して、それぞれ電磁変換特性の測定を行った。
具体的には、8mmVTRを改造したものを用い、各サンプル磁気テープに記録波長0.4μmにて情報信号を記録した後、シールド型GMRヘッド20により再生出力、ノイズレベル、及びC/Nの測定を行った。
〔実施例A1〜A6〕及び〔比較例A1、A2〕の磁気テープの作製条件、及び再生出力、ノイズレベル、C/Nの測定結果を、それぞれ下記表2に示す。
Figure 0004265415
上記表2に示すように、金属磁性薄膜の残留磁化量Mrと膜厚tとの積Mr・tを4mA〜20mAとした実施例A1〜A6においては、歪みがなく高い再生出力が得られ、良好なC/Nが得られた。
一方、残留磁化量Mrと金属磁性薄膜の膜厚tとの積Mr・tが、4mA未満である比較例A1においては、再生出力が小さくなり良好なC/Nが得られなかった。
また、Mr・tが20mAよりも大きい比較例A2においては、GMRヘッドが飽和してしまい、再生出力に歪みが生じた。
〔実施例A7〜A10〕、〔比較例A3、A4〕
次に、金属磁性薄膜の残留磁化量Mrを変化させ、磁気テープを作製し、これらの再生出力、ノイズレベル、及びC/Nを測定評価した。
なお、これらにおいては、金属磁性薄膜形成後の大気中での保持工程時間を調整することにより、残留磁化量Mrと金属磁性薄膜の膜厚tとの積Mr・tを13mAと一定になるようにして、残留磁化量Mrを下記表3に示すように制御した。その他の作製条件は、上記実施例A1と同様とした。
上述のようにして作製した〔実施例A7〜A10〕及び〔比較例A3、A4〕の磁気テープの残留磁化量Mr、再生出力、ノイズレベル、C/Nの測定結果を下記表3に示す。
Figure 0004265415
上記表3に示すように、金属磁性薄膜の残留磁化量Mrが160〜400kA/mである実施例A7〜A10においては、ノイズの低減化が図られ、高い再生出力が得られ、良好なC/Nが得られた。特にMrが200〜360kA/mとしたとき、良好な磁気特性が得られた。
一方、残留磁化量Mrが160kA/m未満である比較例A3においては、充分な再生出力が得られなかった。
また、残留磁化量Mrが400kA/mよりも大きい比較例A4においては、ノイズが増大し、良好なC/Nが得られなかった。
(実験B)
〔実施例B1〕
サンプルとなる磁気テープを下記のようにして作製した。
非磁性支持体として、厚さ10μm幅150mmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、この表面に、アクリルエステルを主成分とする水溶性ラテックス塗布し、微細凹凸の密度が1000万個/mm2となるようにして下塗層を形成した。
次に、下塗層上にCo−O系の金属磁性薄膜を、真空蒸着法により膜厚40nmとなるように形成した。
成膜条件を以下に示す。
(成膜条件)
蒸着時真空度:7×10-2Pa
インゴット:Co
入射角度:45°〜90°
導入ガス:酸素ガス
金属磁性薄膜形成後、スパッタ法あるいはCVD法によりカーボン膜よりなる保護層を膜厚約10nmに形成した。その後、金属磁性薄膜形成面とは反対側の面に、カーボンとウレタン樹脂からなるバックコート層を膜厚0.6μmに形成した。また、上記保護層上にパーフルオロポリエーテルよりなる潤滑剤を塗布した。
その後、8mm幅に裁断して、大気中、常温にて所定期間保持する工程を経て金属磁性薄膜表面の酸化を行い、磁気テープを作製した。
磁気テープの表面粗度Raは3.0nm、Rzは50nmであった。
なお、残留磁化量Mrは、325kA/mであり、金属磁性薄膜の膜厚tは40nmであり、それらの積Mr・tは、13mAであった。
〔実施例B2〜B6〕、〔比較例B1〜B4〕
磁気記録媒体2の作製時において非磁性支持体61の突起高や表面粗さを制御し、非磁性支持体61と金属磁性膜62の間に下地層や下塗層を設けることにより、下記表4に示す表面粗さRa、Rzを有する磁気テープを作製した。
〔実施例B1〜B6〕及び〔比較例B1〜B4〕の磁気テープに対して、それぞれ電磁変換特性の測定を行った。
具体的には、8mmVTRを改造したものを用い、各サンプル磁気テープを走行した後のシールド型GMRヘッド20の抵抗変化によりヘッド摩耗測定を行った。ヘッド磨耗の評価及び磁気テープの走行性の評価の結果を下記表4に示す。
なお、ヘッド磨耗については、◎を磨耗が殆ど確認されなかったもの、○をヘッド磨耗量が3%以下であったもの、×をヘッド磨耗が10%以上であったもの、−を磁気テープ走行不可により測定できなかったものとして評価した。
また、磁気テープの走行性については、実用上良好な走行性が得られたものを○、貼り付きが生じ、走行不良であったものを×として評価した。
Figure 0004265415
表4に示すように、金属磁性薄膜のRaが1〜5nm、Rzが20〜200nmであるとした実施例B1〜B6においては、磁気ヘッドの摩耗がなく、耐久性に優れており、さらに走行性についても良好な評価が得られた。
一方、金属磁性薄膜のRaが1nm未満とした比較例C1、及びRzが20nm未満とした比較例C2においては走行時に貼り付きが生じ、走行性が悪化した。
