ところで、シートベルト装置は、求められる性能が多く、近時、シートベルトのテンションの調整が可能なテンションレデューサ機構と、モータの回転によりシートベルトを巻き取り可能なモータ式巻き取り機構とを併用することが進められている。
ところが、テンションレデューサ機構はシートベルトのテンションを切換えるためのアクチュエータが必要であり、モータ式巻き取り機構は、それとは別にシートベルトを巻き取るためのモータといったアクチュエータが必要である。このため、単にテンションレデューサ機構とモータ式巻き取り機構とを組み合わせると、シートベルト装置は、双方のアクチュエータ、つまり2つのアクチュエータを設けることが余儀なくされ、部品点数が増加したり、制御するための配線が増加したりする。そのため、シートベルト装置の大形化、さらにはコスト高が強いられる問題がある。
そこで、本発明の目的は、一つのアクチュエータ(一つのモータ)で、シートベルトに作用するテンションの調整と、拘束力を増大させるシートベルトの巻き戻しが行えるシートベルト装置を提供することにある。
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、モータの回転力によりシートベルトを巻き取るモータ式ベルト巻き取り機構のモータを用いて、シートベルトに作用する付勢力を調整する付勢力調整機構の第1、2付勢部材を用いた切換機構の作動、すなわち第2付勢部材の付勢力を回転体に作用させる第1状態にて第1・2付勢部材の双方の付勢力を回転体へ作用させるか、第2付勢部材から回転体へ作用する付勢力を遮断させる第2状態にて第1付勢部材の付勢力だけを回転体へ作用させるかの切換えを行う構成を採用した。
請求項2に記載の発明は、さらに容易に第1付勢部材の付勢力だけが回転体へ作用する第2状態に切り換えられるよう、モータ式ベルト巻き取り機構は、一方向へモータが回転すると、回転体が巻き取り方向へ回転される構成とし、切換機構が、モータの一方向への回転に伴い、第2付勢部材から回転体へ作用する付勢力が遮断される第2状態に切り換わる構成とした。
請求項3に記載の発明は、さらに通常のベルト巻き取りモードが最適に形成されるよう、モータ式ベルト巻き取り機構には、モータが一方向へ回転するとモータの回転力が回転体へ伝達される状態となり、他方向へ回転するとモータの回転力が回転体へ伝達されない状態となる伝達機構を有した構成を採用して、通常のシートベルトを巻き取るときは、モータと回転体との間の伝達経路を遮断して、2つの付勢部材の付勢力だけによるシートベルトの巻き取りが行えるようにした。
請求項4に記載の発明は、さらに確実にモータの回転方向切換えだけで第2状態がもたらす低テンションモードが形成されるよう、モータは、第2状態へ切り換えるために一方向へ回転させた後、この一方向への回転によって伝達状態になった伝達機構の伝達状態を解除すべく他方向へ所定量回転されるようにしたうえで、切換機構が、該モータが他方向へ所定量回転されても、第2付勢部材から回転体へ作用する付勢力が遮断される第2状態が解除されない構成を採用した。
請求項5に記載の発明は、さらに緊急時などで速やかに乗員の拘束が行えるよう、切換機構を用いて、モータが一方向へ回転するときは、モータの回転力がもたらす巻き取り力と各第1・2付勢部材の付勢力がもたらす巻き取り力とが、シートベルトに作用するようにして、速やかにシートベルトが巻き戻せるようにした。
請求項6に記載の発明は、さらにシートベルトが装着したとき、確実にシートベルトが低テンション状態となるよう、シートベルトの装着状態を検出する装着状態検出手段を設け、シートベルトが装着状態であることを示す信号が検出されると、切換機構がモータの回転力により第2状態へ切り換えられる構成とした。
請求項7に記載の発明は、さらに危険を感知してシートベルトを巻き取らせるモータ制御系統をそのまま用いて第2状態の切換えが行えるよう、車両の衝突を検知又は予測する衝突検知手段を設けるとともに、衝突検知手段の出力に応じてモータによるシートベルトの巻き取りを行わせるモータ制御手段を設けたうえで、該モータ制御手段を用いて、装着状態検出手段により出力されるシートベルトが装着状態にあることを示す信号にしたがいモータを一方向へ回転させるようにしたことにある。
請求項8に記載の発明は、さらに、前記シートベルトの装着状態を検出する装着状態検出手段を有し、前記切換機構は、前記装着状態検出手段により前記シートベルトが装着状態であることを示す信号が検出されると、前記モータの回転力により前記第2状態へと切り換えられるように構成を採用した。
