JP4264271B2 - 連続鋳造用鋳型及び製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄鋼製造に用いる連続鋳造用鋳型及び製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
連続鋳造用鋳型は、溶鋼から効率的に抜熱し、凝固させるために熱伝導特性が良好であること要求され、基材には微量のクロム、ジルコニウムなどを含有した銅合金が用いられる。しかし、銅合金自体は、耐熱性、耐摩耗性、耐食性などの特性が劣るため、連続鋳造用鋳型の溶鋼と接する内面には、種々のメッキ層や溶射皮膜を形成している。これまで、鋳型表面の被覆には、主にニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、クロムなどが用いられてきた。この中で、クロムメッキは、耐摩耗性及び耐溶損性に優れており、更に溶鋼との反応性が小さいことから、鋳型の長寿命化及び溶鋼スプラッシュの付着によるブレークアウト防止の目的で広く用いられてきた。
【0003】
近年、連続鋳造用の溶鋼の原材料の一部にスクラップを使用する操業が一般的となっているが、スクラップの中には、亜鉛メッキ鋼板などが含まれているため、溶鋼中に亜鉛が溶解して鋳型メニスカス部に濃縮し、鋳型表面を損傷させるという問題が発生している。亜鉛による連続鋳造用鋳型の具体的な損傷の形態は、メニスカス部に生じるえぐれであり、えぐれはメニスカス部に濃縮した亜鉛へのメッキ層の溶出により発生する。えぐれが深くなると、鋳造中に幅可変した際、短辺との隙間に溶鋼が差し込み、ブレークアウトを引き起こす危険がある。
【0004】
また、連続鋳造用鋳型には、湯面変動やチャージ間での鋳型の温度変化、即ち熱サイクルによりクラックも発生する。このクラックが成長し、鋳型表面に施したメッキ層を貫通して基材の表面に到達すると、亜鉛がクラックに侵入してメッキ層の剥離及び銅板割れを引き起こす。従って、連続鋳造用鋳型メニスカス部の亜鉛によるえぐれ及び熱サイクルによるクラックの成長は、操業上及び安全上の両面から非常に重大な問題であり、鋳型寿命を大きく制限してきた。
【0005】
これまで、鋳型表面の溶鋼中の亜鉛による損傷に対する耐性(耐亜鉛性という)を向上させる方法として、例えば、コバルト又はコバルト合金の保護皮膜をもつ鋳型が特許文献1に、コバルトと燐との合金の第一メッキ層と、この上にコバルトの第二メッキ層と、更にこの上にクロムの第三メッキ層とを有し、メッキ層間に拡散層が形成されている鋳型が特許文献2に開示されている。
しかし、コバルト又はコバルト合金をメッキした鋳型は、広く用いられているニッケル系合金をメッキした鋳型に比べると、耐亜鉛性は改善されているものの効果は不十分であった。一方、クロムは亜鉛に対する反応性が小さいという特性を持つものの、通常のクロムメッキはメッキままの状態では多数の内在クラックを有しており、且つ硬質であるために、鋳型として使用中に熱サイクルを受けるとクラックが発生しやすい。そのために、鋳型内面の溶鋼に接する内面に通常のクロムメッキを施工しても、クラックから侵入した亜鉛によるクロムメッキ剥離が発生し、鋳型表面を損傷させてしまうという問題があった。
【0006】
この観点から、溶鋼と接触する鋳型表面に、二層以上のクロムメッキを設ける方法等が開示されている。例えば、電解ニッケルメッキを施した上にクロム電解メッキを二層以上設けた鋳型が特許文献3に開示されている。しかし、この鋳型は二層の硬質クロムメッキ層を設けているため、メッキままの状態でも貫通クラックが残存し、更にクラックが発生、伝播し易く、亜鉛によるクロムメッキの剥離が生じ、鋳型寿命が不十分であった。
【0007】
これに対して、二層以上のクロム系メッキを形成し、そのうち少なくとも一層は350MPa以上の圧縮残留応力を有している鋳型が特許文献4に開示されている。この鋳型は、クラックが発生し難く、十分な鋳型寿命が得られるものの、クロムメッキに圧縮応力を付与するショットピーニング等の工程が追加されるため、非常に製造コストが高いという問題があった。
