JP4253854B2 - 製造工程を簡略化した一方向性珪素鋼板の製造方法 - Google Patents

製造工程を簡略化した一方向性珪素鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、従来の製造方法においては必要な工程であった脱炭焼鈍工程とインヒビタ成分除去のための純化焼鈍工程の双方を省略することにより、コストの低減及び製造時間の短縮を図った、交流磁心に用いられる一方向性珪素鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電磁鋼板は使用時の磁化方向の電磁特性が優れることが望ましく、その特性は集合組織に大きく左右される。好適な集合組織は使用形態によって、即ち、鋼板のいずれの方向を磁化方向として使用するかによって異なり、一部のトランスのように主として圧延と平行な1方向のみが磁化方向となる場合、圧延方向の結晶方位が<001>であるような集合組織が最適である。このような結晶方位を優先的に成長させ、圧延方向に電磁特性を良好にした電磁鋼板は、いわゆる方向性電磁鋼板として広く製造市販されている。
【0003】
集合組織は圧延方向の結晶方位とともに、圧延面に垂直な軸の方向の結晶方位によって規定される。現在の方向性電磁鋼板は、圧延面に平行な面が{110}であり,{110}<001>方位、ないしはゴス(Goss)方位と称される。
【0004】
ゴス方位をもつ方向性電磁鋼板は、Fe-Si の基本成分系にCを0.03〜0.10%程度、さらにインヒビタ成分としてMnS やAlN 等を0.01〜0.05%程度添加した素材に複数回の圧延と焼鈍を繰り返し施し、ゴス方位をもつ結晶粒を優先的に異常成長、即ち二次再結晶させることによって製造する方法が一般的である。
【0005】
そして、この方法では、Cは最終的にゴス方位が発達するためには必須とされているため鋼中に含有させるが、鉄損特性向上のため、通常は二次再結晶させる前に脱炭除去する工程が必要となる。
【0006】
また、インヒビタは、二次再結晶の際にゴス方位をもつ結晶粒を優先的に異常成長させるため、その前段階での正常粒の成長を抑制することを目的として添加されるが、製品鋼板中に残存すると電磁特性に悪影響があるので、最終的には焼鈍によって除去しなければならない。
【0007】
このように従来の製造方法は、電磁特性を確保するために極めて複雑かつコストのかかる工程を採用しており、工業上の生産性の観点からは大きな問題を抱えている。
【0008】
中でも生産性を悪化させている最大の原因は、上記インヒビタ成分を除去するため、二次再結晶後に高温長時間の純化焼鈍工程を要するところにある。
このため、インヒビタ成分を添加することなくゴス方位に強く集積した集合組織が得られれば、産業上の意義は絶大であるが、これまでの知見では、インヒビタなしではゴス方位に揃えることは不可能とされていた。
【0009】
また、生産性を悪化させている別の原因はCの添加である。Cも通常の製造工程ではゴス方位の集積に寄与するため必須の添加成分であり、このため、二次再結晶前には脱炭焼鈍工程が必要となるが、これは、製造時間とコストの点で不利である。
しかし、Cを省略する技術については知られていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、鋼中にCを含有させなくても、適正条件下で熱間圧延を施すことによって、板厚全体にわたって{110}<001>方位に集積した集合組織を形成させ、さらにこの素材を用いることで、インヒビタ成分を添加しないで二次再結晶焼鈍を行っても、{110}<001>方位粒が安定して成長した鋼組織が得られ、従来の製造方法においては必要な工程であった脱炭焼鈍工程とインヒビタ成分除去のための純化焼鈍工程の双方を省略して、コストの低減及び製造時間の短縮を図った、交流磁心に用いられる一方向性珪素鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
インヒビタを用いずに二次再結晶を安定的に起こさせることについて、発明者らが鋭意研究を行った結果、板厚全体にわたりゴス方位粒が存在すれば、インヒビタを用いなくても二次再結晶が安定的に起きることがわかった。
【0012】
