JP4259837B2 - 希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材の製造方法 - Google Patents

希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、一般式 R2O2S (Rは Yを含むLa, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy,Ho, Er, Tm, Yb及びLuから選択される少なくとも1種類の希土類元素を表す。)で表せられる多孔質希土類オキシ硫化物蓄冷材の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、冷凍機運転中において、微粉化する恐れが少なく、耐久性に優れ、極低温領域における冷凍能力に優れた蓄冷材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
超伝導磁石やセンサーなどの冷却には、液体ヘリウムが不可欠で、ヘリウムガスの液化には、膨大な圧縮仕事が必要であり、そのため大型な冷凍機が必要となる。しかしリニアモーターカーやMRI(磁気共鳴診断装置)などの超伝導現象を利用した小型装置に大型の冷凍機を使用することは難しい。そのため液体ヘリウム温度(4.2K)が発生可能な小型で高性能の冷凍機の開発が不可欠である。このような冷凍機には、軽量・小型で熱効率が優れていることが要求されている。例えば超伝導MRI装置等においては、例えばGM冷凍機(ギフォード・マクマホン型の小型ヘリウム冷凍機)が用いられている。このGM冷凍機は、主としてHeガス等の作動媒質を圧縮するコンプレッサ、圧縮した作動媒質を膨張させる膨張部及び膨張部で冷却させた作動媒質の冷却状態を維持するための極低温蓄冷器で構成されている。そして1分間に約60回のサイクルでコンプレッサによって圧縮された作動媒質を冷凍機で膨張させて冷却し、冷凍機の膨張部の先端部を通じて、被冷却系を冷却する。
【0003】
小型冷凍機の冷却能力や最低到達温度は、冷凍機に組み込まれている蓄冷材に依存し、蓄冷材は大きな熱容量をもち、かつ熱交換効率が高い必要がある。Pbなどの在来の金属蓄冷材では、10K以下の低温で熱容量が急激に低下する。そこで、液化ヘリウム温度(4.2K)付近で大きな熱容量を有するHoCu2やErNiなどの希土類金属間化合物蓄冷材が開発された(特許2609747号)。しかし希土類金属間化合物蓄冷材は、7K以下で熱容量が大きく低下し、4.2K付近の極低温領域での熱容量は0.3J/cc・K未満となる。極低温領域での冷凍能力を十分保持するには、その温度での蓄冷材の熱容量が0.3J/cc・K以上必要で、HoCu2ゃErNiなどの希土類金属間化合物の蓄冷材は極低温領域での冷凍能力が不十分である。また希土類金属間化合物は極めて高価であり、これを数百グラムオーダーで使用する蓄冷材も極めて高価になる。
【0004】
特許2609747号では、希土類金属間化合物蓄冷材を金属溶湯を急冷凝固して調製し、粒径は0.01〜3mmである。しかしこのような粒体を蓄冷器に最密充填するとHeガスの通気性が阻害され、熱交換効率が低下する。これ以外に、蓄冷材の粒体が冷凍機の運転中に破壊され、微粉が発生するとの問題もある。そこで特開平5-203272号等は、磁性金属間化合物の粒体を融点未満で焼結し、粒体を互いに安定に固定することを開示している。
【0005】
【発明の課題】
本発明の課題は、冷凍機の稼動中の、高圧Heガス等の作動媒質の往復運動による振動や衝撃、応力に耐え、かつ作動媒質との熱交換が容易で、極低温領域での比熱が大きい、希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材の製造方法を提供することにある。
【0006】
【発明の構成】
