JP4251530B2 - フラノンの製造法およびその新規中間体 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明はラセミ体、もしくは光学活性(S)−(−)−または(R)−(+)−4−ヒドロキシ−4,8−ジメチル−7−ノネンニトリル、その製造法およびそれらの加水分解によりラセミ体、もしくは光学活性(S)−(−)−または(R)−(+)−5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノンを得ることからなる製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
フラノン類の合成については多くの方法が知られており、例えばヒドロキシカルボン酸の環化や、ヒドロキシニトリルのアルカリ、または酸加水分解、環状ケトンのBaeyer-Villiger反応などが多用されている(印藤元一著、「合成香料」p 546-574)。
一方、ニトリル化合物は一般にシアノ化、酸アミドの脱離などによって広く製造されており、主に合成反応原料や中間体として利用されることが多い。このものは種々の手段によってカルボン酸、アルデヒド、アミン、アルコ−ルなどの誘導体に導くことが可能である。
ニトリルの加水分解については、一般的には強酸性もしくは強アルカリ性で加熱条件下に行われることが多いが、こうした方法はラセミ化しやすい光学活性化合物や、異性化しやすい二重結合を含む化合物などに対しては不適である。このような問題の解決策として、ルテニウム(Ru)触媒[RuH2(PPh3)4]と当量の水の存在下、ジメトキシエタン(DME)を溶媒として加圧下に中性条件下で加水分解させる方法が報告されている(Murahashi, S. et al. Chem. Commun. 1994, 1359-1360)。しかしながら、この方法は高収率でニトリルの加水分解が進行するが、反応完結に10時間以上を要することや、オ−トクレ−ブを用いる加圧反応であることから、工業的製造という観点からは効率、設備、安全性などに問題がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
請求項1と2に記載されているフラノンは、リンゴ「王林」のストレ−ト果汁中の微量香気成分として見い出されたものである。これらは従来のフラノン類とは異なる極めてキャラクタリスティックな香気を有している。中でも請求項2に記載されている(S)−(−)−または(R)−(+)−5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノンは、それぞれ非常に優れた香調を有するが、その合成は従来の方法では低収率であり、効率や経済性の点からは必ずしも有利な方法とは言えないものであった(特願2001-129380)。
フラノン類の前駆体としてニトリル化合物は有用であり、とくに光学活性なヒドロキシニトリルは汎用性の高い合成原料、または中間体として利用できる。
【0004】
ニトリルの加水分解については、より中性に近いコンディションでのマイルド、かつ効率的な方法の確立が待ち望まれている。
【0005】
本発明者らは修飾容易な官能基を複数有する、有機合成上汎用性の高いニトリル化合物の創製について鋭意検討を重ねてきた。その結果、請求項3および4に記載されているニトリル化合物が新規化合物であることを見い出し、安価な原料系、かつ高収率で工業化にも充分に堪え得る製造法を確立した。
【0006】
また、これらのニトリル化合物を加水分解することにより、請求項1および2に記載されているフラノンを効率的に製造できることを見い出した。即ち、前記のRu触媒RuH2(PPh3)4を用いてジグライム等を反応溶媒とし、水を滴下することにより、反応時間は10時間以内に短縮され、加圧の必要もまったくない効率的な反応条件を確立した。
以上の知見、技術の発見により本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
項1 式1
【化6】
で表されるラセミ体の5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノンを、4−ヒドロキシ−4,8−ジメチル−7−ノネンニトリルを基質として、ルテニウム触媒であるRuH 2 (PPh 3 ) 4 を用いて水を滴下することを特徴とする加水分解により得ることからなる製造法。
【0008】
項2 一般式2
【化7】
で表される(S)−(−)−または(R)−(+)−5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノンを、(S)−(−)−または(R)−(+)−4−ヒドロキシ−4,8−ジメチル−7−ノネンニトリルを基質として、ルテニウム触媒であるRuH 2 (PPh 3 ) 4 を用いて水を滴下することを特徴とする加水分解により得ることからなる製造法。
【0009】
項3 式3
【化8】
で表されるラセミ体の4−ヒドロキシ−4,8−ジメチル−7−ノネンニトリル。
【0010】
項4 一般式4
【化9】
で表される光学活性(S)−(−)−または(R)−(+)−4−ヒドロキシ−4,8−ジメチル−7−ノネンニトリル。
【0011】
項5 一般式5
【化10】
