JP4258192B2 - 有機電界発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」という)に関し、詳しくは、特定の電荷輸送性ポリマーを用いた有機電界発光素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電界発光素子(以下、「EL素子」と記述する)は、自発光性の全固体素子であり、視認性が高く衝撃にも強いため、広く応用が期待されている。現在は無機螢光体を用いたものが主流であるが、200V以上の交流電圧が駆動に必要なため製造コストが高く、また輝度が不十分等の問題点を有している。
【0003】
一方、有機化合物を用いたEL素子研究は、最初アントラセン等の単結晶を用いて始まったが、単結晶の場合、膜厚が1mm程度と厚く100V以上の駆動電圧が必要であった。そのため蒸着法による薄膜化が試みられている(非特許文献1参照)。しかしながら、この方法で得られた薄膜は、駆動電圧が30Vと未だ高く、また、膜中における電子・ホールキャリアの密度が低く、キャリアの再結合によるフォトンの生成確率が低いため十分な輝度が得られなかった。
【0004】
ところが近年、ホール輸送性有機低分子化合物と電子輸送能を持つ螢光性有機低分子化合物の薄膜を真空蒸着法により順次積層した機能分離型のEL素子において、10V程度の低電圧で1000cd/m2以上の高輝度が得られるものが報告されており(非特許文献2参照)、以来、積層型のEL素子の研究・開発が活発に行われている。これら積層型の素子は、電極から電荷輸送性の有機化合物からなる電荷輸送層を介してホールと電子のキャリアバランスを保ちながら螢光性有機化合物からなる発光層に注入され、発光層中に閉じ込められたホールと電子が再結合することにより高輝度の発光を実現している。
【0005】
しかしながら、このタイプのEL素子では、複数の蒸着工程において0.1μm以下の薄膜を形成していくためピンホールを生じ易く、十分な性能を得るためには厳しく管理された条件下で膜厚の制御を行うことが必要である。従って、生産性が低くかつ大面積化が難しいという問題がある。また、このEL素子は数mA/cm2という高い電流密度で駆動されるため、大量のジュール熱を発生する。このため、蒸着によってアモルファスガラス状態で成膜されたホール輸送性低分子化合物や螢光性有機低分子化合物が次第に結晶化して最後には融解し、輝度の低下や絶縁破壊が生じるという現象が多く見られ、その結果素子の寿命が低下するという問題も有していた。
【0006】
そこで、EL素子の熱安定性に関する問題の解決のために、ホール輸送材料として安定なアモルファスガラス状態が得られるスターバーストアミンを用いたり(例えば、非特許文献3参照)、ポリフォスファゼンの側鎖にトリフェニルアミンを導入したポリマーを用いたり(非特許文献4参照)したEL素子が報告されている。しかし、これら単独ではホール輸送材料のイオン化ポテンシャルに起因するエネルギー障壁が存在するため、陽極からのホール注入性或いは発光層へのホール注入性を満足するものではない。また、前者のスターバーストアミンの場合、溶解性が小さいために精製が難しく純度を上げることが困難であることや、後者のポリマーの場合、高い電流密度が得られず十分な輝度が得られてない等の問題も存在する。
【0007】
一方、積層型有機EL素子における生産性と大面積化に関する問題の解決を目指し、単層構造の有機EL素子についても研究・開発が進められ、ポリ(p−フェニレンビニレン)等の導電性高分子を用いた素子(例えば、非特許文献5参照)や、ホール輸送性ポリビニルカルバゾール中に電子輸送材料と螢光色素を混入した素子(非特許文献6参照)が提案されているが、未だ輝度、発光効率等が有機低分子化合物を用いた積層型有機EL素子には及ばない。さらに、作製法においては、製造の簡略化、加工性、大面積化、コスト等の観点から湿式による塗布方式が望ましく、キャステイング法によっても素子が得られることが報告されている(非特許文献7、非特許文献8参照)。しかし、電荷輸送材料の溶剤や樹脂に対する溶解性や相溶性が悪いため結晶化しやすく、製造上あるいは特性上に問題があった。
【0008】
【非特許文献1】
Thin Solid Films,Vol.94,171(1982)
【非特許文献2】
Applied Physics Letter,Vol.51,913(1987)
【非特許文献3】
第40回応用物理学関係連合講演会予稿集30a−SZK−14(1993)
【非特許文献4】
第42回高分子討論会予稿集20J21(1993)
【非特許文献5】
Nature, Vol.357, 477(1992)
【非特許文献6】
第38回応用物理学関係連合講演会予稿集31p−g−12(1991)
【非特許文献7】
第50回応用物理学会学術講演予稿集,29p−ZP−5(1989)
【非特許文献8】
第51回応用物理学会学術講演予稿集,28a−PB−7(1990)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の目的は、十分な輝度を有し、安定性および耐久性に優れ、且つ大面積化可能であり製造容易な有機EL素子を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため電荷輸送材料に関し鋭意検討した結果、下記一般式(I−1)で示される構造より選択された少なくとも1種を部分構造として含む電荷輸送性ポリウレタンが、有機EL素子として好適なホール注入特性、ホール移動度、薄膜形成能を有することを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の有機電界発光素子は、
<1> 少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極間に挾持された一つ又は複数の有機化合物層より構成される電界発光素子において、
前記有機化合物層の少なくとも一層が、下記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ下記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有することを特徴とする有機電界発光素子である。
【化1】
〔一般式(I−1)中、Arは、置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の縮合環芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環、又は、少なくとも1種の芳香族複素環を含む置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表し、Xは下記構造式(1)を表し、kは1を表す。〕
【化2】
〔一般式(II−1)中、Aは前記一般式(I−1)で示される構造から選択される少なくとも1種を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または、置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基、または、炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表し、YおよびZは2価のジイソシアネート、アルコール、または、アミン残基を表し、mは0または1を表し、pは5〜5,000の整数を表す。〕
