JP4253723B2 - 空気電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、空気電池の特性改善に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
金属類を負極とし、空気中の酸素を正極とする空気電池は、正極作用物質を電池内に詰め込む必要がないために、同じ大きさの電池であれば負極作用物質をより多く詰め込むことが可能で、アルカリマンガン電池や酸化銀電池に比較して大容量が得られるという特徴があり、需要が拡大してきている。最近では、デジタル開路を用いた携帯機器の発達により、さらに高容量化・高出力化が求められ、それとともに過放電漏液・貯蔵漏液の防止に対する信頼性の要求が高まっている。
【0003】
次に一般的な空気電池の構造について説明する。図1はボタンタイプの空気電池の断面図である。
正極ケース2の底面には酸素を取り入れる空気孔1があり、正極ケース2の内面上段に、拡散紙3、撥水膜4、正極触媒層5及びセパレータ6が収納されている。正極触媒層5は活性炭、マンガン酸化物、導電材、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉からなる正極触媒粉をニッケルメッキされたステンレスネット製の正極集電体7に圧着充填して一体化したものであり、この正極触媒層5に撥水膜4が圧着されている。さらに、正極触媒シートと圧着された撥水膜4とは別の撥水膜8が、セパレータと反対面に配置されている。
【0004】
セパレータの上部には、絶縁ガスケット9を介して、ニッケル−ステンレス−銅の三層クラッド材を成形加工した負極ケース10が配されており、通常は絶縁ガスケットと負極ケースとの間には、電解液の漏液防止のために、ポリアミド樹脂等のシール剤が塗布されている。さらに負極ケース内部にはゲル状の負極作用物質11が充填され、セパレータに接している。
【0005】
充填されるゲル状負極は、作用物質である亜鉛、アルカリ電解液、ゲル化剤からなる。電解液は主にアルカリ電解液が用いられ、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの電解質が使われる。ここでは、水酸化カリウムの電導度が高いこと、また安価であることから、水酸化カリウムを使用した。ただし、水酸化ナトリウム単体や水酸化カリウムとの混合系で用いてもよい。
【0006】
このような空気電池の構造上の特徴から、高出力化を実現するためには、正極作用物質である酸素を正極触媒層である空気極へ速やかに供給することが必要である。この供給速度を向上させる方法として、正極ケースの空気孔径の拡大、空気孔の個数の増加、および撥水膜のガーレ値の小さいものなどを用いる方法等がある。また、空気極として空気透過性のよいものを用いる方法等も考えられる。
【0007】
なお、上記の撥水膜とは、正極触媒層に圧着した膜のことであり、この撥水性により電池内の電解液の漏出を防止するとともに、微細孔を通して正極触媒層へ空気中の酸素を供給する作用をしている。この撥水膜は、ガーレの大きいものを使用すると過放電漏液を防止することができるが、その場合は酸素を正極触媒層に十分取り込めなくなるので、十分な電流値が取り出せないというデメリットが生ずる。つまり、空気孔の面積と撥水膜のガーレ値を検討して、十分な電流値が得られるように、酸素供給量をコントロールする必要がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、高出力化のために空気極への酸素供給速度を高めると、次のような問題が発生する。すなわち、電解液中の水分の逸散、空気中の炭酸ガスの吸収による電解液の劣化、外部環境の影響による放電特性の劣化などが長期放電状態において発生する。これは、特に電流値で空気極の単位面積当たり0.1A/cm2以上を取り出す場合、もしくは0.18A/cm2以上を取り出す場合に顕著になる。
【0009】
また、酸素供給を高めるために撥水膜のガーレ値を低くするという試みもなされたが、撥水膜のガーレ値の極端に小さいサンプルを使用したときに、次のような問題が生じた。すなわち、撥水膜のガーレ値を小さくする(透過時間の速いものとする)と、撥水膜は空隙率が高くなるので、正極触媒層との圧着が弱くなり、空気極を所定の径に打ち抜く工程で撥水膜剥離などの不良品が発生した。また、圧着の弱い空気極を用いて電池試作をしたときに、過放電漏液が発生した。
【0010】
また、空気極そのものの空気透過時間を速くすることによっても酸素の供給を増やすことができる。しかし、空気極の空気透過時間の非常に速いサンプルを使用したときに次のような問題が発生した。空気極の空気透過時間を速くするために、空気極の正極触媒層と撥水膜層との圧着を、各層が押し潰れない程度にすると、圧着力が不足するので、空気極の打ち抜き工程で撥水膜層の剥がれが発生する。その結果、過放電漏液が発生した。
【0011】
さらに、空気孔の径を大きくして酸素供給を高めるという試みもなされたが、空気孔を単純に大きくした場合には、酸素以外の外気成分による影響が大きくなり、乾燥状態では放電の短寿命が高い確率で発生した。また空気孔の径を大きくした結果、外部との接触で空気孔から拡散紙にキズが付いた。最悪の場合は、撥水膜、空気極にキズが発生して、使用時に漏液が発生することが考えられる。これに対して空気孔の面積を単純に小さくした場合には、重負荷特性が得られないという問題がある。
【0012】
そこで、重負荷特性を維持し、過放電漏液を防止し、かつ長期放電での短寿命を防止するためには、正極ケースの空気孔、撥水膜、電解液である水酸化カリウム濃度、水酸化カリウム水溶液と負極作用物質との重量比、放電後の負極ゲルの充填率(負極ケースと絶縁ガスケットと空気極によって形成された空隙体積に対する放電後の負極ゲルの体積比率)等を総合的に再度見直す必要がある。
【0013】