で表される化合物(式中、Rは水素原子、またはトリアルキルシリル、テトラハイドロピラニル、アセチルなどの水酸基の保護基を表し、Xはp−トルエンスルホニロキシまたはメタンスルホニロキシ、トリフルオロメタンスルホニロキシ、ハロゲンなどの脱離基を表す)のラセミ体、もしくは光学活性体における脱離基−Xをニトリルに変換することにより、請求項3もしくは4に記載されているラセミ体、もしくは光学活性(S)−(−)−または(R)−(+)−4−ヒドロキシ−4,8−ジメチル−7−ノネンニトリルを得ることからなる製造法。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明におけるラセミ体の4−ヒドロキシ−4,8−ジメチル−7−ノネンニトリル[(±)−3]
【0013】
光学活性な(S)−(−)−4−ヒドロキシ−4,8−ジメチル−7−ノネンニトリル[(S)−(−)−4]
【0014】
光学活性な(R)−(+)−4−ヒドロキシ−4,8−ジメチル−7−ノネンニトリル[(R)−(+)−4]は、下記のごとく製造することができる。
【0015】
【化11】
【0016】
一般式5で表される化合物は、例えば北浦らによる方法により(S)−(+)−3−ヒドロキシ−3,7−ジメチル−6−オクテニル トシレ−トや、(R)−(−)−3−トリメチルシロキシ−3,7−ジメチル−6−オクテニル クロライドなどを得ることができる(特願2001-129380)。
【0017】
一般式5で表されるラセミ体、または光学活性な基質を、上記の工程(A)においてシアノ化剤と反応させることにより一般式6で表されるニトリルを得る。シアノ化剤として、例えばシアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化銅などが挙げられ、その使用量は一般式5で表される基質1モルに対し、一般に約1〜100モルの範囲を挙げることができるが、好ましくは約1〜10モルの範囲で使用できる。
反応溶媒としては、例えばジメチルホルムアミド(DMFともいう)などのアミド類、ハロゲン化溶媒類、エ−テル類、炭化水素類、ケトン類、アルコ−ル類、ジメチルスルホキシド(DMSOともいう)などを挙げることができる。反応条件としては、一般に約20℃〜160℃の温度範囲内で、約2〜10時間の条件が挙げられる。
【0018】
上記の工程(A)において、一般式5で表される基質の水酸基は保護されている必要はなく、保護されていなくてもシアノ化による影響はまったくないが、保護されている場合には上記の工程(B)において脱保護が必要となる。即ち、例えばRがトリアルキルシリル基、またはテトラハイドロピラニル基の場合には、酸によって脱保護できる。また、例えばRがアセチルなどのアシル基の場合には、アルカリによって脱保護できる。
【0019】
ラセミ体の5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノン[(±)−1]
【0020】
光学活性な(S)−(−)−5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノン[(S)−(−)−2]
【0021】
および光学活性な(R)−(+)−5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノン[(R)−(+)−2]は、下記のごとく製造することができる。
【化12】
【0022】
即ち、一般式3または4で表されるラセミ体、または光学活性なニトリルを、Ru触媒[RuH2(PPh3)4]の存在下、ジグライムを溶媒として水を滴下することにより、ニトリル部位を加水分解して一般式1または2で表されるラセミ体、または光学活性なフラノンを得る。
【0023】
上記の工程(C)において、加水分解に用いるRu触媒としてはRuH2(PPh3)4が好ましく、その使用量は式3または4で表されるニトリル1モルに対し、一般に約0.001〜5モルの範囲を挙げることができるが、好ましくは約0.01〜1モルの範囲で使用できる。
反応溶媒としてはジグライム(ジエチレングリコ−ルジメチルエ−テル)がもっとも好ましいが、これ以外には、例えばジメチルホルムアミド(DMFともいう)などのアミド類、ハロゲン化溶媒類、エ−テル類、炭化水素類、ケトン類、ジメチルスルホキシド(DMSOともいう)などを挙げることができる。ただし、溶媒の沸点は約100℃以上である必要があり、好ましくは約120℃〜180℃の温度範囲を挙げることができる。反応条件としては、一般に約80℃〜200℃の温度範囲が挙げられるが、好ましくは約100℃〜170℃の温度範囲を挙げることができ、約5〜10時間の条件が挙げられる。
【0024】
各工程で用いる不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素などが挙げられる。
【0025】
各工程における分離・精製法としては、例えば常圧または減圧蒸留、順相または逆相カラムクロマトグラフィ、順相または逆相高速液体クロマトグラフィ(HPLCともいう)、無極性または極性カラムを装着したガスクロマトグラフィ(GCともいう)などが挙げられる。
【0026】
光学純度(%ee、鏡像異性体過剰率ともいう)の決定法としては、例えば旋光度からの計算、光学活性カラムを装着したHPLCもしくはGCなどが挙げられる。
【0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これによって限定されるものではない。
【0028】
尚、実施例においては比旋光度値も併せて記載した。
【0029】
【実施例】