この発明は、一般式 R 2 O 2 S (Rは Yを含むLa, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuから選択される少なくとも1種類の希土類元素を表す。)で表される希土類オキシ硫化物をパイプ状のセラミックスに充填した、希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材の製造方法であって、顆粒状の希土類オキシ硫化物を、パイプ状のセラミックス成形体に充填し、前記顆粒とセラミックス成形体とをHIP焼結することにより、
a) 前記希土類オキシ硫化物の多孔質二次構造体を形成し、かつ該多孔質二次構造体内で希土類オキシ硫化物の一次粒子がネックで互いに焼結されてネットワークを形成するようにし、
b) さらに該多孔質二次構造体が三次元の網目構造となって接合し、かつパイプ状セラミックス焼結体と一体化されていることを特徴とする。
好ましくは、HIP焼結での、焼結温度を1150〜1350℃とし、圧力を50〜200MPa、焼結時間を1〜10時間とする。
また好ましくは、HIP焼結前に顆粒を仮焼することにより、充填した顆粒の収縮率を前記セラミックス成形体の収縮率以下にする。
【0007】
また好ましくは、前記二次構造体が三次元の網目構造となって接合し、かつパイプ状セラミックス焼結体と一体化されている。
【0008】
好ましくは、結晶粒子の平均結晶粒径を0.2〜5μmとする。
また好ましくは、多孔質二次構造体の相対密度を60〜85%とする。
好ましくは、パイプ状のセラミックス焼結体を、希土類酸化物または希土類オキシ硫化物とする。
特に好ましくは、パイプ状のセラミックス焼結体を、開気孔を有する多孔質の焼結体とする。
さらに好ましくは、パイプ状のセラミックス焼結体の厚みを2mm以上4mm以下とする。
【0009】
希土類オキシ硫化物の構成希土類元素は任意であるが、希土類金属間化合物よりも低温側の4〜7K程度に比熱のピーク温度を有し、液体ヘリウム温度への冷却に適したGdやTb、あるいは2〜4K程度に比熱のピーク温度を有し、液体ヘリウム温度よりもさらに低温への冷却に適したDyやHo等が好ましい。希土類オキシ硫化物蓄冷材では構成希土類元素を1種類とする必要はなく、例えばGdxTb2-xO2Sのように、2種類以上の構成希土類元素を用いても良い。好ましくは希土類オキシ硫化物での構成希土類元素の80原子%以上を、Gd,Tb,Dy,またはHoとする。
【0012】
【発明の作用と効果】
本発明に従って製造した希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材では、希土類オキシ硫化物の一次粒子がネックで互いに焼結されてネットワークを形成している多孔性二次構造体が三次元の網目構造となって接合し、パイプ状セラミックス焼結体と一体化されている。そして一次粒子の平均結晶粒径は例えば0.2〜5μm程度で、多孔質二次構造体の内部を高圧Heガス等の作動媒質が流れて一次粒子と熱交換し、熱交換効率を向上する。尚、パイプ状セラミックス焼結体を以下単にパイプと呼ぶことがあり、最終焼結前のパイプ状セラミックス成形体を未焼結のパイプと呼ぶことがある。
【0013】
本発明に従って製造した希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材では、細孔は、多孔質二次構造体間に形成されている数μm以下の細孔と、その網目構造によって形成されている直径数十μm程度のミクロポアの2種類で構成されている。そしてそれらは主に貫通孔であるため、作動媒質の流れが良く、そのことから熱交換効率に優れ、圧力損失が少ない。また本発明の多孔質二次構造体は一次粒子が互いにネックで焼結されているため強度が高く、さらにそれらが接合した網目構造体がパイプと一体化しているので、冷凍機の運転中に生じる振動や衝撃、あるいは応力等に耐えることができ、優れた冷凍能力を長時間保持できる。
