JP4152423B2 - 点検業務に利用可能な評点式データシートに基づく健全性評価システム - Google Patents
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Description
このため、評価結果と実際の損傷状況に食い違いが生じることも多く、また評価者が変われば評価そのものが全く変わってしまう等、精度上の問題、客観性の課題が残されていた。
土木構造物や災害危険箇所の維持管理による有効利用が求められる昨今にあって、既存の社会資本の保守事業遂行は急務であるが、これをより効率的に実施するためには一層高精度且つ客観性を有した損傷状況の評価手法の確立が不可欠であると考えられる。
このような評価手法は、土木構造物の他にも、例えば土砂災害や陥没災害などの自然災害においても未然防止の観点から急峻な斜面に対して補強工事や排水溝などの対策工を施すなどする際に、その危険度を評価するために必要であり、本願発明者らは既に自然災害の未然防止の観点から様々な検討を実施している。
その結果、例えば非特許文献1では、横軸に実効雨量、縦軸に時間雨量をとった判別境界面が曲線の集合として描かれる。
この曲線は、いわば等高線を示したもので、これが非線形のがけ崩れ発生限界線を示している。判別境界面は、災害の発生、非発生の実効雨量と時間雨量をプロットしながら、その高さ方向として災害の発生の場合には教師値を−1とし、非発生の場合には教師値を+1とした放射状基底関数を考え、その重ね合わせによって演算されたものである。従って、これらの等高線は、原点に近い方が高いもので、原点の存在する左下の角から対角方向に向かってなだらかに低いものとなっている。
このような災害の発生限界線や避難基準線、警戒基準線(以下、これらを総称してCLという。)を定量的、客観的に描くことによって精度の高い防災事業の立案の判断が可能であり、また、コンピュータ処理によって膨大なデータを短時間に処理できることから、CLの陳腐化を防止して精度の高い情報を提供できるのである。
本特許文献1に開示される災害対策支援システムは、基本的にはif−then形式で、予め発生する事象とそれに対応する対策を関連付けて格納された対策リストを読みだして、対応するものである。災害時に精神的、時間的、人的に余裕のない状況で、的確な判断を可能とすべくなされたものである。また、標準的な作業時間と実働時に要した作業時間及び対策可能な残り時間を表示することで、対策進捗状況をリアルタイムに把握することが可能であると同時に、重要度の高い対策と低い対策を取捨選択するためにも用いることができる。
このようにして得られたCLを用いることで、信頼性の高い警戒避難支援システムを提供することが可能である。
特許文献3では「コンクリート構造物の維持管理装置」としてコンクリート構造物の劣化現象が影響を受ける自然環境やコンクリート材料、施工方法などの要因を考慮しながら施設等の維持管理に関する費用を正確に算定することが可能な発明が開示されている。本発明においては、将来の劣化状態を予測する第1の劣化状態予測手段と、補修後の劣化状態を予測する第2の劣化状態予測手段と施設等における潜在的な被害の大きさをリスクとして定量的に算出する潜在リスク演算手段を備えている。これらの構成要素によって、それぞれ劣化状態や潜在的なリスクを演算することが可能である。
また特許文献4では、「構造物の維持経営システム、維持経営方法、およびそのコンテンツファイル記憶装置」として、中小規模分散型の構造物について、安全性を確保しつつ民間資金の導入を可能として、税金ないし補助金のみによる構造物の管理システムに関する発明が開示されている。
本構造物の維持経営システムにおいては、構造物の余寿命および耐力などの特性を定量的に把握してそのデータが格納される構造物データファイルを備えて橋梁その他の構造物の状態を、たとえば余寿命および耐力あるいは疲労損傷の程度などおよびこれらに対する劣化・損傷予測として定量的に診断すること、それに対処する対策工法や経費を的確に選定できるシステムを構築することにより維持管理ないし維持経営のための費用を的確に査定することを可能とするものである。
倉本和正 他5名:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集のNo.672/VI−50,pp.117−132,2001.3
