JP4252606B2 - 優先順位評価システム - Google Patents
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Description
しかし、損傷程度の判定は点検技術者の経験に基づいた主観による部分が多くを占めており、補修対策の方針を決定する基準が曖昧であったことは否めない。
このため、評価結果と実際の損傷状況に食い違いが生じることも多く、また評価者が変われば評価そのものが全く変わってしまう等、精度上の問題、客観性の課題が残されていた。
しかも、補修実施の実績データが全くない場合、又は極端に少ない場合には補修工事や保守のための対応策を講じるための優先順位を客観的に決定することは困難である。
土木構造物や災害危険箇所の維持管理による有効利用が求められる昨今にあって、既存の社会資本の保守事業遂行は急務であるが、これをより効率的に実施するためには一層高精度且つ客観性を有した損傷状況の評価手法の確立が不可欠であると考えられる。
また、社会資本の効率的な利用の観点からすれば、高精度で客観的な評価に加えて、これらを的確に順位付けして、経済的にも時間的にも無駄のない補修工事や防災対策が講じられる必要があると考えられる。
土木構造物や災害危険箇所に関する評価手法は、土木構造物の他にも、例えば土砂災害や陥没災害などの自然災害においても未然防止の観点から急峻な斜面に対して補強工事や排水溝などの対策工を施すなどする際に、その危険度を評価するために必要であり、本願発明者らは既に自然災害の未然防止の観点から様々な検討を実施している。
その結果、例えば非特許文献1では、横軸に実効雨量、縦軸に時間雨量をとった判別境界面が曲線の集合として描かれる。
この曲線は、いわば等高線を示したもので、これが非線形のがけ崩れ発生限界線を示している。判別境界面は、災害の発生、非発生の実効雨量と時間雨量をプロットしながら、その高さ方向として災害の発生の場合には教師値を「−1」とし、非発生の場合には教師値を「+1」とした放射状基底関数を考え、その重ね合わせによって演算されたものである。従って、これらの等高線は、原点に近い方が高いもので、原点の存在する左下の角から対角方向に向かってなだらかに低いものとなっている。
このような災害の発生限界線や避難基準線、警戒基準線(以下、これらを総称してCLという。)を定量的、客観的に描くことによって精度の高い防災事業の立案の判断が可能であり、また、コンピュータ処理によって膨大なデータを短時間に処理できることから、CLの陳腐化を防止して精度の高い情報を提供できるのである。
本特許文献1に開示される災害対策支援システムは、基本的にはif−then形式で、予め発生する事象とそれに対応する対策を関連付けて格納された対策リストを読みだして、対応するものである。災害時に精神的、時間的、人的に余裕のない状況で、的確な判断を可能とすべくなされたものである。また、標準的な作業時間と実働時に要した作業時間及び対策可能な残り時間を表示することで、対策進捗状況をリアルタイムに把握することが可能であると同時に、重要度の高い対策と低い対策を取捨選択するためにも用いることができる。
このようにして得られたCLを用いることで、信頼性の高い警戒避難支援システムを提供することが可能である。
倉本和正 他5名:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集のNo.672/VI−50,pp.117−132,2001.3
これでは、客観的、定量的な評価であっても、地域毎あるいはグループ毎に個別具体的な評価を行なうことはできるものの、特定の地域ではなく、地域全般に共通の一般的、普遍的な評価を行なうことが困難であるという課題があった。すなわち、データとしては、広範な地域のデータを一緒に用いて、それらに含まれる様々な要因を把握し、それらの要因の中から変数として選択して組合わせることによって得られる総合的な潜在危険度を評価することが困難であるという課題があった。
従って、いずれの地域に対して優先的に補修工事を施すか、あるいは防災の対策を施すかという判断を行うには、困難であったし、そもそも優先順位を付すという思想も開示されるものではなかった。
これについて、既往の点検データと補修実施の実績データから、サポートベクターマシン(以後、SVMと略す場合がある。)や放射状基底関数ネットワーク等の数学的なパターン分類手法を用いることにより、点検対象物の危険度を演算し、その演算結果に基づいて補修の要否や対応策の要否の優先順位を高精度に付して評価することが可能なシステムを発明した。このシステムを用いることで、土木構造物や建築構造物、あるいは災害危険箇所の補修の要否や災害防止対応策の要否の判断において高い精度を発揮しながら、客観性も確保することが出来、構造物や災害危険箇所の維持補修事業の効率化・高精度化・客観化に大きな効果が期待できる。