【0014】
一次粒子となる希土類オキシ硫化物の結晶粒子は、Heガス等の通気性と熱交換効率のため、HIP焼結後で0.2〜5μmが好ましく、より好ましくは0.5〜3μm、さらに好ましくは0.9〜2μmとする。結晶粒子が5μmを越えると一次粒子の表面積が小さく熱交換効率が低下し、結晶粒子が0.2μm未満では、高圧Heガス等の通気性が低下し圧力損失が増大する。
【0015】
希土類オキシ硫化物を製造するには、例えば原料の希土類酸化物粉末を、加熱下でH2S, CH3SH等の酸化数−2の硫黄原子を含むガスを流して反応させて、希土類オキシ硫化物粉末とする。あるいは希土類酸化物粉末を造粒した後に、酸化数−2の硫黄原子を含むガスと反応させて希土類オキシ硫化物とする。希土類オキシ硫化物の顆粒の造粒方法は任意で、例えば転動造粒、押し出しと転動造粒との組み合せ、流動造粒、噴霧乾燥造粒、型押し造粒等でも良い。
【0016】
また、パイプ状のセラミックス成形体は種々の方法で製造でき、例えばプレス法、プレス法とCIP法との併用、押出法、鋳込み成形法によって成形できる。なお、プレス法、プレス法とCIP法の併用の際は、スプレードライヤーなどで、セラミックス成形体の原料粉末を顆粒状にして用いるのが好ましい。パイプの材質は好ましくは希土類オキシ硫化物または希土類酸化物として、パイプ自体に蓄冷能力を持たせ、さらに好ましくはパイプを多孔質として、パイプと作動媒質との熱交換を容易にする。
【0017】
多孔質二次構造体が三次元の網目構造体を形成し、かつそれらがパイプ状のセラミックス焼結体と一体化できるようにするため、例えばパイプ状のセラミックス成形体に充填する前記顆粒の収縮率が、パイプ状のセラミックス成形体の収縮率以下にする必要がある。そのため、前期顆粒をHIP焼結前に仮焼することが好ましい。
ここで言う収縮率は、初期寸法を仮焼後あるいは本焼結後の寸法と比較しての寸法比での収縮を意味し、体積収縮率ではない。前記顆粒を希土類オキシ硫化物と反応しにくい材料のルツボに収容し仮焼する。仮焼雰囲気は真空(10-3torr以下)やアルゴンなどの不活性ガスが好ましく、仮焼温度は1000〜1200℃が好ましく、仮焼時間は1〜5時間が好ましい。
【0018】
仮焼の前後での希土類オキシ硫化物顆粒の収縮率は例えば数%程度であり、仮焼後の多孔質二次構造体の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、仮焼の前後で一次粒子の大きさはあまり変化しない。またパイプ形状は例えば円筒状とするが、ハニカム状や角筒状などでも良い。ハニカム状の場合、セルの断面形状は特に限定されない。
【0019】
上記のパイプ状のセラミックス成形体を開気孔を有する多孔質にするため、セラミックス原料に有機物を添加し、成形後に熱処理して有機物を除去することが好ましい。有機物は例えば粉末パルプあるいは有機繊維が好ましく、特に700℃以下で除去できるものが好ましい。有機物の処理温度が700℃を越えると収縮が起こり、HIP焼結時の収縮率が低下して、パイプ状のセラミックスと多孔質二次構造体の一体化に支障をきたす恐れがある。
【0020】
有機物の添加量は成形体のセラミックス原料100重量%に対して10〜40重量%が好ましく、10重量%未満では十分な開気孔が得られず、焼結後のパイプの熱交換効率が低下する恐れがある。40重量%を越えると、HIP焼結でパイプを多孔質二次構造体を一体化させる過程での、内部応力に耐え切れず破壊を招く恐れがある。
【0021】
熱処理後のパイプ状のセラミックス成形体に、仮焼後の多孔質二次構造体を最密に充填する。パイプ状のセラミックス成形体に底がない場合は、パイプ状のセラミックス成形体と反応し難い材料で底を塞ぐと良い。パイプ状のセラミックス成形体の上部をそれと反応し難い材料で押え、HIP焼結を行う。焼結雰囲気(圧力媒体)にはアルゴン等の不活性ガスを用い、焼結温度は1150〜1350℃、特に1200〜1300℃が好ましく、圧力は50〜200MPaが好ましく、焼結時間は1〜10時間が好ましい。焼結時間は例えば最高温度での保持時間を意味する。