これでは、客観的、定量的な評価であっても、地域毎あるいはグループ毎に個別具体的な評価を行なうことはできるものの、特定の地域ではなく、地域全般に共通の一般的、普遍的な評価を行なうことが困難であるという課題があった。すなわち、データとしては、広範な地域のデータを一緒に用いて、それらに含まれる様々な要因を把握し、それらの要因の中から変数として選択して組合わせることによって得られる総合的な潜在危険度を評価することが困難であるという課題があった。
また、特許文献4に開示される発明においても構造物データベースを備えることで構造物の余寿命、耐力、疲労損傷の程度などを劣化・損傷予測として定量的に診断することが可能とされているが、その構造物データベースに入力されるべき評価の内容は専門家支援によるものであり、段落0022によれば構造物の状態を、目視検査などの定性的判断に加えて、客観的に診断もしくは性能評価することにより該構造物の余寿命および耐力などの特性を定量的に把握してこの構造物データファイルにデータベース化するとあるが、この定量的な把握の方法の具体的な内容は不明であり、結局従来の評価方法によるものという課題は残されたままである。すなわち、本発明は、これまで実施されてきた内容のことをコンピュータとそれに接続されるデータベースを用いて実施するものであり、その演算内容やデータコンテンツなどは旧来のものと考えられる。
また、橋梁、トンネル、鉄塔、上・下水道等の土木構造物等や災害危険箇所等は、維持管理のために日常的に点検が行われ、損傷が認められた場合にはその程度を判断し、必要な補修対策がとられるのが常である。この点検業務には現地で簡便に利用することができるチェックシート(点検データシート)が利用されている場合が多い。これらのシートでは対象物の損傷状況に応じて評点をつけることにより現況の安全性が評価できるように工夫されている。ただし、シートの評点決定に関して明瞭な決定根拠が示されているものはほとんどなく、最終的な判断は高度な技術者の判定に委ねられることも少なくない。
これについて、既往の点検データと補修実施の実績データから、サポートベクターマシン(以後、SVMと略す場合がある。)や放射状基底関数ネットワーク(以後、RBFNと略す場合がある。)等の数学的なパターン分類手法を用いることにより補修の要否を設定し、その分析結果に基づいて点検用データシートの配点を再設定するシステムを発明した。このシステムにより得られる新しいデータシートは構造物の補修の要否判断において高い精度を有している上、既往の実績に基づく客観性も確保することが出来、土木構造物の維持補修事業の効率化・高精度化に大きな効果が期待できる。
入力部は、点検対象物における健全性劣化の要因データと、判別境界面を構成する境界データとを、格納部に入力可能な手段であって、演算部は、境界データを格納部から読み出して、この境界データが構成される2次元以上の空間(以下、多次元空間という。)上に、格納部から読み出した点検対象物における健全性劣化の要因に係る要因データ又は入力部から入力された点検対象物における健全性劣化の要因に係る要因データを座標点として入力する解析条件設定部と、判別境界面から点検対象物における要因データの座標点までの距離を補修必要度あるいは災害危険度として演算する代表値算出部と、点検対象物における要因データの座標点と判別境界面までの距離と点検対象物における要因データの重要度から算出される評価点を算出する評価点算出部とを備え、評価点算出部は、点検対象物における要因データの中の全要因を入力要因とした補修実績に関する第1の的中率と、全要因からある要因を除外して入力要因とした補修実績に関する第2の的中率を演算し、この第2の的中率と第1の的中率を比較して演算した指標を除外した要因の重要度として、この重要度と点検対象物における要因データの座標点と判別境界面までの距離との積を評価点として算出し、出力部は、点検対象物における要因データとその重要度、境界データ、補修必要度あるいは災害危険度、または評価点のうち少なくとも1の情報をデータシートに記載する情報として出力可能な手段であることを特徴とする点検業務に利用可能な評点式データシートに基づく健全性評価システムである。
なお、本請求項1の記載も含めて本願における点検対象物とは、高速道路、橋梁、トンネル、ダム、高層ビル、鉄塔、上・下水道など、土木工事を施すことによって建設される土木構造物、及び、がけ崩れ(土砂崩れ)、地面陥没、土石流などが発生する可能性のある災害危険箇所などを含む概念である。また、本願において、補修実績データとは、点検対象物に対して施された保全・補修のための工事の実績に関するデータであり、災害履歴データとは、点検対象物において発生したがけ崩れ(土砂崩れ)、地面陥没、土石流などの自然災害の履歴に関するデータをいう。さらに、本願の補修必要度は、先の保全・補修のための工事の必要性を意味し、災害危険度は、先の自然災害の発生に関する危険度を意味する。また、これらの語の反対の意味で、補修不要度や災害安全度などを用いてもよく、これらのような反対語の概念を含むものである。