【0012】
<2> 前記一般式(I−1)中、Arは、下記式(2)または式(3)で示される基であることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子である。
【化3】
<3> 前記有機化合物層が、少なくとも発光層及び電子輸送層から構成され、前記発光層及び前記電子輸送層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ前記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有してなることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子である。
【0013】
<4> 前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<3>に記載の有機電界発光素子である。
【0014】
<5> 前記有機化合物層が、少なくともホール輸送層、発光層及び電子輸送層から構成され、前記ホール輸送層及び前記電子輸送層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ前記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有してなることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子である。
【0015】
<6> 前記有機化合物層が、発光層のみから構成され、前記発光層が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ前記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有してなることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子である。
【0016】
<7> 前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<6>に記載の有機電界発光素子である。
【0017】
<8> 前記有機化合物層が、少なくともホール輸送層及び発光層から構成され、前記ホール輸送層及び前記発光層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ前記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有してなることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子である。
【0018】
<9> 前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする<8>に記載の有機電界発光素子である。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の有機電界発光素子は、少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極間に挾持された一つ又は複数の有機化合物層より構成される電界発光素子において、前記有機化合物層の少なくとも一層が、下記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ下記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有することを特徴とする。
【0022】
本発明の有機EL素子は、前記電荷輸送性ポリウレタンを含有してなる層を有することで、十分な輝度を有し、安定性および耐久性に優れる。さらに、前記電荷輸送性ポリウレタンを用いることで、大面積化可能であり、容易に製造可能である。また、前記電荷輸送性ポリウレタンは、後述するような構造を適宜選択することで、ホール輸送能、電子輸送能のいずれの機能をも付与することができる。このため、目的に応じてホール輸送層、発光層、電荷輸送層等のいずれの層にも用いることができる。
【0023】
【化7】
【0024】
但し、一般式(I−1)中、Arは、置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の多核芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の縮合環芳香族炭化水素、置換もしくは未置換の1価の芳香族複素環、又は、少なくとも1種の芳香族複素環を含む置換もしくは未置換の1価の芳香族基を表す。
【0025】
一般式(I−1)中において、Arを表す構造として選択される多核芳香族炭化水素および縮合環芳香族炭化水素を構成する芳香環数は特に限定されないが、芳香環数が2〜5のものが好ましく、縮合環芳香族炭化水素においては、全縮合環芳香族炭化水素が好ましい。なお、当該多核芳香族炭化水素および縮合環芳香族炭化水素とは、本発明においては、具体的には以下に定義される多環式芳香族のことを意味する。
【0026】
即ち、「多核芳香族炭化水素」とは、炭素と水素とから構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が、炭素―炭素の単結合によって結合している炭化水素化合物を表す。具体例としては、ビフェニル、ターフェニル等が挙げられる。
また、「縮合環芳香族炭化水素」とは、炭素と水素とから構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が、1対の隣接して結合する炭素原子を共有している炭化水素化合物を表す。具体例としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン等が挙げられる。
なお、全ての芳香環が縮合環構造のより連続的に隣接してなる縮合環芳香族炭化水素を「全縮合環芳香族炭化水素」という。一方、これ以外の縮合環芳香族炭化水素を「部分縮合環芳香族炭化水素」という。
【0027】
また、Arを表す構造のひとつとして選択される芳香族複素環は、炭素と水素以外の元素も含む芳香環を表す。その環骨格を構成する原子数(Nr)は、Nr=5及び/又は6が好ましく用いられる。また環骨格を構成するC以外の元素(異種元素)の種類及び数は特に限定されないが、例えば、S、N、O等が好ましく用いられ、前記環骨格中には2種類以上及び/又は2個以上の異種原子が含まれていてもよい。特に5員環構造を持つ複素環としては、チオフェン、チオフィン及びフランもしくはこれらの3位及び4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環、ピロールもしくはこれらの3位及び4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環が好ましく用いられ、6員環構造をもつ複素環として、ピリジンが好ましく用いられる。
【0028】
