JP4446035B2 - 健全性劣化評価システム - Google Patents
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Description
このような点検業務は、高い見識と熟練した技術や判断力を備えた技術者が行うことが望ましいが、全国の土木・建築構造物や災害危険箇所すべてにそのような卓越した技術者を派遣することは現実的には不可能である。また、点検業務における損傷程度の判定は点検技術者の経験に基づいた主観による部分が多くを占め、その判定データには経験の多少が大きく影響し、経験の少ない点検技術者によればノイズとも考えられる内容のものが含まれる可能性もあり、補修対策の方針を決定する基準に客観性を欠いていることは否めない。
また、点検を請け負う企業や点検技術者によって、同じ状況であっても判定が異なることがあるため、評価結果と実際の損傷状況に食い違いが生じることも多く、評価者が変われば評価そのものが全く変わってしまう等、精度上の問題、客観性の課題が残されていた。
しかも、補修実施の実績データが全くない場合、又は極端に少ない場合には補修工事や保守のための対応策を講じるための優先順位を客観的に決定することは困難である。
一方、補修実施の実績データが豊富な場合においても、前述のとおり、評価者の主観的な判断に基づく評価は、矛盾点も多く、豊富な実績データをそのまま鵜呑みにして、将来の補修や点検業務へ利用することにもリスクが生じていた。しかも、検査技術や評価技術の進歩はもちろんのこと、評価基準や補修基準自体も時代変遷や経済状況などの影響を受けることがあるため、過去の基準をそのまま踏襲することが困難な場合もあり、せっかく蓄積された過去のデータがそのまま使用できない場合も生じており、このような事情からも潜在的な非効率性やリスクが生じていた。
土木・建築構造物や災害危険箇所の維持管理による有効利用が求められる昨今にあって、既存の社会資本の保守事業遂行は急務であるが、これをより効率的に実施するためには一層高精度且つ客観性を有した損傷状況の評価手法の確立が不可欠であると考えられる。
土木・建築構造物や災害危険箇所に関する評価手法は、土木・建築構造物の他にも、例えば土砂災害や陥没災害などの自然災害においても未然防止の観点から急峻な斜面に対して補強工事や排水工などの対策工を施すなどする際に、その危険度を評価するために必要であり、本願発明者らは既に自然災害の未然防止の観点から様々な検討を実施している。
その結果、例えば非特許文献1では、横軸に実効雨量、縦軸に時間雨量をとった判別境界面が曲線の集合として描かれる。
この曲線は、いわば等高線を示したもので、これが非線形のがけ崩れ発生限界線を示している。判別境界面は、災害の発生、非発生の実効雨量と時間雨量をプロットしながら、その高さ方向として災害の発生の場合には教師値データを「−1」とし、非発生の場合には教師値データを「+1」とした放射状基底関数を考え、その重ね合わせによって演算されたものである。従って、これらの等高線は、原点に近い方が高いもので、原点の存在する左下の角から対角方向に向かってなだらかに低いものとなっている。
このような災害の発生限界線や避難基準線、警戒基準線(以下、これらを総称してCLという。)を定量的、客観的に描くことによって精度の高い防災事業の立案の判断が可能であり、また、コンピュータ処理によって膨大なデータを短時間に処理できることから、CLの陳腐化を防止して精度の高い情報を提供できるのである。
本特許文献1に開示される災害対策支援システムは、基本的にはif−then形式で、予め発生する事象とそれに対応する対策を関連付けて格納された対策リストを読みだして、対応するものである。災害時に精神的、時間的、人的に余裕のない状況で、的確な判断を可能とすべくなされたものである。また、標準的な作業時間と実働時に要した作業時間及び対策可能な残り時間を表示することで、対策進捗状況をリアルタイムに把握することが可能であると同時に、重要度の高い対策と低い対策を取捨選択するためにも用いることができる。
このようにして得られたCLを用いることで、信頼性の高い警戒避難支援システムを提供することが可能である。
倉本和正 他5名:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集のNo.672/VI−50,pp.117−132,2001.3
これでは、客観的、定量的な評価であっても、地域毎あるいはグループ毎に個別具体的な評価を行なうことはできるものの、特定の地域ではなく、地域全般に共通の一般的、普遍的な評価を行なうことが困難であるという課題があった。さらに、データ自身の信憑性については疑いを挟む余地がなく、データとしては、広範な地域のデータを一律に取り扱い、点検業務を実施した者の技術力の個人差などは考慮されず、過去のデータの信頼性に関する評価を行うことなく、普遍的に高い精度で評価することが困難であるという課題があった。
従って、いずれの地域に対して優先的に補修工事を施すか、あるいは防災の対策を施すかという判断を行うには、ばらつきが生じることで均一な判断を行うことが困難であった。
これについて、既往の点検データと補修実施の実績データを修正しながら、SVMを用いることにより、点検対象物の危険度を演算し、その演算結果に基づいて補修の要否や対応策の要否を高精度に評価することが可能なシステムを発明した。このシステムを用いることで、土木構造物や建築物の補修要否、あるいは災害危険箇所の災害防止対応策の要否判断において高い精度を発揮しながら、客観性も確保することが出来、構造物や災害危険箇所の維持補修事業の効率化・高精度化・客観化に大きな効果が期待できる。
また、土木・建築構造物の維持管理や災害危険箇所の監視にかかるコストの中でも特に、「点検」に焦点を絞り、ライフサイクルコストを最小にするような効率的な維持管理手法の確立を可能とするという効果も期待できる。
前記格納部は、前記判別面を解析するためのSVMデータと、前記SVMに代入されるn次元の要因データと,前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成される学習用点検データと,前記点検対象物における補修の有無データを正負又は負正に対応させた前記SVMに対する教師値データと,を備える学習用点検総合データと、前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成され熟練点検技術者による点検結果データであって前記学習用点検データよりも確度の高いことが予め明らかなマスタ点検データとを格納する格納部であって、
前記入力部は、前記点検対象物における前記健全性劣化の要因に係るn次元の要因データと前記要因データ毎の点検データを入力可能な手段であって、
前記演算部は、前記マスタ点検データ及び前記SVMデータを前記格納部から読み出して前記マスタ判別面を解析する判別面演算部と、
前記学習用点検データを前記格納部から読み出して、前記マスタ判別面が、前記要因数以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多次元空間の座標中に、前記学習用点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元空間中に形成されるマスタ判別面までの距離であって前記座標点が前記マスタ判別面に対して前記座標中の原点側に存在するか否かで正負又は負正を考慮した距離を前記点検対象物の学習データ危険度として演算する判別面距離演算部と、