また、特許文献5には、55℃以上の温度でクロムメッキ層を形成し、その上に、更に55℃未満の温度でクロムメッキ層を形成した鋳型が開示されている。しかし、この鋳型は、外層のクロムメッキが硬質で、多数のクラックを内在しているために、外層のクロムメッキを貫通するクラックが多く、内層クロムまで進展し、亜鉛が侵入してクロムメッキが剥離し、十分な寿命が得られなかった。
【0008】
【特許文献1】
特開昭59−189037号公報
【特許文献2】
特開平7−303942号公報
【特許文献3】
特開平7−284881号公報
【特許文献4】
特開平10−156490号公報
【特許文献5】
特開平1−271033号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、亜鉛を不純物として含む溶鋼を鋳造する際に問題となるメニスカス部損傷を軽減し、鋳型寿命を延長させた、耐亜鉛性に優れた連続鋳造用鋳型及び製造方法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、クロムメッキ層の性状と耐亜鉛性の関係について詳細な検討を行った。その結果、クロムメッキ層の硬度を低下させることにより、加熱と冷却の繰り返し(熱サイクルという)によるメッキ層におけるクラックの発生及び伝播の抑制に効果があることがわかった。しかし、クロムメッキ層が1層では効果が不十分で、更にクロムメッキ層の複層化による耐亜鉛性の向上を指向し、軟質のクロムメッキ層を二層以上形成することにより、熱サイクルによってクラックが伝播し、鋳型表面に到達する確率を小さくすることが可能になり、耐亜鉛性の改善に極めて有効であることを見出した。また、この効果は、メッキままでの内在するクラック密度を減少させることにより更に顕著になることがわかった。
【0011】
本発明は、このような知見を基になされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1) 銅又は銅合金よりなる連続鋳造用鋳型において、鋳型内面側表面の少なくとも鋳型上端から高さ300mmまでの範囲に、ビッカース硬度が400HV0.01超、600HV0.01以下であり、鋳造方向に垂直な任意の断面での単位長さ当りのクラック数であるクラック密度が、光学顕微鏡による倍率200の観察においてそれぞれ1本/cm以上、5本/cm以下であるクロムメッキ層を二層以上設けたことを特徴とする連続鋳造用鋳型。
(2) クロムメッキ層における、各層の厚みが、5〜30μmであることと特徴とする(1)に記載の連続鋳造用鋳型。
(3) 銅又は銅合金の内側表面の全面にコバルトのメッキ層を設け、その上の一部又は全部にクロムメッキ層を二層以上設けたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の連続鋳造用鋳型。
(4) 銅又は銅合金の内側表面の全面に、ニッケルを20質量%以下含有し、残部がコバルト及び不可避的不純物からなる合金のメッキ層を設け、その上の一部又は全部にクロムメッキ層を二層以上設けたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の連続鋳造用鋳型。
(5) 銅又は銅合金よりなる連続鋳造用鋳型の内面側表面にクロムメッキ層を設けた連続鋳造用鋳型の製造方法であって、前記連続鋳造用鋳型の表面にクロムメッキ層を形成し、前記クロムメッキ層に陽極処理を施して表面を活性化させ、活性化させたクロムメッキ層の表面にクロムメッキを形成したことを特徴とする、(1)〜(4)の何れか1項に記載の連続鋳造用鋳型の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明者は、脱酸銅の試験片表面にクロムメッキ層を形成し、耐亜鉛性を評価した。まず、50mm角、厚さ10mmの脱酸銅板(脱酸銅基板という)の片面に種々の条件でクロムメッキを形成した。一部の試験片には、脱酸銅基板の片面に0.1mm厚みのコバルトメッキ又は10質量%のニッケルを含有し、残部がコバルト及び不可避的不純物からなる合金のメッキ(コバルト−10%ニッケルメッキという)を設け、その上に、クロムメッキを形成した。クロムメッキの仕様を表1に示すが、第1クロムメッキ層は、脱酸銅基板、コバルトメッキ又はコバルト−10%ニッケルメッキの上に施したものであり、第2クロムメッキ層は、第1クロムメッキ層の上に施したものである。
