JP4254176B2 - 塩化水素および酸素の反応装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩化水素および酸素の反応装置に関し、詳しくは反応管と、この反応管の周囲を被うジャケット部とを備えた反応装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
塩化水素(HCl)および酸素(O2)を反応させて塩素(Cl2)を得る反応は発熱反応である。かかる反応によって塩素を製造するための装置として、特許文献1には、反応管と、この反応管の周囲を被うジャケット部とを備えた反応装置が開示されている。ジャケット部には、反応管を冷却するための熱媒体が充填されるが、同文献には、かかる熱媒体として硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウムおよび硝酸ナトリウムの混合物が開示されている。また、好ましい反応温度は200℃〜380℃である旨も開示され、さらに反応管の材質としてはニッケルが好ましい旨も開示されている。同文献にはニッケルの炭素含有量に関する記載はないが、ニッケルとしては炭素含有量が0.04質量%程度のものが広く用いられており、実際、かかる炭素含有量のニッケルで反応管が構成された反応装置を用いて、380℃以下の反応温度で長期間反応をさせても、反応管に粒界腐食が生ずることはない。かかる温度で反応させる際の熱媒体の温度は、380℃以下である。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−272906号公報(第3頁)
【特許文献2】
特開平09−067103号公報(第2頁〜第3頁)
【特許文献3】
特開平10−182104号公報(第2頁〜第4頁)
【特許文献4】
特開平10−194705号公報(第2頁〜第6頁)
【特許文献5】
特開平10−338502号公報(第2頁〜第8頁)
【特許文献6】
特開平11−180701号公報(第2頁〜第4頁)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一方、塩素の収率を向上するには、より高い反応温度、例えば400℃を超える温度で反応させればよい。400℃を超える温度で反応させると、熱媒体の温度は、反応管の表面でしばしば400℃以上となる。
【0005】
しかし、反応管の表面で熱媒体の温度が400℃以上となると、かかる従来の反応装置では、反応管に粒界腐食が生じ易くなるという問題があることが分った。
【0006】
そこで本発明者は、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウムおよび硝酸ナトリウムの混合物を熱媒体として用い、熱媒体の温度が反応管の表面で400℃以上となっても、反応管に粒界腐食を生ずることのない反応装置を開発するべく鋭意検討した結果、炭素含有量が0.02質量%以下のニッケルで構成された反応管を用いれば、上記熱媒体の温度が反応管の表面で400℃以上となっても、反応管に粒界腐食が生じないことを見出し、本発明に至った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、塩化水素および酸素を通過させながら反応させて塩素を生じさせる反応管(2)と、
前記反応管(2)を冷却するための熱媒体(31)が充填され、前記反応管(2)の周囲を被うジャケット部(3)とを備え、
前記熱媒体(31)は、硝酸カリウム50質量%以上55質量%以下、亜硝酸ナトリウム37質量%以上43質量%以下および硝酸ナトリウム5質量%以上10質量%以下の混合物であり、
前記反応管(2)は、炭素含有量0.02質量%以下のニッケルで構成されていることを特徴とする塩化水素および酸素の反応装置(1)を提供するものである。本発明の反応装置(1)の一例を図1に模式的に示す。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の反応装置(1)は、反応管(2)およびジャケット部(3)を備えている。反応管(2)は通常、内部に触媒(21)が充填されている。触媒(21)は、塩化水素および酸素を反応させる反応に用いられるものであり、例えば担体に金属ルテニウムまたはルテニウム化合物が担持された触媒、酸化ルテニウム、ルテニウムと他の金属との複合酸化物、金属ルテニウムの粉末などの固体触媒が用いられる(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)。内部に充填される触媒(21)の体積(V)は、単位時間あたりに供給される塩化水素の絶対圧力0.1MPa換算の体積(S)との比(GHSV、S/V)が10〜20000h-1となる程度である。
【0009】
反応管(2)は、厚み(t)が1mm未満であると、反応管の機械的強度が弱くなる傾向にあり、通常は1mm以上である。また、5mmを超えると熱媒体(31)によって反応温度を制御することが困難となる傾向にあり、通常は5mm以下であるが、3mm以下であると、熱媒体(31)の温度と反応温度との差が小さくなり、反応温度が400℃を僅かに上回る程度であっても、熱媒体の温度が反応管の表面で400℃以上となる傾向にあるため、本発明の反応装置(1)は、反応管の厚み(t)が3mm以下である場合に好ましく適用される。
【0010】
反応管(2)の外径(d1)は通常15mm以上60mm以下程度、好ましくは40mm以下程度であり、長さ(a)は通常600mm以上10000mm以下程度である(図2)。反応菅の内径(d0)は、通常5mm以上58mm以下程度、好ましくは9mm以上38mm以下程度である。
【0011】
反応管(2)は、炭素含有量が0.02質量%以下のニッケルで構成されており、炭素含有量は0であってもよい。かかるニッケルは、例えば三菱マテリアル(株)から商品名「LC−Ni」として直管状のものが市販されている。なお、質量%は、質量百分率を示す単位である。
【0012】
本発明の反応装置(1)では、かかる反応管(2)の一端(2a)から塩化水素および酸素が供給される。供給された塩化水素および酸素は反応管(2)の内部を通過しながら、触媒(21)によって反応し、塩素が生成する。この反応は式(1)