前記点検対象物毎に前記学習用点検総合データの教師値データを前記格納部から読み出して、前記判別面距離演算部で演算された点検対象物の学習データ危険度と比較して、教師値データが表現する補修の有無データの正負に対して学習データ危険度の正負が反している矛盾点検対象物を検出する学習用点検データ分析部と、
前記学習用点検データ分析部によって検出された矛盾点検対象物に関する学習用点検データ及び教師値データを前記学習用点検データ及び教師値データから削除し修正学習用点検総合データを生成して前記格納部に格納する学習用点検データ修正部と、を備え、
前記判別面演算部は、前記修正学習用点検総合データ及び前記SVMデータを前記格納部から読み取り前記判別面を解析する判別面演算部であり、
前記判別面距離演算部は、前記入力部から入力された前記点検データを読み取り、前記判別面が、前記要因数以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多次元空間の座標中に、前記点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元空間中に形成される判別面までの距離を前記点検対象物の危険度として演算する判別面距離演算部である手段であって、
前記出力部は、前記入力部から入力されるデータ、前記演算部で演算された結果に関するデータ又は前記格納部に格納されるデータを、それぞれ入力部、演算部、格納部から読み出して出力可能な手段であることを特徴とするものである。
さらに、判別面は、先の要因毎に得られたデータを多次元空間上の座標にプロットしながら、多次元のうちの1次元の方向として災害の発生や補修工事の実施の場合には教師値データを「−1」とし、非発生あるいは未補修の場合には教師値データを「+1」としたSVMを考え、その重ね合わせによって演算されたものである。教師値データとしては、−1と+1を選択しているが、特にこの数値に限定するものではなく、正負いずれかをそれぞれ取るのであれば、その絶対値の大小にはこだわるものではない。
なお、本願発明では、点検対象物の点検データを多次元空間中に座標点として入力し、この座標点から多次元空間中に形成される判別面までの距離を点検対象物の危険度として定義しているが、この危険度という語は、補修や対策工などを必要としている程度を示す語であり、危険自体を定量的に図るものではない。従って、必要度などとしてもよく、語句自体に拘泥するものではない。
このテスト点検データを用いて演算された前記点検対象物の危険度を介して前記学習用点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データを評価するために、前記危険度と,補修有の点検対象物と補修無の点検対象物の組合せ及び/又は点検対象物の全数に対する補修有の点検対象物の数である補修率のデータと,を図示する分離性評価関数データと、を格納する手段であって、
前記演算部は、前記学習用点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データ及び前記SVMデータを前記格納部から読み取り判別面を解析する判別面演算部と、
前記格納部に格納された前記テスト点検データを読み取り、前記判別面が、前記要因数以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多次元空間の座標中に、前記テスト点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元空間中に形成される判別面までの距離を前記点検対象物のテスト危険度として演算する判別面距離演算部と、
前記格納部から前記分離性評価関数データを読み出して、前記テスト危険度と、前記テスト点検データに含まれる補修有の点検対象物と補修無の点検対象物の組合せ及び/又は点検対象物の全数に対する補修有の点検対象物の数である補修率のデータと,を表又は図で示す学習用点検データ試験部と、を有し、
前記出力部は、前記表又は図を出力可能であることを特徴とするものである。
また、最初に学習用点検データの精度を向上させるので、補修や保守工事などの実績データあるいは点検データがある程度まとまってあるものの、これまで使用されていない場合においても、判別面を形成可能であるので、これまで使用できずに放置されていた実績データや点検データ、あるいは低い精度で運用されていた実績データや点検データを高い精度で利用することができ、より客観的な解析を実行することが可能である。従って、補修工事や災害危険箇所に対する対応策の優先順位などを、より確度と客観性をもって決定することができ、限られた社会資本を適切に投入・処理することが可能である。
本実施の形態に係る健全性劣化評価システムにおいては、点検結果を評価するための手段として、SVMという数理的手法を用いている。
SVMは1992 年にVapnik らによって提案された手法で、現在、最も強力なパターン分類手法として注目されている。一般的なパターン分類問題では、線形分離可能な問題よりも線形分離不可能な問題の方が圧倒的に多いとされている。SVMでは、図1の基本概念に示すように、線形分離不可能なパターン分類問題では、ある非線形写像によって、特徴空間と呼ばれる高次元空間にマッピングすることによって、線形分離可能な状態となり、最適な分離超平面を求めることができる。
本図では、点検対象物として橋梁を例にとり、橋梁下から目視で行う「はり上点検」での伸縮継手の点検結果を要因データとし、過去の補修履歴を教師値データとしてSVMによるパターン分類を行なうと、図中に示すような判別面によってデータが分離される。ここで、はり上点検の結果のデータはその判別面によって補修必要度の高いもの(判別面の外側、すなわち判別面を挟んで原点が含まれない側)と低いもの(判別面の内側、すなわち判別面を挟んで原点が含まれる側)に分類された状態にある。そこで、本実施の形態では各データの判別面からの距離f(x)を算出し、それを危険度の指標とすることを基本とした。
なお、ここで言う伸縮継手の「はり上点検」とは、床版・橋桁下面からの検査であり橋脚はり上から主に目視で点検するもので、交通を妨げずに行なえ比較的小規模で容易に実施可能である。また、「上・下部工点検」とは、路上からの点検で損傷を的確に確認できるものの交通規制を要し多大な費用と労力を必要とするものである。なお、図2中に示すとおり、本実施の形態において判別面からの距離f(x)は、判別面上で0、判別面の外側では負、判別面の内側では正となるものであるが、正負は逆としてもよいことは言うまでもない。
また図2ではX軸Y軸とも値が大きくなる方を危険側としたが、逆にX軸Y軸が大きくなる方を安全側としてもよいことは言うまでもない。
a) 初期点検
構造物の新設、または改築にあたって、以後の維持管理を行なう上での基礎資料となる構造物完成後の初期状態を把握することを目的としている。
b) 日常点検
道路構造物を常に良好な状態で保全し、安全かつ円滑な交通の確保および第三者に対する障害の防止を図ることを目的としている。
c) 定期点検
長期点検計画に基づいて、一定の期間ごとに構造物に接近して行なう点検で、機能低下の原因となる損傷を早期に発見し、構造物の損傷度を把握するとともに、補修計画作成のための資料を得ることを目的としている。
d) 臨時点検
初期点検、日常点検、定期点検を補完するため、適宜必要に応じ実施する点検で、災害時点検(自然災害の事後対策等)、事故時点検(重量物の落下等、突発的事項による損傷対応)、追跡・詳細点検(日常・定期点検などで発見された損傷の対応策)を検討するにあたり、より詳細な損傷状況の把握、原因の究明並びに損傷状態の継続的な観察などを目的としている。