【0022】
【実施例】
【0023】
【試料1】
酸化ガドリニウムGd2O3の平均粒径は、フィッシャー法により0.46μmであった。この酸化ガドリニウムを石英ボートに充填し、石英反応管に硫化水素ガス H2Sを流しながら、650℃ で反応させた。反応生成物のX線回折では、ガドリニウムオキシ硫化物 Gd2O2Sのみのピークが認められ、希土類酸化物に対する反応収率は100%であった。得られたGd2O2S粉体(平均粒径0.46μm)を転動造粒して顆粒とした。Gd2O2S顆粒を形状分級せずに、グラファイト製のルツボの中に振動を加えながら最密充填し、その上にグラファイト製の蓋を置き、その状態で焼結炉内に配置した。その後アルゴン雰囲気(常圧)で、1100℃、3時間仮焼した。仮焼時の顆粒の線収縮率は3%程度であり、仮焼後の顆粒の表面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、一次粒子(結晶粒子)の大きさは仮焼前とほとんど変化していなかった。なお酸化ガドリニウムを造粒し顆粒とした後に硫化しても、あるいは仮焼後に硫化しても良い。
【0024】
パイプ状のセラミックス成形体を作製した。上記のGd2O2S粉末(仮焼無し)と、Gd2O2S粉末100重量%に対して20重量%の粉末パルプ(和光純薬製)と、解こう剤(A-6114、東亜合成製)と純水とを、アルミナボールを用いたボールミルで混合し、得られたスラリーを鋳込み成形法でパイプ状に成形し、550℃で5時間熱処理した。セラミックス粉末100重量%に対する粉末パルプの混合量(重量%単位)を、%単位で以下パルプ混合量と呼ぶ。パルプ混合量は後述のように10〜40%が好ましく、より好ましくは15〜30%とする。
【0025】
熱処理後のパイプ状のセラミックス成形体の底にグラファイト製のプレートを敷き、その内部に振動を加えながら仮焼後の多孔質二次構造体を最密充填した。またパイプ状のセラミックス成形体の上部にグラファイト製のプレートを設置し、炉内を真空排気した後にアルゴンガスを導入し、アルゴン雰囲気中でHIP焼結した。焼結温度を1250℃、圧力を150MPa、焼結時間を5時間として、Gd2O2S蓄冷材を得た。
【0026】
得られた蓄冷材の一部を切り出し、光学顕微鏡で観察したところ、図1〜3に示したように多孔質二次構造体が互いに接触した部分で接合して三次元の網目構造を形成しており、それらがパイプ状のセラミックスの内部と接合して一体化していた。そして三次元の網目構造内には数十〜百μm程度のミクロポアが存在し、液体ヘリウムの流路を形成していた。また多孔質二次構造体の接合部分を、ビデオハイスコ−プシステムによって画像解析したところ、接合部分の断面を内包する最小円の面積が、互いに接合した小さい方の多孔質二次構造体を内包する、最小球の最大断面積の15〜20%程度であった。さらに多孔質二次構造体の一部とパイプ状セラミックスの一部を切り出し、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察したところ、多孔質二次構造体に関しては一次粒子(結晶粒子)の平均粒径は1.1μmで、その細孔径は1μm以下であり(図4)、パイプ状セラミックスの微構造内には、多数の細孔が存在し、その多くは開気孔であった(図5)。そして相対密度は、多孔質2次構造体、パイプ状セラミックスともに約70%であった。HIP焼結後のパイプの厚みは約2.3mmであり、パイプ内の空間で多孔質二次構造体の三次元の網目構造が占める体積割合は約70%で、言い換えると、空隙率としては約30%である(試料1)。
【0027】