請求項9に記載の発明は、さらにシートベルト装置全体のコンパクト化が図れるよう、回転体には同軸上で一体に回転する回転軸を有した構成を用い、この回転軸の軸上に付勢力調整機構を配設し、さらに回転軸の軸上に、モータの回転力を回転軸へ伝達する伝達ギヤを有するモータ式ベルト巻き取り機構を配設し、伝達ギヤと付勢力調整機構とが回転軸上で隣接して配置される構成を採用した。
請求項1に記載の発明によれば、モータ式ベルト巻き取り機構のモータを活用して、付勢力調整機構を第1・2付勢部材の付勢力がシートベルトに作用する状態、第1付勢部材の付勢力だけがシートベルトに作用する状態に切り換えることができ、別途、切換機構を作動させるための専用のアクチュエータを用いることなく、一つのアクチュエータで、シートベルトに作用するテンションの調整と、拘束力を増大させるシートベルトの巻き戻しとの双方ができる。
それ故、双方の機能を組み合わせたシートベルト装置は、部品点数の削減や制御のための配線が軽減でき、装置のコンパクト化やコストの低減化を図ることができる。
請求項2に記載の発明によれば、さらにモータ式ベルト巻き取り機構のモータが一方向へ回転することを利用して、容易に第1付勢部材の付勢力だけシートベルトに作用する第2状態を形成することができる。
請求項3に記載の発明によれば、さらにモータと回転体との間をむすぶ伝達機構の併用により、通常のベルト巻き取り時には、モータと回転体との間の伝達経路が切り離されるので、2つの付勢部材の付勢力を用いて、最適にシートベルトを巻き戻すことができる。
請求項4に記載の発明によれば、さらにモータの回転具合により、モータと回転体との間を切り離した状態しつつ、片方の付勢部材の付勢力だけが回転体に伝わる状態が形成されるから、簡単なモータの作動制御だけで、最適な低テンション状態を形成することができる。
請求項5に記載の発明によれば、さらにモータが一方向へ回転することを利用して、モータの回転力がもたらす巻き取り力と、各第1・2付勢部材の付勢力がもたらす巻き取り力との双方で、引き出されたシートベルトが巻き戻すことができ、緊急時などで速やかに乗員を拘束することができる。
請求項6及び請求項8に記載の発明によれば、さらにシートベルトの装着時、確実に低テンション状態にできる。
請求項7に記載の発明によれば、さらに危険を感知してシートベルトを巻き取らせるモータ制御系統をそのまま用いて、シートベルトに第1付勢部材の付勢力だけ作用させる第2状態に切換えることができ、シートベルト装着を検出する装着状態検出手段からモータを制御させる専用の配線を必要とせずに、第2状態の切換えができる。
請求項9に記載の発明によれば、回転体の回転軸上に、付勢力調整機構、伝達ギヤ、モータ式ベルト巻き取り機構が隣接して配置されることによって、シートベルト装置の全体をコンパクトにすることができる。
[一実施形態]
以下、本発明を図1〜図10に示す一実施形態にもとづいて説明する。
図1は、本発明を適用したシートベルト装置の概略構成を示していて、同図中1は例えば自動車のシート(例えばシートクッション1aとシートバック1bとよりなる)、2はシートクッション1aを挟んだ幅方向一方の脇に設置されたバックル、3は同バックル2に内蔵のベルト装着スイッチ(本願の装着状態検出手段に相当)、4はシートクッション1aを挟んだ幅方向他方の脇に配設されたリトラクタである。
リトラクタ4には、図2に示されるようにテンションレデューサ機構15(本願の付勢力調整機構)とモータ式ベルト巻き取り機構30とを組み合わせた構造が用いられている。
図2を参照してリトラクタ4の構成を説明すると、4aは例えば上下方向に延びる平板状のフレーム部材、5は同フレーム部材4aの片側、例えば右側部に、横向きの姿勢で回転自在に支持された回転体であるところのスプール、6は該スプール5に巻回され導出端が肩アンカー7を通して引き出されたウェビング(シートベルト)、8は該ウェビング6の延出端を例えばリトラクタ4の近くで固定するアンカー部材、9は、引き出されたウェビング部分に摺動自在に挿通されたタングである。タング9は、バックル2と接続可能な部材で形成されていて、乗員(図示しない)がシート1に着座した後、図1に示されるように該タング9をバックル2に接続さえすれば、スプール5から引き出されたウェビング6が、乗員上体を前面から抑えるように装着、具体的には乗員の肩部、胸部および腹部の前面を通るように装着されるようにしている。なお、ベルト装着スイッチ3は、タング9がバックル2に接続されたか否かによりオンオフするようになっていて、該ベルト装着スイッチ3のオンオフ信号により、ウェビング6を装着したか否か、すなわちウェビング6の装着状態が検出されるようにしてある。