【0013】
これらの試験片を中央部で厚み方向に切断し、厚み方向が10mmで幅方向が50mmの断面を樹脂に埋込み、鏡面に研磨して作製した埋込試験片を用いて、メッキ層のビッカース硬度及び任意の断面での単位長さ当たりのクラック数(クラック密度という)を評価した。ビッカース硬度は、JIS Z 2244に準拠し、試験力を0.098Nとし、保持時間を15sとして測定した。また、試験片のクロムメッキ層の断面を光学顕微鏡を用いて、倍率200で観察することによって、クラックの数を測定し、クロムメッキ層の観察した部分の長さで除した値をクラック密度とした。
【0014】
これらのクロムメッキを施した試験片の亜鉛との反応性を以下のようにして調査した。まず、試験片表面の外層のクロムメッキ層の上に50mm角、厚さ0.3mmの純度99.9%以上の亜鉛板を載置し、試験片を雰囲気炉中に設置した水冷ホルダーに固定した。試験片に熱電対を取り付けて温度を測定した。
炉内をアルゴン雰囲気に置換した後、水冷ホルダーに給水せずに450℃に昇温し、そのまま5時間保持した。その後、水冷ホルダーに給水し、更に、炉内に設けたガスノズルからArガスを亜鉛を載置した試験片に吹きけて150℃に急冷した。その後、再び水冷ホルダーへの給水及び亜鉛を載置した試験片へのArガス吹きつけを止めて450℃に加熱した。このような450℃への加熱及び保持と150℃への冷却という熱サイクルを30回繰り返した後、室温に炉冷した。この熱サイクルは、鋳造によって与えられる熱サイクルをより厳しい条件にしたものである。
【0015】
試験片を、室温に冷却した後、厚み方向に切断して樹脂に埋込み、鏡面に研磨して、光学顕微鏡を用いて倍率200で断面を観察した。クロムメッキの損傷状況は、クロムメッキの剥離部長さの総和を観察した断面の全長さで除した値の百分率(クロム剥離割合という)で評価した。ここで、クロムメッキの剥離部とは、図1の(a)に示す様な外層のクロムメッキ層が剥離した状態ではなく、図1の(b)に示す様にクロムメッキ層がすべて剥離した状態を意味する。
【0016】
その結果を表1に示すが、ケース1は、コバルト−10%ニッケルメッキ層の上に、ケース2は脱酸銅基板の上に、第1クロムメッキ層及び第2クロムメッキ層を形成したものである。また、第1及び第2クロムメッキ層のビッカース硬度は600HV0.01以下であり、クロムメッキの剥離は20%以下と良好である。第1及び第2クロムメッキ層クラック密度が5本/cmより大きいため、内在するクラックの伝播、又は試験中に発生したと考えられるクラックの伝播により、脱酸銅基板の表面まで亜鉛が侵入し、20%以下のクロムメッキ層が剥離したと考えられる。
【0017】
ケース3は、コバルト−10%ニッケルメッキ層の上に、ケース4はコバルトメッキ層の上に、ケース5は脱酸銅基板の上に、第1クロムメッキ層及び第2クロムメッキ層を形成したものである。ケース3〜5の第1及び第2クロムメッキ層は、ビッカース硬度が400HV0.01超、600HV0.01以下、クラック密度が5本/cm以下のクロムメッキを二層設けたものであり、亜鉛の侵入によるクロムメッキの剥離が見られず健全であった。
【0018】
これに対し、ケース6及び7は、脱酸銅基板の上に、ビッカース硬度が400HV0.01超、600HV0.01以下、クラック密度が5本/cm以下の一層のクロムメッキを設けた例である。これらは、試験中に発生したと考えられるクラックに亜鉛が侵入し、20%超のクロムメッキ層が剥離した。ケース8は、脱酸銅基板の上に、ビッカース硬度が600HV0.01以上、クラック密度が5本/cm以下の第1クロムメッキ層及び第2クロムメッキ層を設けた例である。また、ケース9は、脱酸銅基板の上に、ビッカース硬度が600HV0.01以下、クラック密度が5本/cm以下の第1クロムメッキ層を設け、その上に硬度が600HV0.01超、クラック密度が5本/cm超の第2クロムメッキ層を設けた例である。これらは、いずれも内在するクラック及び試験中に発生したと考えられるクラックの進展により亜鉛が侵入して、クロムメッキ層が20%超剥離した。