さらに、Arを表す構造のひとつとして選択される芳香族複素環を含む芳香族基は、骨格を構成する原子団中に、少なくとも1種の前記芳香族複素環を含む結合基を表す。これらは、すべてが共役系で構成されたもの、或いは一部が非共役系で構成されたもののいずれでもよいが、電荷輸送性や発光効率の点で、すべてが共役系で構成されたものが好ましい。
【0029】
Arを表す構造として選択されるベンゼン環、多核芳香族炭化水素、縮合環芳香族炭化水素または複素環の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アリール基、アラルキル基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アルコキシル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる、アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。置換アミノ基の置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、具体例は前述の通りである。
【0030】
一般式(I−1)中、Xは下記構造式(1)を表す。
【0031】
【化8】
【0035】
また、一般式(I−1)中、kは1を表す。
【0036】
以下、一般式(I−1)で示される構造の具体例を表6、表7に示す。但し、本発明は、これら具体例に限定されるわけではない。なお、表6、表7に示す構造番号は一般式(I−1)で示される構造の具体例を示す。
【0042】
【表6】
【0043】
【表7】
【0048】
【表12】
【0058】
本発明に用いられる電荷輸送性ポリウレタンは、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり、
前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなる電荷輸送性ポリウレタンが、下記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有する。
【0059】
【化10】
【0060】
但し、一般式(II−1)中、Aは前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を表し、一つのポリマー中に2種類以上の構造Aが含まれてもよい。
また、一般式(II−1)中、Rは水素原子、アルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる、アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。また、置換アリール基、置換アラルキル基の置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0061】
一般式(II−1)中、Tは、炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を示し、好ましくは炭素数が2〜6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数3〜7の2価の分枝鎖状炭化水素基より選択される。以下にTで表される構造の具体例を示す。
【0062】
【化11】
【0063】
一般式(II−1)中、YおよびZは2価のジイソシアネート、アルコール、または、アミン残基を表す。YおよびZは、具体的には下記の式(23)〜(29)から選択された基が挙げられる。
【0064】
【化12】
【0065】
式(23)〜(29)中、R3およびR4は、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、置換もしくは未置換のフェニル基、置換もしくは未置換のアラルキル基、または、ハロゲン原子を表し、dおよびeはそれぞれ1〜10の整数を意味し、fは0、1または2の整数を意味し、hおよびiはそれぞれ0または1を意味し、Vは式(4)〜(22)で示される2価の置換基より選択される。
【0066】
一般式(II−1)中、mは0または1を表し、pは5〜5,000の整数を表すが、好ましくは10〜1,000の範囲である。
【0067】
以下、一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンの具体例を表22〜26に示すが、本発明は、これら具体例に限定されるわけではない。なお、表22〜26において、部分構造を示す「A」の欄の番号は、表1〜21の「構造」の欄の番号(構造番号)に対応する一般式(I−1)で表される構造の具体例に対応している。また、表22〜26において、「Z」の欄が「−」と記載されている場合は一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンの具体例を示す。また、「化合物」の欄に記載された括弧付きの番号に対応する具体例は、例えば、15の番号を付した具体例については以下、例示化合物(15)と表現する。
【0068】
【表22】
【0069】
【表23】
【0070】
【表24】
【0071】
【表25】
【0072】
【表26】
【0073】
以上に説明したような電荷輸送性ポリウレタンの重量平均分子量Mwは、10,000〜300,000の範囲にあるのが好ましい。
電荷輸送性ポリウレタンは、下記一般式(III−1)〜(III−4)で示される電荷輸送性モノマーを、例えば、第4版実験化学講座第28巻(丸善、1992)、新高分子実験学第2巻(共立出版、1995)、等に記載された公知の方法で重合させることによって合成することができる。なお、一般式(III−1)〜(III−4)中、AおよびTで示される構造は、前記一般式(II−1)中において示される構造AおよびTと同様であり、mも同様に0または1を表す。
【0074】
【化13】
【0075】
具体的には、例えば、一般式(III−1)および(III−2)で示される電荷輸送性モノマーの場合、電荷輸送性ポリウレタンは、次のようにして合成することができる。電荷輸送性モノマーが一般式(III−1)で示される2価アルコールの場合には、OCN−Y−NCOで示されるジイソシアネート類と当量混合し、また電荷輸送性モノマーが一般式(III−2)で示されるジイソシアネート類の場合には、HO−Y−OHで示される2価アルコール類と当量混合し、重付加する。触媒としては、ジラウリル酸ジブチルスズ(II)、二酢酸ジブチルスズ(II)、ナフテン酸鉛等の有機金属化合物といった通常の重付加によるポリウレタン合成反応に用いるものが使用できる。また、芳香族系のジイソシアネートを電荷輸送性ポリウレタンの合成に用いる場合には、トリエチレンジアミン等の第三アミンを触媒として用いる事ができる。これら有機金属化合物と第3アミンは触媒として混合して用いても良い。触媒の量は、電荷輸送性モノマー1重量部に対して、1/10,000〜1/10重量部、好ましくは1/1,000〜1/50重量部の範囲で用いられる。溶剤は、電荷輸送性モノマーとジイソシアネート、もしくは2価アルコール類を溶解するものであれば、任意の溶剤を用いることができるが、反応性の点から極性の低い溶媒やアルコールとの水素結合を生じない溶媒を用いることが好ましく、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効である。溶剤の量は、電荷輸送性モノマー1重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できる。