スプール5のフレーム部材4aと向き合う端部からは、スプール5と同軸に回転軸5aが突き出ている。この回転軸5aがフレーム部材4aを貫通して、左側方へ突き出ている。なお、回転軸5aの根元側はフレーム部材4aに回転自在に支持させてある。この突き出た回転軸5aのうち、例えばフレーム部材4aと隣接した位置には、上記テンションレデューサ機構15が組付けてある。
テンションレデューサ機構15を説明すると、図2中16は、例えば回転軸5aの根元側を覆うようにフレーム部材4aの左側部に設けたカップ状のカバーである。このカバー16の内部は、例えば2つの壁部17により、回転軸5aの軸心方向沿いに3つの偏平な室18a〜18cに区画されている。このうちの例えば最前部の室18aと中間の室18bとには、それぞれ付勢部材、例えばスパイラルスプリング部材19,20が収められている。スプリング部材19,20には、いずれも帯板状のばね部材を同心円状に渦巻状に巻いて形成した部材が用いてある。スプリング部材19,20は、例えば室18bに収めたスパイラルスプリング部材20の付勢力よりも、室18aに収めたスパイラルスプリング部材19の方の付勢力を小さくした部材が用いてある。このうちのスパイラルスプリング部材19が本願の第1付勢部材に相当し、スパイラルスプリング部材20が第2付勢部材に相当する。なお、スパイラルスプリング部材19の付勢力をスパイラルスプリング部材20の付勢力と同等又はより大きくするように構成しても良い。残る最後部の室18cには、リング状の係合部材、例えばラチェット21が収められている。ラチェット21は、回転軸5aと一体に回転するよう、回転軸5aに支持されている。この支持構造としては、例えば回転軸5aのうちラチェット21が配置される軸部分を角形の断面にし、ラチェット21の中心に角形の支持孔を形成し、この支持孔を回転軸5の角形部分に挿通させる構造が用いられている。なお、ラチェット21の外周部には、図6に示されるようにウェビング6(スプール5)の引出し方向に規制が加わる向きで、多数のラチェット歯21aが配設してある。
両スパイラルスプリング部材19,20は、スプール5からウェビング6が引き出される方向に回転軸5aが回転すると、縮む方向に弾性変位するように支持させてある。具体的には、スパイラルスプリング部材19の支持としては、図4に示されるように該スパイラルスプリング部材19をウェビング6の引出し方向に対して巻回する向きで室18aに収め、その内周側の端部を回転軸5aに係止、例えば回転軸5aに形成してあるスリット孔22に挿通させて係止し、外周側の端部をカバー16の内面に係止、例えばカバー16の内面に形成してあるピン16aに係止させるという構造が用いてある。またスパイラルスプリング部材20の支持には、図3に示されるように該スパイラルスプリング部材20をウェビング6の引出し方向に対して巻回する向きで室18bに収め、その内周側の端部をラチェット21に係止、例えばラチェット21の前面から突き出るように形成されたボス部21bに係止させ、外周側の端部をカバー16の内面に係止、例えばカバー16の内面に形成してあるピン16bに係止させるという構造が用いてある。この構造により、いずれもスパイラルスプリング部材19,20は、ウェビング6の巻き取り方向に対して付勢力が発生するようにしている。
一方、図2および図6に示されるようにラチェット21の周辺、例えばラチェッチ下側のラチェット歯21aと近い地点には、ラチェット外歯21aと係脱可能な爪体、例えば下端部に揺動支点をもつ揺動式の爪体23が設けられている。この爪体23とラチェット21との組み合わせにより、スパイラルスプリング部材20の付勢力がスプール5へ作用させる状態(第1状態)、あるいは同付勢力がスプール5へ付勢力が作用するのを遮断させる状態(第2状態)に切換え可能な切換機構24を構成している。すなわち、切換機構24は、スプール5とスパイラルスプリング部材20間の付勢力を伝達する経路上に爪体23およびラチェット21が配設されるから、爪体23がラチェット21から外れると(離脱)、スパイラルスプリング部材20の付勢力が回転軸5aを介してスプール5に作用する状態に切り換わり、爪体23がラチェット歯21aと係合すると、ラチェット21の図6における時計周り方向の回転が規制されることになり、スパイラルスプリング部材20の付勢力がスプール5に作用するのが遮断される状態に切り換わる。これにより、スパイラルスプリング部材19の付勢力とスパイラルスプリング部材20の付勢力と双方がスプール5に作用する状態、スパイラルスプリング部材19の付勢力だけがスプール5に作用する状態に切り換わるようにしている。つまり、ウェビング6に作用するテンション(付勢力)が調整される構造にしてある(テンションレデューサ機能)。