【化1】
Figure 0004254176
で示される反応であり、発熱を伴う反応である。酸素の使用量は、塩化水素に対して通常(1/4)モル倍以上であり、好ましくは2モル倍以下である。塩化水素および酸素は通常、ガス状で供給され、反応管を通過し、反応する。反応圧力は絶対圧力で通常0.1MPa以上5MPa以下程度である。反応温度は通常200℃以上500℃以下であり、好ましくは400℃を超える温度である。反応により生成した塩素は反応管の他端(2b)から外部に導き出される。反応管の他端(2b)からは、副生した水も塩素に同伴され、通常は未反応の塩化水素および未反応の酸素も同伴される。反応管(2)の数は1本であってもよいし、2本以上の複数であってもよく、通常は10本以上2万本以下程度である。
【0013】
反応管(2)は、周囲をジャケット部(3)で被われている。ジャケット部(3)は、例えば炭素鋼や、SUS304、SUS304L、SUS310、SUS310S、SUS316、SUS316Lなどのステンレス鋼などで構成されている。
【0014】
ジャケット部(3)には、熱媒体(31)が充填されている。この熱媒体(31)は、反応で生じた熱を除去して反応管(2)を冷却するためのものであり、この熱媒体(31)で反応管(2)を冷却することで、反応管の内部での反応温度を上記範囲に制御する。熱媒体(31)は通常、ジャケット部(3)と熱交換器(4)との間を循環している。熱媒体(31)は通常、混合物(31)の溶融温度以上の高い温度、具体的には200℃以上の温度であって、反応温度よりも低い温度で使用される。反応温度が400℃を超える場合には、反応管の表面でしばしば400℃以上の温度となる。かかる温度の熱媒体(31)がジャケット部(3)から熱交換器(4)に導かれる。ジャケット部(3)から熱交換器(4)に導かれた熱媒体(31)は、熱交換器(4)で冷却されたのち、ジャケット部(3)に戻る。反応で生じた熱は、反応管(2)を介して熱媒体(31)に吸収され、熱交換器(4)によって回収される。熱交換器(4)で回収された熱は、例えばスチームを発生させるために用いられる。
【0015】
かかる熱媒体(31)は、硝酸カリウム50%以上55質量%以下、亜硝酸ナトリウム37質量%以上43質量%以下および硝酸ナトリウム5質量%以上10質量%以下の混合物であり、溶融状態で熱媒体として用いられる。
【0016】
【発明の効果】
本発明の反応装置は、硝酸カリウム、亜硝酸ナトリウムおよび硝酸ナトリウムの混合物である熱媒体の温度が、反応管の表面で400℃以上となっても、反応管に粒界腐食が生ずることはない。
【0017】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0018】
実施例1
硝酸カリウム53質量%、亜硝酸ナトリウム40質量%および硝酸ナトリウム質量7%の混合物を500℃に加熱して溶融状態とし、同温度で、0.01質量%の炭素を含むニッケル板〔三菱マテリアル(株)製「LC−Ni」を切り出したもので厚みは2mm、面積は45mm×45mm〕を浸漬した。同温度で672時間(28日間)浸漬した後、ニッケル板を取出し、このニッケル板を切断し、断面を硝酸および酢酸の混合液でエッチングし、光学顕微鏡で目視観察して、粒界腐食の有無を評価したところ、ニッケル板の表面に粒界腐食は認められなかった。
【0019】
上記で用いたニッケル板と同じ組成のニッケルから構成される反応管(2)と、この反応管(2)の周囲を被う炭素鋼製のジャケット部(3)とを備え、硝酸カリウム53質量%、亜硝酸ナトリウム40質量%および硝酸ナトリウム7質量%の混合物が熱媒体(31)としてジャケット部(3)に充填された反応装置(1)を準備する(図1)。この反応装置(1)の反応管(2)に、触媒(21)を充填し、熱媒体(31)で反応管を冷却しつつ、塩化水素および酸素を反応管(2)に一端(2a)から供給して通過させながら400℃を超え500℃以下程度の温度で反応させて、塩素を製造する。この反応装置(1)は、熱媒体(31)の温度が反応管(2)の表面で長期間に亙り400℃以上となっても、反応管(2)に粒界腐食が生じない。
【0020】
比較例1
実施例1で用いたニッケル板に代えて、炭素含有量0.04質量%のニッケル板〔三菱マテリアル(株)製「NC−Ni」を切り出したもので厚みは2mm、面積は45mm×45mm〕を用いた以外は実施例1と同様に操作して、浸漬後のニッケル板の粒界腐食の有無を確認したところ、表面から概ね25μmまでの領域に粒界腐食が認められた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の反応装置の一例を模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の反応装置の反応管を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
1:反応装置
2:反応管 21:触媒 2a:一端 2b:他端
t:厚み a:長さ
d0:内径 d1:外径
3:ジャケット部 31:熱媒体
4:熱交換器

Claims (3)

  1. 塩化水素および酸素を通過させながら反応させて塩素を生じさせる反応管と、前記反応管の周囲を被い、前記反応管を冷却するための熱媒体が充填されたジャケット部とを備え、前記熱媒体は、硝酸カリウム50質量%以上55質量%以下、亜硝酸ナトリウム37質量%以上43質量%以下および硝酸ナトリウム5質量%以上10質量%以下の混合物であり、前記反応管は、炭素含有量0.02質量%以下のニッケルで構成されていることを特徴とする塩化水素および酸素の反応装置。
  2. 反応管の厚みが1mm以上3mm以下である請求項1に記載の反応装置。
  3. 前記反応管が、塩化水素および酸素を通過させながら400℃を超える温度で反応させて塩素を生じさせる反応管である請求項1または請求項2に記載の反応装置。
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