Gd2O2S蓄冷材のパイプの外径が蓄冷筒の内径に合うように研削加工し、超音波にて微粉を完全に除去した後、蓄冷筒に挿入して固定した。なお、蓄冷筒の内径は30mm、高さは30mmである。これを消費電力3.4kWの2段式GM冷凍機に組み込み、冷凍試験を行なった。高温側の1段目の蓄冷器にPbの顆粒を使用し、低温側の2段目の蓄冷器の高温側50vol%にHoCu2を使用し、2段目の蓄冷器の低温側50vol%に上記の蓄冷材を使用した。4.2Kにおける冷凍能力は1.92Wで、無負荷時の最低到達温度は2.63Kであった。そして連続3000時間冷凍機を運転しても、安定した出力を得ることができ、多孔質二次構造体の破壊に伴う微粉の発生は検出できなかった。
【0028】
Gd2O2S蓄冷材多孔質二次構造体の三次元の網目構造を形成した状態のみの冷凍特性を調査するため、パイプの内径が蓄冷筒の内径とほぼ同じ寸法になるように試料1と同じ手法を用いて作製した。その後パイプ部分を取り除いて蓄冷筒内部と同一寸法になるように加工し、超音波等によって微粉を完全に除去した後、蓄冷筒に挿入して固定した。これを試料1と同一手法で冷凍試験を行なった。4.2Kにおける冷凍能力の初期値は、試料1に比べ約10%向上した。そして連続1000時間冷凍機を運転しても、多孔質二次構造体の破壊に伴う微粉の発生は検出できなかった。しかし連続3000時間冷凍機を運転すると、多孔質二次構造体の破壊に伴う微粉の発生を確認した。
【0029】
蓄冷材の焼結法や焼結条件を変えて、蓄冷材の強度と冷凍特性とを評価した。試料1で用いたGd2O2Sの仮焼済みの顆粒を、熱処理済みのパイプ状のセラミックス成形体(Gd2O2S)に充填し、常圧のアルゴン雰囲気中で、焼結温度を1250℃とし、5時間焼結した。しかしながら多孔質二次構造体の三次元の網目構造は形成されず、当然パイプとの一体化は実現しなかった(試料2)。
【0030】
試料2での焼結温度が低すぎたため、常圧焼結で焼結温度を1350℃、1500℃に変化させた。1350℃焼結では、一次粒子間のネックは僅かに形成するが、多孔質二次構造体の三次元網目構造体は形成されず、当然パイプとの一体化は実現しなかった(試料3)。1500℃の常圧焼結では、顆粒自身が緻密体となり、目的とする蓄冷材を得ることができなかった(試料4)。
【0031】
HIP焼結での焼結条件を検討した。試料1で作製したGd2O2Sの仮焼済みの顆粒を熱処理後で未焼結のパイプ(Gd2O2S製)に充填し、アルゴン雰囲気(150MPa)で、焼結温度を1000℃、焼結時間を3時間とし、HIP焼結した。多孔質二次構造体の相対密度は約55%で、平均結晶粒径は0.1μmで、二次粒子の内部では一次粒子と一次粒子との間で僅かにネックが成長している程度であった。焼結後の蓄冷材を研削加工すると、加工中に二次粒子の一部が破壊した(試料5)。
【0032】
HIP焼結の条件を、1200℃でAr圧を200MPa、焼結時間を8時間として、試料1で用いた仮焼済みのGd2O2S顆粒を、Gd2O2Sパイプ(未焼結で熱処理済み)に最密充填して焼結した。多孔質二次構造体の相対密度は約65%、一次粒子の平均結晶粒径は0.9μmで、一次粒子間はネックで互いに結合され、多孔質二次構造体は互いに接合され、かつパイプの内面に多孔質二次構造体が一体化していた。焼結後のパイプの相対密度は約65%、多孔質二次構造体の空隙がパイプ内で占める割合は約35Vol%であった(試料6)。この試料を蓄冷筒に合わせて研削し、冷凍機で3000時間連続運転したが、多孔質二次構造体の崩壊に伴う微粉の発生は見られず、冷凍能力の初期値は試料1と同程度であった。
【0033】
HIP焼結の条件を、1300℃でAr圧を60MPa、焼結時間を3時間として、他は試料1と同様にして蓄冷材を作成した(試料7)。一次粒子の平均結晶粒径は1.3μmで、一次粒子間はネックで互いに結合され、多孔質二次構造体は互いに接合されて、パイプの内面に一体化していた。多孔質二次構造体の相対密度は75〜80%、パイプは多孔質で開気孔が存在し、パイプの相対密度は約75%であった。この試料を、蓄冷筒に合わせて研削し、冷凍機で3000時間連続運転したが、微粉の発生は生じず、冷凍能力の初期値は最低到達温度で2.63K、4.2Kでの冷凍能力で1.91Wであった。以上のことから、HIP焼結の温度は1150〜1350℃が好ましく、特に1200〜1300℃が好ましいことが判明した。Ar圧は50〜200MPa、特に60〜200MPaが好ましく、焼結時間は1〜10時間、特に3〜8時間が好ましいことが判明した。