一方、回転軸5a上には、図2に示されるようにテンションレデューサ機構15と隣接して、モータ式ベルト巻き取り機構30が組付けてある。
モータ式ベルト巻き取り機構30を説明すると、図2中31は、スプール5と隣接した位置、例えばスプール5の下側に該スプール5と並行に配設されたモータ、例えば一方向、他方の双方で回転可能な電動モータ(以下、単にモータという)である。このモータ31の片側の端部がフレーム部材4aの下段部分に固定されている。そして、この横向きのモータ31の出力軸31aが、フレーム部材4aを回転自在に貫通して、フレーム部材4aの左側方へ突き出ている。
同図中32は、フレーム部材4aの左側部の大部分、例えばカバー16の前面からフレーム部材4aの左側面の下段までを覆うように設けたカバーである。このカバー32により、カバー32内の上段部分となるカバー16の前面との間に偏平状の機械室33を形成し、カバー32内の下段部分となるフレーム部材4aとの間に、機械室33と連続する伝達室34を形成している。そして、これら機械室33、伝達室34に渡り、図5に示されるようにモータ31の回転力を回転軸5aを介してスプール5へ伝達する伝達機構35が収められている。伝達機構35は、主となる例えば遊星歯車機構で構成される回転力入切り機構36と同機構36を入切りする入切り部36aをもつ。回転力入切り機構36が、入切り部36aと共に偏平な機械室33に収めてある。このうちの回転力入切り機構36を説明すると、図2および図5中40は、カバー16の前面と隣接した回転軸5の外周面に回転自在に挿通された伝達ギヤである。伝達ギヤ40は、例えばカバー16より若干小さな外径を有する大径ギヤ部41と、同ギヤ部材41の軸心部から前方(左方)へ突き出るように形成された小径ギヤ部42とを一体に形成した2段ギヤが用いられている。この小径ギヤ部42の外側に、順に、複数、例えば3個のプラネタリヤギヤ43、リングギヤ44が噛合わせてある。このうち中間のプラネタリギヤ43は、図2に示されるように回転軸5aに固定してある例えば盤状のキャリア45に回転自在に支持されていて、小径ギヤ部42をサンギヤとした遊星歯車機構を構成している。また伝達ギヤ40の大径ギヤ部41は、図5にも示されるように伝達室34に収めた2つの中継ギヤ、例えば2段式構造(大歯車47と小歯車48を一体にした構造)のギヤ49,50を介して、モータ31の出力軸31aに装着してあるピニオンギヤ51に噛合わせてある。このギヤ49,50を用いた中継機構により、モータ31から出力された回転力が大径ギヤ部4(伝達ギヤ40)から遊星歯車機構へ入力される構造にしている。
一方、入切り部36aは、図5に示されるようにテンションレデューサ機構15のラチェット21と同様、リングギヤ44の外周部にウェビング6(スプール5)の引出し方向に規制が加わる向きで、多数のラチェット歯状の外歯55を設け、リングギヤ44の周辺、例えばリングギヤ下側と近い位置に、外歯55と係脱可能な爪体、例えば下端部に揺動支点をもつ揺動式の爪体56を設けた構造が用いてある。そして、レバー機構57を用い、モータ31の回転方向をトリガーとして、外歯55と爪体56との係脱が行えるようにしてある。レバー機構57について詳述すると、図2および図5に示されるように中継ギヤのうち、例えばモータ31に近い側のギヤ50の前面中央からは、ギヤ50と同軸上に短柱状の突起部58が突き出ている。この突起部58には、例えば弾性を有する杆状部材から形成されたレバー部材59の下端部が摺動可能に巻き付いている。59aは、その突起部58の外周面に巻き付くカール部分を示している。レバー部材59の上端部は、回転軸5aの軸心方向へ曲成して、爪体56が有る方向へ延びている。つまり、レバー部材59の上端部は、ギヤ50が回転する方向に沿って振れるようにしている。このレバー部材59の上端が、爪体56の中間部に形成してある開口部56aに遊挿されている。これにより、モータ31が図7中の一重矢印αのようにベルト巻き取り方向、例えば時計方向(一方向)へ回転すると、レバー部材59の上端(先端)が、突起部58(ギヤ50)の回転を受けてリングギヤ44へ接近する方向へ振れて、爪体56をリングギヤ44の外歯55と係合させるようにしている。この係合がもたらすリングギヤ44の拘束により、伝達ギヤ40からキャリア45までが連結、すなわちモータ31の回転力がスプール5へ伝達される状態が形成されるようにしてある。この伝達状態の継続により、モータ31の回転力でウェビング6を巻き取らせるようにしている。またモータ31が図9中の一重矢印βのようにベルト引出し方向、例えば反時計方向(他方向)へ回転すると、レバー部材59が、突起部58(ギヤ50)の回転を受けてリングギヤ44から離れる方向へ振れ、爪体56がリングギヤ44の外歯55から外れようにしている。これにより、リングギヤ44はフリーとなり、モータ31の回転力がスプール5へ伝達されない状態が形成される。