つまり、従来の方向性電磁鋼板においては、熱延板、脱炭焼鈍板共にゴス方位粒は表層近傍の極微小な範囲にしか存在しておらず、このため、インヒビタを用いずに二次再結晶焼鈍を行うと、ゴス方位粒以外の結晶粒が成長し、ゴス方位粒の存在数が小さいために、二次再結晶の駆動力が得られないことから、正常粒成長を抑制するためにインヒビタが必要であった。
【0013】
しかし、板厚全体にわたってゴス方位粒の存在数を大きくすれば、正常粒成長を抑制せずに安定的に二次再結晶を生じさせることができる。つまり、二次再結晶焼鈍前の鋼板において、板厚全体にわたりゴス方位への集積度を高めればよいことがわかった。
【0014】
そして、このゴス方位の集積度を高める研究を鋭意行った結果、熱間圧延工程にてゴス方位の集積度を高めることが重要であることが判明した。
【0015】
即ち、熱間仕上げ圧延において、圧延終了温度と最終1パスでの圧下率を制御し、通常の工程で採用されているよりも低温かつ最終1パスで強圧下する条件下で、板厚1.5 mm以下に熱間仕上げ圧延を行うことで、熱間圧延後に{110}<001>方位に集積した集合組織を形成できること、さらに、この素材を用いることで、インヒビタを用いないで二次再結晶焼鈍を行っても、{110}<001>方位粒を高度に集積させることが可能であることを見出し、この発明を完成するに至ったのである。
【0016】
この発明は、C:0.005 wt%以下、Si:7.0 wt%以下を含有し、必要に応じて、 Mn 2.0 wt %以下および Al:2.0wt% 以下の一種または二種をさらに含有し、残部はFe および不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間粗圧延後、熱間仕上げ圧延を行い、その後必要に応じて熱延板焼鈍を施し、酸洗の後、1回又は途中焼鈍を含む2回以上の冷間圧延若しくは温間圧延を施して最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を行い、その後、二次再結晶焼鈍を施し、次いで絶縁皮膜を付与する一方向性珪素鋼板を製造するにあたり、熱間仕上げ圧延を、最終1パス(熱間仕上げ圧延が1パスである場合には当該1パス)での圧下率:30%以上及び圧延終了温度:600 〜800 ℃の条件下で行い、熱延板板厚を1.5 mm以下にすることを特徴とする一方向性珪素鋼板の製造方法である。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下にこの発明を完成させるに至った経緯を説明する。
真空小型溶解炉にて、Si:3.12wt%、C:0.003 wt%、Mn:0.01wt%、Al:0.005wt%からなる成分の鋼塊50 kg を溶解し、サイジングのために熱間粗圧延にて板厚5mmにした。この鋼板を1100℃にて30分間加熱した後、ロール径700 mmφの圧延機にて、周速800 m/min.、最終1パスでの圧下率、圧延終了温度を750 ℃にて熱間仕上げ圧延し、板厚0.8 mmの鋼板を製造し、この鋼板について、集合組織、磁気特性を調査した結果、{110}〈001〉方位への集積強度がランダム組織のそれの28倍と極めて高く、磁気特性もW15/50 で2.3 W/kg、B50で 1.705Tと、今までにはない優れた磁気特性を有する鋼板が得られた。
【0018】
次に、この熱延板を用いて、酸洗後、冷間圧延を施し板厚を0.35mmにし、1050℃で10分間焼鈍をした鋼板について、集合組織、磁気特性を調査した結果、ほぼ二次再結晶をしており、その方位は{110}〈001〉方位へ集積しており、磁気特性もW17 50 で1.1 W/kg、B8 で1.90Tと特性のよい一方向性珪素鋼板が得られた。
【0019】
そして、この知見に基づき、さらに詳細な研究を行った結果、Si含有鋼を、通常の工程で採用されているよりも低温かつ最終1パスで強圧下する条件下で、1.5 mm以下の板厚に熱間仕上げ圧延することによって、熱延板の{110}〈001〉方位への集積度が顕著に向上すること、さらに、この素材を用いることで、インヒビタを用いないで二次再結晶焼鈍を施すことによって、{110}<001>方位粒を高度に集積させることが可能であることを見出し、この発明を完成するに至ったのである。
【0020】
尚、この発明では、熱間圧延段階での{110}〈001〉方位への集積強度が、上述した熱間仕上げ圧延条件のみに依存し、その他の製造条件にはほとんど依存しないことも判明した。
【0021】
以下に、この発明の鋼組成及び製造条件を限定した理由について説明する。
【0022】
(1) 鋼組成