本発明は、このような問題に対処してなされたもので、重負荷放電特性が向上し、乾燥環境での電解液の蒸発耐性に優れ、過放電漏液特性も維持し、かつ長期放電での短寿命発生もない、信頼性の高い空気電池を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記問題を解決するために、正極ケースの空気孔、撥水膜のガーレ値、空気極の空気透過性、電解液である水酸化カリウムの濃度および水酸化カリウム水溶液と負極作用物質との重量比等について、それぞれを相互に関連させながら、詳細に検討した。その結果、以下に示す発明をなすに至った。
【0015】
すなわち、請求項1に記載する発明は、底面に多数の空気孔を有する正極ケース内に、撥水膜層、正極触媒層および集電体層を有する空気極が収納され、負極ケース内に電解液を保有する負極作用物質が収納されている空気電池において、空気孔の総面積と正極ケース底面の面積との比率(空気孔の総面積/正極ケース底面の面積×100)が0.3〜3.3%の範囲であり、撥水膜のガーレ値が約270秒であり、かつ電解液である水酸化カリウム濃度が25〜43%であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項2に記載する発明は、底面に多数の空気孔を有する正極ケース内に、撥水膜層、正極触媒層および集電体層を有する空気極が収納され、負極ケース内に電解液を保有する負極作用物質が収納されている空気電池において、空気孔の総面積と正極ケース底面の面積との比率(空気孔の総面積/正極ケース底面の面積×100)が3.3〜30%の範囲であり、撥水膜のガーレ値が約1500秒であり、かつ電解液である水酸化カリウム濃度が35〜40%であることを特徴とする。
【0017】
まず、空気電池の重負荷放電特性の向上については、正極触媒層への目標とする電流値を得るための酸素供給が問題であることから、空気孔と撥水膜のガーレ値とについて種々の組み合わせ例を作成して調べた。
【0018】
表1に正極ケースの空気孔径および空気孔個数を組み合わせた仕様を示す。空気孔は直径0.4〜4.0mmの範囲、空気孔の数は6〜36個の範囲である。なお、空気孔の位置は後記するように、ケース中心から放射状に配置すると、酸素供給が効率的に行える。
【0019】
また、撥水膜のガーレ値は150秒、270秒、1500秒、6000秒を設定して検討した。なお、ガーレ値とは1平方インチ当たり、100mlの空気が透過するのに要する時間を、秒の単位で表した値である。つまり、ガーレ値が小さいほど、透過しやすくなる。
【0020】
さらに、電解液について、種々の水酸化カリウム濃度および負極作用物質に対する重量比について検討した。また、負極作用物質の充填率についても検討した。
これらの条件を綜合して検討した結果、上記の本発明に達した。
【0027】
なお、空気極の空気透過時間は次のように測定して得られたものである。まず、空気極を所定の大きさに打ち抜く。この空気極を折り曲がらないようにホルダーに充填し、ポンプで減圧状態(2.66kPa)に保つ。この減圧状態から圧力が9.31kPaに回復するまでの空気の侵入時間を測定し、これを空気極の空気透過時間とした。本明細書に記載した空気透過時間はすべてこの測定による値である。
【0032】
【発明の実施の形態】
請求項1および2に記載する発明の実施の態様を、前記した図1に示すボタン型空気電池PR2330によって説明する。
正極ケース2の底面には酸素を取り入れる空気孔1があり、正極ケース2の内面上段に、拡散紙3、撥水膜4、正極触媒層5及びセパレータ6が収納されている。正極触媒層5は活性炭、マンガン酸化物、導電材、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉からなる正極触媒粉をニッケルメッキされたステンレスネット製の正極集電体7に圧着充填して一体化したものであり、さらに、正極触媒シートと圧着する撥水膜4とは別の撥水膜8がセパレータと反対面に圧着されている。
【0033】
セパレータの上部には、絶縁ガスケット9を介して、ニッケル−ステンレス−銅の三層クラッド材を成形加工した負極ケース10が配されており、通常は絶縁ガスケットと負極ケースとの間には、水酸化カリウム電解液の漏液防止のために、ポリアミド樹脂等のシール剤が塗布されている。さらに負極ケース内部にはゲル状の負極作用物質11が充填され、セパレータに接している。
【0034】
ここで好ましく用いられる負極活物質は、安価な亜鉛が用いられるが、こればかりでなく他の金属も使用できる。なお、正極として使用する空気極はφ22.80mmに打ち抜いた。
【0035】
また、図2は空気孔の位置を示す説明図である。
ここで空気孔の位置について述べると、空気孔は正極ケースの中心から放射状の位置に配置すると、空気の拡散が効率的に行われ、放電特性が向上する。また空気孔同士の位置は、空気の拡散がオーバーラップしないようにして、同円周上に配置することがよい。すなわち、空気孔の位置が偏らないように、正極ケースの底面になるべく均等に配置するようにするとよい。
【0036】
図2に示すように、好ましい空気孔配置として示した下図では、空気孔は同円周上に均等に配置されており、好ましくない空気孔配置として示した上図では、空気孔は偏って配置されている。また、最外周の空気孔は、ガスケット底面と接触する箇所には設けない方がよい。空気孔の位置が絶縁ガスケット底部とオーバーラップしてしまうと、耐漏液特性に悪影響を与えるからである。
【0037】
(実施例1)
正極ケースの空気孔を、直径0.4mm、個数6個とし、撥水膜としてガーレ値270秒のものを使用し、図1に示す空気電池を作成した。
【0038】
(実施例2〜9)
正極ケースの空気孔の直径および個数、撥水膜ガーレ値を表1に示す通りとし、それ以外は実施例1と同様にして図1の空気電池を作成した。
【0039】
(比較例1,2,3,4)