また機械室33および伝達室34には、図2および図6に示されるようにモータ式ベルト巻き取り機構30のモータ31を用いて、テンションレデューサ機構15の切換機構24を切換動作させる動作機構、例えばレバー機構65が設けられている。このレバー機構65を詳述すると、66は例えば弾性を有する杆状部材から形成されたレバー部材である。このレバー部材66の下端部は、突起部58の根元側に、上記レバー機構57のレバー部材59と並んで、同様に摺動可能に巻き付けられている。66aは、その突起部58の外周面に巻き付くカール部分を示している。レバー部材66の上端部は、例えばレバー部材59とほぼ対称形となる形状を描きながら回転軸5aの軸心方向へ曲成して、爪体23が有る方向へ延びている。つまり、レバー部材66の上端部は、ギヤ50が回転する方向に沿って振れるようにしてある。そして、このレバー部材66の上端が、爪体23の中間部に形成してある開口部23aに遊挿されていて、モータ31が図8中の一重矢印αのようにベルト巻き取り方向、例えば時計方向(一方向)へ回転すると、レバー部材66の上端(先端)が、突起部58(ギヤ50)の回転を受けてラチェット21へ接近する方向へ振れて、爪体23をラチェット歯21aと係合させ、モータ31が反対に反時計方向(他方向)へ回転すると、レバー部材66が、突起部58(ギヤ50)の回転を受けてラチェット21から離れる方向へ振れ、爪体23がラチェット歯21aから外れようにしている。
これにより、モータ31が時計方向へ回転すると、各爪体23,56が、リングギヤ44(ベルト巻き取り機構30)、ラチェット21(テンションレデューサ機構15)と係合する。また回転力入切り機構36は、その後、モータ31を反時計方向へ回転させることにより、伝達機構35の伝達状態が解除される構造にしてある。そして、ラチェット21と係合する爪体23が、リングギヤ44と係合する爪体56に比べて、相手部材から加わる力が大きいというテンションレデューサ機構15自身の特性から、モータ31を反時計方向へ所定量回転させると、回転力入切り機構36の爪部56だけがリングギヤ44から離脱(伝達状態の解除)されて、切換機構24の爪体23とラチェット21の係合は維持されるようにしてある。つまり、スパイラルスプリング部材20が回転軸5aに対してウェビングを巻き取る方向に付勢するように設けられ、ラチェット21にもベルト巻き取り方向、即ち図8中の時計方向への付勢力が作用しているため、切換機構24の爪体23がラチェット21のラチェット歯21aから外れにくく、それに対して爪体56が外れやすい機構となる係脱機構をそのものを用いて、モータ31が反時計方向へ所定量回転(爪体56を離脱させるのに必要なトルクの発生)したときは、爪体56がリングギヤ44から離脱するだけで、爪部23はラチェット21と係合したままの状態が維持される。それ以上、モータ31を反時計方向へ所定量回転(爪体23を離脱させるのに必要なトルクの発生)させると、爪部23がスパイラルスプリング部材20のラチェット21に対する付勢力に抗してラチェット歯21aから離脱して、通常のウェビング6の巻き戻しモード、すなわちスパイラルスプリング部材19,20の双方の付勢力で巻き取る、通常のウェビング6の巻き取りが行えるようにしている。
こうしたモータ31が、図1に示されるようにベルト装着スイッチ3と共に、モータ制御手段、例えばECU70(例えばマイクロコンピュータで構成されるもの)に接続されている。このECU70には、例えば衝突を検出するセンサとして例えばクラッシュセンサ71(衝突検知手段に相当)、衝突を予測する状況を検出するセンサとして例えばブレーキセンサ72(衝突検知手段に相当)が接続されている。またECU70には、ECU70からモータ31へ向う一制御系統だけを用いて、テンションレデューサ機構15、モータ式ベルト巻き取り機構30を制御する機能が設定されている。
例えばECU70には、