【0019】
ケース10はコバルト−10%ニッケルメッキ層の上に、ケース11は脱酸銅基板の上に、硬度が600HV0.01超、クラック密度が5本/cm超の硬質クロムメッキを二層設けたものである。これらは、いずれも内在するクラック及び試験中に発生したと考えられるクラックの進展により亜鉛が侵入して、クロムメッキ層が65%超剥離した。
【0020】
【表1】
【0021】
この結果は、以下の様に解釈される。即ち、図2(a)に模式的に示すように、従来の硬質クロムメッキ1では、熱サイクルによって新たにクラック3が発生し易く、更に内在するクラックも多い。そのため、メッキ表面に存在する溶融亜鉛4はクラック3を通して容易に鋳型表面まで侵入し、クロムメッキ1と下地2の界面を侵食して多くの場所でクロムメッキ1の剥離が発生する。
また、図2(b)に模式的に示すように、多くのクラック3を内在する従来の硬質クロムメッキ1でも二層化することにより、メッキままの状態では、クロムメッキ表面から下地への貫通クラック数は減少するため、熱サイクル試験初期においては、亜鉛によるクロムメッキの剥離は軽減すると考えられる。しかし、硬質であるため熱サイクルによって新たにクラックが発生し、これらのクラックを通してクロムメッキと下地の界面に侵入した亜鉛によってクロムメッキの剥離が発生し、その改善効果はあまり大きくない。
図2(c)は、硬度が低く、クラック密度が小さい、一層のクロムメッキ1を模式的に示したものである。これは、熱サイクルによるクラック発生は抑制されるものの、発生したクラック3の伝播により亜鉛4が侵入し、クロムメッキ1が剥離する。
【0022】
これに対し、硬度が低く、クラック密度が小さいクロムメッキを二層設けた場合、図2(d)に模式的に示すように、熱サイクルによるクラック3の発生が抑制されるため、二層のメッキ1を貫通して鋳型の表面まで到達するクラックは、図2(a)〜(c)に示した例と比較すると飛躍的に改善される。これは、メッキ層が軟質であるため熱サイクルにより発生するクラックが少なく、伝播も遅いため、外層を貫通するクラックが少なく、更にそのクラックが内層が伝播する確率も低いという相乗効果によるものと考えられる。更に、内在するクラックを減少させると、熱サイクルにより外層のクロムメッキ層を貫通するクラックの数を減少させることができるため、極めて効果が大きく、クロムメッキ層の剥離がほとんど生じない。
【0023】
即ち、外層及び内層を共に軟質のクロムメッキ層1とすることにより、亜鉛4の侵入経路であるクラック密度が小さい状態が維持され、溶融亜鉛4がクロムメッキ表面に存在しても、クロムメッキ1と下地2の界面への亜鉛の侵入は起こらず、剥離が発生しない。この効果は、内在するクラック密度の減少により更に顕著になる。
外層を硬質で内在するクラックの多い層とし、内層を軟質のクロムメッキ層の二層構造としても、外層を貫通して内層に到達するクラックが多くなり、軟質のクロムメッキ層を一層設けた鋳型と同様に、クラックが外層と内層を同時に貫通して亜鉛が鋳型表面に到達する確率が高くなるため、本発明の効果が得られないと考えられる。
【0024】
本発明の連続鋳造鋳型は、表面に二層以上のクロムメッキ層を設け、全てのクロムメッキ層のビッカース硬度を400HV0.01超、600HV0.01以下とするものである。これにより、熱サイクルによってクロムメッキ層に発生するクラックを減少させ、伝播を抑制し、しかも外層を貫通したクラックが更に内層も貫通する確率を小さくすることができる。クロムメッキ層が1層では、このような効果は得られないため、二層以上のクロムメッキ層が必要である。
【0025】
また、クロムメッキ層を二層とした場合には、外層と内層のいずれかのビッカース硬度が600HV0.01超であると、熱サイクルによりクラックが発生し易く、かつ伝播も速いため、クラックに侵入した溶融亜鉛により鋳型表面のクロムメッキ層が剥離し、耐亜鉛性を損なう。なお、クロムメッキ層を三層以上とした場合には、少なくとも鋳型の表面に近い二層のビッカース硬度が400HV0.01超、600HV0.01以下であれば良い。