正極ケースの空気孔の直径および個数、撥水膜ガーレ値を表1に示す通りとし、それ以外は実施例1と同様にして図1の空気電池を作成した。
【0040】
(従来例1)
表1に示すように、正極ケースの空気孔を、直径0.4mm、個数6個とし、撥水膜としてガーレ値1500秒のものを使用し、図1に示す空気電池を作成した。これは従来の空気電池の仕様である。
【0041】
【表1】
【0042】
上記の各実施例、比較例および従来例の電池について、限界電流値の測定、常温での100mA定電流放電時間、乾燥条件での100mA定電流放電時間および漏液発生率を試験した。
【0043】
限界電流値はIV曲線から求めた。IV曲線は、電池に連続的に電流を流し続ける測定方法で、空気電池の限界電流値が決定できる。図3に典型的な空気電池の限界電流値のカーブを示す。このカーブは、2領域からなり、正極活物質である酸素の足りている状態Aと酸素が不足している状態Bとからなる。このAおよびBカーブの接線を結んだ交点を、限界電流値として決定する。この値は、酸素の拡散が間に合っている反応状態である。また、限界電流値を、空気極の面積で割った値を電流密度とした。限界電流値の試験数は、5個で行った。
【0044】
重負荷特性を評価するために、100mA定電流放電を行った。
常温(20℃−60%RH)での、100mA定電流放電の放電時間は20個の電池の平均値である。乾燥条件(30℃−Dry)での100mA定電流放電の放電時間は20個の電池の平均値である。表2に評価結果を示す。さらに、過放電漏液試験は25℃−85%RH雰囲気下で、300Ωの負荷にて放電終了後(放電は270hrで終了)、さらに100hr負荷を掛けた時の漏液発生率を調査した。試験数は20個行った。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例1,2,3、比較例3の結果から、空気孔の面積を大きくすることで、酸素供給が容易になり限界電流値も、空気孔の面積に比例して増加する。しかし、比較例3では空気孔の面積が大きい上に、撥水膜のガーレ値が270秒を使用したため、電池内部から水酸化カリウム電解液中の水分の蒸発が起こり、長期放電で短寿命が起こりやすくなった。実施例1と従来例1のように、空気孔の面積が同じ場合では、撥水膜のガーレ値が小さい方が重負荷特性に効果があることも分かった。
【0047】
また、撥水膜のガーレ値が大きい1500秒でも、実施例4,5,6と比較例1のように、面積比率が3.0%以上の仕様でも、目的とする限界電流値が得られることが分かった。しかし、比較例1では、面積比率が大きすぎるため、成形強度が低下し、組立時に正極ケース底部に凹みが発生した。また、比較例2では撥水膜のガーレが150秒であるので、撥水膜の剥がれによる過放電漏液が発生した。また、比較例4では、撥水膜のガーレ値が大きすぎ、目的とする電流値は得られなかった。
【0048】
空気孔の面積が同じ実施例7,8,9を比較したとき、常温での放電時間で差はないが、乾燥条件での放電時間は、空気孔の径が大きい方がより低下することがわかった。
【0049】
このことから、空気孔の面積を同じにする場合は、空気孔の径を小さくして、孔数を多くする方がよいことがわかった。また、安易に空気孔の径を大きくすると、先端の尖ったもので空気孔を通して拡散紙にキズ、最悪の場合は空気極までダメージを与え、安全性の面からも悪影響が起こると考えられる。
以上の結果から、本発明の条件である空気孔の面積比率と撥水膜のガーレ値が決定された。
【0050】
ただ、上記したように、特定の空気孔の面積比率と撥水膜のガーレ値の組み合わせによって重負荷特性には顕著な向上が見られたが、空気供給を向上させたことにより、過放電漏液、過放電後の電池膨れ、軽負荷1kΩ放電における短寿命発生などの問題が生じた。そこで表2で決定した正極ケースと撥水膜との仕様組み合わせの範囲で、改めて負極仕様を検討し直す必要が生じた。なお、上記の各例の電池では、負極仕様に関しては、従来と同様に水酸化カリウム濃度が43%、負極作用物質と水酸化カリウム水溶液との重量比(以下、単に「重量比」)200/50、放電後の負極ゲル体積の負極ケース空隙体積に対する比率(充填率)96%で、作成されている。
【0051】
空気電池は空気孔を有するため、電池内部から水酸化カリウム水溶液中の水分の蒸発、大気中からの二酸化炭素・水蒸気の吸収による水酸化カリウム濃度の低下があり、これらを抑止する必要がある。まず、1kΩ(1.3mAに相当)での長期室温放電の不具合について検討した。
【0052】
対策として、水酸化カリウム濃度を低下させて、水蒸気または二酸化炭素の吸収をさけるか、重量比における電解液量の割合を高くすることで水分の蒸発を抑える等が考えられる。
【0053】
まず、水酸化カリウム濃度を変更させて検討した。すなわち、空気孔の面積比率3.3%以下(実施例2,8,9)と、空気孔の面積比率3.3%以上(実施例4,5,6)とについて、水酸化カリウム濃度21,25,29,32,35,37,40,43,45,48%の10種の濃度を設定し、重量比を200/50、充填率を96%にして試験を行った。
水酸化カリウム濃度別の試験結果を、表3に過放電漏液試験、表4に1kΩの放電時間を示す。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
過放電漏液ゼロを維持するには、(実施例2,8,9)ではKOH47%以下、(実施例4,5,6)ではKOH43%以下とする必要がある。また、表4の放電時間の結果から、(実施例2,8,9)、(実施例4,5,6)ともに、KOH32%以下では1kΩ放電時間の低下が見られたので(目標値は450時間以上)、KOH35%以上にするとよいことが分かった。
【0057】
以上のことから、水酸化カリウム濃度が高いと過放電漏液が発生しやすく、逆に水酸化カリウム濃度が低すぎると、大気中の水分を吸収するため、電池特性(1kΩ放電特性)を劣化させることが分かった。空気孔の面積比率3.3%以下では25%〜43%KOH、空気孔の面積比率3.3%以上ではKOH35%〜40%の領域がよいとされる。