【0034】
試料1で作製したGd2O2Sの顆粒(仮焼済み)を熱処理済みのGd2O2Sパイプに充填し、アルゴン雰囲気(100MPa)で、焼結温度を1500℃、焼結時間を3時間として、HIP焼結した。多孔質二次構造体の平均結晶粒径は5.8μmで、その相対密度は約90%であった。そしてパイプ内の空隙率(多孔質二次構造体の三次元網目構造体の占める割合)は10%以下で、その通気性が低すぎるため冷凍能力の評価をしなかった(試料8)。ただしHIPの圧力を50MPa以下、あるいは焼結時間を3時間以下に短縮するこにより、1500℃程度の焼結温度でも、一次粒子がネックで互いにネットワークを形成した多孔質二次構造体が三次元の網目構造となって接合し、かつそれらがパイプ内面で一体化した蓄冷材を得ることができる可能性がある。
【0035】
平均粒径が0.6μmの酸化ジスプロシウムを、試料1と同様に、硫化・造粒した。得られた顆粒を試料1と同様に仮焼し、熱処理済みのGd2O2Sパイプに充填し、1250℃で5時間Ar 150MPaでHIP焼結した(試料9)。この蓄冷材を蓄冷筒に合わせて研削し、冷凍機を3000時間連続しても、微粉は検出できなかった。冷凍能力に関しては、4.2Kでの冷凍能力が1.81Wで、最低到達温度は2.64Kであった。
【0036】
焼結後のパイプ状の肉厚を5mmとし、他は試料1と同様の蓄冷材を試作すると、4.2Kにおける冷凍能力の初期値は、試料1の約80%に低下した(試料10)。なお蓄冷材でパイプが占める体積割合は約30%であった。また厚さ1.2mmのパイプ状のセラミックス成形体を用いると、焼結時の内部応力のためパイプ状セラミックス焼結体に複数のクラックが生じた(試料11)。焼結後のパイプにクラックが生じない条件は、パイプの材質が希土類オキシ硫化物や希土類酸化物の場合、焼結後の肉厚を2mm以上とすることであった。これらのことから、パイプの肉厚は焼結後で2mm〜4mmが好ましい。
【0037】
パイプ状のセラミックス成形体の原材料で、Gd2O2S粉末100重量%に対して5重量%の粉末パルプを添加すると、4.2Kでの冷凍能力の初期値は試料1の冷凍能力の85〜90%程度であった(試料12)。蓄冷材中でパイプが占める容積は約30%なので、冷凍能力が85〜90%に低下すると、Gd2O2Sパイプも冷凍に寄与していることになる。Gd2O2S粉末100重量%に対して50重量%の粉末パルプを添加すると、焼結時の内部応力のためパイプ状焼結体に複数のクラックが生じた(試料13)。
【0038】
試料1で使用した酸化ガドリニウムに、酸化テルビウム(平均粒径0.69μm)を混合した以外は、試料1と同様に、硫化・造粒・充填・HIP焼結(1250℃,Ar150MPa,5時間)を行った。パイプは何れも試料1と同様のGd2O2Sパイプである。このようにして、ガドリニウム−テルビウム系オキシ硫化物(GdxTb2-xO2S,0≦X≦2)の一次粒子がネックで互いに結合されネットワークを形成する多孔質二次構造体と、パイプ状のセラミックス焼結体が一体化した多孔質集合体を得た(試料14〜17)。この蓄冷材は試料1と同様の構造を有しており、平均結晶粒径は0.5〜2μmの範囲にあり、多孔質二次構造体の相対密度は65〜75%の範囲にあった。また多孔質二次粒子間の空隙率は何れも20〜30%の範囲にあった。得られたGdxTb2-xO2S蓄冷材を用いて蓄冷器を構成し、その冷凍能力を試料1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