なお、今回の実施の形態において用いる「はり上点検」及び「上・下部工点検」は、上記のc)の定期点検に分類されるものである。
高速道路の点検は、まず目視による点検から始める。接近して目視点検を行なうためには,足場が必要になるため検査路のない箇所での点検は、路下から接近できる場合は高所作業車を使用し、接近できない場合は高速道路上からオーバーハング車によって道路下面に接近する。また、海上の長大橋などは、建設時に設置された検査車を利用した点検を実施している。
はり上点検および上・下部工点検が分類される定期点検は、数年に一度といった頻度で、対象構造物に接近し、目視,たたき,または簡単な計測により行なう。
今回の実施の形態における解析は、国内の高速道路の伸縮継手を対象にSVMを用いて行ったものである。伸縮継手に関するデータベースとして、資産データ、点検データ、補修データが存在する。資産データとは、土木構造物を主体に構造・部位別の諸元情報を示した台帳データである。点検データとは、日常点検と定期点検の結果を文字データおよび写真データとしてデータベース化したもので、1985年以降のデータが蓄積されている。また、補修データとは、補修工事に関するデータをデータベース化したもので、こちらも1985年以降のデータが蓄積されている。すなわち、補修の有無に関するデータである。
以上の3データの中から、はり上点検データとして、1985年、1987年、1990年、1992年、1995年、1999年、2004年に行なわれた点検データおよび、1985年〜2003年に行なわれた補修データを用いた。また、上・下部工点検データとして、1994年、2000年に行なわれた点検データを用いた。はり上点検と上・下部工点検の実施年を表1にまとめ示す。
なお、本願発明及び実施の形態においては、このような数値化したものや、その前の例えばA,B,Cの3つのランクの状態であっても点検データに含まれる。
図3にSVMを用いて、補修有無を分離させた場合の2次元イメージ図を示す。補修履歴のデータ群は、f(x)=0(実線)によって分離される。さらに、f(x)=−1、f(x)=1で区切り、各範囲におけるデータの個数および補修率の関係を図で示すと、図4のように示される。この図4のデータは、表1に示される1985年から1999年までのはり上点検データ結果及び補修履歴(1,152データ)を用いて、図示したものである。
横軸にf(x)をとると、f(x)>0は安全領域、f(x)<0は危険領域となる。この図から判断すると、危険領域で高い補修率、安全領域で低い補修率となっており、SVMにより補修の有無を分離させることができたと考えられる。
そもそも本願発明の開発の発端は、過去の蓄積されたデータを用いて補修の要否を高精度で評価可能とすることであり、そのために、まず、過去の蓄積されたデータによって、補修の有無を予測できるものかどうかの検証を行った。
学習用点検データとしては、表1に示される1985年から1995年までのはり上点検データ結果及び補修履歴(896データ)を用い、1999年のはり上点検(256データ)における補修有無が予測可能か否かの検討を行った。
1985年〜1995年のはり上点検データを学習用点検データ、1999年のはり上点検データをテスト点検データとした。
b) 教師値データ
前述の考え方の通り、学習用点検データおよびテスト点検データにおける教師値データは、補修の有無にて設定した。
c) 予測結果
SVMを用いて、補修有無を分離させた結果を図5(a)に示す。横軸にf(x)をとると、f(x)>0は安全領域、f(x)<0は危険領域となる。この図から判断すると、危険領域で高い補修率、安全領域で低い補修率となっており、SVMにより学習データに関しては補修の有無を分離させることができた。
この結果で得られた判別面上に、1999年のデータを入れて、判別面からの距離f(x)を求め、それらのデータを補修有・補修無別にf(x)値に対して示したものを図5(b)に示す。この図から判断すると、危険領域(f(x)<0)にもかかわらず低い補修率、安全領域(f(x)>0)にもかかわらず高い補修率となっており、過去の点検結果および補修履歴より1999年のテスト点検データの補修の有無を予測することは難しいことがわかった。
図6は、本発明の実施の形態に係る健全性劣化評価システムの構成図であり、図7(a)は、本実施の形態に係る学習用点検総合データの構成を示す概念図、(b)は同じく修正学習用点検総合データの構成を示す概念図、(c)は同じく点検総合データの構成を示す概念図である。
図6において、健全性劣化評価システムは、入力部1と演算部2と出力部10及び格納部として複数のデータベース12,16,18,20,24,27,31,34から構成される。
入力部1は、これらのデータベース12,16,18,20,24,27,31,34に格納されるデータ11a(具体的には、学習用点検総合データ13、マスタ点検データ14、テスト点検データ15、点検総合データ17、修正学習用点検総合データ19、判別面距離データ21、学習用判別面距離データ22、試験用判別面距離データ23、SVMデータ28、矛盾データ検索関数データ29、分離性評価関数データ30、判別面データ32、マスタ判別面データ33、分離性評価データ35)や解析条件11b(解析条件データ25、パラメータデータ26)を予め入力したり、あるいは演算部2の作業時にデータ11aや解析条件11bを入力するために使用されるものである。入力部1としての具体例には、キーボード、マウス、ペンタブレット、光学式の読み取り装置あるいは、コンピュータ等の解析装置や計測機器等から通信回線を介してデータを受信する受信装置など複数種類の装置からなり目的に応じた使い分け可能な装置が考えられる。
演算部2は、各データベースから読み出されたり、入力部1から入力されるデータ11aや解析条件11bを用いて、土木・建築構造物や災害危険箇所等の点検対象物における健全性劣化に関する点検データから得られる補修や対応策の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を分離する判別面を演算する判別面演算部8、また、その判別面に基づいて算出される点検対象物の危険度を演算する判別面距離演算部9を備えている。また、学習用点検データ分析部4及び学習用点検データ修正部5は判別面を解析するための学習用点検データの精度を向上させるために用いられる構成要素であり、学習用点検データ試験部6は、学習用点検データの精度を試験するための構成要素である。さらに、点検データ評価部7は、学習用点検データの精度が十分担保される場合に、判別面を形成させて評価対象たる点検データを評価するための構成要素である。
なお、モード選択部3は、本実施の形態に係る健全性劣化評価システムの操作時に演算のモードを選択するための構成要素である。モード選択部3としては、押しボタン式のものでもよいし、出力部10にボタンのアイコンを表示してタッチボタン方式で、手で触れることでモードの選択が可能なものとしてもよい。
演算部2として具体的には、ワークステーションやパーソナルコンピュータ等のコンピュータが考えられる。
さらに、点検総合データ17は、図7(c)に示されるとおり、要因データ40や要因データ43と同様な要因データ46、評価対象となる点検対象物に対する点検データ47、点検対象物における補修の有無データ48のデータセットである。点検総合データ17のみが教師値データではなく補修の有無データ48となっているが、補修の有無に関するデータは、そのまま教師値データとすることも可能であるので、本願では教師値データを含む概念として考えてもよい。