【0058】
次に、負極作用物質と電解液の重量比について検討した。
現在の生産において、負極重量比は、亜鉛200gに対して電解液50gを使用している。この仕様では、負極ゲルが硬く、充填ノズルの詰まりなども生産工程で問題があった。
【0059】
そこで、先に最適化した水酸化カリウム濃度の範囲で、亜鉛重量を200gに対して水酸化カリウム重量を50g,55g,60g,70g,80g,90g,100gで調整した。表5に1kΩ放電時間の結果を示す。現行(50g)よりも水酸化カリウム重量を増やすことで、大気中の炭酸ガス・水分からの影響は抑えられた。
【0060】
【表5】
【0061】
また、上記の水酸化カリウム重量の各試作品で、作業工程の問題について調べた。表6に作業工程についての結果を示す。水酸化カリウム量55g以下では、ゲルの流れ性が悪く、所定のゲル重量を排出することが難しかった。また、水酸化カリウム量を80g以上とした場合は、負極ケースにゲルを充填する工程で、ゲルが絶縁ガスケットの脇に垂れて、嵌合クリンプ時にゲルずれを起こして嵌合不良を多発した。ここでは、空気孔の面積比率に限らず、亜鉛200gに対して、電解液60〜80gが最適であった。
【0062】
【表6】
【0063】
以上のことから、水酸化カリウム濃度や、亜鉛/水酸化カリウム水溶液の重量比の範囲が特定化され、この範囲で軽負荷1kΩ放電での放電容量が得られた。
しかしながら、電池特性は確保できたが、放電終了時(電池交換時)に電池ホルダーから電池が抜けない問題、すなわち電池膨れの問題が起きた。これは、従来例に比べて、実施例の空気孔面積が大きいため、水蒸気を吸収しやすくなり、放電使用後の電池の総高が0.4mm以上になるからである。そこで、新たに負極の充填率を再検討した。これを、水酸化カリウム濃度39%、重量比200/60で行った。
【0064】
充填率は、負極ケース、絶縁ガスケット、空気極によって形成される空隙体積に対して、放電後のゲル体積の比率である。まず、充填率を低くすると、キャップと負極活物質の接触が悪くなることが予想され、電池の内部抵抗の確認を行った。充填率80%,84%,88%,92%,96%について試作した。
【0065】
表7に内部抵抗の測定結果を示す。充填率が80%では負極ケースと負極ゲルの接触がわずかながら悪く、電池作成後1日後の初期特性で、内部抵抗のバラツキが大きいことが分かった。内部抵抗の不良率を抑えるために、充填率は84%以上がよいと考える。
【0066】
【表7】
【0067】
表8に過放電試験の結果を示す。どの充填率とも過放電漏液はなかったが、充填率が96%では過放電試験後の電池総高が0.6mm増加したため、ホルダーから取り出せなかった。内部抵抗の不良率、電池膨れを抑えるには、充填率は、80%〜92%が最適な領域であることが分かった。JIS規格では、過放電試験後の総高変化は、+0.2mm以下と定められている。
【0068】
【表8】
【0069】
以上説明したように、空気孔の径と個数(空気孔の総面積)と正極ケース底部の面積との比率、撥水膜のガーレ値を組み合わせることで、重負荷特性の向上させた空気電池が製造できる。また空気供給が向上した結果、電池内部からの電解液の蒸発、大気中から炭酸ガス、水の吸収による影響が大きいので、水酸化カリウム濃度、負極作用物質と電解液との重量比、負極ゲルの充填率などの負極ゲル組成を検討し直すことで、漏液特性を維持し、軽負荷放電の短寿命、電池膨れなど使用時に不具合のない、重負荷特性に優れた空気電池が得られた。
【0070】
なお、本実施例では、空気の孔をすべて同じにして試作を行った。しかし、空気孔の径がそれぞれ異なる径を用いても、請求項範囲であるならば、効果は得られる。また空気孔の形も、円状だけではなく、空気孔の形は金型・加工できる範囲でどのような形でもよい。
【0071】
次に、本発明の他の実施の態様を説明する。実施対象とした電池は前記した図1に示すボタン型空気電池PR2330である。正極として使用する空気極は、直径22.80mmの円形に打ち抜いた。空気孔の位置は図2に示す配置が好ましい。
【0072】
(実施例10)
正極ケースの空気孔を、直径0.4mm、個数6個とし、空気極は空気透過時間25秒のものを使用し、図1に示す空気電池を作成した。正極ケース底面積は424.34mm2である。
【0073】
(実施例11〜16)
正極ケースの空気孔の直径および個数、空気極の空気透過時間を表9に示す通りとし、それ以外は実施例10と同様にして図1の空気電池を作成した。
【0074】
(比較例5,6,7)
正極ケースの空気孔の直径および個数、空気極の空気透過時間を表9に示す通りとし、それ以外は実施例10と同様にして図1の空気電池を作成した。
【0075】
(従来例2)
表9に示すように、正極ケースの空気孔を、直径0.4mm、個数6個とし、空気極の空気透過時間を60秒とし、図1に示す空気電池を作成した。これは従来の空気電池の仕様である。
【0076】
【表9】
【0077】
上記の各実施例、比較例および従来例の電池について、限界電流値の測定、常温常湿(20℃−相対湿度60%)での50mA定電流放電時間、乾燥条件(20℃−相対湿度30%)での50mA定電流放電時間および漏液発生率を試験した。
【0078】
限界電流値は前記実施例1〜9の場合と同様にIV曲線から求めた。限界電流値を、空気極の面積で割った値を電流密度とした。限界電流値の試験数は、5個で行った。
【0079】
重負荷特性を評価するために、50mA定電流放電を行った。室温(20℃−60%RH)での50mA定電流放電の放電時間は、20個の電池の平均値である。乾燥条件(20℃−30%RH)での50mA定電流放電の放電時間は20個の電池の平均値である。
【0080】
さらに、過放電漏液試験は25℃−85%RH雰囲気下で、300Ωの負荷を掛け続け、360時間後の漏液発生率を調査した。試験数は20個行った。