【0076】
反応終了後は、反応溶液をそのまま、メタノール、エタノール等のアルコール類や、アセトン等のポリマーが溶解しにくい貧溶剤中に滴下し、電荷輸送性ポリウレタンを析出させて分離した後、水や有機溶剤で十分洗浄し、乾燥させる。更に、必要であれば適当な有機溶剤に溶解させ、貧溶剤中に滴下し、電荷輸送性ポリウレタンを析出させる再沈殿処理を繰り返してもよい。再沈殿処理の際には、メカニカルスターラー等で、効率よく撹拌しながら行うことが好ましい。再沈殿処理の際に電荷輸送性ポリウレタンを溶解させる溶剤は、電荷輸送性ポリウレタン1重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部の範囲で用いられる。また、貧溶剤は電荷輸送性ポリウレタン1重量部に対して、1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部の範囲で用いられる。
【0077】
一般式(III−3)および(III−4)で示される電荷輸送性モノマーの場合、電荷輸送性ポリウレタンは、次のようにして合成することができる。電荷輸送性モノマーが一般式(III−3)で示されるビスクロロホルメートの場合には、2HN−Y−NH2で示されるジアミン類と当量混合し、また電荷輸送性モノマーが一般式(III−4)で示されるジアミン類の場合には、ClOCO−Y−OCOClで示されるビスクロロホルメート類と当量混合し、重縮合する。溶剤としては、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、電荷輸送性モノマー1重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できる。重合後は、前述のように再沈殿処理により精製する。
【0078】
また、2HN−Y−NH2で示されるジアミン類が塩基性度の高い場合には、界面重合法も用いることができる。すなわち、ジアミン類を水に加え、当量の酸を加えて溶解させた後、激しく撹拌しながらジアミン類と前述の一般式(III−3)で示される当量の電荷輸送性モノマー溶液を加えることによって重合できる。この際、水はジアミン類1重量部に対して、1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部の範囲で用いられる。電荷輸送性モノマーを溶解させる溶剤としては、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効である。反応温度は任意に設定でき、反応を促進するために、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の相間移動触媒を用いることが効果的である。相間移動触媒は、電荷輸送性モノマー1重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部の範囲で用いられる。
【0079】
次に、本発明の有機EL素子の層構成について詳記する。
本発明の有機EL素子は、少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極と、それら電極間に挾持された発光層を含む一つまたは複数の有機化合物層より構成され、前記有機化合物層の少なくとも1層が、前記電荷輸送性ポリウレタンを含有してなるものであれば特に限定されない。
【0080】
本発明の有機EL素子が、1つの有機化合物層を含む場合、この有機化合物層は発光層(キャリア輸送能を持つ発光層)を意味し、このキャリア輸送能を持つ発光層が前記電荷輸送性ポリウレタンを含有してなる。
一方、複数の有機化合物層を含む場合(機能分離型の場合)は、少なくともいずれか一の有機化合物層が発光層(この発光層はキャリア輸送能を持っていてもよいし、なくてもよい)である。また、発光層以外の他の有機化合物層は、キャリア輸送層、すなわち、ホール輸送層、電子輸送層、又は、ホール輸送層及び電子輸送層よりなるものを意味し、これらの少なくとも一層が前記電荷輸送性ポリウレタンを含有してなる。
本発明の有機EL素子が複数の有機化合物層を含む場合の層構成の具体例としては、例えば、少なくとも発光層及び電子輸送層から構成される場合、少なくともホール輸送層、発光層及び電子輸送層から構成される場合、或いは、少なくともホール輸送層及び発光層から構成される場合等が挙げられるが、有機電界発光素子として発光可能な層構成であればこれに限定されるものではない。
【0081】
本発明の有機EL素子においては、発光層が、電荷輸送性材料(前記電荷輸送性ポリウレタン以外のホール輸送性材料、電子輸送性材料)を含有してもよい。詳しくは、後述する。
以下、図面を参照しつつ、より詳細に説明するが、これらに限定されるわけではない。
【0082】
図1〜図4は、本発明の有機EL素子の層構成を説明するための模式的断面図であって、図1、図2、図4の場合は、有機化合物層が複数の場合の一例であり、図3の場合は、有機化合物層が1つの場合の例を示す。なお、図1〜図4において、同様の機能を有するものは同じ符号を付して説明する。
【0083】
図1に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、キャリア輸送能を持つ発光層6、電子輸送層5及び背面電極7を順次積層してなる。図2に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、ホール輸送層3、発光層4、電子輸送層5及び背面電極7を順次積層してなる。図3に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、キャリア輸送能を持つ発光層6及び背面電極7を順次積層してなる。図4に示す有機EL素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、ホール輸送層3、キャリア輸送能を持つ発光層6及び背面電極7を順次積層してなる。以下、各々を詳しく説明する。
【0084】
なお、図1、図2に示す有機EL素子は、発光材料(発光層)が、明確な電子輸送性を示さないものを用いる場合に、有機EL素子の耐久性向上或いは発光効率の向上を図る目的で、発光層4(図2の場合)或いはキャリア輸送能を持つ発光層6(図1の場合)と、背面電極7と、の間に電子輸送層5を設けた層構成である。
【0085】
本発明において前記電荷輸送性ポリウレタンを含有する有機化合物層は、その構造によっては、図1に示される有機EL素子の層構成の場合、電子輸送層5や、キャリア輸送能を持つ発光層6として機能することがき、図2に示される有機EL素子の層構成の場合、ホール輸送層3、電子輸送層5として機能することができ、図3に示される有機EL素子の層構成の場合、キャリア輸送能を持つ発光層6として機能することができ、図4に示される有機EL素子の層構成の場合、ホール輸送層3や、キャリア輸送能を持つ発光層6として機能することができる。