図1は、本実施の形態に係る点検業務に利用可能な評点式データシートに基づく健全性評価システムの構成図である。また、図2は本点検業務に利用可能な評点式データシートに基づく健全性評価システムを用いた健全性評価方法を示すフローチャートである。
図1において、健全性評価システムは、入力部1と演算部2と出力部10と複数のデータベース12,14,16,18,20,23から構成される。
入力部1は、これらのデータベースに格納されるデータ11aを予め入力したり、あるいは演算部2の作業時に直接データ11aや解析条件11bを入力するために使用されるものである。具体的には、例えば、キーボード、マウス、ペンタブレット、あるいは、コンピュータ等の解析装置や計測機器等から通信回線を介してデータを受信する受信装置など複数種類の装置からなり目的に応じた使い分け可能な装置が考えられる。
演算部2は、解析条件設定部3、重要要因抽出部4、判別境界面解析部5、カテゴリ分類部6、カテゴリ毎の代表値算出部7、重要度算出部8、評価点算出部9から構成されるものである。
演算部2は、データベースから読み出されたり、入力部1から入力される判別境界面に関するデータ11aや構造物に対する補修工事の実績に関するデータ11a、及び解析条件11bを用いて、入力要因のカテゴリ分けや各要因のカテゴリ毎の代表値の算出、重要要因の抽出や各要因の重要度の算出、さらには新たな評価点の算出を行なうセクションにより構成されている。これらのセクション同士は、互いに演算結果をデータとして入出力することが可能となっている。演算部2として具体的には、ワークステーションやパーソナルコンピュータ等のコンピュータが考えられる。
また、データベースとしては、土木構造物や災害危険箇所に対する過去の点検実績データ13が格納される点検データベース12、補修工事の必要性に対する補修実績データ15、斜面や地面あるいは河川等の過去の災害履歴データ28が格納される補修実績・災害履歴データベース14、点検実績データ13の各要因の内、補修実績や災害履歴と密接な関係のある要因である重要要因データ17が格納されている重要要因データベース16、補修・対策工事の必要度を解析するための判別境界面データ19を格納する境界データベース18、種々の解析のための解析条件データ21及びパラメータデータ22を格納する解析データベース20、さらには、演算部2を用いて解析された結果得られた各要因のカテゴリデータ24、カテゴリ毎の代表値データ25、各要因の重要度データ26、新評価点データ27を格納する評価情報データベース23がある。
入力部1を介して点検データベース12に格納される点検実績データ13の例としては、表1に示されるトンネル点検データ、表2に示される土石流危険渓流点検データ、表3及び表4に示される道路斜面点検データ、表5に示される下水道設備点検データなどがある。各データ表には教師値の欄が記載されているが、これらはそれぞれ補修工事の実績(補修実績データ)や過去の災害履歴(災害履歴データ)、あるいは陥没履歴(陥没履歴の有無データ)を示すものである。
また、点検実績データ13中、表1のように地点名として実際の地名を含む場合もあれば、表2などのように番号で入力されている場合、あるいはこの他にも記号などで入力されている場合もある。
図2のステップS1にも示されるとおり、入力部1によるデータ入力処理では、先ず、データを入力する処理を行うが、その入力データとしては、例えば、点検データベース12に格納される構造物の変状の要因に係る定量的なデータ(以下、要因データという。) としての過去の点検実績データ13がある。また、境界データベース18に格納される判別境界面データ19がある。このようなデータは、実測データでよいが、標準化処理を行い標準化データとしてもよい。なお、要因データの定量的とは、例えば要因として漏水を考えた場合に、その単位時間の漏水量を立方メートル毎時などとして測定した場合のその数値を意味したり、あるいは例えばボルトの緩みを判断する場合に3段階のレベルで表現した場合には、そのレベル1,2,3なども定量的とするものである。すなわち、物理量として数値で表現できるものについては、そのようなレベルの数値をもって定量的とするものである。
さらに、非物理量であったり、定量的に表現できないような場合に、その状態を定性的に表現したり、例えば方角をあらわす場合の東、西、南、北や、季節を表す春、夏、秋、冬、さらに時間帯を表す朝、昼、晩など、それぞれのカテゴリは定量的には表現できないものであるので、これらは要因データにおける定性的なもの、定性的なカテゴリの区分とするものである。