クロムメッキ層のビッカース硬度の下限は、400HV0.01以上であることが好ましい。これは、ビッカース硬度が400HV0.01より小さいクロムメッキ層を形成するためには、後述するように、電流密度が小さくする必要があり、メッキ層形成に時間が掛かるためである。
【0026】
また、クロムメッキ層のメッキままで内在するクラック密度は、5本/cm超では熱サイクルによってクロムメッキ層を貫通するクラックが多くなるため、5本/cm以下であることが好ましい。クロムメッキ層のメッキままで内在するクラック密度の下限は、1本/cm以上が好ましい。これは、熱サイクルによる熱膨張と熱収縮によってクロムメッキ層に熱応力が発生するが、クラックが全くないようなメッキ層では、クラックによって熱歪を吸収できず、応力を緩和する部分がないため、局所的に応力が集中し、複数のクラックが発生したり、鋳型表面まで貫通するクラックが生じ易くなるなど、メッキ層が剥離し易くなるためである。
【0027】
なお、クラック密度の測定に用いる試験片は、連続鋳造用鋳型のクロムメッキ層を設けた部分から、鋳造方向に垂直な任意の断面を観察面として採取すれば良いが、連続鋳造用鋳型の高さ方向には、鋳型上端から50〜250mmの範囲を含む部分で、且つ幅方向には、幅方向中心部から左右にそれぞれ鋳型全幅の40%の距離の範囲を含む部分とすることが好ましい。
また、クラック密度は、試験片の二層のクロムメッキ層の断面においてクラックを光学顕微鏡を用いて、倍率200で観察し、二層のクロムメッキ層のそれぞれのクラックの数を測定し、クロムメッキ層の観察した部分の長さで除した値とした。クラック密度の側定は、複数の箇所、好ましくは3箇所以上から試験片を採取し、観察した部分の長さの和を50〜100mmとすることが好ましい。
【0028】
また、連続鋳造用鋳型と同じ組成の小片に、同じメッキ条件でクロムメッキ層を設けた小片を試験片としてクラック密度を測定しても良い。試験片の長さ及び幅は50mm以上、厚みは10〜20mmであることが好ましい。観察面は長さ方向の断面又は幅方向の断面のいずれでも良い。この場合、クラック密度は、試験片の二層のクロムメッキ層の断面を光学顕微鏡を用いて、倍率200で観察することにより、二層のクロムメッキ層のそれぞれのクラックの数を測定し、クロムメッキ層の観察した部分の長さで除した値とする。
【0029】
更に、鋳型の表面に形成するクロムメッキの厚みの耐亜鉛性に及ぼす影響について検討を行った。その結果、クロムメッキ一層当たりの厚みが5μm未満であると、皮膜厚みが小さいため、耐久性がやや不十分であり、30μmを超えるとクロムメッキの残留応力が大きくなり、内在するクラック密度が増加することがわかった。
また、一層当たりの厚みが30μmを超えるクロムメッキを二層以上形成すると、全クロムメッキ厚みが大きくなり、剥離し易くなることがわかった。従って、クロムメッキ一層当たりの厚みは、5〜30μmの範囲であることが好ましく、二層以上とする場合、クロムメッキの厚みの合計は、10〜60μmの範囲が好ましい。
【0030】
このクロムメッキ層は、連続鋳造用鋳型のメニスカス高さに相当する、亜鉛による鋳型損傷が問題となる部位に設けることが必要である。メニスカス高さは、鋳型の上端から100〜150mmの位置に設定されるが、湯面変動などの外乱により、上下に変動することがある。従って、クロムメッキ層は、鋳型内面側表面の少なくとも鋳型上端から高さ300mmまでの範囲に設けることが必要である。
【0031】
次に、クロムメッキの硬度を600HV0.01以下に低下させ、また、内在するクラック数を5本/cm以下に減少させるためのメッキ条件を把握するために、クロム酸−硫酸浴を用い、浴温度(メッキ層形成温度)、クロム酸濃度、クロム酸と硫酸の比、及び電流密度をパラメータとして種々の条件でクロムメッキを形成し、評価を行った。