【0086】
図1〜図4に示される有機EL素子の層構成の場合、透明絶縁体基板1は、発光を取り出すため透明なものが好ましく、ガラス、プラスチックフィルム等が用いられる。また、透明電極2は、透明絶縁体基板1と同様に発光を取り出すため透明であって、かつホールの注入を行うため仕事関数の大きなものが好ましく、酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム、酸化亜鉛等の酸化膜、および蒸着或いはスパッタされた金、白金、パラジウム等が用いられる。
【0087】
図2及び図4に示される有機EL素子の層構成の場合、ホール輸送層3は、目的に応じて機能(ホール輸送能)が付与された電荷輸送性ポリウレタン単独で形成されていてもよいが、ホール移動度を調節するために電荷輸送性ポリウレタン以外のホール輸送材料を1重量%ないし50重量%の範囲で混合分散して形成されていてもよい。このようなホール輸送材料としては、テトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導、スチルベン誘導体、アリールヒドラゾン誘導体、ポルフィリン系化合物等が挙げられ、特に好適な具体例として下記化合物(IV−1)〜(IV−8)が挙げられる。なお、化合物(IV−6)〜(IV−8)において、nは1以上の整数を意味する。
さらに、上記に列挙したホール輸送材料の中でも、電荷輸送性ポリウレタンとの相容性の良さの観点からは、テトラフェニレンジアミン誘導体が好ましい。また、他の汎用の樹脂等との混合でもよい。
なお、ホール輸送層3を構成する材料として前記電荷輸送性ポリウレタンを用いない場合には、ホール輸送層3は上記のホール輸送性材料単独で形成される。
【0088】
【化14】
【0089】
【化15】
【0090】
図2に示される有機EL素子の層構成の場合、発光層4には、固体状態で高い蛍光量子収率を示す化合物が発光材料として用いられる。発光材料が有機低分子の場合、真空蒸着法により、もしくは、低分子と結着樹脂を含む溶液または分散液を塗布・乾燥することにより良好な薄膜形成が可能であることが条件である。また、発光材料が高分子の場合、この高分子自身を含む溶液または分散液を塗布・乾燥することにより良好な薄膜形成が可能であることが条件である。
発光材料が有機低分子の場合、キレート型有機金属錯体、多核または縮合芳香環化合物、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体等が好適に用いられ、高分子の場合、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体等が好適に用いられる。このような発光材料の好適な具体例としては、下記化合物(V−1)〜(V−15)が挙げられるが、これらに限定されたものではない。なお、化合物(V−13)〜(V−15)中、nおよびxは1以上の整数を示す。
【0091】
【化16】
【0092】
【化17】
【0093】
また、発光層4には、有機EL素子の耐久性向上或いは発光効率の向上を目的として、上記発光材料中にゲスト材料として発光材料と異なる色素化合物をドーピングしてもよい。真空蒸着によって発光層を形成する場合、共蒸着によってドーピングを行い、溶液または分散液を塗布・乾燥することで発光層を形成する場合、溶液または分散液中に混合することでドーピングを行う。発光層中における色素化合物のドーピングの割合としては0.001重量%〜40重量%程度、好ましくは0.01重量%〜10重量%程度である。このようなドーピングに用いられる色素化合物としては、発光材料との相容性が良く、かつ発光層の良好な薄膜形成を妨げない有機化合物が用いられ、好適にはDCM誘導体、キナクリドン誘導体、ルブレン誘導体、ポルフィリン系化合物等が挙げられる。好適な具体例として、下記の化合物(VI−1)〜(VI−4)が用いられるが、これらに限定されたものではない。
【0094】
【化18】
【0095】
図1及び図2に示される有機EL素子の層構成の場合、電子輸送層5は、目的に応じて機能(電子輸送能)が付与された前記電荷輸送性ポリウレタン単独で形成されていてもよいが、電気的特性をさらに改善する等の目的で、電子移動度を調節するために、電荷輸送性ポリウレタン以外の電子輸送材料を1重量%ないし50重量%の範囲で混合分散して形成されていてもよい。このような電子輸送材料としては、好適にはオキサジアゾール誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体等が挙げられる。好適な具体例として、下記化合物(VII−1)〜(VII−3)が挙げられるが、これらに限定されたものではない。なお、前記電荷輸送性ポリウレタンを用いない場合、これら電子輸送性材料単独で形成されることとなる。
【0096】
【化19】
【0097】
図1、図3又は図4に示される有機EL素子の層構成の場合、キャリア輸送能を持つ発光層6は、目的に応じて機能(ホール輸送能、或いは電子輸送能)が付与された前記電荷輸送性ポリウレタン中に発光材料を50重量%以下の割合で分散させた有機化合物層であり、発光材料としては前記化合物(V−1)〜(V−15)が好適に用いられるが、有機EL素子に注入されるホールと電子のバランスを調節するために前記電荷輸送性ポリウレタン以外の電子輸送材料を10重量%〜50重量%分散させてもよい。
【0098】
このような電子輸送材料としては、前記電荷輸送性ポリウレタンと強い電子相互作用を示さない有機化合物が用いられることが好ましく、より好ましくは下記化合物(VIII)が用いられるが、これに限定されるものではない。同様にホール移動度を調節するために、電荷輸送性ポリウレタン以外のホール輸送材料、好ましくはテトラフェニレンジアミン誘導体を適量同時に分散させて用いてもよい。また、図2で示される有機EL素子の発光層4と同様、発光材料と異なる色素化合物をドーピングしてもよい。
【0099】
【化20】
【0100】
図1〜図4に示される有機EL素子の層構成の場合、背面電極7には、真空蒸着可能で、電子注入を行うため仕事関数の小さな金属が使用されるが、特に好ましくはマグネシウム、アルミニウム、銀、インジウムおよびこれらの合金が使用される。また、背面電極7上には、さらに有機EL素子の水分や酸素による劣化を防ぐために保護層を設けてもよい。具体的な保護層の材料としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Alなどの金属、MgO、SiO2、TiO2棟の金属酸化物、ポリエチレン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が挙げられる。保護層の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ重合法、CVD法、コーティング法が適用できる。
【0101】
これら図1〜図4に示される有機EL素子は、まず透明電極2の上に各有機EL素子の層構成に応じて、ホール輸送層3或いはキャリア輸送能を持つ発光層6を形成する。ホール輸送層3及びキャリア輸送能を持つ発光層6は、上記各材料を真空蒸着法、もしくは有機溶媒中に溶解或いは分散し、得られた塗布液を用いて前記透明電極2上にスピンコーティング法、ディップ法等を用いて成膜することにより形成する。