(a) C:0.005 wt%以下
Cは、従来の製造方法で方向性電磁鋼板を製造する場合には、最終的にゴス方位が発達するため必須の添加元素であるが、この発明ではCは不要な成分であり、また、通常工程では行う二次再結晶前の脱炭焼鈍工程を省略するため、鋼中のC含有量は少ないほど好ましく、よって、0.005 wt%以下とした。
【0023】
(b) Si:7.0 wt%以下
Siは比抵抗を増大させ、渦電流損を低減させる効果があり、この発明には必須の成分であるが、7.0wt %を超えると、磁束密度の低下が大きいばかりでなく、加工性も劣化する。
従って、Siの含有量は7.0 wt%以下とした。
【0024】
(c) Mn:2.0wt %以下、 Al 2.0wt %以下
Mn 及び Al 、いずれもSiと同様に比抵抗を増大させる効果を有する成分であるため添加するが、 Mn 及び Al の各添加量は、2.0wt %を超えるとコストの上昇を招くので、2.0wt %以下の範囲内で添加する
【0025】
(2) 製造条件
(A) 熱間仕上げ圧延条件
(a) 圧延終了温度:600 〜800 ℃
図1は、真空小型溶解炉にて、Si:3.12wt%、C:0.003 wt%、Mn:0.01wt%、Al:0.005wt%からなる成分の鋼塊を、最終1パスの圧下率を60%、仕上げ板厚を1.0 mmの熱間仕上げ圧延を圧延終了温度を変えて行った種々の鋼板を製造し、各鋼板の板厚中心部における{110}〈001〉方位への集積強度と圧延終了温度との関係を示したものである。
【0026】
図1から、圧延終了温度は、800 ℃を超えると、{110}〈001〉方位の集積が弱くなり、また、600 ℃未満であると、圧延荷重が極端に増し圧延困難となる。
従って、圧延終了温度は600 〜800 ℃とした。
【0027】
(b) 最終1パスでの圧下率:30%以上
図2は、上記組成の鋼塊を、圧延終了温度700 ℃で最終1パスの圧下率を10〜80%の範囲で変化させて仕上げ板厚1.0mm の熱間圧延を行った種々の鋼板を製造し、各鋼板の板厚中心部における{110}〈001〉方位への集積強度と最終1パスの圧下率との関係を示したものである。
【0028】
図2から、最終1パスでの圧下率が30%未満であると、{110}〈001〉方位の集積が弱くなり、最終製品での磁気特性及び方位集積が劣化するので、熱間仕上げ圧延での1パスでの圧下率は30%以上とした。
【0029】
(c) 熱延板板厚:1.5mm 以下
図3は、上記組成の鋼塊を最終1パスでの圧下率:80%、圧延終了温度:700℃の条件下で熱間圧延を行い、板厚0.8 〜3.0mm の範囲の種々の鋼板を製造し、各鋼板の板厚中心部における{110}〈001〉方位への集積強度と仕上げ板厚との関係を示したものである。
【0030】
図3から、熱延板板厚は、1.5 mmよりも厚いと、{110}〈001〉方位の集積が弱くなることから、熱延板板厚は1.5 mm以下とした。
【0031】
(B) その他の製造条件
この発明は、熱間圧延段階での{110}〈001〉方位への集積強度が、熱間仕上げ圧延条件のみに依存し、その他の製造条件にはほとんど依存しないことは既に上述した。従って、焼鈍、酸洗、冷間圧延若しくは温間圧延、及び絶縁皮膜形成条件等については特に限定せず、通常行われている範囲内で行うことができる。
一例として挙げると、熱延板焼鈍1000℃×1分で焼鈍し、酸洗ののち圧下率60%の冷間圧延を施し、その後950 ℃×1分で中間焼鈍してから200 ℃、圧下率70%の温間圧延を施し、さらに880 ℃×10分で再結晶焼鈍してから絶縁皮膜を形成する。
【0032】
【実施例】
次に、この発明の製造方法を用いて電磁鋼板を製造し、性能を評価したので以下で説明する。
・実施例1
真空小型溶解炉にて、Fe-2.0%Si(鋼種A)及びFe-3.3%Si(鋼種B)組成からなる2 種類の鋼塊50kgをそれぞれ溶解し、その後1150℃にて加熱し熱間粗圧延で 1.4〜8.0mm 厚の板とし、さらに、各板を1100℃にて加熱し、圧延終了温度を550 〜850 ℃に制御し、800m/min. の圧延速度で1パスにて板厚1.0mm に仕上げ、その後、N 雰囲気で950 ℃で5分間焼鈍した。さらに、酸洗を行い、その後、冷間圧延にて板厚0.35mmに仕上げ、一次再結晶焼鈍(温度830℃ , 時間2分) 及び二次再結晶焼鈍(温度850℃ , 時間10分)を施した。これら各鋼板について、光学顕微鏡によるマクロ観察を行い、二次再結晶状態を観察した結果を、仕上げ圧延における圧延終了温度と1パス圧下率との関係でプロットしたものを図4に示す。