前記入力部は、前記点検対象物における前記健全性劣化に関係する要因に係るn次元の要因データと前記要因データ毎のn次元の点検データと、前記要因データ毎に仮に想定される仮想データであって前記教師値として安全側となる場合と,前記教師値として危険側となる場合にそれぞれ対応するn次元の仮想データを学習データとして多次元座標空間中に予め演算された分離面の座標データとを、前記格納部に入力可能な手段であって、前記演算部は、前記n次元の点検データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、この点検データが示す前記多次元座標空間中での座標点から、前記多次元座標空間中に形成される分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記多次元座標空間の原点側にある場合を正とするか、あるいは前記原点側にある場合を負とする。以下、同様。)を前記点検対象物の危険度として演算する危険度演算部と、この危険度演算部において演算された前記危険度を指標に、並べ替えを実行して前記点検対象物に関する優先順位データを生成する優先順位決定部と、前記優先順位データに基づいて、前記n次元の点検データからその一部を選択し、この選択された一部の前記n次元の点検データ(下記の式(1)で表現されるX)を前記要因データの次元毎に残しつつ、他の次元の要因データに対しては、前記n次元の点検データの一部に対する教師値と同一の教師値として安全側又は危険側に対応するように仮に想定される仮想データ(k)を入力することで分離して、下記の行列式(2)で示されるような新たなn次元の仮想データ(A 1 ・・・A n )を生成する要因処理部と、
この要因処理部によって演算される新たなn次元の仮想データを、前記仮想データに加え用いて新たな分離面を多次元座標空間中に演算する分離面演算部と、を備え、前記危険度演算部は、この新たな分離面を用いて新たな危険度を演算し、前記優先順位決定部は、この新たな危険度を指標に並べ替えを実行して新たな優先順位データを生成し、前記要因処理部において生成される新たな仮想データ毎に、前記分離面演算部、危険度演算部、優先順位決定部は繰り返し演算を実行可能であり、前記出力部は、前記分離面又は新たな分離面の座標データ、前記点検データ、前記仮想データ又は前記新たな仮想データ、前記危険度又は前記新たな危険度、前記優先順位データ又は新たな優先順位データのうち少なくとも1の情報を出力可能な手段であることを特徴とするものである。
前記入力部は、前記点検対象物における前記健全性劣化に関係する要因に係るn次元の要因データと前記要因データ毎のn次元の点検データと、前記要因データ毎に仮に想定される仮想データであって前記教師値として安全側となる場合と,前記教師値として危険側となる場合にそれぞれ対応するn次元の仮想データとを、前記格納部に入力可能な手段であって、前記演算部は、前記要因データ毎のn次元の仮想データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、これを学習データとして前記多次元座標空間中に分離面を演算する分離面演算部と、前記n次元の点検データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、この点検データが示す前記多次元座標空間中での座標点から、前記多次元座標空間中に形成される分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記多次元座標空間の原点側にある場合を正とするか、あるいは前記原点側にある場合を負とする。以下、同様。)を前記点検対象物の危険度として演算する危険度演算部と、この危険度演算部において演算された前記危険度を指標に、並べ替えを実行して前記点検対象物に関する優先順位データを生成する優先順位決定部と、前記優先順位データに基づいて、前記n次元の点検データからその一部を選択し、この選択された一部の前記n次元の点検データ(下記の式(1)で表現されるX)を前記要因データの次元毎に残しつつ、他の次元の要因データに対しては、前記n次元の点検データの一部に対する教師値と同一の教師値として安全側又は危険側に対応するように仮に想定される仮想データ(k)を入力することで分離して、下記の行列式(2)で示されるような新たなn次元の仮想データ(A 1 ・・・A n )を生成する要因処理部と、を備え、
前記分離面演算部は、前記要因処理部によって演算される新たなn次元の仮想データを、前記仮想データに加え用いて新たな分離面を多次元座標空間中に演算し、前記危険度演算部は、この新たな分離面を用いて新たな危険度を演算し、前記優先順位決定部は、この新たな危険度を指標に並べ替えを実行して新たな優先順位データを生成し、前記要因処理部において生成される新たな仮想データ毎に前記分離面演算部、危険度演算部、優先順位決定部は繰り返し演算を実行可能であり、前記出力部は、前記分離面又は新たな分離面の座標データ、前記点検データ、前記仮想データ又は前記新たな仮想データ、前記危険度又は前記新たな危険度、前記優先順位データ又は新たな優先順位データのうち少なくとも1の情報を出力可能な手段であるものである。