【0102】
次に、各有機EL素子の層構成に応じて、ホール輸送層3、発光層4、電子輸送層5或いはキャリア輸送能を持つ発光層6は、上記各材料を、真空蒸着法により成膜することにより、もしくは、有機溶媒中に溶解或いは分散し得られた塗布液を用いて前記透明電極上にスピンコーティング法、ディップ法等を用いて成膜することにより形成される。
【0103】
形成されるホール輸送層3、発光層4及び電子輸送層5の膜厚は、各々0.1μm以下であることが好ましく、特に0.03〜0.08μmの範囲であることがより好ましい。また、キャリア輸送能を持つ発光層6の膜厚は、0.03〜0.2μm程度が好ましい。上記各材料(前記電荷輸送性ポリウレタン、発光材料等)の分散状態は分子分散状態でも微粒子分散状態でも構わない。塗布液を用いた成膜法の場合、分子分散状態とするためには、分散溶媒は上記各材料の共通溶媒を用いる必要があり、微粒子分散状態とするために分散溶媒は上記各材料の分散性及び溶解性を考慮して選択する必要がある。微粒子状に分散するためには、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー、アトライター、ボールミル、ホモジェナイザー、超音波法等が利用できる。
【0104】
そして、最後に、図1及び2に示す有機EL素子の場合には、電子輸送層5の上に背面電極7を、図3及び4に示す有機EL素子の場合には、キャリア輸送能を持つ発光層6の上に背面電極7を、真空蒸着法等により形成することにより本発明の有機EL素子が完成される。
このようにして作製された本発明の有機EL素子は、一対の電極間に、例えば、4〜20Vで、電流密度1〜200mA/cm2の直流電圧を印加することによって発光させることができる。
【0105】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を説明する。
まず、後述する実施例及び参考例に示す有機EL素子の作製に用いた電荷輸送性ポリウレタンは、例えば以下のようにして合成した。
【0106】
−合成例1〔例示化合物(11)〕−
下記化合物(IX−1)2.0gおよびクロロベンゼン30mlを50mlのフラスコに入れて攪拌し溶解させ、このフラスコ中にヘキサメチレンジイソシアネート0.54gをクロロベンゼン10mlに溶解した溶液を30分かけて滴下した後、窒素気流下、150℃で2時間加熱攪拌した。
反応終了後、室温まで冷却した反応溶液を、メタノール300mlを撹拌している容器中に滴下してポリマーを析出させた。次に析出したポリマーを濾過し、十分にメタノールで洗浄し乾燥させ、テトラヒドロフラン(THF)30mlに溶解して得られた溶液を、上記と同様にメタノール300mlに析出させた。
このようなポリマーの濾過、洗浄、乾燥、溶解、析出操作を3回繰り返すことによって、1.8gの電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(11)〕を得た。この電荷輸送性ポリウレタンの分子量をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて測定したところ、重量平均分子量Mwは5.15×104(スチレン換算)であり、重量平均分子量Mwをモノマー(一般式(II−1)の繰り返し単位構造に相当)の分子量で割ることにより求めたp(数平均重合度)は約90であった。
【0107】
【化21】
【0108】
−合成例2〔例示化合物(47)〕−
下記化合物(IX−2)2.0gおよびクロロベンゼン30mlを50mlのフラスコに入れて攪拌し溶解させ、このフラスコ中にヘキサメチレンジイソシアネート0.52gをクロロベンゼン10mlに溶解した溶液を30分かけて滴下した後、窒素気流下、150℃で2時間加熱攪拌した。
反応終了後、室温まで冷却した反応溶液を、メタノール300mlを撹拌している容器中に滴下してポリマーを析出させた。次に析出したポリマーを濾過し、十分にメタノールで洗浄し乾燥させ、テトラヒドロフラン(THF)30mlに溶解して得られた溶液を、上記と同様にメタノール300mlに析出させた。
このようなポリマーの濾過、洗浄、乾燥、溶解、析出操作を3回繰り返すことによって、2.1gの電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(47)〕を得た。この電荷輸送性ポリウレタンの分子量をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて測定したところ、重量平均分子量Mwは6.23×104(スチレン換算)であり、重量平均分子量Mwをモノマー(一般式(II−1)の繰り返し単位構造に相当)の分子量で割ることにより求めたp(数平均重合度)は約70であった。
【0109】
【化22】
【0110】
−合成例3〔例示化合物(48)〕−
下記化合物(IX−3)2.0gおよびクロロベンゼン30mlを50mlのフラスコに入れて攪拌し溶解させ、このフラスコ中にヘキサメチレンジイソシアネート0.52gをクロロベンゼン10mlに溶解した溶液を30分かけて滴下した後、窒素気流下、150℃で3時間加熱攪拌した。
反応終了後、室温まで冷却した反応溶液を、メタノール300mlを撹拌している中に滴下してポリマーを析出させた。次に析出したポリマーを濾過し、十分にメタノールで洗浄し乾燥させ、テトラヒドロフラン(THF)30mlに溶解して得られた溶液を、上記と同様にメタノール300mlに析出させた。
このようなポリマーの濾過、洗浄、乾燥、溶解、析出操作を3回繰り返すことによって、1.9gの電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(48)〕を得た。この電荷輸送性ポリウレタンの分子量をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて測定したところ、重量平均分子量Mwは6.08×104(スチレン換算)であり、重量平均分子量Mwをモノマー(一般式(II−1)の繰り返し単位構造に相当)の分子量で割ることにより求めたp(数平均重合度)は約60であった。
【0111】
【化23】
【0112】
(参考例1)
ホール輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(11)〕(Mw=5.15×104)を5重量%含むジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した。次に、2−プロパノール(電子工業用、関東化学社製)で超音波洗浄後乾燥させた短冊状のITO電極付きガラス基板のITO電極面側に、上記の溶液をディップ法により塗布し、膜厚約0.1μmのホール輸送層を形成した。なお、使用したITO電極付きガラス基板は、ガラス基板表面に2mm幅の短冊型ITO電極をエッチング法等を利用して形成したものである(以下、「ITO電極付き基板」と略す)。
【0113】
次に、ITO電極付き基板上に形成したホール輸送層を十分乾燥させた後、発光材料として昇華精製した前記化合物(V−1)をタングステンボートに入れ、真空蒸着法によりホール輸送層表面に蒸着し、膜厚0.05μmの発光層を形成した。この時の真空度は133.3×10-5Pa(10-5Torr)、ボート温度は300℃であった。