判別面演算部8において演算される学習用点検総合データ13あるいは修正学習用点検総合データ19を使用して得られる判別面を構成する判別面データ32及び、マスタ点検データ14を用いて得られるマスタ判別面を構成するマスタ判別面データ33を格納する判別面データベース31を備え、また、それらの判別面を用いて演算された結果得られる判別面距離データ21、学習用判別面距離データ22、試験用判別面距離データ23を格納する判別面距離データベース20を備えている。
利用者は、本実施の形態に係る健全性劣化評価システムを起動するが、予め入力部1を利用して、各データベースには解析や評価に必要なデータ11aや解析条件11bは、入力、格納されている。
起動時には、出力部10に、モード選択部3によって、これから実行されるべきモードがいくつか表示される。具体的には、学習用点検データから修正学習用点検データを生成するための修正モード、学習用点検データ又は修正学習用点検データの精度をテストするための試験モード、また、未評価の点検データを評価するための評価モードである。
利用者は、学習用点検総合データ13の修正を行う場合には、修正モードを選択する(ステップS1)。その際には、出力部10に表示されるモードを示すボタンや出力部10をタッチパネルとして、その画面(アイコン)自体を手で触れると修正モードが選択されるようにしておくとよい。修正モードが選択されると、さらに、矛盾教師値削除モード、矛盾点検値削除モード、マスタ点検データ利用モードの3種類のモードがモード選択部3によって出力部10に表示される。
利用者は、それぞれ希望するモードに対して、ボタンを押したりあるいはタッチパネルのアイコンに触れるなどして選択する。
本実施の形態においては、矛盾教師値削除モードを選択し、(ステップS2)他の修正モードを選択する場合については後述する。
モード選択部3は、選択されたモードに関する信号を学習用点検データ分析部4に送信する。モード選択部3から送信される信号を受信すると、学習用点検データ分析部4は、まず、データ修正用点検データベース12から学習用点検総合データ13を読み出す。
表7に読み出された学習用点検総合データ13の一部を示す。学習用点検総合データ13としては、表の上欄に記載されるもので、劣化に影響のある要因である「ボルトのゆるみ」から「伸縮本体の損傷」に加えて「その他」も含めている。また、それらの要因データ40に対応するように、学習用点検データ41としてそれぞれのレベル値が記載されている。また、右欄には、教師値データ42として、補修の有無に相当する数値が、−1,+1として記載されている。
学習用点検データ分析部4は、読み出した学習用点検総合データ13に含まれる要因データ40毎に、学習用点検データ41を読み出し(ステップS3)、その教師値データ42を読み出す(ステップS4)。学習用点検総合データ13は、対象点検物毎に例えば表7に示されるように、管理番号及び点検年を付した上で、格納されると、それらをキーとして学習用点検データ分析部4などによって読み出し易くなるので望ましい。
具体的には、表7に示されるように、橋梁No.がP-390とP-391として管理される点検対象物とP-392で管理される点検対象物では、それぞれ同じ要因データの「漏水」において、その学習用点検データがレベル1で共通するものの、その教師値データはP-390とP-391ではそれぞれ−1で、P-392では+1となっており矛盾している。
このように矛盾する教師値データを検索した後には、学習用点検データ分析部4はその矛盾教師値データを有する学習用点検データ41を抽出する(ステップS6)。そして、学習用点検データ分析部4は、この抽出した学習用点検データ41と矛盾を生じている教師値データ42を含めて、学習用点検総合データ13を学習用点検データ修正部5に送信する。
学習用点検データ修正部5では、矛盾を生じている教師値データ42及び学習用点検データ41を学習用点検総合データ13から削除することで修正学習用点検総合データ19を生成する(ステップS7)。本実施例では、当初896データであったものが、このような矛盾を生じているデータを削除することで、199データに減らせることができた。生成された修正学習用点検総合データ19は、学習用点検データ修正部5によって、修正学習用点検データベース18に格納される。
なお、学習用点検データ修正部5における矛盾データの削除方法については、特に限定するものではないが、例えば、矛盾を生じているいずれが正しいかなどの判断を省略して安全側にすべてを削除する方法や、教師値データなどで、保守的な方のデータ、すなわち安全側に判断されるデータ(データ自身が危険なデータ)を残して、削除する方法がある。データが安全側か危険側か等の判断をさせる場合には、その判別式を学習用点検データ修正部5内部に設けて矛盾データを読み出して、その判別式にかけて抽出して削除する必要があると考えられる。
利用者は、先の実施例1と同様に修正モードを選択する(ステップS1)。修正モードが選択されると、さらに、矛盾教師値削除モード、矛盾点検値削除モード、マスタ点検データ利用モードの3種類のモードがモード選択部3によって出力部10に表示されるが、今回は矛盾点検値削除モードを選択する(ステップS2)。
モード選択部3は、実施例1と同様に、選択されたモードに関する信号を学習用点検データ分析部4に送信する。モード選択部3から送信される信号を受信すると、学習用点検データ分析部4は、まず、データ修正用点検データベース12から学習用点検総合データ13を読み出す。
表8に読み出された学習用点検総合データ13の一部を示す。学習用点検総合データ13としては、表7と同様に要因データ40、学習用点検データ41、そして教師値データ42も含まれている。
学習用点検データ分析部4は、読み出した学習用点検総合データ13に含まれる要因データ40毎に、学習用点検データ41を読み出し(ステップS3)、その教師値データ42を読み出す(ステップS4)。
具体的には、表8に示されるように、橋梁No.がP-88において、1995年に要因データである「排水樋のつまり」の学習用点検データで、レベル2とあるものが、その年から1999年の前年までに補修がなかったにもかかわらず1999年の点検では、レベル0となっており、損傷度合が小さくなるという矛盾を生じている。さらに、橋梁No.P-132では、1987年の「排水樋のつまり」、「排水樋の損傷」、「漏水」という3つの要因データで、それぞれレベル2,3,1の状態にあったものが、P-88と同様にその年から1990年の前年までに補修がなかったにもかかわらず、1990年にはいずれもレベル0となっており矛盾を生じている。
このように矛盾する学習用点検データ41を検索した後には、学習用点検データ分析部4はその矛盾学習用点検データを有する学習用点検データ41及びその教師値データ42を抽出する(ステップS6)。そして、学習用点検データ分析部4は、この抽出した矛盾を生じている学習用点検データ41と教師値データ42を含めて、学習用点検総合データ13を学習用点検データ修正部5に送信する。
学習用点検データ修正部5では、矛盾を生じている学習用点検データ41及び教師値データ42を学習用点検総合データ13から削除することで修正学習用点検総合データ19を生成する(ステップS7)。本実施例では、当初896データであったものが、このような矛盾を生じているデータを削除することで、616データに減らすことができた。生成された修正学習用点検総合データ19は、学習用点検データ修正部5によって、修正学習用点検データベース18に格納される。