また、金属磁性薄膜のRaが5nmよりも大きい比較例B3、及びRzが200nmよりも大きい比較例B4においては、磁気抵抗効果型磁気ヘッドの摩耗が増加し、磁気抵抗効果型磁気ヘッドの抵抗が高くなり、出力が不安定となった。
磁気テープ用の記録再生装置の概略平面図を示す。 記録再生装置を構成するヘッドドラムの概略斜視図を示す。 本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッドの概略斜視図を示す。 GMRヘッドを媒体摺接面側から見た端面図を示す。 ボトム型のスピンバルブ膜の概略断面図を示す。 トップ型のスピンバルブ膜の概略断面図を示す。 デュアル型のスピンバルブ膜の概略断面図を示す。 0.1mol/LのNaCl溶液を用いた分極曲線(アノード曲線)を示す。 磁気記録媒体の概略断面図を示す。
符号の説明
1……磁気記録再生装置、2……磁気記録媒体、3……供給リール、4……巻取リール、5a〜5f……ガイドローラ、5g……ピンチローラ、6……キャップスタン、6a……キャップスタンモータ、7……ヘッドドラム、8……駆動モータ、9……回転ドラム、10……固定ドラム、11a,11b……記録用磁気ヘッド、12a,12b……再生用磁気ヘッド、20……GMRヘッド、21……第1のコア部材、22……保護膜、23……第2のコア部材、24,25……磁気シールド層、26……ギャップ層、27……GMR素子、28a,28b……永久磁石膜、29a,29b……低抵抗化膜、30a,30b……導体部、31a,31b……外部接続用端子、40,40a,40b,40c……スピンバルブ膜、41……下地層、42……反強磁性層、43……磁化固定層、44……非磁性層、45……磁化自由層、46……保護層、61……非磁性支持体、62……金属磁性薄膜、63……保護層、64……バックコート層


Claims (5)

  1. 磁気信号の検出を行う感磁素子として、反強磁性層と、当該反強磁性層との間で働く交換結合磁界により所定の方向に磁化が固定された磁化固定層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する磁化自由層と、前記磁化固定層と前記磁化自由層との間を磁気的に隔離する非磁性層とが積層された構成のスピンバルブ膜を備え、
    前記スピンバルブ膜を構成する前記反強磁性層、前記磁化固定層、前記磁化自由層、及び前記非磁性層は、濃度0.1mol/LのNaCl溶液を用いた分極曲線(アノード曲線)において、腐食電位Ecorr+500mVの付加電位Eにおける腐食電流密度が0.1mA/cm2以下となり、
    テープ状の磁気記録媒体と摺接しながら磁気信号の検出を行う磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
  2. 前記磁化自由層は、保磁力Hcが10Oe未満である請求項1に記載の磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
  3. ヘリカルスキャン磁気記録再生装置を構成する回転ドラムに搭載されてなり、
    当該回転ドラムの周面を摺動する前記テープ状の磁気記録媒体と摺接しながら磁気信号の検出を行う請求項に記載の磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
  4. 磁気信号の検出を行う感磁素子として、反強磁性層と、当該反強磁性層との間で働く交換結合磁界により所定の方向に磁化が固定された磁化固定層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する磁化自由層と、前記磁化固定層と前記磁化自由層との間を磁気的に隔離する非磁性層とが積層された構成のスピンバルブ膜を備える磁気抵抗効果型磁気ヘッドと、
    テープ状の非磁性支持体上に金属磁性薄膜が形成されてなる磁気記録媒体とを具備し、
    前記磁気抵抗効果型磁気ヘッドが、前記磁気記録媒体と摺接しながら磁気信号の検出を行い、
    前記スピンバルブ膜を構成する前記反強磁性層、前記磁化固定層、前記磁化自由層、及び前記非磁性層は、濃度0.1mol/LのNaCl溶液を用いた分極曲線(アノード曲線)において、腐食電位Ecorr+500mVの付加電位Eにおける腐食電流密度が0.1mA/cm2以下であり、
    前記金属磁性薄膜の残留磁化量Mrと膜厚tとの積Mr・tが、4mA〜20mAであり、
    残留磁化量Mrが、160kA/m〜400kA/mである磁気記録再生装置。
  5. 前記磁気抵抗効果型磁気ヘッドが搭載された回転ドラムを有し、
    当該回転ドラムの周面を前記テープ状の磁気記録媒体が走行するようになされ、
    ヘリカルスキャン方式により、前記磁気記録媒体と前記感磁素子とが摺接しながら磁気信号の検出を行う請求項4に記載の磁気記録再生装置。
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