メッキ形成用基板として、50mm角、厚さ10mmの脱酸銅板を用い、種々のメッキ条件で形成した厚み20μmのクロムメッキ層につき、メッキ層の硬度、クラック密度を評価した。メッキ条件は、浴温度=60℃、クロム酸濃度=350g/l、クロム酸:硫酸=100:1、及び電流密度=40A/dm2を基準とし、浴温度=32〜85℃、クロム酸濃度=200〜500g/l、クロム酸:硫酸=80:1〜200:1、及び電流密度=2〜50A/dm2の範囲で変化させた。
【0032】
その結果、浴温度、クロム酸濃度、クロム酸量と硫酸量の比及び電流密度とビッカース硬度及びクラック密度との関係について以下のことがわかった。
浴温度は、高い程、ビッカース硬度及びクラック密度が低下し、浴温度が60℃以上でビッカース硬度が600HV0.01以下となり、クラック密度が5本/cm以下になることがわかった。また、浴温度が70℃以上になると、クロムメッキの特性が向上することがわかった。一方、浴温度が80℃より高くなると、メッキ施工時に発生する浴からのミスト量が多くなり、作業環境上好ましくない。従って、浴温度は、60〜80℃の範囲が好ましく、より好ましい下限は70℃以上である。
【0033】
クロム酸濃度は、大きい程、ビッカース硬度及びクラック密度が低下し、クロム酸濃度が300g/l以上でビッカース硬度が600HV0.01以下となり、クロム酸濃度が350g/l以上になると、クラック密度が5本/cm以下になることがわかった。クロム酸濃度については、特に上限はないが、450g/lより大きいと、クロムメッキの付き回りが若干低下することから、350g/l〜450g/lの範囲が好ましい。
クロム酸と硫酸の比は、大きい程、ビッカース硬度及びクラック密度が低下し、クロム酸:硫酸=120:1〜160:1の範囲でビッカース硬度が600HV0.01以下となり、クロム酸:硫酸=100:1〜160:1の範囲で、クラック密度が5本/cm以下になることがわかった。
電流密度は、小さい程、ビッカース硬度及びクラック密度が低下し、電流密度が40A/dm2以下のときビッカース硬度が600HV0.01以下となり、電流密度が35A/dm2以下のとき、クラック密度が5本/cm以下になることがわかった。電流密度について、特に下限はないが、10A/dm2より小さいとメッキ層の析出速度が遅くなり、成膜に時間がかかる。
【0034】
また、本発明の鋳型の表面には、クロムメッキ層の形成前にコバルトのメッキ、又は20%質量以下のニッケルを含有し、残部がコバルト及び不可避的不純物からなる合金のメッキ(コバルト合金メッキという)を施すことが好ましい。この理由は、銅の熱膨張係数が17×10-6/℃であるのに対し、クロムの熱膨張係数は6〜7×10-6/℃と小さいため、熱サイクル時の熱膨張差によるクラック発生及び剥離を防止するためであり、更にクロムメッキが形成されていない部分、即ち鋳型の高さ方向での中間部及び下端部での耐摩耗性及び耐食性を付与することができるためである。
【0035】
ここで、鋳造中の鋳型表面の温度は、鋳型中に埋め込まれた熱電対による測定結果から、約300℃と推定されている。また、コバルト−ニッケル系の二元系状態図から、コバルト単体は、422℃までは六方晶であるが、422℃以上で立方晶に変態し、コバルトにニッケルを加えると六方晶と立方晶の変態温度が低下し、ニッケルが20質量%以上で300℃以下まで低下することが知られている。よって、コバルト合金中のニッケル量が20質量%を越える場合、鋳型使用中にコバルト合金が相変態をおこすため、体積変化が発生する。相変態による体積変化は熱サイクルによって発生する応力と重畳すると、クラックの発生及び進展を増長するため、好ましくない。このことから、コバルト合金中に含有するニッケル量は20%質量以下が好ましく、5〜10%が最適の範囲である。
【0036】
コバルトのメッキ、又はコバルト合金メッキは、鋳型全面に形成することが好ましく、また、クロムメッキが形成される領域のコバルトのメッキ、又はコバルト合金メッキの厚みは、0.01〜0.1mm以下とすることが好ましい。この理由は、コバルト合金メッキの厚みが0.01mm未満であると、熱応力緩和効果が小さくなり、クロムメッキ剥離の危険性が増え、一方0.1mmより厚くなると、メッキ層による熱抵抗が大きくなって、鋳型表面温度が上昇し、鋳型損傷の危険性が増加するためである。