これらの評価結果を表10に示す。
【0081】
【表10】
【0082】
実施例10,11,12、比較例5の結果から、空気孔の面積を大きくすることで、酸素供給が容易になり限界電流値も、空気孔の面積に比例して増加する。しかし、比較例5では空気孔の面積が大きい上に、空気極の空気透過時間25秒を使用したため、電池内部から水酸化カリウム電解液中の水分の蒸発が起こり、乾燥条件で短寿命が起こりやすくなった。
【0083】
また、空気極の透過時間が60秒というように多少透過性が悪くても、実施例14,15,16のように、面積比率を4.4%以上とすることによって、目的とする限界電流値が得られることが分かった。
【0084】
また、比較例6のように空気極の空気透過時間が10秒では、空気極打ち抜き工程で撥水膜の剥がれが発生し、過放電漏液が発生した。また、比較例7では、空気極の空気透過時間が90秒であり、空気の供給が不足するため、目的とする電流値が得られなかった。
【0085】
このように、表10に示す結果から、正極ケースの空気孔の径と個数で計算される空気孔の面積比率(空気孔の総面積/正極ケース底面の面積×100)と、空気極の空気透過時間とのそれぞれの最適範囲が決定された。
【0086】
ただし、空気極の空気透過時間は触媒層と撥水膜層とをローラ方式で圧着するときの圧着具合によって決まるので、個々の空気極の空気透過にはばらつきが生じる。ここで用いた25秒、60秒はそれぞれ12個で測定してσ=±3.3、σ=±5の値をもち、3σを考慮すると25秒は15〜35秒、60秒は50〜70秒の範囲であると推定される。
次に、上記実施例10〜16の電池において、空気極の空気透過時間だけを変えて限界電流値を測定した結果を表11に示す。
【0087】
【表11】
【0088】
まず、空気透過時間を10秒とした場合は、どの例においても空気極打ち抜き工程において圧着撥水膜のハガレが生じた。この空気極を用いた試作品では過放電漏液が発生した。また、空気透過時間を90秒とした場合は、空気供給が不足するため50mA放電ができなかった。
【0089】
これら以外の空気透過時間の場合には、実施例10,11,12において空気極透過時間50秒以上の範囲で、空気供給が不足して目的とする電流値が取り出せなかった。したがつて実施例10,11,12では15〜35秒の空気透過時間の空気極が適当である。また、実施例13,14,16では50秒より低い範囲でも電池特性を満足するが、正極ケースの空気孔が大きい上、空気の透過時間が35秒では、必要以上の空気が供給されるため、外気の水分や炭酸ガスの影響により、軽負荷放電での放電時間が低下することがわかった。したがって、実施例13,14,16では50〜70秒の空気透過時間の空気極が適当であることがわかった。
【0090】
このように、空気孔と空気極の空気透過時間とを組み合わせることによって、重負荷特性を向上させることができたが、一方、空気供給を向上させたことにより、過放電漏液、過放電後の電池膨れ、軽負荷1kΩ放電における短寿命発生などの問題が生じた。
【0091】
これは、上記の各例の電池では、負極仕様に関しては、従来と同様に水酸化カリウム濃度が43%、負極作用物質と水酸化カリウム水溶液との重量比(以下、単に「重量比」)が200/50、放電後の負極ゲル体積の負極ケース空隙体積に対する比率(充填率)が96%で、作成されているためである。そこで表10で決定した正極ケースと撥水膜との仕様組み合わせの範囲で、改めて負極仕様を検討し直す必要が生じた。
【0092】
空気電池は空気孔を有するため、電池内部から水酸化カリウム水溶液中の水分の蒸発、大気中からの二酸化炭素・水の吸収による水酸化カリウム濃度の低下があり、これらを抑止する必要がある。まず、上記表9の仕様において、1kΩのような長期室温放電の不具合について検討した。
【0093】
その対策として、水酸化カリウム濃度を低下させて、二酸化炭素との反応をさけるか、重量比における電解量の割合を高くすることで水分の蒸発を抑えることにした。
【0094】
まず水酸化カリウム濃度別に電池を試作して検討した。すなわち、空気孔の面積比率2.5%より低いもの(実施例10,11,12,13)と、空気孔の面積比率4.4%以上(実施例14,15,16)とについて、水酸化カリウム濃度を29,31,33,35,37,39,41%に調製し、重量比を200/50、充填率を96%と従来例と同様にして試験を行った。
水酸化カリウム濃度別の試作結果について、表12に過放電漏液試験の結果(数値は漏液発生%)を、表13に1kΩの放電時間(hr)をそれぞれ示す。
【0095】
【表12】
【0096】
【表13】
【0097】
過放電漏液ゼロを維持するには、(実施例10,11,12)ではKOH37%以下、(実施例13,14,15)ではKOH39%以下とする必要がある。また、表13の1kΩ放電時間の結果から、(実施例10,11,12)、(実施例13,14,15)ともに、KOH31%より少ないと放電時間の低下が見られた。これらの結果から、(実施例10,11,12)ではKOH31〜37%、(実施例13,14,15)ではKOH31〜39%が適当であることがわかった。
【0098】
すなわち、KOH濃度が高いと、過放電漏液を起こしやすく、逆にKOH濃度が低すぎると大気中の水蒸気吸収の影響を大きく受けて放電特性を劣化させる。そこで、これらの結果から、空気孔の面積比率が2.5%以下の場合はKOH濃度範囲は31〜37%、空気孔の面積比率が4.4%以上の場合はKOH濃度範囲は31〜39%、がよいことがわかった。
【0099】
次に、負極作用物質と電解液の重量比について検討した。
現在の生産において、負極重量比は、亜鉛200gに対して電解液(水酸化カリウム水溶液)50gを使用している。この仕様では、負極ゲルが硬く、充填ノズルの詰まりなど生産工程で問題があった。
【0100】