実施例1:(S)−(−)−4−ヒドロキシ―4,8−ジメチル−7−ノネンニトリル[(S)−(−)−4]の合成
アルゴン雰囲気下、(S)−(+)−3−ヒドロキシ−3,7−ジメチル−6−オクテニルトシレ−ト(186.0g, 0.55mol)、シアン化ナトリウム(32.0g, 0.61mol)およびDMF (800mL)の混合物を95℃で3時間撹拌した。反応混合物を放冷後、氷水に注ぎMTBE (methyl t-butyl ether) (0.50L)で2回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で2回洗浄した。これを無水硫酸ナトリウム上で乾燥した後、減圧下に溶媒を留去して粗生成物を99.9g得た。これを減圧蒸留に付し、沸点125〜130℃ / 2mmHgでGC純度99.0%の(S)−(−)−4を90.7g得た(収率80.0%)。以下に(S)−(−)−4の比旋光度、IRおよび1H NMR各種スペクトルデ−タを示す。
【0030】
(S)−(−)−4のスペクトルデ−タ
比旋光度:[α]21 D = −3.2°(CHCl3, c = 3.0)
IR (film, cm-1): 3440, 2960, 2930, 2250, 1380, 1120
1H NMR (300MHz, CDCl3, δ ppm): 1.21 (3H, s), 1.49〜1.54 (2H, m), 1.63 (3H, s), 1.69 (3H, s), 1.79〜1.87 (2H, m), 2.01〜2.09 (2H, m), 2.43〜2.48 (2H, m), 5.08〜5.13 (1H, m)
【0031】
実施例2:(S)−(−)−5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノン[(S)−(−)−2]の合成
アルゴン雰囲気下、式(S)−(−)−4で表されるニトリル(55.0g, 0.30mol)とRuH2(PPh3)4 (7.0g, 0.006mol)のdiglyme (110mL)溶液を、脱気後アルゴン置換し、135℃に加熱した。撹拌しながら水(8.1g, 0.45mol)を7時間を要して滴下した。反応混合物を氷冷した希塩酸に注ぎ、MTBE (0.20L)で2回抽出した。合わせた有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄した。これを無水硫酸ナトリウム上で乾燥した後、減圧下に溶媒を留去して粗生成物を82.6g得た。これを減圧蒸留に付し、沸点112〜122℃ / 2mmHgでGC純度99.0%の(S)−(−)−2を55.3g得た(収率90.0%)。キラルGC分析より、鏡像異性体過剰率は89.0%eeであった。以下に比旋光度、IRおよび1H NMR各種スペクトルデ−タを示す。
【0032】
(S)−(−)−2のスペクトルデ−タ
比旋光度:[α]19 D = −6.2°(CHCl3, c = 3.0)
IR (film, cm-1):2960, 2930, 2860, 1770, 1460, 1380, 1170, 1080, 9401H NMR (300MHz, CDCl3, δ ppm):1.39 (3H, s), 1.61 (3H, s), 1.68 (3H and 2H, s and m), 1.95〜2.16 (4H, m), 2.57〜2.64 (2H, m), 5.08 (1H, m)
【0033】
本発明化合物のラセミ体の4―ヒドロキシ―4,8−ジメチル−7−ノネンニトリル、5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノン、光学活性な(R)−(+)−4―ヒドロキシ―4,8−ジメチル−7−ノネンニトリル、および(R)−(+)−5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノンについても前記の実施例1および2と同様の方法で合成した。それぞれの中間体と目的化合物における収率、純度、物理恒数およびスペクトルデ−タは実施例で示した(S)-(-)-体のそれらとよく一致した。以下に光学活性なニトリル(R)−(+)−4、および光学活性なフラノン(R)−(+)−2の比旋光度を示す。
【0034】
参考例1:比旋光度
(R)−(+)−4 : [α]19 D = +3.2°(CHCl3, c = 3.0)
(R)−(+)−2 : [α]18 D = +6.0°(CHCl3, c = 3.0), 88.0%ee,
【0035】
【発明の効果】
本発明により提供される(±)−、(S)−(−)−または(R)−(+)−4―ヒドロキシ―4,8−ジメチル−7−ノネンニトリルは、汎用性のある有用な合成原料となり得る。
また、本発明の製造法によれば、(±)−、(S)−(−)−または(R)−(+)−4―ヒドロキシ―4,8−ジメチル−7−ノネンニトリルを安価な原料系、かつ高収率で工業化にも充分に堪え得る方法で得ることができる。
さらに、本発明の(±)−、(S)−(−)−または(R)−(+)−4―ヒドロキシ―4,8−ジメチル−7−ノネンニトリルを、本発明の製造法によって加水分解することにより、加圧の必要のない工業的な製造法として効率的に(±)−、(S)−(−)−または(R)−(+)−5−メチル−5−(4−メチル−3−ペンテニル)−4,5−ジヒドロ−2(3H)−フラノンを得ることができる。
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