【0037】
また、鋳型内面において、クロムメッキが形成されていない領域、即ち鋳型の高さ方向での中間部及び下端部については、耐摩耗性及び耐食性に劣る銅合金の保護のため、0.5mm以上の厚みのコバルト合金メッキを形成することが好ましく、また鋳型中間部から下端部にかけて、徐々にメッキ厚みが増加するテーパメッキは、更に好ましい。コバルト合金メッキの形成方法には、特に制限はなく、硫酸浴、塩化物浴、スルファミン酸浴などを用いる通常のメッキ法を用いれば良い。
【0038】
【実施例】
1チャージ当たり8トンの溶鋼を鋳造する連続鋳造機により、鋳型メニスカス部の損傷を評価した。クロム1.2質量%、ジルコニウム0.2質量%、アルミニウム0.3質量%を含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金製の鋳型の寸法は、長辺の幅400mm、短辺の幅100mm、高さ900mmである。本発明例として長辺及び短辺の内面全面に、浴組成が、硫酸コバルト120g/l、硫酸ニッケル120g/l、塩化カリウム10g/l及びホウ酸30g/lの硫酸浴を用い、電流密度が3A/dm2、浴温度が40℃の条件で、厚さ0.1mmのコバルト−10%ニッケルメッキを設け、更にその上に、上端から300mm位置(メニスカス位置は上端より50mm)までの全面に、浴温度=70℃、クロム酸濃度=350g/l、クロム酸:硫酸=120:1、及び電流密度=35A/dm2の条件(クロムメッキ条件1という)で、10μm厚みのクロムメッキを形成した。その後、鋳型を同浴内に設置したままで、クロムメッキに陽極処理を施して、表面を活性化し、クロムメッキ条件1で、更に10μmのクロムメッキを施工し、二層合計で20μmのクロムメッキを形成した(鋳型1という)。
【0039】
比較例とし、鋳型1と同様の条件で、厚さ0.1mmのコバルト−10%ニッケルメッキを設け、更にその上に、上端から300mm位置までの全面に、浴温度=45℃、クロム酸濃度=250g/l、クロム酸:硫酸=120:1、及び電流密度=50A/dm2の条件(クロムメッキ条件2という)で、10μm厚みのクロムメッキを形成した。その後、鋳型を同浴内に設置したままで、クロムメッキに陽極処理を施して、表面を活性化した後、クロムメッキ条件2で、更に10μmのクロムメッキを施工し、二層合計で20μmのクロムメッキを形成した(鋳型2という)。
【0040】
また、別の比較例として、鋳型1と同様の条件で、厚さ0.1mmのコバルト−10%ニッケルメッキを設け、更にその上に、上端から300mm位置までの全面に、クロムメッキ条件1により、20μm厚みのクロムメッキ層を一層設けた鋳型を作製した(鋳型3という)。
更に別の比較例として、鋳型1と同様の条件で、厚さ0.1mmのコバルト−10%ニッケルメッキを設け、更にその上に、上端から300mm位置までの全面に、浴温度=55℃、クロム酸濃度=350g/l、クロム酸:硫酸=120:1、及び電流密度=35A/dm2の条件(クロムメッキ条件3という)で、10μm厚みのクロムメッキを形成した。その後、鋳型を同浴内に設置したままで、クロムメッキに陽極処理を施して、表面を活性化し、クロムメッキ条件3で、更に10μmのクロムメッキを施工し、二層合計で20μmのクロムメッキを形成した(鋳型4という)。
【0041】
鋳型表面に形成したクロムメッキのクラック密度及びビッカース硬度を測定するために、鋳型と同組成の50mm角、厚さ10mmの銅合金試験片に、上記それぞれの条件でクロムメッキを施工し、断面を切断及び樹脂に埋込みし、鏡面に研磨して調査した。二層クロムメッキ層のビッカース硬度は、JIS Z 2244に準拠し、試験力を0.098Nとし、保持時間を15sとして、一層ずつ測定した。クラック密度は、光学顕微鏡を用い、倍率200で二層それぞれのクロムメッキ層について、一層ずつクラックの数を測定し、観察した部分の長さで除して求めた。
その結果、クラック密度及びビッカース硬度は、鋳型1では二層とも、それぞれ2本/cm及び578HV0.01、鋳型2では二層とも、それぞれ168本/cm及び876HV0.01、鋳型3で、それぞれ3本/cm及び584HV0.01、鋳型4では二層とも、それぞれ1本/cm及び630HV0.01であった。
