JP4261765B2 - 溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐震性の観点から高靭性と低降伏比を要求される建築用鋼や、各種タンク用鋼として、搭載される内容物が複数にわたる場合、内容物に応じた複合特性として、低温靭性と低降伏比とを同時に要求される高張力鋼およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築用鋼材は、弾性設計(許容応力度設計)から、1981年6月に施行された新耐震設計基準に基づく終局耐力設計への移行に伴い、低降伏比が求められている。低降伏比化を達成するため、一般に、鋼組織の二相(Dual phase)化、すなわち、降伏を支配する軟質相(通常、フェライト)と引張強さを確保するための硬質相(パーライト、ベイナイト、マルテンサイトなど)を形成させる方法が広く用いられている。具体的には、制御圧延を含む熱間圧延後の鋼または焼入後の鋼を、フェライトとオーステナイトの二相域温度に再加熱して、フェライトとCが濃化されたオーステナイトとし、その後空冷以上の冷速で冷却(、さらにその後焼き戻し処理)する方法が特開平2−266378号公報などに開示されている。このとき、成分的には、C量が高いほど二相組織化が容易となるばかりでなく、硬質相がより硬化し、低降伏比化が容易となる。しかし、高C化は、溶接性や低温靭性には不利となるという問題があった。それに対して、低温靭性を改善するためには、低C化や制御圧延が有効ではあるが、いずれも降伏比が上昇するため、低温靭性向上と低降伏比化とは相容れず、両立がきわめて困難であった。従来、建築用途では、靭性要求レベルが低く、低降伏比化に有利な高C鋼でも特に問題となることはなかったが、阪神大震災を契機とした近年の耐震性能への要求の厳格化傾向には、必ずしも十分に対応できないという問題があった。
【0003】
また、液化ガス貯槽用タンクに使用される鋼材では、液化ガスの種類によって異なるが、ガスの液化温度は一般に常圧では低温(LPGの場合、−48℃)であるため、母材はもちろん溶接継手部においても優れた低温靭性が要求される。これに対し、特開昭63−290246号公報には6.5〜12.0%のNiを添加する方法や、特開昭58−153730号公報には特定組成の鋼を焼入れ焼戻し処理を行って、焼戻しマルテンサイトとベイナイトの強靭性を利用する方法が開示されている。一方で、液体アンモニアは鋼材の応力腐食割れ(SCC)を引き起こすことが知られ、IGC CODE 17.13(International Code for the Construction and Equipment of Ships Carrying LiquefiedGases in Bulk)では、酸素分圧、温度などの貯槽時の操業条件を規制するとともに、鋼材のNi含有量を5%以下に制限することや実降伏強さを440N/mm2以下に抑えることなどを規定している。このため、特開平4−17613号公報では表層のみ軟化処理した鋼板や、特開昭57−139493号公報では軟鋼クラッド鋼と軟質溶接最終層によるタンク製造方法などが開示されている。
【0004】
しかし、上記LPGと液体アンモニアを混載するタンクでは、当然のことながら両者に要求される仕様を満足する必要がある。一方、タンクの大容量化や船舶に搭載されることの多いこの種のタンクにおいては高張力化が求められており、LPGからの優れた低温靭性と液体アンモニアからの降伏強さの上限規制に伴う低降伏比化の同時達成が大きな課題となっていた。
【0005】
さらに、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)は、硬く、脆いために、低温靭性上有害とされ、極力生成しないよう鋼成分、製造条件を限定するか、生成した場合には焼き戻しなど熱処理により分解することが、半ば常識とされており、積極的にマルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)が利用されることはなかった。なお、本発明で規定するマルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)は、島状マルテンサイトあるいはM*などとも呼ばれるもので、その相(組織)の識別のための現出法(エッチング法)については後述する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、優れた溶接性、低温靭性と同時に高強度で低降伏比を図るために、鋼組織中のマルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)の組織分率、サイズなどの存在形態を限定し、引張試験において降伏点が出ないようにする溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼およびその製造方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、これまで靭性上有害とされたマルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)の分率、サイズなどの存在形態を規定し、引張試験時に降伏点を出ないようにすることで、低降伏比化することができるということを見出し、このために、Nbを含有する特定の成分の鋼を、制御圧延−加速冷却することで組織を微細化して強度、靭性を確保するとともに、その加速冷却を比較的低温で停止することでマルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)を微細に生成させることに基づき、溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼の発明を完成した。