利用者は、先の実施例1や2と同様に修正モードを選択する(ステップS1)。修正モードが選択されると、さらに、矛盾教師値削除モード、矛盾点検値削除モード、マスタ点検データ利用モードの3種類のモードがモード選択部3によって出力部10に表示されるが、本実施例ではマスタ点検データ利用モードを選択する(ステップS2)。
モード選択部3は、実施例1、2と同様に、選択されたモードに関する信号を学習用点検データ分析部4に送信する。モード選択部3から送信される信号を受信すると、学習用点検データ分析部4は、まず、データ修正用点検データベース12からマスタ点検データ14を読み出す(ステップS3)。
判別面演算部8は、マスタ判別面に関するマスタ判別面データ33を判別面データベース31に格納する。
このマスタ判別面の演算が終了すると、学習用点検データ分析部4は、データ修正用点検データベース12から学習用点検総合データ13を読み出す(ステップS5)。読み出された学習用点検総合データ13は、判別面距離演算部9へ送信され、判別面距離演算部9は、マスタ判別面データ33を判別面データベース31から読み出して、先の要因データの要因数n以上の次元数の多次元空間に形成される座標中に形成させると同時に、学習用点検総合データ13の学習用点検データ41を点検対象物・点検年毎に、それぞれの要因データを対応させた座標軸に座標点としてプロットする。このようにしてプロットされた学習用点検データ41の座標点から、先のマスタ判別面までの距離を演算する(ステップS6)。但し、この「距離」は、座標点が判別面に対して多次元空間の原点側にある場合を正と概念するものである。
演算されたマスタ判別面までの距離は、判別面距離演算部9によって学習用判別面距離データ22として判別面距離データベース20に格納される(ステップS6)。
そして、この教師値データ42と、先に判別面距離演算部9において演算された学習用判別面距離データ22を判別面距離データベース20から読み出して比較しながら矛盾する教師値データ42及び判別面距離データを検索する。
この教師値データ42と学習用判別面距離データ22の比較の様子をデータで示したものが表9である。
表9に読み出された学習用点検総合データ13に学習用判別面距離データ22を加えたものの一部を示す。学習用点検総合データ13としては、表7,8と同様に要因データ40、学習用点検データ41、そして教師値データ42も含まれており、さらに、f(x)で表現されている学習用判別面距離データ22が含まれている。
このように矛盾する教師値データ42と学習用判別面距離データ22を検索した後には、学習用点検データ分析部4はその矛盾する教師値データ42と学習用判別面距離データ22を有する学習用点検データ41を抽出する(ステップS8)。そして、学習用点検データ分析部4は、この抽出した矛盾を生じている教師値データ42と学習用点検データ41を含めて学習用点検総合データ13を学習用点検データ修正部5に送信する。
学習用点検データ修正部5では、矛盾を生じている学習用点検データ41及び教師値データ42を学習用点検総合データ13から削除することで修正学習用点検総合データ19を生成する(ステップS9)。生成された修正学習用点検総合データ19は、学習用点検データ修正部5によって、修正学習用点検データベース18に格納される。
以上説明したとおり、実施例3をはじめ、実施例1及び実施例2に関する共通の効果としては、修正学習用点検総合データ19を生成することによって、これまで存在していたノイズを含む学習用点検データの精度を向上させることができ、この修正学習用点検総合データを用いることで、点検データをより精度高く評価することができるという点がある。すなわち、その点検データを取得した地域、地点、箇所、あるいは構造物や建造物(以下、地域等という。)における対策の必要性、対策を施す優先順位の策定、あるいは点検の必要性に関する評価を精度高く実施することができるのである。
利用者は、試験モードを選択する(ステップS1)。試験モードが選択されると、モード選択部3は、他の実施例と同様に選択されたモードに関する信号を学習用点検データ試験部6に送信する。モード選択部3から送信される信号を受信すると、学習用点検データ試験部6は、データ修正用点検データベース12から学習用点検総合データ13を読み出すか、あるいは修正学習用点検データベース18から修正学習用点検総合データ19を読み出す。(ステップS2)。
このデータの選定は、学習用点検データ試験部6がデータ修正用点検データベース12及び修正学習用点検データベース18にアクセスして、試験可能な学習用点検総合データ13及び修正学習用点検総合データ19のデータセット名を出力部10に表示して、ボタン操作やタッチパネル化した出力部10を用いて選択可能としておくとよい。
この判別面の演算が終了すると、学習用点検データ試験部6は、データ修正用点検データベース12からテスト点検データ15を読み出す(ステップS4)。このテスト点検データ15は、先に説明したとおり、1999年のはり上点検(256データ)を用いている。但し、本実施の形態においては、予めテスト点検データ15においても実施例3において示した修正モードによって修正し、これをテスト点検データ15として用いている。このようにテスト点検データ15も修正モードによって修正してもよいし、しなくともよい。
読み出されたテスト点検データ15は、判別面距離演算部9へ送信され、判別面距離演算部9は、判別面データ32を判別面データベース31から読み出して、先の要因データの要因数n以上の次元数の多次元空間に形成される座標中に形成させると同時に、テスト点検データ15を点検対象物・点検年毎に、それぞれの要因データを対応させた座標軸に座標点としてプロットする。このようにしてプロットされたテスト点検データ15の座標点から、先の判別面まので距離を演算する(ステップS5)。但し、この「距離」の概念も前述のとおり、座標点が判別面に対して多次元空間の原点側にある場合を正とするものである。
演算された判別面までの距離は、判別面距離演算部9によって試験用判別面距離データ23として判別面距離データベース20に格納される。
このデータ分離性の評価は、解析関数データベース27から分離性評価関数データ30を読み出しつつ、先の試験用判別面距離データ23を判別面距離データベース20から読み出して、これをその分離性評価関数に入力することで実行されるものである。
分離性評価関数は、試験用判別面距離データ23のうち、横軸に試験用判別面距離データの数値をとるように処理され、縦軸に点検対象物の箇所数、あるいは補修率の平均値を示すことが可能である。また、点検対象物の箇所数は、補修済のものと未補修のものに分けて表示することができる。
図12、図13及び図14の横軸には、判別面距離演算部9によって演算された試験用判別面距離データ23のうち、試験用判別面距離として演算されたf(x)がとられている。本実施の形態では、距離の概念として方向を含めて検討しており、数値は正となる方が安全側であり、負となる方が危険側となっているが、このような正負に限定するものではなく、逆の方向について距離を概念する場合には数値の正負は逆となることもある。
図12、図13及び図14の縦軸には、箇所数とあるのは点検対象物の箇所数を示しており、補修率は補修済の点検対象物の数を点検対象物の全体数で除したものである。また、図12、図13及び図14では、箇所数については補修済と補修無の場合に分けて表示している。
図12、図13及び図14の横軸に示されるf(x)は、修正学習用点検データ44を用いて演算される距離であり、基準となる修正学習用点検データ44の精度が高いと、判別面が精度高く形成され、演算されるf(x)も精度の高いものとなると考えられる。そして、そのf(x)に基づいて、補修率や補修の有無による箇所数を縦軸に表示して、一致すれば、演算と現実の危険度(安全度)が一致することになり、逆に、修正学習用点検データ44の精度が検証できるということになる。本実施の形態においては、図に示したが表に示してもよいことは言うまでもない。他の実施例においても同様である。