これらの入力要因の他、解析データベース20に格納される解析条件データ21やパラメータデータ22、重要要因データベース16に格納される重要要因データ17、さらには補修実績・災害履歴データベース14に格納される補修実績データ15や災害履歴データ28なども入力データとして入力処理される。
本実施の形態のおいては、ステップS1として最初にデータ入力処理を実施するようにしているが、解析の工程にあわせて適宜データを入力するようにしてもよい。
また、表7及び表8は道路斜面点検データで、のり面地形(G1)から変状2(隣接のり面)までの26個の要因データから構成されている。表9は下水道点検データで、管渠材質から経過年数までの12個の要因データから構成されている。
ここで解析条件設定部3は、入力部1を介して、どのような条件で解析を行うかについて入力を促し、入力された条件をキーとして、点検データベース12と境界データベース18にアクセスして該当する点検実績データ13と判別境界面データ19を読み出す。入力を促すために表示される点検データベース12及び境界データベース18に格納されているデータ内容あるいはデータ構造を示す解析条件データ21、および、どのような条件で解析を行うかを示すパラメータデータ22は、解析データベース20に格納されているため、解析条件設定部3はまず、この解析データベース20にアクセスしてパラメータデータ22を読み出して、そのパラメータデータ22を、出力部10を利用して表示などをさせるとよい。
この表示を受けて本健全性評価システムのユーザーは、点検実績データ13、重要要因データ17、判別境界面データ19の全てが入力済みの場合は点検実績データ13、重要要因データ17、判別境界面データ19の抽出、点検実績データ13、重要要因データ17が入力済みであった場合は判別境界面の解析、点検実績データ13のみが入力済みであった場合には重要要因の抽出の後判別境界面の解析という選択を行うことができる。
SVMでは、それぞれC,rの2つのパラメータが存在し、この2つの値によって、どのような条件で判別境界面が形成されるかが決定する。これらのパラメータを簡単に説明すると、先ず、CはSVMの結果の異常値をどれだけ許容するかを示すパラメータで、Cが大きいほど異常値を認めずデータを厳しく分けようとするものである。また、rはデータの持っている影響を決めるパラメータであり、rの値が大きいほどデータのばらつきが大きくなる反面、異常値が増えやすいというものである。
先ず、SVMのパラメータを決定するにあたり、的中率が最大となるときのパラメータを用いることとする。ここで的中率とは、SVMによってどれだけ正確に補修実績を捉える事ができたかを示す割合であり、ここでは的中率を式(1)で定義する。
次に、SVMのパラメータを決定するにあたり、SVMによって作成された判別境界面から評価対象となる地域の要因データの座標までの距離のばらつきが大きいものを採用することとする。これは、後のカテゴリ毎の代表値算出部7で各要因のカテゴリ毎の代表値を算出する際、データのばらつきが大きいほうが、各要因のカテゴリ毎の代表値の値の変動も大きくなり、最終的に評価点を設定する上で都合がよいためである。具体的にはデータのばらつきを示す指標として標準偏差を用いることとした。
ここで、例としてトンネルの点検データをSVMの入力要因として用いたときのパラメータスタディを紹介する。ここではSVMのパラメータとしてC=10,20,…,300の30ケース、r=0.1,0.2,…,1.0の10ケースの計300ケースでパラメータスタディを行った。
その結果を表13に示す。その結果として、最も的中率が高くかつ、その中で最も標準偏差が大きかったパラメータとして、C=300,r=0.9をSVMのパラメータとすることとした。
本発明においては、点検データベース12に格納されている点検実績データ13に含まれる各要因データのうち、重要ではない要因を除外し、重要要因のみでデータシートを作成する事で構造物健全性評価システムの高精度化を図ることとした。
例として、図3のフローチャートの手順による重要要因の抽出方法を紹介する。この方法では、点検データベース12に格納されている点検実績データ13の内、評価対象となる構造物における要因データベースで用いられている各要因のうち、1要因を除外して、SVM等の手法で解析を行い、全点検データを使用したときの結果と比較して、的中率(式(1)参照)が低下した場合、その要因を重要要因とし、的中率が低下しなかった場合、その要因を重要ではない要因として重要要因の抽出を行う。