【0042】
これらの鋳型を用い、上記鋳造機にて、それぞれ50チャージの鋳造試験を実施した。鋳造試験後の損傷状況を調査するために鋳型を解体し、メニスカス部について、鋳型厚み方向に切断して樹脂に埋込み、鏡面に研磨して、光学顕微鏡を用いて倍率200で断面を観察した。観察場所は、高さ方向には、上端から50mmを中心に上下20mmの範囲を含む部分で、幅方向には、幅方向中心部、幅方向中心部からそれぞれ左右に150mmの部分の3カ所で、それぞれの観察場所でのクロムメッキの剥離割合を測定し、それを平均した。クロム剥離割合は、外層のクロムメッキ層が剥離した状態ではなく、クロムメッキ層がすべて剥離した部分の長さの合計を観察した断面の全長さで除した値の百分率で評価した。
その結果、本発明による鋳型1では、クロムメッキ剥離は皆無であったのに対し、比較例である鋳型2、鋳型3及び鋳型4は、クロムメッキの剥離割合が、それぞれ20%、12%及び6%であった。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、亜鉛を不純物として含む溶鋼の製造を行った際に問題となる亜鉛の侵食による損傷を防止でき、鋳型の寿命を延長することが可能であり、産業上の貢献が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】亜鉛によるクロムメッキの剥離状態を示す模式図である。
(a)外層のクロムメッキの剥離状態を示す模式図である。
(b)外層及び内層のクロムメッキの剥離状態を示す模式図である。
【図2】亜鉛及び熱サイクルによるクロムメッキ断面の損傷形態に及ぼすクロムメッキ層の状態の影響を示す模式図である。
(a)従来の硬質で一層のクロムメッキ層の損傷形態の模式図である。
(b)従来の硬質で二層のクロムメッキ層の損傷形態の模式図である。
(c)従来の軟質で一層のクロムメッキ層の損傷形態の模式図である。
(d)本発明の軟質で二層のクロムメッキ層の損傷形態の模式図である。
【符号の説明】
1:クロムメッキ 2:基材
3:クラック 4:亜鉛
Claims (5)
- 銅又は銅合金よりなる連続鋳造用鋳型において、鋳型内面側表面の少なくとも鋳型上端から高さ300mmまでの範囲に、ビッカース硬度が400HV0.01超、600HV0.01以下であり、鋳造方向に垂直な任意の断面での単位長さ当りのクラック数であるクラック密度が、光学顕微鏡による倍率200の観察においてそれぞれ1本/cm以上、5本/cm以下であるクロムメッキ層を二層以上設けたことを特徴とする連続鋳造用鋳型。
- クロムメッキ層における、各層の厚みが、5〜30μmであることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用鋳型。
- 銅又は銅合金の内側表面の全面にコバルトのメッキ層を設け、その上の一部又は全部にクロムメッキ層を二層以上設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の連続鋳造用鋳型。
- 銅又は銅合金の内側表面の全面に、ニッケルを20質量%以下含有し、残部がコバルト及び不可避的不純物からなる合金のメッキ層を設け、その上の一部又は全部にクロムメッキ層を二層以上設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の連続鋳造用鋳型。
- 銅又は銅合金よりなる連続鋳造用鋳型の内面側表面にクロムメッキ層を設けた連続鋳造用鋳型の製造方法であって、前記連続鋳造用鋳型の表面にクロムメッキ層を形成し、前記クロムメッキ層に陽極処理を施して表面を活性化させ、活性化させたクロムメッキ層の表面にクロムメッキを形成したことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の連続鋳造用鋳型の製造方法。
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