JP4252260B2 - Pthの安定化水溶液注射剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、PTH(PTH:ParathyroidHormone)を有効成分とする安定な水溶液に関する。
【0002】
【従来の技術】
PTHは、カルシトニン類やビタミンD類とともに、血中カルシウム濃度の調節に関与する副甲状腺ホルモンであり、副甲状腺機能低下症の診断薬として用いられている。また、骨に作用する事が知られており骨粗鬆症の治療薬としても有望視されている。しかしながらPTHを水溶液剤とした場合、保存安定性が悪く、この問題点を回避するために、従来より用時溶解型の凍結乾燥製剤が通常用いられてきた。用時溶解型凍結乾燥製剤の安定化剤としては、マンニトール、グルコース、ソルビトール、またはシュークロス、トレハロース、ラクトースの糖類、及び塩化ナトリウム等の塩類が知られている(特開平5−306235号公報)。
【0003】
一方、用時溶解型凍結乾燥製剤は使用時の操作が煩雑であり、また操作中に微生物汚染を受けやすい。さらに近年発達したプレフィルドシリンジ等の注射剤キットには適用しにくい剤型である。そこで水溶液注射剤の開発が求められているが、その安定化法技術の一例として、マンニトール、プロピレングリコール等のポリオールを安定化剤として配合し、さらにベンジルアルコール、m−クレゾール等の保存剤を含んだ安定化法が知られている(特開2000−524006)。しかしながら、これら技術の保存安定性は十分なものではなく、医薬品の流通上で失活したり、使用時の不十分な管理により光を受けると劣化する恐れが懸念される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、PTHの光及び熱に対する安定な水溶液、とりわけ水溶液注射剤の処方を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、PTH水溶液における光及び熱に対する保存安定性の問題点の解決を目指し、さらに安全で安定な製剤処方の確立を目標として種々研究を続けた結果、意外にも、メチオニン及びまたはキシリトールを安定化剤として添加することによって、水溶液の光及び熱安定性が著しく向上する事を発見し、光及び熱に対して安定な水溶液、水溶液注射剤を完成するに至った。
【0006】
本発明の有効成分であるPTH(副甲状腺ホルモン)は、血清カルシウム上昇作用を有する分子量約4,000〜10,000のペプチド類であって、34〜84個のアミノ酸配列を有し、天然型PTHまたは同様の生物学的活性を有する類似体が知られている。本発明は種々のアミノ酸数のPTH、例えば(1−34),(1−35),(1−36),(1−37),(1−38),(1−84)等に使用できるが、その中でも分子量約4,400の34個のアミノ酸配列を有するh−PTH(1−34)を使用することが好ましい。さらにpHは3〜5であることが好ましい。
【0007】
本発明に使用する安定化剤は、アミノ酸の一つであるメチオニンと糖であるキシリトールである。好ましくはメチオニンを用いる。メチオニンはDL体とL体が用いられるが、いずれも好ましい。上記メチオニンあるいはキシリトールの添加量は、いずれも、PTH1重量に対し、5重量以上が好ましく、さらに好ましくは、40から4,000重量を水溶液中のPTH濃度に応じて添加すればよい。
【0008】
PTH水溶液は、充填容器、例えばアンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、ソフトバック、自己注射型のペン型キット等に充填することにより、安定なPTH製剤とすることができる。これらの充填容器の形状は特に限定されない。予め注射筒に水溶液を充填したプレフィルドシリンジは、医療現場等においてアンプル・バイアル等の場合のように注射筒に移し替えすることなく、人体に注射できるため簡便であり、微生物汚染の可能性が低いという利点がある。
【0009】
それらの充填容器の材質として、ガラスあるいはプラスチックが挙げられる。ガラス容器としては例えばホウケイ酸ガラスが挙げられる。プラスチック容器としては、環状ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンとα−オレフィンの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン、6フッ化樹脂、ポリメチルメタアクリレート、ポリカーボネイト等とそれら樹脂とシクロオレフィン類との共重合体などが挙げられるがこの限りでない。好ましくは環状ポリオレフィン、ポリスチレンが挙げられる。プレフィルドシリンジの場合は、材質がプラスチックであることが好ましい。輸送時軽く、耐破損性に優れるからである。
【0010】
水溶液注射剤を調製するに当たっては、例えば注射用蒸留水を使用して、0.1〜100mMのpH緩衝液にて、pH3〜5に調整、好ましくはpH4.0に調整する。使用するpH緩衝剤としては、酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、リン酸及びその塩を用いることが例示され、好ましくは酢酸及びその塩である。こうして得られた溶液に安定化剤としての有効量を添加して、酢酸等のpH調節剤を用いてpH4.0に微調整する。次いで、これを水性媒体として、有効成分であるPTHの有効量を溶解する。
【0011】
PTHの使用量は、水溶液1mL当たり0.5〜500μgであり、好ましくは1mL当たり5〜300μgである。さらに等張化剤として塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、ブドウ糖及びマクロゴール4000等を適宜添加しても良い。その後に濾過滅菌処理を行い、アンプル、バイアル及びプレフィルドシリンジ、自己注射型のペン型キット等に無菌的に充填する。かくして、安定なPTH水溶液注射剤を得る。
【0012】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限られるものではない。
【0013】
【実施例1】