a.ベルト装着スイッチ3がオフ(またはオン)のときは(非ベルト装着時)、爪体23,56の双方が相手部材から離脱させるのに必要な所定量だけ、モータ31を反時計方向(他方向)へ回転させ、その状態で待機する機能(図5、図6)。
b.ベルト装着スイッチ3がオン(またはオフ)になると(ベルト装着時)、
・各爪体23,56を相手部材に係合させるのに必要な所定量だけ、モータ31を時計方向(一方向)へ回転させる機能(図7、図8)。
・続いてその後、爪体56だけ係合を解くのに必要な所定量だけ、モータ31を反時計方向(他方向)へ回転させ、その状態で待機する機能(図9、図10)。
c.ベルト装着スイッチ3がオン(またはオフ)しているとき(ベルト装着時)、ブレーキセンサ72やクラッシュセンサ71の信号により、衝突が予測される状況や、衝突が生じた状況と判定されると、危険な状況が発生する都度、モータ31の時計方向への駆動により、ウェビング6を巻き取り、シート1に着座している乗員の拘束を強化する機能。
など設定され、同機能にしたがってテンションレデューサ機構15、モータ式ベルト巻き取り機構30を動作させるようにしてある。
これにより、シートベルト装置には、常時はテンションレデューサ機構15にまかせてウェビング6にテンションを与え、乗員の強い拘束が必要とされるときは、モータ31の回転力でウェビング6を巻き取る機能を与えている。
同テンションレデューサ機構15、モータ式ベルト巻き取り機構30について説明すると、今、例えば自動車に乗員が乗り込み、シート1に着座しているとする。このときウェビング16は、未装着なので、図5および図6に示されるように爪体23,56は、相手部材から離脱した待機位置で待機する。このときの状態は、テンションレデューサ機構15の切換機構24が、2つのスパイラルスプリング部材19,20の付勢力がスプール5に対して作用する状態(第1状態を含む)となり、伝達機構35が、モータ31からスプール5へ至る伝達路が断たれている状態(遮断)となっている。
この後、シート1に着座した乗員がウェビング6を装着するべく、例えばタング9を把持して、リトラクタ4からウェビング6を引き出す。ここで、スプール5は、巻き出し方向へ自由に回転できる状態にあるから、ベルト引き出しに伴い、スプール5は回転する。そして、2つのスパイラルスプリング部材19,20が、縮む方向、すなわち図3および図4中の矢印b方向に巻回されながら弾性変位していく。これにより、2つのスパイラルスプリング部材19,20にはウェビング6を巻き戻すための弾性力が蓄えられる。
続いて、乗員がタング9をバックル2に接続したとする。すると、ベルト装着スイッチ3がオン(またはオフ)となり、ECU70は、同信号を受けて、ウェビング6を装着したことを認識する。
すると、ECU70は、まず、図7および図8中の一重矢印αに示されるようにモータ31を時計方向(一方向)に所定量(ここでは爪体23,56が相手部材と係合するに必要な量)、回転させる。このとき、爪体56は未だリングギヤ44に係合しておらず、モータ31とスプール5との間の動力伝達は断たれているから、伝達機構35は空回りする。と共に、突起部58に巻き付いているレバー部材59,66の上端部が、途中の空回りしているギヤ50の回転を受けて、図7および図8中の一重矢印のようにラチェット21、リングギヤ44へ接近する方向へ変位して、爪体23,56を相手部材へ係合させる。つまり、爪体23は、ラチェット21の外周部に有るラチェット歯21aと係合し(図8)、爪体56は、リングギヤ44の外周部に有る外歯55と係合する(図7)。
すると、ラチェット21を介して回転軸5a及びスプール5へ作用していたスパイラルスプリング部材20の付勢力は、ラチェット21が爪体23との係合によりベルト巻き取り方向(図8中の時計方向)への回転を規制することにより、回転軸5a及びスプール5へ作用しなくなる。これにより、スパイラルスプリング部材20は、スプール5へ付勢力が作用していた状態(第1状態)から、スプール5へ作用する付勢力が遮断される状態(第2状態)に切り換わる。つまり、ウェビング6に作用していた引き戻し力(付勢力)は、当初の2つのスパイラルスプリング部材19,20が作用する状態から、1つスパイラルスプリング部材19だけが作用する状態に切り換わる。
そして、リングギヤ44と爪体56とが係合している最中、大径ギヤ部41(伝達ギヤ40)へ入力されるモータ31の回転力により、遊星歯車機構は、図7中の二重矢印に示されるようにサンギヤとなる小径ギヤ部42が回転、プラネタリギヤ43が公転(拘束状態のリングギヤ44内を小径ギヤ部42回りに回転)、キャリア45が回転して、スプール5を巻き戻し方向へ回転させる。このときのスプール5の巻き戻し方向の回転変位により、切換後の小さなテンション(1つのスパイラルスプリング部材19の付勢力)では解消しきれないウェビング6の弛みが解消される。