この最優先の順位とは、最も危険であると評価された点検対象物の順位と最も安全であると評価された点検対象物の順位のいずれか一方又は両方の順位を意味する。
また、最初に仮想データを学習データとして用いることで、補修や保守工事などの実績データあるいは点検データがない場合や極端に少ない場合においても、当初の分離面を形成可能であるので、実績データや点検データがない場合や極端に少ない場合においても精度高く、客観的な解析を実行することが可能である。
また、点検データの一部を仮想データに加えて学習データとして用いることで、実績データや点検データがない場合や極端に少ない場合においても更に精度高く、客観的な解析を実行することが可能である。
さらに、n次元の点検データの一部を構成する点検データXを要因の次元毎に分離して、生成される新たなn次元のn個の仮想データを生成するので、点検データを効率的に分離することができ、危険度や優先順位を高精度に効率的に求めることが可能である。
図1は、本発明の実施の形態に係る優先順位評価システムの構成図である。
図1において、優先順位評価システムは、入力部1と演算部2と出力部8及び格納部として複数のデータベース10,13,15,18から構成される。
入力部1は、これらのデータベース10,13,15,18に格納されるデータ9a(具体的には、仮想データ11、点検データ14、解析条件データ19、パラメータデータ20、分離面データ21)や解析条件9b(解析条件データ19)を予め入力したり、あるいは演算部2の作業時にデータ9aや解析条件9bを入力するために使用されるものである。入力部1としての具体例には、キーボード、マウス、ペンタブレット、あるいは、コンピュータ等の解析装置や計測機器等から通信回線を介してデータを受信する受信装置など複数種類の装置からなり目的に応じた使い分け可能な装置が考えられる。
演算部2は、分離面演算部3、危険度演算部4、優先順位決定部5、要因処理部6から構成されるものである。
演算部2は、データベースから読み出されたり、入力部1から入力されるデータ9aや解析条件9bを用いて、土木構造物や災害危険箇所等の点検対象物における健全性劣化に関する点検データから得られる補修や対応策の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を分離する分離面を演算する分離面演算部3、また、その分離面に基づいて算出される点検対象物の危険度を演算する危険度演算部4、その危険度によって優先順位を決定する優先順位決定部5、さらに、点検データの一部を要因の次元毎に分離して、新たな仮想データを生成する要因処理部6から構成されている。演算部2として具体的には、ワークステーションやパーソナルコンピュータ等のコンピュータが考えられる。
また、データベースとしては、土木構造物や災害危険箇所に対する仮想データ11や演算部2の要因処理部6で生成される新仮想データ12が格納される仮想データベース10、実際に土木構造物や災害危険箇所に対して実施された点検に関する点検データ14を格納する点検データベース13、演算部2の危険度演算部4で演算された危険度データ16、優先順位決定部5で演算された優先順位データ17を格納する評価情報データベース15、種々の解析のための解析条件データ19及びパラメータデータ20、予め仮想データを用いて演算された分離面に関する分離面データ21を格納する解析データベース18がある。
表1に橋梁を例にとり、実際の点検データ14が記載された表を示す。表1では、橋梁の健全性劣化に係る要因として、「ボルトのゆるみ」、「ボルトの欠損」、「異常音」、「排水樋のつまり」、「排水樋の損傷」、「漏水」、「止水工」、「その他(さび・腐食)」が示されている。
管理番号として、符号でP−2などが示されているが、これは点検対象物を符号化するものである。また、各要因の欄の数値は、「0」が全く安全側で問題がない場合の数値、数値が大きくなるにつれて危険側で問題がある場合の数値を示している。ここでは、「3」が危険側で問題がある場合の数値を示している。この数値は特にこれらに限定するものではなく、その大小や、符号自体も予め点検者が決定してもよい。
管渠Noとして、数値で「05091000600」などが示されているが、これは点検対象物を符号化するものである。また、各要因の欄の数値は、「1」が全く安全側で問題がない場合の数値、数値が大きくなるにつれて危険側で問題がある場合の数値を示している。この数値は、特にこれらに限定するものではなく、その大小や、符号自体も予め点検者が決定してもよい。
鉄塔番号として、数値で「70」などが示されているが、これは点検対象物を符号化するものである。また、各要因の欄の数値は、「0」が全く安全側で問題がない場合の数値、数値が大きくなるにつれて危険側で問題がある場合の数値を示している。この数値は、特にこれらに限定するものではなく、その大小や、符号自体も予め点検者が決定してもよい。