冷凍能力(4.2K)/W
試料 X 最低到達温度/ K 初期能力 3000 時間運転後
試料1 2 2.63 1.92 1.92
試料14 1.8 2.62 1.97 1.97
試料15 1 2.66 1.83 1.83
試料16 0.2 2.72 1.81 1.81
試料17 0 2.74 1.80 1.80
【0040】
実施例ではGdxTb2-xO2Sを中心に説明したが、他の希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材でも同様である。パイプは希土類オキシ硫化物を用いたが、希土類酸化物でも良く、極端な場合にはアルミナスピネルなどの希土類以外のセラミックスでも良い。なおGdxTb2-xO2SのX値を2にし、HIP温度を1350℃にすると、多孔質二次構造体の相対密度が80〜85%のGd2O2S系蓄冷材(Gd2O2Sパイプを使用)が得られた。パイプ内での多孔質二次構造体間の空隙率は40〜20Vol%が好ましく、パイプ自体の相対密度は50〜80%程度が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】Gd2O2Sセラミックス蓄冷材での多孔質二次構造体が三次元の網目構造となって接合し、パイプ状セラミックス焼結体と一体化されていること示す光学顕微鏡写真で、倍率は84倍である。
【図2】Gd2O2Sセラミックス蓄冷材での多孔質二次構造体が三次元の網目構造となって接合した部分を詳細に示した光学顕微鏡写真で、倍率は166倍である。
【図3】Gd2O2Sセラミックス蓄冷材での多孔質二次構造体とパイプ状セラミックス焼結体の接合部分を詳細に示した光学顕微鏡写真で、倍率は166倍である。
【図4】Gd2O2Sセラミックス蓄冷材多孔質二次構造体の構成粒子に関する微構造を示す電子顕微鏡写真で、下部の水平なバーは2μm長を示す。
【図5】Gd2O2Sセラミックス蓄冷材のパイプ状セラミックスの壁部分に関する微構造を示す電子顕微鏡写真で、下部の水平なバーは100μm長を示す。

Claims (3)

  1. 一般式 R2O2S (Rは Yを含むLa, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuから選択される少なくとも1種類の希土類元素を表す。)で表される希土類オキシ硫化物を、パイプ状のセラミックスに充填した、希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材の製造方法であって、
    顆粒状の希土類オキシ硫化物を、パイプ状のセラミックス成形体に充填し、
    前記顆粒とセラミックス成形体とをHIP焼結することにより、
    a) 前記希土類オキシ硫化物の多孔質二次構造体を形成し、かつ該多孔質二次構造体で希土類オキシ硫化物の一次粒子がネックで互いに焼結されてネットワークを形成するようにし、
    b) さらに該多孔質二次構造体が三次元の網目構造となって接合し、かつパイプ状セラミックス焼結体と一体化されていることを特徴とする、希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材の製造方法。
  2. 前記HIP焼結での、焼結温度を1150〜1350℃、圧力を50〜200MPa、焼結時間を1〜10時間とすることを特徴とする、請求項1の希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材の製造方法。
  3. 前記HIP焼結前に前記顆粒を仮焼することにより、充填した顆粒の収縮率を前記セラミックス成形体の収縮率以下にすることを特徴とする、請求項1の希土類オキシ硫化物セラミックス蓄冷材の製造方法。
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