予め設定されたモータ31の時計方向(一方向)の回転を終えると、今度はECU70は、図9および図10中の一重矢印βに示されるようにモータ31を反時計方向(他方)へ、予め設定された回転量だけ回転させる。具体的には、リングギヤ44から爪体56へ作用するスプリング力は、ラチェット21から爪体23へ作用するスプリング力より小さいため(スプリング部材19<スプリング部材20)に、その関係を用いて、モータ31は、爪体56だけを離脱させるトルクがレバー部材59に与えられるように所定量回転される。すると、図9および図10に示されるように爪体56だけがリングギヤ44から離脱し(爪部23はラチェット21と係合したまま)、リングギヤ44がフリーな状態となる。つまり、モータ31とスプール5との間の伝達路が切り離される。なお、スパイラルスプリング部材19,20の付勢力によらず、レバー機構65、57の構成により、モータ31とスプール5との間の伝達路が切り離されるようにしてもよい。
これにより、ウェビング6は、モータ31や伝達機構35の影響を受けずに、スパイラルスプリング部材19の付勢力だけがウェビング6に作用するという、最適なシートベルト状態、すなわち低テンションに調整できる。
またこうした低テンションに調整されたウェビング6の状態で自動車を走行させているとき、例えば衝突や危険を避けるために急ブレーキ操作を行うと、ECU70は、ブレーキセンサ72からの信号により、危険な状態になったと判定して、モータ31を時計方向に方向に回転させる。すると、図7に示されるようにモータ31は、爪体56をリングギヤ44の外歯55に係合させるという仕事を経て、同図中の二重矢印に示されるように小径ギヤ部42の回転、プラネタリギヤ43の公転、キャリア45の回転を通じて、スプール5を、スパイラルスプリング部材19の付勢力と一緒に、巻き戻し方向へ回転させる。これにより、ウェビング6は、強制的に巻き戻され、安全性を確保するべく乗員の上体が強く拘束される。このウェビング6による乗員の拘束は、クラッシュセンサ71で衝突を感知したときにも同様に行われる。
なお、シートベルト装着後、低テンションに調整されたウェビング6の装着を解除するために、タング9をバックル2から取り外すと、ECU70は、タンク9を外したことを示すベルト装着スイッチ3のオフ(またはオン)信号により、モータ31を反時計方向へ所定量、回転させて、残る係合状態の爪体23(図10に図示)をラチェット21から離脱させる。すると、図5および図6に示されるように爪体23は、爪体56と共に待機位置で待機され、モータ31とスプール5との間の伝達経路が遮断され、通常の巻き戻しモードとなるスプール5に2つのスパイラルスプリング部材19,20に蓄えられた付勢力が加わる状態(第1状態)に切り換わる。これにより、2つのスプリング部材19,20の付勢力を最大限に活用して、外部(モータ31など)からの影響を一切受けずに、ウェビング6の巻き戻しが行われる。
かくして、テンションレデューサ機構15の切換動作は、拘束力を増大させるときに用いるモータ式ベルト巻き取り機構30の一つのモータ31を用いて行うことができ、別途、テンションレデューサ機構15を作動させるための専用のアクチュエータを必要とせずに、一つのアクチュエータ(一つのモータ31)で、ウェビング6に作用するテンションの調整と、拘束力を増大させるウェビング6の巻き戻しとの双方ができる。
それ故、テンションの調整とモータ31によるウェビング6の巻き戻しとを組み合わせてもシートベルト装置は、部品点数の削減や制御のための配線の軽減により、コンパクトですむうえ、コスト的にも安価ですむ。
しかも、テンションレデューサ機構15の切換動作は、モータ31の回転方向(一方向、他方向)の切り換えにより行わせるようにしたので、容易にテンションレデューサ機構15をスパイラルスプリング部材19の付勢力だけがウェビング6に作用する状態を形成することができる。特にこのときにはモータ31の回転力がスプール5に伝わることを利用して、低テンションでは解消できないウェビング6の弛みをなくすことができる利点もある。