トンネルのスパン番号として、数値で「2」などが示されているが、これは点検対象物を符号化するものである。また、各要因の欄の数値は、「0」が全く安全側で問題がない場合の数値、数値が大きくなるにつれて危険側で問題がある場合の数値を示している。この数値は、特にこれらに限定するものではなく、その大小や、符号自体も予め点検者が決定してもよい。
仮想データ11は、図3(b)に示されるように、極端に危険データであったり、安全データであるように設定されると望ましいが、特に限定するものではない。図中、要因1あるいは要因2と記載されるのは、例えば、前述のとおり、橋梁における点検データをベースに補修工事の優先順位を客観的に求める場合には、ボルトの緩みやボルトの欠損、排水樋のつまりや損傷、漏水などがある。表5に具体的な例を示す。表5の例は、表1と同様に要因が8個ある場合のもので、上段の仮想データは、処置方針として補修不要な場合で、すべての要因に関するデータが「0」で、下段の仮想データは、処置方針として要補修の場合で、すべての要因に関するデータが「3」である。それぞれの処置方針は、「1」と「−1」などの教師値でも表現されている。この教師値は、サポートベクターマシンなどを用いて実行される解析に用いられる値である。
分離面演算部3は、このような仮想データ11を用いて、図2のステップS2で示されるように分離面を演算する。演算された分離面に関する分離面データ21は、分離面演算部3によって解析データベース18に格納される。この分離面の解析は、サポートベクターマシンを用いて実行される。サポートベクターマシンの他にも放射状基底関数ネットワークを用いた解析によって演算されてもよい。
図4に示される分離面aを演算によって構築した後に、ステップS3では、危険度演算部4が点検データベース13からY個(図3(a)及び図4ではY=9)の点検データ14を読み出す。
点検データ14は、図1に示されるように、予め点検データベース13に入力部1を介して点検データベース13に格納されていてもよいし、危険度演算部4が、直接入力部1から入力される点検データ14を読み出すようにしてもよい。また、この点検データ14には、そのデータが認められた点検対象物に関するデータも含まれている。この点検対象物に関するデータは、点検対象物を特定できるものであれば、そのものの名称データであっても記号や数字などを用いて表現されたデータであってもよい。
演算された危険度データ16は、危険度演算部4によって点検データ14と対にされて、点検データ14を含めて、評価情報データベース15に格納される。
このようにして得られた順序を優先順位として、この優先順位に関するデータを優先順位データ17と呼ぶ。今回の点検データ14はY個あるため、優先順位データ17では、1位からY位までとなる。
このように危険度を指標として点検対象物に対して優先順位を付した状態を模式的に示すのが、図4である。前述の符号1は、危険度の高いものとして優先順位が1位であることを示すものであった。分離面aよりも外側の領域(以下、便宜上、危険領域と呼ぶ。)では、分離面aから離れるにつれて、すなわち、分離面aからの距離が大きくなるにつれて、危険度が高くなるので、優先順位が高い。一方、分離面aよりも内側の領域(以下、便宜上、安全領域と呼ぶ。)では、分離面aから離れるにつれて、すなわち、分離面aからの距離が大きくなるにつれて、危険度が低くなるので、優先順位が低い。
このように得られた優先順位データ17は、優先順位決定部5によって評価情報データベース15に格納される。
表13では、処置方針の要補修と補修不要では、上位20位までの中には、要補修と補修不要が混在しており多少上位に補修不要も散見される。一方、下位20位までの中には、要補修のものは見つからない。
従って、本実施例に係る優先順位評価システムにおいては、優先順位の決定が有効になされていることが理解される。
表14では、処置方針は、上位20位までの中には、敷設替が必要で優先度が高い管渠のみが存在している。一方、下位20位までの中には、敷設替が不要の管渠のみが存在している。本例の下水道管渠においても、橋梁と同様に優先順位の決定が有効になされていると考えられる。
なお、本実施例では、分離面aの構築として、分離面演算部3で仮想データ11を用いて分離面aを演算したが、予め仮想データ11を用いて分離面aを演算しておき、これを、入力部1を介して解析データベース18に格納しておいてもよい。その場合には、分離面演算部3は演算部2に設ける必要がない。危険度演算部4が、入力部1から直接あるいは仮想データベース10から格納された分離面データ21を解析データベース18から読み出すとよい。
本実施例においては、実施例1において実行されるステップS5に加えて、ステップS6からステップS12までを実行可能なものである。
図1において、本実施例では、実施例1と具体的には、演算部2に要因処理部6を備えることで異なっている。