本実施例のように、学習用点検データ試験部6を備えて点検データのデータ分離性評価を行うことで、補修の有無を予測することは可能であると理解できる。
ここで、図5(b)には修正前の学習用点検データ41を用いて判別面を解析し、テスト点検データ15を用いて評価した結果を示す。
図5(b)に示されるとおり、修正前の場合には、危険領域(f(x)<0)にもかかわらず低い補修率、安全領域(f(x)>0)にもかかわらず高い補修率となっており、修正前の学習用点検データ41を用いる場合には、データ分離性は悪いことが理解される。
実施例1の修正方法から得られた図12および実施例2の修正方法から得られた図13と、図5(b)を比較すると,補修の有無の予測はほとんど改善されていないと理解される。
しかしながら,実施例3の修正方法から得られた図14では、危険領域(f(x)<0)で100%の補修率、安全領域(f(x)>0)で低い補修率となっており、実施例3に示されるような方法で、学習用点検データを修正して不一致を削除した補修履歴を用いることで、テスト点検データ15の補修の有無を予測することは可能であることがわかった。
つまり、本実施例1および本実施例2というデータ修正方法もあるが,本実施例3において行われたデータ修正方法が最も妥当な修正方法であることが理解される。
なお、本願明細書の実施の形態の説明においては、モード選択部3を備えて修正モード、試験モード、評価モードを選択可能としたが、モード選択部3を備えることなく、これらの中から1つのモードのみ、あるいはいくつかのモードがシーケンシャルに自動的に実行されるように予めプログラムされているようなシステムであってもよい。また、修正モードでは、さらに3種類のモードが選択可能となっているが、これも予め定めた1つのモードが自動的に選択されるようにされてもよいし、必ずしも3つのモードではなく、これらの中から2つのモードが選択されるようにしてもよい。
図5(b)に示されるとおり、修正前の場合には、危険領域(f(x)<0)にもかかわらず低い補修率、安全領域(f(x)>0)にもかかわらず高い補修率となっており、修正前の学習用点検データ41を用いる場合には、データ分離性は悪いことが理解される。これに比べて図14に示す先の実施例3によるデータ修正が妥当であり、このデータ修正によって、学習用点検データ41の精度が大きく向上したと考えることができる。
本実施例によれば、実施例1乃至3に係る健全性劣化評価システムの効果に加えて、学習用点検データ41の精度が向上することを確認可能なシステムを提供することができ、修正学習用点検総合データ19を用いて実施される点検データを取得した地域等における評価の前に、妥当性を確認して精度を担保することができる。
利用者は、評価モードを選択する(ステップS1)。評価モードが選択されると、モード選択部3は、他の実施例と同様に選択されたモードに関する信号を点検データ評価部7に送信する。モード選択部3から送信される信号を受信すると、点検データ評価部7は、データ修正用点検データベース12から学習用点検総合データ13を読み出すか、あるいは修正学習用点検データベース18から修正学習用点検総合データ19を読み出す。(ステップS2)。
このデータの選定は、点検データ評価部7がデータ修正用点検データベース12及び修正学習用点検データベース18にアクセスして、利用可能な学習用点検総合データ13及び修正学習用点検総合データ19のデータセット名を出力部10に表示して、ボタン操作やタッチパネル化した出力部10を用いて選択可能としておくとよい。
点検データ評価部7は、読み出した学習用点検総合データ13又は修正学習用点検総合データ19を判別面演算部8に送信し、判別面演算部8では解析関数データベース27に格納されたSVMデータ28を読み出して、SVMに学習用点検総合データ13あるいは修正学習用点検総合データ19を用いて判別面を演算し(ステップS3)、判別面に関する判別面データ32を判別面データベース31に格納する。この判別面も要因データの要因数n以上の次元数の多次元空間に形成される。
この判別面の演算が終了すると、点検データ評価部7は、点検データベース16から点検総合データ17を読み出す(ステップS4)。点検総合データ17は、この健全性劣化評価システムを利用して実際に評価されるべき対象である。
読み出された点検総合データ17は、判別面距離演算部9へ送信され、判別面距離演算部9は、判別面データ32を判別面データベース31から読み出して、先の要因データの要因数n以上の次元数の多次元空間に形成される座標中に形成させると同時に、点検総合データ17の点検データ47を点検対象物・点検年毎に、それぞれの要因データ46を対応させた座標軸に座標点としてプロットする。このようにしてプロットされた点検総合データ17の座標点から、先の判別面までの距離を演算する(ステップS5)。但し、この「距離」の概念も前述のとおり、座標点が判別面に対して多次元空間の原点側にある場合を正とするものである。
演算された判別面までの距離は、判別面距離演算部9によって判別面距離データ21として判別面距離データベース20に格納される。
このデータ分離性の評価は、実施例4と同様に、解析関数データベース27から分離性評価関数データ30を読み出しつつ、先の判別面距離データ21を判別面距離データベース20から読み出して、これをその分離性評価関数に入力することで実行されるものである。但し、本実施例では、このデータ分離性の評価は、点検データ評価部7において実行される。
分離性評価関数は、判別面距離データ21のうち、横軸に判別面距離データの数値をとるように処理され、縦軸に点検対象物の箇所数、あるいは補修率の平均値を示すことが可能である。また、点検対象物の箇所数は、補修済のものと未補修のものに分けて表示することができる。
なお、本実施例では、学習用点検総合データ13をデータ修正用点検データベース12から、あるいは修正学習用点検総合データ19を修正学習用点検データベース18から読み出して、判別面を演算し、その判別面に対して点検総合データ17を用いて判別面距離を演算し、これを用いて点検データ評価部7で、データ分離性の評価を実施したが、この点検データ評価部7では、学習用点検総合データ13あるいは修正学習用点検総合データ19自身のデータ分離性も評価可能である。
本実施例では、点検データ評価部7が、ステップS4において点検データベース16から点検総合データ17を読み出したが、ここで、データ修正用点検データベース12から学習用点検総合データ13あるいは修正学習用点検データベース18から修正学習用点検総合データ19を読み出し、さらに、この中の学習用点検データ41あるいは修正学習用点検データ44を読み出す。読み出された学習用点検データ41あるいは修正学習用点検データ44は、判別面距離演算部9へ送信され、判別面距離演算部9は、判別面データ32を判別面データベース31から読み出して、多次元空間に形成される座標中に形成させると同時に、学習用点検データ41あるいは修正学習用点検データ44を点検対象物・点検年毎に、それぞれの要因データを対応させた座標軸に座標点としてプロットする。このようにしてプロットされた学習用点検データ41あるいは修正学習用点検データ44の座標点から、先の判別面まので距離を演算する。