なお、重要要因の抽出法についてはSVMのほかにラフ集合などの他の手法を用いても抽出可能であり、本発明においてはこれらの手法を用いて重要要因を抽出してもよい。なお、これらの手法はすでに知られた技術であるので詳細な説明は省略する。
重要要因を抽出した結果は、重要要因データ17として重要要因抽出部4によって重要要因データベース16内に格納される。
例として、トンネル点検データの要因の一つひび割れ幅の場合、データの分布状況などからひび割れ幅無しをカテゴリ1とし、以後ひび割れ幅0.5mm刻みで計5段階にカテゴリ分けするものとした。
なお、カテゴリ分類の手法についてはここで紹介する手法のほかにデータ分布の中央値をとり、そこから等分割する方法なども可能である。本発明においてはこれらの手法を用いてカテゴリ分類を行ってもよい。
カテゴリ分類を行った結果は、各要因のカテゴリデータ24としてカテゴリ分類部6によって評価情報データベース23内に格納される。
算出された距離の代表値は、各要因のカテゴリ毎の代表値データ25としてカテゴリ毎の代表値算出部7によって評価情報データベース23内に格納される。この算出された距離の代表値が、補修必要度あるいは災害危険度に相当する。判別境界面を基準として、この判別境界面から離れる方向で補修必要度や災害危険度が大きくなったり、小さくなったりする。すなわち、距離は正負あり、正で大きな値をとって、判別境界面から離れる方が補修必要度や災害危険度は低く、負で大きな値をとって判別境界面から離れる方が補修必要度や災害危険度が高い。
カテゴリ毎の代表値の実例として、トンネル点検における各要因のカテゴリ毎の平均f(x)を表19乃至表25に示す。
なお、この例では代表値として算術平均を用いているが、相加平均、相乗平均、中央値など他の値を用いてもよいことはもちろんである。また、カテゴリ分類がない場合、あるいはカテゴリ分類があっても、代表値を用いることなく、判別境界面から評価対象となる地域の要因データの座標までの距離を演算することもある。その際には、その距離が補修必要度あるいは災害危険度に相当する。すなわち、本願における代表値算出部は、常に、代表値を算出するものではなく、先に判別境界面から、点検対象物における要因データの座標までの距離を演算する場合もある。また、複数のカテゴリ分類がある場合には、その複数のカテゴリ毎に判別境界面からの点検対象物における要因データの座標までの距離を演算した後、前述のような平均値を算出して、それを代表値とするものである。
例として、SVMを用いた重要度の算出方法を紹介する。本手法では、評価対象となる点検対象物における要因データベースで用いられている各要因のうち、1要因を除外して、SVMで解析を行い、全点検データを教師値としたときの結果と的中率の比較を行う。ここで、より重要な要因を除外した場合ほど大きく的中率が減少すると考え、重要度を式(2)によって算出するものとする。ここでは重要度を差としたが、もちろんPとPnの比、P/Pnや他の演算方法で求めた結果を重要度としても良い。
なお、各要因の重要度については、ここで紹介する手法のほかにラフ集合などの他の手法を用いても抽出可能であり、本発明においてはこれらの手法を用いて重要要因を抽出してもよいものとする。なお、これらの手法はすでに知られた技術であるので詳細な説明は省略する。
重要度を算出した結果は、重要度データ26として重要度算出部8によって評価情報データベース23内に格納される。
表31乃至表37に例としてトンネル点検実績データの各要因の評価点計算結果を示す。ここでは各要因のカテゴリ毎の代表値(平均値)と重要度データの積を10倍することにより新評価点を算出した。もちろん、積以外にも他の演算方法、例えば和や積の平方根をとるなどの方法で新評価点を算出しても良いし、適宜係数などを乗じてもよい。
新評価点を算出した結果は、新評価点データ27として評価点算出部9によって評価情報データベース23内に格納される。
表40に作成したトンネル点検新データシートを示す。表40では、各要因のカテゴリデータ24及び新評価点データ27のみ読み出してデータシートを作成している。特に、常に、先の各要因のカテゴリデータ24、代表値データ25、重要度データ26及び新評価点データ27を読み出さなければならないということはなく、これらのいずれかを選択してよい。