【0008】
本発明によれば、耐震性に優れた建築用鋼や、液体アンモニアとLPGなどとの混載タンク用として低温靭性と低降伏比とを両立した鋼を大量かつ安価に供給でき、特に高強度化も可能としたため、該タンクの船舶への搭載も容易となった。
【0009】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0010】
(1) 鋼成分が質量%で、
C:0.03〜0.15%、
Si:0.4%以下、
Mn:1.0〜2.0%、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
Nb:0.005〜0.05%、
Ti:0.005〜0.025%、
Al:0.003%以下、
N:0.001〜0.005%、
かつ、下記(1)式で規定する溶接性指標のP CM が0.25%以下で、
残部が鉄および不可避的不純物からなり、板厚方向断面1/4厚位置の鋼組織が、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)を観察断面の面積分率で1〜10%を含み、その相の個々のサイズの個数比率で90%以上が円相当直径で3μm以下であって、引張試験において降伏点が出ないことを特徴とする溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼。
P CM =C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+5B
・ ・ ・(1)
【0012】
(2) 質量%で、
Cu:0.05〜0.5%、
Ni:0.05〜1.0%、
Cr:0.05〜0.5%、
B:0.0002〜0.003%、
Mg:0.0002〜0.005%
の範囲で1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする上記(1)項に記載の溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼。
【0013】
(3) 質量%で、
Ca:0.0005〜0.004%、
REM:0.0005〜0.004%
のいずれか1種をさらに含有することを特徴とする上記(1)または(2)項に記載の溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼。
【0014】
(4) 上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の鋼組成からなる鋳片または鋼片を、1000〜1250℃の温度に加熱し、オーステナイト未再結晶温度域での累積圧下量を30%以上として720点以上の温度で熱間圧延を終了した後、680℃以上の温度から加速冷却を開始し、150〜350℃の温度で加速冷却を停止した後放冷することにより、板厚方向断面1/4厚位置の鋼組織が、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)を観察断面の面積分率で1〜10%を含み、その相の個々のサイズの個数比率で90%以上が円相当直径で3μm以下であって、引張試験において降伏点が出ないようにしたことを特徴とする溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼の製造方法。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明が、請求項の通りに鋼組織、鋼組成および製造方法を限定した理由について説明する。
【0017】
鋼組織は、板厚方向断面1/4厚位置において、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)を観察断面の面積分率で1〜10%を含むことを第一の構成要素とする。このマルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)は、高転位密度で、Cが濃縮された非常に硬い相であるため、この相の存在により引張試験時に低応力で転位が動き始め、応力−歪み曲線上は、降伏点の存在しないラウンドなカーブを描く。マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)の組織分率が上記限定範囲であっても、マトリックスの組織によっては(例えばフェライト組織)、降伏点が出現するケースもあり、「引張試験において降伏点が出ないこと」を構成要素の一つとした。これは、具体的には、引張試験において、荷重−伸び曲線がラウンドなカーブを描ことを意味し、降伏点が出ないことが、高張力化と低降伏比化を両立するためには必須である。降伏点が出ない、ラウンドな荷重−伸び曲線においては、降伏強さとして一般に0.2%耐力が採られ、降伏点が出る同一の引張強さの鋼と比較した場合、降伏強さは低くなり、結果として降伏比も低くなる。
【0018】
引張試験において降伏点が出ないための条件としてマトリックスの組織を規定することは、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)の硬さや構成分率などにも依存するため一概に言えないばかりでなく、それらの組織の記述があいまいであること(多種多様な組織を正確に記述することが不可能)などの理由から、発明の構成要素としては不適当と判断した。
【0019】
マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)の構成分率(観察断面の面積分率)の下限1%は、引張試験時に低応力で転位が動き始めるのに必要な最低限の量で、上限の10%は、靭性を必要以上に劣化させない限界量である。ただし、低温靭性の観点からは、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)の構成分率(観察断面の面積分率)を上記のように限定しただけでは不十分である。
【0020】
塊状に大きな単位(サイズ)で存在した場合、破壊起点として作用し、靭性が劣化するため、本発明では、板厚方向断面1/4厚位置の観察断面において、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)の個々のサイズの90%以上が円相当直径で3μm以下に限定した。これらの数値は、発明者らの実験事実に基づくものである。
【0021】
なお、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−Aconstituents)の識別のための組織現出法は、LePera氏によって開発されたエッチング法(Journal of Metals、March、1980、p.38)をベースとする方法が最適であり、このエッチングにより、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)は、白く現出される。
【0022】
次に、本発明のように限定されたマルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)を得、引張試験において降伏点が出ないようにする上で、最適な鋼成分の限定理由について説明する。
【0023】
Cは鋼材の特性に最も顕著に効くもので、下限0.03%は強度確保や溶接などの熱影響部が必要以上に軟化することのないようにするための最小量である。しかし、C量が多すぎると焼入性が必要以上に上がり、鋼材が本来有すべき強度、靭性のバランス、溶接性などに悪影響を及ぼすため、上限を0.15%とした。
【0024】
Siは脱酸上鋼に含まれる元素であるが、多く添加すると溶接性、HAZ靭性が劣化するため、上限を0.4%に限定した。鋼の脱酸はTi、Alのみでも十分可能であり、HAZ靭性、焼入性などの観点から低いほど好ましく、必ずしも添加する必要はない。
【0025】
Mnは強度、靭性を確保する上で不可欠な元素であり、その下限は1.0%である。しかし、Mn量が多すぎると焼入性が上昇して溶接性、HAZ靭性を劣化させるだけでなく、連続鋳造スラブの中心偏析を助長するので上限を2.0%とした。
【0026】
Pは本発明鋼においては不純物であり、P量の低減はHAZにおける粒界破壊を減少させる傾向があるため、少ないほど好ましい。含有量が多いと母材、溶接部の低温靭性を劣化させるため上限を0.02%とした。
【0027】
SはPと同様本発明鋼においては不純物であり、母材の低温靭性の観点からは少ないほど好ましい。含有量が多いと母材、溶接部の低温靭性を劣化させるため上限を0.01%とした。
【0028】
Nbはオーステナイトの未再結晶温度を上昇させ、熱間圧延時の制御圧延の効果を最大限に発揮する上で必須元素で、最低0.005%の添加が必要である。また、焼入れの際の加熱オーステナイトの細粒化にも寄与する。さらに、析出硬化として、強度向上効果も有する。しかし、過剰な添加は、溶接部の靭性劣化を招くため上限を0.05%とした。
【0029】
Tiは母材およびHAZ靭性向上のために必須である。なぜならばTiは、Al量が少ないとき(例えば0.003%以下)、Oと結合してTi2O3を主成分とする析出物を形成、粒内変態フェライト生成の核となりHAZ靭性を向上させる。また、TiはNと結合してTiNとしてスラブ中に微細析出し、加熱時のγ粒の粗大化を抑え圧延組織の細粒化に有効であり、また鋼板中に存在する微細TiNは、溶接時にHAZ組織を細粒化するためである。これらの効果を得るためには、Tiは最低0.005%必要である。しかし多すぎるとTiCを形成し、低温靭性や溶接性を劣化させるので、その上限は0.025%である。
【0030】
Alは、一般に脱酸上鋼に含まれる元素であるが、脱酸はSiまたはTiだけでも十分であり、本発明鋼においては、その下限は限定しない。しかし、Al量が多くなると鋼の清浄度が悪くなるだけでなく、溶接金属の靭性が劣化するので上限を0.003%とした。
【0031】
Nは、不可避的不純物として鋼中に含まれるものであるが、Nbと結合して炭窒化物を形成して強度を増加させ、また、TiNを形成して前述のように鋼の性質を高める。このため、N量として最低0.001%必要である。しかしながら、N量の増加はHAZ靭性、溶接性にきわめて有害であり、本発明鋼においてはその上限は0.005%である。
【0032】
次に必要に応じて含有することができるCu、Ni、Cr、B、Mgの添加理由について説明する。
【0033】
基本となる成分に、さらにこれらの元素を添加する主たる目的は、本発明鋼の優れた特徴を損なうことなく、強度、靭性などの特性を向上させるためである。したがってその添加量は自ずと制限されるべき性質のものである。
【0034】
CuはNiとほぼ同様の効果、現象を示し、上限の0.5%は溶接性劣化に加え、過剰な添加は熱間圧延時にCu−クラックが発生し製造困難となるため規制される。下限は実質的な効果が得られるための最小量とすべきで0.05%である。これは後述するCr、Moについても同様である。
【0035】