そこで、先に最適とした水酸化カリウム濃度(35%KOH)で、亜鉛重量を200gに対して水酸化カリウム水溶液の重量を50g,60g,70g,80g,90g,100gとして調製した。表14に1kΩ放電時間の結果を示す。現行(50g)よりも水酸化カリウム水溶液重量を増やすことで、大気中の炭酸ガス・水分からの影響は軽減される。また、電解液が多いほど亜鉛の利用率が高くなり、長い放電時間が得られることがわかった。
【0101】
【表14】
【0102】
また、上記の水酸化カリウム重量の各試作品で、作業工程の問題について調べた。表15に作業工程についての結果を示す。水酸化カリウム量50g以下では、ゲルの流れ性が悪く、ノズル詰まりのため所定のゲル重量を排出することが難しかった。また、水酸化カリウム量を90g以上とした場合は、負極ケースにゲルを充填する工程で、ゲルが絶縁ガスケットの脇に垂れて、嵌合クリンプ時にゲルずれを起こして嵌合不良を多発した。
【0103】
以上により、空気孔の面積比率に関係なく、亜鉛200gに対して、電解液60〜80gが最適であった。つまり、亜鉛/水酸化カリウム水溶液の重量比が2.5〜3.3のときに、軽負荷の1kΩ放電でも目標の放電時間が得られることがわかった。
【0104】
【表15】
【0105】
しかしながら、電池特性は確保できたが、使用後電池ホルダーから電池が抜けない問題、すなわち電池膨れの問題が起きた。これは、従来例に比べて、空気供給が向上したため、外部から水分を吸収しやすくなり、放電使用後の電池の総高が0.4mm以上になるからである。そこで、新たに負極の充填率を再検討した。これを、水酸化カリウム濃度35%、亜鉛/電解液重量比=200/60で行った。
【0106】
負極充填率は、負極ケース、絶縁ガスケット、空気極によって形成される空隙体積に対して、負極100%放電したと仮定した時の放電後の理論ゲル体積(すなわち、反応物の体積、水溶液の体積、その他の反応に寄与しない添加物の体積の総和)の比率である。充填率78%,82%,86%,90%,94%および96%について試作した。これらの試作品について内部抵抗と過放電後の電池総高の変化とを調べた。
【0107】
表16に内部抵抗の測定結果を示す。充填率が78%では負極ケースと負極ゲルの接触がわずかながら悪く、電池作成1日後の初期特性で、内部抵抗のバラツキが大きいことが分かった。内部抵抗の不良率を抑えるために、充填率は82%以上がよいと考えられる。
【0108】
【表16】
【0109】
表17に過放電後の電池総高の変化を示す。充填率が98%では過放電試験後の電池総高が最大値で0.4mm増加したため、ホルダーから取り出せなかった。充填率が94%より低い場合はJIS規格の0.2mmをほぼ超えないことがわかった。そこで充填率上限を94%にすることによって電池膨れを抑えることにした。つまり、内部抵抗の不良率および電池膨れを抑えるには、充填率は82%〜94%が最適な領域であることが分かった。
【0110】
【表17】
【0111】
以上説明したように、空気孔の径と個数(空気孔の総面積)と正極ケース底部の面積との比率、空気極の透過時間を組み合わせることで、重負荷特性の向上させた空気電池が製造できる。また空気供給が向上した結果、電池内部からの電解液の蒸発、大気中から炭酸ガス、水分の吸収による影響が大きいので、負極仕様、すなわち水酸化カリウム濃度、負極作用物質と電解液との重量比、負極ゲルの充填率を検討し直すことで、漏液特性を維持し、軽負荷放電の短寿命、電池膨れなど使用時に不具合のない、重負荷特性に優れた空気電池が得られた。
【0112】
なお、本実施例では、空気の孔をすべて同じにして試作を行った。しかし、空気孔の径がそれぞれ異なる径を用いても、請求項範囲であるならば、効果は得られる。また空気孔の形も、円状だけではなく、空気孔の形は金型・加工できる範囲でどのような形でもよい。
【0113】
また、今回空気極製造の際の正極触媒層と撥水膜層との圧着工程を、アンカー効果によるローラ方式で行ったが、圧着工程としては正極触媒層と撥水膜層とを圧着できてかつ空気極の透過時間をコントロールできる方式であればいかなるものでもよく、例えば液体含浸方式(アルコール含浸方式)などが使用できる。
【0114】
次に本発明の他の実施の形態を説明する。実施対象とした電池はPR44タイプで、前記した図1に示すボタン型空気電池PR2330と同じ断面構造を有している。正極として使用する空気極は直径11.20mmの円形に打ち抜いた。空気孔の位置は図2に示すような放射状配置が好ましい。
【0115】
(実施例17)
正極ケースの空気孔を、直径0.4mm、個数5個とし、空気極は空気透過時間25秒のものを使用し、図1に示す空気電池を作成した。正極ケース底面積は104.72mm2である。
【0116】
(実施例18〜24)
正極ケースの空気孔の直径および個数、空気極の空気透過時間を表18に示す通りとし、それ以外は実施例17と同様にして図1の空気電池を作成した。
【0117】
(比較例8,9,10)
正極ケースの空気孔の直径および個数、空気極の空気透過時間を表18に示す通りとし、それ以外は実施例17と同様にして図1の空気電池を作成した。
【0118】
(従来例3)
表18に示すように、正極ケースの空気孔を、直径0.5mm、個数5個とし、空気極の空気透過時間を60秒として、図1に示す空気電池を作成した。これは従来の空気電池の仕様である。
【0119】
【表18】
【0120】
上記の各実施例、比較例および従来例の電池について、限界電流値の測定、常温常湿(20℃−相対湿度60%)での20mA定電流放電時間、乾燥条件(20℃−相対湿度30%)での20mA定電流放電時間および漏液発生率を試験した。
【0121】
限界電流値は前記実施例10〜17の場合と同様にIV曲線から求めた。限界電流値を、空気極の面積で割った値を電流密度とした。限界電流値の試験数は、5個で行った。
【0122】