続いて、短冊状の穴が設けられた金属マスクを用いて、Mg−Ag合金を共蒸着により発光層表面に蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0114】
(参考例2)
ホール輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(11)〕(Mw=5.15×104)1重量部、発光材料として、前記化合物(V−1)1重量部を混合し、これらの混合物を10重量%含むジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。
次に、参考例1で用いたITO電極付き基板のITO電極面上に、上記の溶液をディップ法により塗布して膜厚0.15μmのキャリア輸送能を持つ発光層を形成し、十分に乾燥させた。次に、キャリア輸送能を持つ発光層の表面に、参考例1と同様にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0115】
(参考例3)
ホール輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(11)〕(Mw=5.15×104)を2重量部、発光材料として前記化合物(V−10)を0.1重量部、電子輸送材料として前記化合物(VIII)を1重量部混合し、これらの混合物を10重量%含むジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。
次に、参考例1で用いたITO電極付き基板のITO電極面上に、上記の溶液をディップ法により塗布して膜厚0.15μmのキャリア輸送能を持つ発光層を形成し、十分乾燥させた。次に、キャリア輸送能を持つ発光層の表面に、参考例1と同様にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった.
【0116】
(実施例4)
ホール輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(47)〕(Mw=6.23×104)を用いた以外は、参考例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0117】
(実施例5)
ホール輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(47)〕(Mw=6.23×104)を用いた以外は、参考例2と同にして有機EL素子を作製した。
【0118】
(実施例6)
ホール輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(47)〕(Mw=6.23×104)を用いた以外は、参考例3と同様にして有機EL素子を作製した。
【0119】
(実施例7)
ホール輸送材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(11)〕(Mw=5.15×104)を1重量部、発光材料として前記化合物(V−1)を1重量部を混合し、これらの混合物を10重量%含むジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。
次に、参考例1で用いたITO電極付き基板のITO電極面上に、上記の溶液をディップ法により塗布して膜厚0.15μmのキャリア輸送能を持つ発光層を形成し、十分乾燥させた。
【0120】
その後、キャリア輸送能を持つ発光層の表面に、電子輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(48)〕(Mw=6.08×104)を5重量%含むジクロロエタンを0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した溶液を、スピンコート法により塗布し、厚さ0.1μmの電子輸送層を形成した。
最後に、電子輸送層の表面に、参考例1と同様にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0121】
(参考例8)
参考例1で用いたITO電極付き基板のITO電極面上に、電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(11)〕(Mw=5.15×104)を1重量部含む厚さ0.1μmのホール輸送層をディップ法により形成し、十分乾燥させた後、さらに、このホール輸送層の表面に、発光材料として前記化合物(V−1)より構成される厚さ0.065μmの発光層を真空蒸着法により形成した。
【0122】
次に、電子輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(48)〕(Mw=6.08×104)を5重量%含むジクロロエタンを0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した溶液を、発光層表面にスピンコート法により塗布し、厚さ0.1μmの電子輸送層を形成した。
最後に、電子輸送層の表面に、参考例1と同様にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0123】
(参考例9)
ホール輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(11)〕(Mw=5.15×104)1重量部、発光材料として前記化合物(V−1)1重量部、電子輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(48)〕(Mw=6.08×104)1重量部を用いて、キャリア輸送能を持つ発光層を形成した以外は、参考例2と同様にして有機EL素子を作製した。
【0124】
(実施例10)
ホール輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(11)〕(Mw=5.15×104)1重量部、発光材料として前記化合物(V−10)0.1重量部を混合し、電子輸送性材料として電荷輸送性ポリウレタン〔例示化合物(48)〕(Mw=6.08×104)1重量部を用いてキャリア輸送能を持つ発光層を形成した以外は、参考例3と同様にして有機EL素子を作製した。
【0125】
(比較例1)
参考例1で用いたITO電極付き基板のITO電極面上に、ホール輸送材料として前記化合物(IV−1)より構成される厚さ0.050μmのホール輸送層と、発光材料として前記化合物(V−1)より構成される厚さ0.065μmの発光層とを、順次真空蒸着法により形成した。最後に、発光層の表面に、参考例1と同様にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0126】
(比較例2)
参考例1で用いたITO電極付き基板のITO電極面上に、発光材料として前記化合物(V−1)より構成される厚さ0.065μmの発光層と、電子輸送材料として前記化合物(VII−1)より構成される厚さ0.050μmの電子輸送層とを、順次真空蒸着法により形成した。最後に、電子輸送層の表面に、参考例1と同様にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0127】