図5において、ステップS5までは実施例1と同様であるのでその説明を省略し、ステップS6以降説明する。
この要因数nへの分離について、以下の表15及び表16を参照しながら説明する。
このように1つのn次元点検データ14を用いて、これを次元毎に分離して、新たなn次元の仮想データを生成するのである。すなわち、次元毎に点検データ値をそれぞれ残しつつ、他のデータ値に、代表値として最も危険側の値を代入して、次元数(要因数)の新仮想データ12を得るものである。
本実施例においては、元々の点検データ14の値の他に仮想的に入力した数値が、最も危険側の値を入力したが、これは最も安全側の値を代表値として入力してもよい。
このようにして得られた新仮想データ12を仮想データ11に加えて考えると表17のようになる。仮想1と管理番号の欄に記載されているものが、当初の仮想データ11であり、仮想2と記載されているものが今回求められた新仮想データ12である。
このn次元の新仮想データの生成について、図6を参照しながら、更に具体的に説明を加える。図6(a)は、2次元の点検データ14の一部を要因1と要因2に分離して新仮想データ12を生成した場合を示す概念図であり、(b)は、仮想データ11に新仮想データ12が追加される状態を示す概念図である。
符号1で示されるのは、ステップS5において、優先順位決定部5によって求められた点検データ14の中で最も優先順位が高いと考えられる点検データである。この点検データを次元毎に分離して新たな2次元の新仮想データ12を生成し、これを学習データとする場合について説明する。
この点検データA0は、先に定義した危険領域に存在し、最も危険度が高い、すなわち優先順位が最も高いということで危険側の最大値を用いて分離させている。
(条件1)危険領域に存在し、優先順位が最も高ければ、その点検データを危険側に分離する。
(条件2)安全領域に存在し、優先順位が最も低ければ、その点検データを安全側に分離する。
(条件3)危険領域に存在し、処置方針に関するデータが要補修の場合であれば、その点検データを危険側に分離する。
(条件4)安全領域に存在し、処置方針に関するデータが補修不要の場合であれば、その点検データを安全側に分離する。
これらは例であり、処置方針に関するデータを備えていない点検データも考えられるので、予め適宜分離のための条件を解析条件データ19として設定しておき、これを解析データベース18から要因処理部6で読み出して、実行するとよい。
但し、新仮想データ12として仮想データ11に加えて分離面の構築を行うことを考慮すれば、実際に専門家が判断した処置方針などが明示されたデータを新仮想データ12に採用した方が、精度の向上には好適であることは理解される。さらに、評価を必要とする点検対象物が限りなく多数存在している一方、実際に災害や事故などが発生した箇所が少ないことから、真に危険な点検対象物が存在しているのであれば、その点検データを、危険側に分離される新仮想データ12として学習データに採用する方が、後述する新たに構築される分離面の精度あるいはその分離面を用いて解析される新たな危険度の精度さらには、新たな優先順位の精度が向上すると考えられる。
なお、分離対象となる点検データ14の選択方法は、基本的には、限定しないが、新たな分離面の精度を向上させるためには、優先順位が高い点検データか、あるいは逆に優先順位の低い点検データであることが望ましい。具体例としては、最優先の順位を得た点検対象物に関する点検データを選択する方法がある。この最優先の順位とは、前述のとおり、最も危険であると評価された点検対象物の順位と最も安全であると評価された点検対象物の順位のいずれか一方又は両方の順位を意味するものである。
また、専門家による処置方針に関するデータが存在する点検データがあれば、そのものを用いることが望ましい。なぜなら、例えば、専門家によって処置方針として要補修と判断されている場合、あるいは逆に補修不要と判断されている場合には、専門家による経験や詳細な検討に基づいた確度の高い判断であると考えられるところ、その処置方針に沿って、仮想データに加えることで、新仮想データ12の精度の向上を図ることができるためである。
仮想データ11は、その要因数をnとし、その数をX1とするが、新仮想データ12は、後述する繰り返し回数をmとすれば、その回数毎に分離したn個の新仮想データ12が追加されるため、その数は、「X1+m・n」となる。分離面演算部3は、仮想データベース10から読み出した仮想データ11及び新仮想データ12を自己に入力する。これらの仮想データ11及び新仮想データ12は、いずれも仮想データベース10に格納されたものを読み出して入力してもよいが、入力部1から入力される仮想データ11及び新仮想データ12を分離面演算部3が読み込んでもよい。その際には、要因処理部6で得られた新仮想データ12を別途外部へ出力しておく必要があるが、要因処理部6に出力部8を介してそのような機能を持たせておくことが望ましい。