次に、図8に本発明によって作成した新データシート(表40)による点検データの評価点の合計と技術者判断による5段階評価の関係を示す。図8のように、本発明のシステムによって作成した新データシートによる点検データの評価点の合計と技術者判断による5段階評価の間には高い相関を得ることができた。また、この結果は、従来のJH点検手法での結果を大きく凌いでおり、本構造物健全性評価システムによって作成されたデータシートが補修の必要性を高い精度で分離できることを示している。
また、新データシートを学習データとは異なる地域Aのデータに適用した結果(図9)、評価点合計と技術者判断の間には明瞭な相関が得られた。また、他の地域B、Cでも評価点合計と技術者判断の間には相関が得られた(図10及び11)。したがって、本健全性評価システムによって作成されたデータシートに汎用性があることが確認できた。なお、地域A〜Cとは、データを取得したトンネルに関する識別符号である。
上述の実施例では、トンネル点検データを用いて新データシートについて説明したが、この他にも表41及び表42に示されるように道路斜面点検データを用いて作成した新データシートや、表43に示されるように下水道設備点検データを用いて作成した新データシートなどがある。
表41及び表42の道路斜面点検データを用いた新データシートでは、表3及び表4に示される評価区分を用いて、トンネル点検データと同手法により、評価点を得ている。
また、表43の下水道設備の点検データを用いた新データシートでは、最左欄に記載される変形クラックなどの各要因に対して、トンネル点検データと同手法により、新評価点を算出した。
次に、図14に本発明によって作成した新データシート(表41及び表42)による点検データの評点合計と災害履歴との関係を示す。図14のように、本発明のシステムによって作成した新データシートによる点検データの評点合計と災害履歴の間には高い相関を得ることができた。また、この結果は、従来の道路斜面点検手法での結果を大きく凌いでおり、本構造物健全性評価システムによって作成されたデータシートが災害の有無を高い精度で分離できることを示している。
また、新データシートを学習データとは異なる地域Dのデータに適用した結果(図15)、評点合計と災害履歴の間には明瞭な相関が得られた。したがって、本健全性評価システムによって作成されたデータシートに汎用性があることが確認できた。なお、地域Dとは、データを取得した道路斜面に関する識別符号である。
先のトンネル点検データを用いた新データシートと同様に、カテゴリ毎の代表値と重要度データは、積をとる以外にも他の演算方法、例えば和や積の平方根をとるなどの方法で新評価点を算出しても良い。他のデータを用いる場合も同様であり、特に限定するものではない。
次に、図17に本発明によって作成した新データシート(表43)による点検データの評点合計と陥没履歴との関係を示す。図17のように、本発明のシステムによって作成した新データシートによる点検データの評点合計と陥没履歴の間には高い相関を得ることができた。また、この結果は、従来の下水道設備の点検手法での結果を大きく凌いでおり、本構造物健全性評価システムによって作成されたデータシートが災害の有無を高い精度で分離できることを示している。
また、新データシートを学習データとは異なる地域Eのデータに適用した結果(図18)、評価点合計と陥没履歴の間には明瞭な相関が得られた。また、他の地域Fでも評価点合計と陥没履歴の間には相関が得られた(図19)。したがって、本健全性評価システムによって作成されたデータシートに汎用性があることが確認できた。なお、地域E、Fとは、データを取得した下水道設備に関する識別符号である。
先のトンネル点検データを用いた新データシートと同様に、カテゴリ毎の代表値と重要度データは、積をとる以外にも他の演算方法、例えば和や積の平方根をとるなどの方法で新評価点を算出しても良い。他のデータを用いる場合も同様であり、特に限定するものではない。
このように、本発明ではデータシートの観察項目を限定することによって、データシートによる健全度評価の精度の向上を図ることが可能である。
以上、本実施の形態においては、SVMを使用した健全性評価システムを示したが、SVMに代えてRBFネットワークを用いても同様の健全性評価システムを実施することができる。
Claims (4)
- 入力部と、演算部と、格納部と、出力部を有し、点検対象物における健全性劣化の要因に係る要因データと前記点検対象物に対する補修実績データあるいは災害履歴データをいわゆる放射状基底関数ネットワーク(RBFN)又はサポートベクターマシン(SVM)に用いて得られた補修の施工と非施工あるいは災害の発生と非発生を分離する判別境界線又は判別境界面(以下、判別境界線を含めて判別境界面という。)を基準として、ある点検対象物における対策の必要度を算出するための評点式データシートを作成する健全性評価システムであって、