Niは過剰に添加しなければ、溶接性、HAZ靭性に悪影響を及ぼすことなく母材の強度、靭性を向上させる。これら効果を発揮させるためには、少なくとも0.05%以上の添加が必須である。一方、過剰な添加は高価なだけでなく、溶接性に好ましくない。また、Niを多く添加すると液体アンモニア中で応力腐食割れ(SCC)を誘起する可能性が指摘されている。発明者らの実験によれば、1%までの添加は溶接性や液体アンモニア中でのSCCを大きく劣化させず、強度、靭性向上効果の方が大きいため、上限を1.0%とした。
【0036】
Crは、母材の強度、靭性をともに向上させるために0.05%以上添加する。しかし添加量が多すぎると母材、溶接部の靭性および溶接性の劣化を招き、また後述する組織制御が困難となって好ましくないため上限を0.5%とした。
【0038】
Bは、オーステナイト粒界に偏析し、フェライトの生成を抑制することを介して、焼入性を向上させ、強度向上に寄与する。この効果を享受するため、最低0.0002%以上必要である。しかし、多すぎる添加は焼入性向上効果が飽和するだけでなく、靭性上有害となるB析出物を形成する可能性もあるため、上限を0.003%とした。なお、タンク用鋼などとして、応力腐食割れが懸念されるケースでは、母材および溶接熱影響部の硬さの低減がポイントとなることが多く(例えば、硫化物応力腐食割れ(SCC)防止のためにはHRC≦22(HV≦248)が必須とされる)、そのようなケースでは焼入性を増大させるB添加は好ましくない。
【0039】
Mgは、溶接熱影響部においてオーステナイト粒の成長を抑制し、細粒化する作用があり、溶接部の強靭化が図れる。このような効果を享受するためには、Mgは0.0002%以上必要である。一方、添加量が増えると添加量に対する効果代が小さくなるため、コスト上得策ではないので上限は0.005%とした。
【0040】
さらに、CaおよびREMは、MnSの形態を制御し、母材の低温靭性を向上させるほか、湿潤硫化水素環境下での水素誘起割れ(HIC、SSC、SOHIC)感受性を低減させる。これらの効果を発揮するためには、最低0.0005%が必要である。しかし、多すぎる添加は、鋼の清浄度を逆に高め、母材靭性や湿潤硫化水素環境下での水素誘起割れ(HIC、SSC、SOHIC)感受性を高めるため、添加量の上限は0.004%に限定した。CaとREMは、ほぼ同等の効果を有するため、いずれか1種を上記範囲で添加すればよい。
【0041】
鋼の個々の成分を限定しても、成分系全体が適切でないと優れた特性は得られない。このため、下記(1)式に示すPCMの値を0.25%以下に限定する。
P CM =C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+5B
・ ・ ・(1)
PCMは溶接性を表す指標で、低いほど溶接性は良好である。本発明鋼においては、PCMが0.25%以下であれば、優れた溶接性の確保が可能である。
【0042】
優れた溶接性と低温靭性を確保しつつ、上述したような、引張試験において、荷重−伸び曲線がラウンドなカーブを描き、降伏点を出さないため、本発明の通り製造条件を限定することがきわめて有効である。以下、その理由について説明する。
【0043】
圧延に先立つ加熱温度を1000〜1250℃に限定した理由は、加熱時のオーステナイト粒を小さく保ち、圧延組織の微細化を図るためである。1250℃は加熱時のオーステナイトが極端に粗大化しない上限温度であり、加熱温度がこれを超えるとオーステナイト粒が粗大混粒化し、変態後の組織も粗大化するため鋼の靭性が著しく劣化する。一方、加熱温度が低すぎると、後述する圧延終了温度(Ar3点以上)の確保が困難となるばかりでなく、オーステナイトの未再結晶温度を上昇させ、熱間圧延時の制御圧延の効果を最大限に発揮させたり、析出硬化を発現させるためのNbの溶体化の観点から下限を1000℃に限定した。
【0044】
上述のような条件で加熱した鋳片または鋼片を、オーステナイト未再結晶温度域での累積圧下量を30%以上とし、720℃以上で熱間圧延を終了した後、680℃以上の温度から加速冷却する。
【0045】
オーステナイト未再結晶温度域での圧延を行うことによって、オーステナイト粒を顕著に細粒化するため、少なくとも30%以上の累積圧下量が必要である。圧延終了温度が720℃を下回ると、フェライトが変態析出し、フェライトを加工(圧延)する恐れがあり、低降伏比化や低温靭性確保の点で好ましくない。このため、圧延終了温度は、720℃以上に限定する。
【0046】
720℃以上で熱間圧延を終了した後、680℃以上の温度から加速冷却を開始するのは、変態域の冷速を早めることで組織を微細化し、強度と靭性を同時に向上させるためである。また、組織を微細化することは、C濃縮相であるマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)を本発明の通り微細に生成させる上でも必須である。組織は680℃を下回ると、粗大なフェライトが析出し始め、強度低下や靭性を劣化させるため、680℃以上からの加速冷却に限定した。この加速冷却は、150〜350℃の温度で停止しなければならない。350℃を超える温度では、加速冷却停止後の放冷が実質上の焼き戻しとなり、強度低下とともに、マルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)が分解され、結果として降伏点が出るようになり低降伏比化ができない。一方、加速冷却停止温度が150℃を下回ると、必要以上にマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)が生成する可能性が高いのに加え、溶接やガス切断などの熱影響による軟化が顕著になるため、使用性能上好ましくない。このため、加速冷却停止温度の下限温度を150℃とした。