演算された分離面に関する新分離面データ24は、分離面演算部3によって解析データベース18に格納される。この分離面の解析は、先の分離面の解析と同様に、図5に示されるサポートベクターマシン(SVM)の他、放射状基底関数ネットワークを用いて実行されてもよい。
図7に分離面演算部3において演算された新分離面の例を示す。図7において符号bで示される曲線が新分離面である。図7は2次元であるので線状に描かれている。
演算された新危険度データ22は、危険度演算部4によって点検データ14と対にされて、点検データ14を含めて、評価情報データベース15に格納される。
このようにして得られた順序を新たな優先順位として、この新たな優先順位に関するデータを新優先順位データ23と呼ぶ。今回の点検データ14はY個あるため、優先順位データ17では、1位からY位までとなる。
このように新危険度を指標として点検対象物に対して新優先順位を付した状態を模式的に示すのが、同じく図7である。図4において、例えば優先順位が4位であった点検データ14は、図7の今回の新危険度データ22から構成される新分離面bを用いて得られた新優先順位データ23では6位となっており、新分離面bを用いた結果、優先順位に変動があることが理解される。
このようにして実施例2に示される優先順位評価システムは、要因処理部6を備えることで、点検データ14から新仮想データ12として分離して仮想データを増やし、分離面を更新させて分離面の精度を向上させることができる。
ステップS6における要因処理部6による点検データ14の要因数nへの分離から、ステップS12における優先順位決定部5による優先順位の決定までを一度実行した後に、さらに新分離面bの精度あるいはそれに基づく優先順位の精度の向上を図るため、さらにステップS6からステップS12までを実行する場合も考えられる。この要否については、優先順位の決定に関する出力を出力部8から得た作業者などが判断することも可能であり、その際に、必要とした場合には、再度、ステップS6からステップS12までの工程を実行させる。この繰り返し計算は、図5ではm回実行されるように示されているが、これは、特に、回数を特定する意味ではなく、任意の回数として記載するものである。但し、当然のことながら点検データ14のデータ数以下に限定されることは言うまでもない。このデータ数とは、例えば、図3や4を参照しながら説明した本実施の形態では、図にプロットされる9点を意味する。
また、本優先順位評価システムにおいて、例えば予め解析データベース18にパラメータデータ20として、この繰り返し計算の回数あるいはすでに存在する点検データの数を入力しておき、演算部2が、すなわち、この演算部2を構成する分離面演算部3,危険度演算部4,優先順位決定部5,要因処理部6のいずれかが、このパラメータデータ20を読み出して、その繰り返し計算の回数になるまでステップS6からステップS12までを演算するようにしてもよい。その繰り返し計算の回数まで実行した後、出力部8で、得られた新優先順位データ23、新危険度データ22、あるいは点検データ14や新仮想データ12から選択される少なくとも1のデータの内容を表示したり、この出力部8を介して外部の表示装置や印字装置に出力するようにしておくとよい。
また、その際に要因処理部6で要因数nに分離される点検データの選択は、前述のとおり、例えば優先順位が最上位の点検データを選択したり、逆に最下位の点検データを採用したりするとよい。
この点検データの選択についても、予めパラメータデータ20として解析データベース18に格納しておき、要因処理部6がそのパラメータデータ20を読み出して、点検データを特定した後に、要因数nに分離するステップを実行するようにしておくとよい。
本発明では、処置方針のない点検データの優先順位を決定してもよいが、ここでは、優先順位の精度向上の検証を行うため、処置方針のある点検データを用いることとした。
表13は、既に示したとおり、ステップS5における優先順位の表9に専門家が評価した処置方針を付加したものであり、表19は、ステップS12における優先順位の表18に専門家が評価した処置方針を付加したものである。処置方針は、要補修と補修不要の2つのカテゴリーに対して、それぞれ−1と1が解析の教師値として対応している。左欄より順位、点検対象物(橋梁)の管理番号、8つの要因に対する点検データも記載されている。f(x)については、表9において説明したとおり、危険度を表現している。
一方、表19では、上位20位までのうち、上位には処置方針の要補修が表13よりも集中していることが理解される。例示すると、上位20位までの要補修の数は表13では9であるが、表19では11と増加している。従って、表13よりも表19に示される優先順位の精度が高いことが検証されている。