重負荷特性を評価するために、20mA定電流放電を行った。室温(20℃−60%RH)での20mA定電流放電の放電時間は、20個の電池の平均値である。乾燥条件(20℃−30%RH)での20mA定電流放電の放電時間は20個の電池の平均値である。表18に評価結果を示す。
さらに、過放電漏液試験は25℃−85%RH雰囲気下で、250Ωの負荷を掛け続け、216時間後の漏液発生率を調査した。試験数は20個行った。
【0123】
【表19】
【0124】
実施例17,18,19、20および比較例10の結果から、空気孔の面積を大きくすることで、酸素供給が容易になり限界電流値も、空気孔の面積に比例して増加する。しかし、比較例10では空気孔の面積が大きい上に、空気極の空気透過時間25秒を使用したため、電池内部から水酸化カリウム電解液中の水分の蒸発が起こり、乾燥条件で短寿命が起こりやすくなった。
【0125】
実施例18と従来例3のように、空気孔の面積が同じ場合では空気極の透過時間が小さい方が重負荷特性に効果があることがわかった。
また、実施例21,22,23,24のように、空気孔面積比率が0.59%以下で、空気透過時間60秒でも、目的とする限界電流値が得られることがわかった。これは、小さな孔をたくさん設けることで、空気孔から空気極への拡散の効率が良くなったためと考えられる。
【0126】
また、比較例8のように空気極の空気透過時間が10秒では、空気極打ち抜き工程で撥水膜の剥がれが発生し、過放電漏液が発生した。また、比較例9では、空気極の空気透過時間が90秒であり、空気の供給が不足するため、目的とする電流値が得られなかった。
【0127】
このように、表19に示す結果から、正極ケースの空気孔の径と個数で計算される空気孔の面積比率(空気孔の総面積/正極ケース底面の面積×100)と、空気極の空気透過時間とのそれぞれの最適範囲が決定された。
【0128】
ただし、空気極の空気透過時間は触媒層と撥水膜層とをローラ方式で圧着するときの圧着具合によって決まるので、個々の空気極の空気透過にはばらつきが生じる。ここで用いた25秒、60秒はそれぞれ12個で測定してσ=±3.3、σ=±5の値をもち、3σを考慮すると25秒は15〜35秒、60秒は50〜70秒の範囲であると推定される。
次に、上記実施例17〜22の電池において、空気極の空気透過時間だけを変えて限界電流値を測定した結果を表20に示す。
【0129】
【表20】
【0130】
まず、空気透過時間を10秒とした場合は、どの例においても空気極打ち抜き工程において圧着撥水膜のハガレが生じた。この空気極を用いた試作品では過放電漏液が発生した。また、空気透過時間を90秒とした場合は、空気供給が不足するため20mA放電ができなかった。
【0131】
これら以外の空気透過時間の場合には、実施例17,18,19において空気極透過時間50秒以上の範囲で、空気供給が不足して目的とする電流値が取り出せなかった。したがつてこれらの実施例では15〜35秒の空気透過時間の空気極が適当である。また、実施例20,21,22では15〜35秒で漏液発生するため、空気極の透過時間は50〜70秒が適当である。
【0132】
このように、空気孔と空気極の空気透過時間とを組み合わせることによって、重負荷特性を向上させることができたが、一方、空気供給を向上させたことにより、過放電漏液、過放電後の電池膨れ、軽負荷620Ω放電における短寿命発生などの問題が生じた。これは水酸化カリウム濃度を35%、負極作用物質と水酸化カリウム水溶液との重量比を200/50、充填率を98%、と従来基準で電池を試作したためである。本発明の正極ケースの空気孔面積比率と空気極の空気透過時間との組み合わせに合わせて、上記の負極仕様を検討し直す必要がある。
【0133】
まず、前記表18の仕様で、620Ωのような長期室内放電で不具合が見られた。その対策として、水酸化カリウム濃度を低下させて二酸化炭素との反応を軽減するか、前記重量比を電解液量リッチにすることで、水分の蒸発を抑えることにした。
【0134】
まず水酸化カリウムの濃度別例で試作した。代表例として、空気孔の面積比率0.59%以上(実施例17,18,19)と0.59%以下(実施例21,22,23)とについて、水酸化カリウム濃度を25,27,29,31,33,35%に調整し、前記重量比は200/50、充填率は98%(いずれも従来例と同じ)で試作した。
【0135】
これらについて過放電漏液試験および620Ωの放電試験を行った。過放電漏液試験は各10個について、25℃−85%RHで250Ω−216時間放電して漏液個数を調べた。結果を表21に示す。また、620Ωの放電試験は20℃−60%RHの条件下、個数10個について行った。結果を表22に示す。
【0136】
【表21】
【0137】
【表22】
【0138】
これらの試験結果から、実施例17〜19の場合はKOH31%以下、実施例21〜23ではKOH33%以下とする必要がある。また、表22の結果から、いずれの実施例においてもKOH25%以下では放電時間の低下が見られたので、KOH27%以上にする必要がある。つまり、KOHの濃度が高いと過放電漏液に不利な傾向があり、逆にKOHの濃度が低すぎると放電特性を劣化させる。これは大気中の水分吸収によるKOHと独活の低下に起因する。
【0139】
以上の結果、空気孔の面積比率0.59%以上ではKOH濃度は27〜31%、空気孔の面積比率0.59%以下ではKOH濃度は27〜33%の範囲がよいことがわかった。
【0140】
次に、負極作用物質と電解液との重量比について検討した。従来は亜鉛200gに対して水酸化カリウム水溶液50gを使用しているが、この重量比では負極ゲルが硬くなり、充填ノズルの詰まりが発生し、生産工程で従来から問題があった。
【0141】
そこで、上記において最適としたKOH濃度範囲の29%で、亜鉛重量200gに対して水酸化カリウム水溶液の量を50g,60g,70g,80g,90g,100gとして試験を行った。表23に20℃−60%RHの条件下での620Ω放電における放電持続時間を示す。
【0142】
【表23】
【0143】