【0047】
なお、加速冷却時の冷速は、鋼成分や意図する降伏比、低温靭性レベルによっても変わるため一概には言えないが、板厚1/4厚位置の加速冷却開始温度から350℃までの平均冷速で、少なくとも3℃/秒以上とすることが望ましい。
【0048】
【実施例】
本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0049】
転炉−連続鋳造−厚板工程で種々の鋼成分の鋼板(厚さ15〜80mm)を製造し、その強度、降伏比(YR)、靭性および溶接性(斜めy形溶接割れ試験)を調査した。
【0050】
表1に比較鋼とともに本発明鋼の鋼成分を、表2に鋼板の製造条件と諸特性を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
本発明法にしたがって製造した鋼板(本発明鋼)は、すべて良好な特性を有する。これに対し、本発明によらない比較鋼は、いずれかの特性が劣る。
【0054】
比較鋼11は、C量が低く、またNb、Tiが添加されていないのに加え、γ未再結晶温度域における累積圧下量も小さいために、溶接性は良好であるが強度が低めで、かつ靭性に劣る。比較鋼12は、成分的には本発明範囲内にあるものの、水冷停止温度が高いため、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)が生成されず、結果として降伏点が出現し、降伏強さが高くなり、降伏比が高い。比較鋼13は、個々の元素の添加量は本発明範囲内にあるものの、PCMが高いため溶接性に劣る。また、粗大なマルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)が高く、靭性に劣る。比較鋼14は、Ti量が高く、製造条件も圧延温度が低く、水冷開始温度も低いため、降伏点が出現し、降伏強さ、降伏比ともに高くなり、低温靭性にも劣る。なお、Ti量の高い比較鋼14では、HAZ靭性も劣ることが確認されており、使用性能上好ましくない。比較鋼15は、C量が高く、PCMも高いため溶接性に劣り、加速冷却停止温度が低いこともあって、粗大なマルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)分率が高く、また、その粗大なものの比率も高いため、靭性が劣っている。さらに、加速冷却停止温度の低い本比較鋼15は、溶接時のHAZ軟化が顕著であることも確認されており、使用性能上好ましくない。
【0055】
【発明の効果】
本発明により、溶接性、低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼の製造が可能となった。その結果、耐震性能の優れた建築用、あるいは液体アンモニアとLPGなどとの混載タンク用として溶接性の優れた鋼材を大量かつ安価に供給できるようになった。特に高強度化も可能としたため、該タンクの船舶への搭載も容易となった。
Claims (4)
- 鋼成分が質量%で、
C:0.03〜0.15%、
Si:0.4%以下、
Mn:1.0〜2.0%、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
Nb:0.005〜0.05%、
Ti:0.005〜0.025%、
Al:0.003%以下、
N:0.001〜0.005%、
かつ、下記(1)式で規定する溶接性指標のP CM が0.25%以下で、
残部が鉄および不可避的不純物からなり、板厚方向断面1/4厚位置の鋼組織が、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)を観察断面の面積分率で1〜10%を含み、その相の個々のサイズの個数比率で90%以上が円相当直径で3μm以下であって、引張試験において降伏点が出ないことを特徴とする溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼。
P CM =C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+5B
・ ・ ・(1) - 質量%で、
Cu:0.05〜0.5%、
Ni:0.05〜1.0%、
Cr:0.05〜0.5%、
B:0.0002〜0.003%、
Mg:0.0002〜0.005%
の範囲で1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼。 - 質量%で、
Ca:0.0005〜0.004%、
REM:0.0005〜0.004%
のいずれか1種をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼組成からなる鋳片または鋼片を、1000〜1250℃の温度に加熱し、オーステナイト未再結晶温度域での累積圧下量を30%以上として720点以上の温度で熱間圧延を終了した後、680℃以上の温度から加速冷却を開始し、150〜350℃の温度で加速冷却を停止した後放冷することにより、板厚方向断面1/4厚位置の鋼組織が、マルテンサイトまたはマルテンサイト−オーステナイト混合相(M−A constituents)を観察断面の面積分率で1〜10%を含み、その相の個々のサイズの個数比率で90%以上が円相当直径で3μm以下であって、引張試験において降伏点が出ないようにしたことを特徴とする溶接性と低温靭性に優れた低降伏比高張力鋼の製造方法。
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