また、右半分の欄に記載されているstep1からstep6は、図5に示されるステップS1からステップS12までのステップとは異なり、優先順位が決定されるステップS5がstep1、その後に新たな優先順位が決定されるステップS12がstep2、また、ステップS12から引き続きステップS6に戻り、繰り返し計算を実行して再度優先順位が決定されるステップS12が、step3、さらにステップS6から繰り返し計算を1回、2回、3回実行して優先順位が決定されるステップS12がstep4、step5、step6となる。
このように繰り返し計算を行いながら、点検データの優先順位がどのように変遷するかについて示したものが表20である。
このstep1からstep6までの間、優先順位1位は、管理番号P−237で不変であるものの、step1で2位であった管理番号P−336は次第に順位を下げて、step4以降では10位となっている。この管理番号P−336は、教師値が1であり、補修不要という専門家の判断であることから、順位が下降するのも理解できる。
一方、管理番号P−152は、step1では優先順位が7位であったものの、step2以降では、順位が3位と向上している。この管理番号P−152では、教師値が−1であり専門家による判断が要補修となっており、この場合も精度が向上していると考えられる。
これらを分かりやすく図示したのが図8である。図中、順位を実線で結んだものが、処置方針が−1、すなわち要補修データであり、破線が補修不要のデータである。実線で示した要補修のデータのほとんどがstepを経るごとに上位に上がり、逆に破線で示す補修不要データの全てがstepごとに下位へと下がっていることがわかる。この方法により少数のデータを用いるだけで精度の良い補修順位が得られていることがわかる。
Claims (4)
- 入力部と、演算部と、格納部と、出力部を有し、点検対象物における健全性劣化に関係する複数の要因(要因数をnとする。n≧2)を、2次元以上の空間(以下、多次元座標空間という。)を構成する座標軸上に対応させ、前記複数の要因に係るn次元の要因データと前記点検対象物に対する実際の点検によって得られた前記要因データ毎に構成されるn次元の点検データを学習データとし、前記点検対象物における補修の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を教師値として用い、補修の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を、放射基底関数ネットワーク又はサポートベクターマシンを用いて解析することで,前記多次元座標空間内で前記補修の必要性の有無あるいは前記災害発生の可能性の有無の境界を形成させ、この境界を前記補修の必要性の有無あるいは前記災害発生の可能性の有無を分離する分離面なる基準として、ある点検対象物における危険度を算出して補修又は点検の優先順位を決定するための優先順位評価システムであって、
前記入力部は、前記点検対象物における前記健全性劣化に関係する要因に係るn次元の要因データと前記要因データ毎のn次元の点検データと、前記要因データ毎に仮に想定される仮想データであって前記教師値として安全側となる場合と,前記教師値として危険側となる場合にそれぞれ対応するn次元の仮想データを学習データとして多次元座標空間中に予め演算された分離面の座標データとを、前記格納部に入力可能な手段であって、
前記演算部は、前記n次元の点検データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、この点検データが示す前記多次元座標空間中での座標点から、前記多次元座標空間中に形成される分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記多次元座標空間の原点側にある場合を正とするか、あるいは前記原点側にある場合を負とする。以下、同様。)を前記点検対象物の危険度として演算する危険度演算部と、
この危険度演算部において演算された前記危険度を指標に、並べ替えを実行して前記点検対象物に関する優先順位データを生成する優先順位決定部と、
前記優先順位データに基づいて、前記n次元の点検データからその一部を選択し、この選択された一部の前記n次元の点検データ(下記の式(1)で表現されるX)を前記要因データの次元毎に残しつつ、他の次元の要因データに対しては、前記n次元の点検データの一部に対する教師値と同一の教師値として安全側又は危険側に対応するように仮に想定される仮想データ(k)を入力することで分離して、下記の行列式(2)で示されるような新たなn次元の仮想データ(A 1 ・・・A n )を生成する要因処理部と、
この要因処理部によって演算される新たなn次元の仮想データを、前記仮想データに加え用いて新たな分離面を多次元座標空間中に演算する分離面演算部と、を備え、
前記危険度演算部は、この新たな分離面を用いて新たな危険度を演算し、
前記優先順位決定部は、この新たな危険度を指標に並べ替えを実行して新たな優先順位データを生成し、
前記要因処理部において生成される新たな仮想データ毎に、前記分離面演算部、危険度演算部、優先順位決定部は繰り返し演算を実行可能であり、