【0033】
尚、図中の丸印「○」と「●」は鋼種Aを、また三角印「△」と「▲」は鋼種Bを示し、白抜き印「○」と「△」は、二次再結晶部に占める{110}<001>方位粒の面積割合が95%以上である場合、黒塗り印「●」と「▲」は、前記面積割合が95%未満である場合を示したものである。
【0034】
図4の結果から、鋼種A及びBとも、仕上げ圧延における圧延終了温度が600〜 800℃で、かつ1 パスでの圧下率が30%以上である場合に、二次再結晶部に占める{110}<001>方位粒の面積割合が95%以上であった。これ以下であると磁気特性、特にB8(磁束密度)が低下する。
【0035】
・実施例2
真空小型溶解炉にて、Fe-3.15%Siの組成からなる鋼塊100kg を溶解し、その後1150℃にて加熱し熱間粗圧延で 1.4〜8.0mm 厚の板とした。この板を、1100℃にて加熱し、圧延温度を 600、650 、750 、800 ℃に制御し、800m/min. の圧延速度で1パスにて板厚1.0mm に仕上げ、その後、温度 950℃で2分間焼鈍した。さらに、酸洗を行い、その後、冷間圧延にて板厚0.35mmに仕上げ、さらに、一次再結晶焼鈍(温度850℃ , 時間3分) 及び二次再結晶焼鈍(温度920℃ , 時間30分) を施した。これら各鋼板について磁気測定を行い、最大磁束密度 1.7テスラ(T)、周波数50Hzに対する1kg当たりの鉄損値:W17/50 及び、磁化力800 A/mでの磁束密度;B を求めた。さらに、二次再結晶しているかどうかを調べた結果を表1にしめす。尚、表1中二次再結晶の欄は、二次再結晶部に占める{110}<001>方位粒の面積割合が95%以上である場合を「○」、前記割合が95%未満の場合を「×」として示してある。
【0036】
【表1】
Figure 0004253854
【0037】
No. 1、5、7及び10は、熱間圧延の圧下率が低い例であり、また、No.11 は熱間圧延の圧延温度が高い例であり、いずれの場合も、二次再結晶が不良となり、磁気特性が劣化した例である。
その他はこの発明の適合例であり、二次再結晶が良好で、磁気特性が優れていた。
【0038】
【発明の効果】
この発明によれば、従来の方向性電磁鋼板の製造方法では必要な工程であった脱炭焼鈍工程とインヒビタ成分除去のための純化焼鈍工程の双方を省略する事が可能になり、二次再結晶焼鈍を連続焼鈍で安定して行えることで、大幅なコスト低減及び省エネルギー化を図ることができ、磁気特性の優れた一方向性珪素鋼板を安価に提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 板厚中心位置における{110}<001>方位への集積強度と圧延終了温度との関係を示す図である。
【図2】 板厚中心位置における{110}<001>方位への集積強度と最終1パスでの圧下率との関係を示す図である。
【図3】 板厚中心位置における{110}<001>方位への集積強度と熱延板板厚との関係を示す図である。
【図4】 二次再結晶状態を観察した結果を、仕上げ圧延にける圧延終了温度と1パスでの圧下率との関係を示す図である。

Claims (1)

  1. C:0.005 wt%以下、Si:7.0 wt%以下を含有し、必要に応じて、 Mn 2.0 wt %以下および Al:2.0wt% 以下の一種または二種をさらに含有し、残部はFe および不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間粗圧延後、熱間仕上げ圧延を行い、その後必要に応じて熱延板焼鈍を施し、酸洗の後、1回又は途中焼鈍を含む2回以上の冷間圧延若しくは温間圧延を施して最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を行い、その後、二次再結晶焼鈍を施し、次いで絶縁皮膜を付与する一方向性珪素鋼板を製造するにあたり、
    熱間仕上げ圧延を、最終1パス(熱間仕上げ圧延が1パスである場合には当該1パス)での圧下率:30%以上及び圧延終了温度:600 〜800 ℃の条件下で行い、熱延板板厚を1.5 mm以下にすることを特徴とする一方向性珪素鋼板の製造方法。
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