演算された判別面までの距離は、判別面距離演算部9によって学習用判別面距離データ22として判別面距離データベース20に格納され、点検データ評価部7は、データ分離性の評価を行う。この評価方法は、先に説明した内容と同様であるので省略する。
図17(a)乃至(f)は、それぞれ学習用点検データ41あるいは修正学習用点検データ44を用いて点検データ47を評価する工程を模式的に表現する概念図である。図中、符号A及びXで表現されるのは、学習用点検データ41で、A’及びX’で表現されるのは修正学習用点検データ44であり、符号Mで表現されるのはマスタ点検データ14である。
また、Aを用いてBを評価する(a)乃至(c)は、学習用点検データであるAあるいは修正学習用点検データであるA’の取得箇所は、マスタ点検データであるMと同一の取得箇所であるものの、データの取得時期が異なる場合を意味しており、Xを用いてYを評価する(d)乃至(f)は、学習用点検データであるXあるいは修正学習用点検データであるX’の取得時期の異同はともかく、取得箇所が、マスタ点検データMと異なっている場合を意味するものである。
図17(a)は、本実施例によって学習用点検データ41を修正することなく点検データ47を評価する場合、(b)は、本実施例によってマスタ点検データ14を用いてマスタ判別面を構築し、修正学習用点検データ44を生成して、それを用いて、点検データ47を評価する場合、(c)は、マスタ点検データ14を用いて点検データ47を評価する場合である。
さらに、(a)〜(c)とは異なる地域で得られた学習用点検データ41を修正することなく、点検データ47を評価する場合を(d)とし、(e)は異なる地域のマスタ点検データ14を用いて、学習用点検データ41を修正して修正学習用点検データ44を生成し、そしてそれを用いて点検データ47を評価する場合、(f)は、異なる地域のマスタ点検データ14を用いて点検データ47を評価する場合である。
この優れた効果とは以下のような効果である。ある地域、地点、箇所、あるいは構造物や建造物において、過去に蓄積された点検データが存在するものの、その過去の時点ではノイズも含まれていることが予想される場合には、その点検データをそのまま健全性劣化評価のための学習データとして用いると精度上リスクが大きいと考えられる。このような場合には、この学習データを、その地域等において精度高く実施された点検によって得られた点検データ、すなわち、マスタ点検データを用いて修正して、あるいはマスタ点検データの量が十分であれば、そのマスタ点検データを用いて、先の学習データの取得時期と異なる時期に取得された点検データを評価することが考えられる。しかしながら、マスタ点検データを取得するためには熟練した技術者が必要であることから、そのマスタ点検データが取得されている地域等はまだまだ少ないのが現状である。しかしながら、本実施例によれば、評価したい地域等で取得されたマスタ点検データでなくとも、すなわち、点検データを取得した地域で、学習用点検データが存在しさえすれば、他地域等で取得されたマスタ点検データを用いて、この学習用点検データを修正して修正学習用点検データを取得し、この修正学習用点検データをあたかもその地域等のマスタ点検データとして点検データを評価することが可能である。
この効果が優れているのである。この効果を発揮し得ることを図17乃至図23を参照しながら説明するものである。
図18(a)において、グラフの見方は図14を用いて説明したとおりであるので省略するが、その下の表について説明を加える。表では、横軸のf(x)に対して、右欄にそれぞれ補修済の箇所と補修無の箇所の数を示し、そのさらに右欄に補修率を計算している。さらに下表には、f(x)が負の場合に補修済である箇所数と、f(x)が正の場合に補修無である箇所数を加え、全体の箇所数で除した数値が記載されている。これは、すなわち、相対的に危険と評価される箇所で補修済の箇所、安全と評価される箇所で補修無の箇所の和であり、適切な処理が施されている箇所の割合を示すものである。従って、本願ではこの数値を「的中率」と呼ぶことにする。
図18(b)においては、前述のとおり、Aの学習用点検データ、すなわち、マスタ点検データを用いることなく、そのままの学習用点検データを用いて形成された判別面を用いてBの点検データを評価した結果を示すが、先の的中率は、27%と低い値を示している。従って、未修正データの判別面を用いた場合には、あまりよく点検データを分離できておらず、過去(1985年〜1995年)に取得された同じ箇所でのデータ(学習用点検データ)を用いて、別時点(1999年)に取得された同じ箇所でのデータ(点検データ)を評価することに無理があることが理解される。
図19(a)において、修正済のA’では、図18(a)に示される修正前の場合に比較して分離が進み、その的中率は当然100%になっている。一方、(b)では、的中率が56%と図18(b)の27%に比べると大幅に向上しており、この修正学習用点検データによって形成される判別面を用いる場合には、取得時点が異なる点検データを分離することができるものと理解される。
図20(a)において、Mのマスタ点検データでは分離性が高く、その的中率も100%となっている。一方、(b)では、的中率が58%と、図19(b)に示されるケースに比較してほぼ同等であり、また、図18(b)に示されるケースに比較すると大幅に向上している。このことから、このマスタ点検データによって形成される判別面を直接用いた場合(図20(b))に対して、マスタ点検データを用いて学習用点検データを修正して修正学習用点検データを生成してから、その修正学習用点検データを用いて点検データを評価する場合(図19(b))ではほぼ同等の分離性が得られることが理解される。
図21は、図17(d)に示されるケースの評価結果を示すものである。すなわち、図21(a)では、図17(d)においてXとして示される学習用点検データをそのまま用いて判別面を形成して、そのXとして示される学習用点検データの分離性について評価した結果をグラフと表に示すものである。また、(b)では、Xの学習用点検データを用いて形成された判別面を用いてYで示される点検データを評価した場合に、点検データが分離可能であるか否かをグラフと表で示すものである。これらのデータを取得した箇所は、図中にH路線と記載されるとおり、いずれも図18に示される箇所とは異なる箇所で得られたデータに基づくものである。
図21(b)においては、Xの学習用点検データ、すなわち、マスタ点検データを用いることなく、そのままの学習用点検データを用いて形成された判別面を用いてYの点検データを評価した結果を示すが、先の的中率は、78%とかなり高い値を示している。従って、図18で示した結果とは異なり、本H路線では、未修正データの判別面を用いた場合でも同じ箇所でのデータ(点検データ)を評価することが可能であることが理解される。
図22(a)において、修正済のX’では、図21(a)に示される修正前の場合に比較して分離が進み、その的中率も99%と高い値を示している。一方、(b)においても、高かった的中率が更に90%と向上しており、この修正学習用点検データによって形成される判別面を用いる場合には、取得した地域等が異なる点検データを分離することができるものと理解される。
図23(a)において、Mのマスタ点検データでは分離性が高く、その的中率も100%となっている。一方、(b)では、的中率が86%と、図21(b)に示されるケースに比較すると向上しているのが認められるが、図22(b)に示されるケースに比較すると若干低下していることが理解される。
このことから、このマスタ点検データによって形成される判別面を直接用いた場合(図23(b))よりも、マスタ点検データを用いて学習用点検データを修正して修正学習用点検データを生成してから、その修正学習用点検データを用いて点検データを評価する場合(図22(b))の方がより高い分離性が得られることが理解される。