そのうえ、モータ31とスプール5との間に設けてある該間の伝達経路を断続する伝達機構35を用いて、通常のウェビング6の巻き取り時、モータ31とスプール5の間の伝達経路を切り離すようにしてあるから、モータ31や伝達機構35などの影響を受けずに、2つのスパイラルスプリング部材19,20の付勢力だけで、最適にウェビング6を巻き取らせることができる。特に切換機構24には、モータ31の回転具合により、伝達経路を切り離した状態のまま、スパイラルスプリング部材19の付勢力だけがスプール5に伝わるようにした構成が用いてあるので、簡単なモータ31の作動制御だけで、確実に最適な低テンション状態に切り換えることができる。
また低テンションの調整は、ベルト装着スイッチ3により、ウェビング6の装着にしたがい実行されるようにしてあるので、ウェビング6の装着に合わせて確実にウェビング6を低テンションに調整できる。特にこのウェビング6の低テンション調整は、危険を感知してウェビング6をモータ31の回転力によって巻き取らせるECU70を用いた制御系統をそのまま流用して実行する構造にしてあるので、ベルト装着スイッチ3から直接的にモータ31を制御するような、ベルト装着スイッチ3からモータ31に至る専用の配線を必要とせずに、低テンションの調整ができる。
特にテンションの調整とモータ31によるウェビング6の巻き戻しとを組み合わせたリトラクタ4には、スプール5の回転軸5a上で、テンションレデューサ機構15、伝達ギヤ40、モータ式ベルト巻き取り機構30を隣接して配置する構造が採用してあるので、各種機器を合理的に配置することができ、テンション調整およびモータ式巻き戻し機能の双方を有するシートベルト装置全体がコンパクトにできる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施しても構わない。例えば上述した一実施形態では、低テンションに調整する際、爪体23,56を係合させた後、爪体56の係合を解除して、低テンションの調整を終えるようにしたが、これに限らず、爪体23,56の双方がラチェット21、リングギヤ44に係合したままの姿勢で、低テンションの調整を終えるようにしてもよい。また例えば上述した一実施形態では、モータ31で、ウェビング6を巻き戻すときは、ウェビング6に第1付勢部材となるスパイラルスプリング部材19の付勢力が加わる状態で行うようにしたが、これに限らず、スパイラルスプリング部材19と第2付勢部材となるスパイラルスプリング部材20との双方の付勢力がウェビング6に加わる状態で、モータ31によるウェビング6の巻き戻しを行うようにしてもよい。この場合、第1付勢部材となるスパイラルスプリング部材19および第2付勢部材となるスパイラルスプリング部材20を、回転体としてのスプール5に対してウェビング6が巻き取られる方向に付勢するように設け、モータ式ベルト巻き取り機構30には、モータ31が時計方向(一方向)に回転するとスプール5を巻き取り方向に回転させる構成を用い、切換機構24には、モータ31が時計方向(一方向)に回転すると、スパイラルスプリング部材19とスパイラルスプリング部材20の双方の付勢力がウェビング6に作用する状態(高テンション状態:第1状態)へ切り換えられ、モータ31が反時計方向(他方向)へ回転すると、スパイラルスプリング部材19の付勢力だけがウェビング6に作用する状態(低テンション状態:第2状態)へ切り換えられる構成を用いればよい。このようにすると、モータ31の時計方向(一方向)への回転で、モータ31の回転力がもたらす巻き取り力と、スパイラルスプリング部材19,20(第1・2付勢部材)の双方の付勢力がもたらす巻き取り力との双方で、引き出されたウェビング6が巻き戻すことができ、緊急時などで速やかに乗員の拘束ができるといった効果を奏する。
なお、上述した実施形態におけるテンションレデューサ機構15及びモータ式ベルト巻き取り機構30は、前述した特許文献1及び特許文献2に記載されている機構と略同一の構成であるが、これら特許文献に記載されている構成に限定されるものではない。要は、テンションレデューサ機構の切換機構とモータ式ベルト巻き取り機構の回転入力入切り機構とをモータ式ベルト巻き取り機構のモータによって切換作動するように構成すればよい。
1…シート、3…ベルト装着スイッチ(装着状態検出手段)、5…スプール(回転体)、5a…回転軸、6…ウェビング(シートベルト)、15…テンションレデューサ機構(付勢力調整機構)、19…スパイラルスプリング部材(第1付勢部材)、20…スパイラルスプリング部材(第2付勢部材)、24…切換機構、30…モータ式ベルト巻き取り機構、31…モータ、35…伝達機構、40…伝達ギヤ、70…ECU(モータ制御手段)、71,72…クラッシュセンサ,ブレーキセンサ(衝突検知手段)。