上記表に示すように、水酸化カリウム重量を現行の50gよりも増やすことで、放電持続時間を長くすることができ、亜鉛の利用率を高めることができた。これは水酸化カリウム水溶液重量を増やすことで大気中の炭酸ガスや水分の影響を低減したためである。
次に同じ仕様において、負極ゲル充填試験を行った。表24にその結果を示す。
【0144】
【表24】
【0145】
水酸化カリウム重量が50g以下ではゲルの流れ性が悪く、ノズル詰まりが増えて所定のゲル重量を排出することが難しかった。また、90gを超すとゲル充填工程中にゲルが絶縁ガスケットの脇に垂れて嵌合クリンプ時にゲルずれを起こし、嵌合不良を多発した。
【0146】
以上の結果から、亜鉛200gに対して水酸化カリウム水溶液の重量は60〜80gが適当であることがわかった。つまり亜鉛/水酸化カリウム水溶液の重量比は2.5〜3.3となる。この範囲で軽負荷620Ω放電でも目的の放電時間がえられた。
【0147】
次に電池膨れの問題について検討した。上記電池の場合、従来例に比べて空気供給が向上して外部からの水分吸収が増加し、放電後の電池総高が0.2mm以上となり、使用後電池ホルダーからの取り外しができなくなった。そこで負極充填率について次のように試験を行った。
【0148】
負極充填率の説明は先に示したが、今回は前記の取り出し可能電流密度の最低値が0.1A/cm2の電池の場合と同様に、充填率78%,82%,86%,90%,94%および98%について試作した。これらの試作品について内部抵抗と過放電後の電池総高の変化とを調べた。なお、水酸化カリウム濃度29%、亜鉛/電解液重量比=200/60で行った。これらの試作品について内部抵抗と過放電後の電池総高の変化とを調べた。
【0149】
表25に内部抵抗の測定結果を示す。充填率が78%では負極ケースと負極ゲルの接触がわずかながら悪く、電池作成1日後の初期特性で、内部抵抗のバラツキが大きいことが分かった。内部抵抗の不良率を抑えるために、充填率は82%以上がよいと考えられる。
【0150】
【表25】
【0151】
また、表26に過放電後の電池総高の変化を示す。充填率が98%では過放電試験後の電池総高が最大値で0.3mm増加したため、ホルダーから取り出せなかった。充填率が98%より低い場合はJIS規格の0.2mmをほぼ超えないことがわかった。そこで充填率上限を94%にすることによって電池膨れを抑えることにした。つまり、内部抵抗の不良率および電池膨れを抑えるには、充填率は82%〜94%が最適な領域であることが分かった。
【0152】
【表26】
【0153】
以上説明したように、空気孔の径と個数(空気孔の総面積)と正極ケース底部の面積との比率、空気極の透過時間を組み合わせることで、重負荷特性の向上させた空気電池が製造できる。また空気供給が向上した結果、電池内部からの電解液の蒸発、大気中から炭酸ガス、水分の吸収による影響が大きいので、負極仕様、すなわち水酸化カリウム濃度、負極作用物質と電解液との重量比、負極ゲルの充填率を検討し直すことで、漏液特性を維持し、軽負荷放電の短寿命、電池膨れなど使用時に不具合のない、重負荷特性に優れた空気電池が得られた。
【0154】
なお、本実施例では、空気の孔をすべて同じにして試作を行った。しかし、空気孔の径がそれぞれ異なる径を用いても、請求項範囲であるならば、効果は得られる。また空気孔の形も、円状だけではなく、空気孔の形は金型・加工できる範囲でどのような形でもよい。
【0155】
また、今回空気極製造の際の正極触媒層と撥水膜層との圧着工程を、アンカー効果によるローラ方式で行ったが、圧着工程としては正極触媒層と撥水膜層とを圧着できてかつ空気極の透過時間をコントロールできる方式であればいかなるものでもよく、例えば液体含浸方式(アルコール含浸方式)などが使用できる。
【0156】
【発明の効果】
本発明によれば、重負荷放電特性を維持し、長期放電中の劣化、及び過放電時の漏液を防止し、従来に比べて、信頼性の高い空気電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の空気電池の一実施例を示す断面図。
【図2】空気孔の配列を説明する図。
【図3】限界電流値測定曲線を示す図。
【符号の説明】
1…空気孔、2…正極ケース、3…拡散紙、4…5と圧着する撥水膜、5…正極触媒層、6…セパレータ、7…正極集電体、8…撥水膜、9…絶縁ガスケット、10…負極ケース、11…負極作用物質。
Claims (4)
- 底面に多数の空気孔を有する正極ケース内に、撥水膜層、正極触媒層および集電体層を有する空気極が収納され、負極ケース内に電解液を保有する負極作用物質が収納されている空気電池において、空気孔の総面積と正極ケース底面の面積との比率(空気孔の総面積/正極ケース底面の面積×100)が0.3〜3.3%の範囲であり、撥水膜のガーレ値が約270秒であり、かつ電解液である水酸化カリウム濃度が25〜43%であることを特徴とする空気電池。
- 底面に多数の空気孔を有する正極ケース内に、撥水膜層、正極触媒層および集電体層を有する空気極が収納され、負極ケース内に電解液を保有する負極作用物質が収納されている空気電池において、空気孔の総面積と正極ケース底面の面積との比率(空気孔の総面積/正極ケース底面の面積×100)が3.3〜30%の範囲であり、撥水膜のガーレ値が約1500秒であり、かつ電解液である水酸化カリウム濃度が35〜40%であることを特徴とする空気電池。
- 負極作用物質と水酸化カリウム水溶液の重量比(負極作用物質/水酸化カリウム水溶液)が、2.5〜3.3である請求項1および2のいずれかに記載の空気電池。
- 負極ケース、絶縁ガスケット、および空気極で形成される空隙体積に対する放電後の負極ゲルの体積の比率(放電後の負極ゲルの体積/上記空隙体積)が、84〜92%である請求項1および2のいずれかに記載の空気電池。
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