前記出力部は、前記分離面又は新たな分離面の座標データ、前記点検データ、前記仮想データ又は前記新たな仮想データ、前記危険度又は前記新たな危険度、前記優先順位データ又は新たな優先順位データのうち少なくとも1の情報を出力可能な手段であることを特徴とする優先順位評価システム。 - 入力部と、演算部と、格納部と、出力部を有し、点検対象物における健全性劣化に関係する複数の要因(要因数をnとする。n≧2)を、2次元以上の空間(以下、多次元座標空間という。)を構成する座標軸上に対応させ、前記複数の要因に係るn次元の要因データと前記点検対象物に対する実際の点検によって得られた前記要因データ毎に構成されるn次元の点検データを学習データとし、前記点検対象物における補修の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を教師値として用い、補修の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を、放射基底関数ネットワーク又はサポートベクターマシンを用いて解析することで,前記多次元座標空間内で前記補修の必要性の有無あるいは前記災害発生の可能性の有無の境界を形成させ、この境界を前記補修の必要性の有無あるいは前記災害発生の可能性の有無を分離する分離面なる基準として、ある点検対象物における危険度を算出して補修又は点検の優先順位を決定するための優先順位評価システムであって、
前記入力部は、前記点検対象物における前記健全性劣化に関係する要因に係るn次元の要因データと前記要因データ毎のn次元の点検データと、前記要因データ毎に仮に想定される仮想データであって前記教師値として安全側となる場合と,前記教師値として危険側となる場合にそれぞれ対応するn次元の仮想データとを、前記格納部に入力可能な手段であって、
前記演算部は、前記要因データ毎のn次元の仮想データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、これを学習データとして前記多次元座標空間中に分離面を演算する分離面演算部と、
前記n次元の点検データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、この点検データが示す前記多次元座標空間中での座標点から、前記多次元座標空間中に形成される分離面までの距離(但し、この距離は、前記座標点が前記分離面に対して前記多次元座標空間の原点側にある場合を正とするか、あるいは前記原点側にある場合を負とする。以下、同様。)を前記点検対象物の危険度として演算する危険度演算部と、
この危険度演算部において演算された前記危険度を指標に、並べ替えを実行して前記点検対象物に関する優先順位データを生成する優先順位決定部と、
前記優先順位データに基づいて、前記n次元の点検データからその一部を選択し、この選択された一部の前記n次元の点検データ(下記の式(1)で表現されるX)を前記要因データの次元毎に残しつつ、他の次元の要因データに対しては、前記n次元の点検データの一部に対する教師値と同一の教師値として安全側又は危険側に対応するように仮に想定される仮想データ(k)を入力することで分離して、下記の行列式(2)で示されるような新たなn次元の仮想データ(A 1 ・・・A n )を生成する要因処理部と、を備え、
前記分離面演算部は、前記要因処理部によって演算される新たなn次元の仮想データを、前記仮想データに加え用いて新たな分離面を多次元座標空間中に演算し、
前記危険度演算部は、この新たな分離面を用いて新たな危険度を演算し、
前記優先順位決定部は、この新たな危険度を指標に並べ替えを実行して新たな優先順位データを生成し、
前記要因処理部において生成される新たな仮想データ毎に前記分離面演算部、危険度演算部、優先順位決定部は繰り返し演算を実行可能であり、
前記出力部は、前記分離面又は新たな分離面の座標データ、前記点検データ、前記仮想データ又は前記新たな仮想データ、前記危険度又は前記新たな危険度、前記優先順位データ又は新たな優先順位データのうち少なくとも1の情報を出力可能な手段であることを特徴とする優先順位評価システム。 - 前記要因の次元毎に分離されるn次元の点検データの一部は、生成された優先順位データにおいて、最優先の順位を得た前記点検対象物のn次元の点検データであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の優先順位評価システム。
- 前記優先順位決定部は、危険度又は新たな危険度を指標に、この危険度の昇順又は降順に並べ替えるそれぞれ優先順位データ又は新たな優先順位データを生成し、前記出力部は、この優先順位データに基づいて、前記危険度に関する点検対象物を前記危険度と共に表示することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の優先順位評価システム。
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