注射用蒸留水を使用して50mM、pH4.0の酢酸ナトリウム緩衝液を500mL得た。この溶液にDL−メチオニンを1.4g加えて70mLになる様に調製した。こうして得られた溶液にPTH(1−34)の約2.1mgを溶解してPTH水溶液を得た。次にこのPTH水溶液を濾過滅菌処理した後、アンプルに約1mLずつ充填して、PTH(1−34)を約30μg含有する水溶液注射剤を製造した。
【0014】
【実施例2】
実施例1において、DL−メチオニンのかわりにL−メチオニンを使用し、同様な処理を実施した後、アンプルに約1mLずつ充填して、PTH(1−34)を約30μg含有する水溶液注射剤を製造した。
【0015】
【実施例3】
実施例1と同様の調製方法をもって、プラスチック製シリンジに約1mLずつ充填してPTH(1−34)を約30μg含有するプレフィルドシリンジの水溶液注射剤を製造した。
【0016】
【実施例4】
実施例3において、DL−メチオニンのかわりにL−メチオニンを使用し、同様な処理をした後、プラスチック製シリンジに約1mLずつ充填してPTH(1−34)を約30μg含有するプレフィルドシリンジの水溶液注射剤を製造した。
【0017】
【比較例1】
注射用蒸留水を使用して酢酸8.7mM、酢酸ナトリウム0.88mM/mLの酢酸ナトリウム緩衝液にマンニトール50g及びm−クレゾール2.5gを加えて1,000mLの水溶液を作成する。この溶液150mLにPTH(1−34)の約4.5mgを溶解してPTH水溶液を得た。次にこのPTH水溶液を濾過滅菌処理した後、アンプルに約1mLずつ充填してPTH(1−34)を約30μg含有する水溶液注射剤を製造した。
【0018】
【比較例2】
注射用蒸留水を使用してL−アルギニン3.75gを加えて150mLの水溶液を作成する。この水溶液に酢酸適量を滴下してpH6.5に調整した200mLの水溶液を得た。この溶液150mLにPTH(1−34)の約22.5mgを溶解してPTH水溶液を得た。次にこのPTH水溶液を濾過滅菌した後、アンプルに約1mLずつ充填してPTH(1−34)を約150μg含有する水溶液注射剤を製造した。
【0019】
【比較例3】
注射用蒸留水を使用して50mM、pH4.0の酢酸ナトリウム緩衝液200mLを得た。この溶液150mLにPTH(1−34)の約4.5mgを溶解してPTH水溶液を得た。次にこのPTH水溶液を濾過滅菌処理した後、アンプルに約1mLずつ充填してPTH(1−34)を約30μg含有する、本発明の安定化剤を含まない水溶液注射剤を製造した。
〔試験方法〕 前述の実施例1〜3で得た本発明品及び、比較例1〜3の各々を、光安定性試験器及び40℃安定性試験器に保存した後、経時的にサンプリングを行い、次の条件による高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてPTH含量を測定した。
HPLC測定条件
機器名:島津10Aシリーズ
カラム:オクタデシルシリカ 150×4.6mmI.D.
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:0.1%TFA(トリフルオロ酢酸)とアセトニトリルの混液
〔結果〕 実施例と比較例での光安定性試験及び40℃安定性試験でのHPLC残存率を表1及び表2に示した。
安定性試験器中のHPLC残存率(%)
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
表1及び表2の通り、本発明の実施例1〜3の水溶液注射剤は比較例1〜3に対して、光及び熱に対する安定性が向上していることを示した。特に光安定性においては、メチオニンを安定剤として用いた実施例1、2は60万Lux・hrにおいて90%以上、120万Lux・hrでも85%以上と高い残存率を示し、遮光包装や光に対する注意事項等の特別な配慮が不要となる。また、キシリトールを用いた実施例3も従来技術の比較例に対してより高い残存率を示した。一方、熱に対してもメチオニンを用いた実施例1、2はより高い残存率を示し、より長い有効期間を設定できることが示された。キシリトールを用いた実施例3も、比較例と同等以上の安定性を示した。
【0023】
【発明の効果】
以上の通り、従前の技術を用いたPTH水溶液注射剤の場合、光及び熱安定性は不十分であったが、本発明によって全く意外にも、メチオニン及びまたはキシリトールを安定化剤として添加する事で熱及び、特に光に対して安定な水溶液注射剤を製造する事を可能とした。
Claims (9)
- 露光下でのヒト−PTH(1−34)水溶液注射剤の保存方法であって、該方法は、該水溶液注射剤のpHを3〜5とし、且つ安定化剤としてメチオニンをヒト−PTH(1−34)の1重量部に対して40〜4,000重量部の割合で含有させることを特徴とし、但し該水溶液注射剤が60万Lux・hrの条件で露光された際の当該注射剤中のヒト−PTH(1−34)の残存率が87%以上である、前記保存方法。
- 前記水溶液注射剤が120万Lux・hrの条件で露光された際の当該注射剤中のヒト−PTH(1−34)の残存率が76%以上である、請求項1に記載の方法。
- ヒト−PTH(1−34)水溶液注射剤中における前記PTH濃度が、0.5〜500μg/mLである、請求項1又は2に記載の方法。
- 前記ヒト−PTH(1−34)水溶液注射剤がプラスチック製プレフィルドジリンジに充填されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- 前記ヒト−PTH(1−34)水溶液注射剤が環状ポリオレフィン製プレフィルドジリンジに充填されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- 前記ヒト−PTH(1−34)水溶液注射剤がアンプルに充填されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- 前記ヒト−PTH(1−34)水溶液注射剤のpHが酢酸塩緩衝液によってpH3〜5に調整されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
- 前記酢酸塩緩衝液が0.1〜100mMである、請求項7に記載の方法。
- 前記ヒト−PTH(1−34)水溶液注射剤中における前記PTH濃度が、5〜300μg/mLである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
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