(比較例3)
ホール輸送材料として前記化合物(IV−1)を1重量部、発光材料として前記化合物(V−1)を1重量部、結着樹脂としてポリメチルメタクリレート(PMMA)を1重量部混合し、これらの混合物を10重量%含むジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。
次に、参考例1で用いたITO電極付き基板のITO電極面上に、上記の溶液をディップ法により塗布して膜厚0.15μmのホール輸送層を形成し、十分乾燥させた。最後に、ホール輸送層表面に、参考例1と同様にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0128】
(比較例4)
ホール輸送材料として前記化合物(IV−6)を2重量部、発光材料として前記化合物(V−10)を0.1重量部、電子輸送材料として前記化合物(VII−1)を1重量部混合し、これらの混合物を10重量%含むジクロロエタン溶液を調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。
この溶液を用いて、参考例1で用いたITO電極付き基板のITO電極面上に、ディップ法により塗布して膜厚0.15μmのホール輸送層を形成し十分乾燥させた。最後に、ホール輸送層表面に、参考例1と同様にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0129】
(評価)
以上のように作製した有機EL素子を、真空中(133.3×10-3Pa(10-3Torr))で、ITO電極側をプラス、Mg−Ag背面電極側をマイナスとして直流電圧を印加し、発光について測定を行い、このときの最高輝度、および発光色を評価した。それらの結果を表27に示す。また、乾燥窒素中で有機EL素子の発光寿命の測定を行った。発光寿命の評価は、初期輝度が50cd/m2となるように電流値を設定し、定電流駆動により輝度が初期値から半減するまでの時間を素子寿命(hour)とした。この時の駆動電流密度を素子寿命と共に表27に示す。
【0130】
【表27】
【0131】
上記に説明したような各実施例、参考例、および比較例から、上記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し構造単位からなる電荷輸送性ポリウレタンは、有機EL素子に好適なイオン化ポテンシャルおよびホール移動度を持ち、また、スピンコーティング法、ディップ法等を用いて良好な薄膜を形成することが可能であるので、これを用いて形成された本発明の有機EL素子は、十分に高い輝度を示し、また、膜厚を比較的厚く設定できるため、ピンホール等の不良も少なく、大面積化も容易であり、しかも向上した耐久性を有する。
【0132】
【発明の効果】
以上、本発明によれば、十分な輝度を有し、安定性および耐久性に優れ、且つ大面積化可能であり製造容易な有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示した概略構成図である。
【図2】 本発明の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【図3】 本発明の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【図4】 本発明の有機電界発光素子の層構成の他の一例を示した概略構成図である。
【符号の説明】
1 透明絶縁体基板
2 透明電極
3 ホール輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
6 キャリア輸送能を持つ発光層
7 背面電極
Claims (9)
- 少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極間に挾持された一つ又は複数の有機化合物層より構成される電界発光素子において、
前記有機化合物層の少なくとも一層が、下記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ下記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有することを特徴とする有機電界発光素子。
- 前記一般式(I−1)中、Arは、下記式(2)または式(3)で示される基であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
- 前記有機化合物層が、少なくとも発光層及び電子輸送層から構成され、前記発光層及び前記電子輸送層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ前記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有してなることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
- 前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項3に記載の有機電界発光素子。
- 前記有機化合物層が、少なくともホール輸送層、発光層及び電子輸送層から構成され、前記ホール輸送層及び前記電子輸送層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ前記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有してなることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
- 前記有機化合物層が、発光層のみから構成され、前記発光層が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ前記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有してなることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
- 前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項6に記載の有機電界発光素子。
- 前記有機化合物層が、少なくともホール輸送層及び発光層から構成され、前記ホール輸送層及び前記発光層の少なくとも一方が、前記一般式(I−1)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位よりなり且つ前記一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリウレタンを、少なくとも1種含有してなることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
- 前記発光層が、電荷輸送性材料を含むことを特徴とする請求項8に記載の有機電界発光素子。
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