すなわち、マスタ点検データを用いてそのデータが取得された地域等以外の地域等において取得された学習用点検データを修正して修正学習用点検データを生成することによれば、その修正学習用点検データを、あたかもその地域等のマスタ点検データとして取り扱うことで、他地域等で取得されたマスタ点検データを用いるよりもより優れた効果、すなわち、点検データの高い分離性を発揮させることが可能であり、健全性劣化評価をより精度高く実施することが可能である。
本実施の形態に係る健全性劣化評価システムを用いることで、他地域等で取得されたマスタ点検データを用いて、当該地域のマスタ点検データを生成することが可能となり、数少ないマスタ点検データの利用局面が増えることで、多数の地域において、これまでノイズを含んで利用が抑制されていた過去の点検データ(学習用点検データ)を修正学習用点検データとして活用することが可能となり、健全性劣化評価の精度の飛躍的な向上とコスト削減を同時に実現することができるという優れた効果を発揮することができるのである。
Claims (2)
- 入力部と、演算部と、格納部と、出力部を有し、土木・建築構造物又は災害発生危険箇所等の点検対象物における健全性劣化の要因(要因数をnとする。n≧2)に係るn次元の要因データと前記点検対象物に対する前記要因毎に構成される点検データと前記点検対象物に対する補修の有無データとを備える点検総合データと、前記点検データを用いて補修の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を分離するための判別面を解析して得るためのサポートベクターマシン(以下、単にSVMという。)と、を用いてある点検対象物における危険度を算出して補修又は点検の必要性を評価するための健全性劣化評価システムであって、
前記格納部は、前記判別面を解析するためのSVMデータと、前記SVMに代入されるn次元の要因データと,前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成される学習用点検データと,前記点検対象物における補修の有無データを正負又は負正に対応させた前記SVMに対する教師値データと,を備える学習用点検総合データと、前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成され熟練点検技術者による点検結果データであって前記学習用点検データよりも確度の高いことが予め明らかなマスタ点検データとを格納する格納部であって、
前記入力部は、前記点検対象物における前記健全性劣化の要因に係るn次元の要因データと前記要因データ毎の点検データを入力可能な手段であって、
前記演算部は、前記マスタ点検データ及び前記SVMデータを前記格納部から読み出して前記マスタ判別面を解析する判別面演算部と、
前記学習用点検データを前記格納部から読み出して、前記マスタ判別面が、前記要因数以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多次元空間の座標中に、前記学習用点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元空間中に形成されるマスタ判別面までの距離であって前記座標点が前記マスタ判別面に対して前記座標中の原点側に存在するか否かで正負又は負正を考慮した距離を前記点検対象物の学習データ危険度として演算する判別面距離演算部と、
前記点検対象物毎に前記学習用点検総合データの教師値データを前記格納部から読み出して、前記判別面距離演算部で演算された点検対象物の学習データ危険度と比較して、教師値データが表現する補修の有無データの正負に対して学習データ危険度の正負が反している矛盾点検対象物を検出する学習用点検データ分析部と、
前記学習用点検データ分析部によって検出された矛盾点検対象物に関する学習用点検データ及び教師値データを前記学習用点検データ及び教師値データから削除し修正学習用点検総合データを生成して前記格納部に格納する学習用点検データ修正部と、を備え、
前記判別面演算部は、前記修正学習用点検総合データ及び前記SVMデータを前記格納部から読み取り前記判別面を解析する判別面演算部であり、
前記判別面距離演算部は、前記入力部から入力された前記点検データを読み取り、前記判別面が、前記要因数以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多次元空間の座標中に、前記点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元空間中に形成される判別面までの距離を前記点検対象物の危険度として演算する判別面距離演算部である手段であって、
前記出力部は、前記入力部から入力されるデータ、前記演算部で演算された結果に関するデータ又は前記格納部に格納されるデータを、それぞれ入力部、演算部、格納部から読み出して出力可能な手段であることを特徴とする健全性劣化評価システム。 - 前記格納部は、前記学習用点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データの精度を試験するために、前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成されるテスト点検データと、
このテスト点検データを用いて演算された前記点検対象物の危険度を介して前記学習用点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データを評価するために、前記危険度と,補修有の点検対象物と補修無の点検対象物の組合せ及び/又は点検対象物の全数に対する補修有の点検対象物の数である補修率のデータと,を図示する分離性評価関数データと、を格納する手段であって、
前記演算部は、前記学習用点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データ及び前記SVMデータを前記格納部から読み取り判別面を解析する判別面演算部と、
前記格納部に格納された前記テスト点検データを読み取り、前記判別面が、前記要因数以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多次元空間の座標中に、前記テスト点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元空間中に形成される判別面までの距離を前記点検対象物のテスト危険度として演算する判別面距離演算部と、
前記格納部から前記分離性評価関数データを読み出して、前記テスト危険度と、前記テスト点検データに含まれる補修有の点検対象物と補修無の点検対象物の組合せ及び/又は点検対象物の全数に対する補修有の点検対象物の数である補修率のデータと,を表又は図で示す学習用点検データ試験部と、を有し、
前記出力部は、前記表又は図を出力可能であることを特徴とする請求項1に記載の健全性劣化評価システム。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2007285786A JP4446035B2 (ja) | 2007-11-02 | 2007-11-02 | 健全性劣化評価システム |
Applications Claiming Priority (1)
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