前記入力部は、前記点検対象物における健全性劣化の要因データと、前記判別境界面を構成する境界データとを、前記格納部に入力可能な手段であって、
前記演算部は、前記境界データを前記格納部から読み出して、この境界データが構成される2次元以上の空間(以下、多次元空間という。)上に、前記格納部から読み出した前記点検対象物における健全性劣化の要因に係る要因データ又は前記入力部から入力された前記点検対象物における健全性劣化の要因に係る要因データを座標点として入力する解析条件設定部と、
前記判別境界面から前記点検対象物における要因データの座標点までの距離を補修必要度あるいは災害危険度として演算する代表値算出部と、
前記点検対象物における要因データの座標点と判別境界面までの距離と前記点検対象物における要因データの重要度から算出される評価点を算出する評価点算出部とを備え、
前記評価点算出部は、前記点検対象物における要因データの中の全要因を入力要因とした補修実績に関する第1の的中率と、全要因からある要因を除外して入力要因とした補修実績に関する第2の的中率を演算し、この第2の的中率と第1の的中率を比較して演算した指標を前記除外した要因の重要度として、この重要度と前記点検対象物における要因データの座標点と判別境界面までの距離との積を評価点として算出し、
前記出力部は、前記点検対象物における要因データとその重要度、前記境界データ、前記補修必要度あるいは災害危険度、または前記評価点のうち少なくとも1の情報をデータシートに記載する情報として出力可能な手段であることを特徴とする点検業務に利用可能な評点式データシートに基づく健全性評価システム。 - 前記点検対象物における健全性劣化の要因データは、その要因データが備える点検対象物の変状の要因に係る定量的な範囲で区切られる複数のカテゴリ又は前記定量的な範囲で区切られる複数のカテゴリでは表現できない非物理量において前記要因データに関し定性的に区切られる複数のカテゴリで分類され、
前記解析条件設定部は、この複数のカテゴリ毎に前記多次元空間上に前記要因データを座標点として入力し、
前記代表値算出部は、前記複数のカテゴリ毎に前記判別境界面から前記点検対象物における要因データの座標点までの距離を補修必要度あるいは災害危険度として演算し、前記補修必要度あるいは災害危険度のカテゴリ毎の代表値を算出し、
前記評価点算出部は各要因データの前記重要度と、各要因データのカテゴリ毎の前記補修必要度あるいは災害危険度の代表値からデータシートに記載する前記評価点を算出し、
前記出力部は、前記点検対象物における複数のカテゴリ毎の要因データとその重要度、前記境界データ、前記補修必要度あるいは災害危険度、または前記評価点のうち、少なくとも1の情報を出力可能な手段であることを特徴とする請求項1記載の点検業務に利用可能な評点式データシートに基づく健全性評価システム。 - 前記演算部は、前記点検対象物における健全性劣化の要因データをその要因データが備える点検対象物の変状の要因に係る定量的な範囲で区切られる複数のカテゴリ又は前記定量的な範囲で区切られる複数のカテゴリでは表現できない非物理量において前記要因データに関し定性的に区切られる複数のカテゴリで分類するカテゴリ分類部を備え、
前記解析条件設定部は、前記カテゴリ分類部で分類された複数のカテゴリ毎に前記多次元空間上に前記要因データを座標点として入力し、前記代表値算出部は、前記複数のカテゴリ毎に前記判別境界面から前記点検対象物における要因データの座標点までの距離を補修必要度あるいは災害危険度として演算し、
前記評価点算出部は各要因データの前記重要度と、各要因データのカテゴリ毎の前記補修必要度あるいは災害危険度の代表値からデータシートに記載する前記評価点を算出し、
前記出力部は、前記点検対象物における複数のカテゴリ毎の要因データとその重要度、前記境界データ、前記補修必要度あるいは災害危険度、または前記評価点のうち、少なくとも1の情報を出力可能な手段であることを特徴とする請求項1記載の点検業務に利用可能な評点式データシートに基づく健全性評価システム。 - 前記点検対象物における健全性劣化の要因データは複数の要因データであり、
前記演算部は、前記複数の要因データについて、前記重要度を演算する重要度算出部を備え、
前記補修必要度あるいは災害危険度と前記重要度から評価点を算出することを特徴とする請求項1記載の点検業務に利用可能な評点式データシートに基づく健全性評価システム。
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